(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】自動変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 3/66 20060101AFI20221012BHJP
F16D 28/00 20060101ALI20221012BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16H3/66 B
F16D28/00 Z
F16D63/00 Z
(21)【出願番号】P 2018085653
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】上杉 達也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-190597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/66
F16D 28/00
F16D 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケース内に軸方向にオーバーラップして配置される第1クラッチ及び第2クラッチを含む複数の摩擦締結要素を備えた変速機構を有する自動変速機であって、
前記第1クラッチは、第1回転部材と、前記第1回転部材の外周側に配置される第2回転部材と、前記第1回転部材の外周面に結合されると共に印加電圧に応じて径方向外側に変位して前記第2回転部材を押圧して前記第1クラッチを締結する複数の第1クラッチ用圧電アクチュエータとを備え、
前記第2クラッチは、前記第1回転部材と、前記第1回転部材の内周側に配置される第3回転部材と、前記第1回転部材の内周面に結合されると共に印加電圧に応じて径方向内側に変位して前記第3回転部材を押圧して前記第2クラッチを締結する複数の第2クラッチ用圧電アクチュエータとを備え、
前記複数の第1クラッチ用圧電アクチュエータと前記複数の第2クラッチ用圧電アクチュエータとは、径方向にオーバーラップして周方向に異なる位置に配置されている、
ことを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記複数の摩擦締結要素は、軸方向に並んで配置される複数のブレーキを含み、
前記複数のブレーキはそれぞれ、ブレーキドラムと、前記変速機ケースに結合されると共に前記ブレーキドラムを押圧して前記ブレーキを締結する複数のブレーキ用圧電アクチュエータとを備え、
前記複数のブレーキ用圧電アクチュエータはそれぞれ、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子の伸縮変位に基づいて径方向に変位して前記ブレーキドラムを押圧するように形成されると共に前記複数のブレーキのブレーキドラムの外周側に前記複数のブレーキのブレーキドラムと軸方向にオーバーラップして周方向に分散して配置され、
前記複数のブレーキにそれぞれ対応する前記ブレーキ用圧電アクチュエータは、周方向に異なる位置に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記変速機構は、前記複数の摩擦締結要素のそれぞれの圧電アクチュエータへの非電圧印加時に所定の変速段を達成するように構成され、
前記所定の変速段で締結される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を締結するように形成され、
前記所定の変速段で解放される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を解放するように形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機に関し、車両用の自動変速機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は一般に、エンジンなどの駆動源に連結されると共に複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)及びクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素を備えた変速機構を有し、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて複数の前進変速段と通例1段の後退速段とを達成するように構成されている。
【0003】
前記摩擦締結要素として、複数の摩擦板と、油圧室に油圧が供給されたときに複数の摩擦板を押圧して摩擦締結要素を締結するピストンとを備え、油圧作動のピストンを用いて摩擦締結要素の締結及び解放を行う多板式の摩擦締結要素が知られている。
【0004】
しかしながら、油圧を用いた多板式の摩擦締結要素では、油圧を供給するために油圧ポンプが用いられることから、油圧ポンプの駆動によって駆動損失が大きくなると共に油圧ポンプによって重量が増大し、燃費性能の低下を引き起こし得る。
【0005】
これに対し、自動変速機の摩擦締結要素として、油圧作動のピストンを用いることに代えて、電気的アクチュエータである圧電アクチュエータを用いて摩擦締結要素の締結及び解放を行うことが考えられる。例えば特許文献1には、内燃機関と電気機械及びトランスミッションとの間に配置されるクラッチ装置に関するものであるが、電気的アクチュエータとして圧電アクチュエータを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の摩擦締結要素を備えた変速機構を有する自動変速機では、2つのクラッチが軸方向にオーバーラップして配置される場合がある。軸方向にオーバーラップして配置される2つのクラッチについてそれぞれ、油圧作動のピストンを用いることに代えて、電気的アクチュエータである圧電アクチュエータを用いてクラッチの締結及び解放を行うことで、油圧ポンプによる駆動損失及び重量の低減を図ることができるものと考えられる。しかしながら、圧電アクチュエータを用いてクラッチの締結及び解放を如何に実現するかが問題となる。
【0008】
また、2つのクラッチが軸方向にオーバーラップして配置される場合、2つのクラッチを径方向の内側と外側とに重ねて配置されることが考えられるが、径方向寸法が大きくなるおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、2つのクラッチが軸方向にオーバーラップして配置される自動変速機において、圧電アクチュエータを用いてクラッチの締結及び解放を実現して駆動損失及び重量の低減を図ると共に径方向にコンパクトに構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、変速機ケース内に軸方向にオーバーラップして配置される第1クラッチ及び第2クラッチを含む複数の摩擦締結要素を備えた変速機構を有する自動変速機であって、前記第1クラッチは、第1回転部材と、前記第1回転部材の外周側に配置される第2回転部材と、前記第1回転部材の外周面に結合されると共に印加電圧に応じて径方向外側に変位して前記第2回転部材を押圧して前記第1クラッチを締結する複数の第1クラッチ用圧電アクチュエータとを備え、前記第2クラッチは、前記第1回転部材と、前記第1回転部材の内周側に配置される第3回転部材と、前記第1回転部材の内周面に結合されると共に印加電圧に応じて径方向内側に変位して前記第3回転部材を押圧して前記第2クラッチを締結する複数の第2クラッチ用圧電アクチュエータとを備え、前記複数の第1クラッチ用圧電アクチュエータと前記複数の第2クラッチ用圧電アクチュエータとは、径方向にオーバーラップして周方向に異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記複数の摩擦締結要素は、軸方向に並んで配置される複数のブレーキを含み、前記複数のブレーキはそれぞれ、ブレーキドラムと、前記変速機ケースに結合されると共に前記ブレーキドラムを押圧して前記ブレーキを締結する複数のブレーキ用圧電アクチュエータとを備え、前記複数のブレーキ用圧電アクチュエータはそれぞれ、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子の伸縮変位に基づいて径方向に変位して前記ブレーキドラムを押圧するように形成されると共に前記複数のブレーキのブレーキドラムの外周側に前記複数のブレーキのブレーキドラムと軸方向にオーバーラップして周方向に分散して配置され、前記複数のブレーキにそれぞれ対応する前記ブレーキ用圧電アクチュエータは、周方向に異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記変速機構は、前記複数の摩擦締結要素のそれぞれの圧電アクチュエータへの非電圧印加時に所定の変速段を達成するように構成され、前記所定の変速段で締結される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を締結するように形成され、前記所定の変速段で解放される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を解放するように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願の請求項1に記載の発明によれば、第1クラッチは、第1回転部材と、外周側に配置される第2回転部材と、第1回転部材の外周面に結合されて第2回転部材を押圧する圧電アクチュエータとを備え、第2クラッチは、第1回転部材と、内周側に配置される第3回転部材と、第1回転部材の内周面に結合されて第3回転部材を押圧する圧電アクチュエータとを備える。
【0015】
これにより、第1クラッチ及び第2クラッチがそれぞれ圧電アクチュエータを用いて締結されるので、ブレーキがそれぞれ油圧作動のピストンを用いて締結される場合に比して、油圧ポンプによる駆動損失及び重量の低減を図ることができる。
【0016】
また、第1クラッチ用圧電アクチュエータと第2クラッチ用圧電アクチュエータとは、径方向にオーバーラップして周方向に異なる位置に配置されることにより、第1クラッチと第2クラッチとを径方向にオーバーラップして配置することができるので、径方向にコンパクトに構成することができる。
【0017】
したがって、2つのクラッチが軸方向にオーバーラップして配置される自動変速機において、圧電アクチュエータを用いてクラッチの締結及び解放を実現して駆動損失及び重量の低減を図ると共に径方向にコンパクトに構成することができる。
【0018】
また、請求項2に記載の発明によれば、軸方向に並んで配置される複数のブレーキはそれぞれ、ブレーキドラムと、変速機ケースに結合されてブレーキドラムを押圧する複数の圧電アクチュエータとを備え、複数の圧電アクチュエータはそれぞれ、軸方向に伸縮変位する圧電素子の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラムを押圧するように形成されると共に複数のブレーキドラムの外周側に周方向に分散して配置される。
【0019】
これにより、複数のブレーキがそれぞれ周方向に分散して配置された複数の圧電アクチュエータを用いて締結されるので、ブレーキがそれぞれ油圧作動のピストンを用いて締結される場合に比して、油圧ポンプによる駆動損失及び重量の低減を図ることができる。
【0020】
変位量が小さい圧電アクチュエータを用いる場合においても、圧電アクチュエータは、軸方向に並んで配置される複数のブレーキのブレーキドラムの外周側に複数のブレーキドラムと軸方向にオーバーラップして配置され、複数のブレーキにそれぞれ対応する圧電アクチュエータは、周方向に異なる位置に配置されることにより、複数のブレーキのそれぞれのブレーキドラムの外周側にそれぞれのブレーキの圧電アクチュエータを配置する場合に比して、圧電アクチュエータを軸方向に長く形成することができ、圧電アクチュエータの変位量を大きくして圧電アクチュエータを用いてブレーキの締結及び解放を実現することができる。
【0021】
また、ブレーキはそれぞれ、周方向に分散して配置された複数の圧電アクチュエータによってブレーキドラムを押圧してブレーキの締結及び解放が行われるので、複数の圧電アクチュエータからなるバンド式のブレーキとして、多板式のブレーキを用いる場合に比して締結するための変位量を低減することができ、ブレーキの締結及び解放を有効に実現することができる。
【0022】
したがって、複数のブレーキが軸方向に並んで配置される場合に、圧電アクチュエータを用いて複数のブレーキの締結及び解放を実現して駆動損失及び重量の低減を図ることができる。
【0023】
また、請求項3に記載の発明によれば、変速機構は、複数の摩擦締結要素のそれぞれの圧電アクチュエータへの非電圧印加時に所定の変速段を達成するように構成され、所定の変速段で締結される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を締結するように形成され、所定の変速段で解放される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を解放するように形成される。
【0024】
これにより、自動変速機が搭載された車両の走行中に、複数の摩擦締結要素のそれぞれの圧電アクチュエータに電圧を印加することができなくなる故障が発生した場合においても、変速機構が、例えば4速段などの所定の変速段を達成して所定の変速段でのフェールセーフ走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図である。
【
図3】自動変速機の摩擦締結要素及びその周辺の断面図である。
【
図4】
図3のY4-Y4方向から見た自動変速機の摩擦締結要素を示す図である。
【
図5】
図3のY5-Y5方向から見た自動変速機の摩擦締結要素を示す図である。
【
図6】第1ブレーキの圧電アクチュエータを説明するための説明図である。
【
図7】自動変速機のブレーキ及びその周辺の断面図である。
【
図8】自動変速機のクラッチ及びその周辺の断面図である。
【
図9】第1回転部材と第1回転部材に結合された圧電アクチュエータとを示す斜視図である。
【
図10】第1回転部材に結合された圧電アクチュエータを示す斜視図である。
【
図11】第1クラッチの圧電アクチュエータを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図である。この自動変速機1は、フロントエンジン・フロントドライブ車等のエンジン横置き式の車両に搭載され、変速機ケース2内に、エンジンなどの駆動源に連結されると共に複数のプラネタリギヤセット及びクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素を備えた変速機構4を備えている。
【0028】
変速機構4は、駆動源に連結される入力軸3上に、駆動源側(図の右側)から軸方向に並んで配置される複数のプラネタリギヤセットとして第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、「第1、第2、第3ギヤセット」という)10、20、30を備えている。
【0029】
変速機構4はまた、入力軸3上に、前記ギヤセット10、20、30で構成される動力伝達経路を切り換えるための複数の摩擦締結要素として、入力軸3からの動力を前記ギヤセット10、20、30側へ選択的に伝達する第1クラッチ40及び第2クラッチ50と、各ギヤセット10、20、30の所定の回転要素を固定する第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80とを備えている。
【0030】
第1クラッチ40及び第2クラッチ50は、軸方向にオーバーラップして配置されている。第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80は、第1クラッチ40及び第2クラッチ50の反駆動源側に、駆動源側から軸方向に並んで配置されている。
【0031】
第1、第2、第3ギヤセット10、20、30のうち、第1ギヤセット10と第2ギヤセット20とはシングルピニオン型であって、サンギヤ11、21と、これらのサンギヤ11、21に噛み合った各複数のピニオン12、22と、これらのピニオン12、22をそれぞれ支持するキャリヤ13、23と、ピニオン12、22に噛み合ったリングギヤ14、24とで構成されている。
【0032】
第3ギヤセット30はダブルサンギヤ型であって、サンギヤ31と、サンギヤ31に噛み合った複数の第1ピニオン32aと、第1ピニオン32aに噛み合った第2ピニオン32bと、これらのピニオン32a、32bを支持するキャリヤ33と、第2ピニオン32bに噛み合ったリングギヤ34とで構成されている。
【0033】
そして、第3ギヤセット30のサンギヤ31と第1クラッチ40及び第2クラッチ50の入力部材41とに入力軸3が連結されていると共に、第1ギヤセット10のサンギヤ11と第2ギヤセット20のサンギヤ21とが結合されて、第1クラッチ40の出力部材42に連結され、また、第2ギヤセット20のキャリヤ23に第2クラッチ50の出力部材52が連結されている。
【0034】
また、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とが結合されて、これらと変速機ケース2との間に第1ブレーキ60が配設され、第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のリングギヤ34とが結合されて、これらと変速機ケース2との間に第2ブレーキ70が配設され、さらに、第3ギヤセット30のキャリヤ33と変速機ケース2との間に第3ブレーキ80が配設されている。
【0035】
そして、第1ギヤセット10のキャリヤ13に、自動変速機1の出力を駆動輪側へ出力する出力ギヤ5が連結されている。出力ギヤ5は、軸方向に第1クラッチ40及び第2クラッチ50と第1ギヤセット10との間に配置されている。
【0036】
以上の構成により、自動変速機1は、第1クラッチ40、第2クラッチ50、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80の締結状態の組み合わせにより、
図2に示すように、Dレンジでの1~6速段と、Rレンジでの後退速段とが形成されるようになっている。
【0037】
本実施形態における第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80が本発明に係る軸方向に並んで配置される複数のブレーキに相当し、本実施形態における第1クラッチ40及び第2クラッチ50が本発明に係る軸方向にオーバーラップして配置される2つのクラッチに相当する。
【0038】
図3は、自動変速機の摩擦締結要素及びその周辺の断面図、
図4は、
図3のY4-Y4方向から見た自動変速機の摩擦締結要素を示す図、
図5は、
図3のY5-Y5方向から見た自動変速機の摩擦締結要素を示す図である。
【0039】
図3から
図5に示すように、自動変速機1は、変速機ケース2内に回転可能に支持された入力軸3上に変速機構4を備えている。変速機ケース2には、筒状に形成された外周部2aの軸方向中央側に径方向内側に延びる縦壁部2bが設けられ、縦壁部2bの駆動源側に第1クラッチ40及び第2クラッチ50が軸方向にオーバーラップして配置され、縦壁部2bの反駆動源側に第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80が軸方向に並んで配置されている。
【0040】
先ず、自動変速機1の第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80について説明する。
【0041】
第1ブレーキ60は、
図3に示すように、円筒状に形成された回転部材としてのブレーキドラム61と、変速機ケース2に結合されると共にブレーキドラム61を押圧して第1ブレーキ60を締結する複数の圧電アクチュエータ62とを備えている。ブレーキドラム61は、第1ギヤセット10のリングギヤ14の外周側に該リングギヤ14と一体的に形成され、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とに結合されている。
【0042】
圧電アクチュエータ62は、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63と、圧電素子63の伸縮変位を軸方向と直交する径方向の変位に拡大して変換する変位変換機構64とを有し、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム61を押圧するように形成されている。
【0043】
圧電素子63は、四角柱状に軸方向に延びるように形成されている。圧電素子63の材料としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミック材料が用いられる。変位変換機構64は、圧電素子63の軸方向両側の端面がそれぞれ取り付けられて圧電素子63の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に拡大して変換する変位変換部材65を備えている。
【0044】
変位変換部材65は、金属材料を用いて形成され、圧電素子63が取り付けられる両側の側面部65aと、両側の側面部65aの径方向外側の端部どうしを連結して軸方向に延びる外面部65bと、両側の側面部65aの径方向内側の端部どうしを連結して軸方向に延びる内面部65cとを備え、周方向に見て断面略四角形状に形成されている。
【0045】
変位変換部材65の外面部65bは、軸方向両側から軸方向中央側に向けて径方向内側に窪むように傾斜して設けられ(
図6参照)、外面部65bの径方向中央側に軸方向両側の端部よりも径方向外側に突出する固定部65dが設けられている。変位変換部材65の内面部65cは、軸方向両側から軸方向中央側に向けて径方向外側に窪むように傾斜して設けられ(
図6参照)、内面部65cの径方向中央側に軸方向両側の端部よりも径方向内側に突出する出力部65eが設けられている。
【0046】
変位変換部材65は、両側の側面部65aと内面部65cとの間の角部から内面部65cにおける出力部65eまでの距離がそれぞれ、両側の側面部65aと内面部65cとの間の角部から側面部65aにおける圧電素子63が取り付けられる部分までの距離よりも長く形成され、圧電素子63の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に拡大して変換するように形成されている。なお、変位変換部材65として、圧電素子63の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に変換するその他の形状を有する変位変換部材を用いることが可能である。
【0047】
変位変換部材65の出力部65eには、ブレーキドラム61の外周側にブレーキドラム61に対向して配置される押圧部65fが連結され、押圧部65fは、摩擦材66を介してブレーキドラム61を押圧するようになっている。摩擦材66は、例えば紙などを用いて形成されている。
【0048】
複数の圧電アクチュエータ62はそれぞれ、
図4に示すように、変速機ケース2の外周部2aに形成された第1ブレーキ用スプライン2cに嵌合されると共に変位変換部材65の固定部65dが第1ブレーキ用スプライン2cに固定して取り付けられ、変速機ケース2に結合されている。
【0049】
圧電アクチュエータ62には、図示しない電圧印加装置によって圧電素子63に所定電圧が印加されるようになっている。前記電圧印加装置の作動は、図示しない制御装置によって制御されるようになっている。
【0050】
複数の圧電アクチュエータ62は、軸方向に略同一位置に配置され、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80のそれぞれのブレーキドラム61、71、81の外周側にブレーキドラム61、71、81と軸方向にオーバーラップすると共に周方向に分散して配置されている。自動変速機1では、7つの圧電アクチュエータ62が、周方向に略等間隔に離間して配置されている。
【0051】
図6は、第1ブレーキの圧電アクチュエータを説明するための説明図である。
図6では、圧電アクチュエータの断面形状を分かり易くするために誇張して示している。圧電アクチュエータ62は、圧電素子63に電圧が印加されていない非電圧印加時には、
図6(a)に示すように、変位変換部材65の出力部65eに連結された押圧部65fがブレーキドラム61と径方向に離間して配置され、ブレーキ60は解放状態とされる。
【0052】
一方、圧電アクチュエータ62は、圧電素子63に所定電圧が印加された電圧印加時には、
図6(b)に示すように、印加電圧に応じて圧電素子63が軸方向に伸長して変位すると共に圧電素子63の軸方向の変位が変位変換部材65によって径方向に拡大して変換されて出力部65eが径方向内側に変位すると共に押圧部65fが径方向内側に変位してブレーキドラム61を押圧し、ブレーキ60は締結状態とされる。
【0053】
このように、第1ブレーキ用圧電アクチュエータ62は、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム61を押圧するように形成されている。複数の第1ブレーキ用圧電アクチュエータ62は、同様に構成されて同様に電圧印加が制御され、第1ブレーキ60の締結及び解放を行うようになっている。
【0054】
図7は、自動変速機のブレーキ及びその周辺の断面図である。
図7(a)は、自動変速機の第2ブレーキ及びその周辺の断面図、
図7(b)は、自動変速機の第3ブレーキ及びその周辺の断面図である。第2ブレーキ及び第3ブレーキは、第1ブレーキと略同様に形成され、第1ブレーキと同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0055】
図7(a)に示すように、第2ブレーキ70は、円筒状に形成された回転部材としてのブレーキドラム71と、変速機ケース2に結合されると共にブレーキドラム71を押圧して第2ブレーキ70を締結する複数の圧電アクチュエータ72とを備えている。ブレーキドラム71は、第2ギヤセット20のリングギヤ24の反駆動源側に配置され、第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のリングギヤ34とに結合されている。第2ブレーキ70のブレーキドラム71は、第1ブレーキ60のブレーキドラム61と外径が略等しく形成され、ブレーキドラム61の反駆動源側に配置されている。
【0056】
圧電アクチュエータ72は、圧電アクチュエータ62と略同様に形成され、圧電素子63と変位変換機構64とを有し、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム71を押圧するように形成されている。
【0057】
圧電アクチュエータ72では、変位変換部材65の出力部65eには、ブレーキドラム71の外周側にブレーキドラム71に対向して配置される押圧部75fが連結され、押圧部75fは、摩擦材66を介してブレーキドラム71を押圧するようになっている。
【0058】
複数の圧電アクチュエータ72はそれぞれ、
図4に示すように、変速機ケース2の外周部2aに形成された第2ブレーキ用スプライン2dに嵌合されると共に変位変換部材65の固定部65dが第2ブレーキ用スプライン2dに固定して取り付けられ、変速機ケース2に結合されている。
【0059】
複数の圧電アクチュエータ72は、軸方向に略同一位置に配置され、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80のそれぞれのブレーキドラム61、71、81の外周側にブレーキドラム61、71、81と軸方向にオーバーラップすると共に周方向に分散して配置されている。自動変速機1では、7つの圧電アクチュエータ72が、周方向に略等間隔に離間して配置されている。複数の第2ブレーキ用圧電アクチュエータ72はそれぞれ、第1ブレーキ用圧電アクチュエータ62の周方向一方側に隣接して配置されている。
【0060】
圧電アクチュエータ72についても、前記制御装置によって制御される前記電圧印加装置によって圧電素子63に所定電圧が印加されるようになっている。圧電アクチュエータ72は、非電圧印加時には、変位変換部材65の出力部65eに連結された押圧部75fがブレーキドラム71と径方向に離間して配置され、ブレーキ70は解放状態とされる一方、電圧印加時には、印加電圧に応じて圧電素子63が軸方向に伸長して変位すると共に圧電素子63の軸方向の変位が径方向に拡大して変換されて出力部65eが径方向内側に変位すると共に押圧部75fが径方向内側に変位してブレーキドラム71を押圧し、ブレーキ70は締結状態とされる。
【0061】
このように、第2ブレーキ用圧電アクチュエータ72は、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム71を押圧するように形成されている。複数の第2ブレーキ用圧電アクチュエータ72は、同様に構成されて同様に電圧印加が制御され、第2ブレーキ70の締結及び解放を行うようになっている。
【0062】
図7(b)に示すように、第3ブレーキ80は、円筒状に形成された回転部材としてのブレーキドラム81と、変速機ケース2に結合されると共にブレーキドラム81を押圧して第3ブレーキ80を締結する複数の圧電アクチュエータ82とを備えている。ブレーキドラム81は、第3ギヤセット30のリングギヤ34の外周側に配置され、第3ギヤセット30のキャリヤ33に結合されている。第3ブレーキ80のブレーキドラム81は、第2ブレーキ70のブレーキドラム71と外径が略等しく形成され、ブレーキドラム71の反駆動源側に配置されている。
【0063】
圧電アクチュエータ82は、圧電アクチュエータ62と略同様に形成され、圧電素子63と変位変換機構64とを有し、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム81を押圧するように形成されている。
【0064】
圧電アクチュエータ82では、変位変換部材65の出力部65eには、ブレーキドラム81の外周側にブレーキドラム81に対向して配置される押圧部85fが連結され、押圧部85fは、摩擦材66を介してブレーキドラム81を押圧するようになっている。
【0065】
複数の圧電アクチュエータ82はそれぞれ、
図4に示すように、変速機ケース2の外周部2aに形成された第3ブレーキ用スプライン2eに嵌合されると共に変位変換部材65の固定部65dが第3ブレーキ用スプライン2eに固定して取り付けられ、変速機ケース2に結合されている。
【0066】
複数の圧電アクチュエータ82は、軸方向に略同一位置に配置され、第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80のそれぞれのブレーキドラム61、71、81の外周側にブレーキドラム61、71、81と軸方向にオーバーラップすると共に周方向に分散して配置されている。自動変速機1では、7つの圧電アクチュエータ82が、周方向に略等間隔に離間して配置されている。複数の第3ブレーキ用圧電アクチュエータ82はそれぞれ、第1ブレーキ用圧電アクチュエータ62の周方向他方側に隣接して配置されている。
【0067】
圧電アクチュエータ82についても、前記制御装置によって制御される前記電圧印加装置によって圧電素子63に所定電圧が印加されるようになっている。圧電アクチュエータ82は、非電圧印加時には、変位変換部材65の出力部65eに連結された押圧部85fがブレーキドラム81と径方向に離間して配置され、ブレーキ80は解放状態とされる一方、電圧印加時には、印加電圧に応じて圧電素子63が軸方向に伸長して変位すると共に圧電素子63の軸方向の変位が径方向に拡大して変換されて出力部65eが径方向内側に変位すると共に押圧部85fが径方向内側に変位してブレーキドラム81を押圧し、ブレーキ80は締結状態とされる。
【0068】
このように、第3ブレーキ用圧電アクチュエータ82は、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム81を押圧するように形成されている。複数の第3ブレーキ用圧電アクチュエータ82は、同様に構成されて同様に電圧印加が制御され、第3ブレーキ80の締結及び解放を行うようになっている。
【0069】
第1ブレーキ60、第2ブレーキ70及び第3ブレーキ80はそれぞれ、
図2に示す締結表に従って締結及び解放が行われ、変速機構4が所定の変速段を達成するように各ブレーキ60、70、80の圧電アクチュエータ62、72、82への印加電圧が制御される。
【0070】
次に、自動変速機1の第1クラッチ40及び第2クラッチ50について説明する。
【0071】
図8は、自動変速機のクラッチ及びその周辺の断面図であり、
図3に示すクラッチとは異なるクラッチ及びその周辺の断面図を示している。
図9は、第1回転部材と第1回転部材に結合された圧電アクチュエータとを示す斜視図、
図10は、第1回転部材に結合された圧電アクチュエータを示す斜視図である。
【0072】
第1クラッチ40は、
図3に示すように、有底円筒状に形成されたクラッチハブとしての第1回転部材41と、有底円筒状に形成されて第1回転部材41の外周側に配置されたクラッチドラムとしての第2回転部材42と、第1回転部材41の外周面に結合されると共に第2回転部材42を押圧して第1クラッチ40を締結する複数の圧電アクチュエータ45とを備えている。
【0073】
第1回転部材41は、第1クラッチ40の入力部材であり、略円筒状に軸方向に延びる円筒部41aと円筒部41aの駆動源側から径方向内側に延びて略円盤状に形成される縦壁部41bとを備え、入力軸3に結合されている。
【0074】
第2回転部材42は、第1クラッチ40の出力部材であり、略円筒状に軸方向に延びる円筒部42aと円筒部42aの反駆動源側から径方向内側に延びて略円盤状に形成される縦壁部42bとを備え、軸方向に延びる動力伝達部材X1に結合されて第1ギヤセット10のサンギヤ11及び第2ギヤセット20のサンギヤ21に連結されている。
【0075】
第2クラッチ50は、
図8に示すように、有底円筒状に形成されたクラッチドラムとしての第1回転部材41と、有底円筒状に形成されて第1回転部材41の内周側に配置されたクラッチハブとしての第3回転部材52と、第1回転部材41の内周面に結合されると共に第3回転部材52を押圧して第2クラッチ50を締結する複数の圧電アクチュエータ55とを備えている。
【0076】
第1回転部材41は、第1クラッチ40の入力部材であると共に第2クラッチ50の入力部材であり、円筒部41aと縦壁部41bとを備えて入力軸3に結合されている。
【0077】
第3回転部材52は、第2クラッチ50の出力部材であり、略円筒状に軸方向に延びる円筒部52aと円筒部52aの反駆動源側から径方向内側に延びて略円盤状に形成される縦壁部52bとを備え、軸方向に延びる動力伝達部材X2に結合されて第2ギヤセット20のキャリヤ23に連結されている。
【0078】
図5及び
図9に示すように、第1回転部材41は、円筒部41aに径方向内側から径方向外側に断面略矩形状に凹状に窪む複数の内側凹部43が周方向に分散して形成されている。自動変速機1では、円筒部41aに、7つの内側凹部43が周方向に略等間隔に離間して形成されている。
【0079】
第1回転部材41の複数の内側凹部43はそれぞれ、底面部43aと、底面部43aの周方向両側から径方向内側に延びる両側の側面部43bとを備えている。底面部43aの外周面は円弧状に形成され、両側の側面部43bにはそれぞれ内部に軸方向に延びる空洞部43cが形成されている。
【0080】
第1回転部材41はまた、隣接する内側凹部43の側面部43bと円筒部41aにおける内側凹部43が形成されていない部分とによって円筒部41aに径方向外側から径方向内側に断面略矩形状に凹状に窪む複数の外側凹部44が周方向に分散して形成されている。自動変速機1では、円筒部41aに、7つの外側凹部44が周方向に略等間隔に離間して形成されている。
【0081】
第1回転部材41の外側凹部44内にはそれぞれ、圧電アクチュエータ45が配置されている。圧電アクチュエータ45は、円筒部41aにおける内側凹部43が形成されていない部分の外周面に結合されて第1回転部材41の外周面に結合されている。
【0082】
第1回転部材41の内側凹部43内にそれぞれ、圧電アクチュエータ55が配置されている。圧電アクチュエータ55は、円筒部41aにおける内側凹部43が形成されている部分の内周面に結合されて第1回転部材41の内周面に結合されている。
【0083】
複数の第1クラッチ用圧電アクチュエータ45と複数の第2クラッチ用圧電アクチュエータ55とは、軸方向に略同一位置に配置されて軸方向にオーバーラップすると共に径方向にオーバーラップして周方向に異なる位置に配置されている。
【0084】
第1クラッチ用圧電アクチュエータ45は、
図3に示すように、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子46と、圧電素子46の伸縮変位を軸方向と直交する径方向の変位に拡大して変換する変位変換機構47とを有し、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子46の伸縮変位に基づいて径方向に変位して第2回転部材42を押圧するように形成されている。
【0085】
圧電素子46は、四角柱状に軸方向に延びるように形成されている。圧電素子46の材料としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などが用いられる。変位変換機構47は、圧電素子46の軸方向両側の端面がそれぞれ取り付けられて圧電素子46の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に拡大して変換する変位変換部材48を備えている。
【0086】
変位変換部材48は、金属材料を用いて形成され、圧電素子46が取り付けられる両側の側面部48aと、両側の側面部48aの径方向外側の端部どうしを連結して軸方向に延びる外面部48bと、両側の側面部48aの径方向内側の端部どうしを連結して軸方向に延びる内面部48cとを備え、周方向に見て断面略四角形状に形成されている。
【0087】
変位変換部材48の内面部48cは、軸方向両側から軸方向中央側に向けて径方向内側に突出するように傾斜して設けられ(
図11参照)、内面部48cの径方向中央側に軸方向両側の端部よりも径方向内側に突出する固定部48dが設けられている。変位変換部材48の外面部48bは、軸方向両側から軸方向中央側に向けて径方向外側に突出するように傾斜して設けられ(
図11参照)、外面部48bの径方向中央側に軸方向両側の端部よりも径方向外側に突出する出力部48eが設けられている。
【0088】
変位変換部材48は、両側の側面部48aと外面部48bとの間の角部から外面部48bにおける出力部48eまでの距離がそれぞれ、両側の側面部48aと外面部48bとの間の角部から側面部48aにおける圧電素子46が取り付けられる部分までの距離よりも長く形成され、圧電素子46の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に拡大して変換するように形成されている。なお、変位変換部材48として、圧電素子46の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に変換するその他の形状を有する変位変換部材を用いることが可能である。
【0089】
変位変換部材48の出力部48eは、第2回転部材42の円筒部42aに対向して配置される押圧部48eとして機能し、押圧部48eは、摩擦材49を介して第2回転部材42を押圧するようになっている。摩擦材49は、例えば紙などを用いて形成されている。
【0090】
複数の圧電アクチュエータ45はそれぞれ、第1回転部材41の円筒部41aの外側凹部44内に配置されて変位変換部材48の固定部48dが円筒部41aの外周面に固定して取り付けられ、第1回転部材41の外周面に結合されている。
【0091】
圧電アクチュエータ45には、図示しない電圧印加装置によって圧電素子46に所定電圧が印加されるようになっている。前記電圧印加装置の作動は、図示しない制御装置によって制御されるようになっている。
【0092】
複数の圧電アクチュエータ45は、第1回転部材41の円筒部41aの外周面に軸方向にオーバーラップすると共に周方向に分散して配置されている。自動変速機1では、7つの圧電アクチュエータ45が、周方向に略等間隔に離間して配置されている。
【0093】
図11は、第1クラッチの圧電アクチュエータを説明するための説明図である。
図11では、圧電アクチュエータの断面形状を分かり易くするために誇張して示している。圧電アクチュエータ45は、圧電素子46に電圧が印加されていない非電圧印加時には、
図11(a)に示すように、変位変換部材48の押圧部48eが第2回転部材42を押圧して配置され、第1クラッチ40は締結状態とされる。
【0094】
一方、圧電アクチュエータ45は、圧電素子46に所定電圧が印加された電圧印加時には、
図11(b)に示すように、印加電圧に応じて圧電素子46が軸方向に伸長して変位すると共に圧電素子46の軸方向の変位が変位変換部材48によって径方向に拡大して変換されて押圧部48eが径方向内側に変位して第2回転部材42の円筒部42aと径方向に離間し、第1クラッチ40は解放状態とされる。
【0095】
このように、第1クラッチ用圧電アクチュエータ45は、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子46の伸縮変位に基づいて径方向に変位して第2回転部材42を押圧するように形成されている。複数の第1クラッチ用圧電アクチュエータ45は、同様に構成されて同様に電圧印加が制御され、第1クラッチ40の締結及び解放を行うようになっている。
【0096】
第2クラッチ用圧電アクチュエータ55は、第1クラッチ用圧電アクチュエータ45と略同様に形成され、第1クラッチ用圧電アクチュエータ45と同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0097】
圧電アクチュエータ55は、
図8に示すように、圧電素子46と変位変換機構47とを有し、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子46の伸縮変位に基づいて径方向に変位して第3回転部材52を押圧するように形成されている。
【0098】
圧電アクチュエータ55についても、変位変換機構47は、圧電素子46の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に拡大して変換する変位変換部材48を備え、変位変換部材48は、両側の側面部48aと外面部48bと内面部48cとを備え、圧電素子46の軸方向の伸縮変位を径方向の変位に拡大して変換するように形成されている。
【0099】
圧電アクチュエータ55では、変位変換部材48の外面部48bの径方向中央側に軸方向両側の端部よりも径方向外側に突出する固定部58dが設けられ、変位変換部材48の内面部48cの径方向中央側に軸方向両側の端部よりも径方向内側に突出する出力部58eが設けられている。
【0100】
変位変換部材48の出力部58eは、第3回転部材52の円筒部52aに対向して配置される押圧部58eとして機能し、押圧部58eは、摩擦材49を介して第3回転部材52を押圧するようになっている。
【0101】
複数の圧電アクチュエータ55はそれぞれ、第1回転部材41の円筒部41aの内側凹部43内に配置されて変位変換部材48の固定部58dが円筒部41aの内周面に固定して取り付けられ、第1回転部材41の内周面に結合されている。
【0102】
複数の圧電アクチュエータ55は、第1回転部材41の円筒部41aの外周面に軸方向にオーバーラップすると共に周方向に分散して配置されている。自動変速機1では、7つの圧電アクチュエータ55が、周方向に略等間隔に離間して配置されている。
【0103】
圧電アクチュエータ55についても、前記制御装置によって制御される前記電圧印加装置によって圧電素子46に所定電圧が印加されるようになっている。圧電アクチュエータ55は、非電圧印加時には、変位変換部材48の押圧部48eが第3回転部材53を押圧して配置され、第2クラッチ50が締結状態とされる一方、電圧印加時には、印加電圧に応じて圧電素子46が軸方向に伸長して変位すると共に圧電素子46の軸方向の変位が変位変換部材48によって径方向に拡大して変換されて押圧部48eが径方向外側に変位して第3回転部材52の円筒部52aと径方向に離間し、第2クラッチ50は解放状態とされる。
【0104】
このように、第2クラッチ用圧電アクチュエータ55は、印加電圧に応じて軸方向に伸縮変位する圧電素子46の伸縮変位に基づいて径方向に変位して第3回転部材52を押圧するように形成されている。複数の第2クラッチ用圧電アクチュエータ55は、同様に構成されて同様に電圧印加が制御され、第2クラッチ50の締結及び解放を行うようになっている。
【0105】
第1クラッチ40及び第2クラッチ50はそれぞれ、
図2に示す締結表に従って締結及び解放が行われ、変速機構4が所定の変速段を達成するように各クラッチ40、50の圧電アクチュエータ45、55への印加電圧が制御される。
【0106】
自動変速機1では、各摩擦締結要素の圧電アクチュエータへの電圧印加が制御されて各摩擦締結要素の締結及び解放が行われ、変速機構4は、
図2に示すDレンジでの1~6速段とRレンジでの後退速段とをそれぞれ達成するようになっている。
【0107】
本実施形態では、変速機構4は、各摩擦締結要素の圧電アクチュエータへの非電圧印加時に4速段を達成するように構成され、4速段で締結される摩擦締結要素40、50の圧電アクチュエータ45、55は、非電圧印加時に該摩擦締結要素40、50を締結するように形成され、4速段で解放される摩擦締結要素60、70、80の圧電アクチュエータ62、72、82は、非電圧印加時に該摩擦締結要素60、70、80を解放するように形成されている。
【0108】
変速機構4は、各摩擦締結要素の圧電アクチュエータへの非電圧印加時に4速段を達成するように構成されているが、例えば3速段などの他の変速段を達成するように構成することも可能である。かかる場合、前記他の変速段で締結される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を締結するように形成され、前記他の変速段で解放される摩擦締結要素の圧電アクチュエータは、非電圧印加時に該摩擦締結要素を解放するように形成される。また、
図2に示す締結表に従って各摩擦締結要素の締結及び解放が行われ変速機構4が所定の変速段を達成するように各摩擦締結要素の圧電アクチュエータへの印加電圧が制御される。
【0109】
このように、本実施形態に係る自動変速機1では、第1クラッチ40は、第1回転部材41と、外周側に配置される第2回転部材42と、第1回転部材41の外周面に結合されて第2回転部材42を押圧する圧電アクチュエータ45とを備え、第2クラッチ50は、第1回転部材41と、内周側に配置される第3回転部材52と、第1回転部材41の内周面に結合されて第3回転部材52を押圧する圧電アクチュエータ55とを備える。
【0110】
これにより、第1クラッチ40及び第2クラッチ50がそれぞれ圧電アクチュエータ45、55を用いて締結されるので、ブレーキがそれぞれ油圧作動のピストンを用いて締結される場合に比して、油圧ポンプによる駆動損失及び重量の低減を図ることができる。
【0111】
また、第1クラッチ用圧電アクチュエータ45と第2クラッチ用圧電アクチュエータ55とは、径方向にオーバーラップして周方向に異なる位置に配置されることにより、第1クラッチ40と第2クラッチ50とを径方向にオーバーラップして配置することができるので、径方向にコンパクトに構成することができる。
【0112】
したがって、2つのクラッチが軸方向にオーバーラップして配置される自動変速機において、圧電アクチュエータを用いてクラッチの締結及び解放を実現して駆動損失及び重量の低減を図ると共に径方向にコンパクトに構成することができる。
【0113】
また、軸方向に並んで配置される複数のブレーキ60、70、80はそれぞれ、ブレーキドラム61、71、81と、変速機ケース2に結合されてブレーキドラム61、71、81を押圧する複数の圧電アクチュエータ62、72、82とを備え、複数の圧電アクチュエータ62、72、82はそれぞれ、軸方向に伸縮変位する圧電素子63の伸縮変位に基づいて径方向に変位してブレーキドラム61、71、81を押圧するように形成されると共に複数のブレーキドラム61、71、81の外周側に周方向に分散して配置される。
【0114】
これにより、複数のブレーキ60、70、80がそれぞれ周方向に分散して配置された複数の圧電アクチュエータ62、72、82を用いて締結されるので、ブレーキがそれぞれ油圧作動のピストンを用いて締結される場合に比して、油圧ポンプによる駆動損失及び重量の低減を図ることができる。
【0115】
変位量が小さい圧電アクチュエータ62、72、82を用いる場合においても、圧電アクチュエータ62、72、82は、軸方向に並んで配置される複数のブレーキ60、70、80のブレーキドラム61、71、81の外周側に複数のブレーキドラム61、71、81と軸方向にオーバーラップして配置され、複数のブレーキ60、70、80にそれぞれ対応する圧電アクチュエータ62、72、82は、周方向に異なる位置に配置されることにより、複数のブレーキのそれぞれのブレーキドラムの外周側にそれぞれのブレーキの圧電アクチュエータを配置する場合に比して、圧電アクチュエータを軸方向に長く形成することができ、圧電アクチュエータの変位量を大きくして圧電アクチュエータを用いてブレーキの締結及び解放を実現することができる。
【0116】
また、ブレーキ60、70、80はそれぞれ、周方向に分散して配置された複数の圧電アクチュエータ62、72、82によってブレーキドラム61、71、81を押圧してブレーキ60、70、80の締結及び解放が行われるので、複数の圧電アクチュエータからなるバンド式のブレーキとして、多板式のブレーキを用いる場合に比して締結するための変位量を低減することができ、ブレーキの締結及び解放を有効に実現することができる。
【0117】
したがって、複数のブレーキが軸方向に並んで配置される場合に、圧電アクチュエータを用いて複数のブレーキの締結及び解放を実現して駆動損失及び重量の低減を図ることができる。
【0118】
また、変速機構4は、複数の摩擦締結要素40、50、60、70、80のそれぞれの圧電アクチュエータ45、55、62、72、82への非電圧印加時に所定の変速段を達成するように構成され、所定の変速段で締結される摩擦締結要素40、50の圧電アクチュエータ45、55は、非電圧印加時に該摩擦締結要素40、50を締結するように形成され、所定の変速段で解放される摩擦締結要素60、70、80の圧電アクチュエータ62、72、82は、非電圧印加時に該摩擦締結要素60、70、80を解放するように形成される。
【0119】
これにより、自動変速機が搭載された車両の走行中に、複数の摩擦締結要素のそれぞれの圧電アクチュエータに電圧を印加することができなくなる故障が発生した場合においても、変速機構が、例えば4速段などの所定の変速段を達成して所定の変速段でのフェールセーフ走行を行うことができる。
【0120】
本実施形態では、変速機構4は、各摩擦締結要素の圧電アクチュエータへの非電圧印加時に4速段を達成するように構成されているが、各摩擦締結要素の圧電アクチュエータとして、非電圧印加時に摩擦締結要素を締結すると共に電圧印加時に摩擦締結要素を解放するように形成される圧電アクチュエータ、又は非電圧印加時に摩擦締結要素を解放すると共に電圧印加時に摩擦締結要素を締結するように形成される圧電アクチュエータを用い、
図2に示す締結表に従って各摩擦締結要素の締結及び解放を行って変速機構4が所定の変速段を達成するように各摩擦締結要素の圧電アクチュエータへの印加電圧を制御することも可能である。
【0121】
本実施形態ではまた、自動変速機1は、フロントエンジン・フロントドライブ車用等の横置き式の自動変速機であるが、フロントエンジン・リヤドライブ車用等の縦置き式の自動変速機についても同様に適用することが可能である。
【0122】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
以上のように、本発明によれば、2つのクラッチが軸方向にオーバーラップして配置される自動変速機において、圧電アクチュエータを用いてクラッチの締結及び解放を実現して駆動損失及び重量の低減を図ると共に径方向にコンパクトに構成することが可能となるから、この種の自動変速機ないしこれを搭載する車両の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0124】
1 自動変速機
2 変速機ケース
4 変速機構
10、20、30 ギヤセット
40 第1クラッチ
41 第1回転部材
42 第2回転部材
45、55、62、72、82 圧電アクチュエータ
46、63 圧電素子
48、65 変位変換部材
50 第2クラッチ
52 第3回転部材
60、70、80 ブレーキ
61、71、81 ブレーキドラム