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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】荷振れ止め制御ガイダンスシステム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/06 20060101AFI20221012BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20221012BHJP
   B66C 13/46 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B66C13/06 M
B66C13/22 M
B66C13/46 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018096480
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019199357
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(72)【発明者】
【氏名】谷住 和也
(72)【発明者】
【氏名】石原 尚樹
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-079663(JP,A)
【文献】特開平08-333086(JP,A)
【文献】特開2016-166087(JP,A)
【文献】特開2013-120176(JP,A)
【文献】特開平03-056396(JP,A)
【文献】特開平03-056394(JP,A)
【文献】特開2000-118949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記振れ検出部が検出した振れに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備え
前記処理部は、前記振れ検出部で検出された振れを、複数方向成分に分解し、操作により選択された一の方向の振れ成分を減衰するための前記支持部の動きを求め、
前記ガイダンス部は、前記処理部が求めた一の方向の振れ成分を減衰するための前記支持部の動きを達成するためのガイダンスを行う、
荷振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項2】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記振れ検出部が検出した振れに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備え
前記処理部は、該処理部が求めた動きに沿って前記支持部が動いたと仮定した場合に、前記支持部と吊り下げられた荷との少なくとも何れかが描く軌跡を予想し、
前記ガイダンス部は、予想した前記軌跡を提示する、
振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項3】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記振れ検出部が検出した振れに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備え
前記処理部は、該処理部が求めた動きに沿って前記支持部が動いたと仮定した場合に、前記支持部と吊り下げられた荷との少なくとも何れかが描く軌跡を予想し、さらに、吊り下げられた荷の周囲の障害物を識別し、前記支持部が前記処理部が求めた通りに移動すると、前記荷が周囲の障害物に衝突するか否かを判別し、
前記ガイダンス部は、前記処理部による判別内容を提示する、
振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項4】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記振れ検出部が検出した振れに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備え
前記ガイダンス部は、前記処理部が求めた支持部の動きが得られるように、オペレータに、前記支持部の動きをガイダンスするメッセージと前記支持部の移動方向と速度を示す矢印の画像を生成し、撮像した吊り荷の画像と合成して出力する、
振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項5】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記支持部の起伏角を検出する起伏角検出部と、
前記支持部の長さを測定する支持部長測定部と、
前記支持部長測定部が測定した長さと前記起伏角検出部が検出した第1の起伏角とに基づいて、前記支持部の根本回転支点と前記支持部の吊り荷の先端回転支点を結ぶ直線の第2の起伏角を求める起伏角修正部と、
前記振れ検出部が検出した振れと前記第2の起伏角とに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備える荷振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項6】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記支持部の起伏角を検出する起伏角検出部と、
前記支持部の長さを測定する長さ測定部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の重さを計測する荷重センサと、
前記起伏角検出部が検出した第1の起伏角と前記長さ測定部が測定した前記支持部の長さと前記荷重センサが計測した荷重とに基づいて、前記支持部の撓みの影響を含む第2の起伏角を求める起伏角修正部と、
前記振れ検出部が検出した振れと前記第2の起伏角とに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備える荷振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項7】
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動又は伸縮させる駆動部と、
荷が吊り下げられた状態の前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記支持部の起伏角を検出する起伏角検出部と、
前記支持部の長さを測定する長さ測定部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の重さを計測する荷重センサと、
前記起伏角検出部が検出した起伏角と前記長さ測定部が測定した前記支持部の第1の長さと前記荷重センサが計測した荷重とに基づいて、前記支持部の撓みを考慮した第2の長さを求める長さ修正部と、
前記振れ検出部が検出した振れと前記第2の長さとに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備える荷振れ止め制御ガイダンスシステム。
【請求項8】
前記ガイダンス部は、前記処理部が求めた前記支持部の望ましい速度と、現在の速度に対する加速又は減速とその程度と、をガイダンスするメッセージと矢印の画像を表示する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の荷振れ止め制御ガイダンスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷振れ止め制御ガイダンスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン作業中に吊り荷の振れ、いわゆる荷振れが発生すると、作業に支障をきたす場合がある。このため、荷振れを止めることが望ましい。荷振れを止めることは、荷振れ止めと呼ばれ、熟練オペレータが得意とする技能である。
【0003】
しかしながら、熟練オペレータを確保することは難しい。このため、経験の浅いオペレータであっても、荷振れ止め制御を容易に実行できるようにすることが望まれている。例えば、特許文献1には、荷振れ量とブーム先端の速度とを表示する荷振れ止め支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-48586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された荷振れ止め支援装置においては、表示部に表示された荷振れ量とブーム先端の速度とが、吊り荷の振れに合わせて刻一刻と変化する。このため、表示内容を参照したとしても、オペレータが、操作レバーを操作するタイミング、操作量等を判断することが難しいという課題がある。このため、オペレータが、容易に荷振れを停止できるようにする技術が求められている。
【0006】
本発明はこれらの課題を解決するものであり、荷振れを容易に減衰させることを可能とする荷振れ止め制御ガイダンスシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達するため、本発明に係る荷振れ止め制御ガイダンスシステムは、
荷が吊り下げられる支持部と、
荷が吊り下げられた状態の前記支持部を移動させる駆動部と、
前記駆動部を操縦する操作部と、
前記支持部に吊り下げられた荷の振れを検出する振れ検出部と、
前記振れ検出部が検出した振れに基づいて、前記荷の振れを減衰させるような、前記支持部の動きを求める処理部と、
前記処理部が求めた前記支持部の動きが得られるように、前記操作部による前記駆動部の操縦方法をガイダンスするガイダンス部と、
を備え
前記処理部は、前記振れ検出部で検出された振れを、複数方向成分に分解し、操作により選択された一の方向の振れ成分を減衰するための前記支持部の動きを求め、
前記ガイダンス部は、前記処理部が求めた一の方向の振れ成分を減衰するための前記支持部の動きを達成するためのガイダンスを行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明の荷振れ止め制御ガイダンスシステムによれば、荷の振れを減衰するような操縦方法をガイダンスするので、容易に荷振れを減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1に係る天井クレーンの概要図である。
図2】実施の形態1に係る天井クレーンのキャビンの構成の一例を示す図である。
図3】実施の形態1に係るガイダンスシステムのブロック図である。
図4】(A)、(B)は、実施の形態1に係るガイダンスシステムが表示するガイダンス画像の例を示す図である。
図5】(A)~(C)は、実施の形態1に係るガイダンスシステムが表示するガイダンス画像の例を示す図である。
図6】(A)~(C)は、実施の形態1に係るガイダンスシステムが表示するガイダンス画像の例を示す図である。
図7】実施の形態1に係るガイダンスシステムによる荷振れ止め制御の概要図であり、(A)は、荷振れの時間変化を示す図、(B)は、ガーダの走行速度パターン、(C)はガーダの走行加速度パターンである。
図8】実施の形態1に係る荷振れ止め制御での各部の動きを示す図であり、(A)はガーダの位置の時間変化を示す図、(B)はガーダの速度の時間変化を示す図、(C)はガーダの加速度の時間変化を示す図、(D)は吊り荷の振れ角速度の時間変化を示す図、(E)は吊り荷の振れ角の時間変化を示す図である。
図9】実施の形態1に係る荷振れ止め制御ガイダンスシステムが実行する荷振れ止め制御ガイダンス処理のフローチャートである。
図10図9に示す始動処理の詳細フローチャートである。
図11図9に示す加速処理の詳細フローチャートである。
図12図9に示す減速処理の詳細フローチャートである。
図13】実施の形態1の変形例に係るガイダンスシステムによる荷振れ止め制御の概要図であり、(A)は、荷振れの時間変化を示す図、(B)は、ガーダの走行速度の時間変化を示す図である。
図14図13に示す荷振れ止め制御での各部の動きを示す図であり、(A)はガーダの位置の時間変化を示す図、(B)はガーダの速度の時間変化を示す図、(C)はガーダの加速度の時間変化を示す図、(D)は吊り荷の振れ角速度の時間変化を示す図、(E)は吊り荷の振れ角の時間変化を示す図である。
図15】本発明の実施の形態2に係る移動式クレーンの概要図である。
図16図15に示す移動式クレーンのブームの構造を詳細に示す図である。
図17図15に示す移動式クレーンのキャビンの構造を示す図である。
図18】本発明の実施の形態2に係る荷振れ止め制御ガイダンスシステムのブロック図である。
図19】実施の形態2に係る旋回方向荷振れ止め制御の概要図であり、(A)は、荷振れの時間変化を示す図、(B)は、荷振れを抑制するための旋回台の旋回方向速度の時間変化を示す図である。
図20図19に示す荷振れ止め制御での各部の動きを示す図であり、(A)は旋回台の位置の時間変化を示す図、(B)は旋回台の角速度の時間変化を示す図、(C)は旋回台の角加速度の時間変化を示す図、(D)は吊り荷の振れ角速度の時間変化を示す図、(E)は吊り荷の振れ角の時間変化を示す図である。
図21図19に示す荷振れ止め制御における、吊り荷の振れ角と、吊り荷の振れ角速度と旋回台の角速度比との軌跡を示す図である。
図22】実施の形態2に係る旋回方向荷振れ止め制御ガイダンス処理の始動処理のフローチャートである。
図23】実施の形態2に係る旋回方向荷振れ止め制御ガイダンス処理において、実旋回角速度と指示角速度との比較結果に基づいて、ガイダンス画像を変更する加速/減速処理を示すフローチャートである。
図24】(A)~(C)は、実施の形態2に係る旋回方向荷振れ止め制御ガイダンス処理において、表示されるガイダンス画像を例示する図である。
図25】実施の形態2に係る半径方向荷振れ止め制御の概要図であり、(A)は、荷振れの時間変化を示す図、(B)は、荷振れを抑制するためのシーブの水平方向速度の時間変化を示す図である。
図26図25に示す荷振れ止め制御での各部の動きを示す図であり、(A)はブームの起伏角度の時間変化を示す図、(B)はブームの起伏角速度の時間変化を示す図、(C)はブームの起伏角加速度の時間変化を示す図である。
図27】(A)~(C)は、実施の形態2に係る半径方向荷振れ止め制御ガイダンス処理において、表示されるガイダンス画像を例示する図である。
図28】本発明の実施の形態3において、旋回方向荷振れ止め制御ガイダンス処理と係る半径方向荷振れ止め制御ガイダンス処理とを平行して実行した際に、移動軌跡演算部が求めた移動軌跡の例を示す図である。
図29】本発明の実施の形態の変形例において、荷振れ止め制御ガイダンス処理において、吊り荷が障害物と接触する危険があるか否かを報知する処理のフローチャートである。
図30】本発明の実施の形態の変形例において、荷振れ止め処理を自動で実行する場合の処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る荷振れ止め制御ガイダンスシステムと方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、同一または同等の部分に同一の符号を付す。
【0011】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る荷振れ止め制御用のガイダンスシステムとガイダンス方法について、図1から図12を参照して説明する。なお、本実施の形態のガイダンスシステムとガイダンス方法は、吊り荷をリニアに移動する天井クレーン等における荷振れを減衰させるために、クレーンをどのように操縦すべきかを示す操縦方法をガイダンスするものである。
【0012】
最初に、実施の形態1のガイダンスシステムが適用されるクレーン1の一例を、図1を参照しつつ説明する。
実施の形態1のクレーン1は、図1に示すように、ランウェイ2と、ガーダ3と、巻き上げ機4とを備える天井クレーンである。
【0013】
ランウェイ2は、平行に配置された一対のレールから構成され、吊り荷11の搬送方向に延在する。この延在方向をX軸方向、高さ方向をY軸方向、奥行き方向をZ軸方向とする。
ガーダ3は、ランウェイ2間に掛け渡され、内部に配置された駆動機構3aにより、ランウェイ2上を±X軸方向に移動可能に構成されている。駆動機構3aは、例えば、車輪と駆動モータを備え、後述する操作部の操作により制御される。
【0014】
巻き上げ機4は、ガーダ3に設置されている。なお、この実施の形態では、巻き上げ機4は、ガーダ3に固定されており、ガーダ3に沿ってZ軸方向に移動することは無いものとする。ただし、巻き上げ機4は、ガーダ3の移動に伴って、±X軸方向に移動可能である。
【0015】
巻き上げ機4はウインチを備えている。このウインチには、ワイヤWが掛けられている。ワイヤWには、フックブロック9が吊り下げられている。フックブロック9には、フック10が取り付けられている。フック10には、ワイヤロープWRを介して、吊り荷11が掛けられる。
【0016】
巻き上げ機4は、吊り荷11を撮影するカメラ5と、ワイヤWの長さを測定するワイヤ長測定部6と、吊り荷11の移動方向(±X軸方向)の振れ角を検出する振れ角検出部7と、ガーダ3の移動速度を検出する速度検出部8と、を内蔵する。
カメラ5は、下方を撮像し、吊り荷11の状態を示す画像を取得し、後述する制御部30に送信する。
ワイヤ長測定部6は、ワイヤWの長さ、より正確には、巻き上げ機4からフック10までの距離を測定する。
振れ角検出部7は、吊り荷11の±X軸方向の振れ角を検出する。ここでは、鉛直方向とワイヤWの成す角度θを振れ角とする。
速度検出部8は、ガーダ3のX軸方向の走行速度を検出する。
【0017】
図2に、天井クレーン1を操作するオペレータが乗り込むキャビン12の操作パネルの一例を示す。キャビン12は、オペレータが、天井クレーン1を目視可能な場所に設置されている。キャビン12には、表示部20と操作部が配置されている。操作部は、走行レバー21と、巻き上げレバー22と、ガイダンススイッチ23等を含み、オペレータが天井クレーン1を操縦或いは操作するためのものである。
【0018】
表示部20は、図2に示すように、オペレータから見える位置に設けられている。表示部20は、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)パネルといった表示インターフェース装置から構成される。表示部20は、後述する荷振れ止め用のガイダンスを含む様々な画像を画面に表示する。
【0019】
走行レバー21は、操作方向と操作量により、ガーダ3の走行方向と走行速度を制御するためのレバーである。
巻き上げレバー22は、操作方向と操作量により、ワイヤWの長さを制御して、吊り荷11の上昇と降下を制御するためのレバーである。
ガイダンススイッチ23は、荷振れが発生した際に、この荷振れを停止ための操作をオペレータにガイダンスすることを指示するための操作スイッチである。
【0020】
また、キャビン12には、制御部30と記憶部40とが内蔵されている。
制御部30は、記憶部40が記憶するプログラムを実行することにより、走行レバー21と巻き上げレバー22の操作に応じて、天井クレーン1の動作を制御する制御装置である。制御部30は、CPU(Central Processing Unit)等を含むコンピュータから構成される。
【0021】
具体的には、制御部30は、走行レバー21の操作に応答したガーダ3の走行の制御、巻き上げレバー22の操作に応答した巻き上げ機4によるワイヤWの巻き上げ・繰り出しの制御等のクレーンの一般的な制御を実行する。さらに、制御部30は、荷振れ止め用のガイダンス画像を生成して表示する荷振れ止めガイダンス処理を実行する。荷振れ止めガイダンス処理の詳細については後述する。
【0022】
記憶部40は、制御部30で実行される制御プログラム、表示部20に表示されるメッセージといったデータを記憶する記憶装置である。記憶部40は、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶素子とRAM等の揮発性記憶素子から構成される。
【0023】
次に、制御部30及び記憶部40により構成される荷振れ止め制御ガイダンスシステム(以下、単に、ガイダンスシステムと呼ぶ)50について説明する。
図3に示すように、ガイダンスシステム50は、表示部20、制御部30、記憶部40、カメラ5、ワイヤ長測定部6、振れ角検出部7、速度検出部8、ガイダンススイッチ23、から構成される。
【0024】
制御部30は、記憶部40に記憶された荷振れ止め制御ガイダンス用の制御プログラムを実行することにより、速度パターン算出部31、移動軌跡演算部32、メッセージ作成部33、画像合成部34、タイマ35、として機能する。
【0025】
速度パターン算出部31は、ワイヤ長測定部6により測定されたワイヤWの長さ、振れ角検出部7により検出された吊り荷11の振れ角θ、速度検出部8により検出されたガーダ3の移動速度から、吊り荷11の振れを停止させるために、どのような速度パターンでガーダ3を走行させるかを示す速度パターンを算出する。
【0026】
移動軌跡演算部32は、速度パターン算出部31で求められた速度パターンを積分し、荷振れ止めが実現できるガーダ3の移動軌跡を算出し、メッセージ作成部33に提供する。
メッセージ作成部33は、記憶部40に記憶されているメッセージデータのうちから、指示速度に該当するものを取得し、指示速度と実速度に応じた矢印画像を生成し、また、移動軌跡演算部32から提供された移動軌跡を示す画像を生成する。メッセージ作成部33は、これら画像を合成し、荷振れを止めるためにガーダ3をどのように操作すべきかを示すガイダンス画像を合成する。
【0027】
画像合成部34は、メッセージ作成部33が生成したガイダンス画像とカメラ5が撮影した吊り荷11の画像とを重ね合わせて合成し、合成した画像を表示部20に出力する。
タイマ35は、時間を計時する。
【0028】
表示部20が表示するガイダンス画像は、荷振れを減衰させるために、操作部の操作方法、具体的には、操作対象と操作タイミングと操作の程度等をガイダンスするものである。なお、操作対象とは、例えば、レバー、ハンドル、ボタン、スイッチ等の操作のためにオペレータが操作するものを意味し、操作タイミングとは、例えば、操作開始のタイミング、待機のタイミング、操作終了のタイミング等を意味し、操作の程度とは、例えば、レバーやハンドルの操作量、ボタンやスイッチのオン・オフの別等を意味する。
ガイダンス画像の一例を、図4(A)~図6(C)を用いて説明する。
【0029】
図4(A)は、振れ止めのために、ガーダ3の走行を開始させるタイミング又はその直前に表示されるガイダンス画像の例である。この例では、表示部20の画面の上部に、カメラ5が撮影した吊り荷11の画像が表示されている。この画像に合成して、移動軌跡演算部32で求められた荷振れ止め制御を実行する場合にガーダ3が移動すると予想される予想移動軌跡TRの画像と、ガーダ3を走行させる方向を示す矢印画像(以下、指示矢印)ARとが表示されている。指示矢印ARは右方向を指しているが、これは、ガーダ3をオペレータから見て、ランウェイ2上を、右方向に走行させるべきことを示している。指示矢印ARの長さLは、ガーダ3の望ましい走行速度を視覚的に指示しており、長い方が高速を示している。指示矢印ARの色はより加速すべきことを示す色に設定されている。表示画面の下部には、メッセージ作成部33が取得したメッセージである「右方向走行 加速開始」が表示されている。このガイダンス画像は、ガーダ3の右方向への走行及び加速を開始すべきことをオペレータに指示するものである。また、オペレータは、予想移動軌跡TRの画像から、荷振れ止め操作を行った場合に、吊り荷11が障害物に接触するか否かを予想できる。
【0030】
図5(A)~(C)は、ガーダ3の加速中に表示されるガイダンス画像を例示する。これらの例では、画面の上部には、カメラ5が撮影した吊り荷11の画像に重畳して、指示矢印ARとが表示されている。
【0031】
指示矢印ARは、速度パターン算出部31が演算により求めたガーダ3の走行方向を示し、その長さLはガーダ3の指示速度に相当する。指示矢印ARの色は、指示速度とガーダ3の実速度との差に対応し、実速度が指示速度よりも大きい場合には、減速を示す色(以下減速色)、実速度が指示速度よりも小さい場合には、加速を示す色(以下、加速色)、実速度が指示速度とほぼ等しい場合には、透明とされる。
【0032】
図5(A)は、指示速度よりも実速度が速い場合の例であり、指示矢印ARは、減速色に設定されている。また、表示画面の下部には、ガーダ3が右方向に走行中で且つ加速中で、加速を緩和すべきことを示すメッセージ「右方向走行 加速中 加速緩和」が表示されている。
【0033】
また、図5(B)は、指示速度よりも実速度が遅い場合の例であり、指示矢印ARは、加速色に設定されている。また、表示画面の下部には、より加速すべきことを示すメッセージ「右方向走行 加速中 加速強化」が表示されている。
【0034】
図5(C)は、指示速度と実際の速度がほぼ等しい場合の例であり、指示矢印ARは透明に設定されている。また、表示画面の下部には、現在の加速状態を維持すべきことを示すメッセージ「右方向走行 加速中 加速状態維持」が表示されている。
【0035】
また、図6(A)は、ガーダ3の減速開始時に表示されるガイダンス画像を例示する。この場合、指示矢印ARの色は、実速度との大小関係によって設定される。
【0036】
図6(B)は、減速中に、指示速度よりも実速度が遅い場合の例であり、指示矢印ARは加速色に設定されている。また、表示画面の下部には、減速の程度を緩めるべきことを示すメッセージ「右方向走行 減速中 減速緩和」が表示されている。
【0037】
また、図6(C)は、減速中に、指示速度よりも実速度が速い場合の例であり、指示矢印ARは減速色に設定されている。また、減速を強めるべきことを示すメッセージ「右方向走行 減速中 減速強化」が表示されている。
【0038】
また、図4(B)は、ガーダ3の停止を指示するガイダンス画像の例である。画面の上部には、カメラ5が撮影した吊り荷11の画像のみが表示され、矢印ARは表示されていない。従って、走行速度を0とすべきことが理解される。また、画面の下部にはガーダ3の走行停止を指示する「停止」が表示されている。
【0039】
オペレータは、図4(A)~図6(C)に例示したガイダンス画像を参照することで、ガーダ3の走行開始・停止のタイミング、走行速度と加速・減速の目安を知ることができる。オペレータは、このガイダンス画像に沿って走行レバー21を操作することで、振れている吊り荷11を容易に停止させることができる。
【0040】
次に、ガイダンスシステム50が、上述のガイダンス画像を生成する手法について説明する。
【0041】
本実施の形態では、吊り荷11を吊り下げた巻き上げ機4は、ガーダ3に固定され、ランウェイ2に沿って±X軸方向に移動する。従って、吊り荷11の振れは、基本的には、±X軸方向の振れである。
【0042】
図7(A)は、時間の経過に伴う吊り荷11の振れの状態を模式的に示し、図7(B)はガーダ3の動き(移動速度)の時間変化を示し、図7(C)は、図7(B)に示す速度でガーダ3が移動する際の加速度を示す。
【0043】
図7(A)に示すように、吊り荷11が左右(±X軸方向)に振れているとする。ここで、図7(B)に示すように、ワイヤWが鉛直になったタイミングIIで、吊り荷11の振れ方向(図では右方向)に、ガーダ3の走行を開始させ、吊り荷11の振れの1周期Tの1/4の間に最大速度Vmaxまで加速し、その後、T/4の間に速度0まで等加速度で減速することで、吊り荷11と巻き上げ機4との鉛直方向の位置を一致させ、吊り荷11の振れを停止することができる。即ち、図7(B)に示す移動パターンで、吊り荷11を支持する支持体であるガーダ3を移動させることにより、振れを止めることが可能である。
なお、最大速度Vmaxは、ワイヤWが鉛直になったタイミングIIでの吊り荷11の水平方向の速度に相当する。ここで、吊り荷11の振れの周期Tは、ワイヤWの長さで定まり、(1)式で表される。なお、gは重力加速度9.8[m/s]、L0はワイヤWの長さ[m]である。また、最大速度Vmaxは、吊り荷11の振れの最大角度θmaxから、(2)式で求めることが可能である。
また、ガーダ3の走行時の加速度±αは、図7(C)に示すように一定値であり、(3)式で表される。
【0044】
周期T[s]=2π/([√(g/L0)] ・・・(1)
Vmax[m/s]=(T/8)・g・θmax ・・・(2)
α=4・Vmax/T ・・・(3)
【0045】
この場合、ガーダ3のランウェイ2上の位置、ガーダ3の速度[m/s]、ガーダ3の加速度[m/s2]、吊り荷11の振れ速度[rad/s]、吊り荷11の振れ角θ[rad]は、タイミングI~IVの間に、図8(A)~(E)に示すように変化する。
【0046】
また、吊り荷11の振れ角θと振れ角速度(即ち、振れ角θの微分値θ)の関係は、タイミングIから、タイミングIIとIIIを経て、振れ角θと振れ角速度(振れ角θの微分値)θ/速度Vが共に徐々に小さくなって、タイミングIVで0となって、吊り荷11が停止することが理解できる。
【0047】
そこで、ガイダンスシステム50は、吊り荷11の振れ角の最大角度θmax[rad]を振れ角検出部7で求め、振れ角が最大角度θmaxとなったタイミングをタイミングIとして検出する。
【0048】
続いて、ガイダンスシステム50は、タイミングIからT/4後のタイミングIIまでの間に、吊り荷11の最大速度Vmaxを(2)式から求める。ガイダンスシステム50は、さらに、タイミングIIIで最大速度Vmaxとなり、タイミングIVで停止するように、加速度±αを(3)式から求め、ガーダ3の速度パターンを求める。
【0049】
ガイダンスシステム50は、タイミングIIの前に、図4(A)に示すように、荷振れ止めを行った場合のガーダ3の予想移動軌跡TRの画像とガーダ3の走行を開始することを示すガイダンス画像を表示する。オペレータは、表示された予想移動軌跡TRの画像から、荷振れ止め操作が可能と判断すると、ガイダンス表示に従って、タイミングIIでガーダ3の加速を開始する。
【0050】
ガイダンスシステム50は、ガーダ3の実速度を速度検出部8で検出し、速度パターンとのずれを検出し、ずれを補償するような操作をオペレータに指示するガイダンス画像を図5(A)~図6(C)に例示するように生成し、表示部20に表示する。オペレータは、ガイダンス画像に従うことで、タイミングIIIでガーダ3の速度がVmaxとなるように加速し、その後、減速するように走行レバー21を制御する。
【0051】
ガイダンスシステム50は、タイミングIVの直前のタイミングに達すると、ガーダ3の停止を指示するため、図4(B)に例示したガイダンス画像を表示する。オペレータは、ガイダンス画像に従って、タイミングIVで、ガーダ3を停止するように、走行レバー21を制御する。
【0052】
このようにして、オペレータは、ガイダンス表示に従って、吊り荷11の振れを容易に停止させることができる。
【0053】
次に、ガイダンスシステム50が、上述のガイダンス画像を生成して表示する動作を図9図12のフローチャートを参照して説明する。
なお、以下の説明では、ガーダ3は右方向に走行することを前提とする。
【0054】
ガーダ3が停止した状態で、ガイダンススイッチ23が操作されると、制御部30は、図9に示す荷振れ止め制御ガイダンス処理を開始し、まず、始動処理(ステップS101)を実行する。
【0055】
この始動処理(ステップS101)の詳細を図10を参照して説明する。
図10に示すように、制御部30の速度パターン算出部31は、振れ角検出部7により、吊り荷11の振れ角θを連続的にモニタし、向かって左側にふれたときの最大振れ角θmax[rad]を検出する(ステップS201)。また、振れ角が最大振れ角θmaxとなったタイミングをタイミングIとして特定し、タイマ35を起動する(ステップS201)。
【0056】
続いて、速度パターン算出部31は、検出した最大振れ角θmax[rad]から、式(2)により、ワイヤWが鉛直となったときの吊り荷11の速度Vmax[m/s]を求める。また、ワイヤ長測定部6が検出したワイヤWの長さLwに予め設定されているフック10から吊り荷11の重心までの距離Lrを加算して、吊り荷11が構成する振り子の長さL0=(Lw+Lr)を求める。速度パターン算出部31は、求めた長さL0を式(1)に適用して、吊り荷11の振れの周期Tを求める。次に、速度パターン算出部31は、タイミングIのT/4後のタイミングを特定し、これをガーダ3の走行開始のタイミングIIとして特定する(ステップS202)。
【0057】
次に、制御部30の速度パターン算出部31は、ステップS202で求めた速度Vmaxと周期Tを式(3)に適用し、ガーダ3の走行時の加速度+αと-αを求める。速度パターン算出部31は、求めた加速度+αと-αとに基づいて、図7(B)に示すように、走行開始のタイミングIIからタイミングIIIまでの速度パターンとタイミングIIIから停止するタイミングIVまでの速度パターンを求める(ステップS203)。
【0058】
移動軌跡演算部32は、速度パターン算出部31で求められた速度パターンを積分し、荷振れ止めが実現できるガーダ3の移動軌跡を算出し、メッセージ作成部33に提供する(ステップS204)。
【0059】
次に、メッセージ作成部33は、タイミングIIに到達する前に、ガーダ3の走行を開始するために、メッセージ「右方向走行 加速開始」を記憶部40から取得する(ステップS205)。さらに、メッセージ作成部33は、初速度は0であることから、比較的短い長さLの指示矢印ARの画像を形成する。また、加速度が+αであり、ガーダ3の速度を徐々に高くする必要があることから、指示矢印ARの色を加速色とする(ステップS205)。
【0060】
メッセージ作成部33は、生成したメッセージと指示矢印ARの画像と移動軌跡演算部32で求められた予想移動軌跡TRの画像を示す画像とを重ね合わせてガイダンス画像を合成する(ステップS206)。
画像合成部34は、メッセージ作成部33が生成したガイダンス画像とカメラ5が取得した吊り荷11の画像を図4(A)に例示したように合成し、表示部20に表示させる(ステップS207)。その後、処理は、図9の荷振れ止め制御ガイダンス処理にリターンする。
【0061】
続いて、制御部30は、表示されたガイダンス画像に従って、オペレータが走行レバー21を操作して、ガーダ3の走行を開始したか否かを判別する(図9:ステップS102)。
例えば、オペレータは、表示された予想移動軌跡TRを見て、荷振れ止め処理を行うと吊り荷11が障害物に接触すると判断すると、ガーダ3を走行させない。一方、オペレータは、表示された予想移動軌跡TRを見て、荷振れ止め処理を行っても、吊り荷11が障害物に接触しないと判断すると、走行レバー21を操作して、ガーダ3を走行させる。
【0062】
メッセージ作成部33は、走行レバー21の操作がされなかったと判別した場合(ステップS102:No)、次の操作タイミングを求めるため、ガイダンス画像を消去し(ステップS103)、ステップS101にリターンする。
【0063】
一方、走行レバー21が操作がされたと判別した場合(ステップS102:Yes)、メッセージ作成部33は、ガーダ3の速度を速度パターンに従って速度Vmaxまで加速するようにガイダンスする加速処理(ステップS104)を開始する。
【0064】
この加速処理(ステップS104)の詳細を図11を参照して説明する。
まず、メッセージ作成部33は、速度検出部8の出力から、ガーダ3の実速度を求める(ステップS301)。
【0065】
次に、メッセージ作成部33は、タイマ35の計時時刻と速度パターンとから、速度パターンが示す指示速度を特定する(ステップS302)。
【0066】
次に、メッセージ作成部33は、実速度が指示速度より大きいか、等しいか、より小さいかを判別する(ステップS303)。
【0067】
実速度が速度パターンが指示する指示速度よりも大きい場合(ステップS303:大きい)、メッセージ作成部33は、加速を緩めるように促すメッセージを記憶部40から取得し、指示矢印ARの長さLを指示速度に相当する長さとし、指示矢印ARの色を減速色として、図5(A)に例示したガイダンス画像を生成する(ステップS304)。
【0068】
一方、ガーダ3の実速度が指示速度よりも小さい場合(ステップS303:小さい)、メッセージ作成部33は、加速を強化するように促すメッセージを記憶部40から取得し、指示矢印ARの長さLを指示速度に相当する長さとし、指示矢印ARの色を加速色として、図5(B)に例示したガイダンス画像を生成する(ステップS305)。
【0069】
また、実速度が指示速度にほぼ等しい場合(ステップS303:≒)、メッセージ作成部33は、現状を維持するように促すメッセージを記憶部40から取得し、矢印画像ARの長さLを指示速度に相当する長さとし、指示矢印ARの色を無着色(透明)として、図5(C)に例示したガイダンス画像を生成する(ステップS306)。
【0070】
その後、画像合成部34は、ステップS304~S306の何れかで生成したガイダンス画像をカメラ5から取得した吊り荷11の画像と合成して、表示部20に表示させる(ステップS307)。
【0071】
メッセージ作成部33は、次に、タイミングIIIに到達したか、又は、速度が最大速度Vmaxに達したか否かを判別し(ステップS308)、該当していなければ(ステップS308:No)、ステップS301にリターンし、上述の動作を繰り返す。
【0072】
一方、メッセージ作成部33は、タイミングIIIに到達した又は速度が最大速度Vmaxに達したと判別すると(ステップS308:Yes)、加速処理を終了し、図9の荷振れ止め制御ガイダンス処理にリターンする。
【0073】
続いて、メッセージ作成部33は、ガーダ3の速度を速度パターンに従って減速してタイミングIVで停止する操作をガイダンスする減速処理(ステップS105)を開始する。
【0074】
この減速処理(ステップS105)の詳細を図12を参照して説明する。
まず、メッセージ作成部33は、図6(A)に例示するような減速を開始すべきことを示すガイダンス画像を表示部20に表示させる(ステップS401)。
【0075】
続いて、メッセージ作成部33は、速度検出部8の出力から、ガーダ3の実速度を求める(ステップS402)。
【0076】
次に、メッセージ作成部33は、は、タイマ35の計時時刻と速度パターンとから、速度パターンが指示する指示速度を特定する(ステップS403)。
【0077】
次に、メッセージ作成部33は、は、実速度が指示速度より大きいか、等しいか、より小さいかを求める(ステップS404)。
【0078】
実速度が指示速度よりも大きい場合(ステップS404:大きい)、メッセージ作成部33は、減速を強化するように促すメッセージを記憶部40から取得し、指示矢印ARの長さLを指示速度に相当する長さとし、指示矢印ARを減速色として、図6(C)に例示したガイダンス画像を生成する(ステップS405)。
【0079】
一方、ガーダ3の実速度が指示速度よりも小さい場合(ステップS404:小さい)、メッセージ作成部33は、減速を緩和するように促すメッセージを記憶部40から取得し、指示矢印ARの長さLを指示速度に相当する長さとし、指示矢印ARを加速色として、図6(B)に例示したガイダンス画像を生成する(ステップS406)。
【0080】
また、実速度が指示速度にほぼ等しい場合(ステップS404:≒)、メッセージ作成部33は、現在の減速状態を維持するように促すメッセージを記憶部40から取得し、指示矢印ARの長さLを指示速度に相当する長さとし、指示矢印ARの色を無着色として、ガイダンス画像を生成する(ステップS407)。
【0081】
画像合成部34は、ステップS405~S407の何れかで生成されたガイダンス画像とカメラ5で取得した吊り荷11の画像とを合成して、表示部20に表示させる(ステップS408)。
【0082】
メッセージ作成部33は、次に、タイミングIVに到達したか、又は、速度が0に達したか否かを判別し(ステップS409)、該当していなければ(ステップS409:No)、ステップS402にリターンし、上述の動作を繰り返す。
【0083】
一方、メッセージ作成部33は、タイミングIVに到達した又は速度が0に達したと判別すると(ステップS409:Yes)、ガーダ3の動きを停止することを指示する図4(B)に例示したガイダンス画像を合成し、表示部20に表示する(ステップS410)。
【0084】
以上で、減速処理が終了し、図9の荷振れ止め制御ガイダンス処理にリターンし、処理を終了する。
【0085】
以上説明したように、ガイダンスシステム50は、荷振れを止めるために、どのような操作を行うべきかを示すガイダンス画像を表示する。オペレータは、ガイダンス画像の指示に従って、ガーダ3の走行速度を調整し、吊り荷11の振れを止めることができる。従って、熟練者でなくても、荷振れを止め操作を容易に行うことができる。
また、ガイダンスシステム50は、荷振れ止めの操作を開始する前に、ガイダンスに従って荷振れ止めの操作を行うと、ガーダ3がどのような移動軌跡上を移動するかを示す予想移動軌跡TRの画像を表示する。これにより、吊り荷が障害物に振れないこと等を確認した上で、荷振れ止め処理を行うことができる。
【0086】
(変形例1)
実施の形態1では、図7(B)に示したように、ガーダ3の加速時間と減速時間とが共に振れ周期Tの1/4で等しい。これは一例であり、加速期間と減速期間を互いに異ならせることも可能である。
例えば、図13に示すように、ガーダ3を加速するタイミングII~タイミングIIIまでの時間をT/4よりも長くし、ガーダ3の減速するタイミングIII~タイミングIVまでの時間をT/4周期より短くしてもよい。
【0087】
この場合、例えば、タイミングII~IIIの期間TII-IIIを、例えば、式(4)で示される期間とし、タイミングIII~IVの期間TIII-IVを式(5)で定まる期間とする。また、ガーダ3の最大速度Vmaxは、式(6)で示される。
II-III=0.3197・T ・・・(4)
III-IV=0.0904・T ・・・(5)
Vmax[m/s]=(T/6.74)・g・θmax ・・・(6)
この場合、ガーダ3の位置、ガーダ3の速度[m/s]、ガーダ3の加速度[m/s2]、吊り荷11の振れ角速度θ(振れ角θの微分値)[rad/s]、振れ角θ[rad]は、図14(A)~(E)に示すようになる。
【0088】
この変形例においては、ガイダンスシステム50は、吊り荷11の振れ角θ[rad]を振れ角検出部7で求め、振れ角が最大角度θmax[rad]となったタイミングをタイミングIとして検出する。
【0089】
続いて、ガイダンスシステム50は、荷振れの周期Tを、(3)式から求め、タイミングIIからIIIまでの期間=0.3197・Tと、タイミングIIIからIVまでの期間=0.0904・Tとを、(4)式と(5)式から求める。次に、タイミングIIからタイミングIIIまでの間に、ガーダ3が到達すべき最大速度Vmaxを式(6)から求める。ガイダンスシステム50は、さらに、タイミングIIIで最大速度Vmaxとなり、タイミングIVで停止するように、加速度を求め、ガーダ3の速度パターンを求める。
【0090】
ガイダンスシステム50は、タイミングIIに達すると、図4(A)に示すように、ガーダ3を右方向に加速走行することを指示するガイダンス画像を表示する。オペレータはガイダンス表示に従って、タイミングIIでガーダ3の加速を開始して、タイミングIIIでガーダ3の速度がVmaxとなるように、走行レバー21を制御する。ガイダンスシステム50は、ガーダ3の実際の速度を速度検出部8で検出し、速度パターンが指示する指示速度とのずれを求め、そのずれを補償するように、図5(A)~(C)に例示したガイダンス画像を生成し、表示部20に表示する。
【0091】
ガイダンスシステム50は、タイミングIIIに達すると、図6(A)~(C)に例示したガイダンス画像を生成し、表示部20に表示することにより、ガーダ3を減速走行することを指示するガイド画面を表示する。オペレータはガイダンス表示に従って、タイミングIIIでガーダ3の減速を開始して、タイミングIVでガーダ3が停止するように、走行レバー21を制御する。
【0092】
ガイダンスシステム50は、タイミングIVに達すると、図4(B)に例示するように、ガーダ3を停止することを指示するガイド画面を表示する。
【0093】
このようにして、オペレータは、ガイダンス表示に従って、吊り荷11の振れを容易に停止させることができる。
【0094】
上記実施の形態1及び変形例1においては、吊り荷11をガーダ3の走行方向、即ち、+X軸方向のみに移動する例を示したがこの発明はこれに限定されない。ガーダ3を-X軸方向に走行させることにより、吊り荷11の振れを停止させるようにガイダンス画像を形成及び表示してもよい。
【0095】
+X軸方向への走行による荷振れ止めと-X軸方向への走行による荷振れ止めを選択できるようにしてもよい。この場合、例えば、右用ガイダンススイッチ23Rと左用ガイダンススイッチ23Lとを配置し、いずれのスイッチが操作されるかで、ガーダ3の走行方向を選択するようにしてもよい。なお、右用ガイダンススイッチ23Rが選択された場合には、上述のように、-X側の振れの最大角度θmaxが検出されてタイミングIに設定され、ガーダ3は+X方向に走行し、左用ガイダンススイッチ23Lが選択された場合には、上述とは反対に、+X側の振れの最大角度θmaxが検出されてタイミングIに設定され、ガーダ3は-X方向に走行する。
【0096】
図7及び図13に示した走行速度パターンは例示であり、吊り荷11の振れを停止させることができれば、ガーダ3の走行速度パターンを任意に変更可能である。例えば、+X方向の走行と-X方向の走行を組み合わせる等してもよい。
また、巻き上げ機4を、ガーダ3の長軸に沿って、即ち、Z軸方向に移動可能とし、発生するZ軸方向の荷振れを、同様の手法で抑制できるようにしてもよい。この場合は、荷振れを、X軸方向の成分とZ軸方向の成分に分解し、各成分について、上述の処理を実行すればよい。この場合に、X軸(又はZ軸)方向成分の振れを抑制してから、Z軸(又はX軸)方向の成分の振れを抑制してもよく、また、X軸方向とZ軸方向成分の振れを並行して抑制してもよい。
【0097】
上記実施の形態及び変形例においては、指示矢印ARの長さにより指示速度を示し、実速度と指示速度との差を報知したが、報知及び表示の手法自体は任意である。例えば、指示矢印ARの長さで指示速度を、指示矢印ARの色で加速状態か減速状態かを示し、別の矢印画像で実速度を示し、さらに、他の矢印画像で指示速度と実速度との差を示す等してもよい。
【0098】
上記実施の形態及び変形例においては、ガーダ3を走行させるために走行レバーを操作したが、操作指示を入力するための手段は、操作スイッチ、タッチパネル或いはタブレット等任意である。
【0099】
実施の形態2.
上記実施の形態では、吊り荷11をリニアに移動するクレーンでの荷振れ止めの例を説明したが、本発明は、吊り荷を旋回させて搬送するクレーンでの荷振れ止めにも適用可能である。
以下、ブームの先端から吊り下げた吊り荷の旋回方向(接線方向)の振れ及び作業半径方向(以下、単に半径方向)の振れを止めるための操作をガイダンスするガイダンスシステム150について説明する。
【0100】
最初に、実施の形態2に係るガイダンスシステム150が適用される移動式クレーン101の全体的な構成例を図15を参照して説明する。移動式クレーン101は、走行機能を有する車両本体部分となるキャリア102と、キャリア102の上に水平旋回可能に取り付けられた旋回台103と、旋回台103に設けられたキャビン104とを備えている。キャリア102はアウトリガを備えている。
【0101】
旋回台103は、旋回角速度検出部118を内蔵する。旋回角速度検出部118は、旋回台103の旋回時における角速度を検出する。旋回台103の上には、ブラケット106が固定されている。ブラケット106には、ブーム107が取り付けられている。ブーム107は、基端部が支持軸を介してブラケット106に取り付けられており、この支持軸を中心にして起伏可能となっている。ブラケット106とブーム107との間には、起伏用シリンダ170が設けられている。ブーム107は、起伏用シリンダ170が伸縮することにより起伏する。
【0102】
ブーム107は、起伏角・角速度検出部115を内蔵する。起伏角・角速度検出部115は、起伏用シリンダ170の伸縮により起伏するブーム107の起伏角と起伏角方向の角速度を検出するセンサである。
【0103】
ブーム107は、基端ブーム107aと、中間ブーム107bと、先端ブーム107cとを備えている。基端ブーム107aと、中間ブーム107bと、先端ブーム107cとは、この順序で外側から内側へ入れ子式に組み合わされている。各ブーム107a~107cは、内部で伸縮シリンダにより連結されている。ブーム107は、各伸縮シリンダが伸縮することで伸縮する。ブーム107の長さ(正確には、後述するLbc)は、ブラケット106に配置されたブーム長測定部119により測定される。
【0104】
先端ブーム107cは先端部107dを備える。先端部107dには、シーブが設けられている。このシーブには、ブラケット106に設けられたウインチから延びたワイヤWが掛けられている。ワイヤWには、フックブロック109が吊り下げられている。フックブロック109の下部にフック110が取り付けられている。フック110には、ワイヤロープWRを介して吊り荷11が掛けられる。
【0105】
先端ブーム107cの先端部107dには、吊り荷11を撮影するカメラ105が設けられている。また、先端部107dには、吊り荷11の作業半径方向の振れ角度を検出する作業半径方向振れ角検出部114と、ワイヤWの長さを求めるワイヤ長測定部116と、吊り荷11の旋回方向の振れ角度を検出する旋回方向振れ角検出部117と、が内蔵されている。
【0106】
次に、移動式クレーン101に搭載されたブーム107について詳細に説明する。
図16に示すように、ブーム107は、根本回転支点bfpを中心に、ブラケット106に、回動可能に支持されている。
ブーム107の先端部107dにはシーブが配置され、吊り荷11がワイヤWを介して接続されている。このシーブが、吊り荷11の先端回転支点btpとなる。
【0107】
根本回転支点bfpと先端回転支点btpを結ぶ線分Lbcの長さが、実質的なブーム107の長さに相当する。ブーム長測定部119は、この線分Lbcの長さを測定する。
ブーム107の作業半径Rは、式(7)で示される。
R[m]=Lbc・cosθB+r ・・・(7)
rは、根本回転支点bfpと旋回台103の旋回の中心軸103Aとの固定距離である。
また、θBは、線分Lbcの起伏角、即ち、線分Lbcと水平との交差角である。θBは、次のように求めることができる。
【0108】
まず、ブーム107の起伏角θCが、起伏角・角速度検出部115により測定される。図示するように、θBは、式(8)に示すように、θCから、ブーム107の先端と先端回転支点btpとを結ぶ線分Ltにより形成される起伏方向の角度θAを減算した角度に相当する。
θB=θC-θA ・・・(8)
また、角度θAはブーム107が伸びるに従って小さくなる値であり、線分Lbcの関数ff(Lbc)で表される。従って、式(8)は、次のように変形できる。
θB=θC-ff(Lbc)=θC-θA ・・・(8)
【0109】
そこで、例えば、θAとLbcとの関係を示す関数ffを表す演算式又はテーブルを用意しておき、ブーム長測定部119が測定した線分Lbcの長さを、演算式又はテーブルに適用してθAを求め、これを起伏角・角速度検出部115が測定した起伏角θCから減算することにより、起伏角θBを求めることができる。
【0110】
また、シーブ、即ち、先端回転支点btpの半径方向の速度Vdrcは、式(9)で表される。また、式(10)が成立する。
Vdrc[m/s]=Vd・sin(θB) ・・・(9)
Vd[m/s]=Lbc・dθB/dt ・・・(10)
ここでVdは、線分Lbcが根本回転支点bfpを中心に回動することにより先端回転支点btpが描く円弧の接線方向の移動速度を示す。
【0111】
図17に示すキャビン104には、荷振れ止め制御ガイダンスを表示する表示部120と、旋回を制御する旋回レバー121と、ブーム107の長さを制御する伸縮レバー122と、ブーム107の起伏動作を制御する起伏レバー123と、ワイヤ長を制御する巻き上げレバー124と、旋回方向ガイダンススイッチ125と、半径方向ガイダンススイッチ126等を備える操作部が配置されている。
【0112】
旋回レバー121は、旋回台103の旋回を制御して、旋回駆動するための操作レバーである。
伸縮レバー122は、ブーム107の伸縮を制御する操作レバーである。
起伏レバー123は、ブーム107の起伏(傾斜角θB)を制御する操作レバーである。
巻き上げレバー124は、操作方向と操作量により、ワイヤWの長さを制御して、吊り荷11の上昇と降下を制御するレバーである。
【0113】
旋回方向ガイダンススイッチ125は、旋回方向の荷振れ止め操作のガイダンスを表示させる際に、操作されるスイッチである。
半径方向ガイダンススイッチ126は、半径方向の荷振れ止め操作のガイダンスを表示させる際に、操作されるスイッチである。
【0114】
また、キャビン104には、制御部130と、制御プログラム、荷振れ止め制御ガイダンスのメッセージ等のデータを記憶している記憶部140が内蔵されている。
【0115】
表示部120は、荷振り止め用ガイダンス画像などの様々な情報を表示する。
【0116】
次に、本実施の形態に係るガイダンスシステム150の構成を図18を参照して説明する。
図示するように、本実施の形態に係るガイダンスシステム150は、表示部120と、制御部130と、記憶部140と、カメラ105と、旋回方向振れ角検出部117と、旋回角速度検出部118と、旋回方向ガイダンススイッチ125と、半径方向ガイダンススイッチ126と、半径方向振れ角検出部114と、起伏角・角速度検出部115と、ワイヤ長測定部116と、ブーム長測定部119と、から構成される。
【0117】
制御部130は、記憶部140に記憶された制御プログラムを実行することにより、旋回角速度パターン算出部301、移動軌跡演算部302、旋回操作方法メッセージ作成部303、画像合成部304、起伏角速度パターン算出部305、起伏操作方法メッセージ作成部306、タイマ307、として機能する。
【0118】
旋回角速度パターン算出部301は、i)旋回方向振れ角検出部117により検出された吊り荷11の旋回方向の振れ角θslewと、ii)旋回角速度検出部118により検出された旋回台103の旋回角速度ωと、iii)ワイヤ長測定部116により測定されたワイヤWの長さL0と、iv)ブーム長測定部119により測定されたブーム107の長さLbcと、v)起伏角・角速度検出部115の測定値θCと演算により求められた角度θAから求められた起伏角θBと、に基づいて、吊り荷11の旋回方向の振れを停止させるために、どのような角速度パターンで旋回台103を旋回させるかを示す旋回角速度パターンを算出する。
【0119】
起伏角速度パターン算出部305は、i)半径方向振れ角検出部114により検出された吊り荷11の旋回方向の振れ角θdrcと、ii)起伏角・角速度検出部115の測定値θCと演算により求められた角度θAから求められた起伏角θBと、iii)ワイヤ長測定部116により測定されたワイヤWの長さL0と、iv)ブーム長測定部119により測定されたブーム107の長さLbcと、から、吊り荷11の作業半径方向の振れを停止させるために、どのような速度パターンでブーム107を起伏させるかを示す起伏速度パターンを算出する。
【0120】
移動軌跡演算部302は、旋回角速度パターン算出部301で求められた速度パターンで指示される角速度を得るために、どのように旋回レバー121を操作すべきかを求める。また、移動軌跡演算部302は、起伏角速度パターン算出部305で求められた速度パターンで指示される角速度を得るために、どのように起伏レバー123を操作すべきかを求める。
【0121】
旋回操作方法メッセージ作成部303は、記憶部140に記憶されているメッセージデータのうちから、求められた指示速度に該当するデータを取得し、また、求められた指示速度に応じた指示矢印ARを生成する。
起伏操作方法メッセージ作成部306は、記憶部140に記憶されているメッセージデータのうちから、求められた指示速度に該当するデータを取得し、また、求められた指示速度に応じた長さの指示矢印ARを生成する。
【0122】
画像合成部304は、旋回操作方法メッセージ作成部303が生成したメッセージと指示矢印とを、カメラ105が撮影した吊り荷11の画像と重ね合わせ、ガイダンス画像を生成する。また、画像合成部304は、生成したガイダンス画像を表示部120に出力する。
【0123】
また、画像合成部304は、起伏操作方法メッセージ作成部306が生成したメッセージと指示矢印とを、カメラ105が撮影した吊り荷11の画像と重ね合わせ、ガイダンス画像を生成する。また、画像合成部304は、生成したガイダンス画像を表示部120に出力する。
タイマ307は、時間を計時する。
【0124】
次に、上記構成を有するガイダンスシステム150が実施する振れ止めガイダンス処理を説明する。
ガイダンスシステム150は、吊り荷11の振れを、旋回方向の振れと半径方向の振れとに分けて、各振れを停止するために必要な操作をガイダンスする。
そこで、まず、旋回方向の振れを停止するためのガイダンスの手法について説明する。
【0125】
吊り荷11の旋回方向の振れが図19(A)に示すものであるとする。
この場合、実施の形態1と同様に、ブーム107の先端のシーブを図19(B)に示す速度パターンで移動させることで、振れを止めることができる。即ち、図19(B)に示す移動パターンで、吊り荷11を支持する支持体であるシーブを移動させることにより、振れを止めることが可能である。
ここで、吊り荷11の旋回方向の最大速度Vmax_slewは、式(11)で表される。
Vmax_slew[m/s]=(T/8)・g・θmax_slew ・・・(11)
【0126】
即ち、吊り荷11が最下端となったタイミングIIからタイミングIIIまでのT/4の間に、シーブを等加速度でVmax_slewまで加速し、続いて、タイミングIIIからタイミングIVまでのT/4の間に、シーブを等加速度で速度0とすることで、旋回方向の荷振れを停止することができる。
ここで、シーブの旋回方向の速度をVslew [m/s]、旋回台103の旋回方向の角速度をω[rad/s]とすると、式(12)が成立する。
Vslew=ω・R ・・・(12)
Rは旋回台103の回転軸からシーブまでの水平距離であり、前述のように、式(7)及び(8)から、ブーム長測定部119が測定した線分Lbcの長さと、起伏角・角速度検出部115が測定した起伏角θCと、固定距離rとに基づいて求めることができる。
【0127】
式(12)と図20(B)に示す速度パターンから、タイミングIIからタイミングIIIまでのT/4の間に、旋回台103を一定の角加速度で角速度0からωmax=Vmax_slew/Rまで加速し、続いて、タイミングIIIからタイミングIVまでのT/4の間に、一定の角加速度で角速度0とすることで、旋回方向の荷振れを停止することができることがわかる。
【0128】
このときの、旋回台103の旋回方向の位置[rad]、旋回台103の旋回方向の角速度[rad/s]、旋回台103の旋回方向の角加速度[rad/s2]、吊り荷11の旋回方向の振れ角速度θslewと[rad/s]、旋回方向の振れ角θslew[rad]は、図20(A)~(E)に示すようになる。また、吊り荷11の旋回方向の振れ角θslewと、振れ角速度θslewと振り子振動数ωslewの比θslew/ωslewとは図21に示すように遷移する。なお、振り子振動数ωslew=2π/T=√(g/L0)[rad/s]で表される。
【0129】
この図から、上述の旋回操作により、タイミングIVで、振れ角θslewと振れ角速度θslewとが0となり、旋回方向の振れが止まることがわかる。
【0130】
次に、上述の旋回方向の荷振れ止めの手法に基づいて、ガイダンスシステム150が、旋回方向の荷振れを停止する操作をガイダンスする動作を図22図23とを参照して説明する。
なお、この処理は、基本動作は、図9に示した荷振れ止めガイダンス処理と同一であり、差分を中心に説明する。
【0131】
旋回方向ガイダンススイッチ125が操作されると、旋回角速度パターン算出部301は、図22に示す始動処理を開始し、吊り荷11の旋回方向の振れ角θslewを旋回方向振れ角検出部117でモニタし、その最大角度θmax_slew[rad]を検出する。また、そのタイミングをタイミングIとしてタイマ307を起動する(ステップS501)。
【0132】
続いて、旋回角速度パターン算出部301は、式(1)から荷振れの周期Tを求める。続いて、旋回角速度パターン算出部301は、吊り荷11の最大速度Vmax_slewを式(11)から求め、タイミングIIで加速を開始し、タイミングIIIで最大速度Vmax_slewとなり、タイミングIVで速度が0となる速度パターンVslewを、図19(B)に示すように求める(ステップS502)。
【0133】
次に、この速度パターンVslewが得られるような旋回台103の角速度のパターンを、図20(B)に示すように算出する(ステップS503)。
【0134】
旋回操作方法メッセージ作成部303は、旋回台103の旋回を開始すべきこと、旋回方向、旋回速度を指示するメッセージ及び指示矢印ARを作成し、これらを合成してガイダンス画像を生成する(ステップS504)。画像合成部304は、生成されたガイダンス画像とカメラ105で取得した画像とを合成し、図24(A)に例示するように、表示部120に表示する(ステップS505)。
オペレータはガイダンス画像に従って旋回レバー121を操作し、タイミングIIで旋回台103の旋回を開始し、徐々に加速する。
【0135】
旋回台103が旋回を開始すると、旋回操作方法メッセージ作成部303は、加速/減速処理を実行する。この加速/減速処理においては、図20(B)に示す角速度パターンに従って、旋回台103の旋回角速度をタイミングIIIまでにωmaxまで加速するようにガイダンスする。また、タイミングIIIに達すると、図24(B)に例示するガイダンス画像を形成し、減速を開始することをガイダンスする。
【0136】
この加速/減速処理を図23のフローチャートを参照して説明する。
旋回操作方法メッセージ作成部303は、タイマ割り込みなどにより、図23に示す加速/減速処理を周期的に起動し、まず、旋回角速度検出部118により、旋回台103の旋回角速度(実旋回角速度)を検出し、また、角速度パターンにより指示される指示角速度を特定する(ステップS601)。旋回操作方法メッセージ作成部303は、検出した実旋回角速度と特定した指示角速度とを比較する(ステップS602)。
【0137】
旋回操作方法メッセージ作成部303は、比較結果に基づいて、角速度のずれを補償するような操作をオペレータに指示するガイダンス画像を生成する(ステップS603~605)。
例えば、検出した実際の旋回角速度が角速度パターンで指示される指示角速度よりも大きければ(ステップS602:大きい)、旋回台103の旋回角速度を低減するように促すガイダンス画像を生成して(ステップS603)、表示部120に表示する(ステップS606)。また、検出した実際の旋回角速度が角速度パターンで指示される指示角速度よりも小さければ(ステップS602:小さい)、旋回台103の旋回角速度を増加するように促すガイダンス画像を生成して(ステップS604)、表示部120に表示する(ステップS606)。また、検出した実際の旋回角速度が角速度パターンで指示される指示角速度とほぼ等しければ(ステップS602:≒)、旋回台103の旋回角速度を維持するように促すガイダンス画像を生成して(ステップS605)、表示部120に表示する(ステップS606)。
【0138】
オペレータは、ガイダンス画像を参照することで、タイミングIIで、旋回台103の旋回を開始し、タイミングIIIで旋回台103の角速度がωmax(=Vmax/R)となるように加速し、その後、減速して、タイミングIVで停止するように旋回レバー121を操作する。
【0139】
旋回操作方法メッセージ作成部303は、タイミングIVの直前のタイミングに達すると、旋回停止を指示するガイダンス画像を生成する。画像合成部304は、このガイダンス画像を表示部120に表示する。オペレータは、ガイダンス画像に従って、タイミングIVで、旋回台103を停止するように、旋回レバー121を制御する。
【0140】
このようにして、オペレータは、ガイダンス画像に従って、吊り荷11の旋回方向の振れを容易に停止させることができる。
【0141】
次に、半径方向の荷振れを止める手法を説明する。
ここでは、吊り荷11の半径方向の振れが図25(A)に示すものであったとする。この場合も、ブーム107の先端のシーブを図25(B)に示す速度パターンで半径方向に水平移動させることで、振れを止めることが可能である。即ち、図25(B)に示す移動パターンで、吊り荷11を支持する支持体であるシーブを移動させることにより、振れを止めることが可能である。
なお、吊り荷11の半径方向且つ水平方向への速度Vdrcの最大速度Vmax_drcは、式(13)で示される。
Vmax_drc[m/s]=(T/8)・g・θmax drc ・・・(13)
即ち、吊り荷11が最下端となったタイミングIIからタイミングIIIまでのT/4の間に、シーブを半径方向に等加速度でVmax_drcまで加速し、続いて、タイミングIIIからタイミングIVまでのT/4の間に、シーブを半径方向に等加速度で速度0まで減速することで、半径方向の荷振れを停止することができる。
【0142】
ここで、図16を参照して前述したように、シーブの半径方向の速度Vdrcは、式(9)で表される。
Vdrc[m/s]=Vd・sin(θB) ・・・(9)
Vd[m/s]は、ブーム107の先端回転支点btpが描く円弧の接線方向の移動速度である。また、θB[rad]は、線分Lbcの起伏角度を示し、式(8)から求めることができる。
【0143】
また、ブーム107の起伏方向の角速度をVb[rad/s]とすると、式(14)が成立し、起伏角・角速度検出部115により直接計測されている。
Vb[rad/s]=dθB/dt=dθC/dt ・・・(14)
式(14)を式(10)に適用すると、式(15)が得られる。さらに、式(15)を式(9)に適用する、式(16)が得られる。式(16)を変形すると、式(17)が得られる。
Vd[m/s]=Lbc・Vb ・・・(15)
Vdrc[m/s]=Lbc・Vb・sin(θB) ・・・(16)
Vb[rad/s]=Vdrc/[Lbc・sin(θB)] ・・・(17)
【0144】
従って、図25(B)に示すVdrcの速度パターンを得るためには、Vdrcの速度パターンの波形を式(17)に適用して角速度Vb、即ち、ブーム107の起伏角速度dθC/dtの速度パターンを求め、この速度パターンでブーム107を回動させればよい。具体的には、図26(B)に示すように、タイミングIIでブーム107の起伏方向の回動を開始し、徐々に角速度Vbを大きくして、タイミングIIIで最大角速度Vb_maxとし、その後、減速して、タイミングIVで角速度Vbを0とするように、ブーム107を起伏駆動すればよい。
【0145】
次に、上述の半径方向の荷振れ止めの手法に基づいて、ガイダンスシステム150が、半径方向の荷振れを停止する操作をガイダンスする動作を説明する。
【0146】
なお、基本動作は、図9に示した荷振れ止め制御ガイダンス処理と同一である。
半径方向ガイダンススイッチ126が操作されると、起伏角速度パターン算出部305は、始動処理を開始し、吊り荷11の半径方向の振れ角θdrcを半径方向振れ角検出部114でモニタし、その最大角度θmax_drc[rad]を検出する。また、吊り荷11の半径方向の振れ角θdrcが最大角度θmax_drc[rad]となったタイミングをタイミングIとしてタイマ307を起動する。
【0147】
続いて、起伏角速度パターン算出部305は、式(1)から荷振れの周期Tを求め、さらに、吊り荷11の水平方向の最大速度Vmax_drcを式(13)から求め、タイミングIIで加速を開始し、タイミングIIIで最大速度Vmax_drcとなり、タイミングIVで速度が0となる速度パターンを、図25(B)に示すように求める。
【0148】
次に、この速度パターンが得られるようなブーム107の根本回転支点bfpを支点とする回動動作の角速度(起伏角速度)Vbのパターンを、式(17)から、図26(B)に示すように算出する。
【0149】
起伏操作方法メッセージ作成部306は、ブーム107を伏せるように回動させる旋回動作を開始すべきこと、旋回方向、旋回角速度を指示するメッセージ及び指示矢印を作成し、これらを合成してガイダンス画像を生成する。画像合成部304は、生成されたガイダンス画像とカメラ105で取得した画像とを合成し、図27(A)に例示するように、表示部120に表示する。
オペレータはガイダンス画像に従って起伏レバー123を操作し、タイミングIIでブーム107の伏動作を開始し、徐々に加速する。
【0150】
起伏操作方法メッセージ作成部306は、図26(B)に示す起伏角速度のパターンに従って、ブーム107の起伏角速度をタイミングIIIまではVbmaxまで加速するようにガイダンスする。また、タイミングIIIに達すると、図27(B)に例示するガイダンス画像を形成し、減速を開始することをガイダンスする。
【0151】
起伏操作方法メッセージ作成部306は、起伏角・角速度検出部115により、ブーム107の起伏方向の角速度Vb[rad/s]=dθC/dtを周期的に検出し、起伏角速度パターンにより指示される指示角速度と比較する。
【0152】
起伏操作方法メッセージ作成部306は、比較結果に基づいて、起伏角速度の指定起伏角速度とのずれを補償するような操作をオペレータに指示するガイダンス画像を生成する。例えば、検出した実際の旋回角速度が角速度パターンで指示される指示角速度よりも小さければ、ブーム107の起伏角速度を大きくするようなガイダンス画像を生成して、表示部120に表示する。
オペレータは、ガイダンス画像に従うことで、タイミングIIで、ブーム107の伏せ動作を開始し、タイミングIIIで起伏方向の角速度Vbが最大Vb_maxとなるように加速し、その後、減速して、タイミングIVで停止するように起伏レバー123を操作する。
【0153】
このようにして、オペレータは、ガイダンス画像に従って、吊り荷11の半径方向の振れを容易に抑制することができる。
【0154】
なお、移動軌跡演算部302は、旋回方向振れ止めガイダンス処理の際には、旋回角速度パターン算出部301が求めた速度パターンを積分し、吊り荷11の移動軌跡を予想し、これを画像化して、画像合成部304に供給する。同様に、移動軌跡演算部302は、起伏方向振れ止めガイダンス処理の際には、起伏角速度パターン算出部305が求めた速度パターンを積分し、吊り荷11の移動軌跡を予想し、これを画像化して、画像合成部304に供給する。画像合成部304は、予想移動軌跡TRの画像をカメラ105からの画像に合成して、表示部120に表示する。これにより、オペレータは、荷振れ止め処理を開始する前に、処理により吊り荷11が障害物に振れる等の問題が発生するか否かを判別し、問題が発生しない場合のみ、荷振れ止め処理を行うことができる。
【0155】
実施の形態2では、ブーム107を伏せ駆動することにより、半径方向の荷振れを抑制する例を示したが、ブーム107を起こすことにより、半径方向の荷振れを抑制するようにしてもよい。
【0156】
実施の形態3.
実施の形態2では、吊り荷11の振れを、旋回方向成分と半径方向成分とに分解し、個別に、振れ止め処理を行う例を示した。よって、オペレータは、例えば、旋回方向ガイダンススイッチ125をオンにして、旋回方向振れ止めガイダンス処理を実行して、旋回方向の荷振れを抑制したあと、半径方向ガイダンススイッチ126をオンして、半径方向振れ止めガイダンス処理を実行して、半径方向の荷振れを抑制する必要がある。
【0157】
この発明は、これに限定されない。旋回方向振れ止めガイダンス処理と半径方向振れ止めガイダンス処理を並行して実行するようにしてもよい。
この場合に、移動軌跡演算部302は、旋回角速度パターン算出部301が求めた速度パターンによる軌跡をX-Y座標のX軸方向に、起伏角速度パターン算出部305が求めた速度パターンによる軌跡をX-Y座標のY軸方向に、対応付けてプロットすることにより、図28に示すように、ブーム107の先端107dの動きを求めるようにしてもよい。
【0158】
さらに、各タイミングでの、吊り荷11の傾き振れ角θx及びθyとワイヤWの長さL0とから、ブーム107の先端107dに対する吊り荷11の相対位置を求めて合成することにより、図28に示すように、X-Y平面上で、ブーム107の先端107dの軌跡とフック110又は吊り荷11の軌跡をプロットすることができる。さらに、カメラ105で得られたカメラ画像とX-Y平面の縮尺を揃えることにより、カメラ105で捉えた実際の背景画像上で、ブーム107の先端107dと吊り荷11がどのような軌跡を辿るかをプロットして、提示することができる。
【0159】
(変形例2)
旋回方向荷振れ止め制御ガイダンス処理、半径方向荷振れ止め制御ガイダンス処理においても、図13に示した速度パターンを使用可能である。
【0160】
この場合、タイミングII~IIIの期間TII-IIIを、例えば、式(4)で示される期間とし、タイミングIII~IVの期間TIII-IVを式(5)で定まる期間とする。また、最大速度Vmax_slew,Vmax_drcは、式(18)、(19)で示される。
II-III=0.3197・T ・・・(4)
III-IV=0.0904・T ・・・(5)
Vmax_slew=T/6.74・g・θmax_slew ・・・(18)
Vmax_drc=T/6.74・g・θmax_drc ・・・(19)
【0161】
なお、荷振れを止めるための支持部(ガーダ及びシーブ)の速度パターンは、上記の例に限定されず、任意である。いずれの速度パターンを採用する場合でも、操作開始前に、操作の開始タイミングと操作方法をガイダンし、操作開始後は、実際の制御量と目標値との差とその差を小さくするために操作すべきこととそのタイミングと程度をガイダンスするようにすればよい。また、操作開始前に、制御得期間中の荷の動きをガイダンスし、荷振れ止め制御を行っても、問題が発生しないことを確認できるようにしてもよい。
【0162】
(変形例3)
上記実施においては、荷振れ止め制御を開始する前に、予想移動軌跡TRを表示し、荷振れ止め制御中に吊り荷11が障害物に衝突するおそれがあるか否かを判別できるようにしている。この判別を自動で行うようにしてもよい。例えば、図29のフローチャートに示すように、荷振れ止め制御ガイダス処理の開始時点で、速度パターンを求め(ステップS701)、速度パターンを積分することで、吊り荷の予想移動軌跡を求める(ステップS702)。
【0163】
次に、画像認識技術を用いて吊り荷11の周囲の障害物を識別し、識別した障害物と予想移動軌跡TRが基準値以上近づくか否かを判別することにより、荷振れ止め制御中に吊り荷11が障害物と接触するおそれがあるか否かを判別する(ステップS703)。
【0164】
衝突するおそれが無い場合(ステップS703:なし)、図4のガイダンス画面を表示し(ステップS704)、起動処理に進む。
【0165】
一方、衝突するおそれがある場合(ステップS703:あり)、待機すべき旨のメッセージを表示し(ステップS705)、ステップS701に戻る。
【0166】
このような構成とすれば、吊り荷11の衝突を回避し、さらに、時間が経過して、吊り荷11の振れが小さくなって、衝突の可能性がなくなった時点で、振れ止め制御を自動的に開始することが可能となる。
【0167】
(変形例4)
上記実施の形態1から実施の形態3では、オペレータが、表示部120に表示されたガイダンス画像に基づいて吊り荷11の振れを止める操作を行っているが、自動で吊り荷11の振れを止める構成にしても良い。この場合、例えば、実施の形態2であれば、キャビン104に振れ止め自動実行スイッチを配置する。
【0168】
オペレータが、旋回方向ガイダンススイッチ125または半径方向ガイダンススイッチ126を押下した後、振れ止め自動実行キーを押下すると、制御部130が自動振り止め制御処理を開始する。
【0169】
制御部130は、旋回角速度パターン算出部301又は起伏角速度パターン算出部305が求めた、速度パターンが得られるように、フィードバック制御などで、アクチュエータの操作量を制御し、ブーム107を自動で旋回または起伏し、吊り荷11の振れを止める。
【0170】
図30を参照して具体的に説明すると、制御部130は、シーブの速度の実測値Vrを求め(ステップS801)、シーブの指示速度Vtを速度パターンから特定し(ステップS802)、その偏差e(=Vt-Vr)を求め(ステップS803)、偏差eに応じて、例えば、PID制御(比例積分微分制御)により、新たな操作量(アクチュエータの駆動量)Xを求める(ステップS804)。この処理を、タイミングIVに達するか速度が0になるまで繰り返せばよい(ステップS805)。なお、制御の手法自体は任意である。実施の形態1についても同様に実行可能である。
この構成によれば、オペレータの操作なく、自動的に荷振れを止めることが可能となる。
【0171】
(変形例5)
ブーム107に撓みがある場合には、撓み分の補正値を記憶部140に記憶しておき、演算時に、この補正値を用いて測定値を補正してから演算してもよい。
より詳細に説明すると、ブーム107は、吊り荷11の重量が大きくなるに従って、また、ブーム107が長くなるに従って撓み、傾斜センサの測定値と実際の起伏角θBの間に乖離が生ずる。この問題を解決するため、例えば、吊り荷荷重とブーム長と傾斜センサの測定値との組と実際の起伏角θBとを対応付ける関数式或いは三次元テーブルを記憶部140に格納しておき、この関数又は三次元テーブルを参照して、正確な起伏角θBを求め、これを速度パターンの計算に用いてもよい。また、ブーム107の先端部107dに、図16に示す先端回転支点btpの位置を測定するGPS等のセンサを配置し、先端回転支点btp等の位置を測定し、測定した先端回転支点btpの位置から撓みの補正値を求め、正確な起伏角θBを求めてもよい。
【0172】
上記実施の形態においては、吊り荷の振れを「止める」例について説明したが、本願発明における「止める」は、吊りの振れを完全に止めることに限定されず、「減衰させる」、「抑制する」ことを含む広い概念である。振れ止め制御により、制御の実行前よりも吊り荷の振れを減衰・抑制できるならば、本発明における「振れを止める」ことに該当するものである。従って、制御過程で生成される速度パターン等も、吊り荷の振れを完全に止める厳格な速度パターンに限定されず、例えば、吊り荷の振幅を1/3或いは1/4程度の作業者が処理可能なレベルに減衰させることができる速度パターンを生成してもよい。
【0173】
半径方向振れ角検出部114と旋回方向振れ角検出部117が、撮像画像に基づいて触れ角を検出する場合には、これらの検出部の撮像部に代えてカメラ105の画像を仕様してもよい。
【0174】
上位実施の形態では、角度θAがブーム107の長に応じて変化することを前提として説明したが、角度θAの変化が小さい場合には、固定値として取り扱ってもよい。
【0175】
また、上記実施の形態においては、起伏角・角速度検出部115がブーム107の起伏角θCとその角速度dθC/dtの両方を測定する例を示したが、これに限定されない。起伏角・角速度検出部115はブーム107の起伏角θCのみを測定し、制御部130で角速度dθC/dtを演算で求めるようにしてもよい。
【0176】
上記実施の形態においては、ブーム長測定部119が、ブーム107の根本回転支点bfpとシーブの位置に相当する先端回転支点btpを結ぶ線分Lbcの長さを測定する例を示したがこれに限定されない。例えば、ブーム長測定部119が、ブーム107の長さを測定し、ブーム107の長さとブーム先端と先端回転支点btpとの距離から演算・テーブル引きなどにより、線分Lbcの長さを求めるようにしてもよい。
【0177】
また、ブーム107は長くなるに従って、また、吊り荷11が重くなるに従って撓む。この撓みを考慮して、起伏角θBを補正するようにしてもよい。この場合、例えば、吊り荷11の重さを測定する荷重センサを配置し、予め実験などにより、ブーム長測定部119が測定した長さと起伏角・角速度検出部115が検出した起伏角θCと荷重センサが測定した測定荷重と、実際の起伏角θBとの関係を示す三次元テーブル等を制御部130内に用意する。制御部130は、ブーム長測定部119が測定した長さと起伏角・角速度検出部115が検出した起伏角θCと荷重センサが測定した測定荷重とをこの三次元テーブルに適用して、実際の起伏角θBを求めるようにすればよい。
【0178】
同様に、ブーム107の撓みにより、線分Lbcの長さが変化しうる。そこで、撓みを考慮して、線分Lbcの長さを補正するようにしてもよい。この場合、例えば、予め実験などにより、ブーム長測定部119が測定した長さと起伏角・角速度検出部115が検出した起伏角θCと荷重センサが測定した測定荷重と、実際の線分Lbcの長さとの関係を示す三次元テーブル等を制御部130内に用意する。制御部130は、ブーム長測定部119が測定した長さと起伏角・角速度検出部115が検出した起伏角θCと荷重センサが測定した測定荷重とをこの三次元テーブルに適用して、実際の線分Lbcの長さを求めるようにすればよい。
【0179】
種々の実施の形態と変形例を説明したが、この発明はこれらに限定されず、支持部或いは支持体に荷が吊り下げられており、この支持部或いは支持体が、駆動部により駆動され、吊り荷に振れが発生するものならば広く適用可能である。支持部或いは支持体は、ガーダとシーブが一例であり、駆動部は、ガーダとクレーンの本体部が一例であり、操作部はキャビン等に設けられた操作盤、レバーが一例であり、処理部は制御部と記憶部が一例であり、ガイダンス部は、制御部と記憶部と表示部が一例である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0180】
なお、本発明の技術的範囲は、上記実施の形態と変形例によっては限定されない。本発明は特許請求の範囲に記載された技術的思想の限りにおいて、応用、変形あるいは改良して、実施することができる。
【符号の説明】
【0181】
1 クレーン、2 ランウェイ、3 ガーダ、4 巻き上げ機、5 カメラ、6 ワイヤ長測定部、7 振れ角検出部、8 速度検出部、9 フックブロック、10 フック、11 吊り荷、12 キャビン、20 表示部、21 走行レバー、22 巻き上げレバー、23 ガイダンススイッチ、30 制御部 31 速度パターン算出部、 32 移動軌跡演算部、33 メッセージ作成部、 34 画像合成部、35 タイマ、40 記憶部
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