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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】電力供給システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 1/00 20060101AFI20221012BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20221012BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221012BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20221012BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20221012BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20221012BHJP
【FI】
B60L1/00 L
B60L50/75
H01M8/00 A
H01M8/00 Z
H01M8/04858
H01M8/04746
H01M8/12 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018107975
(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公開番号】P2019213353
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝一
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152079(JP,A)
【文献】特開2011-192458(JP,A)
【文献】特開2017-135860(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104319(WO,A1)
【文献】特開2018-022667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0136379(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
H01M 8/00 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1バッテリと、
前記第1バッテリと車両の走行モータとをつなぐ強電ラインと、
燃料電池と、
前記強電ラインに接続され、前記強電ラインの電圧を降圧させて出力可能な第1電圧変換器と、
前記燃料電池の負荷変動に対する動作負荷の変化が比較的に小さい、前記燃料電池の第1補機が接続された第1弱電ラインと、
前記第1弱電ラインに接続された第2電圧変換器と、
前記第1弱電ラインに対して前記第2電圧変換器を介して接続される第2弱電ラインであって、前記燃料電池の負荷変動に対する動作負荷の変化が前記第1補機よりも大きい、前記燃料電池の第2補機が接続された第2弱電ラインと、
前記第2弱電ラインに接続された第2バッテリと、
を備え、
前記第1弱電ライン、前記第1電圧変換器を介して前記強電ラインと接続された、
電力供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力供給システムであって、
前記燃料電池は、前記強電ラインに対し、前記第1バッテリとは並列に接続された、
電力供給システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力供給システムであって、
前記第2弱電ラインの電圧は、前記第1弱電ラインの電圧よりも高い、
電力供給システム。
【請求項4】
請求項3に記載の電力供給システムであって、
前記強電ラインに対し、前記第1電圧変換器を介して前記第1弱電ラインが接続され、
前記第2電圧変換器は、前記第1弱電ラインの電圧を昇圧させて前記第2弱電ラインに出力するとともに、前記第2弱電ラインの電圧を降圧させて前記第1弱電ラインに出力することが可能な双方向DC/DCコンバータである、
電力供給システム。
【請求項5】
請求項4に記載の電力供給システムであって、
前記第1バッテリを電力源とする第1システム状態が設定され、
前記第1システム状態では、前記強電ラインの電圧を、前記第1電圧変換器を介して前記第1弱電ラインに印加するとともに、前記第1弱電ラインの電圧を、前記第2電圧変換器を介して前記第2弱電ラインに印加する、
電力供給システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電力供給システムであって、
前記第1バッテリによる電力の供給が停止される第2システム状態が設定され、
前記第2システム状態では、前記第2バッテリにより前記第2弱電ラインに形成される電圧を、前記第2電圧変換器を介して前記第1弱電ラインに印加する、
電力供給システム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の電力供給システムであって、
前記強電ラインに対し、前記強電ラインの電圧を降圧させて出力可能な第3電圧変換器と、
前記強電ラインに対して前記第3電圧変換器を介して接続される第3弱電ラインであって、前記車両の車両補機が接続された第3弱電ラインと、
前記第3弱電ラインに対し、前記車両補機とは並列に接続された第3バッテリと、
をさらに備える、電力供給システム。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の電力供給システムであって、
前記第2補機は、前記燃料電池のカソードに対する酸化剤の供給に関わる酸化剤供給装置である、
電力供給システム。
【請求項9】
強電ラインと、
前記強電ラインよりも低い電圧の弱電ラインと、
前記弱電ラインを通じて電力が供給される補機を有する燃料電池と、
を備える電力供給システムであって、
前記弱電ラインは、
前記強電ラインに第1電圧変換器を介して接続された第1弱電ラインと、
前記第1弱電ラインに対して第2電圧変換器を介して接続された、前記第1弱電ラインとは異なる電圧の第2弱電ラインと、を備え、
前記第1弱電ラインには、前記補機のうち、前記燃料電池の負荷変動に対する動作負荷の変化が比較的に小さい第1補機が接続され、
前記第2弱電ラインには、前記補機のうち、前記燃料電池の負荷変動に対する動作負荷の変化が前記第1補機よりも大きい第2補機が接続され、
前記第2弱電ラインに接続されたバッテリをさらに備える、
電力供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の供給源としてバッテリと燃料電池とを備える電力供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動モータを駆動源とする車両に備わる電力供給システムとして、バッテリおよび燃料電池スタックを備え、電動モータとその主たる電力源である燃料電池スタックとをつなぐ強電ラインと、互いに異なる高さの電圧がかかる2つの弱電ラインと、を有するものが記載されている。この電力供給システムでは、上記2つの弱電ラインのうち一方に対して比較的に低い電圧の第1補助バッテリ(具体的には、12Vバッテリ)がDC/DCコンバータを介して接続され、他方の弱電ラインに対して第1補助バッテリよりも高い電圧の第2補助バッテリ(24Vバッテリ)が接続される。そして、第1補助バッテリにより電圧が印加される前者の弱電ライン(具体的には、350V)に対し、燃料電池スタックの始動に関わる補機(スタック始動部品)が接続されるとともに、高圧コンバータ(DC/DCコンバータ)を介して強電ラインが接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-099535号公報(段落0045)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電力供給システムでは、燃料電池スタックの始動時において、補機に対し、第1補助バッテリによりDC/DCコンバータを介して始動用の電力を供給することが可能であり、始動後の通常時には、燃料電池スタック自身の発電電力を高圧コンバータを介して供給することが可能である。しかし、このように、燃料電池スタックの補機に対し、DC/DCコンバータを介して電力が供給される構成では、補機の低負荷運転時に、DC/DCコンバータの特性によりその出力制御性が悪化することから、補機の運転が安定しないという問題がある。そして、この問題は、燃料電池スタックの運転に対して低負荷から高負荷に至る広い範囲で運転条件が変化する、ブロアまたはエアコンプレッサ等の酸化剤供給装置を補機とする場合に、より顕著となる。
【0005】
本発明は、運転条件によらず補機の運転を安定させることができる電力供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態では、第1バッテリと、第1バッテリと車両の走行モータとをつなぐ強電ラインと、燃料電池と、を備える電力供給システムが提供される。本形態に係る電力供給システムは、強電ラインに接続され、強電ラインの電圧を降圧させて出力可能な第1電圧変換器と、強電ラインに対して第1電圧変換器を介して接続された弱電ラインと、を備え、弱電ラインに対し、燃料電池の補機が接続される。弱電ラインは、第2電圧変換器を介して互いに接続された第1弱電ラインおよび第2弱電ラインを有し、第1弱電ラインには、燃料電池の負荷変動に対する動作負荷の変化が比較的に小さい、燃料電池の第1補機が接続され、第2弱電ラインには、燃料電池の負荷変動に対する動作負荷の変化が第1補機よりも大きい、燃料電池の第2補機が接続される。第2弱電ラインに接続された第2バッテリをさらに備え、第1弱電ライン、第1電圧変換器を介して強電ラインと接続される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2補機の運転条件の変化に対し、第1電圧変換器または第2電圧変換器の出力制御性の悪化を回避し、第2補機の運転を、その運転条件によらず安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る電力供給システムを備える車両駆動系の全体的な構成を示す概略図である。
図2図2は、同上実施形態に係る電力供給システムの構成を示す概略図である。
図3図3は、同上実施形態に係る電力供給システムの通常時における動作を示す説明図である。
図4図4は、同上実施形態に係る電力供給システムのバッテリ遮断時における動作を示す説明図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る電力供給システムの構成を示す概略図である。
図6図6は、同上実施形態に係る電力供給システムの通常時における動作を示す説明図である。
図7図7は、同上実施形態に係る電力供給システムのバッテリ遮断時における動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電力供給システムP1を備える電動車両(以下、単に「車両」という)の駆動系(以下「車両駆動系」という)Vの全体的な構成を示している。
【0011】
車両駆動系Vは、大別すると、電力供給システムP1、パワーコントロールユニット5および走行用の電動モータ(以下「走行モータ」という)6を備え、電力供給システムP1の出力により、パワーコントロールユニット5を介して走行モータ6を駆動する。パワーコントロールユニット5は、インバータ(INV)を内蔵し、電力供給システムP1から出力される直流電流を三相の交流電流に変換して、走行モータ6に供給する。走行モータ6は、図示しない差動装置を介して車両の駆動輪と接続されており、駆動輪を回転させて、車両を推進する。本実施形態において、走行モータ6は、原動機としても発電機としても動作可能なモータジェネレータであり、車両の駆動力を生じさせる駆動走行時に原動機として動作する一方、車両の制動走行時に発電機として動作し、電力を回生することが可能である。
【0012】
電力供給システムP1は、走行モータ6の電力源として、高圧バッテリ1と、電力分配システム(PDS)2に包含される、図示しない燃料電池21と、を備える。高圧バッテリ1と電力分配システム2とは、強電ラインL1に対して互いに並列に接続され、パワーコントロールユニット5に対し、強電ラインL1を介して接続されている。これにより、駆動走行時には、高圧バッテリ1および電力分配ユニット2(燃料電池21)から、強電ラインL1を通じてパワーコントロールユニット5および走行モータ6に電力を供給することが可能である。さらに、制動走行時には、モータジェネレータである走行モータ6から、強電ラインL1を通じて高圧バッテリ1に電力を供給することが可能である。高圧バッテリ1は、走行モータ6の回生電力により充電することができる。
【0013】
高圧バッテリ1は、これに限定されるものではないが、例えば、端子電圧が400Vのリチウムイオンバッテリであり、強電ラインL1に対し、スイッチ素子ないしリレー11を介して接続され、強電ラインL1に対する接続がスイッチ素子11により選択的に遮断可能な状態にある。高圧バッテリ1の端子電圧が400Vである場合は、強電ラインL1に400Vの電圧がかかる。
【0014】
本実施形態では、以上に加え、車両補機31と、低圧バッテリ(後に述べる「第1低圧バッテリ」との区別のため、特に「第2低圧バッテリ」という)32と、を備え、車両補機31および第2低圧バッテリ32は、弱電ライン(後に述べる「第1弱電ライン」および「第2弱電ライン」との区別のため、特に「第3弱電ライン」という)L2に対して互いに並列に接続されている。第3弱電ラインL2は、強電ラインL1に対し、一方向性のDC/DCコンバータ33を介して接続されている。強電ラインL1の電圧(例えば、400V)を、DC/DCコンバータ33を介して降圧させ、第3弱電ラインL2に印加することが可能である。車両補機31は、例えば、オーディオ等の車内電装機器であり、その動作電圧として、14Vを例示することができる。第2低圧バッテリ(例えば、14V)32は、第3弱電ラインL2を通じて車両補機31に電力を供給する一方、強電ラインL1からDC/DCコンバータ33による降圧後の電力の供給を受け、充電することが可能である。本実施形態において、DC/DCコンバータ33は、絶縁型である。
【0015】
電力分配システム2およびパワーコントロールユニット5のほか、スイッチ素子11およびDC/DCコンバータ33等の動作は、コントローラ101により制御される。本実施形態において、コントローラ101は、中央演算ユニット(CPU)、ROMおよびRAM等の各種記憶ユニット、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータからなる電子制御ユニットとして構成され、電力分配システム2等の制御対象に対し、車両の走行条件および電力供給システムP1の状態等に応じた指令信号を出力する。
【0016】
図2は、本実施形態に係る電力供給システムP1の構成を、電力分配システム2を中心に示している。説明の便宜上、第3弱電ラインL2および第3弱電ラインL2に接続される要素、具体的には、車両補機31、第2低圧バッテリ32およびDC/DCコンバータ33の図示を省略する。
【0017】
電力分配システム2は、高圧バッテリ1とともに走行モータ6の電力源を構成する燃料電池21を備え、燃料電池21の運転に必要な各種補機(車両補機31との区別のため、単に「補機」といい、以下単に「補機」というときは、特に断りのない限り、燃料電池21の補機を意味するものとする)22、23を備える。
【0018】
燃料電池21は、これに限定されるものではないが、例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。本実施形態において、燃料電池21は、複数の燃料電池単位セルを積層して構成され、含酸素燃料(例えば、エタノール)を原燃料として作動する。エタノールの水蒸気改質反応により生じる水素が燃料として燃料電池21のアノード極に供給される一方、大気中の空気(具体的には、酸素)が酸化剤ガスとしてカソード極に供給される。燃料電池21が固体酸化物形のものである場合に、アノード極およびカソード極での発電に係る反応は、夫々次式により表すことができる。
アノード極: 2H2+4O2- → 2H2O+4e- …(1.1)
カソード極: O2+4e- → 2O2- …(1.2)
【0019】
燃料電池21は、強電ラインL1に対し、一方向性のDC/DCコンバータ24を介して接続されている。燃料電池21の発電電圧をDC/DCコンバータ24を介して昇圧させ、強電ラインL1に印加することが可能である。本実施形態において、DC/DCコンバータ24は、絶縁型である。燃料電池21の発電電圧として、35~60Vを例示することができる。
【0020】
燃料電池21の補機22、23は、例えば、センサ、コントローラ、アクチュエータ、ヒータ、ポンプおよびブロアであり、センサとして、原燃料または酸化剤ガスの流量を検出する流量センサ、燃料電池21の温度を検出する温度センサ、燃料タンクに残存する原燃料の量を検出する液位センサを例示することができる。ここで、補機22、23は、燃料電池21の負荷変動に対する動作負荷の変化が相対的に小さいもの(22)と、相対的に大きいもの(23)と、に大別することができ、前者の動作負荷の変化が小さい補機22として、センサ22aまたはコントローラ(コントローラ101との区別のため、特に「燃料電池コントローラ」という)22bを、後者の動作負荷の変化が大きい補機23として、ブロアないしエアコンプレッサを例示することができる。補機の動作負荷の変化は、0の場合もあり得る。つまり、動作負荷の変化が小さい補機22は、動作負荷の変化が0の補機であってよく、その場合に、動作負荷の変化が大きい補機23は、単に動作負荷の変化が存在する補機であってよい。ブロア23は、酸化剤ガスの供給通路(カソードガス通路)の開放端近傍に取り付けられ、大気中の空気をカソードガス通路に吸入する。
【0021】
電力分配システム2は、一方向性のDC/DCコンバータ25を介して強電ラインL1と接続され、基本的には、強電ラインL1からDC/DCコンバータ25を介して電力の供給を受ける。本実施形態において、DC/DCコンバータ25は、絶縁型であり、強電ラインL1の電圧を降圧させて電力分配システム2の電力ラインに出力する。電力分配システム2は、電力ラインとして、互いに異なる高さの電圧がかかる2つの電力ラインL3、L4を有し、電力ラインL3、L4のいずれか(本実施形態では、電力ラインL3)がDC/DCコンバータ25を介して強電ラインL1と接続され、電力ラインL3に対し、DC/DCコンバータ25による降圧後の電圧が印加される。
【0022】
ここで、電力ラインL3、L4を、強電ラインL1との対比から、特に「弱電ライン」と呼ぶ。本実施形態において、弱電ラインL3、L4は、双方向性のDC/DCコンバータ26を介して互いに接続され、弱電ラインL3、L4のうち、より低圧に設定される一方の弱電ライン(本実施形態では、弱電ラインL3であり、以下「第1弱電ライン」という)の電圧を昇圧させて他方の弱電ライン(本実施形態では、弱電ラインL4であり、以下「第2弱電ライン」という)L4に印加するとともに、この反対に、高圧側の第2弱電ラインL4の電圧を降圧させて低圧側の弱電ラインL3に印加することが可能である。これに限定されるものではないが、第1弱電ラインL3にかかる電圧は、例えば、14Vであり、第2弱電ラインL4にかかる電圧は、例えば、48Vである。本実施形態において、DC/DCコンバータ26は、非絶縁型である。
【0023】
そして、第1弱電ラインL3には、燃料電池21の負荷変動に対する動作負荷の変化が小さいセンサ22aおよび燃料電池コントローラ22bが接続され、第2弱電ラインL4には、燃料電池21の負荷変動に対する動作負荷の変化が大きいブロア23が接続される。さらに、電力分配システム2は、高圧バッテリ1よりも低い電圧の第1低圧バッテリ27を備え、第1低圧バッテリ27は、第2弱電ラインL4に接続され、ブロア23に対し、第2弱電ラインL4を通じて電圧を印加することが可能である。
【0024】
本実施形態では、高圧バッテリ1が「第1バッテリ」に相当し、第1低圧バッテリ27が「第2バッテリ」に相当し、第2低圧バッテリ32が「第3バッテリ」に相当する。そして、DC/DCコンバータ25が「第1電圧変換器」に、DC/DCコンバータ26が「第2電圧変換器」に、DC/DCコンバータ33が「第3電圧変換器」に、センサ22aおよび燃料電池コントローラ22bが「第1補機」に、ブロア23が「第2補機」に、夫々相当する。
【0025】
(通常時における動作)
以上のように構成される電力供給システムP1の動作について、以下に説明する。
【0026】
図3は、本実施形態に係る電力供給システムP1の通常時における動作を示し、電力の流れを矢印付きの点線で示している。
【0027】
本実施形態において、通常時とは、スイッチ素子11が閉成され、強電ラインL1に高圧バッテリ1の電圧がかけられている状態にある場合をいう。
【0028】
通常時において、高圧バッテリ1の充電状態が充分に高い場合は、高圧バッテリ1の電力により走行モータ6を駆動すること、換言すれば、高圧バッテリ1を走行モータ6の電力源として走行することが可能である。高圧バッテリ1の蓄電電力が消耗して、充電状態が低下し、走行モータ6を駆動するうえで必要な充電状態が確保されなくなると、燃料電池21の発電電力をDC/DCコンバータ24を介して強電ラインL1に供給し、走行モータ6の駆動に必要な強電ラインL1の電圧を確保したり、高圧バッテリ1を充電したりすることが可能である。通常時における電力供給システムP1の状態は、「第1システム状態」に相当する。
【0029】
通常時では、強電ラインL1の電圧がDC/DCコンバータ25を介して降圧され、第1弱電ラインL3に印加されるとともに、第1弱電ラインL3の電圧がDC/DCコンバータ26を介して昇圧され、第2弱電ラインL4に印加される。このように、通常時では、燃料電池21の補機のうち、センサ22aおよび燃料電池コントローラ22bに対し、DC/DCコンバータ25による降圧後の電圧が印加される一方、ブロア23に対し、DC/DCコンバータ25による降圧後、DC/DCコンバータ26により昇圧された電圧が印加される。
【0030】
第1低圧バッテリ27は、ブロア23に対し、第2弱電ラインL4を通じて電力を供給することが可能である。本実施形態では、ブロア23に供給される電力のうち、ブロア23の動作負荷の変化によらず定常的ないし連続的に要求される電力を、強電ラインL1からDC/DCコンバータ25、26を介して供給し、ブロア23の動作負荷の変化に対する過渡分ないし変動分の電力を、第1低圧バッテリ27により供給する。
【0031】
(バッテリ遮断時における動作)
図4は、本実施形態に係る電力供給システムP1のバッテリ遮断時における動作を示し、図3におけると同様に、電力の流れを矢印付きの点線で示している。
【0032】
本実施形態において、バッテリ遮断時とは、スイッチ素子11が開成され、高圧バッテリ1からの電力の供給がスイッチ素子11により遮断された状態にある場合をいう。スイッチ素子11は、例えば、高圧バッテリ11の急速充電時または高圧バッテリ11のフェール発生時に、コントローラ101からの信号により開成される。高圧バッテリ11の急速充電時は、車体の前面または側面等に備わる急速充電用のコネクタに急速充電器のプラグが差し込まれているか否かにより判定することが可能であり、フェール発生時は、高圧バッテリ11を電力源とする電力の供給に何らかの異常が生じたか否かにより判定することが可能である。バッテリ遮断時における電力供給システムP1の状態は、「第2システム状態」に相当する。
【0033】
バッテリ遮断時では、強電ラインL1の電圧は、燃料電池21により形成することが可能である。強電ラインL1の電圧がDC/DCコンバータ25を介して降圧され、第1弱電ラインL3に印加される。そして、ブロア23に対し、DC/DCコンバータ26による昇圧後の電圧が印加されるとともに、第1低圧バッテリ27の電圧が第2弱電ラインL4を通じて印加される。ブロア23に供給される電力のうち、定常分の電力を強電ラインL1からDC/DCコンバータ25、26を介して供給し、過渡分の電力を第1低圧バッテリ27により供給可能であることは、通常時におけると同様である。
【0034】
さらに、バッテリ遮断時において、停止中の燃料電池21を起動する場合は、第1低圧バッテリ27の電圧がブロア23に印加される一方、第1低圧バッテリ27により第2弱電ラインL4に形成される電圧がDC/DCコンバータ26を介して降圧され、センサ22aおよび燃料電池コントローラ22bに印加される。
【0035】
(作用効果の説明)
本実施形態に係る電力供給システムP1は、以上のように構成され、本実施形態により得られる効果について、以下に纏める。
【0036】
第1に、燃料電池21の補機のうち、燃料電池21の負荷変動に対する動作負荷の変化が相対的に大きい補機(「第2補機」であり、具体的には、ブロア23)が接続された第2弱電ラインL4に第1低圧バッテリ27を接続し、ブロア23に対して第1低圧バッテリ27により電力を供給可能としたことで、ブロア23の低負荷運転時におけるDC/DCコンバータ26の出力制御性の悪化を回避し、ブロア23の運転を、その運転条件によらず安定させることが可能となる。例えば、ブロア23に供給される電力のうち、定常分の電力をDC/DCコンバータ26を介して供給し、過渡分の電力を第1低圧バッテリ27により供給することで、ブロア23の運転条件の変化に対し、DC/DCコンバータ26の出力制御性を確保し、ブロア23の運転を安定させることができる。
【0037】
第2に、燃料電池21を、強電ラインL1に対して高圧バッテリ1とは並列に接続したことで、バッテリ遮断時ないし高圧バッテリ1の出力停止時に、燃料電池21により強電ラインL1の電圧を形成し、燃料電池21の補機22a、22b、23に対して燃料電池21自身の発電電力を供給して、その運転を継続させるとともに、走行モータ6に電力を供給して、車両の走行を継続させることが可能となる。
【0038】
第3に、第2弱電ラインL4が第1弱電ラインL3よりも高圧であることで、ブロア23等、動作電圧が高い補機に対し、第2弱電ラインL4を通じて電力を供給することが可能となる。
【0039】
第4に、本実施形態では、強電ラインL1に対し、DC/DCコンバータ25を介して第1弱電ラインL3を接続するとともに、第1弱電ラインL3と第2弱電ラインL4とを双方向性のDC/DCコンバータ26を介して接続した。
【0040】
ここで、スイッチ素子11が閉成される通常時において、強電ラインL1の電圧をDC/DCコンバータ25、26を介して第2弱電ラインL4に印加する一方、第2弱電ラインL4に第1低圧バッテリ27を接続したことで、ブロア23の運転に際し、燃料電池21の負荷変動に対する変化分の電力を、第1低圧バッテリ27により供給することが可能となる。これにより、DC/DCコンバータ26は、この変化分を除く定常分の電力を出力可能であればよいこととなり、DC/DCコンバータ26として、より小さな電流容量のDC/DCコンバータを選択することが可能となり、DC/DCコンバータ26のサイズを低減し、その設置に要するコストを削減することができる。
【0041】
さらに、スイッチ素子11が開成され、高圧バッテリ1の強電ラインL1に対する接続が遮断されるバッテリ遮断時において、高圧バッテリ11から燃料電池21の補機22a、22b、23への電力の供給が遮断された状態にあっても第1低圧バッテリ27により電力を供給することが可能となり、燃料電池21の自律起動を可能とするとともに、その運転継続を可能とし、車両の走行を継続させることができる。
【0042】
第5に、強電ラインL1に対してDC/DCコンバータ24を介して第3弱電ラインL2を接続するとともに、第3弱電ラインL2に車両補機31および第2低圧バッテリ32を接続したことで、車両補機31に関わる電気系統とは独立した電力分配システム2を構築し、第2低圧バッテリ32の状態によらず燃料電池21の起動性を確保することが可能となる。
【0043】
第6に、第2弱電ラインL4に接続される補機をブロア23としたことで、燃料電池21の負荷変動に対する動作負荷の変化が特に大きい補機を対象として、DC/DCコンバータ26の出力制御性の悪化による運転の不安定化を回避することができる。
【0044】
(他の実施形態)
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
【0045】
図5は、本発明の第2実施形態に係る電力供給システムP2の構成を示し、図6および7は、本実施形態に係る電力供給システムP2の動作を示している。図6は、電力供給システムP2の通常時における動作を、図7は、電力供給システムP2のバッテリ遮断時における動作を、夫々示している。図5~7のそれぞれにおいて、第1実施形態におけると同様の機能を奏する部品または部分は、図2~4におけると同一の符号により示し、その再度の説明を省略する。
【0046】
本実施形態において、電力供給システムP2が備わる車両駆動系V全体の構成は、第1実施形態におけると同様である。
【0047】
第1実施形態との相違点を中心に説明すると、第1実施形態では、強電ラインL1に対し、「第1電圧変換器」である一方向性のDC/DCコンバータ25を介して低圧側の第1弱電ラインL3を接続した。これに対し、本実施形態では、「第1電圧変換器」として一方向性のDC/DCコンバータ25を採用することでは第1実施形態におけると一致するが、DC/DCコンバータ25を介して強電ラインL1と接続されるのが、第1弱電ラインL3ではなく、高圧側の第2弱電ラインL4である点で相違する。DC/DCコンバータ25は、絶縁型であってよい。
【0048】
さらに、本実施形態では、第1弱電ラインL3と第2弱電ラインL4との間に介在する、「第2電圧変換器」であるDC/DCコンバータとして、双方向性のDC/DCコンバータに代えて、一方向性のDC/DCコンバータ26を採用する。DC/DCコンバータ26は、第1弱電ラインL3と第2弱電ラインL4との間に接続され、第2弱電ラインL4の電圧(例えば、48V)を降圧させ、降圧後の電圧(例えば、14V)を第1弱電ラインL3に印加する。DC/DCコンバータ26は、非絶縁型であってよい。
【0049】
燃料電池21の補機のうち、燃料電池21の負荷変動に対する動作負荷の変化が相対的に小さいセンサ22a、コントローラ22bが第1弱電ラインL3に、動作負荷の変化が相対的に大きいブロア23が第2弱電ラインL4に、夫々接続され、さらに、第2弱電ラインL4に第1低圧バッテリ27が接続されるのは、第1実施形態におけると同様である。
【0050】
燃料電池21は、一方向性のDC/DCコンバータ24を介して強電ラインL1に接続される。DC/DCコンバータ24は、絶縁型であってよい。
【0051】
電力供給システムP2の動作について説明すると、スイッチ素子11が閉成される通常時(第1システム状態)では、図6に示すように、高圧バッテリ1の電力により走行モータ6を駆動するとともに、高圧バッテリ1の充電状態に応じて燃料電池21の発電電力をDC/DCコンバータ24を介して強電ラインL1に供給し、走行モータ6の駆動に必要な強電ラインL1の電圧を確保したり、高圧バッテリ1を充電したりすることが可能である。
【0052】
さらに、強電ラインL1の電圧がDC/DCコンバータ25を介して降圧され、第2弱電ラインL4に印加されるとともに、第2弱電ラインL4の電圧がDC/DCコンバータ26を介して降圧され、第1弱電ラインL3に印加される。このように、通常時では、燃料電池21の補機のうち、センサ22aおよびコントローラ22bに対し、DC/DCコンバータ25による降圧後の電圧がDC/DCコンバータ26によりさらに降圧されて印加される。これに対し、ブロア23には、DC/DCコンバータ25による降圧後の電圧が印加される。
【0053】
第1低圧バッテリ27は、ブロア23に対し、第2弱電ラインL4を通じて電力を供給することが可能である。本実施形態では、ブロア23に供給される電力のうち、ブロア23の動作負荷の変化によらず定常的ないし連続的に要求される電力を、強電ラインL1からDC/DCコンバータ25を介して供給し、ブロア23の動作負荷の変化に対する過渡分ないし変動分の電力を、第1低圧バッテリ27により供給する。
【0054】
これに対し、スイッチ素子11が開成されるバッテリ遮断時(第2システム状態)では、図7に示すように、強電ラインL1の電圧は、燃料電池21により形成される。強電ラインL1の電圧がDC/DCコンバータ25を介して降圧されて第2弱電ラインL4に印加され、さらに、第2弱電ラインL4の電圧がDC/DCコンバータ26を介して降圧されて第1弱電ラインL3に印加される。ブロア23に供給される電力のうち、定常分の電力を強電ラインL1からDC/DCコンバータ25を介して供給し、過渡分の電力を第1低圧バッテリ27により供給可能であることは、通常時におけると同様である。
【0055】
さらに、バッテリ遮断時において、停止中の燃料電池21を起動する場合は、第1低圧バッテリ27の電圧がブロア23に印加される一方、第1低圧バッテリ27により第2弱電ラインL4に形成される電圧がDC/DCコンバータ26を介して降圧され、センサ22aおよび燃料電池コントローラ22bに印加される。
【0056】
このように、強電ラインL1に対し、DC/DCコンバータ25を介して第2弱電ラインL4を接続したことで、ブロア23の動作電圧の生成に関してDC/DCコンバータ26を介在させる必要がなく、DC/DCコンバータ26として一方向性のDC/DCコンバータを採用可能であるとともに、DC/DCコンバータ26は、センサ22a等、動作電圧が低い補機の運転に要する電力を出力可能であればよいので、より小さな電流容量のDC/DCコンバータを選択することが可能となる。よって、DC/DCコンバータ26のサイズを低減し、その設置に要するコストを削減することができる。
【0057】
さらに、高圧バッテリ11の強電ラインL1に対する接続が遮断され、高圧バッテリ1から燃料電池21の補機22a、22b、23への電力の供給が遮断された状態にあっても第1低圧バッテリ27により電力を供給することが可能となり、燃料電池21の自律起動を可能とするとともに、その運転継続を可能とし、車両の走行を継続させることができる。
【0058】
以上の説明では、電力分配システム2の電力ライン(第1弱電ラインL3、第2弱電ラインL4)のうち、第1弱電ラインL3をより低圧とし、このより低圧の第1弱電ラインL3に動作負荷の変化が相対的に小さい第1補機22(22a、22b)を、他方のより高圧の第2弱電ラインL4に動作負荷の変化が相対的に大きい第2補機23を、夫々接続した。しかし、第1弱電ラインL3と第2弱電ラインL4との間での電圧の関係は、これに限定されるものではなく、動作負荷の変化が大きい第2補機23が接続される第2弱電ラインL4を低圧側の弱電ラインとして構成する一方、動作負荷の変化が小さい第1補機22が接続される第1弱電ラインL3を高圧側の弱電ラインとして構成することも可能である。
【0059】
さらに、以上の説明では、ブロア23を第2補機としたが、第2補機として適用可能なものは、これに限定されるものではない。ブロアまたはエアコンプレッサ以外に適用可能な補機として、ポンプ等を例示することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更および修正が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…高圧バッテリ
2…電力分配システム
21…燃料電池
22a…センサ
22b…燃料電池コントローラ
23…ブロア
25…DC/DCコンバータ
26…DC/DCコンバータ
27…第1低圧バッテリ
31…車両補機
32…第2低圧バッテリ
33…DC/DCコンバータ
5…パワーコントロールユニット
6…走行モータ
101…コントローラ
L1…強電ライン
L3…第1弱電ライン
L4…第2弱電ライン
V…車両駆動系
P1、P2…電力供給システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7