(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 61/02 20060101AFI20221012BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20221012BHJP
F02B 67/04 20060101ALI20221012BHJP
F02B 67/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F02B61/02 C
F02B77/00 L
F02B67/04 A
F02B67/00 N
(21)【出願番号】P 2018113089
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 正樹
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-137736(JP,U)
【文献】実開昭60-145642(JP,U)
【文献】実開平01-134757(JP,U)
【文献】特開2007-077851(JP,A)
【文献】特開2004-100717(JP,A)
【文献】特開平04-277350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 61/02
F02B 77/00
F02B 67/04
F02B 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースと、
前記クランクケースに設けられ、かつシリンダーボアを有するシリンダーと、
前記クランクケース内に設けられて回転自在に支持されるクランクシャフトと、
前記クランクケース内に設けられ、かつ前記クランクシャフトから伝達される動力
で内燃機関の振動を低減させるバランサー機構と、
前記クランクケースの上面に設けられ、かつ前記シリンダーの後方に配置されたブリーザー室と、を備え、
前記バランサー機構は、
前記クランクシャフトから伝達される動力で回転するアイドラーギヤと、
前記アイドラーギヤを前記クランクケースに回転自在に支える一対のアイドラー軸受部と、
前記アイドラーギヤよりも前記シリンダーボアから遠い位置に配置され、かつ前記アイドラーギヤから伝達される動力で回転するバランサーと、
前記バランサーを前記クランクケースに回転自在に支える一対のバランサー軸受部であって、当該一対のバランサー軸受部の少なくとも一方は、前記一対のアイドラー軸受部に対して前記クランクシャフトの回転中心軸に沿う方向へオフセットしているバランサー軸受部と
、を備え
、
前記ブリーザー室は、前記クランクケースの側面視において前記バランサーに重なる内燃機関。
【請求項2】
前記バランサーは、前記アイドラーギヤより前記クランクケースの幅寸法における中央に近い請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記一対のバランサー軸受部の一方は、前記ブリーザー室を区画する壁に一体成形されている請求項1または2に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトを間に挟む、2つのバランサーを備えた内燃機関が知られている。
【0003】
この内燃機関は、2つのバランサーを互いに逆方向に回転させる。そのため、一方のバランサーには、クランクシャフトの回転動力が直接的に伝達され、他方のバランサーには、アイドラーギヤによって反転された回転動力が伝達される(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の内燃機関では、アイドラーギヤとバランサーとは、内燃機関の前後方向(つまり、クランクシャフトの回転中心線に直交する方向)において、実質的に整列していた。換言すると、アイドラーギヤとバランサーとは、内燃機関の幅方向(つまり、クランクシャフトの回転中心線に沿う方向)において、実質的に揃えて並べられていた。
【0006】
このようなアイドラーギヤおよびバランサーの配置は、それぞれを支持する軸受部の配置を近接させる。これら軸受部が近接して配置されることは、それぞれを支持する軸受部に生じる応力に影響を及ぼし合わせる。また、それぞれを支持する軸受部が負担する荷重は、シリンダーボアを区画するシリンダー後方側の壁部へ影響を及ぼす。従来の内燃機関は、相互の軸受部間における応力の影響を低減させるため、また、シリンダーに対する軸受部の荷重の影響を低減させるために、シリンダー後方側の壁部を相応の厚みに厚肉化して強固にする必要があった。このような、壁部の厚肉化は、内燃機関の軽量化を妨げる。
【0007】
そこで、本発明は、内燃機関の振動を低減させるバランサー機構を備える一方で、シリンダーの後方側の壁部の厚肉化を回避して、軽量化可能な内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため本発明に係る内燃機関は、クランクケースと、前記クランクケースに設けられ、かつシリンダーボアを有するシリンダーと、前記クランクケース内に設けられて回転自在に支持されるクランクシャフトと、前記クランクケース内に設けられ、かつ前記クランクシャフトから伝達される動力で内燃機関の振動を低減させるバランサー機構と、前記クランクケースの上面に設けられ、かつ前記シリンダーの後方に配置されたブリーザー室と、を備え、前記バランサー機構は、前記クランクシャフトから伝達される動力で回転するアイドラーギヤと、前記アイドラーギヤを前記クランクケースに回転自在に支える一対のアイドラー軸受部と、前記アイドラーギヤよりも前記シリンダーボアから遠い位置に配置され、かつ前記アイドラーギヤから伝達される動力で回転するバランサーと、前記バランサーを前記クランクケースに回転自在に支える一対のバランサー軸受部であって、当該一対のバランサー軸受部の少なくとも一方は、前記一対のアイドラー軸受部に対して前記クランクシャフトの回転中心軸に沿う方向へオフセットしているバランサー軸受部と、を備え、前記ブリーザー室は、前記クランクケースの側面視において前記バランサーに重なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内燃機関の振動を低減させるバランサー機構を備える一方で、シリンダーの後方側の壁部の厚肉化を回避して、軽量化可能な内燃機関を提供できる。さらに、バランサーとブリーザー室とを集約して配置し、コンパクトに纏めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関が適用される車両の一例における左側面図。
【
図2】本発明の実施形態に係る内燃機関の左側面図。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両の部分的な左側面図。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両の部分的な平面図。
【
図6】本発明の実施形態に係る内燃機関の潤滑系統の模式図。
【
図7】本発明の実施形態に係る内燃機関の潤滑系統の部分的な斜視図。
【
図8】本発明の実施形態に係る内燃機関の潤滑系統の部分的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る内燃機関の実施形態について
図1から
図8を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号が付されている。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関が適用される車両の一例における左側面図である。
【0013】
なお、本実施形態における前後、上下、左右の表現は、車両の乗員を基準にする。内燃機関についても同様であり、車両の搭載状態を基準にする。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る車両は、例えば鞍乗型であり、自動二輪車1である。本実施形態に係る自動二輪車1は、前後に延びる車体フレーム2と、車体フレーム2の前方に配置される前輪5と、車体フレーム2の前端部に配置されて前輪5を回転可能に支えるステアリング機構6と、車体フレーム2の後方に配置される後輪7と、車体フレーム2の後部に配置されて後輪7を回転可能に支えるスイングアーム8と、車体フレーム2に搭載される内燃機関としてのエンジン9と、を備えている。
【0015】
また、自動二輪車1は、エンジン9に吸い込まれる空気を浄化し、所要の流量の混合気をエンジン9に供給する吸気系統11と、エンジン9へ供給される燃料を貯蔵する燃料タンク12と、搭乗者が着座可能なシート13と、車体フレーム2の少なくとも一部を覆い隠すカウリング15と、を備えている。
【0016】
さらに、自動二輪車1は、前輪5の回転を制動させる前輪ブレーキ16と、後輪7の回転を制動させる後輪ブレーキ17と、前輪ブレーキ16および後輪ブレーキ17のロックを抑制するアンチロック・ブレーキ・システム18と、を備えている。
【0017】
車体フレーム2は、例えばクレードルフレームであり、前端部に配置されるステアリングヘッドパイプ21と、ステアリングヘッドパイプ21の直後で左右へ分岐し後方へ延びる左右一対のメインフレーム22と、メインフレーム22の後端部に連結されて後ろ上方へなだらかに延びる左右一対のシートレール23と、を備えている。
【0018】
ステアリングヘッドパイプ21は、ステアリング機構6を操舵可能に支持している。ステアリングヘッドパイプ21はステアリング機構6の回転中心であり、ステアリング機構6を車体フレーム2に支えている。
【0019】
左右のメインフレーム22は、屈曲している。つまり、左右のメインフレーム22は、ステアリングヘッドパイプ21の直後で左右へ分岐してエンジン9の横幅と同程度に離間して、車両後方へなだらかに下る長尺な直線部分と、直線部分に連接され、かつ下方へ延びる短尺な直線部分と、を備えている。左右のメインフレーム22は、長尺な直線部分の下方かつ短尺な直線部分の前方に配置されるエンジン9を抱え込むように支持している。左右のメインフレーム22は、長尺な直線部分の前半部の上方にエアークリーナー25を支え、長尺な直線部分の後半部の上方に燃料タンク12を支え、短尺な直線部分の間に車幅方向へ延びるピボット軸26を支えている。ピボット軸26は、スイングアーム8を揺動可能に支持している。
【0020】
エンジン9は、前輪5の後方かつメインフレーム22の下方にあり、自動二輪車1の中央下部を占める。エンジン9は、自動二輪車1の車幅方向に並ぶ複数、例えば4つのシリンダ(気筒、図示省略)を備えている。つまり、エンジン9は、並列多気筒エンジンであり、例えば並列4気筒エンジンである。
【0021】
エンジン9の吸気系統11は、エンジン9に吸い込まれる空気を浄化するエアークリーナー25と、エアークリーナー25を通過した清浄な空気に燃料を噴射して混合気にし、かつエンジン9に供給される吸気(混合気)の流量を変化させるスロットルボディ27と、を備えている。
【0022】
エアークリーナー25は、車体フレーム2の前半部上方に配置されている。エアークリーナー25は、スロットルボディ27を介してエンジン9の吸気側に接続されている。エアークリーナー25は、吸気を濾過して清浄にする。エアークリーナー25は、左右のメインフレーム22の間に挟まれている。
【0023】
スロットルボディ27は、エアークリーナー25とエンジン9との間に設けられている。エンジン9に供給される吸気の流れにおいて、スロットルボディ27の上流側にはエアークリーナー25が接続され、スロットルボディ27の下流側にはエンジン9が接続されている。
【0024】
燃料タンク12は、車体フレーム2の前半部上方であって、エアークリーナー25の後方に配置されている。
【0025】
ステアリング機構6は、ステアリングヘッドパイプ21を貫く、ステアリング機構6の回転中心であるステアリングシャフト(図示省略)と、上下に延びる左右一対のフロントフォーク28と、それぞれのフロントフォーク28の上端部に接続されて車両の左右それぞれの外側へ向かって延びるハンドルバー29と、を備えている。
【0026】
ハンドルバー29は、ライダーが握るハンドルグリップ31を備えている。右側のハンドルグリップ31は、スロットルグリップである。スロットルグリップの捻り操作量は、スロットルボディ27(詳しくはスロットルバルブ)の開度を変化させ、ひいてはエンジン9の出力を変化させる。
【0027】
スイングアーム8の前端部は、ピボット軸26によって車体フレーム2に揺動自在に連結されている。スイングアーム8の後端部は、後輪7を回転自在に支えている。リヤクッションユニット33は、スイングアーム8と車体フレーム2との間に架け渡されている。リヤクッションユニット33は、後輪7から車体フレーム2に伝わる力を緩衝する。
【0028】
後輪7は、ドリブンスプロケット35を備えている。ドライブチェーン36は、ドリブンスプロケット35に巻掛かり、エンジン9から後輪7へ駆動力を伝達する。
【0029】
シート13は、車体フレーム2の後半部上方に配置されている。
【0030】
カウリング15は、自動二輪車1は、例えば、車体の前部から中央下部にかけて車体フレーム2を覆い隠している。カウリング15は、自動二輪車1の走行中の空気抵抗を低減するとともに、走行風圧から搭乗者を保護するよう流線形状を有している。カウリング15は、車両の前部を覆うフロントカバー41と、エンジン9の側方を覆う左右一対のサイドカバー42と、エアークリーナー25および燃料タンク12を覆うエアクリーナカバー43と、シート13を支えるとともに車両の後方を覆うリアカバー45と、を含んでいる。
【0031】
前輪ブレーキ16は、右側のハンドルグリップ31に併設されている前ブレーキレバー(図示省略)が握り操作されると、前輪5にブレーキを掛ける。前輪ブレーキ16は、前ブレーキレバーの操作が解除されると、前輪5のブレーキを解く。
【0032】
後輪ブレーキ17は、右側の足置き(図示省略)に併設されている後ろブレーキレバー(図示省略)が踏み付け操作されると、後輪7にブレーキを掛ける。後輪ブレーキ17は、後ろブレーキレバーの操作が解除されると、後輪7のブレーキを解く。
【0033】
アンチロック・ブレーキ・システム18は、燃料タンク12とエンジン9との間の空間に配置されている。アンチロック・ブレーキ・システム18は、自動二輪車1の走行状態に応じて制動力を調節する。例えば、アンチロック・ブレーキ・システム18は、車速と後輪7または前輪5の回転速度との差を検出し、この差が増大してスリップの発生が予想されるときには、前輪ブレーキ16の制動力および後輪ブレーキ17の制動力を緩めてスリップを回避する。
【0034】
次に、本実施形態に係るエンジン9について詳細に説明する。
【0035】
図2は、本発明の実施形態に係る内燃機関の左側面図である。
【0036】
図2に示すように、本実施形態に係るエンジン9は、クランクケース51と、シリンダー52と、シリンダーヘッド53と、ヘッドカバー55と、オイルパン56と、を備える。
【0037】
クランクケース51には、ミッションケースが一体化されている。クランクケース51の前半部分にはクランク室61が区画され、クランクケース51の後半部分にはミッション室62が区画されている。クランク室61は、クランクシャフト63を回転自在に収容し、ミッション室62は、変速装置65を収容している。クランク室61、およびミッション室62は、エンジン9の前後方向に併設されている。クランク室61、およびミッション室62は、クランクケース51内の隔壁を隔てて隣り合う。
【0038】
また、クランクケース51には、バランサー機構66が収容されている。バランサー機構66は、クランクケース51内に設けられている。バランサー機構66は、クランクシャフト63から伝達される動力でクランクシャフト63の周期的な回転振動を低減させる。
【0039】
さらに、クランクケース51にはブリーザー室67が設けられている。ブリーザー室67は、クランクケース51の上面、かつシリンダー52の後方に配置されている。ブリーザー室67は、クランクケース51内のブローバイガスを気液分離する。
【0040】
クランクケース51は、上半体としてのアッパーケース68と、下半体としてのロアーケース69と、を備えている。アッパーケース68とロアーケース69とは、協働してクランク室61とミッション室62とを区画している。アッパーケース68とロアーケース69とは結合面51aで組み合わされている。結合面51aはクランクシャフト63の回転中心線、変速装置65の入力軸71(カウンターシャフト71)の回転中心線、および変速装置65の出力軸72(ドライブシャフト72)の回転中心線を通る。なお、シリンダー52とアッパーケース68とは、一体化された、いわゆるシリンダーブロックであっても良い。
【0041】
シリンダー52は、クランクケース51の上面の前端部に設けられている。シリンダー52は、直立よりやや前傾している。換言すると、シリンダー52は、その頂部側(ヘッドカバー55側)がその底部側(クランクケース51側)より前側になるよう傾いている。シリンダー52はエンジン9の幅方向に一列に並ぶ複数のシリンダーボア73を有している。全てのシリンダーボア73の中心線は、実質的に同一平面に配置されている。それぞれのシリンダーボア73には、ピストン74が収容されている。それぞれのピストン74は、シリンダーボア73内に、クランクシャフト63に対して遠近方向(つまり、クランクシャフト63の径方向)へ往復移動可能に収容されている。シリンダーボア73の中心線、つまりピストン74の往復移動方向は、シリンダー52同様に、やや前傾している。
【0042】
シリンダーヘッド53は、シリンダーボア73の上方を塞ぎ、ピストン74との間に燃焼室(図示省略)を区画している。エンジン9は、燃焼室内で混合気を周期的に燃焼させることによってピストン74を往復運動させる。
【0043】
クランクシャフト63は、結合面51aでアッパーケース68とロアーケース69との間に挟み込まれて回転自在に支持されている。クランクシャフト63は、エンジン9の幅方向に延びている。換言すると、クランクシャフト63の回転中心線は、エンジン9の幅方向に延びている。クランクシャフト63は、結合面51aとシリンダーボア73の中心線の延長線とが交わる位置、またはその近傍にある。クランクシャフト63は、コンロッドを介してピストン74に連結されている。クランクシャフト63は、ピストン74の往復運動を回転運動に変換する。
【0044】
変速装置65は、クランクシャフト63の回転を変速して出力する。変速装置65は、いわゆるドグクラッチ式マニュアルトランスミッションである。変速装置65は、クランクシャフト63に接続される入力側のカウンターシャフト71と、出力側のドライブシャフト72と、カウンターシャフト71からドライブシャフト72へ回転を変速して伝える変速ギヤ75と、シフト機構(図示省略)と、を備えている。
【0045】
カウンターシャフト71、およびドライブシャフト72は、クランクシャフト63に平行に延びている。つまり、カウンターシャフト71、およびドライブシャフト72は、エンジン9の幅方向に延びている。換言すると、カウンターシャフト71の回転中心線、およびドライブシャフト72の回転中心線は、クランクシャフト63の回転中心線に対して平行に配置されている。カウンターシャフト71の回転中心線、およびドライブシャフト72の回転中心線は、エンジン9の幅方向に延びている。
【0046】
カウンターシャフト71は、結合面51aを通る回転中心線を有してクランクシャフト63とドライブシャフト72との間で動力を伝達する。カウンターシャフト71のいずれか一方の端部、例えば右端部には、クラッチ機構(図示省略)が設けられている。クラッチ機構は、プライマリードリブンギヤ(図示省略)を回転一体に支持している。プライマリードリブンギヤは、クランクシャフト63に回転一体に設けられるプライマリードライブギヤ(図示省略)に噛み合わされている。クラッチ機構は、カウンターシャフト71に対してプライマリードリブンギヤを回転一体化、または回転自在化して、クランクシャフト63とカウンターシャフト71との間で動力を伝達し、または動力の伝達を遮断する(解除する)。
【0047】
ドライブシャフト72は、カウンターシャフト71の後方に配置されている。つまり、ドライブシャフト72は、カウンターシャフト71よりもクランクシャフト63から遠い。ドライブシャフト72のいずれか他方の端部、例えば左端部は、ロアーケース69の左側の側壁からミッション室62の外側へ突出している。ミッション室62の外側にあるドライブシャフト72の端部には、ドライブスプロケット(図示省略)が固定されている。ドライブスプロケットには、ドライブチェーン36が巻き掛けられている。ドライブスプロケットは、ドライブチェーン36を介して後輪7へ動力を伝える。
【0048】
変速ギヤ75は、カウンターシャフト71およびドライブシャフト72のそれぞれに設けられて互いに噛み合わされる複数の変速歯車対78を備えている。それぞれの変速歯車対78は、例えば、1速の変速歯車対78aから6速の変速歯車対78fのように、異なる変速比を有している。それぞれの変速歯車対78は、カウンターシャフト71に支持されるカウンターギヤ79と、ドライブシャフト72に支持されるドライブギヤ81と、を有している。それぞれのカウンターギヤ79とそれぞれのカウンターギヤ79とは、常に噛み合わされている。
【0049】
シフト機構は、変速ギヤ75に併設されるドグクラッチを含んでいる。シフト機構は、ドグクラッチを介してカウンターシャフト71からドライブシャフト72へ動力を変速して伝達する変速歯車対78を択一的に選択する。選択された変速歯車対78は、カウンターシャフト71からドライブシャフト72へ動力を変速して伝達し、その他の変速歯車対78は、ドライブギヤ81またはカウンターギヤ79を空転させて動力を伝達しない(動力の伝達を遮断する)。
【0050】
バランサー機構66は、例えば、いわゆる2軸二次バランサーであり、クランクシャフト63の回転にともなう二次振動を抑制する、クランクシャフト63の2倍の回転数で回転する一対の(2軸の)バランサー85、86を備えている。
【0051】
バランサー機構66は、クランクシャフト63の後方に配置され、かつクランクシャフト63から伝達される動力で回転するアイドラーギヤ83と、アイドラーギヤ83の後方に配置され、かつアイドラーギヤ83から伝達される動力で回転する第一バランサー85と、クランクシャフト63の前方に配置され、かつクランクシャフト63から伝達される動力で回転する第二バランサー86と、を備えている。
【0052】
換言すると、一対のバランサー85、86は、クランクシャフト63を間に挟んでクランクシャフト63の前後に配置されている。そして、クランクシャフト63の前方に配置される第二バランサー86は、クランクシャフト63の逆の回転方向へ2倍の回転数で回転し、クランクシャフト63の後方に配置される第一バランサー85は、クランクシャフト63と同じ回転方向へ2倍の回転数で回転する。
【0053】
第一バランサー85、および第二バランサー86は、クランクシャフト63に平行に延びている。つまり、第一バランサー85、および第二バランサー86は、エンジン9の幅方向に延びている。換言すると、アイドラーギヤ83の回転中心線、第一バランサー85の回転中心線、および第二バランサー86の回転中心線は、クランクシャフト63の回転中心線に対して平行に配置されている。アイドラーギヤ83の回転中心線、第一バランサー85の回転中心線、および第二バランサー86の回転中心線は、エンジン9の幅方向に延びている。
【0054】
第一バランサー85は、アイドラーギヤ83よりもシリンダーボア73から遠い位置に配置されている。そして、第一バランサー85の回転中心線は、アイドラーギヤ83の回転中心線よりもシリンダーボア73から遠い位置に配置されている。第一バランサー85の回転中心線は、アイドラーギヤ83よりもシリンダーボア73から遠い位置に配置されている。換言すると、第一バランサー85とアイドラーギヤ83とは、エンジン9の側面視において、シリンダーボア73の中心線に交差する方向、つまりシリンダーボア73から遠ざかる方向へ並んでいる。
【0055】
そして、アイドラーギヤ83および第一バランサー85は、クランクケース51の天井壁51bに沿って配置されている。つまり、アイドラーギヤ83、および第一バランサー85は、クランクケース51の天井壁に隣接している。
【0056】
第一バランサー85の回転中心線は、クランクシャフト63の回転中心線とアイドラーギヤ83の回転中心線とを結ぶ仮想的な線分Laよりも下方に配置されている。第一バランサー85全体が、仮想的な線分Laよりも下方に配置されていればなお良い。
【0057】
クランクケース51の側面視において、第一バランサー85は、ブリーザー室67に重なっている。換言すると、クランクケース51の側面視において、ブリーザー室67は、第一バランサー85に重なっている。この第一バランサー85とブリーザー室67との重なり合いは、一部であっても良いし、全部であっても良い。つまり、第一バランサー85の少なくとも一部が、ブリーザー室67に重なっていても良いし、ブリーザー室67の少なくとも一部が、第一バランサー85に重なっていても良い。
【0058】
図3は、本発明の実施形態に係る内燃機関の平面図である。
【0059】
図3に示すように、本実施形態に係るエンジン9のバランサー機構66は、アイドラーギヤ83をクランクケース51に回転自在に支える一対のアイドラー軸受部87a、87bと、第一バランサー85をクランクケース51に回転自在に支える一対のバランサー軸受部88a、88bと、を備えている。
【0060】
一対のアイドラー軸受部87a、87bおよび一対のバランサー軸受部88a、88bは、クランクケース51に一体に形成されている。
【0061】
左側のバランサー軸受部88aは、いずれのアイドラー軸受部87a、87bに対しても、クランクシャフト63の回転中心線に沿う方向へオフセットしている。また、右側のバランサー軸受部88bも、いずれのアイドラー軸受部87a、87bに対しても、クランクシャフト63の回転中心線に沿う方向へオフセットしている。換言すると、左側のバランサー軸受部88aは、いずれのアイドラー軸受部87a、87bに対しても、クランクシャフト63の回転中心線に沿う方向において揃って並んでいない。また、右側のバランサー軸受部88bも、いずれのアイドラー軸受部87a、87bに対しても、クランクシャフト63の回転中心線に沿う方向において、揃って並んでいない。
【0062】
なお、一対のバランサー軸受部88a、88bの少なくとも一方が、一対のアイドラー軸受部87a、87bに対してクランクシャフト63の回転中心線に沿う方向へオフセットしていれば良い。具体的には、左側のバランサー軸受部88aが、左側のアイドラー軸受部87aに対してオフセットしていれば、右側のバランサー軸受部88bが、右側のアイドラー軸受部87bに対して揃って並んでいても良い。オフセットの方向は、クランクケース51の右方向であっても良いし、クランクケース51の左方向であっても良い。また、右側のバランサー軸受部88bが、右側のアイドラー軸受部87bに対してオフセットしていれば、左側のバランサー軸受部88aが、左側のアイドラー軸受部87aに対して揃って並んでいても良い。オフセットの方向は、クランクケース51の右方向であっても良いし、クランクケース51の左方向であっても良い。
【0063】
これらバランサー軸受部88a、88bとアイドラー軸受部87a、87bとの配置の関係は、アイドラーギヤ83の両方の軸端部と第一バランサー85の両方の軸端部との配置の関係について、同様である。
【0064】
また、第一バランサー85は、アイドラーギヤ83よりクランクケース51の幅寸法における中央に近い。具体的には、第一バランサー85は、クランクケース51の左側寄りに配置されているアイドラーギヤ83よりクランクケース51の幅寸法における中央に近い。
【0065】
ブリーザー室67は、エンジン9の右側に偏倚している。第一バランサー85は、ブリーザー室67の左側に配置されている。
【0066】
右側のバランサー軸受部88bは、ブリーザー室67を区画する壁に一体成形されている。右側のバランサー軸受部88aは、ブリーザー室67の左側壁に一体成形されている。
【0067】
なお、アイドラーギヤ83、第一バランサー85、およびブリーザー室67の配置は、エンジン9の左右に反転していても良い。つまり、第一バランサー85が、クランクケース51の右側寄りに配置されているアイドラーギヤ83よりクランクケース51の中央に近ければ良い。ブリーザー室67が、エンジン9の左側に偏倚していても良く、第一バランサー85が、ブリーザー室67の右側に配置されていても良い。換言すると、ブリーザー室67が、エンジン9の左右いずれか一方側に偏倚していれば良く、第一バランサー85が、ブリーザー室67の左右いずれか他方側に配置されていれば良い。左側のバランサー軸受部88aが、ブリーザー室67を区画する壁に一体成形されていても良い。つまり、一対のバランサー軸受部88a、88bの一方が、ブリーザー室67を区画する壁に一体成形されていれば良い。
【0068】
図4は、本発明の実施形態に係る車両の部分的な左側面図である。
【0069】
図5は、本発明の実施形態に係る車両の部分的な平面図である。
【0070】
図2および
図3に加えて、
図4および
図5に示すように、本実施形態に係る自動二輪車1は、車体フレーム2に支持され、かつ車体フレーム2の平面視において第一バランサー85に重なり(
図5)、車体フレーム2の側面視においてブリーザー室67に重なる(
図4)アンチロック・ブレーキ・システム18を備えている。
【0071】
車体フレーム2の左右のメインフレーム22は、長尺な直線部分の後端部、および短尺な直線部分の上端部で合流し、繋がっている。この左右のメインフレーム22の合流部は、自動二輪車1、および車体フレーム2の前後方向へ延びる中心線C上で連結されている。
【0072】
アンチロック・ブレーキ・システム18は、左側のメインフレーム22の合流部から前方へ延びてエンジン9のクランクケース51の上方、第一バランサー85の上方、シリンダー52の後方、かつブリーザー室67の側方に達しているブラケット89に支持されている。アンチロック・ブレーキ・システム18は、第一バランサー85の真上にあって、アイドラーギヤ83の真上に達している。つまり、アンチロック・ブレーキ・システム18は、車体フレーム2の平面視においてアイドラーギヤ83にも重なっている。
【0073】
車体フレーム2の平面視において、アンチロック・ブレーキ・システム18は、第一バランサー85に重なっている。換言すると、クランクケース51の平面視において、第一バランサー85は、アンチロック・ブレーキ・システム18に重なっている。このアンチロック・ブレーキ・システム18と第一バランサー85との重なり合いは、一部であっても良いし、全部であっても良い。つまり、アンチロック・ブレーキ・システム18の少なくとも一部が、第一バランサー85に重なっていても良いし、ブリーザー室67の少なくとも一部が、第一バランサー85に重なっていても良い。
【0074】
また、車体フレーム2の側面視において、アンチロック・ブレーキ・システム18は、ブリーザー室67に重なっている。換言すると、クランクケース51の側面視において、ブリーザー室67は、アンチロック・ブレーキ・システム18に重なっている。このアンチロック・ブレーキ・システム18とブリーザー室67との重なり合いは、一部であっても良いし、全部であっても良い。つまり、アンチロック・ブレーキ・システム18の少なくとも一部が、ブリーザー室67に重なっていても良いし、ブリーザー室67の少なくとも一部が、アンチロック・ブレーキ・システム18に重なっていても良い。
【0075】
第一バランサー85の回転中心線は、車両搭載状態においてアイドラーギヤ83の上端に接する水平線HLよりも下方に配置されている。第一バランサー85全体が、水平線HLよりも下方に配置されていればなお良い。
【0076】
エンジン9のブリーザー室67は、車体フレーム2の前後方向へ延びる中心線Cより右側に偏倚している。第一バランサー85は、ブリーザー室67の左側に配置されている。
【0077】
なお、アイドラーギヤ83、第一バランサー85、およびブリーザー室67の配置は、車体フレーム2の左右に反転していても良い。つまり、ブリーザー室67が、車体フレーム2の前後方向へ延びる中心線Cより左側に偏倚していても良く、第一バランサー85が、ブリーザー室67の右側に配置されていても良い。換言すると、ブリーザー室67が、車体フレーム2の前後方向へ延びる中心線Cより左右いずれか一方側に偏倚していれば良く、第一バランサー85が、ブリーザー室67の左右いずれか他方側に配置されていれば良い。
【0078】
次いで、エンジン9の潤滑系統91について説明する。
【0079】
図6は、本発明の実施形態に係る内燃機関の潤滑系統の模式図である。
【0080】
図6に示すように、本実施形態に係るエンジン9は、クランクケース51、シリンダー52、およびシリンダーヘッド53に設けられて潤滑油を流通させる潤滑系統91を備えている。
【0081】
また、エンジン9は、クランクケース51の底部に設けられて潤滑油を貯留するオイルパン92を備えている。
【0082】
潤滑系統91は、オイルパン92に貯留されている潤滑油をクランクシャフト63、ピストン74、シリンダーヘッド53に収容される動弁機構93、変速装置65のカウンターシャフト71、および変速装置65のドライブシャフト72を含む被潤滑部へ供給して、これらを潤滑および冷却する。
【0083】
潤滑系統91は、オイルパン92から潤滑油を吸い上げるオイルポンプ95と、オイルポンプ95から吐出される潤滑油を冷却するオイルクーラー96と、オイルポンプ95から吐出される潤滑油およびオイルクーラー96で冷却された潤滑油から異物を除去するオイルフィルター97と、オイルフィルター97で異物の除去された潤滑油が流れ込むメインギャラリー98と、を備えている。
【0084】
オイルクーラー96は、自動二輪車1の走行風に晒されやすいように、フロントフェンダーおよび前輪5を正面に臨む位置を避けて配置されることが好ましい。
【0085】
また、潤滑系統91は、メインギャラリー98から分岐してクランクシャフト63を支えるクランクケース51のジャーナル部99へ潤滑油を供給するメインジャーナル潤滑油通路101と、メインジャーナル潤滑油通路101からクランクシャフト63内の潤滑油通路を経由してクランクピン102へ潤滑油を供給するクランクピン潤滑油通路103と、メインジャーナル潤滑油通路101から分岐してマグネトー105へ潤滑油を供給するマグネトー潤滑油通路106と、を備えている。
【0086】
さらに、潤滑系統91は、メインギャラリー98からサブギャラリー107を経た潤滑油をピストン74へ吹き掛けるピストン冷却油通路108、いわゆるピストンジェットを備えている。
【0087】
また、潤滑系統91は、メインジャーナル潤滑油通路101から分岐してカムチェーンアジャスター109へ潤滑油を供給するアジャスター潤滑油通路111と、アジャスター潤滑油通路111から分岐してシリンダーヘッド53に達し、動弁機構(図示省略)の吸気側カムシャフト112、および排気側カムシャフト113へ潤滑油を供給する動弁機構潤滑油通路115と、を備えている。カムチェーンアジャスター109は、クランクシャフト63から動弁機構の吸気側カムシャフト112、および排気側カムシャフト113へ動力を伝達するカムチェーン(図示省略)の張力を調整する。
【0088】
さらに、潤滑系統91は、メインギャラリー98から分岐して第二バランサー86へ潤滑油を供給するバランサー潤滑油通路121を備えている。
【0089】
図7は、本発明の実施形態に係る内燃機関の潤滑系統の部分的な斜視図である。
【0090】
なお、
図7中の実線矢印Aは、クランクシャフト63の回転中心線に平行な方向である。また、
図7中の実線矢印fは、潤滑系統91における潤滑油の流れの方向を示している。
【0091】
図6および
図7に示すように、本実施形態に係るエンジン9の潤滑系統91は、メインギャラリー98から分岐してアイドラーギヤ83へ潤滑油を供給するアイドラー潤滑油通路122と、アイドラー潤滑油通路122から分岐して変速装置65のカウンターシャフト71へ潤滑油を供給するカウンター潤滑油通路123と、を備えている。カウンター潤滑油通路123は、アイドラー潤滑油通路122と共有する第一共有潤滑油通路125を有している。カウンター潤滑油通路123は、第一共有潤滑油通路125から分岐してカウンターシャフト71へ達している。
【0092】
また、潤滑系統91は、メインギャラリー98から分岐して第一バランサー85へ潤滑油を供給するバランサー潤滑油通路126と、バランサー潤滑油通路126から分岐して変速装置65のドライブシャフト72へ潤滑油を供給するドライブ潤滑油通路127と、を備えている。ドライブ潤滑油通路127は、バランサー潤滑油通路126と共有する第二共有潤滑油通路128を有している。ドライブ潤滑油通路127は、第二共有潤滑油通路128から分岐してドライブシャフト72へ達している。
【0093】
アイドラー潤滑油通路122とバランサー潤滑油通路126とは、別個独立の通路であって、それぞれ個別にメインギャラリー98から分岐している。つまり、アイドラー潤滑油通路122とバランサー潤滑油通路126とは、アイドラー潤滑油通路122がアイドラーギヤ83に達する以前、およびバランサー潤滑油通路126が第一バランサー85に達する以前に合流しない。そして、アイドラー潤滑油通路122は、アイドラーギヤ83の左右いずれか一方の軸端部、例えば右側の軸端部83aへ達し、バランサー潤滑油通路126は、第一バランサー85の左右いずれか一方の軸端部、例えば右側の軸端部85aへ達している。
【0094】
バランサー潤滑油通路126は、クランクケース51の左右いずれか一方の側壁、例えば右側壁51c(
図8)を通っている。換言すると、バランサー潤滑油通路126は、クランクケース51の左右いずれか一方の側壁、例えば右側壁51c内に形成された部位を有している。そして、バランサー潤滑油通路126のうち右側壁51c内に形成された部位は、第二共有潤滑油通路128に相当する。第二共有潤滑油通路128は、クランクケース51の左右いずれかの側壁部のうち、第一バランサー85から遠い側の右側壁51cを通っている。
【0095】
アイドラー潤滑油通路122は、クランクケース51の左右いずれか一方の側壁、もしくはその中間に位置してクランク室61を隔てる壁部のうちいずれか、例えば右側壁51cに隣り合う壁部の内部を通っている。換言すると、アイドラー潤滑油通路122は、クランクケース51の左右いずれか一方の側壁、もしくはその中間に位置してクランク室61を隔てる壁部のうちいずれか、例えば右側壁51cに隣り合う壁部の内部に形成された部位を有している。そして、アイドラー潤滑油通路122のうち側壁または壁部内に形成された部位は、第一共有潤滑油通路125に相当する。
【0096】
アイドラー潤滑油通路122は、クランクケース51のジャーナル部99を通っていてもよい。換言すると、アイドラー潤滑油通路122は、クランクケース51のジャーナル部99に形成された部位を有していてもよい。その場合、アイドラー潤滑油通路122のうちジャーナル部99に形成された部位は、第一共有潤滑油通路125に相当する。
【0097】
そして、第一バランサー85は、アイドラーギヤ83よりも一方の側壁、例えば右側壁51cに近い。つまり、第一バランサー85は、アイドラーギヤ83よりも第二共有潤滑油通路128に近い。
【0098】
カウンター潤滑油通路123は、アイドラー潤滑油通路122から分岐してカウンターシャフト71の左側の軸端部へ達している。
【0099】
ドライブ潤滑油通路127は、バランサー潤滑油通路126から分岐してドライブシャフト72の右側の軸端部へ達している。
【0100】
なお、カウンター潤滑油通路123は、バランサー潤滑油通路126から分岐していても良い。カウンター潤滑油通路123は、第一共有潤滑油通路125をバランサー潤滑油通路126と共有していても良い。また、ドライブ潤滑油通路127は、アイドラー潤滑油通路122から分岐していても良い。つまり、ドライブ潤滑油通路127は、第二共有潤滑油通路128をアイドラー潤滑油通路122と共有していても良い。つまり、潤滑系統91は、アイドラー潤滑油通路122およびバランサー潤滑油通路126のいずれか一方と共有する第一共有潤滑油通路125を有し、かつ第一共有潤滑油通路125から分岐してカウンターシャフト71へ達するカウンター潤滑油通路123と、アイドラー潤滑油通路122およびバランサー潤滑油通路126のいずれか他方と共有する第二共有潤滑油通路128を有し、かつ第二共有潤滑油通路128から分岐してドライブシャフト72へ達するドライブ潤滑油通路127と、を有している。
【0101】
図8は、本発明の実施形態に係る内燃機関の潤滑系統の部分的な断面図である。
【0102】
図8は、第一バランサー85の回転中心線を通る、エンジン9の横断面図である。
図8は、第一バランサー85の回転中心線を通り、かつクランクケース51の結合面51aに直交している。
【0103】
クランクケース51は、第一バランサー85を収容し、ミッション室62に通じるバランサーハウジング129を有している。バランサーハウジング129の左側壁部は、第一バランサー85の左軸端部をハウジングから突出させる貫通孔129aを有している。
【0104】
ブリーザー室67は、アッパーケース68の上面から突出して、上方に開放された空間(つまりブリーザー室67の下半部)を区画する下半部区画壁135と、下半部区画壁135を上方から塞ぐブリーザカバー136と、で区画されている。下半部区画壁135は、アッパーケース68に一体成形されている。ブリーザカバー136は、下半部区画壁135を塞いでアッパーケース68にボルトやねじなどの締結部材(図示省略)で固定されている。
【0105】
バランサーハウジング129とブリーザー室67とは、クランクケース51の幅方向に併設されている。バランサーハウジング129の右側壁は、ブリーザー室67の左側壁に対面している。
【0106】
バランサー軸受部88a、88bの一方、例えば右側のバランサー軸受部88bは、ブリーザー室67を区画する壁に一体成形されている。右側のバランサー軸受部88bは、ブリーザー室67の左側壁に一体成形されている。右側のバランサー軸受部88bは、ブリーザー室67の下半部を区画する下半部区画壁135に一体成形されている。
【0107】
バランサー潤滑油通路126は、クランクケース51の平面視においてブリーザー室67を横切って第一バランサー85へ達している。換言すると、ブリーザー室67は、エンジン9の幅方向(エンジン9の左右方向、クランクシャフト63の回転中心線方向)において、ドライブ潤滑油通路127およびバランサー潤滑油通路126で共有される第二共有潤滑油通路128と第一バランサー85との間に挟まれている。
【0108】
バランサー潤滑油通路126は、ブリーザー室67の底壁67a内を通っている。バランサー潤滑油通路126は、ブリーザー室67の底壁67a内を通って、ブリーザー室67の左側壁67b内で立上り、この立上り部分で右側のバランサー軸受部88bに沿い、第一バランサー85の右側の軸端部へ達している。
【0109】
第一バランサー85は、カウンターギヤ79の真上に配置されている。なお、第一バランサー85は、ドライブギヤ81の真上に配置されていても良いし、カウンターギヤ79およびドライブギヤ81の両方の真上に跨がっていても良い。換言すると、第一バランサー85は、カウンターギヤ79およびドライブギヤ81の少なくとも一方の真上に配置されていれば良い。
【0110】
第一バランサー85は、バランサーハウジング129から突出してミッション室62内に侵入している。つまり、第一バランサー85は、バランサーハウジング129の下端面としての仮想面Pから突出してミッション室62内に侵入している。
【0111】
第一バランサー85のウェイト138は、変速ギヤ75のうち高段側の変速段の真上に配置されている。ウェイト138は、第一バランサー85の径方向外側へ延びている。ウェイト138は、例えば、第1速から第6速まで変速可能な6段変速の変速装置65において、第4速から第6速の変速歯車対78の真上に配置されている。なおウェイト138に代えてバランサーギヤ139が変速ギヤ75のうち高段側の変速段の真上に配置されていても良い。
【0112】
本実施形態に係るエンジン9は、アイドラーギヤ83と、アイドラーギヤ83をクランクケース51に回転自在に支える一対のアイドラー軸受部87aと、アイドラーギヤ83よりもシリンダーボア73から遠い位置に配置される第一バランサー85と、第一バランサー85をクランクケース51に回転自在に支える一対のバランサー軸受部88aと、を備えている。そして、一対のバランサー軸受部88aの少なくとも一方は、一対のアイドラー軸受部87aに対してクランクシャフト63の回転中心線に沿う方向へオフセットしている。そのため、エンジン9のバランサー軸受部88aとアイドラー軸受部87aとの間には、エンジン9の幅方向へ離間距離が確保される。この離間距離は、第一バランサー85の駆動によって生じ、バランサー軸受部88aからアイドラー軸受部87aやクランクケース51のジャーナル部99へ伝達される負荷荷重を、広く分散させる。したがって、アイドラー軸受部87aやジャーナル部99における負荷の集中が緩和され、クランクケース51の結合面51aや、クランクケース51とシリンダー52との結合面における負荷の集中が緩和される。そして、これら結合面における、面圧の低下や、局所的に集中する応力の発生が抑制され、エンジン9の性能が良好に保たれる。
【0113】
また、本実施形態に係るエンジン9は、アイドラーギヤ83よりクランクケース51の幅寸法における中央に近い第一バランサー85を備えている。そのため、エンジン9は、第一バランサー85に誓約されることなく、ミッション室62の幅寸法を、変速装置65に必要な最小限度に抑えて、クランクケース51の小型化、特にクランクケース51後半部の小型化(狭幅化)を図ることができる。クランクケース51の小型化は、エンジン9の幅方向における重量バランスを良好にする。つまり、エンジン9は、自動二輪車1のような鞍乗型の車両に搭載した場合、車体の左右方向の重量バランスを良好にして、操縦の安定性に寄与する。
【0114】
さらに、本実施形態に係るエンジン9は、クランクケース51の上面に設けられ、かつシリンダー52の後方に配置されて、クランクケース51の側面視において第一バランサー85に重なるブリーザー室67を備えている。つまり、エンジン9の第一バランサー85とブリーザー室67とは集約して配置され、コンパクトに纏められる。
【0115】
また、本実施形態に係るエンジン9は、ブリーザー室67を区画する壁に一体成形されるバランサー軸受部88aを備えている。そのため、エンジン9は、バランサー軸受部88aが負担する負荷をブリーザー室67と分担して、クランクケース51のシリンダー52近傍に及ぶ負荷を一層緩和する。
【0116】
したがって、本実施形態に係るエンジン9は、エンジン9の振動を低減させるバランサー機構66を備える一方で、シリンダー52の後方側の壁部の厚肉化を回避して、軽量化できる。
【0117】
なお、本実施形態に係るエンジン9が搭載される車両は、自動二輪車1に限られず、鞍乗型の三輪車、四輪車等の各種車両であっても良い。
【符号の説明】
【0118】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、5…前輪、6…ステアリング機構、7…後輪、8…スイングアーム、9…エンジン、11…吸気系統、12…燃料タンク、13…シート、15…カウリング、16…前輪ブレーキ、17…後輪ブレーキ、18…システム、21…ステアリングヘッドパイプ、22…メインフレーム、23…シートレール、25…エアークリーナー、26…ピボット軸、27…スロットルボディ、28…フロントフォーク、29…ハンドルバー、31…ハンドルグリップ、33…リヤクッションユニット、35…ドリブンスプロケット、36…ドライブチェーン、41…フロントカバー、42…サイドカバー、43…エアクリーナカバー、45…リアカバー、51…クランクケース、51a…結合面、51b…天井壁、51c…右側壁、52…シリンダー、53…シリンダーヘッド、55…ヘッドカバー、56…オイルパン、61…クランク室、62…ミッション室、63…クランクシャフト、65…変速装置、66…バランサー機構、67…ブリーザー室、67a…底壁、67b…左側壁、68…アッパーケース、69…ロアーケース、71…入力軸、カウンターシャフト、72…出力軸、ドライブシャフト、73…シリンダーボア、74…ピストン、75…変速ギヤ、78…変速歯車対、79…カウンターギヤ、81…ドライブギヤ、83…アイドラーギヤ、83a…軸端部、85…第一バランサー、85a…軸端部、86…第二バランサー、87a、87b…アイドラー軸受部、88a、88b…バランサー軸受部、89…ブラケット、91…潤滑系統、92…オイルパン、93…動弁機構、95…オイルポンプ、96…オイルクーラー、97…オイルフィルター、98…メインギャラリー、99…ジャーナル部、101…メインジャーナル潤滑油通路、102…クランクピン、103…クランクピン潤滑油通路、105…マグネトー、106…マグネトー潤滑油通路、107…サブギャラリー、108…ピストン冷却油通路、109…カムチェーンアジャスター、111…アジャスター潤滑油通路、112…吸気側カムシャフト、113…排気側カムシャフト、115…動弁機構潤滑油通路、121…バランサー潤滑油通路、122…アイドラー潤滑油通路、123…カウンター潤滑油通路、125…第一共有潤滑油通路、126…バランサー潤滑油通路、127…ドライブ潤滑油通路、128…第二共有潤滑油通路、129…バランサーハウジング、129a…貫通孔、131…スターターモーター、135…下半部区画壁、136…ブリーザカバー、138…ウェイト、139…バランサーギヤ。