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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】澱粉含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20221012BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20221012BHJP
   A21D 2/24 20060101ALI20221012BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20221012BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20221012BHJP
   A23G 3/36 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A23L5/00 N
A23L5/00 K
A21D2/14
A21D2/24
A23L7/109 C
A23L7/10 E
A23G3/36
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018113573
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019213507
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】山田 律彰
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-132347(JP,A)
【文献】特開2015-213434(JP,A)
【文献】特開平10-337161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D,A23G,A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグルタミン酸及び/又はその塩、アルギニン及び/又はその塩ならびにエタノール、プロパノール及びブタノールより選ばれる1つ以上の粉末化されたアルコールを配合することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法。
【請求項2】
澱粉含有食品が、ベーカリー類、菓子類、麺類又は米飯類である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリグルタミン酸及び/又はその塩の平均分子量が50万~200万である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ポリグルタミン酸及び/又はその塩の配合量が、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03~2%である、請求項1乃至記載の方法。
【請求項5】
アルギニン及び/又はその塩の配合量が、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03~3%である、請求項1乃至記載の方法。
【請求項6】
アルコールの配合量が、澱粉含有食品の澱粉に対し0.01~5%である、請求項乃至記載の方法。
【請求項7】
ポリグルタミン酸及び/又はその塩、アルギニン及び/又はその塩ならびにエタノール、プロパノール及びブタノールより選ばれる1つ以上のアルコールを配合することを特徴とする澱粉含有食品の老化抑制方法。
【請求項8】
配合するアルコールが、粉末化されたアルコールである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ポリグルタミン酸及び/又はその塩、アルギニン及び/又はその塩ならびにエタノール、プロパノール及びブタノールより選ばれる1つ以上の粉末化されたアルコールを配合することを特徴とする澱粉含有食品。
【請求項10】
ポリグルタミン酸及び/又はその塩、アルギニン及び/又はその塩ならびにエタノール、プロパノール及びブタノールより選ばれる1つ以上のアルコールを配合することを特徴とする澱粉含有食品用の老化抑制剤。
【請求項11】
配合するアルコールが、粉末化されたアルコールである、請求項10記載の老化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグルタミン酸及びアルギニンを配合することを特徴とする、澱粉含有食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α化した澱粉を常温や低温で放置すると、水分を分離し硬くなる。この現象を老化と言い、澱粉の老化現象については数多くの研究がなされている。一般に澱粉の老化を抑制するためには、温度を80℃以上に保つか、急速に乾燥させて水分を15%以下にする、pH13以上のアルカリ性に保つことが必要である。また、老化を抑制する方法として、澱粉含有食品への糖類(ブドウ糖、果糖、液糖等)や大豆タンパク、小麦グルテン、脂肪酸エステル、多糖類(山芋、こんにゃく等)の添加が一般に知られており、特許文献1には増粘剤、界面活性剤等を添加する方法が記載されている。しかし、これらの方法では食味が大きく変化し、また効果も不安定で十分な解決法とはなっていない。
【0003】
近年は、老化耐性の強い加工澱粉の使用や澱粉の加工法の工夫により、澱粉含有食品の老化を抑制する手段も多く利用されている。例えば特許文献2には、澱粉スラリーを油脂の共存下で加熱してなる油脂分離度が50%以下および付着度が5%以下である油脂α 化澱粉を配合する方法が記載されており、一定の効果が得られるものの、老化抑制期間には限界があった。
【0004】
また、澱粉の老化抑制手段として、酵素を添加する方法も従来より知られている。例えば、特許文献3には、精白米にアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素と、食塩及びサイクロデキストリンを混合して炊飯する米飯の改良方法が記載されている。特許文献4には、炊飯後の米飯に糖化型アミラーゼ(β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ)の水溶液を噴霧添加する米飯の老化抑制方法が記載されている。いずれも一定の効果は確認されるものの、目ざましい効果は得られていなかった。近年では、トランスグルタミナーゼ、α-グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼを用いた米飯食品の製造方法(特許文献5)が知られており、米飯の老化抑制に対して非常に高い効果を示すが、特定の酵素を必須の要件としている。
【0005】
麺類に対する老化抑制方法としては、トランスグルタミナーゼを使用する方法(特許文献6、7)、トランスグルタミナーゼとトランスグルコシダーゼを併用する方法(特許文献8)等が知られており、特に後者は比較的好ましい食感を維持することができるが、いずれもトランスグルタミナーゼを必須の要件としている。
【0006】
ポリグルタミン酸を使用した澱粉含有食品の物性改質技術としては、ポリグルタミン酸を含有する卵白気泡安定化剤を小麦加工品等に利用する方法が知られているが(特許文献9)、スポンジケーキに膨化性やしっとり感を付与する効果を有するものの、老化抑制効果に関する記載はない。また、特許文献10には、ベーカリーにポリグルタミン酸を含有することで、膨化性、食感、老化抑制に寄与する旨の記載があるが、澱粉老化抑制効果に特化した知見ではなく、特に好ましいとされる分子量も本報とは異なる。また、澱粉老化抑制効果を高めるための、他成分との併用に関する記載も一切なく、膨化性や食感における効果は大きいものの、長時間保管時の澱粉老化抑制効果には限界があった。
【0007】
アルギニンを使用した澱粉含有食品の物性改質技術としては、中華麺にアルギニンを配合することで茹で伸びを抑制する方法(特許文献11)、シリアルにアルギニンを配合することでサクサク感を付与する方法(特許文献12)が知られているが、いずれも澱粉老化抑制効果に関する記載はない。
【0008】
アルコールを使用した澱粉含有食品の物性改質技術としては、水の一部をエタノールに代替することによる澱粉配合ソース類の老化抑制方法(特許文献13)、ベーカリーに焼成後アルコールを注入することによるソフト感維持方法(特許文献14)等が知られているが、ポリグルタミン酸やアルギニンとの併用に関する記載はなく、これらを組み合わせて澱粉含有食品の物性改質に用いた例は未だ報告されていない。
【0009】
このように、澱粉含有食品の物性改質方法、老化抑制技術に関しては多くの知見が報告されているが、ポリグルタミン酸とアルギニンを有効成分として併用した例はなく、これらの組み合わせによる効果が単純な相加効果ではないことは容易に想像し得るものではなかった。とりわけ、これらの組み合わせにより、澱粉含有食品の老化が低温保管時や長時間保管時にも顕著に抑制できることは、容易に想像し得るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭59-2664号公報
【文献】特開2005-52096号公報
【文献】特開昭58-86050号公報
【文献】特開昭60-199355号公報
【文献】特許第5582308号
【文献】特開平2-286054号公報
【文献】特開平6-14733号公報
【文献】特許第4862759号
【文献】特許第4664241号
【文献】特開平1-132331号公報
【文献】特開2015-213434号公報
【文献】特開2015-109807号公報
【文献】特開昭62-138172号公報
【文献】特開2017-143828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、老化の抑制された澱粉含有食品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、ポリグルタミン酸及びアルギニンを用いて澱粉含有食品を製造することにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ポリグルタミン酸及び/又はその塩と、アルギニン及び/又はその塩を配合することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法。
(2)更にエタノール、プロパノール、ブタノールより選ばれる1つ以上のアルコールを配合することを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)配合するアルコールが、粉末化されたアルコールである、(2)記載の方法。
(4)澱粉含有食品が、ベーカリー類、菓子類、麺類、米飯類である、(1)乃至(3)記載の方法。
(5)ポリグルタミン酸及び/又はその塩の平均分子量が50万~200万である、(1)乃至(4)記載の方法。
(6)ポリグルタミン酸及び/又はその塩の配合量が、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03~2%である、(1)乃至(5)記載の方法。
(7)アルギニン及び/又はその塩の配合量が、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03~3%である、(1)乃至(6)記載の方法。
(8)アルコールの配合量が、澱粉含有食品の澱粉に対し0.01~5%である、(2)乃至(7)記載の方法。
(9)ポリグルタミン酸及び/又はその塩と、アルギニン及び/又はその塩を配合することを特徴とする澱粉含有食品の老化抑制方法。
(10)ポリグルタミン酸及び/又はその塩と、アルギニン及び/又はその塩を配合することを特徴とする澱粉含有食品。
(11)ポリグルタミン酸及び/又はその塩と、アルギニン及び/又はその塩を配合することを特徴とする澱粉含有食品用の老化抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、澱粉含有食品の製造時に配合するだけで、澱粉の老化の抑制された澱粉含有食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による澱粉含有食品の製造方法には、ポリグルタミン酸及びアルギニン、場合によりアルコールを用いる。本発明に用いるポリグルタミン酸は、グルタミン酸のγ位のカルボキシル基とα位のアミノ基がペプチド結合を形成して重合したポリペプチドの一種である。本発明に用いられるポリグルタミン酸は、ポリグルタミン酸またはその塩を意味する。ポリグルタミン酸は一般にナトリウム塩として得られるが、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等、いかなる塩でもよく、フリーのポリグルタミン酸でも構わない。本発明において使用するポリグルタミン酸の平均分子量は、いかなる分子量であっても構わないが、50万~200万であることがより好ましい。ポリグルタミン酸の平均分子量は、例えば光散乱法により測定される。本発明に用いられるポリグルタミン酸は、納豆の粘質物中のポリグルタミン酸を抽出して用いてもよく、納豆菌等のバチリス属の菌体外に分泌するポリグルタミン酸を用いてもよい。また、納豆粘質物中の、あるいは納豆菌が同時に分泌するレバンを含んでいても何ら支障がない。また、所定の分子量のポリグルタミン酸を得るには、当該分子量より大きいポリグルタミン酸を酸あるいはγ結合を分解する腸内には存在しない特殊な酵素により低分子化する方法と、納豆菌等の培養により当該分子量のγ-ポリグルタミン酸を分泌させる方法があるが、どちらのポリグルタミン酸を用いても何ら影響しない。本発明に用いるポリグルタミン酸の例として、明治フードマテリア社より市販されている「明治ポリグルタミン酸」が挙げられる。
【0015】
本発明に用いるアルギニンは、フリーのアルギニンの他、アルギニンの塩でもよく、その例としては、アルギニングルタミン酸塩、アルギニン塩酸塩、アルギニン酢酸塩、アルギニン酪酸塩、アルギニン硫酸塩等が挙げられ、その他いかなる塩でもよく、それらの組み合わせでも構わない。L体、D体、それらの混合物でもよい。また、本発明で用いるアルギニンもしくはその塩は、醗酵法、抽出法等いかなる方法で製造されたものでも構わない。尚、味の素社より市販されている「L-アルギニン」がその一例である。
【0016】
本発明に用いるアルコールは、食用に用いられるものであれば制限はないが、特にエタノール、プロパノール、ブタノールのいずれかが食品への使用適性の点で好ましい。本発明に用いるアルコールの濃度はいかなる濃度でもよいが、澱粉老化抑制効果の点で澱粉含有食品中の澱粉に対し0.01%~5%が好ましい。また、これらを含有する酒類でも構わない。アルコールの性状は、液体、粉末、固体、ペースト状等、いかなる性状でも構わないが、液体又は粉末が一般的であり、生地への練り込みを要する澱粉含有食品の製造においては、特に粉末が好ましい。尚、佐藤食品工業社より市販されている「粉末酒」がその一例である。
【0017】
本発明の澱粉含有食品とは、澱粉質を含有するいかなる食品でもよく、澱粉質を多く含有する小麦や米等を原料として用いる食品や、生澱粉や加工澱粉等の澱粉そのものを配合する食品等、様々なものが考えられるが、市場の大きさやニーズ等と照合すると、ベーカリー類、菓子類(和菓子、洋菓子を含む)、麺類(麺帯類を含む)、米飯類に作用させるのが特に有効である。
【0018】
本発明の澱粉含有食品の製造において、ポリグルタミン酸及びアルギニンを使用するが、これらを添加するタイミングは、澱粉含有食品の製造工程中のいかなるタイミングでもよい。例えば、麺類の場合、小麦粉等の粉原料に添加混合してもよく、食塩水に添加溶解してから粉原料と混合しても構わない。ポリグルタミン酸の添加量は、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03%~2%が好ましい。
【0019】
澱粉含有食品の製造において、ポリグルタミン酸及びアルギニンを用いる場合、アルギニンの添加量は、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03%~3%が好ましい。尚、アルギニン塩を使用する場合は、アルギニン換算で澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03%~3%が好ましい。アルギニン換算とは、アルギニン塩の重量にアルギニンの分子量を乗じ、アルギニン塩の分子量で除した値を意味する。例えば、アルギニン塩酸塩(分子量210.66)の場合、アルギニン塩酸塩1gのアルギニン換算は、1g×174.20÷210.66=0.83gとなる。
【0020】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、この実施例により何ら限定されない。
【実施例1】
【0021】
卓上ミキサー「KitchenAidスタンドミキサー」(KitchenAid社製)に、表1に示す配合にて原料を投入し、1速3分、2速3分の順に合計6分間混合した。得られた生地を11gの球形に成形し、スチームコンベクションオーブン「コンビオーブンSelf Cooking Center」(フジマック社製)にて180℃で9分間焼成し、ポンデケージョを得た。試験区は、表2に示す8試験区とし、各平均分子量のポリグルタミン酸を、卓上ミキサーに他の原料と共に投入し、ポンデケージョを試作した。各平均分子量のポリグルタミン酸は、分子量の異なる各社のポリグルタミン酸、及びそれらの組み合わせにより調製した。「カルテイク」(味の素社製)、「明治ポリグルタミン酸」(明治フードマテリア社製)、「ポリグルタミン酸」(ヤクルト薬品工業社製)がその例である。ポンデケージョは、焼成後10分間室温にて放冷した後、直ちに-20℃で冷凍した。完全に凍結させた後、5℃にて24時間緩慢解凍させることで、強制的に澱粉の老化を促進させた。氷結晶生成帯である-1℃~-5℃を時間をかけて通過することで、澱粉の老化が急速に進むことが知られている。緩慢解凍させたポンデケージョは、官能評価に供した。官能評価は、食感に着目して澱粉の老化状態を評価し、無添加区(試験区1)を0点、緩慢解凍ではなく常温にて急速解凍した老化の進んでいないサンプルを10点とした評点法にて、4名のパネルにて行った。急速解凍したサンプルは、ソフトでしっとりしていてもちもちとした食感であり、緩慢解凍したサンプルは、老化が進むことで、硬くパサパサとした乾いた感じの食感になる。評点は、10点が「全く老化していない」、9点以上が「ほとんど老化していない」、7点以上が「極めて顕著に老化が抑制されている」、5点以上が「顕著に老化が抑制されている」、3点以上が「老化が抑制されている」、1点以上が「わずかに老化が抑制されている」、0点以上が「全く又はほとんど老化が抑制されていない」と定義した。結果を表2に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示す通り、ポリグルタミン酸を添加することにより老化抑制効果が確認され、平均分子量の大きいポリグルタミン酸の方が当該効果は大きかった。特に、平均分子量50万以上において老化抑制効果が明確に確認され(官能評点3点以上)、現実的には平均分子量50万~200万が好ましいと考えられた。
【実施例2】
【0025】
実施例1と同様の方法にて、ポンデケージョを試作した。試験区は、表3に示す12試験区とし、ポリグルタミン酸は卓上ミキサーに他の原料と共に投入した。ポリグルタミン酸は、平均分子量が約100万の「明治ポリグルタミン酸」(明治フードマテリア社製)を用いた。得られたポンデケージョは、実施例1と同様に、凍結及び緩慢解凍を経て、官能評価に供した。官能評価方法及び官能評点の定義は、実施例1と同様とした。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
表3に示す通り、ポリグルタミン酸を添加することにより老化抑制効果が確認され、添加量は少なすぎても多すぎても効果が低く、至適の添加量範囲が存在することが示唆された。ポリグルタミン酸の至適添加量範囲は、澱粉含有食品中の澱粉に対し0.03%~2%であることが確認され(官能評点3点以上)、更に澱粉含有食品中の澱粉に対し0.05%~1.5%がより好ましいことが確認された(官能評点4点以上)。
【実施例3】
【0028】
実施例1と同様の方法にて、ポンデケージョを試作した。試験区は、表4に示す9試験区とし、ポリグルタミン酸及びアルギニンは卓上ミキサーに他の原料と共に投入した。ポリグルタミン酸は実施例2と同様のもの、アルギニンは「L-アルギニン」(味の素社製)を用いた。得られたポンデケージョは、実施例1と同様に、凍結及び緩慢解凍を経て、官能評価に供した。官能評価方法及び官能評点の定義は、実施例1と同様とした。また、ポリグルタミン酸のみを添加した区分、アルギニンのみを添加した区分の結果をもとに、2者併用添加区分の理論上の評点を算出した。例えば表4において、試験区8の場合、ポリグルタミン酸のみ添加時の試験区2の評点が「5.1」、アルギニンのみ添加時の試験区5の評点が「3.0」であり、これらを合計すると「5.1+3.0=8.1」と算出される。よって「8.1」が試験区8の官能評点の理論値である。このように算出した値を用いて、理論値と実際の評点の差を求めた。試験区8の場合、実際の評点が「8.6」、理論値が「8.1」であるため、差は「8.6-8.1=0.5」と算出される。この値がゼロより大きければ理論値より大きな効果、すなわち相乗効果が出ていることを意味する。相乗効果の得られた併用試験区には、相乗効果欄に「○」をつけた。結果を表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
表4の試験区2~試験区7に示す通り、ポリグルタミン酸又はアルギニンを単独で添加することにより、老化抑制効果が確認された。また、両者の併用添加により、極めて顕著な老化抑制効果が確認され、その効果は理論値を上回る相乗的な効果であることが確認された(試験区8~試験区9)。以上の結果の通り、ポリグルタミン酸及びアルギニンを併用することにより、それぞれの単独添加による効果からは容易に想像し得ないレベルの澱粉含有食品に対する老化抑制効果が得られた。
【実施例4】
【0031】
実施例1と同様の方法にて、ポンデケージョを試作した。試験区は、表5に示す22試験区とし、ポリグルタミン酸及びアルギニンは卓上ミキサーに他の原料と共に投入した。ポリグルタミン酸及びアルギニンは、実施例3と同様のものを用いた。得られたポンデケージョは、実施例1と同様に、凍結及び緩慢解凍を経て、官能評価に供した。官能評価方法及び官能評点の定義は、実施例1と同様とした。また、実施例3と同様の方法にて、ポリグルタミン酸及びアルギニン2者併用試験区(試験区13~試験区22)における老化抑制効果が相乗効果であるかについての判定を行い、相乗効果の得られた併用試験区には、相乗効果欄に「○」をつけた。結果を表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
表5の試験区2~試験区12に示す通り、ポリグルタミン酸又はアルギニンを単独で添加することにより、一定の老化抑制効果が得られた。また、両者の併用添加により、顕著な老化抑制効果が確認され、併用添加する際のアルギニンの添加量には至適添加量範囲が存在することが示唆された(試験区13~試験区22)。両者の併用添加により老化抑制効果が相乗効果となるのは試験区15~試験区21であり、併用添加する際のアルギニンの対澱粉添加量が0.03%~3%の範囲において老化抑制効果が相乗効果となることが確認された。更に、0.05%~2%の範囲において、より高い老化抑制効果が得られた。以上の結果より、ポリグルタミン酸及びアルギニンを併用添加する際に、相乗的に極めて顕著な老化抑制効果が得られるアルギニンの対澱粉添加量は、0.03%~3%の範囲、より好ましくは0.05%~2%であることが示された。
【実施例5】
【0034】
実施例1と同様の方法にて、ポンデケージョを試作した。試験区は、表6に示す6試験区とし、ポリグルタミン酸、アルギニン、各種アルコール類は卓上ミキサーに他の原料と共に投入した。ポリグルタミン酸及びアルギニンは、実施例3と同様のものを用いた。エタノール、プロパノール、ブタノールは液状のものを用い、粉末酒は「粉末酒」(佐藤食品工業社製)を用いた。粉末酒のアルコール含量は30%である。得られたポンデケージョは、実施例1と同様に、凍結及び緩慢解凍を経て、官能評価に供した。官能評価方法及び官能評点の定義は、実施例1と同様とした。結果を表6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
表6の試験区2に示す通り、ポリグルタミン酸及びアルギニンを併用添加することで、老化をほぼ抑制することができたが、更に各種アルコールを併用することにより、老化抑制効果を更に高められることが確認された(試験区3~試験区6)。併用するアルコールの種類や性状は問わず、ポリグルタミン酸及びアルギニンとの併用による老化抑制効果を更に高めることができたが、特に炭素数の多いアルコールの方が効果高い傾向にあり、粉末状で添加する方が効果が高い傾向にある。尚、エタノールの炭素数は2、プロパノールの炭素数は3、ブタノールの炭素数は4、粉末酒のアルコール含量は30%でありそのほとんどがエタノールである。また、アルコールの添加量は問わないが、現実的には対澱粉0.01%~5%程度が望ましい。以上より、ポリグルタミン酸及びアルギニンにアルコールを併用することにより、澱粉含有食品の老化をほぼ抑制できることが示された。
【実施例6】
【0037】
実施例1と同様の方法にて、ポンデケージョを試作した。試験区は、表7に示す5試験区とし、ポリグルタミン酸、アルギニン、炭酸ナトリウムは卓上ミキサーに他の原料と共に投入した。ポリグルタミン酸及びアルギニンは、実施例3と同様のものを用いた。炭酸ナトリウムは「精製炭酸ナトリウム(無水)」(大東化学社製)を用いた。得られたポンデケージョは、実施例1と同様に、凍結及び緩慢解凍を経て、官能評価に供した。官能評価方法及び官能評点の定義は、実施例1と同様とした。また、各試験区の混合後の生地(焼成前の生地)について、pH測定を行った。結果を表7に示す。
【0038】
【表7】
【0039】
表7に示す通り、ポリグルタミン酸及びアルギニンを併用した試験区2においては澱粉含有食品の老化がほぼ抑制されたが、試験区1に比べpHも上昇していた。すなわち、試験区1と試験区2の老化抑制効果の差は、単純にpHの上昇によるものである可能性も考えられるため、アルギニンの代わりに炭酸ナトリウムを用いてpHを上げ、効果の比較を行った。その結果、アルギニンを用いた試験区2と同pHである試験区4においては、試験区1と比べ一定の老化抑制効果は得られたものの、アルギニンを用いた試験区2と比べ、効果は明らかに低かった。また、炭酸ナトリウムの添加量を増やしpH更に上げると、老化抑制効果は試験区4と比べ逆に低下した。以上より、ポリグルタミン酸及びアルギニンの併用効果におけるアルギニンの役割は、単純なpHの上昇ではなく、アルギニンならではの効果であることが示唆された。
【実施例7】
【0040】
小麦粉「雀」(日清製粉社製)750g、加工澱粉「あじさい」(松谷化学工業社製)250g、小麦グルテン「AグルG」(グリコ栄養食品社製)20gに、ポリグルタミン酸、アルギニン、粉末酒を添加し100rpmで混練機「2kg真空捏機」(大竹麺機社製)にて1分混合した。試験区は、表8に示す5試験区とした。ポリグルタミン酸及びアルギニンは実施例3と同様のものを用い、粉末酒は実施例5と同様のものを用いた。小麦粉中の澱粉含有量は一般的に約70%であるため、小麦粉750g中の澱粉含有量は525gとなり、加工澱粉250gと合わせた775gが、当該試作系における澱粉含有量となる。表8に示す配合量は、小麦粉と加工澱粉の合計量に対する添加量を意味し、同対澱粉添加量は上述の澱粉含有量775gに対する添加量を意味する。市水410gに食塩30gを加えた食塩水を、上記混合原料に全量加えて、混練機にて5分間(100rpm;2分、50rpm;3分)混練した。混練後、製麺機「小型粗麺帯機・小型連続圧延機」(トム社製)にてバラ掛け、複合、圧延し、#10の切り刃を用いて切り出しを行った。切り出した麺線は直ちに凍結し、冷凍生うどんとした。冷凍生うどんは、沸騰水にて7.5分間茹でた後24時間冷蔵保存し澱粉の老化を促進させ、官能評価を行った。官能評価は、食感に着目して澱粉の老化状態を評価し、無添加区(試験区1)を0点、冷蔵保存していない茹でたてのサンプルを10点とした評点法にて、4名のパネルにて行った。茹でたてのサンプルは、弾力、コシがあり、もちもちとした食感であり、冷蔵保存したサンプルは、老化が進むことで、硬く、コシのない食感になる。評点の定義は、実施例1と同様とした。結果を表8に示す。
【0041】
【表8】
【0042】
表8に示す通り、ポリグルタミン酸、アルギニンを添加することにより、老化抑制効果が確認された(試験区2~試験区3)。また、両者を併用することで、極めて顕著な老化抑制効果が確認され、当該効果は、実施例3と同様の考え方から相乗効果であった(試験区4)。更に、アルコールを併用することにより、老化抑制効果をより高められることが確認された(試験区5)。以上の結果より、ポリグルタミン酸、アルギニン、アルコールによる老化抑制効果は、ポンデケージョの系に限らず、うどんの系など各種澱粉含有食品に対して有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によると、澱粉含有食品の品質を向上できるので、食品分野において極めて有用である。