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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】チップ型電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
H01G4/30 311Z
H01G4/30 201N
H01G4/30 517
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018121869
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020004815
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】藤田 彰
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-120880(JP,A)
【文献】特開2010-171348(JP,A)
【文献】特開2012-209539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の内部電極を含み、積層方向に直交する幅方向に相対する一対の側面に前記内部電極が露出した積層体を作製する工程と、
前記積層体を粘着シート上に配置する工程と、
前記粘着シートに含まれる粘着剤を溶解する成分を含む処理液を用いて、前記内部電極が露出した前記積層体の側面に付着した前記粘着剤を除去する工程と、
前記粘着剤が除去された後の前記積層体の側面に保護層を形成する工程と、を備え
前記粘着剤を溶解する成分と前記粘着剤とのハンセン溶解度パラメータ距離は、前記粘着剤を溶解する成分と前記積層体に含まれる樹脂成分とのハンセン溶解度パラメータ距離よりも小さい、チップ型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記粘着剤は、アクリレート系粘着剤であり、
前記処理液は、一般式RCOOR又はRCOR(R及びRはそれぞれ独立にアルキル基)で表される化合物を含む溶液である、請求項1に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記化合物は、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸エチル、酢酸メチル及びメチルエチルケトンからなる群より選択されるいずれか1種である、請求項2に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記処理液は、前記化合物を20重量%以上、75重量%以下含む、請求項2又は3に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記粘着剤を除去する工程の前に、前記積層体を前記粘着シート上で転動させることによって、前記内部電極が露出した前記積層体の側面を開放面とする工程をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記粘着剤を除去する工程の前に、前記積層体を前記粘着シートから剥離する工程をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記粘着剤を除去する工程では、前記保護層を形成する前の前記積層体の側面に対して、砥粒を用いた研削処理又はバイトを用いた切削処理が行われ、
前記研削処理に用いられる研削液又は前記切削処理に用いられる切削液に前記粘着剤を溶解する成分が含まれる、請求項1~のいずれか1項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記粘着剤を除去する工程では、前記保護層を形成する前の前記積層体の側面に対して、洗浄処理が行われ、
前記洗浄処理に用いられる洗浄液に前記粘着剤を溶解する成分が含まれる、請求項1~のいずれか1項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記チップ型電子部品は、積層セラミック電子部品であり、
前記積層体を作製する工程では、積層された複数のセラミックグリーンシートと、前記セラミックグリーンシートの間に配置された未焼成の前記内部電極とを含むマザーブロックを作製した後、前記マザーブロックを切断することによって、複数の積層体を作製するとともに、前記マザーブロックの切断により現れた前記積層体の側面に前記内部電極を露出させる、請求項1~のいずれか1項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記積層セラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサである、請求項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ型電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品等のチップ型電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサが挙げられる。積層セラミックコンデンサを製造するためには、例えば、内部電極が形成されたセラミックグリーンシートを積層し、得られた未焼成の部品本体を焼成した後、焼結した部品本体の相対向する端面に外部電極を形成する。これによって、両側の端面に引き出された内部電極が外部電極と電気的に接続された積層セラミックコンデンサが得られる。
【0003】
近年、電子部品の小型化及び高機能化に伴い、積層セラミックコンデンサには、小型化及び高容量化が求められている。積層セラミックコンデンサの小型化及び高容量化を実現するためには、セラミックグリーンシート上を占有する内部電極の有効面積、つまり、互いに対向する内部電極の面積を大きくすることが有効である。
【0004】
例えば、特許文献1には、積層された複数のセラミックグリーンシートと、上記セラミックグリーンシート間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された内部電極パターンとを含む、マザーブロックを作製する工程と、上記マザーブロックを互いに直交する第1方向の切断線及び第2方向の切断線に沿って切断することによって、未焼成の状態にある複数のセラミック層と複数の内部電極とをもって構成された積層構造を有し、かつ上記第1方向の切断線に沿う切断によって現れた切断側面に上記内部電極が露出した状態にある、複数のグリーンチップを得る切断工程と、上記切断側面にセラミックペーストを塗布して、未焼成のセラミック保護層を形成することによって、未焼成の部品本体を得る塗布工程と、上記未焼成の部品本体を焼成する工程とを備える積層セラミック電子部品の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法では、行及び列方向に配列された複数のグリーンチップの互いの間隔を広げた状態で、複数のグリーンチップを転動させることによって、複数のグリーンチップの各々の切断側面を揃って開放面とする転動工程をさらに行い、上記塗布工程では、上記転動工程の結果、開放面とされた複数のグリーンチップの切断側面にセラミックペーストを同時に塗布することが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5678905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、グリーンチップが粘着シート上に貼り付けられた状態で転動工程が行われる。したがって、グリーンチップが粘着シート上で回転する際に、粘着シートに含まれる粘着剤がグリーンチップに付着することがある。その場合、粘着剤が付着したグリーンチップの切断側面にセラミック保護層が形成されると、セラミック保護層の表面から構造欠陥検査を行った際に外観不良と判断されるおそれがある。
【0008】
また、粘着シートに含まれる粘着剤は、部品本体の焼成時に焼失して空洞となる。空洞となった部分には、焼成時に粒子が入り込んでしまうことがあるため、内部電極同士が層をまたがって接触し、ショート不良となるおそれがある。
【0009】
なお、上記の問題は、積層セラミックコンデンサを製造する場合に限らず、積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品をはじめとするチップ型電子部品を製造する場合に共通する問題である。
【0010】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、内部電極が露出した積層体の側面に保護層を形成する際の不良を低減することができるチップ型電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のチップ型電子部品の製造方法は、積層された複数の内部電極を含み、積層方向に直交する幅方向に相対する一対の側面に上記内部電極が露出した積層体を作製する工程と、上記積層体を粘着シート上に配置する工程と、上記粘着シートに含まれる粘着剤を溶解する成分を含む処理液を用いて、上記内部電極が露出した上記積層体の側面に付着した上記粘着剤を除去する工程と、上記粘着剤が除去された後の上記積層体の側面に保護層を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部電極が露出した積層体の側面に保護層を形成する際の不良を低減することができるチップ型電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のチップ型電子部品の製造方法によって得られる積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す積層セラミックコンデンサを構成する部品本体の一例を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、図2に示す部品本体を作製するために準備されるグリーンチップの一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、図3に示すグリーンチップを作製するために準備される内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートの一例を模式的に示す平面図である。
図5図5(a)は、図4に示すセラミックグリーンシートを積層する工程を説明するための斜視図である。図5(b)及び図5(c)は、図4に示すセラミックグリーンシートを積層する工程を説明するための平面図である。
図6図6は、マザーブロックを切断することによって得られた複数のグリーンチップの一例を模式的に示す斜視図である。
図7図7は、行及び列方向に配列された複数のグリーンチップの互いの間隔を広げた状態を示す斜視図である。
図8図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、転動工程の一例を説明するためにグリーンチップの端面方向から示した図である。
図9図9は、切断側面に対してポリッシングによる研磨処理を行う方法の一例を模式的に示す概略図である。
図10図10は、切断側面に対して超音波洗浄を行う方法の一例を模式的に示す概略図である。
図11図11(a)、図11(b)、図11(c)、図11(d)及び図11(e)は、未焼成のセラミック保護層が形成された複数のグリーンチップを再び転動させる転動工程の一例を説明するためにグリーンチップの端面方向から示した図である。
図12図12は、積層セラミックコンデンサを構成する部品本体の一例を模式的に示すWT断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のチップ型電子部品の製造方法について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0015】
チップ型電子部品の製造工程においては、積層体を粘着シート上に配置する際、粘着シートに含まれる粘着剤が積層体に付着してしまう。本発明のチップ型電子部品の製造方法では、内部電極が露出した積層体の側面に保護層を形成する前に、粘着剤を溶解する成分を含む処理液を用いて、該側面に付着した粘着剤を除去することを特徴としている。その結果、粘着剤に起因する外観不良やショート不良といった不良を低減することができる。
【0016】
本発明のチップ型電子部品の製造方法で用いられる処理液において、粘着剤を溶解する成分は、積層体に含まれる樹脂成分と実質的に反応しないことが好ましい。この場合、積層体に与えるダメージが少なく、積層体中の樹脂成分を残しつつ、積層体に付着した粘着剤を溶解させることができる。
【0017】
処理液の選定においては、ハンセン溶解度パラメータに着目する。具体的には、粘着剤を溶解する成分と粘着シートに含まれる粘着剤とのハンセン溶解度パラメータ距離は小さく、粘着剤を溶解する成分と積層体に含まれる樹脂成分とのハンセン溶解度パラメータ距離は大きくなるようにする。したがって、粘着剤を溶解する成分と粘着シートに含まれる粘着剤とのハンセン溶解度パラメータ距離は、粘着剤を溶解する成分と積層体に含まれる樹脂成分とのハンセン溶解度パラメータ距離よりも小さいことが好ましい。
【0018】
ハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標であり、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを分散項δ、極性項δ、水素結合項δの3成分に分割したものである。分散項δは無極性相互作用による効果、極性項δは双極子間力による効果、水素結合項δは水素結合力の効果を示すものである。ハンセン溶解度パラメータは、下記式により2成分の溶解度パラメータの距離Rを計算し、溶解度を比較することができる。
R={4×(δd1-δd2+(δp1-δp2+(δh1-δh21/2
δd1:成分1の分散項、δd2:成分2の分散項、δp1:成分1の極性項、δp2:成分2の極性項、δh1:成分1の水素結合項、δh2:成分2の水素結合項
【0019】
なお、ハンセン溶解度パラメータの定義及び計算方法は、下記の文献に記載されている。
Charles M. Hansen,Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook,CRC Press(2007)
【0020】
ハンセン溶解度パラメータの文献値が未知の溶媒については、コンピュータソフトウェア(Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP))を用いることによって、その化学構造から簡便にハンセン溶解度パラメータを推算することができる。
【0021】
また、特定のポリマーのハンセン溶解度パラメータについては、通常、該ポリマーを、ハンセン溶解度パラメータが確定している数多くの異なる有機溶媒に溶解させて溶解度を測る溶解度試験を行うことによって決定される。具体的には、あるポリマーの溶解度試験に用いたすべての有機溶媒のハンセン溶解度パラメータの座標を3次元空間に示した際、該ポリマーを溶解した有機溶媒の座標がすべて球の内側に内包され、該ポリマーが溶解しない有機溶媒の座標が球の外側になるような球(溶解度球)を探し出し、溶解度球の中心座標を該ポリマーのハンセン溶解度パラメータとする。
【0022】
本発明のチップ型電子部品の製造方法において、粘着剤を溶解する成分は、処理液中に均一に分散されることが好ましい。また、粘着剤を溶解する成分は、処理液中の溶媒との親和性が高いことが好ましい。
【0023】
なお、粘着剤等の溶解性は、処理液を用いた処理の温度、圧力、粘着剤を溶解する成分の含有量といった因子によっても変化する。したがって、同じ成分を含む処理液を用いた場合であっても、積層体をどのように処理するかによって溶解性が変わることがある。例えば、処理液中に積層体を浸漬しただけでは溶解しにくく、一方、処理液を含む物体を積層体に押し当てて擦るといったように圧力をかければ溶解しやすくなる。
【0024】
本発明のチップ型電子部品の製造方法において、粘着シートに含まれる粘着剤としては、例えば、アクリレート系粘着剤等が挙げられる。アクリレート系粘着剤は、アルキル(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有する重合体を含む粘着剤である。(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。上記重合体は、ホモポリマーであってもよく、2種以上のアルキル(メタ)アクリレートを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、上記重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマー単位をさらに含有してもよい。アルキル(メタ)アクリレートを構成するアルキル基の炭素数は1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましい。このような(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アクリレート系粘着剤としては、例えば、ポリブチルアクリレート系粘着剤等が挙げられる。
【0025】
本発明のチップ型電子部品の製造方法において、粘着シートに含まれる粘着剤がアクリレート系粘着剤である場合、上記処理液は、一般式RCOOR又はRCOR(R及びRはそれぞれ独立にアルキル基)で表される化合物を含む溶液であることが好ましい。アクリレート系粘着剤は、COOR(Rはアルキル(メタ)アクリレートを構成するアルキル基)という構造を有している。そのため、粘着剤の構造と類似したRCOORで表されるエステル系化合物、又は、RCORで表されるケトン系化合物を含む溶液と処理液として用いることにより、アクリレート系粘着剤を容易に溶解することができる。
【0026】
一般式RCOORにおいて、Rは炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、Rは炭素数1~4のアルキル基であることが好ましい。また、一般式RCORにおいて、Rは炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、Rは炭素数1~4のアルキル基であることが好ましい。R及びRは、同じアルキル基であってもよいし、異なるアルキル基であってもよい。
【0027】
中でも、処理液に含まれる上記化合物は、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸エチル、酢酸メチル及びメチルエチルケトンからなる群より選択されるいずれか1種であることが好ましい。
【0028】
処理液に含まれる上記化合物の含有量は特に限定されないが、処理液は、上記化合物を20重量%以上、75重量%以下含むことが好ましい。
【0029】
なお、アクリレート系粘着剤以外の粘着剤を用いる場合であっても、上記と同様の考え方を適用することができる。
【0030】
以下、本発明のチップ型電子部品の製造方法の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの製造方法を例にとって説明する。なお、本発明の製造方法は、積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品をはじめとするチップ型電子部品にも適用することができる。
【0031】
まず、本発明のチップ型電子部品の製造方法によって得られる積層セラミックコンデンサについて説明する。
図1は、本発明のチップ型電子部品の製造方法によって得られる積層セラミックコンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示す積層セラミックコンデンサを構成する部品本体の一例を模式的に示す斜視図である。
【0032】
本明細書においては、積層セラミックコンデンサ及び部品本体の積層方向、幅方向、長さ方向を、図1に示す積層セラミックコンデンサ11及び図2に示す部品本体12においてそれぞれ矢印T、W、Lで定める方向とする。ここで、積層方向と幅方向と長さ方向とは互いに直交する。積層方向は、複数のセラミック層25と複数対の内部電極26及び27とが積み上げられていく方向である。
【0033】
図1に示す積層セラミックコンデンサ11は、部品本体12を備えている。図2に示すように、部品本体12は、直方体状又は略直方体状をなしており、積層方向Tに相対する1対の主面13及び14と、積層方向Tに直交する幅方向Wに相対する1対の側面15及び16と、積層方向T及び幅方向Wに直交する長さ方向Lに相対する1対の端面17及び18とを有している。
【0034】
本明細書においては、1対の端面17及び端面18に交差し、かつ、積層方向Tに沿う積層セラミックコンデンサ11又は部品本体12の断面をLT断面という。また、側面15又は側面16に交差し、かつ、積層方向Tに沿う積層セラミックコンデンサ11又は部品本体12の断面をWT断面という。また、側面15、側面16、端面17又は端面18に交差し、かつ、積層方向Tに直交する積層セラミックコンデンサ11又は部品本体12の断面をLW断面という。
【0035】
図3は、図2に示す部品本体を作製するために準備されるグリーンチップの一例を模式的に示す斜視図である。
後述するように、図2に示す部品本体12は、図3に示すグリーンチップ19の互いに対向する1対の側面(以下、切断側面という)20及び21上に、未焼成のセラミック保護層22及び23をそれぞれ形成したものを焼成することにより得られる。以後の説明において、焼成後の部品本体12におけるグリーンチップ19に由来する部分を積層体24と呼ぶことにする。また、本明細書において、積層体は、未焼成の状態であるグリーンチップも含む概念である。
【0036】
図2及び図3に示すように、部品本体12における積層体24は、主面13及び14の方向に延びかつ主面13及び14に直交する方向に積層された複数のセラミック層25と、セラミック層25間の界面に沿って形成された複数対の内部電極26及び27とをもって構成された積層構造を有している。部品本体12は、その側面15及び16をそれぞれ与えるように積層体24の切断側面20及び21上に配置される1対のセラミック保護層22及び23を有している。セラミック保護層22及び23の厚みは、互いに同じであることが好ましい。
【0037】
なお、図1及び図2においては、説明の便宜のために、積層体24とセラミック保護層22及び23の各々との境界が明瞭に図示されているが、このような境界は明瞭に現れなくてもよい。
【0038】
図2及び図3に示すように、内部電極26と内部電極27とは、セラミック層25を介して互いに対向する。内部電極26と内部電極27とが対向することによって、電気的特性が発現する。すなわち、図1に示す積層セラミックコンデンサ11においては、静電容量が形成される。
【0039】
内部電極26は、部品本体12の端面17に露出する露出端を持ち、内部電極27は、部品本体12の端面18に露出する露出端を持っている。一方、上述したセラミック保護層22及び23が配置されているため、内部電極26及び27は、部品本体12の側面15及び16には露出しない。
【0040】
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ11は、さらに、内部電極26及び27の各々の露出端にそれぞれ電気的に接続されるように、部品本体12の少なくとも1対の端面17及び18上にそれぞれ形成された、外部電極28及び29を備えている。
【0041】
外部電極28及び29は、部品本体12の少なくとも1対の端面17及び18上にそれぞれ形成されており、図1では、主面13及び14並びに側面15及び16の各一部にまで回り込んだ部分を有している。
【0042】
内部電極を構成する導電材料としては、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等の金属材料を用いることができる。
【0043】
セラミック層及びセラミック保護層を構成するセラミック材料としては、例えば、BaTiO、CaTiO、SrTiO、CaZrO等を主成分とする誘電体セラミックを用いることができる。
【0044】
セラミック保護層を構成するセラミック材料は、セラミック層を構成するセラミック材料と少なくとも主成分が同じであることが好ましい。この場合、同じ組成のセラミック材料がセラミック層とセラミック保護層との双方に用いられることが特に好ましい。
【0045】
上述のとおり、本発明の製造方法は、積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品にも適用することができる。例えば、積層セラミック電子部品が圧電部品の場合には、PZT系セラミック等の圧電体セラミック、サーミスタの場合には、スピネル系セラミック等の半導体セラミックが用いられる。
【0046】
外部電極は、下地層と下地層上に形成されるめっき層とで構成されることが好ましい。下地層を構成する導電材料としては、例えば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等を用いることができる。下地層は、導電性ペーストを未焼成の部品本体上に塗布して部品本体と同時焼成するコファイア法を適用することによって形成されてもよく、導電性ペーストを焼成後の部品本体上に塗布して焼き付けるポストファイア法を適用することによって形成されてもよい。あるいは、下地層は、直接めっきにより形成されてもよく、熱硬化性樹脂を含む導電性樹脂を硬化させることにより形成されてもよい。
【0047】
下地層上に形成されるめっき層は、Niめっき、及び、その上のSnめっきの2層構造であることが好ましい。
【0048】
次に、本発明のチップ型電子部品の製造方法の一実施形態として、図1に示す積層セラミックコンデンサ11の製造方法について説明する。
【0049】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0050】
[第1実施形態]
第1実施形態では、内部電極が露出した積層体の側面に対して、研削処理又は切削処理が行われる。
【0051】
まず、セラミック層となるべきセラミックグリーンシートが準備される。セラミックグリーンシートには、上述した誘電体セラミック等を含むセラミック原料の他、バインダ樹脂及び溶剤等が含まれる。例えば、セラミック粉末、バインダ樹脂及び溶剤を含むセラミックスラリーが準備され、このセラミックスラリーが、キャリアフィルム上で、ダイコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ等を用いてシート状に成形されることにより、セラミックグリーンシートが得られる。上記セラミックスラリーには、可塑剤、分散剤、帯電防止剤等の種々の添加剤が含まれていてもよい。
【0052】
セラミックグリーンシートに含まれるバインダ樹脂としては、例えば、セルロース系、アクリル系、ポリビニルアルコール(PVA)系、ポリビニルブチラール(PVB)系の樹脂等を用いることができる。また、セラミックグリーンシートに含まれる可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル(DOP)等のフタル酸エステル系等を用いることができる。
【0053】
セラミックグリーンシートの厚みは、通常3μm以下であり、1μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。
【0054】
次に、セラミックグリーンシート上に、所定のパターンをもって導電性ペーストが印刷される。導電性ペーストには、上述した金属材料の他、バインダ樹脂及び溶剤等が含まれる。導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法、グラビア印刷法等を用いてセラミックグリーンシート上に塗布される。
【0055】
図4は、図3に示すグリーンチップを作製するために準備される内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートの一例を模式的に示す平面図である。
図4に示すように、セラミック層25となるべきセラミックグリーンシート31上に、所定のパターンをもって導電性ペーストが印刷されることによって、内部電極26及び27の各々となるべき内部電極パターン32が形成される。具体的には、セラミックグリーンシート31上に、帯状の内部電極パターン32が複数列形成される。
【0056】
内部電極パターンの厚みは特に限定されないが、1.5μm以下であることが好ましい。
【0057】
その後、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートをずらしながら所定枚数積層し、その上下に内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートを所定枚数積層する積層工程が行われる。
【0058】
図5(a)は、図4に示すセラミックグリーンシートを積層する工程を説明するための斜視図である。
図5(a)に示すように、内部電極パターン32が形成されたセラミックグリーンシート31を、内部電極パターン32の幅方向に沿って所定間隔、すなわち内部電極パターン32の幅方向寸法の半分ずつずらしながら所定枚数積層する。さらに、その上下に内部電極パターンが印刷されていないセラミックグリーンシートを所定枚数積層する。
【0059】
図5(b)及び図5(c)は、図4に示すセラミックグリーンシートを積層する工程を説明するための平面図である。図5(b)及び図5(c)は、それぞれ1層目及び2層目のセラミックグリーンシートが拡大して示されている。
図5(b)及び図5(c)には、帯状の内部電極パターン32が延びる方向と直交する第1方向(図5(b)及び図5(c)における上下方向)の切断線33、及び、これに対して直交する第2方向(図5(b)及び図5(c)における左右方向)の切断線34の各一部が示されている。帯状の内部電極パターン32は、2つ分の内部電極26及び27が各々の引出し部同士で連結されたものが、第2方向に沿って連なった形状を有している。図5(b)及び図5(c)では、切断線33及び34が共通して示されている。
【0060】
積層工程の結果、積層された複数のセラミックグリーンシートと、セラミックグリーンシート間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された内部電極パターンとを含む、マザーブロックが得られる。得られたマザーブロックは、静水圧プレス等の手段により積層方向にプレスされる。
【0061】
プレスされたマザーブロックを互いに直交する第1方向の切断線及び第2方向の切断線に沿って切断することによって、複数のグリーンチップ(積層体)が得られる。この切断には、例えば、ダイシング、押切り、レーザカット等の方法が適用される。
【0062】
図6は、マザーブロックを切断することによって得られた複数のグリーンチップの一例を模式的に示す斜視図である。
図6に示すように、マザーブロック35は、互いに直交する第1方向の切断線33及び第2方向の切断線34に沿って切断され、行及び列方向に配列された複数のグリーンチップ19が得られる。図6では、マザーブロック35の内部に位置する最上の内部電極パターン32が破線で示されている。なお、図6では、1個のマザーブロック35から6個のグリーンチップ19が取り出されているが、実際には、より多数のグリーンチップ19が取り出される。また、図6に示すマザーブロック35はあくまでも一例であり、実際には、セラミックグリーンシート31及び内部電極パターン32を積層する枚数、及び、帯状の内部電極パターン32を形成する列の個数はより多くなる。
【0063】
図3に示したように、各グリーンチップ19は、未焼成の状態にある複数のセラミック層25と複数の内部電極26及び27とをもって構成された積層構造を有している。グリーンチップ19の切断側面20及び21は、第1方向の切断線33に沿う切断によって現れた面であり、切断端面36及び37は、第2方向の切断線34に沿う切断によって現れた面である。切断側面20及び21には、内部電極26及び27のすべてが露出している。また、一方の切断端面36には、内部電極26のみが露出し、他方の切断端面37には、内部電極27のみが露出している。
【0064】
図6に示すように、行及び列方向に配列された状態の複数のグリーンチップ19は、拡張性のある粘着シート38上に貼り付けられる。粘着シート38は、図示しないエキスパンド装置によって拡張される。
【0065】
図7は、行及び列方向に配列された複数のグリーンチップの互いの間隔を広げた状態を示す斜視図である。
図6に示す粘着シート38を拡張することによって、図7に示すように、行及び列方向に配列された複数のグリーンチップ19は、互いの間隔を広げた状態とされる。
【0066】
このとき、後述の転動工程において、複数のグリーンチップ19同士がぶつからず、円滑に転動させることを可能とする程度に、粘着シート38が拡張される。
【0067】
粘着シート38は、一旦拡張されると、完全に元の形態には戻らない可塑性を有していることが好ましい。この場合、拡張された後の粘着シート38のハンドリングが容易である。例えば、マザーブロック35の切断によって複数のグリーンチップ19を得た後、グリーンチップ19に含まれるバインダ樹脂によって、隣り合うグリーンチップ19の切断側面20及び21同士あるいは切断端面36及び37同士が再接着する可能性があるが、一旦拡張された粘着シート38が完全に元の形態には戻らない場合、切断側面20及び21同士あるいは切断端面36及び37同士が接触することがないため、これらが再接着するような事態を避けることができる。
【0068】
粘着シート38は、例えば、基材と、基材上に設けられた粘着層とから構成される。基材を構成する材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。また、粘着層に含まれる粘着剤としては、例えば、アクリレート系粘着剤等が挙げられる。
【0069】
その後、複数のグリーンチップを転動させることによって、複数のグリーンチップの各々の切断側面を揃って開放面とする転動工程が行われる。
【0070】
図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、転動工程の一例を説明するためにグリーンチップの端面方向から示した図である。
【0071】
図8(a)に示すように、粘着シート38上に貼り付けられた複数のグリーンチップ19が、粘着シート38とともに支持台40上に置かれ、他方、転動作用板41がグリーンチップ19に対して上から作用し得る状態に置かれる。支持台40及び転動作用板41は、好ましくは、シリコーンゴムから構成される。
【0072】
支持台40を転動作用板41に対して矢印の方向へ移動させることによって、図8(b)及び図8(c)に示すように、複数のグリーンチップ19が90度回転し、一方の切断側面20を上方へ向けた状態とされる。この状態で転動作用板41を除去すれば、切断側面20が開放面となる。
【0073】
なお、グリーンチップの転動をより円滑にするため、粘着シートから粘着性ゴムシート上へグリーンチップを移し替えてから転動操作を行ってもよい。
【0074】
第1実施形態では、転動工程により上方へ向いた切断側面に対して、砥粒を用いた研削処理又はバイトを用いた切削処理が行われる。なお、研削処理と切削処理とが組み合わされて行われてもよく、この場合、研削処理及び切削処理を行う順序は特に限定されない。
【0075】
研削処理としては、例えば、固定砥粒を用いた研削処理(ダイシング、グラインディング等)、固定砥粒を用いた研磨処理(ドライポリッシュ、テープ研磨等)、遊離砥粒を用いた研磨処理(ラッピング、ポリッシング等)等が挙げられる。これらの研削処理を組み合わせてもよい。切削処理としては、例えば、バイトの回転による切削処理、グリーンチップの回転による切削処理、バイトの直線運動による切削処理、グリーンチップの直線運動による切削処理等が挙げられる。これらの切削処理を組み合わせてもよい。具体的には、サーフェースプレーナー等の切削装置を用いた切削処理が挙げられる。
【0076】
図9は、切断側面に対してポリッシングによる研磨処理を行う方法の一例を模式的に示す概略図である。
図9に示すように、研磨ヘッド230に保持された複数のグリーンチップ19を研磨パッド220に押し付けて接触させ、供給管240から研磨液(研削液)Aを滴下させながら、研磨ヘッド230と研磨定盤210とを相対的に回転させることによって、切断側面が研磨される。図9に示すように、複数のグリーンチップ19が粘着シート38上に貼り付けられた状態のまま、それぞれのグリーンチップ19の切断側面が研磨されることが好ましい。
【0077】
粘着シートに含まれる粘着剤が切断側面に付着している場合、研削処理に用いられる研削液又は切削処理に用いられる切削液には、粘着剤を溶解する成分が含まれていることが好ましい。研削処理に用いられる研削液又は切削処理に用いられる切削液によって、切断側面に付着した粘着剤を除去することができる。
【0078】
研削処理又は切削処理が行われている間、グリーンチップの切断側面には圧力がかかるため、粘着剤の溶解が促進される。研削処理又は切削処理の際、グリーンチップを固定している粘着シートには研削液又は切削液が付着しないようにすることが好ましい。しかし、予期せぬ飛散によって粘着シートに研削液又は切削液が付着した場合であっても、切断側面に比べて圧力がかからないため、粘着剤の溶解速度は遅い。したがって、研削処理又は切削処理が行われている間に、グリーンチップを固定している粘着剤が溶解し、グリーンチップが脱落するという事態は生じない。
【0079】
第1実施形態では、研削処理又は切削処理が行われた後の切断側面に対して洗浄処理が行われてもよい。この場合、洗浄処理に用いられる洗浄液には、粘着剤を溶解する成分が含まれていてもよい。洗浄処理に用いられる洗浄液によって、切断側面に付着した粘着剤を除去することができる。
【0080】
洗浄処理としては、例えば、超音波洗浄等が挙げられる。超音波洗浄は、公知の方法によって行うことができ、例えば、超音波洗浄機を用いて、保持具によって保持された状態の複数のグリーンチップを洗浄液に浸漬し、洗浄槽に設けられた超音波振動子にて振動が付与された洗浄液によって複数のグリーンチップを洗浄することができる。その際、洗浄液中を進行する振動波の向きと平行な方向に沿って保持具を揺動させることが好ましい。これにより、さらなる洗浄効果を得ることができる。
【0081】
図10は、切断側面に対して超音波洗浄を行う方法の一例を模式的に示す概略図である。
図10に示すように、保持具330に保持された複数のグリーンチップ19を洗浄液Bに浸漬する。洗浄槽310内に設置された振動板320及びこれらに組み付けられた超音波振動子321にて振動が付与された洗浄液Bによって、切断側面が超音波洗浄される。図10に示すように、複数のグリーンチップ19が粘着シート38上に貼り付けられた状態のまま、それぞれのグリーンチップ19の切断側面が超音波洗浄されることが好ましい。
【0082】
第1実施形態では、必要に応じて、グリーンチップに付着した液(研削液又は切削液、及び、必要に応じて洗浄液)を洗い流すためのリンス処理が行われる。リンス処理では、水を用いた洗浄を行うことが好ましく、水を用いた超音波洗浄を行うことがより好ましい。
【0083】
リンス処理の後、乾燥工程が行われることが好ましい。乾燥工程の方式としては、例えば、エアーにより水を飛ばす方式、対象物を回転させて遠心力により水を飛ばす方式、エアー及び遠心力により水を飛ばす方式、40℃以上100℃以下の温度に設定されたオーブン内で乾燥させる方式等が挙げられる。
【0084】
続いて、切断側面に未焼成のセラミック保護層が形成される。未焼成のセラミック保護層は、例えば、セラミック保護層用グリーンシートを貼り付けるか、又は、セラミック保護層用ペーストを塗布することにより形成される。
【0085】
セラミック保護層用グリーンシート又はセラミック保護層用ペーストには、マザーブロックを作製するためのセラミックグリーンシートと同じセラミック原料が主成分として含有されていることが好ましい。
【0086】
未焼成のセラミック保護層を形成した後、必要に応じて、乾燥工程が行われる。乾燥工程では、未焼成のセラミック保護層が形成されたグリーンチップが、例えば、120℃に設定されたオーブンに5分間入れられる。
【0087】
その後、未焼成のセラミック保護層が形成された複数のグリーンチップを再び転動させる転動工程が行われる。
【0088】
図11(a)、図11(b)、図11(c)、図11(d)及び図11(e)は、未焼成のセラミック保護層が形成された複数のグリーンチップを再び転動させる転動工程の一例を説明するためにグリーンチップの端面方向から示した図である。
【0089】
図11(a)に示すように、切断側面20に未焼成のセラミック保護層22が形成された複数のグリーンチップ19は、粘着シート38を介して支持台40によって支持され、複数のグリーンチップ19に対して、転動作用板41が上から作用し得る状態に置かれる。
【0090】
支持台40を転動作用板41に対して矢印の方向へ移動させることによって、図11(b)、図11(c)、図11(d)及び図11(e)に示すように、複数のグリーンチップ19が90度回転することを2回繰り返し、他方の切断側面21を上方へ向けた状態とされる。この状態で転動作用板41を除去すれば、切断側面21が開放面となる。
【0091】
図11(a)に示すように、2回目の転動工程の前においては、切断側面21が粘着シート38に接している。そのため、図11(b)、図11(c)、図11(d)及び図11(e)に示すように、グリーンチップ19が粘着シート38上で回転した後の切断側面21には、粘着シート38に含まれる粘着剤が付着している。
【0092】
そして、開放面とされた反対側の切断側面に対しても、研削処理又は切削処理が行われる。例えば、1回目(一方の切断側面)に研削処理が行われた場合、2回目(他方の切断側面)に研削処理が行われてもよいし、切削処理が行われてもよい。
【0093】
上述のとおり、切断側面には粘着剤が付着しているため、2回目の研削処理に用いられる研削液又は切削処理に用いられる切削液には、粘着剤を溶解する成分が含まれていることが好ましい。2回目の研削処理に用いられる研削液又は切削処理に用いられる切削液は、1回目の研削処理に用いられる研削液又は切削処理に用いられる切削液と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0094】
2回目の研削処理又は切削処理が行われた後の切断側面に対して、洗浄処理が行われてもよい。この場合、2回目の洗浄処理に用いられる洗浄液には、粘着剤を溶解する成分が含まれていてもよい。2回目の洗浄処理に用いられる洗浄液は、1回目の洗浄処理に用いられる洗浄液と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0095】
上記と同様に、反対側の切断側面に未焼成のセラミック保護層が形成される。未焼成のセラミック保護層を形成した後、必要に応じて、乾燥工程が行われる。以上により、未焼成の部品本体が得られる。
【0096】
続いて、複数の未焼成の部品本体を粘着シートとともに支持台から外し、未焼成の部品本体から粘着シートを剥離した後、未焼成の部品本体が焼成される。焼成温度は、未焼成の部品本体に含まれるセラミック材料や金属材料にもよるが、例えば900℃以上、1300℃以下の範囲である。
【0097】
焼成後の部品本体の両端面に導電性ペーストを塗布し、焼き付け、さらに、必要に応じて、めっきが施されることによって、外部電極が形成される。なお、導電性ペーストの塗布は、未焼成の部品本体に対して実施されてもよく、未焼成の部品本体の焼成時に、導電性ペーストの焼付けを同時に行うようにしてもよい。
【0098】
このようにして、図1に示す積層セラミックコンデンサ11が製造される。
【0099】
[第2実施形態]
第2実施形態では、第1実施形態と異なり、内部電極が露出した積層体の側面に対して、研削処理又は切削処理が行われず、洗浄処理が行われる。
【0100】
まず、第1実施形態で説明した方法により、積層された複数のセラミックグリーンシートと、セラミックグリーンシート間の複数の界面に沿ってそれぞれ配置された内部電極パターンとを含む、マザーブロックが作製される。得られたマザーブロックは、静水圧プレス等の手段により積層方向にプレスされる。
【0101】
プレスされたマザーブロックを互いに直交する第1方向の切断線及び第2方向の切断線に沿って切断することによって、複数のグリーンチップが得られる。この切断には、例えば、ダイシング、押切り、レーザカット等の方法が適用される。
【0102】
第1実施形態で説明したように、行及び列方向に配列された状態の複数のグリーンチップは、拡張性のある粘着シート上に貼り付けられる。そして、粘着シートを拡張することによって、行及び列方向に配列された複数のグリーンチップは、互いの間隔を広げた状態とされる。その後、複数のグリーンチップを転動させることによって、複数のグリーンチップの各々の切断側面を揃って開放面とする転動工程が行われる。
【0103】
第2実施形態では、転動工程により上方へ向いた切断側面に対して、洗浄処理が行われる。洗浄処理の方法は、第1実施形態で説明したとおりである。
【0104】
粘着シートに含まれる粘着剤が切断側面に付着している場合、洗浄処理に用いられる洗浄液には、粘着剤を溶解する成分が含まれていることが好ましい。洗浄処理に用いられる洗浄液によって、切断側面に付着した粘着剤を除去することができる。
【0105】
第2実施形態では、必要に応じて、グリーンチップに付着した洗浄液を洗い流すためのリンス処理が行われる。リンス処理では、水を用いた洗浄を行うことが好ましく、水を用いた超音波洗浄を行うことがより好ましい。
【0106】
リンス処理の後、乾燥工程が行われることが好ましい。乾燥工程の方式としては、例えば、第1実施形態で説明した方式が挙げられる。
【0107】
続いて、切断側面に未焼成のセラミック保護層が形成される。未焼成のセラミック保護層を形成する方法は、第1実施形態で説明したとおりである。
【0108】
未焼成のセラミック保護層を形成した後、必要に応じて、乾燥工程が行われる。その後、未焼成のセラミック保護層が形成された複数のグリーンチップを再び転動させる転動工程が行われる。
【0109】
そして、開放面とされた反対側の切断側面に対しても、洗浄処理が行われることが好ましい。切断側面には粘着剤が付着しているため、2回目の洗浄処理に用いられる洗浄液には、粘着剤を溶解する成分が含まれていることが好ましい。2回目の洗浄処理に用いられる洗浄液は、1回目の洗浄処理に用いられる洗浄液と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0110】
上記と同様に、反対側の切断側面に未焼成のセラミック保護層を形成した後、必要に応じて、乾燥工程が行われる。以上により、未焼成の部品本体が得られる。
【0111】
得られた未焼成の部品本体を焼成した後、焼成後の部品本体の両端面に外部電極を形成することにより、図1に示す積層セラミックコンデンサ11が製造される。
【0112】
[その他の実施形態]
これまでの実施形態で説明したように、本発明のチップ型電子部品の製造方法は、粘着剤を除去する工程の前に、積層体を粘着シート上で転動させることによって、内部電極が露出した積層体の側面を開放面とする工程をさらに備えることが好ましい。
【0113】
本発明のチップ型電子部品の製造方法は、粘着剤を除去する工程の前に、積層体を粘着シートから剥離する工程をさらに備えてもよい。
【0114】
本発明のチップ型電子部品の製造方法において、粘着シートに含まれる粘着剤を溶解する成分を含む処理液を用いて、内部電極が露出した積層体の側面に付着した粘着剤を除去する方法は、上述した実施形態で説明した方法に限定されるものではなく、研削液、切削液又は洗浄液以外の処理液を用いて粘着剤を除去してもよい。その場合、内部電極が露出した積層体の側面に対して、研削処理、切削処理又は洗浄処理を行わなくてもよい。
【0115】
上述した実施形態では、マザーブロックを第1方向の切断線及び第2方向の切断線に切断して複数のグリーンチップを得てから、切断側面に未焼成のセラミック保護層を形成していた。この場合、内部電極が露出したグリーンチップの側面にセラミック保護層を形成する前に、該側面に付着した粘着剤を除去していた。しかしながら、以下のように変更することも可能である。
【0116】
すなわち、マザーブロックを第1方向の切断線のみに沿って切断することによって、第1方向の切断線に沿う切断によって現れた切断側面に内部電極が露出した、複数の棒状のグリーンブロック体を得てから、切断側面に未焼成のセラミック保護層を形成した後、第2方向の切断線に切断して複数の未焼成の部品本体を得て、その後、未焼成の部品本体を焼成してもよい。この場合、内部電極が露出したグリーンブロック体の側面にセラミック保護層を形成する前に、該側面に付着した粘着剤を除去すればよい。焼成後は、前述の実施形態と同様の工程を行うことによって、積層セラミック等の積層セラミック電子部品を製造することができる。
【0117】
また、積層セラミック電子部品以外のチップ型電子部品を製造する場合においても、上記と同様に、内部電極が露出した積層体の側面に付着した粘着剤を除去すればよい。
【0118】
[実験例]
以下の実験例では、ポリブチルアクリレート系粘着剤からなる粘着層をポリ塩化ビニル(PVC)基材上に形成したもの、及び、グリーンチップに含まれる樹脂成分であるポリビニルブチラール(PVB)からなる樹脂層をガラス板上に形成したものを用意した。
【0119】
(実施例1~実施例10)
粘着剤を溶解する成分として、表1に示す液体を、水に対して所定の量を添加した処理液を作製した。
粘着剤を溶解する成分の選定においては、溶解させたい粘着剤とのハンセン溶解度パラメータ距離は小さく、溶解させたくない樹脂成分であるPVBとのハンセン溶解度パラメータ距離は大きくなるようにした。また、溶媒となる水との親和性が高く、溶解しやすいものを選定した。
【0120】
表1には、粘着剤を溶解する成分とポリブチルアクリレート系粘着剤とのハンセン溶解度パラメータ距離Δδ1、及び、粘着剤を溶解する成分と樹脂成分であるPVBとのハンセン溶解度パラメータ距離Δδ2を示す。
【0121】
作製した処理液を含ませたウエスを用いて、常温で、用意した粘着層及び樹脂層を1分間こすり続けた。その後、処理液を水で洗い流して乾燥させた後、粘着層及び樹脂層の表面を指で触った。その際、粘着力を感じなければ「溶解する」と判定し、粘着力が残っていれば「溶解しない」と判定した。
【0122】
(比較例1)
実施例1~実施例10で作製した処理液に代えて、水を用いて上記と同様の評価を行った。
【0123】
表1では、「粘着剤は溶解し、樹脂成分は溶解しない」という結果になった場合、○と判定し、それ以外は×と判定した。
【0124】
【表1】
【0125】
表1より、実施例1~実施例10で作製した処理液を用いた場合、ポリブチルアクリレート系粘着剤は溶解し、樹脂成分であるPVBは溶解しないことが確認された。これらの結果から、処理液に含まれる成分と粘着剤の構造が近い場合、両者の親和性が高く、溶解しやすいと考えられる。
【0126】
[チップ型電子部品の構造]
本発明のチップ型電子部品の製造方法に限らず、内部電極が露出した積層体の側面に対して、研磨処理等の研削処理が行われる場合、積層体の角部は丸みを帯びている。なお、積層体の角部とは、積層体の3面が交わる部分である。
【0127】
このようなチップ型電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサを例にとって説明する。
【0128】
図12は、積層セラミックコンデンサを構成する部品本体の一例を模式的に示すWT断面図である。図12において、各部の名称及び符号は図2と対応している。
図12に示すように、積層体24の一方の端面において、上下4箇所の角部は、いずれも丸みを帯びている。同様に、積層体24の他方の端面においても、上下4箇所の角部は、いずれも丸みを帯びている。したがって、内部電極26の端部を結んだ仮想線Lと、積層体24の角部の最も外側と該角部に最も近い内部電極26の端部を結んだ仮想線Lとがなす角度(図12中、θで示す角度)は、0°よりも大きい。
【0129】
このように、積層体の少なくとも1つの角部が丸みを帯びていると、その後に形成される保護層の角部も丸みを帯びるため、耐衝撃性が向上する。
【0130】
積層体の角部に最も近い内部電極から保護層の表面までの厚さ(図12中、Xで示す長さ)は、10μm以上であることが好ましい。
内部電極に近い保護層の厚さが10μm以上であると、外部から内部電極に水分が侵入しにくくなるため、耐湿信頼性の低下を防止することができる。
【0131】
内部電極の端部を結んだ仮想線と積層体の角部の最も外側との距離(図12中、Xで示す長さ)は、15μm未満であることが好ましい。
積層体の角部の丸みが大きくなりすぎると、保護層を形成した後に、保護層と積層体との間に隙間が生じやすくなる。その隙間から水分が侵入すると、耐湿信頼性が低下してしまう。上記の距離を15μm未満とすることにより、積層体の角部の丸みにしっかり追従するように保護層を形成することができる。
【符号の説明】
【0132】
11 積層セラミックコンデンサ
12 部品本体
13,14 主面
15,16 側面
17,18 端面
19 グリーンチップ
20,21 切断側面
22,23 セラミック保護層
24 積層体
25 セラミック層
26,27 内部電極
28,29 外部電極
31 セラミックグリーンシート
32 内部電極パターン
33 第1方向の切断線
34 第2方向の切断線
35 マザーブロック
36,37 切断端面
38 粘着シート
40 支持台
41 転動作用板
210 研磨定盤
220 研磨パッド
230 研磨ヘッド
240 供給管
310 洗浄槽
320 振動板
321 超音波振動子
330 保持具
A 研磨液(研削液)
B 洗浄液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12