(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】連続式雰囲気熱処理炉
(51)【国際特許分類】
F27B 9/04 20060101AFI20221012BHJP
F27B 9/02 20060101ALI20221012BHJP
F27B 9/12 20060101ALI20221012BHJP
F27D 7/00 20060101ALI20221012BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F27B9/04
F27B9/02
F27B9/12
F27D7/00 Z
C21D9/56 102
(21)【出願番号】P 2018138601
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】神谷 祐樹
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-052443(JP,A)
【文献】特開平03-243724(JP,A)
【文献】特開平07-034139(JP,A)
【文献】特開2008-180487(JP,A)
【文献】特開2004-141944(JP,A)
【文献】特開2014-122390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/00- 9/40
F27D 7/00-15/02
C21D 1/76
C21D 9/52- 9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被熱物
としての線材コイルを熱処理する連続式雰囲気熱処理炉であって、
前記被熱物を搬送する搬送手段と、
酸化性雰囲気で加熱されたガスが吹き込まれることで前記被熱物の急速予熱を行なう第1加熱室と、
該第1加熱室に隣接し、室内の真空パージが行なわれる入口側パージ室と、
該入口側パージ室に隣接し、還元性雰囲気で加熱されたガスが循環することにより前記被熱物の急速加熱を行う第2加熱室と、
該第2加熱室に隣接し、還元性雰囲気で前記被熱物の熱処理を行う熱処理室と、
該熱処理室に隣接し、室内の真空パージが行なわれる出口側パージ室と、を備え
、
前記第1加熱室は、前記線材コイルの上端近傍に配置される第1蓋部と、室内のガスを加熱する第1加熱手段と、該ガスを前記線材コイルの内径穴へ下方から吹き込む第1ガス送風装置と、を備え、
前記第2加熱室は、前記線材コイルの上端近傍に配置される第2蓋部と、室内のガスを加熱する第2加熱手段と、該ガスを前記線材コイルの内径穴へ下方から吹き込む第2ガス循環装置と、を備えていることを特徴とする連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項2】
前記第1加熱室は、室内の雰囲気が300~550℃に加熱されるものであることを特徴とする請求項
1に記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項3】
前記出口側パージ室に隣接する急速冷却室を更に備え
、
前記急速冷却室は、前記線材コイルの上端近傍に配置される第3蓋部と、冷風としての大気を前記線材コイルの内径穴へ下方から吹き込むブロア装置と、を備えていることを特徴とする請求項1
,2の何れかに記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項4】
前記入口側パージ室の後側の開口を閉塞する扉と、前記第2加熱室の前側の開口を閉塞する扉と、がそれぞれ対向して設けられ、
これら二つの扉が昇降する領域を含む、前記入口側パージ室と前記第2加熱室との間の領域を、外部と気密に遮断する区画室が形成されていることを特徴とする請求項1~
3の何れかに記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【請求項5】
前記熱処理室の後側の開口を閉塞する扉と、前記出口側パージ室の前側の開口を閉塞する扉と、がそれぞれ対向して設けられ、
これら二つの扉が昇降する領域を含む、前記熱処理室と前記出口側パージ室との間の領域を、外部と気密に遮断する区画室が形成されていることを特徴とする請求項1~
4の何れかに記載の連続式雰囲気熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線材コイル等の被熱物を雰囲気ガス中で連続的に熱処理する連続式雰囲気熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、線材コイルの熱処理を行う熱処理装置についての発明が示され、そこにおいて線材コイルの上端を閉塞する閉塞板(蓋部)を設けることで、線材コイルの内径穴の下方から上向きに吹き込んだ加熱用ガスを、線材コイルの内径側から外径側に外向きに流通させ、線材コイルを短時間で且つ均一に加熱するようになした点が開示されている。
【0003】
しかしながら、このような熱処理装置を用いた場合であっても、酸化性雰囲気での加熱では、高温域において線材コイルの表面に酸化スケールが生じ、母相で脱炭が発生する問題が生じる。また、還元性雰囲気での加熱では、低温時においてガス組成中のCOがCとCO2とに分解し、発生した煤が線材コイルの表面に付着する問題が生じる。
【0004】
このような品質上の問題を解決する方法として、加熱温度域に応じて炉内のガスを入れ替えて、熱処理装置の雰囲気性状を変更することも考えられるが、その見返りとして雰囲気ガスコストの増加や雰囲気変更に要する時間分の熱処理時間延長といった新たな問題が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、酸化スケールおよび煤の発生を抑制しながら、被熱物を常温から所定温度にまで短時間で加熱することができる連続式雰囲気熱処理炉を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して本発明は、被熱物を熱処理する連続式雰囲気熱処理炉であって、 前記被熱物を搬送する搬送手段と、酸化性雰囲気で加熱されたガスが吹き込まれることで前記被熱物の急速予熱を行なう第1加熱室と、該第1加熱室に隣接し、室内の真空パージが行なわれる入口側パージ室と、該入口側パージ室に隣接し、還元性雰囲気で加熱されたガスが循環することにより前記被熱物の急速加熱を行う第2加熱室と、該第2加熱室に隣接し、還元性雰囲気で前記被熱物の熱処理を行う熱処理室と、該熱処理室に隣接し、室内の真空パージが行なわれる出口側パージ室と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
このように本発明の連続式雰囲気熱処理炉は、(酸化スケールが発生しにくい)低温域での加熱に適した酸化性雰囲気の第1加熱室と、(煤が発生しにくい)高温域での加熱に適した還元性雰囲気の第2加熱室と、を同時に設けたものである。本発明では、常温から目的とする温度に到るまでの途中段階で、搬送手段を用いて被処理物を第1加熱室から第2加熱室に移動させることで、酸化性雰囲気における酸化スケールの発生と還元性雰囲気における煤の発生の両方を良好に抑制することができる。
また、本発明では、加熱温度域に応じて炉内(室内)のガスを入れ替える必要はなく、短時間で目的とする温度にまで被熱物を昇温することができる。
【0009】
本発明では、前記被熱物が線材コイルである場合、前記第1加熱室を、前記線材コイルの上端近傍に配置される第1蓋部と、室内のガスを加熱する第1加熱手段と、該ガスを前記線材コイルの内径穴へ下方から吹き込む第1ガス送風装置と、を備えたものとすることができる。
【0010】
また同様に、前記第2加熱室についても、前記線材コイルの上端近傍に配置される第2蓋部と、室内のガスを加熱する第2加熱手段と、該ガスを前記線材コイルの内径穴へ下方から吹き込む第2ガス循環装置と、を備えたものとすることができる。
【0011】
このようにすれば、線材コイルの内径穴内に吹き込まれたガスは、蓋部によって内径穴の上端部からの流出が阻止される。このためガスは、線材コイルを構成する線材の隙間を通って、内径側から外径側に流通することとなる。このようなガス流れとすることで、線材コイルの内外および上下間の温度差を最小に保ちながら、線材コイルを短時間で所定の温度にまで加熱することができる。
【0012】
本発明では、前記第1加熱室を、室内の雰囲気が300~550℃に加熱されるものとすることができる。
本発明では、酸化性雰囲気の下、第1加熱室にて被熱物の急速予熱を行なうため、第1加熱室における酸化スケールの発生に留意する必要がある。酸化スケールが発生する温度は鋼種によっても異なるが、およそ300~550℃である。このため第1加熱室は、室内の雰囲気として300~550℃にまで加熱されるものとし、この範囲内で鋼種に応じて予熱温度を設定することが望ましい。例えば、炭素鋼の場合、500~550℃にすることが望ましい。
【0013】
また本発明では、前記出口側パージ室に隣接する急速冷却室を更に備えておくことができる。このようにすれば、被熱物の加熱に要する時間の短縮化に加えて、更に冷却に要する時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態の連続式雰囲気熱処理炉を示した図である。
【
図2】
図1の急速予熱室、入口側パージ室および急速加熱室をその周辺部とともに拡大して示した図である。
【
図5】
図1の出口側パージ室および急速冷却室をその周辺部とともに拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の一実施形態の連続式雰囲気熱処理炉を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、Wは線材をコイル状に巻回した被熱物としての線材コイル、10は線材コイルWを焼鈍処理する連続式雰囲気熱処理炉である。
連続式雰囲気熱処理炉10は、図中左端の装入テーブル12と、図中右端の搬出テーブル14との間に、第1加熱室としての急速予熱室16、入口側パージ室18、第2加熱室としての急速加熱室20、熱処理室22、出口側パージ室24、急速冷却室26が配置されている。
【0016】
連続式雰囲気熱処理炉10を構成する各室には、それぞれ独立駆動する搬送手段としてのローラ群31,32、33,34,35,36が配設され、線材コイルWはトレイ38(
図2参照)上に載置された状態で、ローラ群31~36によって順次図中右方向に搬送され連続的に焼鈍処理が行われる。
【0017】
搬送方向に長く延びた熱処理室22は、還元性雰囲気中で線材コイルWの熱処理(焼鈍)を行うものである。熱処理室22は、前側(搬送方向上流側)の開口22aが仕切扉44によって閉塞可能とされている。仕切扉44はワイヤーを介してプーリ46aに懸吊され、プーリ46aの回転により昇降する。仕切扉44が閉じることで、熱処理室22は隣接する急速加熱室20と区画される。
【0018】
また、熱処理室22の後側(搬送方向下流側)の開口22bは、断熱扉45により閉塞可能とされている。断熱扉45はワイヤーを介してプーリ46bに懸吊され、プーリ46bの回転により昇降する。
【0019】
43は、熱処理室22にRXガス(N2:45.1%,CO:19.6%、CO2:0.4%、H2:34.6%、CH4:0.3%)などの還元性ガスを供給するガス供給配管で、熱処理室22の長手方向略中央の位置で、還元性ガスを室内に供給する。供給された還元性ガスは,熱処理室22内の圧力差に基づいて図中左向き(すなわち熱処理室22の前側)に向かうガス流れと、図中右向き(すなわち熱処理室22の後側)に向かうガス流れとを生ぜしめる。
【0020】
熱処理室22には、加熱手段としてのラジアントチューブバーナ40および天井ファン42が搬送方向に沿って複数設けられている。熱処理室22内は、搬送方向に沿っておおよそ昇温、均熱、徐冷の各ゾーンに区画され、各ゾーンでは所定の温度設定となるようラジアントチューブバーナ40の出力が制御されている。
【0021】
図2は、熱処理室22の上流側に設けられた急速予熱室16、入口側パージ室18、急速加熱室20を拡大して示した図である。
【0022】
装入テーブル12に隣接する急速予熱室16は、略室温の線材コイルWを酸化性雰囲気下で、酸化スケールおよび煤の発生を抑制しつつ所定の予熱温度にまで急速予熱するためのものである。
急速予熱室16には、前後の開口50a,50bをそれぞれ閉塞し得る断熱扉51a,51bが設けられている。これら断熱扉51a,51bは、ワイヤーを介してそれぞれプーリ52a,52bに懸吊され、プーリ52a,52bの回転により昇降する。
【0023】
図3は、線材コイルWの搬送方向と直交する方向での急速予熱室16の断面図で、室内に線材コイルWが装入された状態を示している。
同図において、54は線材コイルWの上端近傍に配置される第1蓋部、57は予熱室内のガスを加熱する第1加熱手段としての直火バーナ、58は線材コイルWへガスを吹き込む第1ガス送風装置である。59は側壁上部に形成されたガス排出用の配管である。この急速予熱室16では、酸化性ガスとしての大気をバーナ57にて加熱する。
【0024】
第1蓋部54は、急速予熱室16の上壁を上下方向に貫通する軸体55の先端に取付られ、線材コイルWの上端を閉塞するように、線材コイルWに被せられている。第1蓋部54は軸体55を介して昇降装置56(
図2参照)に連結され、上下方向に昇降可能とされている。このため本例では、線材コイルWの上端と第1蓋部54との隙間sを適宜調整することが可能である。
【0025】
第1ガス送風装置58は、ダクト60と、ダクト60内部に収容された送風ファン62と、送風ファン62を回転駆動させる駆動モータ63を備えている。ダクト60は同図で示すように折れ曲がり形状をなし、その一端部には線材コイルWの直下において上向きに開口したガス吹出口60aが形成されている。一方、ダクト60の他端部には下向きのガス吸込口60bが形成されている。送風ファン62は、このガス吸込口60bの直上位置に配置されている。
【0026】
第1ガス送風装置58では、送風ファン62を回転させることで、ガス吸込口60bを通じてダクト60内に吸引したガスを、ダクト60のガス吹出口60aから上向きに吹き出す。ここで、ガス吹出口60aの直上に位置するトレイ38の中央には、板厚方向に貫通する貫通穴38aが形成されており、上向きのガスは、貫通穴38aを通過した後に線材コイルWの内径穴Waに送られる。
【0027】
このとき、線材コイルWの上端近傍には、線材コイルWを被うように第1蓋部54が配置されているため、線材コイルWの内径穴Wa内に吹き込まれたガスは、内径穴Wa上端部からの流出が阻止され、線材コイルWを構成する線材の隙間を通って、矢印で示すように内径側から外径側に流通することとなる。このようなガス流れを実現させることで、線材コイルWの内外および上下間の温度差を最小に保ちながら、線材コイルWは短時間で所定の予熱温度にまで加熱される。
【0028】
なお、64はダクト60内を流通するガスの温度を検出する温度センサである。本例では、温度センサ64と接続された制御部(図示省略)により、温度センサ64で検出されたガスの温度が、予め設定された目標雰囲気温度と一致するように、バーナ57の燃焼が適宜調整される。
【0029】
次の入口側パージ室18は、後述する還元性雰囲気の急速加熱室20内に大気が侵入するのを防止するためのものである。入口側パージ室18は、
図2に示すように前後の開口66a,66bを閉塞し得る気密扉67a,67bが設けられている。気密扉67a,67bは、それぞれワイヤーを介してプーリ68a,68bに懸吊され、プーリ68a,68bの回転により昇降する。
この入口側パージ室18には、真空ポンプ71に接続された脱気用の配管70および
図示を省略したN
2供給装置に接続されたN
2ガス供給用の配管73がそれぞれ接続されている。
【0030】
次の急速加熱室20は、急速予熱室16にて所定の温度にまで予熱された線材コイルWを、還元性雰囲気下で酸化スケールおよび煤の発生を抑制しつつ、更に所定の目標温度にまで急速加熱するためのものである。
急速加熱室20は、
図2に示すように入口側パージ室18と対向する前側の開口74aを閉塞し得る断熱扉75aが設けられている。この断熱扉75aは、ワイヤーを介してプーリ76aに懸吊され、プーリ76aの回転により昇降する。
なお、入口側パージ室18と急速加熱室20との間には、外部と気密に遮断された区画室77が形成されており、入口側パージ室18の後側開口66b、急速加熱室20の前側開口74aが開いた際、外気が室内へ進入するのを防止している。プーリ68bおよび気密扉67b、プーリ76aおよび断熱扉75aは、この区画室77中に収容されている。
一方、急速加熱室20の後側の開口74bは、前述の仕切扉44により閉塞可能とされている。
【0031】
図2に示すように急速加熱室20は、供給管79により熱処理室22と接続されおり、供給管79上に設けられた開閉弁を開くことで、熱処理室22内の還元性ガスが急速加熱室20内に供給可能とされている。
【0032】
図4は、線材コイルWの搬送方向と直交する方向での急速加熱室20の断面図で、室内に線材コイルWが装入された状態を示している。
同図において、84は線材コイルWの上端近傍に配置される第2蓋部、87は加熱室内のガスを加熱する第2加熱手段としてのラジアントチューブバーナ、88は線材コイルWにガスを吹き込む第2ガス循環装置である。
【0033】
第2蓋部84は、急速加熱室20の上壁を上下方向に貫通する軸体85の先端に取付られ、線材コイルWの上端を閉塞するように、線材コイルWに被せられている。第2蓋部84は軸体85を介してプーリ86(
図2参照)に連結されて、上下方向に昇降可能とされている。このため本例では、線材コイルWの上端と第2蓋部84との隙間sを適宜調整することが可能である。
【0034】
第2ガス循環装置88は、ダクト90と、ダクト90内部に収容された循環ファン92と、循環ファン92を回転駆動させる駆動モータ93を備えている。ダクト90は同図で示すように折れ曲がり形状をなし、その一端部には線材コイルWの直下において上向きに開口したガス吹出口90aが形成されている。一方、ダクト90の他端部には下向きのガス吸込口90bが形成されている。循環ファン92は、このガス吸込口90bの直上位置に配置されている。
【0035】
このように第2蓋部84および第2ガス循環装置88の構成は、前述の第1蓋部54および第1ガス送風装置58と基本的に同じであり、本例の急速加熱室20によれば、ラジアントチューブバーナ87で加熱された還元性ガスが、線材コイルWを構成する線材の隙間を通って、矢印で示すように内径側から外径側に流通することとなり、線材コイルWの内外および上下間の温度差を最小に保ちながら、線材コイルWは短時間で所定の加熱温度にまで加熱される。
【0036】
なお、94はダクト90内を流通するガスの温度を検出する温度センサである。本例では、温度センサ94と接続された制御部(図示省略)により、温度センサ94で検出されたガスの温度が、予め設定された目標雰囲気温度と一致するように、ラジアントチューブバーナ87の燃焼が適宜調整される。
【0037】
図5は、熱処理室22の下流側に設けられた出口側パージ室24および急速冷却室26を拡大して示した図である。
出口側パージ室24は、還元性雰囲気の熱処理室22内に大気が侵入するのを防止するためのものである。出口側パージ室24は、
図5に示すように前後の開口96a,96bを閉塞し得る気密扉97a,97bが設けられている。気密扉97a,97bは、それぞれワイヤーを介してプーリ98a,98bに懸吊され、プーリ98a,98bの回転により昇降する。
この出口側パージ室24には、真空ポンプ99に接続された脱気用の配管100および
図示を省略したN
2供給装置に接続されたN
2ガス供給用の配管101がそれぞれ接続されている。
【0038】
なお、熱処理室22と出口側パージ室24との間には、外部と気密に遮断された区画室102が形成されており、熱処理室22の後側開口22b、出口側パージ室24の前側開口96aが開いた際、外気が室内へ進入するのを防止している。
【0039】
次の急速冷却室26は、線材コイルWを、大気下で急速冷却するためのものである。急速冷却室26には、前後の開口105a,105bを閉塞し得る開閉扉106a,106bが設けられている。これら開閉扉106a,106bは、ワイヤーを介してそれぞれプーリ107a,107bに懸吊され、プーリ107a,107bの回転により昇降する。
【0040】
図6は、線材コイルWの搬送方向と直交する方向での急速冷却室26の断面図で、室内に線材コイルWが装入された状態を示している。同図において、110は線材コイルWの上端近傍に配置される第3蓋部、114は線材コイルWの内径穴Waへ冷風(大気)を吹き込むブロア装置である。115は側壁上部に形成されたガス排出用の配管である。
【0041】
この急速冷却室26の構成は、前述の急速予熱室16、急速加熱室20と基本的に同じである。第3蓋部110は、急速冷却室26の上壁を上下方向に貫通する軸体111の先端に取付られ、線材コイルWの上端を閉塞するように、線材コイルWに被せられている。
またブロア装置114のガス吹出口114aは、線材コイルWの直下に配置されている。
【0042】
このように構成された本例の急速冷却室26では、加熱されていない大気が冷却用ガスとして、ガス吸込口114bから取り込まれ、線材コイルWの内径穴Waへと送り込まれる。この冷却用ガスが、線材コイルWを構成する線材の隙間を通って、矢印で示すように内径側から外径側に流通することで線材コイルWが急冷される。なお、冷却に用いられたガスは、ガス排出用の配管115を通じて室外に排出される。
【0043】
次に、線材コイルWが装入された際の連続式雰囲気熱処理炉10の各部の動作について説明する。線材コイルWが装入されると、まず急速予熱室16において、酸化性雰囲気下で酸化スケールおよび煤の発生を抑制しつつ、その雰囲気温度に応じて線材コイルWを(例えば500℃)にまで急速予熱する。
【0044】
その後、急速予熱室16の断熱扉51bおよび入口側パージ室18の気密扉67aを開いて、ローラ群31,32を駆動させ、予熱された線材コイルWを入口側パージ室18内に移送する。気密扉67aを閉じた後、入口側パージ室18内の圧力を減圧手段70,71を用いて減圧し、室内の大気を室外に放出する。入口側パージ室18における真空引きが完了した後、入口側パージ室18内に配管73を通じてN2ガスが供給し、常圧まで復圧する。
【0045】
その後、入口側パージ室18の出側の気密扉67bおよび急速加熱室20の入側の断熱扉75aを開いて、ローラ群32,33を駆動させ、線材コイルWを急速加熱室20内に移送し、気密扉67bおよび断熱扉75aを閉じる。急速加熱室20内は、供給管79による還元性ガスの供給により還元性雰囲気下とされており、酸化スケールおよび煤の発生を抑制しつつ、その雰囲気温度に応じて線材コイルWを(例えば700℃)にまで急速加熱する。
【0046】
その後、急速加熱室20と熱処理室22との間に設けられた仕切扉44を開いて、ローラ群33,34を駆動させ、線材コイルWを熱処理室22に移送し、仕切扉44を閉じる。その後、線材コイルWは熱処理室22内を移動しながら焼鈍処理される。線材コイルWが熱処理室22の出口側に到ると、熱処理室22の断熱扉45および出口側パージ室24の気密扉97aを開いて、ローラ群34,35を駆動させ、線材コイルWを出口側パージ室24内に移送する。
【0047】
気密扉97aを閉じた後、出口側パージ室24内の圧力を減圧手段99,100によって減圧し、室内の還元性ガスを室外に放出する。出口側パージ室24における真空引きが完了した後、出口側パージ室24内にN2を供給して、常圧にまで復圧する。
【0048】
その後、出口側パージ室24の出側の気密扉97bおよび急速冷却室26の入側の開閉扉106aを開いて、ローラ群35,36を駆動させ、線材コイルWを急速冷却室26内に移送し、気密扉97bおよび開閉扉106aを閉じる。急速冷却室26内では、加熱されていない大気を冷却用ガスとして用いて線材コイルWが急冷する。そして冷却後、開閉扉106bを開いて線材コイルWを搬出テーブル14に移送すれば、線材コイルWの熱処理に関する一連の動作が完了する。
【0049】
以上のように本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉10は、(酸化スケールが発生しにくい)低温域での加熱に適した酸化性雰囲気の急速予熱室16と、(煤が発生しにくい)高温域での加熱に適した還元性雰囲気の急速加熱室20と、を同時に設けたものである。本実施形態では、常温から目的とする温度に到るまでの途中段階で、ローラ群を用いて線材コイルWを急速予熱室16から急速加熱室20に移動させることで、酸化性雰囲気における酸化スケールの発生と還元性雰囲気における煤の発生の両方を良好に抑制することができる。また、本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉10では、加熱温度域に応じて炉内(室内)のガスを入れ替える必要はなく、短時間で目的とする温度にまで線材コイルWを昇温することができる。
【0050】
本実施形態では、急速予熱室16が、線材コイルWの上端近傍に配置される第1蓋部54と、室内のガスを加熱する直火バーナ57と、ガスを線材コイルWの内径穴Waへ下方から吹き込む第1ガス送風装置58と、を備えている。
また同様に、急速加熱室20が、線材コイルWの上端近傍に配置される第2蓋部84と、室内のガスを加熱するラジアントチューブバーナ87と、ガスを線材コイルWの内径穴Waへ下方から吹き込む第2ガス循環装置88と、を備えている。
このように急速予熱室16および急速加熱室20を構成することで、線材コイルWの内外および上下間の温度差が最小に保ちながら、線材コイルWを短時間で所定の温度にまで加熱することができる。
【0051】
また、本実施形態の連続式雰囲気熱処理炉10では、出口側パージ室24に隣接する急速冷却室26を備えているため、線材コイルWの冷却に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0052】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまでも一例示である。例えば急速予熱室16内の雰囲気温度や急速加熱室20内の雰囲気温度は、煤や酸化スケールの発生を抑制できる範囲で適宜変更可能である。また加熱に使用する酸化性ガスおよび還元性ガスの組成についても適宜変更可能である等、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 連続式雰囲気熱処理炉
16 急速予熱室(第1加熱室)
18 入口側パージ室
20 急速加熱室(第2加熱室)
22 熱処理室
24 出口側パージ室
26 急速冷却室
31,32,33,34,35,36 ローラ群(搬送手段)
54 第1蓋部
57 直火バーナ(第1加熱手段)
58 第1ガス送風装置
84 第2蓋部
87 ラジアントチューブバーナ(第2加熱手段)
88 第2ガス循環装置
W 線材コイル(被熱物)
Wa 内径穴