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特許7155731フランジ付円筒部材の製造方法、フランジ付転がり軸受の製造方法、回転機械の製造方法、および、車両の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】フランジ付円筒部材の製造方法、フランジ付転がり軸受の製造方法、回転機械の製造方法、および、車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/04 20060101AFI20221012BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20221012BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20221012BHJP
   B21J 5/08 20060101ALI20221012BHJP
   B21J 5/06 20060101ALI20221012BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B21K1/04
F16C33/58
F16C33/64
B21J5/08 Z
B21J5/06 C
B21J13/02 C
B21J13/02 K
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018149297
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020022987
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02880495(US,A)
【文献】特開2010-188355(JP,A)
【文献】特開2009-008126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/04
F16C 33/58
F16C 33/64
B21J 5/08
B21J 5/06
B21J 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状を有する本体部と、該本体部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出したフランジ部とを備えるフランジ付円筒部材を造る、フランジ付円筒部材の製造方法であって、
円輪形状を有する中間素材に、径方向内側部分を拡径させ、かつ、径方向外側部分を縮径させる反転加工を施すことにより、円筒部と該円筒部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出した膨出部とを備える最終中間素材を得る工程を含み、
前記最終中間素材を得る工程においては、前記中間素材の径方向外側部分をダイスの載置面に載置した状態で、前記中間素材の内径側にパンチを挿入することで、前記中間素材の断面形状を、前記ダイスの載置面と内周面とを接続する隅部を支点に90度回転させることにより前記反転加工を行い、
前記パンチは、先端部外周面に、先端側から基端側の順に、部分円すい状の小径傾斜面部と、小径円筒面部と、部分円すい状の大径傾斜面部と、曲面部と、大径円筒面部と、段差部とを備え、
前記小径傾斜面部は、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有しており、
前記小径円筒面部は、前記小径傾斜面部の基端側の端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有しており、
前記大径傾斜面部は、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有しており、
前記曲面部は、先端側の端部を、前記大径傾斜面部の基端側の端部に滑らかに接続しており、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有し、かつ、円弧形の断面形状を有しており、
前記大径円筒面部は、先端側の端部を、前記曲面部の基端側の端部に滑らかに接続させており、前記曲面部の基端側の端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有しており、
前記段差部は、前記大径円筒面部の基端側の端部に形成され、先端側を向いている、フランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項2】
前記最終中間素材にサイジング加工を施して、前記円筒部および前記膨出部の寸法および形状を整え、前記本体部および前記フランジ部を形成することにより、前記フランジ付円筒部材を得る工程をさらに含む、請求項1に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項3】
前記フランジ付円筒部材を得る工程においては、前記最終中間素材を、マンドレルと、該マンドレルの周囲に配置され、かつ、軸方向の弾力を付与されたフローティングダイとの間に存在する円筒状空間に配置した状態で、前記最終中間素材を、円筒形状を有する円筒パンチにより、前記円筒状空間に押し込み、かつ、前記フローティングダイを、前記軸方向の弾力に抗して前記円筒パンチの押圧方向に変位させることにより、前記サイジング加工を行う、請求項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項4】
円筒形状を有する本体部と、該本体部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出したフランジ部とを備えるフランジ付円筒部材を造る、フランジ付円筒部材の製造方法であって、
円輪形状を有する中間素材に、径方向内側部分を拡径させ、かつ、径方向外側部分を縮径させる反転加工を施すことにより、円筒部と該円筒部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出した膨出部とを備える最終中間素材を得る工程と、
前記最終中間素材にサイジング加工を施して、前記円筒部および前記膨出部の寸法および形状を整え、前記本体部および前記フランジ部を形成することにより、前記フランジ付円筒部材を得る工程と、を含み、
前記フランジ付円筒部材を得る工程においては、前記最終中間素材を、マンドレルと、該マンドレルの周囲に配置され、かつ、軸方向の弾力を付与されたフローティングダイとの間に存在する円筒状空間に配置した状態で、前記最終中間素材を、円筒形状を有する円筒パンチにより、前記円筒状空間に押し込み、かつ、前記フローティングダイを、前記軸方向の弾力に抗して前記円筒パンチの押圧方向に変位させることにより、前記サイジング加工を行い、
前記マンドレルは、外周面に、前記円筒パンチの押圧方向に関して前側から順に、円筒面部と案内傾斜面部とを備え、
前記円筒面部は、前記フランジ付円筒部材の内径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有し、
前記案内傾斜面部は、前記円筒パンチの押圧方向に関する前側の端部を、前記円筒面部のうち、前記円筒パンチの押圧方向に関する後側の端部に接続させており、前記円筒パンチの押圧方向に関する前側から後側に向かうほど連続的に小さくなる外径寸法を有しており、
前記フローティングダイは、内周面に、前記円筒パンチの押圧方向に関して前側の小径円筒面部と、同じく後側の大径円筒面部と、該小径円筒面部と該大径円筒面部とを接続する段差部とを備え、
前記小径円筒面部は、前記フランジ付円筒部材の前記本体部の外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である内径寸法を有し、
前記大径円筒面部は、前記フランジ付円筒部材の前記フランジ部の外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である内径寸法を有し、
前記円筒パンチは、前記マンドレルの前記円筒面部と前記フローティングダイの前記大径円筒面部との間に実質的に隙間なく挿入できる内径寸法および外径寸法を有する、フランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項5】
前記マンドレルの前記円筒面部と前記フローティングダイの前記小径円筒面部との間の径方向寸法が、前記中間素材の軸方向寸法の0.6倍以上0.8倍以下である、請求項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項6】
前記最終中間素材を得る工程においては、前記中間素材の径方向外側部分をダイスの載置面に載置した状態で、前記中間素材の内径側にパンチを挿入することで、前記中間素材の断面形状を、前記ダイスの載置面と内周面とを接続する隅部を支点に90度回転させることにより前記反転加工を行う、請求項4または5に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項7】
前記パンチは、先端部外周面に、先端側から基端側の順に、部分円すい状の小径傾斜面部と、小径円筒面部と、部分円すい状の大径傾斜面部と、曲面部と、大径円筒面部と、段差部とを備え、
前記小径傾斜面部は、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有しており、
前記小径円筒面部は、前記小径傾斜面部の基端側の端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有しており、
前記大径傾斜面部は、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有しており、
前記曲面部は、先端側の端部を、前記大径傾斜面部の基端側の端部に滑らかに接続しており、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有し、かつ、円弧形の断面形状を有しており、
前記大径円筒面部は、先端側の端部を、前記曲面部の基端側の端部に滑らかに接続させており、前記曲面部の基端側の端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有しており、
前記段差部は、前記大径円筒面部の基端側の端部に形成され、先端側を向いている、請求項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項8】
前記最終中間素材を得る工程においては、前記中間素材の径方向外側に存在していた部分であって、前記最終中間素材において前記膨出部が形成される部分の外周面を拘束しないようにする、請求項1~のうちのいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項9】
前記中間素材として、径方向外側から内側に向かうほど連続的に小さくなる軸方向厚さを有するものを使用する、請求項1~8のいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項10】
前記中間素材として、径方向内側部分に、径方向外側から内側に向かうほど小さくなる軸方向厚さを有する楔状部を備え、かつ、前記反転加工により前記最終中間素材の外周面となる前記中間素材の軸方向側面の径方向外側部分に軸方向に突出した突出部を備えるものを使用する、請求項1~8のうちのいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項11】
前記中間素材のうち、前記楔状部の径方向外端部における軸方向厚さが、前記突出部が形成された部分の軸方向厚さの0.7倍以上である、請求項10に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項12】
円柱形状を有する素材に、円すい状の先端部を有する据え込みパンチと、円すい状の先端部を有する据え込みダイスとの間で軸方向に潰す据え込み加工を施した後、中心部分をピアス加工により打ち抜くことで、前記中間素材を得る工程をさらに含む、請求項9~11のいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項13】
前記中間素材として、径方向にわたり一定の軸方向厚さを有するものを使用する、請求項1~8のうちのいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項14】
得られる前記フランジ付円筒部材の前記本体部の外径寸法が、前記フランジ付円筒部材の軸方向寸法の3倍よりも大きい、請求項1~13のうちのいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法。
【請求項15】
外周面に内輪軌道を有する内輪と、
内周面に外輪軌道を有し、かつ、軸方向端部に径方向外方に突出したフランジ部を有する外輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に設置された複数個の転動体と、
を備える、フランジ付転がり軸受の製造方法であって、
請求項1~14のうちのいずれか1項に記載のフランジ付円筒部材の製造方法により得られるフランジ付円筒部材の内周面に、前記外輪軌道を形成することにより前記外輪を製造する、フランジ付転がり軸受の製造方法。
【請求項16】
フランジ付転がり軸受を備える回転機械の製造方法であって、
前記フランジ付転がり軸受を、請求項15に記載のフランジ付転がり軸受の製造方法により製造する、回転機械の製造方法。
【請求項17】
フランジ付転がり軸受を備える車両の製造方法であって、
前記フランジ付転がり軸受を、請求項15に記載のフランジ付転がり軸受の製造方法により製造する、車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状を有する本体部と、該本体部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出したフランジ部とを備えるフランジ付円筒部材を造る、フランジ付円筒部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械および産業機械などの回転機械や車両の回転軸は、転がり軸受により、ハウジングなどの使用時に回転しない部分に対して支持される。転がり軸受の内輪または外輪は、製造コストを抑えるために、冷間鍛造により造ることができる。
【0003】
図11(A)~図11(H)は、特開2006-90407号公報に記載された、内輪または外輪である軌道輪の製造方法の1例を示している。
【0004】
まず、長尺な線材を所定の長さに切断することにより、図11(A)に示すような、円柱形状を有する素材1を得る。
【0005】
次いで、素材1に据え込み加工を施して軸方向に圧縮することにより、図11(B)に示すような、円盤形状を有する第1中間素材2を得る。すなわち、第1中間素材2の径方向外側部分の軸方向厚さを、径方向外側に向かうほど薄くなるようにしている。
【0006】
次いで、第1中間素材2の中心部分を軸方向両側から圧縮することにより、図11(C)に示すような、中心部分に薄肉部3を有する第2中間素材4を得た後、第2中間素材4の薄肉部3をピアス加工により打ち抜くことで、図11(D)に示すような、楔形の断面形状を有する第3中間素材5を得る。
【0007】
次いで、第3中間素材5に、径方向内側部分を拡径させ、かつ、径方向外側部分を縮径させることで、断面形状を90度回転させる反転加工を施すことにより、図11(E)に示すような、円筒形状を有する第4中間素材6を得る。ここで、円輪形状を有する金属素材に反転加工を施すと、拡径した部分の肉厚は小さく、縮径した部分の肉厚は大きくなる傾向がある。図示の例では、楔形の断面形状を有する第3中間素材5を使用しているため、第4中間素材6の径方向厚さは、軸方向にわたりほぼ一定となる。
【0008】
次いで、第4中間素材6を軸方向に圧縮することで、図11(F)に示すような、内周面が凸曲面状に膨出した第5中間素材7を得る。次に、第5中間素材7の内周面に扱き加工を施すことで、図11(G)に示すような、軸方向端部に径方向内方に突出したフランジ状の余肉部8を有する第6中間素材9を得た後、ピアス加工により、第6中間素材9の余肉部8を除去して、図11(H)に示すような、円筒部材65を得る。そして、円筒部材65に、焼き入れなどの熱処理を施したり、研削加工により内輪軌道または外輪軌道を形成したりするなどして軌道輪を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-90407号公報
【文献】特開2007-292094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図12は、特開2007-292094号公報に記載された、フランジ付転がり軸受の1例を示している。フランジ付転がり軸受10は、内周面に外輪軌道11を有する外輪12と、外周面に内輪軌道13を有する内輪14と、外輪軌道11と内輪軌道13との間に転動自在に設置された複数個の転動体15とを備える。
【0011】
外輪12は、軸方向端部に径方向外方に突出したフランジ部55をさらに有する。フランジ部55は、例えば、ハウジングに外輪12を固定する際に、フランジ部55の軸方向側面をハウジングの端面に当接させて、ハウジングに対する外輪12の軸方向の位置決めを図る、あるいは、フランジ部55の円周方向複数箇所に形成した通孔にボルトを挿通することにより、外輪12のクリープを防止するなどのためのものである。
【0012】
上述のようなフランジ部55を有する外輪12を、図11(A)~図11(H)に示すような、反転加工を含む軌道輪の製造方法により造ろうとした場合、フランジ部55の径方向高さによっては、このフランジ部55を形成すべき部分の径方向厚さを十分に確保することができない可能性がある。
【0013】
本発明は、上述のような事情に鑑み、フランジ付円筒部材を製造する方法において、フランジ部を形成する部分の径方向厚さを十分に確保することができる方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の円筒部材の製造方法は、円筒形状を有する本体部と、該本体部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出したフランジ部とを備えるフランジ付円筒部材を造る方法であって、円輪形状を有する中間素材に、径方向内側部分を拡径させ、かつ、径方向外側部分を縮径させる反転加工を含む冷間鍛造加工を施すことにより、円筒部と該円筒部の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出した膨出部とを備える最終中間素材を得る工程を含む。
【0015】
前記最終中間素材を得る工程においては、前記中間素材の径方向外側部分をダイスの載置面に載置した状態で、前記中間素材の内径側にパンチを挿入することで、前記中間素材の断面形状を、前記ダイスの載置面と内周面とを接続する隅部を支点に90度回転させることにより前記反転加工を行うことができる。
【0016】
前記パンチは、先端部外周面に、先端側から基端側の順に、部分円すい状の小径傾斜面部と、小径円筒面部と、部分円すい状の大径傾斜面部と、曲面部と、大径円筒面部と、段差部とを備えるものとすることができる。
前記小径傾斜面部は、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有する。
前記小径円筒面部は、前記小径傾斜面部の基端側の端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有する。
前記大径傾斜面部は、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有する。
前記曲面部は、先端側の端部を、前記大径傾斜面部の基端側の端部に滑らかに接続しており、先端側から基端側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有し、かつ、円弧形の断面形状を有する。
前記大径円筒面部は、先端側の端部を、前記曲面部の基端側の端部に滑らかに接続させており、前記曲面部の基端側の端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有する。
前記段差部は、前記大径円筒面部の基端側の端部に形成され、先端側を向いている。
【0017】
前記最終中間素材を得る工程においては、前記中間素材の径方向外側に存在していた部分であって、前記最終中間素材において前記膨出部が形成される部分の外周面を拘束しないようにすることができる。
【0018】
前記最終中間素材にサイジング加工を施して、前記円筒部および前記膨出部の寸法および形状を整え、前記本体部および前記フランジ部を形成することにより、前記フランジ付円筒部材を得る工程をさらに含むことができる。
【0019】
前記フランジ付円筒部材を得る工程においては、前記最終中間素材を、マンドレルと、該マンドレルの周囲に配置され、かつ、軸方向の弾力を付与されたフローティングダイとの間に存在する円筒状空間に配置した状態で、前記最終中間素材を、円筒形状を有する円筒パンチにより、前記円筒状空間に押し込み、かつ、前記フローティングダイを、前記軸方向の弾力に抗して前記円筒パンチの押圧方向に変位させることにより、前記サイジング加工を行うことができる。
【0020】
前記マンドレルは、外周面に、前記円筒パンチの押圧方向に関して前側から順に、円筒面部と案内傾斜面部とを備えることができる。
前記円筒面部は、前記フランジ付円筒部材の内径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有する。
前記案内傾斜面部は、前記円筒パンチの押圧方向に関する前側の端部を、前記円筒面部のうち、前記円筒パンチの押圧方向に関する後側の端部に接続させており、前記円筒パンチの押圧方向に関する前側から後側に向かうほど連続的に小さくなる外径寸法を有する。
さらに、前記フローティングダイは、内周面に、前記円筒パンチの押圧方向に関して前側の小径円筒面部と、同じく後側の大径円筒面部と、該小径円筒面部と該大径円筒面部とを接続する段差部とを備えることができる。
前記小径円筒面部は、前記フランジ付円筒部材の前記本体部の外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である内径寸法を有する。
前記大径円筒面部は、前記フランジ付円筒部材の前記フランジ部の外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である内径寸法を有する。
さらに、前記円筒パンチは、前記マンドレルの前記円筒面部と前記フローティングダイの前記大径円筒面部との間に実質的に隙間なく挿入できる内径寸法および外径寸法を有することができる。
この場合、前記マンドレルの前記円筒面部と前記フローティングダイの前記小径円筒面部との間の径方向寸法を、前記中間素材の軸方向寸法の0.6倍以上0.8倍以下とすることができる。
【0021】
前記中間素材として、径方向外側から内側に向かうほど連続的に小さくなる軸方向厚さを有するものを使用することができる。または、前記中間素材として、径方向内側部分に、径方向外側から内側に向かうほど小さくなる軸方向厚さを有する楔状部を備え、かつ、前記反転加工により前記最終中間素材の外周面となる前記中間素材の軸方向側面の径方向外側部分に軸方向に突出した突出部を備えるものを使用することができる。この場合、前記中間素材のうち、前記楔状部の径方向外端部における軸方向厚さを、前記突出部が形成された部分の軸方向厚さの0.7倍以上とすることができる。
【0022】
いずれの場合にも、円柱形状を有する素材に、円すい状の先端部を有する据え込みパンチと、円すい状の先端部を有する据え込みダイスとの間で軸方向に潰す据え込み加工を施した後、中心部分をピアス加工により打ち抜くことで、前記中間素材を得る工程をさらに含むことが好ましい。
【0023】
あるいは、前記中間素材として、径方向にわたり一定の軸方向厚さを有するものを使用することができる。
【0024】
得られる前記フランジ付円筒部材の前記本体部の外径寸法を、前記フランジ付円筒部材の軸方向寸法の3倍よりも大きくすることが好ましい。
【0025】
本発明のフランジ付転がり軸受の製造方法の対象となるフランジ付転がり軸受は、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有し、かつ、軸方向端部に径方向外方に突出したフランジ部を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に設置された複数個の転動体とを備える。本発明のフランジ付転がり軸受の製造方法は、本発明のフランジ付円筒部材の製造方法により得られるフランジ付円筒部材の内周面に、前記外輪軌道を形成することにより前記外輪を製造する。
【0026】
本発明の回転機械の製造方法の対象となる回転機械は、フランジ付転がり軸受を備える。本発明の回転機械の製造方法は、前記フランジ付転がり軸受を、本発明のフランジ付転がり軸受の製造方法により製造する。
【0027】
本発明の車両の製造方法の対象となる車両は、フランジ付転がり軸受を備える。本発明の車両の製造方法は、前記フランジ付転がり軸受を、本発明のフランジ付転がり軸受の製造方法により製造する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、フランジ付円筒部材を製造する方法において、フランジ部を形成する部分の径方向厚さを十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1(A)~図1)は、本発明の実施の形態の第1例に係るフランジ付円筒部材の製造方法を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態の第1例における据え込み装置を示す断面図である。
図3図3(A)~図3(C)は、本発明の実施の形態の第1例について、中間素材を最終中間素材に加工する様子を示す断面図である。
図4図4(A)~図4(C)は、本発明の実施の形態の第1例について、最終中間素材をフランジ付円筒部材に加工する様子を示す断面図である。
図5図5は、本発明の実施の形態の第1例について、反転加工が可能な条件を説明するための図である。
図6図6(A)は、本発明の実施の形態の第2例に係るフランジ付円筒部材の製造方法で使用する予備中間素材を示す断面図であり、図6(B)は、本発明の実施の形態の第2例における据え込み装置を示す断面図である。
図7図7は、本発明の実施の形態の第2例に係るフランジ付円筒部材の製造方法で使用する中間素材を示す断面図である。
図8図8(A)~図8(D)は、本発明の実施の形態の第3例に係るフランジ付円筒部材の製造方法を示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施の形態の第3例について、中間素材を最終中間素材に加工する様子を示す断面図である。
図10図10は、本発明の実施の形態の第3例について、最終中間素材をフランジ付円筒部材に加工する様子を示す断面図である。
図11図11(A)~図11(H)は、従来のフランジ付円筒部材の製造方法の1例を示す図である。
図12図12は、フランジ付転がり軸受の従来構造の1例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、図1(A)~図5を用いて説明する。本例のフランジ付円筒部材の製造方法の対象となるフランジ付円筒部材16は、図1(E)に示すように、円筒形状を有する本体部17と、この本体部17の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出したフランジ部18とを備える。
【0031】
本例のフランジ付円筒部材の製造方法は、円柱形状を有する素材19を得る第1工程と、素材19を予備中間素材20に加工する第2工程と、予備中間素材20を中間素材21に加工する第3工程と、中間素材21を最終中間素材22に加工する第4工程と、最終中間素材22をフランジ付円筒部材16に加工する第5工程とを含む。
【0032】
まず、第1工程では、球状化処理が施された高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)などの硬質金属材料製の長尺な線材を所定の長さに切断することにより、図1(A)に示すような、円柱形状を有する素材19を得る。
【0033】
次に、第2工程では、素材19に、この素材19を軸方向に潰す据え込み加工を施すことにより、図1(B)に示すような、円板形状を有する予備中間素材20を得る。予備中間素材20の軸方向厚さは、中心部で最も小さく、径方向外側に向かうほど連続的に大きくなっている。すなわち、予備中間素材20は、台形を、短辺を中心に回転させた回転体形状を有する。換言すれば、予備中間素材20は、軸方向両側面を円すい凹面としている。
【0034】
素材19を軸方向に潰す据え込み加工は、図2に示すような据え込み装置23により行う。据え込み装置23は、外径拘束型24と、据え込みパンチ25と、据え込みダイス26とを備える。なお、本例では、据え込み装置23の軸方向を上下方向に向け、据え込みパンチ25を上側に配置し、かつ、据え込みダイス26を下側に配置している。
【0035】
外径拘束型24は、予備中間素材20の外周面を拘束するためのもので、得るべき予備中間素材20の外径寸法と等しい内径寸法を有する内周面を備える。
【0036】
据え込みパンチ25は、先端部(図2の下端部)に、円すい状のパンチ側押圧面27を有する。パンチ側押圧面27の頂角θは、後述する反転加工における金属材料の移動量などに応じて適切な大きさに設定される。具体的には、頂角θを、165°以上175°以下とすることが好ましい。据え込みパンチ25は、外径拘束型24の内径側に、外径拘束型24に対する軸方向変位、すなわち昇降を可能に、かつ、径方向のがたつきなく挿入される。
【0037】
据え込みダイス26は、先端部(図2の上端部)に、円すい状のダイス側押圧面28を有する。具体的には、据え込みダイス26のダイス側押圧面28は、据え込みパンチ25のパンチ側押圧面27の形状と、据え込み装置23の中心軸に直交する仮想平面に関して対称な形状を有する。据え込みダイス26は、図示しないノックアウトピンをさらに有する。据え込みダイス26は、外径拘束型24の内径側に径方向のがたつきなく設置され、かつ、据え込みパンチ25から離れる方向の軸方向変位、すなわち下降を阻止されている。
【0038】
このような据え込み装置23により、素材19に据え込み加工を施すには、まず、素材19を、外径拘束型24の上側開口からこの外径拘束型24の内径側に挿入し、据え込みダイス26のダイス側押圧面28に載置する。
【0039】
次いで、据え込みパンチ25を、外径拘束型24の上側開口からこの外径拘束型24の内径側に挿入して下降させ、パンチ側押圧面27の先端部(頂点)を、素材19の上側面に当接させる。そして、据え込みパンチ25をさらに下降させることにより、素材19を、据え込みパンチ25のパンチ側押圧面27と据え込みダイス26のダイス側押圧面28との間で上下方向に押し潰して、予備中間素材20を得る。なお、本例では、据え込み加工完了時点で、予備中間素材20の軸方向中間部外周面のみが外径拘束型24の内周面に当接し、かつ、予備中間素材20の軸方向両端部外周面と外径拘束型24の内周面との間に円環状の隙間が存在するように、据え込みパンチ25による押し潰し量を調整している。これにより、外径拘束型24に、過度に大きな応力が作用することを防止している。
【0040】
その後、据え込みパンチ25を上昇させ、据え込みダイス26のノックアウトピンを上昇させることで、外径拘束型24から予備中間素材20を取り出す。
【0041】
次の第3工程では、予備中間素材20にピアス加工を施して中心部分を打ち抜くことにより、図1(C)に示すような、円輪形状を有する中間素材21を得る。中間素材21は、径方向外側から内側に向かうほど小さくなる軸方向厚さを有する。すなわち、中間素材21は、短辺を径方向内側に配置し、かつ、長辺を径方向外側に配置した台形の断面形状を有する。
【0042】
次に、第4工程では、中間素材21に、径方向内側部分を拡径させ、かつ、径方向外側部分を縮径させる反転加工を施すことにより、図1(D)に示すような、最終中間素材22を得る。最終中間素材22は、円筒部29と、この円筒部29の軸方向端部の外周面から径方向外方に突出した膨出部30とを備える。換言すれば、最終中間素材22は、軸方向片側(図1(D)の下側)の薄肉部31と、軸方向他側(図1(D)の上側)の厚肉部32とからなる。
【0043】
第4工程では、図3(A)~図3)に示すような、金型装置33を使用する。金型装置33は、ダイス34と、パンチ35とを備える。本例では、金型装置33の軸方向を上下方向に向け、ダイス34を下側に配置し、かつ、パンチ35を上側に配置している。
【0044】
ダイス34は、得るべき最終中間素材22の円筒部29の外径寸法と同じ内径寸法を有する内周面36と、上側面37と、内周面36と上側面37とを接続し、かつ、円弧形の断面形状を有する隅部38とを有する。内周面36の内径寸法は、隅部38が形成された上端部を除いて軸方向にわたり一定である。
【0045】
パンチ35は、先端部(図3(A)~図3)の下端部)外周面を、先端側から基端側に向かうほど、すなわち下側から上側に向かうほど外径寸法が段階的に大きくなる段付円筒面状に構成している。すなわち、パンチ35は、先端部外周面に、下側から順に、部分円すい状の小径傾斜面部39と、小径円筒面部40と、部分円すい状の大径傾斜面部41と、曲面部42と、大径円筒面部43と、段差部44とを備える。
【0046】
小径傾斜面部39は、下側から上側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有する。小径円筒面部40は、小径傾斜面部39の上端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有する。大径傾斜面部41は、下側から上側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有する。曲面部42は、下端部を、大径傾斜面部41の上端部に滑らかに接続させており、下側から上側に向かうほど連続的に大きくなる外径寸法を有し、かつ、円弧形の断面形状を有する。大径円筒面部43は、下端部を、曲面部42の上端部に滑らかに接続させており、曲面部42の上端部における外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有する。段差部44は、大径円筒面部43の上端部に形成され、下側を向いている。
【0047】
このような金型装置33により、中間素材21に冷間鍛造加工を施して最終中間素材22を得るためには、まず、図3(A)に示すように、中間素材21の径方向外側部分を、ダイス34の上側面37に載置し、中間素材21の内径側に、パンチ35の先端部を上側から挿入する。
【0048】
次いで、図3(A)→図3(B)図3(C)に示すように、パンチ35を下降させる。これにより、中間素材21に、径方向内側部分を拡径させ、かつ、径方向外側部分を縮径させることで、断面形状を90度回転させる反転加工を施す。具体的には、中間素材21の下側面のうちでダイス34の隅部38と当接する部分を支点とし、径方向内側部分を、パンチ35の大径傾斜面部41および曲面部42により拡径する方向に案内することにより、中間素材21を、この中間素材21の断面形状を90度回転させるように塑性変形させる。
【0049】
本例では、反転加工の完了時点では、最終中間素材22の厚肉部32の内周面は、パンチ35の大径円筒面部43により拘束される。これに対し、反転加工の間中、中間素材21の径方向外側に存在していた部分であって、最終中間素材22において厚肉部32が形成される部分を、ダイス34の上側面よりも上方に位置させて、当該部分の外周面を拘束しないようにして膨出部30を形成し、最終中間素材22を得る。
【0050】
次に、第5工程では、最終中間素材22にサイジング加工を施して、円筒部29および膨出部30の寸法および形状を整えることにより、本体部17とフランジ部18とを備えたフランジ付円筒部材16を得る。最終中間素材22をフランジ付円筒部材16に加工するためのサイジング加工は、図4(A)~図4(C)に示すようなサイジング装置45により行う。サイジング装置45は、マンドレル46と、フローティングダイ47と、円筒パンチであるパンチ48とを備える。本例では、サイジング装置45の軸方向を上下方向に向け、マンドレル46およびフローティングダイ47を下側に配置し、かつ、パンチ48を上側に配置している。
【0051】
マンドレル46は、外周面に、下側から順に、すなわち、パンチ48の押圧方向に関して前側から順に、円筒面部49と案内傾斜面部50とを備える。円筒面部49は、得るべきフランジ付円筒部材16の内径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である外径寸法を有する。案内傾斜面部50は、下端部を、円筒面部49の上端部に接続させており、下側から上側に向かうほど連続的に小さくなる外径寸法を有する。
【0052】
フローティングダイ47は、マンドレル46の外周面と同軸に配置された内周面に、下側の小径円筒面部51と、上側の大径円筒面部52と、小径円筒面部51と大径円筒面部52とを接続する段差部53とを備える。小径円筒面部51は、得るべきフランジ付円筒部材16の本体部17の外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である内径寸法を有する。大径円筒面部52は、得るべきフランジ付円筒部材16のフランジ部18の外径寸法と同じであり、かつ、軸方向にわたり一定である内径寸法を有する。フローティングダイ47は、マンドレル46の周囲に、このマンドレル46に対する軸方向の相対変位を可能に設置されており、かつ、弾性部材54により上方に向いた弾力を付与されている。なお、弾性部材54は、例えば、コイルばね、または、油圧式、ガス圧式若しくは空圧式のシリンダなどにより構成される
【0053】
パンチ48は、円筒形状を有し、かつ、マンドレル46の円筒面部49とフローティングダイ47の大径円筒面部52との間に、実質的に隙間なく挿入できる内径寸法および外径寸法を有する。すなわち、パンチ48は、円筒面部49の外径寸法よりもわずかに大きい内径寸法を有し、かつ、大径円筒面部52の内径寸法よりもわずかに小さい外径寸法を有する。これにより、マンドレル46およびフローティングダイ47に対するパンチ48の軸方向の相対変位を可能としつつ、サイジング加工の際に、パンチ48の内周面と円筒面部49との間部分およびパンチ48の外周面と大径円筒面部52との間部分に、最終中間素材22を構成する金属材料が侵入することを防止している。
【0054】
このようなサイジング装置45により、最終中間素材22にサイジング加工を施す際には、まず、図4(A)に示すように、マンドレル46の円筒面部49および案内傾斜面部50とフローティングダイ47の小径円筒面部51との間に存在する円筒空間に、最終中間素材22の円筒部29の下側部を挿入し、かつ、フローティングダイ47の段差部53に、最終中間素材22の膨出部30の下側面を当接させる。
【0055】
次いで、図4(A)→図4(B)→図4(C)に示すように、パンチ48を下降させ、このパンチ48の先端面により最終中間素材22の上側面を下方に押圧する。そして、最終中間素材22を、マンドレル46の円筒面部49とフローティングダイ47の小径円筒面部51および大径円筒面部52との間に存在する空間に押し込み、かつ、フローティングダイ47を、このフローティングダイ47の内周面と最終中間素材22の外周面との間に作用する摩擦力に基づき、弾性部材54の弾力に抗して下方に変位させる。このようにして、最終中間素材22の円筒部29および膨出部30の寸法および形状を整えることにより、本体部17およびフランジ部18を形成して、フランジ付円筒部材16を得る。
【0056】
上述のようにして得られたフランジ付円筒部材16に、焼き入れなどの熱処理を施したり、内周面により外輪軌道11を形成し、さらに、超仕上げ加工を施したりするなどして、フランジ付転がり軸受10の外輪12を得る。なお、外輪12の製造方法は、必要に応じて、フランジ付円筒部材16に、冷間ローリング加工や切削加工を施す工程をさらに含むこともできる。
【0057】
本例のフランジ付円筒部材の製造方法によれば、フランジ付円筒部材16においてフランジ部18を形成する部分の径方向厚さを十分に確保することができる。
【0058】
すなわち、本例では、円輪形状を有する中間素材21に、断面形状を90度回転させる反転加工を施すことにより、最終中間素材22を得るようにしている。前述したように、円輪形状を有する金属素材に反転加工を施すと、拡径した部分の肉厚は小さく、縮径した部分の肉厚は大きくなる傾向がある。特に本例では、中間素材21として、径方向外側から内側に向かうほど小さくなる軸方向厚さを有するものを使用している。このため、最終中間素材22のうちでフランジ付円筒部材16においてフランジ部18を形成する部分である膨出部30の径方向高さを十分確保することができる。
【0059】
本例では、円柱形状を有する素材19に据え込み加工を施すことにより、軸方向厚さが径方向外側に向かうほど大きくなる予備中間素材20を得て、この予備中間素材20の中心部分をピアス加工により打ち抜くことにより、反転加工を施す直前の中間素材21を得るようにしている。したがって、本例の製造方法によれば、反転加工を施す直前の中間素材を、軸方向厚さが径方向にわたり一定である円板部材の中心部分をピアス加工により打ち抜いて得る場合と比較して、材料の歩留まりを良好にすることができる。
【0060】
また、本例では、台形の断面形状を有する中間素材21に、断面形状を90度回転させる反転加工を施すようにしている。したがって、本例の製造方法によれば、矩形の断面形状を有する中間素材に反転加工を施す場合と比較して、金属材料が滞留するデッドメタル領域を小さくすることができる。
【0061】
なお、本例のフランジ付円筒部材の製造方法は、本体部17の外径寸法Dが、フランジ付円筒部材16の軸方向寸法Lの3倍よりも大きい、フランジ付円筒部材16を対象とすることができる。すなわち、図5に示すシミュレーション結果から明らかなとおり、本体部17の外径寸法Dにかかわらず、外径寸法Dが軸方向寸法Lの3倍よりも大きい場合には、中間素材21に反転加工を施すことで、断面形状を90度回転させることができるが、外径寸法Dが軸方向寸法Lの3倍以下である場合、中間素材21の断面形状を90度回転させることができない。
【0062】
なお、本例の対象となるフランジ付円筒部材16は、たとえば、軸方向寸法Lを1.5mm~8mmとし、本体部17の内径寸法dを3.9mm~21.6mmとし、外径寸法Dを5~26mmとし、フランジ部18の径方向高さhを0.5mm~2.0mmとする。
【0063】
また、本例で使用する金型装置33のダイス34の隅部38の曲率半径は、中間素材21の表面を傷つけないように、できる限り小さくすることが好ましい。一方、パンチ35の曲面部42の曲率半径は、据え込み加工の際に、中間素材21を案内できるように、適切な大きさに設定される。具体的には、中間素材21の径方向幅や軸方向厚さにもよるが、フランジ付円筒部材16の軸方向寸法Lが1.5mm~8mmであり、本体部17の内径寸法dが3.9mm~21.6mmであり、外径寸法Dが5~26mmである場合、隅部38の曲率半径を、0.5mm以上2mm以下とすることが好ましく、曲面部42の曲率半径を、5mm以上20mm以下とすることが好ましい。
【0064】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、図6(A)~図7を用いて説明する。本例では、予備中間素材20a(図1(B)参照)の形状が、実施の形態の第1例における予備中間素材20と異なる。予備中間素材20aは、円板部56と、円輪部57と、突出部58とを備える。
【0065】
円板部56は、径方向外側から中心部に向かうほど連続的に小さくなる軸方向厚さを有する。円輪部57は、円板部56の外周面から全周にわたり径方向外方に伸長しており、円板部56の径方向外端部における軸方向厚さと同じ軸方向厚さを有する。突出部58は、円輪部57の軸方向両側面のうちで反転加工により最終中間素材22(図1(E)参照)の外周面となる軸方向側面(図6(A)の下側面)の径方向外側部分から全周にわたり軸方向に突出している。なお、円輪部57のうちで突出部58が形成されていない部分の軸方向厚さT57は、突出部58が形成された部分の軸方向厚さT58の0.7倍以上とする(T57≧0.7T58)。
【0066】
このような予備中間素材20aは、素材19(図1(A)参照)に、図6(B)に示すような、据え込み装置23aにより据え込み加工を施すことで得る。据え込み装置23aは、予備中間素材20aの外周面を拘束するための外径拘束型24と、据え込みパンチ25aと、据え込みダイス26aとを備える。
【0067】
据え込みパンチ25aは、先端部(図6(B)の下側面)にパンチ側押圧面27aを有する。パンチ側押圧面27aは、径方向内側部分に形成された円すい面部59と、この円すい面部59の径方向外端部から全周にわたり径方向に伸長した円輪面部60とからなる。
【0068】
据え込みダイス26aは、先端部(図6(B)の上側面)にダイス側押圧面28aを有する。ダイス側押圧面28aは、径方向内側部分に形成された円すい面部61と、この円すい面部61の径方向外端部から全周にわたり径方向に伸長した小径円輪面部62と、この小径円輪面部62に対し下方に凹むように小径円輪面部62の周囲に形成された大径円輪面部63とからなる。
【0069】
このような据え込み装置23aの据え込みパンチ25aのパンチ側押圧面27aと据え込みダイス26aのダイス側押圧面28aとの間で、素材19を軸方向に押し潰すことにより、予備中間素材20aを得る。なお、本例では、据え込み加工完了時点で、予備中間素材20aの軸方向中間部外周面のみが外径拘束型24の内周面に当接し、かつ、予備中間素材20aの軸方向両端部外周面と外径拘束型24の内周面との間部分、および、突出部58の先端面(図6(B)の下側面)と据え込みダイス26aの大径円輪面部63との間部分に隙間がそれぞれ存在するように、据え込みパンチ25aによる押し潰し量を調整している。これにより、外径拘束型24および据え込みダイス26aに、過度に大きな応力が作用することを防止している。
【0070】
次いで、予備中間素材20aにピアス加工を施して中心部を打ち抜くことにより、図7に示すような、円輪形状を有する中間素材21aを得る。すなわち、中間素材21aは、径方向内側部分に、径方向外側から内側に向かうほど連続的に小さくなる軸方向厚さを有する楔状部64を備え、かつ、楔状部64の周囲に、楔状部64の径方向外端部における軸方向厚さと同じ軸方向厚さを有する円輪部57を備える。中間素材21aは、円輪部57の下側面の径方向外側部分から全周にわたり軸方向に突出した突出部58をさらに備える。
【0071】
本例によれば、実施の形態の第1例が対象とすることができるフランジ付円筒部材のフランジ部の径方向高さよりも、高い径方向高さを有するフランジ部18を備えたフランジ付円筒部材16を対象とすることができる。具体的には、本例によれば、フランジ付円筒部材16のフランジ部18の径方向高さを、実施の形態の第1例が対象とすることができるフランジ付円筒部材のフランジ部の径方向高さの1倍よりも大きく、1.5倍程度とすることができる。
その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0072】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、図8(A)~図10を用いて説明する。本例のフランジ付円筒部材の製造方法では、図8(A)に示すような、円板形状を有する素材19aを使用する。本例では、素材19aを、炭素(C)を0.01質量%以下、クロム(Cr)を15質量%以上17質量%以下、錫(Sn)を0.3質量%以上0.5質量%以上含有し、かつ、0.2%耐力が205MPa以上、引っ張り強さが390MPa以上、破断伸びが25%以上である、フェライト系ステンレスにより構成される。
【0073】
上述のような素材19aに、ピアス加工を施して中心部を打ち抜くことにより、図8(B)に示すような、円輪形状を有する中間素材21bに得る。次いで、図9に示すように、金型装置33を使用して、中間素材21bに反転加工を施すことにより、図8(C)に示すような、最終中間素材22aを得る。本例の場合も、実施の形態の第1例の場合と同様、反転加工の間中、中間素材21bの径方向外側に存在していた部分であって、最終中間素材22aにおいて厚肉部32が形成される部分を、ダイス34の上側面よりも上方に位置させて、当該部分の外周面を拘束しないようにして、膨出部30を形成するようにしている。
【0074】
なお、本例では、金型装置33のダイス34の内周面36とパンチ35の大径円筒面部43との間の径方向寸法Sが、素材19aの軸方向厚さTの0.8倍以上0.9倍以下となるように、ダイス34およびパンチ35の寸法を規制している。
【0075】
次いで、図10に示すように、サイジング装置45を使用して、最終中間素材22aにサイジング加工を施すことにより、図8(D)に示すような、フランジ付円筒部材16を得る。本例では、サイジング装置45のマンドレル46の円筒面部49とフローティングダイ47の小径円筒面部51との間の径方向寸法Uが、素材19a(中間素材21b)の軸方向厚さTの0.6倍以上0.8倍以下となるように、マンドレル46およびフローティングダイ47の寸法を規制している。
【0076】
上述のような本例の場合も、実施の形態の第1例の場合と同様に、中間素材21bに反転加工を施すことにより、膨出部30を有する最終中間素材22aを得るようにしているため、フランジ付円筒部材16においてフランジ部18を形成する部分の径方向厚さを十分に確保することができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【符号の説明】
【0077】
1 素材
2 第1中間素材
3 薄肉部
4 第2中間素材
5 第3中間素材
6 第4中間素材
7 第5中間素材
8 余肉部
9 第6中間素材
10 フランジ付転がり軸受
11 外輪軌道
12 外輪
13 内輪軌道
14 内輪
15 転動体
16 フランジ付円筒部材
17 本体部
18 フランジ部
19、19a 素材
20、20a、20b 予備中間素材
21、21a、21b 中間素材
22、22a 最終中間素材
23、23a 据え込み装置
24 外径拘束型
25、25a 据え込みパンチ
26、26a 据え込みダイス
27、27a パンチ側押圧面
28、28a ダイス側押圧面
29 円筒部
30 膨出部
31 薄肉部
32 厚肉部
33 金型装置
34 ダイス
35 パンチ
36 内周面
37 上側面
38 隅部
39 小径傾斜面部
40 小径円筒面部
41 大径傾斜面部
42 曲面部
43 大径円筒面部
44 段差部
45 サイジング装置
46 マンドレル
47 フローティングダイ
48 パンチ
49 円筒面部
50 案内傾斜面部
51 小径円筒面部
52 大径円筒面部
53 段差部
54 弾性部材
55 フランジ部
56 円板部
57 円輪部
58 突出部
59 円すい面部
60 円輪面部
61 円すい面部
62 小径円輪面部
63 大径円輪面部
64 楔状部
65 円筒部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12