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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】可塑状注入材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20221012BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20221012BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/10 B
E21D11/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018151721
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020026369
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上垣 義明
(72)【発明者】
【氏名】秋好 賢治
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169055(JP,A)
【文献】特開2001-064648(JP,A)
【文献】特開2002-155277(JP,A)
【文献】特開2014-108911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/08
C04B 14/10
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水と、セメント成分と、高炉スラグと、増粘材とを含有する可塑状注入材であって、
前記増粘材が、ベントナイト及びグアガムから選択される少なくともいずれかであり、
前記セメント成分と高炉スラグとの重量比が1:3であり、
かつ、
前記セメント成分と高炉スラグとの合計量が275~325kg/mの範囲であることを特徴とする、可塑状注入材。
【請求項2】
覆工背面の空隙に充填する用途に用いることを特徴とする、請求項1に記載の可塑状注入材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑状注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの覆工には、その背面に空隙が存在する場合がある。このような空隙の存在は、たとえば地震等に伴って崩落が発生する原因になり得るため好ましくない。そこで、空隙を塞ぐ方法として、可塑状注入材を注入する工法が用いられる。従来の工法に用いられている可塑状注入材は、ベントナイトを主成分とする増粘材と、水とを混合することによって得られるスラリーに、セメントを主成分とする結合材またはモルタルを混合することによって得られる(特許文献1-3参照)。
【0003】
このような注入材は、可塑性を有しており、間隙を通過しない特性を有する。そのため、注入の際、周辺地山の亀裂や覆工のひび割れからの材料漏洩を防止できる。また、従来のモルタル単体やセメントミルクと比較して、水中分離抵抗性が非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-147179号公報
【文献】特開2009-983号公報
【文献】特開2009-1466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、地中には地下水が湧き出る場所や地下水が溜まっている場所がある。そのような場所に存在する空隙に対して上記注入材を注入すると、注入材のセメント成分や増粘材成分が水中に溶出するので、濁度が上昇する。それにくわえて、セメント成分が高アルカリ性のため、水のpHが上昇する。このような地下水が流れ出た場合、地下水の濁度あるいはpHが排水基準値を超えると、作業を中止したり、地下水の処理を行ったりしなければならない。
【0006】
そこで、本発明は、地下水が湧き出る場所や地下水が溜まっている場所に存在する空隙に対して注入を行う場合においても、地下水の濁度およびpHの上昇を抑えることができる可塑状注入材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、出願人は、鋭意検討の結果、本発明にいたった。
【0008】
すなわち本発明は、少なくとも、水と、セメント成分と、高炉スラグと、増粘材とを含有する可塑状注入材であって、
前記セメント成分と高炉スラグとの重量比が1:3であり、
かつ、
前記セメント成分と高炉スラグとの合計量が275~325kg/mの範囲であることを特徴とする、可塑状注入材である。
【0009】
前記可塑状注入材は、トンネル等の覆工背面の空隙に充填する用途に好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可塑状注入材は、地下水が湧き出る場所や地下水が溜まっている場所に存在する空隙に対して注入を行う場合においても、地下水の濁度およびpHの上昇を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。
【0012】
<セメント成分>
セメントは、水と反応して強度を発現する結合材として用いられる。本発明において用いられるセメントについては、たとえば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等)が挙げられる。なお、「セメント成分」とは、たとえばシリカセメントやフライアッシュセメントといった混合セメントの場合、セメントに混合されているセメント以外の成分(シリカ、フライアッシュ)は含まないことを意味する。
【0013】
<高炉スラグ>
高炉スラグは、鉄鋼スラグの一種であり、鉄鋼製造工程において副産物として発生するものである。
【0014】
具体的には、高炉で鉄鉱石をコークスで溶融・還元する際に、銑鉄と共に高炉スラグが発生する。この高炉スラグは、鉄鉱石に含まれるシリカやアルミナ、酸化カルシウム等の鉄以外の成分を主とする。
【0015】
本発明においては、地下水の濁度およびpHを上昇させる原因となるセメント成分量を減じ、その減量分を高炉スラグで置換する。置換する高炉スラグとしては、たとえば微粉末状のものが好ましく用いられる。
【0016】
高炉スラグの添加量は、セメント成分と高炉スラグとの重量比が1:3となるように添加する。高炉スラグをこの重量比で添加することにより、セメント成分の量を低減することができる。その結果、地下水の濁度およびpHの上昇を抑制することができる。さらに、注入材として必要な強度も得ることができる。
【0017】
セメント成分に対する高炉スラグの重量比が3を下回る場合、セメント成分の量が多すぎるため、水の濁度およびpHの上昇を抑制することができない。一方で、セメント成分に対する高炉スラグの重量比が3を上回る場合、結合材としてのセメント成分の量が少なすぎるため、注入材として必要な強度を得ることができない。
【0018】
また、セメント成分と高炉スラグとの合計量は、可塑状注入材の体積を基準として、275~325kg/mの範囲であることが好ましい。
【0019】
セメント成分と高炉スラグとの合計量が275kg/mを下回ると、単位量あたりの結合材としてのセメント成分の量が少なすぎるため、注入材として必要な強度を得ることができない。一方で、セメント成分と高炉スラグとの合計量が325kg/mを上回ると、単位量あたりのセメント成分の量が多すぎるため、地下水の濁度およびpHの上昇を抑制することができない。
【0020】
<増粘材>
増粘材は、可塑状注入材に可塑性を付与させたり、可塑状注入材を安定させたりするために用いられる。増粘材としては、たとえばベントナイト、グアガム等が好ましいものとして挙げられる。
【0021】
<その他添加剤>
本発明の可塑状注入材においては、セメント成分、高炉スラグ、増粘材以外にも、強度の発現、地下水の濁度およびpHの上昇の抑制といった性能を損なわない範囲で、任意の添加剤を用いても良い。
【0022】
<覆工>
本発明の可塑状注入材は、覆工背面の空隙に注入する際に好ましく用いられる。覆工は、トンネル掘削後の地山を被覆するコンクリート構造を指す。覆工の背面には、地山の状況変化等の理由により空隙が生じる場合が多く、この空隙に可塑状注入材を注入することによって地山からの荷重が均等に覆工に作用する。上述した通り、本発明は、地下水が湧き出る場所、すなわち注入材の成分が溶出しやすい場所において注入を行う場合においても、地下水の濁度およびpHの上昇を抑制することができる点で好ましい。さらに、ウレタン等の高価な材料を使用する必要がなく、費用の点でも好ましい。
【0023】
==実施例==
次に、実施例の説明を行う。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例で用いられた可塑状注入材は、水、セメント成分、高炉スラグ、および増粘材からなる。実施例で用いられた可塑状注入材の、水以外の成分については、以下の通りである。
【0025】
セメント成分:普通ポルトランドセメント(JIS R 5210、比重=3.16)
高炉スラグ:JIS A 6206における高炉スラグ微粉末4000
(密度=2.89g/cm、比表面積=4280cm/g、活性度指数 材齢7日=69%、材齢28日=94%、材齢91日=109%、フロー値比=99%)
増粘材:ベントナイト(比重=2.60)
【0026】
各可塑状注入材について、下記で示すような、シリンダーフロー測定試験、材齢28日圧縮強度測定試験、および流水分離抵抗性試験を行った。
【0027】
<シリンダーフロー測定試験>
JHS-A-313の方法により試験を行った。なお、本実施例における目標性能は、105±25mmである。これは、発注者等が要求する規格である80~155mmよりも高い性能である。
【0028】
<材齢28日圧縮強度測定試験>
JIS A 1108の方法により材齢28日の20℃の圧縮強度を測定した。なお、本実施例における目標性能は、3.0N/mm以上である。これは、発注者等が要求する規格である、1.5N/mm以上よりも高い性能である。
【0029】
<流水分離抵抗性試験>
流速の大きい、すなわち注入材の溶出量が多くなり得る状況における注入(最小湧水量2m/分に対して、最大注入速度を100L/分)を想定した試験である。このような状況においても、水の濁度およびpHの上昇を抑制できることを確認する。具体的には、ビーカーに、あらかじめpHを測定した1Lの水道水(原水)を入れ、アズワン社製 トルネードミキサー(型番:SM-103)のプロペラを120rpmで回転させ、水流を発生させた。そこに、注入工を模擬した注射器にて可塑状注入材50ccを注入し、1分間攪拌後、ビーカー内の水のpHおよび懸濁物濃度(SS)を測定した。なお、本実施例における目標性能は、pHについては(原水+1.0)以下、SSについては100mg/L以下である。
【0030】
各可塑状注入材の配合、上記シリンダーフロー測定試験、材齢28日圧縮強度測定試験、および流水分離抵抗性試験の結果を表1に示す。
【0031】
なお、表1中において、Wは水、Cはセメント成分、BSは高炉スラグ微粉末、Vは増粘材を、それぞれ表す。
【0032】
【表1】
【0033】
まず、セメント成分と高炉スラグとの合計量を300kg/mで固定し、セメント成分と高炉スラグとの重量比が異なるNo.1-No.4の可塑状注入材について、上記目標性能を維持可能なセメント成分と高炉スラグとの重量比を検討する。
【0034】
材齢28日圧縮強度が目標性能である3N/mm以上を満たす可塑状注入材の配合は、No.1-3のように、C:BS(セメント成分に対する高炉スラグの重量比)が3以下であることがわかる。No.4のように、セメント成分に対する高炉スラグの重量比が大きすぎると、材齢28日圧縮強度が目標性能に達しない。すなわち、結合材としてのセメント成分の量が少なすぎることがわかる。
【0035】
流水分離抵抗性試験において、目標性能である「pHが(原水+1.0)以下、SSが100mg/L以下」を満たす可塑状注入材の配合は、No.3およびNo.4のように、C:BS(セメント成分に対する高炉スラグの重量比)が3以上であることがわかる。No.1およびNo.2のように、セメント成分に対する高炉スラグの重量比が小さすぎると、pHが大きく上昇してしまう。すなわち、セメント成分の量が多すぎることがわかる。
【0036】
上記結果より、流水分離抵抗性試験、材齢28日圧縮強度の両方において目標性能を満たすことのできる可塑状注入材のセメント成分と高炉スラグとの重量比は、No.3の、1:3であることが明らかとなった。
【0037】
次に、セメント成分と高炉スラグとの重量比を1:3で固定し、セメント成分と高炉スラグとの合計量が異なるNo.3およびNo.5-No.8の可塑状注入材について、上記目標性能を維持可能なセメント成分と高炉スラグとの合計量の範囲を検討する。
【0038】
これらのうち、セメント成分と高炉スラグとの合計量が300kg/mであるNo.3の可塑状注入材、325kg/mであるNo.6の可塑状注入材、およびセメント成分と高炉スラグとの合計量が275kg/mであるNo.7の可塑状注入材は、いずれも流水分離抵抗性試験、材齢28日圧縮強度の両方において目標性能を満たす。
【0039】
セメント成分と高炉スラグとの合計量が250kg/mであるNo.8の可塑状注入材は、流水分離抵抗性試験においては目標性能を満たすものの、材齢28日圧縮強度が不十分である。すなわち、単位量あたりの結合材としてのセメント成分の量が少なすぎることがわかる。
【0040】
セメント成分と高炉スラグとの合計量が350kg/mであるNo.5の可塑状注入材は、pHの上昇を抑制することができない。また、濁度についても、目標性能には達しているものの、No.3およびNo.6-No.8と比べて上昇している。すなわち、単位量あたりのセメント成分が多すぎることがわかる。
【0041】
上記結果より、流水分離抵抗性試験、材齢28日圧縮強度の両方において目標性能を満たすことのできる可塑状注入材のセメント成分と高炉スラグとの配合は、No.3、No.6、およびNo.7の可塑状注入材である。すなわち、セメント成分と高炉スラグとの重量比が1:3であり、かつ、前記セメント成分と高炉スラグとの合計量が275~325kg/mの範囲を満たすものであることが明らかとなった。