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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20221012BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H02P25/22
B62D5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018164640
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020039201
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 智宏
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤 公志
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071526(JP,A)
【文献】特開2016-113024(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068260(WO,A1)
【文献】特開2018-034676(JP,A)
【文献】特開2016-082750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統の巻線群を有するモータに目標トルクを発生させるべく前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記複数系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第1の状態と、前記複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第2の状態との間を遷移可能であって、
前記制御部は、車両の通常の駆動中に前記複数系統における一部系統に異常が発生し、その後、前記第2の状態での動作中に前記失陥した一部系統が自然に正常復帰した場合、前記第1の状態に復帰する前に、前記正常復帰した一部系統の給電開始前の点検であるイニシャルチェックを実行するとき、当該イニシャルチェックの項目のうち、前記正常系統の巻線群による前記モータの駆動に伴い前記正常復帰した系統の巻線群に生じる誘起電圧の影響を受けるとして設定された特定の項目を実行せず、残りの項目のみを実行する車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記制御部は、系統ごとに設けられる駆動回路を通じて前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して行うものであって、
前記特定の項目は、前記駆動回路と当該駆動回路に対応する系統の前記巻線群との間の給電経路に設けられるスイッチの検査である車両制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両制御装置において、
前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記失陥した一部系統が正常復帰した場合であれ、前記モータの回転数が、前記特定の項目の検査結果に影響を及ぼさないであろう前記誘起電圧に対応する前記モータの回転数を基準として設定される回転数しきい値以下であるとき、前記正常復帰した系統のイニシャルチェックのすべての項目を実行する車両制御装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の車両制御装置において、
前記制御部は、前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の個別制御部を有し、
前記系統数と同数の個別制御部は、各々の動作状態として対応する系統の前記巻線群に対する給電状態を含む状態信号を互いに授受する車両制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の車両制御装置において、
前記モータは、車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するものであって、
前記制御部は、操舵状態に応じて前記目標トルクを演算する車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構に付与されるアシストトルクの発生源であるモータを制御する制御装置が知られている。たとえば特許文献1の制御装置は、2系統の巻線を有するモータに対する給電を制御する。制御装置は、CPU(中央処理装置)および2系統の巻線にそれぞれ対応する2つのインバータ回路を有している。CPUは、操舵状態に応じて各インバータ回路を制御することにより、各系統の巻線に対する給電を独立して制御する(2系統駆動)。たとえ一方系統の巻線などに異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線への給電を通じてモータを回転させることができる(1系統駆動)。
【0003】
CPUは、電源が投入されたとき、いわゆるイニシャルチェックを系統ごとに個別に実行する。イニシャルチェクとは、モータを駆動させるための部分、すなわちモータの巻線およびインバータ回路などの異常を検査することをいう。CPUは、各系統に異常が検出されない場合、各系統のインバータ回路を通じてモータへの給電を実行する。これに対し、CPUは、2系統のいずれか一方系統に異常が検出される場合、その異常の内容によるものの、モータの駆動方法をたとえば2系統の巻線を使用する2系統駆動から1系統の巻線のみを使用する1系統駆動へ切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】登録特許第6109332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1系統駆動が行われている場合、異常が発生していた系統が正常に復帰することが考えられる。この場合、適切なアシストトルクを発生させる観点から、再び1系統駆動から2系統駆動へ切り替えることが好ましい。しかしこの場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、製品仕様によるものの、CPUは、1系統駆動から2系統駆動へ復帰させる際、正常に復帰した系統のイニシャルチェックからやり直す。ところが、このイニシャルチェックを実行するタイミングにおいてステアリングホイールが操作されている状況が想定される。このときCPUは、操舵状態に応じて正常系統の巻線に対する給電を行うところ、モータ(ロータ)の回転に伴い正常復帰した系統の巻線に誘起電圧が生じる。このため、モータが駆動している状態で正常復帰した系統のイニシャルチェックを実行する場合、イニシャルチェックの項目によっては、正常復帰した系統の巻線に生じる誘起電圧に起因して、CPUは異常である旨誤って検出するおそれがある。この場合、CPUは正常復帰した系統の巻線に対する給電を開始することができない。
【0006】
本発明の目的は、異常系統が正常復帰した場合、正常復帰した系統を早期に使用することができる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る車両制御装置は、複数系統の巻線群を有するモータに目標トルクを発生させるべく前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する制御部を有している。前記制御部は、前記複数系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第1の状態と、前記複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により前記目標トルクを発生させる第2の状態との間を遷移可能である。また、前記制御部は、車両の通常の駆動中に前記複数系統における一部系統に異常が発生し、その後、前記第2の状態での動作中に前記失陥した一部系統が自然に正常復帰した場合、前記第1の状態に復帰する前に、前記正常復帰した一部系統の給電開始前の点検であるイニシャルチェックを実行するとき、当該イニシャルチェックの項目のうち、前記正常系統の巻線群による前記モータの駆動に伴い前記正常復帰した系統の巻線群に生じる誘起電圧の影響を受けるとして設定された特定の項目を実行せず、残りの項目のみを実行する。
【0008】
複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群により目標トルクを発生させる第2の状態においては、正常系統の巻線群に対する給電を通じてモータが駆動されるところ、このモータの駆動に伴い正常復帰した系統の巻線群には誘起電圧が生じる。そして、この正常復帰した巻線群に生じる誘起電圧に起因して、制御部は、イニシャルチェックの項目によっては、正常であるにもかかわらず異常である旨誤って判定するおそれがある。
【0009】
この点、上記の構成によれば、制御部は、複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群によりモータが駆動される第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、前記誘起電圧の影響を受ける特定の項目を実行せず、残りの項目の検査のみを行う。これにより、前記特定の項目の検査結果が本来正常であるにも関わらず、前記誘起電圧の影響を受けて異常である旨誤って判定されることがない。したがって、異常系統が正常復帰した場合、この正常復帰した系統を早期に使用することができる。
【0010】
上記の車両制御装置において、前記制御部は、系統ごとに設けられる駆動回路を通じて前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して行うものであってもよい。この場合、前記特定の項目は、前記駆動回路と当該駆動回路に対応する系統の前記巻線群との間の給電経路に設けられるスイッチの検査であってもよい。
【0011】
イニシャルチェックにおいてスイッチの検査方法としては、たとえば駆動回路のオンオフとスイッチのオンオフとの組み合わせに応じて給電経路に生じる電圧に基づき、スイッチの異常を判定することが考えられる。ここで、正常復帰した系統の巻線群に誘起電圧が生じるとき、この誘起電圧は給電経路の電圧として現れることがある。このため、複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群によりモータが駆動される第2の状態において正常復帰した系統のスイッチの検査は、正常復帰した巻線群に生じる誘起電圧の影響を受けるおそれがある。したがって、前記第2の状態での動作中に前記一部系統が正常復帰した場合、当該正常復帰した一部系統のイニシャルチェックの項目からスイッチの検査をスキップすること(実行しないこと)が好ましい。
【0012】
上記の車両制御装置において、前記制御部は、前記第2の状態での動作中に前記失陥した一部系統が正常復帰した場合であれ、前記モータの回転数が、前記特定の項目の検査結果に影響を及ぼさないであろう前記誘起電圧に対応する前記モータの回転数を基準として設定される回転数しきい値以下であるとき、前記正常復帰した系統のイニシャルチェックのすべての項目を実行するようにしてもよい。
【0013】
複数系統における一部系統の失陥時に残る正常系統の巻線群によりモータが駆動される第2の状態での動作中であれ、モータの回転数が回転数しきい値以下であるときには、正常復帰した系統の巻線群に生じる誘起電圧は僅かなものとなる。このため、正常系統の巻線群によりモータが駆動される第2の状態での動作中であれ、正常復帰した系統のイニシャルチェックにおける特定の項目に及ぶ影響も少ない。したがって、上記の構成によれば、異常系統が正常復帰した場合、正常復帰した系統をより早期に使用することができる。
【0014】
上記の車両制御装置において、前記制御部は、前記複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する系統数と同数の個別制御部を有していてもよい。この場合、前記系統数と同数の個別制御部は、各々の動作状態として対応する系統の前記巻線群に対する給電状態を含む状態信号を互いに授受することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、複数系統の巻線群における一部の巻線群あるいは複数の個別制御部の一部が失陥した場合であれ、残りの巻線群あるいは残りの個別制御部を使用してモータを動作させることができる。また、系統数と同数の個別制御部は、状態信号の授受を通じて各系統の動作状態として各系統の巻線群に対する給電状態を互いに把握することができる。
【0016】
上記の車両制御装置において、前記モータは、車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するものであってもよい。この場合、前記制御部は、操舵状態に応じて前記目標トルクを演算することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、操舵状態に応じたトルクを車両の操舵機構に付与することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両制御装置によれば、異常系統が正常復帰した場合、正常復帰した系統を早期に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】車両制御装置(ECU)の第1の実施の形態が搭載される電動パワーステアリング装置の概略を示す構成図。
図2】第1の実施の形態のECUのブロック図。
図3】第1の実施の形態における第1のマイクロコンピュータおよび第2のマイクロコンピュータにより実行される電源投入時の処理手順を示すフローチャート。
図4】第1の実施の形態における正常復帰した系統のマイクロコンピュータにより実行される系統復帰時の処理手順を示すフローチャート。
図5】第2の実施の形態における正常復帰した系統のマイクロコンピュータにより実行される系統復帰時の処理手順を示すフローチャート。
図6】第3の実施の形態における第1のマイクロコンピュータと第2のマイクロコンピュータとの間における信号の授受を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施の形態>
以下、車両制御装置を、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)の制御装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示すように、EPS10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU40を備えている。
【0022】
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cからなる。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確には、ラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cとラック軸23との噛合を通じてラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θが変更される。
【0023】
操舵補助機構30は、操舵補助力(アシストトルク)の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータ31のトルクが操舵補助力として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0024】
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求、走行状態および操舵状態を示す情報(状態量)として取得し、これら取得される各種の情報に応じてモータ31を制御する。各種のセンサとしては、たとえば車速センサ41、トルクセンサ42a,42b、および回転角センサ43a,43bが挙げられる。車速センサ41は車速(車両の走行速度)Vを検出する。トルクセンサ42a,42bは、コラムシャフト22aに設けられている。トルクセンサ42a,42bはステアリングシャフト22に付与される操舵トルクτ,τを検出する。回転角センサ43a,43bは、モータ31に設けられている。回転角センサ43a,43bは、モータ31の回転角θm1,θm2を検出する。
【0025】
ECU40は、回転角センサ43a,43bを通じて検出されるモータ31の回転角θm1,θm2を使用してモータ31をベクトル制御する。また、ECU40は操舵トルクτ,τ、および車速Vに基づき目標アシストトルクを演算し、当該演算される目標アシストトルクを操舵補助機構30に発生させるための駆動電力をモータ31に供給するアシスト制御を実行する。
【0026】
つぎに、モータ31の構成を説明する。
図2に示すように、モータ31は、ロータ51、図示しないステータに巻回された第1の巻線群52および第2の巻線群53を有している。第1の巻線群52は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを有している。第2の巻線群53も、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを有している。
【0027】
つぎに、ECU40について詳細に説明する。
図2に示すように、ECU40は、第1の巻線群52および第2の巻線群53に対する給電を系統ごとに制御する。ECU40は、第1の巻線群52に対する給電を制御する第1の制御部60、および第2の巻線群53に対する給電を制御する第2の制御部70を有している。
【0028】
第1の制御部60は、第1の駆動回路61、第1の発振器62、および第1のマイクロコンピュータ63を有している。
第1の駆動回路61には、車両に搭載されるバッテリなどの直流電源81から電力が供給される。第1の駆動回路61と直流電源81(正確には、そのプラス端子)との間は、第1の給電線82により接続されている。第1の給電線82には、イグニッションスイッチなどの車両の電源スイッチ83が設けられている。この電源スイッチ83は、車両の走行用駆動源(エンジンなど)を作動させる際に操作される。電源スイッチ83がオンされたとき、直流電源81の電力は、第1の給電線82を介して第1の駆動回路61に供給される。第1の給電線82には電圧センサ65が設けられている。電圧センサ65は直流電源81の電圧Vb1を検出する。ちなみに、第1のマイクロコンピュータ63、および回転角センサ43aには、電源スイッチ83がオンされたとき、図示しない給電線を介して直流電源81の電力が供給される。
【0029】
第1の駆動回路61は、直列に接続された2つの電界効果型トランジスタ(FET)などのスイッチング素子を基本単位であるレグとして、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグが並列接続されてなるPWMインバータである。第1の駆動回路61は、第1のマイクロコンピュータ63により生成される指令信号Sc1に基づいて各相のスイッチング素子がスイッチングすることにより、直流電源81から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。第1の駆動回路61により生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路84を介して第1の巻線群52に供給される。
【0030】
給電経路84には、第1の電流センサ66、第1の電圧センサ67および第1のモータリレー群68が設けられている。第1の電流センサ66は、第1の駆動回路61から第1の巻線群52へ供給される各相の電流Im1を検出する。第1の電圧センサ67は、第1の駆動回路61における三相各相の出力端子電圧、換言すれば第1の巻線群52における三相各相の端子電圧Vm1を検出する。第1のモータリレー群68は、U相リレー、V相リレーおよびW相リレーを有している。これらリレーは、通常時にはオン状態に維持される。第1の駆動回路61において断線故障あるいは短絡故障などの異常が発生した場合、各リレーはオン状態からオフした状態へ切り替えられる。これらリレーがオフされた場合、第1の駆動回路61と第1の巻線群52との間の給電経路84が遮断されることにより、第1の駆動回路61から第1の巻線群52への給電が遮断される。ちなみに、U相リレー、V相リレーおよびW相リレーとしてFET(電界効果トランジスタ)を採用してもよい。
【0031】
第1の発振器(クロック発生回路)62は、第1のマイクロコンピュータ63を動作させるための同期信号であるクロックを生成する。
第1のマイクロコンピュータ63は、第1の発振器62により生成されるクロックに従って各種の処理を実行する。第1のマイクロコンピュータ63は、トルクセンサ42aを通じて検出される操舵トルクτ、および車速センサ41を通じて検出される車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算し、この演算される目標アシストトルクの値に応じて第1の電流指令値を演算する。
【0032】
第1の電流指令値は、操舵トルクτおよび車速Vに応じた適切な大きさの目標アシストトルクを発生させるために、第1の巻線群52に対して供給すべき電流の目標値である。第1のマイクロコンピュータ63は、操舵トルクτの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほどより大きな値(絶対値)の第1の電流指令値を演算する。第1の電流指令値(絶対値)は、モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。
【0033】
第1のマイクロコンピュータ63は、第1の巻線群52へ供給される実際の電流の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第1の駆動回路61に対する指令信号Sc1(PWM信号)を生成する。指令信号Sc1は、第1の駆動回路61の各スイッチング素子のデューティ比を規定する。デューティ比とは、パルス周期に占めるスイッチング素子のオン時間の割合をいう。第1のマイクロコンピュータ63は、回転角センサ43aを通じて検出されるモータ31(ロータ51)の回転角θm1を使用して第1の巻線群52に対する給電を制御する。第1の駆動回路61を通じて指令信号Sc1に応じた電流が第1の巻線群52に供給されることにより、第1の巻線群52は第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0034】
第2の制御部70は、基本的には第1の制御部60と同様の構成を有している。すなわち、第2の制御部70は、第2の駆動回路71、第2の発振器72、および第2のマイクロコンピュータ73を有している。
【0035】
第2の駆動回路71にも直流電源81から電力が供給される。第1の給電線82において、電源スイッチ83と第1の制御部60との間には接続点Pが設けられている。この接続点Pと第2の駆動回路71との間は、第2の給電線85により接続されている。電源スイッチ83がオンされたとき、直流電源81の電力は、第2の給電線85を介して第2の駆動回路71に供給される。第2の給電線85には電圧センサ75が設けられている。電圧センサ75は直流電源81の電圧Vb2を検出する。
【0036】
第2の駆動回路71により生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路86を介して第2の巻線群53に供給される。給電経路86には、第2の電流センサ76、第2の電圧センサ77および第2のモータリレー群78が設けられている。第2の電流センサ76は、第2の駆動回路71から第2の巻線群53へ供給される電流Im2を検出する。第2の電圧センサ77は、第2の駆動回路71における三相各相の出力端子電圧、換言すれば第2の巻線群53における三相各相の端子電圧Vm2を検出する。第2のモータリレー群78は、U相リレー、V相リレーおよびW相リレーを有している。これらリレーは、通常時にはオン状態に維持される。第2の駆動回路71において断線故障あるいは短絡故障などの異常が発生した場合、各リレーはオン状態からオフした状態へ切り替えられる。これらリレーがオフされた場合、第2の駆動回路71と第2の巻線群53との間の給電経路86が遮断されることにより、第2の駆動回路71から第2の巻線群53への給電が遮断される。
【0037】
第2のマイクロコンピュータ73は、トルクセンサ42bを通じて検出される操舵トルクτ、および車速センサ41を通じて検出される車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算し、この演算される目標アシストトルクの値に応じて第2の電流指令値を演算する。第2の電流指令値(絶対値)は、モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。そして第2のマイクロコンピュータ73は、第2の巻線群53へ供給される実際の電流の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第2の駆動回路71に対する指令信号Sc2を生成する。第2の駆動回路71を通じて指令信号Sc2に応じた電流が第2の巻線群53に供給されることにより、第2の巻線群53は第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0038】
ここで、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73は、通信線を介して相互にデジタル信号の授受を行う。第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73との間で行われる通信の規格としては、たとえば同期式のシリアル通信の規格の一種であるSPI(Serial Peripheral Interface)が採用される。また、第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73は、それぞれ自己および自己の属する系統の異常を検出する機能を有している。
【0039】
第1のマイクロコンピュータ63は、デジタル信号として自己の属する第1の系統の状態を示す第1の状態信号Sd1を生成し、この生成される第1の状態信号Sd1を第2のマイクロコンピュータ73へ供給する。第1の状態信号Sd1には、第1の系統の異常発生状態、アシスト状態およびアシスト量が含まれる。異常発生状態には、たとえば第1のマイクロコンピュータ63、第1の駆動回路61、および回転角センサ43aの異常の有無が含まれる。アシスト状態には、第1のマイクロコンピュータ63がアシスト制御を実行することができる状態、および電源電圧の低下などに起因してよってアシスト制御を実行することができない状態の2つの状態がある。さらに、アシスト制御を実行することができる状態には、アシスト制御の実行中、およびアシスト制御の実行開始待ち(アシスト開始待ち)の2つの状態がある。アシスト量は、第1の巻線群52が発生するアシストトルクの程度であって、第1の巻線群52に対して供給される電流の目標値である第1の電流指令値に対応する。
【0040】
第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63と同様に、デジタル信号として自己の属する第2の系統の状態を示す第2の状態信号Sd2を生成し、この生成される第2の状態信号Sd2を第1のマイクロコンピュータ63へ供給する。
【0041】
ここで、ECU40(第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73)は、電源が投入されたとき、いわゆるイニシャルチェックを系統ごとに個別に実行する。第1のマイクロコンピュータ63は、イニシャルチェックとして自己の属する第1の系統におけるモータ31を駆動させるための部分である第1の巻線群52、第1の駆動回路61、および第1のモータリレー群68などの異常を検査する。第2のマイクロコンピュータ73は、イニシャルチェックとして自己の属する第2の系統におけるモータ31を駆動させるための部分である第2の巻線群53、第2の駆動回路71、および第2のモータリレー群78などの異常を検査する。
【0042】
つぎに、電源投入時における第1のマイクロコンピュータ63の動作を説明する。
図3のフローチャートに示すように、第1のマイクロコンピュータ63は、電源が投入されることを契機として、第1の系統のイニシャルチェックを実行し(ステップS101)、そのイニシャルチェックの結果が正常であるかどうかを判定する(ステップS102)。
【0043】
第1のマイクロコンピュータ63は、イニシャルチェックの結果が正常である旨判定されるとき(ステップS102でYES)、アシスト制御の実行が許可された状態となる(ステップS103)。第1のマイクロコンピュータ63は、アシスト制御の実行が許可された状態において、ステアリングホイール21が操作されない場合、いわゆるアシスト開始待ちの状態を維持する。また、第1のマイクロコンピュータ63は、アシスト開始待ちの状態においてステアリングホイール21が操作されるとき、操舵状態に応じて第1の巻線群52に対する給電を制御するアシスト制御を実行する。
【0044】
第1のマイクロコンピュータ63は、イニシャルチェックの結果が正常でない旨判定されるとき(ステップS102でNO)、定められたフェイルセーフ制御を実行する(ステップS104)。第1のマイクロコンピュータ63は、フェイルセーフ制御として、たとえばモータ31に対するアシスト制御(第1の巻線群52に対する給電制御)の実行を停止する。また、第1のマイクロコンピュータ63は、第1の系統において異常が検出された旨示す情報を含む第1の状態信号Sd1を生成し、この生成される第1の状態信号Sd1を第2のマイクロコンピュータ73へ送信する。
【0045】
なお、第2のマイクロコンピュータ73も、電源が投入されたことを契機として、第1のマイクロコンピュータ63と同様にして図3のフローチャートに示される処理手順で第2の系統のイニシャルチェックを個別に実行する。
【0046】
第2のマイクロコンピュータ73は、第1の状態信号Sd1を通じて第1の系統によるアシスト制御が実行できない状態であることを認識した場合であれ、第2の系統のイニシャルチェックの結果が正常であれば、操舵状態に応じたアシスト制御を実行開始する。この場合、正常系統である第2の巻線群53に対してのみ給電される。すなわち、ECU40によるモータ31の駆動方法が、2系統の巻線群に対する給電制御を実行する2系統駆動(第1の状態)から1系統の巻線群に対する給電制御のみを実行する1系統駆動(第2の状態)へ切り替わる。
【0047】
ちなみに、正常系統である第2のマイクロコンピュータ73は、第1の系統によるアシスト制御が実行できない状態であることを認識した場合、通常通り、目標アシストトルクの半分を第2の巻線群53により発生するトルクで賄う構成を採用してもよいし、目標アシストトルクを第2の巻線群53により発生するトルクですべて賄う構成を採用してもよい。目標アシストトルクを第2の巻線群53により発生するトルクですべて賄う構成を採用する場合、第2の巻線群53に対して供給する電流の目標値(第2の電流指令値)は、2系統駆動を実行する通常時の2倍の値(モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量に対応する値)に設定される。
【0048】
このように、モータ31における2系統の巻線群に対する給電を独立して制御することにより、一方系統に異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線群への給電を通じてモータ31を回転させることができる。ここで、1系統駆動が行われている場合、異常が発生していた系統が正常状態に復帰することが考えられる。この場合、より適切なアシストトルクを発生させる観点から、ECU40によるモータ31の駆動方法を再び1系統駆動から2系統駆動へ切り替えることが好ましい。
【0049】
しかしこの場合、つぎのようなことが懸念される。たとえば第1の系統が異常状態から正常状態に復帰した場合、製品仕様によるものの、第1のマイクロコンピュータ63は再び自己系統のイニシャルチェックからやり直す。ところが、この再度のイニシャルチェックを実行するタイミングにおいてステアリングホイールが操作されている状況が想定される。この場合、第2の系統が正常状態であることを前提として、第2のマイクロコンピュータ73は操舵状態に応じて第2の巻線群53に対する給電を行うところ、この給電によるモータ(ロータ)の回転に伴い正常復帰した系統の巻線群(ここでは、第1の巻線群52)に電圧が誘起される。この第1の巻線群52に生じる誘起電圧に起因して、第1のマイクロコンピュータ63は、イニシャルチェックの項目によっては、正常であるにもかかわらず異常である旨誤って検出するおそれがある。ちなみに、このイニシャルチェックにおける誤検出は、第2の系統が異常状態から正常状態に復帰した場合、第2のマイクロコンピュータ73が自己系統のイニシャルチェックを実行するときにおいても同様に生じるおそれがある。
【0050】
また、第1のマイクロコンピュータ63は、たとえば電源電圧(直流電源81の電圧Vb1)の低下による異常動作を未然に防ぐために、電圧センサ65を通じて電源電圧を監視している。第1のマイクロコンピュータ63は、電源瞬断時などにおいて、電源電圧が第1のマイクロコンピュータ63の動作保証範囲の下限値を下回る程度に低下したことが検出される場合、自己の内部状態をリセット(初期化)する。第1のマイクロコンピュータ63は、電源電圧が再び動作保証範囲内の値に達したとき、起動してイニシャルチェックを実行する。ちなみに、第2のマイクロコンピュータ73も、第1のマイクロコンピュータ63と同様に、電源電圧(直流電源81の電圧Vb1)を監視している。そして、この第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73のリセット時におけるイニシャルチェックについても、前述したモータ31の誘起電圧に起因して、正常であるにも関わらず異常である旨誤って判定されることが懸念される。
【0051】
イニシャルチェックの種々の項目のうち、チェック結果がモータ31に生じる誘起電圧の影響を受けると考えられる項目として、第1のモータリレー群68および第2のモータリレー群78のチェックが挙げられる。第1のモータリレー群68の検査方法としては、たとえば第1のモータリレー群68(各相のリレー)が開いた状態あるいは閉じた状態で給電経路84に電圧が生じるかどうか、および第1の駆動回路61の各スイッチング素子を駆動させた状態で給電経路84に電圧が生じるかどうかなどの検査を順次行う。第2のモータリレー群78の検査方法は第1のモータリレー群68と同様である。
【0052】
たとえば、第1のマイクロコンピュータ63は、第1の駆動回路61を駆動させた状態、かつ第1のモータリレー群68に対して開いた状態に維持する旨の指令を与えているにも関わらず第1の電圧センサ67を通じて給電経路84に電圧が生じていることが検出される場合、第1のモータリレー群68に溶着などの異常が発生している旨検出する。このため、第1の系統が正常復帰して、第1のマイクロコンピュータ63が再び自己系統のイニシャルチェックを実行したとき、第1のモータリレー群68は指令に従い正常に開いた状態を維持しているにもかかわらず、第1の巻線群52に生じる誘起電圧が第1の電圧センサ67を通じて検出されることにより異常である旨誤検出されることが懸念される。
【0053】
そこで本実施の形態では、正常復帰した系統のマイクロコンピュータが実行するイニシャルチェックの項目を、正常系統の動作状態に応じて、電源投入時のチェック項目と異ならせている。
【0054】
つぎに、異常系統が正常状態に復帰した場合におけるマイクロコンピュータの動作を説明する。ここでは、第1の系統に異常が発生することにより第1の巻線群52を使用したアシスト制御が停止されている。
【0055】
図4のフローチャートに示すように、第1のマイクロコンピュータ63は、自己系統が正常状態に復帰したことが検出されるとき(ステップS201)、正常系統である第2の系統によるアシスト制御が実行中であるかどうかを判定する(ステップS202)。
【0056】
第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2を通じて第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中である旨判定されるとき(ステップS202でYES)、自己系統のイニシャルチェックを実行する(ステップS203)。ただし、このとき第1のマイクロコンピュータ63は、自己系統の第1のモータリレー群68のチェックの実行を割愛(スキップ)する。第1のマイクロコンピュータ63は、第1のモータリレー群68のチェックを除く他のチェック項目についてはすべて実行する。ちなみに、たとえ第1のモータリレー群68に異常が発生していたとしても、モータ31のロック、逆アシスト、セルフステアなどの事象が発生することはない。
【0057】
第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2を通じて第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中ではない旨判定されるとき(ステップS202でNO)、自己系統のイニシャルチェックを実行する(ステップS204)。ただし、このとき第1のマイクロコンピュータ63は、自己系統の第1のモータリレー群68のチェックを含むすべてのチェック項目を実行する。ちなみに、第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中ではない場合とは、第2の巻線群53に対して給電が行われていない、いわゆるアシスト開始待ちの状態である場合をいう。
【0058】
第1のマイクロコンピュータ63は、ステップS203またはステップS204において実行されるイニシャルチェックの結果が正常であるかどうかを判定する(ステップS205)。
【0059】
第1のマイクロコンピュータ63は、イニシャルチェックの結果が正常である旨判定されるとき(ステップS205でYES)、アシスト制御の実行が許可された状態となる(ステップS206)。
【0060】
第1のマイクロコンピュータ63は、イニシャルチェックの結果が正常でない旨判定されるとき(ステップS205でNO)、定められたフェイルセーフ制御を実行する(ステップS207)。
【0061】
なお、第1の系統が正常であることを前提として、第2の系統が異常状態から正常状態に復帰した場合、第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63と同様にして図4のフローチャートに示される処理手順で動作する。すなわち、第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63によるアシスト制御が実行中であるとき、自己系統の第2のモータリレー群78の検査の実行をスキップする(図4中のステップS203)。第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63によるアシスト制御が実行中でないときのみ、第2のモータリレー群78の検査を含むすべての検査項目を実行する(図4中のステップS204)。
【0062】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)たとえば第1の系統が異常状態から正常状態へ復帰した場合、第1のマイクロコンピュータ63は自己系統のイニシャルチェックを実行する。このとき、第1のマイクロコンピュータ63は、正常系統である第2の系統によるアシスト制御が実行中であるとき、第1の巻線群52に生じる誘起電圧の影響を受ける第1のモータリレー群68の検査の実行をスキップ(割愛)する。イニシャルチェックの全項目が正常判定されることを待つ必要がないため、異常系統が正常復帰したとき、1系統駆動から2系統駆動へ早期に復帰させることができる。ひいては、車両としてのスムーズな挙動、あるいは走行中の快適性を得ることができる。第2の系統が異常状態から正常状態へ復帰した場合についても、第1の系統が正常復帰した場合と同様である。
【0063】
(2)また、第1のマイクロコンピュータ63は、第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中でないとき(アシスト開始待ちの状態であるとき)、第1のモータリレー群68の検査を含むすべての検査項目を実行する。第1の巻線群52に対する給電が行われていない場合、モータ31(ロータ)は停止しているため、第2の巻線群53に電圧が誘起することがない。このため、正常系統における第1の巻線群52に対する給電が行われていないときにのみ正常復帰した系統の第1のモータリレー群68の検査を行うことにより、その検査結果が第1の巻線群52に生じる誘起電圧の影響を受けることがない。したがって、第1のモータリレー群68のイニシャルチェックにおいて、正しい検査結果を得ることができる。第2の系統が異常状態から正常状態へ復帰した場合についても、第1の系統が正常復帰した場合と同様である。
【0064】
(3)電源電圧(直流電源81の電圧Vb1,Vb2)の低下などに起因する第1のマイクロコンピュータ63および第2のマイクロコンピュータ73のリセット時におけるイニシャルチェックについても、前述したモータ31の誘起電圧に起因して、正常であるにも関わらず異常である旨誤って判定されることが懸念される。この点、本実施の形態では、異常である旨誤って判定されるおそれのある状況下(ここでは、正常系統がアシスト制御を実行している状況)においては、特定の検査項目(ここでは、第1のモータリレー群68または第2のモータリレー群78の検査)をスキップ(割愛)してイニシャルチェックを実行する。これにより、イニシャルチェックの誤判定が回避される。このため、電源電圧の低下あるいは変動が生じた場合であれ、ECU40としての正常な動作、車両としてのスムーズな挙動を得ることができる。
【0065】
(4)2系統のいずれか一方に異常が発生した場合、正常系統の巻線群に対する給電を通じてモータ31の駆動が継続される。このとき、モータ31に発生することが要求されるアシストトルク(目標アシストトルク)を正常系統の巻線群により発生するトルクですべて賄う構成が採用されることがある。すなわち、正常系統の巻線群に対して供給する電流の目標値が、2系統駆動を実行する通常時の2倍の値(モータ31に目標アシストトルクを発生させるために必要とされる電流量に対応する値)に設定される。このため、一方系統に異常が発生した場合であれ、モータ31は2系統駆動が実行されるときと同程度のアシストトルクを発生する。したがって、適切な操舵補助を継続して行うことができる。
【0066】
(5)ただし、2系統のいずれか一方に異常が発生した場合、要求されるアシストトルクを正常系統の巻線群により発生するトルクですべて賄う前述した構成が採用される場合、正常系統における電流負荷が2系統駆動を行う場合と比較して2倍となる。このため、異常系統が正常に復帰した場合、早期に2系統駆動へ切り替えることが好ましい。ここで、前述したように異常系統が正常に復帰した場合、正常復帰した系統のイニシャルチェックが行われるところ、このイニシャルチェックにおいて誤って異常判定されることがあると、その分だけ2系統駆動への切り替えが遅れる。これは、再度のイニシャルチェクを行って正常判定されるまで1系統駆動のままとなり、2系統駆動に切り替えることを行わないからである。
【0067】
この点、本実施の形態では、異常判定されるおそれのある状況下(ここでは、正常系統がアシスト制御を実行している状況)においては、特定の検査項目(ここでは、第1のモータリレー群68または第2のモータリレー群78の検査)をスキップ(割愛)してイニシャルチェックを実行する。これにより、イニシャルチェックの誤判定が回避される。このため、1系統駆動が実行されている期間がイニシャルチェックの誤判定に起因して無駄に延長されることがない。したがって、第1の駆動回路61および第2の駆動回路71、ならびに第1の巻線群52および第2の巻線群53などの電子部品の劣化を抑制することができる。
【0068】
<第2の実施の形態>
つぎに、車両制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を備えている。本実施の形態は、正常復帰した系統のマイクロコンピュータにより実行される系統復帰時の処理手順の点で第1の実施の形態と異なる。ここでも、第2の系統が正常であることを前提として、第1の系統が異常状態から正常状態へ復帰した場合を例に挙げる。
【0069】
図5のフローチャートに示すように、第1のマイクロコンピュータ63は、自己系統が正常状態に復帰した場合、正常系統である第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中であるかどうかを判定する(ステップS202)。
【0070】
第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2を通じて第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中である旨判定されるとき(ステップS202でYES)、モータ31の回転数Nが回転数しきい値Nth以上であるかどうかを判定する(ステップS208)。
【0071】
ここで、回転数(回転速度)Nは、たとえば回転角センサ43a,43bを通じて検出される回転角θm1,θm2を微分することにより得られる。また、回転数しきい値Nthは、操舵中(モータ31が1系統駆動されている状態)において異常状態から正常状態へ復帰した系統で実行されるイニシャルチェック(第1のモータリレー群68または第2のモータリレー群78の検査)の結果に影響を及ぼさないであろうと考えられる程度の誘起電圧に対応する回転数を基準として設定される。
【0072】
第1のマイクロコンピュータ63は、モータ31の回転数Nが回転数しきい値Nth以上である旨判定されるとき(ステップS208でYES)、自己系統の第1のモータリレー群68の検査の実行をスキップし、残る他の項目の検査を実行する。
【0073】
第1のマイクロコンピュータ63は、モータ31の回転数Nが回転数しきい値Nth以上でない旨判定されるとき(ステップS208でNO)、自己系統のすべての項目の検査を実行する(ステップS206)。
【0074】
なお、第1の系統が正常であることを前提として、第2の系統が異常状態から正常状態に復帰した場合、第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63と同様にして図5のフローチャートに示される処理手順で動作する。
【0075】
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(6)正常系統でアシスト制御が実行されている場合であれ、モータ31の回転数Nが回転数しきい値Nth以下であるときには、正常復帰した系統の巻線群に生じる誘起電圧は僅かなものとなる。このため、正常系統でアシスト制御が実行されている場合であれ、復帰系統におけるイニシャルチェック(第1のモータリレー群68または第2のモータリレー群78の検査)に及ぶ影響は少ない。このようにすれば、異常系統が正常復帰したとき、1系統駆動から2系統駆動へより早く復帰させることができる。
【0076】
<第3の実施の形態>
つぎに、車両制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0077】
図6に示すように、第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73との間では、つぎの(A1)~(A4)の4つの信号を互いに授受する。
A1.第1の状態信号Sd1。第1の状態信号Sd1には、第1の系統の異常発生状態、アシスト状態およびアシスト量が含まれる。
【0078】
A2.第2の状態信号Sd2。第2の状態信号Sd2には、第2の系統の異常発生状態、アシスト状態およびアシスト量が含まれる。
A3.第1の発振器62により生成される第1のクロックSCL1。この第1のクロックSCL1は第1のマイクロコンピュータ63が正常であることを示す周期パルスである。第1のクロックSCL1は、SPI通信線とは別個に設けられる第1の信号線を介して、第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73との間で授受される。
【0079】
A4.第2の発振器72により生成される第2のクロックSCL2。この第2のクロックSCL2は第2のマイクロコンピュータ73が正常であることを示す周期パルスである。第2のクロックSCL2は、SPI通信線とは別個に設けられる第2の信号線を介して、第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73との間で授受される。
【0080】
ここで、先の図4のフローチートに示すように、たとえば第1のマイクロコンピュータ63は、自己系統の正常復帰が検出されるとき(ステップS201)、正常系統の第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中であるかどうかに応じて、自己系統のイニシャルチェックの項目を変更する。このとき、復帰系統である第1のマイクロコンピュータ63は、第2のマイクロコンピュータ73により生成される第2の状態信号Sd2に基づき正常系統の第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中であるかどうかを判定する。このため、第1のマイクロコンピュータ63は、第2のマイクロコンピュータ73からの応答がなく第2の状態信号Sd2が取得できない場合、第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中であるかどうかを判定することができない。
【0081】
そこで、復帰系統である第1のマイクロコンピュータ63は、正常系統である第2のマイクロコンピュータ73からの第2の状態信号Sd2が取得できない場合、つぎのようにして第2のマイクロコンピュータ73の動作状態を検出する。
【0082】
第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2および第2のクロックSCL2の双方が取得できない場合、第2のマイクロコンピュータ73は停止している旨認識する。この場合、第2のマイクロコンピュータ73がアシスト制御を実行していることは無い。このため、第1のマイクロコンピュータ63は、図4のフローチートのステップS202において、正常系統である第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中ではない旨判定し(ステップS202でNO)、ステップS204へ処理を移行する。
【0083】
また、第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2が取得できない場合であれ、第2のクロックSCL2が取得されるときには、第2の状態信号Sd2を授受するための通信線に異常が発生しているだけであって、第2のマイクロコンピュータ73は動作している旨認識する。ただしこの場合、第2のマイクロコンピュータ73がアシスト制御(第2の巻線群53に対する給電制御)を実行しているかどうかまでは検出することができない。第1のマイクロコンピュータ63は、第2のマイクロコンピュータ73がアシスト制御を実行中であることもあり得るため、図4のフローチートのステップS202において、第2のマイクロコンピュータ73によるアシスト制御が実行中である旨判定し(ステップS202でYES)、ステップS203に処理を移行するようにしてもよい。
【0084】
また、第1のマイクロコンピュータ63は、第2の状態信号Sd2が取得できない場合であれ、第2のクロックSCL2が取得されるとき、つぎのようにしてもよい。たとえば、第1のマイクロコンピュータ63は、第2のマイクロコンピュータ73に対して動作を停止する旨の指令を与えた後、第2のクロックSCL2が取得できなくなったことをもって第2のマイクロコンピュータ73の動作停止が検出されたとき、図4のフローチートのステップS202からステップS204へ処理を移行するようにしてもよい。
【0085】
なお、第2の系統が異常状態から正常状態に復帰した場合、第2のマイクロコンピュータ73は、第1のマイクロコンピュータ63と同様にして図5のフローチャートに示される処理手順で動作する。
【0086】
したがって、第3の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(7)異常系統が正常に復帰した場合、正常系統のマイクロコンピュータ(63,73)からの状態信号(Sd1,Sd2)が取得できない場合であれ、正常系統のマイクロコンピュータの動作状態を示すクロック(SCL1,SCL2)に基づき、正常復帰時のイニシャルチェックにおいてモータリレー群(68,78)の検査を実行するのかスキップ(割愛)するのかを判定することができる。
【0087】
<他の実施の形態>
なお、前記各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1~第3の実施の形態では、ECU40は、互いに独立した第1の制御部60および第2の制御部70を有していたが、製品仕様などによっては、たとえば第1のマイクロコンピュータ63と第2のマイクロコンピュータ73とを単一のマイクロコンピュータとして構築してもよい。
【0088】
・第1~第3の形態では、2系統の巻線群(52,53)に対する給電を独立して制御するようにしたが、モータ31が3系統以上の巻線群を有するものである場合、これら3系統以上の巻線群に対する給電を独立して制御するようにしてもよい。また、モータ31が3系統以上の巻線群を有する場合においても、ECU40は系統数と同数の個別の制御部を有していてもよい。
【0089】
・第1~第3の実施の形態では、EPS10として、モータ31のトルクをステアリングシャフト22(コラムシャフト22a)に伝達するタイプを例に挙げたが、モータ31のトルクをラック軸23に伝達するタイプであってもよい。
【0090】
・第1~第3の実施の形態では、車両制御装置をEPS10のモータ31を制御するECU40に具体化したが、ステアリングホイール21と転舵輪26,26との間の動力伝達を分離したバイワイヤ方式の操舵装置の制御装置として具体化してもよい。このバイワイヤ方式の操舵装置には、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。これら反力モータおよび転舵モータとして、第1~第3の実施の形態と同様に、複数系統の巻線群を有するものを採用する。バイワイヤ方式の操舵装置の制御装置は、反力モータおよび転舵モータにおける複数系統の巻線群に対する給電を系統ごとに独立して制御する。
【0091】
・第1~第3の実施の形態では、車両制御装置をEPS10のモータ31を制御するECU40に具体化したが、EPS10などの操舵装置以外の他の車載機器に使用されるモータの制御装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0092】
10…EPS、20…操舵機構、31…モータ、40…ECU(制御部、車両制御装置)、52…第1の巻線群、53…第2の巻線群、60…第1の制御部(個別制御部)、61…第1の駆動回路、68…第1のモータリレー群(スイッチ)、70…第2の制御部(個別制御部)、71…第2の駆動回路、78…第2のモータリレー群(スイッチ)、84,86…給電経路、N…モータの回転数、Nth…回転数しきい値、Sd1…第1の状態信号、Sd2…第2の状態信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6