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特許7155769空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/22 20060101AFI20221012BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20221012BHJP
   B29D 30/30 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B60C9/22 G
B60C9/22 C
B60C9/22 B
B60C9/18 N
B29D30/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018166819
(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公開番号】P2020040424
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 範嚴
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/063972(WO,A1)
【文献】特開2009-035030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
B29D 30/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、
前記トレッド部に配設されるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配設されるベルトカバー層と、
を備え、
前記ベルトカバー層は、
タイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って配設されると共にタイヤ径方向に積層される2層のフルカバーと、
タイヤ幅方向における幅が前記フルカバーの幅よりも狭い幅で形成され、2層の前記フルカバー同士の間で、且つ、前記ショルダー領域よりもタイヤ幅方向内側の位置に配設される幅狭カバーと、
を有し、
前記フルカバーと前記幅狭カバーとは、それぞれ帯状のベルトカバー材がタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成され、
前記フルカバーを形成する前記ベルトカバー材と前記幅狭カバーを形成する前記ベルトカバー材とは、同一種類であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記幅狭カバーは、タイヤ幅方向における幅が5mm以上40mm以下の範囲内である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記幅狭カバーは、タイヤ幅方向における幅が、前記ベルトカバー層のタイヤ幅方向における幅の5%以上30%以下の範囲内である請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記幅狭カバーは、タイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで配置される請求項1~のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部には、タイヤ周方向に延びる主溝が形成されると共に、前記主溝によって複数の陸部が画成されており、
前記幅狭カバーは少なくとも一部が、複数の前記陸部のうちタイヤ赤道面に最も近い前記陸部のタイヤ径方向内側に位置する請求項1~のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
ベルト層のタイヤ径方向外側に帯状のベルトカバー材をタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻くことによりベルトカバー層を配設する空気入りタイヤの製造方法であって、
前記ベルトカバー層は、タイヤ径方向における内側から外側に向けて内側フルカバー、幅狭カバー、外側フルカバーを積層して形成すると共に、
前記ベルト層のタイヤ径方向外側にタイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って前記ベルトカバー材を螺旋状に巻くことにより、前記内側フルカバーを前記ショルダー領域間にかけて形成する工程と、
前記内側フルカバーのタイヤ径方向外側における前記ショルダー領域よりもタイヤ幅方向内側の位置に前記ベルトカバー材を螺旋状に巻くことにより、タイヤ幅方向における幅が前記内側フルカバーのタイヤ幅方向における幅よりも狭い幅で前記幅狭カバーを形成する工程と、
前記幅狭カバー及び前記内側フルカバーのタイヤ径方向外側にタイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域間に亘って前記ベルトカバー材を螺旋状に巻くことにより、前記外側フルカバーを前記ショルダー領域間にかけて形成する工程と、
を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気入りタイヤの中には、ベルト層のタイヤ径方向外側に配置する部材を工夫することにより、所望の性能を実現しているものがある。例えば、特許文献1に記載された空気入りタイヤは、ベルト層のタイヤ径方向外側に2層のベルト保護層を配置すると共に、タイヤ径方向外側のベルト保護層はタイヤ径方向内側のベルト保護層よりも狭幅にすることにより、耐突起性の向上を図っている。また、特許文献2に記載された空気入りタイヤは、トレッド部とベルト層との間にベルト補強層を配置し、ベルト補強層をタイヤ赤道部で3層にすることにより、重量の増加を抑制しながら破壊エネルギーを確保している。
【0003】
また、特許文献3に記載された空気入りタイヤは、トレッド部におけるタイヤ内面に接着された帯状吸音材と、ベルト層の外周側に配置されるフルカバー層と、フルカバー層の外周側に配置されてタイヤ幅中央領域を局所的に覆うセンターカバー層とを有し、帯状吸音材とベルト層の幅、及びセンターカバー層と帯状吸音材の幅をそれぞれ規定することにより、帯状吸音材によって充分な静粛性を得ながら、帯状吸音材が蓄熱することに起因する高速耐久性の低下を防止している。
【0004】
また、特許文献4に記載された空気入りタイヤは、ベルト層の外側に、端部ベルトカバー層と中央部ベルトカバー層とで構成するベルトカバー層を配置し、端部ベルトカバー層や中央部ベルトカバー層を形成する有機繊維コードの引っ張り強度と、端部ベルトカバー層と中央部ベルトカバー層との総和とを規定することにより、高周波領域のロードノイズを低減させると共に、軽量化を可能にしている。また、特許文献5に記載された空気入りタイヤは、ベルト層の外周側にストリップ材が螺旋状に巻き付けられて形成されたベルトカバーを有し、ベルトカバーは、ベルト層におけるタイヤ幅方向端部を覆う位置と、ベルト層におけるタイヤ幅方向中央部を覆う位置でストリップ材が重ね巻きされることにより、操縦安定性及び耐久性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4865259号公報
【文献】特開2010-64644号公報
【文献】特開2017-137032号公報
【文献】特許第4635366号公報
【文献】特許第4687201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、空気入りタイヤの中には、例えば、EXTRA LOAD規格の空気入りタイヤのような、高荷重に対応可能なものがある。このような空気入りタイヤは、高荷重に対応するために、比較的高い空気圧で使用可能になっている。一方で、空気入りタイヤの空気圧を高くするとトレッド部の剛性が増加するため、異物を踏んだ際にトレッド部が変形し難くなり、異物を踏み込むことに起因して発生するショックバーストが発生し易くなる。即ち、空気入りタイヤを高い空気圧で使用すると、ショックバーストに対する耐性である耐ショックバースト性能が低下し易くなる。
【0007】
ショックバーストは、トレッド部の接地面におけるタイヤ赤道面付近の領域で、路面上の異物を踏み込むことにより発生し易くなるため、耐ショックバースト性能の向上にはトレッド部におけるタイヤ赤道面付近を補強することが有効である。しかし、タイヤ赤道面付近に補強用の部材を新たに追加した場合、部材の端部となる部分であるエッジ部が、タイヤ赤道面付近の位置に増加するため、重ね合わされる部材同士がエッジ部を起点として剥離する、いわゆるエッジセパレーションが発生し易くなる。このため、エッジセパレーションに対する耐性である耐セパレーション性能を低下させることなく、耐ショックバースト性能を向上させるのは、大変困難なものとなっていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐セパレーション性能の低下を抑えつつ耐ショックバースト性能を向上させることのできる空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部と、前記トレッド部に配設されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配設されるベルトカバー層と、を備え、前記ベルトカバー層は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って配設されると共にタイヤ径方向に積層される2層のフルカバーと、タイヤ幅方向における幅が前記フルカバーの幅よりも狭い幅で形成され、2層の前記フルカバー同士の間で、且つ、前記ショルダー領域よりもタイヤ幅方向内側の位置に配設される幅狭カバーと、を有することを特徴とする。
【0010】
上記空気入りタイヤにおいて、前記幅狭カバーは、タイヤ幅方向における幅が5mm以上40mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
上記空気入りタイヤにおいて、前記幅狭カバーは、タイヤ幅方向における幅が、前記ベルトカバー層のタイヤ幅方向における幅の5%以上30%以下の範囲内であることが好ましい。
【0012】
上記空気入りタイヤにおいて、前記フルカバーと前記幅狭カバーとは、それぞれ帯状のベルトカバー材がタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成され、前記フルカバーを形成する前記ベルトカバー材と前記幅狭カバーを形成する前記ベルトカバー材とは、同一種類であることが好ましい。
【0013】
上記空気入りタイヤにおいて、前記幅狭カバーは、タイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで配置されることが好ましい。
【0014】
上記空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部には、タイヤ周方向に延びる主溝が形成されると共に、前記主溝によって複数の陸部が画成されており、前記幅狭カバーは少なくとも一部が、複数の前記陸部のうちタイヤ赤道面に最も近い前記陸部のタイヤ径方向内側に位置することが好ましい。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、ベルト層のタイヤ径方向外側に帯状のベルトカバー材をタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻くことによりベルトカバー層を配設する空気入りタイヤの製造方法であって、前記ベルトカバー層は、タイヤ径方向における内側から外側に向けて内側フルカバー、幅狭カバー、外側フルカバーを積層して形成すると共に、前記ベルト層のタイヤ径方向外側にタイヤ幅方向両側のショルダー領域間に亘って前記ベルトカバー材を螺旋状に巻くことにより、前記内側フルカバーを前記ショルダー領域間にかけて形成する工程と、前記内側フルカバーのタイヤ径方向外側における前記ショルダー領域よりもタイヤ幅方向内側の位置に前記ベルトカバー材を螺旋状に巻くことにより、タイヤ幅方向における幅が前記内側フルカバーのタイヤ幅方向における幅よりも狭い幅で前記幅狭カバーを形成する工程と、前記幅狭カバー及び前記内側フルカバーのタイヤ径方向外側にタイヤ幅方向両側の前記ショルダー領域間に亘って前記ベルトカバー材を螺旋状に巻くことにより、前記外側フルカバーを前記ショルダー領域間にかけて形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法は、耐セパレーション性能の低下を抑えつつ耐ショックバースト性能を向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。
図2図2は、図1に示すトレッド部の詳細図である。
図3図3は、図2に示すベルトカバー層の模式図である。
図4図4は、図2に示すセンター陸部の詳細図である。
図5図5は、図2のA-A矢視方向におけるベルトカバー材の模式図である。
図6図6は、実施形態に係る空気入りタイヤで路面上の突起物を踏んだ状態を示す説明図である。
図7図7は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、ベルトカバー材を重ねながら巻く場合の説明図である。
図8A図8Aは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。
図8B図8Bは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[実施形態]
[空気入りタイヤ]
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。
【0020】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の要部を示す子午断面図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、例えば、EXTRA LOAD規格のような、高荷重での使用に対応することができる空気入りタイヤ1になっている。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、子午面断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側となる部分にトレッド部2が配設されており、トレッド部2は、ゴム組成物から成るトレッドゴム層4を有している。また、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、接地面3として形成され、接地面3は、空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成している。トレッド部2には、接地面3にタイヤ周方向に延びる主溝30が複数形成されており、この複数の主溝30により、トレッド部2の表面には複数の陸部20が画成されている。本実施形態では、主溝30は4本がタイヤ幅方向に並んで形成されており、4本の主溝30は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側にそれぞれ2本ずつ配設されている。つまり、トレッド部2には、タイヤ赤道面CLの両側に配設される2本のセンター主溝31と、2本のセンター主溝31のそれぞれのタイヤ幅方向外側に配設される2本のショルダー主溝32との、計4本の主溝30が形成されている。
【0021】
なお、主溝30とは、少なくとも一部がタイヤ周方向に延在する縦溝をいう。一般に主溝30は、3mm以上の溝幅を有し、6mm以上の溝深さを有し、摩耗末期を示すトレッドウェアインジケータ(スリップサイン)を内部に有する。本実施形態では、主溝30は、6mm以上25mm以下の溝幅を有し、6mm以上9mm以下の溝深さを有しており、タイヤ赤道面CLと接地面3とが交差するタイヤ赤道線(センターライン)と実質的に平行である。主溝30は、タイヤ周方向に直線状に延在してもよいし、波形状又はジグザグ状に設けられてもよい。
【0022】
主溝30によって画成される陸部20のうち、2本のセンター主溝31同士の間に位置し、タイヤ赤道面CL上に位置する陸部20は、センター陸部21になっている。また、隣り合うセンター主溝31とショルダー主溝32との間に位置し、センター陸部21のタイヤ幅方向外側に配置される陸部20はセカンド陸部22になっている。また、セカンド陸部22のタイヤ幅方向外側に位置し、ショルダー主溝32を介してセカンド陸部22に隣り合う陸部20はショルダー陸部23になっている。
【0023】
なお、これらの陸部20は、タイヤ周方向の1周に亘ってリブ状に形成されていてもよく、トレッド部2に、タイヤ幅方向に延びるラグ溝(図示省略)が複数形成されることによって陸部20が主溝30とラグ溝とによって画成され、各陸部20がブロック状に形成されていてもよい。本実施形態では、陸部20はタイヤ周方向の1周に亘って形成されるリブ状の陸部20として形成されている。
【0024】
タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両外側端にはショルダー部5が位置しており、ショルダー部5のタイヤ径方向内側には、サイドウォール部8が配設されている。即ち、サイドウォール部8は、トレッド部2のタイヤ幅方向両側に配設されている。換言すると、サイドウォール部8は、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の両側2箇所に配設されており、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出した部分を形成している。
【0025】
タイヤ幅方向における両側に位置するそれぞれのサイドウォール部8のタイヤ径方向内側には、ビード部10が位置している。ビード部10は、サイドウォール部8と同様に、タイヤ赤道面CLの両側2箇所に配設されており、即ち、ビード部10は、一対がタイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側に配設されている。各ビード部10にはビードコア11が設けられており、ビードコア11のタイヤ径方向外側にはビードフィラー12が設けられている。ビードコア11は、スチールワイヤであるビードワイヤを束ねて円環状に形成される環状部材になっており、ビードフィラー12は、ビードコア11のタイヤ径方向外側に配置されるゴム部材になっている。
【0026】
また、トレッド部2にはベルト層14が配設されている。ベルト層14は、複数のベルト141、142が積層される多層構造によって構成されており、本実施形態では、2層のベルト141、142が積層されている。ベルト層14を構成するベルト141、142は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、20°以上55°以下)になっている。また、2層のベルト141、142は、ベルト角度が互いに異なっている。このため、ベルト層14は、2層のベルト141、142が、ベルトコードの傾斜方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造として構成されている。つまり、2層のベルト141、142は、それぞれのベルト141、142が有するベルトコードが互いに交差する向きで配設される、いわゆる交差ベルトとして設けられている。
【0027】
ベルト層14のタイヤ径方向外側には、ベルトカバー層15が配設されている。ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設されてベルト層14をタイヤ周方向に覆っており、ベルト層14を補強する補強層として設けられている。ベルトカバー層15は、タイヤ周方向に略平行でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示省略)がコートゴムで被覆されることにより形成されている。ベルトカバー層15が有するコードは、例えば、スチール、またはポリエステルやポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ナイロン、ポリアミド複合+αのハイブリッド等の有機繊維からなり、コードの角度はタイヤ周方向に対して±5°の範囲内になっている。また、ベルトカバー層15が有するコードは、コードの直径である線径が0.5mm以上1.8mm以下の範囲内になっており、コードが並ぶ方向における50mmあたりのコードの打ち込み本数が、30本以上80本以下の範囲内になっている。本実施形態では、ベルトカバー層15は、ベルト層14が配設されるタイヤ幅方向における範囲の全域に亘って配設されており、ベルト層14のタイヤ幅方向端部を覆っている。トレッド部2が有するトレッドゴム層4は、トレッド部2におけるベルトカバー層15のタイヤ径方向外側に配設されている。
【0028】
ベルト層14のタイヤ径方向内側、及びサイドウォール部8のタイヤ赤道面CL側には、ラジアルプライのコードを内包するカーカス層13が連続して設けられている。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、いわゆるラジアルタイヤとして構成されている。カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向の両側に配設される一対のビード部10間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。
【0029】
詳しくは、カーカス層13は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部10のうち、一方のビード部10から他方のビード部10にかけて配設されており、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにビード部10でビードコア11に沿ってタイヤ幅方向外側に巻き返されている。ビードフィラー12は、このようにカーカス層13がビード部10で折り返されることにより、ビードコア11のタイヤ径方向外側に形成される空間に配置されるゴム材になっている。また、ベルト層14は、このように一対のビード部10間に架け渡されるカーカス層13における、トレッド部2に位置する部分のタイヤ径方向外側に配置されている。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維材から成る複数のカーカスコードを、コートゴムで被覆して圧延加工することによって構成されている。カーカスプライを構成するカーカスコードは、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつ、タイヤ周方向にある角度を持って複数並設されている。
【0030】
ビード部10における、ビードコア11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側やタイヤ幅方向外側には、リムフランジに対するビード部10の接触面を構成するリムクッションゴム17が配設されている。また、カーカス層13の内側、或いは、当該カーカス層13の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナ16がカーカス層13に沿って形成されている。インナーライナ16は、空気入りタイヤ1の内側の表面であるタイヤ内面18を形成している。
【0031】
図2は、図1に示すトレッド部2の詳細図である。図3は、図2に示すベルトカバー層15の模式図である。ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設されるベルトカバー層15は、タイヤ径方向に積層される2層のフルカバー40と、2層のフルカバー40同士の間に配設される幅狭カバー45とを有している。このうち、2層のフルカバー40は、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設される内側フルカバー41と、内側フルカバー41のタイヤ径方向外側に配設される外側フルカバー42とを有している。これらの内側フルカバー41と外側フルカバー42とは、外側フルカバー42よりも内側フルカバー41の方がタイヤ幅方向における幅が広くなっている。また、内側フルカバー41と外側フルカバー42とは、いずれもタイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って配設されている。
【0032】
また、幅狭カバー45は、タイヤ幅方向における幅がフルカバー40の幅よりも狭い幅で形成され、ショルダー領域Ashよりもタイヤ幅方向内側の位置に配設されている。これらの内側フルカバー41と外側フルカバー42と幅狭カバー45とを有するベルトカバー層15は、タイヤ径方向における内側から外側に向けて、内側フルカバー41、幅狭カバー45、外側フルカバー42の順で積層されることにより形成されている。このため、タイヤ幅方向における幅が最も狭い幅狭カバー45は、タイヤ径方向外側から外側フルカバー42によってタイヤ幅方向における全体が覆われている。
【0033】
なお、この場合におけるショルダー領域Ashは、ベルト層14のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pとベルト層14のタイヤ幅方向における端部144との間の領域になっている。詳しくは、ショルダー領域Ashは、タイヤ子午断面において、ベルト層14が有する複数のベルト141、142のうち、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルトである最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pと、最幅広ベルト143の端部144とから、タイヤ内面18に対して垂直に延ばした線を、それぞれショルダー領域境界線Lshとする場合に、2本のショルダー領域境界線Lshの間に位置する領域になっている。これらのように規定されるショルダー領域Ashは、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側で規定され、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側にそれぞれ位置している。
【0034】
本実施形態では、ベルト層14が有する2層のベルト141、142のうち、タイヤ径方向内側に位置するベルト141のタイヤ幅方向における幅が、他方のベルト142のタイヤ幅方向における幅よりも広くなっており、このタイヤ径方向内側に位置するベルト141が、最幅広ベルト143になっている。
【0035】
また、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pは、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における中心、或いはタイヤ赤道面CLの位置を中心として、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の領域がタイヤ幅方向両側に均等に振り分けられた際における、85%の領域の端部の位置になっている。このため、最幅広ベルト143のタイヤ幅方向における幅の85%の位置Pと、最幅広ベルト143の端部144との間隔は、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向両側で同じ大きさになっている。
【0036】
このように規定されるショルダー領域Ashは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態における形状で規定される。ここでいう正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0037】
図4は、図2に示すセンター陸部21の詳細図である。タイヤ径方向における両側から内側フルカバー41と外側フルカバー42とによって挟まれる幅狭カバー45は、タイヤ幅方向における幅Wが5mm以上40mm以下の範囲内になっている。また、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wは、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CW(図2参照)の5%以上30%以下の範囲内になっている。このため、幅狭カバー45は、タイヤ幅方向における両側の端部45aが、2層のフルカバー40によって覆われており、即ち、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における両側の端部45aは、トレッドゴム層4に対して外側フルカバー42によって覆われている。本実施形態では、外側フルカバー42よりも内側フルカバー41の方がタイヤ幅方向における幅が広いため、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CWは、内側フルカバー41のタイヤ幅方向における幅CWになっている。
【0038】
また、幅狭カバー45は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置されている。さらに、幅狭カバー45は、少なくとも一部がセンター陸部21のタイヤ径方向内側に位置している。
【0039】
図5は、図2のA-A矢視方向におけるベルトカバー材50の模式図である。フルカバー40と幅狭カバー45とは、それぞれ帯状のベルトカバー材50がタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成されている。なお、図5は、ベルトカバー材50を配設する態様を説明するために、幅狭カバー45と2層のフルカバー40のうち、代表して外側フルカバー42を形成するベルトカバー材50について説明しているが、幅狭カバー45や内側フルカバー41を形成するベルトカバー材50も同様の形態で配設されている。
【0040】
帯状部材であるベルトカバー材50は、幅が5mm以上15mm以下の範囲内になっている。ベルトカバー材50は、ベルトカバー層15を構成する補強層構成部材になっており、ベルトカバー層15を構成するコードがコートゴムで被覆されることにより形成されている。
【0041】
内側フルカバー41は、このように形成されるベルトカバー材50がベルト層14のタイヤ径方向外側にタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成されている。また、幅狭カバー45は、ベルトカバー材50が内側フルカバー41のタイヤ径方向外側にタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成されている。また、外側フルカバー42は、ベルトカバー材50が、幅狭カバー45及び内側フルカバー41のタイヤ径方向外側にタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻かれることにより形成されている。
【0042】
なお、フルカバー40を形成するベルトカバー材50、即ち、内側フルカバー41を形成するベルトカバー材50及び外側フルカバー42を形成するベルトカバー材50と、幅狭カバー45を形成するベルトカバー材50とは、同一種類の部材になっており、それぞれベルトカバー層15を構成するコードがコートゴムで被覆されることにより形成されている。つまり、これらのベルトカバー材50は全て、幅及び厚さや、コードの線径及びコードの間隔、コードやコートゴムの材料等が、同一とみなすことができる形態になっている。
【0043】
[空気入りタイヤの製造方法]
次に、実施形態に係る空気入りタイヤ1の製造方法について説明する。空気入りタイヤ1の製造時には、まず、空気入りタイヤ1を構成する部材ごとに加工を行い、加工した部材を組み立てる。即ち、トレッドゴム層4等のゴム部材や、ビードコア11、カーカス層13、ベルト層14、ベルトカバー層15等の各部材をそれぞれ加工し、加工した部材を組み立てる。このうち、ベルトカバー層15は、ベルト層14のタイヤ径方向外側に、帯状のベルトカバー材50をタイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻くことにより、ベルト層14のタイヤ径方向外側に配設する。
【0044】
ベルトカバー層15は、タイヤ径方向における内側から外側に向けて内側フルカバー41、幅狭カバー45、外側フルカバー42を積層して形成する。ベルトカバー層15を形成する工程は、内側フルカバー41を形成する工程と、幅狭カバー45を形成する工程と、外側フルカバー42を形成する工程とを含んでおり、まず、内側フルカバー41を形成する工程から行う。内側フルカバー41を形成する工程では、ベルト層14のタイヤ径方向外側に、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘ってベルトカバー材50を螺旋状に巻くことにより、内側フルカバー41をショルダー領域Ash間にかけて形成する。
【0045】
次に、幅狭カバー45を形成する工程を行う。幅狭カバー45を形成する工程では、内側フルカバー41のタイヤ径方向外側におけるショルダー領域Ashよりもタイヤ幅方向内側の位置に、ベルトカバー材50を螺旋状に巻くことにより、タイヤ幅方向における幅が内側フルカバー41のタイヤ幅方向における幅よりも狭い幅で幅狭カバー45を形成する。
【0046】
次に、外側フルカバー42を形成する工程を行う。外側フルカバー42を形成する工程では、幅狭カバー45及び内側フルカバー41のタイヤ径方向外側に、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘ってベルトカバー材50を螺旋状に巻くことにより、外側フルカバー42をショルダー領域Ash間にかけて形成する。
【0047】
これにより、ベルトカバー層15は、幅狭カバー45と、フルカバー40である内側フルカバー41及び外側フルカバー42とを、ベルト層14のタイヤ径方向外側にタイヤ径方向における内側から外側に向けて、内側フルカバー41、幅狭カバー45、外側フルカバー42の順で積層することによって形成する。また、幅狭カバー45のタイヤ径方向外側に、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って外側フルカバー42を配設することにより、幅狭カバー45のタイヤ径方向外側から幅狭カバー45全体を外側フルカバー42によって覆う。
【0048】
[作用・効果]
本実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着する際には、ビード部10にリムホイールR(図6参照)を嵌合することによってリムホイールRに空気入りタイヤ1をリム組みし、内部に空気を充填してインフレートした状態で車両に装着する。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、例えば、EXTRA LOAD規格のような、高荷重での使用に対応することができる空気入りタイヤ1であるため、インフレート時の空気圧を比較的高い状態にして使用することが可能になっている。このため、空気入りタイヤ1を高荷重で使用する際には、高めの空気圧で使用する。空気入りタイヤ1を装着した車両が走行すると、接地面3のうち下方に位置する部分の接地面3が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。車両は、接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。
【0049】
例えば、空気入りタイヤ1を装着した車両で乾燥した路面を走行する場合には、主に接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。また、濡れた路面を走行する際には、接地面3と路面との間の水が主溝30やラグ溝等の溝に入り込み、これらの溝で接地面3と路面との間の水を排水しながら走行する。これにより、接地面3は路面に接地し易くなり、接地面3と路面との間の摩擦力により、車両は所望の走行をすることが可能になる。
【0050】
また、車両の走行時は、空気入りタイヤ1は車体の重量や、加減速、旋回に伴う荷重を受けるため、タイヤ径方向に大きな荷重が作用する。この荷重は、空気入りタイヤ1の内部に充填される空気によって主に受けるが、空気入りタイヤ1の内部の空気のみでなく、トレッド部2やサイドウォール部8によっても受ける。即ち、サイドウォール部8は、リムホイールRが嵌合されるビード部10とトレッド部2との間で荷重を伝達し、トレッド部2は、サイドウォール部8と路面との間で荷重を伝達する。このため、サイドウォール部8やトレッド部2には、車両の走行時には大きな荷重が作用し、サイドウォール部8やトレッド部2は、主にタイヤ径方向に撓みながらこの荷重を受ける。
【0051】
また、車両の走行時には、空気入りタイヤ1は回転をするため、接地面3における路面に接地する位置は継続的にタイヤ周方向に移動し、これに伴い、サイドウォール部8やトレッド部2における、車両の走行時の荷重によって撓む位置も、タイヤ周方向に移動する。このため、車両の走行時は、サイドウォール部8やトレッド部2のタイヤ周方向上における各位置が、順次撓むことを繰り返しながら空気入りタイヤ1は回転をする。
【0052】
また、車両が走行する路面には、石等の路面から突出する突起物が存在することがあり、走行中の車両は、このような突起物を空気入りタイヤ1のトレッド部2で踏んでしまうことがある。その際に、内部に充填される空気圧が高いことによりサイドウォール部8やトレッド部2の撓みが小さいと、空気入りタイヤ1は、突起物が存在することによる路面の形状の変化を吸収することができず、突起物は、空気入りタイヤ1のトレッド部2を貫通してしまう虞がある。即ち、内圧を高くした空気入りタイヤ1は、路面上の突起物を踏んだ際に、サイドウォール部8やトレッド部2の撓みが小さいことに起因して突起物がトレッド部2を貫通し、ショックバーストが発生する虞がある。
【0053】
これに対し、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、ベルトカバー層15が、タイヤ径方向に積層される2層のフルカバー40と、2層のフルカバー40同士の間に配設される幅狭カバー45とを有するため、内圧を高くした場合におけるショックバーストを抑制することができる。図6は、実施形態に係る空気入りタイヤ1で路面100上の突起物105を踏んだ状態を示す説明図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、タイヤ幅方向における幅がフルカバー40の幅よりも狭い幅で形成される幅狭カバー45が、2層のフルカバー40同士の間の位置におけるショルダー領域Ashよりもタイヤ幅方向内側の位置に配設されるため、ベルトカバー材50が積層される数を、幅狭カバー45が配設される位置で多くすることができる。つまり、ベルトカバー層15におけるベルトカバー材50がタイヤ径方向に積層される数を、タイヤ赤道面CLを跨ぐ位置で多くすることができる。具体的には、ベルトカバー層15は、幅狭カバー45が配設される位置以外の位置では、内側フルカバー41と外側フルカバー42との2層のフルカバー40が積層されるのに対し、幅狭カバー45が配設される位置では、2層のフルカバー40に幅狭カバー45を加えた3層を積層することができる。これにより、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を増加させることができ、路面100上の突起物105をセンター陸部21付近で踏んだ場合でも、突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制することができる。従って、車両の走行中に突起物105を踏むことに起因するショックバーストを抑制することができる。
【0054】
また、幅狭カバー45は、タイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って配設される2層のフルカバー40によってタイヤ径方向に挟まれて配設されているため、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における端部45a付近がトレッドゴム層4から剥離することを抑制することができる。つまり、ベルトカバー層15を形成するベルトカバー材50は、トレッドゴム層4とは物性が異なるため、トレッド部2が撓む場合、ベルトカバー層15とトレッドゴム層4とは弾性が異なる状態で撓むことになる。このため、幅狭カバー45がトレッドゴム層4に対して隣接して配設される場合、弾性が異なるベルトカバー層15とトレッドゴム層4との境界部分である、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における端部45a付近で応力集中が発生し易くなる。この場合、幅狭カバー45に作用する荷重が車両の走行に伴って繰り返し変動することにより、幅狭カバー45の端部45a付近で、幅狭カバー45とトレッドゴム層4とが剥離し易くなる虞がある。
【0055】
これに対し、幅狭カバー45が、2層のフルカバー40によってタイヤ径方向に挟まれて配設される場合は、幅狭カバー45の端部45aがトレッドゴム層4に対して直接接触することなく幅狭カバー45を配設することができる。これにより、荷重の変動が大きいトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の位置で、幅狭カバー45の端部45aとトレッドゴム層4とが接触することを抑制することができ、弾性が異なるベルトカバー層15とトレッドゴム層4との境界部分が、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近に位置することを抑制することができる。これにより、幅狭カバー45の端部45a付近からの、幅狭カバー45とトレッドゴム層4との剥離である、いわゆるエッジセパレーションを抑制することができ、耐セパレーション性能を確保することができる。これらの結果、耐セパレーション性能の低下を抑えつつ耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0056】
また、幅狭カバー45は、タイヤ幅方向における幅Wが5mm以上40mm以下の範囲内であるため、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度をより確実に向上させることができる。つまり、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが5mm未満である場合は、幅狭カバー45の幅Wが小さ過ぎるため、幅狭カバー45が配設される位置付近の強度を効果的に確保し難くなる虞がある。この場合、幅狭カバー45を配設しても、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を効果的に向上させ難くなり、トレッド部2で踏んだ突起物105がトレッド部2を貫通することを効果的に抑制し難くなる虞がある。また、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが40mmより大きい場合は、幅狭カバー45の幅Wが大き過ぎるため、使用するベルトカバー材50が多くなり過ぎる虞がある。この場合、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎる虞があり、幅狭カバー45を設けることに起因して空気入りタイヤ1の重量が増加し過ぎる虞がある。
【0057】
これに対し、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが5mm以上40mm以下の範囲内である場合は、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、幅狭カバー45が配設される位置付近の強度をより確実に確保することができ、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度をより確実に向上させることができる。この結果、空気入りタイヤ1の重量の増加を抑えつつ、耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0058】
また、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wは、ベルトカバー層15のタイヤ幅方向における幅CWの5%以上30%以下の範囲内であるため、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度より確実に向上させることができる。つまり、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが、ベルトカバー層15の幅CWの5%未満である場合は、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが狭過ぎるため、幅狭カバー45が配設される位置付近の強度を効果的に確保し難くなる虞がある。この場合、幅狭カバー45を配設しても、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を効果的に向上させ難くなり、トレッド部2で踏んだ突起物105がトレッド部2を貫通することを効果的に抑制し難くなる虞がある。また、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが、ベルトカバー層15の幅CWの30%より大きい場合は、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが大き過ぎるため、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎる虞がある。この場合、幅狭カバー45を設けることに起因して、空気入りタイヤ1の重量が増加し過ぎる虞がある。
【0059】
これに対し、幅狭カバー45のタイヤ幅方向における幅Wが、ベルトカバー層15の幅CWの5%以上30%以下の範囲内である場合は、ベルトカバー層15の重量が増加し過ぎることを抑制しつつ、幅狭カバー45が配設される位置付近の強度をより確実に確保することができる。この結果、空気入りタイヤ1の重量の増加を抑えつつ、耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0060】
また、フルカバー40と幅狭カバー45とは、フルカバー40を形成するベルトカバー材50と幅狭カバー45を形成するベルトカバー材50とが同一種類であるため、フルカバー40用のベルトカバー材50と幅狭カバー45用のベルトカバー材50とを別々に用意することなく、フルカバー40と幅狭カバー45とを形成することができる。これにより、ベルトカバー材50を用いてフルカバー40と幅狭カバー45とを形成する際における生産性の低下を抑えることができる。また、フルカバー40を形成するベルトカバー材50と幅狭カバー45を形成するベルトカバー材50とが同一種類であるため、幅狭カバー45が配設される位置付近の強度を、2層のフルカバー40の間に配設する幅狭カバー45の配設範囲に伴って適切に向上させることができる。これらの結果、生産性の低下を抑えつつ、より確実に耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0061】
また、幅狭カバー45は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置されるため、トレッド部2において車両走行時に接地圧が高くなり易い位置の破断強度をより確実に増加させることができる。これにより、路面100上の突起物105を踏んだ際におけるショックバーストを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0062】
また、幅狭カバー45は、少なくとも一部がセンター陸部21のタイヤ径方向内側に位置するため、トレッド部2において車両走行時に接地圧が高くなり易い、センター陸部21付近の位置の破断強度をより確実に増加させることができる。これにより、路面100上の突起物105をセンター陸部21で踏んだ際におけるショックバーストを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0063】
また、実施形態に係る空気入りタイヤ1の製造方法は、ベルト層14のタイヤ径方向外側にベルトカバー材50を螺旋状に巻くことにより内側フルカバー41を形成する工程と、内側フルカバー41のタイヤ径方向外側にベルトカバー材50を螺旋状に巻くことにより幅狭カバー45を形成する工程と、を含むため、接地圧が高くなり易いトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の破断強度を増加させることができる。これにより、路面100上の突起物105をセンター陸部21付近で踏んだ場合でも、突起物105がトレッド部2を貫通することを抑制することができ、車両の走行中に突起物105を踏むことに起因するショックバーストを抑制することができる。
【0064】
さらに、幅狭カバー45及び内側フルカバー41のタイヤ径方向外側にベルトカバー材50を螺旋状に巻くことにより外側フルカバー42を形成する工程を含むため、幅狭カバー45のタイヤ径方向外側から幅狭カバー45全体を外側フルカバー42によって覆うことができる。これにより、荷重の変動が大きいトレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近の位置で、幅狭カバー45の端部45aとトレッドゴム層4とが直接接触することを抑制することができ、弾性が異なるベルトカバー層15とトレッドゴム層4との境界部分が、トレッド部2のタイヤ幅方向における中央付近に位置することを抑制することができる。従って、幅狭カバー45の端部45a付近からの、幅狭カバー45とトレッドゴム層4との剥離である、いわゆるエッジセパレーションを抑制することができ、耐セパレーション性能を確保することができる。これらの結果、耐セパレーション性能の低下を抑えつつ耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0065】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、フルカバー40や幅狭カバー45を形成するベルトカバー材50は、1つのベルトカバー材50におけるタイヤ幅方向に隣り合う部分同士がタイヤ径方向に重なることなく、タイヤ幅方向に隣り合う部分同士がタイヤ幅方向に並べられながら螺旋状に巻かれているが、1つのベルトカバー材50で重ねながら巻かれていてもよい。図7は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ベルトカバー材50を重ねながら巻く場合の説明図である。螺旋状に巻かれる各ベルトカバー材50は、図7に示すように、1つのベルトカバー材50におけるタイヤ幅方向に隣り合う部分同士が、所定の範囲内の幅でタイヤ径方向に重ねられながら螺旋状に巻かれていてもよい。このように、1つのベルトカバー材50における、タイヤ幅方向に隣り合う部分同士がタイヤ径方向に重なる部分である隣接ラップ部55は、ベルトカバー材50の幅方向における幅Wbが、ベルトカバー材50の幅Waの20%以上70%以下の範囲内であるのが好ましい。
【0066】
ベルトカバー材50は、タイヤ幅方向に隣り合う部分同士を重ねながら螺旋状に巻き、隣接ラップ部55を形成しながら螺旋状に巻き付けることにより、ベルトカバー層15をより高い強度で配設することができる。これにより、ベルトカバー層15によってトレッド部2のより広い範囲の破断強度を増加させることができ、より確実にショックバーストを抑制することができる。
【0067】
また、上述した実施形態では、主溝30は4本が形成されているが、主溝30は4本以外であってもよい。また、上述した実施形態では、タイヤ赤道面CL上にセンター陸部21が位置しているが、タイヤ赤道面CL上に陸部20が位置していなくてもよい。例えば、タイヤ赤道面CL上に主溝30が位置していてもよい。タイヤ赤道面CL上に主溝30が位置する場合、幅狭カバー45は、複数の陸部20のうちタイヤ赤道面CLに最も近い陸部20のタイヤ径方向内側に少なくとも一部が位置するのが好ましい。
【0068】
また、上述した実施形態では、2層のフルカバー40は、外側フルカバー42よりも内側フルカバー41の方がタイヤ幅方向における幅が広くなっているが、2層のフルカバー40の幅の関係は、これ以外でもよい。例えば、内側フルカバー41よりも外側フルカバー42の方がタイヤ幅方向における幅が広くなっていてもよく、内側フルカバー41と外側フルカバー42とでタイヤ幅方向における幅が同じ幅であってもよい。2層のフルカバー40は、それぞれがタイヤ幅方向両側のショルダー領域Ash間に亘って配設されていれば、タイヤ幅方向における幅の相対的な関係は問わない。
【0069】
また、上述した実施形態や変形例は、適宜組み合わせてもよい。空気入りタイヤ1は、少なくとも2層のフルカバー40同士の間に、タイヤ幅方向における幅がフルカバー40の幅よりも狭い幅で形成される幅狭カバー45を、ショルダー領域Ashよりもタイヤ幅方向内側の位置に配設することにより、耐セパレーション性能の低下を抑えつつ耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【0070】
[実施例]
図8A図8Bは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1とについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、耐ショックバースト性能に対する評価試験であるプランジャー試験と、エッジセパレーションの発生にし難さについての性能である耐セパレーション性能とについての試験を行った。
【0071】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが275/45ZR19 105Yサイズの空気入りタイヤ1を、リムサイズ19×9.5JのJATMA標準のリムホイールにリム組みしたものを用いて行った。各試験項目の評価方法は、プランジャー試験については、試験タイヤの空気圧を正規内圧で充填し、プランジャー径19mm、押し込み速度50mm/分にてJIS K6302に準じたプランジャー破壊試験を行い、タイヤ破壊エネルギー[J]を測定することによって評価した。プランジャー試験の評価結果は、測定したタイヤ破壊エネルギー[J]が大きいほどタイヤ強度が優れ、耐ショックバースト性能が優れていることを示している。
【0072】
また、耐セパレーション性能については、高速耐久試験によって評価した。高速耐久試験は、試験タイヤを正規内圧の120%増した内圧とし、温度80℃の環境下で5日間乾燥劣化させた後、正規内圧とし、ドラム径1707mmのキャンバー付ドラム試験機にて、速度120km/h、荷重負荷5kNで走行開始し、24時間ごとに速度10km/hずつ増加させながら、タイヤが破損するまで試験を行い、破損したときの走行距離を測定する。耐セパレーション性能は、高速耐久試験において測定した走行距離を、後述する従来例2を100とする指数評価によって表し、指数値が大きいほどタイヤが破損するまでの走行距離が長く、耐セパレーション性能が優れていることを示している。
【0073】
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例1、2の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1~11との13種類の空気入りタイヤについて行った。このうち、従来例1の空気入りタイヤは、ベルトカバー層15が幅狭カバー45を有していない。また、従来例2の空気入りタイヤは、ベルトカバー層15は幅狭カバー45を有しているものの、幅狭カバー45を挟む2層のフルカバー40を有しておらず、幅狭カバー45はトレッドゴム層4に対して直接接触している。
【0074】
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~11は、全てベルトカバー層15が幅狭カバー45を有しており、幅狭カバー45は2層のフルカバー40によってタイヤ径方向に挟まれている。さらに、実施例1~11に係る空気入りタイヤ1は、幅狭カバー45の幅Wや、ベルトカバー層15の幅CWに対する幅狭カバー45の幅Wが、それぞれ異なっている。
【0075】
これらの空気入りタイヤ1を用いて性能評価試験を行った結果、図8A図8Bに示すように、実施例1~11に係る空気入りタイヤ1は、従来例1、2に対して耐セパレーション性能を低下させることなく、プランジャー試験によって評価する耐ショックバースト性能を従来例1、2に対して向上させることができることが分かった。つまり、実施例1~11に係る空気入りタイヤ1や、実施例1~11に係る空気入りタイヤ1の製造方法は、耐セパレーション性能の低下を抑えつつ耐ショックバースト性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 接地面
4 トレッドゴム層
5 ショルダー部
8 サイドウォール部
10 ビード部
13 カーカス層
14 ベルト層
141、142 ベルト
143 最幅広ベルト
144 端部
15 ベルトカバー層
16 インナーライナ
18 タイヤ内面
20 陸部
21 センター陸部
22 セカンド陸部
23 ショルダー陸部
30 主溝
31 センター主溝
32 ショルダー主溝
40 フルカバー
41 内側フルカバー
42 外側フルカバー
45 幅狭カバー
45a 端部
50 ベルトカバー材
55 隣接ラップ部
100 路面
105 突起物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B