(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20221012BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20221012BHJP
F02F 1/42 20060101ALI20221012BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16B5/02 S
F01N13/08 E
F02F1/42 Z
F16B43/00 Z
(21)【出願番号】P 2018166852
(22)【出願日】2018-09-06
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘道
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193834(JP,A)
【文献】特開2018-132092(JP,A)
【文献】特開平08-200058(JP,A)
【文献】米国特許第06171009(US,B1)
【文献】特開2011-086720(JP,A)
【文献】特開2017-219163(JP,A)
【文献】特開2004-225872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/02
F01N 13/08
F02F 1/42
F16B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気側において締結対象部品を被締結部品に締結するための締結構造であって、
雄ネジ軸と、
前記雄ネジ軸に螺合または固定して設けられた押圧体と、
前記締結対象部品に形成され、前記雄ネジ軸が挿通される挿通穴と、
前記被締結部品に形成され、前記雄ネジ軸が螺合されるネジ穴と、
前記押圧体と前記締結対象部品との間に介在され、前記雄ネジ軸が挿通される筒状部品と、を備え、
前記筒状部品は、前記締結対象部品の線膨張係数よりも大きい線膨張係数を有
し、
前記筒状部品の線膨張係数は、前記雄ネジ軸の線膨張係数以下である
ことを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記締結対象部品は、排気マニホールドであり、
前記被締結部品は、シリンダヘッドである
請求項
1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記雄ネジ軸の線膨張係数は、前記締結対象部品の線膨張係数よりも大きい
請求項
1または2に記載の締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、締結構造、特に、内燃機関の排気側に用いられる締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、締結構造では、締結する対象となる部品(以下、締結対象部品)の挿通穴にボルトが挿通され、締結対象部品が締結される部品(以下、被締結部品)のネジ穴にボルトが螺合されて締め込まれる。
【0003】
また、締結構造としては、例えばボルトの頭部と締結対象部品との間に介在されるディスタンスピースにより、ボルトの弛みを抑制する構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、締結構造が内燃機関の排気側に用いられる場合、高温の排気によって締結対象部品(例えば、排気マニホールド)、ボルト及びディスタンスピースが熱膨張する。この場合、例えばボルトが排気マニホールド及びディスタンスピースよりも大きく軸方向に熱膨張して伸びると、ボルトの軸力が低下してしまい、締結状態が不十分になる虞がある。
【0006】
そこで、本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、内燃機関の排気側においてボルトの軸力低下を抑制できる締結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、内燃機関の排気側において締結対象部品を被締結部品に締結するための締結構造であって、雄ネジ軸と、前記雄ネジ軸に螺合または固定して設けられた押圧体と、前記締結対象部品に形成され、前記雄ネジ軸が挿通される挿通穴と、前記被締結部品に形成され、前記雄ネジ軸が螺合されるネジ穴と、前記押圧体と前記締結対象部品との間に介在され、前記雄ネジ軸が挿通される筒状部品と、を備え、前記筒状部品は、前記締結対象部品の線膨張係数よりも大きい線膨張係数を有することを特徴とする締結構造が提供される。
【0008】
好ましくは、前記筒状部品の線膨張係数は、前記雄ネジ軸の線膨張係数よりも大きい。
【0009】
好ましくは、前記締結対象部品は、排気マニホールドであり、前記被締結部品は、シリンダヘッドである。
【0010】
好ましくは、前記雄ネジ軸の線膨張係数は、前記締結対象部品の線膨張係数よりも大きい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、内燃機関の排気側においてボルトの軸力低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1のA部における締結構造の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0014】
図1は、内燃機関1の排気側の全体構成図である。矢印Gは、排気の流れを示す。
【0015】
図1に示すように、内燃機関1は、車両(不図示)に搭載された多気筒の圧縮着火式内燃機関すなわちディーゼルエンジンである。車両は、トラック等の大型車両である。しかしながら、車両及び内燃機関1の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車等の小型車両であっても良いし、内燃機関1は火花点火式内燃機関すなわちガソリンエンジンであっても良い。
【0016】
内燃機関1は、シリンダブロック(不図示)の上部に接続されたシリンダヘッド2と、シリンダヘッド2の排気側に接続された排気マニホールド3と、を備える。なお、内燃機関1は、吸気マニホールド(不図示)等の吸気系部品も備えるが、ここでは説明を省略する。
【0017】
シリンダヘッド2は、シリンダブロックと共に、複数の燃焼室(不図示)を形成する。また、シリンダヘッド2は、各気筒分の複数(図示例では4つ)の排気出口2aを有する。
【0018】
シリンダヘッド2の排気出口2aには、排気マニホールド3の各気筒分の排気入口3aが接続される。一方、排気マニホールド3の集合出口である排気出口3bには、ターボチャージャ4のタービンケーシング4aを介して、排気管5が接続される。なお、符号6は、排気マニホールド3に接続され、排気の一部を吸気側に還流させるためのEGR管6である。
【0019】
本実施形態に係る締結構造100は、締結対象部品としての排気マニホールド3を被締結部品としてのシリンダヘッド2に締結するために用いられる。
【0020】
図2は、
図1のA部における締結構造100の部分断面図である。なお、
図2中に示す前後方向は、ボルト10の軸方向と一致するが、説明の便宜上定められたものに過ぎない。
【0021】
図2に示すように、締結構造100は、雄ネジ軸としてのボルト10と、ボルト10に螺合して設けられた押圧体としてのナット20と、を備える。また、締結構造100は、排気マニホールド3に形成され、ボルト10が挿通される挿通穴30と、シリンダヘッド2に形成され、ボルト10が螺合されるネジ穴40と、を備える。また、締結構造100は、ナット20と排気マニホールド3との間に介在され、ボルト10が挿通される筒状部品としてのディスタンスピース50を備える。なお、符号60は、シリンダヘッド2と排気マニホールド3との間に介在されたガスケットである。
【0022】
ボルト10は、前端部11及び後端部12に雄ネジを有するスタッドボルトである。本実施形態では、ボルト10の前端部11にナット20が螺合され、後端部12にネジ穴40が螺合される。但し、ボルト10の種類は任意であって良く、例えば六角頭付きボルトであっても良い。この場合、ボルト10には、ナット20の代わりに押圧体としての頭部が一体に固定されて設けられる。
【0023】
排気マニホールド3の排気入口3aには、フランジFが形成される。挿通穴30は、フランジFに複数(例えば4つ)形成される。
【0024】
シリンダヘッド2の排気出口2aには、排気マニホールド3のフランジFを取り付けるための取付部Mが形成される。取付部Mは、シリンダヘッド2の側壁2bから突出して形成される。ネジ穴40は、挿通穴30と同軸状に、取付部Mに複数(例えば4つ)形成される。なお、図示しないが、取付部Mはフランジであっても良い。
【0025】
ディスタンスピース50は、円筒状に形成される。また、ディスタンスピース50は、前後方向において、排気マニホールド3の挿通穴30の長さL1と同じ長さL2を有する(L1=L2)。但し、ディスタンスピース50の形状及び長さは、任意であって良い。例えば、ディスタンスピース50の長さL2は、挿通穴30の長さL1より長くても良く(L1<L2)、また、短くても良い(L1>L2)。
【0026】
また、図示しないが、ディスタンスピース50は、排気マニホールド3の線膨張係数α1よりも大きい線膨張係数α2を有する(α1<α2)。具体的には、排気マニホールド3の材質には、鋳鉄(FCD)等が用いられ、ディスタンスピース50の材質には、オーステナイト系のステンレス鋼(SUS304)等が用いられる。
【0027】
また、本実施形態では、ディスタンスピース50の線膨張係数α2は、ボルト10の線膨張係数α3よりも大きい(α3<α2)。また、ボルト10の線膨張係数α3は、排気マニホールド3の線膨張係数α1よりも大きい(α1<α3)。具体的には、ボルト10の材質には、オーステナイト系の耐熱鋼(SUH660)等が用いられる。
【0028】
このように、本実施形態では、排気マニホールド3の線膨張係数α1と、ディスタンスピース50の線膨張係数α2と、ボルト10の線膨張係数α3とが、α1<α3<α2の関係にある。
【0029】
次に、本実施形態に係る締結構造100の作用効果について説明する。
【0030】
図2に示したように、締結構造100では、シリンダヘッド2のネジ穴40にボルト10の後端部12を螺合させて固定した後、ネジ穴40から前方に突出したボルト10に対して、排気マニホールド3の挿通穴30、ディスタンスピース50を順に挿通させる。そして、ボルト10の前端部11にナット20を螺合させて締め付けることで、ナット20によりディスタンスピース50を介して排気マニホールド3がシリンダヘッド2に押し付けられ、シリンダヘッド2に排気マニホールド3が締結される。なお、ナット20を弛めてボルト10から取り外すと締結を解除できる。
【0031】
また、ナット20をボルト10に締め付けることで、ディスタンスピース50を軸方向に圧縮させ、その反発力によってボルト10の軸力を増加できる。その結果、ボルト10の弛みを抑制することができる。
【0032】
ところで、本実施形態に係る締結構造100は、排気上流側高温部のシリンダヘッド2と排気下流側低温部の排気マニホールド3との締結に用いられる。そのため、内燃機関1の燃焼室内から排出される高温の排気と、シリンダヘッド2からの受熱とによって、排気マニホールド3、ボルト10及びディスタンスピース50が熱膨張する。
【0033】
また、本実施形態のボルト10は、排気マニホールド3の線膨張係数α1よりも大きい線膨張係数α3を有しており(α1<α3)、排気マニホールド3よりも大きく軸方向に熱膨張して伸びる。
【0034】
そのため、仮に、ディスタンスピース50の線膨張係数α2が排気マニホールド3の線膨張係数α1以下(α2≦α1<α3)である場合、ボルト10が排気マニホールド3及びディスタンスピース50よりも大きく軸方向に熱膨張して伸びる。その結果、ボルト10の軸力が低下して、シリンダブロック2と排気マニホールド3の締結が不十分になる可能性がある。そして、両者の締結面間で排気のシール性能が低下する虞がある。
【0035】
しかしながら、本実施形態では、ディスタンスピース50が、排気マニホールド3の線膨張係数α1よりも大きい線膨張係数α2を有する(α1<α2)。そのため、ディスタンスピース50は、排気マニホールド3よりも大きく軸方向に熱膨張して伸び、ボルト10と排気マニホールド3との熱膨張(線膨張係数)の差を埋めることができる。その結果、ボルト10の軸力低下を抑制することが可能になる。
【0036】
また、本実施形態のディスタンスピース50は、ボルト10の線膨張係数α3よりも大きい線膨張係数α2を有する(α3<α2)。そのため、ディスタンスピース50をボルト10よりも大きく熱膨張させて、より確実にボルト10の軸力低下を抑制することが可能である。
【0037】
他方、上述した基本実施形態は、以下のような変形例またはその組合わせとすることができる。下記の説明においては、上記の実施形態と同一の構成要素に同じ符号を用い、それらの詳細な説明は省略する。
【0038】
(第1変形例)
締結構造100は、内燃機関1の排気側における任意の部品同士の接続に用いることが可能である。例えば、
図1のB部では、排気マニホールド3を被締結部品とし、ターボチャージャ4のタービンケーシング4aを締結対象部品とする。また、
図1のC部では、タービンケーシング4aを被締結部品とし、排気管5を締結対象部品とする。また、
図1のD部では、排気マニホールド3を被締結部品とし、EGR管6を締結対象部品とする。また、図示しないが、締結構造100は、酸化触媒等の触媒を収容する触媒ケーシングと排気管との接続に用いることも可能である。
【0039】
(第2変形例)
上述した被締結部品及び締結対象部品は、それぞれ逆の関係であって良い。例えば、タービンケーシング4aを締結対象部品とし、排気管5を被締結部品としても良い。
【0040】
(第3変形例)
ディスタンスピース50の線膨張係数α2は、ボルト10の線膨張係数α3以下であっても良い(α2≦α3)。また、ボルト10の線膨張係数α3は、排気マニホールド3の線膨張係数α1以下であっても良い(α3≦α1)。
【0041】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態は上述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って、本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 内燃機関
2 シリンダヘッド(被締結部品)
3 排気マニホールド(締結対象部品)
10 ボルト(雄ネジ軸)
20 ナット(押圧体)
30 挿通穴
40 ネジ穴
50 ディスタンスピース(筒状部品)
60 ガスケット
100 締結構造
G 排気