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特許7155775カッター装置およびこのカッター装置を備えたプリンター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】カッター装置およびこのカッター装置を備えたプリンター
(51)【国際特許分類】
   B26D 1/08 20060101AFI20221012BHJP
   B26D 5/08 20060101ALI20221012BHJP
   B41J 11/70 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B26D1/08
B26D5/08 D
B41J11/70
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018169416
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2020040167
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】井上 信宏
(72)【発明者】
【氏名】石田 徹吾
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-509667(JP,A)
【文献】特開2011-104674(JP,A)
【文献】特開2016-047592(JP,A)
【文献】特開2005-161481(JP,A)
【文献】特開2008-100530(JP,A)
【文献】特開2016-120560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/08
B26D 5/08
B26D 7/26
B41J 11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定刃と、
前記固定刃の刃面と水平に往復移動可能に構成されており、幅方向において両端側の刃
先が中央部の刃先よりも前記固定刃に近い可動刃と、
前記可動刃を前記往復移動させる駆動手段と、
前記可動刃を付勢する第1付勢部材と、を有し、
前記往復移動の方向において、前記可動刃が前記固定刃に接近する方向を切断方向とし

前記往復移動の方向において、前記可動刃が前記固定刃から離隔する方向を退避方向と
し、
前記可動刃の刃面と垂直な方向において、前記可動刃が前記固定刃に圧接される方向を
噛合方向とすると、
前記第1付勢部材は、前記可動刃を前記退避方向、且つ、前記噛合方向に付勢し、
前記駆動手段は、前記第1付勢部材の付勢力に抗して、前記可動刃を前記切断方向に駆
動する係合部を具備し、
前記可動刃と前記係合部との係合が解除されると、前記可動刃は、前記第1付勢部材の
付勢力によって前記退避方向に退避する構成であって、
前記可動刃と前記係合部とが係合される係合位置は、前記可動刃の幅方向の中央部に設
けられていることを特徴とするカッター装置。
【請求項2】
前記第1付勢部材の付勢方向と前記退避方向とが交差する角度を角度Aとすると、
前記可動刃と前記固定刃とが接触する位置では、前記角度Aは、10°以上80°以下
の範囲にあり、
前記可動刃と前記固定刃とが接触しない位置では、前記角度Aは、60°以上100°
以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のカッター装置。
【請求項3】
前記第1付勢部材は、前記可動刃の幅方向の中央に設けられたフック部に掛けられる
引張バネであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカッター装置。
【請求項4】
前記フック部には、樹脂部材が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のカッ
ター装置。
【請求項5】
前記可動刃が前記往復移動することによる用紙の切断において、
前記切断が終了した前記可動刃の最終位置で前記引張バネのバネ長が最大となることを
特徴とする請求項3又は請求項4に記載のカッター装置。
【請求項6】
前記第1付勢部材の付勢力を相殺する方向に前記可動刃に付勢力を与える第2付勢部材
を更に有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のカッター
装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載のカッター装置を備えるプリンターであって

前記プリンターは、
印刷機構部と用紙を保持する用紙保持部とを有する装置本体と、
前記装置本体に回動可能に設けられ、前記用紙の蓋をする蓋部と、を備え、
前記カッター装置は、前記装置本体に配置され、
前記固定刃は、前記可動刃よりも前記用紙保持部側に配置されていることを特徴とする
プリンター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カッター装置およびこのカッター装置を備えたプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
カッター装置を搭載するプリンターは、特許文献1に記載されている。同文献のカッター装置は、所謂、2つの刃を交差する方式のカッター装置であって、可動刃が駆動モーターからの駆動力を受けて直線的に往復運動する構成となっている。可動刃は、固定刃に対し開いた位置から移動して、固定刃と交叉したとき、その間に差し込まれた用紙を切断する。切断動作後、可動刃は、戻り動作に移行して再び開き位置へ移動する。また、同文献のカッター装置は、厚く切断し難い材質の用紙をも容易に切断できるように、可動刃に対し用紙を切断する方向にコイルばねなどにより付勢力を付与するとともに、可動刃の戻り動作に伴いコイルばねに付勢力を蓄積する構成の付勢手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-161481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のカッター装置は、可動刃に対し用紙を切断する方向に付勢力を付与するコイルばねが設けられているので、切断動作後、可動刃が戻り動作に移行して再び開き位置への移動が遅くなるという課題があった。そのため、用紙切断後、すぐに紙送りをすると紙ジャムを発生する虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願のカッター装置は、固定刃と、前記固定刃の刃面と水平に往復移動可能に構成されている可動刃と、前記可動刃を前記往復移動させる駆動手段と、前記可動刃を付勢する第1付勢部材と、を有し、前記往復移動の方向において、前記可動刃が前記固定刃に接近する方向を切断方向とし、前記往復移動の方向において、前記可動刃が前記固定刃から離隔する方向を退避方向とし、前記可動刃の刃面と垂直な方向において、前記可動刃が前記固定刃に圧接される方向を噛合方向とすると、前記第1付勢部材は、前記可動刃を前記退避方向、且つ、前記噛合方向に付勢し、前記駆動手段は、前記第1付勢部材の付勢力に抗して、前記可動刃を前記切断方向に駆動する係合部を具備し、前記可動刃と前記係合部との係合が解除されると、前記可動刃は、前記第1付勢部材の付勢力によって前記退避方向に退避する構成であることを特徴とする。
【0006】
上記カッター装置において、前記第1付勢部材の付勢方向と前記退避方向とが交差する角度を角度Aとすると、前記可動刃と前記固定刃とが接触する位置では、前記角度Aは、10°以上80°以下の範囲にあり、前記可動刃と前記固定刃とが接触しない位置では、前記角度Aは、60°以上100°以下の範囲にあることが好ましい。
【0007】
上記カッター装置において、前記第1付勢部材は、前記可動刃の幅方向の中央に設けられたフック部に掛けられる引張バネであることが好ましい。
【0008】
上記カッター装置において、前記フック部には、樹脂部材が設けられていることが好ましい。
【0009】
上記カッター装置において、前記可動刃が前記往復移動することによる用紙の切断において、前記切断が終了した前記可動刃の最終位置で前記引張バネのバネ長が最大となることが好ましい。
【0010】
上記カッター装置において、前記第1付勢部材の付勢力を相殺する方向に前記可動刃に付勢力を与える第2付勢部材を更に有していることが好ましい。
【0011】
本願のプリンターは、上記カッター装置を備えるプリンターであって、前記プリンターは、印刷機構部と用紙を保持する用紙保持部とを有する装置本体と、前記装置本体に回動可能に設けられ、前記用紙の蓋をする蓋部と、を備え、前記カッター装置は、前記装置本体に配置され、前記固定刃は、前記可動刃よりも前記用紙保持部側に配置されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係るプリンターを示す斜視図。
図2】プリンターの概要を示す断面側面図。
図3A】カッター装置の概要を示す斜視図(可動刃待機時)。
図3B】カッター装置の概要を示す斜視図(可動刃フルストローク時)。
図4A】可動刃の機構を示す斜視図(可動刃待機時)。
図4B】可動刃の機構を示す斜視図(可動刃フルストローク時)。
図5A】可動刃の機構を示す側面図(可動刃待機時)。
図5B】可動刃の機構を示す側面図(可動刃フルストローク時)。
図6A】可動刃の機構を示す平面図(可動刃待機時)。
図6B】可動刃の機構を示す平面図(可動刃フルストローク時)。
図7図5A中のB部を拡大した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下で説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
[プリンターの全体構成]
先ず、本実施形態に係るプリンター1について、図1および図2を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るプリンターを示す斜視図である。図2は、プリンターの概要を示す断面側面図である。なお、以降の図において、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸が図示されている。また、以下では、X軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」、Z軸に平行な方向を「Z軸方向」、とも言い、また、X軸方向を「幅方向」、+Y軸方向を「後方」又は「切断方向」、-Y軸方向を「前方」又は「退避方向」、+Z軸方向を「上方」、-Z軸方向を「下方」又は「噛合方向」とも言う。
【0016】
プリンター1は、図1に示すように、箱型の装置本体6と、装置本体6に上方から被せられ回動可能な開閉扉となる蓋部8と、を備えている。
装置本体6は、内部にロール紙などの用紙2を収納する用紙保持部7(図2参照)と、装置本体6の前方に電源スイッチ10と、が設けられており、蓋部8は、用紙保持部7の用紙2を上方から覆っており、排出口5の後方に設けられている。
【0017】
装置本体6の内部には、図2に示すように、印刷機構部12とカッター装置20とが搭載されている。また、装置本体6の内部には、用紙保持部7から、印刷機構部12による印刷位置およびカッター装置20による切断位置を経由して排出口5に至る用紙2の搬送路16が設けられている。
【0018】
印刷ヘッド14は、サーマルヘッドである。印刷位置は、印刷ヘッド14と対峙するプラテンローラー15によって規定されている。プラテンローラー15には、搬送モーター(図示せず)の回転駆動力が伝達される。プラテンローラー15および搬送モーターは、用紙2を搬送路16に沿って搬送する搬送機構を構成する。
【0019】
プリンター1は、搬送モーターを駆動して搬送路16に沿ってセットされた用紙2をプラテンローラー15によって搬送する。また、プリンター1は、印刷ヘッド14を駆動して印刷位置を搬送される用紙2に印刷を施す。さらに、プリンター1は、カッター装置20を駆動して用紙2を切断する。
【0020】
なお、カッター装置20の固定刃22は、可動刃21よりも用紙保持部7側に配置されている。そのため、可動刃21を駆動する駆動部30と用紙保持部7との間に用紙2の搬送路16を設けることができ、プリンター1の小型化を図ることができる。
【0021】
[カッター装置の構成]
次に、カッター装置20の構成について、図3A図7を参照して説明する。
図3Aおよび図3Bは、カッター装置の概要を示す斜視図であり、図3Aは、可動刃待機時を、図3Bは、可動刃フルストローク時を示している。図4Aおよび図4Bは、可動刃の機構を示す斜視図であり、図4Aは、可動刃待機時を、図4Bは、可動刃フルストローク時を示している。図5Aおよび図5Bは、可動刃の機構を示す側面図であり、図5Aは、可動刃待機時を、図5Bは、可動刃フルストローク時を示している。図6Aおよび図6Bは、可動刃の機構を示す平面図であり、図6Aは、可動刃待機時を、図6Bは、可動刃フルストローク時を示している。図7は、図5A中のB部を拡大した断面図である。
【0022】
カッター装置20は、図3Aおよび図3Bに示すように、可動刃21、固定刃22、可動刃21を保持する可動刃ホルダー23、固定刃22を保持するカバーフレーム25、および可動刃21をY軸方向に往復移動させる駆動部30を備えている。
可動刃21は、刃先が中央部よりも両端側が固定刃22に近い、所謂、V字形状に形成されており、可動刃ホルダー23に保持されている。なお、可動刃ホルダー23は、上板プレート40上に配置されている。また、図6Aおよび図6Bに示すように、上板プレート40には、Y軸方向に延びる案内孔41が設けられており、この案内孔41が可動刃ホルダー23と一体に形成された案内突起37と係合している。この案内孔41と案内突起37との間の係合によって、可動刃ホルダー23のみをY軸方向に往復移動させ、可動刃21の移動方向をY軸方向に規制している。
また、図3Aおよび図3Bに示すように、可動刃ホルダー23には、Y軸方向に延びる案内孔28が設けられており、この案内孔28から装置本体26に設けられたZ方向規制突起29が飛び出している。このZ方向規制突起29に設けられた、Z方向規制部材38と上板プレート40で可動刃ホルダー23を挟むことで可動刃ホルダー23のZ軸方向の動きを規制している。
【0023】
固定刃22は、カバーフレーム25に保持され、蓋部8に固定されている。また、固定刃22の刃面と可動刃21の刃面とは、水平に配置されており、可動刃21が固定刃22に接近する方向である切断方向に移動することにより、固定刃22と可動刃21とに挟まれた用紙2を切断することができる。
【0024】
後述する第1付勢部材51と共に、可動刃21を往復移動させるための駆動手段である駆動部30は、駆動モーター31、大径歯車部32、小径歯車部33、大径歯車部35、および間欠歯車部36を含み構成されている。なお、係合部としての間欠歯車部36は、第1付勢部材51の付勢力に抗して、可動刃21を切断方向に駆動させることができる。
大径歯車部32は、駆動モーター31からの回転駆動力を受けて回転し、支軸を同じとする小径歯車部33を介して、駆動モーター31からの回転駆動力を大径歯車部35に伝える。
大径歯車部35が回転すると、支軸34(図6Aおよび図6B参照)に設けられた間欠歯車部36も回転する。
【0025】
間欠歯車部36は、一方向側に突出する複数の歯車を有している。間欠歯車部36が回転することにより、間欠歯車部36の歯車と、可動刃ホルダー23と一体に形成された案内突起37に設けられている間欠歯部27の間欠歯車部36側に形成された凹部と、が係合し、案内孔41に沿って、可動刃ホルダー23と共に可動刃21が切断方向に移動する。間欠歯車部36の歯車と間欠歯部27の凹部との係合位置、および案内孔41とそれに案内される案内突起37の位置は、2箇所の紙カット位置での紙カット負荷のアンバランスが生じたときに、案内孔41と案内突起37のこじりによる摺動負荷が最小になるため、2箇所の紙カット位置の中央である、可動刃21の幅方向の中央に設けることが望ましい。
その後、固定刃22と重なり又は接触し、可動刃21が用紙2を切断終了した位置である最終位置としてのフルストローク位置(図3B図4B図5B図6B参照)に到達すると、間欠歯車部36の歯車と間欠歯部27の凹部との係合が解除され、可動刃21は、可動刃21が固定刃22から離隔する方向である退避方向に移動し、固定刃22と重ならない又は接触しない位置である待機位置(図3A図4A図5A図6A参照)で停止する。
この際、待機位置では、次の動作時に間欠歯車部36と間欠歯部27の凹部との係合位置がずれないように、可動刃ホルダー23と一体に形成されている待機位置規制突起39にてY方向の待機位置を一定の範囲内に規制している。前方側は、上板プレート40に設けられた待機位置規制突起前方規制孔42と待機位置規制突起39の前方が接触することで規制している。また、後方側は、図示しない間欠歯車部36と一体に形成されているカムと待機位置規制突起39の後方が接触することで規制している。待機位置を安定させるためには、案内突起37と待機位置規制突起39とが可動刃ホルダー23と一体に形成されているのが望ましい。
【0026】
更に、その後、間欠歯車部36が回転し、間欠歯車部36の歯車と間欠歯部27の凹部との係合が始まると、可動刃21は、再び切断方向に移動する。このように、駆動部30は、間欠歯車部36を回転させ、間欠歯車部36の歯車と間欠歯部27の凹部との係合や非係合を繰り返すことにより、可動刃21を切断方向や退避方向へ往復移動させることができる。
【0027】
なお、本実施形態のカッター装置20には、2つの付勢部材51,52が設けられている。
第1付勢部材51は、引張バネであり、可動刃21と装置本体26を構成する支持フレーム24との間に設けられている。具体的には、可動刃21の幅方向の中央に設けられたフック部53に第1付勢部材51の一端を掛けるとともに、支持フレーム24の下方に設けられたフック部54に第1付勢部材51の他端を掛けることで装置本体26に装着されている。第1付勢部材51が可動刃21の幅方向の中央に設けられたフック部53に掛けられているので、可動刃21の中央に付勢力を安定して付勢することができる。この第1付勢部材51は、可動刃21が切断方向に移動すると退避方向に付勢し、可動刃21を-Z軸方向である噛合方向に常時付勢している。なお、噛合方向とは、可動刃21の刃面と垂直な方向において、可動刃21が固定刃22に圧接される方向である。
【0028】
前述した駆動部30と駆動手段を構成する第1付勢部材51は、可動刃21が往復移動することによる用紙2の切断において、切断が終了し、フルストローク位置で第1付勢部材51のバネ長が最大になるように構成されている。そのため、駆動部30の間欠歯車部36を回転することで、可動刃21が切断方向に移動すると、第1付勢部材51が切断方向に引っ張られるので退避方向に付勢力が働き、フルストローク位置において最大の付勢力となる。従って、第1付勢部材51を設けることで、第1付勢部材51の退避方向への付勢力により、用紙2を切断し、間欠歯車部36と間欠歯部27との係合が解除された後に、可動刃21を退避方向に移動させ、可動刃21を待機位置に素早く戻すことができる。
【0029】
なお、第1付勢部材51の付勢力が働く方向である付勢方向L2と、可動刃21の退避方向L1と、が交差する角度を角度Aとすると、可動刃21と固定刃22とが接触する位置では、図5Bに示すように、角度Aは、10°以上80°以下の範囲にあり、可動刃21に退避方向への付勢力と噛合方向への付勢力を付勢することができるので、可動刃21を待機位置に素早く戻すことができ、用紙2の切断時に可動刃21と固定刃22との押圧力を大きくし、安定した用紙2の切断を行うことができる。
【0030】
ここで、角度Aが10°未満の場合には、可動刃21と固定刃22との押圧力が小さくなり、安定して用紙2の切断を行うことができなくなり、また、第1付勢部材51が略水平に配置しなければならないので、可動刃ホルダー23に第1付勢部材51が配置できる孔部を設ける必要があり、可動刃ホルダー23の強度が低下してしまうという虞がある。角度Aが80°より大きい場合には、可動刃21の退避方向への付勢力が小さくなり、可動刃21を待機位置に素早く戻すことができなくなる。
【0031】
また、可動刃21と固定刃22とが接触しない位置では、図5Aに示すように、角度Aは、60°以上100°以下の範囲にあり、第1付勢部材51の取り付けスペースを小さくすることができる。特に、Y軸方向の取り付けスペースを短くすることができる。角度Aが60°未満、又は、100°より大きい場合には、第1付勢部材51を傾けて取り付ける必要があり、Y軸方向の取り付けスペースが長くなり、カッター装置20が大きくなってしまう虞がある。
【0032】
第2付勢部材52は、引張バネであり、可動刃ホルダー23と支持フレーム24との間に設けられ、可動刃21の刃面と平行に配置されている。具体的には、可動刃ホルダー23の-Y軸方向である退避方向に設けられたフック部55に第2付勢部材52の一端を掛けるとともに、支持フレーム24の上方に設けられたフック部56に第2付勢部材52の他端を掛けることで装置本体26に装着されている。また、図5A図5B図6A、および図6Bに示すように、第2付勢部材52は、第1付勢部材51の付勢力を相殺する方向、所謂、退避方向と反対の切断方向に付勢力を与えるように配置され、可動刃21を切断方向に常時付勢している。また、可動刃21の刃面と平行に配置され、切断方向に対して斜めに配置されている。この第2付勢部材52は、可動刃21を切断方向に常時付勢している。
【0033】
なお、第2付勢部材52は、可動刃21を退避方向に付勢する第1付勢部材51の付勢力を相殺する方向に配置されているので、切断後、間欠歯車部36と可動刃21を保持する可動刃ホルダー23に設けられた間欠歯部27との係合が解除され、可動刃21が第1付勢部材51の付勢力によって退避方向に退避した際に、可動刃21を退避方向に付勢する付勢力を弱められるので、可動刃ホルダー23がカッター装置20の筐体(図示せず)に衝突することで発生する打撃音を低減することができる。
【0034】
また、第2付勢部材52は、可動刃21を保持するホルダーとしての可動刃ホルダー23に掛けられているので、可動刃21の破損を防止することができる。
また、第2付勢部材52は、可動刃21の刃面と平行に配置されているので、可動刃21が刃面と水平である退避方向に退避する際の付勢力を好適に弱めることができる。
また、第2付勢部材52は、切断方向に対して斜めに配置されているので、可動刃21を保持する可動刃ホルダー23のガタツキを一方向に寄せることができ、切断時の動作を安定させることができる。
【0035】
なお、第1付勢部材51を掛ける可動刃21のフック部53には、図7に示すように、樹脂部材60が設けられている。そのため、フック部53や第1付勢部材51の摩耗を低減することができる。
樹脂部材60の構成材料としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン、およびポリ塩化ビニルの何れかであることが好ましい。また、本実施形態では、フック部53に樹脂部材60を設けているが、他のフック部54,55,56においても、同様に、樹脂部材60を設けても構わない。
【0036】
以上で述べたように、本実施形態のカッター装置20は、可動刃21を退避方向へ付勢する付勢力を有する第1付勢部材51を備えているので、第1付勢部材51の退避方向への付勢力により、用紙2を切断し、駆動部30の間欠歯車部36と、可動刃21を保持する可動刃ホルダー23に設けられた間欠歯部27と、の係合が解除された後に、可動刃21を退避方向に移動させ、可動刃21を待機位置に素早く戻すことができる。そのため、用紙2切断後、すぐに紙送りができるので、紙ジャムの発生が低減し、高速切断可能なカッター装置20を提供することができる。
【0037】
また、本実施形態のプリンター1は、用紙2切断後、可動刃21を待機位置に素早く戻すことができるカッター装置20を備えているので、高速印刷が可能となる。また、固定刃22が可動刃21よりも用紙保持部7側に配置されているので、可動刃21を駆動する駆動部30と用紙保持部7との間に用紙2の搬送路16を設けることができ、プリンター1の小型化を図ることができる。
【0038】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のカッター装置20は、図1に示した概要のプリンター1に限らず、各種構成のプリンターに適用することができる。
可動刃21を退避方向へ付勢する第1付勢部材51や可動刃21を切断方向へ付勢する第2付勢部材52は、引張バネ以外の弾性部材(例えば、合成ゴム)によっても構成することができる。
【0039】
また、上述した実施形態では、所謂、2つの刃を交差する方式のカッター装置20を示したが、これに限らず可動刃21が往復移動をして用紙2を切断する各種構成のカッター装置に、本発明は適用が可能である。
【0040】
以下に、上述した実施形態から導き出される内容を記載する。
【0041】
カッター装置は、固定刃と、前記固定刃の刃面と水平に往復移動可能に構成されている可動刃と、前記可動刃を前記往復移動させる駆動手段と、前記可動刃を付勢する第1付勢部材と、を有し、前記往復移動の方向において、前記可動刃が前記固定刃に接近する方向を切断方向とし、前記往復移動の方向において、前記可動刃が前記固定刃から離隔する方向を退避方向とし、前記可動刃の刃面と垂直な方向において、前記可動刃が前記固定刃に圧接される方向を噛合方向とすると、前記第1付勢部材は、前記可動刃を前記退避方向、且つ、前記噛合方向に付勢し、前記駆動手段は、前記第1付勢部材の付勢力に抗して、前記可動刃を前記切断方向に駆動する係合部を具備し、前記可動刃と前記係合部との係合が解除されると、前記可動刃は、前記第1付勢部材の付勢力によって前記退避方向に退避する構成であることを特徴とする。
【0042】
この構成によれば、可動刃と係合部との係合が解除されると、可動刃は、第1付勢部材の付勢力によって退避方向に退避する構成であるので、第1付勢部材の付勢力が可動刃の退避方向に働き、切断後、可動刃を待機位置(開き位置)に素早く戻すことができ、カッター装置の切断速度を高めることができる。
【0043】
上記カッター装置において、前記第1付勢部材の付勢方向と前記退避方向とが交差する角度を角度Aとすると、前記可動刃と前記固定刃とが接触する位置では、前記角度Aは、10°以上80°以下の範囲にあり、前記可動刃と前記固定刃とが接触しない位置では、前記角度Aは、60°以上100°以下の範囲にあることが好ましい。
【0044】
この構成によれば、可動刃と固定刃とが接触する位置では、角度Aが10°以上80°以下の範囲であるため、可動刃を退避方向と噛合方向に付勢することができる。そのため、切断後、可動刃を待機位置に素早く戻すことができ、また、切断時に可動刃と固定刃との押圧力を大きくし、安定した切断を行うことができる。
更に、可動刃と固定刃とが接触しない位置では、角度Aが60°以上100°以下の範囲にあるため、第1付勢部材の取り付けスペースを小さくすることができる。
【0045】
上記カッター装置において、前記第1付勢部材は、前記可動刃の幅方向の中央に設けられたフック部に掛けられる引張バネであることが好ましい。
【0046】
この構成によれば、第1付勢部材が引張バネであるので、容易に入手することができる。また、第1付勢部材が可動刃の幅方向の中央に設けられたフック部に掛けられているので、可動刃の中央に付勢力を安定して付勢することができる。
【0047】
上記カッター装置において、前記フック部には、樹脂部材が設けられていることが好ましい。
【0048】
この構成によれば、第1付勢部材を掛けるフック部に、樹脂部材が設けられているので、第1付勢部材やフック部の摩耗を低減することができる。
【0049】
上記カッター装置において、前記可動刃が前記往復移動することによる用紙の切断において、前記切断が終了した前記可動刃の最終位置で前記引張バネのバネ長が最大となることが好ましい。
【0050】
この構成によれば、用紙の切断が終了した可動刃の最終位置で引張バネのバネ長が最大となるので、用紙の切断が終了した可動刃の最終位置において、引張バネの付勢力を最大とすることができ、可動刃を待機位置に素早く戻すことができる。
【0051】
上記カッター装置において、前記第1付勢部材の付勢力を相殺する方向に前記可動刃に付勢力を与える第2付勢部材を更に有していることが好ましい。
【0052】
この構成によれば、第1付勢部材の付勢力を相殺する方向に可動刃に付勢力を与える第2付勢部材を更に有しているので、可動刃が第1付勢部材の付勢力によって退避方向に退避した際に、可動刃を退避方向に付勢する第1付勢部材の付勢力を弱められるので、打撃音を低減することができる。
【0053】
プリンターは、上記カッター装置を備えるプリンターであって、前記プリンターは、印刷機構部と用紙を保持する用紙保持部とを有する装置本体と、前記装置本体に回動可能に設けられ、前記用紙の蓋をする蓋部と、を備え、前記カッター装置は、前記装置本体に配置され、前記固定刃は、前記可動刃よりも前記用紙保持部側に配置されていることを特徴とする。
【0054】
この構成によれば、切断後、可動刃が第1付勢部材の付勢力によって退避方向に退避する構成であるので、切断後、可動刃を待機位置(開き位置)に素早く戻すことができるカッター装置を備えているので、印刷速度の速いプリンターを提供することができる。
また、固定刃が可動刃よりも用紙保持部側に配置されているので、可動刃を駆動する駆動手段と用紙保持部との間に用紙の搬送路を設けることができ、プリンターの小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…プリンター、2…用紙、5…排出口、6…装置本体、7…用紙保持部、8…蓋部、10…電源スイッチ、12…印刷機構部、14…印刷ヘッド、15…プラテンローラー、16…搬送路、20…カッター装置、21…可動刃、22…固定刃、23…可動刃ホルダー、24…支持フレーム、25…カバーフレーム、26…装置本体、27…間欠歯部、28…案内孔、29…Z方向規制突起、30…駆動部、31…駆動モーター、32…大径歯車部、33…小径歯車部、34…支軸、35…大径歯車部、36…係合部としての間欠歯車部、37…案内突起、38…Z方向規制部材、39…待機位置規制突起、40…上板プレート、41…案内孔、42…待機位置規制突起前方規制孔、51…第1付勢部材、52…第2付勢部材、53,54,55,56…フック部、60…樹脂部材、L1…退避方向、L2…付勢方向。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7