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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】植物保護剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20221012BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221012BHJP
   A01G 13/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
A01G13/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018172939
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020045299
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 広良
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英昭
(72)【発明者】
【氏名】岩永 猛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 栄
(72)【発明者】
【氏名】銭谷 優香
(72)【発明者】
【氏名】楠本 保浩
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-524874(JP,A)
【文献】特開2020-045300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物を含有する粒子であり、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物により表面処理され波長550nmに吸収を持ち、波長350nmの吸光度を1としたときの波長550nmの吸光度が0.1以上である光触媒粒子、
を含有する植物保護剤
前記金属化合物は、ケイ素原子、アルミニウム原子又はチタン原子と、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1以上20以下の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素基とを有する金属化合物である。
【請求項2】
前記金属化合物が、ケイ素原子と、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1以上20以下の不飽和脂肪族炭化水素基及び炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素基とを有し、前記ケイ素原子に前記炭化水素基が直接結合した金属化合物である、請求項1に記載の植物保護剤。
【請求項3】
前記金属化合物が、アルコキシシラン化合物、アルミネート系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の植物保護剤。
【請求項4】
前記金属化合物が、ケイ素原子に直接結合した炭素数1以上20以下のアルキル基又はフェニル基を有するアルコキシシラン化合物である、請求項1に記載の植物保護剤。
【請求項5】
前記光触媒粒子が、波長500nm以上600nm以下の全領域に吸収を持つ、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の植物保護剤。
【請求項6】
前記光触媒粒子は、波長550nmと波長650nmの吸光度比650nm/550nmが1未満である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の植物保護剤。
【請求項7】
前記光触媒粒子の体積平均粒子径が0.5μm以上50μm以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の植物保護剤。
【請求項8】
前記光触媒粒子が、一次粒子が凝集した凝集粒子であり、前記一次粒子の平均径が1nm以上200nm以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の植物保護剤。
【請求項9】
前記チタン酸化物を含有する粒子が、酸化チタン粒子、メタチタン酸粒子、酸化チタンエアロゲル粒子及びシリカチタニア複合エアロゲル粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の植物保護剤。
【請求項10】
さらに水性媒体を含有する、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の植物保護剤。
【請求項11】
前記水性媒体が、水と水溶性有機溶剤とを含む、請求項10に記載の植物保護剤。
【請求項12】
前記水性媒体と前記光触媒粒子との含有量比が質量基準で100:0.01乃至100:1である、請求項10又は請求項11に記載の植物保護剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
強すぎる紫外線は、植物の形態異常又は色の変化を引き起こすことがあり、紫外線を避ける目的で施設栽培が行われることがある。ほかに、低温障害を避ける、収穫時期を制御する、他品種との交雑を避けるなどの目的で施設栽培が行われており、結果として、紫外線の少ない環境で植物が栽培されることがある。
【0003】
一方、植物保護剤、病害防除剤又は農薬として、光触媒粒子を有効成分として含む組成物が知られており(例えば、特許文献1~11)、これら植物保護剤等は、光触媒粒子が発現する光触媒反応によって植物の病害を抑制する作用を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-343209号公報
【文献】特開2005-255558号公報
【文献】特開2008-150351号公報
【文献】特開2014-1147号公報
【文献】特許第3458948号公報
【文献】特許第4321865号公報
【文献】特許第6066998号公報
【文献】特開2008-50348号公報
【文献】特許第3678606号公報
【文献】特許第4619724号公報
【文献】特許第4531732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光触媒粒子を有効成分とする従来の植物保護剤、病害防除剤又は農薬は、有効成分である光触媒粒子が紫外線応答型であるので、施設栽培において使用すると光触媒反応を発現しにくく、植物の病害を抑制する作用を充分に発揮できない。
【0006】
本開示の実施形態は、上記状況のもとになされた。
本開示の実施形態は、緑色光応答型の光触媒粒子の光触媒反応によって植物の病害を抑制する植物保護剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0008】
[1] チタン酸化物を含有する粒子であり、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物により表面処理され波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子、を含有する植物保護剤。
[2] 前記光触媒粒子が、波長500nm以上600nm以下の全領域に吸収を持つ、[1]に記載の植物保護剤。
[3] 前記光触媒粒子は、波長550nmと波長650nmの吸光度比650nm/550nmが1未満である、[1]又は[2]に記載の植物保護剤。
[4] 前記光触媒粒子の体積平均粒子径が0.5μm以上50μm以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[5] 前記光触媒粒子が、一次粒子が凝集した凝集粒子であり、前記一次粒子の平均径が1nm以上200nm以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[6] 前記チタン酸化物を含有する粒子が、酸化チタン粒子、メタチタン酸粒子、酸化チタンエアロゲル粒子及びシリカチタニア複合エアロゲル粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[7] 前記金属原子がケイ素原子である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[8] 前記炭化水素基が、炭素数1以上20以下の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[9] 前記金属化合物が、金属原子と前記金属原子に直接結合した炭化水素基とを有する金属化合物である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[10] さらに水性媒体を含有する、[1]~[9]のいずれか1項に記載の植物保護剤。
[11] 前記水性媒体が、水と水溶性有機溶剤とを含む、[10]に記載の植物保護剤。
[12] 前記水性媒体と前記光触媒粒子との含有量比が質量基準で100:0.01乃至100:1である、[10]又は[11]に記載の植物保護剤。
【発明の効果】
【0009】
[1]、[6]、[7]、[8]又は[9]に係る発明によれば、緑色光応答型の光触媒粒子の光触媒反応によって植物の病害を抑制する植物保護剤が提供される。
[2]に係る発明によれば、緑色光応答型の光触媒粒子が波長500nm以上600nm以下の領域の一部にのみ吸収を持つ場合に比べ、植物の病害を抑制する植物保護剤が提供される。
[3]に係る発明によれば、緑色光応答型の光触媒粒子の吸光度比650nm/550nmが1以上である場合に比べ、植物の形態形成への影響が少ない植物保護剤が提供される。
[4]に係る発明によれば、緑色光応答型の光触媒粒子の体積平均粒子径が0.5μm未満である場合に比べ、植物を傷害しにくい植物保護剤が提供される。
[5]に係る発明によれば、緑色光応答型の光触媒粒子を構成する一次粒子の平均径が200nm超である場合に比べ、植物の病害を抑制する植物保護剤が提供される。
[10]、[11]又は[12]に係る発明によれば、緑色光応答型の光触媒粒子の光触媒反応によって植物の病害を抑制する植物保護剤であって、散布が容易な植物保護剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】エアロゲル粒子の一例を示す模式図である。
図2】チタン酸化物含有粒子がシリカチタニア複合エアロゲル粒子である光触媒粒子の元素プロファイルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0013】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0016】
<植物保護剤>
植物の光合成を担う色素であるクロロフィルは、波長450nm近辺の青色光と波長660nm近辺の赤色光に吸収ピークを有する。
植物の形態形成にかかわる色素であるフィトクロムは、波長660nm近辺の赤色光によって活性化し、波長730nm近辺の遠赤色光によって不活性化する。
植物は、青色光と赤色光とをよく吸収する一方で、緑色光をよく反射する。
本実施形態に係る植物保護剤は、上記の植物の光応答性を踏まえて完成された。
【0017】
本実施形態に係る植物保護剤は、光触媒粒子を含有する植物保護剤である。本実施形態に係る植物保護剤は、チタン酸化物を含有する粒子であって、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物により表面改質されており波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子を含有する。本実施形態に係る植物保護剤は、前記光触媒粒子の光触媒反応によって、植物の病害を抑制する。本効果は、光触媒が光励起したときに生成する活性酸素が病原体の増殖を抑制すること又は有害物質を分解することによるものと推測される。
【0018】
本実施形態に係る植物保護剤は、波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子を含有する。当該光触媒粒子は、波長550nmの光、つまり植物体から反射される緑色光で光触媒反応を発現するので、植物体表面において効率的に植物の病害を抑制する。当該光触媒粒子は、露地栽培に使用した場合でも、施設栽培に使用した場合でも、光触媒反応を発現し、植物の病害を抑制する。
【0019】
本実施形態に係る植物保護剤に含まれる波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子は、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物により表面改質された光触媒粒子である。当該光触媒粒子の表面には、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物が結合しており、当該炭化水素基が植物体に対する付着にはたらく。したがって、当該光触媒粒子は、植物体に留まって植物体上で光触媒反応を発現しやすい。
【0020】
本実施形態に係る植物保護剤の実施形態の一例は、光触媒粒子と水性媒体とを含み、水性媒体に光触媒粒子が分散した状態で含まれている。
【0021】
本実施形態に係る植物保護剤の好ましい実施形態は、体積平均粒子径が0.5μm以上50μm以下である光触媒粒子を含む。
光触媒粒子は病原体のみならず植物体にも傷害を及ぼすことがあるところ、体積平均粒子径が0.5μm以上の光触媒粒子は、体積平均粒子径が0.5μm未満の光触媒粒子に比べて植物体に対する付着の持続性が低く、植物に傷害を及ぼしにくい。この観点から、光触媒粒子は、体積平均粒子径が0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることが更に好ましい。
体積平均粒子径が50μm以下の光触媒粒子は、体積平均粒子径が50μm超の光触媒粒子に比べて植物体に付着しやすく、植物の病害を抑制する作用が担保される。この観点から、光触媒粒子は、体積平均粒子径が50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。
【0022】
上記の体積平均粒子径は、以下の測定方法によって測定される値である。
光触媒粒子が分散している分散液を目開き106μmの篩を通して粗大粒子を取り除いた後、分散液中の粒子の粒子径をレーザー回折散乱法粒度測定装置(ベックマン・コールター社製、LS 13 320)を用いて測定し、体積基準の粒度分布を得る。小粒径側から累積50%となる粒子径D50vを求め、D50vを体積平均粒子径(μm)とする。
【0023】
本実施形態に係る植物保護剤の好ましい実施形態は、一次粒子が凝集した凝集粒子であって、一次粒子の平均径が1nm以上200nm以下である光触媒粒子を含む。
一次粒子の平均径が200nm以下の光触媒粒子は、一次粒子の平均径が200nm超の光触媒粒子に比べて光触媒活性が高い。この観点から、光触媒粒子は、一次粒子が凝集した凝集粒子であって、一次粒子の平均径が200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。
一次粒子及び凝集粒子の製造が容易であることと、一次粒子及び凝集粒子の分散安定性の観点とから、一次粒子の平均径は1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましい。
【0024】
上記の一次粒子の平均径は、以下の測定方法によって測定される値である。
光触媒粒子を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4100)により観察して画像を撮影する。撮影した画像を画像解析装置(株式会社ニレコ製、LUZEXIII)に取り込み、画像解析によって粒子ごとの面積を求め、面積から円相当径(nm)を求める。一次粒子100個の円相当径の算術平均を算出し、一次粒子の平均径とする。
【0025】
以下、本実施形態に係る植物保護剤が含有する波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子について詳しく説明する。本開示において「波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子」を「緑色光応答型の光触媒粒子」ともいう。
【0026】
<波長550nmに吸収を持つ光触媒粒子(緑色光応答型の光触媒粒子)>
緑色光応答型の光触媒粒子は、チタン酸化物を含有する粒子(以下「チタン酸化物含有粒子」ともいう。)を表面改質した光触媒粒子である。チタン酸化物含有粒子の例として、酸化チタン粒子、メタチタン酸粒子、酸化チタンエアロゲル粒子及びシリカチタニア複合エアロゲル粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子が挙げられる。
【0027】
緑色光応答型の光触媒粒子の一例は、紫外線吸収性及び紫外線応答型の光触媒活性を有するチタン酸化物含有粒子が表面改質されて波長550nmに吸収を持つようになった光触媒粒子である。
【0028】
緑色光応答型の光触媒粒子は、紫外線吸収性を有していてもよく、したがって、緑色光応答型の光触媒粒子は、緑色光応答型の光触媒活性のほかに紫外線応答型の光触媒活性を示してもよい。緑色光応答型の光触媒粒子の一例は、波長350nmの吸光度を1としたとき波長550nmの吸光度が0.02以上である。緑色光応答型の光触媒粒子の別の一例は、波長350nmの吸光度を1としたとき波長550nmの吸光度が0.1以上である。緑色光応答型の光触媒粒子の別の一例は、波長350nmの吸光度を1としたとき波長550nmの吸光度が0.2以上である。
【0029】
緑色光応答型の光触媒粒子の好ましい形態例は、波長500nm以上600nm以下の全領域に吸収を持つ。当該光触媒粒子は、植物体からの反射量の多い波長域全体に吸収を持つことから、弱光下であっても光触媒反応を発現し、弱光下であっても植物の病害を抑制する。緑色光応答型の光触媒粒子の一例は、波長350nmの吸光度を1としたとき波長550nmの吸光度及び波長600nmの吸光度が0.02以上である。緑色光応答型の光触媒粒子の別の一例は、波長350nmの吸光度を1としたとき波長550nmの吸光度が0.1以上であり、波長600nmの吸光度が0.05以上である。緑色光応答型の光触媒粒子の別の一例は、波長350nmの吸光度を1としたとき波長550nmの吸光度が0.2以上であり、波長600nmの吸光度が0.1以上である。
【0030】
緑色光応答型の光触媒粒子は、緑色光以外の可視光を吸収する可視光吸収性を有していてもよく、したがって、緑色光応答型の光触媒粒子は、緑色光応答型の光触媒活性のほかに、緑色光応答型以外の可視光応答型の光触媒活性を示してもよい。緑色光応答型の光触媒粒子の一例は、波長400nm以上800nm以下の全範囲に吸収を持つ。
【0031】
緑色光応答型の光触媒粒子の好ましい形態例は、波長550nmと波長650nmの吸光度比650nm/550nmが1未満である。波長650nmは、本開示において、赤色光の代表値として挙げる波長である。
吸光度比650nm/550nmが1未満であることは、緑色光に比較して赤色光の吸収が少ないことを示しており、緑色光に比較して赤色光の吸収が少ない光触媒粒子は、植物の光合成及び形態形成への影響が少ない点で有利である。この観点から、緑色光応答型の光触媒粒子は、吸光度比650nm/550nmが1未満であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.4以下であることが更に好ましい。
チタン酸化物含有粒子が表面改質されて可視光応答性を示す光触媒粒子は、吸光度比650nm/550nmが0を超える傾向があり、0.02以上となる傾向がある。
【0032】
緑色光応答型の光触媒粒子の好ましい形態例は、波長550nmと波長750nmの吸光度比750nm/550nmが0.6未満である。波長750nmは、本開示において、遠赤色光の代表値として挙げる波長である。
吸光度比750nm/550nmが0.6未満であることは、緑色光に比較して遠赤色光の吸収が少ないことを示しており、緑色光に比較して遠赤色光の吸収が少ない光触媒粒子は、植物の形態形成への影響が少ない点で有利である。この観点から、緑色光応答型の光触媒粒子は、吸光度比750nm/550nmが0.6未満であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.2以下であることが更に好ましい。
チタン酸化物含有粒子が表面改質されて可視光応答性を示す光触媒粒子は、吸光度比750nm/550nmが0を超える傾向があり、0.01以上となる傾向がある。
【0033】
緑色光応答型の光触媒粒子の好ましい形態例は、波長550nmと波長450nmの吸光度比550nm/450nmが0.1以上である。波長450nmは、本開示において、青色光の代表値として挙げる波長である。
チタン酸化物含有粒子は紫外線吸収性を示す傾向があり、チタン酸化物含有粒子が表面改質されて可視光応答性を示す光触媒粒子は、可視光の中でも紫外線に近い波長の青色光に比較的強い吸収を持つところ、吸光度比550nm/450nmが0.1以上であることは、チタン酸化物含有粒子が緑色光応答型の光触媒粒子として十分なほど表面改質されていることを示している。また、吸光度比550nm/450nmが0.1以上である光触媒粒子は、緑色光に比較して青色光の吸収が多過ぎず、植物の光合成への影響が少ない点で有利である。これらの観点から、緑色光応答型の光触媒粒子は、吸光度比550nm/450nmが0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが更に好ましく、0.4以上であることが更に好ましい。
チタン酸化物含有粒子が表面改質されて可視光応答性を示す光触媒粒子は、吸光度比550nm/450nmが1に満たない傾向があり、0.8以下となる傾向がある。
【0034】
本開示において各波長の吸光度は、拡散反射スペクトルからKubelka-Munk変換により理論的に導いた値である。
【0035】
[チタン酸化物を含有する粒子]
緑色光応答型の光触媒粒子は、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物(以下「有機金属化合物」という。)により表面改質されたチタン酸化物含有粒子である。チタン酸化物含有粒子は、有機金属化合物による表面改質を受ける前に、有機金属化合物以外の化学物質による表面改質を受けていてもよいが、受けていないことが好ましい。
【0036】
有機金属化合物による表面改質の対象となるチタン酸化物含有粒子としては、例えば、酸化チタン粒子、メタチタン酸粒子、酸化チタンエアロゲル粒子、シリカチタニア複合エアロゲル粒子が挙げられる。以下、有機金属化合物による表面改質の対象となる、酸化チタン粒子、メタチタン酸粒子、酸化チタンエアロゲル粒子及びシリカチタニア複合エアロゲル粒子について順に説明する。
【0037】
[酸化チタン粒子]
酸化チタン粒子は、非晶質でもよく結晶質でもよく、光触媒活性の高さの観点からは、結晶質であることが好ましい。酸化チタン粒子が結晶質の場合、その結晶構造は、ブルッカイト型、アナターゼ型又はルチル型の単結晶構造でもよく、これら結晶が共存する混晶構造でもよい。酸化チタン粒子は、光触媒活性の高さの観点からは、アナターゼ型結晶の酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0038】
酸化チタン粒子の製法は、特に制限はないが、例えば、塩素法(気相法)、硫酸法(液相法)、チタンアルコキシドを用いたゾルゲル法、メタチタン酸を焼成する方法が挙げられる。
【0039】
塩素法(気相法)の一例は、次の通りである。ルチル鉱石をコークス及び塩素と反応させ、ガス状の四塩化チタンを生成させ、ガス状の四塩化チタンを冷却して、液状の四塩化チタンを得る。液状の四塩化チタンを高温下で酸素と反応させた後、塩素ガスを分離し、酸化チタン粒子を得る。
【0040】
硫酸法(液相法)の一例は、次の通りである。イルメナイト鉱石(FeTiO)又はチタンスラグを濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄を硫酸鉄(FeSO)として分離し、オキシ硫酸チタン(TiOSO)を得る。オキシ硫酸チタンを加水分解し、オキシ水酸化チタン(TiO(OH))を沈殿させる。この沈殿物を洗浄及び乾燥し、乾燥物を焼成して酸化チタン粒子を得る。
【0041】
酸化チタンの結晶構造は、焼成温度の高さに従い、非晶質、ブルッカイト型結晶、アナターゼ型結晶、ルチル型結晶と変化するので、焼成温度の高低を調整することにより目的の結晶質の酸化チタン粒子が得られる。結晶質の酸化チタン粒子を得る観点から、焼成温度は200℃以上800℃以下が好ましく、400℃以上600℃以下がより好ましい。
【0042】
酸化チタン粒子の平均一次粒子径は、1nm以上200nm以下が好ましく、5nm以上150nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。酸化チタン粒子の平均一次粒子径とは、前述した画像解析による一次粒子100個の円相当径の算術平均である。
【0043】
[メタチタン酸粒子]
本開示においてメタチタン酸粒子は、チタン酸水和物TiO・nHOのうち、n=1のチタン酸の粒子を指す。
【0044】
メタチタン酸粒子の製法は、特に制限はないが、例えば、塩素法(気相法)、硫酸法(液相法)が挙げられる。
【0045】
塩素法(気相法)の一例は、次の通りである。ルチル鉱石をコークス及び塩素と反応させ、ガス状の四塩化チタンを生成させ、ガス状の四塩化チタンを冷却して、液状の四塩化チタンを得る。四塩化チタンを水に溶解させ、これに強塩基を投入しながら加水分解し、オキシ水酸化チタン(TiO(OH))を沈殿させる。この沈殿物を洗浄及び乾燥し、メタチタン酸粒子を得る。
【0046】
硫酸法(液相法)の一例は、次の通りである。イルメナイト鉱石(FeTiO)又はチタンスラグを濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄を硫酸鉄(FeSO)として分離し、オキシ硫酸チタン(TiOSO)を得る。オキシ硫酸チタンを加水分解し、オキシ水酸化チタン(TiO(OH))を沈殿させる。この沈殿物を洗浄及び乾燥し、メタチタン酸粒子を得る。
【0047】
メタチタン酸粒子の平均一次粒子径は、1nm以上200nm以下が好ましく、5nm以上150nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。メタチタン酸粒子の平均一次粒子径とは、前述した画像解析による一次粒子100個の円相当径の算術平均である。
【0048】
[酸化チタンエアロゲル粒子]
酸化チタンエアロゲル粒子は、エアロゲル構造を有する。
【0049】
本開示において「エアロゲル」又は「エアロゲル構造」とは、一次粒子が多孔構造を形成しつつ凝集した構造を指す。当該構造は、ナノメートルオーダー径の球状体が集合したクラスター構造であり、内部が3次元網目状の微細構造となっている。
図1に、エアロゲル粒子の一例の構造を模式的に示す。図1に示すエアロゲル粒子は、一次粒子が多孔構造を形成しつつ凝集して凝集粒子となっている。
【0050】
酸化チタンエアロゲル粒子のエアロゲル構造は、一次粒子どうしの凝集が強固な構造であるので、酸化チタンエアロゲル粒子の分散液に剪断応力を印加しても酸化チタンエアロゲル粒子は解砕されにくい。酸化チタンエアロゲル粒子は、解砕されにくいエアロゲル構造であることにおいて、酸化チタン粒子の一次粒子が単に凝集した二次粒子とは相違する。
【0051】
酸化チタンエアロゲル粒子を構成する一次粒子の平均径は、1nm以上200nm以下が好ましく、5nm以上150nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。酸化チタンエアロゲル粒子を構成する一次粒子の平均径とは、前述した画像解析による一次粒子100個の円相当径の算術平均である。
【0052】
酸化チタンエアロゲル粒子の体積平均粒子径は、0.5μm以上50μm以下が好ましく、0.8μm以上30μm以下がより好ましく、1μm以上20μm以下が更に好ましい。酸化チタンエアロゲル粒子の体積平均粒径とは、前述したレーザー回折散乱法粒度測定装置により測定した体積基準の粒度分布において小径側から累積50%の粒径である。
【0053】
酸化チタンエアロゲル粒子のBET比表面積は、光触媒活性の高さの観点から、120m/g以上1000m/g以下が好ましく、150m/g以上900m/g以下がより好ましく、180m/g以上800m/g以下が更に好ましい。酸化チタンエアロゲル粒子のBET比表面積は、窒素ガスを用いたガス吸着法により求める。
【0054】
酸化チタンエアロゲル粒子の製造方法は、特に制限されないが、エアロゲル構造を形成する観点から、チタンアルコキシドを材料に用いたゾルゲル法が好ましい(詳細は後述する。)。したがって、酸化チタンエアロゲル粒子は、チタンアルコキシドの加水分解縮合物からなることが好ましい。
【0055】
酸化チタンエアロゲル粒子は、ケイ素やアルミニウム等のチタン以外の金属元素を少量含んでいてもよい。酸化チタンエアロゲル粒子に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiは、例えば0以上0.05以下である。
【0056】
酸化チタンエアロゲル粒子を構成する一次粒子は、非晶質でもよく結晶質でもよく、光触媒活性の高さの観点からは、結晶質であることが好ましい。一次粒子が結晶質の場合、その結晶構造は、ブルッカイト型、アナターゼ型又はルチル型の単結晶構造でもよく、これら結晶が共存する混晶構造でもよい。一次粒子は、光触媒活性の高さの観点からは、アナターゼ型結晶の酸化チタン粒子であることが好ましい。一次粒子の結晶構造は、後述する加熱処理工程における加熱処理温度の高低を調整することにより制御できる。
【0057】
[シリカチタニア複合エアロゲル粒子]
シリカチタニア複合エアロゲル粒子は、エアロゲル構造を有する。シリカチタニア複合エアロゲル粒子は、ケイ素とチタンの複合酸化物粒子を一次粒子とし、当該一次粒子が多孔構造を形成しつつ凝集したエアロゲル粒子である。
【0058】
シリカチタニア複合エアロゲル粒子の説明において、一次粒子であるケイ素とチタンの複合酸化物粒子が多孔構造を形成しつつ凝集したエアロゲル粒子を母粒子という。
【0059】
シリカチタニア複合エアロゲル粒子は、母粒子それ自体であってもよく、母粒子と、前記母粒子上に存在するチタニア層と、を有する粒子であってもよい。母粒子上にチタニア層を有する形態においては、少なくとも母粒子がエアロゲル構造を有する。チタニア層は、母粒子の表面に共有結合したチタニアを含む層であることが好ましい。チタニア層の厚さは、0.1nm以上30nm以下が好ましく、0.2nm以上10nm以下がより好ましく、0.3nm以上5nm以下が更に好ましい。
【0060】
シリカチタニア複合エアロゲル粒子は、母粒子に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiが0超6以下であることが好ましい。母粒子における元素比Si/Tiが0超であると、チタニア骨格中にシリカが入り込むことによりエアロゲル粒子の多孔質化が促進され、母粒子における元素比Si/Tiの値が6以下であると、チタニア骨格による光触媒反応を発現しやすい。この観点から、母粒子に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiは、0.05以上4以下であることがより好ましく、0.1以上3以下であることが更に好ましい。
【0061】
母粒子に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiは、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)の定性分析(ワイドスキャン分析)を行い、シリカチタニア複合エアロゲル粒子の元素プロファイルを作成して求める。
【0062】
母粒子を構成する一次粒子の平均径は、1nm以上200nm以下が好ましく、5nm以上150nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。母粒子を構成する一次粒子の平均径とは、前述した画像解析による一次粒子100個の円相当径の算術平均である。
【0063】
シリカチタニア複合エアロゲル粒子の体積平均粒子径は、0.5μm以上50μm以下が好ましく、0.8μm以上30μm以下がより好ましく、1μm以上20μm以下が更に好ましい。シリカチタニア複合エアロゲル粒子の体積平均粒径とは、前述したレーザー回折散乱法粒度測定装置により測定した体積基準の粒度分布において小径側から累積50%の粒径である。
【0064】
シリカチタニア複合エアロゲル粒子のBET比表面積は、光触媒活性の高さの観点から、200m/g以上1200m/g以下が好ましく、300m/g以上1100m/g以下がより好ましく、400m/g以上1000m/g以下が更に好ましい。シリカチタニア複合エアロゲル粒子のBET比表面積は、窒素ガスを用いたガス吸着法により求める。
【0065】
シリカチタニア複合エアロゲル粒子の製造方法は、特に制限されないが、エアロゲル構造を形成する観点から、アルコキシシランとチタンアルコキシドを材料に用いたゾルゲル法により母粒子を製造することが好ましい(詳細は後述する。)。チタニア層を有するシリカチタニア複合エアロゲル粒子の製造方法は、特に制限されないが、アルコキシシランとチタンアルコキシドを材料に用いたゾルゲル法により母粒子を製造し、次いで当該母粒子の表面に、チタンアルコキシドを材料に用いたゾルゲル法によりチタニア層を形成する製造方法が好ましい(詳細は後述する。)。したがって、母粒子は、アルコキシシランとチタンアルコキシドとの加水分解縮合物からなることが好ましく、チタニア層は、チタンアルコキシドの加水分解縮合物からなることが好ましい。
【0066】
チタニア層は、チタニアを含む層である。チタニア層は、ケイ素やアルミニウム等のチタン以外の金属元素を少量含んでいてもよい。チタニア層に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiは、例えば0以上0.05以下である。
【0067】
[金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物(有機金属化合物)]
緑色光応答型の光触媒粒子は、チタン酸化物含有粒子が有機金属化合物により表面改質された粒子であり、緑色光応答型の光触媒粒子の表面には有機金属化合物が存在する。有機金属化合物は、光触媒粒子が緑色光応答性をより発現しやすい観点から、金属原子、炭素原子、水素原子及び酸素原子のみからなる金属化合物であることが好ましい。
【0068】
有機金属化合物は、光触媒粒子が緑色光応答性をより発現しやすい観点から、チタン酸化物含有粒子の表面に酸素原子を介して結合していることが好ましい。有機金属化合物は、当該有機金属化合物中の金属原子Mに直接結合した酸素原子Oを介してチタン酸化物含有粒子の表面に結合していること、即ち、M-O-Tiなる共有結合によってチタン酸化物含有粒子の表面に結合していることが好ましい。チタン酸化物含有粒子がシリカチタニア複合エアロゲル粒子である場合、有機金属化合物は、M-O-Ti又はM-O-Siなる共有結合によって母粒子又はチタニア層に結合していることが好ましい。
【0069】
有機金属化合物は、光触媒粒子が緑色光応答性をより発現しやすい観点から、金属原子Mと金属原子Mに直接結合した炭化水素基とを有する有機金属化合物であることが好ましい。当該有機金属化合物は、当該有機金属化合物中の金属原子Mに直接結合した酸素原子Oを介してチタン酸化物含有粒子の表面に結合していることが好ましい。即ち、チタン酸化物含有粒子の表面には、炭化水素基と、金属原子Mと、酸素原子Oと、チタン原子Tiとが共有結合で順に連なった構造(炭化水素基-M-O-Ti)が存在することが好ましい。チタン酸化物含有粒子がシリカチタニア複合エアロゲル粒子である場合、チタン酸化物含有粒子の表面には、炭化水素基と、金属原子Mと、酸素原子Oと、チタン原子Ti又はケイ素原子Siとが共有結合で順に連なった構造(炭化水素基-M-O-Ti又は炭化水素基-M-O-Si)が存在することが好ましい。
【0070】
有機金属化合物が複数個の炭化水素基を有する場合、少なくとも1個の炭化水素基が、当該有機金属化合物中の金属原子に直接結合していることが好ましい。
【0071】
光触媒粒子表面の化学結合状態及び有機金属化合物における原子間の化学結合状態は、XPSの高分解能分析(ナロースキャン分析)を行うことにより知ることができる。
【0072】
有機金属化合物に含まれる金属原子としては、光触媒粒子が緑色光応答性をより発現しやすい観点から、ケイ素、アルミニウム又はチタンが好ましく、ケイ素又はアルミニウムがより好ましく、ケイ素が特に好ましい。
【0073】
有機金属化合物が有する炭化水素基としては、炭素数1以上40以下(好ましくは炭素数1以上20以下、より好ましくは炭素数1以上18以下、更に好ましくは炭素数4以上12以下、更に好ましくは炭素数4以上10以下)の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は、炭素数6以上27以下(好ましくは炭素数6以上20以下、より好ましくは炭素数6以上18以下、更に好ましくは炭素数6以上12以下、更に好ましくは炭素数6以上10以下)の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0074】
有機金属化合物が有する炭化水素基は、緑色光応答性の発現の観点から、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、アルキル基であることが特に好ましい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、光触媒粒子の分散性の観点から、直鎖状又は分岐鎖状が好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は、1以上20以下が好ましく、1以上18以下がより好ましく、4以上12以下が更に好ましく、4以上10以下が更に好ましい。
【0075】
有機金属化合物が有する飽和脂肪族炭化水素基としては、直鎖状アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、イコシル基等)、分岐鎖状アルキル基(イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-エチルヘキシル基、ターシャリーブチル基、ターシャリーペンチル基、イソペンタデシル基等)、環状アルキル基(シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等)などが挙げられる。
【0076】
有機金属化合物が有する不飽和脂肪族炭化水素基としては、アルケニル基(ビニル基(エテニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ドデセニル基、ペンテニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、3-ヘキシニル基、2-ドデシニル基等)などが挙げられる。
【0077】
有機金属化合物が有する脂肪族炭化水素基には、置換された脂肪族炭化水素基が含まれる。脂肪族炭化水素基に置換し得る置換基としては、ハロゲン原子、エポキシ基、グリシジル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0078】
有機金属化合物が有する芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフタレン基、アントラセン基等が挙げられる。
【0079】
有機金属化合物が有する芳香族炭化水素基には、置換された芳香族炭化水素基が含まれる。芳香族炭化水素基に置換し得る置換基としては、ハロゲン原子、エポキシ基、グリシジル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0080】
有機金属化合物としては、炭化水素基を有するシラン化合物が特に好ましい。炭化水素基を有するシラン化合物としては、例えば、クロロシラン化合物、アルコキシシラン化合物などが挙げられる。炭化水素基を有するシラン化合物としては、緑色光応答性の発現の観点から、式(1):R SiR で表される化合物が好ましい。
【0081】
式(1):R SiR において、Rは炭素数1以上20以下の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基を表し、Rはハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、nは1以上3以下の整数を表し、mは1以上3以下の整数を表し、但しn+m=4である。nが2又は3の整数である場合、複数のRは同じ基でもよいし、異なる基でもよい。mが2又は3の整数である場合、複数のRは同じ基でもよいし、異なる基でもよい。
【0082】
で表される脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、光触媒粒子の分散性の観点から、直鎖状又は分岐鎖状が好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は、緑色光応答性の発現の観点から、炭素数1以上20以下が好ましく、炭素数1以上18以下がより好ましく、炭素数4以上12以下が更に好ましく、炭素数4以上10以下が更に好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和及び不飽和のいずれでもよいが、緑色光応答性の発現の観点から、飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0083】
飽和脂肪族炭化水素基としては、直鎖状アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、イコシル基等)、分岐鎖状アルキル基(イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-エチルヘキシル基、ターシャリーブチル基、ターシャリーペンチル基、イソペンタデシル基等)、環状アルキル基(シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等)などが挙げられる。
【0084】
不飽和脂肪族炭化水素基としては、アルケニル基(ビニル基(エテニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ドデセニル基、ペンテニル基等)、アルキニル基(エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、3-ヘキシニル基、2-ドデシニル基等)などが挙げられる。
【0085】
脂肪族炭化水素基は、置換された脂肪族炭化水素基も含む。脂肪族炭化水素基に置換し得る置換基としては、ハロゲン原子、エポキシ基、グリシジル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0086】
で表される芳香族炭化水素基は、炭素数6以上20以下が好ましく、より好ましくは炭素数6以上18以下、更に好ましくは炭素数6以上12以下、更に好ましくは炭素数6以上10以下である。
【0087】
芳香族炭化水素基としては、フェニ基、ビフェニ基、ターフェニ基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0088】
芳香族炭化水素基は、置換された芳香族炭化水素基も含む。芳香族炭化水素基に置換し得る置換基としては、ハロゲン原子、エポキシ基、グリシジル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。
【0089】
で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましい。
【0090】
で表されるアルコキシ基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは1以上8以下、より好ましくは3以上8以下)のアルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、n-ブトキシ基、n-ヘキシロキシ基、2-エチルヘキシロキシ基、3,5,5-トリメチルヘキシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基は、置換されたアルコキシ基も含む。アルコキシ基に置換し得る置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アミド基、カルボニル基等が挙げられる。
【0091】
式(1):R SiR で表される化合物は、緑色光応答性の発現の観点から、Rが飽和脂肪族炭化水素基である化合物が好ましい。特に、式(1):R SiR で表される化合物は、Rが炭素数1以上20以下の飽和脂肪族炭化水素基であり、Rがハロゲン原子又はアルコキシ基であり、nが1以上3以下の整数であり、mが1以上3以下の整数であり、但しn+m=4であることが好ましい。
【0092】
式(1):R SiR で表される化合物として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、デシルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン(以上、n=1、m=3);
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジクロロジフェニルシラン(以上、n=2、m=2);
トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、デシルジメチルクロロシラン、トリフェニルクロロシラン(以上、n=3、m=1);
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(以上、Rが、置換された脂肪族炭化水素基又は置換された芳香族炭化水素基である化合物);
などのシラン化合物が挙げられる。シラン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0093】
式(1)で表されるシラン化合物における炭化水素基は、緑色光応答性の発現の観点から、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、アルキル基であることが特に好ましい。上記シラン化合物における炭化水素基は、緑色光応答性の発現の観点から、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1以上18以下の飽和脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数4以上12以下の飽和脂肪族炭化水素基が更に好ましく、炭素数4以上10以下の飽和脂肪族炭化水素基が特に好ましい。
【0094】
有機金属化合物の金属原子がアルミニウムである化合物としては、例えば、ジ-i-プロポキシアルミニウム・エチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミネート系カップリング剤;などが挙げられる。
【0095】
有機金属化合物の金属原子がチタンである化合物としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート等のチタネート系カップリング剤;ジ-i-プロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ-i-プロポキシビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ-i-プロポキシビス(トリエタノールアミナート)チタニウム、ジ-i-プロポキシチタンジアセテート、ジ-i-プロポキシチタンジプロピオネート等のチタニウムキレート;などが挙げられる。
【0096】
<緑色光応答型の光触媒粒子の製造方法>
緑色光応答型の光触媒粒子の製造方法は、特に制限はないが、チタン酸化物含有粒子を準備する工程と、チタン酸化物含有粒子を有機金属化合物により表面処理する工程(表面処理工程)と、表面処理する工程中又は後に、有機金属化合物により表面処理されたチタン酸化物含有粒子を加熱処理する工程(加熱処理工程)と、を含むことが好ましい。
【0097】
[チタン酸化物含有粒子を準備する工程]
チタン酸化物含有粒子が酸化チタン粒子である場合、先述の製造方法により酸化チタン粒子を製造して酸化チタン粒子を準備してもよく、市販品の酸化チタン粒子を準備してもよい。
【0098】
チタン酸化物含有粒子がメタチタン酸粒子である場合、先述の製造方法によりメタチタン酸粒子を製造してメタチタン酸粒子を準備してもよく、市販品のメタチタン酸粒子を準備してもよい。
【0099】
チタン酸化物含有粒子が酸化チタンエアロゲル粒子である場合、下記の工程(1)及び工程(2)を含む製造方法により酸化チタンエアロゲル粒子を製造することが好ましい。
【0100】
工程(1):酸化チタンを含む多孔質粒子をゾルゲル法により造粒し、前記多孔質粒子及び溶媒を含有する分散液を調製する工程。
工程(2):超臨界二酸化炭素を用いて前記分散液から前記溶媒を除去する工程。
【0101】
工程(1)は、例えば、チタンアルコキシドを材料にして、チタンアルコキシドの反応(加水分解及び縮合)を生じさせて酸化チタンを生成し、酸化チタンを含む多孔質粒子が溶媒に分散した分散液を得る工程である。
【0102】
工程(1)は、具体的には、例えば次の工程とする。アルコールにチタンアルコキシドを添加し、攪拌下、そこに酸水溶液を滴下してチタンアルコキシドを反応させて酸化チタンを生成し、酸化チタンを含む多孔質粒子がアルコールに分散した分散液(以下、多孔質粒子分散液という。)を得る。
【0103】
工程(1)のチタンアルコキシド添加量により、一次粒子の粒径及び多孔質粒子の粒径を制御することができ、チタンアルコキシド添加量が多いほど一次粒子の粒径が小さくなり、多孔質粒子の粒径が大きくなる。チタンアルコキシド添加量は、アルコール100質量部に対して、4質量部以上65質量部以下が好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましい。
【0104】
工程(1)に用いるチタンアルコキシドとしては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム等のアルコキシ基の一部をキレート化したアルコキシチタンキレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0105】
多孔質粒子は、ケイ素やアルミニウム等のチタン以外の金属元素を少量含んでいてもよい。ケイ素又はアルミニウムを含有させるために工程(1)に用いる材料としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルキルジアルコキシシラン、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドなどが挙げられる。工程(1)に用いる上記材料は、多孔質粒子に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiが0以上0.05以下の範囲になるように用いることが好ましい。
【0106】
工程(1)に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0107】
工程(1)に用いる酸水溶液の酸としては、シュウ酸、酢酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。酸水溶液の酸濃度は0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.01質量%以下がより好ましい。
【0108】
工程(1)における酸水溶液の滴下量は、チタンアルコキシド100質量部に対して、0.001質量部以上0.1質量部以下が好ましい。
【0109】
工程(1)によって得られる多孔質粒子分散液は、固形分濃度が1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0110】
工程(2)は、超臨界二酸化炭素を、多孔質粒子及び溶媒を含有する分散液に接触させて、溶媒を除去する工程である。超臨界二酸化炭素による溶媒除去処理は、加熱による溶媒除去処理に比べて、多孔質粒子の孔のつぶれや閉塞を起しにくい。
【0111】
工程(2)は、具体的には、例えば次の操作によって行う。密閉反応器に多孔質粒子分散液を収容し、次いで液化二酸化炭素を導入した後、密閉反応器を加熱すると共に高圧ポンプにより密閉反応器内を昇圧させ、密閉反応器内の二酸化炭素を超臨界状態とする。次いで、密閉反応器に液化二酸化炭素を流入させ、密閉反応器から超臨界二酸化炭素を流出させることで、密閉反応器内において多孔質粒子分散液に超臨界二酸化炭素を流通させる。多孔質粒子分散液に超臨界二酸化炭素が流通する間に、溶媒が超臨界二酸化炭素に溶解し、密閉反応器外へ流出する超臨界二酸化炭素に同伴して溶媒が除去される。密閉反応器内の温度及び圧力は、二酸化炭素を超臨界状態にする温度及び圧力とする。二酸化炭素の臨界点が31.1℃/7.38MPaであるところ、例えば、50℃以上200℃以下/10MPa以上30MPa以下の温度及び圧力とする。
【0112】
工程(2)後の密閉反応器内に残った多孔質粒子が、酸化チタンエアロゲル粒子である。
【0113】
チタン酸化物含有粒子がシリカチタニア複合エアロゲル粒子である場合、下記の工程(A)及び工程(B)を含む製造方法によりシリカチタニア複合エアロゲル粒子を製造することが好ましい。
【0114】
工程(A):母粒子をゾルゲル法により造粒し、前記母粒子及び溶媒を含有する分散液を調製する工程。
工程(B):超臨界二酸化炭素を用いて前記分散液から前記溶媒を除去する工程。
【0115】
チタニア層を母粒子表面に設けるために、工程(A)は、下記の工程(A1)及び工程(A2)の2段階の工程とする。チタニア層を母粒子表面に設けない場合は、下記の工程(A)を工程(A1)のみとする。
【0116】
工程(A1):アルコールにアルコキシシラン及びチタンアルコキシドを添加し、攪拌下、そこに酸水溶液を滴下してアルコキシシランとチタンアルコキシドとを反応させて、ケイ素とチタンの複合酸化物を生成し、母粒子がアルコールに分散した分散液(以下、第一の分散液という。)を得る。ここで、母粒子は、一次粒子であるケイ素とチタンの複合酸化物粒子が多孔構造を形成しつつ凝集したエアロゲル粒子である。
【0117】
工程(A2):第一の分散液に、攪拌下、アルコールとチタンアルコキシドの混合液を滴下して、母粒子とチタンアルコキシドとを反応させて母粒子表面にチタニア層を形成し、母粒子表面にチタニア層を有する多孔質粒子がアルコールに分散した分散液(以下、第二の分散液という。)を得る。
【0118】
工程(A1)におけるアルコキシシランとチタンアルコキシドとの混合比を調節することにより、母粒子に含まれるケイ素とチタンの元素比Si/Tiを制御することができる。
【0119】
工程(A1)におけるアルコール量に対するアルコキシシランとチタンアルコキシドとの合計量により、母粒子を構成する一次粒子の粒径及び母粒子の粒径を制御することができ、アルコール量に対する前記合計量が多いほど、母粒子を構成する一次粒子の粒径が小さくなり、母粒子の粒径が大きくなる。アルコキシシランとチタンアルコキシドとの合計量は、アルコール100質量部に対して、4質量部以上250質量部以下が好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましい。
【0120】
工程(A1)に用いるアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルキルジアルコキシシランなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0121】
工程(A1)及び工程(A2)に用いるチタンアルコキシドとしては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム等のアルコキシ基の一部をキレート化したアルコキシチタンキレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。工程(A1)に用いるチタンアルコキシドと、工程(A2)に用いるチタンアルコキシドとは、同種でもよく異種でもよい。
【0122】
工程(A1)及び工程(A2)に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。工程(A1)に用いるアルコールと、工程(A2)に用いるアルコールとは、同種でもよく異種でもよい。
【0123】
工程(A1)に用いる酸水溶液の酸としては、シュウ酸、酢酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。酸水溶液の酸濃度は0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.01質量%以下がより好ましい。
【0124】
工程(A1)における酸水溶液の滴下量は、アルコキシシランとチタンアルコキシドの合計量100質量部に対して、0.001質量部以上0.1質量部以下が好ましい。
【0125】
工程(A1)によって得られる第一の分散液は、固形分濃度が1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
工程(A2)によって得られる第二の分散液は、固形分濃度が1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0126】
工程(B)は、超臨界二酸化炭素を、多孔質粒子及び溶媒を含有する分散液に接触させて、溶媒を除去する工程である。超臨界二酸化炭素による溶媒除去処理は、加熱による溶媒除去処理に比べて、多孔質粒子の孔のつぶれや閉塞を起しにくい。
【0127】
工程(B)は、具体的には、例えば次の操作によって行う。密閉反応器に多孔質粒子分散液を収容し、次いで液化二酸化炭素を導入した後、密閉反応器を加熱すると共に高圧ポンプにより密閉反応器内を昇圧させ、密閉反応器内の二酸化炭素を超臨界状態とする。次いで、密閉反応器に液化二酸化炭素を流入させ、密閉反応器から超臨界二酸化炭素を流出させることで、密閉反応器内において多孔質粒子分散液に超臨界二酸化炭素を流通させる。多孔質粒子分散液に超臨界二酸化炭素が流通する間に、溶媒が超臨界二酸化炭素に溶解し、密閉反応器外へ流出する超臨界二酸化炭素に同伴して溶媒が除去される。密閉反応器内の温度及び圧力は、二酸化炭素を超臨界状態にする温度及び圧力とする。二酸化炭素の臨界点が31.1℃/7.38MPaであるところ、例えば、50℃以上200℃以下/10MPa以上30MPa以下の温度及び圧力とする。
【0128】
工程(B)後の密閉反応器内に残った多孔質粒子が、シリカチタニア複合エアロゲル粒子である。
【0129】
[表面処理工程]
表面処理工程は、有機金属化合物とチタン酸化物含有粒子の表面とを反応させる工程である。表面処理工程において、有機金属化合物中の反応性基(例えば、ハロゲノ基、アルコキシ基等の加水分解性基)と、チタン酸化物含有粒子の表面に存在する反応性基(例えば、水酸基)とが反応し、チタン酸化物含有粒子の表面処理がなされる。
【0130】
表面処理方法としては、特に制限はないが、例えば、有機金属化合物を直接、チタン酸化物含有粒子に接触させる方法;溶媒に有機金属化合物を溶解させた処理液を、チタン酸化物含有粒子に接触させる方法;が挙げられる。具体的には、例えば、チタン酸化物含有粒子を溶媒に分散した分散液に、攪拌下で、有機金属化合物又は処理液を添加する方法;ヘンシェルミキサー等の攪拌などにより流動している状態のチタン酸化物含有粒子に、有機金属化合物又は処理液を添加(例えば、滴下、噴霧)する方法;が挙げられる。
【0131】
表面処理工程は、大気中又は窒素雰囲気下で行うことができる。大気中又は窒素雰囲気下で行う表面処理工程においては、表面処理を行う反応系内の温度が15℃以上150℃以下であることが好ましく、20℃以上100℃以下であることがより好ましい。表面処理時間は、10分間以上120分間以下が好ましく、30分間以上90分間以下がより好ましい。
【0132】
チタン酸化物含有粒子が酸化チタンエアロゲル粒子又はシリカチタニア複合エアロゲル粒子(以下「エアロゲル粒子」と総称する。)である場合、表面処理工程は、乾燥したエアロゲル粒子を超臨界二酸化炭素中で有機金属化合物により表面処理する工程であることが好ましい。超臨界二酸化炭素中で表面処理工程を行うことにより、有機金属化合物がエアロゲル粒子の細孔の奥深くまで到達し、エアロゲル粒子の細孔の奥深くまで表面処理がなされる。超臨界二酸化炭素を用いる表面処理工程は、具体的には、例えば以下の操作によって行う。
【0133】
攪拌機を備えた密閉反応器に、エアロゲル粒子と有機金属化合物とを収容し、次いで、液化二酸化炭素を導入した後、密閉反応器を加熱すると共に高圧ポンプにより密閉反応器内を昇圧させ、密閉反応器内の二酸化炭素を超臨界状態とする。次いで、攪拌機を運転し、反応系内を攪拌する。密閉反応器内の温度及び圧力は、二酸化炭素を超臨界状態にする温度及び圧力とする。二酸化炭素の臨界点が31.1℃/7.38MPaであるところ、例えば、50℃以上200℃以下/10MPa以上30MPa以下の温度及び圧力とする。攪拌を持続する時間は、10分間以上24時間以下が好ましく、20分間以上120分間以下がより好ましく、30分間以上90分間以下が更に好ましい。
【0134】
超臨界二酸化炭素を用いる表面処理工程は、工程(2)又は工程(B)に連続して行うことが望ましい。すなわち、工程(2)又は工程(B)における密閉反応器を工程(2)又は工程(B)後に大気圧下に開放せず、同じ密閉反応器を使用して表面処理工程を行うことが望ましい。超臨界二酸化炭素を用いる工程を連続して行うことにより、粗大なエアロゲル粒子の発生が抑制される。
【0135】
表面処理に用いる有機金属化合物の形態は、先述したとおりである。有機金属化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0136】
表面処理工程に、有機金属化合物と溶媒とを混合してなる処理液を用いる場合、処理液の調製に用いる溶媒としては、有機金属化合物と相溶性のある化学物質であれば特に制限されない。処理液の調製に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、酢酸エチル、アセトン等の有機溶剤が好ましい。
【0137】
前記処理液において、有機金属化合物の量は、溶媒100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下が好ましく、20質量部以上180質量部以下がより好ましく、50質量部以上150質量部以下が更に好ましい。
【0138】
表面処理に用いる有機金属化合物の量は、チタン酸化物含有粒子100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下が好ましく、20質量部以上180質量部以下がより好ましく、30質量部以上150質量部以下が更に好ましい。有機金属化合物の量をチタン酸化物含有粒子100質量部に対して10質量部以上にすると、光触媒粒子の緑色光応答性が発現しやすく、また、光触媒粒子の分散性も高まる。有機金属化合物の量をチタン酸化物含有粒子100質量部に対して200質量部以下にすると、光触媒粒子の表面に存在する、有機金属化合物に由来する炭素量が過剰になることを抑え、余剰の炭素による光触媒反応の低下が抑制される。
【0139】
表面処理後は、余剰の有機金属化合物や前記処理液の溶媒等の残渣を除去する目的で乾燥処理を行うことがよい。乾燥処理の方法としては、例えば、真空乾燥法、噴霧乾燥法、加熱乾燥法が挙げられる。乾燥温度は、20℃以上150℃以下が好ましい。
【0140】
チタン酸化物含有粒子がエアロゲル粒子である場合は、表面処理に引き続き、超臨界二酸化炭素中で超臨界二酸化炭素を流通させて溶媒を除去し乾燥させることが好ましい。具体的な操作は、工程(2)又は工程(B)における操作と同様でよい。
【0141】
[加熱処理工程]
加熱処理は、チタン酸化物含有粒子を表面処理する工程中、又は、チタン酸化物含有粒子を表面処理する工程後に実施する。詳細な機序は不明であるが、有機金属化合物の炭化水素基の一部が加熱処理により酸化又は炭化されることによって、チタン酸化物含有粒子が可視光吸収性を獲得すると推測される。
【0142】
加熱処理を行う時期は、(i)有機金属化合物によりチタン酸化物含有粒子を表面処理するとき、(ii)表面処理後に乾燥処理をするとき、又は(iii)乾燥処理後、の少なくともいずれかである。加熱処理を行う時期は、チタン酸化物含有粒子を充分に表面改質する観点から(ii)又は(iii)が好ましく、光触媒粒子に夾雑物を含有させない観点から(iii)が好ましい。
【0143】
加熱処理の温度は、緑色光応答性の発現の観点から、180℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上450℃以下がより好ましく、250℃以上400℃以下が更に好ましい。加熱処理の時間は、緑色光応答性の発現の観点から、10分間以上300分間以下が好ましく、20分間以上200分間以下がより好ましく、30分間以上120分間以下が更に好ましい。チタン酸化物含有粒子を表面処理する工程中に加熱処理を行う場合は、先ず前記表面処理の温度で有機金属化合物を十分に反応させた後に前記加熱処理の温度で加熱処理を実施することが好ましい。表面処理後の乾燥処理において加熱処理を行う場合は、前記乾燥処理の温度は、加熱処理温度として実施する。
【0144】
加熱処理の温度を180℃以上500℃以下とすることにより、緑色光応答性を有する光触媒粒子が効率的に得られる。180℃以上500℃以下で加熱処理すると、チタン酸化物含有粒子の表面に存在する有機金属化合物由来の炭化水素基が適度に炭化又は酸化すると推測される。
【0145】
加熱処理は、酸素濃度(体積%)が1%以上21%以下の雰囲気で行われることが好ましい。この酸素雰囲気で加熱処理を行うことにより、チタン酸化物含有粒子の表面に存在する有機金属化合物由来の炭化水素基の炭化又は酸化を、適度に且つ効率よく行うことができる。酸素濃度(体積%)は、3%以上21%以下がより好ましく、5%以上21%以下が更に好ましい。
【0146】
加熱処理の方法は、特に限定されず、例えば、電気炉、焼成炉(ローラーハースキルン、シャトルキルン等)、輻射式加熱炉、ホットプレート等による加熱;レーザー光、赤外線、紫外線、マイクロ波等による加熱;など公知の加熱方法を適用する。
【0147】
以上の工程を経て、緑色光応答型の光触媒粒子が得られる。以上の工程を経て得られる光触媒粒子の表面には、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物を含む表面層が存在する。
【0148】
緑色光応答型の光触媒粒子が、シリカチタニア複合エアロゲル粒子が有機金属化合物により表面改質されてなる光触媒粒子である場合、具体的な形態としては、下記の2つの形態が挙げられる。
【0149】
第一の形態:ケイ素とチタンの複合酸化物粒子が多孔構造を形成しつつ凝集したエアロゲル粒子である母粒子と、前記母粒子上に存在し、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物を含む表面層と、を有する光触媒粒子。
【0150】
第二の形態:ケイ素とチタンの複合酸化物粒子が多孔構造を形成しつつ凝集したエアロゲル粒子である母粒子と、前記母粒子上に存在するチタニア層と、前記チタニア層上に存在し、金属原子及び炭化水素基を有する金属化合物を含む表面層と、を有する光触媒粒子。
【0151】
緑色光応答型の光触媒粒子が上記の第一の形態又は第二の形態であることは、下記の方法によって確認する。
【0152】
XPSの定性分析(ワイドスキャン分析)を、光触媒粒子の表面から深さ方向に希ガスイオンによりエッチングしながら行い、少なくともチタン、ケイ素及び炭素の同定及び定量を行う。得られたデータから、少なくともチタン、ケイ素及び炭素それぞれについて、縦軸がピーク強度で横軸がエッチング時間である元素プロファイルを描く。プロファイル曲線を変曲点によって複数の領域に区別し、母粒子の元素組成を反映した領域、チタニア層の元素組成を反映した領域、及び表面層の元素組成を反映した領域を特定する。元素プロファイルにチタニア層の元素組成を反映した領域が存在する場合、光触媒粒子がチタニア層を有すると判断する。元素プロファイルに表面層の元素組成を反映した領域が存在する場合、光触媒粒子が表面層を有すると判断する。
以下、図2を例示して説明する。
【0153】
図2は、シリカチタニア複合エアロゲル粒子を表面改質してなる光触媒粒子の元素プロファイルの一例であり、上から順に、チタンの元素プロファイル、ケイ素の元素プロファイル、炭素の元素プロファイルである。
図2に示す元素プロファイルは、プロファイル曲線の変曲点によって、領域A、領域B、領域C及び領域Dに区別される。
領域A:エッチングの最終期に存在する、チタンのピーク強度及びケイ素のピーク強度がほぼ一定である領域。
領域B:領域Aの直前に存在する、粒子表面に近いほどチタンのピーク強度が小さく且つケイ素のピーク強度が大きい領域。
領域C:領域Bの直前に存在する、チタンのピーク強度がほぼ一定であり、且つ、ケイ素がほとんど検出されない領域。
領域D:エッチングの最初期に存在する、炭素のピーク強度がほぼ一定であり、且つ、金属元素も検出される領域。
【0154】
領域Aと領域Bとは、母粒子の元素組成を反映した領域である。母粒子が製造される際には、ケイ素とチタンの複合酸化物の材料であるアルコキシシランとチタンアルコキシドとの混合比に応じた割合でシリカとチタニアとが共有結合を形成して母粒子を形成する。ただし、母粒子の表面にはチタニアよりもシリカが出現しやすい傾向がある。その結果、元素プロファイルには、エッチングの最終期に、チタンのピーク強度及びケイ素のピーク強度がほぼ一定である領域Aと、領域Aの直前に、粒子表面に近いほどチタンのピーク強度が小さく且つケイ素のピーク強度が大きい領域Bとが現れる。
【0155】
領域Cは、チタニア層の元素組成を反映した領域である。領域Bの直前に、領域C、即ち、チタンのピーク強度がほぼ一定であり、且つ、ケイ素がほとんど検出されない領域が存在する場合、シリカチタニア複合エアロゲル粒子がチタニア層を有すると判断する。
なお、領域Cは、チタニア層の元素組成を反映した領域ではあるが、必ずしもチタニア層に完全に一致するものではない。領域Cにおける領域Bに近い側には、母粒子の元素組成も反映されていることがある。
【0156】
領域Dは、表面層の元素組成を反映した領域である。エッチングの最初期に、領域D、即ち、炭素のピーク強度がほぼ一定であり、且つ、金属元素も検出される領域が存在する場合、シリカチタニア複合エアロゲル粒子が有機金属化合物を含む層である表面層を有すると判断する。
表面層における有機金属化合物を構成する金属原子の候補としては、ケイ素、アルミニウム、チタンが挙げられるので、必要に応じてXPSによりアルミニウムの同定及び定量も行い、アルミニウムについても元素プロファイルを描く。
なお、領域Dは、表面層の元素組成を反映した領域ではあるが、必ずしも表面層に完全に一致するものではない。領域Dにおける領域Cに近い側には、チタニア層の元素組成又は母粒子の元素組成も反映されていることがある。
【0157】
図2に示す元素プロファイルからは、母粒子とチタニア層と表面層とを有するシリカチタニア複合エアロゲル粒子であり、表面層における有機金属化合物を構成する金属原子がケイ素であると判断される。
【0158】
[水性媒体]
本実施形態に係る植物保護剤の一例は、緑色光応答型の光触媒粒子と水性媒体とを含む。本実施形態において、緑色光応答型の光触媒粒子は、水性媒体に分散した状態で含まれていることが好ましい。
【0159】
水性媒体としては、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水等の水:水と水溶性有機溶剤との混合液;などが挙げられる。水と混合する水溶性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン等が挙げられ、光触媒粒子の分散性又は植物への影響(薬害抑制)の観点から、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコールが好ましい。水性媒体が水溶性有機溶剤を含む場合、本実施形態に係る植物保護剤における光触媒粒子と水溶性有機溶剤との含有量比(光触媒粒子:水溶性有機溶剤、質量基準)は、例えば1:1乃至1:200であり、1:5乃至1:100であることがより好ましく、1:10乃至1:50であることが更に好ましい。
【0160】
本実施形態に係る植物保護剤において植物に散布する際の水性媒体と光触媒粒子との含有量比(水性媒体:光触媒粒子、質量基準)は、植物の病害抑制効果、植物に対する薬害抑制、光触媒粒子の分散安定性、植物保護剤の散布が容易であること等の観点から、100:0.01乃至100:1であることが好ましく、100:0.02乃至100:0.5であることがより好ましく、100:0.05乃至100:0.3であることが更に好ましい。
【0161】
本実施形態に係る植物保護剤は、上記の含有量比よりも光触媒粒子の量比が多い形態(つまり、光触媒粒子の濃度が高い形態)であってもよい。本形態の例としては、水性媒体と光触媒粒子との含有量比(水性媒体:光触媒粒子、質量基準)が、100:1乃至100:40である形態、100:20である形態、100:10である形態が挙げられる。これらの形態例は、植物に散布する際に水性媒体で希釈し、水性媒体と光触媒粒子との含有量比を先述した植物に散布する際の好ましい範囲に調整して用いることができる。
【0162】
緑色光応答型の光触媒粒子は、水性媒体に分散した状態において、一次粒子が凝集した凝集粒子であって、体積平均粒子径が0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、0.8μm以上30μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることが更に好ましい。
緑色光応答型の光触媒粒子がエアロゲル粒子を表面改質した光触媒粒子である場合には、体積平均粒子径が上記範囲であるエアロゲル粒子を表面改質することにより、上記体積平均粒子径の光触媒粒子が得られる。
緑色光応答型の光触媒粒子が酸化チタン粒子又はメタチタン酸粒子を表面改質した光触媒粒子である場合には、先述の平均一次粒子径である酸化チタン粒子又はメタチタン酸粒子を表面改質後、バインダ(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子)を含有する水性媒体に分散させて二次粒子に凝集させ、適度な剪断応力を印加することにより、上記体積平均粒子径の光触媒粒子が得られる。
【0163】
[その他の成分]
本実施形態に係る植物保護剤は、緑色光応答型の光触媒粒子及び水性媒体以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、可視光吸収性を有しない紫外線応答型の光触媒粒子、光触媒粒子の分散安定性を高める分散剤又は界面活性剤、着色剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤などが挙げられる。
【実施例
【0164】
以下に実施例を挙げて、本開示の植物保護剤をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示の植物保護剤の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0165】
<光触媒粒子及び植物保護剤の製造>
(A)チタン酸化物含有粒子が酸化チタン粒子である形態
[実施例A1]
市販のアナターゼ型酸化チタン粒子(堺化学工業(株)製、SSP-20、体積平均粒径12nm)をトルエンに分散した分散液に、酸化チタン粒子100質量部に対して30質量部のオクチルトリメトキシシランを滴下し、80℃で1時間反応させた後、出口温度120℃で噴霧乾燥して乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体に対し、電気炉で290℃、90分間の加熱処理を行い、表面改質された酸化チタン粒子を得た。
【0166】
表面改質された酸化チタン粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、実施例A1の植物保護剤を得た。
【0167】
[比較例A1]
市販のアナターゼ型酸化チタン粒子(堺化学工業(株)製、SSP-20、体積平均粒径12nm)1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例A1の植物保護剤を得た。
【0168】
[比較例A2]
市販のアナターゼ型酸化チタン粒子(堺化学工業(株)製、SSP-20、体積平均粒径12nm)に対して実施例A1と同じ条件で電気炉での加熱処理を行った。加熱処理後の酸化チタン粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例A2の植物保護剤を得た。
【0169】
[比較例A3]
電気炉での加熱処理を行わなかった以外は実施例A1と同様にして、比較例A3の植物保護剤を得た。
【0170】
[比較例A4~A5]
電気炉での加熱処理の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例A1と同様にして、比較例A4~A5の植物保護剤を得た。
【0171】
[実施例A2~A14]
表面処理に用いる有機金属化合物の種類及び量、並びに、電気炉での加熱処理の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例A1と同様にして、実施例A2~A14の植物保護剤を得た。
【0172】
[実施例A15~A18]
植物保護剤を調製する際に混合する水の量を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例A1と同様にして、実施例A15~A18の植物保護剤を得た。
【0173】
[実施例A19]
実施例A1において表面改質に供する市販のアナターゼ型酸化チタン粒子を、ゾルゲル法により作製した体積平均粒径200nmのアナターゼ型酸化チタン粒子に変更した以外は実施例A1と同様にして、実施例A19の植物保護剤を得た。
【0174】
[実施例A20]
市販のルチル型酸化チタン粒子(堺化学工業(株)製、STR-100N、体積平均粒径16nm)をトルエンに分散した分散液に、酸化チタン粒子100質量部に対して30質量部のオクチルトリメトキシシランを滴下し、80℃で1時間反応させた後、出口温度120℃で噴霧乾燥して乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体に対し、電気炉で290℃、90分間の加熱処理を行い、表面改質された酸化チタン粒子を得た。
【0175】
表面改質された酸化チタン粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、実施例A20の植物保護剤を得た。
【0176】
[比較例A6]
市販のルチル型酸化チタン粒子(堺化学工業(株)製、STR-100N、体積平均粒径16nm)1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例A6の植物保護剤を得た。
【0177】
[比較例A7]
市販のルチル型酸化チタン粒子(堺化学工業(株)製、STR-100N、体積平均粒径16nm)に対して実施例A20と同じ条件で電気炉での加熱処理を行った。加熱処理後の酸化チタン粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例A7の植物保護剤を得た。
【0178】
[比較例A8]
電気炉での加熱処理を行わなかった以外は実施例A20と同様にして、比較例A8の植物保護剤を得た。
【0179】
[比較例A9~A10]
電気炉での加熱処理の条件を表2に記載のとおりに変更した以外は実施例A20と同様にして、比較例A9~A10の植物保護剤を得た。
【0180】
[比較例A11]
市販の可視光応答型光触媒スプレー(鯤コーポレーション社製、DINFHKON)から溶液を抜き取り、この溶液の溶媒を乾燥させて窒素ドープされた酸化チタン粒子(体積平均粒径30nm)を取り出した。この窒素ドープされた酸化チタン粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例A11の植物保護剤を得た。
【0181】
[比較例A12]
市販の可視光応答型光触媒除菌液(東芝マテリアル社製、ルネキャット)の溶媒を乾燥させて銅担持された酸化タングステン粒子(体積平均粒径20nm)を取り出した。この銅担持された酸化タングステン粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例A12の植物保護剤を得た。
【0182】
[比較例A13]
植物保護剤を調製する際に混合する水の量を表2に記載のとおりに変更した以外は比較例A11と同様にして、比較例A13の植物保護剤を得た。
【0183】
[比較例A14]
植物保護剤を調製する際に混合する水の量を表2に記載のとおりに変更した以外は比較例A12と同様にして、比較例A14の植物保護剤を得た。
【0184】
(B)チタン酸化物含有粒子がメタチタン酸粒子である形態
[実施例B1]
TiO濃度が260g/L且つTi3+濃度がTiO換算で6.0g/Lの硫酸チタニル溶液に、別途作製したアナターゼシードを硫酸チタニル溶液中のTiOに対してTiO換算で8質量%添加した。次に、この溶液を沸点以上で加熱し、硫酸チタニル(TiOSO)を加水分解し、メタチタン酸粒子を生成させた。メタチタン酸粒子を濾別し、水で充分に洗浄し、固形分に水を加えてメタチタン酸スラリー(1)を得た。メタチタン酸スラリー(1)中の粒子の体積平均粒径は42nmであった。
【0185】
メタチタン酸スラリー(1)を攪拌しながら、5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH8.5に調整し、2時間攪拌を続けた。次いで、6N塩酸を滴下してpH5.8に調整し、粒子を濾別し、水で洗浄した。洗浄後、水を加えスラリーとし、攪拌しながら6N塩酸を滴下してpH1.3に調整し、3時間攪拌を続けた。次いで、スラリーからメタチタン酸100質量部を分取し、60℃に保持し、攪拌しながらヘキシルトリメトキシシラン30質量部を添加し、30分間攪拌を続けた。次いで、7N水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7に調整し、粒子を濾別し、水で洗浄した。固形分を気流式乾燥機により出口温度150℃の条件で噴霧乾燥して、乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体に対し、電気炉で320℃、90分間の加熱処理を行い、表面改質されたメタチタン酸粒子を得た。
【0186】
表面改質されたメタチタン酸粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、実施例B1の植物保護剤を得た。
【0187】
[比較例B1]
実施例B1において製造したメタチタン酸スラリー(1)を、気流式乾燥機により出口温度150℃の条件で噴霧乾燥して、メタチタン酸粒子を得た。このメタチタン酸粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例B1の植物保護剤を得た。
【0188】
[比較例B2]
実施例B1において製造したメタチタン酸スラリー(1)を、気流式乾燥機により出口温度150℃の条件で噴霧乾燥して、メタチタン酸粒子を得た。このメタチタン酸粒子に対し、実施例B1と同じ条件で電気炉での加熱処理を行った。加熱処理後のメタチタン酸粒子1質量部をエタノール20質量部に分散させた後、ポリビニルピロリドン0.1質量部を混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例B2の植物保護剤を得た。
【0189】
[比較例B3]
電気炉での加熱処理を行わなかった以外は実施例B1と同様にして、比較例B3の植物保護剤を得た。
【0190】
[比較例B4~B5]
電気炉での加熱処理の条件を表3に記載のとおりに変更した以外は実施例B1と同様にして、比較例B4~B5の植物保護剤を得た。
【0191】
[実施例B2~B15]
表面処理に用いる有機金属化合物の種類及び量、並びに、電気炉での加熱処理の条件を表3に記載のとおりに変更した以外は実施例B1と同様にして、実施例B2~B15の植物保護剤を得た。
【0192】
[実施例B16~B21]
植物保護剤を調製する際に混合するバインダ(ポリビニルピロリドン)又は水の量を表3に記載のとおりに変更した以外は実施例B1と同様にして、実施例B16~B21の植物保護剤を得た。
【0193】
(C)チタン酸化物含有粒子が酸化チタンエアロゲル粒子である形態
[実施例C1]
反応容器にメタノール115.4質量部とテトラブトキシチタン14.3質量部を仕込み混合した。混合液をマグネティックスターラーにて回転速度100rpmで攪拌しながら、0.009質量%シュウ酸水溶液7.5質量部を30秒間かけて滴下した。そのまま攪拌を30分間続け、分散液(1)を137.2質量部(固形分:3.4質量部、液相分:133.8質量部)得た。
【0194】
密閉反応器に分散液(1)を収容し、回転速度85rpmで攪拌しながらCOを入れて150℃/20MPaまで昇温昇圧した。そのまま攪拌しながらCOを流入及び流出させ、60分間かけて液相を除去した。
【0195】
液相を除去した後に残った固相100質量部に、イソブチルトリメトキシシラン100質量部とメタノール100質量部との混合物を5分間かけて添加し、回転速度85rpmで攪拌しながら150℃/20MPaのまま30分間保持した。そのまま攪拌しながらCOを流入及び流出させ、30分間かけて液相を除去した。30分間かけて大気圧まで減圧し、粉体を回収した。
【0196】
SUS容器に粉体を収容し、電気炉で380℃、60分間の加熱処理を行い、表面改質された酸化チタンエアロゲル粒子を得た。
【0197】
表面改質された酸化チタンエアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、実施例C1の植物保護剤を得た。
【0198】
[比較例C1]
実施例C1において製造した分散液(1)から超臨界COを用いて液相を除去して酸化チタンエアロゲル粒子を得た。この酸化チタンエアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例C1の植物保護剤を得た。
【0199】
[比較例C2]
実施例C1において製造した分散液(1)から超臨界COを用いて液相を除去して酸化チタンエアロゲル粒子を得た。この酸化チタンエアロゲル粒子に対し、実施例C1と同じ条件で電気炉での加熱処理を行った。加熱処理後の酸化チタンエアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例C2の植物保護剤を得た。
【0200】
[比較例C3]
電気炉での加熱処理を行わなかった以外は実施例C1と同様にして、比較例C3の植物保護剤を得た。
【0201】
[比較例C4~C5]
電気炉での加熱処理の条件を表4に記載のとおりに変更した以外は実施例C1と同様にして、比較例C4~C5の植物保護剤を得た。
【0202】
[実施例C2~C15]
表面処理に用いる有機金属化合物の種類及び量、並びに、電気炉での加熱処理の条件を表4に記載のとおりに変更した以外は実施例C1と同様にして、実施例C2~C15の植物保護剤を得た。
【0203】
(D)チタン酸化物含有粒子がシリカチタニア複合エアロゲル粒子である第一の形態(チタニア層なし)
[実施例D1]
反応容器にメタノール115.4質量部とテトラメトキシシラン7.2質量部を仕込み混合した。さらにテトラブトキシチタン7.2質量部を仕込み混合した。混合液をマグネティックスターラーにて回転速度100rpmで攪拌しながら、0.009質量%シュウ酸水溶液7.5質量部を30秒間かけて滴下した。そのまま攪拌を35分間続け、分散液(I-1)を137.2質量部(固形分:4.5質量部、液相分:132.7質量部)得た。
【0204】
密閉反応器に分散液(I-1)を収容し、回転速度85rpmで攪拌しながらCOを入れて150℃/20MPaまで昇温昇圧した。そのまま攪拌しながらCOを流入及び流出させ、60分間かけて液相を除去した。
【0205】
液相を除去した後に残った固相100質量部に、イソブチルトリメトキシシラン100質量部とメタノール100部質量との混合物を5分間かけて添加し、回転速度85rpmで攪拌しながら150℃/20MPaのまま30分間保持した。そのまま攪拌しながらCOを流入及び流出させ、30分間かけて液相を除去した。30分間かけて大気圧まで減圧し、粉体を回収した。
【0206】
SUS容器に粉体を収容し、電気炉で380℃、60分間の加熱処理を行い、表面改質されたシリカチタニア複合エアロゲル粒子を得た。
【0207】
表面改質されたシリカチタニア複合エアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、実施例D1の植物保護剤を得た。
【0208】
[比較例D1]
実施例D1において製造した分散液(I-1)から超臨界COを用いて液相を除去してシリカチタニア複合エアロゲル粒子を得た。このシリカチタニア複合エアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例D1の植物保護剤を得た。
【0209】
[比較例D2]
実施例D1において製造した分散液(I-1)から超臨界COを用いて液相を除去してシリカチタニア複合エアロゲル粒子を得た。このシリカチタニア複合エアロゲル粒子に対し、実施例D1と同じ条件で電気炉での加熱処理を行った。加熱処理後のシリカチタニア複合エアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例D2の植物保護剤を得た。
【0210】
[比較例D3]
電気炉での加熱処理を行わなかった以外は実施例D1と同様にして、比較例D3の植物保護剤を得た。
【0211】
[比較例D4~D5]
電気炉での加熱処理の条件を表5に記載のとおりに変更した以外は実施例D1と同様にして、比較例D4~D5の植物保護剤を得た。
【0212】
[実施例D2~D15]
表面処理に用いる有機金属化合物の種類及び量、並びに、電気炉での加熱処理の条件を表5に記載のとおりに変更した以外は実施例D1と同様にして、実施例D2~D15の植物保護剤を得た。
【0213】
(E)チタン酸化物含有粒子がシリカチタニア複合エアロゲル粒子である第二の形態(チタニア層あり)
[実施例E1]
反応容器にメタノール115.4質量部とテトラメトキシシラン7.2質量部を仕込み混合した。さらにテトラブトキシチタン7.2質量部を仕込み混合した。混合液をマグネティックスターラーにて回転速度100rpmで攪拌しながら、0.009質量%シュウ酸水溶液7.5質量部を30秒間かけて滴下した。そのまま攪拌を35分間続け、分散液(I-1)を137.2質量部(固形分:4.5質量部、液相分:132.7質量部)得た。
【0214】
密閉反応器に分散液(I-1)を137.2質量部収容し、マグネティックスターラーにて回転速度100rpmで攪拌しながら、テトラブトキシチタン0.45質量部とブタノール4.05質量部との混合液を10分間かけて滴下した。そのまま攪拌を30分間続け、分散液(II-1)を141.7質量部(固形分:3.5質量部、液相分:138.2質量部)得た。
【0215】
密閉反応器に分散液(II-1)を収容し、回転速度85rpmで攪拌しながらCOを入れて150℃/20MPaまで昇温昇圧した。そのまま攪拌しながらCOを流入及び流出させ、60分間かけて液相を除去した。
【0216】
液相を除去した後に残った固相100質量部に、イソブチルトリメトキシシラン100質量部とメタノール100質量部との混合物を5分間かけて添加し、回転速度85rpmで攪拌しながら150℃/20MPaのまま30分間保持した。そのまま攪拌しながらCOを流入及び流出させ、30分間かけて液相を除去した。30分間かけて大気圧まで減圧し、粉体を回収した。
【0217】
SUS容器に粉体を収容し、電気炉で380℃、60分間の加熱処理を行い、表面改質されたシリカチタニア複合エアロゲル粒子を得た。
【0218】
表面改質されたシリカチタニア複合エアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、実施例E1の植物保護剤を得た。
【0219】
[比較例E1]
実施例E1において製造した分散液(II-1)から超臨界COを用いて液相を除去してシリカチタニア複合エアロゲル粒子を得た。このシリカチタニア複合エアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例E1の植物保護剤を得た。
【0220】
[比較例E2]
実施例E1において製造した分散液(II-1)から超臨界COを用いて液相を除去してシリカチタニア複合エアロゲル粒子を得た。このシリカチタニア複合エアロゲル粒子に対し、実施例E1と同じ条件で電気炉での加熱処理を行った。加熱処理後のシリカチタニア複合エアロゲル粒子1質量部とエタノール20質量部とを混合し、次いでイオン交換水980質量部を混合し、比較例E2の植物保護剤を得た。
【0221】
[比較例E3]
電気炉での加熱処理を行わなかった以外は実施例E1と同様にして、比較例E3の植物保護剤を得た。
【0222】
[比較例E4~E5]
電気炉での加熱処理の条件を表6に記載のとおりに変更した以外は実施例E1と同様にして、比較例E4~E5の植物保護剤を得た。
【0223】
[実施例E2~E15]
表面処理に用いる有機金属化合物の種類及び量、並びに、電気炉での加熱処理の条件を表6に記載のとおりに変更した以外は実施例E1と同様にして、実施例E2~E15の植物保護剤を得た。
【0224】
<光触媒粒子の物性の測定>
各例で得られた光触媒粒子について、下記の測定方法に従って各物性を測定した。表1~表6に、その結果を示す。表1~表6中に記載した各波長の吸光度は、波長350nmの吸光度を1としたときの、波長450nm、波長550nm、波長650nm及び波長750nmそれぞれの吸光度である。
【0225】
[紫外可視吸収スペクトル]
光触媒粒子をテトラヒドロフランに分散させた後、ガラス基板上に塗布し、大気中、24℃で乾燥させた。分光光度計U-4100(日立ハイテクノロジーズ社製)を使用し、スキャンスピード:600nm、スリット幅:2nm、サンプリング間隔:1nmに設定して、拡散反射配置で、波長200nm乃至900nmの範囲の拡散反射スペクトルを測定した。拡散反射スペクトルから、Kubelka-Munk変換により理論的に各波長における吸光度を求めた。この吸光度は、塗布粒子の膜厚等に応じてガラス基板の影響を受け測定値に誤差を生じることから測定値の補正を行った。すなわち、各波長の吸光度から900nmの吸光度を引いた値を各波長の吸光度とした。
【0226】
実施例A1~A20、実施例B1~B21、実施例C1~C15、実施例D1~D15、実施例E1~E15の光触媒粒子は、波長500nm以上600nm以下の全範囲に吸収を有していた。実施例A1~A20、実施例B1~B21、実施例C1~C15、実施例D1~D15、実施例E1~E15の光触媒粒子は、波長350nm以上800nm以下の全範囲に吸収を有していた。
【0227】
[光触媒粒子のBET比表面積]
実施例C1~C15及び比較例C1~C5における各光触媒粒子と、実施例D1~D15及び比較例D1~D5における各光触媒粒子と、実施例E1~E15及び比較例E1~E5における各光触媒粒子については、BET比表面積を測定した。
比表面積測定装置としてマウンテック社製「MacsorbHMmodel-1201」を使用し、50mgの試料に脱気のために30℃/120分の前処理を行い、純度99.99%以上の窒素ガスを用いたBET多点法にてBET比表面積を求めた。
【0228】
[母粒子における元素比Si/Ti]
実施例D1~D15及び比較例D1~D5における各光触媒粒子と、実施例E1~E15及び比較例E1~E5における各光触媒粒子については、XPS分析を行った。
XPS分析装置を使用し下記の設定で粒子の表面から深さ方向にエッチングしながら定性分析(ワイドスキャン分析)を行い、チタン、ケイ素及び炭素の同定及び定量を行った。得られたデータから、チタン、ケイ素及び炭素それぞれについて、縦軸がピーク強度で横軸がエッチング時間である元素プロファイルを描き、プロファイル曲線を変曲点によって複数の領域に区別し、チタンのピーク強度及びケイ素のピーク強度がほぼ一定である領域(前述の領域A)を特定し、該領域における元素比Si/Tiを求めた。
【0229】
・XPS分析装置:アルバック・ファイ社製、Versa ProbeII
・X線源:単色化AlKα線
・加速電圧:15kV
・X線ビーム径:100μm
・エッチング銃:アルゴンイオンビーム
・エッチング出力:4kV
【0230】
実施例D1~D15は、元素プロファイルから、母粒子上に表面層を有していることが確認された。実施例E1~E15は、元素プロファイルから、母粒子上にチタニア層及び表面層を有していることが確認された。
【0231】
[光触媒粒子の体積平均粒子径(Da)]
植物保護剤を目開き106μmの篩を通して粗大粒子を取り除いた後、植物保護剤中の粒子の粒子径をレーザー回折散乱法粒度測定装置(ベックマン・コールター社製、LS 13 320)を用いて測定し、体積基準の粒度分布を得た。小粒径側から累積50%となる粒子径D50vを求め、D50vを体積平均粒子径Da(μm)とした。
【0232】
[光触媒粒子の平均一次粒子径(Dp)]
植物保護剤をシリコン基板に滴下し乾燥させてSEM観察用の試料を得た。試料中の粒子を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4100)により撮像した。SEM画像を画像解析装置(株式会社ニレコ製、LUZEXIII)に取り込み、画像解析によって一次粒子の円相当径(nm)を求め、一次粒子100個の円相当径の算術平均を算出した。
【0233】
<植物保護剤の性能評価>
屋内で栽培中のバラを植物保護剤の散布対象にして以下の試験を行い、植物保護剤の性能を評価した。屋内照明は波長400nm~800nmのLEDとし、照度800ルクスに調整した。表1~表6に結果を示す。
【0234】
[黒星病の抑制効果]
黒星病の感染が確認されたバラの葉に、植物保護剤を葉の一面が濡れる程度に散布し、照度800ルクスのLEDを1日12時間照射し、4日後の黒星病の感染程度を観察した。感染程度は、全菌叢の総面積が葉面に占める割合を肉眼にて観察し、葉10枚の平均値で評価した。評価基準は以下の通りである。
A:葉面に菌叢が全く確認できない。
B:菌叢の占める面積が葉面積の25%未満。
C:菌叢の占める面積が葉面積の25%以上50%未満。
D:菌叢の占める面積が葉面積の50%以上75%未満。
E:菌叢の占める面積が葉面積の75%以上100%以下。
【0235】
[うどん粉病の抑制効果]
うどん粉病の感染が確認されたバラの葉に、植物保護剤を葉の一面が濡れる程度に散布し、照度800ルクスのLEDを1日12時間照射し、4日後のうどん粉病の感染程度を観察した。感染程度は、全菌叢の総面積が葉面に占める割合を肉眼にて観察し、葉10枚の平均値で評価した。評価基準は以下の通りである。
A:葉面に菌叢が全く確認できない。
B:菌叢の占める面積が葉面積の25%未満。
C:菌叢の占める面積が葉面積の25%以上50%未満。
D:菌叢の占める面積が葉面積の50%以上75%未満。
E:菌叢の占める面積が葉面積の75%以上100%以下。
【0236】
[植物に対する傷害性]
植物保護剤を葉の一面が濡れる程度に散布し、照度800ルクスのLEDを1日12時間照射し、4日後の葉の傷害性を観察した。傷害性は、植物保護剤を散布した葉10枚中、落葉や枯れなどの傷害が見られる葉の枚数で評価した。評価基準は以下の通りである。
A:全ての葉に落葉や枯れなどの傷害が見られない。
B:落葉や枯れなどの傷害が見られる葉が1枚又は2枚。
C:落葉や枯れなどの傷害が見られる葉が3枚以上5枚以下。
D:落葉や枯れなどの傷害が見られる葉が6枚又は7枚。
E:落葉や枯れなどの傷害が見られる葉が8枚以上。
【0237】
【表1】
【0238】
【表2】
【0239】
【表3】
【0240】
【表4】
【0241】
【表5】
【0242】
【表6】
【0243】
クロロフィルは波長450nm近辺に吸収ピークを有するところ、各実施例の植物保護剤が含有する光触媒粒子は可視光の中でも波長450nmに比較的高めの吸収を持つが、各実施例の植物保護剤を散布してもバラの生育には影響がみられなかった。各実施例の植物保護剤は、バラの生育を阻害せずに、バラの病害を抑制した。
図1
図2