(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】動力伝達装置の制御装置及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 29/04 20060101AFI20221012BHJP
F16H 61/4035 20100101ALI20221012BHJP
B60K 17/10 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F02D29/04 H
F16H61/4035
B60K17/10 D
(21)【出願番号】P 2018176551
(22)【出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】岡 祐介
(72)【発明者】
【氏名】北本 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】竹本 翔一
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535906(JP,A)
【文献】特開2015-083863(JP,A)
【文献】特開2008-196165(JP,A)
【文献】特開平10-103112(JP,A)
【文献】特開昭59-187145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/04
F16H 61/4035
B60K 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンの動力で駆動する可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給される作動油により駆動する可変容量型の油圧モータとを備える動力伝達装置の制御装置であって、
アクセル操作量に応じた前記油圧モータの目標モータトルクを設定するモータトルク設定手段と、
前記目標モータトルクに応じた前記エンジンの目標エンジントルクを設定するエンジントルク設定手段と、
前記目標エンジントルクに応じた前記油圧ポンプの押しのけ容積を求めると共に、該押しのけ容積が所定の押しのけ容積に該当するか否かを判定する判定手段と、
前記押しのけ容積が前記所定の押しのけ容積に該当しないと判定された場合には、前記エンジンのトルクが前記目標エンジントルクとなるように前記エンジンの駆動を制御する一方、前記押しのけ容積が前記所定の押しのけ容積に該当すると判定された場合には、前記エンジンの出力を一定に維持しつつ、前記エンジンの回転数及びトルクを変化させるように前記エンジンの駆動を制御するエンジン制御手段と、を備える
ことを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの回転数及びトルクに応じた複数の等出力線が設定されたマップをさらに備え、
前記エンジン制御手段は、前記押しのけ容積が前記所定の押しのけ容積に該当すると判定された場合には、前記マップの前記等出力線に従って前記エンジンの回転数及びトルクを変化させる
請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
エンジンと、該エンジンの動力で駆動する可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給される作動油により駆動する可変容量型の油圧モータとを備える動力伝達装置の制御方法であって、
アクセル操作量に応じた前記油圧モータの目標モータトルクを設定し、前記目標モータトルクに応じた前記エンジンの目標エンジントルクを設定し、前記目標エンジントルクに応じた前記油圧ポンプの押しのけ容積を求めると共に、該押しのけ容積が所定の押しのけ容積に該当するか否かを判定し、前記押しのけ容積を前記所定の押しのけ容積に該当しないと判定した場合には、前記エンジンのトルクが前記目標エンジントルクとなるように前記エンジンの駆動を制御する一方、前記押しのけ容積を前記所定の押しのけ容積に該当すると判定した場合には、前記エンジンの出力を一定に維持しつつ、前記エンジンの回転数及びトルクを変化させるように前記エンジンの駆動を制御する
ことを特徴とする動力伝達装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動力伝達装置の制御装置及び、制御方法に関し、特に、油圧トランスミッションを備える動力伝達装置の制御装置及び、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの動力で可変容量型の油圧ポンプを駆動させ、該油圧ポンプから圧送される作動油によって走行用の油圧モータを駆動させることにより走行する所謂油圧トランスミッションを搭載した車両が知られている(例えば、特許文献1~3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-57502号公報
【文献】特開2014-214829号公報
【文献】特開2011-189917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記油圧トランスミッションにおいては、油圧ポンプや油圧モータの複数のシリンダの使用/不使用を選択的に切り替えて、これら油圧ポンプ等を1回転させたときの容積の変化である押しのけ容積の組み合わせを連続的に変化させることにより、車両の駆動力を適宜に制御できるように構成されている。しかしながら、これら油圧ポンプや油圧モータの押しのけ容積には、例えば、車両装置の共振周波数に相当する振動を生じさせる押しのけ容積もあり、そのような回避すべき態様の所定の押しのけ容積でポンプやモータを作動させることは、装置の破損やドライバビリティの悪化を招くといった課題がある。
【0005】
一方、このような共振を回避すべく、出力を一定に維持しながら、油圧ポンプの押しのけ容積や圧力を変化させると、油圧モータの回転数が低下することで、運転者の意図しない車速の低下を招く可能性がある。また、油圧モータの押しのけ容積を圧力変化に応じて所望のトルクが得られるように変化させることも考えられる。しかしながら、モータ側にも共振等を生じさせる望ましくない押しのけ容積があるため、そのような押しのけ容積を回避しようとすると、圧力の変化に対して油圧モータが所望の出力トルクを得られない可能性がある。
【0006】
本開示の技術は、モータ側の出力、トルク、回転数、押しのけ容積の変化を伴うことなく、ポンプが望ましくない押しのけ容積で駆動することを効果的に回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の装置は、エンジンと、該エンジンの動力で駆動する可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給される作動油により駆動する可変容量型の油圧モータとを備える動力伝達装置の制御装置であって、アクセル操作量に応じた前記油圧モータの目標モータトルクを設定するモータトルク設定手段と、前記目標モータトルクに応じた前記エンジンの目標エンジントルクを設定するエンジントルク設定手段と、前記目標エンジントルクに応じた前記油圧ポンプの押しのけ容積を求めると共に、該押しのけ容積が所定の押しのけ容積に該当するか否かを判定する判定手段と、前記押しのけ容積が前記所定の押しのけ容積に該当しないと判定された場合には、前記エンジンのトルクが前記目標エンジントルクとなるように前記エンジンの駆動を制御する一方、前記押しのけ容積が前記所定の押しのけ容積に該当すると判定された場合には、前記エンジンの出力を一定に維持しつつ、前記エンジンの回転数及びトルクを変化させるように前記エンジンの駆動を制御するエンジン制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記エンジンの回転数及びトルクに応じた複数の等出力線が設定されたマップをさらに備え、前記エンジン制御手段は、前記押しのけ容積が前記所定の押しのけ容積に該当すると判定された場合には、前記マップの前記等出力線に従って前記エンジンの回転数及びトルクを変化させることが好ましい。
【0009】
本開示の方法は、エンジンと、該エンジンの動力で駆動する可変容量型の油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給される作動油により駆動する可変容量型の油圧モータとを備える動力伝達装置の制御方法であって、アクセル操作量に応じた前記油圧モータの目標モータトルクを設定し、前記目標モータトルクに応じた前記エンジンの目標エンジントルクを設定し、前記目標エンジントルクに応じた前記油圧ポンプの押しのけ容積を求めると共に、該押しのけ容積が所定の押しのけ容積に該当するか否かを判定し、前記押しのけ容積を前記所定の押しのけ容積に該当しないと判定した場合には、前記エンジンのトルクが前記目標エンジントルクとなるように前記エンジンの駆動を制御する一方、前記押しのけ容積を前記所定の押しのけ容積に該当すると判定した場合には、前記エンジンの出力を一定に維持しつつ、前記エンジンの回転数及びトルクを変化させるように前記エンジンの駆動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、モータ側の出力、トルク、回転数、押しのけ容積の変化を伴うことなく、ポンプが望ましくない押しのけ容積で駆動することを効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る車両に搭載された動力伝達装置を示す模式的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る油圧ポンプを模式的に示す構成図である。
【
図3】本実施形態に係る油圧モータを模式的に示す構成図である。
【
図4】本実施形態に係る電子制御ユニット及び関連する構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】本実施形態に係るエンジンの等出力線マップの一例を示す模式図である。
【
図6】本実施形態の各種状態量の変化を模式的に示すタイミングチャート図である。
【
図7】第1比較例の各種状態量の変化を模式的に示すタイミングチャート図である。
【
図8】第2比較例の各種状態量の変化を模式的に示すタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る動力伝達装置の制御装置及び制御方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
[動力伝達装置]
図1は、本実施形態に係る車両1に搭載された動力伝達装置を示す模式的な全体構成図である。
【0014】
車両1には、駆動力源としてのエンジンEが搭載されている。エンジンEのクランクシャフト2には、油圧トランスミッション10の油圧ポンプ12が動力伝達可能に接続されている。油圧トランスミッション10の油圧モータ14には、プロペラシャフト21が動力伝達可能に接続されている。プロペラシャフト21には、デファレンシャルギヤ装置22及び、左右の駆動軸23L,23Rを介して左右の駆動輪24L,24Rがそれぞれ接続されている。
【0015】
油圧トランスミッション10は、油圧ポンプ12と、油圧モータ14とを備えている。油圧ポンプ12及び油圧モータ14は、油圧ポンプ12から油圧モータ14に作動油を供給する高圧ライン13で接続されている。また、油圧ポンプ12及び油圧モータ14は、油圧モータ14から油圧ポンプ12に作動油を戻す低圧ライン15で接続されている。すなわち、油圧ポンプ12がエンジンEの動力によって駆動して作動油を吐出すると、油圧モータ14が高圧ライン13を介して供給される圧油により駆動され、その駆動力がプロペラシャフト21、デファレンシャルギヤ装置22及び、駆動軸23L,23Rを介して駆動輪24L,24Rに伝達されるようになっている。以下、油圧ポンプ12及び油圧モータ14の詳細について説明する。
【0016】
[油圧ポンプ]
図2は、本実施形態に係る油圧ポンプ12を模式的に示す構成図である。同図に示すように、油圧ポンプ12は、入力シャフト31と、偏心カム32と、複数のピストン33と、複数のシリンダ34と、高圧導管36と、低圧導管37と、複数の高圧バルブ38と、複数の低圧バルブ39とを備えている。
【0017】
入力シャフト31は、エンジンEのクランクシャフト2(
図1参照)に一体回転可能に連結されている。偏心カム32は、その軸心を入力シャフト31の軸心からピストン33のストローク分だけオフセットさせて、入力シャフト31に一体回転可能に固定されている。
【0018】
ピストン33は、偏心カム32の外周面から径方向外方に向けて、放射状に且つ、周方向に等ピッチで配置されている。各シリンダ34は、その筒内に各ピストン33が往復移動可能に収容されるように、ピストン33の頂面とシリンダ34の筒底面とを対向させて設けられている。各シリンダ34の内筒面と各ピストン33の頂面とにより、作動圧室(シリンダ容積)35が画定されている。各ピストン33は、その内周面を偏心カム32の外周面に摺接可能に設けられている。偏心カム32が入力シャフト31の軸心に対して偏心しながら回転すると、各ピストン33が各シリンダ34内を往復移動するように構成されている。
【0019】
高圧導管36は、シリンダ34と高圧ライン13とを連通して設けられている。低圧導管37は、シリンダ34と低圧ライン15とを連通して設けられている。高圧バルブ38は、シリンダ34から高圧導管36に延びる流路を閉塞可能に、各シリンダ34に対応して設けられている。低圧バルブ39は、低圧導管37からシリンダ34に延びる流路を閉塞可能に、各シリンダ34に対応して設けられている。
【0020】
油圧ポンプ12は、高圧バルブ38及び低圧バルブ39の開閉を制御することにより、各シリンダ34の使用/不使用を選択的に切り替えるように構成されている。高圧バルブ38及び低圧バルブ39の開閉作動は、電子制御ユニット100(Electric Control Unit;以下、ECU)からの指令に応じて制御される。
【0021】
[油圧モータ]
図3は、本実施形態に係る油圧モータを模式的に示す構成図である。同図に示すように、油圧モータ14は、出力シャフト41と、偏心カム42と、複数のピストン43と、複数のシリンダ44と、高圧導管46と、低圧導管47と、複数の高圧バルブ48と、複数の低圧バルブ49とを備えている。
【0022】
出力シャフト41は、プロペラシャフト21(
図1参照)に一体回転可能に連結されている。偏心カム42は、その軸心を出力シャフト41の軸心からピストン43のストローク分だけオフセットさせて、出力シャフト41に一体回転可能に固定されている。
【0023】
ピストン43は、偏心カム42の外周面から径方向外方に向けて、放射状に且つ、周方向に等ピッチで配置されている。各シリンダ44は、その筒内に各ピストン43が往復移動可能に収容されるように、ピストン43の頂面とシリンダ44の筒底面とを対向させて設けられている。各シリンダ44の内筒面と各ピストン43の頂面とにより、作動圧室(シリンダ容積)45が画定されている。各ピストン43は、その内周面を偏心カム42の外周面に摺接可能に設けられている。偏心カム42が出力シャフト41の軸心に対して偏心しながら回転すると、各ピストン43が各シリンダ44内を往復移動するように構成されている。
【0024】
高圧導管46は、シリンダ44と高圧ライン13とを連通して設けられている。低圧導管47は、シリンダ44と低圧ライン15とを連通して設けられている。高圧バルブ48は、シリンダ44から高圧導管46に延びる流路を閉塞可能に、各シリンダ44に対応して設けられている。低圧バルブ49は、低圧導管47からシリンダ44に延びる流路を閉塞可能に、各シリンダ44に対応して設けられている。
【0025】
油圧モータ14は、高圧バルブ48及び低圧バルブ49の開閉を制御することにより、各シリンダ44の使用/不使用を選択的に切り替えられるように構成されている。高圧バルブ48及び低圧バルブ49の開閉作動は、ECU100からの指令に応じて制御される。
【0026】
[センサ]
図1に戻り、車両1には、エンジン回転数センサ51と、アクセル開度センサ52と、車速センサ53とが備えられている。エンジン回転数センサ51は、クランクシャフト2からエンジン回転数Neを取得する。アクセル開度センサ52は、アクセルペダル5の踏み込み量に応じたアクセル開度Ac(又は、エンジンEへの燃料噴射指示値Q)を取得する。車速センサ53は、プロペラシャフト21から、車両1の車速Vを取得する。これら各センサ51~53のセンサ値は、電気的に接続されたECU100に出力される。
【0027】
[制御部]
ECU100は、エンジンE等の各種制御を行うもので、公知のCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。
【0028】
図4は、本実施形態に係るECU100及び関連する構成を示す機能ブロック図である。
【0029】
ECU100は、モータ要求トルク設定部110(モータトルク設定手段)と、モータ押しのけ容積設定部120と、モータバルブ制御部130と、エンジン目標トルク設定部140(エンジントルク設定手段)と、ポンプ押しのけ容積設定部150と、ポンプバルブ制御部160と、判定部170(判定手段)と、エンジン制御部180(エンジン制御手段)とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU100に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0030】
モータ要求トルク設定部110は、アクセル開度センサ51のセンサ値に基づいて、運転者のアクセルペダルの踏み込み量に応じた油圧モータ14のトルク(以下、モータ要求トルクTm)を設定する。モータ要求トルク設定部110により設定されるモータ要求トルクTmは、モータ押しのけ容積設定部120及び、エンジン目標トルク設定部140にそれぞれ出力される。
【0031】
モータ押しのけ容積設定部120は、モータ要求トルクTm及び、車速センサ53のセンサ値に基づいて、油圧モータ14に必要とされるモータ出力Wmを求めると共に、該モータ出力Wmに応じた油圧モータ14の目標モータ押しのけ容積Vmを設定する。モータ押しのけ容積設定部120により設定される目標モータ押しのけ容積Vmは、モータバルブ制御部130に出力される。
【0032】
モータバルブ制御部130は、目標モータ押しのけ容積Vmに基づいて、各シリンダ44(
図3参照)の使用/不使用を選択すると共に、該選択に応じて高圧バルブ48及び低圧バルブ49の開閉を制御することにより、油圧モータ14の押しのけ容積を目標モータ押しのけ容積Vmに調整する。
【0033】
エンジン目標トルク設定部140は、モータ要求トルクTmに基づいて、エンジンEに必要とされるエンジン目標トルクTeを設定する。エンジン目標トルク設定部140により設定されるエンジン目標トルクTeは、ポンプ押しのけ容積設定部150及び、エンジン制御部180に出力される。
【0034】
ポンプ押しのけ容積設定部150は、エンジン目標トルクTe及び、エンジン回転数センサ52のセンサ値(すなわち、ポンプトルクTp及び、ポンプ回転数)に基づいて、油圧ポンプ12に必要とされるポンプ出力Wpを求めると共に、該ポンプ出力Wpに応じた油圧ポンプ12の目標ポンプ押しのけ容積Vpを設定する。ポンプ押しのけ容積設定部150により設定される目標ポンプ押しのけ容積Vpは、ポンプバルブ制御部160及び、判定部170に出力される。
【0035】
ポンプバルブ制御部160は、目標ポンプ押しのけ容積Vpに基づいて、各シリンダ34(
図2参照)の使用/不使用を選択すると共に、該選択に応じて高圧バルブ38及び低圧バルブ39の開閉を制御することにより、油圧ポンプ12の押しのけ容積を目標ポンプ押しのけ容積Vpに調整する。
【0036】
判定部170は、目標ポンプ押しのけ容積Vpが、所定の押しのけ容積に該当するか否かを判定する。具体的には、目標ポンプ押しのけ容積Vpが、例えば車両装置の共振周波数に相当する振動を生じさせる押しのけ容積に該当する場合、判定部170は目標ポンプ押しのけ容積Vpを所定の押しのけ容積と判定する。判定部170による判定結果は、エンジン制御部180に出力される。
【0037】
エンジン制御部180は、エンジン目標トルクTeに基づいて、エンジンEの燃料噴射を制御することにより、エンジンEの駆動を制御するエンジン制御を実行する。具体的には、判定部170により目標ポンプ押しのけ容積Vpが前記所定のポンプ押しのけ容積に該当しないと判定された場合、エンジン制御部180は、エンジンEの出力トルクが設定されたエンジン目標トルクTeとなるように、燃料噴射量や噴射タイミングを各センサ51,52のセンサ値に基づいて制御する。
【0038】
一方、エンジン制御部180は、判定部170により目標ポンプ押しのけ容積Vpが前記所定のポンプ押しのけ容積に該当すると判定された場合には、エンジンEのトルク及び回転数を所定量変化させることにより、油圧ポンプ12が望ましくないポンプ押しのけ容積で駆動されることを回避する回避制御を実行する。以下、回避制御の詳細を説明する。
【0039】
[回避制御]
ECU100のメモリには、
図5に示すエンジンEの等出力線マップMが予め格納されている。この等出力線マップMには、横軸にエンジン回転数Ne、縦軸にエンジントルクTeが設定され、さらにこれらエンジン回転数Ne及びエンジントルクTeに応じた複数本の等出力線Lnが設定されている。各等出力線Lnは、エンジン回転数Neが高くなるほど、エンジントルクTeは減少するように、言い換えれば、エンジントルクTeが増加するほど、エンジン回転数Neは低くなるように設定されている。
【0040】
エンジン制御部180は、まず、設定されたエンジン目標トルクTeと、エンジン回転数センサ52により取得されるエンジン回転数Neとから、エンジンEの目標出力Weを求める。次いで、エンジン制御部180は、目標出力Weに基づいて等出力線マップMを参照することにより、該目標出力Weに相当する等出力線Ln(
図5の例ではL3)を選択する。そして、エンジン制御部180は、選択した等出力線Ln上でエンジントルクTeとエンジン回転数Neを変化(
図5の例では、エンジン回転数Neを上昇させつつ、エンジントルクTeを減少)させる。
【0041】
このように、エンジンEの出力を目標出力Weに維持しつつ、エンジン回転数Ne及びエンジントルクTeを変化させる回避制御を行うと、油圧ポンプ12のポンプ回転数Np及びポンプトルクTpが追従して変化し、これに伴い油圧ポンプ12の押しのけ容積も変化することで、油圧ポンプ12が前記所定の押しのけ容積で駆動することを効果的に回避できるようになる。また、入力側のエンジンEの運転状態を変化させて、油圧ポンプ12の押しのけ容積を変化させつつ、出力側の油圧モータ14のトルクTmや回転数Nmを一定に維持することで、車両1が運転者の意図に反して減速することや、駆動力不足を生じることを効果的に防止できるようになる。
【0042】
[作用効果]
次に、
図6~8に基づいて、本実施形態の作用効果を、比較例を用いながら説明する。
【0043】
図7は、比較例1の各種状態量の変化を模式的に示すタイミングチャート図である。比較例1は、回避制御を入力側のエンジンEで行うことなく、油圧ポンプ12の押しのけ容積及び圧力を直接的に変化させることにより行った場合である。
【0044】
図7に示すように、期間T1~T2に亘って油圧ポンプ12の押しのけ容積を減少且つ、油圧ポンプ12の圧力を上昇させると、油圧ポンプ12が前記所定の押しのけ容積で駆動することは回避できる。しかしながら、油圧ポンプ12及び油圧モータ14は閉ループで接続されているため、油圧モータ14の出力を一定に維持しようとすると、油圧モータ14の回転数は低下することになる。すなわち、比較例1では、油圧モータ14の回転数低下によって、車両1が運転者の意図に反して減速するといった課題がある。
【0045】
図8は、比較例2の各種状態量の変化を模式的に示すタイミングチャート図である。比較例2は、回避制御を入力側のエンジンEで行うことなく、油圧モータ14の押しのけ容積を圧力変化に応じて所望トルクが得られるように制御することにより行った場合である。
【0046】
図8に示すように、期間T1~T2に亘って油圧モータ14の押しのけ容積を減少させて、所望トルクが得られるように制御すると、油圧ポンプ12が前記所定の押しのけ容積で駆動することは回避できる。しかしながら、油圧モータ14側にも、回避したい押しのけ容積が存在する。このため、期間T2~T3に亘って油圧モータ14の押しのけ容積をさらに減少させると、油圧モータ14のトルクが所望トルクよりも低下することになる。すなわち、比較例2では、油圧モータ14のトルクが所望トルクよりも低下することで、車両1の駆動力不足を生じるといった課題がある。
【0047】
これに対し、
図6に示す本実施形態では、回避制御を、閉ループで接続された油圧ポンプ12や油圧モータ14で行うことなく、入力側のエンジンEで行っている。より詳しくは、期間T1~T2に亘って、エンジンEの出力を一定に維持しつつ、エンジン回転数を上昇、且つ、エンジントルクを減少させることにより、油圧モータ14の出力、回転数及び、トルクを一定に維持しながら、油圧モータ12の押しのけ容積を前記所定の押しのけ容積から変化させるように構成されている。
【0048】
これにより、油圧モータ12が共振等を生じさせる押しのけ容積で駆動することを確実に回避することが可能となり、共振等を起因とした車両装置の破損やドライバビリティの悪化を効果的に抑止することができる。また、油圧モータ14の回転数やトルクが一定に維持されることで、運転者の意図しない車両1の速度低下や駆動力不足を効果的に防止することが可能になる。
【0049】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態において、回避制御は、等出力線マップMの等出力線Lnに従って、エンジン回転数Neを上昇、エンジントルクを減少させるものとして説明したが、等出力線Lnに従って、エンジン回転数を低下、エンジントルクを増加させるようにしてもよい。
【0051】
また、等出力線マップMは、必ずしもグラフ化する必要はなく、ECU100のメモリに数値データとして記憶させてもよい。
【0052】
また、油圧ポンプ12や油圧モータ14のシリンダ数、構造等は図示例に限定されず、エンジンEや車両1の仕様等に応じて適宜に設定することができる。
【符号の説明】
【0053】
E エンジン
1 車両
10 油圧トランスミッション
12 油圧ポンプ
13 高圧ライン
14 油圧モータ
15 低圧ライン
100 ECU
110 モータ要求トルク設定部(モータトルク設定手段)
120 モータ押しのけ容積設定部
130 モータバルブ制御部
140 エンジン目標トルク設定部(エンジントルク設定手段)
150 ポンプ押しのけ容積設定部
160 ポンプバルブ制御部
170 判定部(判定手段)
180 エンジン制御部(エンジン制御手段)