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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】弾性クローラ
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/253 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
B62D55/253 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018176824
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020045044
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 忍
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104925(JP,A)
【文献】特開2001-114144(JP,A)
【文献】特開2001-334972(JP,A)
【文献】特開2004-074864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/24-55/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に間隔を空けて配置される多数のプレート状の芯金と、
前記芯金の外側において周方向に延びるコード層と
を備え、
前記コード層が幅方向に並列した複数のループ状のユニットを含み、
それぞれのユニットが螺旋状に2巻以上巻き回された帯状体からなり、
前記帯状体が少なくとも1本のスチールコードを含み、
前記ユニットを構成する帯状体の始端及び終端が、いずれかの芯金の直上に配置され、
前記コード層に、当該コード層の断面に含まれる帯状体の断面の数が多い第一ゾーンと、当該断面に含まれる帯状体の断面の数が少ない第二ゾーンとが構成され、
前記第一ゾーンの周方向長さが前記第二ゾーンの周方向長さよりも短く、
前記コード層の断面に含まれる前記帯状体の断面の数が、周方向において隣り合う2つの芯金間の前記コード層の断面に含まれる前記帯状体の断面の数で表され、
一の芯金の直上において、一のユニットを構成する一の帯状体の終端と、当該一のユニットの隣に位置する他のユニットを構成する他の帯状体の始端とが、対向するように配置され、
前記第一ゾーンが、幅方向において最も内側に位置するユニットを構成する帯状体の始端から、幅方向において最も外側に位置するユニットを構成する帯状体の終端までのゾーンであり、前記第一ゾーン以外のゾーンが前記第二ゾーンであり、
前記コード層を構成する全ての帯状体の始端及び終端が前記第一ゾーンに位置する、弾性クローラ。
【請求項2】
前記第二ゾーンにおけるコード層の断面に含まれる帯状体の断面の数に対する、前記一の芯金の直上において、一の帯状体の終端と、他の帯状体の始端とが対向するように配置されている箇所の数の比率が、1%以上50%以下である、請求項記載の弾性クローラ。
【請求項3】
前記芯金の周方向長さに対する、前記一の芯金の直上において、対向するように配置されている、一の帯状体の終端と、他の帯状体の始端との間の周方向長さの比率が、50%以下である、請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項4】
前記芯金の外側において、前記コード層の外側及び内側に位置し、周方向に延びる、キャンバス層をさらに備える、請求項1から3のいずれかに記載の弾性クローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性クローラに関する。詳細には、本発明は農業機械、建設機械等の走行装置に装着される、弾性クローラに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバイン、トラクター等の農業機械、バックホー等の建設機械のような、クローラ式の走行装置には、無端帯状の弾性クローラが装着される。
【0003】
走行装置では、スプロケットが回転することにより、弾性クローラは周方向に動かされる。これにより、走行装置は走行する。
【0004】
弾性クローラは、例えば、特許文献1に開示されるように、架橋ゴムからなる弾性部材と、周方向に間隔をあけて配置される多数の芯金と、これら芯金の外側において周方向に延びるコード層とを備える。弾性クローラでは、芯金及びコード層は弾性部材に埋設される。
【0005】
弾性クローラでは、コード層は無端帯状であり、スチールコードを含む。このコード層としては、例えば、多数のスチールコードを幅方向に並列させてコード束を構成し、このコード束の両端を接合することにより得られるコード層(以下、非ジョイントレスタイプのコード層)や、スチールコードを含む帯状体を周方向に螺旋巻きすることにより得られるコード層(以下、ジョイントレスタイプのコード層)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-131536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走行状態において、コード層には相当の張力が作用する。前述の非ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラでは、接合部分にスチールコードの継ぎ目が多く含まれるので、接合部分の強度が不足し、十分な耐久性が得られない恐れがある。
【0008】
一方、前述のジョイントレスタイプのコード層には、スチールコードの継ぎ目がないので、このコード層は全体にわたって十分な強度を有する。このため、ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラでは、良好な耐久性が得られる見込みがある。しかしこのコード層の形成には、十分な長さを有する帯状体が必要である。このため、製造する弾性クローラの仕様に応じて、長さを調整した帯状体の準備が必要であり、多数の中間製品が発生する恐れがある。また、長さが不足する帯状体は、コード層の形成に用いることができないので、廃棄せざるを得ない。ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラは、非ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラに比べて生産性に劣る傾向にある。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、耐久性の低下を抑えつつ、生産性の向上が達成された、弾性クローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る好ましい弾性クローラは、周方向に間隔を空けて配置される多数のプレート状の芯金と、前記芯金の外側において周方向に延びるコード層とを備える。
この弾性クローラでは、前記コード層は幅方向に並列した複数のループ状のユニットを含み、それぞれのユニットは螺旋状に2巻以上巻き回された帯状体からなり、前記帯状体は少なくとも1本のスチールコードを含む。
そしてこの弾性クローラでは、前記ユニットを構成する帯状体の始端及び終端は、いずれかの芯金の直上に配置される。
【0011】
好ましくは、この弾性クローラでは、一の芯金の直上において、一のユニットを構成する一の帯状体の終端と、当該一のユニットの隣に位置する他のユニットを構成する他の帯状体の始端とは、対向するように配置される。
【0012】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記コード層に、当該コード層の断面に含まれる帯状体の断面の数が多い第一ゾーンと、当該断面に含まれる帯状体の断面の数が少ない第二ゾーンとが構成される。前記第一ゾーンの周方向長さは、前記第二ゾーンの周方向長さよりも短い。
【0013】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記帯状体の始端及び終端は前記第一ゾーンに位置する。
【0014】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記第二ゾーンにおけるコード層の断面に含まれる帯状体の断面の数に対する、前記一の芯金の直上において、一の帯状体の終端と、他の帯状体の始端とが対向するように配置されている箇所の数の比率は1%以上50%以下である。
【0015】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記芯金の周方向長さに対する、前記一の芯金の直上において、対向するように配置されている、一の帯状体の終端と、他の帯状体の始端との間の周方向長さの比率は50%以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性クローラでは、コード層の形成には、少なくとも1本のスチールコードを含む帯状体が用いられる。特に、このコード層は、帯状体を螺旋巻きすることにより得られるユニットを、複数組み合わせることにより構成される。この弾性クローラでは、前述のジョイントレスタイプのコード層のように、十分な長さを有する帯状体を準備する必要はない。この弾性クローラでは、帯状体の保管のために用いられるボビンの小型化を図ることができる。長さが不足しコード層の形成に用いることができない帯状体が生じにくいので、帯状体の廃棄量も削減できる。この弾性クローラは、生産性の向上に貢献できる。
【0017】
この弾性クローラではさらに、コード層を構成するそれぞれのユニットは、螺旋状に2巻以上巻き回された帯状体からなる。このユニットはジョイントレス構造を有する。このユニットには、スチールコードの継ぎ目は含まれない。このコード層では、前述の非ジョイントレスタイプのコード層よりも、スチールコードの継ぎ目の数は少ない。この弾性クローラの強度は、非ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラのそれよりも十分に大きい。さらにスチールコードの継ぎ目の数をコントロールすることにより、この弾性クローラは、前述のジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラの強度と同程度の強度を得ることも可能である。
【0018】
そして、この弾性クローラでは、ユニットを構成する帯状体の始端及び終端は、いずれかの芯金の直上に配置される。この弾性クローラでは、スチールコードの始端又は終端が位置する部分の変形が抑えられるので、スチールコードの端の部分の跳ね上がりが効果的に防止される。
【0019】
この弾性クローラでは、コード層がスチールコードの継ぎ目を含んでいるにも関わらず、このコード層が耐久性に与える影響が効果的に抑えられる。この弾性クローラは、耐久性の低下を抑えつつ、生産性の向上を図ることができる。
【0020】
本発明によれば、耐久性の低下を抑えつつ、生産性の向上が達成された、弾性クローラが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る弾性クローラが装着された走行装置の一部が示された側面図である。
図2図2は、図1の弾性クローラの断面が示された断面図である。
図3図3は、コード層のための帯状体の一部が示された斜視図である。
図4図4は、コード層の構成を説明する平面図である。
図5図5は、コード層の断面が示された断面図である。
図6図6は、コード層の構成を説明する側面図である。
図7図7は、コード層の変形例を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0023】
[走行装置]
図1は、クローラ式の走行装置2の一部を示す。この走行装置2としては、例えば、コンバイン、トラクター等の農業機械、及び、バックホー等の建設機械が挙げられる。この走行装置2は、弾性クローラ4、スプロケット6、アイドラ8及び転輪10を備える。
【0024】
弾性クローラ4は、無端帯状である。弾性クローラ4は、その幅方向中央部分に穴12を備える。この弾性クローラ4では、多数の穴12が周方向に間隔をあけて配置される。スプロケット6及びアイドラ8は、円盤状であり、この走行装置2の本体に回転可能に支持される。スプロケット6は、その外周に多数の歯14を備える。
【0025】
この走行装置2では、弾性クローラ4はスプロケット6とアイドラ8とに巻き掛けられる。これにより、弾性クローラ4には所定の張力がかけられる。
【0026】
この走行装置2では、スプロケット6は図示されない駆動手段により回転させられる。これにより、スプロケット6の歯14が順に弾性クローラ4の穴12に入り込む。この穴12に入り込んだ歯14がスプロケット6の回転方向に動くことにより、弾性クローラ4が周方向に動かされる。これにより、走行装置2は走行する。そしてこの弾性クローラ4が動くことにより、アイドラ8が回転する。
【0027】
この走行装置2では、その路面側に複数の転輪10が配置される。これら転輪10は、スプロケット6とアイドラ8との間に位置する。これら転輪10は、この走行装置2の本体に回転可能に支持される。この走行装置2では、周方向に動く弾性クローラ4の内周面上を、これら転輪10は転動する。
【0028】
[弾性クローラ4]
図2は、図1のII-II線に沿った、弾性クローラ4の断面を示す。この図2には、この弾性クローラ4の周方向に対して垂直な面に沿った、この弾性クローラ4の断面が示される。
【0029】
図2において、左右方向は弾性クローラ4の幅方向である。この図2において、上下方向はこの弾性クローラ4の厚さ方向である。図1に示されるように、弾性クローラ4はループを構成する。この図2における上側がこのループの内側であり、この図2における下側がこのループの外側である。この図2において、紙面に対して垂直な方向はこの弾性クローラ4の周方向である。この弾性クローラ4の周方向は、この弾性クローラ4の長さ方向でもある。この弾性クローラ4の周方向は、その幅方向と直交する。
【0030】
この弾性クローラ4は、形状的な要素として、前述の穴12以外に、ラグ16と、ガイド18とを備える。
【0031】
ラグ16は、弾性クローラ4の本体4aから外向きに突出する。ラグ16は、この弾性クローラ4の概ね幅方向に延在する。図1に示されるように、この弾性クローラ4では、多数のラグ16が周方向に間隔をあけて配置される。ラグ16は、走行装置2のトラクションに寄与する。
【0032】
ガイド18は、弾性クローラ4の本体4aから内向きに突出する。図1に示されるように、この弾性クローラ4では、多数のガイド18が周方向に間隔をあけて配置される。図2に示されるように、幅方向においては、2つのガイド18が弾性クローラ4の中央部分に間隔をあけて配置される。この2つのガイド18は、弾性クローラ4の走行状態においてスプロケット6を挟み込む。これにより、弾性クローラ4の幅方向の変位が抑えられる。ガイド18は、走行装置2の走行安定性に寄与する。
【0033】
弾性クローラ4は、構成的な要素として、弾性部材20と、芯金22と、コード層24と、キャンバス層26とを備える。
【0034】
弾性部材20は、架橋ゴムからなる。弾性部材20は、芯金22、コード層24及びキャンバス層26を覆う。この弾性クローラ4では、芯金22、コード層24及びキャンバス層26は弾性部材20に埋設される。
【0035】
芯金22はプレート状である。芯金22は、一対の鍔部28と、一対の翼部30とを備える。一対の鍔部28は、幅方向において、この芯金22の中央部分に配置される。この図2において、それぞれの鍔部28は芯金22の基部32から内向きに突出する。この弾性クローラ4では、芯金22の鍔部28は前述のガイド18の一部をなす。一対の翼部30は、プレート状である。翼部30はそれぞれ、基部32から幅方向外側に延びる。この弾性クローラ4では、芯金22の外側に前述のラグ16が構成される。
【0036】
この弾性クローラ4では、芯金22は金属製である。この芯金22の材質としては、普通鋼及び合金鋼が例示される。
【0037】
この弾性クローラ4は、多数の芯金22を備える。これら芯金22は、周方向に間隔をあけて配置される。
【0038】
コード層24は、周方向に延びる。このコード層24は、無端帯状である。幅方向において、コード層24の外端は芯金22の外端よりも内側に位置するように配置される。
【0039】
このコード層24は、スチールコード34を含む。このコード層24において、スチールコード34は実質的に周方向に延びる。本発明において、「実質的に周方向」とはスチールコード34が周方向に対してなす角度が5°以下であることを意味する。この弾性クローラ4では、コード層24の剛性確保の観点から、このスチールコード34が周方向に対してなす角度は3°以下が好ましく、2°以下がより好ましい。
【0040】
この弾性クローラ4では、弾性クローラにおいて一般的に用いられるスチールコードがスチールコード34として用いられる。図示されないが、この弾性クローラ4では、複数本のフィラメントを撚り合わせて構成された複数本のストランドをさらに撚り合わせて構成されたコードがスチールコード34として用いられる
【0041】
この弾性クローラ4では、コード層24は芯金22の外側に位置する。図2に示されるように、この弾性クローラ4は一対のコード層24を備える。それぞれのコード層24は、芯金22の左右に設けられるそれぞれの翼部30の外側において、周方向に延びる。
【0042】
キャンバス層26は、芯金22の外側において、コード層24の内側又は外側に位置し、周方向に延びる。このキャンバス層26は、無端帯状である。
【0043】
このキャンバス層26は、織物である。図示されないが、キャンバス層26は有機繊維からなるキャンバスコードを含む。この有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維及びアラミド繊維が挙げられる。この弾性クローラ4では、キャンバスコードは周方向に対して傾斜する。このキャンバスコードの傾斜角度は通常、20°から70°の範囲で設定される。好ましくは、このキャンバスコードの傾斜角度は30°である。
【0044】
この弾性クローラ4は、一対のキャンバス層26を備える。それぞれのキャンバス層26は、芯金22の左右に設けられるそれぞれの翼部30の外側において、コード層24に沿って延びる。図2に示されるように、この弾性クローラ4のキャンバス層26は、前述の織物でコード層24を包み込むことにより構成される。このキャンバス層26は、コード層24を覆う。この弾性クローラ4では、キャンバス層26は、芯金22とコード層24との間、すなわち、コード層24の内側と、このコード層24の外側とに位置する。この弾性クローラ4では、キャンバス層26がコード層24の内側のみに設けられてもよい。このキャンバス層26が、コード層24の外側のみに設けられてもよい。
【0045】
前述したように、コード層24は、芯金22の翼部30の外側において周方向に延びる。このコード層24は、実質的に周方向に延びるスチールコード34を含む。この弾性クローラ4では、コード層24は図3に示された帯状体36を用いて構成される。この帯状体36は少なくとも1本のスチールコード34を含む。この帯状体36では、スチールコード34はトッピングゴム38で覆われる。この帯状体36は、スチールコード34とトッピングゴム38とからなる。
【0046】
図3に示された帯状体36は、2本のスチールコード34を含む。この帯状体36では、これらスチールコード34は幅方向に並列する。この弾性クローラ4では、帯状体36は幅方向に並列した複数のスチールコード34を含むことができる。
【0047】
この弾性クローラ4では、生産性の向上に寄与し、十分な剛性を有するコード層24が得られる観点から、この帯状体36に含まれるスチールコード34の本数は2本以上が好ましい。この帯状体36に含まれるスチールコード34の本数は5本以下が好ましく、4本以下がより好ましく、3本以下がさらに好ましい。
【0048】
図4には、コード層24の一部が芯金22とともに示される。この図4において、左右方向は弾性クローラ4の幅方向であり、上下方向はこの弾性クローラ4の周方向である。紙面に対して垂直な方向は、この弾性クローラ4の厚さ方向である。この紙面の表側は、この弾性クローラ4が構成するループの外側である。
【0049】
本明細書では、図4に示された左側のコード層24aに基づいて、コード層24の構成について説明する。この弾性クローラ4では、右側のコード層24bもこの左側のコード層24aの構成と同等の構成を有する。
【0050】
この弾性クローラ4では、コード層24は、幅方向に並列した複数のループ状のユニット40を含む。図4に示されたコード層24は、3のユニット40を含む。この弾性クローラ4では、幅方向において内側に位置するユニット40aが第一ユニット40aであり、この第一ユニット40aの幅方向外側に位置するユニット40bが第二ユニット40bであり、この第二ユニット40bの幅方向外側に位置するユニット40cが第三ユニット40cである。このコード層24は、第一ユニット40a、第二ユニット40b及び第三ユニット40cで構成される。この弾性クローラ4では、第一ユニット40aが、このコード層24を構成する複数のユニット40のうち、幅方向において最も内側に位置するユニット40である。第三ユニット40cが、このコード層24を構成する複数のユニット40のうち、幅方向において最も外側に位置するユニット40である。
【0051】
この弾性クローラ4では、コード層24の一部をなすユニット40は、帯状体36を螺旋状に巻き回すことにより構成される。言い換えれば、このユニット40は、螺旋状に巻き回された帯状体36からなる。なお、この図4において、矢印Aで示される方向は、コード層24を構成する帯状体36の周回方向である。この弾性クローラ4では、周回方向Aの向きにそれぞれの帯状体36を巻き回すことによりコード層24が構成される。
【0052】
図4に示されたコード層24では、第一ユニット40a、第二ユニット40b及び第三ユニット40c、すなわち、コード層24を構成する全てのユニット40がそれぞれ、螺旋状に2巻以上巻き回された帯状体36からなる。この弾性クローラ4では、第一ユニット40aのための帯状体36aが第一帯状体36aと称され、第二ユニット40bのための帯状体36bが第二帯状体36bと称され、第三ユニット40cのための帯状体36cが第三帯状体36cと称される。
【0053】
本発明においては、帯状体36の巻数は、帯状体36の巻き回しにおいて、この帯状体36の始端42の位置をこの帯状体36が通過する回数をカウントすることにより得られる。なお、帯状体の終端44の位置が周方向においてその始端42の位置と一致していなくても、その終端44が、始端42が配置されている芯金22と同じ芯金22の直上に配置されていれば、この終端44の位置は周方向において始端42の位置と一致するとして、帯状体36の巻数がカウントされる。
【0054】
この弾性クローラ4では、幅方向において内側に位置するユニット40a、すなわち、第一ユニット40aが第一帯状体36aを用いて構成される。この弾性クローラ4では、第一帯状体36aの始端42aが、この弾性クローラ4に含まれるいずれかの芯金22の翼部30の直上に配置される。この弾性クローラ4では、第一帯状体36aの始端42aが配置された芯金22aが第一芯金22aと称される。
【0055】
図4に示されたコード層24では、第一帯状体36aの始端42aは第一芯金22aの翼部30の直上に配置される。この第一帯状体36aは螺旋状に3巻巻き回され、この第一帯状体36aの終端44aは、周回方向Aにおいてこの第一芯金22aの隣に位置する別の芯金22b(以下、第二芯金22b)の翼部30の直上に配置される。これにより、第一ユニット40aが得られる。
【0056】
この弾性クローラ4では、第一帯状体36aが少なくとも2巻巻き回され、この第一帯状体36aの終端44aが、この弾性クローラ4に含まれるいずれかの芯金22の翼部30の直上に配置されるのであれば、この第一帯状体36aの終端44aの位置に特に制限はない。例えば、この第一帯状体36aの終端44aが、その始端42aが配置された第一芯金22aの直上に配置されてもよい。この第一帯状体36aの終端44aが、第二芯金22bの隣に位置するさらに別の芯金22c(以下、第三芯金22c)の直上に配置されてもよい。この第一帯状体36aの終端44aが、第三芯金22cの隣に位置するさらに別の芯金22d(以下、第四芯金22d)の直上に配置されてもよい。
【0057】
この弾性クローラ4では、第一ユニット40aに次いで、第二帯状体36bを用いて第二ユニット40bが構成される。図4に示されたコード層24では、第二帯状体36bの始端42bは、第一帯状体36aの終端44aが配置された第二芯金22bの翼部30の直上に配置される。この第二帯状体36bは螺旋状に3巻巻き回され、この第二帯状体36bの終端44bが第三芯金22cの翼部30の直上に配置される。これにより、第二ユニット40bが得られる。
【0058】
この弾性クローラ4では、前述の第一帯状体36aと同様、第二帯状体36bが少なくとも2巻巻き回され、この第二帯状体36bの終端44bが、この弾性クローラ4に含まれるいずれかの芯金22の翼部30の直上に配置されるのであれば、この第二帯状体36bの終端44bの位置に特に制限はない。
【0059】
この弾性クローラ4では、第二ユニット40bに次いで、第三帯状体36cを用いて第三ユニット40cが構成される。図4に示されたコード層24では、第三帯状体36cの始端42cは、第二帯状体36bの終端44bが配置された第三芯金22cの翼部30の直上に配置される。この第三帯状体36cは螺旋状に3巻巻き回され、この第三帯状体36cの終端44cが第四芯金22dの翼部30の直上に配置される。これにより、第三ユニット40cが得られる。
【0060】
この弾性クローラ4では、前述の第一帯状体36a及び第二帯状体36bと同様、第三帯状体36cが少なくとも2巻巻き回され、この第三帯状体36cの終端44cが、この弾性クローラ4に含まれるいずれかの芯金22の翼部30の直上に配置されるのであれば、この第三帯状体36cの終端44cの位置に特に制限はない。
【0061】
この弾性クローラ4では、このようにして、複数本の帯状体36を用いてユニット40を順に構成することで、コード層24が得られる。
【0062】
この弾性クローラ4では、コード層24の形成には、少なくとも1本のスチールコード34を含む帯状体36が用いられる。特に、このコード層24は、帯状体36を螺旋巻きすることにより得られるユニット40を、複数組み合わせることにより構成される。この弾性クローラ4では、従来のジョイントレスタイプのコード層のように、十分な長さを有する帯状体を準備する必要はない。この弾性クローラ4では、帯状体36の保管のために用いられるボビンの小型化を図ることができる。この弾性クローラ4の製造において長さが不足しコード層24の形成に用いることができない帯状体36が生じにくいので、帯状体36の廃棄量も削減できる。この弾性クローラ4は、生産性の向上に貢献できる。
【0063】
この弾性クローラ4ではさらに、コード層24を構成するそれぞれのユニット40は、螺旋状に2巻以上巻き回された帯状体36からなる。このユニット40はジョイントレス構造を有する。このユニット40には、スチールコード34の継ぎ目は含まれない。このため、このコード層24では、従来の非ジョイントレスタイプのコード層よりも、スチールコード34の継ぎ目の数は少ない。この弾性クローラ4の強度は、非ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラのそれよりも十分に大きい。さらにスチールコード34の継ぎ目の数をコントロールすることにより、この弾性クローラ4は、前述のジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラの強度と同程度の強度を得ることも可能である。
【0064】
そして、この弾性クローラ4では、ユニット40を構成する帯状体36の始端42及び終端44は、いずれかの芯金22の直上に配置される。この弾性クローラ4では、スチールコード34の始端又は終端が位置する部分の変形が抑えられるので、スチールコード34の端の部分の跳ね上がり(以下、スチールコード34の跳ね上がりとも称される。)が効果的に防止される。前述したように、この弾性クローラ4では、芯金22の外側に前述のラグ16が構成される。したがって、この弾性クローラ4では、スチールコード34の始端又は終端が位置する部分の変形が芯金22上のラグ44によって効果的に抑えられるので、スチールコード34の跳ね上がりがより効果的に防止される。
【0065】
この弾性クローラ4では、コード層24がスチールコード34の継ぎ目を含んでいるにも関わらず、このコード層24が耐久性に与える影響が効果的に抑えられる。この弾性クローラ4は、耐久性の低下を抑えつつ、生産性の向上を図ることができる。
【0066】
この弾性クローラ4では、例えば、図4に示されるように、第二芯金22bの直上において、第一ユニット40aを構成する第一帯状体36aの終端44aと、この第一ユニット40aの隣に位置する第二ユニット40bを構成する第二帯状体36bの始端42bとが、対向するように配置される。この弾性クローラ4では、第一帯状体36aの終端44aが第二芯金22bの直上に配置され、第二帯状体36bの始端42bがこの第二芯金22bの隣に位置する第三芯金22cの直上に配置されてもよい。第一帯状体36aの終端44aが第二芯金22bの直上に配置され、第二帯状体36bの始端42bが第三芯金22cのさらに隣に位置する第四芯金22dの直上に配置されてもよい。
【0067】
この弾性クローラ4では、一のユニット40を構成する一の帯状体36の終端44と、この一のユニット40の隣に位置する他のユニット40を構成する他の帯状体36の始端42との間の間隔は、コード層24の剛性に影響する。この弾性クローラ4では、コード層24の剛性確保の観点から、一の芯金22の直上において、一のユニット40を構成する一の帯状体36の終端44と、この一のユニット40の隣に位置する他のユニット40を構成する他の帯状体36の始端42とは、対向するように配置されるのが好ましい。
【0068】
図4に示されるように、この弾性クローラ4では、第二帯状体36bの始端42bは、第二芯金22bの直上において、第一帯状体36aの終端44aとは周方向に間隔をあけて配置される。第三帯状体36cの始端42cは、第三芯金22cの直上において、第二帯状体36bの終端44bとは周方向に間隔をあけて配置される。この弾性クローラ4では、第二帯状体36bの始端42bと第一帯状体36aの終端44aとが、第二芯金22bの直上において、間隔をあけずに継ぎ合わされてもよい。第三帯状体36cの始端42cと第二帯状体36bの終端44bとが、第三芯金22cの直上において、間隔をあけずに継ぎ合わされてもよい。
【0069】
図4において、両矢印LMは芯金22の周方向長さである。両矢印LDは、一の芯金22の直上において、対向するように配置されている、一の帯状体36の終端44と、他の帯状体36の始端42との間の間隔、言い換えれば、ユニット40の継ぎ目の周方向長さである。
【0070】
この弾性クローラ4では、ユニット40の継ぎ目の周方向長さLDはコード層24の剛性の他に、スチールコード34の跳ね上がりにも影響する。この弾性クローラ4では、芯金22によって継ぎ目の変形が効果的に抑えられ、スチールコード34の跳ね上がりがより効果的に防止される観点から、この芯金22の周方向長さLMに対する、ユニット40の継ぎ目の周方向長さLDの比率は50%以下が好ましい。なお、一の帯状体36の終端44と、他の帯状体36の始端42とが継ぎ合わされている場合、周方向長さLDは0mmなので、この比率は0%以上である。
【0071】
この弾性クローラ4では、スチールコード34の跳ね上がりの防止の観点から、芯金22は、帯状体36、詳細には、この帯状体36に含まれるスチールコード34とは十分に重ね合わされる。具体的には、芯金22の周方向長さLMに対する、帯状体36と芯金22との重複長さの比率は25%以上が好ましく、50%以下が好ましい。
【0072】
図5は、コード層24の断面を示す。図5(a)には、図4のa-a線に沿った、コード層24の断面が示される。図5(b)には、この図4のb-b線に沿った、コード層24の断面が示される。図5において、左右方向は弾性クローラ4の幅方向であり、上下方向はこの弾性クローラ4の厚さ方向である。紙面に対して垂直な方向は、この弾性クローラ4の周方向である。
【0073】
この弾性クローラ4では、帯状体36の周回方向Aに沿った、第一ユニット40aを構成する第一帯状体36aの始端42aから第三ユニット40cを構成する第三帯状体36cの終端44cまでのゾーン(以下、第一ゾーンZ1とも称される。)においては、図5(a)に示されるように、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面数は10である。帯状体36には2本のスチールコード34が含まれるので、この第一ゾーンZ1においてコード層24の断面に含まれるスチールコード34の断面数は20である。
【0074】
この弾性クローラ4では、帯状体36の周回方向Aに沿った、第三ユニット40cを構成する第三帯状体36cの終端44cから第一ユニット40aを構成する第一帯状体36aの始端42aまでのゾーン(以下、第二ゾーンZ2とも称される。)においては、図5(b)に示されるように、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面数は9である。帯状体36には2本のスチールコード34が含まれるので、この第二ゾーンZ2においてコード層24の断面に含まれるスチールコード34の断面数は18である。
【0075】
この弾性クローラ4では、第一ゾーンZ1におけるコード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数は、第二ゾーンZ2におけるコード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数よりも多い。この弾性クローラ4のコード層24には、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数が多い第一ゾーンZ1と、このコード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数が少ない第二ゾーンZ2とが構成される。
【0076】
図6には、走行装置2に装着された弾性クローラ4におけるコード層24が示される。図6において、符号PSで示される位置は、第三ユニット40cを構成する第三帯状体36cの終端44cの位置である。符号PUで示される位置は、第一ユニット40aを構成する第一帯状体36aの始端42aに相当する位置を表す。両矢印LZ1は前述の第一ゾーンZ1の周方向長さであり、両矢印LZ2は前述の第二ゾーンZ2の周方向長さである。この弾性クローラ4では、第一ゾーンZ1の周方向長さLZ1と、第二ゾーンZ2の周方向長さLZ2との和は、コード層24の周方向長さである。
【0077】
前述したように、第二ゾーンZ2では、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数が第一ゾーンZ1よりも少ない。第二ゾーンZ2の剛性は、第一ゾーンZ1の剛性よりも低い。
【0078】
図6に示されるように、第一ゾーンZ1の周方向長さLZ1は第二ゾーンZ2の周方向長さLZ2よりも短い。言い換えれば、コード層24の周方向長さ(LZ1+LZ2)に対する第一ゾーンZ1の周方向長さLZ1の比は、0.5未満である。この弾性クローラ4では、コード層24は主に第二ゾーンZ2で構成されるので、この第二ゾーンZ2によるコード層24の剛性への影響が抑えられる。この弾性クローラ4では、良好な耐久性が維持される。この観点から、この弾性クローラ4では、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数が多い第一ゾーンZ1と、この断面に含まれる帯状体36の断面の数が少ない第二ゾーンZ2とがこのコード層24に構成され、第一ゾーンZ1の周方向長さLZ1が第二ゾーンZ2の周方向長さLZ2よりも短いのが好ましい。
【0079】
この弾性クローラ4では、第二ゾーンZ2によるコード層24の剛性への影響が効果的に抑えられる観点から、コード層24の周方向長さ(LZ1+LZ2)に対する第一ゾーンZ1の周方向長さLZ1の比は0.4以下が好ましい。高剛性の第一ゾーンZ1がコード層24の剛性に効果的に貢献できる観点から、このコード層24の周方向長さ(LZ1+LZ2)に対する第一ゾーンZ1の周方向長さLZ1の比は0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0080】
前述したように、第一ゾーンZ1では、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数が第二ゾーンZ2よりも多く、第一ゾーンZ1は第二ゾーンZ2よりも高い剛性を有する。
【0081】
図4に示されるように、この弾性クローラ4では、第一帯状体36aの始端42a及び終端44a、第二帯状体36bの始端42b及び終端44b、並びに第三帯状体36cの始端42c及び終端44c、すなわち、コード層24を構成する全ての帯状体36の始端42及び終端44は、高い剛性を有する第一ゾーンZ1に位置する。この弾性クローラ4では、帯状体36の始端42及び終端44によるコード層24の剛性への影響が効果的に抑えられる。この弾性クローラ4では、良好な耐久性が維持される。この観点から、この弾性クローラ4では、コード層24を構成する全ての帯状体36の始端42及び終端44は、コード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数が多い第一ゾーンZ1に位置するのが好ましい。
【0082】
図4に示されるように、この弾性クローラ4では、第一帯状体36a、第二帯状体36b及び第三帯状体36cの3本の帯状体36でコード層24は構成される。このコード層24の第一ゾーンZ1には、第一帯状体36aと第二帯状体36bとの継ぎ目、そして、第二帯状体36bと第三帯状体36cとの継ぎ目が存在する。言い換えれば、この第一ゾーンZ1には、一の芯金22の直上において、一の帯状体36の終端44と、他の帯状体36の始端42とが対向するように配置されている箇所が2か所存在する。
【0083】
この弾性クローラ4では、3本の帯状体36でコード層24は構成されるが、このコード層24を1本の帯状体で構成したと仮定した場合、このコード層24には、この帯状体により9つのループが構成される。この弾性クローラ4では、第二ゾーンZ2におけるコード層24の断面に含まれる帯状体36の断面数と同数のループがこのコード層24には構成される。このループの数に対する、前述の継ぎ目の数の比率、すなわち、第二ゾーンZ2におけるコード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数に対する、一の芯金22の直上において、一の帯状体36の終端44と、他の帯状体36の始端42とが対向するように配置されている箇所の数の比率は、弾性クローラ4の生産性及び耐久性に影響する。
【0084】
この弾性クローラ4では、その生産性の向上の観点から、第二ゾーンZ2におけるコード層24の断面に含まれる帯状体36の断面の数に対する、一の芯金22の直上において、一の帯状体36の終端44と、他の帯状体36の始端42とが対向するように配置されている箇所の数の比率は1%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。この弾性クローラ4の耐久性の低下が効果的に抑えられる観点から、この比率は50%以下が好ましく、35%以下がより好ましい。
【0085】
図7には、図4に示されたコード層24の変形例が示される。この図7には、コード層24の変形例としてのコード層52の一部が芯金22とともに示される。この図7において、左右方向は弾性クローラ4の幅方向であり、上下方向はこの弾性クローラ4の周方向である。紙面に対して垂直な方向は、この弾性クローラ4の厚さ方向である。この紙面の表側は、この弾性クローラ4が構成するループの外側である。以下に、この図7に示された左側のコード層52aに基づいて、このコード層24の変形例が説明されるが、この弾性クローラ4では、右側のコード層52bもこの左側のコード層52aの構成と同等の構成を有する。
【0086】
このコード層52は、幅方向に並列した4つのループ状のユニット54を含む。これら4つのユニット54のうち、幅方向において最も内側に位置するユニット54aが第一ユニット54aであり、この第一ユニット54aの幅方向外側に位置するユニット54bが第二ユニット54bであり、この第二ユニット54bの幅方向外側に位置するユニット54cが第三ユニット54cであり、この第三ユニット54cの幅方向外側に位置するユニット54dが第四ユニット54dである。このコード層52では、第四ユニット54dがコード層52を構成する複数のユニット54のうち、幅方向において最も外側に位置するユニット54である。
【0087】
このコード層52においても、ユニット54は、帯状体56を螺旋状に2巻以上巻き回すことにより構成される。
【0088】
図7に示されたコード層52では、第一帯状体56aの始端58aは第一芯金22aの翼部30の直上に配置される。この第一帯状体56aは螺旋状に2巻巻き回され、この第一帯状体56aの終端60aが第一芯金22aの翼部30の直上に配置される。これにより、第一ユニット54aが得られる。
【0089】
このコード層52では、第一ユニット54aに次いで、第二帯状体56bを用いて第二ユニット54bが構成される。このコード層52では、第二帯状体56bの始端58bは、第一帯状体56aの終端60aが配置された第一芯金22aの翼部30の直上に配置される。この第二帯状体56bは螺旋状に3巻巻き回され、この第二帯状体56bの終端60bが第二芯金22bの翼部30の直上に配置される。これにより、第二ユニット54bが得られる。
【0090】
このコード層52では、第二ユニット54bに次いで、第三帯状体56cを用いて第三ユニット54cが構成される。このコード層52では、第三帯状体56cの始端58cは、第二帯状体56bの終端60bが配置された第二芯金22bの翼部30の直上に配置される。この第三帯状体56cは螺旋状に2巻巻き回され、この第三帯状体56cの終端60cが第二芯金22bの翼部30の直上に配置される。これにより、第三ユニット54cが得られる。
【0091】
このコード層52では、第三ユニット54cに次いで、第四帯状体56dを用いて第四ユニット54dが構成される。このコード層52では、第四帯状体56dの始端58dは、第三帯状体56cの終端60cが配置された第二芯金22bの翼部30の直上に配置される。この第四帯状体56dは螺旋状に3巻巻き回され、この第四帯状体56dの終端60dが第三芯金22cの翼部30の直上に配置される。これにより、第四ユニット54dが得られる。
【0092】
この弾性クローラ4では、このようにして、複数本の帯状体56を用いてユニット54を順に構成することで、コード層52が得られる。このコード層52は、帯状体56を2巻巻き回して構成されるユニット54と、帯状体56を3巻巻き回して構成されるユニット54とが交互に組み合わされて構成される。
【0093】
図7において、符号Z1で示されるゾーンは、前述の第一ゾーンZ1である。この図7に示されるように、このコード層52では、第一ユニット54aを構成する第一帯状体56aと第二ユニット54bを構成する第二帯状体56bとの継ぎ目は、この第一ゾーンZ1の外側、すなわち、前述の第二ゾーンZ2に位置する。
【0094】
本発明においては、第一ゾーンZ1の基準位置である、幅方向において、最も内側に位置する帯状体56の始端58が配置された芯金22、又は、最も外側に位置する帯状体56の終端60が配置された芯金22と同じ芯金22の直上に、帯状体56の継ぎ目が位置している場合は、この継ぎ目はこの第一ゾーンZ1に含まれる継ぎ目として考慮される。したがって、図7に示されたコード層52では、第一ユニット54aを構成する第一帯状体56aと第二ユニット54bを構成する第二帯状体56bとの継ぎ目は、この第一ゾーンZ1に位置する継ぎ目として扱われる。この図7に示されたコード層52では、このコード層52を構成する全ての帯状体56の始端58及び終端60は、このコード層52の断面に含まれる帯状体56の断面の数が多い第一ゾーンZ1に位置している。
【0095】
このコード層52を備える弾性クローラ4においても、コード層52の形成には、少なくとも1本のスチールコード34を含む帯状体56が用いられる。特に、このコード層52は、帯状体56を螺旋巻きすることにより得られるユニット54を、複数組み合わせることにより構成される。この弾性クローラ4では、従来のジョイントレスタイプのコード層のように、十分な長さを有する帯状体を準備する必要はない。この弾性クローラ4では、帯状体56の保管のために用いられるボビンの小型化を図ることができる。長さが不足しコード層52の形成に用いることができない帯状体56が生じにくいので、帯状体56の廃棄量も削減できる。この弾性クローラ4は、生産性の向上に貢献できる。
【0096】
この弾性クローラ4ではさらに、コード層52を構成するそれぞれのユニット54は、螺旋状に2巻以上巻き回された帯状体56からなる。このユニット54はジョイントレス構造を有する。このユニット54には、スチールコード34の継ぎ目は含まれない。このため、このコード層52では、従来の非ジョイントレスタイプのコード層よりも、スチールコード34の継ぎ目の数は少ない。この弾性クローラ4の強度は、非ジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラのそれよりも十分に大きい。さらにスチールコード34の継ぎ目の数をコントロールすることにより、この弾性クローラ4は、前述のジョイントレスタイプのコード層を採用した弾性クローラの強度と同程度の強度を得ることも可能である。
【0097】
そして、この弾性クローラ4では、ユニット54を構成する帯状体56の始端58及び終端60は、いずれかの芯金22の直上に配置される。この弾性クローラ4では、スチールコード34の始端又は終端が位置する部分の変形が抑えられるので、スチールコード34の跳ね上がりが効果的に防止される。
【0098】
この弾性クローラ4では、コード層52がスチールコード34の継ぎ目を含んでいるにも関わらず、このコード層52が耐久性に与える影響が効果的に抑えられる。この弾性クローラ4は、耐久性の低下を抑えつつ、生産性の向上を図ることができる。
【0099】
以上説明したように、本発明によれば、耐久性の低下を抑えつつ、生産性の向上が達成された、弾性クローラ4が得られる。スチールコード34の跳ね上がりが効果的に抑えられる観点から、本発明は、特に、スプロケット径が大きい、大型のコンバインにおいて、顕著な効果を奏する。
【0100】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【実施例
【0101】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]
図2に示された基本構成を備えた弾性クローラを製作した。この実施例1では、コード層は1本のスチールコードを含み同じ長さを有する帯状体を、2本用いて作製した。それぞれの帯状体は螺旋状に10巻ずつ巻き回され、このコード層には、幅方向に並列した2つのループ状のユニットが構成された。
【0103】
この実施例1では、それぞれのユニットを構成する帯状体の始端及び終端は、図4に示された要領で、第一帯状体の始端は第一芯金の翼部の直上に配置され、この第一帯状体の終端は第二芯金の直上に配置された。第二帯状体の始端は第二芯金の翼部の直上に配置され、この第二帯状体の終端は第三芯金の直上に配置された。したがって、この実施例1では、第二芯金の直上において、第一ユニットを構成する第一帯状体の終端と、この第一ユニットの隣に位置する第二ユニットを構成する第二帯状体の始端とが対向するように配置された。このコード層では、帯状体の継ぎ目の数は1である。
【0104】
この実施例1のコード層では、帯状体により構成されるループの数、すなわち、第二ゾーンにおけるこのコード層の断面に含まれる帯状体の断面の数は20に設定された。この第二ゾーンにおけるコード層の断面に含まれる帯状体の断面の数に対する、一の芯金の直上において、一の帯状体の終端と、他の帯状体の始端とが対向するように配置されている箇所の数、すなわち、帯状体(ユニット)の継ぎ目の数の比率は、5%である。このことが、下記の表1の継ぎ目の比率の欄に示されている。
【0105】
この実施例1では、帯状体に含まれるスチールコードの数は1本であるので、このスチールコードにより構成されるループの数も20である。
【0106】
[比較例1]
1本のスチールコードを含む1本の帯状体を20巻することでコード層を構成した他は実施例1と同様にして、比較例1の弾性クローラを得た。この比較例1は従来の弾性クローラであり、この比較例1のコード層は従来のジョイントレスタイプのコード層である。このコード層には、帯状体の継ぎ目は設けられていない。この比較例1では、継ぎ目の比率は0%である。
【0107】
[比較例2]
20本のスチールコードを幅方向に並列させてコード束を構成し、このコード束の両端を接合することによりコード層を構成した他は実施例1と同様にして、比較例2の弾性クローラを得た。この比較例2は従来の弾性クローラであり、この比較例2のコード層は従来の非ジョイントレスタイプのコード層である。このコード層には、コードの継ぎ目が20か所設けられた。この比較例2では、継ぎ目の比率は100%である。
【0108】
[実施例2]
1本のスチールコードを含む5本の帯状体を用いてコード層を構成した他は実施例1と同様にして、実施例2の弾性クローラを得た。この実施例2のコード層では、それぞれの帯状体は4巻ずつ巻き回され、帯状体の継ぎ目の数が4に設定された。この実施例2では、継ぎ目の比率は20%である。
【0109】
[実施例3]
1本のスチールコードを含む10本の帯状体を用いてコード層を構成した他は実施例1と同様にして、実施例3の弾性クローラを得た。この実施例3のコード層では、それぞれの帯状体は2巻ずつ巻き回され、帯状体の継ぎ目の数が9に設定された。この実施例3では、継ぎ目の比率は45%である。
【0110】
[実施例4]
2本のスチールコードを含む2本の帯状体を用いてコード層を構成した他は実施例1と同様にして、実施例4の弾性クローラを得た。この実施例4のコード層では、それぞれの帯状体は5巻ずつ巻き回され、帯状体の継ぎ目の数が1に設定された。この実施例4では、継ぎ目の比率は10%である。なお、この実施例4では、スチールコードにより構成されるループの数は20であり、実施例1のそれと同数である。
【0111】
[破断力]
引張試験機を用いて弾性クローラの引張破断力を評価した。その結果が下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど破断力は大きく好ましい。
【0112】
[曲げ剛性]
圧縮試験機を用いて弾性クローラの曲げ剛性を評価した。弾性クローラからコード層の第一ゾーンを含む部分をサンプリングし、これを供試試料とした。スプロケットを模擬した円盤を準備した。供試試料をこの円盤に巻きかける際に要した荷重を計測し、曲げ剛性の指標としての荷重の最大値を得た。その結果が下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど曲げ剛性は大きく好ましい。
【0113】
[跳ね上がり]
屈曲試験機を用いて弾性クローラにおけるスチールコードの跳ね上がりに関する評価を行った。弾性クローラからコード層の第一ゾーンを含む部分をサンプリングし、これを供試試料とした。この供試試料を繰り返し屈曲させて、スチールコードの跳ね上がりが発生するまでの時間を計測した。その結果が下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほどスチールコードの跳ね上がりは生じにくく好ましい。
【0114】
[生産性]
帯状体の廃棄量の目安としてのユニットの構成に必要な帯状体の長さ、及び、コード層の形成に要する時間のそれぞれを比較例1を基準とする指数で表し、合計値を算出した。この合計値の逆数を指数で表し、生産性に関する評価を行った。その結果が下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど生産性に優れ好ましい。なお、比較例1では、ユニットの構成に必要な帯状体の長さをコード層の構成に必要な帯状体の長さに置き換えて指数が算出された。比較例2では、ユニットの構成に必要な帯状体の長さをコード層に含まれる一本のスチールコードの長さに置き換えて指数が算出された。
【0115】
[総合性能]
各評価で得られた指数の合計を算出した。その結果が下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど好ましい。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示されているように、実施例では、耐久性の低下を抑えながら生産性の向上が図られている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上説明された、コード層に関する技術は種々の弾性クローラにも適用されうる。
【符号の説明】
【0119】
2・・・走行装置
4・・・弾性クローラ
6・・・スプロケット
8・・・アイドラ
10・・・転輪
12・・・穴
16・・・ラグ
18・・・ガイド
20・・・弾性部材
22・・・芯金
24、52・・・コード層
26・・・キャンバス層
28・・・鍔部
30・・・翼部
34・・・スチールコード
36、56・・・帯状体
40、54・・・ユニット
42・・・帯状体36の始端
44・・・帯状体36の終端
54・・・ユニット
58・・・帯状体56の始端
60・・・帯状体56の終端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7