IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-探査方法 図1
  • 特許-探査方法 図2
  • 特許-探査方法 図3
  • 特許-探査方法 図4
  • 特許-探査方法 図5
  • 特許-探査方法 図6A
  • 特許-探査方法 図6B
  • 特許-探査方法 図7A
  • 特許-探査方法 図7B
  • 特許-探査方法 図7C
  • 特許-探査方法 図8
  • 特許-探査方法 図9A
  • 特許-探査方法 図9B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】探査方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20200101AFI20221012BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20221012BHJP
【FI】
G01R31/08
G01R31/52
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018189506
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020060370
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】片野 和
(72)【発明者】
【氏名】義見 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小山 樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 慎昌
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信司
(72)【発明者】
【氏名】向後 雄介
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-217839(JP,A)
【文献】特開2007-279031(JP,A)
【文献】特開2011-17637(JP,A)
【文献】特開2000-321316(JP,A)
【文献】特開2018-9864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08-31/11
G01R 31/50-31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分岐部を有する地中線路の同一相における絶縁低下点を探査する探査方法であって、
前記地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い前記分岐部を検出する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて検出した前記分岐部に所定の抵抗値を有する基準抵抗を接続する第2ステップと、
前記複数の分岐部のうち前記基準抵抗が接続されていない前記分岐部に信号を入力する第3ステップと、
前記地中線路において、前記基準抵抗が接続された前記分岐部を基準点とし、前記基準点に対して前記信号が入力される側を上流側とし、その反対側を下流側としたとき、前記第3ステップにおける前記信号の入力により、前記同一相において前記基準点から前記下流側に流れる電流と前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流とを測定する第4ステップとを含む
ことを特徴とする探査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探査方法において、
前記第4ステップにおいて前記下流側に流れる電流が前記基準抵抗側に流れる電流よりも大きい場合に、前記同一相において、前記基準抵抗を、前記第2ステップで前記基準抵抗を接続した前記分岐部より前記下流側に存在する前記分岐部に接続して、前記基準点を変更する第5ステップと、
前記第5ステップで変更された前記基準点以外の前記分岐部に前記信号を入力する第6ステップと、
前記第6ステップにおける前記信号の入力により、前記第5ステップにおいて変更された前記基準点から前記同一相における前記下流側に流れる電流と前記第5ステップにおいて変更された前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流とを測定する第7ステップとを更に含む
ことを特徴とする探査方法。
【請求項3】
請求項2に記載の探査方法において、
前記地中線路は、複数の相を含み、
前記複数の相は、前記分岐部をそれぞれ有し、
前記第1ステップの前に、前記複数の相のうち絶縁抵抗が基準値より低い相を検出する第8ステップを更に含み、
前記第3ステップおよび前記第6ステップは、前記信号として、所定の周波数の第1探査信号を前記第8ステップで検出されなかった正常な相である健全相の前記分岐部に入力するとともに、前記第1探査信号と180度の逆位相の第2探査信号を、前記複数の相のうち前記第8ステップで検出された絶縁抵抗が基準値より低い相である低下相の前記分岐部に入力するステップを含み、
前記第4ステップおよび前記第7ステップは、
前記第1探査信号および前記第2探査信号により生じた磁界の検出結果に基づいて、前記低下相において前記基準点から前記下流側に流れる電流と、前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流とをそれぞれ推定するステップを含む
ことを特徴とする探査方法。
【請求項4】
請求項3に記載の探査方法において、
前記第1ステップは、
前記第1探査信号を、前記健全相に入力するとともに、前記第2探査信号を、前記第8ステップで検出された前記低下相に入力し、当該第1探査信号および当該第2探査信号により生じた磁界の変化量が最も大きい前記分岐部を探査するステップを含む
ことを特徴とする探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路の絶縁性能が低下した箇所を探査する探査方法であって、例えば、地中埋設等の絶縁状態で敷設された線路の絶縁性能が低下した箇所を探査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地中に埋設された線路(以下、「地中線路」とも称する。)における絶縁性能が低下した箇所を探査する技術として、従来のマーレーループ法や静電容量法に代わる新たな探査技術が普及しつつある。例えば、特許文献1,2には、二本の配電線から成る低圧地中線路と大地との間に互いに位相が180度異なる(互いに逆位相の)二つの高周波信号を注入し、それらの高周波信号によって生じる磁界の検出結果に基づいて、低圧地中線路において、絶縁性能が低下した箇所(以下、「絶縁低下点」とも称する。)を探査する技術が開示されている。
【0003】
なお、地中線路の絶縁低下点には、電気設備技術基準に基づく絶縁性能を満たしておらず、除去しなければならない不良箇所と、電気設備技術基準に基づく絶縁性能を満たしており、必ずしも除去しなくてもよい箇所が含まれる。本明細書では、絶縁低下点のうち上記不良箇所を「事故点」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-279031号公報
【文献】特開2013-217839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、低圧地中線路の地絡事故により停電等が発生した場合には、先ず、上述した探査技術によって低圧地中線路の事故点の有無を探査し、事故点が見つかった場合には、その事故点の周囲を掘削・改修を行って事故点を除去する。
【0006】
しかしながら、上述した従来の探査技術は、線路に存在する一箇所の絶縁低下点を探査することを前提とした技術であるため、例えば低圧地中線路の同一相に複数の事故点が存在する場合には、事故点の探査、掘削、および改修の作業を、事故点毎に行うことが発生し、作業効率が非常に悪いという事象が顕在化してきている。
今後、設備全体の経年劣化により線路の絶縁性能が低下する可能性が高くなることを鑑みると、短時間で、複数の絶縁低下点を発見して改修できるようにすることが望まれる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、地中線路の同一相における複数の絶縁低下点の有無を効率よく判断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的な実施の形態に係る、複数の分岐部を有する地中線路の同一相における絶縁低下点を探査する探査方法は、前記地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い前記分岐部を検出する第1ステップと、前記第1ステップにおいて検出した前記分岐部に所定の抵抗値を有する基準抵抗を接続する第2ステップと、前記複数の分岐部のうち前記基準抵抗が接続されていない前記分岐部に信号を入力する第3ステップと、前記地中線路において、前記基準抵抗が接続された前記分岐部を基準点とし、前記基準点に対して前記信号が入力される側を上流側とし、その反対側を下流側としたとき、前記第3ステップにおける前記信号の入力により、前記同一相において前記基準点から前記下流側に流れる電流と前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流とを測定する第4ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る探査方法によれば、地中線路の同一相における複数の絶縁低下点の有無を効率よく判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る、地中線路に存在する複数の絶縁低下点を探査するための探査方法の流れを示すフロー図である。
図2】地中線路の概略構成を示す図である。
図3】探査装置の概略構成を示す図である。
図4】探査装置の内部構成を示すブロック図である。
図5】地中線路における探査対象の一つの相を模式的に示す図である。
図6A図5に示した地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査方法を説明するための図である。
図6B図5に示した地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査方法を説明するための図である。
図7A図5に示した地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査方法を説明するための図である。
図7B図5に示した地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査方法を説明するための図である。
図7C図5に示した地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査方法を説明するための図である。
図8】本実施の形態に係る探査方法による、多方向に分岐した地中線路の同一相における複数の絶縁低下点の有無を探査する探査手順の一例を示す図である。
図9A】3箇所の絶縁低下点を有する地中線路の復旧作業において、従来の探査方法を採用した場合の一連の作業工程を示す図である。
図9B】3箇所の絶縁低下点を有する地中線路の復旧作業において、本実施の形態に係る探査方法を採用した場合の一連の作業工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0012】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る、複数の分岐部(J1~Jn)を有する地中線路(200,200A)の同一相における絶縁低下点を探査する探査方法は、前記地中線路の同一相における絶縁性能が最も低い前記分岐部を検出する第1ステップ(S2)と、前記第1ステップにおいて検出した前記分岐部に所定の抵抗値を有する基準抵抗(Rf)を接続する第2ステップ(S3)と、前記複数の分岐部のうち前記基準抵抗が接続されていない前記分岐部に信号(Sg1,Sg2)を入力する第3ステップ(S4)と、前記地中線路において、前記基準抵抗が接続された前記分岐部を基準点とし、前記基準点に対して前記信号が入力される側を上流側とし、その反対側を下流側としたとき、前記第3ステップにおける前記信号の入力により、前記同一相において前記基準点から前記下流側に流れる電流(Ids)と前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流(If)とを測定する第4ステップ(S5)とを含むことを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記探査方法において、前記第4ステップにおいて前記下流側に流れる電流が前記基準抵抗側に流れる電流よりも大きい場合(Ids>If)に、前記同一相において、前記基準抵抗を、前記第2ステップで前記基準抵抗を接続した前記分岐部より前記下流側に存在する前記分岐部に接続して、前記基準点を変更する第5ステップ(S8)と、前記第5ステップで変更された前記基準点以外の前記分岐部に信号を入力する第6ステップ(S9)と、前記第6ステップにおける前記信号の入力により前記第5ステップにおいて変更された前記基準点から前記同一相における前記下流側に流れる電流(Ids)と、前記第5ステップにおいて変更された前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流(If)とを測定する第7ステップ(S10)とを更に含んでもよい。
【0014】
〔3〕上記探査方法において、前記地中線路は、複数の相(201~203)を含み、前記複数の相は、前記分岐部をそれぞれ有し、前記第1ステップの前に、前記複数の相のうち絶縁抵抗が基準値より低い相を検出する第8ステップ(S1)を更に含み、前記第3ステップおよび前記第6ステップは、前記信号として、所定の周波数の第1探査信号(Sg1)を前記第8ステップで検出されなかった正常な相である健全相の前記分岐部に入力するとともに、前記第1探査信号と180度の逆位相の第2探査信号(Sg2)を、前記複数の相のうち前記第8ステップで検出された絶縁抵抗が基準値より低い相である低下相の前記分岐部に入力するステップを含み、前記第4ステップおよび前記第7ステップは、前記第1探査信号および前記第2探査信号により生じた磁界の検出結果に基づいて、前記第8ステップで検出された前記低下相において前記基準点から前記下流側に流れる電流と、前記基準点から前記基準抵抗側に流れる電流とをそれぞれ推定するステップを含んでもよい。
【0015】
〔4〕上記探査方法において、前記第1ステップは、前記第1探査信号を、前記健全相に入力するとともに、前記第2探査信号を、前記第8ステップで検出された前記低下相に入力し、当該第1探査信号および当該第2探査信号により生じた磁界の変化量が最も大きい前記分岐部を探査するステップを含んでもよい。
【0016】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る探査方法の流れを示すフロー図である。
図1に示される探査方法は、地中線路に存在する複数の絶縁低下点を探査するための方法であって、例えば、事故点に加えて事故点以外の絶縁低下点を探査する方法である。
先ず、本実施の形態に係る探査方法による探査対象の地中線路について説明する。
【0018】
図2は、地中線路の概略構成を示す図である。
図2に示すように、探査対象の地中線路200は、例えば電力ケーブルである。具体的に、地中線路200は、電線としての導電性部材を被覆する絶縁部材の外側にシールド(遮蔽)が施されていない電力ケーブルであって、例えば、低圧用CVケーブルや低圧用SVケーブルである。
【0019】
地中線路200は、複数の相を含んで構成されている。例えば、地中線路200は、配電方式(例えば、単相2線式、単相3線式、三相3線式、三相4線式等)に対応した複数の配線(相)を有している。
【0020】
ここでは、地中線路200が、電圧が供給される非接地側の2つの相201,202と接地される相203とを含む単相3線式のCVケーブルである場合を例にとり、説明する。
【0021】
地中線路200、すなわち地中線路200を構成する各相201~203は、複数の分岐部J1~Jn(nは2以上の整数)をそれぞれ有している。
【0022】
ここで、分岐部J1~Jnは、地中線路200を伝送する電力を分岐させる部分である。例えば、分岐部J1~Jnは、単に地中において相(配線)201~203を分岐させる部分のみならず、相201~203を外部(地上)の電気設備に接続するための部分(引き出し接続部)も含む。
【0023】
地中線路の故障に関する統計によれば、地中線路を構成する要素(例えば、電力ケーブル、分岐部、端末、機器、およびヒューズ等)のうち、絶縁低下(劣化)が最も発生し易い要素は、“分岐部”である。これは、分岐部の施工不良や材料の不備等が原因と考えられる。一方で、電力ケーブルそのものは、外部から衝撃が加わる等しない限り絶縁低下が起こり難い傾向がある。
そこで、本実施の形態では、絶縁性能の低下が発生している箇所(絶縁低下点)が“分岐部”である場合を例にとり、説明する。
【0024】
地中線路200は、分岐装置(LS)300に接続されている。分岐装置300は、変圧器(図示せず)が接続される入力部(図示せず)と複数の幹線(地中線路200)が接続される出力部とを有しており、出力部に地中線路200の各相201~203の先端部310が接続されている。分岐装置300は、変圧器から入力部に供給された電力を出力部に接続された複数の地中線路200(幹線)にそれぞれ出力する。分岐装置300は、例えば配電塔である。
【0025】
地中線路200の各相201~203の端部は、図示されていないヒューズ(図示せず)を介して分岐装置300の出力部に接続されている。以下、地中線路200の各相201~203における端部のうち、分岐装置300の出力部に接続されている端部を「先端部310」、その他の端部を「末端部」とも称する。
【0026】
また、地中線路200の各相201~203の分岐部J1~Jnは、地中引込線210がそれぞれ接続されている。これにより、分岐装置300から地中線路200の先端部310に供給された電力は、各分岐部J1~Jnに接続された地中引込線210を介して取り出すことが可能となる。例えば、図2に示すように、地中線路200を構成する各相201~203の分岐部J1~Jnは、地中引込線210を介して、街灯401,402や信号機403等の電気設備における受電点301に接続されている。これにより、変圧器から分岐装置300を介して地中線路200に供給された電力を、街灯401,402や信号機403等の電気設備に供給することができる。
【0027】
次に、本実施の形態に係る探査方法について具体的に説明する。
例えば、地中線路200の地絡事故により停電等が発生した場合、停電が発生している地中線路200を探査する。具体的には、先ず、分岐装置300の出力部に接続されている複数の地中線路200の中から絶縁性能が低下した相を探索する(ステップS1)。
【0028】
具体的には、分岐装置300の出力部に接続されている複数の地中線路200の中からヒューズの切れた地中線路200を発見し、その地中線路200を構成するそれぞれの相201~203の絶縁抵抗をテスタを用いて測定する。そして、測定した絶縁抵抗が基準値(例えば、電気設備技術基準で定められた絶縁性能の基準値)より低い一相を、探査対象の相として認定する。
【0029】
以下の説明では、絶縁抵抗の測定値が基準値よりも低い相を「低下相」、絶縁抵抗の測定値が基準値よりも高い相を「健全相」とも称する。
本実施の形態では、相202の絶縁抵抗の測定値が基準値よりも低く、相203の絶縁抵抗の測定値が基準値よりも高いことから、相202が探査対象である低下相、相201,203が健全相として認定された場合を例にとり説明する。
【0030】
ステップS1において探査対象の一つの相(低下相)が決定した後、探査対象の低下相において絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)を探査(検出)する(ステップS2)。
【0031】
具体的には、ステップS1において検出されなかった健全相に所定の周波数の第1探査信号を入力するとともに、ステップS1で検出された探査対象の低下相に、第1探査信号Sg1と180度の逆位相の第2探査信号を入力し、当該第1探査信号および当該第2探査信号により生じた磁界の変化量が最も大きい分岐部J1~Jnを探索する。
【0032】
より具体的には、所定の探査装置(例えば、株式会社戸上電機製作所製の地中線地絡事故点探査装置『LUPIN(登録商標)』)を準備する。そして、その探査装置を地中線路200に接続して、第1探査信号Sg1を健全相である相203に、第2探査信号Sg2を低下相である探査対象の相202にそれぞれ入力して、探査対象の相202において第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2により生じた磁界の変化量が最も大きい分岐部J1~Jnを絶縁性能が最も低い分岐部J1~Jnとする。
【0033】
ここで、ステップS2において用いられる探査装置について説明する。
図3は、探査装置の概略構成を示す図である。図4は、探査装置の内部構成を示すブロック図である。
【0034】
図3に示すように、ステップS2において用いられる探査装置500は、三つの相201~203からなる地中線路(地中に埋設された電力ケーブル)200の二つの相202,203と大地(接地)との間に互いに180度の逆位相の二つの高周波の第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を各々注入する探査信号注入部1と、各相202、203を伝搬する第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2により生じる磁界を検出する磁界センサ2と、探査信号注入部1のフィードバック信号を入力し第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を制御するとともにその値を表示する制御・表示部3と、を備えている。
【0035】
図4に示すように、探査信号注入部1は、電源回路11、信号電圧生成回路12、信号電圧昇圧回路13、電流検出回路14、および表示装置15を有する。電源回路11は、直流電圧又は交流電圧を出力する回路である。信号電圧生成回路12は、制御・表示部3からの制御信号に基づいて、電源回路11から出力された直流電圧又は交流電圧から所定の高周波信号電圧を生成する回路である。信号電圧昇圧回路13は、信号電圧生成回路12によって生成された高周波信号電圧を所定値に昇圧するとともに、出力信号を計測し、その値をフィードバック信号Sg6として制御・表示部3に帰還する回路である。電流検出回路14は、信号電圧昇圧回路13によって昇圧された高周波信号電圧を第1探査信号Sg1として出力すると共に、この第1探査信号Sg1の逆位相の高周波信号電圧を第2探査信号Sg2として出力し、前記高周波信号の電流を検出してフィードバック信号Sg3として制御・表示部3に帰還する回路である。表示装置15は、後述する演算制御回路32から制御信号Sg4として出力された信号電圧または信号電流および位相等の情報を表示する装置である。
【0036】
ここで、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2は、例えばパルス信号または正弦波信号等の一定の周波数を有する周期信号であって、その周波数は、例えば、400Hzから500Hzの範囲の値である。
【0037】
磁界センサ2は、探査信号周波数を受信した場合、受信感度に応じたレベル表示を行う可般型の受信器である。磁界センサ2は、地中線路200の2本の相202,203に第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を注入した際に生じる地中線路200の磁界を検出する検出部と、検出した磁界のレベルに応じた情報を表示する表示部とを備えている。
【0038】
制御・表示部3は、演算制御回路32、および位相制御回路33を備える。演算制御回路32は、探査信号注入部1の電流検出回路14からのフィードバック信号Sg3に基づいて地中線路200の電流変動を演算して地絡事故点の有無を特定するととともに、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を生成するための制御信号Sg4を出力する回路である。位相制御回路33は、制御信号Sg4に基づいて第2探査信号Sg2の位相を第1探査信号Sg1の逆位相となるように信号電圧を制御して逆位相制御信号Sg5を出力する回路である。
【0039】
次に、探査装置500を用いたステップS2の手順について詳細に説明する。
ステップS2において、先ず、探査信号注入部1が、地中線路200における健全相のうちの一相と大地との間に第1探査信号Sg1を注入するとともに、地中線路200の低下相である探査対象の一相と大地との間に第2探査信号Sg2を注入する。
【0040】
上述の例の場合、相202が探査対象の一相であり、相201,203が健全相である。したがって、例えば、探査信号注入部1は、健全相の一つである相203と大地との間に第1探査信号Sg1を注入し、低下相である探査対象の相202と大地との間に第2探査信号を注入する。より具体的には、図3に示すように、分岐部300の出力部に接続される相202,203の先端部310に探査装置500を接続して、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を相203,202の先端部310からそれぞれ注入する。
【0041】
以下、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2が注入される点を信号入力点とも称する。
【0042】
次に、信号入力点(先端部310)の近傍における地中線路200を磁界センサ2で探査する。この探査により磁界が検出されたか否かを磁界センサ2に配置したレベル表示器で表示させる。信号入力点から磁界が検出された地中線路200の延出方向に沿って、磁界センサ2を移動させて探査する。
【0043】
第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2は、信号入力点から延出する地中線路200を各々伝搬する。これにより、地中線路200の相202,203には、電流i1,i2が流れる。例えば、図3に示すように、信号入力点から延出する地中線路200の健全相(絶縁抵抗が低下していない相)において、相202には電流i1が、相203には電流-i1が、互いに逆位相で流れるのみであることから、電流i1と電流-i1とが相殺し、各電流i,-iにより発生する各磁界も打消し合って磁界センサ2では磁界が検出されず未反応領域となる。
【0044】
一方、図3に示すように、信号入力点から延出する地中線路202の地絡により絶縁抵抗が低下している線路部分は、互いに逆位相で流れる電流i1,-i1と、大地に流れ込む電流i2とが発生する。その結果、互いに逆位相の電流i1と電流-i1とは相殺され、電流i2により発生する磁界が磁界センサ2によって検出される。
【0045】
磁界センサ2の移動探査により、大きな値として検出される検出磁界が大きく減衰したか否かを磁界センサ2の受信レベルで判断する。すなわち、磁界センサ2によって、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2により生じた磁界の変化量が最も大きい地点(分岐部)を探索し、その地点を絶縁性能が最も低い分岐部(事故点)として特定して探査を終了する。
【0046】
ここで、ステップS2における絶縁性能が最も低い分岐部の探査手順について、具体的に説明する。
【0047】
図5は、地中線路における探査対象の一つの相を模式的に示す図である。
同図には、地中線路200の一例として、分岐部J1~J6(n=6)を有する低下相である探査対象の相(相202)のみが簡略化されて図示され、地中線路200の他の健全相201,203については図示を省略している。また、ここでは、一例として、地中線路200の相202において、分岐部J1、J3、J4が絶縁低下点であって、そのうち分岐部J3が最も絶縁抵抗が低い事故点であるとする。
【0048】
また、同図において、吹き出し内の数値は、探査装置500を地中線路200における相202,203の先端部310に接続して上述のように第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を入力したときに、磁界センサ2によって検出されるとともに表示された磁界のレベルを示す数値である。この数値が大きいほど、磁界が大きい、すなわち電流が大きいことを示している。
【0049】
ステップS2において、例えば相202,203の先端部310に第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を入力した状態において、信号入力点から地中線路200の延出方向に沿って磁界センサ2を移動させて磁界の検出レベルを順次調べる。
【0050】
このとき、例えば、図5に示すように、先端部310と分岐部J1との間で検出された磁界のレベルが“8”、分岐部J1と分岐部J2との間の磁界のレベルが“7”、分岐部J2と分岐部J3との間の磁界のレベルが“7”、分岐部J3と分岐部J4との間の磁界のレベルが“2”であったとする。この場合、分岐部J3を境にして検出される磁界が大きく減少している(磁界の変化量が大きい)ので、分岐部J3が最も絶縁性能が低下した地点であると判断することができる。
【0051】
以上のように、ステップS2において、第1探査信号Sg1を健全相である相203に入力するとともに、第2探査信号Sg2を探査対象の低下相である相202に入力し、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2により生じた磁界の変化量が最も大きい分岐部を探索することにより、地中線路200における絶縁性能が最も低い分岐部(事故点)を発見することが可能となる。
【0052】
次に、絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査を行う。
ここでは、上述のステップS2の説明と同様に、図5に示す地中線路200の相202における絶縁低下点を探査する場合を例にとり、説明する。
【0053】
図6A図6B、および図7Aから図7Cは、図5に示した地中線路200の同一相(相202)における絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)以外の絶縁低下点の探査方法を説明するための図である。
【0054】
先ず、図6Aに示すように、ステップS2で発見した絶縁性能が最も低い絶縁低下点(事故点)に、所定の抵抗値を有する基準抵抗Rfを接続する(ステップS3)。ここでは、ステップS2で発見した探査対象の相202における事故点としての分岐部J3と大地(接地)との間に、基準抵抗Rfを接続する。
【0055】
ここで、基準抵抗Rfの抵抗値は、検出したい絶縁性能の低下の範囲に応じて適宜設定すればよい。例えば、電気設備技術基準に基づく絶縁性能の基準値よりも低下している箇所を検出したい場合には、基準抵抗Rfを上記基準値に対応する抵抗値に設定すればよい。以下、基準抵抗Rfが接続された分岐部を「基準点」とも称する。
【0056】
次に、地中線路200の複数の分岐部J1~Jnのうち基準抵抗Rfが接続されていない分岐部(基準点以外の分岐部)または先端部310に信号を入力する(ステップS4)。
例えば、上述のステップS2と同様に、探査装置500を地中線路200の先端部310に接続し、探査装置500から先端部310に信号を入力する。具体的には、図6Aに示すように、探査装置500によって、第1探査信号Sg1を健全相である相203の先端部310に入力するとともに、第2探査信号Sg2を探査対象の低下相である相202の先端部310に入力する。これにより、地中線路200の先端部310から他の分岐部J1~J6に向かって第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2が伝搬し、地中線路200に電流が流れる。
【0057】
次に、基準点を流れる電流を測定する(ステップS5)。具体的には、地中線路200において基準点に対して信号(第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2)が入力される側を上流側、その反対側を下流側としたとき、基準点から下流側に流れる電流Idsと、基準点から基準抵抗Rf側に流れる電流Ifとを測定する。
【0058】
例えば、図6Aに示すように、地中線路200の先端部310から信号(第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2)を入力したとき、地中線路200の探査対象の相202の上流側(先端部310側)から分岐部J3を介して下流側に流れる電流Idsと、探査対象の相202の上流側から分岐部J3を介して基準抵抗Rf側に流れる電流Ifとを測定する。
【0059】
電流Ids,Ifの測定方法は、上述したステップS2と同様である。すなわち、分岐部J3から地中線路200の延出方向に沿って磁界センサ2を移動させたときに検出される磁界の大きさに基づいて電流Idsの大きさを推定し、分岐部J3から基準抵抗Rfが接続される方向に沿って磁界センサ2を移動させたときに検出される磁界の大きさに基づいて電流Ifの大きさを推定する。
【0060】
次に、電流Idsと電流Ifの大きさを比較する(ステップS6)。
上述したように、磁界センサ2を用いることにより、電流Ids,Ifの大きさを検出した磁界の大きさから推定することができる。そこで、電流Idsに相当する磁界のレベルと電流Ifに相当する磁界のレベルとを磁界センサ2の表示部から読み取り、それらの磁界のレベルを比較することにより、電流Idsと電流Ifの大きさを比較する。
【0061】
例えば、図6Aに示すように、基準点(分岐部J3)から地中線路200の下流側で検出された磁界のレベル(電流Idsに相当)が“10”、基準点から基準抵抗Rf側で検出された磁界のレベル(電流Ifに相当)が“5”であった場合、電流Idsが電流Ifよりも大きい(Ids>If)と判断することができる。
【0062】
ステップS6において、上述の手法により電流Idsと電流Ifとを比較して、電流Idsが電流Ifよりも小さいこと(Ids<If)が確認できた場合、相202の基準点より下流側に絶縁低下点が存在しないと判断することができる(ステップS16)。
【0063】
すなわち、基準点より下流側に流れる電流Idsが基準抵抗Rf側に流れる電流Ifよりも小さいということは、基準点より下流側の相202の抵抗値が基準抵抗Rfよりも大きいことを表している。したがって、この場合には、相202の基準点より下流側に、基準抵抗Rfよりも抵抗値が低い絶縁低下点が存在しないと判断することができる。
【0064】
一方、ステップS6において、上述の手法により電流Idsと電流Ifとを比較して、電流Idsが電流Ifよりも大きいこと(Ids>If)が確認できた場合、相202の基準点より下流側に絶縁低下点が存在すると判断することができる(ステップS7)。
【0065】
すなわち、基準点より下流側に流れる電流Idsが基準抵抗Rf側に流れる電流Ifよりも大きいということは、基準点より下流側の相202の抵抗値が基準抵抗Rfよりも小さいことを表している。したがって、この場合には、相202の基準点よりも下流側に、基準抵抗Rfよりも抵抗値が低い絶縁低下点が存在すると判断することができる。
【0066】
ステップS7において相202における基準点より下流側に絶縁低下点が存在すると判断した場合、基準抵抗Rfの接続先を、より下流側の分岐部に変更する(ステップS8)。例えば、図6Aにおいて、地中線路200の分岐部J3より下流側において検出された磁界のレベル(電流Idsに相当)が“10”、基準抵抗Rf側で検出された磁界のレベル(電流Ifに相当)が“5”であった場合(Ids>If)、図6Bに示すように、相202における基準抵抗Rfの接続先を分岐部J3よりも下流側に存在する分岐部、例えば分岐部J4に変更する(分岐部J4と大地(接地)との間に基準抵抗Rfを接続する)。これにより、分岐部J4が新たな基準点となる。
【0067】
ステップS8において基準抵抗Rfの接続先を変更した後、上述したステップS4およびステップS5と同様の処理を行う。具体的には、先ず、ステップS4と同様に、基準抵抗Rfが接続されていない分岐部、例えば相202,203の先端部310に、信号(第1探査信号Sg1、第2探査信号Sg2)をそれぞれ入力する(ステップS9)。次に、ステップS5と同様に、基準点(分岐部J4)を流れる電流を測定する(ステップS10)。
【0068】
例えば図6Bに示すように、探査対象の相202の信号が入力される上流側(先端部310側)から分岐部J4を介して下流側に流れる電流Idsと、探査対象の相202の上流側から分岐部J4を介して基準抵抗Rf側に流れる電流Ifとをそれぞれ測定する。電流Ids,Ifは、上述したステップS2と同様に、磁界センサ2によって検出される磁界の大きさによって推定することができる。
【0069】
次に、ステップS10で測定した電流Idsと電流Ifの大きさを比較する(ステップS11)。上述したステップS6と同様に、探査装置500の磁界センサ2に表示された電流Idsと電流Ifにそれぞれ相当する検出磁界のレベルを比較することにより、電流Idsと電流Ifの大きさを比較する。
【0070】
ステップS11において、電流Idsが電流Ifよりも大きい(Ids>If)ことが確認できた場合、上述したステップS7と同様に、相202の基準点より下流側に絶縁低下点が存在すると判断することができる(ステップS13)。この場合には、ステップS8に戻り、基準抵抗Rfの接続先を、更に下流側の分岐部に変更して、上述したステップS9~S11を再び実行する。
【0071】
一方、ステップS11において、電流Idsが電流Ifよりも小さいこと(Ids<If)が確認できた場合、そのときの相202における基準点が絶縁低下点であると判断することができる(ステップS12)。
【0072】
すなわち、ステップS8において新たに基準抵抗Rfが接続された変更後の基準点より下流側に流れる電流Idsが基準抵抗Rf側に流れる電流Ifより小さいということは、相202における変更後の基準点より下流側に絶縁低下点が存在しないことを意味している。一方、基準抵抗Rfの接続先を変更する前のステップS7またステップS11において、相202における変更前の基準点よりも下流側に絶縁低下点が存在することが確認されている。
【0073】
したがって、ステップS12では、相202において、変更前の基準点よりも下流側に絶縁低下点が存在し、且つ変更後の基準点よりも下流側に絶縁低下点が存在しないことが確認できるので、相202における変更後の基準点が絶縁低下点であると判断することが可能となる。
【0074】
例えば、図6Bに示すように、変更後の基準点である分岐部J4から地中線路200の下流側で検出された磁界のレベル(電流Idsに相当)が“0”であり、変更後の基準点(分岐部J4)から基準抵抗Rf側で検出された磁界のレベル(電流Ifに相当)が“5”であったとする。この場合、相202における変更後の基準点(分岐部J4)よりも下流側に絶縁低下点が存在しないと判断することができる。一方、直前のステップS6(図6A)において、相202における変更前の基準点である分岐部J3よりも下流側に絶縁低下点が存在することが確認できている。したがって、相202の分岐部J4は、基準抵抗より低い絶縁低下点であると判断することができる。
【0075】
ステップS12において絶縁低下点が特定された場合、その他の絶縁低下点の有無を探査するために、信号(第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2)の入力先(信号入力点)の変更が必要か否かを判断する(ステップS14)。
例えば、図6Aおよび図6Bに示した探査では、図5における地中線路200の相202の分岐部J3より上流側(先端部310側)の配線部分については、絶縁低下点の探査を行っていない。このような場合には、信号の入力先の変更が必要であると判断し(ステップS14:Yes)、信号の入力先を変更した上で上述した探査処理を再度実行する。
【0076】
具体的には、先ず、信号入力点(第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2の入力先)を変更する(ステップS15)。例えば図7Aに示すように、探査装置500の接続先を、ステップS3において基準点に設定した分岐部J3を挟んで、直前のステップS4で信号を入力した分岐部J1の反対側に存在する分岐部J6(末端部)に変更する。
これにより、地中線路200において、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2が分岐部J6(末端部)から先端部310側に向かって伝搬する。この場合、基準点の分岐部J3から見て、分岐部J6(末端部)側が上流側、先端部310側が下流側となる。
【0077】
次に、上述したステップS4~ステップS14と同様の探査処理を実行する。
例えば、図7Aに示すように、基準抵抗Rfが相202の分岐部J3に接続され、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2が分岐部J6に入力された状態において、探査対象の相202の分岐部J3から下流側に流れる電流Idsと基準抵抗Rf側に流れる電流Ifとを比較する(ステップS4~S6)。このとき、図7Aに示すようにIds>Ifであれば、相202における分岐部J3より下流側(先端部310側)に絶縁低下点が存在し(ステップS7)、Ids<Ifであれば、相202における分岐部J3より下流側(先端部310側)に絶縁低下点が存在しない(ステップS16)と判断することができる。
【0078】
次に、図7Aに示すようにIds>Ifであった場合には(ステップS7)、図7Bに示すように、相202において基準抵抗Rfの接続先を分岐部J3より下流側の分岐部J2に変更して、電流Idsと電流Ifとを比較する(ステップS8~S11)。このとき、Ids<Ifであれば、相202において、分岐部J2より下流側(先端部310側)に絶縁低下点が存在せず、分岐部J2が基準抵抗より低い絶縁低下点であると判断することができる(ステップS12)。
【0079】
一方、図7Bに示すようにIds>Ifであれば、相202の分岐部J2より下流側(先端部310側)に絶縁低下点が存在すると判断し、図7Cに示すように、相202において、基準抵抗Rfの接続先を分岐部J2より更に下流側の分岐部J1に変更して、電流Idsと電流Ifとを比較する。このとき、図7Cに示すように、Ids<Ifであれば、相202において、分岐部J1より下流側(先端部310側)に絶縁低下点が存在せず、分岐部J1が絶縁低下点と判断することができる。
【0080】
以上のように、多方向から信号を入力して絶縁低下点の有無の判定が完了した場合には(ステップS14:No)、一連の探索処理を終了する。これにより、地中線路の同一相(相202)における複数の絶縁低下点を発見することが可能となる。
【0081】
なお、上述の例では、図5に示すような一方向に延在する地中線路200の同一相における絶縁低下点を探査する方法を例示したが、これに限られず、多方向に分岐した線路を有する地中線路の同一相においても同様に、複数の絶縁低下点の有無を探査することが可能である。以下、具体例を示して説明する。
【0082】
図8は、本実施の形態に係る探査方法による、多方向に分岐した地中線路の同一相における複数の絶縁低下点の有無を探査する探査手順の一例を示す図である。
図8に示されるように、地中線路200Aは、多方向に分岐した複数の相を有している。以下、地中線路200Aにおける絶縁低下点の探査の流れについて説明する。なお、図8では、地中線路200Aを構成する複数の相のうち探査対象の相のみを図示している。
【0083】
先ず、上述した地中線路200を探査する場合と同様に、地中線路200Aを構成する各相の絶縁抵抗を測定して、健全相と低下相(探査対象の一相)とを把握する(ステップS1)。
【0084】
次に、地中線路200Aのうち一つの健全相と探査対象の一相とに探査装置500を接続して信号を入力し、探査対象の相における絶縁性能が最も低い分岐部を探査する(ステップS2)。例えば、地中線路200Aの一つの健全相の末端部T0(分岐部J1)に第1探査信号Sg1を入力し、地中線路200Aの探査対象の相の末端部T0(分岐部J1)に第2探査信号Sg2を入力し、上述した手法により、地中線路200Aにおける絶縁性能が最も低下した分岐部を探査する。ここでは、分岐部J3が最も絶縁抵抗が低い分岐部(事故点)であったとする。
【0085】
次に、ステップS2で発見した事故点の分岐部J3に基準抵抗Rfを接続する(ステップS3)。なお、探査装置500の接続先は変更してもよいが、ここでは、探査装置500の接続先は変更しないものとする。
【0086】
次に、探査装置500から分岐部J1に信号(第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2)を入力する(ステップS4)。その後、磁界センサ2を用いて、基準点である分岐部J3を経由して基準抵抗Rf側に流れる電流Ifと分岐部J3を経由して地中線路200Aの下流側(分岐部J1と反対側)に流れる電流Idsとを比較し、探査対象の相において分岐部J3より下流側に絶縁低下点が存在するか否かを判定する(ステップS5,ステップS6)。
【0087】
ここでは、図8に示すように、分岐部J3から基準抵抗Rf側の検出磁界が“5”、分岐部J3から下流側の検出磁界が“10”であったとする。この場合、分岐部J3の下流側に基準抵抗より低い絶縁低下点が存在すると判断することができる。(ステップS7)。
【0088】
次に、分岐部J3より下流側(末端部T1~T3側)の絶縁低下点の探索を開始する。
先ず、末端部T1側に絶縁低下点が存在するか否かを探査する。例えば、先ず、基準抵抗Rfの接続先を分岐部J3から分岐部J6に変更する(ステップS8)。
【0089】
次に、探査装置500から分岐部J1に第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を入力して、磁界センサ2を用いて分岐部J6を経由して基準抵抗Rf側に流れる電流Ifと分岐部J5を経由して地中線路200Aの下流側(分岐部J7側)に流れる電流Idsとを比較し、分岐部J6よりも下流側に絶縁低下点が存在するか否かを判定する(ステップS9~ステップS11)。
【0090】
ここでは、図8に示すように、分岐部J6から基準抵抗Rf側の検出磁界が“5”、分岐部J6から下流側(分岐部J7側)の検出磁界が“10”であったとする。この場合、探査対象の相において分岐部J6から更に下流側に絶縁低下点が存在すると判断することができる(ステップS13)。
【0091】
次に、分岐部J6より下流側の絶縁低下点の探索を行う。
先ず、基準抵抗Rfの接続先を分岐部J6よりも下流側の分岐部J7に変更する(ステップS8)。次に、探査装置500から分岐部J1に第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を入力して、磁界センサ2を用いて基準点である分岐部J7を経由して基準抵抗Rf側に流れる電流Ifと分岐部J7を経由して地中線路200Aの下流側(分岐部J8側)に流れる電流Idsとを比較し、分岐部J7よりも下流側に絶縁低下点が存在するか否かを判定する(ステップS9~ステップS11)。
【0092】
ここでは、図8に示すように、分岐部J7から基準抵抗Rf側の検出磁界が“5”、分岐部J7から下流側(分岐部J8側)の検出磁界が“0”であったとする。この場合、探査対象の相において分岐部J7が絶縁低下点であると判定することができる(ステップS12)。
以上の探査により、末端部T1側では、分岐部J7が絶縁低下点であると判断することができる。
【0093】
次に、末端部T2側の探査を行う。具体的には、先ず、分岐部J11に基準抵抗Rfを接続する(ステップS8)。次に、探査装置500から分岐部J1に第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2を入力して、磁界センサ2を用いて、基準点である分岐部J11を経由して基準抵抗Rf側に流れる電流Ifと分岐部J11を経由して下流側(分岐部J12側)に流れる電流Idsとを比較し、分岐部J11よりも下流側に絶縁低下点が存在するか否かを判定する(ステップS9~ステップS11)。
【0094】
ここでは、図8に示すように、分岐部J11から基準抵抗Rf側の検出磁界が“5”、分岐部J9から下流側(分岐部J1と反対側)の検出磁界が“10”であったとする。この場合、探査対象の相において分岐部J11から更に下流側(分岐部J12側)に絶縁低下点が存在すると判断することができる(ステップS13)。
【0095】
次に、分岐部J11より下流側(分岐部J12側)の絶縁低下点の探索を行う。
先ず、基準抵抗Rfの接続先を分岐部J11から分岐部J12に変更する(ステップS8)。次に、探査装置500から分岐部J1に信号(第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2)を入力して、磁界センサ2を用いて、分岐部J12から基準抵抗Rf側に流れる電流Ifと分岐部J12から下流側(分岐部J13側)に流れる電流Idsとを比較し、分岐部J12より下流側に絶縁低下点が存在するか否かを判定する(ステップS9~ステップS11)。
【0096】
ここでは、図8に示すように、分岐部J12から基準抵抗Rf側の検出磁界が“5”、分岐部J12から下流側(分岐部J13側)の検出磁界が“0”であり、探査対象の相において分岐部J12が絶縁低下点であると判定することができる(ステップS12)。
以上の探査により、探査対象の相における末端部T2側では、分岐部J12が絶縁低下点であると判断することができる。
【0097】
以上、本実施の形態に係る探査方法によれば、多方向に分岐した地中線路についても同様に、同一相における複数の絶縁低下点の有無を探査することが可能となる。
【0098】
なお、地中線路200Aにおいて、探査対象の相の分岐部J3より上流側(分岐部J1側)における絶縁低下点の有無を探査する場合には、分岐部J3よりも末端部T1~T3側の何れかの分岐部に探査装置500を接続し(ステップS14、S15)、上記と同様の探査処理を行うことにより、地中線路200Aにおける分岐部J3より分岐部J1側の絶縁低下点の有無を探査することができる。
【0099】
以上、本実施の形態に係る探査方法によれば、探査対象の地中線路における絶縁性能が最も低い分岐部を基準点として基準抵抗Rfを接続し、地中線路における基準点以外の分岐部から信号を入力したときに、基準点から下流側に流れる電流Idsと基準点から基準抵抗Rf側に流れる電流とを測定する。
【0100】
これによれば、地中線路の同一相において、最も低い分岐部(事故点)以外に、絶縁低下点が存在するか否かを、効率よく判断することが可能となる。
【0101】
更に、上述したように、基準点から地中線路の下流側に流れる電流Idsが基準抵抗Rf側に流れる電流Ifよりも大きい場合に、基準点(基準抵抗Rfの接続先)をより下流側の分岐部に変更し、変更後の新たな基準点における電流Ids,Ifをそれぞれ測定することにより、地中線路における絶縁低下点の位置を効率よく推定することが可能となる。すなわち、一回の探査作業によって、地中線路の同一相における複数の絶縁低下点を発見することが可能となる。
【0102】
例えば、事故点を含む絶縁低下点が3箇所ある地中線路の復旧作業において、従来の探査方法を採用した場合、図9Aに示すように、探査、掘削のための工事の調整、並びに掘削および改修の各作業を3回ずつ行う必要がある。
一方、上記復旧作業において、本実施の形態に係る探査方法を採用した場合、図9Bに示すように、一回の探査作業で複数の絶縁低下点を発見することができるので、探査、掘削のための工事の調整、並びに掘削および改修の各作業を一回で済ますことが可能となり、地中線路の一連の復旧作業に要する時間を従来よりも大幅に削減することが可能となる。特に、絶縁低下点の数が多いほど、作業時間の削減効果が大きくなる。
このように、本実施の形態に係る探査方法によれば、問題のある地中線路の探査、掘削、および改修を、従来よりも短時間で行うことが可能となる。
【0103】
また、上記探査方法において、地中線路200を構成する複数の相201~203のうち、健全相に第1探査信号Sg1を入力し、探査対象の低下相に第1探査信号Sg1と180度の逆位相の第2探査信号Sg2を入力したときに、第1探査信号Sg1および第2探査信号Sg2により生じた磁界を検出して、基準点から下流側に流れる電流Idsと基準点から基準抵抗Rf側に流れる電流Ifとを推定する。
【0104】
これによれば、探査対象の低下相に電流計等のテスタを接続して電流Idsおよび電流Ifを測定しなくても、電流Idsと電流Ifとの大小関係を容易に判断することができるので、作業効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0105】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0106】
例えば、上記実施の形態では、絶縁性能の低下が発生している箇所(絶縁低下点)が“分岐部”である場合を例にとって説明したが、例えば電力ケーブルそのものの絶縁性能の低下した場合、すなわち地中線路を構成する電力ケーブルの分岐部間に絶縁低下点が存在する場合においても、同様の手順によって絶縁低下点を探査することが可能である。
【0107】
例えば、上述した図6A図6Bにおいて、地中線路200を構成する電力ケーブルの分岐部J3と分岐部J4との間に絶縁低下点が存在する場合について考える。なお、ここでは、分岐部J4は絶縁低下点でないものとする。
【0108】
この場合、上述した図6Aと同様の手順で探査を行うことにより、分岐部J3より分岐部J4側に絶縁低下点が存在し、分岐部J4より下流側(分岐部J6側)に絶縁低下点が存在しないことが判明したとする。この場合、電力ケーブルの分岐部J3と分岐部J4との間に絶縁低下点が存在すると推定することができる。
【0109】
以上のように、本実施の形態に係る探査方法によれば、地中線路の分岐部間に存在する絶縁低下点を推定することが可能となる。
【0110】
また、上記実施の形態では、本実施の形態に係る探査方法による探査対象が地中線路である場合を例示したが、これに限られない。すなわち、探査対象は複数の相を有する線路であればよく、例えば、住宅やビル等の建物や工場およびプラント等の施設に設置され、少なくとも一部が壁等によって隠蔽された、複数の分岐部を有する線路であってもよい。
【0111】
なお、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1…探査信号注入部、2…磁界センサ、3…制御・表示部、11…電源回路、12…信号電圧生成回路、13…信号電圧昇圧回路、14…電流検出回路、15…表示装置、32…演算制御回路、33…位相制御回路、200,200A…地中線路、201~203…相、210…地中引込線、300…分岐装置(LS)、301…受電点、310…先端部、401,402…街灯、403…信号機、500…探査装置、J1~Jn…分岐部、Rf…基準抵抗、Sg1…第1探査信号、Sg2…第2探査信号、Sg3…フィードバック信号、Sg4…制御信号、Sg5…逆位相制御信号、Sg6…フィードバック信号、T0~T3…末端部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B