(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の消音器構造
(51)【国際特許分類】
F01N 1/08 20060101AFI20221012BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20221012BHJP
【FI】
F01N1/08 F
F01N1/08 B
F01N13/08 G
(21)【出願番号】P 2018197393
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(72)【発明者】
【氏名】村松 剛吉
(72)【発明者】
【氏名】千野 貴礼
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第2907755(DE,A1)
【文献】特開平3-264716(JP,A)
【文献】特開2010-216340(JP,A)
【文献】特開平8-170531(JP,A)
【文献】特開昭61-81512(JP,A)
【文献】米国特許第6510921(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/08
F01N 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドの排気ポートから延びる排気管の下流側に配置された鞍乗型車両の消音器構造であって、
消音器本体と、
前記排気管に接続され、前記消音器本体内に挿入されるパイプと、を有し、
前記パイプには、前記排気管の内径よりも拡径された内径を有する膨張室が設けられ、
前記膨張室は、少なくともその一部が前記消音器本体内に配置され、当該消音器本体内に配置された前記膨張室の外周面
のみに複数の貫通孔が形成され
、
前記貫通孔は、前記膨張室内の空間と前記消音器本体内の空間とを連通させ、
前記消音器本体内の前記空間は、前記貫通孔を除いて密閉され、
前記膨張室は、前記貫通孔が前記消音器本体の上流側に配置されるように配置されていることを特徴とする鞍乗型車両の消音器構造。
【請求項2】
前記膨張室は、前記消音器本体の中央部よりも上流側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両の消音器構造。
【請求項3】
前記膨張室は、前記排気管に接続され、上流側の内径より下流側の内径が大きく拡がる拡径部と、前記拡径部に接続され、上流側の内径よりも下流側の内径が小さく窄まる縮径部とを有し、
前記複数の貫通孔は、前記縮径部の外周面に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鞍乗型車両の消音器構造。
【請求項4】
前記膨張室は、前記消音器本体の上流側端部を跨ぐように配置され、
前記拡径部は、前記消音器本体の外側に配置されることを特徴とする請求項3に記載の鞍乗型車両の消音器構造。
【請求項5】
前記パイプは、前記消音器本体の上流側端部から下流側端部まで貫通することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の鞍乗型車両の消音器構造。
【請求項6】
前記パイプは、前記消音器本体の上流側端部に配置された壁面と、前記消音器本体の下流側端部に配置された壁面とによって支持されることを特徴とする請求項5に記載の鞍乗型車両の消音器構造。
【請求項7】
前記パイプは、前記膨張室よりも下流側の管状部と、前記膨張室の下流側端部とが圧入により接合されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の鞍乗型車両の消音器構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両の消音器構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞍乗型車両の消音器においては、消音器内部をセパレータによって複数の空間に分割し、これらの空間を複数の連通パイプで連通させる構造を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この消音器においては、上記構造を採用することにより、消音器後方における車幅方向外側への張り出し量を抑えて取廻しを良くし、スマートなスタイリングを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の消音器においては、消音器内部の構造が複雑になると共に、セパレータや連通パイプの構成要素の数に応じて消音器自体の重量が増加してしまうという問題がある。鞍乗型車両の消音器においては、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造が要請されている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造を実現することができる鞍乗型車両の消音器構造を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の鞍乗型車両の消音器構造の一態様は、シリンダヘッドの排気ポートから延びる排気管の下流側に配置された鞍乗型車両の消音器構造であって、消音器本体と、前記排気管に接続され、前記消音器本体内に挿入されるパイプと、を有し、前記パイプには、前記排気管の内径よりも拡径された内径を有する膨張室が設けられ、前記膨張室は、少なくともその一部が前記消音器本体内に配置され、当該消音器本体内に配置された前記膨張室の外周面のみに複数の貫通孔が形成され、前記貫通孔は、前記膨張室内の空間と前記消音器本体内の空間とを連通させ、前記消音器本体内の前記空間は、前記貫通孔を除いて密閉され、前記膨張室は、前記貫通孔が前記消音器本体の上流側に配置されるように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】自動二輪車の概略構成を示す左側面図である。
【
図2】本実施の形態に係る自動二輪車が有するマフラの左側面図及び上面図である。
【
図3】
図2Aに示す破線Aにおける断面図及び
図2Bに示す破線Bにおける断面図である。
【
図4】
図3Bにおけるパイプの膨張室周辺を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係る消音器構造を、スポーツタイプの自動二輪車に適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、本発明に係る消音器構造を、他のタイプの自動二輪車や、バギータイプの自動三輪車、自動四輪車等の鞍乗型車両に適用してもよい。また、方向について、車両前方を矢印FR、車両後方を矢印RE、車両上方を矢印UP、車両下方を矢印LOでそれぞれ示す。また、以下の各図では、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
【0010】
まず、本発明に係る消音器構造が適用される自動二輪車の概略構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、自動二輪車の概略構成を示す左側面図である。以下の説明において、上流側とは、排気ガスの流動方向の上流側を示し、下流側とは、排気ガスの流動方向の下流側を示している。本実施の形態において、上流側は、車両の前方側に対応し、下流側は、車両の後方側に対応する。
【0011】
図1に示すように、自動二輪車1は、電装系等の各部を搭載する車体フレーム2にパワーユニットの一部としてのエンジン3を懸架して構成される。エンジン3は、例えば、並列4気筒エンジンで構成される。エンジン3は、クランクシャフト(不図示)等が収容されるエンジンケース30の上部に、シリンダヘッド及びシリンダヘッドカバー(不図示)を取り付けて構成される。エンジンケース30の下部には、オイルパン(不図示)が設けられる。
【0012】
車体フレーム2は、鉄又はアルミニウム合金等によって形成されるツインスパータイプのフレームであり、上記のようにエンジン3を懸架することで、車体全体として剛性が得られるように構成される。車体フレーム2は、全体として、前方から後方に向かって延在し、後端側で下方に向かって湾曲した形状を有している。
【0013】
具体的に車体フレーム2は、ヘッドパイプ(不図示)から後方に向かって左右二股に分岐して延びるメインフレーム20と、メインフレーム20の後端から下方に延びるボディフレーム21とを備えている。メインフレーム20の上部には、燃料タンク10が配置される。ボディフレーム21の上下方向の略中央部分には、スイングアーム11が揺動可能に支持されている。スイングアーム11は、後方に向かって延びている。
【0014】
ボディフレーム21の上端には、後上方に向かって延びるシートレール(不図示)及びバックステー22が設けられている。シートレールには、燃料タンク10に連接されるライダーシート12及びピリオンシート13が設けられる。
【0015】
ヘッドパイプには、ステアリングシャフト(不図示)を介して左右一対のフロントフォーク14が操舵可能に支持される。フロントフォーク14の下部には前輪15が回転可能に支持されており、前輪15の上方はフロントフェンダ16によって覆われる。スイングアーム11の後端には後輪17が回転可能に支持されている。後輪17の上方は、リヤフェンダ18によって覆われる。
【0016】
また、シリンダヘッドの各排気ポートには、排気管を構成するエキゾーストパイプ4が接続される。このエキゾーストパイプ4の後方側には、消音器を構成するマフラ5が接続される。エキゾーストパイプ4は、各排気ポートから下方に向かって複数本(本実施の形態では4本)延び、エンジン3の前下方で後方に屈曲した後、1本に集約され、車両後方に向かって延びている。マフラ5は、1本に集約されたエキゾーストパイプ4の後端に接続されている。
【0017】
ところで、鞍乗型車両の消音器においては、消音器の内部をセパレータによって複数の空間に分割し、これらの空間を複数の連通パイプで連通させる構造が知られている。しかしながら、このような消音器においては、消音器内部の構造が複雑になると共に、セパレータや連通パイプの構成要素の数に応じて消音器自体の重量が増加する事態が発生し得る。自動二輪車に代表される鞍乗型車両の消音器においては、車両重量の軽量化や製造コストの低減などの観点から、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造を実現することが要請されている。
【0018】
本発明者等は、このような実情に鑑み、消音器の内部をセパレータにより複数の空間に分割し、これらの空間を連通パイプで連通させる構造では、消音器自体の軽量化や材料費の低減に限界があることに着目した。そして、セパレータや連通パイプなどの構成要素をできる限り低減しつつ、消音器内に膨張室としての機能を確保することが、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造の実現に寄与することを見出し、本発明に想到した。
【0019】
すなわち、本発明の骨子は、消音器本体内に挿入されるパイプの一部に、排気管の内径より拡径された内径を有する膨張室を設けた消音器構造において、少なくとも膨張室の一部を消音器本体内に配置すると共に、消音器本体内に配置された膨張室の外周面に複数の貫通孔を形成することである。
【0020】
本発明によれば、消音器本体に挿入されるパイプの一部に膨張室が設けられると共に、消音器本体内に配置された膨張室の外周面に複数の貫通孔が形成されることから、排気管から流入した排気ガスを膨張室で拡散することができ、第1の消音効果を得ることができる。また、膨張室の貫通孔を介して流出させることで排気ガスを消音器本体内で拡散することができるので、第2の消音効果を得ることができる。また、パイプの一部に膨張室を設けたことから、消音器本体に複数の膨張室を設ける必要がなく、これに伴う構成部品の増加を回避することができる。これにより、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造を実現することができる。
【0021】
図2A及び
図2Bは、それぞれ本実施の形態に係る自動二輪車が有するマフラ5の左側面図及び上面図である。
図3Aは、
図2Aに示す破線Aにおける断面図であり、
図3Bは、
図2Bに示す破線Bにおける断面図である。
図2及び
図3においては、説明の便宜上、
図1に示すマフラ5の構成を模式的に示すと共に、マフラ5の後端部に取り付けられるテールカバーを省略している。
【0022】
図2及び
図3に示すように、マフラ5は、消音器本体を構成するマフラ本体51と、マフラ本体51内に挿入されるパイプ52とを有している。マフラ本体51は、概して筒形状を有し、車両の前後方向に開口部を向けた状態で配置されている。より具体的にいうと、マフラ本体51は、前方側の開口部511を僅かに下方側に向ける一方、後方側の開口部512を僅かに上方側に向けた状態で配置されている(
図3参照)。
【0023】
マフラ本体51において、前方側の開口部511にはノーズキャップ513が取り付けられ、後方側の開口部512にはテールキャップ514が取り付けられている(
図3参照)。ノーズキャップ513及びテールキャップ514は、マフラ本体51の内壁に溶接等により接合され、マフラ本体51の一部を構成する。ノーズキャップ513は、パイプ52の一部(後述する膨張室522)を支持する、マフラ本体51の前方側端部(上流側端部)の壁面を構成する。テールキャップ514は、パイプ52の一部(後述する管状部521)を支持する、マフラ本体51の後方側端部(下流側端部)の壁面を構成する。
【0024】
マフラ本体51内には、内筒部515が収容されている。内筒部515は、前後方向に開口した筒形状を有している。内筒部515は、マフラ本体51内の空間の略全域に亘って配置されている。内筒部515は、その前端部の外周面がノーズキャップ513の内壁面に圧入等により接合される一方、その後端部がブラケット516により支持されている。内筒部515の後端部には、パイプ52の一部(後述する管状部521)が挿通される開口部515aが形成されている。
【0025】
パイプ52は、円筒状の管状部521と、膨張室522とを有している。パイプ52は、排気ガスの上流側から下流側に向けてマフラ本体51を貫通して配置されている。膨張室522は、マフラ本体51の前後方向の中央部よりも上流側に配置されている。膨張室522は、パイプ52における上流側の位置に配置されている。管状部521は、膨張室522の下流側の位置に配置されている。膨張室522は、上流側端部でエキゾーストパイプ4に接続される一方、下流側端部で管状部521に接続されている。管状部521の上流側端部は、膨張室522(より具体的には、後述する縮径部522b)の下流側端部に圧入により接合されている。
【0026】
膨張室522は、エキゾーストパイプ4の内径より拡径された内径を有している。膨張室522は、拡径部522a及び縮径部522bを有している。拡径部522aは、膨張室522における上流側の位置に配置され、上流側端部がエキゾーストパイプ4に接続される。拡径部522aは、上流側の内径より下流側の内径が大きく拡がるテーパ形状を有している。縮径部522bは、膨張室522における下流側の位置に配置され、上流側端部が拡径部522aに接続され、下流側端部が管状部521に接続される。縮径部522bは、上流側の内径よりも下流側の内径が小さく窄まるテーパ形状を有している。拡径部522aと縮径部522bとは、例えば、溶接により接合されるが、これに限定されない。圧入により縮径部522bと拡径部522aとを接合してもよい。
【0027】
膨張室522は、マフラ本体51の開口部511に取り付けられたノーズキャップ513に支持されている。ノーズキャップ513は、マフラ本体51の前方側端部(上流側端部)の内壁の形状に対応する外形形状を有すると共に、その中央に開口部513aが形成されている。開口部513aは、膨張室522の外形に対応する形状を有している。膨張室522は、この開口部513aに挿入されることで、ノーズキャップ513に支持される。
【0028】
より具体的にいうと、膨張室522は、拡径部522aと縮径部522bとの接合部でノーズキャップ513に支持されている。言い換えると、膨張室522は、その最も外径寸法が大きい部分でノーズキャップ513に支持されている。このように支持されることにより、膨張室522は、ノーズキャップ513を跨ぐように配置されている。この場合、拡径部522aは、ノーズキャップ513の上流側の位置に配置され、縮径部522bは、ノーズキャップ513の下流側の位置に配置されている。すなわち、拡径部522aは、マフラ本体51の外側に配置され、縮径部522bは、マフラ本体51(より具体的には、空間51s)内に配置されている。
【0029】
管状部521は、マフラ本体51の開口部512に取り付けられたテールキャップ514に支持されている。テールキャップ514は、マフラ本体51の後方側端部(下流側端部)の内壁の形状に対応する外形形状を有すると共に、その中央に開口部514aが形成されている。開口部514aは、管状部521の外形に対応する形状を有している。管状部521は、この開口部514aに挿入されることで、テールキャップ514に支持される。なお、テールキャップ514よりも後方側に配置される管状部521の一部は、テールパイプを構成する。
【0030】
管状部521の内径寸法L1は、膨張室522の拡径部522aの上流側端部の内径寸法L2よりも僅かに小さく構成されている。このため、エキゾーストパイプ4から膨張室522に流入した排気ガスは、縮径部522bの下流側の内周面(後述するパンチング孔522cが形成されていない内周面)に当接し、パイプ52の中心側に誘導される。これにより、パイプ52を流動する排気ガスの排気効率を向上することができる。
【0031】
膨張室522がノーズキャップ513に支持される一方、管状部521がテールキャップ514に支持されることで、マフラ本体51(内筒部515)内の空間51sは、後述するパンチング孔522cを除き、密閉された状態となる。本実施の形態に係るマフラ5においては、このマフラ本体51内の空間51sを膨張室として利用する。より具体的にいうと、マフラ5においては、上述した膨張室522を第1の膨張室として利用し、マフラ本体51内の空間51sを第2の膨張室として利用する。
【0032】
膨張室522を構成する縮径部522bの外周面には、複数の貫通孔で構成されるパンチング孔522cが形成されている。パンチング孔522cは、縮径部522bの外周面のうち、上流側の一定領域に等間隔で配置されている。パンチング孔522cは、膨張室522内の空間と、マフラ本体51(より具体的には、内筒部515)内の空間51sとを連通させる。言い換えると、膨張室522内の空間と、マフラ本体51内の空間51sとは、パンチング孔522cを介して連通されている。
【0033】
次に、上記構成を有するマフラ5における排気ガスの流れについて、
図3及び
図4を参照して説明する。
図4は、
図3Bにおけるパイプ52の膨張室522周辺を拡大した斜視図である。
図4においては、排気ガスの流れを矢印にて示している。エンジン3内での燃焼により発生した排気ガスは、エキゾーストパイプ4を下流側に流れる(
図1参照)。そして、エキゾーストパイプ4を下流側に流れる排気ガスは、まず、マフラ5が有するパイプ52の膨張室522に導入される。
【0034】
上述したように、膨張室522は、エキゾーストパイプ4の内径よりも拡径された内径を有している。このため、エキゾーストパイプ4から膨張室522に導入される際、排気ガスは、膨張室522の拡径部522aに対応する位置で拡散されることで消音される(第1の消音効果)。
【0035】
膨張室522(拡径部522a)の内周面付近を流れる排気ガスは、下流側に向かうに連れて縮径部522bの内壁面に沿って流れ、パイプ52の中央付近に誘導される。このとき、排気ガスの一部は、縮径部522bに形成されたパンチング孔522cを介してマフラ本体5の空間51s内に流入する。これにより、排気ガスは、マフラ本体51内で拡散されることで消音される(第2の消音効果)。なお、パンチング孔522cを介して空間51s内に入り込んだ排気ガスは、互いに共鳴し合うことによる消音効果も得ることができる。
【0036】
この場合において、膨張室522は、マフラ本体51における中央部(排気ガスの流動方向における上流側と下流側との中央部)よりも上流側に配置されている。このため、膨張室522を下流側に配置する場合と比べて、パイプ52内を流動する排気ガスを上流側でマフラ本体51内に流入させることができる。この結果、マフラ本体51内で排気ガスを拡散させ易くすることができる。
【0037】
一方、膨張室522の中心付近を流れる排気ガスは、膨張室522(拡径部522a、縮径部522b)の影響を受けることなく、膨張室522を通過して管状部521に流れ込む。すなわち、エキゾーストパイプ4から直接的に管状部521に流れ込む。このため、パイプ52に膨張室522を設ける場合であっても、排気ガスの圧力損失が大きくなるのを抑制することができ、エンジン出力の低下を防止することができる。
【0038】
このように本実施の形態に係る消音器構造によれば、マフラ本体51に挿入されるパイプ52の一部に膨張室522が設けられると共に、マフラ本体51内に配置された膨張室522の外周面にパンチング孔522cが形成されることから、エキゾーストパイプ4から流入した排気ガスを膨張室522で拡散することができ、第1の消音効果を得ることができる。また、膨張室522のパンチング孔522cを介して流出させることで排気ガスをマフラ本体51内で拡散することができるので、第2の消音効果を得ることができる。また、パイプ52の一部に膨張室522を設けたことから、マフラ本体51に複数の膨張室を設ける必要がなく、これに伴う構成部品の増加を回避することができる。これにより、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造を実現することができる。
【0039】
特に、膨張室522には、上流側の位置に拡径部522aが設けられ、下流側の位置に縮径部522bが設けられている。そして、パンチング孔522cは、縮径部522bの外周面に形成されている。これにより、膨張室522に導入された排気ガスは、膨張室522の上流側で拡散される一方、下流側でパイプ52の中心側に誘導され、下流側に流動する。さらに、膨張室522の中央付近を流れる排気ガスは、膨張室522の影響を受けることなく直接的にパイプ52に流れ込む。これにより、パイプ52内の限られた範囲内で、膨張室522による消音効果を確保しつつ、圧力損失の拡大を抑制でき、排気効率を向上することができる。
【0040】
また、膨張室522は、マフラ本体51の上流側端部を構成するノーズキャップ513を跨ぐように配置されている。そして、膨張室522を構成する拡径部522aは、マフラ本体51の外側に配置されている。このようにパンチング孔522cが形成されず、マフラ本体51に連通しない拡径部522aがマフラ本体51の外側に配置されることから、外観上目立つマフラ本体51の長さを短縮することができる。また、マフラ本体51の上流側に拡径部522aが配置されることから、上流側に配置されるエキゾーストパイプ4から大径のマフラ本体51に至るまでの外観上の段差を小さく抑えることができる。この結果、コンパクトでスマートな外観なマフラ5を実現することができる。
【0041】
さらに、本実施の形態に係る消音器構造において、パイプ52は、マフラ本体51の上流側端部から下流側端部まで貫通して配置されている。このようにマフラ本体51をパイプ52が貫通して配置されることから、マフラ本体51内を仕切るセパレータ等の構成部品を省略することができるので、更に簡単且つ軽量の消音器構造を実現することができる。
【0042】
この場合において、パイプ52は、マフラ本体51の上流側端部に配置された壁面(ノーズキャップ513)と、マフラ本体51の下流側端部に配置された壁面(テールキャップ514)とによって支持されている。このようにマフラ本体51の上流側端部の壁面と下流側端部の壁面とでパイプ52が支持されることから、パイプ52を支持する構造の剛性を向上できるので、マフラ5の内部でのパイプ52の振動等の発生を抑制することができる。この結果、パイプ52の振動に起因する異音の発生を抑制すると共に、振動に起因する耐久性の劣化を抑制することができる。
【0043】
また、パイプ52は、膨張室522の下流側端部と、管状部521の上流側端部とが圧入により接合されている。このように管状部521と膨張室522とを圧入により接合することにより、双方の部材の熱膨張時に与え合う膨張力を逃がすことができる。この結果、マフラ本体51内に膨張室522と管状部521とを組み合わせて配置する場合であっても、複雑な構成を必要とすることなく熱膨張に対応した構造とすることができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0045】
例えば、上記実施の形態においては、パイプ52がマフラ本体51を貫通する場合について説明している。しかしながら、本実施の形態に係る消音器構造において、パイプ52は、マフラ本体51に前方側から挿入されていることを条件として、マフラ本体51を貫通していなくてもよい。例えば、マフラ本体51内の空間51sを仕切るセパレータを有する場合には、パイプ52がセパレータまでの長さを有する構成としてもよい。すなわち、パイプ52の後方側端部がマフラ本体51の内部に配置される構成であってもよい。この場合には、セパレータやパイプ52を支持する部品の点数は増加するものの、比較的簡単な構成で十分な消音効果を得ることができる。
【0046】
また、上記実施の形態においては、膨張室522がマフラ本体51の中央部より上流側に配置される場合について説明している。しかしながら、膨張室522の配置については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、膨張室522は、マフラ本体51の中央部近傍や、中央部よりも下流側に配置されていてもよい。さらに、上記実施の形態においては、膨張室522がマフラ本体51の上流側端部を跨ぐように配置されているが、このような配置に限定されず、後方側にずれて配置されていてもよい。これらの場合には、マフラ本体51内の空間51sへの排気ガスの流出タイミングが僅かに遅くなるものの、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
さらに、上記実施の形態においては、膨張室522が拡径部522a及び縮径部522bを有する場合について説明している。しかしながら、膨張室522の構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、膨張室522は、エキゾーストパイプ4の内径よりも拡径された内径を有することを前提として任意の形状を採用することができる。この場合には、排気ガスの拡散効率や排気効率が低下する側面を有するものの、簡単且つ軽量の消音器構造を提供することができる。
【0048】
さらに、上記実施の形態においては、パイプ52がマフラ本体51の上流側端部に配置された壁面(ノーズキャップ513)と、マフラ本体51の下流側端部に配置された壁面(テールキャップ514)とによって支持される場合について説明している。しかしながら、パイプ52の支持形態については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、マフラ本体51内の空間51sを仕切るセパレータを有する場合には、そのセパレータの一部でパイプ52を支持してもよい。この場合には、パイプ52の振動を抑制する効果が低下する側面を有するものの、比較的簡単な構成で十分な消音効果を得ることができる。
【0049】
さらに、上記実施の形態においては、パイプ52の管状部521と、膨張室522の下流側端部とが圧入により接合される場合について説明している。しかしながら、これらの接合方法については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、これらを溶接等により接合してもよい。この場合には、双方の部品が熱膨張時に与え合う膨張力への対応力が低下する側面を有するものの、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明は、十分な消音効果を確保しながら、簡単且つ軽量の構造を実現することができるという効果を有し、特に、自動二輪車に代表される鞍乗型車両の消音器に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 :自動二輪車
2 :車体フレーム
3 :エンジン
4 :エキゾーストパイプ
5 :マフラ
51 :マフラ本体
51s :空間
511、512:開口部
513 :ノーズキャップ
513a :開口部
514 :テールキャップ
514a :開口部
515 :内筒部
515a :開口部
516 :ブラケット
52 :パイプ
521 :管状部
522 :膨張室
522a :拡径部
522b :縮径部
522c :パンチング孔