(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】中空糸膜エレメント、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20221012BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20221012BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20221012BHJP
D01F 1/08 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D61/00 500
B01D69/00
D01F1/08
(21)【出願番号】P 2018197565
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 崇人
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 秀彦
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010270(WO,A1)
【文献】米国特許第8496825(US,B1)
【文献】国際公開第2016/167267(WO,A1)
【文献】特開2004-209418(JP,A)
【文献】特開平04-150924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
D01F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に複数の孔を有する芯管と、
前記芯管の周りに配置された複数の中空糸膜からなる中空糸膜群と、
前記芯管および前記中空糸膜群をそれらの両端で固定する樹脂壁と、を備え、
前記芯管および前記複数の中空糸膜の両端が開口している、両端開口型の中空糸膜エレメントであって、
前記中空糸膜群は、前記芯管の周りを囲むように配置された複数の第1中空糸膜から構成される第1中空糸膜層と、前記第1中空糸膜層の周りを囲むように配置された複数の第2中空糸膜から構成される第2中空糸膜層と、を含み、
前記複数の第1中空糸膜の透過係数は、前記複数の第2中空糸膜の透過係数よりも小さいことを特徴とする、中空糸膜エレメント。
【請求項2】
前記複数の第2中空糸膜の透過係数に対する前記複数の第1中空糸膜の透過係数の減少率は、0%超60%以下である、請求項1に記載の中空糸膜エレメント。
【請求項3】
前記中空糸膜エレメントは円柱形状を有し、前記第1中空糸膜層と前記第2中空糸膜層の厚みの総和に対する前記第1中空糸膜層の厚みの比率が0%超30%以下である、請求項1または2に記載の中空糸膜エレメント。
【請求項4】
前記複数の中空糸膜は、互いに交差するように前記芯管の周りに螺旋状に巻回されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空糸膜エレメント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の中空糸膜エレメントと、
該中空糸膜エレメントが少なくとも1本装填された容器とを備える、中空糸膜モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の中空糸膜モジュールを用いる正浸透水処理方法であって、
前記複数の中空糸膜の中空部内に水と水以外の成分とを含む処理対象水を流すと共に、前記芯管を介して前記複数の中空糸膜の外側にドロー溶質を含むドロー溶液を流すことで、前記処理対象水中に含まれる水を前記複数の中空糸膜を介して前記ドロー溶液側に移動させる正浸透工程を含む、正浸透水処理方法。
【請求項7】
前記ドロー溶液の濃度が7質量%以上である、請求項6に記載の正浸透処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜エレメント、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水、河川水または排水などの処理対象液(フィード溶液)から、正浸透現象を利用して真水を回収するための正浸透水処理が知られている。正浸透現象とは、低濃度のフィード溶液(FS:Feed Solution)中の水がより高濃度(高浸透圧)のドロー溶液(DS:Draw Solution)に向かって膜を浸透して移動する現象のことである。
【0003】
このような膜を用いた水処理は、膜を集合させて一つの構成要素とした膜エレメントを圧力容器に装填した膜モジュールとして用いられており、特に、中空糸膜エレメントは、膜モジュール容積当たりの膜面積を大きくすることができるため、全体として透水量を大きくすることができ、容積効率が非常に高いという利点があり、コンパクト性に優れる。
【0004】
例えば、特許文献1(国際公開第2017/010270号)、特許文献2(特開2004-209418号公報)に開示されるように、側面に複数の孔を有する芯管と、前記芯管の周りに交差配置された複数の中空糸膜からなる中空糸膜群とを備えた両端開口型の中空糸膜モジュールが知られている。このような中空糸膜モジュールでは、正浸透水処理に用いられる場合、
図3に示されるように、芯管20に設けられた多数の孔20aから中空糸膜21の外側3に流れる液の流れが、中空糸膜21の中空部内の流れとほぼ直交する、所謂クロス流方式の構造が採用されている。
【0005】
ここで、DSとしてスケール成分等の少ないDSを用いる場合は、通常スケール成分等を含むFSよりもDSを中空糸膜21の中空部内に流す方が中空糸膜21へのスケール付着が生じにくいため、DSを中空糸膜21の中空部内に流し、FSを中空糸膜21の外側3に流すことが望ましい。
【0006】
一方で、例えば、DSが高粘度である場合、DSを中空糸膜21の中空部内に流すとDSの送液に必要なエネルギーが増加したり、中空糸膜21の中空部内が詰まり易くなったりするため、DSを中空糸膜21の外側3に流すことが望ましい。また、PRO(正浸透発電)のようにDSに圧力が加えられる場合、中空糸膜は外圧に対する耐性が内圧に対する耐性より高いため、DSを中空糸膜21の外側3に流すことが望ましい。
【0007】
後者のように、DSが(芯管20を介して)中空糸膜21の外側3を流れ、FSが中空糸膜21の中空部内を流れる場合は、FSに含まれる水は中空糸膜21の内側から外側に向かって透過する(
図8(b)参照)。
【0008】
この場合、
図2を参照して、芯管20から離れるにつれて(
図2(b)のAからBに向かって)、中空糸膜21の外側3を流れるDSは膜透過水によって希釈されるので、芯管20の近傍(
図2のIおよびIII)では、DSの濃度が他の場所(
図2のIIおよびIV)よりも高くなる。このため、芯管20の近傍の中空糸膜21の内部を流れるFSは特に濃縮され、その下流側の部分(
図2のIII)においてFSが最も濃縮された状態となる(
図5参照)。したがって、芯管20の近傍の最も下流側の部分(
図2のIII)において、中空糸膜にスケール(FS中に含まれる炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の析出物)が最も付着し易くなる。
【0009】
このため、芯管20近傍の最も下流側の部分(
図2のIII)において、スケールが生じないようにFSの流量を調整する必要がある。すなわち、FSの流量が減少するほどFSの濃縮率は高くなり、スケールが生成し易くなるところ、FSの流量を、芯管20近傍の最も下流側の部分においてスケールが生じないような所定の流量以上に設定する必要がある。
【0010】
しかし、FSの流量が増加するとFSからの水の回収率が低下するという問題がある。回収率が低下すると、同じ水を得るために多くのFSが必要になるため、FSの前処理のコスト上昇やFSの送液に必要なエネルギーの上昇といった問題が生じる。
【0011】
なお、特許文献1には、中空糸膜エレメントの内側の層を構成する中空糸膜の内径を中空糸膜エレメントの外側の層を構成する中空糸膜の内径よりも大きくすることが開示される。また、特許文献2には、中空糸膜エレメントの内側の層を構成する中空糸膜の透過速度が、中空糸膜エレメントの外側の層を構成する中空糸膜の透過速度よりも速くすることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2017/010270号
【文献】特開2004-209418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドロー溶液(DS)が中空糸膜の外側を流れ、フィード溶液(FS)が中空糸膜の中空部内を流れる場合において、中空糸膜へのスケールの付着を抑制しつつ、FSからの水の回収率を高めることのできる、中空糸膜エレメント、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1] 側面に複数の孔を有する芯管と、
前記芯管の周りに配置された複数の中空糸膜からなる中空糸膜群と、
前記芯管および前記中空糸膜群をそれらの両端で固定する樹脂壁と、を備え、
前記芯管および前記複数の中空糸膜の両端が開口している、両端開口型の中空糸膜エレメントであって、
前記中空糸膜群は、前記芯管の周りを囲むように配置された複数の第1中空糸膜から構成される第1中空糸膜層と、前記第1中空糸膜層の周りを囲むように配置された複数の第2中空糸膜から構成される第2中空糸膜層と、を含み、
前記複数の第1中空糸膜の透過係数は、前記複数の第2中空糸膜の透過係数よりも小さいことを特徴とする、中空糸膜エレメント。
【0015】
[2] 前記複数の第2中空糸膜の透過係数に対する前記複数の第1中空糸膜の透過係数の減少率は、0%超60%以下である、[1]に記載の中空糸膜エレメント。
【0016】
[3] 前記中空糸膜エレメントは円柱形状を有し、前記第1中空糸膜層と前記第2中空糸膜層の厚みの総和に対する前記第1中空糸膜層の厚みの比率が0%超30%以下である、[1]または[2]に記載の中空糸膜エレメント。
【0017】
[4] 前記複数の中空糸膜は、互いに交差するように前記芯管の周りに螺旋状に巻回されている、[1]~[3]のいずれかに記載の中空糸膜エレメント。
【0018】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の中空糸膜エレメントと、
該中空糸膜エレメントが少なくとも1本装填された容器とを備える、中空糸膜モジュール。
【0019】
[6] [5]に記載の中空糸膜モジュールを用いる正浸透水処理方法であって、
前記複数の中空糸膜の中空部内に水と水以外の成分とを含む処理対象水を流すと共に、前記芯管を介して前記複数の中空糸膜の外側にドロー溶質を含むドロー溶液を流すことで、前記処理対象水中に含まれる水を前記複数の中空糸膜を介して前記ドロー溶液側に移動させる正浸透工程を含む、正浸透水処理方法。
【0020】
[7] 前記ドロー溶液の濃度が7質量%以上である、[6]に記載の正浸透処理方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ドロー溶液(DS)が中空糸膜の外側を流れ、フィード溶液(FS)が中空糸膜の中空部内を流れる場合において、中空糸膜へのスケールの付着を生じ難くするために必要なFSの最低流量が減少する。これにより、中空糸膜へのスケールの付着を抑制しつつ、FSからの水の回収率を高めることのできる、中空糸膜エレメント、中空糸膜モジュールおよび正浸透水処理方法を提供することができる。
【0022】
なお、最低FS流量の減少により、FSの前処理の設備投資(Capex)、運用維持費(Opex)等の低減が可能であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の中空糸膜エレメントの一実施形態を示す断面模式図である。
【
図2】従来の中空糸膜エレメントの課題を説明するための断面模式図である。
【
図3】本発明の中空糸膜エレメントおよび中空糸膜モジュールの一実施形態を示す断面模式図である。
【
図4】本発明の中空糸膜エレメントの一実施形態を示す模式図である。
【
図5】
図2および
図3に示される正浸透モジュール(中空糸膜モジュール)におけるFSの濃度分布を示す模式的なグラフである。
【
図6】実施例1(FO)における、A値減少率と最低FS流量との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1(FO)における、A値減少率と、最低FS流量でのFSからの水の回収率(FS回収率)と、の関係を示すグラフである。
【
図9】実施例2(PRO)における、A値減少率と最低FS流量との関係を示すグラフである。
【
図10】実施例2(PRO)における、第2中空糸膜の透過係数(A)に対する第1中空糸膜の透過係数の減少率(A値減少率)と、正味発電量と、の関係を示すグラフである。
【
図11】実施例3-1(PRO)における、第1中空糸膜層の割合(第1中空糸膜層の厚みの比率)と、スケール生成を抑止できる膜透過流量の最大値と、の関係を示すグラフである。
【
図12】実施例3-1(PRO)における、第1中空糸膜層の割合と最低FS流量との関係を示すグラフである。
【
図13】実施例3-1(PRO)における、第1中空糸膜層の割合と、最低FS流量での正味発電量と、の関係を示すグラフである。
【
図14】FSのNF膜による前処理を行う実施例3-2(PRO)における、第1中空糸膜層の割合と、最低FS流量での正味発電量と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表す。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0025】
(中空糸膜エレメント、中空糸膜モジュール)
以下、本発明の中空糸膜エレメントおよび中空糸膜モジュールの一実施形態について説明する。
【0026】
図3を参照して、本実施形態の中空糸膜エレメントは、側面に複数の孔20aを有する芯管20と、芯管20の周りに配置された複数の中空糸膜21からなる中空糸膜群と、芯管20および中空糸膜群をそれらの両端で固定する樹脂壁41,42とを備える。この中空糸膜エレメントは、芯管20および複数の中空糸膜21の両端が開口している、両端開口型の中空糸膜エレメントである。
【0027】
図1(a)を参照して、中空糸膜群は、芯管20の周りを囲むように配置された複数の第1中空糸膜211から構成される第1中空糸膜層21aと、第1中空糸膜層21aの周りを囲むように配置された複数の第2中空糸膜212から構成される第2中空糸膜層21bとから構成されている。
【0028】
そして、本実施形態の中空糸膜エレメントは、第1中空糸膜層21aを構成する複数の第1中空糸膜211の透過係数は、第2中空糸膜層21bを構成する複数の第2中空糸膜212の透過係数よりも小さいことを特徴とする。
【0029】
なお、本実施形態の中空糸膜エレメントにおいて、中空糸膜群は、
図1(a)に示されるような2層構造(第1中空糸膜層21aおよび第2中空糸膜層21b)を含むが、これに限られず、
図1(b)に示すように、中空糸膜群は、さらに第2中空糸膜212よりも透過係数の大きい複数の第3中空糸膜213から構成される第3中空糸膜層21cを含む3層構造を有するものであってもよく、同様に4層以上の構造を有するものであってもよい。
【0030】
図3を参照して、本実施形態の中空糸膜モジュールは、少なくとも1本の上記中空糸膜エレメントと、該中空糸膜エレメントが少なくとも1本装填された容器1(例えば、運転圧力に耐える耐圧性を有する圧力容器)と、を備える。
【0031】
この中空糸膜モジュールは、芯管20に接続された供給口10や、中空糸膜21内に連通した供給口11および排出口12を有しており、壁部材14,15,51,52によって固定されている。また、中空糸膜21の外側に連通した排出口13が、容器1の側面に設けられている。芯管20の孔20aから流出した流体は、中空糸膜の外側3を中空糸膜エレメントの径方向に流れる。
【0032】
なお、
図2および
図3では、簡略化のために中空糸膜21が芯管20と平行であるように描いているが、実際には、複数の中空糸膜が平行に配列されていてもよく、また、
図4に示されるように、中空糸膜群(第1中空糸膜層21aおよび第2中空糸膜層21b)を構成する複数の中空糸膜21が互いに交差するように芯管20の周りに螺旋状に巻回されていてもよい。螺旋状に巻回されているとは、言い換えれば、中空糸膜の配列が芯管の軸線と角度をもつように巻回されていることである。
【0033】
複数の中空糸膜21が互いに交差するように配置されることにより、中空糸膜の交差部23によって空隙が規則的に形成される。この規則的な空隙が存在するため、中空糸膜21の外側を流れる流体の偏流が小さくなる。また、中空糸膜の外側を流れる流体中の非溶解成分や粒子成分等が、中空糸膜間に捕捉されることが少ないため、圧力損失の増大も生じにくい。
【0034】
なお、本実施形態の中空糸膜エレメントは、例えば、芯管の周りに中空糸膜を螺旋状に巻上げ、中空糸膜が交差状に配置された状態で半径方向に積層されることによって形成される中空糸膜巻上げ体の両端部を樹脂で封止した後、樹脂(樹脂壁)の一部を切断し中空糸膜の両端部を開口させることにより作製することができる。
【0035】
以下、本実施形態の中空糸膜エレメントおよび中空糸膜モジュールの各構成部材等の具体例について説明する。
【0036】
芯管は、供給口に接続されている場合、該供給口から供給された流体を中空糸膜エレメント内の中空糸膜の外側3(外表面)に分配させる機能を有する管状部材である。芯管は、中空糸膜エレメントの略中心部に位置させることが好ましい。
【0037】
芯管の径は大きすぎると、膜モジュール内の中空糸膜が占める領域が減少し、結果として膜エレメントまたは膜モジュールの膜面積が減少するため容積あたりの透水量が低下することがある。また、芯管の径が小さすぎると、供給流体が芯管内を流動する際に圧力損失が大きくなり、結果として中空糸膜にかかる有効差圧が小さくなり処理効率が低下することがある。また、強度が低下して、供給流体が中空糸膜層を流れる際に受ける中空糸膜の張力により芯管が破損する場合がある。これらの影響を総合的に考慮し、最適な径を設定することが重要である。中空糸膜エレメントの断面積に対して芯管(中空部を含む)の断面積の占める面積割合は、4~20%が好ましい。
【0038】
中空糸膜の素材は、所望の分離性能(好ましくは逆浸透膜相当レベルの高い分離性能)を発現できる限り、特に限定されず、例えば、酢酸セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、スルホン化ポリスルホン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が使用可能である。この中では、酢酸セルロース系樹脂、スルホン化ポリスルホンやスルホン化ポリエーテルスルホンなどのスルホン化ポリスルホン系樹脂が、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を容易に抑制することができる点で好ましい。特に、膜面での微生物汚染を効果的に抑制できる特徴がある。酢酸セルロースの中では、耐久性の点で三酢酸セルロースが好ましい。
【0039】
本実施形態の中空糸膜エレメントにおいて、第1中空糸膜層21aを構成する複数の第1中空糸膜の透過係数は、第2中空糸膜層21bを構成する複数の第2中空糸膜の透過係数よりも小さい。
【0040】
複数の第2中空糸膜の透過係数に対する複数の第1中空糸膜の透過係数の減少率は、好ましくは0%超60%以下であり、より好ましくは5%以上55%以下であり、さらに好ましくは10%以上50%以下である。この範囲において、最低FS流量を低減でき、FS回収率を向上させることができるという効果が、より確実に奏されると考えられる。また、本発明をPROに適用した場合に、正味発電量を向上させる効果が期待される。なお、当該減少率は、以下の式で示される比率である。
「減少率」=〔(「複数の第2中空糸膜の透過係数」-「複数の第1中空糸膜の透過係数」)/「複数の第2中空糸膜の透過係数」〕×100 [%]
【0041】
複数の第1中空糸膜の透過係数(A)は、好ましくは1.0×10-6~1.5×10-5cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕であり、より好ましくは1.5×10-6~1.3×10-5cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕である。
【0042】
中空糸膜の透過係数は、例えば、逆浸透法による評価を行うことによって測定することができる。
具体的には、透過係数(純水透過係数)Aは、下記の方法によって求めることができる。
Jv=A(ΔP-π(Cm))・・・(1)
Js=B(Cm-Cp)・・・(2)
(Cm-Cp)/(Cf-Cp)=exp(Jv/k)・・・(3)
Cp=Js/Jv・・・(4)
A=α×A25×μ25/μ・・・(5)
B=β×B25×μ25/μ×(273.15+T)/(298.15)・・・(6)
Cf :供給水濃度 [mg/L]
Cm :膜面濃度 [mg/L]
Cp :透過水濃度 [mg/L]
Js :溶質透過流束 [mg/(cm2・s)]
Jv :純水透過流束 [cm3/(cm2・s)]
k :物質移動係数 [cm/s]
A :純水透過係数 [cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕]
A25:25℃での純水透過係数 [cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕]
B :溶質透過係数 [cm/s]
B25:25℃での溶質透過係数 [cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕]
T :温度 [℃]
α :運転条件による変動係数 [-]
β :運転条件による変動係数 [-]
ΔP :運転圧力 [kgf/cm2]
μ :粘度 [Pa・s]
μ25:25℃での粘度 [Pa・s]
π :浸透圧 [kgf/cm2]
すなわち、Jv、Cf、Cp、Tを実測し、k、その他の物性値を上記式(1)~(4)に代入することによって実測条件での純水透過係数Aと溶質透過係数Bを求めることができる。また、予め得られているα、βに基づけば、25℃における純水透過係数A25と溶質透過係数B25を、上記式(5)~(6)から求めることができ、さらに、上記式(5)~(6)を用いて任意の温度Tの純水透過係数と溶質透過係数も得ることができる。
【0043】
なお、中空糸膜の透過係数に影響を与える要素として中空糸膜の微細孔の孔径などが挙げられる。中空糸膜の微細孔の平均孔径は、好ましくは0.1nm~0.1μm、より好ましくは0.5nm~50nm、さらに好ましくは0.5nm~5nm、さらにより好ましくは0.5nm~2nmである。当該平均孔径は、窒素ガス吸着法や水銀圧入法、パームポロメトリー、DSC法、陽電子消滅法などによって測定することができる。
【0044】
前記中空糸膜エレメントは円柱形状を有する場合において、全中空糸膜層の厚み(第1中空糸膜層の厚み+第2中空糸膜層の厚み)に対する前記第1中空糸膜層の厚みの比率は、好ましくは0%超30%以下であり、より好ましくは5%以上25%以下である。上記比率がこの範囲内である場合、FSの回収率を向上させる効果が、より確実に奏されると考えられる。
【0045】
中空糸膜の内径は、正浸透膜として用いられる範囲内であれば特に限定されないが、好ましくは50μm以上700μm以下であり、より好ましくは80μm以上400μm以下である。内径が前記範囲より小さいと、中空糸膜の中空部を流れる流体の流動圧損が大きくなり問題が生じうる。一方、内径が前記範囲より大きいと、モジュールにおける単位容積あたりの膜面積を大きくすることができなくなり、中空糸膜モジュールのメリットの一つであるコンパクト性が損なわれる。
【0046】
中空糸膜の中空率は、正浸透膜に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、15~45%である。中空率が前記範囲より小さいと、中空部の流動圧損が大きくなり、所望の透過水量が得られない可能性がある。また、中空率が前記範囲より大きいと、正浸透処理での使用であっても十分な耐圧性を確保できない可能性がある。なお、中空率(%)は、中空率(%)=(内径/外径)2×100により求めることができる。
【0047】
中空糸膜エレメント(中空糸膜群)の外径は、好ましくは50~450mmである。外径が大きすぎると、膜交換作業等の維持管理での操作性が悪くなりうる。外径が小さすぎると、単位膜エレメント当りの膜面積が減少し、処理量が小さくなり、経済性の点で好ましくない。
【0048】
なお、中空糸膜の内径、外径、中空率の測定は、例えば、以下のようにして測定することができる。まず、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられた直径3mmの穴に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面に沿ってカミソリにより中空糸膜をカットし、中空糸膜断面サンプルを得る。次に、投影機Nikon PROFILE PROJECTOR V-12を用いて、中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とする。5つの断面について同様に測定を行い、平均値を中空糸膜の内径、外径とする。
【0049】
中空糸膜としては、例えば、特許3591618号公報に記載されているように、三酢酸セルロース、エチレングリコール(EG)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)よりなる製膜溶液を3分割ノズルより吐出し、空中走行部を経て、水/EG/NMPよりなる凝固液中に浸漬させて中空糸膜を得、次いで中空糸膜を水洗した後、熱処理することにより酢酸セルロース系中空糸膜を製造することができる。また、テレフタル酸ジクロリド及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ピペラジンより低温溶液重合法で得た共重合ポリアミドを精製した後、CaCl2及びジグリセリンを含むジメチルアセトアミド溶液に溶解して製膜溶液とし、この溶液を3分割ノズルより空中走行部を経て凝固液中に吐出させ、得られた中空糸膜を水洗した後、熱処理することによりポリアミド系中空糸膜を製造することができる。また、3,3’-ジスルホ-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6-ジクロロベンゾニトリル、4,4’-ビフェノールを重合して得たスルホン化ポリアリールエーテルスルホンポリマーを、NMP、EGに溶解して製膜溶液を調製し、芯液としてEGと共にチューブインオリフィス型ノズルから吐出した後、塩水からなる凝固浴に浸漬し、得られた中空糸膜を熱処理することによりスルホン化ポリスルホン系中空糸膜を製造することができる。
【0050】
上記のようにして得られた中空糸膜は、従来公知の方法により中空糸膜エレメントに組み込まれる。中空糸膜の組み込みは、例えば、特許第4412486号公報、特許第4277147号公報、特許第3591618号公報、特許第3008886号公報などに記載されているように、中空糸膜を45~90本またはそれ以上を集めて1つの中空糸膜集合体とし、さらにこの中空糸膜集合体を複数横に並べて偏平な中空糸膜束として、多数の孔を有する芯管にトラバースさせながら巻き付ける。この時の芯管の長さ及び回転速度、中空糸膜束のトラバース速度を調節することによって、巻き上げ体の特定位置の周面上に交差部が形成するように巻き上げる。次に、この巻上げ体を、長さと交差部の位置を調整し、所定の位置で切断する。その後、中空糸の巻上げ体の外周部に、芯管の孔のある部分と反対側を残して、非透過性フィルムを配置し、この巻き上げ体の両端部を接着した後、両側を切削して、中空糸膜開口部を形成させ中空糸膜エレメントを作製する。
【0051】
なお、本発明の中空糸膜エレメントは、スパイラル型の平膜と比べてエレメントあたりの膜面積を多くとることができ、中空糸膜の大きさにもよるが、ほぼ同サイズのエレメントの場合、スパイラル型のおよそ10倍の膜面積を得ることができる。また、エレメント内の偏流が生じにくいため、濃度差を駆動力として水処理を行う場合に好適である。
【0052】
(正浸透水処理方法)
上記の中空糸膜モジュールは、前記複数の中空糸膜の中空部内に水と水以外の成分とを含む処理対象水(FS)を流すと共に、前記芯管を介して前記複数の中空糸膜の外側にドロー溶質を含むドロー溶液(DS)を流すことで、前記処理対象水中に含まれる水を前記複数の中空糸膜を介して前記ドロー溶液側に移動させる正浸透工程を含む、正浸透水処理方法に、好適に用いることができる。
【0053】
フィード溶液(FS)は、水と水以外の成分とを含む液体であれば特に限定されないが、FSがスケール成分を含んでいる場合に、本実施形態の効果が特に有効である。スケール成分としては、例えば、炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムが挙げられる。スケール成分を含むFSとしては、例えば、海水、汽水、河川水、湖沼水、工業廃水、生活排水などが挙げられる。なお、FS(処理対象水)が海水等の塩分濃度が高い溶液である場合、処理対象水の蒸発残留物濃度(TDS)は、好ましくは0.7~14質量%であり、より好ましくは1.5~10質量%であり、さらに好ましくは3~8質量%である。
【0054】
なお、ドロー溶液(DS)とは、ドロー溶質を含む液であり、フィード溶液より高い浸透圧を有する液体であれば特に限定されない。ドロー溶液の浸透圧は、溶質の分子量等にもよるが、好ましくは0.5~20MPaである。
【0055】
ドロー溶液の濃度は、好ましくは7質量%以上である。この場合、本発明により、中空糸膜へのスケールの付着を抑止するために必要なFSの最低流量(最低FS流量)を低減させる効果が、より効果的に発揮される。
【0056】
ドロー溶質としては、正浸透処理に用いられる種々公知のものを用いることができ、ドロー溶質は、ドロー溶液中において必ずしも溶解している必要はない。
【0057】
好適なドロー溶質としては、例えば、刺激応答性高分子が挙げられる。刺激応答性高分子としては、温度応答性高分子、pH応答性高分子、光応答性高分子、磁気応答性高分子などが挙げられる。
【0058】
温度応答性高分子とは、所定の温度を臨界点として親水性が変化する特性(温度応答性)を有する高分子である。温度応答性とは、言い換えれば、温度に応じて親水性になったり疎水性になったりする特性である。ここで、親水性の変化は可逆的であることが好ましい。この場合、温度応答性高分子は、温度を調整することで、水に溶解させたり、水と相分離させたりすることができる。
【0059】
温度応答性高分子は、モノマーに由来する複数の構造単位からなるポリマーであり、側鎖に親水性基を有していることが好ましい。
【0060】
温度応答性高分子には、下限臨界共溶温度(LCST)タイプと上限臨界共溶温度(UCST)タイプがある。LCSTタイプでは、低温の水に溶解している高分子が、高分子に固有の温度(LCST)以上の温度になると、水と相分離する。逆に、UCSTタイプでは、高温の水に溶解している高分子が、高分子に固有の温度(UCST)以下になると、水と相分離する(杉原ら、「環境応答性高分子の組織体への展開」、SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)、Vol.62,No.8,2006参照)。半透膜は、高温で劣化し易い素材を用いる場合においては、低温の水に溶解している温度応答性高分子が半透膜に接触している方が望ましいため、本発明に用いる温度応答性高分子はLCSTタイプであることが好ましい。また、高温で劣化しにくい素材で構成された半透膜を用いる場合は、LCSTタイプの他,UCSTタイプも用いることができる。
【0061】
親水性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アセチル基、アルデヒド基、エーテル結合、エステル結合が挙げられる。親水性基は、これらから選択される少なくとも1種類であることが好ましい。
【0062】
温度応答性高分子は、少なくとも一部または全部の構造単位において少なくとも1つの親水性基を有することが好ましい。また、温度応答性高分子は、親水性基を有しつつ、一部の構造単位において疎水性基を有していてもよい。なお、温度応答性高分子が、温度応答性を有するためには、分子中に含まれる親水性基と疎水性基のバランスが重要であると考えられている。
【0063】
具体的な温度応答性高分子としては、例えば、ポリビニルエーテル系ポリマー、ポリ酢酸ビニル系ポリマー、(メタ)アクリル酸系ポリマーなどが挙げられる。
【0064】
本発明の正浸透水処理方法のように、中空糸型半透膜を正浸透膜として用いる場合、中空糸型半透膜の耐圧性や、高圧ポンプを必要としないといった観点から、中空糸型半透膜の中空部内に流す流体(FS)の圧力は0.2MPa以下であることが好ましい。一方、中空糸型半透膜の外側に流すDSの圧力は、0.01MPa以上であることが好ましい。
【0065】
本発明の正浸透水処理方法は、浸透工程の後に、ドロー溶液に含まれるドロー溶質を水と分離させる分離工程をさらに含むことが好ましい。
【0066】
分離方法としては、ドロー溶質の種類によって適合するものが選択される。例えば、無機塩や低融点物質等の場合は晶析処理、水に対する溶解度が高い気体の場合はガス放散、磁性体微粒子の場合は磁気分離、糖溶液の場合はイオン交換、刺激応答性高分子の場合はその刺激(温度、pH、電気、磁場、光など)を選択することができる。また、共通の分離方法として、例えば、蒸留、逆浸透膜処理が挙げられる。
【0067】
例えば、ドロー溶質が温度応答性高分子である場合、ドロー溶液を中空糸膜モジュールとは別のチャンバー内に流入させ、該チャンバー内のドロー溶液の温度を変化させることで、ドロー溶液に含まれるドロー溶質を水と分離させることができる。この場合、ドロー溶液の温度を変化させるだけで、ドロー溶質(温度応答性高分子)を容易に水から分離させ、回収することができる。また、回収後のドロー溶質は、容易に再利用(ドロー溶液等に再溶解)することができる。
【0068】
本発明の正浸透水処理方法は、水と分離したドロー溶質を回収する回収工程をさらに含むことが好ましい。ドロー溶質の回収は、例えば、膜分離装置、遠心分離装置、沈降分離装置などを用いて実施することができる。このドロー溶質の回収工程後に残存する水を回収することで、水処理方法の目的物である水を得ることができる。純粋な水が得られるようにドロー溶質の回収工程は多段階に分けて繰り返されてもよく、ドロー溶質の回収工程の後に、さらに得られる水の品質を高めるための処理を行ってもよい。
【0069】
なお、本発明の正浸透水処理方法は、回収工程で回収されたドロー溶質をドロー溶液中に再溶解させる再利用工程をさらに含んでいてもよい。
【0070】
本実施形態の正浸透水処理方法のように、複数の中空糸膜の中空部内に処理対象水(FS)を流すと共に、芯管を介して複数の中空糸膜の外側にDSを流す場合、中空糸膜モジュール内でのFSの濃度分布は、
図5に示されるような三次元的な分布となる。
【0071】
すなわち、中空糸膜モジュールの径方向の内側ほどFSの濃度が高い。これは、多孔分配管5から排出されたDSが径方向の外側に移動する過程で中空糸膜41内のFSからの水回収によって徐々に希釈されるため、中空糸膜モジュールの径方向の内側ほどDSの濃度が高く、FSの濃縮率も高いからである。また、中空糸膜モジュールの軸方向の出口側ほどFSの濃度が高い。これは、FSが中空糸膜の中空部内を中空糸膜モジュールの軸方向の出口側に移動する過程で濃縮されるためである。
【0072】
したがって、本実施形態の正浸透水処理方法では、中空糸膜モジュールの軸方向の出口側かつ径方向の内側の部位(
図2のIII)において、FSの濃縮率が最大値(最大濃縮率)となり、スケールが最も析出し易くなる。このため、この部位においてスケール析出が生じないように(この部位におけるFSの濃縮率が所定の閾値以下となるように)FS流量を調整すれば、FOモジュール全体においてスケールの析出を抑止することができる。
【0073】
本発明の中空糸膜エレメント、中空糸膜モジュールおよび正浸透処理方法は、FSからの水の回収率が高く、水処理や濃度差を駆動力としてエネルギーを生成する分野において極めて有用である。
【0074】
具体的には、本発明は、有機物の濃縮および回収、排水の濃縮による減容化、海水の淡水化などに利用することができる。
【0075】
また、本発明は、濃度差(浸透圧差)を駆動力として低濃度の水溶液から高濃度の加圧状態の水溶液へ半透膜を介して淡水を透過させ、透過した淡水により増加した加圧状態の高濃度の水溶液の流量と圧力でタービンを回すなどして電力等のエネルギーを生成させる浸透圧発電(PRO)に、好適に利用することができる。特に、海水または濃縮海水と淡水との濃度差による浸透圧を利用して電力を生成するPROなどに、好適に利用することができる。
【0076】
本発明をPROに適用することにより、中空糸膜モジュール内でのスケールの析出を抑止可能な最低FS流量が減少することで、FS流量を低減することが可能となるため、FSの供給に必要なエネルギーを考慮した正味の発電量を向上させることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
本実施例では、本発明をFO(正浸透水処理)に適用した場合について、以下の条件で最低FS流量およびFS回収率のシミュレーション計算を行った。
【0079】
まず、本実施例では、
図3に示されるような中空糸膜エレメント1本を圧力容器に装填してなる中空糸膜モジュール(直径:10インチ、有効長:1310mm)について、複数の中空糸膜の中空部内に処理対象水(FS)として水を流すと共に、芯管を介して複数の中空糸膜の外側にDS(濃度:70000ppm(約7質量%))を流すことを前提とした。
【0080】
また、中空糸膜エレメントとしては、
図1(a)に示されるような2層構造のものを用いることを前提とした。すなわち、本実施例では、複数の第1中空糸膜からなる第1中空糸膜層を芯管の周りに配置し、その周りに、複数の第2中空糸膜からなる第2中空糸膜層を配置した。中空糸膜エレメントの半径は5インチであり、全中空糸膜層の厚み(第1中空糸膜層の厚み+第2中空糸膜層の厚み)に対する第1中空糸膜層の厚みの比率は20%とした。また、第1中空糸膜と第2中空糸膜の充填率(下記式参照)がそれぞれ50%となるように、各層に充填する中空糸膜の本数を設定した。
【0081】
なお、複数の中空糸膜は芯管の周りに中空糸膜を螺旋状に巻回することにより中空糸膜を交差状に配置し、中空糸膜巻き上げ体を作製した。各中空糸膜の充填率は、下記式により算出した。
充填率(%)=π×(中空糸膜の外径)2/4(m2)×中空糸膜の総全長(m)/中空糸膜巻上げ体容積(m3)×100%
なお第1中空糸膜層と第2中空糸膜層のそれぞれの中空糸巻き上げ体の容積は、全体の中空糸巻き上げ体の容積を第1中空糸膜層と第2中空糸膜層のそれぞれの厚み比率に従って分配した。
【0082】
中空糸膜(第1中空糸膜および第2中空糸膜)の内径は105μm、外径は200μmとした。この場合、中空糸膜の中空率は約27.6%である。中空糸膜の充填率が50%となるように、充填する中空糸膜の本数を設定した。第2中空糸膜の透過係数は7.68×10-6[cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕]とし、第2中空糸膜の透過係数に対する第1中空糸膜の透過係数の減少率を0~80%の範囲で変化させた。
【0083】
図3を参照して、中空糸膜21の上流側の開口部に連通する供給口11から、規定量のFS(水)を供給し、中空糸膜21の下流側の開口部に連通する排出口12からFSを排出させる。FSの上記規定量は、中空糸膜層を厚み方向に10分割してそれぞれの回収率をシミュレーションした場合に、10分割された各層のうち、芯管に最も近い層でのFS回収率が80%になるように設定された。そのため、FS供給流量は、第1中空糸膜の透過係数の減少率によって変動する。一方、芯管20に連通する供給口10から、DS(NaCl濃度:70000ppm)を30L/分の流量(印加圧力:FS供給圧力+0.1MPa)で供給し、芯管20の複数の孔20aを通して中空糸膜21の外側3を通過させた後、中空糸膜21の外側3に連通する容器1の側面に配置された排出口13から排出させる。
【0084】
中空糸膜エレメント(中空糸膜モジュール)内における最大回収率(
図2のIIIの位置におけるFSからDSへの水の回収率)が80質量%となるときのFS流量を最低FS流量として算出した。また、最低FS流量でのFS回収率(中空糸膜モジュール全体におけるFSからDSへの水の総回収率)を算出した。
【0085】
最低FS流量およびFS回収率の各々の計算結果を
図6および
図7に示す。
図6および
図7に示される結果から、複数の第2中空糸膜の透過係数に対する複数の第1中空糸膜の透過係数の減少率(A値減少率)は、好ましくは0%超60%以下であり、より好ましくは5%以上55%以下であり、さらに好ましくは10%以上50%以下であると考えられる。この範囲において、中空糸膜エレメントを構成する第1中空糸膜と第2中空糸膜の透過係数が同じである場合(
図6および
図7でA値減少率が0%の場合)に比べて、最低FS流量を低減でき、FS回収率を向上させることができると考えられる。
【0086】
(実施例2)
本実施例では、本発明を
図8(a)に示されるようなPRO(正浸透発電)に適用した場合について、最低FS流量および正味発電量のシミュレーション計算を行った。
【0087】
中空糸膜モジュールについて、中空糸膜(第1中空糸膜および第2中空糸膜)の内径は135μm、外径は300μmとした。この場合、中空糸膜の中空率は20.25%である。第2中空糸膜の透過係数は2.18×10
-6[cm
3/〔cm
2・s・(kgf/cm
2)〕]とし、第2中空糸膜の透過係数に対する第1中空糸膜の透過係数の減少率を0~70%の範囲で変化させた。また、中空糸膜モジュールの有効長を1995mmとした。それ以外は実施例1と同様の中空糸膜モジュールを用いることを前提に、以下の条件でのPROを実施する場合について、最低FS流量および正味発電量のシミュレーション計算を行った。なお、実施例1と同様に、複数の中空糸膜の中空部内に処理対象水(FS)を流すと共に、芯管を介して複数の中空糸膜の外側にDSを流すことを前提とした(
図8(b)参照)。
【0088】
図3および
図8を参照して、中空糸膜21の上流側の開口部に連通する供給口11から、FSとして水を規定量供給し、中空糸膜21の下流側の開口部に連通する排出口12からFSを排出させる。FSの上記規定量は、中空糸膜層を厚み方向に10分割してそれぞれの回収率をシミュレーションした場合に、10分割された各層のうち、芯管に最も近い層でのFS回収率が80%になるように設定した。そのため、FS供給流量は、第1中空糸膜の透過係数の減少率によって変動する。一方、芯管20に連通する供給口10から、DS(濃度:200000ppm)を30L/分の流量(印加圧力:8MPa)で供給し、芯管20の複数の孔20aを通して中空糸膜21の外側3を通過させた後、中空糸膜21の外側3に連通する容器1の側面に配置された排出口13から排出させる。なお、
図8に示されるNF膜(オプション)によるFSのろ過(前処理)は、本実施例では行わないものとした。
【0089】
最低FS流量および正味発電量の各々の計算結果を
図9および
図10に示す。
図9および
図10に示される結果から、複数の第2中空糸膜の透過係数に対する複数の第1中空糸膜の透過係数の減少率(A値減少率)は、好ましくは0%超60%以下であり、より好ましくは5%以上55%以下であり、さらに好ましくは10%以上50%以下であると考えられる。この範囲において、最低FS流量を低減でき、FS回収率を向上させることができるという効果が、より確実に奏されると考えられる。また、本発明をPROに適用した場合に、正味発電量を向上させる効果が期待される。
【0090】
(実施例3-1)
本実施例では、濃度の異なる3種のDS(濃度:150000ppm、200000ppm、250000ppm)を用いたPRO(正浸透発電)について、膜透過流量、最低FS流量および正味発電量のシミュレーション計算を行った。
【0091】
本実施例では、第2中空糸膜の透過係数は2.18×10-6[cm3/〔cm2・s・(kgf/cm2)〕]とし、第2中空糸膜の透過係数に対する第1中空糸膜の透過係数の減少率を0~80%の範囲で変化させた。それ以外の点は実施例2と同様にして、計算を実施した。
【0092】
膜透過流量、最低FS流量および正味発電量の各々の計算結果を
図11~
図13に示す。すなわち、
図11は、第1中空糸膜層の厚みの比率と、スケール生成を抑止できる膜透過流量の最大値と、の関係を示すグラフである。
図12は、第1中空糸膜層の厚みの比率と、スケール生成を抑止できる最低FS流量と、の関係を示すグラフである。
図13は、第1中空糸膜層の厚みの比率と、スケール生成を抑止できる最低FS流量での正味発電量と、の関係を示すグラフである。
【0093】
図12に示される結果から、第1中空糸膜層の割合(中空糸膜モジュールの半径に対する第1中空糸膜層の厚みの比率)が30%以下の場合に、第1中空糸膜層(中空糸膜が低いA値を有する内側の層)の割合が増える程、最低FS流量が低減すると考えられる。なお、第1中空糸膜層の割合をそれ以上増やしても、最低FS流量を減少させる効果はあまり増大しないと考えられる。一方、
図11に示されるように、第1中空糸膜層の割合が増える程、中空糸膜モジュール全体での透過流量は減少してしまう。これらの観点から、FSの回収率を向上させるためには、第1中空糸膜層の割合(中空糸膜エレメントの半径に対する第1中空糸膜層の厚みの比率)は、好ましくは0%超30%以下であり、より好ましくは5%以上25%以下である。
【0094】
図13に示される正味発電量のシミュレーション結果から、本発明をPROに適用する場合において、第1中空糸膜層(内側の層)において透過係数の低い中空糸膜を用いることにより、正味発電量が向上すると考えられる。正味発電量は、総発電量から発電に必要なエネルギー(DSおよびFSの供給に必要な電力など)を差し引いた発電量であり、本発明によって最低FS流量を低減することができるため、正味発電量を向上することができると考えられる。
【0095】
(実施例3-2)
本実施例では、
図8におけるオプションのNF膜によるFSの前処理を行う場合について、この前処理に必要な消費電力を考慮して(総発電量から差し引いて)、正味発電量を計算した。それ以外の点は、実施例3と同様の条件で、正味発電量(前処理勘案正味発電量)のシミュレーション計算を行った。計算結果を
図14に示す。
【0096】
図14に示される結果から、第1中空糸膜層(内側の層)において透過係数の低い中空糸膜を用いることにより、第1中空糸膜層の厚みの比率が30%以下の場合に、正味発電量が増加することが分かる。この増加は、実施例3-1(
図13)より顕著であり、FSの前処理に必要なエネルギーを考慮すれば、本発明による最低FS流量の減少による正味発電量の向上効果はより有益な効果であることが分かる。
【0097】
また、
図12~
図14に示される結果から、DS印加圧力が8MPaの場合には、DSの濃度が200000ppm(約20質量%)以上であれば、本発明による最低FS流量の低減効果、正味発電量の向上効果などが、より顕著に奏されることが読み取れる。なお、DS濃度が変化すれば、最適なDS印加圧力も変化する。
【0098】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
1 容器、10,11 供給口、12,13 排出口、14,15,51,52 壁部材、20 芯管、21 中空糸膜、21a 第1中空糸膜層、21b 第2中空糸膜層、21c 第3中空糸膜層、211 第1中空糸膜、212 第2中空糸膜、213 第3中空糸膜、23 交差部、3 中空糸膜の外側、41,42 樹脂壁。