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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/44 20210101AFI20221012BHJP
   B22F 12/41 20210101ALI20221012BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20221012BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20221012BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20221012BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221012BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221012BHJP
【FI】
B22F12/44
B22F12/41
B22F10/28
B29C64/268
B29C64/153
B33Y30/00
B33Y10/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018210340
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020076128
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 直矢
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0232355(US,A1)
【文献】特表2015-507092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料に対するエネルギビームの照射が行われる照射空間を形成する造形筐体部と、
前記エネルギビームのためのビーム源を収容するビーム源空間を形成するビーム源筐体部と、
前記造形筐体部と前記ビーム源筐体部との間に配置され、下部穴を介して前記造形筐体部の前記照射空間に連通すると共に、上部穴を介して前記ビーム源筐体部の前記ビーム源空間に連通する空間を形成する連結筐体部と、を備え、
前記造形筐体部、前記ビーム源筐体部及び前記連結筐体部は、前記照射空間及び前記ビーム源空間を含む減圧可能な閉鎖空間を形成し、
前記連結筐体部には、前記連結筐体部の内部にガスを供給するガス供給部が設けられ、
前記造形筐体部には、前記造形筐体部の内部である前記照射空間を減圧する造形排気部が設けられ、
前記ビーム源筐体部には、前記ビーム源筐体部の内部である前記ビーム源空間を減圧するビーム源排気部が設けられる、三次元造形装置。
【請求項2】
前記連結筐体部には、前記ガス供給部と、前記エネルギビームを制御するビーム制御部と、が設けられる、請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記連結筐体部は、前記エネルギビームの出射軸の方向に沿って、前記ビーム源筐体部側に形成された上流室と、前記造形筐体部側に形成された下流室と、前記上流室と前記下流室とを仕切る仕切り板と、を有し、
前記上流室には、前記ガス供給部が設けられ、
前記下流室には、前記エネルギビームを制御するビーム制御部が設けられる、請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記連結筐体部は、前記エネルギビームの出射軸の方向に沿って、前記ビーム源筐体部側に配置された上流室と、前記造形筐体部側に配置された下流室と、前記上流室と前記下流室とを仕切る仕切り板と、を有し、
前記上流室には、前記エネルギビームを制御するビーム制御部が設けられ、
前記下流室には、前記ガス供給部が設けられる、請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項5】
前記連結筐体部は、前記エネルギビームを制御するビーム制御部及び前記ガス供給部が設けられる複合室を有する、請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項6】
前記ビーム源は、カソードとアノードとを有し、
前記ビーム源筐体部は、前記カソードと前記アノードとを収容する、請求項1~の何れか一項に記載の三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2は、三次元造形装置に関する技術を開示する。例えば、特許文献1は、造形装置に用いる電子線源を開示する。また、特許文献2は、真空室および/または電子ビーム源の汚染の問題を提示し、電子ビーム源が配置される第2セクションの圧力と、粉末材料が配置される第1セクションの圧力との関係を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-216182号公報
【文献】特開2017-532719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空環境下に配置された粉末材料に対してエネルギビームを照射すると、粉末材料に起因するイオンが発生する。このイオンは、エネルギビームを発生させるビーム源に衝突して、当該ビーム源にダメージを与えることがある。
【0005】
そこで、本発明は、ビーム源が受けるダメージを抑制する三次元造形装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る三次元造形装置は、粉末材料に対するエネルギビームの照射が行われる照射空間を形成する造形筐体部と、エネルギビームのためのビーム源を収容するビーム源筐体部と、造形筐体部とビーム源筐体部との間に配置され、造形筐体部に連通すると共にビーム源筐体部に連通する連結筐体部と、を備え、造形筐体部、ビーム源筐体部及び連結筐体部は、照射空間を含む減圧可能な閉鎖空間を形成し、連結筐体部には、連結筐体部の内部にガスを供給するガス供給部が設けられ、造形筐体部には、造形筐体部の内部を減圧する造形排気部が設けられる。
【0007】
ビーム源から出射されたエネルギビームを粉末材料に照射すると、イオンが生じる。このイオンは、荷電粒子であるので、ビーム源に向かって移動することがあり得る。つまり、造形筐体部から連結筐体部を介してビーム源筐体部へ向かうイオンの移動が生じ得る。ここで、減圧された連結筐体部の内部にガス供給部からガスが供給されると、連結筐体部の圧力は、造形筐体部及びビーム源筐体部の圧力よりも相対的に高くなる。そして、造形排気部が造形筐体部の内部を減圧すると、連結筐体部から造形筐体部へ向かうガスの流れが生じる。つまり、ガスの流れの向きは、イオンの移動の向きと逆である。その結果、ガスの流れは、ビーム源筐体部へ向かうイオンの移動を妨げる。従って、ビーム源筐体部へ到達するイオンの数が減少するので、ビーム源筐体部に収容されたビーム源が受けるダメージを抑制することができる。
【0008】
一態様において、ビーム源筐体部には、ビーム源筐体部の内部を減圧するビーム源排気部が設けられてもよい。この構成によれば、ビーム源筐体部が効率よく減圧される。その結果、ビーム源に起因するエネルギビームの発生効率の低下を抑制できる。
【0009】
一態様において、連結筐体部には、ガス供給部と、エネルギビームを制御するビーム制御部と、が設けられてもよい。この構成によれば、粉末材料に対して所望の態様を有するエネルギビームを照射することができる。
【0010】
一態様において、連結筐体部は、エネルギビームの出射軸の方向に沿って、ビーム源筐体部側に形成された上流室と、造形筐体部側に形成された下流室と、を有し、上流室には、ガス供給部が設けられ、下流室には、エネルギビームを制御するビーム制御部が設けられてもよい。この構成によれば、イオンの移動を良好に妨げることが可能になる。その結果、ビーム源に到達するイオンが少なくなるので、ビーム源が受けるダメージを抑制することができる。
【0011】
一態様において、連結筐体部は、エネルギビームの出射軸の方向に沿って、ビーム源筐体部側に配置された上流室と、造形筐体部側に配置された下流室と、を有し、上流室には、エネルギビームを制御するビーム制御部が設けられ、下流室には、ガス供給部が設けられてもよい。この構成によっても、イオンの移動が良好に妨げられるので、ビーム源が受けるダメージを抑制することができる。
【0012】
一態様において、連結筐体部は、エネルギビームを制御するビーム制御部及びガス供給部が設けられる複合室を有してもよい。この構成によっても、イオンの移動が良好に妨げられるので、ビーム源が受けるダメージを抑制することができる。
【0013】
一態様において、ビーム源は、カソードとアノードとを有し、ビーム源筐体部は、カソードとアノードとを収容してもよい。この構成によれば、ビーム源は、エネルギビームを良好に出射することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビーム源が受けるダメージを抑制できる三次元造形装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る三次元造形装置の構成を示す図である。
図2図2は、本発明に係る三次元造形装置の動作を示す図である。
図3図3は、本発明に係る三次元造形装置の圧力分布を示す概略図である。
図4図4は、変形例に係る三次元造形装置の構成を示す図である。
図5図5は、別の変形例に係る三次元造形装置の構成を示す図である。
図6図6は、別のいくつかの変形例に係る三次元造形装置が備えるガス供給部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示す三次元積層造形物製造装置(以下「三次元造形装置1」という)は、いわゆる3Dプリンタである。三次元造形装置1は、層状に配置した粉末材料101にエネルギを付与する。換言すると、三次元造形装置1は、粉末材料101の温度を上昇させる。その結果、粉末材料101は溶融又は焼結する。そして、三次元造形装置1がエネルギの付与を停止すると、溶融した粉末材料101の温度が下がるので、固化する。つまり、三次元造形装置1は、エネルギの付与と停止とを複数回繰り返すことにより、被製造物102を製造する。
【0018】
なお、粉末材料101は、金属粉末であり、例えばチタン系金属粉末、インコネル粉末、アルミニウム粉末等である。また、粉末材料101は、金属粉末に限定されず、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など、炭素繊維と樹脂とを含む粉末であってもよい。また、粉末材料101は、導電性を有するその他の粉末でもよい。
【0019】
被製造物102は、例えば機械部品である。なお、被製造物102は、その他の構造物であってもよい。
【0020】
三次元造形装置1は、電子発生源2と、造形室3と、陽圧部4と、を有する。陽圧部4は、電子発生源2と造形室3との間に配置されている。つまり、陽圧部4は、電子発生源2の下流側に配置されていると言えるし、陽圧部4は、造形室3の上流側に配置されていると言える。ここで言う「上流」及び「下流」とは、電子ビーム103の出射方向を基準とした見方である。電子発生源2は、電子ビーム103(エネルギビーム)を発生させ、当該電子ビーム103を陽圧部4を介して造形室3に提供する。造形室3は、粉末材料101を収容し、電子ビーム103を受けて粉末材料101を溶融及び固化させる造形空間S1(照射空間)を形成する。
【0021】
電子発生源2は、電子銃6を有する。電子銃6は、電源6a、6f、6gと、カソード6bと、アノード6cと、フィラメント6dと、グリッド電極6eと、を有する。電源6aは、グリッド電極6e及びアノード6cに電気的に接続されている。具体的には、電源6aの負極はグリッド電極6eに接続される。電源6aの正極は接地されると共にアノード6cに接続されている。電源6aは、グリッド電極6eとアノード6cとの間に電位差を生じさせる。この電位差は、加速電圧である。電源6aは、グリッド電極6eに例えば-60kVの電圧を提供すると共に、アノード6cにゼロボルト(接地電位)を提供する。従って、加速電圧は、例えば-60kVである。
【0022】
カソード6bは、フィラメント6dによって加熱される。加熱の結果、カソード6bは熱電子を放出する。熱電子は、マイナスの電荷を有し、アノード6cによって加速される。換言すると、熱電子は、カソード6b及びアノード6c間の電位差に応じて加速される。加速された熱電子は、電子ビーム103を構成する。電子ビーム103が出射される方向、つまり熱電子が加速される方向は、電子発生源2の出射方向である。そして、電子発生源2の出射方向を代表する仮想的な軸は、出射軸Aである。
【0023】
電子発生源2は、さらにビーム源筐体7(ビーム源筐体部)と、ビーム源ポンプ8(ビーム源排気部)と、を有する。
【0024】
ビーム源筐体7は、カソード6b、アノード6c、フィラメント6d及びグリッド電極6eを収容するビーム源空間S2を形成する。ビーム源筐体7は、フィラメント6dが取り付けられた上面と、当該上面に対向する下面とを有する。そして、下面には、ビーム源穴7aを有する。ビーム源穴7aは、下面において電子ビーム103の出射軸Aを含む領域に設けられる。つまり、ビーム源穴7aは、電子ビーム103を通過させる。また、下面において、ビーム源穴7aの周囲には、アノード6cが配置されている。
【0025】
ビーム源ポンプ8は、ビーム源空間S2に存在するガスを排気する。換言すると、ビーム源ポンプ8は、ビーム源空間S2を減圧する。ビーム源ポンプ8は、いわゆる真空ポンプである。ビーム源筐体7の内部のガスを排気する、つまりビーム源筐体7の内部を高真空状態とすることにより、高温のカソード6bとガスとの化学反応の発生が抑制される。従って、カソード6bの表面に化合物による膜が生じることが抑制される。その結果、カソード6bから放出される熱電子の数の低下を抑制できる。
【0026】
造形室3は、テーブル9と、昇降装置11と、粉末供給装置12と、を有する。
【0027】
テーブル9は、例えば板状を成し、被製造物102の原料である粉末材料101が配置される。テーブル9は、平面視において、矩形状である。テーブル9の形状は、矩形に限定されない。テーブル9は、円形でもよいし、その他の形状でもよい。昇降装置11は、テーブル9を昇降させる。昇降装置11は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含む。なお、昇降装置11は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の機構であってもよい。粉末供給装置12は、粉末材料101を、例えば層状に複数回に分けてテーブル9の上に配置する。粉末供給装置12は、原料タンク12aと、粉末塗布機構12bとを備える。原料タンク12aは、粉末材料101を貯留すると共にテーブル9上に粉末材料101を供給する。粉末塗布機構12bは、テーブル9上の粉末材料101の表面を均す。なお、三次元造形装置1は、粉末塗布機構12bに替えて、ローラー部、棒状部材、刷毛部などを備える機構を採用してもよいし、粉末材料101を散布する機構を採用してもよい。
【0028】
造形室3は、さらに、造形筐体13(造形筐体部)と、造形ポンプ14(造形排気部)と、を有する。造形筐体13は、テーブル9、昇降装置11及び粉末供給装置12を収容する造形空間S1を形成する。造形筐体13は、陽圧部4が連結された造形上面を有する。この造形上面には、造形穴13aが設けられる。造形穴13aは、造形上面において電子ビーム103の出射軸Aを含む領域に設けられる。つまり、造形穴13aは、電子ビーム103を通過させる。
【0029】
造形ポンプ14は、造形筐体13の造形空間S1に存在するガスを排気し、造形空間S1の圧力を所定の値に設定する。造形ポンプ14は、いわゆる真空ポンプである。
【0030】
陽圧部4は、電子発生源2と造形室3との間に圧力の高い部分を形成する。ここで言う圧力が高いとは、陽圧部4の圧力が、電子発生源2の圧力及び造形室3の圧力よりも高いことを言う。つまり、本実施形態における陽圧部4(陽圧空間S3)の「陽圧」とは、陽圧部4の圧力と電子発生源2の圧力との関係及び陽圧部4の圧力と造形室3の圧力との関係を意味するものであるので、三次元造形装置1の外部の空間の圧力や、大気圧よりも圧力が高い状態を意味するものではない。陽圧部4内(陽圧空間S3)の圧力は、三次元造形装置1の外部の空間の圧力や、大気圧よりも低い圧力であってよいし、真空といわれる範囲内の圧力でもよく、例えば低真空状態であってもよい。電子発生源2の圧力が高真空であるのに対し、陽圧部4が低真空であってもよい。陽圧部4は、電子発生源2と造形室3との間に配置される。換言すると、陽圧部4は、電子ビーム103の出射軸Aの方向において電子発生源2の下流側に配置される。また、陽圧部4は、電子ビーム103の出射軸Aの方向において造形室3の上流側に配置される。
【0031】
陽圧部4は、陽圧筐体16(連結筐体部)と、ビーム整形部17(ビーム制御部)と、ガス供給部18と、圧力調整部19と、を有する。
【0032】
陽圧筐体16は、仕切り板22を有する。陽圧筐体16は、当該仕切り板22によって互いに隔てられた陽圧空間S3(上流室)及びビーム整形空間S4(下流室)を含む。陽圧空間S3は、電子発生源2に隣接する。ビーム整形空間S4は、造形室3に隣接する。仕切り板22は、出射軸Aと交差する位置を含む領域に形成された中央陽圧穴16aを有する。また、陽圧筐体16において、ビーム源筐体7側の端面には、上部陽圧穴16bが設けられる。上部陽圧穴16bは、ビーム源穴7aと連通する。つまり、ビーム源筐体7及び陽圧筐体16は、ビーム源穴7a及び上部陽圧穴16bによって互いに連通する。造形筐体13側の端面には、下部陽圧穴16cが設けられる。下部陽圧穴16cは、造形穴13aと連通する。つまり、造形筐体13及び陽圧筐体16は、造形穴13a及び下部陽圧穴16cによって互いに連通する。従って、ビーム源筐体7、造形筐体13及び陽圧筐体16は、気密に構成されたひとつの閉鎖空間Sを形成する。換言すると、閉鎖空間Sは、造形空間S1と、ビーム源空間S2と、陽圧空間S3と、ビーム整形空間S4と、を含む。
【0033】
なお、上記の説明では、三次元造形装置1は、ビーム源筐体7、造形筐体13及び陽圧筐体16がそれぞれ別個の部品であるように説明した。例えば、三次元造形装置1は、少なくとも一個の筐体において、当該筐体の内部を貫通孔を有する仕切り板によって隔てることにより、ビーム源筐体部、造形筐体部及び陽圧筐体部を構成することとしてもよい。
【0034】
ビーム整形部17は、電子発生源2から出射された電子ビーム103を整形する。
【0035】
ビーム整形部17は、陽圧筐体16において、ビーム整形空間S4を形成する側壁部に配置される。ビーム整形部17は、電子発生源2の前方領域に磁場を形成する。前方領域とは、電子ビーム103の出射軸Aの方向における前方(下流側)の領域である。ビーム整形部17は、収差修正コイル17aと焦点コイル17bと偏向コイル17cを含む。収差修正コイル17a、焦点コイル17b及び偏向コイル17cは、電子ビーム103の出射軸Aの方向において、例えば電子発生源2側からこの順番で配置されている。また、収差修正コイル17a、焦点コイル17b及び偏向コイル17cは、電子発生源2から出射される電子ビーム103を囲むように配置されている。収差修正コイル17aは、電子ビーム103の非点収差を補正する。焦点コイル17bは、電子ビーム103を細く収束する。偏向コイル17cは、収束された電子ビーム103を偏向する。電磁的なビーム偏向は、機械的なビーム偏向と比べて、走査速度を高速にし得る。このような構成によれば、電子発生源2から出射された電子ビーム103は、収差修正コイル17aにより非点収差が補正され、焦点コイル17bにより細く収束され、偏向コイル17cにより偏向された後に、所定の位置に照射される。
【0036】
ガス供給部18は、陽圧空間S3に配置される。つまり、ガス供給部18は、電子発生源2より下流側(造形室3の側)に配置されていると言えるし、カソード6b及びアノード6cより下流側に配置されているとも言える。さらに、ガス供給部18は、造形室3より上流側(電子発生源2の側)に配置されていると言いえるし、後述するビーム整形部17よりも上流側(電子発生源2の側)に配置されているとも言える。
【0037】
ガス供給部18は、ガスタンク18aと、ガスバルブ18bと、を有する。ガスタンク18aは、三次元造形装置1に提供されるガスを収容する。ガスは、例えば、水素ガスまたはヘリウムガスといった原子数の小さいガスである。以下では、ガス供給部18が供給するガスを水素として説明しているが、ガスは水素には限定されず、その他のガス、例えばヘリウムガスなどであってもよい。ガスバルブ18bは、ガスの供給開始と供給停止とを制御する。
【0038】
圧力調整部19は、陽圧空間S3の圧力を調整する。圧力調整部19は、陽圧筐体16において陽圧空間S3を形成する部分に配置される。圧力調整部19は、排気調整バルブ19aと、陽圧ポンプ19bと、を有する。
【0039】
以下、三次元造形装置1の動作について説明する。
【0040】
三次元造形装置1は、電源6aを制御して、フィラメント6dに電流を供給する。具体的には、図1及び図2に示されるように、フィラメント6dの先端にカソード6bが設けられている。そして、電源6aは、フィラメント6d及びアノード6cにそれぞれに接続されている。例えば、電源6aの一端は、アノード6cに接続され、他端は電源6fを介してグリッド電極6eに接続されている。グリッド電極6eは、電子抑制電極であり、カソード6bから提供される電流量を制御する。電源6aは、アノード6cとグリッド電極6eとの間に、電源6a、6fに対応する電位差を生じさせる。また、電源6aの他端は、フィラメント6dの一端に接続されると共に、電源6gを介してフィラメント6dの他端に接続される。その結果、フィラメント6dは、電源6gに対応する電流が生じる。そうすると、フィラメント6dの温度が上昇し、当該フィラメント6dの温度上昇に伴って、カソード6bの温度も上昇する。このカソード6bの温度上昇によって、熱電子P1が発生する。さらに、三次元造形装置1は、カソード6bに所定の電圧(-60kV)を提供すると共に、アノード6cにも所定の電圧(ゼロボルト)。そうすると、負の電荷を有する熱電子P1は、カソード6bに対して相対的に高い電位を有するアノード6cに引張られる。つまり、アノード6cは、熱電子P1を加速させる。その結果、複数の加速された熱電子P1による電子ビーム103が出射される。
【0041】
電子ビーム103は、ビーム源空間S2から陽圧空間S3に導かれる。さらに、電子ビーム103は、陽圧空間S3からビーム整形空間S4に導かれる。ここで、電子ビーム103は、ビーム整形空間S4のビーム整形部17によって、整形される。さらに、電子ビーム103は、造形空間S1に導かれる。そして、電子ビーム103は、粉末材料101に照射される。粉末材料101に電子ビーム103が照射されると、粉末材料101の温度が上昇し、当該温度が融点を超えると粉末材料101が溶融する。
【0042】
粉末材料101に電子ビーム103を照射したとき、当該粉末材料101のイオンP2が発生することがある。粉末材料101が金属である場合には、比較的質量の大きい金属イオンが発生する。イオンP2は、電子ビーム103の出射軸Aの方向(熱電子P1の移動方向)に対して逆方向に移動することも生じ得る。イオンP2はプラスの電荷を有するので、アノード6cが発生する電界によって加速されて、カソード6bに衝突することもあり得る。金属イオンは質量が大きいので、衝突によりカソード6bが受けるダメージは増大しやすい。
【0043】
ここで、実施形態の三次元造形装置1は、電子発生源2と造形室3との間に設けられた陽圧部4を有する。陽圧部4には、ガス供給部18から水素ガスGが供給される。造形筐体13に設けられた造形ポンプ14が動作して、造形室3の排気が行われると、陽圧部4から造形室3に向かう水素P3の流れが生じる。この水素P3の移動の向きは、上述した造形室3から電子発生源2へ向かうイオンP2の移動方向とは逆向きである。従って、陽圧部4から造形室3に向かう当該水素P3の流れによって、イオンP2の移動が阻害される。従って、電子発生源2へ到達するイオンP2の数が低減されるので、カソード6bが受けるダメージを好適に低減することができる。
【0044】
また、実施形態の三次元造形装置1が奏する作用効果は、以下のように説明することも可能である。つまり、ビーム源筐体7、造形筐体13、陽圧筐体16は、細い穴(ビーム源穴7a、造形穴13a、上部陽圧穴16b、下部陽圧穴16c)によって、互いに連通する。そして、ビーム源ポンプ8、造形ポンプ14及び陽圧ポンプ19bによって排気される。この構成によれば、図3に示されるように、ビーム源筐体7の圧力B2、造形筐体13の圧力B4、陽圧筐体16の圧力B3の間において、所定の圧力差を保つことができる。
【0045】
その結果、電子発生源2と造形室3との間に、電子発生源2の圧力B2及び造形室3の圧力B3よりも大きい圧力B4の領域が形成される。例えば、造形室3と陽圧部4との間には、出射軸Aの方向に沿って負の圧力勾配が形成されているといえる。ここで、造形室3に存在する粒子が電子発生源2に移動する場合を想定する。この移動にあっては、造形室3の圧力B3と陽圧部4の圧力B4の圧力差に逆らう必要があるので、造形室3から電子発生源2への粒子の移動が阻害される。従って、電子発生源2へ到達するイオンP2の数が低減されるので、カソード6bが受けるダメージを好適に低減することができる。
【0046】
また、ビーム源筐体7には、ビーム源筐体7の内部を減圧するビーム源ポンプ8が設けられる。この構成によれば、ビーム源筐体7の内部が効率よく減圧される。その結果、カソード6bにおける熱電子P1の発生効率を高めることができる。
【0047】
陽圧筐体16には、ガス供給部18と、電子ビーム103を整形するビーム整形部17と、が設けられる。この構成によれば、粉末材料101に対して所望の態様を有する電子ビーム103を照射することができる。
【0048】
陽圧筐体16は、電子ビーム103の出射軸Aの方向に沿って、ビーム源筐体7の側に形成された陽圧空間S3と、造形筐体13の側に形成されたビーム整形空間S4と、を有する。陽圧空間S3には、ガス供給部18が設けられる。ビーム整形空間S4には、電子ビーム103を整形するビーム整形部17が設けられる。この構成によれば、イオンP2の移動を良好に妨げることが可能になる。その結果、カソード6bに到達するイオンP2が少なくなるので、電子銃6のダメージを抑制することができる。
【0049】
本発明に係る三次元造形装置は、上記実施形態に限られない。
【0050】
例えば、図4に示すように、三次元造形装置1Aは、上記実施形態とは異なる陽圧部4Aを有する。陽圧部4Aは、電子ビーム103の出射軸Aの方向に沿って、ビーム源筐体7の側に形成されたビーム整形空間S4と、造形筐体13の側に形成された陽圧空間S3と、を有する。そして、陽圧筐体16において、陽圧空間S3を形成する側壁には、ガス供給部18及び圧力調整部19が設けられる。また、陽圧筐体16において、ビーム整形空間S4を形成する側壁には、ビーム整形部17が設けられる。つまり、陽圧部4Aにおいて、ガス供給部18及びビーム整形部17が設けられる位置が、三次元造形装置1に対して逆になっている。このような構成においても、ビーム源筐体7へ到達するイオンの数が減少するので、ビーム源筐体7に収容されたカソード6bが受けるダメージを抑制することができる。
【0051】
例えば、図5に示すように、三次元造形装置1Bは、上記実施形態とは異なる陽圧部4Bを有する。陽圧部4Bは、複合空間S5(複合室)を有する。そして、陽圧筐体16において複合空間S5を形成する側壁には、電子ビーム103を整形するビーム整形部17及びガス供給部18が設けられる。つまり、変形例2に係る三次元造形装置1Bは、陽圧部4Bがひとつの空間を形成する点で、三次元造形装置1とは異なっている。このような構成においても、ビーム源筐体7へ到達するイオンの数が減少するので、ビーム源筐体7に収容されたカソード6bが受けるダメージを抑制することができる。
【0052】
例えば、図1及び図6の(a)部に示すように、ガス供給部18は、陽圧空間S3に加えて、ビーム整形空間S4に水素ガスGを提供する構成を有してもよい。つまり、ガスバルブ18bから延びるガス導入管は、陽圧筐体16に接続される。さらに、当該ガス導入管から分岐する分岐ガス導入管は、ビーム整形部17に接続される。このような構成によれば、ガスバルブ18bの開閉制御によって、陽圧空間S3及びビーム整形空間S4に対して同時に水素ガスGを提供することができる。
【0053】
例えば、図6の(b)部に示すように、ガス供給部18Aは、ガスバルブ18bに代えて、ガスバルブ18dを有してもよい。ガスバルブ18dは、陽圧空間S3及びビーム整形空間S4のいずれか一方に対して、選択的に水素ガスGを供給する。
【0054】
例えば、図6の(c)部に示すように、ガス供給部18Bは、ガスタンク18aとガスバルブ18bとを接続するガス導入管から分岐すると共に、ガスバルブ18cを有するガス導入管を有してもよい。この構成によれば、ガスバルブ18b、18cを制御することにより、水素ガスGを陽圧空間S3のみに提供し、ビーム整形空間S4に提供しない第1の態様と、水素ガスGをビーム整形空間S4のみに提供し、陽圧空間S3に提供しない第2の態様と、水素ガスGを陽圧空間S3及びビーム整形空間S4に同時に提供する第3の態様と、を取り得る。
【0055】
例えば、図6の(d)部に示すように、ガス供給部18Cは、ビーム整形空間S4に水素ガスGを提供し、陽圧空間S3には水素ガスGを提供しない構成としてもよい。つまり、ガス供給部18Cは、ビーム整形部17に接続されたガスバルブ18cを有する。
【0056】
また、陽圧部の一部は、造形筐体13に入り込んでいてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1,1A,1B 三次元造形装置
2 電子発生源
3 造形室
4,4A,4B 陽圧部
6 電子銃
6a,6f,6g 電源
6b カソード
6c アノード
6d フィラメント
6e グリッド電極
7 ビーム源筐体(ビーム源筐体部)
7a ビーム源穴
8 ビーム源ポンプ(ビーム源排気部)
9 テーブル
11 昇降装置
12 粉末供給装置
12b 粉末塗布機構
12a 原料タンク
13 造形筐体(造形筐体部)
13a 造形穴
14 造形ポンプ(造形排気部)
16 陽圧筐体(連結筐体部)
17 ビーム整形部(ビーム制御部)
17a 収差修正コイル
17b 焦点コイル
17c 偏向コイル
18,18A,18B,18C ガス供給部
18a ガスタンク
18b,18c,18d ガスバルブ
19 圧力調整部
19a 排気調整バルブ
19b 陽圧ポンプ
22 仕切り板
4A 陽圧部
16a 中央陽圧穴
16b 上部陽圧穴
16c 下部陽圧穴
101 粉末材料
102 被製造物
103 電子ビーム(エネルギビーム)
A 出射軸
G 水素ガス
S 閉鎖空間
S1 造形空間(照射空間)
S2 ビーム源空間
S3 陽圧空間(上流室)
S4 ビーム整形空間(下流室)
S5 複合空間(複合室)
P1 熱電子
P2 イオン
P3 水素
図1
図2
図3
図4
図5
図6