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特許7155900蓄放熱層形成用組成物、該組成物を用いた蓄放熱層、及び蓄放熱積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】蓄放熱層形成用組成物、該組成物を用いた蓄放熱層、及び蓄放熱積層体
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/02 20060101AFI20221012BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221012BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20221012BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20221012BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221012BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20221012BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C09K5/02
C08L101/00
C08K5/17
C08L33/00
C08L67/00
C08L63/00 C
B32B27/18 Z
B32B7/027
B32B27/30 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018211453
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020076031
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 直宏
(72)【発明者】
【氏名】安藤 類
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077768(JP,A)
【文献】特開昭61-233904(JP,A)
【文献】特表2018-507773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/06
C08L 101/00
C08K 5/17
C08L 33/00
C08L 67/00
C08L 63/00
B32B 27/18
B32B 7/027
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)、樹脂(B)、及び有機溶剤(C)を含む蓄放熱層形成用組成物であって、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が1~20μmである、蓄放熱層形成用組成物。
【請求項2】
25℃における有機溶剤(C)に対する樹脂(B)の溶解度が、10質量%以上である、請求項1に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【請求項3】
25℃における水に対する樹脂(B)の溶解度が、5質量%以下である、請求項1又は2に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【請求項4】
前記樹脂(B)が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1~3いずれか1項に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【請求項5】
前記2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)の含有量が、組成物中の全固形分に対して50~90質量%である、請求項1~4いずれか1項に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載の蓄放熱層形成用組成物から形成されてなる蓄放熱層であって、蓄放熱層中の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が、1~20μmである蓄放熱層。
【請求項7】
蓄放熱層の含水率が7.5%以下である、請求項に記載の蓄放熱層。
【請求項8】
少なくとも基材と、請求項又はに記載の蓄放熱層とを有する、蓄放熱積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄放熱層形成用組成物、該組成物を用いた蓄放熱層、及び蓄放熱積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より効率的な熱利用を目的として、発生した熱エネルギーを蓄熱し、蓄えていた熱を状況に合わせて発熱させる技術が求められている。特許文献1には、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールをはじめとする蓄熱材と樹脂とを含む熱エネルギー貯蔵材料が記載されている。しかし単に樹脂と蓄熱材を混合しただけでは、蓄熱材の平均一次粒子径が大きいため、均一なシート状態は得られない。また、蓄放熱性が劣り、蓄放熱エネルギー量が小さいこと、更に蓄放熱の繰り返し試験で発熱しないケースが多発し、安定した繰り返しの蓄放熱性は得られない。
また、特許文献2には、樹脂マトリクス中に蓄熱材が分散した蓄熱シートが記載されている。しかし、蓄熱材としてパラフィンを樹脂からなる外殻を用いてマイクロカプセル化したもの用いているため、固体-液体相転移である相変化による溶融時の染み出しや、体積変化が発生するため、シートの形状維持が困難であるだけでなく、蓄放熱性にも劣る。そのためカプセル化を必要とするが、カプセル化する手法では良好なシート状態を得るためには蓄熱材の含有量を低めに設定せざるを得ず、蓄放熱性は低下する。また、カプセルの外殻部分は蓄放熱性を有していないため、蓄放熱性をより低下させてしまう。さらに、カプセル化には製造工程の煩雑さや高コスト化する課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-233904号公報
【文献】国際公開第2017/221727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、蓄熱量及び発熱量が高く、優れた蓄放熱の繰り返し耐性を有し、さらに、基材への密着性に優れた蓄放熱層形成用組成物、並びに、該組成物を用いた蓄放熱層、及び蓄放熱積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の発明〔1〕~〔9〕に関する。
【0006】
〔1〕 2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)、樹脂(B)、及び有機溶剤(C)を含む蓄放熱層形成用組成物であって、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が1~20μmである、蓄放熱層形成用組成物。
【0007】
〔2〕 25℃における有機溶剤(C)に対する樹脂(B)の溶解度が、10質量%以上である、〔1〕に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【0008】
〔3〕 25℃における水に対する樹脂(B)の溶解度が、5質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【0009】
〔4〕 前記樹脂(B)が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、〔1〕~〔3〕いずれか1項に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【0010】
〔5〕 前記2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)の含有量が、組成物中の全固形分に対して50~90質量%である、〔1〕~〔4〕いずれか1項に記載の蓄放熱層形成用組成物。
【0011】
〔6〕 2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)、樹脂(B)、及び有機溶剤(C)を含む蓄放熱層形成用組成物の製造方法であって、
前記2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)、樹脂(B)、及び有機溶剤(C)の混合物をメディア分散機によって分散することを特徴とする、蓄放熱層形成用組成物の製造方法。
【0012】
〔7〕 〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の蓄放熱層形成用組成物から形成されてなる蓄放熱層であって、蓄放熱層中の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が、1~20μmである蓄放熱層。
【0013】
〔8〕 蓄放熱層の含水率が7.5%以下である、〔7〕に記載の蓄放熱層。
【0014】
〔9〕 少なくとも基材と、〔7〕又は〔8〕に記載の蓄放熱層とを有する、蓄放熱積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、蓄熱量及び発熱量が高く、優れた蓄放熱の繰り返し耐性を有し、さらに、基材への密着性に優れた蓄放熱層形成用組成物、並びに、該組成物を用いた蓄放熱層、及び蓄放熱積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の蓄放熱層形成用組成物は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)、樹脂(B)、及び有機溶剤(C)を含み、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が1~20μmであることを特徴とする。2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールが、平均一次粒子径1~20μmの微細粒子であることにより、樹脂中に均一に分散させることができ、体積変化が少なく、凹凸やムラの少ない良好な塗膜状態である蓄放熱層を形成することができる。これにより、優れた蓄熱量、発熱量、及び蓄放熱の繰り返し耐性を発揮し、さらには、優れた基材密着性を発揮する。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0017】
<2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)>
本発明の蓄放熱層形成用組成物は、蓄放熱材料として平均一次粒子径が1~20μmである2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む。このような微細な2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの粒子を含むことにより、蓄放熱層とした場合の、蓄放熱層中の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が1~20μmとなり、優れた蓄熱量、発熱量、蓄放熱の繰り返し耐性、さらに基材への密着性を達成することができる。
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールは、固体-固体相転移による相変化により蓄放熱性を発現する材料であり、25℃付近から80℃~100℃付近への加温で吸熱し、吸熱状態で-50℃付近まで降温しても吸熱状態が維持される。その後、-50℃付近から0℃~70℃付近までの加熱や物理的刺激、種結晶の導入などで発熱する。2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)の含有量は、蓄放熱性の観点から、組成物中の全固形分に対して50~95質量%であり、好ましくは60~90質量%である。
本発明の蓄放熱層形成用組成物は、蓄放熱材料として、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール以外の蓄放熱材料を併用することも可能であり、例えば、パラフィンワックス、酸化チタンや酸化バナジウム等の無機酸化物、2-メチル,2-ニトロ,1,3-プロパンジオール等の多価アルコール、等が挙げられるが、蓄放熱性の観点から、蓄放熱材料全量中、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの比率は50質量%以上であることが好ましい。
【0018】
<樹脂(B)>
本発明の蓄放熱層形成用組成物は、樹脂(B)を含む。樹脂(B)は従来公知のものを制限無く使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の各種樹脂が挙げられる。樹脂は単独でも2種以上を併用して用いても良い。
樹脂(B)として、具体的には、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ウレタンウレア樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、及び塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられ、
【0019】
樹脂(B)は、必要に応じて、硬化剤を併用してもよい。使用できる硬化剤に制限はないが、ポリイソシアネ-ト、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0020】
また、樹脂(B)として、オリゴマ-及び/又はモノマ-からなる、電子線又は紫外線で硬化可能な成分を用いてもよい。
単官能モノマーとしては、特に制限はないが、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2- フェノキシエチルアクリレート、インデシルアクリレート、イソクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、エトキシ化ノニフェノールアクリレート、プロポキシ化ノニルフェノールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレンアクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェニルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、エチレンオキサイド2-エチルヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート等やこれらのメタクリレートモノマーが挙げられる。
【0021】
二官能モノマーとしては、1 ,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、(水素化) ビスフェノー
ルA ジアクリレート、(水素化) エチレンオキサイド変性ビスフェノールA ジアクリレート、(水素化) プロピレングリコール変性ビスフェノールA ジアクリレート、1 , 6-ヘキサンジオールジアクリレート、2-エチル,2-ブチル-プロパンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート等やこれらのメタクリレートモノマーが挙げられる。
【0022】
多官能モノマーとしては、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート、トリス( アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等やこれらのメタクリレートモノマーが挙げられる。
【0023】
樹脂(B)として、オリゴマ-及び/又はモノマ-からなる、電子線又は紫外線で硬化可能な成分を用いる場合、必要に応じて光重合開始剤や重合促進剤を併用してもよい。
光重合開始剤としては、特に制限はないが、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、芳香族ジアゾニウム塩、メタロセン等が挙げられる。また、重合促進剤として、アミン類、ホスフィン類が挙げられる。電子線により架橋させる場合にはこれらを配合しなくても良い。
また、カチオン反応性の成分を紫外線により架橋させる場合には、必要に応じてカチオン系開始剤を併用してもよく、カチオン系開始剤としては、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨ-ドニウム塩、ルイス 酸のスルホニウム塩、ルイス酸のホスホニウム塩、その他のハロゲン化物、トリアジン系開始剤、ボレート系開始剤、及びその他の光酸発生剤等が挙げられる。電子線により架橋させる場合にはこれらを配合しなくても良い。
【0024】
樹脂(B)には、シート状態の均一性、シート強度、基材との密着性、蓄放熱性の観点からアクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0025】
後述する25℃における有機溶剤(C)に対する樹脂(B)の溶解度は、(C)の質量に対して10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。溶解度が30質量%以上であると、樹脂(B)が有機溶剤(C)中に均一に溶解され、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの分散状態が良好となり、平均一次粒子径を好ましい領域とするため、特に良好な蓄放熱性を得ることができる。
【0026】
また、25℃における水に対する樹脂(B)の溶解度は、水の質量に対して5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。溶解度が5質量%未満であると、親水性の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを溶解状態にすることなく、粒子が分散された状態とすることができるため、シート状態の均一性、シート強度、基材との密着性、良好な蓄放熱性を得ることができる。
【0027】
<有機溶剤(C)>
本発明の蓄放熱層形成用組成物は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを分散するための有機溶剤(C)を含む。使用する有機溶剤(C)としては、25℃で液状の媒体が好ましい。具体的には、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート等のエステル系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、n-オクタン等の炭化水素系溶剤等の公知の溶剤を、単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0028】
<その他成分>
本発明の蓄放熱層形成用組成物は、さらに顔料分散剤、顔料誘導体、界面活性剤、難燃剤、充填剤、及びその他各種添加剤を含むことができる。
顔料誘導体とは、カラーインデックスに記載されている有機顔料残基に、特定の置換基を導入したものである。難燃剤としては例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及びリン酸化合物等が挙げられる。また、添加剤としては例えば、基材密着性を高めるためのカップリング剤、吸湿時・高温時の信頼性を高めるためのイオン捕捉剤・酸化防止剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0029】
<蓄放熱層形成用組成物>
蓄放熱層形成用組成物は、様々な方法で得ることができ、平均一次粒子径が1~20μmである2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを含有させてもよいし、
平均一次粒子径が20μmを超える2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む組成物に微細化処理を行い、平均一次粒子径が1~20μmに調整してもよい。
中でも、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径を1~20μmとするために、分散処理を行うことが好ましい。例えば、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む蓄放熱材料と有機溶剤との混合物を、分散機を用いて分散した後に樹脂成分を添加してもよいし、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、樹脂成分及び有機溶剤の混合物を、分散機を用いて分散してもよい。
【0030】
分散機としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズなどを使用したサンドミル、スキャンデックス、アイガーミル、ペイントコンディショナー、ペイントシェイカー等のメディア分散機、コロイドミル等が使用できる。
【0031】
本発明の蓄放熱層形成用組成物における2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)の平均一次粒子径は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径を1~20μmとすることが可能であれば特に制限されない。また、平均一次粒子径が組成物から蓄放熱層形成する過程において変動することは考えにくく、蓄放熱層中の平均一次粒子径は、蓄放熱層形成用組成物中の平均粒子径と同等である。
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径は、好ましくは1μm~10μmであり、より好ましくは3μm~6μmである。1μm以上であることで、完全な溶解状態と異なり粒子形状を持っていることで、蓄放熱層とした場合において、蓄放熱性が発現し、さらに微細な平均一次粒子径であることで蓄放熱層表面状態の均一性が高く、基材との密着性や蓄放熱性が良好となると推察される。20μm以下であることで、均一な蓄放熱層表面状態を得られることと、適切な粒子状態により蓄放熱性が良好となると推察される。
【0032】
また、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)と樹脂(B)の質量比(A):(B)は、50:50~90:10であり、好ましくは60:40~90:10であり、より好ましくは70:30~80:20である。2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)の比率が50%以上であると、良好な蓄放熱性を発現するため好ましい。60%以上であるとより一層蓄放熱量が向上し好ましい。また、90%以下であると、蓄放熱層の強度が向上するため好ましい。
【0033】
<蓄放熱層、蓄放熱シート、蓄放熱積層体>
本発明の蓄放熱層は、前記蓄放熱層形成用組成物から形成されてなり、具体的には、樹脂(B)中に2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)が分散した層であって、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が、1~20μmであることを特徴とする。前述のとおり、前記2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径が所定範囲内であることにより、優れた蓄放熱性、蓄放熱の繰り返し耐性、さらに、優れた基材への密着性を達成することができる。
【0034】
本発明の蓄放熱層の吸発熱量としては、吸熱量が50J/g以上、発熱量が30J/g以上であることが好ましい。より詳細には、25℃から95℃まで昇温過程で吸熱し、95℃から-50℃までの降温では発熱せず吸熱状態を保持し、この状態から70℃までの昇温で発熱する。さらに繰り返しても、再び吸熱及び発熱をする。具体的には、上記70℃までの昇温で発熱した状態から、95℃まで昇温過程で再び吸熱し、95℃から-50℃までの降温では発熱せず吸熱状態を保持し、この状態から70℃までの昇温で発熱する。
この蓄放熱の繰り返し耐性は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(A)の平均一次粒子径に関与し、より好ましくは1~10μmであり、特に好ましくは3~6μmである。平均一次粒子径が1~10μmであると、優れた蓄放熱の繰り返し耐性を発揮するため、好ましい。
【0035】
本発明の蓄放熱層は、蓄熱量及び発熱量が高く、優れた蓄放熱の繰り返し耐性を有し、さらに、基材への密着性に優れる蓄放熱層とするために、蓄放熱層中の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの平均一次粒子径を1~20μmに制御する観点から、蓄放熱層の含水率は低い方が好ましく、好ましくは10%未満であり、より好ましくは5%未満であり、より好ましくは1.5%未満であり、特に好ましくは0.5%未満である。
【0036】
本発明の蓄放熱積層体は、少なくとも基材と、前述の蓄放熱層とを有するものである。
蓄放熱積層体は、基材上に、蓄放熱層形成用組成物を塗工・乾燥することで製造することができる。
塗工方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、コーター塗工、スプレー塗工、スピンコーター等の既知の方式が挙げられる。より具体的には例えば、本発明の蓄放熱層及び蓄放熱積層体は、蓄放熱層形成用組成物を、基材の一主面上に、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、スリットコート法、スリット&スピンコート法、フローコート法、ダイコート法等の各種塗工法により塗工して塗布膜を形成し、この塗布膜から有機溶剤を除去して塗膜を形成し、該塗膜を必要により硬化処理することにより、容易に得ることができる。
【0037】
基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基材、プラスチック基材のほか、金属基材、紙基材、木基材(木製基材)、石基材、布基材、皮革基材等を挙げることができる。また、その形状としては、平板、フィルム状、シート状、立体形状等が挙げられ、用途や使用条件に基づいて適宜選択することができる。
基材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン等の合成樹脂のフィルム又はこれらフィルムの複合体、及びガラスなどを用いることが好ましい。
【0038】
また、本発明の蓄放熱層は、単独で使用してもよく、例えば、蓄放熱シートとして使用することができる。蓄放熱層を単独で得る場合、例えば、蓄放熱層形成用組成物を剥離基材に塗工、乾燥させた後に剥離基材から剥離することで、蓄放熱層を単独で得ることができる。剥離性基材としては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリイミドフィルム等の樹脂フィルムに離型処理したもの等が挙げられる。
また、蓄放熱シートとして使用する場合、加工時や搬送時の割れ抑制するために、柔軟性や引張強度が求められる。このような諸物性を発現するためには、樹脂(B)として、塗膜形成が容易であることから熱可塑性樹脂を好ましく使用できる。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合、スチレン・ブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、1,2-ポリブタジエン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂等を例示できる。なかでも、低温下での成形性や蓄熱材の分散性を得やすいことから、塩化ビニル系樹脂を使用することが好ましい。
【0039】
また、本発明の蓄熱シートを対象物に貼付して用いる場合は、蓄熱シートに粘着剤を含有する粘着層を設けてもよい。粘着剤は、塗工後に粘着性を有する材料であれば特に制限はないが、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの溶解を回避するため、非水溶性の粘着剤が好ましい。粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。粘着層の塗工量は、使用する粘着剤と所望する粘着力に応じて適宜選択可能であり特に制限されないが、一般的には3~50g/m程度である。
【0040】
本発明の蓄放熱シートの膜厚は20μm以上が好ましく、より好ましくは80μm以上であり、特に好ましくは150μm以上である。膜厚が20μm以上であると、塗膜中の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの含有量が、良好な蓄放熱性を発現するのに十分な量となり、また塗工時の塗膜均一性が向上し、基材への密着性に優れるため好ましい。
【実施例
【0041】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部及び%は、特に注釈の無い場合、質量部及び質量%を表す。
【0042】
<樹脂(B)の調整>
樹脂B1:アクリル樹脂(固形分100%)
(商品名:ダイヤナールBR80、三菱ケミカル社製)
樹脂B2:エポキシ樹脂(固形分100%)
(商品名jER1007、三菱ケミカル社製)
樹脂B3:ポリエステル樹脂(固形分100%)
(商品名バイロン200、東洋紡社製)
樹脂B4:シクロオレフィン樹脂(固形分100%)
(商品名ZEONEX480R、日本ゼオン社製)
【0043】
(樹脂溶液B1-1)
樹脂B1を30部と、メチルエチルケトン70部を撹拌混合し、固形分濃度30質量%の樹脂溶液(B1-1)を得た。
【0044】
(樹脂溶液B1-2)
樹脂B1を30部と、ヘキサン70部を撹拌混合し、固形分濃度30質量%の樹脂溶液(B1-2)を得た。
【0045】
(樹脂溶液B2-1)
樹脂B2を30部と、メチルエチルケトン70部を撹拌混合し、固形分濃度30質量%の樹脂溶液(B2-1)を得た。
【0046】
(樹脂溶液B2-2)
樹脂B2を30部と、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート70部を撹拌混合し、固形分濃度30質量%の樹脂溶液(B2-2)を得た。
【0047】
(樹脂溶液B3-1)
樹脂B3を30部と、メチルエチルケトン70部を撹拌混合し、固形分濃度30質量%の樹脂溶液(B3-1)を得た。
【0048】
(樹脂溶液B4-1)
樹脂B4を30部と、メチルエチルケトン70部を撹拌混合し、固形分濃度30質量%の樹脂溶液(B4-1)を得た。
【0049】
(樹脂溶液B5-1)
樹脂B5(三井化学株式会社製『WS-5000』(水性ウレタン樹脂、固形分濃度30質量%))を、樹脂溶液(B5-1)とした。
【0050】
<蓄放熱層形成用組成物の製造>
[実施例1]
(蓄放熱層形成用組成物1)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを7.5部、樹脂溶液(B1-1)を8.33部、メチルエチルケトン31.8部、直径3mmガラスビーズ20部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物1を得た。
【0051】
[実施例2~8]
(蓄放熱層形成用組成物2~8)
表1に記載の樹脂溶液、有機溶剤、分散時間に変更した以外は、蓄放熱層形成用組成物1と同様の方法で、蓄放熱層形成用組成物2~8を得た。
【0052】
[実施例9]
(蓄放熱層形成用組成物9)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを7.5部、樹脂溶液(B1-1)を6.66部、分散剤BYK111(ビックケミー株式会社製)を0.5部、メチルエチルケトン31.8部、直径3mmガラスビーズ20部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物9を得た。
【0053】
[実施例10]
(蓄放熱層形成用組成物10)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを4.5部、樹脂溶液(B1-1)を18.3部、メチルエチルケトン45.7部、直径3mmガラスビーズ28部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物10を得た。
【0054】
[実施例11]
(蓄放熱層形成用組成物11)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを5.5部、樹脂溶液(B1-1)を15.0部、メチルエチルケトン41.0部、直径3mmガラスビーズ26部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物11を得た。
【0055】
[実施例12]
(蓄放熱層形成用組成物12)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを8.5部、樹脂溶液(B1-1)を5.0部、メチルエチルケトン33.7部、直径3mmガラスビーズ17部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物12を得た。
【0056】
[実施例13]
(蓄放熱層形成用組成物13)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを9.5部、樹脂溶液(B1-1)を1.7部、メチルエチルケトン33.5部、直径3mmガラスビーズ14部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物13を得た。
【0057】
[比較例1]
(蓄放熱層形成用組成物101)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを7.5部、樹脂溶液(B1-1)を8.33部、メチルエチルケトン31.8部、直径3mmガラスビーズ20部を容器に入れ、撹拌混合し、蓄放熱シート組成物101を得た。
【0058】
[比較例2]
(蓄放熱層形成用組成物102)
樹脂溶液(B2-1)に変更した以外は、蓄放熱層形成用組成物101と同様の方法で、蓄放熱層形成用組成物102を得た。
【0059】
[比較例3]
(蓄放熱層形成用組成物103)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを10部、メチルエチルケトン30部、直径3mmガラスビーズ20部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物13を得た。
【0060】
[比較例4]
(蓄放熱層形成用組成物104)
2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを7.5部、樹脂溶液(B5-1)を8.33部、水31.8部、直径3mmガラスビーズ20部を容器に入れ、撹拌混合し、蓄放熱層形成用組成物104を得た。
【0061】
[比較例5]
(蓄放熱層形成用組成物105)
樹脂溶液(B1-1)に変更した以外は、蓄放熱シート組成物104と同様の方法で、蓄放熱シート組成物105を得た。
【0062】
[比較例6]
(蓄放熱層形成用組成物106)
2-メチル-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールを7.5部、樹脂溶液(B1-1)を8.33部、メチルエチルケトン31.8部、直径3mmガラスビーズ20部を容器に入れ、撹拌混合し、ペイントシェーカーで1.5時間分散し、蓄放熱層形成用組成物106を得た。
【0063】
得られた蓄放熱層形成用組成物について、25℃における有機溶剤(C)に対する樹脂(B)の溶解度、及び25℃における水に対する樹脂(B)の溶解度と併せて、表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1中の略称を示す。
MEK:メチルエチルケトン
PGMAC:プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート
【0066】
<蓄放熱層(フリーフィルム)の製造>
[実施例14]
(蓄放熱層1)
剥離性シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離性の表面に、ブレードコーターを用いて蓄放熱層形成用組成物1を塗工、40℃20分間乾燥した後、剥離フィルムを剥離して、膜厚200μmの蓄放熱層1を得た。
【0067】
[実施例15~26、比較例7~12]
(蓄放熱層2~13、101~106)
蓄放熱層形成用組成物1を表2に示すものに変更した以外は、蓄放熱層1と同様にして、蓄放熱層2~13、101~106を得た。
【0068】
[実施例27]
(蓄放熱層14)
剥離性シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離性の表面に、ブレードコーターを用いて蓄放熱層形成用組成物1を塗工、40℃20分間乾燥し、25℃湿度80%RHの環境下で5分間静置した後、剥離フィルムを剥離して、膜厚200μmの蓄放熱層14を得た。
【0069】
[実施例28]
(蓄放熱層15)
静置時間を20分間に変更した以外は蓄放熱層14と同様して、蓄放熱層15を得た。
【0070】
[実施例29]
(蓄放熱層16)
静置時間を60分間に変更した以外は蓄放熱層14と同様して、蓄放熱層16を得た。
【0071】
<蓄放熱層(フリーフィルム)の評価>
得られた蓄放熱層について、以下の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0072】
[平均一次粒子径]
キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX900により、レンズ倍率1000倍の視野内に観察された蓄放熱材の粒子10個を任意に選択し、目視にて一次粒子径を測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0073】
[含水率]
蓄放熱層の水分含有率は、JIS K0068:2001(化学製品の水分測定方法)のカールフィッシャー滴定法(水分気化法)によって求めた。具体的には、蓄放熱層から電子天秤を用いて試料50.0mgを採取し、京都電子工業社製カールフィッシャー水分計(電量法)MKC-610及び水分気化装置ADP-611にセットして水分量を測定し、当該水分量を組成物の単位質量あたりの割合に換算して蓄放熱層の含水率とした。
なお、測定は、陽極液、陰極液にそれぞれ京都電子工業社製ケムアクア陽極液AKE、ケムアクア陰極液CGEを使用し、測定温度を140℃とし、キャリアガスに窒素を用いて、その流量を200mL/minとして行った。
【0074】
[吸発熱量と、吸発熱量のサイクル耐性]
メトラー・トレド社製「DSC-1」を使用し、蓄放熱層約5mgをアルミニウム製標準容器に秤量し、以下に記載のサイクル試験における可逆成分の示差熱曲線から吸熱量と発熱量を求めた。
1サイクル目:25℃から95℃まで、10℃/分で昇温して、その間の吸熱量を算出した。次に、95℃で5分間維持した後、95℃から-50℃まで10℃/分で降温し、-50℃で5分間維持した。次に、-50℃から70℃まで10℃/分で昇温して、その間の発熱量を算出した。
例えば、実施例1の1サイクル目の場合、25℃から95℃までの昇温過程で、吸熱量が141J/gとなり、-50℃まで降温後、-50℃から70℃までの昇温で、発熱量が97J/gとなる。よって、1サイクル目の吸熱量が141J/g、発熱量97J/gとなる。
2サイクル目:1サイクル目終了後に引き続き、10℃/分で95℃まで昇温して、その間の吸熱量を算出した。次に、95℃で5分間維持した後、95℃から-50℃まで10℃/分で降温し、-50℃で5分間維持した。次に、-50℃から70℃まで10℃/分で昇温して、その間の発熱量を算出した。
3サイクル目以降:2サイクル目と同様にして、昇温、降温、昇温を行い、吸熱量と発熱量を算出した。
【0075】
[外部刺激による発熱]
得られた蓄放熱層1~16、及び蓄放熱積層体1~16について、上述のサイクル試験と同様にして、25℃から95℃まで、10℃/分で昇温して、吸熱させ、95℃で5分間維持した後、95℃から-50℃まで10℃/分で降温し、-50℃で5分間維持した。続いて、蓄放熱層1の表面をスパチュラの先端で1回突くことで、2回目の昇温工程を経なくても、発熱があることを確認した。一方で、蓄放熱層101~106、蓄放熱積層体1~16は同様の所作を行っても発熱がないことを確認した。
【0076】
<蓄放熱積層体の製造>
[実施例30]
(蓄放熱積層体1)
基材であるポリエステルフィルム(東洋坊株式会社、E5101、厚み188μm)上に、蓄放熱層形成用組成物1を、ブレードコーターを用いて塗工、40℃20分間乾燥し、基材上に膜厚200μmの蓄放熱層を有する蓄放熱積層体1を得た。
【0077】
[実施例31~42、比較例13~18]
(蓄放熱積層体2~13、101~106)
蓄放熱層形成用組成物1の代わりに、表2に記載される蓄放熱層形成用組成物を用い、ブレードコーターの番手で膜厚を調整した以外は、蓄放熱積層体1と同様の方法で塗工、乾燥し、基材上に膜厚200μmの蓄放熱層を有する蓄放熱積層体2~13、101~106を得た。
【0078】
[実施例43]
(蓄放熱積層体14)
基材であるポリエステルフィルム(東洋坊株式会社、E5101、厚み188μm)上に、蓄放熱層形成用組成物1を、ブレードコーターを用いて塗工、40℃20分間乾燥し、25℃湿度80%RHの環境下で60分間静置し、基材上に膜厚200μmの蓄放熱層を有する蓄放熱積層体14を得た。
【0079】
[実施例44]
(蓄放熱積層体15)
放置時間を120分間に変更した以外は、蓄放熱積層体14と同様して蓄放熱積層体15を得た。
【0080】
[実施例45]
(蓄放熱積層体16)
放置時間を300分間に変更した以外は、蓄放熱積層体14と同様して蓄放熱積層体16を得た。
【0081】
<蓄放熱積層体の評価>
得られた蓄放熱積層体について、以下の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0082】
[外観]
蓄放熱積層体の蓄放熱層側から表面状態を目視観察し、下記基準にて評価した。
◎:ムラがなく、均一な状態である(非常に良好)
〇:極僅かにムラがある(良好)
△:少しムラがある(使用可能)
×:明確なムラがある(使用不可)
【0083】
[基材密着性]
蓄放熱積層体の蓄放熱層面にセロハンテープ(ニチバン社製18mm幅)を貼り付け、垂直方向に剥離試験をおこない、インキの剥がれた面積の割合から基材密着性について評価した。評価基準は以下の通りである。
○;インキの剥がれが少ない(10%未満)(良好)
△;インキの剥がれがある(10%以上、50%未満)(使用可能)
×;インキの剥がれがかなりある(50%以上)(使用不可)
【0084】
【表2】
【0085】
表2中の略称を示す。
AMP:2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール
【0086】
実施例1~5(実施例14~18及び30~34)は、有機溶剤(C)や水に対しての溶解度の観点から、好ましい樹脂を使用し、さらに適切な分散工程を経ているため、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールが良好な平均一次粒子径となり、蓄放熱量及び繰り返し耐性が良好であった。
また、蓄放熱層の含水率は重要であり、実施例14~16(実施例27~29、43~45)は、含水率の向上により、蓄放熱量の低下が見られた。これは、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの一部が溶解状態となったためと推察している。
実施例10~13(実施例23~26、39~42)は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールと樹脂の比率を変更しており、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールの濃度が低いと蓄放熱量が小さくなり、一方で濃度が高いと分散性が低下し、平均一次粒子径が比較的大きい状態となり、蓄放熱性能に関わる繰り返し耐性が低下した。
【0087】
一方、比較例101、102(比較例7、8、13、14)も好ましい樹脂を使用している点では実施例1~5と同様であるが、分散工程を経ていないため、平均一次粒子径が非常に大きい状態であり、蓄放熱性能に関わる繰り返し耐性が不良であった。さらに塗膜にはザラツキが目立ち、基材との密着性も悪化していた。
比較例103(比較例9、15)は、樹脂を含まないため、良好な分散状態が得られず、平均一次粒子径が大きい状態であり、蓄放熱性能に関わる繰り返し耐性が不良であった。さらに塗膜にはザラツキが目立ち、基材との密着性も悪化していた。
比較例104(比較例10、16)は、水に対する樹脂の溶解度が30%以上と高く、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールが溶解状態となるため、蓄放熱を発現するのに適した結晶構造を取ることが出来ず、蓄放熱性は発現しなかった。
比較例105(比較例11、17)は、水を含むが、水に対する樹脂の溶解度が1%未満と低いため、良好な分散状態が得られず、平均一次粒子径が大きい状態であり、蓄放熱性能に関わる繰り返し耐性が不良であった。さらに塗膜にはザラツキが目立ち、基材との密着性も悪化していた。
比較例106(比較例12、18)は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールを使用していないため、本発明のような特殊な昇降温工程中の昇温工程での発熱性は確認できなかった。