(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】円弧状永久磁石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20221012BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20221012BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20221012BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221012BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221012BHJP
B22F 3/20 20060101ALI20221012BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20221012BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 E
H01F7/02 C
H01F1/057 160
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
B22F3/20 C
B22F5/00 Z
B22F3/24 E
(21)【出願番号】P 2018228401
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】富永 彰
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第92/020081(WO,A1)
【文献】特開平02-297910(JP,A)
【文献】特開平02-308512(JP,A)
【文献】特開2017-050396(JP,A)
【文献】特許第4957415(JP,B2)
【文献】特開平06-188120(JP,A)
【文献】特開2015-015381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 7/02
H01F 1/057
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/20
B22F 5/00
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石用粉末に少なくとも圧密加工を施して予備成形体を得る成形工程と、
前記予備成形体に押出加工を施して、配向度0.90以上のパラレル配向板磁石を得る板磁石形成工程と、
前記パラレル配向板磁石に圧縮ひずみ(ε1)が0.5以下、伸長ひずみ(ε2)が0.2以下となるように応力を加えて曲げ加工を行う押出曲げ加工工程と、
を備える、ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記予備成形体の断面と寸法が一致する矩形の投入口および円弧形状の排出口を有する金型を用意し、前記投入口へ、前記予備成形体を装入し、前記金型にて前記板磁石形成工程および前記押出曲げ加工工程を連続して行う、請求項1に記載のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法。
【請求項3】
R-T-B構造の主相を有する希土類熱間加工磁石であって、
曲率が0.055以下且つ磁石半径方向の厚みが4.5mm以上の円弧形状からなり、
周方向中心部および周方向端部における配向度が0.90以上であり、且つ、前記周方向中心部と前記周方向端部との配向度差が絶対値で0.05より小さい、
ラジアル異方性円弧状永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安価であり且つ高磁気特性を有するR-T-B系磁石は、希土類元素(R)、遷移元素(T)およびホウ素(B)を主成分とする、つまりR-T-B構造の主相を有する永久磁石であって、その製造方法により焼結磁石と熱間加工磁石とに大別される。そして、いずれの製造方法においても、所要の形状に成型することが求められる。なお、この磁石の形状については、特にモータ製造などにおいて、円筒状や円弧状であり、その内径側から外径側に向かって放射状に磁束を配向させた、ラジアル異方性を有する永久磁石の需要が高まっている。
【0003】
ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石を製造する場合、焼結磁石では、磁気異方性を得るために磁場中プレスを行う必要があり、そのため、成型方向と配向磁場方向により形状の制約を受けることから、材料を加熱し、圧力により塑性変形を加えて結晶粒を配向させる熱間加工を利用した方法を用いることも多い。
【0004】
ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石を熱間加工により製造する方法としては、曲面を持った上下パンチを使用して円弧形状の圧密体から円弧状磁石を加工する方法(特許文献1および特許文献2)、リング形状磁石を成形加工した後、このリング形状磁石を分割する方法(特許文献3)、押出金型を使用する方法(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-124829号公報
【文献】特開平06-140224号公報
【文献】特開2015-15381号公報
【文献】特許第4957415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、曲面を持った上下パンチと成形体との間で発生する摩擦により全体に均一な圧縮が加わらず、円弧状磁石における周方向端部の磁気特性が劣化するという課題がある。
また、特許文献3に記載の方法では、製造可能な円弧形状は分割前のリング形状磁石の形状制約に影響を受けるため、曲率の低い円弧状磁石や厚肉の円弧状磁石を製造する場合、分割前のリング形状磁石の大型化と加工量の不均一化によって成形性および磁気特性が低下する傾向があるという課題がある。
さらに、特許文献4に記載の方法では、矩形の予備成形体から直接円弧状磁石を押出成形するため、押出金型内において変形を制御することが難しく、円弧状磁石の周方向端部における配向を制御しにくいという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)、配合度(Br/Js)等の磁気特性が周方向中心部と周方向端部の両方において同等に優れ、減磁し難い、ラジアル異方性円弧状永久磁石およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(3)である。
(1)磁石用粉末に少なくとも圧密加工を施して予備成形体を得る成形工程と、前記予備成形体に押出加工を施して、配向度0.90以上のパラレル配向板磁石を得る板磁石形成工程と、前記パラレル配向板磁石に圧縮ひずみ(ε1)が0.5以下、伸長ひずみ(ε2)が0.2以下となるように応力を加えて曲げ加工を行う押出曲げ加工工程と、を備える、ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法。
(2)前記予備成形体の断面と寸法が一致する矩形の投入口および円弧形状の排出口を有する金型を用意し、前記投入口へ、前記予備成形体を装入し、前記金型にて前記板磁石形成工程および前記押出曲げ加工工程を連続して行う、上記(1)に記載のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法。
(3)R-T-B構造の主相を有する希土類熱間加工磁石であって、曲率が0.055以下且つ磁石半径方向の厚みが4.5mm以上の円弧形状からなり、周方向中心部および周方向端部における配向度が0.90以上であり、且つ、前記周方向中心部と前記周方向端部との配向度差が絶対値で0.05より小さい、ラジアル異方性円弧状永久磁石。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および配向度(Br/Js)がいずれも周方向中心部と周方向端部の両方において同等に優れ、減磁し難い、ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石を容易に得ることができる。さらに、前記磁気特性がいずれも周方向中心部と周方向端部の両方において同等に優れ、且つ、曲率が低い円弧形状や厚肉の円弧形状、広がり角度の大きい円弧形状であるラジアル異方性円弧状永久磁石を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石を製造する方法の一例を工程図として示したものである。
【
図2】本発明のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法において、板磁石形成工程および押出曲げ加工工程を連続して行った場合における、予備成形体から円弧状永久磁石までの断面形状および配向の変化を模式図として示したものである((I)~(IV))。なお、図中における「W」は押出曲げ加工工程前における板磁石の幅寸法を、「W
1」は押出曲げ加工工程後における円弧状磁石の円弧内周寸法を、「W
2」は押出曲げ加工工程後における円弧状磁石の円弧外周寸法を表す。
【
図3】本発明のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の一例を模式図として示したものである。なお、図中における「T」は円弧状永久磁石の厚みを、「D」は円弧状永久磁石の広がり角度を表す。
【
図4】実施例における、円弧状永久磁石の周方向中心部試験片および周方向端部試験片の切り出しを模式図として示したものである。(a)は円弧状永久磁石の断面側から、(b)は円弧状永久磁石の上面側から試験片の切り出しを示した図であり、図中において、「A」は円弧状永久磁石の周方向中心部試験片を、「B」は円弧状永久磁石の周方向端部試験片を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法について説明する。
本発明のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石の製造方法は、磁石用粉末に少なくとも圧密加工を施して予備成形体を得る成形工程と、この予備成形体に押出加工を施して、配向度0.90以上のパラレル配向板磁石を得る板磁石形成工程と、このパラレル配向板磁石に圧縮ひずみ(ε1)が0.5以下、伸長ひずみ(ε2)が0.2以下となるように応力を加えて曲げ加工を行う押出曲げ加工工程と、を備える円弧状永久磁石の製造方法である。以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0012】
この本発明の製造方法は、材料を加熱し、圧力により塑性変形を加えて結晶粒を配向させる加工法である熱間加工を利用した方法であり、以下において、その製造工程を
図1を用いて詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法では、原料として磁石用粉末を使用する。この磁石用粉末の調製方法としては、溶解した母合金を回転ロール上に噴射し、超急冷することにより微細な結晶組織を持つ薄帯を得て、この薄帯を150μm以下程度に粉砕して磁石用粉末(原料粉)を得る方法が例示される。これは
図1(a)の工程である。本発明においては、安価であり且つ高磁気特性(高残留磁束密度、高保磁力)を有するR-T-B系の磁石用粉末を使用するのが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、R-T-B系とは、希土類元素(R)、遷移元素(T)およびホウ素(B)を主成分とすることを意味し、希土類元素としてはNd、Pr、Dy、Tbなど、遷移元素としてはFe、Co、Niなどが含まれるのが好適である。特に、Nd-Fe-B系の磁石用粉末を使用するのが、より高い磁気特性を有するR-T-B系磁石を得るという点において最も好ましい。ここで、本発明における「主成分」とは、合計含有率が90質量%以上であることを意味し、この合計含有率は95質量%以上であることがより好ましい。
【0014】
次いで、成形工程において、磁石用粉末に圧密加工を施し、予備成形体を得る。特に、圧密加工として室温(20±15℃)における冷間圧粉成形を行い、矩形の予備成形体(例えば棒状など)を得る方法が、後の板磁石への加工のし易さという点から好ましい。これは、
図1(b)の工程である。そして、後の熱間加工のし易さという点から、得られた予備成形体の表面に潤滑剤を塗布するのが好適である。これは、
図1(c)の工程である。この予備成形体は、ハンドリングが可能な程度の強度を有する予備成形体であればよく、そのような予備成形体を得るために、冷間圧粉成形工程などの条件を適宜設定すればよい。また、潤滑剤は、脂肪酸エステルを主成分とするものなど公知の潤滑剤を使用でき、特段の限定はない。
【0015】
また、本発明においては、圧密加工として、例えば、冷間圧粉成形により得られた予備成形体に潤滑剤を塗布した後、さらに加熱して成形を行う熱間プレスを施し、より好ましい形状、密度および強度の予備成形体を得ても良い。
【0016】
そして、このようにして得られた予備成形体に、700~900℃程度まで加熱した金型を使用した押出加工(熱間押出加工)を施して、配向度0.90以上のパラレル配向板磁石を形成する。この工程における加工時間は、300秒間以内が例示される。これは、
図1(d)の工程である。この工程は大気中で行っても良いが、酸化抑制の観点からアルゴン等の不活性ガス雰囲気中、あるいは減圧下で行うのが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法では、この熱間押出加工工程において、上記予備成形体から直接円弧状永久磁石を形成するのではなく、まず、磁化容易軸方向に塑性変形を行い配向度0.90以上のパラレル配向板磁石を形成する。したがって、この熱間押出加工工程は、板磁石形成工程と言える。なお、熱間押出加工により、上記予備成形体から板磁石を形成する工程を経ずに直接円弧状永久磁石を形成する方法では、押出金型内において変形を制御することが難しく、磁気特性が均一なラジアル異方性を有する円弧状永久磁石を得ることが難しい。一方、上記予備成形体からパラレル配向板磁石を形成し、このパラレル配向板磁石を円弧状磁石に押出曲げ加工する本発明の製造方法によれば、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および配合度(Br/Js)が周方向中心部と周方向端部の両方において同等に優れ、減磁し難い、ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石を容易に取得することが可能となる。
【0018】
ここで、本発明において「配向度」とは、磁石の残留磁束密度(Br)を飽和磁束密度(Js)で除した値(Br/Js)を意味し、磁化容易軸の配向の程度を表す。また、「パラレル配向」とは、磁束が平行に配向している状態を意味し、この板磁石形成工程においては、板磁石の短手方向に向かって平行に磁束が配向している板磁石を形成する。
【0019】
次いで、上記板磁石形成工程と同様の加工温度、加工時間、雰囲気条件において、形成したパラレル配向板磁石に圧縮ひずみ(ε1)が0.5以下、伸長ひずみ(ε2)が0.2以下となるように(例えばパラレル配向板磁石の配向方向へ)応力を加えて曲げ加工を行う押出曲げ加工工程(熱間押出曲げ加工工程)を施す。これは、
図1(e)の工程である。このような圧縮ひずみおよび伸長ひずみ条件となるようにして加工を行うことで、パラレル配向板磁石からラジアル異方性円弧状永久磁石を容易に得ることができる。なお、本発明において「ラジアル異方性」とは、円弧状の内径側から外径側に向かって放射状に磁束が配向している状態を意味する。
【0020】
また、本発明において「圧縮ひずみ(ε1)」とは、上記押出曲げ加工工程前後における磁石の円弧内周側の寸法をそれぞれW(板磁石の幅寸法)、W
1(円弧状磁石の円弧内周寸法)とした場合に、「ln(W/W
1)」として定義される値を意味し、また、「伸張ひずみ(ε2)」とは、上記押出曲げ加工工程前後における磁石の円弧外周側の寸法をそれぞれW(板磁石の幅寸法)、W
2(円弧状磁石の円弧外周寸法)とした場合に、「ln(W
2/W)」として定義される値を意味する。なお、「ln」は自然対数を意味し、W、W
1およびW
2は、後述する予備成形体から円弧状永久磁石までの断面の形状変化の例を示した
図2中に示される部分の寸法である。
【0021】
本発明の製造方法においては、上記板磁石形成工程と上記押出曲げ加工工程とを、それぞれ別の金型を使用して別工程として行っても良いが、上記板磁石形成工程および上記押出曲げ加工工程を1つの金型を使用して連続的に行うのがより効率的である。
具体的には、予備成形体の断面(得ようとするパラレル配向板磁石の配向方向と平行な予備成形体の断面)と寸法が一致する矩形の投入口および円弧形状の排出口を有する金型を用意し、この投入口へ予備成形体を装入し、上記板磁石形成工程および上記押出曲げ加工工程を連続して行う。
【0022】
このような、上記板磁石形成工程と上記押出曲げ加工工程とを1つの金型を使用して連続的に行った場合における、予備成形体から円弧状永久磁石までの断面(磁石の配向方向と平行な断面)の形状変化および配向変化の例を
図2に示した。
なお、
図2の(I)~(II)が板磁石形成工程における断面の形状変化を示し、板磁石が形成されたとき、その配向は、板磁石の短手方向に向かって平行に磁束が配向しているパラレル配向となる。また、
図2の(III)~(IV)が押出曲げ加工工程における断面の形状変化を示し、円弧状磁石が形成されたとき、その配向は、ラジアル異方性となる。このような断面の形状変化および配向変化をして、予備成形体から板磁石を経て円弧状磁石が形成される。
【0023】
そして、最終加工工程として上記押出曲げ加工工程を行った後は、必要に応じて、得られた円弧状永久磁石の切断、研削、面取などの後加工(
図1(f)の工程)を行い、最終製品であるラジアル異方性円弧状永久磁石とする。
【0024】
このような本発明の製造方法によって、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および配合度(Br/Js)が周方向中心部と周方向端部の両方において同等に優れ、減磁し難い、ラジアル異方性を有する円弧状永久磁石(特にR-T-B系のラジアル異方性を有する円弧状永久磁石)を容易に製造することができ、また、様々な曲率、厚さ、広がり角度を有するラジアル異方性円弧状永久磁石を製造することができる。
【0025】
次に、本発明のラジアル異方性円弧状永久磁石について詳細に説明する。
本発明のラジアル異方性円弧状永久磁石は、R-T-B構造の主相を有する希土類熱間加工磁石であり、曲率が0.055以下且つ磁石半径方向の厚みが4.5mm以上の円弧形状からなり、周方向中心部および周方向端部における配向度が0.90以上であり、且つ、周方向中心部と周方向端部との配向度差が絶対値で0.05より小さい円弧状永久磁石である。以下では「本発明の磁石」ともいう。
【0026】
ここで、R-T-B構造とは、希土類元素(R)、遷移元素(T)およびホウ素(B)を主相とする結晶構造を意味し、希土類元素および遷移元素の好適例は前述と同様である。そして、本発明の磁石は、このR-T-B構造を主相とし且つ主相結晶粒のアスペクト比が2超であることが好ましい。この主相結晶粒のアスペクト比が2超であると、結晶粒の配向度(Br/Js)がより高く且つ残留磁束密度(Br)がより向上した、より減磁し難い永久磁石であると言える。
なお、本発明において「アスペクト比」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られる画像上において、1つの結晶粒の最大径を測定して、その値をdとし、また、その最大径を2等分する点を定め、それに直交する直線がこの結晶粒の外縁と交わる2点を求め、同2点間の距離を測定してtとした時、50個の結晶粒の各々についてd/tを求め、それらを単純平均した値を意味する。
【0027】
また、本発明においては、X線回折法と走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた二次電子像(1500倍)の観察、およびICP分析装置による主相の結晶粒と粒界相を含めた領域の分析によって、本発明の磁石の主相がR-T-B構造であるか否かを確認することができる。
【0028】
さらに、本発明の磁石は、曲率が0.055以下、好ましくは0.053以下、且つ磁石半径方向の厚みが4.5mm以上、好ましくは4.5~10mmである円弧形状からなり、周方向中心部および周方向端部における配向度(Br/Js)が0.90以上、好ましくは0.93以上であり、且つ、周方向中心部と周方向端部との配向度差が絶対値で0.05より小さい、好ましくは0.03より小さいラジアル異方性永久磁石である。
ここで、本発明における「曲率」とは円弧外周半径の逆数を意味し、「磁石半径方向の厚み」とは円弧外周半径と円弧内周半径との差を意味する。また、本発明における「周方向中心部」および「周方向端部」とは、
図3および
図4に示すように、円弧状磁石の広がり角度(D)を3等分する角度(D/3)の位置により円弧状磁石を3分割した場合において、円弧状磁石の広がり角度(D)をなす磁石側面を含む部分が「周方向端部」であり、広がり角度(D)を2等分する角度(D/2)の位置を含む部分が「周方向中心部」である。
【0029】
そして、このような本発明の磁石は、曲率が0.055以下、および磁石半径方向の厚みが4.5mm以上、つまり曲率が低く、厚肉な円弧状永久磁石でありながら、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および配合度(Br/Js)が周方向中心部と周方向端部の両方において優れている、減磁し難い永久磁石であると言える。また、この本発明の磁石は、前述した本発明の製造方法によって容易に取得することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0031】
Nd、Fe、Bを主成分とする母合金を1500℃で溶解した後、その溶湯をオリフィスからCrめっきを施したCu製の回転ロールに射出(回転ロール周速度:30m/秒)し、急冷合金薄帯を作製した。この急冷合金薄帯をカッターミルで粉砕して篩分けし、最大粒径が150μm以下の原料粉を作製した。そして、この原料粉を冷間プレス機の金型に装填し、大気中において3ton/cm2の圧力を加え、3秒間保時して成形する圧密加工を行い、矩形(棒状)の予備成形体を作製した。
【0032】
次いで、この予備成形体表面に脂肪酸エステルを主成分とする潤滑剤を塗布した。その後、熱間押出加工により配向度0.90以上のパラレル配向板磁石を成形してから、連続的に、圧縮ひずみ(ε1)が0.5以下、伸長ひずみ(ε2)が0.2以下となるように応力を加えて押出曲げ加工を行い円弧状磁石を成形することができる7種類の金型を使用して、アルゴンガス雰囲気中または減圧雰囲気中において、これらの金型を700~900℃に加熱し、それぞれに上記予備成形体をセットして加熱しながら最大で30ton/cm2の圧力を加えて300秒間以内で成形されるように連続的に加工を行い、9種類の円弧状永久磁石を作製した(実施例1~9(実施例6、8、9は同じ金型を使用))。
【0033】
また、これとは別に、潤滑剤を塗布した上記予備成形体について、熱間押出加工により板磁石を成形する金型(比較例1)、熱間押出加工により板磁石を形成する工程を経ずに直接円弧状永久磁石を成形する金型(比較例2)、および熱間押出加工により板磁石を成形してから、連続的に、応力を加えて押出曲げ加工を行うが、押出曲げ加工時の圧縮ひずみおよび伸長ひずみが本発明の条件を満たさない2種類の金型(比較例3~4)を使用して、アルゴンガス雰囲気中または減圧雰囲気中において、これらの金型を700~900℃に加熱して、それぞれに上記予備成形体をセットして加熱しながら最大で30ton/cm2の圧力を加えて300秒間以内で成形されるように加工を行い、4種類の永久磁石を作製した(比較例1~4)。
【0034】
この実施例1~9および比較例1~4の各磁石の最終工程、形状、曲げ加工条件および磁石組織を下記表1に示した。なお、下記データの測定および算出については、3次元形状測定機(倍率12倍:VR-3000、キーエンス社製)により、得られた各磁石の円弧外周半径、円弧内周半径および磁石側面間の角度を測定し、円弧外周半径と円弧内周半径との差を磁石半径方向の厚み(
図3のT)とし、円弧外周半径の逆数を曲率とし、磁石側面間の角度を広がり角度(
図3のD)とした。また、押出曲げ加工における圧縮ひずみおよび伸張ひずみは、使用した金型の設計から、板磁石形成時の幅寸法と得られる円弧状磁石の円弧外周寸法および円弧内周寸法により算出した。
【0035】
さらに、各磁石における主相結晶粒のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する方法により測定した。具体的には、まず、以下の条件により走査型電子顕微鏡による各磁石の観察を行った。
観察倍率:20,000倍
装置:S-4700、日立ハイテクノロジーズ社製
観察条件:2次電子像
観察方向:配向方向に垂直な方向
粒径確認方法:画像処理(winROOF、三谷商事株式会社)
画像処理条件:針状比
画像処理領域:約740nm×640nm
【0036】
そして、このような条件にて観察して得られる画像上における、その1つの結晶粒の最大径を測定して、その値をdとした。また、その最大径を2等分する点を定め、それに直交する直線がこの結晶粒の外縁と交わる2点を求め、同2点間の距離を測定してtとした。そして、d/tを求め、これをその結晶粒のアスペクト比とした。
このようにして50個の結晶粒の各々についてアスペクト比を測定し、これを単純平均して得た値をその磁石のアスペクト比とした。
【0037】
【0038】
次に、得られた実施例1~9および比較例1~4の各磁石から、
図4の(a)および(b)に示すように、それぞれ周方向中心部(A)および周方向端部(B)の試験片を切り出した。そして、これらの試験片についてパルス励磁型磁気特性測定装置(TPM-2-08s25VT、東英工業社製)を用いて測定温度(RT)23℃の条件において測定を行い、反磁界補正をして残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および飽和磁束密度(Js)を求めた。さらに、配向度(Br/Js)を算出するとともに、各磁気特性データについて、周方向中心部試験片と周方向端部試験片との差(絶対値)も算出した。これらの結果を下記表2に示した。
【0039】
【0040】
これらの結果から、本発明の磁石である実施例1~9は、曲率が低く、厚肉な、広がり角度が大きい円弧形状でありながら、周方向中心部と周方向端部との残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および配合度(Br/Js)の差が小さく、つまり板磁石(比較例1)と同じように磁気特性が均一であり、且つ結晶粒のアスペクト比が2超であることが示された。一方、熱間押出加工により板磁石を形成する工程を経ずに直接円弧状永久磁石とした比較例2は周方向端部の保磁力(Hcj)が大きく低下していた。さらに、押出曲げ加工時の加工量が大きい比較例3および4は、円弧状永久磁石の外周側周方向中心部に微小なヒビが発生し、そのため、周方向中心部の残留磁束密度(Br)と保磁力(Hcj)が大きく低下し、また、円弧状永久磁石の内周側周方向中心部に加わる圧縮ひずみが大きいため、結晶粒の配向が乱れ、周方向中心部の配向度(Br/Js)も低下していた。
【0041】
したがって、本発明の製造方法によれば、曲率が0.055以下且つ磁石半径方向の厚みが4.5mm以上であり、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)および配合度(Br/Js)が周方向中心部と周方向端部の両方において同等に優れた、結晶粒のアスペクト比が2超であるラジアル異方性R-T-B系円弧状永久磁石を容易に得られることが明らかとなった。そして、この磁気特性が均一なラジアル異方性R-T-B系円弧状永久磁石は、減磁し難く、モータ等の永久磁石として好適に使用することができる。