(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法
(51)【国際特許分類】
F23N 5/24 20060101AFI20221012BHJP
F23D 14/12 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
F23N5/24 108Z
F23D14/12 A
(21)【出願番号】P 2018234357
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】森 雅史
(72)【発明者】
【氏名】冨田 三雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪志
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-222316(JP,A)
【文献】特開昭60-259823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23N 1/00-5/26
F23D 14/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の燃焼制御グループ内にn個(n≧3)のラジアントチューブバーナを有する熱処理炉において、前記ラジアントチューブバーナの燃焼不良を検出する方法であって、
それぞれの前記ラジアントチューブバーナから排出される排気ガスの酸素濃度の時系列データを測定および保存し、
各ラジアントチューブバーナに対応する前記時系列データにおいて、同じタイミングで測定された前記酸素濃度のばらつき度合を求め、
前記ばらつき度合に基づいて前記ラジアントチューブバーナの燃焼不良を検出することを特徴とするラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法。
【請求項2】
前記時系列データから、同じタイミングで測定された第1のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度xと第2のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度yを要素とする組データを複数抽出し、抽出された組データの少なくとも1つが、上限許容値と下限許容値によって規定された許容範囲の外にあるとき、燃焼不良ありと判定することを特徴とする請求項1に記載のラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法。
【請求項3】
前記時系列データから、所定の条件を満たす第1のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度xと第2のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度yを要素とする組データを複数抽出し、下記式(1)で表される第1相関係数r1を求め、前記第1相関係数r1の値が所定の閾値よりも小さかった場合に燃焼不良ありと判定することを特徴とする請求項1に記載のラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法。
r1=Sxy/(Sx×Sy) ・・・式(1)
但し、Sxは前記xの標準偏差、Syは前記yの標準偏差、Sxyは前記xとyの共分散である。
【請求項4】
所定の条件を満たす前記第1のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度xと第3のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度zを要素とする組データから得た下記式(2)で表される第2相関係数r2、および、所定の条件を満たす前記第2のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度yと前記第3のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度zを要素とする組データから得た下記式(3)で表される第3相関係数r3の少なくとも1つを、更に算出することを特徴とする請求項3に記載のラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法。
r2=Sxz/(Sx×Sz) ・・・式(2)
r3=Syz/(Sy×Sz) ・・・式(3)
但し、Szは前記zの標準偏差、Sxzは前記xとzの共分散、Syzは前記yとzの共分散である。
【請求項5】
同一の燃焼制御グループ内の前記ラジアントチューブバーナのそれぞれについて、前記時系列データから
同じタイミングで測定された排気ガスの酸素濃度を抽出し、これらの算術平均値を求め、
前記算術平均値が、予め設定した最大閾値よりも大きい場合もしくは最小閾値よりも小さい場合に燃焼不良ありと判定することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法。
【請求項6】
前記酸素濃度を測定する酸素センサが、前記排気ガスを流通させる排気管におけるエルボ部の上側部位に取り付けられていることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱処理炉で用いられるラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非酸化性あるいは還元性の雰囲気下で処理材の熱処理を行う雰囲気熱処理炉では、加熱手段としてのラジアントチューブバーナが用いられる。ラジアントチューブバーナは、適正な空燃比の下で燃焼させることが重要である。例えば、空気の比率が高くなれば外部に排出される排気ガスの量が増大して熱効率が著しく悪化する。逆に燃料の比率が高くなれば煤による設備へのダメージ、環境負荷の増大、燃料の不完全燃焼による燃料の無駄といった問題が生じる。
【0003】
雰囲気熱処理炉では、炉内(加熱室)の温度分布の均一化を図るため、比較的低出力のラジアントチューブバーナを加熱室内に数多く配設する構成が採用されている。このため、これら数多くのラジアントチューブバーナについて燃焼不良の有無を精度良く検出することが求められる。
【0004】
バーナの燃焼状態を判断する際に重要な要素となるのは、排気ガス中の酸素濃度である。例えば下記特許文献1では、それぞれのラジアントチューブバーナから排出された排気ガスを順次、酸素分析計に送り込んで、各ラジアントチューブバーナから排出された排気ガス中の酸素濃度を測定し、各バーナの燃焼状態の良否を判断するようになした点が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の検出方法のように、複数のラジアントチューブバーナについての排気ガスを順次切り替えながら測定する方法では、各ラジアントチューブバーナで、酸素濃度の測定タイミングが異なり、本来検出したい燃焼不良以外の要因による酸素濃度の変動も測定データ中に含まれてしまう。このため、燃焼不良の有無を精度良く検出することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情を背景とし、複数のラジアントチューブバーナを備えた熱処理炉において燃焼不良の有無を精度良く検出することが可能なラジアントチューブバーナの燃焼不良検出方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
而して本発明は、同一の燃焼制御グループ内にn個(n≧3)のラジアントチューブバーナを有する熱処理炉において、前記ラジアントチューブバーナの燃焼不良を検出する方法であって、
それぞれの前記ラジアントチューブバーナから排出される排気ガスの酸素濃度の時系列データを測定および保存し、各ラジアントチューブバーナに対応する前記時系列データにおいて、同じタイミングで測定された前記酸素濃度のばらつき度合を求め、前記ばらつき度合に基づいて前記ラジアントチューブバーナの燃焼不良を検出することを特徴とする。
【0009】
同一の燃焼制御グループ内のラジアントチューブバーナが何れも正常な燃焼状態を維持している場合、操業時における各ラジアントチューブバーナから排出される排気ガスの酸素濃度は、本来的に同じ挙動(波形)を示す。このため、各ラジアントチューブバーナから排出される排気ガスの酸素濃度のばらつき度合いを比較することで、燃焼不良を検出することができる。
【0010】
本発明では、それぞれのラジアントチューブバーナにおいて同一時系列データ(同一の時間帯における時間的に連続するデータ)を保存するため、それぞれのラジアントチューブバーナにおいて同じタイミングで測定された酸素濃度を抽出して燃焼不良の検出を行うことができる。即ち、燃焼不良以外の要因による酸素濃度の変動を排除して、燃焼不良の有無を精度良く検出することができる。
【0011】
本発明では、前記時系列データから、同じタイミングで測定された第1のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度xと第2のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度yを要素とする組データを複数抽出し、抽出された組データの少なくとも1つが、上限許容値と下限許容値によって規定された許容範囲の外にあるとき、燃焼不良ありと判定することができる。
【0012】
ここで同じタイミングとは、xとyの測定時刻が同じ場合のほか、各ラジアントチューブバーナでの調節弁から酸素濃度測定箇所までの配管長の違い等を考慮して測定時刻に若干の時間差を設けた場合も含まれる。
【0013】
また本発明では、前記時系列データから、所定の条件を満たす第1のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度xと第2のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度yを要素とする組データを複数抽出し、下記式(1)で表される第1相関係数r1を求め、前記第1相関係数r1の値が所定の閾値よりも小さかった場合に燃焼不良ありと判定することができる。
r1=Sxy/(Sx×Sy) ・・・式(1)
但し、Sxは前記xの標準偏差、Syは前記yの標準偏差、Sxyは前記xとyの共分散である。
【0014】
このように、所定の条件を満たす(特定の条件下における)第1のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度xと第2のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度yを要素とする組データを利用することで燃焼不良の有無を精度良く検出することができる。ここで所定の条件とは、例えば、xとyが同じタイミングで測定され且つ空気および燃料を供給する調節弁の開度が最大の最大燃焼状態であること、と規定することができる。
このような条件の下、抽出されたxとyは、対象の第1のラジアントチューブバーナおよび第2のラジアントチューブバーナの燃焼が何れも正常であれば高い相関を示すことから、第1相関係数r1の値が所定の閾値よりも小さかった場合に、燃焼不良ありと判定することができる。
【0015】
ここで本発明では、所定の条件を満たす前記第1のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度xと第3のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度zを要素とする組データから得た下記式(2)で表される第2相関係数r2、および、所定の条件を満たす前記第2のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度yと前記第3のラジアントチューブバーナに対応する前記酸素濃度zを要素とする組データから得た下記式(3)で表される第3相関係数r3の少なくとも1つを、更に算出することができる。
r2=Sxz/(Sx×Sz) ・・・式(2)
r3=Syz/(Sy×Sz) ・・・式(3)
但し、Szは前記zの標準偏差、Sxzは前記xとzの共分散、Syzは前記yとzの共分散である。
【0016】
上記第1相関係数r1の値が小さかった場合で、更に第1のラジアントチューブバーナと第2のラジアントチューブバーナの何れが燃焼不良であるかを特定したい場合は、更に、第2相関係数r2および第3相関係数r3の少なくとも1つを併用することが有効である。
【0017】
また本発明では、同一の燃焼制御グループ内の前記ラジアントチューブバーナのそれぞれについて、前記時系列データから同じタイミングで測定された排気ガスの酸素濃度を抽出し、これらの算術平均値を求め、
前記算術平均値が、予め設定した最大閾値よりも大きい場合もしくは最小閾値よりも小さい場合に燃焼不良ありと判定することができる。
このようにすれば、同一の燃焼制御グループ内の全ラジアントチューブバーナに影響を及ぼす上流側での制御に起因する燃焼不良の有無を検出することができる。
【0018】
また本発明では、前記酸素濃度を測定する酸素センサを、前記排気ガスが流通する排気管におけるエルボ部の上側部位に取り付けることができる。酸素センサの故障を防止するためには、酸素センサの取り付け位置を、排気ガスの温度ができるだけ低く且つ排気ガス中の水蒸気が結露して生じる水滴との接触を避けることができる位置とすることが望ましい。ここで、エルボ部はラジアントチューブバーナの排気口から離間した位置にあり、またエルボ部の上側部位は水滴と接触し難い位置として好適である。従って、酸素センサをエルボ部の上側部位に取り付けることで燃焼不良を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態で用いる熱処理炉の概略構成を示した図である。
【
図2】
図1のラジアントチューブバーナをその周辺部とともに示した図である。
【
図3】
図1の熱処理炉における燃焼制御についての説明図である。
【
図4】
図1の熱処理炉における燃焼不良の検出についての説明図である。
【
図5】操業時に測定された酸素濃度の時系列データの一例である。
【
図6】第1の燃焼不良検出方法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本実施形態で用いる熱処理炉の概略構成を示した図である。同図において、10はバッチ式の熱処理炉で、箱形をなす炉体12の内部に加熱室13が形成されている。炉体12の長手方向の一端側には出入口14が形成され、処理物としてのワークは、ローラ群15により出入口14を通じて加熱室13に装入される。なお、出入口14は、駆動装置16と連結された扉17によって開閉可能とされている。
【0021】
加熱室13では、非酸化性あるいは還元性の雰囲気でワークの加熱処理が行われる。加熱室13には、雰囲気ガスを導入するための雰囲気ガス供給配管19が接続されるとともに、加熱手段としてのラジアントチューブバーナ20および天井ファン22が搬送方向(長手方向)に沿って複数設けられている。
【0022】
一般に、熱処理炉では加熱室13内の温度分布の均一化を図るため、比較的低出力のラジアントチューブバーナ20を加熱室13内に数多く配置する構成が採用される。本例では、加熱室13を搬送方向に沿って三つのゾーン13a,13b,13cに区画し、同一ゾーンに属する複数のラジアントチューブバーナ20を一系統で制御する。
図1で示すように本例では、第1ゾーン13aに6個のラジアントチューブバーナ20が配設され、第2ゾーン13bに8個のラジアントチューブバーナ20が配設され、第3ゾーン13cに6個のラジアントチューブバーナ20が配設されている。ゾーンごとに燃焼制御を行うようにすれば、ラジアントチューブバーナ20への燃料ガスや燃焼用空気の供給量を調節する調節弁等の共通化が図られ、設備コストを低く抑えることができる。なお、バッチ式の熱処理炉10において操業時の温度目標値は各ゾーン同じである。
【0023】
図2(A)に示すように、ラジアントチューブバーナ20は、U字形状を成し炉壁12aを内外に貫通するパイプ状のチューブ体25と、チューブ体25の一端側25aの中空部に同軸状に配置された燃焼バーナ28と、チューブ体25の他端側25bの中空部に配置された熱交換器31と、を備えている。
【0024】
燃焼バーナ28は、燃料供給管40の一部を構成する燃料分岐管42および給気パイプ34が接続され、燃料分岐管42から供給される燃料ガスを給気パイプ34から供給される燃焼用空気と混合させて燃焼させる。なお、燃料ガスと燃焼用空気を混合させた混合気体への着火は、図示を省略するパイロットバーナにより行われる。燃焼により生じた高温ガスは、チューブ体25のターン部25cを経てチューブ体25の他端側25bに送られる。その間、高温ガスはチューブ体25の管壁を介して加熱室13内に熱を輻射する。
【0025】
熱交換器31は、略円筒状の本体32と半球形状の先端部33を備え、本体32の内部には燃焼用空気を燃焼バーナ28に向けて流す給気パイプ34が配設されている。本体32の後端壁に開設された通気孔32aは、空気供給管46の一部を構成する空気分岐管48と接続されており、燃焼用空気は、空気分岐管48、通気孔32aを経て本体32内部に流入する。本体32内部に流入した燃焼用空気は、高温ガスの熱によって予熱された後、前述のように給気パイプ34により燃焼バーナ28に供給される。一方、燃焼用空気との間で熱交換を行った後の排気ガス(高温ガス)は、チューブ体25の他端側25bに形成された排気口26から、排気管35内の煙道35aを流通して外部に排出される。
【0026】
図2(B)に示すように、排気管35は、一端側を排気口26と連通させ水平方向に延びる水平部36と、鉛直方向上向きに延びる鉛直部37と、これら水平部36と鉛直部37との間に形成され、水平部36から鉛直部37に向けて斜め上方向に延びるエルボ部38と、で構成されている。本例では、ジルコニア式酸素センサ39がエルボ部38に、より詳しくはエルボ部38の上側部位38aに取付けられている。ここで上側部位38aとは、エルボ部38を管軸に沿って上下に分割した際の上側の部位である。
【0027】
図2(B)に示すように、エルボ部38はラジアントチューブバーナ20の排気口26から離間した位置にあり、測定する排気ガスの温度をある程度低下させることができる。
また、エルボ部38の上側部位38aは、排気ガス中の水蒸気が結露して生じる水滴との接触を避けることができる位置として好適である。従って、酸素センサ39をエルボ部38の上側部位38aに取り付けることで、高温や水滴に起因する酸素センサ39の故障を抑制することが可能である。また、炉内温度100℃以上で酸素センサ39を起動させるようにすることで、水滴起因のセンサ破損を更に減少させることが可能である。
【0028】
次に、熱処理炉10における燃焼制御について説明する。熱処理炉10では、加熱室13内が搬送方向に沿って三つのゾーン13a,13b,13cに区画され、各ゾーンごとに燃焼制御が行われている。同一ゾーン内にある複数のラジアントチューブバーナ20は、同一の燃焼制御グループとして、共通の調節弁を用いて制御される。
【0029】
図3は、第1ゾーン13aにおける燃焼制御の説明図である。同図に示すように、燃料ガスを流通させる燃料供給管40は、元管41および元管41から分岐した複数の分岐管42から成る。元管41には流量調節弁43およびガス供給量を検出するオリフィスメータ44が設けられている。また、燃焼用空気を流通させる空気供給管46は、元管47および元管47から分岐した複数の分岐管48から成る。元管47には流量調節弁49および空気供給量を検出するオリフィスメータ50が設けられている。各分岐管42,48には手動弁45,51が設けられており、個々の燃焼バーナ28に対して均等に燃料ガスおよび燃焼用空気が供給されるように予めその弁開度が調整されている。なお
図3では、第1ゾーン13aに属する6個の燃焼バーナ28のうち、3個のみを表示し、残り3個は省略している。
【0030】
同図において、53は炉内の温度を検出する温度検出手段としての温度センサ、54は燃焼制御装置である。燃料制御装置54は、予め設定された操業時のヒートパターンと温度センサ53での検出温度との差分に基づいて流量調節弁43および49の開度を増減して燃焼バーナ28の火力を制御する。また、炉内を冷却する際には燃料ガスの供給を停止してチューブ体25内に空気のみを流通させる。
【0031】
なお、第2ゾーン13bについては、上述の第1ゾーン13aとは別系統で配設された流量調節弁により燃焼用空気および燃料ガスの量が制御されている。また第3ゾーン13cについては、第1ゾーン13aおよび第2ゾーン13bとは別系統で配設された流量調節弁により燃焼用空気および燃料ガスの量が制御されている。
【0032】
次に、熱処理炉10に設けられた燃焼不良検出装置60について説明する。燃焼不良検出装置60は、熱処理炉10に配設されたラジアントチューブバーナ20の燃焼不良を検出するものである。燃焼不良検出装置60は、
図4に示すように、燃焼制御装置54および複数の酸素センサ39と接続されている。燃焼制御装置54からは操業情報が入力され、各酸素センサ39からは信号補正器55を介して各ラジアントチューブバーナ20から排出される排気ガス中の酸素濃度を示す信号が入力される。
【0033】
燃焼不良検出装置60は、記憶部61と燃焼不良判定処理部62を備えている。記憶部61は、燃焼制御装置54からの操業情報やセンサ39からの酸素濃度の時系列データを保存する。燃焼不良判定処理部62は、記憶部61に保存された時系列データに基づいて燃焼不良の有無を判定する。燃焼不良検出装置60は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびHDD(ハードディスクドライブ)等の記憶装置等を備えるコンピュータで構成することができ、燃焼不良判定処理部62はCPUなどのプロセッサとすることができる。この場合、ROM等に記憶された制御プログラムをCPUなどのプロセッサが実行することにより実現される。燃焼不良判定処理部62において、燃焼不良有りと判定された場合には、燃焼不良検出装置60に接続された外部端末65等に向けて燃焼不良発生情報を送信することができる。
なお、燃焼不良検出装置60は、熱処理炉10の全体を制御する制御部(図示省略)の一部、もしくは燃焼制御装置54の一部として構成することも可能である。
【0034】
図5は、操業時に測定された酸素濃度の時系列データの一例を示した図である。操業時のヒートパターンは、主に昇温、均熱、冷却の工程に大別されるが、各工程において、ラジアントチューブバーナ20に供給される燃料ガスおよび燃焼用空気の量は、燃焼制御装置54により細かく制御される。このため、
図5に示すように、排気ガス中の酸素濃度も時間経過とともに波状に変化する。ここで、同一の燃焼制御グループ内の複数のラジアントチューブバーナの波形は、理想的には同一または近似した形状となる。一方で、燃焼不良が生じたラジアントチューブバーナについては波形形状に変化が生じる。
【0035】
本実施形態では、操業時の(
図5に示すような)酸素濃度の時系列データを各ラジアントチューブバーナ毎に記憶部61に保存し、燃焼不良判定処理部62において、各ラジアントチューブバーナ20に対応した時系列データにおける、同じタイミングで測定された酸素濃度のばらつき度合を比較評価することにより燃焼不良の有無を検出する。
【0036】
具体的には、以下で示す手順を燃焼不良判定処理部62に実行させることで燃焼不良を検出する。
(第1の燃焼不良検出方法)
まず、同一の燃焼制御グループの中から第1のラジアントチューブバーナおよび第2のラジアントチューブバーナを選択する。次に、記憶部61に保存されている時系列データから、同じタイミングで測定された第1のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度x
iと第2のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度y
iを要素とする組データ(x
i、y
i)を複数抽出する。このようにして得た複数の組データからは
図6に示すような、排気ガス中の酸素濃度の下限近傍(略2%)から上限近傍(略21%)まで、広い範囲において組データ(x
i、y
i)の分布(ばらつき度合い)を求めることができる。
ここで第1のラジアントチューブバーナおよび第2のラジアントチューブバーナの燃焼がともに正常な場合での組データ(x
i、y
i)のばらつき度合いの許容範囲を、予め上限許容値と下限許容値で規定しておけば、抽出された組データの少なくとも1つが許容範囲の外にあるとき、燃焼不良ありと判定することができる。なお、
図6において、上限許容値はy=ax+α、下限許容値はy=ax+βで表され、a,αおよびβはそれぞれ定数である。
【0037】
この第1の検出方法では、抽出された組データの少なくとも1つが、下限許容値でより下側であった場合、第2のラジアントチューブバーナに供給される燃料ガスの量が過多であることが推測される。逆に上限許容値でより上側であった場合、第1のラジアントチューブバーナに供給される燃料ガスの量が過多であることが推測される。
【0038】
(第2の燃焼不良検出方法)
まず、同一の燃焼制御グループの中から第1のラジアントチューブバーナおよび第2のラジアントチューブバーナを選択する。次に、記憶部61に保存されている時系列データから、所定の条件を満たす第1のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度x
iと第2のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度y
iを要素とする組データ(x
i、y
i)を複数抽出する。ここで所定の条件とは、x
iとy
iが同じタイミングで測定され且つ空気および燃料を供給する調節弁の開度が最大の最大燃焼状態であること、とする。具体的には
図5におけるP1、P2・・等で示したポイントがこれに相当する。どのタイミングのポイントが最大燃焼状態であるかは、燃焼制御装置54から送られてきた操業情報により求めることができる。
【0039】
そして抽出された複数の組データ(x
i、y
i)に基づいて、下記式(1)で表される第1相関係数r1を算出し、xとyのばらつき度合いを求める。
r1=Sxy/(Sx×Sy) ・・・式(1)
ここで、標準偏差Sx、標準偏差Sy、共分散Sxyは、それぞれ下記のように表すことができる。
【数1】
【0040】
このような条件の下、抽出されたxとyは、対象の第1のラジアントチューブバーナおよび第2のラジアントチューブバーナがいずれも正常であれば高い相関を示すことから、第1相関係数r1の値が所定の閾値よりも小さかった場合には、燃焼不良ありと判定することができる。
【0041】
次に、上記第1相関係数r1の値が閾値よりも小さかった場合で、更に第1のラジアントチューブバーナと第2のラジアントチューブバーナの何れが燃焼不良であるかを特定したい場合は、所定の条件を満たす第1のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度xiと第3のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度ziを要素とする組データ(xi、zi)から得た下記式(2)で表される第2相関係数r2、および、所定の条件を満たす第2のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度yiと第3のラジアントチューブバーナに対応する酸素濃度ziを要素とする組データ(yi、zi)から得た下記式(3)で表される第3相関係数r3の少なくとも1つを、更に算出する。
r2=Sxz/(Sx×Sz) ・・・式(2)
r3=Syz/(Sy×Sz) ・・・式(3)
但し、Szはzの標準偏差、Sxzはxとzの共分散、Syzはyとzの共分散である。
【0042】
ここで第2相関係数r2の値が所定の閾値よりも小さかった場合には、第1、第2のラジアントチューブバーナのうち、第1のラジアントチューブバーナにおいて燃焼不良が発生していると判定することができる。また、第3相関係数r3の値が所定の閾値よりも小さかった場合には、第1、第2のラジアントチューブバーナのうち、第2のラジアントチューブバーナにおいて燃焼不良が発生していると判定することができる。
【0043】
(第3の燃焼不良検出方法)
同一の燃焼制御グループに属する複数のラジアントチューブバーナについて(例えば、第1ゾーン13aに属する6個のラジアントチューブバーナ20について)、所定条件における排気ガスの酸素濃度の測定値を抽出する。ここで所定の条件とは、酸素濃度が同じタイミングで測定され且つ空気および燃料を供給する調節弁の開度が最大の最大燃焼状態であること、とする。具体的には
図5におけるP1、P2・・等で示したポイントがこれに相当する。次に、抽出した酸素濃度の測定値の算術平均値を求める(得られた算術平均値は最大燃焼状態での各バーナでの平均酸素濃度である)。次に、得られた算術平均値と、予め設定した最大閾値および最小閾値を比較し、算術平均値が許容範囲の外にあるとき、燃焼不良ありと判定することができる。
【0044】
ここで、算術平均値が最大閾値より大きい場合は、対象とするゾーン(例えば、第1ゾーン13a)に供給される元管からの燃料ガスの流量が過小であると推測することができる。また、算術平均値が最小閾値より小さい場合には、対象とするゾーンに供給される元管からの燃料ガスの流量が過多であると推測することができる。
【0045】
また算術平均値は、定期的に算出し、測定時間の情報と関連付けて記憶部61に蓄積保存することが有効である。初期状態からの変化量を求めることで算術平均値の経時変化の傾向を知ることができる。直近の算術平均値が許容範囲内である場合であっても、経時変化傾向を知ることでメンテナンス(部品交換)の実施時期を推定することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまでも一例示である。上記実施形態では、3種類の燃焼不良検出方法を例示したが、第1および第2の検出方法は、同一の燃焼制御グループ内の特定のラジアントチューブバーナにおける燃焼不良を検出するのに有効である。一方、第3の検出方法は、同一の燃焼制御グループ内の全ラジアントチューブバーナに影響を及ぼす上流側での制御に起因する燃焼不良を検出するのに有効である。これらの検出方法を併用することも勿論可能である。
【0047】
また、バーナの燃焼状態の良否を判定する際の基準となる閾値(許容値)は、操業条件等に基づいて適宜決定することが可能である。また、上記実施形態はバッチ式の熱処理炉に適用したものであったが、本発明の燃焼不良検出方法は連続式の熱処理炉にも適用可能である等、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 熱処理炉
13a 第1ゾーン
13b 第2ゾーン
13c 第3ゾーン
20 ラジアントチューブバーナ
38 エルボ部
38a 上側部位
39 酸素センサ
r1 第1相関係数
r2 第2相関係数
r3 第3相関係数
x,y,z 酸素濃度