(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】真空バルブおよびバルブ制御装置
(51)【国際特許分類】
F16K 51/02 20060101AFI20221012BHJP
F16K 31/04 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16K51/02 A
F16K31/04 K
(21)【出願番号】P 2018238517
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/029253(WO,A1)
【文献】特開2009-068607(JP,A)
【文献】特開2014-098969(JP,A)
【文献】特開平08-200521(JP,A)
【文献】特開平07-190228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00-31/05
39/00-51/02
G05D 16/00-16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ開口と対向配置した弁体を前記バルブ開口に対して昇降駆動して、バルブ開閉動作を行う真空バルブであって、
前記弁体を昇降駆動する第1の弁体駆動部および第2の弁体駆動部を備え、
前記第1の弁体駆動部および前記第2の弁体駆動部の各々は、
前記弁体を第1の最小駆動可能量で昇降駆動する第1昇降駆動部と、
前記弁体を、前記第1の最小駆動可能量よりも小さい第2の最小駆動可能量で昇降駆動する
とともに、前記弁体を昇降駆動方向に磁気浮上支持する磁気浮上アクチュエータである第2昇降駆動部と、を
有し、
前記第1の弁体駆動部が有する前記磁気浮上アクチュエータの磁気浮上制御と、前記第2の弁体駆動部が有する前記磁気浮上アクチュエータの磁気浮上制御とが、それぞれ独立して行われる、真空バルブ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空バルブにおいて、
前記真空バルブの全閉時に、前記磁気浮上アクチュエータにより前記弁体を弁座の方向に駆動し、前記弁体と前記弁座との間に設けられたシール部材に前記弁体を所定の力で押圧させる第2の制御部をさらに備える、真空バルブ。
【請求項3】
請求項1に記載の真空バルブにおいて、
前記第1昇降駆動部は、前記第2昇降駆動部を前記弁体と一体に前記弁体の昇降方向に駆動する、真空バルブ。
【請求項4】
請求項
2に記載の真空バルブを制御するバルブ制御装置であって、
前記真空バルブを介して真空排気されるチャンバの圧力目標値と圧力計測値とに基づいて前記第1昇降駆動部の昇降駆動を開ループ制御により制御する第1の制御部
をさらに備え、
前記第2の制御部は、前記真空バルブを介して真空排気されるチャンバの圧力目標値と圧力計測値とに基づいて、前記第2昇降駆動部の昇降駆動または前記第1および第2昇降駆動部を閉ループ制御により制御す
る、バルブ制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のバルブ制御装置であって、
前記第2の制御部は、前記第1昇降駆動部の昇降駆動後の前記圧力目標値および前記圧力計測値に基づいて前記第2昇降駆動部の昇降駆動を制御する、バルブ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空バルブおよびバルブ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流量を制御するポペット式の真空バルブが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の真空バルブでは、弁体を弁座に対して昇降駆動することで弁体開度を制御している。弁体の駆動方法としては、例えば、特許文献2に記載の発明のような送りねじ駆動方式が一般的に知られている。特許文献2に記載の発明では、弁棒に固定されたボールねじナットに螺合するねじ棒をステッピングモータ等で回転駆動することで、弁棒の固定された弁体を昇降駆動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-227325号公報
【文献】特開2001-304173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体製造装置の真空プロセスにおいては、稀薄ガス雰囲気にある真空チャンバの圧力を予め設定した目標圧力に自動的に調整する自動調圧式の真空バルブが用いられる。上述した特許文献1に記載の真空バルブも、自動調圧式の真空バルブとして用いられる。自動調圧式の真空バルブでは目標圧力近傍では弁体開度の微調整が必要なため、弁体駆動に対して微調整性能が要求される。しかしながら、弁体を送りねじ駆動方式で開閉制御する真空バルブでは、送りねじ機構が有するバックラッシュにより、弁体開度の微調整性能が不十分であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい態様による真空バルブは、バルブ開口と対向配置した弁体を前記バルブ開口に対して昇降駆動して、バルブ開閉動作を行う真空バルブであって、前記弁体を第1の最小駆動可能量で昇降駆動する第1昇降駆動部と、前記弁体を、前記第1の最小駆動可能量よりも小さい第2の最小駆動可能量で昇降駆動する第2昇降駆動部と、を備える。
さらに好ましい態様では、前記第1昇降駆動部は、前記第2昇降駆動部を前記弁体と一体に前記弁体の昇降方向に駆動する。
さらに好ましい態様では、前記第2昇降駆動部は、前記弁体を昇降駆動方向に磁気浮上支持する磁気浮上アクチュエータである。
本発明の好ましい態様によるバルブ制御装置は、前記真空バルブを制御するバルブ制御装置であって、前記真空バルブを介して真空排気されるチャンバの圧力目標値と圧力計測値とに基づいて前記第1昇降駆動部の昇降駆動を開ループ制御により制御する第1の制御部と、前記真空バルブを介して真空排気されるチャンバの圧力目標値と圧力計測値とに基づいて、前記第2昇降駆動部の昇降駆動または前記第1および第2昇降駆動部を閉ループ制御により制御する第2の制御部とを備える。
さらに好ましい態様では、前記第2の制御部は、前記第1昇降駆動部の昇降駆動後の前記圧力目標値および前記圧力計測値に基づいて前記第2昇降駆動部の昇降駆動を制御する。
本発明の好ましい態様によるバルブ制御装置は、前記真空バルブを制御するバルブ制御装置であって、前記真空バルブを介して真空排気されるチャンバの圧力目標値と圧力計測値とに基づいて開ループ制御により前記第1昇降駆動部の昇降駆動を制御する第1の制御部と、前記真空バルブを介して真空排気されるチャンバの圧力目標値と圧力計測値とに基づいて、閉ループ制御により前記第2昇降駆動部の昇降駆動を制御する第2の制御部とを備え、前記第2の制御部は、前記真空バルブの全閉時に、前記磁気浮上アクチュエータにより前記弁体を弁座の方向に駆動し、前記弁体と前記弁座との間に設けられたシール部材に前記弁体を所定の力で押圧させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、弁体を昇降駆動する真空バルブの微調整性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、真空バルブが装着された真空装置の概略構成を示す図である。
【
図3】
図3は、バルブコントローラの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図3のモータ制御部をより詳細に示す図である。
【
図5】
図5は、微調整駆動部の磁気浮上制御に関するブロック図である。
【
図6】
図6は、調圧制御の概略の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、開ループ制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8(a)は駆動調整量ΔLの演算の詳細を示すフローチャートであり、(b)は排気特性データからの実効排気速度、弁体駆動量の導出を説明する図である。
【
図9】
図9は、駆動調整量ΔLaを説明する図である。
【
図10】
図10は、閉ループ制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、全閉動作の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、変形例1の真空バルブの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明に係る真空バルブの一実施の形態を示す図であり、真空バルブ4が装着された真空装置の概略構成を示す図である。真空装置は、真空プロセスが行われる真空チャンバ1と、真空チャンバ1での処理に関する制御を行う装置コントローラ2とを備えている。
【0009】
真空チャンバ1には、真空チャンバ1を真空排気するための真空ポンプ3と、真空チャンバ1を真空排気する際の実効排気速度を調整するための真空バルブ4とが装着されている。真空ポンプ3には、例えば、ターボ分子ポンプが用いられる。真空バルブ4の開閉動作はバルブコントローラ5によって制御される。真空チャンバ1内の圧力(以下では、圧力計測値と呼ぶ)Prは真空計11により計測される。真空チャンバ1に導入されるガスの流量Qinは、流量計12によって計測される。真空計11および流量計12の計測値は、装置コントローラ2に入力される。
【0010】
真空バルブ4は、弁体40、弁座41および2組の弁体駆動部42A,42Bを備えている。真空チャンバ1に固定される弁座41にはバルブ開口410が形成されており、このバルブ開口410に真空ポンプ3の吸気口フランジが固定される。弁体40は、破線で示すようにバルブ開口410に対して図示上下方向(z軸方向)に昇降駆動される。弁座41の真空チャンバ側の面にはシール部材411が設けられている。真空バルブ4を全閉状態とした時には、弁体40がシール部材411に押圧されて、バルブ開口410が弁体40によって完全に遮蔽される。2組の弁体駆動部42A,42Bは同一構成とされており、それぞれ粗調整駆動部43と微調整駆動部44とを備えている。
【0011】
なお、バルブ開口410と弁体40の平面視形状は円形が好ましいが、矩形形状でもよい。また、2組の弁体駆動部42A、42Bは、好ましくは弁体40の中心軸に関して点対称の位置に設置される。
【0012】
(弁体駆動部42A,42B)
図2は弁体駆動部42Aの拡大図である。粗調整駆動部43は、ステッピングモータ430によって駆動されるリニアアクチュエータであり、本実施の形態ではボールねじを用いたリニアアクチュエータが採用されている。ボールねじナット433に螺合しているねじ棒431は、カップリング432によりステッピングモータ430の回転軸に結合されている。ボールねじナット433は、微調整駆動部44が固定されるスライダ434に設けられている。スライダ434は、支持部435によってz軸方向にスライド移動可能に支持されている。支持部435には、例えば、リニアガイドやリニアボールベアリング等が用いられる。支持部435は本体ケース470 の内面に設けられている。
【0013】
ねじ棒431がステッピングモータ430により回転駆動されると、ボールねじナット433が設けられているスライダ434はねじ棒431に沿ってz軸方向に昇降駆動される。粗調整範囲であるスライダ434の昇降駆動のストロークは、弁体40が全閉状態の下端位置から全開状態の上端位置までの移動量である。位置センサ436はスライダ434が上記下端位置に達したことを検出するセンサであり、例えば、フォトインタラプタ等が用いられる。
【0014】
微調整駆動部44は、昇降駆動のストロークが粗調整駆動部43のストロークよりも小さく、かつ、粗調整駆動部43の分解能よりも高い分解能を有する駆動部である。例えば、 微調整駆動部44はアキシャル磁気浮上アクチュエータを有し、微調整駆動部44の筐体440(440a,440b,440c)はスライダ434に固定されている。筐体440は、例えば円筒形状であり、底板440a、側壁440bおよび天板440cから成る。筐体440内には、一対の電磁石(上側電磁石441aと下側電磁石441b)と、上側電磁石441aおよび下側電磁石441bによりz軸方向に磁気浮上支持されるアキシャルディスク442とを備えている。アキシャルディスク442のz軸方向の変位は、アキシャルディスク442の下面に設けられたセンサターゲット443と対向するように設けられたアキシャルギャップセンサ444によって検出される。
【0015】
アキシャルディスク442には弁棒450が締結されている。弁棒450は、本体ケース470に設けられたリニアボールベアリング451によってz軸方向に移動可能に支持されている。
図1に示すように、弁棒450は弁座41を貫通して真空チャンバ1側まで延在し、弁棒450の上端には真空チャンバ1内に配置される弁体40が固定されている。弁体駆動部42A,42Bの筐体内は大気圧状態とされるので、弁座41の貫通孔と弁棒450との隙間から弁体駆動部42A内の気体が真空チャンバ1内へと侵入しないように、弁棒450と弁座41との間にベローズ452が設けられている。ベローズ452は、真空チャンバ1内空間と本体ケース470内空間とを仕切る真空シールとして機能する。
【0016】
上述のように、弁体駆動部42A,42Bは粗調整駆動部43と微調整駆動部44とを備え、粗調整駆動部43による駆動量Laと微調整駆動部44の駆動量Lb(<La)とを合計したLa+Lbだけ、弁体40をz軸方向に駆動する。例えば、駆動量Laは弁体全閉位置を基準位置とし、駆動量Lbは電磁アクチュエータの中立位置(中間位置)を基準位置として表される。これら駆動量La、Lbの算出方法は以下で詳述する。
【0017】
微調整駆動部44に使用されるアキシャル磁気浮上アクチュエータは、一般的に1μm以下の位置決め精度(最小駆動可能量)を有する。一方、ステッピングモータ430とボールねじ機構とを用いる粗調整駆動部43の位置決め精度は、ステッピングモータ430のステップ角で決まる分解能(最小駆動可能量)と、ボールねじ機構のバックラッシュによる位置変位誤差とに依存している。そのため、粗調整駆動部43の位置決め精度は、アキシャル磁気浮上アクチュエータを有する微調整駆動部44の位置決め精度よりも低い。
【0018】
本実施の形態では、粗調整駆動部43による粗い昇降駆動と微調整駆動部44による微小な昇降駆動とを組み合わせることにより、弁体40を高精度に位置決めできるような構成とした。ステッピングモータ430による昇降駆動においては、ステッピングモータ430は予め定まった所定のステップ角の分解能で回転駆動される。従って、上記ステップ角に応じて、スライダ434の最小変位ΔLa1、すなわち、粗調整駆動部43による弁棒450の最小変位ΔLa1が定まる。ボールねじ機構のバックラッシュによる変位誤差の最大値ΔLa2は予め分かっており、粗調整駆動部43の位置決め精度はΔLa1+ΔLa2となる。そのため、微調整駆動部44のアキシャル磁気浮上アクチュエータは、弁棒450の変位をΔLa1+ΔLa2だけ微調整できるように構成される。
【0019】
例えば、ステッピングモータ430が2相モータの場合にはステップ角は1.8°であって、ねじ棒421のリードピッチが10mmならば、最小変位ΔLa1はΔLa1=50μm(=(1.8/360)×10000)となる。そして、ボールねじ機構のバックラッシュによる変位誤差の最大値ΔLa2を100μmと仮定した場合には、ΔLa1+ΔLa2=150μmとなる。汎用のアキシャル磁気軸受でも500μm程度の範囲で変位調整可能であるので、変位誤差ΔLa1+ΔLa2に対して微調整駆動部44による位置誤差補正が十分に可能である。すなわち、微調整駆動部44は、粗調整駆動部43の位置決め精度を示す移動量(分解能)より小さい移動量で弁体40を位置決めする位置決め精度(分解能)を有する。
【0020】
図1に示すようにバルブ開口410に対して弁体40が昇降駆動して開閉動作を行うポペット式の真空バルブ4では、バルブコンダクタンスがゼロの全閉位置から、十分なバルブコンダクタンスがとれる全開位置までの弁体40のストロークは、弁体40の直径にもよるが最大で100mm程度が必要とされる。従って、粗調整駆動部43は100mmの可動ストローク範囲、すなわち粗調整範囲で弁体40を昇降駆動することになる。
【0021】
(バルブコントローラ5の詳細)
図3は、バルブコントローラ5の構成を示すブロック図である。バルブコントローラ5は、真空計11で計測された圧力計測値Prに基づいて、真空チャンバ1の圧力が与えられた圧力目標値Psとなるように真空バルブ4の開度すなわちバルブコンダクタンスを調整する。ここでは、真空バルブ4の開度を次式(1)で算出されるαで表すことにする。
α=(L/L0)×100 …(1)
【0022】
式(1)において、L0は、全閉状態における弁体位置を基準位置とする全開状態における弁体40の駆動量であって、弁体40の可動ストロークに相当する。式(1)のLは上記基準位置から現在の駆動位置までの駆動量であって、以下では弁体駆動量と称することにする。前述した粗調整駆動部43による駆動量Laは上述した最小変位ΔLa1の整数倍で表される量であって、差=L-Laを微調整駆動部44の駆動量Lbで調整することで、弁体駆動量Lを実現する。また、微調整駆動部44の駆動量Lbは、アキシャルディスク442が上側電磁石441aと下側電磁石441bとの中間位置を基準とした場合の、中間位置からの変位量とする。そのため、アキシャルディスク442の位置が中間位置よりも下側電磁石441b側にある場合には、駆動量Lbは負の値となる。式(1)は開度αと弁体駆動量Lとの相関を表す式であり、以下では開度αに代えて弁体駆動量Lを用いて説明する。
【0023】
図3に示すように、バルブコントローラ5は記憶部50、調圧制御部51、モータ制御部52、インバータ回路53a,53b、磁気浮上制御部54a,54bおよび励磁アンプ55a,55bを備えている。磁気浮上制御部54aおよび励磁アンプ55aは弁体駆動部42Aに対応して設けられたものであり、磁気浮上制御部54bおよび励磁アンプ55bは弁体駆動部42Bに対応して設けられたものである。バルブコントローラ5には、圧力目標値Psと真空計11で計測された圧力計測値Prとが装置コントローラ2から入力され、アキシャルギャップセンサ444で検出された変位信号Sg1,Sg2が各微調整駆動部44から入力される。
【0024】
記憶部50には、弁体駆動量Lと実効排気速度Seとの相関関係、または、弁体駆動量Lと真空バルブ4のコンダクタンスCvとの相関関を示す排気特性データが記憶されている。実効排気速度Seとは真空ポンプ3と真空バルブ4とから成る真空排気系の排気速度であって、真空ポンプ3の排気速度Spと真空バルブ4のコンダクタンスCvとから算出される。あるいは、真空ポンプ3と真空バルブ4とから成る真空排気系の排気速度を実測することで得られる。以下では、弁体駆動量Lと実効排気速度Seとの相関関係を示す排気特性データが記憶部50に記憶されている場合を例に説明する。
【0025】
調圧制御部51は、圧力目標値Psと圧力計測値Prとの差分ΔP=Ps-Prを算出し、|ΔP|>ΔPthの場合には開ループ制御で調圧制御を行い、|ΔP|≦ΔPthの場合には閉ループ制御で調圧制御を行う。調圧制御部51は、モータ制御部52および磁気浮上制御部54a,54bに対して変位に相当する目標位置指令βas,βbsを出力する。後述するように、調圧制御部51では圧力目標値Psに応じた目標弁体駆動量Lsが算出され、目標弁体駆動量Lsと現在の弁体駆動量Lとの差分ΔL=Ls-Lに基づく駆動量だけ弁体駆動部42A,42Bで弁体40を駆動する。ここでは、ΔLを弁体駆動部42A,42Bの駆動調整量と呼び、粗調整駆動部43および微調整駆動部44の駆動調整量をそれぞれΔLa,ΔLbとする。すなわち、ΔL=ΔLa+ΔLbである。なお、調圧制御の詳細は後述する。
【0026】
モータ制御部52は、調圧制御部51から入力される目標位置指令βasに基づいて生成されるPWMゲート信号を2つのインバータ回路53a,53bに入力する。2組の弁体駆動部42A,42Bの内、一方の弁体駆動部42Aに設けられた粗調整駆動部43はインバータ回路53aによって駆動され、他方の弁体駆動部42Bに設けられた粗調整駆動部43は他方のインバータ回路53bによって駆動される。各インバータ回路53a,53bは調圧制御部51から入力されるPWMゲート信号に基づいて各粗調整駆動部43のステッピングモータ430を駆動する。その結果、各弁体駆動部42A,42Bにおいて、微調整駆動部44が固定されたスライダ434がz軸方向に同一駆動量だけ駆動される。
【0027】
(モータ制御部52の詳細)
図4は、ステッピングモータ430の駆動に関係するモータ制御部52をより詳細に示したブロック図である。モータ制御部52には、パルス制御部520とPWM信号生成部521とが設けられている。調圧制御部51からモータ制御部52に入力される目標位置指令βasは、上述した駆動調整量ΔLaだけ駆動するための回転方向、駆動角度および駆動速度に関する指令である。パルス制御部520は、調圧制御部51からの目標位置指令βasに基づいて指令パルス信号を生成する。指令パルス信号のパルス数で粗調整駆動部43の駆動調整量ΔLaが決まり、指令パルス信号の周波数で駆動速度が決まる。PWM信号生成部521は、指令パルス信号に基づいてPWMゲート信号を生成する。そのPWMゲート信号によりインバータ回路53aが駆動され、ステッピングモータ430(2相モータ)に2相電流ia,ibが供給される。
【0028】
(微調整駆動部44の制御系統)
図5は、微調整駆動部44の磁気浮上制御に関するブロック図である。磁気浮上制御部54aは、電磁石制御部540と、PWM信号生成部541,542とを備えている。励磁アンプ55aには、上側電磁石441aに励磁電流を供給する励磁アンプ550と、下側電磁石441bに励磁電流を供給する励磁アンプ551とが設けられている。
【0029】
調圧制御部51から磁気浮上制御部54aに入力される目標位置指令βbsは、微調整駆動部44によって弁体40を上述した駆動調整量ΔLbだけ駆動させるための指令である。電磁石制御部540には、調圧制御部51から入力される目標位置指令βbsとアキシャルギャップセンサ444から入力される変位信号Sg1との差分=βbs-Sg1が入力される。目標位置指令βbsも変位信号Sg1も変位に相当する量であり、それらの差分も変位に相当する量である。電磁石制御部540は、差分=βbs-Sg1に基づいて制御電流指令Sicを生成する。
【0030】
微調整駆動部44のアキシャル磁気浮上アクチュエータにおいては、アキシャルディスク442を挟んで対向配置された上側電磁石441aおよび下側電磁石441bに対して、バイアス電流(オフセット電流とも呼ばれる)ibと制御電流icとが励磁電流として供給される。
図5の信号Sibはバイアス電流ibに関するバイアス電流指令であり、制御電流指令Sicは制御電流icに関する指令である。例えば、上側電磁石441aの励磁電流IaをIa=ib+icと設定し、下側電磁石441bの励磁電流IbをIb=ib-icと設定する。
【0031】
電磁石制御部540から出力された制御電流指令Sicは、バイアス電流指令Sibに対して加算および減算される。バイアス電流指令Sibは、一定値のバイアス電流ibが供給されるように設定される。PWM信号生成部541には励磁電流指令としてSib+Sicが入力され、PWM信号生成部541は励磁電流指令(Sib+Sic)に基づくPWMゲート信号を上側電磁石441aの励磁アンプ550へ出力する。励磁アンプ550は、PWM信号生成部541からのPWMゲート信号に基づく励磁電流を上側電磁石441aへ供給する。一方、PWM信号生成部542には励磁電流指令としてSib-Sicが入力され、PWM信号生成部542は励磁電流指令(Sib-Sic)に基づくPWMゲート信号を下側電磁石441bの励磁アンプ551へ出力する。励磁アンプ551は、PWM信号生成部542からのPWMゲート信号に基づく励磁電流を下側電磁石441bへ供給する。
【0032】
バイアス電流ibは一定値に設定され、制御電流指令Sicにより制御電流icを増減させてアキシャルディスク442の浮上位置を図示上方(z軸の正方向)または図示下方(z軸の負方向)に変化させる。その結果、弁棒450が上下に駆動される。ちなみに電磁石制御部540は通常PID(比例、積分、微分)制御器で構成され、積分要素により弁体の自重分が支持される。例えば、上側電磁石441aおよび下側電磁石441bが同一仕様の電磁石で、アキシャルディスク442がその中間位置に浮上静止している状態では、下方に弁体40の自重が作用するので、上側電磁石441aでその自重分を吸引支持することになる。その場合、励磁電流Ia,Ibは、Ia>Ibのように上側電磁石441aの方が下側電磁石441bよりも大きく、電流値はほとんど直流になる。
【0033】
(調圧制御処理フロー)
次に、調圧制御部51による調圧制御について説明する。
図6は調圧制御の概略の手順を示すフローチャートである。なお、以下では、真空チャンバ1に導入されるガスの流量Qinが一定という条件で、圧力目標値Psが変更された場合の調圧動作を例に説明する。ステップS1では、調圧制御部51は、装置コントローラ2から圧力目標値Psと圧力計測値Prとを取得する。ステップS2では、圧力目標値Psと圧力計測値Prとの差分ΔP=Ps-Prの絶対値が|ΔP|>ΔPthを満たすか否かを判定する。ΔPthは、開ループ制御か閉ループ制御かを判定するための差分閾値である。
【0034】
ステップS2で|ΔP|>ΔPthと判定されるとステップS3へ進み、開ループ制御による弁体駆動処理が実行される。一方、ステップS2で|ΔP|≦ΔPthと判定されるとステップS4へ進み、閉ループ制御による弁体駆動処理が実行される。ステップS3またはステップS4で弁体駆動処理を行ったならば、ステップS1へ進んで圧力目標値Psと弁体駆動処理後の圧力計測値Prを装置コントローラ2から取得し、ステップS2で|ΔP|>ΔPthか否かを判定する。このように、弁体駆動の度に|ΔP|>ΔPthか否かの判定を行い、その判定結果に基づいて開ループ制御または閉ループ制御による弁体駆動が行われる。
【0035】
(開ループ制御)
図7は、
図6のステップS3の開ループ制御処理の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、開ループ制御による弁体駆動は粗調整駆動部43のみを用いて行われる。ステップS31では、弁体駆動部42A,42Bの駆動調整量による駆動調整量ΔLを求める一連の演算処理が実行される。
【0036】
図8(a)は、
図7のステップS31における駆動調整量ΔLの演算の詳細を示すフローチャートである。ステップS101では、記憶部50に記憶されている現在の弁体駆動量Lと排気特性データとから、現在の実効排気速度Seを算出する(
図8(b)参照)。前述したように、排気特性データは、弁体駆動量Lと実効排気速度Seとの相関関係を示すデータである。ステップS102では、ステップS101で算出された実効排気速度Seと
図6のステップS1で取得された圧力計測値Prとから、現在の排気流量Qp=Se×Prを算出する。
【0037】
ステップS103では、ステップS102で算出された排気流量Qpと
図6のステップS1で取得された圧力目標値Psとから目標実効排気速度Ses=Qp/Psを算出する。ステップS104では、ステップS103で算出された目標実効排気速度Sesと排気特性データとから目標弁体駆動量Lsを算出する。ステップS105では、調圧制御部51は、現在の弁体駆動量Lと目標弁体駆動量Lsとの差分である駆動調整量ΔLを算出する(
図8(b)参照)。
【0038】
図7に戻って、ステップS32では、
図8のステップS105で算出された駆動調整量ΔLに基づいて、粗調整駆動部43の駆動調整量ΔLaを算出する。ところで、粗調整駆動部43は、ステッピングモータ430の1ステップ角に対応する最小変位ΔLa1を整数倍した駆動量でしか駆動できない。そのため、駆動調整量ΔLに最も近い粗調整駆動部43の駆動調整量ΔLaは、次式(2)または次式(3)のいずれかで表される。式(2),(3)において[ ]はガウス記号である。例えば、
図9(a)に示すようにΔL-([ΔL/ΔLa1]×ΔLa1) ≦ΔLa1/2の場合には式(2)のΔLaを使用し、
図9(b)に示すようにΔL-([ΔL/ΔLa1]×ΔLa1) >ΔLa1/2の場合には式(3)のΔLaを使用する。
ΔLa=[ΔL/ΔLa1]×ΔLa1 …(2)
ΔLa=([ΔL/ΔLa1]+1)×ΔLa1 …(3)
【0039】
ステップS33では、ステップS32で算出された駆動調整量ΔLaに基づく目標位置指令βas、すなわち、駆動調整量ΔLaだけ駆動するための回転方向、駆動角度および駆動速度に関する指令を、
図3のモータ制御部52へ出力する。モータ制御部52は、目標位置指令βasに基づくPWMゲート信号をインバータ回路53a,53bに入力して、各弁体駆動部42A,42Bの粗調整駆動部43を駆動調整量ΔLaだけ駆動する。駆動後の現在の弁体駆動量は、記憶部50に記憶されていた駆動前の弁体駆動量Lに上記駆動調整量ΔLaを加算したL+ΔLaとなる。ステップS34では、この弁体駆動量L+ΔLaを新たな現在の弁体駆動量Lとして記憶部50に記憶させる。
【0040】
ステップS34の処理の終了により開ループ制御による駆動処理は終了し、
図6のステップS1へ進む。なお、
図8の駆動調整量ΔLの演算処理で説明したように、目標弁体駆動量Lsの算出は、粗調整駆動の度にその時の弁体駆動量Lと圧力計測値Prとに基づいて再計算される。
図6において、ステップS3からステップS1に戻った後も、ステップS2で|ΔP|≦ΔPthと判定されるまでステップS3の開ループ制御が繰り返し実行される。そして、粗調整駆動により差分ΔPの値が減少してステップS2で|ΔP|≦ΔPthと判定されると、ステップS4に進んで閉ループ制御による弁体駆動が行われる。
【0041】
(閉ループ制御)
図10は、
図6のステップS4の閉ループ制御処理の一例を示すフローチャートである。閉ループ制御における弁体駆動は、粗調整駆動部43と微調整駆動部44とを併用して行われる。ステップS41では、
図8に示した駆動調整量ΔLの演算処理が実行される。駆動調整量ΔLの演算処理の手順については、上述した開ループ制御の場合のステップS31の場合と同様であって、現在の弁体駆動量Lと目標弁体駆動量Lsとの差分である駆動調整量ΔLが算出される。
【0042】
ステップS42では、ステップS41で算出された駆動調整量ΔLが粗調整駆動部43の最小変位ΔLa1以下か否かを判定する。駆動調整量ΔLが粗調整駆動部43の最小変位ΔLa1よりも大きい場合(no)、すなわちΔL>ΔLa1の場合には粗調整駆動を行った後に微調整駆動を行い、ΔL≦ΔLa1の場合(yes)には直ちに微調整駆動を行う。
【0043】
ステップS42においてno(すなわち、ΔL>ΔLa1)と判定されると、ステップS43に進んで粗調整駆動部43による駆動調整量ΔLaを前述した式(2)または式(3)により算出する。ステップS44では、ステップS43で算出された駆動調整量ΔLaに基づく目標位置指令βas、すなわち、駆動調整量ΔLaだけ駆動するための回転方向、駆動角度および駆動速度に関する指令を、
図3のモータ制御部52へ出力する。それにより、各弁体駆動部42A,42Bの粗調整駆動部43は、駆動調整量ΔLaだけ駆動される。ステップS44の処理が終了したならば、ステップS41へ戻る。その結果、ΔL≦ΔLa1となるまで、ステップS41~S44までの処理が繰り返される。
【0044】
ステップS42においてΔL≦ΔLa1と判定されてステップS45へ進んだ場合には、調圧制御部51は、目標弁体駆動量Lsまでの駆動調整量ΔLb、すなわち、粗調駆動された後の現在位置Lから目標弁体駆動量Lsへ駆動する駆動量を目標位置指令βbsとして磁気浮上制御部54a,54bへ出力する。
【0045】
弁体駆動部42Aに対して設けられた磁気浮上制御部54aは、調圧制御部51から入力された目標位置指令βbsとアキシャルギャップセンサ444から入力される変位信号Sg1との差分=βbs-Sg1がゼロとなるように磁気浮上位置を制御する。一方、弁体駆動部42Bに対して設けられた磁気浮上制御部54bは、目標位置指令βbsとアキシャルギャップセンサ444から入力される変位信号Sg2との差分=βbs-Sg2がゼロとなるように磁気浮上位置を制御する。このように、弁体駆動部42Aの磁気浮上制御と弁体駆動部42Bの磁気浮上制御とは独立して行われる。
【0046】
ところで、微調整駆動部44による磁気浮上位置の調整は、下側電磁石441b側の下限位置と上側電磁石441a側の上限位置との間に限定される。調圧制御部51は、微調整駆動中に磁気浮上位置が上側電磁石441a側の上限位置または下側電磁石441b側の下限位置に達したか否かを、アキシャルギャップセンサ444からの変位信号Sg1,Sg2によって認識することができる。
【0047】
ステップS46では、調圧制御部51は、アキシャルギャップセンサ444からの変位信号Sg1,Sg2に基づいて弁体駆動部42A,42Bの少なくとも一方の磁気浮上位置が上限位置に達したか否かを判定し、磁気浮上位置が上限位置に達した場合にはステップS47へ進む。一方、ステップS46で上限位置に達していないと判定された場合にはステップS48へ進み、弁体駆動部42A,42Bの少なくとも一方の磁気浮上位置が下限位置に達したか否かを判定する。ステップS48で下限位置に達したと判定された場合にはステップS49へ進み、下限位置に達していないと判定された場合には閉ループ制御による駆動処理を終了し、
図6のステップS1へ戻る。
【0048】
ステップS47では、調圧制御部51は、弁体40を開方向(すなわち、
図1のz軸の正方向)に最小変位ΔLa1だけ粗調整駆動する目標位置指令βasを、モータ制御部52へ出力する。ステップS49では、調圧制御部51は、弁体40を閉方向(すなわち、
図1のz軸の負方向)に最小変位ΔLa1だけ粗調整駆動する目標位置指令βasを、モータ制御部52へ出力する。
【0049】
すなわち、弁体40を開き側に駆動制御している際に、微調整駆動部44の電磁アクチュエータが上限位置に達して目標弁体駆動量Lsまで弁体40を移動できない場合、粗調整駆動部43で弁体40を開き側に1ステップだけ開き側に駆動制御する。反対に、弁体40を閉じ側に駆動制御している際に、微調整駆動部44の電磁アクチュエータが下限位置に達して目標弁体駆動量Lsまで弁体40を移動できない場合、粗調整駆動部43で弁体40を閉じ側に1ステップだけ閉じ側に駆動制御する。
【0050】
なお、ここでは最小変位ΔLa1の目標位置指令βasとして1ステップだけ粗調整駆動したが、微調整駆動部44による磁気浮上調整範囲(最小変位ΔLa1よりも大きい)に応じた複数ステップに相当する目標位置指令βasとしても良い。
【0051】
ステップS47またはステップS49の処理が終了したならば、ステップS41へ進んで駆動調整量ΔLの演算を再度行ってステップS42以下の処理を行う。このように、粗調整駆動部43による駆動が行われるたびに駆動調整量ΔLの演算を行い、その結果に基づいてステップS45における微調整駆動部44による駆動調整が行われる。そのため、粗調整駆動部43の昇降駆動によってバックラッシュのように粗調整駆動部43の最小変位(最小駆動可能量)ΔLa1によらない位置決め誤差が生じた場合でも、微調整駆動部44による微調整によりそのような位置決め誤差を解消することができる。
【0052】
上述した開ループ制御および閉ループ制御による弁体駆動制御では、粗調整駆動時には微調整駆動による磁気浮上位置を維持した状態で粗調整駆動を行ったが、次のように制御しても良い。すなわち、粗調整駆動部43による駆動を開始したならば、微調整駆動部44の磁気浮上位置をあらかじめ定めた所定位置(例えば、中立位置)へ移動し、その位置を保持した状態で粗調整駆動を行っても良い。粗調整駆動終了後は圧力偏差ΔPに応じて所定位置から微調整駆動を行う。
【0053】
以上では、粗調整と微調整とを独立に駆動する場合を説明したが、粗調整駆動が行われている際に、微調整駆動を同時に作動させても良い。その場合、微調整駆動は位置残渣である駆動調整量ΔLbを介さずに、直接、圧力偏差ΔPがゼロになる方向へ目標位置指令βbsが出力される。また、粗調整に関しても同様に、直接、圧力偏差ΔPがゼロになる方向へ目標位置指令βasが出力され、それに基づいて駆動しても良い。
【0054】
(全閉動作)
図1に示す全閉位置では、弁座41に装着されているシール部材411を全周にわたり所定の変位で押しつぶした状態にする必要がある。シール部材411を所定の変位まで押しつぶすのに必要な押圧力を2×Fs+(弁体40の自重)とした場合、押圧力Fsを各弁体駆動部42A,42Bの微調整駆動部44によってそれぞれ発生させる。一例として、上側電磁石441aの励磁電流Iaをゼロに設定し、下側電磁石441bのみに励磁電流Ibを供給する。下側電磁石441bとアキシャルディスク442とのギャップをDとすると、下側電磁石441bの吸引力Fbは次式(4)で表される。kは電磁石パラメータ定数である。ギャップDは、アキシャルギャップセンサ444の検出値に基づいて算出することができる。
Fb=k(Ib/D)
2 …(4)
【0055】
図11は、全閉動作の一例を示すフローチャートである。ステップS201では、調圧制御部51は、弁体駆動部42A,42Bを駆動して弁体40を全閉位置へ駆動。例えば、全閉位置は弁体40がシール部材411に接触する位置に設定され、全閉位置ではシール部材411は未だ圧縮されていない。全閉位置における微調整駆動部44の磁気浮上位置については、ここでは、アキシャルディスク442が上側電磁石441aと下側電磁石441bとの中間位置に配置された状態とし、そのときのアキシャルギャップセンサ444で検出されるギャップをD0とする。すなわち、全閉位置へ駆動する際の微調整駆動部44への目標位置指令βbsは、アキシャルディスク442を中間位置に移動させる指令である。
【0056】
ステップS202では、上側電磁石441aおよび下側電磁石441bの励磁電流Ia,Ibをゼロにする。その結果、弁体40の自重によりシール部材411が変形し、ギャップD0がD1(<D0)へ変化する。ステップS203では、下側電磁石441bによる下方向への吸引力Fbと上述した押圧力Fsと比較して、差=Fs-Fbの絶対値|Fs-Fb|が判定閾値ΔFsthに対して|Fs-Fb|>ΔFsthか否かを判定する。すなわち、シール部材411に対する押圧力が、必要な所定圧力Fsに対して許容範囲を超えているか否かを判定する。
【0057】
ステップS203で|Fs-Fb|>ΔFsthと判定されると、すなわちシール部材411に対する押圧力が不足していると判定されるとステップS204へ進む。ステップS204では、Fb<Fsか否かを判定する。ステップS204でFb<Fsと判定された場合にはステップS205へ進んで、下側電磁石441bの吸引力すなわちシール部材411圧縮する力を大きくするために励磁電流Ibを増加方向へ変化させ、その後、ステップS203へ戻る。一方、ステップS204でFb<Fsではない(no)と判定された場合、すなわち、Fb>Fsの場合には、ステップS206へ進んで下方向への吸引力を小さくするために励磁電流Ibを減少方向へ変化させ、その後、ステップS203へ戻る。
【0058】
図11に示した制御は、各弁体駆動部42A,42Bで独立して行われ、各微調整駆動部44により押圧力Fsをそれぞれ発生させるようにした。このように、各弁体駆動部42A,42Bの微調整駆動部44の磁気浮上アクチュエータの励磁電流をそれぞれ調整することで、弁座41に装着されたシール部材411に対する弁体40の押圧力を必要な押圧力「2×Fs+(弁体40の自重)」に調整することができる。そのため、弁体40がシール部材411に対して傾くことなく、均一に押圧させることができる。以上、非浮上制御状態での動作を説明したが、浮上制御状態のままで必要な押圧力を上側電磁石441aおよび下側電磁石441bに流れる励磁電流Ia,Ibの直流成分を適用して判定しても良い。
【0059】
(変形例1)
図12は、
図1に示した真空バルブ4の変形例を示す図である。
図12に示す真空バルブ4では、弁体駆動部42を一つだけ設けた。
図1の弁体駆動部42Aに対応する部分は、ガイド部42Gに置き換えられている。ガイド部42Gには弁体40に固定されたガイド棒453が設けられており、このガイド棒453はリニアボールベアリング454によってz軸方向に移動可能に支持されている。ガイド棒453と弁座41との間にはベローズ452が設けられている。このように弁体駆動部42を一つに減らすことでコスト低減を図ることができる。
【0060】
なお、上述した実施の形態では2組の弁体駆動部42A,42Bを用いたが、3組以上の弁体駆動部を用いてもよい。さらに、2組または1組の弁体駆動部には直列に粗調整駆動部と微調整駆動部を設けたが、たとえば、2組の粗調整駆動部と2組の微調整駆動部を別々に並置してもよい。
【0061】
(変形例2)
ステッピングモータ430の脱調検出のために、ステッピングモータ430にロータリーエンコーダを追加しても良い。ステップ角×パルスカウント数に対してエンコーダ値(実際の回転角度)が小さい場合は、脱調したと判断して、その不足分のパルス数を駆動追加する。
【0062】
(変形例3)
図1に示すように実施の形態の弁体は真空チャンバ1内に設けたが、真空チャンバ1の外面にバルブ開口410の外径よりやや大きい内径を有する補助チャンバ(不図示)を設け、その補助チャンバ内にバルブ開口410と対向配置して弁体40を設けてもよい。
【0063】
(変形例4)
粗調整駆動部43をボールねじ方式としたが、その他の直動式アクチュエータでもよい。また、微調整駆動部44を電磁式アクチュエータとしたが、粗調整駆動部43に比べて位置精度の高い(分解能が高い)アクチュエータでもよい。
【0064】
(1)上述した実施の形態および変形例によれば、真空バルブ4は、バルブ開口410と対向配置した弁体40をバルブ開口410に対して昇降駆動して、バルブ開閉動作を行う真空バルブであって、弁体40を第1の最小駆動可能量で昇降駆動する第1昇降駆動部である粗調整駆動部43と、弁体40を、第1の最小駆動可能量よりも小さい第2の最小駆動可能量で昇降駆動する第2昇降駆動部である微調整駆動部44と、を備える。そのため、第1昇降駆動部しか備えない真空バルブに比べて、弁体40をより高精度に位置決めすることができ、真空プロセスにおける圧力調整精度の向上を図ることができる。
【0065】
(2)さらに、第2昇降駆動部として弁体40を昇降駆動方向に磁気浮上支持する磁気浮上アクチュエータを用いることにより、μmオーダーの高精度な位置決めを行うことができる。ここで、位置決め精度とは、移動量の分解能が高いほど位置決め精度が高いということでもある。
【0066】
(3)バルブコントローラ5は真空バルブ4を制御するバルブ制御装置としての機能を有し、真空バルブ4を介して真空排気される真空チャンバ1の圧力目標値Psと圧力計測値Prとに基づいて開ループ制御により粗調整駆動部43の昇降駆動を制御する第1の制御部としての調圧制御部51およびモータ制御部52と、真空チャンバ1の圧力目標値Psと圧力計測値Prとに基づいて、微調整駆動部44の昇降駆動または粗調整駆動部43と微調整駆動部44とによる昇降駆動を閉ループ制御により制御する第2の制御部としての調圧制御部51および磁気浮上制御部54a,54bとを備える。なお、バルブコントローラ5に代えて、上記バルブ制御装置としての機能を装置コントローラ2に担わせても良いし、バルブコントローラ5や装置コントローラ2とは別の装置として独立して設けてもよい。
【0067】
(4)さらに、調圧制御部51は、粗調整駆動部43の昇降駆動後の圧力目標値Psおよび圧力計測値Prに基づいて微調整駆動部44による駆動調整量ΔLbを算出して、微調整駆動部44も昇降駆動を制御している。そのため、粗調整駆動部43の昇降駆動によってバックラッシュのように粗調整駆動部43の最小変位(最小駆動可能量)ΔLa1によらない位置決め誤差が生じた場合でも、微調整駆動部44による微調整によりそのような位置決め誤差を解消することができる。
【0068】
(5)また、第2昇降駆動部として弁体40を昇降駆動方向に磁気浮上支持する磁気浮上アクチュエータを用いる構成の真空バルブを制御するバルブ制御装置において、圧力目標値Psと圧力計測値Prとに基づいて、閉ループ制御により微調整駆動部44の昇降駆動を制御する第2の制御部としての調圧制御部51および磁気浮上制御部54a,54bとを備え、第2の制御部は、真空バルブ4の全閉時に、磁気浮上アクチュエータにより前記弁体40を弁座41の方向に駆動し、弁体40と弁座41との間に設けられたシール部材411に弁体40を所定の力で押圧させる。このような構成とすることで、シール部材411に対する押圧力が所定の押圧力に管理されるので、弁体40の完全な閉状態を高信頼性で実現することができる。
【0069】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、
図1や
図12に示す例では弁体駆動部の数が1組または2組であったが、3組以上設けても構わない。
【符号の説明】
【0070】
1…真空チャンバ、2…装置コントローラ、3…真空ポンプ、4…真空バルブ、5…バルブコントローラ、40…弁体、41…弁座、42,42A,42B…弁体駆動部、43…粗調整駆動部、44…微調整駆動部、50…記憶部、51…調圧制御部、52…モータ制御部、54a,54b…磁気浮上制御部、411…シール部材、430…ステッピングモータ