(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20221012BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20221012BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20221012BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B29C65/08
B32B37/00
B32B15/08 Z
B23K20/10
(21)【出願番号】P 2018242403
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】武田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西島 進之助
(72)【発明者】
【氏名】三浦 教昌
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-114670(JP,A)
【文献】特開昭56-139918(JP,A)
【文献】特開2000-185752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/08
B32B 37/00
B32B 15/08
B23K 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホーンとアンビルとを備えた超音波接合装置により、金属素形材における少なくとも一方の表面に有機樹脂層を有する塗装金属素形材と樹脂材とが接合された複合体を製造する方法であって、
前記塗装金属素形材と前記樹脂材とを重ねて、前記塗装金属素形材における有機樹脂層が設けられた表面と樹脂材の表面とが対向した被接合体を準備すること、
前記被接合体を前記ホーンと前記アンビルとの間に保持し、前記樹脂材の側に前記ホーンを配置し、前記塗装金属素形材の側に前記アンビルを配置すること、
前記ホーン
により前記被接合体に対して加圧するとともに、前記ホーンにより縦振動方向の超音波振動を前記被接合体へ付与して、前記塗装金属素形材と前記樹脂材とを接合させること、
を含み、
前記ホーンは、前記塗装金属素形材と前記樹脂材との接合界面に対して、当該ホーンの先端と前記接合界面との距離を、0.3mm以上、1.2mm以下に保持する、
塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法。
【請求項2】
前記超音波振動の振幅は、30μm以上、80μm以下である、請求項1に記載の塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法。
【請求項3】
前記超音波振動を停止した後、前記ホーンで前記被接合体を加圧した状態を0.1s以上で保持する、請求項1または2に記載の塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界においては、軽量化の要求に対応して樹脂の利用が進んでいる。樹脂材に置き換えるだけでなく、金属板と樹脂材との複合体も適用されている。そのため、当該複合体の製造において、金属板と樹脂材とを効率よく接合することが求められている。
【0003】
接合方法として超音波振動を利用した超音波接合方法が知られている。超音波接合方法には、ホーンとアンビルとを備えた超音波接合装置が使用される。2つの部材を重ねた被接合材は、一方の部材側にホーンを接触させ、他方の部材側をアンビルで支持する。そして、2つの部材を密着させた状態で、ホーンを介して超音波振動を被接合材へ付与することにより、接合界面に摩擦熱が発生して接合界面が加熱され、被接合材を接合することができる。
【0004】
金属材と樹脂材という異種材料からなる2つの部材を接合する方法に関して、本出願人は、金属材として塗装金属素形材を使用し、超音波振動の振幅や加圧保持時間などを制御することにより、良好な接合強度を有する複合体を製造できる方法を提案した(特許文献1)。
【0005】
金属材同士の接合に超音波接合方法を適用する場合、
図6に示すように、上板41及び下板42からなる被接合材がホーン43とアンビル44との間で保持される。被接合材に対して、上板43側に配置されたホーン43により加圧46が行われるとともに、超音波振動が付与される。超音波の振動方向に関しては、ホーン43の長手方向に対して垂直方向である横振動方向48の超音波振動が付与される。被接合材は、接合界面48に沿った水平方向で振動し、接合界面48に摩擦が生じる。その摩擦により接合界面近傍に加熱域45が形成され、接合に必要な発熱が得られる。特許文献1には、塗装金属素形材と樹脂材との接合に横振動を適用し、金属材における摩擦発熱を利用した接合方法が記載されている。
【0006】
樹脂材同士を超音波接合するときは、樹脂材における横振動の伝播性が低いため、縦振動の超音波振動が適用される。例えば、特許文献2の
図6には、上ケースと下ケースとの超音波溶着方法として、上ケースにおいて突起部(溶着リブ)を設けて、下ケースに接触させた後、ホーンから上ケースに縦振動を付与することにより、溶着リブを溶融して、上ケースと下ケースとを溶着することが記載されている。特許文献2は、縦振動により突起部と下ケースとを摩擦させて、その発熱を接合に利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-114670号公報
【文献】特開2003-137205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超音波振動を伝達する工具であるホーンは、被接合材へ超音波振動を確実に伝達して良好な接合を行うため、ホーンの先端を被接合材の表面に押しつけて圧力を加えている。そのため、接合後の複合体は、ホーンと接触した表面にホーンの圧痕が残存することを避けられない。
【0009】
このホーンの圧痕は、被接合材の用途によっては、製品の外観を損なう原因となり得る。塗装金属素形材と樹脂材との複合体は、その外面側に塗装金属鋼板を配することがあるため、塗装金属鋼板の意匠性を低下させないように、ホーンの圧痕を回避できる超音波接合方法が求められている。特許文献1には、このようなホーンの圧痕に関する課題が記載されていない。また、特許文献2には、塗装金属素形材と樹脂材との接合方法を示唆する記載が見当たらない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、塗装金属素形材と樹脂材との複合体を超音波接合により製造する方法において、塗装金属素形材の表面にホーンの圧痕が形成されるのを回避し、良好な外観を有する複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
発明者らは、検討した結果、樹脂材側にホーンを配置し、ホーンにより縦振動方向の超音波振動を被接合体へ付与することにより、前記塗装金属素形材と前記樹脂材とが良好に接合することができることを見出して、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1)本発明は、ホーンとアンビルとを備えた超音波接合装置により、金属素形材における少なくとも一方の表面に有機樹脂層を有する塗装金属素形材と樹脂材とが接合された複合体を製造する方法であって、前記塗装金属素形材と前記樹脂材とを重ねて、前記塗装金属素形材における有機樹脂層が設けられた表面と樹脂材の表面とが対向した被接合体を準備すること、前記被接合体を前記ホーンと前記アンビルとの間に保持し、前記樹脂材の側に前記ホーンを配置し、前記塗装金属素形材の側に前記アンビルを配置すること、前記ホーンを前記樹脂材の表面に対して加圧するとともに、前記ホーンにより縦振動方向の超音波振動を前記被接合体へ付与して、前記塗装金属素形材と前記樹脂材とを接合させること、
を含み、前記ホーンは、前記塗装金属素形材と前記樹脂材との接合界面に対して、当該ホーンの先端と前記接合界面との距離を、0.3mm以上、1.2mm以下に保持する、塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法である。
【0013】
(2)本発明は、前記超音波振動の振幅は、30μm以上、80μm以下である、(1)に記載の塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法である。
【0014】
(3)本発明は、前記超音波振動を停止した後、前記ホーンで前記被接合体を加圧した状態を0.1s以上で保持する、(1)または(2)に記載の塗装金属素形材と樹脂材との複合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗装金属素形材の表面にホーンの圧痕が存在せず、良好な外観を有する、塗装金属素形材と樹脂材との複合体を得ることができる。また、本発明によれば、樹脂材同士の超音波接合処理において使用される突起部(特許文献2参照)のような被接合構造を準備する必要がないため、接合の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態において、超音波振動を付与する前の形態を示す模式図である。
【
図2】本実施形態において、超音波振動の付与を開始した後の形態を示す模式図である。
【
図3】本実施形態において、ホーンの先端を接合界面から一定の距離を置いて、ホーンを保持する形態を示す模式図である。
【
図5】実施例で用いた引張試験装置を説明するための図である。
【
図6】従来例による超音波接合方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本発明は、以下の説明に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態は、ホーンとアンビルとを備えた超音波接合装置により、金属素形材における少なくとも一方の表面に有機樹脂層を有する塗装金属素形材と樹脂材とが接合された複合体を製造する方法である。本実施形態に係る製造方法は、(1)前記塗装金属素形材と前記樹脂材とを重ねて、前記塗装金属素形材における有機樹脂層が設けられた表面と樹脂材の表面とが対向した被接合体を準備すること、(2)前記被接合体を前記ホーンと前記アンビルとの間に保持し、前記樹脂材の側に前記ホーンを配置し、前記塗装金属素形材の側に前記アンビルを配置すること、(3)前記ホーンを前記樹脂材の表面に対して加圧するとともに、前記ホーンにより前記被接合体の厚み方向に振動する超音波振動を前記被接合体へ付与して、前記塗装金属素形材と前記樹脂材とを接合させることを含む。この製造方法によって得られた複合体は、塗装金属素形材の表面にホーンの圧痕が形成されず、良好な外観を有するので、多くの用途に適用することができる。
【0019】
(被接合体の準備)
本実施形態に係る製造方法は、塗装金属素形材と樹脂材とを重ねて、塗装金属素形材における有機樹脂層が設けられた表面と樹脂材の表面とが対向した被接合体を作製する。
図1に超音波振動を開始する前の被接合材の態様を示す。
図1に示すように、塗装金属素形材1は、金属素形材1における少なくとも一方の表面に有機樹脂層3を有する。後記する超音波接合処理によって、有機樹脂層3を介して塗装金属素形材1と樹脂材4とが接合される。そのため、超音波接合処理に供される被接合体5は、塗装金属素形材1における表面と樹脂材4とが対向するように重ねた形態とすることが好ましい。
【0020】
(ホーン及びアンビルによる保持)
本実施形態に係る製造方法は、ホーンとアンビルとを備える超音波接合装置が用いられる。ホーンは、振動発生部(図示を省略する。)で生成された超音波振動を被接合体へ伝達するための治具であり、ホーンの先端を被接合材の表面に接触させて使用される。アンビルは、被接合体を支持するための治具である。
図1に示すように、被接合体5は、ホーン21とアンビル22との間に保持される。その際、樹脂材4の側にホーン21を配置し、塗装金属素形材1の側にアンビル22を配置する。超音波接合装置のホーンを樹脂材の側に配置するので、後記する超音波接合を行っても、塗装金属素形材1の表面にホーンの圧痕が生じない。そのため、接合後の複合体は、その外面に塗装金属素形材を配する場合であっても、外観を損なう畏れがない。樹脂材の表面を接触したホーンは、樹脂材を押圧して塗装金属素形材と樹脂材とを密着させることが好ましい。
【0021】
(超音波接合処理)
本実施形態に係る製造方法は、ホーンを樹脂材の表面に押し付けて加圧するとともに、ホーンから樹脂材へ縦振動方向の超音波振動が付与され、被接合体に対して超音波接合処理が施される。具体的には、ホーンによる加圧が所定の加圧力に達した時点で、超音波振動を付与するための加振を開始することが好ましい。
図2は、加振を開始した後の、超音波接合が進行する形態を示したものである。ホーン21の長手方向に沿って振動する縦振動方向24の超音波振動(本明細書では、「縦振動」ということもある。)が被接合材5へ付与される。
【0022】
ホーン21の先端に接する樹脂材4の領域は、縦振動24による摩擦に起因して発熱し、樹脂が加熱され、部分的に軟化及び溶融した領域11が形成される。当該領域を以下、「軟化域」という。ホーン21は、一定の加圧力で樹脂材を下方へ加圧23が行われているので、軟化域11の形成にともない、速やかに下降を開始し、ホーン21の先端が樹脂材4中に埋没する。それにより、ホーン21は、樹脂材4と有機樹脂層3との接合界面12へ接近し、ホーン先端の軟化域11も接合界面12へ接近する。
【0023】
ホーン21が接合界面12に接近すると、接合界面12は、接近した軟化域11の熱が伝播されて加熱されるとともに、ホーン21の超音波振動による摩擦熱によって加熱される。その結果、樹脂材4と有機樹脂層3とが局所的に溶け合った界面層が形成される。
【0024】
超音波振動を所定時間で付与した後、加振を停止し、加圧を所定時間で持続することにより、接合層が凝固して密着した接合部が形成される。
【0025】
すなわち、本実施形態は、次の2つのプロセスにより進行する。
(i)縦振動によりホーン先端の近傍に軟化域を形成し、ホーンを樹脂材中で迅速に下降させて接合界面へ接近させるプロセス
(ii)ホーンの先端を接合界面から所定の距離に置いた位置で、軟化域による加熱及び超音波振動の摩擦による加熱によって、接合界面を加熱するプロセス
【0026】
本実施形態は、
図3に示すように、ホーン21の先端が塗装金属素形材1と樹脂材4との接合界面12に対して、所定の距離13を置いて保持することが好ましい。接合界面12は、塗装金属素形材1の有機樹脂層4と樹脂材4とが密着している。接合界面12は、軟化域11による加熱及びホーン21の超音波振動による摩擦熱によって、樹脂材4と有機樹脂層3とが接合した界面層が形成される。ホーン先端が接合界面に接近し過ぎると、軟化域による加熱及び超音波振動による摩擦熱が樹脂材及び有機樹脂層に過度の影響を及ぼし、有機樹脂層の被覆状態に損傷を招く恐れがある。他方、ホーン先端と接合界面とが過度に離れていると、樹脂材及び有機樹脂層を十分に加熱することができないので、良好な接合層が得られない。
【0027】
以上の観点から、接合界面とホーン先端と接合界面との距離は、0.3mm以上、1.2mm以下であることが好ましい。当該距離は、超音波振動の振幅条件に応じて適切な範囲を選定できる。例えば、振幅が30~40μmであるときは、距離は0.3mmが好ましい。振幅が50~80μmであるときは、距離は0.6~1.2mmが好ましい。
【0028】
(超音波振動の振幅)
超音波振動の振幅が小さ過ぎると、ホーン先端の軟化域が十分に形成されず、良好な接合部が得られない。他方、振幅が大き過ぎると、一度接合したとしても過度の振動付与によって接合箇所が破壊される恐れがある。そのため、超音波振動の振幅は、20μm以上、80μm以下の範囲が好ましい。
【0029】
ホーン先端が曲率を設けた形状であると、ホーン先端が樹脂材中を下降する際、樹脂を排除して沈降し易いので、短時間で接合界面へ接近することができる。
【0030】
(超音波振動の加振時間)
本実施形態では、超音波振動の付与する加振時間は、振幅、加圧力、塗装鋼板の膜厚などの条件に応じて、適宜選択できる。加振時間が過少であると、十分な軟化域と摩擦熱が得られないので、接合強度が低下する。加振時間が過大であると、一時接合されても振動により離れる。そのため、適した範囲で加振することが好ましく、例えば、0.2~0.6秒の範囲を挙げることができる。
【0031】
(ホーン保持時間)
本実施形態では、超音波振動の付与を停止した後、ホーンで被接合体を加圧した状態を0.1s以上で保持することが好ましい。加振停止と同時に押圧状態を解除すると、接合部の冷却時に緻密な組織を形成できないので、十分な接合強度が得られない。
【0032】
(超音波振動の加圧力)
振動開始時は、ホーンにより一定以上の加圧力で被溶接体を押圧して加圧することが好ましい。当該加圧により、ホーンを樹脂材中に短時間で沈降させて接合界面へ接近させることができる。また、塗装金属素形材と樹脂材とを密着させて、接合界面の加熱による接合に寄与する。他方、加圧力が過度に大きいと、加圧装置に負担が掛かり、また、被接合体の表面におけるホーン圧痕が大きくなるので、過度の加圧は好ましくない。加圧力としては、例えば、20~300Nの荷重を使用できる。
【0033】
(塗装金属素形材)
本実施形態で使用される塗装金属素形材は、金属素形材の表面の片面または両面に有機樹脂層が設けられている。金属素形材を構成する金属の種類は、特に限定されない。たとえば、上記金属の種類は、鉄であってもよいし、鉄以外の金属であってもよいし、合金であってもよい。金属素形材の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn-Al合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などの金属板や、そのプレス加工品、あるいは、アルミダイカスト、亜鉛ダイカストなどの鋳造・鍛造物や、切削加工、粉末冶金などにより成形された各種金属部材などが含まれる。金属素形材は、必要に応じて、脱脂、酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
【0034】
有機樹脂層は、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との密着性を向上させる。有機樹脂層の樹脂として、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリウレタン、アクリル系樹脂、アクリル・スチレン系樹脂、酢酸ビニル、EVA(エチレンー酢酸ビニル共重合)、エステル系樹脂を使用することができる。
【0035】
有機樹脂層の膜厚は、0.2μm以上であることが好ましい。有機樹脂皮膜の膜厚が0.2μm未満の場合、金属素形材表面を均一に覆うことができないことがある。これにより、膜厚が0.2μm未満の有機樹脂層を有する複合体は、金属素形材と樹脂材との間に微細な隙間が生じるおそれがある。微細な空隙が生じると、前述の複合体における封止性が、低下するおそれがある。一方、有機樹脂膜の膜厚の上限値は、特に制限されないが、10μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。有機樹脂層の膜厚を10μm超としても、著しい性能向上は認められず、また、生産性の観点およびコストの観点からも不利である。
【0036】
(樹脂材)
本実施形態で使用される樹脂材は、とくに限定されない。樹脂材は、樹脂からなる成形体や部材を含む。樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、等を含むものに適用できる。
【0037】
(複合体)
本実施形態に係る製造方法によって、塗装金属素形材と樹脂材とを接合した複合体が得られる。複合体の外面として塗装金属素形材を選定した場合であっても、塗装金属素形材の面にはホーン圧痕が残存していない。そのため、良好な外観が求められる多くの用途に適する。
【0038】
(剪断引張強度)
本実施形態では、複合体が単位面積当りの剪断引張強度が10MPa以上であると好ましい。本明細書では、当該剪断引張強度(単位:Pa)は、剪断引張試験で得られたピーク荷重(単位:N)を、ホーンが被接合体に接触する面積(mm2)で除して、その単位面積当たりの剪断強度として算出された数値を意味する。また、本明細書では、当該剪断引張強度を、「接合強度」ということもある。塗装金属素形材と樹脂材との複合体は、その剪断引張強度が10MPa以上であると、軽量化を求められる多くの用途で使用に適する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
図4に示すように、有機樹脂層2を有する塗装金属素形材1と樹脂材4とを積み重ねた試験を作製した。試験体は、塗装金属素形材1における有機樹脂層2が設けられた表面と樹脂材4の表面とが対向したものである。
【0041】
具体的には、塗装金属素形材の金属素形材として、質量%で、C:0.033%、Si:0.003%、Mn:0.17%、P:0.012%、S:0.02%、Cr:0.03%、Cu:0.01%、残部Feの組成を有する鋼材を基材とした溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板(ZAM(90C)(登録商標)、日新製鋼株式会社製)を用いた。
【0042】
塗装金属素形材1は、板厚0.6mmの基材2の両面に、ウレタン系樹脂からなる膜厚2μmの有機樹脂層3を有している。塗装金属素形材1は、長さ75mmおよび幅25mmの寸法に切断された。樹脂材4は、長さ75mm、幅25mmおよび厚さ3mmの板状品であり、樹脂材4の樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製の「ユーピロン(登録商標)GPN2030DF」のポリカーボネート樹脂(PC)を用いた。塗装金属素材1と樹脂材4は、
図4に示すように、両者が長手方向に20mmの部分で重なるように積み重ねて、接合試験に供した。
【0043】
試験体の超音波接合は、試験体における樹脂材の側にホーンを配置し、塗装金属素形材の側をアンビルで支持して超音波接合試験を行った。ホーンは、その断面が5mm×10mmの矩形状であり、その先端形状がR5mmの曲率を有するものを使用した。試験体のほぼ中央にホーンを配した。試験体をホーンとアンビルの間に挟んで加圧し、所定の加圧力に達したときに縦振動方向の超音波振動の加振を開始した。ホーン先端が、樹脂材と有機樹脂層との接合界面位置から所定の距離にある位置に達したとき、その位置で停止させた。所定の加振時間を終了した後、加圧を所定時間で保持した。その後、加圧を除荷し、接合された試験体を得た。
【0044】
超音波接合試験の条件は、次のとおりである。超音波振動の振幅を20~80μmの間で変化させ、超音波振動の周波数を20kHz、超音波振動の加振時間を0.3s、振動開始時の加圧力を50N、加振停止後のホーンの保持時間を0.1sとした。ホーン先端と接合界面との距離を0.3~1.5mmの範囲で変化させた。
【0045】
(接合性の評価)
接合された試験体は、
図5に示すような引張試験装置を用いて、引張り速度5mm/minで引張り試験を行い、試験体が破断するピーク荷重を求めた。試験体の破断位置を目視で観察し、破断面をSEMで観察した。
【0046】
試験体は、塗装金属素形材1の側を上側治具33で固定され、樹脂材4の側を下側治具34で固定された。塗装金属素形材1は、接合部と反対側の一端が上側治具33から突出するように固定し、当該突出した一端を上側つかみ部31で把持した。樹脂材4は、その全体を下側治具34で固定し、下側つかみ部32で把持した。これにより、樹脂材4が下側つかみ部32で潰されるのを防止できる。引張試験装置に試験体を取り付ける際は、引張荷重の中心軸と塗装鋼板の板厚中心軸とがほぼ一致するように試験体を把持した。
【0047】
試験体の接合部の面積は、ホーンの接触面積に対応すると考えられることから、試験体の剪断引張強度の指標として、引張試験により求めたピーク荷重(N)をホーンの接触面積で除した数値を用いて、これを試験体の接合強度(MPa)とした。本実施例では、ホーンの断面形状が5mm×10mmの矩形であるので、ホーンの接触面積を50mm2とした。
【0048】
接合性の評価は、接合強度に基づいて行った。接合強度が10MPa以上であった場合は、接合性が良好である(○)と判定し、接合強度が10MPa未満であった場合または接合自体が不可であった場合は、接合性が不良である(×)であると判定した。その結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
実施例で得られた複合体は、有機樹脂層を有する塗装金属素形材と樹脂材との接合において、いずれも、樹脂材の側にホーンを配置して超音波接合されたものであるから、樹脂材の表面にホーン圧痕が形成されなかった。そして、塗装金属素形材と樹脂材との複合体を製造する方法において、表1に示すように、ホーン先端と接合界面との距離を0.3~1.2mmの範囲で選定することにより、接合強度が10MPa以上である良好な接合性を有する複合体が得られた。また、超音波振動の振幅として、30~80μmの範囲から選定できることを確認できた。
【符号の説明】
【0051】
1 塗装金属素形材
2 金属素形材
3 有機樹脂層
4 樹脂材
5 被接合体
11 軟化域
12 接合界面
13 ホーン先端と接合界面との距離
21 ホーン
22 アンビル
23 加圧
24 振動方向(縦振動)
31 上側つかみ部
32 下側つかみ部
33 上側治具
34 下側治具
41 上板
42 下板
43 ホーン
44 アンビル
45 加熱域
46 加圧
47 振動方向(横振動)
48 接合界面