(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】波形分離装置、方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 21/00 20060101AFI20221012BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01R21/00 Q
H02J3/00 170
(21)【出願番号】P 2018538499
(86)(22)【出願日】2017-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2017032704
(87)【国際公開番号】W WO2018047966
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2016177605
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017100130
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】河本 滋
(72)【発明者】
【氏名】ペトラードワラー ムルトゥザ
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-003494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0132316(US,A1)
【文献】特開平10-111862(JP,A)
【文献】特開2001-125589(JP,A)
【文献】特開平09-090980(JP,A)
【文献】特表2007-536050(JP,A)
【文献】特開2013-213825(JP,A)
【文献】特開2012-064023(JP,A)
【文献】特開2007-003296(JP,A)
【文献】特開2009-043141(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136666(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 21/00
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成が同一の電気機器である第1の機器と第2の機器に関して、前記第1の機器に対応する第1
のファクタ
と、前記第2の機器に対応する第2のファクタを少なくとも含むファクトリアルHMM(Hidden Markov Model)の前記第1のファクタの第1の状態遷移モデルと
前記第2
のファクタ
の第2の状態遷移モデルを記憶する記憶装置を備え、
前記第1及び第2のファクタは同じ状態を表す波形を出力するファクタ同士であり、
前記第1のファクタの前記第1の状態遷移モデル
は、一方向に一本のパスで遷移する区間を有し、
前記一方向に一本のパスで遷移する
前記区間は、
前記第1のファクタの状態として、第1の状態と、前記第1の状態から
遷移確率1での状態遷移先である第2の状態
、及び/又は、前記第1の状態を状態遷移先とする第3の状態を含み、
前記一方向に一本のパスで遷移する前記区間に対応した制約として、
ある時刻tで第1の状態であるとき、次の時刻t+1では前記第2の状態
であるという第1の制約、及び/又は、ある時刻tで前記第1の状態であるとき、前の時刻t-1では第3の状態であるという第2の制約を含み、前記第1の状態と前記第2の状態同士は互いに異なり、前記第1の状態と前記第3の状態に対応する波形同士は互いに異なり、
前記第1の機器は前記第1の状態遷移モデルの前記制約にしたがって動作するように動作制約が課せられ、
前記第2の機器は前記第2の状態遷移モデルにしたがって動作し、
前記第1の機器と前記第2の機器の電流、電圧、電力のいずれかの信号の合成信号波形を入力として受け、前記合成信号波形から、前記第1の状態遷移モデルと、
前記区間を有さない前記第2の状態遷移モデルとに基づき、前記第1の機器と前記第2の機器の
それぞれ状態に対応する信号波形を推定して互いに分離する推定部と、
を備え
、
前記推定部は、前記第1の機器に対して推定されたある時刻の状態が、前記第1の状態遷移モデルの前記区間の前記第1の状態である場合、前記区間での前記状態遷移の前記第1又は第2の制約に基づいて、前記第1の機器の1つ後の時刻又は1つ前の時刻の状態の信号波形を推定し、前記第1の機器の状態の信号波形の推定結果に基づき、前記区間での前記第2の機器の状態の信号波形を推定する、ことを特徴とする波形分離装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記第1の状態遷移モデル
の前記区間の前記第1の制約及び又は前記第2の制約と、前記第1の機器について、ある時刻の1つ前の時刻又は1つ後の時刻の状態とから、前記ある時刻での状態
に対応する信号波形を推定する、ことを特徴とする請求項1に記載の波形分離装置。
【請求項3】
前記推定部が分離した前記信号波形について時刻ごとのKL(Kullback-Leibler)ダイバージェンスを求め、前記KLダイバージェンスが閾値よりも高い場合、前記機器の異常を検出する異常推定部をさらに備える、ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の波形分離装置。
【請求項4】
前記異常推定部は、
時刻tで異常が検出された場合、
観測データXを最もよく説明できるパラメータを
により求め、時刻tで異常が発生しているファクタm
の状態S
t
(m)
がjである候補を推定する、ことを特徴とする請求項
3に記載の波形分離装置。
【請求項5】
前記異常推定部は、
前記異常が検出された時刻
tに対応する
前記ファクタmの前記状態
S
t
(m)
の値
jに応じて、前記ファクタ
mと前記状態
S
t
(m)
の組に優先順位を定め、
前記優先順位の高い前記ファクタと前記状態の組を、
前記異常が発生しているファクタと前記異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方として、推定する、ことを特徴とする請求項
4に記載の波形分離装置。
【請求項6】
コンピュータによる波形分離方法であって、
構成が同一の電気機器である第1の機器と第2の機器に関して、前記第1の機器に対応する第1
のファクタ
と、前記第2の機器に対応する第2のファクタを少なくとも含むファクトリアルHMM(Hidden Markov Model)の前記第1のファクタの第1の状態遷移モデルと
前記第2
のファクタ
の第2の状態遷移モデルを記憶装置に記憶保持し、
前記第1及び第2のファクタは同じ状態を表す波形を出力するファクタ同士であり、
前記第1のファクタの前記第1の状態遷移モデル
は、一方向に一本のパスで遷移する区間を有し、
前記一方向に一本のパスで遷移する
前記区間は、
前記第1のファクタの状態として、第1の状態と、前記第1の状態から
遷移確率1での状態遷移先である第2の状態
、及び/又は、前記第1の状態を状態遷移先とする第3の状態を含み、
前記一方向に一本のパスで遷移する前記区間に対応した制約として、
ある時刻tで第1の状態であるとき、次の時刻t+1では前記第2の状態
であるという第1の制約、及び/又は、ある時刻tで前記第1の状態であるとき、前の時刻t-1では第3の状態であるという第2の制約を含み、前記第1の状態と前記第2の状態同士は互いに異なり、前記第1の状態と前記第3の状態に対応する波形同士は互いに異なり、
前記第1の機器は前記第1の状態遷移モデルの前記制約にしたがって動作するように動作制約が課せられ、
前記第2の機器は前記第2の状態遷移モデルにしたがって動作し、
前記第1の機器と前記第2の機器の電流、電圧、電力のいずれかの信号の合成信号波形を入力として受け、前記合成信号波形から、前記第1の状態遷移モデルと、
前記区間を有さない前記第2の状態遷移モデルとに基づき、前記第1の機器と前記第2の機器の
それぞれ状態に対応する信号波形を推定して互いに分離
し、その際、前記第1の機器に対して推定されたある時刻の状態が、前記第1の状態遷移モデルの前記区間の前記第1の状態である場合、前記区間での前記状態遷移の前記第1又は第2の制約に基づいて、前記第1の機器の1つ後の時刻又は1つ前の時刻の状態の信号波形を推定し、前記第1の機器の状態の信号波形の推定結果に基づき、前記区間での前記第2の機器の状態の信号波形を推定する、ことを特徴とする波形分離方法。
【請求項7】
分離した前記信号波形について時刻ごとのKL(Kullback-Leibler)ダイバージェンスを求め、前記KLダイバージェンスが閾値よりも高い場合、前記機器の異常を検出する、ことを特徴とする請求項
6に記載の波形分離方法。
【請求項8】
構成が同一の電気機器である第1の機器と第2の機器に関して、前記第1の機器に対応する第1
のファクタ
と、前記第2の機器に対応する第2のファクタを少なくとも含むファクトリアルHMM(Hidden Markov Model)の前記第1のファクタの第1の状態遷移モデルと
前記第2
のファクタ
の第2の状態遷移モデルを記憶装置に記憶保持し、
前記第1及び第2のファクタは同じ状態を表す波形を出力するファクタ同士であり、
前記第1のファクタの前記第1の状態遷移モデル
は、一方向に一本のパスで遷移する区間を有し、
前記一方向に一本のパスで遷移する
前記区間は、
前記第1のファクタの状態として、第1の状態と、前記第1の状態から
遷移確率1での状態遷移先である第2の状態
、及び/又は、前記第1の状態を状態遷移先とする第3の状態を含み、
前記一方向に一本のパスで遷移する前記区間に対応した制約として、
ある時刻tで第1の状態であるとき、次の時刻t+1では前記第2の状態
であるという第1の制約、及び/又は、ある時刻tで前記第1の状態であるとき、前の時刻t-1では第3の状態であるという第2の制約を含み、前記第1の状態と前記第2の状態同士は互いに異なり、前記第1の状態と前記第3の状態に対応する波形同士は互いに異なり、
前記第1の機器は前記第1の状態遷移モデルの前記制約にしたがって動作するように動作制約が課せられ、
前記第2の機器は前記第2の状態遷移モデルにしたがって動作し、
前記第1の機器と前記第2の機器の電流、電圧、電力のいずれかの信号の合成信号波形を入力として受け、前記合成信号波形から、前記第1の状態遷移モデルと、
前記区間を有さない前記第2の状態遷移モデルとに基づき、前記第1の機器と前記第2の機器の
それぞれ状態に対応する信号波形を推定して互いに分離
し、その際、前記第1の機器に対して推定されたある時刻の状態が、前記第1の状態遷移モデルの前記区間の前記第1の状態である場合、前記区間での前記状態遷移の前記第1又は第2の制約に基づいて、前記第1の機器の1つ後の時刻又は1つ前の時刻の状態の信号波形を推定し、前記第1の機器の状態の信号波形の推定結果に基づき、前記区間での前記第2の機器の状態の信号波形を推定する処理を、コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項9】
分離した前記信号波形について時刻ごとのKL(Kullback-Leibler)ダイバージェンスを求め、前記KLダイバージェンスが閾値よりも高い場合、前記機器の異常を検出する異常判定処理を前記コンピュータに実行させる、請求項
8に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願についての記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2016-177605号(2016年 9月12日出願)及び特願2017-100130号(2017年 5月19日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は波形を分離する装置、方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
配電盤(分電盤)等で計測した電流から、電気機器の状態を非侵入的に推定する技術(Nonintrusive load monitoring:NILM、あるいはNon intrusive Appliance Load Monitoring:NIALM)が各種提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電力需要家の給電線引込口付近に設置した測定センサで検出した測定データから基本波並びに高調波の電流とそれらの電圧に対する位相に関するデータを取り出すデータ抽出手段と、前記データ抽出手段からの基本波並びに高調波の電流とそれらの電圧に対する位相に関するデータを基に、当該電力需要家が使用している電気機器の動作状態を推定するパターン認識手段とを備えた電気機器モニタリングシステムが開示されている。
【0004】
確率モデルに基づき波形分離を行う関連技術として、例えば特許文献2には、第1の電気機器を含む2以上の電気機器の電気信号の総和を表すデータを取得し、確率生成モデルを使用して前記データを処理することにより、前記第1の電気機器の稼働状態の推定値を生成し、前記第1の電気機器の電気信号の推定値を出力する。確率生成モデルは、前記第1の電気機器に対応するファクタであって、3以上の状態を有するファクタを有する。前記確率生成モデルはファクトリアルHMM(Factorial Hidden Markov Model:FHMM)からなる。前記ファクトリアルHMMは、前記2以上の電気機器の中の第2の電気機器に対応する第2のファクタを有し、前記ファクトリアルHMMを使用して、前記データを処理することにより、前記第2の電気機器の第2の電気信号の第2の推定値を生成し、前記第1の電気機器の電気信号の推定値の第1の個別分散を計算し、前記第1の個別分散を、前記第1の電気機器に対応するファクタのパラメータとして使用し、前記第2の電気機器の前記第2の電気信号の前記第2の推定値の第2の個別分散を計算し、前記第2の個別分散を、前記第2の電気機器に対応する前記第2のファクタのパラメータとして使用する。
【0005】
通常のHMM(Hidden Markov Model)では、時刻tの観測データYtに対して1つの状態変数Stが対応するが、ファクトリアルHMMでは、状態変数StがSt
(1)、St
(2)~St
(M)と複数(M個)存在し、複数の状態変数St
(1)~St
(M)に基づき1つの観測データYtが生成される。状態変数St
(1)~St
(M)はM個のそれぞれの電気機器に対応する。状態変数St
(1)~St
(M)の状態値は、電気機器の状態(動作状態、例えばオン、オフ)に対応する。HMMでは出力(観測データ)からパラメータを推定するために用いられるEM(Expectation-Maximization)アルゴリズムは、観測データの対数尤度を、E(Expectation)ステップとM(Maximization)ステップの繰り返しにより最大化するアルゴリズムであり、以下の1~3のステップを含む。
1.初期パラメータを設定する。
2.現在推定されている潜在変数の分布に基づいてモデルの尤度の期待値を計算する(Eステップ)。
3.Eステップで求まった尤度の期待値を最大化するようなパラメータを求める(Mステップ)。このMステップで求められたパラメータは、次のEステップで使われる潜在変数の分布を決定するために用いられ、期待値が収束する(増大しなくなる)まで2と3のステップを繰り返す。
【0006】
また、特許文献3には、複数の電気機器の消費電流の合計値の時系列データを取得するデータ取得手段と、取得された前記時系列データに基づいて、前記複数の電気機器の稼働状態を確率モデルによりモデル化したときのモデルパラメータを求めるパラメータ推定手段とを備える電気機器推定装置が開示されている。前記確率モデルは、ファクトリアルHMMである。前記データ取得手段は、取得された前記消費電流の合計値を非負のデータに変換し、前記パラメータ推定手段は、EMアルゴリズムによるパラメータ推定処理において、前記ファクトリアルHMMのファクタmの電流波形のパターンに対応する観測確率のパラメータW(m)が非負であるという制約条件の下で、前記ファクトリアルHMMが、前記時系列データが表す前記消費電流の合計値のパターンを説明する度合いである尤度関数を最大化することにより、前記モデルパラメータとしての観測確率のパラメータW(m)を求める。
【0007】
ここで、特許文献2に開示されているファクトリアルHMMを用いた波形分離の概略を説明しておく。
図19は、特許文献2の
図3に基づきその概略を例示する図である(構成要素及びその参照符号は特許文献2から変更されている)。波形分離学習では、各時刻tの総和データとしての電流波形Y
tが、各電気機器mで消費されている電流の電流波形W
(m)の加算値(総和)であるとして、電流波形Y
tから、個々の電気機器mで消費されている電流波形W
(m)が求められる。
【0008】
状態推定部212は、データ取得部211からの電流波形Ytとモデル記憶部213に記憶された家庭内の家電全体のモデルである全体モデルのモデルパラメータφとを用いて、各家電の稼働状態を推定する状態推定を行う。
【0009】
モデル学習部214は、データ取得部211から供給される電流波形Ytと、状態推定部212から供給される状態推定の推定結果(各家電の稼働状態)とを用いて、モデル記憶部213に記憶された全体モデルのモデルパラメータφを更新するモデル学習を行う。モデルパラメータφは、初期確率、分散、固有波形W(m)等を含む。
【0010】
モデル学習部214は、データ取得部211から供給される電流波形Ytと、状態推定部212から供給される各家電の稼働状態とを用いて、モデルパラメータとしての電流波形パラメータを求める(更新する)波形分離学習を行い、波形分離学習によって得られる電流波形パラメータによって、モデル記憶部213に記憶された電流波形パラメータW(m)を更新する。
【0011】
モデル学習部214は、データ取得部211から供給される電流波形Ytと、状態推定部212から供給される各家電の稼働状態とを用いて、モデルパラメータとしての分散パラメータを求める(更新する)分散学習を行い、その分散学習によって得られる分散パラメータによって、モデル記憶部213に記憶された分散パラメータCを更新する。
【0012】
モデル学習部214は、状態推定部212から供給される各家電の稼働状態を用いて、モデルパラメータφとしての初期状態パラメータ、及び、状態変動パラメータを求める(更新する)状態変動学習を行い、状態変動学習によって得られる初期状態パラメータ、及び、状態変動パラメータによって、モデル記憶部213に記憶された初期状態パラメータ、及び、状態変動パラメータをそれぞれ更新する。モデル記憶部213に記憶される全体モデルとしてはHMMを採用することができる。データ出力部216は、状態推定部212から供給される各家電の稼働状態、モデル記憶部213に記憶される全体モデルを用いて各家電モデルが表す家電の消費電力を求め表示装置等に表示する。
【0013】
さらに別の関連技術として、特許文献4には、需要地の引込線における所定箇所で測定した総負荷電流及び電圧に基づいて、総負荷電流の商用周波数1周期分における平均化した電流波形データを抽出し、該平均化した電流波形データから、電流値の変化が増加から減少に転じる点、又は減少から増加に転じる点を示す凸点に関する凸点情報を抽出する。推定部は、電気機器の種別と、凸点情報と、消費電力と、を対応付けた推定モデルを予め保持する。そして、推定部は、データ抽出部が抽出した凸点情報と、推定モデルと、に基づいて、動作中の電気機器の消費電力を個別に推定する。
【0014】
特許文献5には、1または複数の電力を消費する電気機器について計測された電流波形と電圧波形とを受信して、前記電気機器の電流波形から前記電気機器の消費電力を推定するための電力推定装置において、受信された前記電流波形と電圧波形のデータに基づき、前記電気機器ごとの電力を推定する電力推定部と、前記電気機器ごとの消費電力と前記消費電力の変動量の特徴を表す電力消費パターンを保持する保持部と、前記電力推定部が推定した電力が、前記保持部で保持された電力消費パターンと一致しているかを判定し、一致していないと判定した場合、前記電力消費パターンに従って前記電力を補正する推定電力補正部と、を備えた電力推定装置が開示されている。
【0015】
特許文献6に開示される機器消費電力推定装置は、機器特徴学習部と、機器特徴データベースと、動作状態推定部と、消費電力推定部とを備える。機器特徴学習部は、給電経路において測定された電圧と電流の時系列データから得られる電流または電力の高調波から機器の動作状態の特徴量を取得する。機器特徴データベースは、取得された機器の動作状態の特徴量を記憶する。動作状態推定部は、電流または電力の高調波から取得された高調波の特徴量と、前記機器特徴データベースに記憶された前記機器の動作状態の特徴量とに基づいて前記機器の動作状態を推定する。消費電力推定部は、推定された動作状態に基づいて前記機器の消費電力を推定する。
【0016】
なお、FHMM、EMアルゴリズム、Gibbs-Sampling等は例えば非特許文献1等が参照される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2000-292465号公報
【文献】特開2013-213825号公報
【文献】特開2013-218715号公報
【文献】特開2011-232061号公報
【文献】特開2015-102526号公報
【文献】特開2016-017917号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】Zoubin Ghahramani and Michael I. Jordan, "Factorial Hidden Markov Models", Machine Learning Volume 29, Issue 2-3, Nov./Dec. 1997
【文献】自然言語処理のための深層学習(Deep Learning for Natural Language Processing)、ボレガラ ダヌシカ(Danushka Bollegala)、人工知能学会論文誌27巻4号X(2012年)、<インターネット検索:2016/09/01、URL:https://cgi.csc.liv.ac.uk/~danushka/papers/DeepNLP.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以下に関連技術の分析を与える。
波形分離に関する上記関連技術においては、例えば、同一又はほぼ同じ構成の複数のユニットについて波形分離することができない。あるいは、波形分離ができたとしても精度が落ちる。また、例えば生産ラインのように、複数の同種機器があるような事例(システム)への波形分離の適用例はないというのが実情である。
【0020】
したがって、本発明は、上記課題に鑑みて創案されたものであって、その目的の一つは、合成信号波形から、例えば同一又はほぼ同じ構成のユニット間での信号波形の分離を可能とする波形分離装置、方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一つの側面によれば、ユニットの動作状態のモデルとして、一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルを記憶する記憶装置と、前記第1の状態遷移モデルに基づいて動作する第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形を入力として受け、前記合成信号波形から、少なくとも前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する推定部と、を備えた波形分離装置が提供される。
【0022】
本発明の一つの側面によれば、コンピュータによる波形分離方法であって、一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルに基づいて動作する第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形に対して、前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する波形分離方法が提供される。
【0023】
本発明の一つの側面によれば、一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルに基づいて動作する第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形を入力とし、前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する処理を、コンピュータに実行させるプログラムが提供される。本発明によれば、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み出し可能な記録媒体(例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)等の半導体ストレージ、HDD(Hard Disk Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等のnon-transitory computer readable recording medium)が提供される。
【0024】
本発明の別の側面によれば、波形分離装置は、複数のユニットの合成信号波形から、複数のユニットの信号波形を推定して分離する推定部と、前記推定部でユニット毎に分離された信号波形を受け、前記信号波形または所定の状態から、異常の程度を表す異常度を算出し、前記ユニットの異常を検出する異常推定部を備えた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、合成信号波形から、例えば同一又はほぼ同じ構成のユニット間での信号波形の分離を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図6】本発明の例示的な第1の実施形態のシステム構成の一例を説明する図である。
【
図7】本発明の例示的な第1の実施形態の装置構成の一例を説明する図である。
【
図8】本発明の例示的な第1の実施形態を説明する図である。
【
図9】本発明の例示的な第1の実施形態を説明する図である。
【
図10A】本発明の例示的な第1の実施形態が適用されるマウンタの構成を説明する模式平面図である。
【
図10B】マウンタの2つのステージのモデルを説明する図である。
【
図11】本発明の例示的な第1の実施形態の一具体例の合成電流波形と分離波形を示す図である。
【
図12】本発明の例示的な第1の実施形態の一具体例の合成電流波形を示す図である。
【
図13】本発明の例示的な第1の実施形態の一具体例の合成電流波形と分離波形を示す図である。
【
図14】本発明の例示的な第1の実施形態の一具体例を説明する図である。
【
図15】本発明の例示的な第1の実施形態の一具体例を説明する図である。
【
図16】本発明の例示的な第2の実施形態の装置構成の一例を説明する図である。
【
図17A】本発明の例示的な第3の実施形態の装置構成の一例を説明する図である。
【
図17B】本発明の例示的な第3の実施形態の動作状態の遷移モデルの一例を説明する図である。
【
図18】本発明の例示的な第4の実施形態の装置構成の一例を説明する図である。
【
図19】波形分離の関連技術(特許文献2)を説明する図である。
【
図20】本発明の例示的な第5の実施形態の装置構成の一例を説明する図である。
【
図21】本発明の例示的な第5の実施形態の異常推定部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一形態について説明する。
図1は、本発明の基本的な一形態を説明する図である。
図1を参照すると、波形分離装置10は、ユニットの動作状態のモデルとして、一方向に一本のパス(状態遷移パス:一本道)で遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルを記憶する記憶装置12(メモリ)と、前記第1の状態遷移モデルに対応した制約で動作する第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形の測定結果を入力として受け、前記合成信号波形から、少なくとも前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する推定部11(プロセッサ)を備えている。記憶装置12に記憶されるモデルは、ファクトリアルHMMのファクタであってもよい。
【0028】
本発明の一形態によれば、一方向の一本道区間は、
図1のモデル121に模式的に示すように、状態(ノード)に入る辺(エッジ)が一本、当該状態(ノード)から出る辺(エッジ)が一本の状態を少なくとも一つ含む(
図1のモデル121のn>=1に対応)。すなわち、一方向の一本道区間では、ある時刻で第1の状態(例えば
図1のモデル122のp
1)であるとき、次の時刻では遷移確率1で第2の状態(
図1のモデル122のp
2)に遷移する。なお、
図1のモデル121における状態の数n≧1の区間と、括弧内のモデル122における状態の数n≧2の区間(複数の辺を入力とする状態p1から状態p2へは一方向で一本の状態遷移パスが存在)は等価である。
【0029】
本発明の一形態によれば、前記複数のユニットが、前記第1のユニットと同一又は同型の第2のユニットを含み、推定部11は、前記第1及び第2のユニットの合成信号波形に対して、前記第1のユニットの前記第1の状態遷移モデルと、前記第2のユニットの状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形と、前記第2のユニットの信号波形を分離する構成としてもよい。
【0030】
本発明の一形態によれば、前記第1、第2のユニットは、
一つの生産ラインを構成する一つの設備内の第1、第2のユニット、
一つの生産ラインを構成する第1、第2の設備、
第1の生産ラインを構成する第1の設備の第1のユニットと、第2の生産ラインを構成する第2の設備の第2のユニットのうちのいずれかを含む。あるいは、第1、第2のユニットは、同一又はほぼ同一構成の第1、第2のパソコン(Personal Computer:PC)等(第1、第2の家電製品)であってもよい。
【0031】
本発明の一形態によれば、波形分離対象の信号は、電流、電圧、電力等であってもよい。
【0032】
本発明の一形態によれば、動作制約が課せられる第1のユニットと、該第1のユニットと同一であるかほぼ同じ構成の第2のユニットを少なくとも含む複数のユニットの合成波形から、第1のユニットと第2のユニットの波形を分離可能としている。
【0033】
次に、
図2A~
図2C、
図3、及び
図4を参照して、
図1を参照して説明した本発明の一形態における波形の推定動作について説明する。3つの状態からなるファクタが2つあるものとする(ファクタ1、2は、第1、第2のユニットに対応する)。ファクタ1、2は同じ構成を持っており、瞬時波形は同じであるものとする。
【0034】
図2Aの1-1、1-2、1-3は、ファクタの状態(1)、(2)、(3)の各ファクタの信号波形(例えば電流波形)である。
図2Aにおいて、
1-1は停止状態(状態(1))の波形(一定レベルを保持)を表し、
1-2はある加工動作(状態(2))の波形を表し、
1-3は別の加工動作(状態(3))の波形を表している。なお、
図2Aの各波形1-1~1-3において、横軸は時間、縦軸は振幅(例えば電流の場合、電流値)を表している。
【0035】
ここで、ファクタ1には、次の制約Iと制約IIを課す。ただし、制約Iと制約IIのどちらか一方だけでもよい。
【0036】
制約I:ある時刻tで状態(2)であるとき、次の時刻t+1では状態(3)である。
【0037】
制約II:ある時刻tで状態(2)であるとき、前の時刻t-1では状態(1)である。
【0038】
図2Bは、ファクタ1の状態遷移図(2B-1)と遷移確率行列A(2B-2)を例示している。制約Iの一例として、
図2Bに示すように、ファクタ1の状態遷移図(2B-1)において、状態(2)から流出する矢印は状態(3)に向かう1本のみである。遷移確率行列A(2B-2)の第2行でゼロでない列要素はa
23(第2行第3列の要素:値1)のただ1つである。
【0039】
制約IIの一例として、
図2Bに示すように、ファクタ1の状態遷移図(2B-1)において、状態(2)に流入する矢印は状態(1)からのただ1本である。遷移確率行列A(2B-2)の第2列でゼロでない要素はa
12(第1行第2列の要素)のただ1つである。
【0040】
図2Cは、ファクタ2の状態遷移図(2C-1)と遷移確率行列B(2C-2)を例示している。状態(2)と状態(3)の間は一方向の一本道ではない。また、状態(1)と状態(2)の間も一方向の一本道ではない。また、ある時刻tで状態(2)であるとき、前の時刻t-1では、状態(1)、状態(2)、又は状態(3)である(遷移確率行列Bの第2行の要素b
12、b
22、b
23は非零)。
【0041】
図3は、比較例(上記一形態の構成を採らない一例)を説明する図である。
図3の3-1~3-5は、各サンプル時刻(t=1、2、3、4、5)で観測された、ファクタ1、2の合成波形である。各合成波形3-1~3-5の下には、各サンプル時刻(t=1、2、3、4、5)において、各合成波形に対応するファクタ1とファクタ2の状態の組み合わせが示されている。
図3のファクタ1とファクタ2の状態の組み合わせにおいて、各波形の左上の(1)、(2)、(3)は、状態(1)、(2)、(3)の波形であることを表している。
【0042】
なお、ファクタ1とファクタ2の状態(1)~(3)の組み合わせ(3×3)と、合成波形の対応は、
図5に模式的に示したようなものとなる。
図5において、3×3の合成波形に付した(i,j)は、ファクタ1、2の状態がそれぞれ#j、#i(i=1~3,j=1~3)のときの合成波形であることを表している。
【0043】
図3において、波形だけみると、時刻t=2では、ファクタ1、2の状態として、(1)と(2)の組み合わせがあることがわかる。しかしながら、時刻t=2の合成波形を波形分離する場合、
図5に例示されるように、ファクタ1が状態(1)、ファクタ2が状態(2)の場合と、ファクタ1が状態(2)、ファクタ2が状態(1)の場合の2つの可能性がある。時刻t=2において、波形の分析だけからは、ファクタ1とファクタ2のどちらが状態(1)でどちらが状態(2)であるのか分からない。
【0044】
同様に、時刻t=4では、ファクタ1、2の状態として、状態(1)と(3)の組み合わせがあることがわかる。しかしながら、ファクタ1とファクタ2のどちらが状態(1)でどちらが状態(3)であるのかわからない。
【0045】
一方、本発明の一形態のように、状態遷移に制約がある場合には、
図4に示すように、時刻t=2において、ファクタ1とファクタ2の各状態が状態(1)、(2)のどちらであるかが分かる。また時刻t=4において、ファクタ1とファクタ2の各状態が状態(1)、(3)のどちらであるかが分かる。なお、
図4の各時刻の合成波形4-1~4-5は、
図3の各時刻の合成波形3-1~3-5と同一である。
【0046】
図4を参照すると、例えば、時刻t=3では、ファクタ1、2はともに状態(2)であることが確定する。ここで、ファクタ1に課せられた制約IIにより、ファクタ1において、状態(2)の前は、状態(1)である。したがって、
図1の推定部11では、ファクタ1の時刻t=2の状態は状態(1)であることが確定する。よって、時刻t=2でのファクタ2は、状態(2)である。
【0047】
また、ファクタ1の制約Iにより、状態(2)の次の時刻では状態(3)であるから、時刻t=4でのファクタ1は状態(3)であることが確定する。よって、時刻t=4でのファクタ2は状態(1)である。なお、
図5に模式的に示した、合成波形とファクタ1、2の状態の対応を記憶装置12に記憶保持しておいてもよい。
【0048】
このように、本発明の一形態によれば、状態遷移に制約を導入することで、同一構成のユニットの状態を確定することができる。
【0049】
また、上記した制約を用いることで、計算量的にも有利である。この点については後に説明する。
【0050】
以上、本発明の一形態の構成と動作原理を説明した。以下、いくつかの例示的な実施形態に即して説明する。
【0051】
<例示的な第1の実施形態>
図6には、例示的な第1の実施形態のシステム構成の一例として、生産ラインが模式的に例示されている。特に制限されないが、例示的な第1の実施形態では、生産ラインとしてSMT(Surface Mount Technology)ラインへの適用が説明される。
【0052】
図6を参照すると、ローダ(基板供給装置)105は、ラックに入れてセッティングした基板(生産基板)を、はんだ印刷機106に供給する。はんだ印刷機106は、基板のパッド上にメタルマスクを用いてクリームはんだを転写(印刷)する。検査機1(107)は、はんだ印刷した基板の外観を検査する。マウンタ1(108A)~マウンタ3(108C)は、クリームはんだを印刷した基板上に、表面実装部品を自動で実装する。リフロー炉109は、実装が終了した基板を炉内の上下ヒーターから加熱してはんだを溶かし部品を基板に固定する。検査機2(110)は外観を検査する。アンローダ111は、はんだ付けが終わった基板を自動的に基板ラック(不図示)へ収納する。
【0053】
電流センサ102は、分電盤103の例えば主幹に流れる電源電流(生産ラインの各設備の合成電源電流)を測定する。電流センサ102は、測定した電流波形(デジタル信号波形)を、通信装置101を介して波形分離装置10に送信する。電流センサ102は、CT(Current Transformer)(例えば零相変流器(Zero-phase-sequence Current Transformer:ZCT))やホール素子等で構成してもよい。電流センサ102は、不図示のアナログデジタル変換器で電流波形(アナログ信号)をサンプリングしてデジタル信号波形に変換し不図示の符号化器で圧縮符号化した上で通信装置101に、W-SUN(Wireless Smart Utility Network)等により、無線伝送するようにしてもよい。
【0054】
なお、通信装置101は工場(建屋)内に配置されてもよい。波形分離装置10は工場内に配置されてもよいし、通信装置101とインターネット等広域ネットワークを介して接続するクラウドサーバ上に実装するようにしてもよい。
【0055】
図7は、
図6の波形分離装置10の構成の一例を説明する図である。
図7において、電流波形取得部13は、電流センサ(
図6の102)で取得した電源電流波形(複数の設備の合成電流波形)を取得する。電流波形取得部13は、不図示の通信部を備え、
図6の通信装置101を介して電流センサから合成電流波形を取得するようにしてもよい。あるいは、電流波形取得部13は、予め不図示の記憶装置(波形データベース等)に記憶保持されている波形を読み出して合成電流波形を取得するようにしてもよい。
【0056】
記憶装置12は、
図6のラインを構成する各設備(例えば、ローダ105、アンローダ111、はんだ印刷機106、検査機1、2(107、110)、マウンタ108A~108C、リフロー炉109等)における動作状態の遷移をモデル化した状態遷移モデルを記憶する。特に制限されないが、複数のユニットの状態遷移モデルを組み合わせたモデルは、例えばファクトリアルHMMモデルを構成してもよい。
【0057】
なお、例示的な第1の実施形態において、設備が同一の複数のユニットを有する場合、これらの波形分離を行うために、少なくとも一つのユニット(第1のユニット)の状態遷移モデルは、一方向の一本道の区間を含む状態遷移図に対応するモデルを含む。
【0058】
推定部11は、電流波形取得部13が取得した合成電源電流に対して、記憶装置12に記憶された状態遷移モデルに基づき、各ユニットの電源電流波形を推定して分離する。
【0059】
なお、
図7において、記憶装置12に記憶されるモデル(状態遷移モデル)123、1
24の丸印は、観測されない(隠れた)状態(Hidden state){S
t}を表す。例えば時刻tでの状態変数S
tが、ファクタ1からファクタMまで、S
t
(1)、S
t
(2)、・・・、S
t
(M)と複数(M個)存在し、これら複数の状態変数S
t
(1)~S
t
(M)から1つの観測データY
tが生成される。M個の状態変数S
t
(1)乃至S
t
(M)は、M個のユニットに対応し、状態変数S
t
(m)の状態値は、例えばユニットの動作状態を表している。なお、m番目の状態変数S
t
(m)は、m番目のファクタ又はファクタmとも称される。
【0060】
第1のユニットのモデル123において、一方向の一本道の区間(状態p1
(1)~p3
(1))は、第1のユニットの状態は、ある時刻tでの状態(隠れ状態St
(1))がp1
(1)であるとき、次の時刻t+1での状態(隠れ状態St+1
(1))は遷移確率=1でp2
(1)であるという第1のユニットの動作制約に対応している。なお、動作状態p1
(1)の肩の(1)は、ファクタ1を表し、状態変数St
(1)の肩の(1)に対応させて表記したものである。第2のユニットのモデル124の動作状態p1
(2)の肩の(2)は、ファクタ2を表し、状態変数St
(2)の肩の(2)に対応させて表記したものである。
【0061】
出力部14は、推定部11で推定分離された各ユニットの電流波形を表示装置等に出力する(後に説明される
図11、
図13)。出力部14は、ユニットの動作状態、分離電流波形に基づき、消費電力を求め表示装置等に表示するようにしてもよい。出力部14は、不図示のネットーク等を介して接続する端末に、ユニットの電流波形、電力を送信して表示させるようにしてもよい。
【0062】
第1の実施形態において、電流波形の推定分離対象となり、動作制約が課せられるユニット(状態遷移モデルが一方向の一本道の区間を含む)は、後に、
図10を参照して説明されるように、
図6の設備(例えばマウンタ)が複数のユニット(例えば同一構成の複数のユニット)を含む場合、当該ユニットであってもよい。あるいは、電流波形の推定分離対象となり、動作制約が課せられるユニットは設備であってもよい。あるいは、当該ユニットは、1つの生産ライン全体(例えば
図6のSMTライン全体)であってもよい。あるいは、当該ユニットは、設備Aのあるユニットaと、設備Bのあるユニットbの組み合わせであってもよい。あるいは、当該ユニットは、同一のパソコン等、家電製品であってもよい。
【0063】
図8は、
図6のSMTラインにおける3つのマウンタ1、2、3(108A-108C)の動作モデルを説明する図である。各マウンタは、待ち行列ネットワークとして表される。マウンタがサービスステーション、マウンタ間のコンベヤがバッファ(待ち行列)の役割をしている。マウンタは、基板が到着すると、プログラムにしたがって部品を基板に搭載する加工動作を行ったのち基板を排出する。マウンタから排出される基板はコンベアで後段の設備(次のマウンタ又はリフロー炉)へ搬送される。マウンタの出力側のバッファが一杯になるか(バッファ溢れ)、入力側のバッファが空になるか(バッファ枯渇)、マウンタ自身が何らかのエラー(例えばチップ切れなど)になると、処理は止まる。
【0064】
図9は、
図8のマウンタの動作を表すモデルを説明する図である。「processing」(処理中)は、マウンタが1枚の基板を処理中であることを表している。「waiting:w」(待ち状態)は、マウンタが前後工程待ち(前工程から基板の到着を待つか、後工程に基板を搬出することを待つ)やエラーの復旧待ちを表している。
図9において、状態Wから状態p
1~p
Tを経て、状態Wに戻る1周に要する時間をサイクルタイムという。
【0065】
状態間の状態遷移確率P(St|St-1)は以下で与えられる。
【0066】
P(St=pk|St-1=pk-1)=P(St=w|St-1=pT)=1 ・・・(1)
【0067】
P(St=p1|St-1=w)=α ・・・(2)
【0068】
P(St=w|St-1=w)=1-α ・・・(3)
【0069】
上式(1)は時刻t-1の状態変数St-1の値(動作状態)がpk-1であるとき、次の時刻tの状態変数Stの値(動作状態)がpkに遷移する確率は1(k=1~T)、時刻t-1の状態変数St-1の値(動作状態)がpTであるとき、次の時刻tの状態変数Stの値(動作状態)がWに遷移する確率は1であることを表している。
【0070】
上式(2)は、時刻t-1の状態変数St-1の値(動作状態)がw(待ち状態)であるとき、次の時刻tの状態変数Stの値(動作状態)がp1に遷移する確率はα(0<α<1)であることを表している。
【0071】
上式(3)は、時刻t-1の状態変数St-1の値(動作状態)がw(待ち状態)であるとき、次の時刻tの状態変数Stの値(動作状態)がw(待ち状態)に遷移する確率は1-αであることを表している。
【0072】
第1の実施形態では、推定部11において、記憶装置12に記憶されるユニットの動作状態モデル(状態遷移モデル)を用いたユニット(ファクタ)の電流波形パラメータの推定と学習には、非特許文献1に記載されたEMアルゴリズム、Gibbsサンプリング、Completely factorized Variational inference、Structured Variational inference等を用いてもよいことは勿論である。このうち、特許文献3には、Completely factorized Variational inference、Structured Variational inferenceを用いた電流波形パラメータ等の推定処理の例が説明されている。なお、特許文献3では、Structured Variational inferenceがEステップとして例示され、これに対応するMステップは、Completely factorized Variational inferenceが用いられている。なお、特に制限されないが、第1の実施形態では、例えばStructured Variational inferenceが用いられる(非特許文献1参照)。
【0073】
Structured Variational inferenceでは、非特許文献1のAppendix Dにも記載されるように、確率分布の類似尺度であるカルバックライブラーダイバージェンス(Kullback-Leibler divergence)KLを最小化するパラメータht
(m)を以下で求める。なお、非特許文献1のStructured Variational inferenceでは、カルバックライブラーダイバージェンスKLは以下で与えられる。
【0074】
【0075】
上式(4)のZは、観測シーケンスが与えられたときの事後確率の和を1とするための正規化定数、Z
Qは、確率分布の正規化定数である(非特許文献1のAppendix Cの式(C.1)、(C.3)。なお、H({S
t、Y
t})、H
Q({S
t})は、Appendix Cの式(C.2)、(C.4)に定義される)。
【0076】
上式(4)をloghτ
(m)で偏微分すると、次式(5)となる。
【0077】
【0078】
カルバックライブラーダイバージェンスKLを最小化するht
(m)は、上式(5)の括弧[]の中を0とおくことで、次式(6a)が求まる。なお、m=1~M(ファクタの数)について、式(6a)、(6b)を求める。
【0079】
【0080】
ただし、Δ(m) =diagonal (W(m)’C-1W(m))である(diagonalは行列の対角成分)。
【0081】
【0082】
パラメータht
(m)は、隠れマルコフモデルmにおける状態変数St
(m)に関連した観測確率である。この観測確率と状態遷移確率行列Ai,j
(m)を用いたフォーワードバックワードアルゴリズムを用いて、<St
(m)>の期待値の新たなセットを求め、式(6a)、(6b)にフィードバックする。
【0083】
図9の例では、遷移確率行列A
i,j
(m)の非零成分はT+2個である。このため、EMアルゴリスムのEステップの各反復の計算量はO(KTN)で済む(後述する<計算量削減効果>参照)。
【0084】
各時刻の状態推定は、観測データX(Yt)を最もよく説明できるパラメータjを求めることなる(最尤推定)。
【0085】
【0086】
なお、式(7)の表記を非特許文献1に合わせて記載すると、
(7’)
となる。
【0087】
ここで、表記に関して補足すると、
図7の説明で用いたS
t
(m)や式(4)等、非特許文献1における
は、「1-of-N表現」と呼ばれるベクトルで表されている(非特許文献2参照)。状態数Mのとき、状態jを表す「1-of-M表現」のベクトルは、要素jのみが1で残りが0のベクトルになる。このベクトルの期待値をとると、各要素が、各状態をとる確率を表すベクトルになる。
【0088】
【0089】
ここで、右辺の
は、式(7)の
に対応している。すなわち、S
t,j
(m)に関して以下が成り立つ。
(S
t,j
(m)が1になる確率)=(時刻tのファクタmの状態がjである確率)
【0090】
次に、例示的な第1の実施形態の具体例として、
図6の生産ラインにおいて、同一の複数のユニットの波形分離への適用例を説明する。
【0091】
図10Aは、マウンタ(例えば
図8のマウンタ1)が前半ユニット(ステージ1)と後半ユニット(ステージ2)を備えた例を模式的な平面図で示す図である。マウンタ108において、電子部品は主にリールやトレーで供給され、リールは専用のフィーダに取り付け、トレーはトレーフィーダと呼ばれる装置にセットされる。基板1084A、1084Bは、コンベア1083で搬送され、ヘッド1082A、1082Bはフィーダ部1081A~1081Dから表面実装型電子部品を負圧で吸着し、XY軸上で移動して、基板1084A、1084B上の目的の場所に移動し該表面実装型電子部品を搭載する。なお、ステージあたり2ヘッドを有するものもある。ステージ1で部品が搭載された基板1084Aは、ステージ2で別の群の部品が搭載される。
【0092】
特に制限されるものではないが、ここでは、前半ユニットに、一定の動作制約が課されるものとする。
図10Bは、
図10Aの前半ユニット(ステージ1)の状態遷移モデル(5-1)と、
図10Aの後半ユニット(ステージ2)の状態遷移モデル(5-2)を表す図である。
【0093】
図10Bにおいて、Wは、マウンタの基板待ち状態を表す。マウンタに入力側のコンベアから基板が搬送されてステージにセットされると状態p
1に遷移し、フィーダからヘッダが部品を取り出して基板上の所定の位置に搭載する処理を繰り返す。特に制限されないが、各状態を1つの部品のマウント処理に対応させると、例えばK個の部品を搭載する場合、K個の状態が一方向に遷移確率1で推移する。すなわち、p
1~p
K、C(完了:Completion)の状態に一方向で一本のパス(道)で遷移する。動作状態Cで当該ステージにおける部品のマウント動作が完了した基板は、排出され、後段に搬送される。1つの基板への部品搭載動作が完了すると、状態Wに遷移し、当該ステージに次の基板の到着を待つ。なお、部品の実装にはアルミ製のロボットアームを備えたマウンタもある。アームの先にあるノズルが例えばテープフィーダに乗っているチップ部品を吸い込む。
図10Aの設備の遷移確率行列は、
図10Bの状態遷移モデル(5-1)に対応する遷移確率行列に、
図10Bの状態遷移モデル(5-2)に対応する遷移確率行列を掛け合わせた行列として表される。
【0094】
後半ユニット(ステージ2)の動作には、前半ユニット(ステージ1)のような動作制約は課さなくてもよい。あるいは、後半ユニット(ステージ2)の動作には、ステージ1と同様の動作制約は課してもよいことは勿論である。なお、ステージ1、2は、それぞれ独立に動作する構成としてもよい。あるいは、同期して動作してもよい。
【0095】
図11において、波形6Bは、合成電流波形6Aから、
図10Bのモデルを用いて分離推定した前半ユニット(ステージ1)の電流波形を示している。なお、
図11の電流波形6Bにおいて、一製品処理(約60秒)は、
図10Bの前半ユニット(ステージ1)の状態遷移
図5-1の状態p1~pk、cの期間に対応し、
図11の電流波形6Bにおいて一製品処理(約60秒)の波形の間の時間は、
図10Bの前半ユニット(ステージ1)の状態遷移
図5-1の状態Wに対応する。
【0096】
図11において、波形6Cは、合成電流波形6Aから、電流波形6Bを差し引いて求めた後半ユニット(ステージ2)の電流波形を示している。なお、
図11の電流波形6Cにおいて、一製品処理(約60秒)は、
図10Bの後半ユニット(ステージ2)の状態遷移
図5-2の状態p1~pk、cの期間に対応し、
図11の電流波形6Cにおいて一製品処理(約60秒)の波形の間の時間は、
図10Bの後半ユニット(ステージ2)の状態遷移
図5-2の状態Wに対応する。
【0097】
なお、後半ユニット(ステージ2)の動作には、前半ユニット(ステージ1)と同様の動作制約を課した場合、後半ユニット(ステージ2)の電流波形も、前半ユニットと同様に求めることができる。
【0098】
図12は、マウンタのアームを動かすサーボドライバを主な発生源とする高調波成分が現れているのがわかる。バイモーダルな形状(ピークが2つ)としてあらわれているのが、マウンタのサーボドライバを主な発生源とする高調波成分の波形に対応する。以下では、この高調波成分をマウンタ3台の特徴量として抽出する。実施形態の具体的な一例として、高調波に現れるマウンタの特徴量をハイパスフィルタで取り出した。入力データに例えばハイパスFIR(Finite Impulse Response)フィルタをかけて、実効値(100ms(millisecond:ミリ秒)ごと)をとった。さらにハイパスフィルタをかけて、変動する成分のみを抽出した。この波形が、
図13の7Aである。
図13の波形7Aにおいて、横軸は時刻である。縦軸は、実効値(RMS:Root Mean Square value)である。
【0099】
図13において、波形7B~7Dは、推定部11で3つのファクタに推定分離した電流波形を表している。
図13において、波形7B~7Dの横軸は、波形7Aの横軸と共通の時刻である。7B~7Dの横軸は信号の実効(RMS)である。ファクタの1つの繰り返し動作(矢印で示す範囲の波形)が1つの製品処理(約60秒)を表している。前述したように、例えば、
図10Bの状態p
1~p
k、cの期間に対応する。ひとかたまりの波形(両矢印で示す一製品処理)と隣の波形(両矢印で示す一製品処理)の間の時間は、待ち状態(例えば、
図10Bの待ち状態W)に対応する。特に制限されないが、
図13の7B~7Dにおいても、一製品処理は約60秒である。
【0100】
なお、特に制限されないが、
図7の推定部11においてはユニット(ファクタ)毎の波形分離学習を行う場合、
図13の7A乃至7Dの信号波形に関して包絡線を用いて波形分離学習を行うようにしてもよい。
【0101】
図14において、8Bは、
図13の7Bから7Dのファクタ1~ファクタ3の信号波形において、ファクタ3、ファクタ1、ファクタ2の順で対応する一製品処理の終了時点を線でつないで図式化したものであり(Estimation)、製品のフロー図に対応する。
図14において、8Aは、マウンタ1、マウンタ2、マウンタ3について、ログデータから集めた結果(Actual)である。すなわち、マウンタ1、マウンタ2、マウンタ3の順で対応する一製品処理の終了時点を線でつないで図式化したものである。なお、一製品処理の開始時点を線でつないでもよい。
【0102】
図14において、図式8Aと8Bから、SMTライン(マウンタ)が止まっている状況が読み取れる。たとえば、時刻10:15頃は、マウンタ1、2、3の全ての入力側のバッファが空になってしまっている状況(バッファ枯渇)、時刻10:50頃は、マウンタ1、2、3の全ての出力側のバッファが一杯(バッファ溢れ)になってしまっている状況に対応する。7Bと7Aとを対比すると、互いに、よく一致していることがわかる。
【0103】
図15は、マウンタ1、2、3の平均サイクルタイム(実測値と推定値)とMAE(Mean Absolute Error:平均絶対誤差)の一例を示している。ここで、サイクルタイムは、マウンタで1つの製品(基板)の処理を開始してから、次の製品の処理を開始するまでの時間を表す。平均サイクルタイムは、サイクルタイムの平均であり、以下の式(8)で与えられる。
【0104】
【0105】
したがって、MAEは、1つ1つの製品のサイクルタイムがどのくらいずれているかを表す誤差を表している。
【0106】
第1の実施形態では、例えば1つのセンサで複数の生産設備の動作状態を見える化する手法への適用を例示した。
【0107】
上記のとおり、第1の実施形態は、生産ライン効率化のために有効である。
【0108】
また、第1の実施形態では、各ファクタが設備のサイクル動作を表すファクトリアルHMMを基幹電流波形データに適用することにより、1つのセンサで生産ライン中の製品のフローを見える化した。
【0109】
サイクルタイムを推定したところ、例えば
図15に示すように、誤差6.4%(=5.34/83.7=0.06451)~36.3%(30.46/83.8=0.3634)で推定できた。
【0110】
第1の実施形態によれば、同一又はほぼ同じ構成のユニットのうち、少なくとも一つのユニット(例えば前半ユニット(ステージ1))に動作制約を課す(状態遷移モデルに一方向の一本道区間を有する)ことで、複数のユニットの合成電流波形から、例えば同一又はほぼ同じ構成のユニット間での電流波形を分離することを可能としている。
【0111】
<例示的な第2の実施形態>
例示的な第2の実施形態として、
図16に示すように、記憶装置12に記憶するモデル(125、126等)を作成するモデル作成部15を備えてもよい。モデル作成部15は、例えばクラスタ分析や主判別分析等の教師なし学習を行うことで、ユニットの状態遷移モデルを作成し記憶装置12に記憶する。このため、記憶装置12に格納するユニットのモデルを予め作成しておくことは必要とされない。
【0112】
モデル作成部15は、パラメータ学習機能を備えた構成としてもよい。パラメータ学習機能は、ユニットに課す一定の動作制約(一方向、一本道の区間を有する遷移状態モデル)を固定し、観測データ(例えば合成電流波形)から、推定部11の出力に基づき、パラメータの最適化問題として解く。最適化するパラメータとしては、一定の動作制約を課すユニットの状態遷移モデルの遷移確率等であってもよい。
【0113】
あるいは、モデル作成部15は、モデル構造学習機能を備えた構成としてもよい。モデル構造学習機能は、ユニットに課す一定の動作制約(一方向の一本道の区間を有する遷移状態モデル)の構造を、例えば初期設定値から順次可変させ、最適化問題として解く。変化させる一定の動作制約の構造としていくつかの制約(一方向、一本道の区間)を、どこの状態遷移で課すか等がある。ユニットに課す一定の動作制約を変化させ、観測データに基づく推定部11での波形の推定分離の結果に基づき、最良の波形分離を提供する動作制約を決定するようにしてもよい。記憶装置12の複数のユニット(ユニットm、ユニットn:m、nは互いに異なる所定の正整数)のモデル125、126は、モデル作成部15で作成された各ユニットの状態遷移モデルを示している。モデル125では、状態pm1~pm3が、ユニットmの動作制約に対応した一方向の一本道区間を構成している。なお、前記第1の実施形態と同様、これら複数のユニットの状態遷移モデルを組み合わせたモデルがファクトリアルHMMを構成するようにしてもよいことは勿論である。
【0114】
第2の実施形態によれば、モデル作成の自動化を可能とし、パラメータの最適化、モデル学習等により、モデルの精度の向上や適切な動作制約の設定を可能としている。
【0115】
<変形例1>
波形分離装置10、10Aにおいて、出力部14からの出力は、ユニット(ファクタ)の電源電流波形や電力(消費電力)ではなく、例えばVierbiアルゴリズムを用いて、ユニット(ファクタ)の状態列(動作状態:例えば
図9のp
1~p
T)を出力してもよい。あるいは、動作状態として、それぞれのユニットが製品の処理を完了した時刻や、ある期間内の生産数等であってもよい。
【0116】
<変形例2>
さらに、波形分離装置10、10Aの入力として、電流・電力の、波形・周波数成分・主成分・実効値・平均値や力率などであってもよい。さらに、出力が電力以外(動作状態)の場合、電力以外の入力(音響信号、振動、通信量等)を取得する信号取得部を備えた構成としてもよい。
【0117】
前記第1、第2の実施形態では、主に、生産ラインの設備を例に説明したが、本発明の実施形態は、生産ラインの設備に制限されるものではなく、例えば家庭や企業のパソコン(PC)等であってもよい。
【0118】
<例示的な第3の実施形態>
次に、本発明の例示的な第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、分電盤に、同一の複数のパソコンが接続され、さらにプリンタ等が接続され、このうち同一のパソコンが複数接続されている場合の各機器毎の波形を分離する。例えば
図17Aの分電盤22の主幹(又は分岐ブレーカ)に流れる電流を電流センサ23で検知した電源電流(分電盤22から分岐ブレーカ等を介して接続されるパソコン24A、24B、プリンタ25等を含む家電製品の合成電流波形)、又は、家屋20の引き込み口に設置されたスマートメータ26で取得した電流波形、電圧波形を、HEMS(Home Energy Management System)/BEMS(Building Energy Management System)コントローラ等の通信装置21を介して波形分離装置10に転送し、波形分離装置10でパソコンの電流波形の推定、動作状態の推定を行うようにしてもよい。
【0119】
一般に、パソコンの電源立ち上げ後の動作状態はユーザの使い方に依存し、一定の動作制約を課すことはほぼ不可能といえる。
【0120】
しかし、パソコンの電源オン(パワーアップ時)、電源オフ(シャットダウン時)の動作状態の推移は、基本的に一方向に一本道で推移する。例えば、型(モデル、機種等)が同一である場合や、OS(Operating System)が同一である場合、また、OSの起動後に自動で立ち上がるアプリケーションや、シャットダウン前に自動的に動作するアプリケーション等が同一である場合、該当するパソコンに関して、パワーアップシーケンスやシャットダウンシーケンスは、基本的に、同一である(トラブル等で立ち上がらない場合等は例外)。あるいは、着目するパソコンのパワーアップシーケンス、シャットダウンシーケンスの電源電流モニタ結果から、モデル作成部(
図16の15)でモデルを作成してもよい。
【0121】
図17Bに示すように、ユニットの動作状態が、ある時刻で第1の状態にあるとき、時刻t+1で第2の状態にあるという制約(状態遷移が一方向で一本道の区間を有する)を、パワーアップシーケンス(例えば状態p
11~p
1S:Sは1以上の整数)とパワーダウンシーケンス(例えば状態p
21~p
2T:Tは1以上の整数)に適用する。なお、パワーアップシーケンス後は、状態S
1において、操作入力(コマンド入力)に応じて、状態S
2に遷移し、コマンド処理を実行し、処理実行後、状態S
1に遷移する。操作入力が、シャットダウンの場合、シャットダウンシーケンスに遷移する。ただし、パワーアップ後のパソコンの状態遷移は、状態S
1、S
2間の遷移に簡略化してある。
【0122】
第3の実施形態によれば、例えば複数の同一のパソコンの合成電流波形から、一定の動作制約のパソコンの波形を抽出することができる。この結果、同一パソコンの稼働状況(何時の電源オン、何時の電源オフ等)を推定することができる。
【0123】
<例示的な第4の実施形態>
図18は、例示的な第4の実施形態を説明する図である。例示的な第4の実施形態では、
図1、
図6、
図7の波形分離装置10を、コンピュータ装置30で実現した構成を例示する図である。
図18を参照すると、コンピュータ装置30は、CPU(Central Processing Unit)31、記憶装置(メモリ)32、表示装置33、通信インタフェース34を備える。記憶装置32は、例えばRAM、ROM、EEPROM等の半導体ストレージ、HDD、CD、DVD等であってもよい。記憶装置32は、CPU31で実行されるプログラムを格納する。CPU31は、記憶装置32に格納されてプログラムを実行することで、
図1、
図6、
図7の波形分離装置10の機能を実現する。通信インタフェース34は、
図6の通信装置101と通信接続する。同様に、CPU31は、記憶装置32に格納されてプログラムを実行することで、
図16の波形分離装置10Aの機能を実現するようにしてもよい。
【0124】
<計算量削減効果>
前述したように、上記各例示的な実施形態では、ユニットの動作状態のモデル(状態遷移モデル)に、一方向で一本道の区間を含ませることで、同一構成の複数のユニットの波形を分離可能としている。すなわち、どのユニットがどの波形に対応するかを判別可能としている。さらに、状態遷移モデル)に、一方向で一本道の区間を含ませることで計算量が削減する。この点について以下に説明する。
【0125】
状態を推定する場合に用いられるフォーワードアルゴリズム、バックワードアルゴリズムでは、いずれも遷移確率行列と確率ベクトルの積演算が必要とされる。遷移確率行列Aはスパース行列(多くの成分が0)であるから、遷移確率行列Aと確率ベクトルPの積を計算する際、零成分を予め計算から除外することで計算量を大幅に削減することができる。
【0126】
【0127】
同様に、状態を推定する場合に用いられるViterbiアルゴリズムでは、遷移確率行列の要素と確率行列の要素の積の各列における最大値を求める演算が必要とされる。この場合も、確率行列の零成分を予め最大値の計算から除外することで、計算量を大幅に削減することができる。
【0128】
【0129】
これは、
図2Bのような制約を課したとき、有り得ない状態遷移を除外することで、予め選択肢を絞り込むことに対応する。
【0130】
ある時刻tでファクタ1の状態変数S
t
(1)の値が状態#i、ファクタ2の状態変数S
t
(2)の値が状態#jである確率が
(11)
で与えられたとき、次の時刻t+1でファクタ1の状態変数S
t+1
(1)の値が状態#k、ファクタ2の状態変数S
t+1
(2)の値が状態#lである確率は次式(12)で与えられる。
【0131】
【0132】
ここで、クロネッカー積
は、A=(a
ij)をm×n行列、B=(b
kl)をp×q行列とすると、
(13)
のmp×nq区分行列である。
【0133】
例えば、
図2Bの遷移確率行列A(3×3)、
図2Cの遷移確率行列B(3×3)の場合(状態は#1、#2、#3)、以下で与えられる。
【0134】
【0135】
この行列は9×9=81個の要素のうち非零成分は54個である。フォーワードアルゴリズムまたはバックワードアルゴリズムで現れるこの行列・ベクトル積の計算、またはViterbiアルゴリズムで現れる最大値の計算において、零成分の演算をスキップすることで計算量を削減することができる。本実施形態の動作制約が増えると、非零成分はより少なくなり、計算時間は短縮する。
【0136】
次に、本実施形態によるStructured Variational InferenceのEステップの反復の計算量について説明する。
【0137】
行列-ベクトル積の計算量は、行列の非零成分の個数に比例する(上式9)。スパースでない通常のファクトリアルHMMの場合、遷移確率行列は、状態数Mに対して、遷移確率行列の非零成分はM^2個(^は冪乗演算子)となる。
【0138】
本実施形態においては、
図9に示した例のように、状態がw、p
1、・・・、p
TのT+1個の場合、状態遷移は、w→p
1、p
1→p
2、 …、p
T-1→p
T、p
T→w、w→wのT+2個になるので、計算量はTの(2乗ではなく)1乗のオーダーとなる。非特許文献1のStructured Variational InferenceのEステップは反復解法であり、各反復でフォアワード-バックワードアルゴリズムを実行する。この場合、遷移確率行列と確率ベクトルの積をKN回行うことになる。したがって、計算量のオーダーはO(KNT)となる。
【0139】
<関連技術(特許文献2)の分析>
次に、
図19を参照して説明した関連技術(特許文献2)では、学習の結果、制約付きモデルがたまたま得られることはあり得ない。以下に説明する。
【0140】
関連技術(特許文献2)において、学習の結果、遷移確率行列の要素がたまたま零になることが起こるためには、Mステップにおける、状態遷移確率行列A
i,j
(m)の更新式(特許文献2の式(15)ではA
i,j
(m)newはP
i,j
(m)new):
(15)
の右辺がゼロにならなければならない。
【0141】
なお、<St-1,i
(m)
、St,j
(m)>は、K×Kの事後確率<St-1
(m)St
(m)>のi行j列の要素であり、ファクタmにおいて、時刻t-1に状態#iであるとき、次の時刻tで状態#jである状態確率を表す。<St-1、i
(m)>は、時刻t-1に状態#iである状態確率を表す。
【0142】
Mステップでは、
図19のモデル学習部214は、計測波形Y
t、事後確率<S
t
(m)>、<S
t
(m)S
t
(n’)>を用いて波形分離学習を行うことで固有波形W
(m)の更新値W
(m)newを求める。次に、モデル学習部214は、計測波形Yt、事後確率<S
t
(m)>、固有波形(更新値)W
(m)を用いて、分散Cの更新値を求める。次に、モデル学習部214は、事後確率<S
t
(m)>、<S
t-1
(m)S
t
(m)’>を用いて、状態変動学習を行うことで、上記遷移確率の更新値A
i,j
(m)newと初期状態確率π
(m)の更新値π
(m)newを求める。
【0143】
上式(15)の右辺の分子がゼロとなるためには、事後確率<S
t-1
(m)S
t
(m)’>(特許文献2の式(11))
(16)
の右辺の分子の和の中が全てゼロでなければならない。なお、P(z|w)は、状態の組み合わせwから状態の組み合わせzに遷移する確率である。状態の組み合わせwを構成するファクタ#1の状態#i(1)から状態の組み合わせzを構成するファクタ#1の状態#j(1)への遷移確率P
(1)
i(1),j(1)から状態の組み合わせwを構成するファクタ#Mの状態#i(M)から状態の組み合わせzを構成するファクタ#Mの状態#j(M)への遷移確率P
(M)
i(M),j(M)の積として求められる。なお、遷移確率P(S
t|S
t-1)は、次式(17)で与えられる。
【0144】
【0145】
P(St
(m)|St-1
(m))は、ファクタmにおいて、時刻t-1に状態St-1
(m)であるとき、時刻tに状態St
(m)に遷移する確率である。
【0146】
観測確率P(Yt|St)は以下で与えられる(特許文献2の式(4))。
【0147】
【0148】
ダッシュ(’)は転置を表す。上式より、P(Yt|z)>0である。
【0149】
ファクトリアルHMMの前向き確率αt-1,wと、ファクトリアルHMMの後向き確率βt,zは確率変数であることから、あるw、zが存在して、
αt-1,w>0、βt,z>0
(19)
となる。
【0150】
よって、「更新後の遷移確率行列の要素がゼロ」となるためには、「更新前の遷移確率行列の要素がゼロ」となる。
【0151】
すなわち、遷移確率行列の要素を、学習前からゼロとしないかぎり、学習後にゼロとはならない。以上から、本発明の例示的な実施形態で挿入された制約は、EMアルゴリズム等の公知の学習アルゴリズムで自動学習できるものではないことが示された。
【0152】
<例示的な第5の実施形態>
次に、本発明の例示的な第5の実施形態について、
図20を参照して説明する。
図20を参照すると、第5の実施形態における波形分離装置10Bは、異常推定部16を備える点で、前記第1、第2の実施形態の波形分離装置10、10Aと相違している。なお、前記第1、第2の実施形態で説明した構成と同様の機能を有する構成には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0153】
第5の実施形態の波形分離装置10Bの異常推定部16は、合成信号波形から状態遷移モデルに基づき、複数のユニットの信号波形を推定して分離する推定部11から分離された信号波形を受け、該信号波形または所定の状態から、ユニットの異常を検出する。前記状態遷移モデルは、ユニットの動作状態のモデルとして、好ましくは、一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルを含む構成としてもよい。
【0154】
関連技術において、例えば電流などの波形を用いてシステムの異常監視を行う場合、該システムが複数のユニットから成る場合には、どのユニットで異常が発生したかを検知することは容易ではない。
【0155】
これは、ユニット1つ1つの信号波形を用いて異常監視を行う場合、それぞれのユニットごとに多数のセンサが必要とされ、このため、コストが上昇(高騰)するためでもある。また、各ユニットにセンサを設置する代わりに、複数のユニットを含むシステムの全体の波形(合成信号波形)を用いて異常監視を行う場合、該システム全体の波形から異常の発生を検出することはできても、その異常がどのユニットに起因しているかを検知することは容易ではないことにもよる。
【0156】
第5の実施形態によれば、複数のユニットからなるシステムにおいて、少数のセンサによって測定されたシステム全体の波形(複数のユニット合成信号波形)を、高い精度で、ユニットごとに、波形分離することで、異常がどのユニットで発生しているかを検知することができる。
【0157】
例えば、同一またはほぼ同じ構成のユニットが複数存在する場合など、関連技術では各ユニットへ波形を分離する際の分離精度が低くなってしまう状況においても、第5の実施形態によれば、異常が発生したユニットを精度よく検出することができる。
【0158】
特に限定されないが、例えば複数のユニットが生産ラインを構成する設備である場合、「いつもと違う(異常)状況」を監視することで、設備の故障や、製品の品質異常を早期に発見、対処することができ、結果として、生産停止時間(ダウンタイム)の削減や、製品の歩留まりを向上することができる。
【0159】
また、別の例として、複数のユニットがパソコンである場合、「いつもと違う状況」を監視することで、例えばパソコンのマルウェア(不正ソフトウェア)への感染を早期に発見、対処することができる。結果として、情報セキュリティ上のリスクを低減することができる。
【0160】
上記のような例の場合、複数のユニット(生産設備、パソコン等)は、同一またはほぼ同じ構成を持っているという事態が往々に発生する。このような場合、単純な「いつもと違う状況」の監視のみでは、どのユニットのどの動作に異常が発生しているかを検出することは容易ではない。
【0161】
第5の実施形態によれば、例えば同一またはほぼ同じ構成のユニットが複数存在する場合であっても、どのユニットのどの動作に異常が発生しているかを検出することができる。
【0162】
図21は、第5の実施形態における異常推定部16を説明する図である。異常推定部16は、異常検知部161と、異常箇所推定部162を備えている。
【0163】
異常検知部161は、推定部11による信号波形の分離結果を元に、ユニット毎に分離された波形について、異常の発生の度合いを表す異常度を計算し、該異常度を、例えば予め定められた閾値と比較することにより、異常の有無を判定する。
【0164】
異常検知部161では、異常度の例として、例えば、時刻ごとのKLダイバージェンスを用いるようにしてもよい。時刻ごとのKLダイバージェンスは、式(4)における時刻tの寄与を抜き出したものであり、次式によって求めることができる。
【0165】
【0166】
ここで、変数<St
(m)>およびht
(m)の値は、例えば前記第1、第2の実施形態で説明した推定部11で推定された値が用いられる。この場合、時刻ごとのKLダイバージェンスは、モデルの分布と測定値Ytとの相違の尺度を表しており、測定値に異常が含まれるほど、KLダイバージェンスは大きな値を持つと考えられる。
【0167】
このため、異常検知部161では、時刻ごとのKLダイバージェンスの値KLtが予め定められた閾値(第1の閾値)よりも大きい値となるか否かによって、異常の発生を検知することができる。すなわち、異常検知部161はKLtが第1の閾値よりも大きい場合、異常が発生したと判定する。
【0168】
また、異常度の別の例として、例えば、時刻ごとの周辺尤度(marginal likelihood)を用いてもよい。ここで、時刻ごとの周辺尤度は、時刻tにおいて測定値Ytがモデルから得られる確率密度である。時刻ごとの周辺尤度Ltは、例えば式(6b)によって求まる残差~Yt
(m)を用いることで、次式(21)で求められる。
【0169】
【0170】
この場合、測定値Ytに異常が含まれるほど、時刻ごとの周辺尤度Ltは小さな値を持つと考えられる。このため、異常検知部161では、時刻ごとの周辺尤度Ltが予め定められた閾値(第2の閾値)よりも小さな値となるか否かによって、異常の発生を検知することができる。すなわち、異常検知部161はLtが第2の閾値よりも小さい場合、異常が発生したと判定する。
【0171】
次に、異常推定部16の異常箇所推定部162では、どのユニット(ファクタ)で異常が発生したかを推定する。
【0172】
異常検知部161によって時刻tで異常が検知されたとき、各ファクタmはそれぞれ状態St
(m)にある。このため、異常箇所推定部162では、異常が発生したファクタmと対応する状態St
(m)の組(m,St
(m))を推定することで、どのユニットの異常であるか、また、そのユニットのどの動作における異常であるかを推定することができる。
【0173】
ここで、各ファクタmに対して対応する状態St
(m)の推定値として、例えば、推定部11における式(7)の値を用いることができる。
【0174】
こうすることで、異常箇所推定部162では、異常が発生したファクタmと状態St
(m)の組(m,St
(m))の候補として、m=1,・・・,MのM通りが求まる。
【0175】
次に、異常箇所推定部162は、異常が発生したファクタと状態の組(m,St
(m))のM通りの候補のうち、状態St
(m)の値に応じて優先順位をつける。
【0176】
そして、異常箇所推定部162は、優先順位の高いファクタと状態の組(m,St
(m))を出力する。
【0177】
なお、異常箇所推定部162において、このような優先順位を定める基準としては、例えば、次に挙げる基準の1つまたは複数の組み合わせを用いてもよい(ただし、以下に制限されない)。
【0178】
(a)状態S
t
(m)は、モデル123(
図7)における一定の動作制約区間の内部である。
【0179】
(b)状態St
(m)=jに対応する重みベクトルWj
(m)のノルムがより大きい値をもつ。
【0180】
(c)状態S
t
(m)は、モデル123(
図7)における一定の動作制約区間の内部で、一定の動作制約の区間の始点からある時刻Δtだけ経過した状態である。
【0181】
ここで、基準(a)は、ユニットmが繰り返し動作を行っている途中であるということを意味する。このため、異常箇所推定部162において、基準(a)を用いることで、一般に、「動作中のユニットの方が停止中のユニットよりも異常が発生し易い」という事情を反映して、異常が発生しているファクタを正しく推定することができる。
【0182】
また、基準(b)は、推定部11によって分離された波形の大きさ(例えば、該波形の振幅や実効値等)がユニットmにおいてより大きいことを意味する。例えば、波形分離装置10Bの入力信号が電力や音響信号、振動、通信量等である場合、一般に、ユニットが動作中にある方が停止中に比べてより大きな信号を発する。このため、異常箇所推定部162において、基準(b)を用いることで、「動作中のユニットの方が停止中のユニットよりも異常が発生し易い」という事情を反映して、異常が発生しているファクタを正しく推定することができる。
【0183】
また、基準(c)は、ユニットmが繰り返し動作中のある特定の動作を行っていることを意味する。このため、異常箇所推定部162において、基準(c)を用いることで、例えば「ある特定の動作を行っている最中にあるユニットの方がそうでないユニットよりも異常が発生し易い」という事情を反映して、異常が発生しているファクタを正しく推定することができる。
【0184】
上記の例では、異常箇所推定部162が、異常が発生したファクタと状態の組(m,St
(m))について、優先順位の高いものを出力しているが、その出力形態として、例えば、
・優先順位が最高である1組を出力してもよいし、あるいは、
・優先順位が高い順に複数の組を出力してもよいし、あるいは、
・それぞれの組に優先順位を表す数値を対応させて出力するようにしてもよい。
【0185】
また、上記の例では、異常箇所推定部162は、異常が発生したファクタと状態の組(m,St
(m))の候補として、各ファクタmに対応する状態St
(m)を、式(7)を用いてただ1つに定めているが、各ファクタmに対応する状態St
(m)として複数の値を用いてもよい。
【0186】
この場合、ファクタmの状態がSt
(m)=jである確率は<St,j
(m)>であることから、異常箇所推定部162において、異常が発生したファクタと状態の組(m,St
(m))の優先順位を定める際に、新たな基準
(d)状態St
(m)=jに対応する確率<St,j
(m)>がより大きい値をもつ、
を設けるようにしてもよい。この基準(d)を、例えば前述の基準(a)~(c)と組み合わせて適用することにより、優先順位を決定するようにしてもよい。これにより、例えば、推定部11における波形分離の精度が悪化する状況が発生し、各ファクタの状態が1つに定まらない場合においても、異常箇所推定部162は、異常発生箇所の有力な候補を出力することができる。
【0187】
さらに、第5の実施形態において、波形分離装置10Bの動作は、電流波形取得部13が波形を取得する毎に逐次的に実行(オンライン処理)してもよいし、電流波形取得部13が取得した波形を複数保持した後に、まとめて実行(バッチ処理)してもよいことは勿論である。
【0188】
ここで、異常が発生してから検出されるまでの時間を短縮する必要がある場合、オンライン処理を行うことで、波形を保持する時間を削減することが望ましい。一方、異常推定の速度よりも精度が求められる場合、バッチ処理を行うことが望ましい。
【0189】
上記のように、第5の実施形態によれば、ユニットの波形を分離するのみならず、ユニットに発生した異常を検出し、さらには異常が発生したユニットを推定することができる。
【0190】
なお、上記の特許文献1-6、非特許文献1、2の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各付記の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【0191】
上記した実施形態は以下のように付記される(ただし、以下に制限されない)。
【0192】
(付記1)
ユニットの動作状態のモデルとして、一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルを記憶する記憶装置と、
前記第1の状態遷移モデルに基づいた(対応した)動作を行う第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形を入力として受け、前記合成信号波形から、少なくとも前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する推定部と、
を備えたことを特徴とする波形分離装置。
【0193】
(付記2)
前記複数のユニットが、前記第1のユニットと同一又は同型の第2のユニットを含み、
前記推定部は、前記第1及び第2のユニットの合成信号波形に対して、前記第1のユニットに対応する前記第1の状態遷移モデルと前記第2のユニットの状態遷移モデルとに基づき、前記第1のユニットの信号波形と前記第2のユニットの信号波形とを分離する、ことを特徴とする付記1に記載の波形分離装置。
【0194】
(付記3)
前記第1の状態遷移モデルの前記区間に対応した制約動作として、前記第1のユニットは、ある時刻で第1の状態であるとき、次の時刻では遷移確率が1で第2の状態に遷移する、ことを特徴とする付記1又は2に記載の波形分離装置。
【0195】
(付記4)
前記第1、第2のユニットは、
一つの生産ラインを構成する一つの設備内の第1、第2のユニット、
一つの生産ラインを構成する第1、第2の設備、
第1の生産ラインを構成する第1の設備の第1のユニットと、第2の生産ラインを構成する第2の設備の第2のユニット、
第1、第2の家電製品、
のうちのいずれかを含む、ことを特徴とする付記2に記載の波形分離装置。
【0196】
(付記5)
前記合成信号波形として、前記複数のユニットの合成電流波形を取得する電流波形取得部を含む、ことを特徴とする付記1乃至4のいずれか一に記載の波形分離装置。
【0197】
(付記6)
前記ユニットの動作状態のモデルを作成し前記記憶装置に記憶するモデル作成部をさらに含む、ことを特徴とする付記1乃至5のいずれか一に記載の波形分離装置。
【0198】
(付記7)
前記第1の状態遷移モデルと、所定の状態とに基づいて、1つ前又は1つ後の状態を推定する、ことを特徴とする付記1乃至6のいずれか一に記載の波形分離装置。
【0199】
(付記8)
前記第1の状態遷移モデルと、1つ前又は1つ後の状態とから、所定の状態を推定する、ことを特徴とする付記1乃至6のいずれか一に記載の波形分離装置。
【0200】
(付記9)
前記ユニットの動作状態のモデルは、ファクトリアル隠れマルコフモデル(Factorial Hidden Markov Model:FHMM)のファクタに対応する、ことを特徴とする付記1乃至8のいずれか一に記載の波形分離装置。
【0201】
(付記10)
コンピュータによる波形分離方法であって、
一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルに基づいた(対応した)動作を行う第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形に対して、前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する、ことを特徴とする波形分離方法。
【0202】
(付記11)
前記複数のユニットが、前記第1のユニットと同一又は同型の第2のユニットを含み、前記第1及び第2のユニットの合成信号波形に対して、前記第1のユニットに対応する前記第1の状態遷移モデルと前記第2のユニットの状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形と、前記第2のユニットの信号波形とを分離する推定ステップを含む、ことを特徴とする付記10に記載の波形分離方法。
【0203】
(付記12)
前記第1の状態遷移モデルの前記区間に対応した制約動作として、前記第1のユニットは、ある時刻で前記第1の状態であるとき、次の時刻では遷移確率が1で前記第2の状態に遷移する、ことを特徴とする付記10又は11に記載の波形分離方法。
【0204】
(付記13)
前記第1、第2のユニットは、
一つの生産ラインを構成する一つの設備内の第1、第2のユニット、
一つの生産ラインを構成する第1、第2の設備、
第1の生産ラインを構成する第1の設備の第1のユニットと、第2の生産ラインを構成する第2の設備の第2のユニット、
第1、第2の家電製品、
のうちのいずれかを含む、ことを特徴とする付記11に記載の波形分離方法。
【0205】
(付記14)
前記合成信号波形として、前記複数のユニットの合成電流波形を取得する電流波形取得ステップを含む、ことを特徴とする付記10乃至13のいずれか一に記載の波形分離方法。
【0206】
(付記15)
前記ユニットの動作状態のモデルを作成するモデル作成ステップをさらに含む、ことを特徴とする付記10乃至14のいずれか一に記載の波形分離方法。
【0207】
(付記16)
前記第1の状態遷移モデルと、所定の状態とに基づいて、1つ前又は1つ後の状態を推定する、ことを特徴とする付記10乃至15のいずれか一に記載の波形分離方法。
【0208】
(付記17)
前記第1の状態遷移モデルと、1つ前又は1つ後の状態とから、所定の状態を推定する、ことを特徴とする付記10乃至15のいずれか一に記載の波形分離方法。
【0209】
(付記18)
前記ユニットの動作状態のモデルは、ファクトリアル隠れマルコフモデル(Factorial Hidden Markov Model:FHMM)のファクタに対応する、ことを特徴とする付記10乃至17のいずれか一に記載の波形分離方法。
【0210】
(付記19)
一方向に一本のパスで遷移する区間を有する第1の状態遷移モデルに基づいた(対応した)動作を行う第1のユニットを含む複数のユニットの合成信号波形を入力とし、前記第1の状態遷移モデルに基づき、前記第1のユニットの信号波形を推定して分離する推定処理を、コンピュータに実行させるプログラム。
【0211】
(付記20)
前記複数のユニットが、前記第1のユニットと同一又は同型の第2のユニットを含み、
前記推定処理は、前記第1及び第2のユニットの合成信号波形に対して、前記第1のユニットに対応する前記第1の状態遷移モデルと前記第2のユニットの状態遷移モデルとに基づき、前記第1のユニットの信号波形と前記第2のユニットの信号波形とを分離する、ことを特徴とする付記19に記載のプログラム。
【0212】
(付記21)
前記第1の状態遷移モデルの前記区間に対応した制約動作として、前記第1のユニットは、ある時刻で第1の状態であるとき、次の時刻では遷移確率が1で第2の状態に遷移する、ことを特徴とする付記19又は20に記載のプログラム。
【0213】
(付記22)
前記第1、第2のユニットは、
一つの生産ラインを構成する一つの設備内の第1、第2のユニット、
一つの生産ラインを構成する第1、第2の設備、
第1の生産ラインを構成する第1の設備の第1のユニットと、第2の生産ラインを構成する第2の設備の第2のユニット、
第1、第2の家電製品、
のうちのいずれかを含む、ことを特徴とする付記21に記載のプログラム。
【0214】
(付記23)
前記合成信号波形として、前記複数のユニットの合成電流波形を取得する電流波形取得処理を含む、ことを特徴とする付記19乃至22のいずれか一に記載のプログラム。
【0215】
(付記24)
前記ユニットの動作状態のモデルを作成し前記記憶装置に記憶するモデル作成処理をさらに含む、ことを特徴とする付記19乃至23のいずれか一に記載のプログラム。
【0216】
(付記25)
前記第1の状態遷移モデルと、所定の状態とに基づいて、1つ前又は1つ後の状態を推定する、ことを特徴とする付記19乃至24のいずれか一に記載のプログラム。
【0217】
(付記26)
前記第1の状態遷移モデルと、1つ前又は1つ後の状態とから、所定の状態を推定する、ことを特徴とする付記19乃至24のいずれか一に記載のプログラム。
【0218】
(付記27)
前記ユニットの動作状態のモデルは、ファクトリアル隠れマルコフモデル(Factorial Hidden Markov Model:FHMM)のファクタに対応する、ことを特徴とする付記19乃至26のいずれか一に記載のプログラム。
【0219】
(付記28)
前記推定部が分離した前記信号波形または所定の状態から、前記ユニットの異常を検出する異常推定部をさらに備える、ことを特徴とする付記1乃至9のいずれか一に記載の波形分離装置。
【0220】
(付記29)
前記異常推定部は、
前記推定部が分離した前記信号波形または前記所定の状態から、異常の発生度合いを表す異常度を計算し、前記異常度を閾値と比較することにより異常発生の有無を判定する、ことを特徴とする付記28に記載の波形分離装置。
【0221】
(付記30)
前記異常推定部は、
前記推定部が分離した前記信号波形または前記所定の状態から、
異常が発生しているファクタと異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方を推定する、ことを特徴とする付記28又は29に記載の波形分離装置。
【0222】
(付記31)
前記異常推定部は、
前記異常が検出された時刻に対応する状態の推定値に応じて、前記ファクタと前記状態の組に優先順位を定め、
前記優先順位の高い前記ファクタと前記状態の組を、
前記異常が発生しているファクタと異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方として、推定する、ことを特徴とする付記30に記載の波形分離装置。
【0223】
(付記32)
前記異常推定部は、
前記優先順位を定める基準として、
(a)前記状態は前記区間に含まれる、
(b)前記状態に対応する前記ファクトリアル隠れマルコフモデルの重みベクトルのノルムが大きい値をもつ、
(c)前記状態は前記区間の始点から特定の時間が経過した状態である、
(d)前記状態が発生する確率が大きい値をもつ、
の少なくとも1つを用いる、ことを特徴とする付記31に記載の波形分離装置。
【0224】
(付記33)
分離した前記信号波形または所定の状態から、前記ユニットの異常を検出する異常推定ステップを含む、ことを特徴とする付記10乃至18のいずれか一に記載の波形分離方法。
【0225】
(付記34)
前記異常推定ステップは、
分離した前記信号波形または前記所定の状態から、異常の発生度合いを表す異常度を計算し、前記異常度を閾値と比較することにより異常発生の有無を判定する、ことを特徴とする付記33に記載の波形分離方法。
【0226】
(付記35)
前記異常推定ステップは、
分離した前記信号波形または前記所定の状態から、
異常が発生しているファクタと異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方を推定する、ことを特徴とする付記33又は34に記載の波形分離方法。
【0227】
(付記36)
前記異常推定ステップは、
前記異常が検出された時刻に対応する状態の推定値に応じて、前記ファクタと前記状態の組に優先順位を定め、
前記優先順位の高い前記ファクタと前記状態の組を、
前記異常が発生しているファクタと異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方として、推定する、ことを特徴とする付記35に記載の波形分離方法。
【0228】
(付記37)
前記異常推定ステップは、
前記優先順位を定める基準として、
(a)前記状態は前記区間に含まれる、
(b)前記状態に対応する前記ファクトリアル隠れマルコフモデルの重みベクトルのノルムが大きい値をもつ、
(c)前記状態は前記区間の始点から特定の時間が経過した状態である、
(d)前記状態が発生する確率が大きい値をもつ、
の少なくとも1つを用いる、ことを特徴とする付記36に記載の波形分離方法。
【0229】
(付記38)
分離した前記信号波形または所定の状態から、前記ユニットの異常を検出する異常判定処理を前記コンピュータに実行させる、付記19に記載のプログラム。
【0230】
(付記39)
前記異常推定処理は、
分離した前記信号波形または前記所定の状態から、異常の発生度合いを表す異常度を計算し、前記異常度を閾値と比較することにより、異常発生の有無を判定する、付記38に記載のプログラム。
【0231】
(付記40)
前記異常推定処理は、
分離した前記信号波形または前記所定の状態から、
異常が発生しているファクタと異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方を推定する、付記38又は39に記載のプログラム。
【0232】
(付記41)
前記異常推定処理は、
前記異常が検出された時刻に対応する状態の推定値に応じて、前記ファクタと前記状態の組に優先順位を定め、
前記優先順位の高い前記ファクタと前記状態の組を、
前記異常が発生しているファクタと異常が発生している状態のいずれか一方またはその双方として、推定する、付記40に記載のプログラム。
【0233】
(付記42)
前記異常推定処理は、
前記優先順位を定める基準として、
(a)前記状態は前記区間に含まれる、
(b)前記状態に対応する前記ファクトリアル隠れマルコフモデルの重みベクトルのノルムが大きい値をもつ、
(c)前記状態は前記区間の始点から特定の時間が経過した状態である、
(d)前記状態が発生する確率が大きい値をもつ、
の少なくとも1つを用いる、ことを特徴とする付記41に記載のプログラム。
【符号の説明】
【0234】
1-1~1-3 波形
2B-1 ファクタ1の状態遷移図
2B-2 遷移確率行列
2C-1 ファクタ2の状態遷移図
2C-2 遷移確率行列
3-1~3-5 合成波形
4-1~4-5 合成波形
5-1 前半ユニット(ステージ1)の状態遷移図
5-2 後半ユニット(ステージ2)の状態遷移図
6A 合成電流波形
6B 前半ユニットの電流波形
6C 後半ユニットの電流波形
7A 合成電流波形
7B~7C 3つのファクタの電流波形
8A 図式
8B 図式
10、10A、10B 波形分離装置
11 推定部
12 記憶装置
13 電流波形取得部
14 出力部
15 モデル作成部
16 異常推定部
20 家屋
21 通信装置
22 分電盤
23 電流センサ
24A、24B パソコン(PC)
25 プリンタ
26 スマートメータ
30 コンピュータ装置
31 CPU
32 記憶装置
33 表示装置
34 通信インタフェース
100 電源(商用交流電源)
101 通信装置
102 電流センサ
103 分電盤
104 変圧器
105 ローダ
106 はんだ印刷機
107 検査機1
108 マウンタ
108A マウンタ1
108B マウンタ2
108C マウンタ3
109 リフロー炉
110 検査機2
111 アンローダ
121~126 モデル(状態遷移モデル)
161 異常検知部
162 異常箇所推定部
211 データ取得部
212 状態推定部
213 モデル記憶部
214 モデル学習部
216 データ出力部
1081A~1081D フィーダ
1082A、1082B ヘッド
1083 コンベア
1084A、1084B 基板