(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】一体化成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20221012BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20221012BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20221012BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C70/68
B32B5/28 A
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2018552265
(86)(22)【出願日】2018-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2018031339
(87)【国際公開番号】W WO2019044693
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2017166841
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017166842
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴文
(72)【発明者】
【氏名】仙頭 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】今井 直吉
(72)【発明者】
【氏名】濱口 美都繁
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-082470(JP,A)
【文献】特開2005-022302(JP,A)
【文献】特開2001-341216(JP,A)
【文献】特開2013-226815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
C08J 5/04- 5/10,5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続繊維(a1)と樹脂(a2)とを有する補強基材(a)と、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを有する射出成形体(b)とが一体化した一体化成形体であり、
補強基材(a)は射出成形体(b)のウェルドラインの
長さ方向の一部又は全部を
該ウェルドラインの幅方向に亘って覆って射出成形体(b)と一体化しており、
補強基材(a)の厚みTaと一体化成形体のウェルドライン部の厚みTとの比が以下の関係式を満たしている一体化成形体。
Ea≠Ebwの場合、
Ta/T≦((Ebw-√(Ea・Ebw))/(Ebw-Ea))
Ea=Ebwの場合、
Ta/T≦0.5
Ta:補強基材(a)の厚み
T :一体化成形体のウェルドライン部の厚み
Ea:補強基材(a)の曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)
Ebw:射出成形体(b)のウェルドラインの曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)
【請求項2】
補強基材(a)の厚みが0.25mm以下である、請求項1記載の一体化成形体。
【請求項3】
不連続繊維(a1)と樹脂(a2)とを有する補強基材(a)と、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを有する射出成形体(b)とが一体化した一体化成形体であり、
補強基材(a)が射出成形体(b)のウェルドラインの
長さ方向の一部又は全部を
該ウェルドラインの幅方向に亘って覆って一体化されており、
補強基材(a)は、一体化成形体を補強基材(a)が配された面が水平方向かつ上向きとなるように配置して上方向から投影した際、一体化成形体の投影面積の50%以下の面積を有しており、
補強基材(a)の曲げ弾性率Eaと非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ弾性率Ebとの比Ea/Ebが0.7~1.3である、一体化成形体。
【請求項4】
補強基材(a)の曲げ強度σaと非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ強度σbとの比σa/σbが0.7~1.3である、請求項
3に記載の一体化成形体。
【請求項5】
補強基材(a)がテープ状である、請求項1~
4いずれかに記載の一体化成形体。
【請求項6】
補強基材(a)は、射出成形体(b)のウェルドラインの幅方向における2.5~15mmの距離にわたって射出成形体(b)と一体化されている、請求項1~
5いずれかに記載の一体化成形体。
【請求項7】
補強基材(a)の補強幅Waと一体化成形体のウェルドライン部の厚みTとが、以下の関係を満たしている、請求項1~
6いずれかに記載の一体化成形体。
1 ≦ Wa(mm)/5√T(mm) ≦ 10
Wa:補強基材(a)の幅(ウェルドラインの幅方向)
T :一体化成形体のウェルドライン部の厚み
【請求項8】
補強基材(a)が実質的に等方性を示す、請求項1~
7いずれかに記載の一体化成形体。
【請求項9】
補強基材(a)の線膨張係数が7×10
-6/K以下である、請求項1~
8いずれかに記載の一体化成形体。
【請求項10】
補強基材(a)の曲げ弾性率が10GPa以上である、請求項1~
9いずれかに記載の一体化成形体。
【請求項11】
補強基材(a)の不連続繊維(a1)が導電性を示す、請求項1~
10いずれかに記載の一体化成形体。
【請求項12】
補強基材(a)の不連続繊維(a1)が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散している、請求項1~
11いずれかに記載の一体化成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強基材と射出成形体とが一体化した一体化成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形は成形性、生産性、経済性に優れた成形方法であり、自動車機器部品や、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品などの電気・電子機器の部品や筐体の作製に頻繁に利用されている。近年、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表される携帯電子機器の普及につれて、射出成形体には、薄肉化、複雑形状化、高強度・高剛性化が求められる。
【0003】
しかしながら、射出成形体には、ウェルドラインでの強度・剛性低下の問題がある。ウェルドラインとは、金型内を流れる溶融射出樹脂が合流して溶着した部分を示し、射出金型において、ゲートが複数個存在する場合やピン、ボス、リブ等が金型キャビティ内に存在する場合に発生する。
【0004】
特に、薄肉あるいは複雑形状の射出成形体を製造するにあたっては、ゲートが複数個存在する場合やピン、ボス、リブ等が金型キャビティ内に存在する場合が多く、発生するウェルドラインも複数存在し、ウェルドラインでの強度・剛性低下が大きな課題となる。
【0005】
また、高強度・高剛性化を目的に、射出樹脂に強化繊維を充填する場合があるが、ウェルドラインでは、強化繊維の繊維配向は、射出樹脂の流れ方向に対して、垂直方向となることが知られている。そのため、ウェルドラインでは強化繊維による補強効果がほとんど得られず、ウェルドライン以外の部位の強度・剛性と比較すると、ウェルドラインの強度・剛性は、顕著に低い。ウェルドラインの強度・剛性低下のため、射出成形体の強度・剛性も大きく低下する。
【0006】
高強度・高剛性の射出成形体を作製するために、ウェルドラインを補強する技術が知られている。
【0007】
特許文献1には、熱可塑性樹脂フィルムまたはシートを射出金型内にインサートすることにより、ウェルドラインを補強する方法が記載されている。
【0008】
特許文献2には、連続繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を射出金型内にインサートすることにより、ウェルドラインを補強する方法が記載されている。
【0009】
特許文献3には、一方向連続強化繊維を含む熱可塑性樹脂シート又はそれを積層したシートを金型内にインサートすることにより、ウェルドラインを補強する方法が記載されている。
【0010】
特許文献4には、射出成形体の異方性を解決するため、射出成形金型キャビティよりも大きな不連続繊維基材をインサートし、ボス、リブ等を射出成形により成形した一体化成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭60-260313号公報
【文献】特開2000-167863号公報
【文献】特開平9-272134号公報
【文献】特開2010-253938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の発明において、熱可塑性樹脂フィルムまたはシートは繊維を含まないものであり、これのみによるウェルドライン補強では、十分な補強効果が得られず、射出成形体としての強度・剛性は不十分であった。また、熱可塑性樹脂フィルムまたはシートのみを射出金型内にインサートした場合、射出成形中に熱可塑性樹脂フィルムまたはシートが溶融し、流動することによって厚みの均一性を担保することが困難となることが考えられるものであった。
【0013】
特許文献2に記載の発明においては、ウェルド補強基材として連続繊維の平織物を使用しているため、該基材の特性に異方性が存在する。そのため、ウェルドラインに対する補強材の向きを考慮する必要があり、設計が制限される。また、ウェルドラインが多方向に存在する場合に、それぞれのウェルドラインへの適用が困難である。さらに、補強基材が連続繊維からなるため、射出成形体との力学特性に大きな差が生じる。そのため、一体化成形体に荷重が加わった際に、該補強基材と該射出成形体との接合面あるいは該補強基材端部に応力が集中する。従って、その応力集中部分が破断点となり、一体化成形体の強度は低下する。また、熱可塑性樹脂からなる補強基材を射出金型内にインサートした場合、熱可塑性樹脂の一部が溶融し、流動することによって厚みの均一性を担保することが困難である。さらに、補強基材が射出樹脂に埋没するおそれがあるものであった。
【0014】
特許文献3に記載の発明においては、上記の通り熱可塑性樹脂シートに一方向連続繊維が含まれるため、該基材の特性に異方性が存在する。そのため、ウェルドラインに対する補強基材の向きを考慮する必要があり、設計が制限される。また、ウェルドラインが多方向に存在する場合に、それぞれのウェルドラインへの適用が困難である。該基材を積層して擬似的等方基材とすることも可能であるが、積層枚数を増やすと、補強基材の厚みが増し、薄肉成形や複雑形状成形の際に、射出樹脂が未充填となり、一体化成形体を得ることが困難であると考えられる。さらに、補強基材が連続繊維からなるため、射出成形体との力学特性に差が生じる。そのため、一体化成形体に荷重が加わった際に、該補強基材と該射出成形体との接合面あるいは該補強基材端部に応力が集中する。そして、その応力集中部分が破断点となり、一体化成形体の強度は低下する。また、補強基材表面の樹脂が溶融後に冷却されたとき、一方向繊維に起因する補強基材の変形を生じ厚みの均一性を担保することが困難であると考えられる。
【0015】
特許文献4に記載の発明においては、分厚い不連続繊維基材がキャビティ内全面に配置された状態で熱可塑性樹脂を射出するため、樹脂の流動性が低下する。そのため、複雑形状に成形することが困難であると考えられる。射出速度及び射出圧力を高くすることにより、複雑形状成形体が成形可能となる場合もあるが、射出樹脂の圧力により、一体化時に補強基材の変形を生じやすくなり、厚みの均一性を担保することが困難であると考えられる。
【0016】
本発明は、射出成形体の課題であるウェルドラインでの強度・剛性低下を解決し、薄肉成形あるいは複雑形状成形に適応可能な成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題を解決するための本発明は、主に以下のいずれかの構成を有する。
(1) 不連続繊維(a1)と樹脂(a2)とを有する補強基材(a)と、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを有する射出成形体(b)とが一体化した一体化成形体であり、
補強基材(a)は射出成形体(b)のウェルドラインの一部又は全部を覆って射出成形体(b)と一体化しており、
補強基材(a)の厚みTaと一体化成形体のウェルドライン部の厚みTとの比が以下の関係式を満たしている一体化成形体。
Ea≠Ebwの場合、
Ta/T≦((Ebw-√(Ea・Ebw))/(Ebw-Ea))
Ea=Ebwの場合、
Ta/T≦0.5
Ta:補強基材(a)の厚み
T :一体化成形体のウェルドライン部の厚み
Ea:補強基材(a)の曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)
Ebw:射出成形体(b)のウェルドラインの曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)(2) 不連続繊維(a1)と樹脂(a2)とを有する補強基材(a)と、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを有する射出成形体(b)とが一体化した一体化成形体であり、
補強基材(a)の厚みが0.25mm以下であり、
補強基材(a)が射出成形体(b)のウェルドラインの一部又は全部を覆って射出成形体(b)と一体化している、一体化成形体。
(3) 不連続繊維(a1)と樹脂(a2)とを有する補強基材(a)と、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを有する射出成形体(b)とが一体化した一体化成形体であり、
補強基材(a)が射出成形体(b)のウェルドラインの一部又は全部を覆って一体化されており、
補強基材(a)は、一体化成形体を補強基材(a)が配された面が水平方向かつ上向きとなるように配置して上方向から投影した際、一体化成形体の投影面積の50%以下の面積を有しており、
補強基材(a)の曲げ弾性率Eaと非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ弾性率Ebとの比Ea/Ebが0.7~1.3である、一体化成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、射出成形体のウェルドラインの補強において、ウェルドラインに対する補強基材配置の方向を考慮することなく、かつ一体化成形時の補強基材の繊維乱れや射出樹脂への埋没を防ぎながら、ウェルドラインの補強が可能であり、さらに、薄肉あるいは複雑形状の一体化成形体を得ることができる。また、本発明によれば、射出成形体と補強基材の接合面あるいは該補強基材端部への応力集中を防ぎ、ウェルドラインの補強と一体化成形体としての強度とが両立した一体化成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ウェルドライン部を補強した一体化成形体における補強基材の範囲および最初に補強基材をインサートした範囲を示す模式図。
【
図2】ウェルドライン部を補強した一体化成形体における試験片切り出し位置を示す模式図。
【
図3】実施例18で得られた一体化成形体の模式図。
【
図4】実施例20で得られた一体化成形体の模式図であって、補強基材が一体化された面において、一体化成形体の投影面積に対して補強基材の面積が50%である態様。
【
図5】実施例27で得られた一体化成形体の模式図であって、補強基材が一体化された面において、痛いか成形体の投影面積に対して補強基材の面積が30%である態様。
【
図6】接合強度評価の試験片および引張治具の模式図。
【
図7】一体化成形体における補強基材の厚みバラツキ測定面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一体化成形体は、不連続繊維(a1)と樹脂(a2)とを有する補強基材(a)が、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを有する射出成形体(b)のウェルドラインの一部又は全部を覆うように該射出成形体と一体化してなる。ここで、「覆う」とは、射出成形体(b)のウェルドラインの幅方向に亘って補強基材(a)がウェルドラインをカバーしていることをいい、該ウェルドラインの「一部又は全部」とは、長さ方向の一部または全部のことをいう。以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0021】
本発明における不連続繊維(a1)は、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、鉱物繊維などが使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、比強度、比剛性が高く軽量化効果の観点から、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られる成形体の経済性を高める観点から、ガラス繊維が好ましく用いることができ、とりわけ力学特性と経済性のバランスから炭素繊維とガラス繊維を併用することが好ましい。さらに、得られる成形体の衝撃吸収性や賦形性を高める観点から、アラミド繊維が好ましく用いることができ、とりわけ力学特性と衝撃吸収性のバランスから炭素繊維とアラミド繊維を併用することが好ましい。また、得られる成形体の導電性を高める観点から、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0022】
また、射出成形体におけるウェルドラインでは、不連続繊維(b1)の繊維配向が、射出樹脂の流れ方向に対して、垂直方向となるため、ウェルドラインでの電磁波シールド性は低下する。電磁波シールド性の観点から、補強基材(a)に含まれる不連続繊維(a1)は導電性を示すことが好ましい。
【0023】
本発明における不連続繊維(a1)は、サイジング剤で表面処理が行われていることが、力学特性向上の観点から好ましい。サイジング剤としては、多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、具体的にはグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、不連続繊維(a1)への塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが本発明では好ましく用いられる。サイジング剤は不連続繊維(a1)100質量部に対して0.01~5質量部含有していることが好ましく、0.1~2質量部含有していることがより好ましい。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。また、サイジング剤を不連続繊維(a1)に均等に付与せず、上記の好ましい範囲で選択的に高い濃度で付与する部分と低い濃度で付与する部分とを設けてもよい。
【0024】
サイジング剤を不連続繊維(a1)に付与する手段としては、例えばローラーを介して不連続繊維(a1)をサイジング剤が含まれる液に浸漬させる方法、サイジング剤を霧状にして不連続繊維(a1)に吹き付ける方法などが挙げられる。この際、不連続繊維(a1)に対するサイジング剤の付着量がより均一となるように、サイジング剤を溶媒で希釈したり、付与する際の温度、糸条張力などをコントロールしたりすることが好ましい。サイジング剤を希釈する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、製造工程における取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。かかる溶媒は、サイジング剤を不連続繊維(a1)に付与した後加熱により蒸発させて除去される。また、水に不溶、もしくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤または界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。乳化剤または界面活性剤としては、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を用いることができる。これらの中でも相互作用の小さいノニオン系乳化剤を用いることがサイジング剤の効果を阻害しにくく好ましい。
【0025】
不連続繊維(a1)の繊維長としては、特に制限はないが、補強基材(a)および一体化した成形体の力学特性および成形性の観点から、1~50mmであることが好ましく、3~30mmであることがより好ましい。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。不連続繊維(a1)の繊維長が1mm以上であると不連続繊維(a1)による補強効果を効率良く発揮することができる。また、50mm以下であると不連続繊維(a1)の分散を良好に保つことができる。なお、繊維長はすべての不連続繊維(a1)で均等であってもよいが、上記の好ましい範囲で長い繊維と短い繊維とが混在してもよい。
【0026】
不連続繊維(a1)の繊維長の測定方法としては、例えば、補強基材(a)の樹脂のみを溶解させ、残った不連続繊維(a1)を濾別して顕微鏡観察により測定する方法がある(溶解法)。樹脂を溶解する溶剤がない場合には、不連続繊維(a1)が酸化減量しない温度範囲において樹脂のみを焼き飛ばし、不連続繊維(a1)を分別して顕微鏡観察により測定する方法(焼き飛ばし法)などがある。測定は不連続繊維(a1)を無作為に400本選び出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡にて測定し、繊維長とその割合を測定することができる。
【0027】
補強基材(a)における不連続繊維(a1)の重量割合は、力学特性と成形性を両立する観点から、補強基材(a)100質量%に対して5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは15~40質量%である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。
【0028】
本発明において樹脂(a2)は、特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、得られる成形体の軽量性の観点からはポリオレフィンが好ましく、強度の観点からはポリアミドが好ましく、表面外観の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが好ましく、連続使用温度の観点からポリエーテルエーテルケトンが好ましく、さらに耐薬品性の観点からフッ素系樹脂が好ましく用いられる。また、樹脂(a2)としては熱硬化性樹脂を用いることもでき、かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール、ユリア・メラミン、ポリイミドや、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱硬化樹脂が挙げられる。
【0029】
さらに、樹脂(a2)には、その用途に応じてマイカ、タルク、カオリン、ハイドロタルサイト、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカおよび高分子化合物などの充填材、金属系、金属酸化物系、カーボンブラックおよびグラファイト粉末などの導電性付与材、臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、芳香族ホスフェートおよび赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属塩および芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤、硼酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛およびジルコニウム化合物などの無機系難燃剤、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェートおよび窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤、またその他の難燃剤、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタンなどの難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、マイカ、タルクおよびカオリンなどの結晶核剤、リン酸エステルなどの可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、およびポリエーテルエステルアミドなどの帯電防止剤等を添加しても良い。とりわけ、用途が電気・電子機器、自動車、航空機などの場合には、難燃性が要求される場合があり、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく添加される。
【0030】
上記難燃剤は、難燃効果の発現とともに、使用する樹脂の力学特性や成形時の樹脂流動性などと良好な特性バランスを保つために、樹脂100質量部に対して難燃剤1~20質量部とすることが好ましい。より好ましくは1~15質量部である。
【0031】
次に、本発明における射出成形体(b)は、不連続繊維(b1)と樹脂(b2)とを射出成形して得られる成形体である。
【0032】
射出成形体(b)は、力学特性、耐熱性を向上する観点から不連続繊維(b1)を含む。不連続繊維(b1)は特に制限無く、例えば、ガラス繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維(黒鉛繊維を含む)、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維など、一般的に強化繊維として用いられるものが挙げられ、2種以上の繊維を組み合わせて用いてもよい。材料コストと力学特性の観点からはガラス繊維、軽量性と力学特性の観点からは炭素繊維が好ましい。
【0033】
本発明における樹脂(b2)は特に制限無く、樹脂(a2)で例示したものと同様の熱可塑性樹脂が例示でき、成形性、力学特性の観点からポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素系樹脂が好ましく、特に好ましくはポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィドである。
【0034】
また、本発明における樹脂(b2)は、補強基材(a)と一体化する観点から樹脂(a2)と同種の樹脂であることが好ましい。同種の樹脂の具体例として、ポリアミド樹脂の場合には、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの構造を50質量%以上含むポリアミド、共重合ポリアミドが挙げられる。また樹脂(a2)と化学反応をするような官能基を有する樹脂も好ましく用いられる。また樹脂(a2)とのSP値の差が2.5以内であるような樹脂も好ましく用いられる。SP値は、例えばFedorsの方法(Polymer Engineering and Science,vol.14,No.2,p147(1974))により計算することができる。
【0035】
射出成形体(b)中の不連続繊維(b1)と樹脂(b2)との質量割合は、力学特性と成形性のバランスから、樹脂(b2)100質量部に対して、強化繊維(b2)5~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましく、特に好ましくは20~60質量部である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。また、一体化成形体においては、上記好ましい範囲内で該質量割合が高い部分と低い部分とが存在してもよい。
【0036】
不連続繊維(b1)は、サイジング剤により表面処理をされることが力学特性向上の観点から好ましい。サイジング剤としては多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、具体的にはグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、不連続繊維(b1)への塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが本発明では好ましく用いられる。
【0037】
サイジング剤は、不連続繊維(b1)100質量部に対して0.01~5質量部含有されることが好ましく、0.1~2質量部含有されることがより好ましい。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。また、サイジング剤を不連続繊維(b1)に均質に付与せず、上記の好ましい範囲で選択的に高い濃度で付与する部分と低い濃度で付与する部分とを設けてもよい。
【0038】
本発明において、サイジング剤を不連続繊維(b1)に付与する手段としては、例えばローラーを介して不連続繊維(b1)をサイジング剤が含まれる液に浸漬させる方法、サイジング剤を霧状にして不連続繊維(b1)に吹き付ける方法などが挙げられる。この際、不連続繊維(b1)に対するサイジング剤の付着量がより均一となるように、サイジング剤を溶媒で希釈したり、付与する際の温度、糸条張力などをコントロールしたりすることが好ましい。サイジング剤を希釈する溶媒は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、製造工程における取扱いが容易で防災の観点から水が好ましい。かかる溶媒は、サイジング剤を不連続繊維(b1)に付与した後加熱により蒸発させて除去される。また、水に不溶、もしくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤または界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。乳化剤または界面活性剤としては、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等を用いることができる。これらの中でも相互作用の小さいノニオン系乳化剤を用いることがサイジング剤の効果を阻害しにくく好ましい。
【0039】
射出成形体(b)の力学特性、寸法精度が向上する観点から、不連続繊維(b1)の質量平均繊維長Lwは0.4mm以上であることが好ましい。質量平均繊維長は長い程、強度、剛性の向上効果が高く、特に衝撃強度の著しい向上効果が得られる。不連続繊維(b1)の質量平均繊維長Lwの上限は3.0mm以下であることが好ましく、この範囲の質量平均繊維長Lwとすることで強度、剛性と加工性のバランスが良好となる。そして不連続繊維(b1)の質量平均繊維長Lwは、さらに好ましくは0.4mm以上1.0mm以下である。なお、不連続繊維(b1)は、全て同一の長さではなく、異なる長さの分布をもっていてもよい。不連続繊維(b1)が異なる長さの分布をもっている状態を表すのに、上記した質量平均繊維長Lwや、下記する数平均繊維長Lnを用いることができる。
【0040】
不連続繊維(b1)の数平均繊維長Lnは、測定数に対する繊維長の単純な平均値であり、短い繊維長を有する繊維の寄与を敏感に反映する。繊維長に基づく補強効果は、繊維長が長い程、補強効果が大きい。繊維長の長い繊維と繊維長の短い繊維とがもたらす効果に相違があるので、これらを同列に扱うことは、好ましくない。繊維長の長い繊維が果たす補強効果を重視する場合、質量平均繊維長Lwを考慮すると良い。
【0041】
さらに、不連続繊維(b1)の質量平均繊維長Lwと数平均繊維長Lnとの比Lw/Lnにより、繊維長の分布を知ることができる。Lw/Lnの値が1より大きいと、繊維長の長い繊維が多く含まれていることになる。不連続繊維(b1)の質量平均繊維長Lwと数平均繊維長Lnとの比Lw/Lnは1.3~2.0であることが好ましい。
【0042】
本発明において、不連続繊維(b1)の数平均繊維長Ln、不連続繊維(b1)の質量平均繊維長Lw、および、それらの比Lw/Lnは、次の手法により求められる。すなわち、射出成形体(b)から、長さ10mm、幅10mmの大きさのサンプルを切り出し試験片とする。この試験片を、樹脂(b2)が可溶な溶剤に24時間浸漬し、樹脂成分を溶解させる。樹脂成分が溶解された試験片を、顕微鏡にて、100倍の倍率で観察する。この観察において、視野内の繊維の中の任意の400本について、繊維長を測定する。測定された繊維長をLiとし、数平均繊維長Lnと質量平均繊維長Lwとを、次の式に基づき、算出する。
数平均繊維長Ln=(ΣLi)/(N)
質量平均繊維長Lw=(ΣLi2)/(ΣLi)
ここで、Nは、測定本数(400本)。
【0043】
射出成形体(b)には、その用途に応じてマイカ、タルク、カオリン、ハイドロタルサイト、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカおよび高分子化合物などの充填材、金属系、金属酸化物系、カーボンブラックおよびグラファイト粉末などの導電性付与材、臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、芳香族ホスフェートおよび赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属塩および芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤、硼酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛およびジルコニウム化合物などの無機系難燃剤、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェートおよび窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤、またその他の難燃剤、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタンなどの難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、マイカ、タルクおよびカオリンなどの結晶核剤、リン酸エステルなどの可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、およびポリエーテルエステルアミドなどの帯電防止剤等を添加しても良い。とりわけ、用途が電気・電子機器、自動車、航空機などの場合には、難燃性が要求される場合があり、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく添加される。
【0044】
上記したような本発明の一体化成形体において、不連続繊維(a1)および樹脂(a2)から構成される補強基材(a)は、射出成形体(b)に形成されるウェルドラインに対する補強効果と射出成形体(b)の成形性の観点から、次のように構成する。すなわち、補強基材(a)と射出成形体(b)とで構成される一体化成形体のウェルドライン部の厚みTに対する補強基材(a)の厚みTaの割合を、射出成形体(b)のウェルドラインにおける曲げ弾性率Ebw、補強基材の曲げ弾性率Ea(ウェルドラインと直行する方向、すなわちウェルドラインの幅方向)を用いて表される以下の式で求められる値(以降において、中立補強基材割合と称する場合がある)以下とする。
Ea≠Ebwの場合、
中立補強基材割合=(Ebw-√(Ea×Ebw))/(Ebw-Ea)
Ea=Ebwの場合
中立補強基材割合=0.5
Ea:補強基材(a)の曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)
Ebw:射出成形体(b)のウェルドラインの曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)
Ta/Tが中立補強基材割合よりも大きくなると、補強基材厚みが増すことによる補強効果の向上が小さく、徒に補強基材(a)の厚みを増加させることとなる。また、射出成形体(b)を補強基材(a)と一体化成形する時に、ウェルドライン部での樹脂流動性が十分でなく、良好な成形体をえることができない。よって、本発明においては、Ta/Tが中立補強基材割合以下となるようにする。
【0045】
同様の観点から、Ta/Tは中立補強基材割合の0.9以下が好ましい。一方、Ta/Tは、中立補強基材割合の0.05以上であることが好ましい。厚みが中立補強基材割合の0.05未満では、補強基材(a)によるウェルドライン部の補強効果が小さくなりやすく、一体化成形体のウェルドライン部での物性が十分なものとならない場合がある。より好ましくは、0.2以上である。
【0046】
より具体的には、補強基材(a)の取り扱い性と射出成形体(b)の成形性の観点から、本発明における補強基材(a)は厚みが0.25mm以下であることが好ましい。厚みが0.25mmよりも厚い場合は、射出成形体(b)を含む成形体を一体化成形する時に、ウェルドライン部の樹脂流動性が十分でなく、良好な成形体を得ることができないことがある。さらに好ましくは0.2mm以下である。一方、補強基材(a)は厚みが0.03mm以上であることが好ましい。厚みが0.03mm未満では、補強基材(a)の取り扱い性が難しく、金型内にインサートする過程で、補強基材が破ける場合がある。より好ましくは、0.05mm以上である。
【0047】
なお、補強基材(a)の厚みは、次のように算出する。補強基材(a)の同一面において2点X、Yを直線距離XYが最も長くなるように決定し、該直線XYを10等分した際の両端XYを除く各分割点において厚みを測定し、その平均値をもって補強基材(a)の厚みとする。本発明に使用されるような補強基材は、一体化前後で物性が変化しないと考えられることから、一体化前の物性値で一体化後の物性値として代用することができる。
【0048】
また、補強基材(a)の形態に制限はなく、シート状、テープ状の形態が挙げられるが、射出成形体(b)のウェルドラインに沿って効率的に配置する観点から、テープ状の基材が好ましい。
【0049】
本発明においては、一体化成形体における補強基材(a)の厚みバラツキが10%以下であることが好ましい。補強基材と射出成形体が一体化する際に補強基材(a)に厚みバラツキが発生するが、厚みバラツキが10%よりも大きい場合は、一体化成形体に荷重が加わった際、厚みの変動部分に応力が集中する結果、成形体破壊の起点となることがある。好ましくは5%未満である。該厚みバラツキの下限については、特に制限はなく、強いて言えば0%である。また、該厚みバラツキが大きく、10%を超える場合、厚みの薄い場所に応力が集中する傾向があり、下記する補強基材(a)と射出成形体(b)との接合強度が十分なものとならない場合がある。
【0050】
該厚みバラツキの測定方法は、以下の通りである。
図2に示すように一体化成形体から補強基材と射出成形体とが一体化した部分を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した上で、
図7に示すように切断面が観察面となるよう研磨して試験片を作製する。前記試験片をレーザー顕微鏡(例えば、キーエンス(株)製、VK-9510)で200倍に拡大し、補強基材厚みの観察を行う。観察画像を汎用画像解析ソフト上に展開し、ソフトに組み込まれたプログラムを利用する等して観察画像中に見える補強基材の平均厚みt1、最大厚みt2および最小厚みt3を測定し、次式より一体化成形体における補強基材の厚みバラツキ(%)を算出する。補強基材の平均厚みt1は、観察画像中の補強基材断面を幅方向に10等分した際の両端を除く各分割点において厚みを測定し、その平均値をもって補強基材の平均厚みとする。
厚みバラツキ(%)=((t2(mm)-t3(mm))/t1(mm))/100。
【0051】
また、本発明の一体化成形体においては、上記したような関係を満足するように補強基材(a)を選択・配置することで、補強基材(a)と非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ弾性率の比Ea/Ebを0.7~1.3にすることが好ましい。かかる曲げ弾性率の比Ea/Ebが0.7~1.3であるということは、射出成形体と補強基材の接合面あるいは該補強基材端部へ応力が集中しづらくなるということであり、ウェルドラインの補強と一体化成形体の強度が両立した成形体を得ることができる。好ましくは、0.8~1.2である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。また、射出成形体(b)の曲げ弾性率は、非ウェルドライン部全域で一定であってもよいが、曲げ弾性率の比が上記好ましい範囲となるような値であれば、高い部分と低い部分とが存在してもよい。
【0052】
具体的に、補強基材(a)は、曲げ弾性率が10GPa以上であることが好ましい。より好ましくは、15GPa以上である。曲げ弾性率の下限については、特に制限はない。補強基材(a)の曲げ弾性率が10GPa以上であると、補強基材と射出成形体が一体化する際の射出樹脂圧による補強基材の変形が抑制され、一体化後の補強基材のよれ、歪み等が生じにくい。さらに、補強基材(a)の曲げ弾性率が15GPa以上であると、補強基材の幅を小さくしても、一体化後の補強基材のよれ、歪み等が生じにくい。加えて、補強基材(a)は、曲げ弾性率が実質的に等方性であると、補強基材と射出成形体が一体化する際に、補強基材に対して、どの方向から射出樹脂圧が加わっても、一体化後の補強基材のよれ、歪み等が生じにくいので、好ましい。
【0053】
そして、射出成形体(b)も、非ウェルドライン部において曲げ弾性率が10GPa以上であることが好ましい。より好ましくは、15GPa以上であり、さらに好ましくは20GPa以上である。射出成形体(b)の非ウェルドライン部における曲げ弾性率が10GPa以上であると、剛性の高い一体化成形体が得られる。かかる曲げ弾性率の下限については、特に制限はない。
【0054】
補強基材(a)および射出成形体(b)の曲げ弾性率の測定は、ISO178法(1993)に準拠して測定する。それぞれ測定数はn=5とし、平均値を補強基材(a)と射出成形体(b)の曲げ弾性率とする。補強基材(a)と射出成形体(b)の曲げ弾性率から曲げ弾性率の比Ea/Ebを求める。なお、「非ウェルドライン部」とは、射出成形体のウェルドライン以外の部分を言い、用いる射出樹脂本来の特性を発揮できる部分をいう。
【0055】
そして、補強基材(a)と非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ弾性率の比を上記のとおりとするとき、補強基材(a)は、一体化成形体の投影面積に対して50%以下となるようにすることが好ましい。すなわち、一体化成形体を補強基材(a)が配された面が水平方向かつ上向きとなるように配置して上方向から投影した際、一体化成形体の投影面積の50%以下の範囲で補強基材(a)が配されていることが好ましい。該面積比が50%以下であると、射出金型キャビティ内での射出樹脂の流動性が向上するため、薄肉成形や複雑形状成形に有利なことがある。また、射出成形時のエアーあるいは射出樹脂の分解ガスの排出や成形体の軽量化の観点からも優れる。上記の面積比はより好ましくは30%以下である。また、一体化成形体の投影面積に対する補強基材(a)の面積の下限は、ウェルド補強の観点から5%以上が好ましく、さらに好ましくは10%以上である。
【0056】
なお、一体化成形体の成形性や軽量化の観点から補強基材面積を小さくすると、一般に、射出成形体と補強基材の接合面あるいは補強基材端部へ応力が集中しやすくなると考えられるが、補強基材と非ウェルドライン部における射出成形体の曲げ弾性率の比を上記のとおりにすることで、応力の集中を抑えることができ、一体化成形体の成形性と強度を両立することができる。
【0057】
また、本発明の一体化成形体においては、補強基材(a)の曲げ強度σaと非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ強度σbの比σa/σbが0.7~1.3であることが好ましい。該曲げ強度の比σa/σbが0.7~1.3であると、射出成形体のウェルドラインの補強に関して、過度な補強をすることがないため、成形体のコスト削減および軽量化の観点から好ましい。より好ましくは、0.8~1.2である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。また、射出成形体(b)の曲げ強度は、非ウェルドライン部全域で一定であってもよいが、曲げ強度の比が上記好ましい範囲内となるような値であれば、高い部分と低い部分とが存在してもよい。
【0058】
具体的に、補強基材(a)は、曲げ強度が200MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、300MPa以上である。そして、射出成形体(b)も、非ウェルドライン部における曲げ強度が200MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、300MPa以上である。かかる曲げ強度の下限については、特に制限はない。射出成形体(b)の曲げ強度、さらにはそれに併せて補強基材(a)の曲げ強度が200MPa以上であると、一体化成形体に荷重が加わっても破壊しにくいため、好ましい。
【0059】
補強基材(a)および射出成形体(b)の曲げ強度の測定は、ISO178法(1993)に準拠して測定する。それぞれ測定数はn=5とし、平均値を補強基材(a)と射出成形体(b)の曲げ強度とする。補強基材(a)と射出成形体(b)の曲げ強度から曲げ強度の比σa/σbを求める。なお、補強基材(a)と非ウェルドライン部における射出成形体(b)の曲げ強度の比を上記した範囲内にするためには、例えば、それぞれの繊維含有量を同等程度にすればよい。
【0060】
本発明において、補強基材(a)は実質的に等方性であることが好ましい。実質的に等方性であるとは、補強基材(a)の曲げ強度、曲げ弾性率、線膨張係数が測定方向によらず同等であることを指す。より具体的には、補強基材(a)を任意の方向を0°方向として、0°、+45°、-45°、90°の4方向について試験片を切り出し、それぞれの方向の試験片について、曲げ強度、曲げ弾性率はISO178法(1993)、線膨張係数はISO11359-2(1999、TMA)に準拠して測定し、その最大値が最小値の1.3倍以下である、すなわち方向に寄らず曲げ強度、曲げ弾性率、線膨張係数が均一であることを示すことが好ましい。補強基材(a)が実質的に等方性であることにより、ウェルドラインを補強する際に基材の方向を考慮せずに射出成形体と一体化補強できるため好ましい。また、射出成形時に補強基材を薄肉や複雑形状の成形体と一体化する場合であっても、成形圧力により補強基材の繊維乱れや射出樹脂への埋没を防ぐことができ、好ましい。
【0061】
補強基材(a)を実質的に等方性とするためには不連続繊維(a1)が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散した状態であることが好ましい。ここで、不連続繊維(a1)が略フィラメント状であることとは、不連続繊維(a1)が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。より好ましくは、不連続繊維(a1)がモノフィラメント状に分散していることである。また、ランダムに分散しているとは、補強基材(a)の断面観察画像中における不連続繊維の二次元配向角の算術平均値が30°以上、60°以下の範囲内にあることをいう。かかる二次元配向角とは、互いに交差する2本の不連続繊維(a)で形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。
【0062】
不連続繊維(a1)がランダムに分散した状態の補強基材(a)を得る方法については、特に制限はないが、例えば、(1)チョップドの形態を有する不連続繊維束を気流ジェット下で開繊、分散し、その分散物をコンベアベルト上に集積させたものに、樹脂を含浸複合しプレス成形して得る方法、(2)チョップドの形態を有する不連続繊維束と樹脂繊維とを気流ジェット下で開繊、混合し、その混合物をコンベアベルト上に集積させたものをプレス成形して得る方法、(3)チョップドの形態を有する不連続繊維を分散液中で開繊、分散し、有孔支持体上に抄紙したものに、樹脂を含浸複合しプレス成形して得る方法、(4)チョップドの形態を有する不連続繊維束と樹脂繊維とを分散液中で開繊、混合し、有孔支持体上に抄紙したものをプレス成形して得る方法、(5)チョップドの形態を有する不連続繊維をカード機により開繊、分散し、その分散物をコンベアベルト上に集積させたものに、樹脂を含浸複合しプレス成形して得る方法、および(6)チョップドの形態を有する不連続繊維束と樹脂繊維とをカード機により開繊、混合し、その混合物をコンベアベルト上に集積させたものをプレス成形して得る方法などが挙げられる。より好ましくは、不連続繊維束の開繊性に優れ、かつその不連続繊維の繊維長を長く維持できる(1)~(4)の方法が用いられ、さらに好ましくは生産性の観点から、(3)または(4)の方法が用いられる。
【0063】
(1)または(2)の方法では、気流の流れを制御することで、不連続繊維を単繊維状で均一に分散し、補強基材(a)の等方性を向上しても良い。(3)または(4)の方法においては、分散液量に対する不連続繊維の濃度を下げたり、分散液を撹拌する撹拌翼を撹拌力の大きな形状としたり、または撹拌翼の回転数を高くすることにより不連続繊維を単繊維状で均一に分散し、補強基材(a)の等方性を向上しても良い。
【0064】
成形体の軽量性を高める観点から、補強基材(a)の比重は0.5~1.5であることが好ましい。より好ましくは0.5~1.3であり、さらに好ましくは0.5~1.1である。比重の測定は、補強基材(a)を切り出し、ISO1183(1987)に準拠して測定する。
【0065】
さらに、補強基材(a)は、線膨張係数が7×10-6/K以下であることが好ましく、より好ましくは5×10-6/K以下である。下限については、特に制限はない。線膨張係数の測定は、ISO11359-2(1999)に準拠して測定する。補強基材(a)の線膨張係数が7×10-6/K以下であると、補強基材と射出成形体が一体化する際に、補強基材の変形が抑制され、一体化後の補強基材のよれ、歪み等が生じにくい。さらに、補強基材(a)の線膨張係数が5×10-6/K以下であると、補強基材の幅を小さくしても、一体化後の補強基材のよれ、歪み等が生じにくい。そして、補強基材(a)は、線膨張係数が上記範囲であることに加え、実質的に等方性であることがより好ましい。
【0066】
補強基材(a)の形状は、ウェルドラインに沿って効率的に配置する観点からテープ状の基材が好ましい。テープ状とは、薄くて細長い帯状のものである。好ましくは、厚みが0.03~0.25mm、幅(ウエルドラインの幅方向)が2.5~15mmである。長さに関しては、補強基材の幅に対して、1.2倍以上が好ましく、より好ましくは2倍以上である。補強基材の長さの上限については、特に制限はない。また、補強基材が薄いテープ状であると、柔軟性をもち、取り扱い性に優れ、自動テープ積層装置ATL(Automated Tape Laying)等によって射出金型内に補強基材(a)をインサートすることもでき、生産性、複雑形状への対応性から好ましい。
【0067】
本発明の一体化成形体は、補強基材(a)と射出成形体(b)の接合強度が7MPa以上であることが好ましい。接合強度が7MPaよりも小さい場合は、ウェルドラインの補強効果が十分でなく、良好な一体化成形体とはいえない場合がある。より好ましくは10MPa以上である。接合強度の上限については、特に制限は無く、強いて言えば、完全に接合界面が一体化した場合、使用する樹脂の引張強度に等しく、例えばポリアミドの場合150MPaである。
【0068】
接合強度の測定方法は、以下の通りである。まず、
図2に示すように補強基材と射出成形体とが一体化した部分を試験片(
図6(a))として切り出す。次いで、
図6(b)に示すような測定装置の治具に、接着剤(例えば、スリーボンド1782、株式会社スリーボンド製)を塗布し、23±5℃、50±5%RHで4時間放置した後に、前記試験片を接着させ固定する。次に、引張試験を、25℃の雰囲気温度で行う。このとき、試験開始前に、少なくとも5分間、試験片に引張試験の負荷がかからない状態を維持し、また、試験片に熱電対を配置して、雰囲気温度と同等になったことを確認した後に、引張試験を行う。引張試験は、引張速度1.27mm/分にて、両者の接着面から90°方向に引っ張って行い、その最大荷重(補強基材と射出形成体とが分離し始めるときの荷重、すなわち破断荷重)を接合面積で除した値を接合強度(単位:MPa)とする。試料数はn=5として、その平均を採るものとする。
【0069】
射出成形体(b)に不連続繊維(b1)が含まれていると、一般的にウェルドラインでの物性低下が顕著となりやすい。そのため、本発明においては、補強基材(a)で射出成形体(b)のウェルドラインの一部又は全部を覆い、該補強基材(a)と射出成形体(b)とを一体化している。補強基材(a)と射出成形体(b)とを一体化する方法については特に制限無く、予め成形した補強基材(a)と射出成形体(b)とを接合する方法、射出成形体(b)を成形する時に射出成形金型内に補強基材(a)を配置して成形と同時に一体化する方法などが挙げられる。補強基材(a)と射出成形体(b)を接合する方法としては例えば、熱板溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、自動テープ積層装置ATL(Automated Tape Laying )などが挙げられ、また接着剤により接合しても良い。射出成形と同時に一体化する方法においては、補強基材(a)を射出成形金型内のウェルドラインが予想される場所に配置した後に射出成形することで一体化できる。射出成形金型に補強基材(a)を配置する方法についても特に制限は無く、予めウェルドライン形状に切り出した補強基材(a)をインサートする方法、金型内に自動テープ積層装置ATLにより、ヒーター加熱、レーザー加熱などで補強基材(a)を軟化・溶融させて貼付する方法などが挙げられる。これらの中で射出金型内に自動テープ積層装置ATLにより、補強基材(a)を貼付した後に射出成形し一体化する方法が生産性、複雑形状への対応性から好ましい。
【0070】
本発明の一体化成形体は、補強基材(a)が射出成形体(b)のウェルドラインの幅方向における2.5~15mmの距離にわたって射出成形体と一体化されていることが好ましい。ウェルドラインの幅方向における2.5~15mmの距離にわたって射出成形体と一体化することでウェルド補強と成形体の軽量化および成形性を両立できるため好ましい。より好ましくは、3~12.5mm、さらに好ましくは5~10mmである。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。また、上記好ましい範囲内で幅広く一体化されている部分と幅狭く一体化されている部分とが存在してもよい。
【0071】
また、ウェルドラインの幅が一体化成形体の厚みによって変化することから、補強基材(a)が射出成形体(b)のウェルドラインの幅方向において、以下の関係を満たして、ウェルドラインの一部又は全部を覆って射出成形体(b)と一体化されていることが好ましい。
1≦Wa/5√T≦10
Wa:補強基材(a)の幅
T:一体化成形体のウェルドライン部の厚み
上記の関係を満たすことで、ウェルドラインの補強と成形体の軽量化および成形性を両立できるため好ましい。より好ましくは、2≦Wa/5√T≦5である。
【0072】
本発明の一体化成形体は、射出成形の利点である複雑成形体を生産性良く成形できるメリットを持ちながら、射出成形体の課題であるウェルドラインの強度、剛性を改良できることから、例えば、自動車部品、航空機部品、電気・電子部品、オフィスオートメーション機器、建築部材、家電機器、医療機器、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。具体的な用途としては、自動車用アンダーフード部品、自動車用内装部品、自動車用外装部品、自動車用コネクター、電気・電子部品、建築部材、機械部品、容器・食器類が挙げられる。
【0073】
自動車用アンダーフード部品としては、エアフローメーター、エアポンプ、サーモスタットハウジング、エンジンマウント、イグニッションボビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどが挙げられる。
【0074】
自動車用内装部品としては、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどが挙げられる。
【0075】
自動車用外装部品としては、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどが挙げられる。
【0076】
自動車用コネクターとしては、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクターなどが挙げられる。
【0077】
電気・電子部品としては、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、コピー機のハウジングおよび内部部品、ファクシミリのハウジングおよび内部部品、パラボラアンテナ、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、ビデオカメラ、プロジェクターなどの映像機器部品、コンパクトディスク(CD)、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RW、DVD-RAM、ブルーレイディスクなどの光記録媒体の基板、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドホン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、コイルボビンなどが挙げられる。
【0078】
建築部材としては、サッシ戸車、ブラインドカーテンパーツ、配管ジョイント、カーテンライナー、ブラインド部品、ガスメーター部品、水道メーター部品、湯沸かし器部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井釣り具、階段、ドアー、床などが挙げられる。
【0079】
機器部品としては、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、キーステム、カム、ラチェット、ローラー、給水部品、玩具部品、結束バンド、クリップ、ファン、テグス、パイプ、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などが挙げられる。
【0080】
容器・食器類としては、トレイ、ブリスター、ナイフ、フォーク、スプーン、チューブ、プラスチック缶、パウチ、コンテナー、タンク、カゴなどの容器・食器類、ホットフィル容器類、電子レンジ調理用容器類化粧品容器などが挙げられる。
【0081】
これらの中でも自動車用内装部品、自動車用外装部品、自動車用コネクター、薄肉、軽量、剛性が求められる電気・電子部品、電子機器筐体には好適である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0083】
(1)補強基材中の強化繊維の繊維質量含有率Waf(%)
補強基材の任意の5箇所を切り出し、それら切り出した補強基材それぞれについて、質量Wa1を測定したのち、該補強基材を空気中600℃で1時間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量Wa2を測定し、次式により繊維質量含有率Wafを算出した。5箇所において測定した繊維質量含有率Wafの平均値をもって補強基材中の強化繊維の繊維質量含有率とした。
・Waf(%)=100×Wa2/Wa1
(2)補強基材の厚みTa
補強基材の同一面において2点X、Yを直線距離XYが最も長くなるように決定し、該直線XYを10等分した際の両端XYを除く各分割点において厚みを測定し、その平均値をもって補強基材の厚みTa(mm)とした。
【0084】
(3)補強基材の嵩密度
任意の5箇所から正方形(100mm角)の補強基材を切り出し、切り出した補強基材のそれぞれについて質量Wa3を測定し、次式より嵩密度を算出し、その平均値を採用した。
補強基材の嵩密度=Wa3(g)/(10(cm)×10(cm)×Ta(cm))
なお、100mm角を切り出せない場合は、切り出せる最大の正方形を切り出し、次式により嵩密度を算出する。
補強基材の嵩密度=Wa3(g)/(切り出した正方形の補強基材の面積(cm2)×Ta(cm))
Ta:補強基材の厚み(cm)。
【0085】
(4)補強基材の曲げ強度σa、曲げ弾性率Ea
厚み1mm未満の補強基材については、厚み1.1mmの箱型形状のキャビティを有するスタンピング成形金型内に、積層した補強基材厚みが金型のキャビティ厚みよりも厚くなるように、補強基材を積層した。次いで、金型を閉じ、成形圧力30MPaで加圧し、2分間保持した後、金型を開き、脱型し、試験用成形板(補強基材)を作製した。該試験用成形板から試験片を切り出し、ISO178法(1993)に従い曲げ特性を測定した。任意の方向を0°方向とした場合に0°、+45°、-45°、90°の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数n=5で曲げ強度および曲げ弾性率を測定し、それらの平均値を曲げ強度σaおよび曲げ弾性率Eaとして採用した。ただし、連続繊維を用いた補強基材に関しては、試験用成形板の作製の際は、繊維方向を揃えて積層し、繊維方向を0°方向とした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
【0086】
厚み1mm以上の補強基材については、そのものを試験用成形板(補強基材)とし、これから試験片を切り出し、ISO178法(1993)に従い曲げ特性を測定した。任意の方向を0°方向とした場合に0°、+45°、-45°、90°の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数n=5で曲げ強度および曲げ弾性率を測定し、それらの平均値を曲げ強度σaおよび曲げ弾性率Eaとして採用した。
【0087】
(5)補強基材の曲げ強度のσaMax、σaMinおよび曲げ弾性率のEaMax、EaMin
前項に従って測定された0°、+45°、-45°、90°の4方向の曲げ強度および曲げ弾性率のうち、それぞれ最大値をσaMax、EaMax、最小値をσaMin、EaMinとした。
【0088】
(6)補強基材の線膨張係数Ca
厚み1mm未満の補強基材については、厚み1.1mmの箱型形状のキャビティを有するスタンピング成形金型内に、積層した補強基材厚みが金型のキャビティ厚みよりも厚くなるように、補強基材を積層した。次いで、金型を閉じ、成形圧力30MPaで加圧し、2分間保持した後、金型を開き、脱型し、試験用成形板(補強基材)を作製した。該試験用成形板から試験片を切り出し、ISO11359-2(1999)に準拠して補強基材の線膨張係数を測定した。任意の方向を0°方向とした場合に0°、+45°、-45°、90°の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数n=5で線膨張係数を測定し、その平均値を線膨張係数Caとして採用した。ただし、連続繊維を用いた補強基材に関しては、試験用成形板の作製の際は、繊維方向を揃えて積層し、繊維方向を0°方向とした。
【0089】
厚み1mm以上の補強基材については、そのものを試験用成形板(補強基材)とし、これから試験片を切り出し、ISO11359-2(1999)に準拠して測定した。任意の方向を0°方向とした場合に0°、+45°、-45°、90°の4方向について切り出した試験片を作製し、それぞれの方向について測定数n=5で線膨張係数を測定し、その平均値を線膨張係数Caとして採用した。
【0090】
(7)補強基材の線膨張係数のCaMax、CaMin
前項に従って測定された0°、+45°、-45°、90°の4方向の線膨張係数のうち、最大値をCaMax、最小値をCaMinとした。
【0091】
(8)補強基材の曲げ強度の判定
補強基材の曲げ強度σaをもとに以下の基準で判定した。
A:強度250MPa以上
B:強度200MPa以上250MPa未満
C:強度150MPa以上200MPa未満
D:強度150MPa未満。
【0092】
(9)補強基材の曲げ弾性率の判定
補強基材の曲げ弾性率Eaをもとに以下の基準で判定した。
A:曲げ弾性率15GPa以上
B:曲げ弾性率10GPa以上15GPa未満
C:曲げ弾性率5GPa以上10GPa未満
D:曲げ弾性率5GPa未満。
【0093】
(10)補強基材の線膨張係数の判定
補強基材の線膨張係数Caをもとに以下の基準で判定した。
A:線膨張係数7×10-6/K以下
B:線膨張係数7×10-6/Kより大きく10×10-6/K以下
C:線膨張係数10×10-6/Kより大きく20×10-6/K以下
D:線膨張係数20×10-6/Kより大きい。
【0094】
(11)補強基材の等方性の判定
補強基材の曲げ強度σa、曲げ弾性率Ea、線膨張係数Caの各特性について、面内バラツキをもとに以下の基準で判定した。
A:最大値が最小値の1.3倍以下
B:最大値が最小値の1.3倍よりも大きく2倍以下
C:最大値が最小値の2倍よりも大きい。
【0095】
(12)射出成形体中の強化繊維の繊維質量含有率Wbf(%)
射出成形体の質量Wb1を測定したのち、該射出成形体を空気中600℃で1時間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量Wb2を測定し、次式により算出した。
・Wbf(%)=100×Wb2/Wb1。
【0096】
(13)非ウェルドライン部における射出成形体の曲げ強度σb、曲げ弾性率Eb
射出成形により、多目的試験片を作製、カットし、ISO178法(1993)に従い曲げ特性を測定した。測定数はn=5とし、平均値を該曲げ強度σbおよび該曲げ弾性率Ebとした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
【0097】
(14)非ウェルドライン部における射出成形体の曲げ強度σbの判定
前項に従って測定された射出成形体の曲げ強度σbをもとに以下の基準で判定した。
A:強度400MPa以上
B:強度300MPa以上400MPa未満
C:強度200MPa以上300MPa未満
D:強度200MPa未満。
【0098】
(15)非ウェルドライン部における射出成形体の曲げ弾性率Ebの判定
前々項に従って測定された射出成形体の曲げ弾性率Ebをもとに以下の基準で判定した。
A:曲げ弾性率30GPa以上
B:曲げ弾性率25GPa以上30GPa未満
C:曲げ弾性率20GPa以上25GPa未満
D:曲げ弾性率15GPa以上20GPa未満
E:曲げ弾性率15GPa未満。
【0099】
(16)ウェルドライン部における射出成形体の曲げ強度σbw、曲げ弾性率Ebw
射出成形により、中央部にウェルドラインが存在する多目的試験片を作製、カットし、ISO178法(1993)に従い、ウェルドラインの曲げ特性を測定した、測定数はn=5とし、平均値を該曲げ強度σbwおよび該曲げ弾性率Ebwとした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
【0100】
(17)ウェルドライン部における射出成形体の曲げ強度σbwの判定
前項に従って測定された射出成形体の曲げ強度σbwをもとに以下の基準で判定した。A:強度400MPa以上
B:強度300MPa以上400MPa未満
C:強度200MPa以上300MPa未満
D:強度200MPa未満。
【0101】
(18)ウェルドライン部における射出成形体の曲げ弾性率Ebwの判定
前々項に従って測定された射出成形体の曲げ弾性率Ebwをもとに以下の基準で判定した。
A:曲げ弾性率30GPa以上
B:曲げ弾性率25GPa以上30GPa未満
C:曲げ弾性率20GPa以上25GPa未満
D:曲げ弾性率15GPa以上20GPa未満
E:曲げ弾性率15GPa未満。
【0102】
(19)厚み割合の計算
一体化成形体において、以下の式を用いて、補強基材の厚み割合を算出した。
厚み割合=Ta/T
Ta:補強基材の厚み
T:一体化成形体のウェルドライン部の厚み
なお、一体化成形体のウェルドライン部の厚みは、一体化成形体におけるウェルドライン部を長さ方向に10等分した際の両端を除く各分割点において補強基材と射出成形体との合計厚みを測定し、その平均値をもって一体化成形体のウェルドライン部の厚みT(mm)とした。 (20)中立補強基材割合の計算
一体化成形体において、以下の式を用いて、中立補強基材割合を算出した。但し、補強基材の曲げ弾性率と射出成形体のウェルドラインの曲げ弾性率の差が10%以内であれば、補強基材の曲げ弾性率と射出成形体のウェルドラインの曲げ弾性率とを同等とみなし、中立補強基材割合を0.5とした。
中立補強基材割合=(Ebw-√(Ea×Ebw))/(Ebw-Ea)
Ea:補強基材(a)の曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)
Ebw:射出成形体(b)のウェルドラインの曲げ弾性率(ウェルドラインの幅方向)。
【0103】
(21)補強基材の射出成形体(非ウェルドライン部)に対する曲げ強度比の計算
補強基材の曲げ強度σaと非ウェルドライン部における射出成形体の曲げ強度σbを用いて、次式により算出した。
・補強基材の射出成形体(非ウェルドライン部)に対する曲げ強度比=σa/σb
(22)補強基材の射出成形体(非ウェルドライン部)に対する曲げ弾性率比の計算
補強基材の曲げ弾性率Eaと非ウェルドライン部における射出成形体の曲げ弾性率Ebを用いて、次式により算出した。
・補強基材の射出成形体(非ウェルドライン部)に対する曲げ弾性率比=Ea/Eb
(23)補強基材の射出成形体(非ウェルドライン部)に対する曲げ強度比および曲げ弾性率比の判定
補強基材の射出成形体(非ウェルドライン部)に対する曲げ強度比および曲げ弾性率比をもとにそれぞれ以下の基準で判定した。
A:0.8以上1.2以下
B:0.7以上0.8未満あるいは1.2より大きく1.3以下
C:0.7未満あるいは1.3より大きい。
【0104】
(24)インサート範囲に対する補強基材の面積変化率の測定
図1のように、補強基材のインサート範囲S0に対する、補強基材のインサート範囲S0内に存在する一体化成形体の表面に存在する補強基材の表面積S1を測定することによって、インサート範囲に対する補強基材の面積変化率Sを次式により算出した。
S(面積%)=(|S1―S0|/S0)×100
ここで言う補強基材のインサート範囲S0とは、射出成形体と補強基材の一体化をねらっている範囲であり、
図1においては太枠で示される。射出成形体との一体化時に補強基材が射出樹脂に埋もれたり、インサート範囲から補強基材の位置がずれたりすると、インサート範囲に対する補強基材の面積変化率Sは大きくなる。
【0105】
(25)一体化成形体の成形性の判定
前項に従って測定された補強基材の面積変化率Sをもとに以下の基準で判定した。
A:補強基材の面積変化率が3%以下
B:補強基材の面積変化率が3%よりも大きく5%以下
C:補強基材の面積変化率が5%よりも大きく10%以下
D:補強基材の面積変化率が10%よりも大きい。
【0106】
(26)一体化成形体の曲げ強度σc、曲げ弾性率Ec
図2のように、一体化成形体から試験片を切り出し、ISO178法(1993)に従い曲げ特性を測定した。試験片は、ウェルドライン部が中央に位置するように切り出した。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度σcおよび曲げ弾性率Ecとした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
【0107】
(27)一体化成形体の曲げ強度の判定
前項に従って測定された一体化成形体の曲げ強度σcをもとに以下の基準で判定した。AA:強度300MPa以上
A:強度250MPa以上300MPa未満
B:強度200MPa以上250MPa未満
C:強度150MPa以上200MPa未満
D:強度150MPa未満。
【0108】
(28)一体化成形体の曲げ弾性率の判定
前々項に従って測定された一体化成形体の曲げ弾性率Ecをもとに以下の基準で判定した。
A:曲げ弾性率15GPa以上
B:曲げ弾性率10GPa以上15GPa未満
C:曲げ弾性率5GPa以上10GPa未満
D:曲げ弾性率5GPa未満。
【0109】
(29)一体化成形体の強度の測定
得られた箱型の一体化成形体の中央にφ20mmの圧子により荷重を加え、一体化成形体が破壊するときの荷重を測定し、強度とした。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
【0110】
(30)一体化成形体の強度の判定A:荷重500N以上
B:荷重400N以上500N未満
C:荷重300N以上400N未満
D:荷重300N未満。
【0111】
[炭素繊維1]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0112】
単繊維径:7μm
比重:1.8
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
[炭素繊維2]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
【0113】
単繊維径:7μm
比重:1.8
引張強度:4100MPa
引張弾性率:420GPa
[炭素繊維3]
東レ(株)製、トレカT800SC-24000
単繊維径:5μm
比重:1.8
引張強度:5880MPa
引張弾性率:294GPa
[ガラス繊維]
日東紡製、商品名 PF-E001。
【0114】
[補強基材1]
炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテスク(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を作成し、この分散液と上記チョップド炭素繊維から、抄紙基材の製造装置を用いて、抄紙基材を製造した。該製造装置は、抄紙槽と、分散槽としての、容器下部に開口コックを有する直径1000mmの円筒形状の容器と、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)とを備えているものであった。
分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属され、開口部からチョップド炭素繊維および分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽は底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、炭素繊維基材(抄紙基材)を運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%としておこなった。抄紙した炭素繊維基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥した。得られた炭素繊維基材の幅は500mm、長さは500mm、目付は50g/m2であった。
【0115】
上記炭素繊維基材1枚と、東レ(株)製CM1007(ナイロン6樹脂)の各々のフィルムの厚みが同じフィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、プレス成形により、250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけて、炭素繊維基材にナイロン6樹脂が含浸した補強基材1を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。
【0116】
[補強基材2]
炭素繊維基材に含浸させるナイロン6樹脂フィルムの目付を、繊維質量含有率が52%となるように調整したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材2を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。繊維質量含有率が増加したため、弾性率の高い基材となった。
【0117】
[補強基材3]
炭素繊維基材に含浸させるナイロン6樹脂フィルムの目付を、繊維質量含有率が15%となるように調整したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材3を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。繊維質量含有率が低下したため、弾性率が低く、線膨張係数が大きい基材となった。
【0118】
[補強基材4]
補強基材1の炭素繊維基材と、東レ(株)製、A900(PPS樹脂)の各々のフィルムの厚みが同じフィルム2枚を用いて、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、300℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけて炭素繊維基材にPPS樹脂が含浸した補強基材4を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。
【0119】
[補強基材5]
補強基材1の炭素繊維基材と、未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”J105G)50質量%と酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QB510)50質量%とを混練した樹脂から作製した、各々のフィルムの厚みが同じフィルム2枚とを用いて、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、プレス成形により、230℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけて炭素繊維基材にPP樹脂が含浸した補強基材5を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。
【0120】
[補強基材6]
チョップド炭素繊維のかわりに、ガラス繊維をカートリッジカッターで6mmにカットした、チョップドガラス繊維を用いた以外は、補強基材1と同様にして補強基材6を得た。補強基材の特性を表1-1に示す。強化繊維として、ガラス繊維を用いたため、強度・弾性率は低く、線膨張係数は大きい基材となった。
【0121】
[補強基材7]
炭素繊維1のかわりに、炭素繊維2をカートリッジカッターで6mmにカットしたチョップド炭素繊維を用いた以外は、補強基材2と同様にして補強基材7を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。弾性率の高い繊維を用いたため、弾性率の高い基材となった。
【0122】
[補強基材8]
一方向に延びる炭素繊維3を広幅化した炭素繊維基材と、繊維質量含有率が60%となるように使用量を調整した、各々のフィルムの厚みが同じ、ナイロン6樹脂フィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、プレス成形により、250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけて、一方向連続炭素繊維にナイロン6樹脂が含浸した補強基材8を作製した。補強基材の特性を表1-1に示す。一方向に繊維が連続しているため、特性に異方性を有する基材となった。
【0123】
[補強基材9]
炭素繊維基材と樹脂フィルムを積層する際、炭素繊維基材3枚と、各々のフィルムの厚みが同じナイロン6樹脂フィルム6枚とを、下方からフィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材9を作製した。補強基材の特性を表1-2に示す。積層枚数を増加させたため、分厚い基材となった。
【0124】
[補強基材10]
炭素繊維基材と樹脂フィルムを積層する際、炭素繊維基材4枚と、各々のフィルムの厚みが同じナイロン6樹脂フィルム8枚とを、下方からフィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材10を作製した。補強基材の特性を表1-2に示す。積層枚数を増加させたため、分厚い基材となった。
【0125】
[補強基材11]
炭素繊維基材と樹脂フィルムを積層する際、炭素繊維基材6枚と、各々のフィルムの厚みが同じナイロン6樹脂フィルム12枚とを、下方からフィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材11を作製した。補強基材の特性を表1-2に示す。積層枚数を増加させたため、分厚い基材となった。
【0126】
[補強基材12]
炭素繊維基材と樹脂フィルムを積層する際、炭素繊維基材8枚と、各々のフィルムの厚みが同じナイロン6樹脂フィルム16枚とを、下方からフィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材12を作製した。補強基材の特性を表1-2に示す。積層枚数を増加させたため、分厚い基材となった。
【0127】
[補強基材13]
炭素繊維基材と樹脂フィルムを積層する際、炭素繊維基材12枚と、各々のフィルムの厚みが同じナイロン6樹脂フィルム24枚とを、下方からフィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルム/フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層したこと以外は、補強基材1と同様にして補強基材13を作製した。補強基材の特性を表1-2に示す。積層枚数を増加させたため、分厚い基材となった。
【0128】
[射出樹脂1]
東レ(株)製、TLP1060(長繊維炭素繊維/ナイロン樹脂)
射出樹脂1の特性を表2に示す。
【0129】
[射出樹脂2]
東レ(株)製、A630T-30V(短繊維炭素繊維/PPS樹脂)
射出樹脂2の特性を表2に示す。
【0130】
[射出樹脂3]
東レ(株)製、TLP8169(長繊維炭素繊維/PP樹脂)
射出樹脂3の特性を表2に示す。
【0131】
[射出樹脂4]
東レ(株)製、CM1007(非強化ナイロン樹脂)
射出樹脂4の特性を表2に示す。
【0132】
実施例1
補強基材1を150mm×30mmにカットした。カットした補強基材を、縦150mm×横150mm×厚さ1mmのキャビティを持つ射出成形金型の、ウェルドラインが生じると考えられる中央部に、射出成形体との一体化後に補強基材がウェルドラインを覆って沿うようにインサートした。射出樹脂1をシリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、補強基材と射出成形体が一体化した一体化成形体を作製した。補強基材1は射出成形体のウェルドラインの幅方向において、30mmの距離にわたって射出成形体と一体化していた。得られた一体化成形体においては、補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は優れていた。得られた一体化成形体は、
図2に示すような形態であった。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。
【0133】
実施例2
補強基材1の代わりに、補強基材2を用いた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。補強基材2の厚みが小さいため、射出樹脂の流動を妨げることなく、得られた一体化成形体の補強基材においては、よれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は優れていた。
【0134】
実施例3
補強基材1の代わりに、補強基材3を用いた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。補強基材3の弾性率が低いため、一体化成形体のウェルドライン部の弾性率は低いが、得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。
【0135】
実施例4
補強基材1の代わりに補強基材4を、射出樹脂1の代わりに射出樹脂2を用い、射出成形時のシリンダー温度を330℃、金型温度を150℃に変えた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。補強基材の樹脂と射出樹脂とがPPS樹脂であるため、得られた一体化成形体においては補強基材によれが見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は優れていた。
【0136】
実施例5
補強基材1の代わりに補強基材5を、射出樹脂1の代わりに射出樹脂3を用い、射出成形時のシリンダー温度を230℃、金型温度を60℃に変えた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。補強基材の樹脂と射出樹脂とがPP樹脂であるが、得られた一体化成形体においては、補強基材によれが見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は優れていた。
【0137】
実施例6
補強基材1の代わりに、補強基材6を用いた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。補強基材に用いた強化繊維がガラス繊維であるため、得られた一体化成形体におけるウェルドライン部の力学特性は低いものの、一体化成形体において補強基材のよれは見られず、品位の良い成形体が作製できた。
【0138】
実施例7
補強基材1の代わりに、補強基材7を用いた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-1に記載した。弾性率の高い炭素繊維を補強基材の強化繊維として用いたため、得られた一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は優れていた。また、一体化成形体において補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。
【0139】
比較例1
補強基材をインサートしない点以外は、実施例1と同様にして、射出成形体を作製した。射出成形体の評価結果は表3-2に記載した。射出材として使用した繊維強化樹脂の力学特性は優れているが、補強基材により補強されていないウェルドライン部の力学特性は非常に低いものであった。
【0140】
比較例2
補強基材をインサートせず、射出樹脂1の代わりに射出樹脂4を用いた点以外は、実施例1と同様にして、射出成形体を作製した。射出成形体の評価結果は表3-2に記載した。射出材として非強化樹脂を用いた場合も、補強基材により補強されていないウェルドライン部の力学特性は非常に低いものであった。
【0141】
比較例3
補強基材1の代わりに、補強基材8を用いた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表3-2に記載した。ただし、補強基材は、補強基材の長手方向が繊維方向となるようにカットした。補強基材には、強化繊維として一方向連続炭素繊維を用いたが、補強基材の繊維がウェルドラインに沿って並んだため、ウェルドライン部では補強効果が得られず、ウェルドラインを補強していない射出成形体と同等の力学特性であった。また、補強基材8は繊維方向と垂直方向の線膨張係数が大きく、曲げ弾性率が低く、異方性があるため、得られた一体化成形体において補強基材のよれが大きく、補強基材の繊維自体も乱れていた。
【0142】
比較例4
補強基材1の代わりに、補強基材9を用いた点以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体の作製を試みた。しかし、補強基材9の厚みが厚く、キャビティの中央まで射出樹脂が流動せず、未充填となり、一体化成形体は得られなかった。
【0143】
実施例8
補強基材1を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例1と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材の幅を小さくしても、実施例1と同様、品位、ウェルドライン部の力学特性の良い成形体が作製できた。
【0144】
実施例9
補強基材2を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例2と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材の幅を小さくしても、実施例2と同様、品位、ウェルドライン部の力学特性の良い成形体が作製できた。インサートした補強基材量を削減でき、ウェルドラインの補強と軽量化の両立の観点からも、優れた一体化成形体といえるものであった。
【0145】
実施例10
補強基材3を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例3と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材3は曲げ弾性率が低く、また、線膨張係数が大きいため、補強基材の幅を小さくすると、一体化後の補強基材に多少のよれが見られた。
【0146】
実施例11
補強基材4を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例4と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材の幅を小さくしても、実施例4と同様、品位、ウェルドライン部の力学特性の良い成形体が作製できた。
【0147】
実施例12
補強基材5を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例5と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材の幅を小さくしても、実施例5と同様、品位・ウェルドライン部の力学特性の良い成形体が作製できた。
【0148】
実施例13
補強基材6を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例6と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材6の力学特性が低く、線膨張係数が大きいため、補強基材の幅を小さくすると、一体化後の補強基材によれが見られた。
【0149】
実施例14
補強基材7を150mm×15mmにカットしたこと以外は、実施例7と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材の幅を小さくしても、実施例7と同様、品位、ウェルドライン部の力学特性の良い成形体が作製できた。インサートした補強基材量を削減でき、ウェルドラインの補強と軽量化の両立の観点からも、優れた一体化成形体といえるものであった。
【0150】
比較例5
補強基材8を150mm×15mmにカットしたこと以外は、比較例3と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表4に記載した。補強基材の幅を小さくすると、一体化後の補強基材のよれが大きくなった。
【0151】
比較例6
補強基材9を150mm×15mmにカットしたこと以外は、比較例4と同様にして、一体化成形体の作製を試みた。しかし、比較例4と同様、補強基材の厚みが厚く、キャビティの中央まで射出樹脂が流動せず、射出樹脂が未充填となり、一体化成形体は得られなかった。
【0152】
実施例15
補強基材1を150mm×30mmにカットした。カットした補強基材を、縦150mm×横150mm×厚さ2mmのキャビティを持つ射出成形金型の、ウェルドラインが生じると考えられる中央部に、一体化後に補強基材がウェルドラインを覆って沿うようにインサートした。射出樹脂1をシリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、補強基材と射出成形体が一体化した一体化成形体を作製した。補強基材1は射出成形体のウェルドラインの幅方向において、30mmの距離にわたって射出成形体と一体化していた。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体の厚みが大きくなったため、一体化成形体のウェルドライン部の幅は増加したが、該ウェルドライン部の力学特性は優れていた。一体化成形体の評価結果は表5-1に記載した。
【0153】
実施例16
補強基材1の代わりに、補強基材10を用いた点以外は、実施例15と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表5-1に記載した。
【0154】
実施例17
補強基材1の代わりに、補強基材11を用いた点以外は、実施例15と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体に対する補強基材厚み割合が増加したため、得られた一体化成形体の力学特性はさらに向上した。一体化成形体の評価結果は表5-1に記載した。
【0155】
実施例18
補強基材1を12.5mm×30mmにカットした。カットした補強基材を、縦130mm×横13mm×厚さ3mmのキャビティを持つ射出成形金型の、ウェルドラインが生じると考えられる中央部に、一体化後に補強基材がウェルドラインを覆って沿うようにインサートした。射出樹脂1をシリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、補強基材と射出成形体が一体化した一体化成形体を作製した。補強基材1は射出成形体のウェルドラインの幅方向において、30mmの距離にわたって射出成形体と一体化していた。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体の厚みが大きくなったため、射出成形体のウェルドラインの幅は増加したが、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は向上した。得られた一体化成形体の模式図を
図3に示す。また、一体化成形体の評価結果は表5-1に記載した。
【0156】
実施例19
補強基材1を12.5mm×30mmにカットした。カットした補強基材を、縦130mm×横13mm×厚さ6mmのキャビティを持つ射出成形金型の、ウェルドラインが生じると考えらえる中央部に、一体化後に補強基材がウェルドラインを覆って沿うようにインサートした。射出樹脂1をシリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、補強基材と射出成形体が一体化した一体化成形体を作製した。補強基材1は射出成形体のウェルドラインの幅方向において、30mmの距離にわたって射出成形体と一体化していた。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、一体化成形体の厚みが大きくなったため、射出成形体のウェルドラインの幅は増加したが、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は向上した。一体化成形体の評価結果は表5-1に記載した。
【0157】
比較例7
補強基材をインサートしない点以外は、実施例15と同様にして、射出成形体を作製した。射出成形体の評価結果は表5-2に記載した。射出材として使用した繊維強化樹脂の力学特性は優れているが、補強基材により補強されていないウェルドラインの力学特性は非常に低いものであった。
【0158】
比較例8
補強基材をインサートしない点以外は、実施例18と同様にして、射出成形体を作製した。射出成形体の評価結果は表5-2に記載した。射出材として使用した繊維強化樹脂の力学特性は優れているが、補強基材により補強されていないウェルドラインの力学特性は非常に低いものであった。
【0159】
比較例9
補強基材をインサートしない点以外は、実施例19と同様にして、射出成形体を作製した。射出成形体の評価結果は表5-2に記載した。射出材として使用した繊維強化樹脂の力学特性は優れているが、補強基材により補強されていないウェルドラインの力学特性は非常に低いものであった。
【0160】
比較例10
補強基材1の代わりに、補強基材12を用いた点以外は、実施例15と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表5-2に記載した。得られた一体化成形体のウェルドラインの力学特性は優れていたが、補強基材厚み割合が中立補強基材割合を超過しているため、補強効果は、実施例17と同様であり、補強基材厚み割合増加による、補強効果の増加はみられなかった。
【0161】
比較例11
補強基材1の代わりに、補強基材13を用いた点以外は、実施例15と同様にして、一体化成形体の作製を試みた。しかし、補強基材13の厚みが厚く、キャビティの中央まで射出樹脂が流動せず、未充填となり、一体化成形体は得られなかった。
【0162】
比較例12
補強基材1を12.5mm×5mmにカットしたこと以外は、実施例18と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表5-2に記載した。補強基材幅がウェルド幅よりも小さいため、補強効果はみられなかった。
【0163】
比較例13
補強基材1を12.5mm×5mmにカットしたこと以外は、実施例19と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表5-2に記載した。補強基材幅がウェルド幅よりも小さく、ウェルドラインを幅方向に覆うことができなかったため、補強効果はみられなかった。
【0164】
実施例20
縦150mm×横190mm×厚さ1mmの平板部と、ボス、リブが存在する高さ10mmの立ち壁(R=2.5)とから構成される箱型射出成形金型を用意するとともに、補強基材1を、補強基材が一体化された際の一体化成形体投影面積における補強基材の面積比率が50%となる大きさにカットした。カットした補強基材を、箱型射出成形金型にインサートし、射出樹脂1をシリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、補強基材と射出成形体が一体化した一体化成形体を作製した。補強基材1は射出成形体のウェルドラインの幅方向において、30mmの距離にわたって射出成形体と一体化していた。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、得られた成形体の強度は非常に優れていた。得られた一体化成形体の模式図を
図4に示す。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。
【0165】
実施例21
補強基材1の代わりに補強基材4を、射出樹脂1の代わりに射出樹脂2を用い、射出成形時のシリンダー温度を330℃、金型温度を150℃に変えた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、得られた成形体の強度は非常に優れていた。
【0166】
実施例22
補強基材1の代わりに補強基材5を、射出樹脂1の代わりに射出樹脂3を用い、射出成形時のシリンダー温度を230℃、金型温度を60℃に変えた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、得られた成形体の強度は非常に優れていた。
【0167】
実施例23
補強基材1の代わりに補強基材3を用いた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、補強基材の強度が低いため、得られた一体化成形体の強度は低下した。
【0168】
実施例24
補強基材1の代わりに補強基材6を用いた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、補強基材の強度が低いため、得られた一体化成形体の強度は低下した。
【0169】
実施例25
補強基材1の代わりに補強基材2を用いた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。しかし、補強基材の剛性が高く、補強基材の端部に応力が集中しため、得られた一体化成形体の強度は低下した。
【0170】
実施例26
補強基材1の代わりに補強基材7を用いた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表6-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。しかし、補強基材の剛性が高く、補強基材の端部に応力が集中しため、得られた一体化成形体の強度は低下した。
【0171】
比較例14
補強基材1を、補強基材が一体化された際の一体化成形体投影面積における補強基材の面積比率が100%となるようにカットした点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体の作製を試みた。しかし、射出金型の全面に補強基材が配置されたため、エアーや樹脂の分解ガスが抜けにくい、あるいは、樹脂の流動性が低下し、樹脂が未充填となり、一体化成形体が得られなかった。
【0172】
比較例15
補強基材1の代わりに補強基材8を用いた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。ただし、この際、補強基材8の繊維方向は成形体の短辺方向とした。一体化成形体の評価結果は表6-2に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれが生じた。また、補強基材の剛性が高く、補強基材の端部に応力が集中しため、得られた一体化成形体の強度は低下した。
【0173】
比較例16
補強基材1の代わりに補強基材8を用いた点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。ただし、この際、補強基材8の繊維方向は成形体の長辺方向とした。一体化成形体の評価結果は表6-2に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれが生じた。また、補強基材の繊維方向がウェルドラインと同方向となり、ウェルドラインの補強効果が低いため、一体化成形体の強度は大きく低下した。
【0174】
比較例17
補強基材1をインサートしなかった点以外は、実施例22と同様にして、一体化成形体を作製した。射出成形体の評価結果は表6-2に記載した。ウェルドラインが露出しているため、得られた射出成形体の強度は低下した。
【0175】
実施例27
補強基材1を、補強基材が一体化された際の一体化成形体投影面積における補強基材の面積比率が30%となるようにカットした点以外は、実施例20と同様にして、一体化成形体を作製した。補強基材1は射出成形体のウェルドラインの幅方向において、15mmの距離にわたって射出成形体と一体化していた。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、得られた成形体の強度は非常に優れていた。さらに、補強基材の面積が減少し、薄肉成形性、複雑形状成形性の観点から、優れていた。得られた一体化成形体の模式図を
図5に示す。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。
【0176】
実施例28
補強基材1の代わりに補強基材4を、射出樹脂1の代わりに射出樹脂2を用い、射出成形時のシリンダー温度を330℃、金型温度を150℃に変えた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、得られた成形体の強度は非常に優れていた。さらに、補強基材の面積が減少し、薄肉成形性、複雑形状成形性の観点から、優れていた。
【0177】
実施例29
補強基材1の代わりに補強基材5を、射出樹脂1の代わりに射出樹脂3を用い、射出成形時のシリンダー温度を230℃、金型温度を60℃に変えた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。また、得られた成形体の強度は非常に優れていた。さらに、補強基材の面積が減少し、薄肉成形性、複雑形状成形性の観点から、優れていた。
【0178】
実施例30
補強基材1の代わりに補強基材3を用いた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。さらに、補強基材の面積が減少し、薄肉成形性、複雑形状成形性の観点から、優れていた。
【0179】
実施例31
補強基材1の代わりに補強基材6を用いた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。さらに、補強基材の面積が減少し、薄肉成形性、複雑形状成形性の観点から、優れていた。
【0180】
実施例32
補強基材1の代わりに補強基材2を用いた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。しかし、補強基材の剛性が高く、かつ、補強基材の面積が減少し、補強基材の端部に応力が集中しため、得られた一体化成形体の強度は大きく低下した。
【0181】
実施例33
補強基材1の代わりに補強基材7を用いた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。一体化成形体の評価結果は表7-1に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれも見られず、品位の良い成形体が作製できた。しかし、補強基材の剛性が高く、かつ、補強基材の面積が減少し、補強基材の端部に応力が集中しため、得られた一体化成形体の強度は大きく低下した。
【0182】
比較例18
補強基材1の代わりに補強基材8を用いた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。ただし、この際、補強基材8の繊維方向は成形体の短辺方向とした。一体化成形体の評価結果は表7-2に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれが生じた。また、補強基材の剛性が高く、かつ、補強基材の面積が減少し、補強基材の端部に応力が集中しため、得られた一体化成形体の強度は大きく低下した。
【0183】
比較例19
補強基材1の代わりに補強基材8を用いた点以外は、実施例27と同様にして、一体化成形体を作製した。ただし、この際、補強基材8の繊維方向は成形体の長辺方向とした。一体化成形体の評価結果は表7-2に記載した。得られた一体化成形体においては補強基材のよれが生じた。また、補強基材の繊維方向がウェルドラインと同方向となり、ウェルドラインの補強効果が低いため、成形体の強度は大きく低下した。
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
実施例1~14に示されるように、射出成形体のウェルドラインの補強に関しては、上記したような関係を満足する補強基材を用いることによって、補強基材と射出成形体との一体化の際に、補強基材がよれたり、射出樹脂に埋没したりせず、ウェルドラインが十分に補強された一体化成形体が作製できた。特に、曲げ強度、曲げ弾性率、線膨張係数が優れている補強基材を用いる場合に関しては、補強基材を小さくしても、補強基材が乱れたり、射出樹脂に埋没したりせず、ウェルドラインが十分に補強された一体化成形体が作製できた。コスト削減、軽量化の観点から、補強基材量を削減することは、好ましいと考えられる。
【0197】
一方、補強基材を用いていない比較例1および比較例2はウェルドラインの強度、弾性率が著しく低かった。また、一方向連続繊維基材により補強した比較例3および比較例5は、繊維方向と垂直方向の強度、弾性率が非常に低く、射出樹脂の流れに補強基材が押し流されて補強基材が蛇行するか、あるいは、線膨張係数に異方性があるために一体化の際に補強基材が浮き上がり射出樹脂に埋没した。その結果、ウェルドラインに対する補強が不十分となり、強度、弾性率が改善されないものであった。また、厚肉の補強基材を用いると補強基材の剛性は獲得できると考えられるが、その場合、比較例4および比較例6に示すように、射出樹脂の充填が困難となり、一体化成形体の作製が難しくなった。
【0198】
実施例1、15~19に示されるように、一体化成形体に対する補強基材の厚み割合が増加すると、一体化成形体のウェルドライン部の力学特性が向上した。特に、補強基材の厚み割合が中立補強基材割合と同等の一体化成形体のウェルドライン部の力学特性は優れていた。しかし、比較例10、11が示すように、補強基材厚み割合が中立補強基材割合を超過すると、補強効果は飽和するのに加え、徒に補強基材厚みを増加することとなり、射出樹脂の充填が困難となり、一体化成形体の作製が困難となった。
【0199】
実施例20~24に示すように、射出成形体に対する補強基材の弾性率比が0.7~1.3の範囲内であると、補強基材と射出成形体の接合界面、あるいは、補強基材端部への応力集中がしづらくなるため、それら一体化成形体の強度は優れたものとなった。また、実施例27~31に示すように、補強基材の面積が減少し、補強基材と射出成形体の接合界面、あるいは、補強基材端部へ応力集中しやすい状態でも、射出成形体に対する補強基材の弾性率比が0.7~1.3の範囲内であると、一体化成形体の強度は優れたものであった。さらに、実施例20~22に示すように、射出成形体に対する補強基材の弾性率比が0.8~1.2の範囲内であると、一体化成形体の強度はより優れるものとなった。
【0200】
一方、比較例14に示すように、補強基材と射出成形体の接合界面を増加させるために、補強基材を、インサートした面から観て、成形体の面積と同じ面積となるように多量に配置してしまうと、射出樹脂の流動性が低下する、あるいは、エアーや樹脂の分解ガスが排出しづらくなり、射出樹脂が未充填となり、成形体が得られなかった。
【0201】
比較例17に示すように、射出成形体のウェルドラインが大きく露出していると、ウェルドラインに応力が集中し、成形体の強度が低下した。
【0202】
実施例25、26、32、33、比較例15、19に示すように、射出樹脂に対して、弾性率が高い補強基材を用いると、補強基材と射出成形体の接合界面、あるいは、補強基材端部へ応力が集中しやすいため、一体化成形体の強度は低下した。さらに、補強基材の面積が減少すると、その応力集中がより顕著となり、一体化成形体の強度はさらに低下した。
【0203】
比較例16、19に示すように、連続繊維強化樹脂基材の繊維方向がウェルドラインに沿うようにウェルド補強を行うと、補強効果がほとんど得られず、ウェルドラインに応力が集中するため、一体化成形体の強度は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明の一体化成形体は、射出成形体の課題であるウェルドラインでの強度・剛性低下を解決できる。特に、用いる補強基材は、薄肉であり、その特性が優れ、等方的であるため、補強材を小さくしても、ウェルドラインに対して乱れることなく、ウェルドラインを補強可能である。また、補強基材は、射出成形体と弾性率が同等のため、補強基材と射出成形体との界面、あるいは、補強基材端部への応力が集中しづらく、一体化成形体の強度は優れている。さらに、補強基材を小さくしても、応力は集中しにくく、一体化成形体の強度は高いため、設計の自由度が高い。そのため、薄肉成形あるいは複雑形状成形などの自由な設計が可能であり、電気・電子機器、ロボット、二輪車、自動車、航空機の部材、部品および筐体など幅広い産業分野の射出成形体に適用できる。
【符号の説明】
【0205】
1.補強基材のインサート範囲S0
2.補強基材のインサート範囲S0内に存在する一体化後の補強基材の面積S1
3.補強基材
4.射出成形体
5.ウェルドライン
6.試験片カット範囲
7.リブ
8.ボス
9a、9b. 測定治具