IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7156033捲縮繊維、スパンボンド不織布、およびそれらの製造方法
<>
  • 特許-捲縮繊維、スパンボンド不織布、およびそれらの製造方法 図1
  • 特許-捲縮繊維、スパンボンド不織布、およびそれらの製造方法 図2
  • 特許-捲縮繊維、スパンボンド不織布、およびそれらの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】捲縮繊維、スパンボンド不織布、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20221012BHJP
   D01D 4/02 20060101ALI20221012BHJP
   D01D 5/088 20060101ALI20221012BHJP
   D01D 5/253 20060101ALI20221012BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20221012BHJP
   D04H 3/018 20120101ALI20221012BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
D01F6/04 D
D01D4/02
D01D5/088
D01D5/253
D04H3/007
D04H3/018
D04H3/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018553270
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2018025996
(87)【国際公開番号】W WO2019021809
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017146285
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】勝田 大士
(72)【発明者】
【氏名】羽根 亮一
(72)【発明者】
【氏名】船津 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】西村 誠
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-000849(JP,B1)
【文献】特開平05-209354(JP,A)
【文献】特開平05-156562(JP,A)
【文献】特開平4-194008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
D01F1/00-6/96
D01F9/00-9/04
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分とする繊維であって、実質的に単一原料で構成されており、繊維長さ方向に対して垂直な断面に界面が存在する捲縮繊維を製造する方法であって、ポリオレフィン系樹脂を2つの円の吐出孔面積に差があるダンベル型ノズルから吐出させる、捲縮繊維の製造方法。
【請求項2】
前記ダンベル型ノズルの2つの吐出孔面積が、大孔径面積/小孔径面積の値(面積比率)で1.2以上である、請求項に記載の捲縮繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂をダンベル型ノズルから吐出させた繊維群の側面に対し、相対する2方向から冷却風を当てて冷却する、または対称な3方向以上から冷却風を当てて冷却する、請求項又はに記載の捲縮繊維の製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂をダンベル型ノズルから吐出させた繊維群を自然冷却する、請求項又はに記載の捲縮繊維の製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィンを主成分とする繊維であって、実質的に単一原料で構成されており、繊維長さ方向に対して垂直な断面に界面が存在する捲縮繊維を含んでなるスパンボンド不織布を製造する方法であって、ポリオレフィン系樹脂を2つの円の吐出孔面積に差があるダンベル型ノズルから吐出させて捲縮繊維を製造し、前記捲縮繊維を紡糸直下で捕集し、1対のロールを用いて繊維を圧着することでシート化する、スパンボンド不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捲縮繊維、それを用いたスパンボンド不織布、捲縮繊維の製造方法、およびスパンボンド不織布の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料用の不織布には、着用時の風合いのため、嵩高性および柔軟性に優れているという性能が求められている。特に、肌に直接触れる表面部材においては、嵩高性が要求される。
【0003】
従来、衛生材料の表面部材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリエチレン(PE)複合繊維を代表とする短繊維を、カーディングによりシート化した後、熱風処理により自己融着した、いわゆるエアスルー不織布が好適に使用されている。このエアスルー不織布は、嵩高性と柔軟性に優れているという特徴を有していることから、衛生材料用途等に幅広く採用されている。しかし、エアスルー不織布は製造プロセスが複雑であり、生産速度が遅いという課題がある。
【0004】
一方、ポリプロピレン(以下、PPと略記することがある。)を代表とするポリオレフィン系樹脂繊維を原料として用いたスパンボンド不織布は、そのプロセスから生産性が高く低コストであることを特徴としている。しかし、スパンボンド不織布を構成する長繊維が不織布の面方向に配向する構造であることから、嵩高性に劣るという課題がある。
【0005】
そこで、スパンボンド不織布に嵩高性を付与する手法として、不織布を構成する繊維に捲縮繊維を適用するという手法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、融点が10℃以上異なる2成分のポリマーから構成される捲縮複合繊維が提案されている。
【0007】
また、特許文献2では、V型断面ノズルを用いた異形断面に対し、吐出後の繊維に対し片側から冷却する非対称冷却を行い、捲縮を発現させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5484564号公報
【文献】特開平11-292159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の手法の場合、異なる原料を別々の押出機によって押出し、紡糸口金から吐出する必要があるため、設備投資が高くなるという課題がある。また、特許文献1の手法では融点が10℃以上異なる原料を選定する必要があり、通常のPP(いわゆるホモPP)と共重合PP(いわゆるランダムPP)の組み合わせが必要となる。一般的に、ランダムPPはホモPPより原料価格が高いため、コストアップとなり、さらに、得られる複合繊維の捲縮数には限度があるため、エアスルー不織布並みの嵩高性は得られていない。
【0010】
また、特許文献2の手法の場合、原料が単成分においても捲縮が発現するという特徴はあるが、この方法では、冷却風速を大きくすると、糸揺れ・糸切れが起こるため、生産安定性の観点から冷却風速を小さくせざるを得なく、得られる捲縮数は小さくなり、衛生材料の表面材に適用できるほどの嵩高性は得られていないのが現状である。
【0011】
したがって、従来、低コストで、かつ工業的に生産性と安定性に優れ、衛生材料として好適に使用される上で満足のいくレベルの嵩高性に優れた捲縮繊維およびスパンボンド不織布は得られていないのが現状である。
【0012】
そこで本発明の目的は、上記の課題に鑑み、低コストで、嵩高性に優れた捲縮繊維およびスパンボンド不織布を提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明の捲縮繊維を、工業的に生産性と安定性に優れた方法で製造することができる捲縮繊維の製造方法およびスパンボンド不織布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の捲縮繊維は、ポリオレフィンを主成分とする繊維であって、実質的に単一原料で構成されており、繊維長さ方向に対して垂直な断面に界面が存在する、捲縮繊維である。
【0014】
本発明のスパンボンド不織布は、本発明の捲縮繊維を含んでなる、スパンボンド不織布である。
【0015】
本発明の捲縮繊維の製造方法は、本発明の捲縮繊維を製造する方法であって、ポリオレフィン系樹脂を2つの円の吐出孔面積に差があるダンベル型ノズルから吐出させる、捲縮繊維の製造方法である。
【0016】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、本発明のスパンボンド不織布を製造する方法であって、本発明の捲縮繊維の製造方法によって得られた捲縮繊維を紡糸直下で捕集し、1対のロールを用いて繊維を圧着することでシート化する、スパンボンド不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コストで、嵩高性に優れた捲縮繊維およびスパンボンド不織布が得られる。また、本発明の捲縮繊維および本発明のスパンボンド不織布を、工業的に生産性と安定性に優れた方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の捲縮繊維の断面を例示する写真である。
図2】本発明の捲縮繊維の断面を例示する写真の模式図である。
図3】本発明の捲縮繊維を製造する上で使用される紡糸口金の吐出面を例示する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の捲縮繊維は、ポリオレフィンを主成分とする繊維であって、実質的に単一原料で構成されており、繊維長さ方向に対して垂直な断面に界面が存在する。
【0020】
本発明の捲縮繊維は、繊維長さ方向に対して垂直な断面に界面が存在することが重要である。以下、「繊維長さ方向に対して垂直な断面」を、単に「繊維断面」という場合がある。本発明でいう繊維断面の界面とは、繊維断面に存在する筋状に観察できるもののこと指す。繊維断面内に分子配向差が生じることで、実質的に単一原料で構成される繊維においても、繊維断面内での屈折率差が生じるため、界面が観察することができる。そのため、本発明でいう界面は、繊維断面を2分割またはそれ以上に分割するようになるため、界面の始点と終点は繊維断面の外周上に存在する。よって、繊維断面の外周上に始点と終点が存在しないものは、本発明でいう界面から除外する。この界面は繊維をエポキシ樹脂等で固定し、ミクロトームを用いて極薄の試料片とした際に観察することができる。本発明でいう界面は、分子鎖レベルの構造差により観察できるため、試料片の作成方法が重要である。試験片の作成においては、簡易的なカミソリ刃等ではなく、TEM等の顕微鏡観察に通常用いるミクロトームを用いて作成することが重要である。
【0021】
図1に本発明の捲縮繊維の断面を例示する写真を示す。図1の(a)は、後述の実施例1で得られた捲縮繊維の断面写真である。図1の(b)は、ダンベル型ノズルを用いて得られた、図1の(a)とは別の本発明の捲縮繊維の断面写真である。いずれの断面写真においても、繊維断面の界面10が存在する。
【0022】
また、図2の(a)、(b)はそれぞれ、図1の(a)、(b)の断面写真の模式図である。
【0023】
本発明の捲縮繊維は実質的に単一原料で構成されることが重要である。
【0024】
本発明でいう、実質的に単一原料で構成されるとは、いわゆる2成分以上の原料で構成される複合繊維ではなく、主原料であるオレフィン種が1種類であることを意味する。通常用いられている酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤および顔料等の添加物等は、ポリマーの原料としてカウントしない。すなわち、オレフィン種が1種類であるポリマーが、これらの添加物等を何種類含んでいても、該ポリマーは実質的に単一原料で構成されたポリマーとなる。また、複数の原料をチップの状態で混合した後に紡糸する、いわゆるブレンド紡糸は、1台の押出機等で溶融して紡糸口金へと供給することから、本発明においては単一原料で構成されたポリマーとして扱う。
【0025】
本発明において、「ポリオレフィンを主成分とする」とは、捲縮繊維中のポリオレフィンの含有率が80質量%以上であることをいう。前記含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の捲縮繊維および不織布を構成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらのモノマーと他のα-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。なかでも、強度が強く、使用時において破断し難く、かつ衛生材料の生産時における寸法安定性に優れていることから、ポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0027】
ポリプロピレンは、一般的なチーグラナッタ触媒により合成されるポリマーでもよく、メタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されるポリマーでもよい。また、エチレンランダム共重合ポリプロピレンも用いることができる。エチレン含有量は、エチレンランダム共重合体プロピレン全体の質量を100質量%として、2質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満である。
【0028】
他のα-オレフィンとしては、炭素数3~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキサン、4-メチル-1-ペンテン、および1-オクテンなどが挙げられる。これらは、1種類単独でも2種類以上を組み合わせてもよい。
【0029】
強度と寸法安定性、および生産性とコストの観点から、ホモポリプロピレンを主成分とするものであることが特に好ましい。
【0030】
本発明で用いられるポリプロピレンのメルトフローレート(以下、MFRと記載する場合がある;ASTM D-1238 A法 荷重;2160g、温度;230℃)は、1~1000g/10分であることが好ましく、10~500g/10分であることがより好ましく、20~200g/10分であることがさらに好ましい。ポリプロピレンのメルトフローレートを上記範囲とすることにより、安定した紡糸を行いやすくなり、かつ配向結晶化が進みやすくなり、高い強度の繊維が得られやすくなる。
【0031】
本発明で用いられるポリエチレンのメルトフローレート(ASTM D-1238 A法 荷重;2160g、温度;190℃)は、1~1000g/10分であることが好ましく、10~500g/10分であることがより好ましく、15~200g/10分であることがさらに好ましい。ポリエチレンのメルトフローレートを上記範囲とすることにより、安定した紡糸を行いやすくなり、かつ配向結晶化が進みやすくなり、高い強度の繊維が得られやすくなる。
【0032】
本発明で用いられるポリプロピレンおよびポリエチレンには、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられている酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤および顔料等の添加物あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0033】
本発明のスパンボンド不織布は、本発明の捲縮繊維を含んでなる。一般的な不織布の製法としては、例えば、ニードルパンチ不織布、湿式不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、レジンボンド不織布、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、トウ開繊式不織布、およびエアレイド不織布等の種々の製法があるが、本発明ではスパンボンド法による不織布であることが重要である。スパンボンド不織布は、生産性や機械的強度に優れ、また、長繊維からなるため短繊維不織布に比べて毛羽立ちしにくい特徴を有する。
【0034】
本発明において、ポリオレフィンを主成分とする繊維の平均単繊維繊度は、0.5dtex以上3.5dtex以下であることが好ましく、より好ましくは0.7dtex以上3.2dtex以下であり、さらに好ましくは0.9dtex以上2.8dtex以下である。紡糸安定性の観点から、平均単繊維繊度は、0.5dtex以上であることが好ましい。一方、繊度が細い程、スパンボンド不織布として糸の接着点が多くなるため強度が高く、柔軟性が良好となりやすい。衛生材料として使用するためには、スパンボンド不織布の強力の観点から、平均単繊維繊度は3.5dtex以下であることが好ましい態様である。上記の平均単繊維繊度は、繊維断面写真における繊維断面積A(m)とポリマー密度ρ(g/m)から、次式を用いて算出することができる。
・単繊維繊度(dtex)=A(m)×ρ(g/m)×10000(m)。
【0035】
本発明のスパンボンド不織布は、目付が3~200g/mであることが好ましい。前記目付は、より好ましくは5~150g/mであり、さらに好ましくは10~100g/mである。目付を上記範囲とすることにより、特に衛生材料用不織布として用いる場合に、十分な柔軟性が得られやすくなる。
【0036】
本発明のスパンボンド不織布の見掛密度は、0.130g/cm以下であることが好ましい。前記見掛密度は、目付を厚さで除することにより算出することができる。見掛密度は、より好ましくは0.125g/cm以下であり、さらに好ましくは0.100g/cm以下である。見掛密度を上記の範囲とすることにより、特に衛生材料用不織布として用いる場合に、十分な嵩高性が得られやすくなる。
【0037】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアーの使用量が比較的少なく、繊維同士の融着や擦過が起こりにくい点から矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましく用いられる。
【0038】
本発明の捲縮繊維の製造方法は、本発明の捲縮繊維を製造する方法であって、ポリオレフィン系樹脂を2つの円の吐出孔面積に差があるダンベル型ノズルから吐出させる。前記ダンベル型ノズルの2つの吐出孔面積が、大孔径面積/小孔径面積の値(面積比率)で1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは2.0以上である。面積比率を上記範囲とすることにより、得られる繊維に構造差を付与することができる。面積比率の値の上限値は特に限定されないが、面積比率が大きくなるにつれて、吐出直後の糸曲がりが大きくなり紡糸が不安定になることから、面積比率はせいぜい5.0以下である。
【0039】
本発明の捲縮繊維の断面形状を得る紡糸口金の吐出孔(ノズル)は、図3に例示される吐出孔の形状(本発明においては、ダンベル型ノズルと称する)をしていることが重要である。ダンベル型ノズルの吐出形状は、長方形の両側にそれぞれ円が配置されている形状であり、円の孔径に差がある形状である。図3に例示されている吐出孔には、吐出孔(大孔径側)20と吐出孔(小孔径側)30が示されている。
【0040】
溶融し紡糸する際の紡糸温度は、200~300℃が好ましく、より好ましくは210~280℃であり、さらに好ましくは220~260℃である。紡糸温度を上記範囲とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。ポリオレフィン樹脂(原料)は押出機によって、溶融し計量され、紡糸口金へと供給されて口金吐出孔から紡出される。
【0041】
紡出された長繊維の繊維群を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に繊維群に吹き付ける方法、繊維群周りの雰囲気温度にて自然冷却する方法、紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法、およびこれらの組み合わせを採用することができる。
【0042】
冷却は、繊維群の側面に対し相対する2方向から冷却風を当てる、もしくは、繊維群の側面に対し対称な3方向以上から冷却風を当てる、または自然冷却することが好ましい。
【0043】
すなわち、本発明の捲縮繊維の製造方法の第一の好適な態様においては、ポリオレフィン系樹脂をダンベル型ノズルから吐出させた繊維群の側面に対し、相対する2方向から冷却風を当てて冷却する、または対称な3方向以上から冷却風を当てて冷却することが好ましい。本発明において、繊維群の「側面」とは、ダンベル型ノズルから吐出された繊維群の進行方向と平行で、繊維群の最も外側の繊維に沿って繊維群を囲む仮想の面をいう。また、「対称な3方向以上から冷却風を当てる」とは、繊維群の進行方法と垂直な仮想の断面において、隣接する冷却風の風向のなす角が概ね360/n度となるn方向から冷却風を当てることを指す。例えば、n=3の場合、繊維群の進行方向と垂直な仮想の断面において、隣接する冷却風の風向のなす角が概ね360/3=120度となる3方向から冷却風を当てることを指す。
【0044】
繊維群の側面に対し、相対する2方向から冷却風を当てる、もしくは対称な3方向以上から冷却風を当てることで、繊維群の揺れを抑え、安定した曳糸性を得ることができる。また、後述の本発明の捲縮繊維の製造方法の第二の好適な態様と比較して、より短時間で繊維群を冷却することができる。
【0045】
片側から冷却風を当てる、いわゆる非対称冷却の場合、繊維群のゆれが大きくなることで糸切れが発生しやすくなり、また、繊維間での冷却ムラが生じやすくなる。
【0046】
本発明の捲縮繊維の製造方法の第二の好適な態様においては、本発明の捲縮繊維を製造する方法であって、ポリオレフィン系樹脂をダンベル型ノズルから吐出させた繊維群を自然冷却することが好ましい。自然冷却を行うことで、上述の本発明の捲縮繊維の製造方法の第一の好適な態様の場合と同様、繊維群の揺れを抑え、安定した曳糸性を得ることができる。
【0047】
また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度、および雰囲気温度等を考慮し適宜調整し採用することができる。
【0048】
次に、冷却固化された繊維群は、エジェクターから噴射する圧縮エアーによって牽引され延伸されることが好ましい。延伸された後は圧縮エアーによる拘束がなくなるため、延伸繊維は応力緩和の影響を受ける。このとき、繊維断面の構造差に起因する収縮差により、繊維に捲縮が発現しやすくなる。
【0049】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、本発明のスパンボンド不織布を製造する方法であって、本発明の捲縮繊維の製造方法によって得られた捲縮繊維を紡糸直下で捕集し、1対のロールを用いて繊維を圧着することでシート化する。
【0050】
本発明において、不織布は、上述のとおり、スパンボンド法で製造される。スパンボンド法は、原料樹脂を溶融し、紡糸口金から紡糸した後、冷却固化した繊維群を、エジェクターで牽引し延伸して、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した後、熱接着する工程を要する製造方法である。
【0051】
上記工程により延伸された後の長繊維(延伸繊維)を、直下にて移動するネット上に捕集して不織ウェブ化し、得られた不織ウェブを熱接着により一体化することにより不織布を得ることができる。なお、本発明において、「紡糸直下で捕集する」とは、延伸を行わない場合は冷却固化直後、延伸を行う場合は延伸直後に捕集することを指す。
【0052】
熱接着の方法としては、例えば、一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、一方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールによる熱圧着や、超音波による融着を適用することができる。
【0053】
中でも強度と耐摩耗性の観点から、エンボスロールを用いた熱接着を好ましく採用することができる。また、一対のいずれかに彫刻(凹凸部)が施されたロールを用いることにより、全体に圧力が掛かりにくくなり、捲縮繊維による嵩高性が損なわれないため好ましい態様である。
【0054】
熱融着時のエンボス接着面積率は、5~30%であることが好ましい。エンボス接着面積率を5%以上、より好ましくは10%以上とすることにより、不織布として実用に供しうる強度を得ることができる。一方、エンボス接着面積率を30%以下、より好ましくは20%以下とすることにより、捲縮繊維による嵩高性を維持することができる。
【0055】
ここでいうエンボス接着面積率とは、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、一方のロールの凸部と他方のロールの凸部とが重なって不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。
【0056】
熱エンボスロールに施される彫刻の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などの形状を用いることができる。
【0057】
熱エンボスロールの表面温度は、使用している樹脂の融点に対し-50~-1℃とすることが好ましい。熱エンボスロールの表面温度を使用している樹脂の融点に対し-50℃以上、より好ましくは-30℃以上、さらに好ましくは-10℃以上とすることにより、十分に熱接着させ強度をもたせ毛羽の発生を抑えやすくすることができる。
【0058】
また、熱エンボスロールの表面温度を樹脂の融点に対し-1℃以下とすることにより、繊維の融解により樹脂同士の剥離が発生するのを防ぎやすくすることができる。
【0059】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、5~50kgf/cmであることが好ましい。前記線圧を5kgf/cm以上、より好ましくは10kgf/cm以上、さらに好ましくは15kgf/cm以上とすることにより、十分に熱接着させることができる。一方、前記線圧を50kgf/cm以下、より好ましくは40kgf/cm以下、さらに好ましくは30kgf/cm以下とすることにより、ロールの応力がかかりすぎないことによって捲縮繊維による嵩高性を維持することができる。
【0060】
本発明の捲縮繊維を用いたスパンボンド不織布は、嵩高性に非常に優れており、使い捨て紙おむつやナプキンなどの衛生材料用途に好適に利用することができる。衛生材料用途の中でも、特に表面材に好適に利用することができる。
【実施例
【0061】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0062】
(1)繊維断面の界面観察
観察用の繊維を5本準備し、エポキシ樹脂を用いて固定した。その後、ミクロトーム(カールツァイス社HM360)を用いて、厚さ2μmの試験片を採取した。得られた試験片を光学顕微鏡(キーエンス社製VHX-2000)により倍率5000倍で観察し、繊維断面に界面が存在するか否かを評価した。5本測定した中、4本以上に界面が確認できた場合を「繊維断面に界面が存在する」とした。
【0063】
(2)繊維の捲縮数:
マイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)により撮影した繊維の画像から、捲縮数を測定した。単位長さ当たりの繊維の山と谷の数全部数え、その合計を2で割り、25mm当たりの数を捲縮数とした。繊維10本について測定し、その平均を求めた。捲縮数が50個/25mm以上を捲縮度(A)、捲縮数が25個/25mm以上50個/25mm未満を捲縮度(B)、捲縮数が0個/25mm(捲縮しないもの)~25個/25mm未満を捲縮度(C)とし、捲縮数が25個/25mm以上のもの(AおよびB)を合格とした。
【0064】
(3)不織布の目付:
JIS L1913(2010年)の6.2「単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
(4)不織布の厚さ:
JIS L 1908(2010年)に準拠して、不織布の厚さを測定した。2500mmの面積を有するプレッサーフットを準備した。プレッサーフットの直径の1.75倍以上の大きさの試験片について、2kPaの圧力を5秒間加えた後、厚さを測定した。試験片10枚分の平均値を算出して、その値を厚みとした。この数値が高いほど、嵩高性に優れると評価した。
(5)不織布の見掛密度:
測定した上記の目付と厚さから、不織布の見掛密度を算出した。この数値が低いほど、嵩高性に優れると評価した。
【0065】
(実施例1)
原料に、メルトフローレート(MFR)が60g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃のポリプロピレン(PP)を用い、これを押出機で溶融し、紡糸温度235℃で、孔径がφ0.38mmとφ0.27mmで両孔の中心距離が0.8mmの吐出形状を有する紡糸口金から単孔吐出量0.6g/分で長繊維を紡出した。紡出された長繊維群の側面に、相対する2方向から冷却風を当てて冷却した後、エジェクターに通して、エジェクター圧力0.15MPaでエジェクターから圧縮エアーを噴射させ、繊維群を牽引し、延伸し、捲縮を発現させた。得られた捲縮繊維の繊維断面は、図1の(a)及び図2の(a)に示された形状であった。また、図1の(a)及び図2の(a)に示された繊維断面において、繊維断面の界面10が確認できた。
【0066】
捲縮を発現させた繊維を直下にて移動するネット上に繊維を捕集して不織ウェブ化した。引き続き、金属製の水玉柄の彫刻がなされた上ロールおよび金属製でフラットな下ロールから構成される一対の接着面積10%のエンボスロールを用いて、線圧が20kgf/cm、熱接着温度135℃で熱接着処理し、目付が20g/mのスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布を構成する繊維の繊維断面界面の有無、捲縮数、不織布の目付、厚み、および見掛密度を測定した。結果を、表1に示す。
【0067】
(実施例2)
原料にMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃のポリプロピレン(PP)を用い、実施例1と同様にして捲縮繊維を得た。得られた捲縮繊維の繊維断面は、図1の(b)及び図2の(b)に示された形状であった。また図1の(b)及び図2の(b)に示された繊維断面の界面10が確認できた。得られた捲縮繊維を用い、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。結果を、表1に示す。
【0068】
(実施例3)
原料にMFRが33g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が149℃の共重合ポリプロピレン(共重合PP)を用い、実施例2と同様にして捲縮繊維を得た。得られた捲縮繊維を用い、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。結果を、表1に示す。
【0069】
(実施例4)
原料にMFRが18g/10分(荷重;2160g、温度;190℃)で、融点が130℃の高密度ポリエチレン(HDPE)を用い、エンボスロールの熱接着温度を90℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。結果を、表1に示す。
【0070】
(実施例5)
原料にMFRが30g/10分(荷重;2160g、温度;190℃)で、融点が130℃の線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてスパンボンド不織布を得た。結果を、表2に示す。
【0071】
(実施例6)
使用する紡糸口金を孔径がφ0.35mmとφ0.32mmで両孔の中心距離が0.8mmの吐出形状を有する紡糸口金としたこと以外は実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。結果を表2に示す。
【0072】
(実施例7)
原料にMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃のポリプロピレン(PP)と、MFRが25g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)の共重合ポリプロピレン(PP)とを各原料の重量比率88:12とした混合原料を用い、実施例2と同様にして捲縮繊維を得た。得られた捲縮繊維を用い、実施例1と同上にしてスパンボンド不織布を得た。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例8)
繊維群の冷却を自然冷却にしたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。結果を表2に示す。
【0074】
(比較例1)
使用する紡糸口金の吐出形状を、従来公知である丸形形状(吐出孔径φ0.5mm)にしたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた結果を表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1、表2の結果から、実施例1~8は、実質的に単一原料で構成されているにもかかわらず、繊維断面に界面が存在しており、繊維は捲縮し、得られたスパンボンド不織布は嵩高性に非常に優れており、衛生材料の表面部材として非常に好適に用いられるものであった。
【0078】
また、比較例1は、通常の丸型断面であり、繊維断面に界面は存在せず、繊維に捲縮は発現しなかった。
【符号の説明】
【0079】
10:繊維断面の界面
20:吐出孔(大孔径側)
30:吐出孔(小孔径側)
図1
図2
図3