(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】排水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/24 20060101AFI20221012BHJP
C02F 1/40 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C02F1/24 D
C02F1/24 A
C02F1/40 C
(21)【出願番号】P 2019001996
(22)【出願日】2019-01-09
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】品川 幾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有香
(72)【発明者】
【氏名】小熊 崇大
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/156386(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0000895(US,A1)
【文献】特開2009-273984(JP,A)
【文献】特開2006-000800(JP,A)
【文献】特開平07-124552(JP,A)
【文献】国際公開第2013/140925(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/20-1/26
C02F 1/30-1/38
C02F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を含有する排水から前記油脂を分離するための排水処理装置であって、
前記排水を収容する処理槽と、
前記処理槽に前記排水を連続的に供給する排水供給装置と、
前記処理槽内の前記排水に空気のマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給装置と、
前記処理槽の上部に設置され、前記処理槽内の液面付近に浮上した前記油脂を含むフロスを除去するフロス除去装置と、を備え
、
前記排水供給装置によって前記排水が供給されることにより、前記処理槽では前記排水の連続処理が行われ、
前記排水供給装置による単位時間あたりの排水供給量は、前記排水処理装置における油脂の目標処理濃度と、前記処理槽においてバッチ処理を行った場合の前記目標処理濃度における油脂濃度の時間微分と、前記処理槽に流入する前記排水中の油脂濃度と、前記排水を収容する前記処理槽の容量とに基づいて決定される、排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるように、油脂含有排水中の油脂スカムを処理する処理方法および装置が知られている。この方法および装置では、処理槽に、水酸化ナトリウム等の鹸化剤を添加し、その後、水に不溶なまたは微溶な金属石鹸を生成する水酸化物を添加して、油脂スカムを金属石鹸に変換している。また、特許文献2に記載されるように、油脂含有排水に対して加圧浮上等の浮上分離法を適用し、油脂分を分離する処理方法および装置が知られている。加圧浮上分離に際して、硫酸バンド等の凝集剤や界面活性剤が使用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-211766号公報
【文献】特開2004-216333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の方法では、排水中に含有される油脂は、凝集剤等の薬剤を用いて除去される。凝集剤が用いられる場合、油脂は、フロスとして除去される。ところが、従来の方法では、薬剤を添加する必要があるため、処理コストが嵩む。また薬剤を添加するための設備も必要であり、設備コストが嵩む。しかも、凝集剤を用いることで、油脂以外の物質も除去され、かつ、フロス中の含水率が比較的高くなるため、フロス量が増大する。その結果、フロスを処理するためのコストも増大してしまう。
【0005】
本発明は、凝集剤を添加することなく油脂を分離することができる排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、油脂を含有する排水から油脂を分離するための排水処理装置であって、排水を収容する処理槽と、処理槽内の排水に空気のマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給装置と、処理槽の上部に設置され、処理槽内の液面付近に浮上した油脂を含むフロスを除去するフロス除去装置と、を備える。
【0007】
この排水処理装置によれば、マイクロバブル供給装置によって、油脂を含有する排水に空気のマイクロバブルが供給される。これにより、凝集剤を添加しないでも、油脂を分離することができる。分離された油脂は、フロスに含まれた状態で液面付近に浮上する。フロス除去装置によって、このフロスが除去され、排水から油脂が除去される。この排水処理装置では、凝集剤が不要であるため、処理コストおよび設備コストが削減される。また凝集剤が用いられないため、フロス中の水分量が小さく(含水率が低く)、また油脂以外の物質の除去率が低い。よって、フロス処理にかかるコストも低減される。
【0008】
いくつかの態様において、排水処理装置は、処理槽に排水を連続的に供給する排水供給装置を備え、排水供給装置によって排水が供給されることにより、処理槽では排水の連続処理が行われる。この場合、処理槽で排水を連続処理し、マイクロバブル供給装置によってマイクロバブルを連続的に供給することにより、排水中の油脂を連続的に分離することができる。
【0009】
いくつかの態様において、排水供給装置による単位時間あたりの排水供給量は、排水処理装置における油脂の目標処理濃度と、処理槽においてバッチ処理を行った場合の目標処理濃度における油脂濃度の時間微分と、処理槽に流入する排水中の油脂濃度と、排水を収容する処理槽の容量とに基づいて決定される。この場合、連続処理によって排水から油脂を除去して、排水の油脂濃度を所望の目標処理濃度まで確実に低下させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のいくつかの態様によれば、凝集剤を添加することなく油脂を分離することができる。その結果として、排水処理装置における処理コストおよび設備コストが削減され、さらには、フロス処理にかかるコストも低減される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】排水処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
【
図3】バッチ処理試験における油脂(ノルマルヘキサン抽出物質)の除去結果を示す図である。
【
図4】バッチ処理試験における有機物(CODクロム)の除去結果を示す図である。
【
図5】連続処理試験における油脂(ノルマルヘキサン抽出物質)の除去結果を示す図である。
【
図6】連続処理試験における有機物(CODクロム)の除去結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1に示されるように、排水処理装置1は、油脂を含有する排水を処理するための装置である。排水処理装置1は、排水から油脂を分離し、除去する。排水処理装置1によって処理される排水は、油脂を含有する排水であればよく、特に限定されない。排水は、食品工場の排水であってもよいし、飲食施設等から排出される排水であってもよい。排水は食品工場に限られず、油脂分を含有する製品を生産する工場の排水であってもよい。本明細書における「油脂」は、当業者によって知られている水質項目のひとつである「ノルマルヘキサン抽出物質」とも言える。
【0014】
排水処理装置1は、処理対象となる排水(原水)をいったん貯留するための排水貯留タンク2と、排水貯留タンク2から送られた排水を収容する処理槽3とを備える。排水貯留タンク2および処理槽3は、排水供給ラインL1によって接続されている。この排水供給ラインL1には、排水供給ポンプ(排水供給装置)10が設けられている。排水貯留タンク2は、排水量の時間変動等に応じて、適宜の容量を有する。排水貯留タンク2は、排水の排出源(工場や施設等)と、排水処理装置1との間に設置されたバッファタンクである。
【0015】
処理槽3は、たとえば竪型のタンクであり、排水供給ラインL1は、たとえば処理槽3の下部に接続されている。排水供給ポンプ10は、処理槽3に排水を連続的に供給する。処理槽3は、所定の容量(排水を収容する容量)を有しており、処理槽3内に、排水を所定の滞留時間をもって滞留させる。排水供給ポンプ10の型式は、排水の性状に対応したものであって、排水供給量を自在に変更可能なものであれば、どのような型式であってもよい。排水供給ポンプ10が、排水貯留タンク2内に設置された水中ポンプ等であってもよい。排水供給ポンプ10による単位時間あたりの排水供給量の設定については、後述する。処理槽3には、たとえば上部において、油脂が分離・除去された排水を処理水として排出するための処理水排出ラインL2が接続されている。処理水排出ラインL2から、たとえばオーバーフロー(重力による自然流下)によって、処理水が排出される。
【0016】
なお、処理槽3に対して、排水の温度調整装置が設けられてもよい。処理槽3内の液温は、5℃~30℃であることが好ましい。排水の温度が高い場合に、処理槽3にチラー等の冷却装置が設けられてもよい。処理槽3に対して、排水のpH調整装置が設けられてもよい。処理槽3内の排水は、たとえば中性付近に維持され得る。処理槽3にpH調整装置が設けられる場合には、処理槽3内に排水の撹拌装置が設けられてもよい。また、処理槽3には排水のpH調整装置が設けられず、排水貯留タンク2またはそれよりも前段において、排水のpHが調整されてもよい。排水処理装置1が処理する排水に対してpH調整が行われる場合であっても、pH調整が行われない場合であっても、当該排水に対する凝集剤の添加は、排水処理装置1では、行われない。すなわち、排水処理装置1は、凝集剤を一切用いないという特徴を有する。
【0017】
排水処理装置1は、空気のマイクロバブルを発生させて、処理槽3内の排水にマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給装置5を備える。マイクロバブル供給装置5は、たとえば公知のマイクロバブル発生機を有する。マイクロバブル供給装置5は、たとえば平均で直径10~50μmの空気のマイクロバブルを発生させる。マイクロバブル供給装置5が、たとえば平均で直径10~30μmの空気のマイクロバブルを発生させてもよい。マイクロバブルの直径すなわち気泡のサイズは、油脂の大きさ(たとえば直径)と同様であることが好ましい。マイクロバブル供給装置5および処理槽3は、排水取得ラインLbおよびマイクロバブル供給ラインLaによって接続されている。マイクロバブル供給装置5は、排水取得ラインLbを通じて処理槽3内の排水を取り込み、その排水中にマイクロバブルを発生させる。排水取得ラインLbおよびマイクロバブル供給ラインLaは、たとえば処理槽3の下部に接続されている。マイクロバブル供給ラインLaは、排水取得ラインLbよりも低い位置に接続されることが好ましい。排水取得ラインLbは、処理槽3中の排水全体を循環させるために、マイクロバブル供給ラインLaから上下方向に離間した高い位置にて接続される。ただし、排水取得ラインLbを水面付近に接続するとフロスを吸い込んでしまう可能性があるため、水面より少し下の位置に排水取得ラインLbを接続するのが好ましい。
【0018】
マイクロバブル供給装置5は、マイクロバブルの発生量およびマイクロバブルの直径(気泡径)を調整可能であってもよい。マイクロバブル供給装置5において、マイクロバブルの発生機構はどのような機構であってもよい。マイクロバブル供給装置5は、ラインミキサやエジェクタ等を備えてもよい。マイクロバブル供給装置5は、排水取得ラインLbおよびマイクロバブル供給ラインLaを通じて排水を循環させるためのポンプ(混気ポンプ等)を有してもよい。
【0019】
フロス除去装置4は、処理槽3の上部に設置されている。フロス除去装置4は、処理槽3内の液面付近に浮上したフロスを除去する。このフロスは、処理槽3内におけるマイクロバブルとの接触により液面付近に浮上した油脂分を含んでいる。なお、フロスは、スカム等と称されることもある。フロス除去装置4は、たとえば掻き取り式の装置である。フロス除去装置4は、処理槽3の上部に固定されて液面付近を移動可能な掻き取り機と、掻き取り機によって寄せ集められたフロスを保持または排出するためのフロス収集部とを含む。フロス除去装置4は、フロスが処理槽3の排出口に流れてしまわないように、フロスの排出口へ向けての移動を阻止する。
【0020】
排水処理装置1では、排水供給ポンプ10によって排水供給ラインL1を通じて排水が連続的に供給されることにより、排水の連続処理が行われる。排水が連続的に供給される間、マイクロバブル供給装置5によって、マイクロバブルが連続的に処理槽3内に供給される。排水処理装置1は、排水供給ポンプ10による単位時間あたりの排水供給量、および、マイクロバブル供給装置5によるマイクロバブルの供給量を制御するためのコントローラを備えてもよい。排水処理装置1に対して1つのコントローラが設けられてもよいが、排水供給ポンプ10およびマイクロバブル供給装置5のそれぞれに対して、別個のコントローラが設けられてもよい。
【0021】
排水処理装置1において、排水供給ポンプ10による単位時間あたりの排水供給量は、油脂の目標処理濃度と、処理槽3においてバッチ処理を行った場合の目標処理濃度における油脂濃度の時間微分と、処理槽に流入する排水中の油脂濃度と、処理槽3の容量とに基づいて決定される。これは、処理槽3においてバッチ処理を行った場合には、ノルマルヘキサン抽出物質の濃度が指数関数的に減少する(たとえば、
図3に示される試験結果を参照)という事象に基づく。バッチ処理の結果、処理時間に応じて、ノルマルヘキサン抽出物質の濃度が減少していく関係が得られる。この処理時間と油脂濃度の関係、すなわち処理時間に関する油脂濃度の関数について、ノルマルヘキサン抽出物質の目標処理濃度における、ノルマルヘキサン抽出物質の濃度の時間微分から、その目標処理濃度における油脂除去性能が計算される。ここでいう油脂除去性能とは、単位時間あたりに除去できるノルマルヘキサン抽出物質の量である。そして、この数値と、排水中のノルマルヘキサン抽出物質の濃度(原水油脂濃度)と、処理槽3の容量とに基づいて、滞留時間が決定され、そして単位時間あたりの排水供給量が決定される。
【0022】
より詳細には、たとえば下記の式(1)を用いて、滞留時間が計算され得る。
滞留時間[min]
=(入口ノルマルヘキサン抽出物質濃度[mg/L]-ノルマルヘキサン抽出物質の目標処理濃度[mg/L])/時間微分[mg/L/min]・・・(1)
【0023】
マイクロバブル供給装置5による単位時間あたりのマイクロバブル供給量は、たとえば、単位時間あたりの排水供給量に基づいて決定される。単位時間あたりのマイクロバブル供給量は、たとえば、バッチ処理におけるマイクロバブル供給量と等しくてもよい。言い換えれば、事前にバッチ処理テストを行い、所望の油脂除去性能が得られるようなマイクロバブル供給量を予め求めておいてもよい。
【0024】
マイクロバブル供給量については、上記とは異なる考え方に基づいて決定されてもよい。すなわち、マイクロバブル供給量を増やせば、単位時間あたりに除去可能なフロスの量は増える。これにより、滞留時間を小さくすることができるので、処理槽を小さくし、このコストを抑えることができる。ただし、効率(すなわちマイクロバブル供給量に対する単位時間あたりに除去可能なフロスの比)は低下し得る。このため、より多くのマイクロバブルを供給する必要があり、このコストは増大し得る。マイクロバブルの供給量は、この2つのコストのバランスで決めることができる。
【0025】
排水処理装置1を用いた排水の処理方法について説明すると、排水供給ポンプ10により、排水貯留タンク2内の排水が所定の排水供給量で処理槽3へと供給される。処理槽3へは、所定のマイクロバブル供給量で、マイクロバブル供給装置5からマイクロバブルが処理槽3へと供給される。処理槽3内では、マイクロバブルが排水に混合され、排水中の油脂分がマイクロバブルに接触して、液面付近に浮上する。この間、排水およびマイクロバブルは連続的に供給されており、排水の連続処理が行われている。浮上した油脂は、フロスの形態で、フロス除去装置4によって除去される。処理槽3の排出口からは、油脂が分離された排水が排出され、処理水排出ラインL2を通じて流下する。排水処理装置1では、処理槽3に対する凝集剤の添加は不要になっている。排水処理装置1には、後述する試験装置100と同様の計器類が設置されてもよい。排水処理装置1において、これらの計器類からの出力値に応じて、排水供給量やマイクロバブル供給量が調整されてもよい。フロス除去装置4によって除去されたフロスは、排水処理装置1の外部の装置(たとえば脱水装置など)によって適切に処理される。フロスの含水率は比較的低いため、脱水装置を用いる場合でも、高い脱水能力は要求されない。フロスの含水率によっては、脱水装置を省略して、フロスを適切に廃棄処理することもできる。
【0026】
本実施形態の排水処理装置1によれば、マイクロバブル供給装置5によって、油脂を含有する排水に空気のマイクロバブルが供給される。これにより、凝集剤を添加しないでも、油脂を分離することができる。分離された油脂は、フロスに含まれた状態で液面付近に浮上する。フロス除去装置4によって、このフロスが除去され、排水から油脂が除去される。この排水処理装置1では、凝集剤が不要であるため、処理コストおよび設備コストが削減される。また凝集剤が用いられないため、フロス中の水分量が小さく(すなわち含水率が低く)、また油脂以外の物質の除去率が低い。よって、フロス処理にかかるコストも低減される。さらには、非油脂分の量が減るので、不快な臭気が軽減される可能性もある。
【0027】
また、処理槽3で排水を連続処理し、マイクロバブル供給装置5によってマイクロバブルを連続的に供給することにより、排水中の油脂を連続的に分離することができる。
【0028】
排水供給ポンプ10による単位時間あたりの排水供給量が、目標処理濃度と、バッチ処理を行った場合の目標処理濃度における油脂濃度の時間微分と、処理槽3に流入する排水中の油脂濃度と、処理槽3の容量とに基づいて決定される。これにより、連続処理によって排水から油脂を除去し、排水の油脂濃度を所望の目標処理濃度まで確実に低下させることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、処理槽3に流入する前の排水に、微生物を用いた生物処理等を追加し、それによって排水を劣化させてもよい。なお、「排水を劣化させる」とは、油脂の凝固物ができた状態を意味する。この処理により、油脂が浮上しやすくなる。また、処理槽において排水を連続処理する場合に限られず、排水をバッチ処理してもよい。
【0030】
(排水からの油脂除去試験)
油脂分(ノルマルヘキサン抽出物質)を含む食品工場排水に対し、マイクロバブルによる油脂除去試験を実施した。試験装置を
図2に示す。処理対象とした工場排水は、既設排水処理設備の中和処理槽から採取した排水である。試験では、ノルマルヘキサン抽出物質の目標処理濃度を100mg/Lに設定した。
図2に示されるように、本試験に用いた試験装置100は、試験排水が貯留される溶液タンク102と、試験排水を処理するための容器103と、処理後の試験排水(処理水)が貯留される溶液タンク104とを備える。溶液タンク102と容器103とを接続する溶液供給ラインL11には、試験排水を容器103に供給するための送液ポンプ110が設けられている。容器103と溶液タンク104とを接続する溶液排出ラインL12には、処理後の試験排水(処理水)を溶液タンク104に供給するための送液ポンプ111が設けられている。試験装置100は、容器103内の試験排水に空気のマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給部105を備える。
【0031】
マイクロバブル供給部105は、エアポンプ106と、マスフローコントローラ107と、混気ポンプ108と、ラインミキサ109とを備える。混気ポンプ108と容器103とが、排水取得ラインLbによって接続されている。ラインミキサ109と容器103とが、マイクロバブル供給ラインLaによって接続されている。マイクロバブル供給部105では、混気ポンプ108が、容器103内の排水を吸引し、エアポンプ106およびマスフローコントローラ107を通った空気を排水に混合させる。ラインミキサ109が、排水に混合された空気をもとにマイクロバブルを生成する。なお、混気ポンプ108とラインミキサ109の間のラインには圧力計120が設けられており、排水取得ラインLbには流量計121が設けられている。容器103には、温度計122が設けられている。混気ポンプ108としては、(株)丸八ポンプ製、20-2FKV-27Mを用いた。ラインミキサ109としては、(株)OHR流体工学研究所製、MX-E8を用いた。容器103としては、内径170mm、高さ1000mmのステンレス製の容器を用いた。
【0032】
(バッチ処理試験)
まず試験排水13Lを容器103に投入し、混気ポンプ108を始動させた。次に、103の高さ方向中央部に設けたバルブを開いて、容器103内の試験排水500mLをサンプリングした。次に、エアポンプ106を起動させ、マスフローコントローラ107によって所定の流量の空気を供給した。この時点から、処理時間の計測を開始した。処理時間5分、15分、30分、50分において、それぞれ、容器103内の試験排水500mLをサンプリングした。処理時間90分が経過した後、容器103内の試験排水500mLをサンプリングし、液面付近のフロス(スカム)をすべて回収した。その後、エアポンプ106と混気ポンプ108を停止させた。処理条件およびサンプリング時間は以下のとおりである。なお、このバッチ処理試験において、凝集剤は添加していない。
溶液量(排水量):13L
処理時間:90分
空気流量:0.9L/分
サンプリング時間:0,5,15,30,50,90分
【0033】
(連続処理試験)
まず試験排水13Lを容器103に投入し、混気ポンプ108を始動させた。次に、103の高さ方向中央部に設けたバルブを開いて、容器103内の試験排水500mLをサンプリングした。次に、エアポンプ106を起動させ、マスフローコントローラ107によって所定の流量の空気を供給した。この時点から、処理時間の計測を開始した。処理時間30分が経過した後、2つの送液ポンプ110,111を起動させ、排水供給量が26L/時となるような出力に調整し、容器103内の試験排水500mLをサンプリングした。所定のサンプリング時間に、サンプリングを行った。処理前溶液である試験排水のサンプリングは、溶液タンク102から排水500mLをサンプリングすることにより行った。処理後溶液である処理水のサンプリングは、排水500mLを容器103から採取し、溶液タンク102内の排水500mLを容器103に追加することにより行った。サンプリングの30分前に、フロス(スカム)の全量を除去し、30分間で生成したフロス(スカム)の全量をサンプリングした。また、処理時間6時間または4時間が経過した後、溶液タンク102内の排水およびフロス(スカム)のサンプリングを行った。その後、エアポンプ106と混気ポンプ108を停止させた。処理条件およびサンプリング時間は以下のとおりである。なお、この連続処理試験において、凝集剤は添加していない。
滞留液量(処理槽3の容量):13L
滞留時間:30分
処理時間:4時間
空気流量:0.9L/分
サンプリング時間(処理前溶液):0,2,4時間
サンプリング時(処理後溶液):0.5,1,2,4時間
サンプリング時間(スカム):1,2,4時間
【0034】
ここで、送液ポンプ110による単位時間あたりの排水供給量は、バッチ処理試験の結果に基づいて、上述した手法により決定した。すなわち、バッチ処理試験で得られた結果(
図3参照)から、目標処理濃度(本試験では100mg/L)における油脂濃度の時間微分を求め、処理槽3に流入する排水中の油脂濃度(約330mg/L)と、処理槽3の容量(13L)とに基づいて、必要な滞留時間(30分)を算出した。より具体的には、上述した式(1)を用いて滞留時間を算出した。そして、滞留時間が30分になるように、送液ポンプ110の供給量を調整した。
【0035】
(分析方法)
フロス(スカム)は、以下の方法で分析した。
質量:電子天秤
全蒸発残留物:JIS K 0102-14.2 全蒸発残留物
また、有機物濃度としての化学的酸素要求量(CODCr)および油脂濃度としてのノルマルヘキサン抽出物質含有量は、以下の方法で分析した。
CODCr:JIS K 0102-20.2 吸光光度法
ノルマルヘキサン抽出物質含有量:昭和49年環境庁告示第64号付表4抽出・重量法
【0036】
(試験結果)
バッチ条件におけるノルマルヘキサン抽出物質濃度およびCOD
Crの経時変化を
図3、
図4にそれぞれ示す。連続処理試験におけるノルマルヘキサン抽出物質濃度およびCOD
Crの経時変化を
図5、
図6にそれぞれ示す。いずれの条件においても、ノルマルヘキサン抽出物質濃度を100mg/L程度まで除去できていることが分かる(
図3、
図5参照)。また、バッチ処理試験の結果から、ノルマルヘキサン抽出物質濃度の除去量1mgに対して、COD
Crの減少量は約4mgである。ノルマルヘキサン抽出物質が全てパルミチン酸であると仮定すると、ノルマルヘキサン抽出物質1mgあたりのThOD(理論的酸素必要量)は、約3mgであることから、油脂以外の有機物の除去が抑えられていると考えられる。
【0037】
採取したスカムの分析値を表1に示す。含水率は、サンプルごとにばらつきが大きいものの、一般的な凝集剤を用いた加圧浮上処理で得られるスカムの含水率より低い値が得られた。
【表1】
【符号の説明】
【0038】
1 排水処理装置
2 排水貯留タンク
3 処理槽
4 フロス除去装置
5 マイクロバブル供給装置
10 排水供給ポンプ(排水供給装置)
100 試験装置