(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】認知機能の指標化方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20221012BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20221012BHJP
A61B 5/026 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61B10/00 H ZDM
A61B5/1455
A61B10/00 E
A61B5/026 120
(21)【出願番号】P 2019028294
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】四方田 聡
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸
(72)【発明者】
【氏名】知野見 健太
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/165602(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/008773(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131542(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に認知機能に関する生体活動を誘発するための作業を与えるステップと、
前記被験者に前記作業を与えた際に前記被験者の認知機能に関する生体活動の変化を計測し、計測データを取得するステップと、
予め取得された健常者群の前記計測データと予め取得された軽度認知障害者群の前記計測データとに基づいて予め構築されたモデルにより、
前記被験者に対する認知症予防介入の前後において、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップと、
前記被験者に対する前記認知症予防介入の前後で取得された前記被験者の認知機能を示す前記指標を、前記被験者に提示するステップと、を備える、認知機能の指標化方法。
【請求項2】
前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標としての数値を取得するステップを含む、請求項1に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項3】
前記作業を与えるステップは、難易度が異なる複数の前記作業を前記被験者に与えるステップを含み、
前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、前記被験者に与えた前記作業と同じ前記作業を与えた場合の前記健常者群の前記計測データと前記軽度認知障害者群の前記計測データとに基づいて構築された前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む、請求項1または2に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項4】
前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、難易度が異なる複数の前記作業の前記被験者の前記計測データの値同士の差分または比を特徴量として用いて、前記被験者の前記計測データの特徴量と同じ特徴量を用いて構築された前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む、請求項3に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項5】
前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、前記被験者の前記計測データの波形の平均値、前記被験者の前記計測データの波形の面積重心を示す値または前記被験者の前記計測データの波形の傾きを示す値を特徴量として用いて、前記被験者の前記計測データの特徴量と同じ特徴量を用いて構築された前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項6】
前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化を特徴量として用いて、前記被験者の前記計測データの特徴量と同じ特徴量を用いて構築された前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項7】
前記作業を与えるステップは、感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくとも1つを課題として前記被験者に与えるステップを含み、
前記被験者の認知機能を示す数値を取得するステップは、前記被験者に与えた前記作業と同じ前記作業を与えた場合の前記健常者群の前記計測データと前記軽度認知障害者群の前記計測データとに基づいて構築された前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項8】
前記作業を与えるステップは、前記被験者に認知機能に関する脳活動を誘発するための前記作業を与えるステップを含み、
前記計測データを取得するステップは、前記被験者に前記作業を与えた際に前記被験者の脳血流量の変化を計測し、前記計測データを取得するステップを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の認知機能の指標化方法。
【請求項9】
前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、ロジスティック回帰により構築された前記モデルにより、前記被験者の前記計測データから、前記被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の認知機能の指標化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能の指標化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、認知機能障害の判別方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、認知機能障害の判別方法が開示されている。この認知機能障害の判別方法では、被験者の脳の生体信号を用いて、被験者が健常、軽度認知機能障害およびアルツハイマー型認知症のいずれに該当するかの判別が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には明記されていないが、従来から、健常者、軽度認知障害者、認知機能に不安を感じる者などの未だアルツハイマー型認知症ではない者が、認知症を予防するために運動などの認知症予防介入を行う場合があった。しかしながら、従来の認知症予防介入においては、認知症予防介入を行った者に対して認知症予防介入の効果を示すことができなかったため、認知症予防介入を行った者は自らが行った認知症予防介入の効果を知ることができなかった。このため、認知症予防介入を行った者に認知症予防介入を主体的かつ継続的に行うための動機付けを与えることができないという問題点があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、被験者に認知症予防介入を主体的かつ継続的に行うための動機付けを効果的に与えることが可能な認知機能の指標化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、本願発明者は、健常者と軽度認知障害者との間において、被験者の認知機能に関する生体活動の変化を示す指標と被験者の認知機能を示す指標との間に相関があるという新たな知見を得た。さらに、本願発明者は、このような相関があるため、被験者の認知機能に関する生体活動の変化を示す指標に基づいて、被験者の認知機能を指標化できるという新たな知見も得た。この発明の一の局面における認知機能の指標化方法は、これらの新たな知見を利用して、認知機能の指標化を行うものである。すなわち、この発明の一の局面における認知機能の指標化方法は、被験者に認知機能に関する生体活動を誘発するための作業を与えるステップと、被験者に作業を与えた際に被験者の認知機能に関する生体活動の変化を計測し、計測データを取得するステップと、予め取得された健常者群の計測データと予め取得された軽度認知障害者群の計測データとに基づいて予め構築されたモデルにより、被験者に対する認知症予防介入の前後において、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップと、被験者に対する認知症予防介入の前後で取得された被験者の認知機能を示す指標を、被験者に提示するステップと、を備える。
【0008】
この発明の一の局面による認知機能の指標化方法では、上記のように構成することにより、健常者である被験者、軽度認知障害者である被験者、認知機能に不安を感じる被験者などが認知症を予防するために認知症予防介入(たとえば、運動など)を行う場合に、認知症予防介入の前後における被験者の認知機能を示す指標を取得して比較することができるので、被験者は認知症予防介入の前後における自らの認知機能の変化(すなわち、認知症予防介入の効果)を知ることができる。また、被験者が認知症予防介入を継続的に行う場合に、継続的な認知症予防介入による被験者の認知機能の変化(すなわち、認知症予防介入の効果)を被験者に示すことができるので、被験者は継続的な認知症予防介入による認知機能の変化を知ることができる。これらのように、被験者が認知症予防介入の効果を知ることができるので、被験者に認知症予防介入を主体的かつ継続的に行うための動機付けを効果的に与えることができる。なお、この発明の一の局面による認知機能の指標化方法は、たとえば、福祉施設やスポーツジムなどにおいて好適に実施することができる。
【0009】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、モデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標としての数値を取得するステップを含む。このように構成すれば、認知症予防介入の効果をより明確に測ることができる。
【0010】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、作業を与えるステップは、難易度が異なる複数の作業を被験者に与えるステップを含み、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、被験者に与えた作業と同じ作業を与えた場合の健常者群の計測データと軽度認知障害者群の計測データとに基づいて構築されたモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む。このように構成すれば、難易度が異なる複数の作業を与えることにより、被験者が難しい作業に順応しているか否かを計測することができる。その結果、被験者の認知機能に関する生体活動の変化をより明確に生じさせることができるので、被験者の認知機能を示す指標をより精度良く取得することができる。
【0011】
この場合、好ましくは、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、難易度が異なる複数の作業の被験者の計測データの値同士の差分または比を特徴量として用いて、被験者の計測データの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む。このように構成すれば、被験者の計測データの値同士の差分または比を特徴量として用いることにより、たとえば被験者の計測部位の形などに起因して被験者毎に生じる被験者の特有のパラメータの影響を除くことができるので、被験者によらず被験者の認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0012】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、被験者の計測データの波形の平均値、被験者の計測データの波形の面積重心を示す値または被験者の計測データの波形の傾きを示す値を特徴量として用いて、被験者の計測データの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む。このように構成すれば、認知機能との関連が強い特徴量である、被験者の計測データの波形の平均値、被験者の計測データの波形の面積重心を示す値または被験者の計測データの波形の傾きを示す値を特徴量として用いることができるので、被験者の認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0013】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化を特徴量として用いて、被験者の計測データの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む。このように構成すれば、認知機能に関する生体活動を誘発するための作業に伴って容易に生じる酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化を特徴量として用いることができるので、被験者の認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0014】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、作業を与えるステップは、感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくとも1つを課題として被験者に与えるステップを含み、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、被験者に与えた作業と同じ作業を与えた場合の健常者群の計測データと軽度認知障害者群の計測データとに基づいて構築されたモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む。このように構成すれば、認知機能に関する生体活動を誘発するのに適した課題である、感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくとも1つを課題として被験者に与えることができるので、被験者の認知機能に関する生体活動の変化を確実に計測して計測データを取得することができる。
【0015】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、作業を与えるステップは、被験者に認知機能に関する脳活動を誘発するための作業を与えるステップを含み、計測データを取得するステップは、被験者に作業を与えた際に被験者の脳血流量の変化を計測し、計測データを取得するステップを含む。このように構成すれば、認知機能を計測するのに適した脳血流量の変化を計測して計測データを取得することができるので、被験者の認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0016】
上記一の局面による認知機能の指標化方法において、好ましくは、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップは、回帰モデルにより構築されたモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得するステップを含む。このように構成すれば、健常者と軽度認知障害者との間における相関を精度良く表したモデルにより、被験者の計測データから、被験者の認知機能を示す指標を取得することができるので、被験者の認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記のように、被験者に認知症予防介入を主体的かつ継続的に行うための動機付けを効果的に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態による認知機能の指標化方法を実施するための脳活動計測システムの全体構成を説明するための図である。
【
図2】本発明の一実施形態による脳活動を計測する際の計測部位を示した模式図である。
【
図3】国際10-20法による脳活動を計測する際の計測部位を説明するための模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態による認知機能の指標化方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態による被験者への作業の与え方を説明するための図であるである。
【
図6】(A)は、本発明の一実施形態による計測データの波形を説明するための図であり、(B)は、本発明の一実施形態による計測データの波形の面積重心を説明するための図であり、(C)は、本発明の一実施形態による計測データの波形の傾きを説明するための図である。
【
図7】モデルID1の回帰モデルにおけるNIRS指標とMCI確度との相関を示したグラフである。
【
図8】モデルID4の回帰モデルにおけるNIRS指標とMCI確度との相関を示したグラフである。
【
図9】モデルID7の回帰モデルにおけるNIRS指標とMCI確度との相関を示したグラフである。
【
図10】モデルID9の回帰モデルにおけるNIRS指標とMCI確度との相関を示したグラフである。
【
図11】モデルID12の回帰モデルにおけるNIRS指標とMCI確度との相関を示したグラフである。
【
図12】モデルID1の回帰モデルにおける評価データのNIRS指標分布を示したグラフである。
【
図13】モデルID4の回帰モデルにおける評価データのNIRS指標分布を示したグラフである。
【
図14】モデルID7の回帰モデルにおける評価データのNIRS指標分布を示したグラフである。
【
図15】モデルID9の回帰モデルにおける評価データのNIRS指標分布を示したグラフである。
【
図16】モデルID12の回帰モデルにおける評価データのNIRS指標分布を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
まず、
図1~
図3を参照して、本発明の一実施形態による認知機能の指標化方法を実施するための脳活動計測システム100の構成について説明する。
【0021】
(脳活動計測システムの構成)
図1に示すように、脳活動計測システム100は、脳活動計測装置1と、データ処理装置2と、表示装置3と、を備えている。
【0022】
脳活動計測装置1は、近赤外分光法(NIRS)を用いて被験者Pの脳活動を光学的に計測し、時系列の計測結果データを生成する装置(光計測装置)である。具体的には、脳活動計測装置1は、NIRS装置である。脳活動計測装置1は、近赤外の波長領域の計測光を被験者Pの頭部表面上に配置した送光プローブ(図示せず)から照射する。そして、脳活動計測装置1は、頭部内で反射した計測光を頭部表面上に配置した受光プローブ(図示せず)に入射させて検出することにより、計測光の強度(受光量)を取得する。送光プローブおよび受光プローブは、それぞれ複数設けられ、頭部表面上の所定位置に各プローブを固定するためのホルダ4に取り付けられる。本実施形態では、脳活動計測装置1は、脳血流量の変化の指標として、複数波長(たとえば、780nm、805nmおよび830nmの3波長)の計測光の強度(受光量)とヘモグロビンの吸光特性とに基づいて、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンおよび総ヘモグロビンの変化量を計測する。
【0023】
データ処理装置2は、脳活動計測装置1から送られた計測データDの処理を行う。データ処理装置2は、CPU、メモリおよびハードディスクドライブなどを備えたPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。データ処理装置2には、被験者Pの認知機能を指標化するためのモデルMが予め記憶されている。なお、モデルMの詳細については、後述する。
【0024】
表示装置3は、被験者Pに実行させるための作業(課題、タスク)を表示するように構成されている。表示装置3は、液晶ディスプレイなどのモニタである。
【0025】
図2は、脳活動計測装置1によって被験者Pの脳の血流量を計測する際の計測部位の一例を示している。また、
図3は、国際10-20法における計測部位を示した図である。
図2に示す被験者Pの脳活動の計測データDを取得する際の計測部位は、
図3に示す国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4を含んだ範囲に設定されている。具体的には、
図2に示す計測部位は、
図2に示すような16チャンネルにより、国際10-20法の、F3、F4、P3、P4を含んだ範囲に設定されている。その際、関心領域(ROI)として、ROI1~ROI4が設定されている。ROI1のチャンネル1~4は、被験者Pの左側の前頭連合野および背外側前頭前野を計測可能に設定されている。また、ROI2のチャンネル5~8は、被験者Pの右側の前頭連合野および背外側前頭前野を計測可能に設定されている。また、ROI3のチャンネル9~12は、被験者Pの左側の体性感覚野を計測可能に設定されている。また、ROI4のチャンネル13~16は、被験者Pの右側の体性感覚野を計測可能に設定されている。
【0026】
(認知機能の指標化方法)
次に、
図4~
図6を参照して、本実施形態の認知機能の指標化方法について説明する。
【0027】
〈被験者に作業を与えるステップ〉
図4に示すように、本実施形態の認知機能の指標化方法は、認知機能の指標化を所望する被験者Pに認知機能に関する生体活動を誘発するための作業(タスク、課題)を与えるステップ(
図4のステップS1)を備えている。このステップでは、被験者Pに認知機能に関する脳活動を誘発するための作業が与えられる。また、このステップでは、
図5に示すように、被験者Pに複数回の作業が与えられる。具体的には、被験者Pに作業を与える際の作業期間31と、被験者Pに作業を与えないレスト期間32とが交互に繰り返されるように、被験者Pに複数回の作業が与えられる。作業期間31は、たとえば、20秒間である。また、レスト期間32は、たとえば、20秒間である。レスト期間32には、被験者Pの脳血流量の変化を計測する際のベースラインが構築される。レスト期間32には、ベースラインを構築するために、たとえば、被験者Pを安静状態にしたり、被験者Pに無意味な言葉を発音させたりする。レスト期間32に被験者Pに発音させる無意味な言葉は、たとえば、「あ、い、う、え、お」である。なお、
図5では、タスクが4回繰り返される例を示しているが、タスクが繰り返される回数は、4回以外であってもよい。
【0028】
このステップでは、被験者Pに対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくとも1つが課題として被験者Pに与えられる。具体的には、被験者Pに与える課題を感覚刺激とする場合、被験者Pの感覚器に感覚刺激が与えられる。感覚刺激としては、たとえば、被験者Pの手のひらに保冷剤を当てることによる冷感覚刺激を用いることができる。また、被験者Pに与える課題を計算とする場合、被験者Pに計算問題が与えられる。計算問題としては、たとえば、認知症の診断用のミニメンタルステート検査(MMSE)で用いられているシリアルセブン(100-7)やシリアルセブン(100-7)を改訂した問題を用いることができる。なお、シリアルセブン(100-7)は、100から7を連続で引く問題である。また、被験者Pに与える課題を記憶および想像とする場合、被験者Pの手に形が類似している文字を書き、被験者Pがその文字を当てる問題が被験者Pに与えられる。類似する文字は、たとえば、「ス」、「マ」、「ヌ」である。また、被験者Pに与える課題を空間認知とする場合、表示装置3に風景写真を表示させ、被験者Pに、風景写真に描かれた建物が模式図として示された地図を渡して、風景写真の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを番号で回答させる問題が被験者Pに与えられる。
【0029】
また、このステップでは、難易度が異なる複数の課題(作業)が被験者Pに与えられる。具体的には、難易度が徐々に高くなるように、難易度が異なる複数の課題が被験者Pに与えられる。たとえば、計算問題が被験者Pに与えられる場合、1回目の課題では100から2を連続で引く問題が、2回目の課題では100から3を連続で引く問題が、3回目の課題では100から7を連続で引く問題が、4回目の課題では101から7を連続で引く問題が、5回目の課題では102から7を連続で引く問題が、それぞれ被験者Pに与えられる。なお、偶数の引き算と奇数の引き算とでは、奇数の引き算の方が難易度が高い。また、たとえば、被験者Pの手に形が類似している文字を書き、被験者Pがその文字を当てる問題が被験者Pに与えられる場合、1回目および2回目の課題では被験者Pの手に書く文字を2文字とした問題が、3回目および4回目の課題では被験者Pの手に書く文字を3文字とした問題が、被験者Pに与えられる。なお、被験者Pが解答する文字数が多い方が難易度が高い。また、たとえば、表示装置3に風景写真を表示させ、被験者Pに、風景写真に描かれた建物が模式図として示された地図を渡して、風景写真の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを番号で回答させる問題が被験者Pに与えられる場合、3回目および4回目のタスクでは、1回目および2回目のタスクよりも道路や建物の数を増やすことなどによってタスクの難易度を高くする。
【0030】
〈計測データを取得するステップ〉
図4に示すように、本実施形態の認知機能の指標化方法は、被験者Pに作業を与えた際に被験者Pの認知機能に関する生体活動の変化を測定し、計測データDを取得するステップ(
図4のステップS2)を備えている。このステップでは、被験者Pに作業を与えた際に被験者Pの脳血流量の変化が計測され、計測データDが取得される。具体的には、被験者Pに作業を与えた際に被験者Pの計測部位毎(チャンネル毎)の脳血流量の変化が計測される。また、このステップでは、脳血流量の変化の指標として、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、酸素化ヘモグロビン量および脱酸素化ヘモグロビン量の総量である総ヘモグロビン量の変化が計測される。また、このステップでは、
図2および
図3に示すように、国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4を含んだ範囲に設定された計測部位毎の脳血流量の変化が計測される。また、このステップでは、上記の通り、近赤外分光法(NIRS)により、計測部位毎の脳血流量の変化が計測される。
【0031】
なお、脳活動計測装置1では、計測部位毎の脳血流量の変化を計測する際に、脳血流量の変化の計測と同時に、脳血流量の変化の計測部位の近傍の皮膚血流量を計測するように構成されている。そして、計測された脳血流量を計測された皮膚血流量で減算(補正)した値を、脳血流量とするように構成されている。これにより、脳血流量の変化を計測する際に、計測光の光路上に皮膚が含まれることに起因して計測された脳血流量に皮膚血流量が含まれてしまった場合でも、皮膚血流量の影響が抑制された脳血流量を計測することが可能である。
【0032】
〈被験者の認知機能を示す指標を取得するステップ〉
図4に示すように、本実施形態の認知機能の指標化方法は、予め構築されたモデルM(
図1参照)により、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップ(
図4のステップS3)を備えている。このステップでは、モデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標としての数値が取得される。モデルMは、予め取得された健常者群の計測データDと予め取得された軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて予め構築されている。具体的には、モデルMは、予め取得された健常者群の計測データDと予め取得された軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて、回帰モデルにより予め構築されている。
【0033】
なお、被験者Pには、モデルMを構築する際に健常者群および軽度認知障害者群に与えられた作業と同じ作業が与えられる。このため、このステップでは、被験者Pに与えた作業と同じ作業を与えた場合の健常者群の計測データDと軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標が取得される。
【0034】
このステップでは、まず、被験者Pの計測データDから、認知機能を示す指標を取得するための特徴量が取得される。取得される特徴量は、たとえば、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化である。具体的には、
図6(A)~(C)に示すように、取得される特徴量は、作業期間31中の各ヘモグロビン量の変化を示す波形Wにおける、被験者Pの計測データDの波形Wの平均値、被験者Pの計測データDの波形Wの面積重心を示す値または被験者Pの計測データDの波形Wの傾き(傾きの最大値)を示す値である。より具体的には、取得される特徴量は、各ヘモグロビン量の変化における、難易度が異なる複数の作業の被験者Pの計測データDの値(平均値、面積重心を示す値、傾きを示す値)同士の差分または比である。つまり、難易度が低い作業の被験者Pの計測データDの値と、この作業よりも難易度が高い作業の被験者Pの計測データDの値との差分または比である。具体的な特徴量として、たとえば、総ヘモグロビン量の変化における波形Wの面積重心を示す値同士の比が取得される。
【0035】
なお、このステップでは、モデルMを構築する際に健常者群の計測データDおよび軽度認知障害者群の計測データDから取得された特徴量と同じ特徴量が被験者Pの計測データDから取得される。このため、このステップでは、被験者Pの計測データDの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標が取得される。
【0036】
そして、このステップでは、計測データDから取得された特徴量から、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標が取得される。具体的には、計測データDから取得された特徴量から、予め構築されたモデルMにより、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標が取得される。
【0037】
ここで、詳細については後述するが、鋭意検討した結果、本願発明者は、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標と、被験者Pの認知機能を示す指標である軽度認知障害確度(以下、「MCI確度」という)との間に相関があるという新たな知見を得た。また、この知見から、本願発明者は、計測データDから、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標を取得することにより、被験者Pの認知機能を指標化できるという新たな知見も得た。
【0038】
NIRS指標は、例えばロジスティック回帰による回帰モデルである以下の式(1)により表される。
N=1/[1+exp{-(α+C0×F0+C1×F1+・・・Cn×Fn)}] ・・・(1)
ここで、
N:NIRS指標
α:定数
Cn:係数(重み)
Fn:特徴量
n:自然数
である。
【0039】
定数αおよび特徴量Fn毎の重みである係数Cnは、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標と、被験者Pの認知機能を示す指標であるMCI確度とが相関するように、回帰モデルにより予め取得されている値である。具体的には、定数αおよび係数Cnは、健常者の計測データDではNIRS指標Nが0に収束すると仮定し、軽度認知障害者の計測データDではNIRS指標Nが1に収束すると仮定することにより、健常者群の計測データDと軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて予め取得されている値である。特徴量Fnは、上記の通り、計測データDから取得される値である。特徴量Fnには、たとえば、チャンネル毎、作業毎の予め決められたヘモグロビン量の変化(酸素化ヘモグロビン量、脱酸素化ヘモグロビン量、総ヘモグロビン量)における波形Wの予め決められた種類の値(平均値、面積重心を示す値、傾きを示す値)同士の差分または比が、計測データDから取得されて入力される。
【0040】
そして、このステップでは、式(1)から取得されたNIRS指標から、被験者Pの認知機能を示す指標が取得される。被験者Pの認知機能を示す指標として、NIRS指標そのものが取得されて被験者Pに提示されてもよいし、被験者Pが理解しやすいようにNIRS指標を換算したスコア(得点)が取得されて被験者Pに提示されてもよい。また、被験者Pの認知機能を示す指標として、NIRS指標と相関するMCI確度が取得されて被験者Pに提示されてもよい。なお、NIRS指標は、値が大きい程、認知機能が低いことを示し、値が小さい程、認知機能が高いことを示す。
【0041】
(相関確認実験)
次に、
図7~
図16を参照して、NIRS指標とMCI確度との相関を確認した実験について説明する。
【0042】
実験では、以下の表1および表2に示すように、医師による確定診断のついた健常者15名(健常者群)と、軽度認知障害者23名(軽度認知障害者群)との被験者群について、NIRSによる計測データ(以下、適宜「教師データ」と称する)を取得した。
【表1】
【表2】
【0043】
また、実験では、被験者群に対して、課題として、認知機能の変化のモニタに有用である計算課題およびスマヌ課題を与えた。計算課題では、100から2を連続で引く問題、100から3を連続で引く問題、100から7を連続で引く問題、101から7を連続で引く問題、および、102から7を連続で引く問題をこの順に被験者に与え、課題期間を20秒、レスト期間を20秒とした。レスト期間中は、無意味な言葉の発音である「あ、い、う、え、お」を被験者に発音させて、計測データのベースラインを定めた。また、スマヌ課題では、閉眼の状態で、「ス」、「マ」、「ヌ」の3文字から、2文字または3文字を連続で被験者の手のひらになぞって書き、手のひらに書かれた文字を当てる問題を被験者に与えた。2文字を2回、3文字を2回、合計4回のスマヌ課題を実施し、課題期間を30秒、レスト期間を40秒とした。レスト期間中は、被験者を安静状態とした。
【0044】
また、実験では、計測部位は、
図2に示すような16チャンネルにより、
図3に示すような国際10-20法の、F3、F4、P3、P4を含んだ範囲に設定した。その際、関心領域(ROI)として、
図2に示すようなROI1~ROI4を設定した。
【0045】
また、実験により得られた被験者群の計測データに基づいて、以下の表3に示すように、12個の回帰モデルを得た。回帰モデルの変数(特徴量)は、2種類のヘモグロビン量の変化(脱酸素化ヘモグロビン量の変化(表3のdeoxyHb)、総ヘモグロビン量の変化(表3のtotalHb))、3種類のROI(ROI1、2および4)、並びに、難易度が異なる複数の作業間の比の取得に用いる3種類の波形特徴値(平均値、面積重心を示す値、傾きを示す値)とした。たとえば、ID1の回帰モデルでは、変数は、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、ROI1、2および4、並びに、計測データの波形の面積重心を示す値とされている。つまり、ID1の回帰モデルは、ROI1、2および4の12チャンネル分の、脱酸素化ヘモグロビン量の変化における、難易度が異なる複数の作業の計測データの波形の面積重心を示す値同士の比を特徴量として得られている。
【表3】
【0046】
12個の回帰モデルは、上記式(1)により表されるが、互いに異なる特徴量を用いているため、互いに異なる定数αおよび係数Cnが決定されている。なお、各回帰モデルの定数αおよび係数Cnは、健常者群の計測データの目的変数を0とし、軽度認知障害者群の計測データの目的変数を1として、決定されている。つまり、各回帰モデルの定数αおよび係数Cnは、健常者の計測データではNIRS指標Nが0に収束すると仮定し、軽度認知障害者の計測データDではNIRS指標Nが1に収束すると仮定して計算することにより、決定されている。
【0047】
また、12個の回帰モデルの性能を評価するために、以下の表4および表5に示すように、健常者8名(健常者群)のNIRSによる計測データ(以下、適宜「評価データ」と称する)と、軽度認知障害者5名(軽度認知障害者群)のNIRSによる計測データ(以下、適宜「評価データ」と称する)を、各回帰モデルに当てはめて、正答率を得た。この際、健常者(軽度認知障害者)の計測データを回帰モデルに当てはめた場合に、回帰モデルにより健常者(軽度認知障害者)であるという判定が得られると、正解とした。また、健常者(軽度認知障害者)の計測データを回帰モデルに当てはめた場合に、回帰モデルにより軽度認知障害者(健常者)であるという判定が得られると、不正解とした。各回帰モデルによる正答率は、以下の表6に示す通りである。
【表4】
【表5】
【表6】
【0048】
表6に示すように、ID1、4、7、9および12の5つの回帰モデルにおいて、健常者および軽度認知障害者のいずれを判定した場合にも60%以上の高い正答率が得られた。
【0049】
また、正答率が高い5つの回帰モデルについて、教師データ(38名の被験者の計測データ)により、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標と、被験者Pの認知機能を示す指標であるMCI確度との相関を調べた。相関を調べた結果を、
図7~
図11にグラフとして示している。
図7~
図11に示すグラフは、あるNIRS指標範囲におけるMCI確度を示している。たとえば、
図7では、NIRS指標が、0-0.166の範囲、0.166-0.332の範囲、0.332-0.498の範囲、0.498-0.664の範囲、0.664-0.830の範囲、0.830-1の範囲における、それぞれのMCI確度を示している。
【0050】
MCI確度は、NIRS指標範囲におけるMCIの数/(MCIの数+NDCの数)により求めている。たとえば、MCIの被験者の計測データについて、ID1の回帰モデルにより計算した場合に、その計測データのNIRS指標が0.1であることが求まった場合、0-0.166のNIRS指標範囲のMCIの数が1つカウントされる。同様に、NDCの被験者の計測データについて、ID1の回帰モデルにより計算した場合に、その計測データのNIRS指標が0.1であることが求まった場合、0-0.166のNIRS指標範囲のNDCの数が1つカウントされる。このようにして、38名の被験者の計測データについて、各NIRS指標範囲にMCIとNDCとを分類することにより、各NIRS指標範囲におけるMCI確度が求まる。この作業を、正答率が高い5つの回帰モデルについて行うことにより、
図7~
図11に示すグラフを得た。
【0051】
図7~
図11に示すグラフを比較すると、ID7の回帰モデル(
図9参照)において、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標と、被験者Pの認知機能を示す指標であるMCI確度とが比例関係を有することがわかった。また、ID7の回帰モデルが、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標と、被験者Pの認知機能を示す指標であるMCI確度との間で高い相関を示すことがわかった。このことから、被験者Pの認知機能に関する生体活動(脳活動)の変化を示す指標であるNIRS指標に基づいて、被験者の認知機能を指標化できることがわかった。
【0052】
また、ID1、4、7、9および12の5つの回帰モデルについて、評価データ(13名の被験者の計測データ)により、NDC群とMCI群との間で有意差検定を行った。有意差検定を行った結果を、
図12~
図16にグラフとして示している。
図12~
図16に示すように、NDC群とMCI群との間の有意差pは、ID1の回帰モデルでは0.354、ID4の回帰モデルでは0.265、ID7の回帰モデルでは0.026、ID9の回帰モデルでは0.776、ID12の回帰モデルでは0.937であった。以上より、ID7の回帰モデルの有意差pのみが有意水準である0.05以下(5%以下)であり、ID7の回帰モデルのみがNDC群とMCI群とを有意に区別することができることがわかった。
【0053】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0054】
本実施形態では、上記のように、認知機能の指標化方法を、予め取得された健常者群の計測データDと予め取得された軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて予め構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを備えるように構成する。これにより、健常者である被験者P、軽度認知障害者である被験者P、認知機能に不安を感じる被験者Pなどが認知症を予防するために認知症予防介入(たとえば、運動など)を行う場合に、認知症予防介入の前後における被験者Pの認知機能を示す指標を取得して比較することができるので、被験者Pは認知症予防介入の前後における自らの認知機能の変化(すなわち、認知症予防介入の効果)を知ることができる。また、被験者Pが認知症予防介入を継続的に行う場合に、継続的な認知症予防介入による被験者Pの認知機能の変化(すなわち、認知症予防介入の効果)を被験者Pに示すことができるので、被験者Pは継続的な認知症予防介入による認知機能の変化を知ることができる。これらのように、被験者Pが認知症予防介入の効果を知ることができるので、被験者Pに認知症予防介入を主体的かつ継続的に行うための動機付けを効果的に与えることができる。なお、本実施形態による認知機能の指標化方法は、たとえば、福祉施設やスポーツジムなどにおいて好適に実施することができる。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、モデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標としての数値を取得するステップを含むように構成する。これにより、認知症予防介入の効果をより明確に測ることができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、作業を与えるステップを、難易度が異なる複数の作業を被験者Pに与えるステップを含むように構成する。また、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、被験者Pに与えた作業と同じ作業を与えた場合の健常者群の計測データDと軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを含むように構成する。これにより、難易度が異なる複数の作業を与えることにより、被験者Pが難しい作業に順応しているか否かを計測することができる。その結果、被験者Pの認知機能に関する生体活動の変化をより明確に生じさせることができるので、被験者Pの認知機能を示す指標をより精度良く取得することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、難易度が異なる複数の作業の被験者Pの計測データDの値同士の差分または比を特徴量として用いて、被験者Pの計測データDの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを含むように構成する。これにより、被験者Pの計測データDの値同士の差分または比を特徴量として用いることにより、たとえば被験者Pの計測部位の形などに起因して被験者P毎に生じる被験者Pの特有のパラメータの影響を除くことができるので、被験者Pによらず被験者Pの認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記のように、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、被験者Pの計測データDの波形Wの平均値、被験者Pの計測データDの波形Wの面積重心を示す値または被験者Pの計測データDの波形Wの傾きを示す値を特徴量として用いて、被験者Pの計測データDの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを含むように構成する。これにより、認知機能との関連が強い特徴量である、被験者Pの計測データDの波形Wの平均値、被験者Pの計測データDの波形Wの面積重心を示す値または被験者Pの計測データDの波形Wの傾きを示す値を特徴量として用いることができるので、被験者Pの認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0059】
また、本実施形態では、上記のように、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化を特徴量として用いて、被験者Pの計測データDの特徴量と同じ特徴量を用いて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを含むように構成する。これにより、認知機能に関する生体活動を誘発するための作業に伴って容易に生じる酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化を特徴量として用いることができるので、被験者Pの認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0060】
また、本実施形態では、上記のように、作業を与えるステップを、感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくとも1つを課題として被験者Pに与えるステップを含むように構成する。また、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、被験者Pに与えた作業と同じ作業を与えた場合の健常者群の計測データDと軽度認知障害者群の計測データDとに基づいて構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを含むように構成する。これにより、認知機能に関する生体活動を誘発するのに適した課題である、感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくとも1つを課題として被験者Pに与えることができるので、被験者Pの認知機能に関する生体活動の変化を確実に計測して計測データDを取得することができる。
【0061】
また、本実施形態では、上記のように、作業を与えるステップを、被験者Pに認知機能に関する脳活動を誘発するための作業を与えるステップを含むように構成する。また、計測データDを取得するステップを、被験者Pに作業を与えた際に被験者Pの脳血流量の変化を計測し、計測データDを取得するステップを含むように構成する。これにより、認知機能を計測するのに適した脳血流量の変化を計測して計測データDを取得することができるので、被験者Pの認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0062】
また、本実施形態では、上記のように、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを、回帰モデルにより構築されたモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得するステップを含むように構成する。これにより、健常者と軽度認知障害者との間における相関を精度良く表したモデルMにより、被験者Pの計測データDから、被験者Pの認知機能を示す指標を取得することができるので、被験者Pの認知機能を示す指標を精度良く取得することができる。
【0063】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0064】
たとえば、上記実施形態では、被験者に認知機能に関する脳活動を誘発するための作業が与えられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者に認知機能に関する脳活動以外の生体活動を誘発するための作業が与えられてもよい。この場合、被験者に作業を与えた際に被験者の脳血流量の変化以外の生体活動の変化が計測されてもよい。たとえば、被験者に作業を与えた際に認知機能と関連する被験者の視線の変化や挙動の変化が計測されてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、被験者の認知機能を示す指標として数値が取得される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者の認知機能を示す指標として数値以外が取得されてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、難易度が異なる複数の作業が被験者に与えられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、難易度が同じ複数の作業が被験者に与えられてもよい。また、単一の作業のみが被験者に与えられてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、難易度が異なる複数の作業の被験者の計測データの値同士の差分または比が特徴量として用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、難易度が異なる複数の作業を被験者に与えた場合にも、必ずしも難易度が異なる複数の作業の被験者の計測データの値同士の差分または比が特徴量として用いられなくてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、計測データの波形の平均値、計測データの波形の面積重心を示す値または波形の傾きを示す値が特徴量として用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、計測データの波形の平均値、計測データの波形の面積重心を示す値または波形の傾きを示す値以外の波形の特徴を示す値が特徴量として用いられてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化が特徴量として用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化または総ヘモグロビン量の変化以外が特徴量として用いられてもよい。たとえば、課題の正答率や課題の成績が特徴量として用いられてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、ロジスティック回帰による回帰モデルによりモデルが構築されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ロジスティック回帰による回帰モデル以外によりモデルが構築されていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、被験者に与える課題を感覚刺激とする場合、冷感覚刺激が被験者に与えられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者の感覚器に感覚刺激を与えられる課題であれば、冷感覚刺激以外の感覚刺激が被験者に与えられてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、被験者に与える課題を計算問題とする場合、引き算の計算問題が被験者に与えられる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、四則演算のどんな計算問題が被験者に与えられてもよい。
【符号の説明】
【0073】
D 計測データ
M モデル
P 被験者
W 波形