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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】製紙用表面サイズ剤、塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/16 20060101AFI20221012BHJP
   C08F 290/10 20060101ALI20221012BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20221012BHJP
   C08B 31/04 20060101ALN20221012BHJP
   C08B 31/08 20060101ALN20221012BHJP
   C08B 37/16 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
D21H21/16
C08F290/10
D21H19/20 A
C08B31/04
C08B31/08
C08B37/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019037134
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139252
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市村 文孝
(72)【発明者】
【氏名】有賀 哲
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-163002(JP,A)
【文献】特表2002-536473(JP,A)
【文献】特表2002-504563(JP,A)
【文献】特開平10-158993(JP,A)
【文献】特開昭54-034408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
C08B 1/00 - 37/18
C08F 283/01
C08F 290/00 - 290/14
C08F 299/00 - 299/08
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に(メタ)アクリロイル基を有する多糖類(A)と、エチレン性不飽和基を有するモノマー(B)との乳化重合物を含む、製紙用表面サイズ剤。
【請求項2】
(A)成分が、原料多糖類(a1)と、(メタ)アクリル系化合物(a2)との反応生成物である請求項1に記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項3】
(A)成分における(メタ)アクリロイル基の導入率が、置換度(DS)で0.05~2である請求項1又は2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項4】
(a1)成分の重量平均分子量が、500~1,000,000である請求項2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項5】
(a2)成分が、カルボン酸無水物、カルボン酸臭化物、エポキシ基を有する化合物及びイソシアネート基を有する化合物からなる群より選ばれる1種である、請求項2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項6】
(B)成分が、スチレン類(b1)及び/又はヒドロキシ基を有さないアルキル(メタ)アクリレート(b2)を含む請求項1~5のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤を原紙に塗工してなる塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用表面サイズ剤、塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプスラリーから各種製紙薬品を添加して抄造した紙において、サイズ効果を更に補強するために、原紙表面には表面サイズ剤が塗工される。その形態としては、製品の取り扱いやポンプ移送の作業性の面から、低粘度である重合体の水分散液又は乳化重合物(エマルジョン)が汎用されている。
【0003】
例えば、減成澱粉存在下にスチレン、(メタ)アクリル酸アルキル及びエチレン系不飽和モノマーをそれぞれ特定量使用して乳化重合してなる水性ポリマー分散液が開示され、減成処理として過酸化水素が用いられている(特許文献1)。しかしながら、当該発明では、抄紙マシンの高速化に伴った機械的安定性が要求される中、該安定性に劣るものであった。
【0004】
また本出願人は、無機過酸化物を用いて、特定の固有粘度に調製された澱粉中で、スチレン類及び(メタ)アクリル酸エステル類からなる不飽和単量体混合物を乳化重合して得られる水性重合体エマルジョンを含有する製紙用表面サイズ剤を開示している(特許文献2)が、高温下での機械的安定性に劣り、マシン汚れを招く問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-504563号公報
【文献】特開2014-163002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温下での機械的安定性に優れ、かつ優れたサイズ効果も発揮する製紙用表面サイズ剤及び塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術における機械的安定性に劣る要因が澱粉等の多糖類の組成にあると考え、鋭意検討したところ、特定の反応性基を組み込んだ多糖類の存在下、モノマー成分を重合して得た乳化重合物を含む製紙用表面サイズ剤が課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の製紙用表面サイズ剤及び塗工紙に関する。
【0008】
1.分子内に(メタ)アクリロイル基を有する多糖類(A)と、エチレン性不飽和基を有するモノマー(B)との乳化重合物を含む、製紙用表面サイズ剤。
【0009】
2.(A)成分が、原料多糖類(a1)と、(メタ)アクリル系化合物(a2)との反応生成物である前項1に記載の製紙用表面サイズ剤。
【0010】
3.(A)成分における(メタ)アクリロイル基の導入率が、置換度(DS)で0.05~2である前項1又は2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【0011】
4.(a1)成分の重量平均分子量が、500~1,000,000である前項2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【0012】
5.(a2)成分が、カルボン酸無水物、カルボン酸臭化物、エポキシ基を有する化合物及びイソシアネート基を有する化合物からなる群より選ばれる1種である、前項2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【0013】
6.(B)成分が、スチレン類(b1)及び/又はヒドロキシ基を有さないアルキル(メタ)アクリレート(b2)を含む前項1~5のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【0014】
7.前項1~6のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤を原紙に塗工してなる塗工紙。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製紙用表面サイズ剤によれば、高温下での機械的安定性に優れたものとなる。また、当該表面サイズ剤を原紙に塗工してなる塗工紙は良好なサイズ効果も発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製紙用表面サイズ剤は、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する多糖類(A)(以下、(A)成分という)と、エチレン性不飽和基を有するモノマー(B)(以下、(B)成分という)との乳化重合物を含む。
【0017】
(A)成分としては、原料多糖類(a1)(以下、(a1)成分という)と、(メタ)アクリル系化合物(a2)(以下、(a2)成分という)との反応生成物等が挙げられる。
【0018】
(a1)成分としては、特に限定されず、例えば、澱粉類、セルロース類、二糖類、オリゴ糖、アミロース、アミロペクチン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0019】
澱粉類としては、特に限定されず、例えば、コーン澱粉、馬鈴薯、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、ハイアミロース澱粉等の未変性澱粉;カチオン化澱粉、酸化澱粉、リン酸変性澱粉、カルボキシメチル化澱粉、アミン変性澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、カルバミルエチル化澱粉、シアノエチル化澱粉、ジアルデヒド化澱粉、酢酸変性澱粉、TEMPO酸化澱粉等の変性澱粉等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。また、市販品を使用しても差支えない。
【0020】
また、澱粉類としては、未変性澱粉又は変性澱粉等を減成剤で処理したもの(以下、減成澱粉という)を使用できる。減成澱粉としては、特に限定されず、例えば、前記原料澱粉に無機過酸化物で処理した過酸化物減成澱粉;前記原料澱粉を酵素で処理した酵素減成澱粉等が挙げられる。該減成澱粉においては、澱粉及び減成剤からなる水溶液を60~100℃で30~60分加熱撹拌することで製造できる。
【0021】
過酸化物減成澱粉の製造に用いる無機過酸化物としては、特に限定されず、例えば、次亜塩素酸塩、ペルオキソ二硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等)、過酸化水素等が挙げられる。当該過酸化物は、単独又は2種以上を組み合わせても良い。更に、過酸化水素に、硫酸鉄および硫酸銅のうちの少なくとも1種の水溶性重金属塩を組み合わせても良い。これらの中でも過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムが好ましく使用できる。また、無機過酸化物の使用量としては、特に限定されないが、固形分重量で、(a1)成分100重量部に対して、0.5~5重量部程度が好ましい。
【0022】
酵素減成澱粉の製造に用いる酵素としては、例えば、各種細菌、動植物の生産するα-アミラーゼが好ましく使用される。市販品としては、例えば、「クライスターゼSD80」、「コクゲンSDーA」、「コクゲンL」(天野エンザイム(株)製)等が挙げられる。また、酵素の使用量としては、特に限定されないが、固形分重量で、(a1)成分100重量部に対して、0.005~1重量部程度が好ましい。
【0023】
セルロース類としては、特に限定されず、例えば、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0024】
二糖類としては、特に限定されず、例えば、トレハロース、イソトレハロース、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ラクトース、スクロース等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0025】
オリゴ糖類としては、特に限定されず、例えば、フルクオリゴ糖、ガラクオリゴ糖、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0026】
(a1)成分の中でも、製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性に優れる点から、澱粉類、オリゴ糖類が好ましく、また澱粉類としては、過酸化物減成澱粉、酵素減成澱粉がより好ましい。
【0027】
(a1)成分の重量平均分子量としては、特に限定されないが、製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性に優れる点から、500~1,000,000程度が好ましく、1,000~100,000程度がより好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレンオキシド換算値により得られた値をいう。
【0028】
(a2)成分は、(メタ)アクリル系化合物であり、(メタ)アクリロイル基(CH2=CH-C(O)-)を有するものに加えて、アクリル酸又はメタクリル酸の骨格を有するものも含まれる。(a2)成分を使用することにより、(a1)成分と反応させることで得られる(A)成分の疎水性が高まり、その結果、製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性に優れ、さらに良好なサイズ効果も発揮する。(a2)成分としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボン酸;無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水クロトン酸、無水イソクロトン酸等のカルボン酸無水物;クロロメチルアクリレート、クロロメチルメタクリレート、2-クロロエチルアクリレート、2-クロロエチルメタクリレート、2-ブロモエチルアクリレート、2-ブロモエチルメタクリレート、ブロモグリシジルアクリレート等のハロゲンを有する(メタ)アクリレート;グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等のエポキシ基を有する化合物;イソシアネートエチルアクリレート、イソシアネートエチルメタクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等のイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0029】
(a2)成分としては、得られた(A)成分が(B)成分と充分に重合でき、更に製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性に優れたものとなる点から、カルボン酸無水物、カルボン酸臭化物、エポキシ基を有する化合物及びイソシアネート基を有する化合物からなる群より選ばれる1種が好ましく、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、グリシジルメタクリレート及びブロモエチルメタクリレートからなる群より選ばれる1種がより好ましい。
【0030】
(a2)成分の使用量としては、特に限定されないが、(a1)成分と(a2)成分との反応性の点から、固形分重量で、(a1)成分100重量部に対して、50~1000重量程度が好ましく、200~400重量部程度がより好ましい。
【0031】
(A)成分の製造方法としては、特に限定されず、例えば、(a1)成分を溶媒中で分散させた後に、(a2)成分を混合し、温度5~90℃程度(好ましくは30~80℃程度)で1~7時間程度(好ましくは3~5時間程度)反応させること等が挙げられる。なお、(a2)成分は、滴下で添加しても良い。本製造方法により得られた(A)成分は、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するため、製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性及びサイズ効果に優れたものとなる。
【0032】
溶媒としては、特に限定されず、水(イオン交換水、純水、水道水等)、有機溶媒等を適宜使用できる。有機溶媒としては、(a1)成分を室温又は加温で溶解又は分散しやすいものであれば、特に限定されず、例えば、ジメチルスルホキシド、N-2-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。また、溶媒の使用量としては、特に限定されないが、均一な溶液で反応させるために、固形分濃度が0.1~60重量%程度に調整することが好ましい。なお、本発明においては、無溶媒で粉末状の(a1)成分に(a2)成分を吹き付けても良いが、前記溶媒を用いる方が好ましく、中でも水が好ましい。
【0033】
得られた(A)成分の構造は、定かではないが、(a1)成分のヒドロキシ基の水素原子が(a2)成分の(メタ)アクリロイル基に置換されたものであると、下記の導入率の測定より推察している。
【0034】
本発明の(A)成分の物性としては、特に限定されず、その1つとして、(A)成分における(メタ)アクリロイル基の導入率が挙げられる。前記の導入率は、(a1)成分に(a2)成分由来の(メタ)アクリロイル基が結合した程度を示すものである。この導入率が高いほど、(a1)成分に導入された(メタ)アクリロイル基により製紙用表面サイズ剤の疎水性が高まり、当該サイズ剤が高温下での機械的安定性に優れたものとなる。
【0035】
前記導入率の測定方法としては、特に限定されないが、本発明においては、(A)成分のH-NMRスペクトルを測定し、得られたスペクトルにおける特定のピークの積分値の比率より置換度(DS)を算出する方法を適用する。
【0036】
前述の置換度(DS)は、得られた(A)成分において、(a1)成分のアノマー炭素に結合する水素原子のピーク積分値(T1)及び(a1)成分に結合した(a2)成分由来の(メタ)アクリロイル基のメチル水素のピーク積分値(T2)を下記(式1)に代入することにより算出できる。
(式1)置換度(DS)=T2/T1
【0037】
読み取る積分値の例として、(a1)成分に酸化澱粉を、(a2)成分にグリシジルメタクリレートを用いた場合を挙げると、T1は5.0~5.2ppmの低磁場側のシグナルの積分値、T2は1.7~1.9ppmの高磁場側のシグナルの積分値となる。
【0038】
前記導入率としては、製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性に優れるために、置換度(DS)で0.05~2程度が好ましく、0.2~2程度がより好ましい。
【0039】
(A)成分の他の物性としては、特に限定されず、例えば、固形分濃度20重量%、温度25℃での粘度が、通常10~1000mPa・s程度であり、好ましくは100~500mPa・s程度である。
【0040】
(B)成分としては、エチレン性不飽和基を有するモノマーであり、乳化重合により得られた製紙用表面サイズ剤が優れたサイズ効果を発揮する成分である。
【0041】
(B)成分としては、ノニオン性不飽和モノマー、カチオン性不飽和モノマー、アニオン性不飽和モノマーで区別できる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0042】
ノニオン性不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;ジイソブチレン(2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン及び2,4,4-トリメチル-2-ペンテンの混合物)、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等の分岐型α-オレフィン;1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、1-テトラコセン等の直鎖型α-オレフィン;シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン、4-ビニルシクロヘキセン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン等の脂環族α-オレフィン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有さないアルキル(メタ)アクリレート;ジエチルマレエート、ジn-ブチルマレエート、イソブチルマレエート、ジn-オクチルマレエート、ジn-デシルマレエート、ジn-ドデシルマレエート、ジn-ヘキサデシルマレエート等の不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド;N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド等のN,N’-アルキレンビス(メタ)アクリルアミド;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等の二トリル;1-ブテン、2-ブテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、1-オクテン、2-オクテン等のアルケン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0043】
ノニオン性不飽和モノマーの使用量としては、特に限定されず、塗工紙の優れたサイズ効果を得るために、(B)成分を100重量%として、通常は60~100重量%、好ましくは70~100重量%、より好ましくは80~100重量%である。
【0044】
カチオン性不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第3級アミノ基含有不飽和モノマー又はそれらの塩(カリウム、ナトリウム、アンモニウム等)および前記第3級アミノ基含有不飽和モノマーと4級化剤(メチルクロライド、ベンジルクロライド等)を反応させてなる第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0045】
カチオン性不飽和モノマーの使用量としては、特に限定されず、塗工紙の優れたサイズ効果を得るために、(B)成分を100重量%として、通常は20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0046】
アニオン性不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸;2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール系不飽和モノマー;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム、(メタ)アリルスルホン酸カリウム、(メタ)アリルスルホン酸アンモニウム等のスルホン酸基を有する不飽和モノマー等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0047】
アニオン性不飽和モノマーの使用量としては、特に限定されず、製紙用表面サイズ剤が高温下での機械的安定性及びサイズ効果に優れる点から、(B)成分を100重量%として、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0048】
これらの(B)成分の中でも、塗工紙の優れたサイズ効果を得る点から、スチレン類(b1)(以下、(b1)成分という)、ヒドロキシ基を有さないアルキル(メタ)アクリレート(b2)(以下、(b2)成分という)を含むことが好ましい。
【0049】
(b1)成分及び(b2)成分は、それぞれ単独でも使用できるが、併用する場合には、それぞれの使用量を固形分重量の比率で、(b1)/(b2)=50/50~95/5程度にすることが好ましく、55/45~80/20にすることがより好ましい。
【0050】
(B)成分には、更に必要に応じて、2-メルカプトエタノール、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;エタノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール等の飽和脂肪族アルコール;四塩化炭素、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クメン、α-メチルスチレンダイマー、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン等の連鎖移動剤を含有させても良い。
【0051】
連鎖移動剤の使用量としては、特に限定されないが、(A)成分を100重量%として、0.1~4重量%程度にすることが好ましい。
【0052】
本発明の製紙用表面サイズ剤は、乳化重合物を含むものであり、乳化重合物は、(B)成分を(A)成分の存在下、乳化重合させることにより得られる。
【0053】
(A)成分100重量部に対する(B)成分の使用量としては、特に限定されず、よく乳化でき、塗工紙の優れたサイズ効果を得るために、通常50~1000重量部、好ましくは50~500重量部、より好ましくは100~300重量部である。
【0054】
前記乳化重合の条件としては、特に限定されず、通常は温度75~95℃程度、1~5時間程度で重合させ、好ましくは、温度80~85℃程度、2~3時間で重合させる。なお、重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等のペルオキソ二硫酸塩;過酸化水素等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。これらの中でも、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素が好ましい。また、任意ではあるが、有機過酸化物のラジカル発生を容易にし、水素引抜き効果を促進できる点で還元剤を併用しても良い。還元剤としては、特に限定されず、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩;トリエタノールアミンや硫酸第一銅;硫酸鉄第二鉄七水和物等が挙げられる。
【0055】
重合開始剤の使用量も特に限定されず、通常は(B)成分100重量部に対して、0.03~5重量部程度、好ましくは0.05~3重量部程度である。
【0056】
なお、(B)成分の仕込み方法は、一括仕込み、分割滴下等のいずれの方法でも良く、また重合開始剤も滴下しても良い。
【0057】
また、乳化重合に際しては、本発明の目的を損なわない範囲において、各種公知のノニオン性、アニオン性又はカチオン性界面活性剤や反応性乳化剤を、単独又は混合して使用できる。
【0058】
ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0059】
アニオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩エステル、α-オレフィンスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0060】
カチオン性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム(セトリモニウムクロライド)、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(ステアルトリモニウムクロライド)、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアルミニウム(ベヘントリモニウムクロライド)、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム(ジステアリルジモニウムクロライド)、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム、及びクオタニウム-91等が挙げられる。
【0061】
反応性乳化剤としては、特に限定されず、例えば、特開2003-293288号公報に記載の分子内に重合性官能基を有するもの等が挙げられる。
【0062】
これらの界面活性剤と反応性乳化剤の使用量としては、特に限定されず、(B)成分100重量部に対して、通常は5重量部以下、好ましくは3重量部以下である。
【0063】
本発明の製紙用表面サイズ剤は、高温下での機械的安定性に優れることが特徴である。前記機械的安定性の測定方法としては、特に限定されないが、本発明においては、製紙用表面サイズ剤を一定量入れた容器を一定温度に加温した後、保温しながら、加圧下で強撹拌させ、生じた凝集物を濾別し、循風乾燥機等で乾燥させた後の凝集物の重量を測り、(式2)を用いて算出する。なお、加温方法としては、特に限定されず、例えば湯浴等が挙げられる。
(式2)=[乾燥後の凝集物の重量(g)]/[製紙用表面サイズ剤の固形分重量(g)]×100
【0064】
前記製紙用表面サイズ剤は、前記の測定方法により生じた凝集物の重量割合が、製紙用表面サイズ剤の固形分重量に対し、通常、5重量%以下、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下となる。凝集物の重量割合が当該範囲であれば、製紙用表面サイズ剤は、高温下での機械的安定性に優れ、塗工工程におけるマシン汚れを軽減させることが期待できる。
【0065】
製紙用表面サイズ剤の他の物性としては、特に限定されず、例えば、粒子径が、通常50~500nm程度、好ましくは70~120nm程度である。なお、「粒子径」とは、エマルジョン粒子の平均一次粒子径をいい、例えば、動的光散乱法により測定できる。また、該粒子径の測定機器としては特に限定されず、例えば光散乱粒径解析装置(製品名「ELSZ-2」、大塚電子(株)製)を用いることができる。
【0066】
また、製紙用表面サイズ剤の他の物性としては、特に限定されず、例えば、ブルックフィールド粘度が固形分濃度20重量%、温度25℃で通常1~1500mPa・s程度、好ましくは1~200mPa・s程度である。
【0067】
また製紙用表面サイズ剤のpHが、温度25℃で通常2~7程度、好ましくは3~6程度である。なお、pH調整については、重合前、重合中、重合後のいずれで行っても良い。また、pH調整剤としては、特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の無機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の金属炭酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム等の金属炭酸水素化物;トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアミン;アンモニア等が挙げられる。
【0068】
本発明の製紙用表面サイズ剤は、必要に応じて、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤、キレート剤、水溶性アルミニウム化合物等の添加剤を添加しても良い。
【0069】
本発明の製紙用表面サイズ剤を含有する塗工液としては、前記サイズ剤をそのまま、又は水等で希釈しても良いが、必要に応じて、添加剤も配合できる。該添加剤としては、例えば、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、両性澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース等のセルロース類;ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類、アルギン酸ソーダ等の水溶性高分子;防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0070】
本発明の製紙用表面サイズ剤を含む塗工液の固形分濃度としては、特に限定されず、通常0.5~30重量%程度、好ましくは1~20重量%の範囲において実用に供される。
【0071】
本発明は、塗工紙に関するものでもある。塗工紙は、製紙用表面サイズ剤を含む塗工液を原紙表面に塗工してなるものである。
【0072】
原紙としては、特に限定されず、通常は木材セルロース繊維を原料とする未塗工の紙および板紙を用いることができる。なお、当該原紙は、抄紙用パルプから得られるものであり、該抄紙用パルプとしては、特に限定されず、広葉樹パルプ(LBKP)、針葉樹パルプ(NBKP)等の化学パルプ;砕木パルプ(GP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;段ボール古紙等の古紙パルプ等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。また、当該抄紙用パルプ中に内添する填料やサイズ剤、紙力増強剤等の各種薬品についても特に限定されない。
【0073】
前記塗工液の塗工手段としては、特に限定されず、例えば、含浸法、サイズプレス法、ゲートロール法、バーコーター法、カレンダー法、スプレー法等を適用できる。また、製紙用表面サイズ剤の塗工量(固形分)も特に限定されず、通常、0.005~1g/m程度、好ましくは0.01~0.5g/m程度である。
【0074】
本発明の表面サイズ剤を塗工してなる紙としては、特に限定されず、例えば、フォーム用紙、PPC用紙、感熱記録紙等の記録用紙:アート紙、キャストコート紙、上質コート紙等のコート紙;クラフト紙、純白ロール紙等の包装用紙;ノート用紙、書籍用紙、印刷用紙、新聞用紙等の各種紙(洋紙);マニラボール、白ボール、チップボール等の紙器用板紙;ライナー、中芯等の板紙が挙げられる。
【実施例
【0075】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また実施例中、「%」及び「部」は特に断りのない限り、重量基準で表す。
【0076】
<(a1)成分の重量平均分子量>
ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法により、以下の測定条件で分子量を測定した。
GPC本体:東ソー(株)製
カラム:東ソー(株)製ガードカラムTSKgel guardcolumn α1本およびTSK-GEL α-M2本(温度40℃)
溶離液:0.2mol/L硝酸ナトリウム緩衝液(硝酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)
流速:1.0mL/分
検出器:
ビスコテック社製TDA MODEL301(濃度検出器および90°光散乱検出器および粘度検出器(温度40℃))RALLS法
測定サンプル:(a1)成分が固形分濃度で0.5%となるように前記溶離液を加えて測定サンプルを調整した。
【0077】
合成例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、酸化澱粉(商品名:「王子エースA」、王子コーンスターチ(株)製、固形分濃度88%)63部、α-アミラーゼ(商品名「コクゲンL」、天野エンザイム(株)製)5000ppm(酸化澱粉の固形分重量100部に対して)、およびイオン交換水185部を加えて、75℃に昇温し、40分撹拌後、90℃に昇温して更に10分間撹拌した。65℃まで冷却した後、水酸化ナトリウム水溶液(固形分濃度:48%)でpH11になるように調整し、重量平均分子量50,000の酵素減成澱粉(a1-1)を得た。次いで、グリシジルメタクリレート222部を添加し、更に65℃にて4時間撹拌し、pHが5.5~6.0となるように硫酸水溶液(固形分濃度:60%)を加えた。得られた乳化重合物をエタノール3000部に加えて再沈殿させ、ガラス繊維フィルター(商品名:「GA200」、ADVANTEC社、大きさ:30cm×30cm、厚さ:70mm)で濾過した後、フィルター上の固形物を600部のエタノールで洗浄した。洗浄後の重合物に固形分濃度が10%となるように、イオン交換水を加えて撹拌し、(A-1)成分を得た。表1に組成を示す(以下同様)。
【0078】
合成例2~13、比較合成例1~4
表1に示す組成で、実施例1と同様に合成し、(A-2)~(A-13)成分及び(D-1)~(D-4)成分をそれぞれ得た。
【0079】
【表1】
※重量部については、いずれも固形分で示す。
【0080】
表1における略号は、以下の化合物を表す。
・GMA:グリシジルメタクリレート
・AAn:無水アクリル酸 ・MAAn:無水メタクリル酸
・BrEMA:ブロモエチルメタクリレート
・IEMA:イソシアネートエチルメタクリレート ・PO:プロピレンオキシド
【0081】
実施例1
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えた反応容器に、固形分濃度10%の(A-1)成分240部(固形分24部)を仕込み、反応容器内の酸素を窒素で充分に置換した後、撹拌しながら系内を80℃まで昇温した。次いで、スチレン32部、n-ブチルアクリレート16部のモノマー成分と、30%過酸化水素水5部(全モノマー成分に対して固形分3部)をイオン交換水19部に溶解した重合開始剤の水溶液と0.83%硫酸鉄(II)七水和物水溶液3.2部(全モノマー成分に対して固形分0.055部)を約1.5時間かけて系内に滴下し、更に0.5時間保温して反応を完結させた。次いで、冷却後、48%水酸化ナトリウム水溶液2.6部を加え、イオン交換水で固形分濃度20%に調整して、pH5.0の乳化重合物を得た。表2に組成及び物性を示す(以下同様)。
【0082】
実施例2~19、比較例1~4
表2に示す組成で、実施例1と同様に合成し、乳化重合物をそれぞれ得た。以下、各実施例及び比較例で得られた乳化重合物をそのまま製紙用表面サイズ剤として使用した。
【0083】
<粘度(ブルックフィールド粘度)>
B型粘度計(東機産業(株)製)を用いて、25℃に調整したサンプルの粘度を測定した。
【0084】
<粒子径>
光散乱粒径解析装置(製品名「ELSZ-2」、大塚電子(株)製)を用いて測定した。
【0085】
<高温下での機械的安定性>
予めイオン交換水で固形分濃度20%となるように希釈した各製紙用表面サイズ剤を、金属製容器に50g秤量した。容器中の製紙用表面サイズ剤が70℃になるように熱水で保温しながら、マーロン安定度試験機〔熊谷理機工業(株)製〕を用いて30kgの荷重下、回転数1000rpmで30分間、製紙用表面サイズ剤を強撹拌させた。予め、秤量した350メッシュの金網(SUS製)で濾過した。濾過後の金網を105℃の循風乾燥機で3時間乾燥させた後、残った凝集物の重量を求め、(式2)より、製紙用表面サイズ剤の固形分に対する生じた凝集物の重量比率(E)(%)で高温下での機械的安定性を評価した。重量比率が小さいほど、高温下での機械的安定性が優れることを意味する。
(式2)重量比率(E)(%)=[乾燥後の凝集物の重量(g)]/[製紙用表面サイズ剤の固形分重量(g)]×100
【0086】
<塗工液の調製>
コーン澱粉(商品名:「コーンスターチ」、日本コーンスターチ(株)製)を固形分濃度12%となるようにイオン交換水で稀釈し、澱粉固形に対して過硫酸アンモニウム(以下、APSという。)を1.6%添加して、90℃で20分間保温した。固形分濃度7.5%となるようにイオン交換水で稀釈し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.0に調整し、APS変性澱粉を得た。前記変性澱粉50部に、各製紙用表面サイズ剤を0.16部混合し、塗工液をそれぞれ調製した。なお、塗工液中の製紙用表面サイズ剤の固形分濃度は0.10%である。
【0087】
<塗工紙の作製>
バーコーターを用いて、予め液温を50℃に調整した各塗工液を上質中性紙(ステキヒトサイズ度:0.5秒、坪量:70g/m)の表面に両面塗工した後、105℃の回転ドライヤーで1分間乾燥させ、塗工紙を作製した。なお、原紙への製紙用表面サイズ剤の付着量は、固形分で約0.08g/m、澱粉の付着量は、固形分で約2g/mであった。
【0088】
<ステキヒトサイズ度>
JIS P 8122に準拠し、塗工紙のステキヒトサイズ度を測定した。数値が大きいほどサイズ効果に優れることを意味する。
【0089】
【表2】
※1:(B)成分における各成分の重量%は、(B)成分の全体が100重量%となるように表している。
【0090】
表2における略称は、以下の化合物を意味する。
・St:スチレン ・BA:n-ブチルアクリレート
・IBMA:イソブチルメタクリレート ・2-HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
【0091】
表2の結果より、実施例1~19の製紙用表面サイズ剤は、比較例1~4に比べて、高温下における機械的安定性及びサイズ効果に優れることがわかった。これは、多糖類に(メタ)アクリロイル基が導入されたために効果を発揮したと推測される。
【0092】
前記の推測を確認するため、合成例で調製した(A-1)成分、(A-6)~(A-13)成分及び(D-4)成分のH-NMRスペクトルを測定し、置換度(DS)を算出した。以下にその方法を記載する。
【0093】
<(メタ)アクリロイル基の導入率(置換度(DS))>
H-NMRスペクトルの測定)
(A-1)成分5.0mgと、測定溶媒に重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)0.9mlとを混合して測定用サンプル((A)成分の固形分濃度:0.5%)を調製し、以下の条件にてH-NMRスペクトルを測定した。
【0094】
(測定条件)
NMR測定器:400MR AgilentTechnologies製 400MHz
プローブ:AutoX PFG probe(5mm)
プローブ温度:25℃
測定周波数:399.75MHz
測定溶媒:重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)
パルスシーケンス:presaturation スタンダードパラメーター使用
積算回数:16回
【0095】
(置換度(DS)の算出方法)
得られたH-NMRスペクトルのデータより、酸化澱粉のアノマー炭素に結合する水素原子のピーク積分値(T1)と、酸化澱粉に結合したGMA由来の(メタ)アクリロイル基のメチル水素のピーク積分値(T2)をそれぞれ読み取り、式1に代入して置換度(DS)を算出した。(A-6)~(A-13)成分及び(D-4)成分についても同様の方法でH-NMRスペクトルを測定して置換度(DS)を算出した。表3に結果を示す。
【0096】
(式1)置換度(DS)=T2/T1
T1:酸化澱粉のアノマー炭素に結合する水素原子に現れるピークの積分値
T2:酸化澱粉に結合したGMA由来の(メタ)アクリロイル基のメチル水素に現れるピークの積分値
【0097】
T1については、用いた(a1)成分に従って、下記のケミカルシフト(δ)に現れたピークの積分値を読み取った。また、T2については、δ=1.7~1.9ppmに現れたピークの積分値を読み取った。
[アノマー水素のピークが現れる位置(ケミカルシフト(δ))]
※(a1)成分に酸化澱粉を使用した場合:5.0~5.2ppm
※(a1)成分にタピオカ澱粉を使用した場合:5.0~5.2ppm
※(a1)成分にβ-シクロデキストリンを使用した場合:4.8~4.9ppm
※単糖類としてグルコースを使用した場合:4.8~5.0ppm
【0098】
【表3】
【0099】
以上より、(A-1)成分及び(A-6)~(A-13)成分において、(メタ)アクリロイル基が導入されていることがわかった。(D-4)成分でも(メタ)アクリロイル基が導入されていることが確認できたが、高温下での機械的安定性とサイズ効果が劣るため、原料多糖類に(メタ)アクリロイル基が導入されることで効果を奏することがわかった。
【0100】
また、(A-2)~(A-5)成分及び(D-1)成分については、合成例1と同様の方法で合成していることから、表1に記載の化合物と反応していると考えられ、更に(A-2)~(A-5)成分は高温下での機械的安定性とサイズ効果が良好であることから、(メタ)アクリロイル基が(A-1)成分とほぼ同等の置換度(DS)で導入されていると考えられる。