(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】痛み評価装置、痛み評価方法、及び痛み評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20221012BHJP
A61B 5/36 20210101ALI20221012BHJP
A61B 5/349 20210101ALI20221012BHJP
【FI】
A61B10/00 X
A61B5/36 ZDM
A61B5/349
(21)【出願番号】P 2019045936
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 充
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 環
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0276549(US,A1)
【文献】特開2016-22335(JP,A)
【文献】特開2009-261779(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157185(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/157746(WO,A1)
【文献】特表2008-513073(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107320073(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0082384(US,A1)
【文献】秋山庸子 他,生体信号を利用した体性感覚の客観評価システムの開発,立石科学技術振興財団 助成研究成果集,2011年,Vol.20,pp.51-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の痛みを評価する痛み評価装置であって、
前記利用者の心電波形データを取得する心電波形取得部と、
前記利用者の身体に押圧による負荷が加えられていない状態において前記心電波形取得部により取得された第一の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、前記利用者の身体に一定の前記負荷が加えられた状態において前記心電波形取得部により取得された第二の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、の比較に基づいて、前記負荷が加えられた状態において前記利用者が感じる痛みの度合いを判定する痛み判定部と、を備える痛み評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、
前記第一の心電波形データの前記PP間隔又はRR間隔と、前記第二の心電波形データの前記PP間隔又はRR間隔との差又は比に基づいて、前記痛みの度合いを判定する痛み評価装置。
【請求項3】
請求項2記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記差の絶対値が閾値を超える場合に、前記絶対値が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【請求項4】
請求項2記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記比と基準値との差が閾値を超える場合に、当該差が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【請求項5】
請求項2記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記差を、異なるタイミングにて得られた前記第一の心電波形データ及び前記第二の心電波形データ毎に算出し、複数の前記差に基づいて、前記痛みの度合いを判定する痛み評価装置。
【請求項6】
請求項5記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記複数の前記差の絶対値の平均値が閾値を超える場合に、前記平均値が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【請求項7】
請求項2記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記比を、異なるタイミングにて得られた前記第一の心電波形データ及び前記第二の心電波形データ毎に算出し、複数の前記比に基づいて、前記痛みの度合いを判定する痛み評価装置。
【請求項8】
請求項7記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記複数の前記比の平均値と基準値との差が閾値を超える場合に、前記平均値が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【請求項9】
請求項2から8のいずれか1項記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記比又は前記差として、前記第一の心電波形データに基づく複数の前記PP間隔の平均値又は複数の前記RR間隔の平均値と、前記第二の心電波形データに基づく複数の前記PP間隔の平均値又は複数の前記RR間隔の平均値との比又は差を算出する痛み評価装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の痛み評価装置であって、
前記利用者の身体に加えられる前記負荷は、専用の装置によって生成される痛み評価装置。
【請求項11】
利用者の痛みを評価する痛み評価方法であって、
前記利用者の心電波形データを取得する心電波形取得ステップと、
前記利用者の身体に押圧による負荷が加えられていない状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第一の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、前記利用者の身体に一定の前記負荷が加えられた状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第二の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、の比較に基づいて、前記負荷が加えられた状態において前記利用者が感じる痛みの度合いを判定する痛み判定ステップと、を備える痛み評価方法。
【請求項12】
利用者の痛みを評価する痛み評価プログラムであって、
前記利用者の心電波形データを取得する心電波形取得ステップと、
前記利用者の身体に押圧による負荷が加えられていない状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第一の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、前記利用者の身体に一定の前記負荷が加えられた状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第二の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、の比較に基づいて、前記負荷が加えられた状態において前記利用者が感じる痛みの度合いを判定する痛み判定ステップと、をコンピュータに実行させるための痛み評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、痛み評価装置、痛み評価方法、及び痛み評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
利用者が日常的に携帯するタイプの携帯型心電計が知られている(特許文献1、2参照)。また、心拍変動解析(具体的には、周波数解析)によって疼痛評価が可能という知見が非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-000409号公報
【文献】特開2005-040187号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】立石科学技術振興財団、助成研究成果集(第20号)、2011年、第51頁から第55頁「生体信号を利用した体性感覚の客観評価システムの開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には、心電波形の最大振幅であるR波とR波の間隔であるRR間隔の周期的な変動に、痛みとの相関性があることは記載されている。しかし、非特許文献1は、痛みの絶対評価を行うものである。痛みの感じ方は個人によって異なり、RR間隔の周期的な変動量を見るだけでは、個人毎の痛みの度合いまでは知ることはできない。
【0006】
本発明の目的は、痛みの度合いを個人毎に評価することのできる痛み評価装置、痛み評価方法、及び痛み評価プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)
利用者の痛みを評価する痛み評価装置であって、
前記利用者の心電波形データを取得する心電波形取得部と、
前記利用者の身体に押圧による負荷が加えられていない状態において前記心電波形取得部により取得された第一の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、前記利用者の身体に一定の前記負荷が加えられた状態において前記心電波形取得部により取得された第二の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、の比較に基づいて、前記負荷が加えられた状態において前記利用者が感じる痛みの度合いを判定する痛み判定部と、を備える痛み評価装置。
【0008】
(1)によれば、物理的な負荷が身体に加わっていない状態における第一の心電波形データと、物理的な負荷が身体に加わっている状態における第二の心電波形データとの比較に基づいて痛みの度合いが判定されるため、利用者毎に異なる痛みの感じ方を例えば数値化することができ、医師による診断や、痛みのある部位の治療等に役立てることができる。
【0009】
(2) (1)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記第一の心電波形データの前記PP間隔又はRR間隔と、前記第二の心電波形データの前記PP間隔又はRR間隔との差又は比に基づいて、前記痛みの度合いを判定する痛み評価装置。
【0010】
(2)によれば、痛みの度合いの判定を簡易な処理によって行うことができる。
【0011】
(3) (2)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記差の絶対値が閾値を超える場合に、前記絶対値が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【0012】
(3)によれば、痛みの度合いの判定を簡易な処理によって行うことができる。
【0013】
(4) (2)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記比と基準値との差が閾値を超える場合に、当該差が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【0014】
(4)によれば、痛みの度合いの判定を簡易な処理によって行うことができる。
【0015】
(5) (2)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記差を、異なるタイミングにて得られた前記第一の心電波形データ及び前記第二の心電波形データ毎に算出し、複数の前記差に基づいて、前記痛みの度合いを判定する痛み評価装置。
【0016】
(5)によれば、複数の差に基づいて痛みの度合いを判定するため、判定精度を高めることができる。
【0017】
(6) (5)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記複数の前記差の絶対値の平均値が閾値を超える場合に、前記平均値が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【0018】
(6)によれば、複数の差に基づいて痛みの度合いを判定するため、判定精度を高めることができる。
【0019】
(7) (2)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記比を、異なるタイミングにて得られた前記第一の心電波形データ及び前記第二の心電波形データ毎に算出し、複数の前記比に基づいて、前記痛みの度合いを判定する痛み評価装置。
【0020】
(7)によれば、複数の比に基づいて痛みの度合いを判定するため、判定精度を高めることができる。
【0021】
(8) (7)記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記複数の前記比の平均値と基準値との差が閾値を超える場合に、前記平均値が前記閾値以下の場合よりも痛みの度合いが大きいと判定する痛み評価装置。
【0022】
(8)によれば、複数の比に基づいて痛みの度合いを判定するため、判定精度を高めることができる。
【0023】
(9) (2)から(8)のいずれか1つに記載の痛み評価装置であって、
前記痛み判定部は、前記比又は前記差として、前記第一の心電波形データに基づく複数の前記PP間隔の平均値又は複数の前記RR間隔の平均値と、前記第二の心電波形データに基づく複数の前記PP間隔の平均値又は複数の前記RR間隔の平均値との比又は差を算出する痛み評価装置。
【0024】
(9)によれば、PP間隔又はRR間隔のばらつきの影響を排除できるため、痛みの度合いの判定精度を高めることができる。
【0025】
(10) (1)から(9)のいずれか1つに記載の痛み評価装置であって、
前記利用者の身体に加えられる前記負荷は、専用の装置によって生成される痛み評価装置。
【0026】
(10)によれば、専用の装置によって一定の負荷を利用者に加えた状態にて第二の心電波形データを取得することができるため、例えば怪我をした患部への負荷の加え方のばらつきをなくすことができ、その患部の痛みの度合いを高い精度にて判定することができる。
【0027】
(11)
利用者の痛みを評価する痛み評価方法であって、
前記利用者の心電波形データを取得する心電波形取得ステップと、
前記利用者の身体に押圧による負荷が加えられていない状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第一の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、前記利用者の身体に一定の前記負荷が加えられた状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第二の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、の比較に基づいて、前記負荷が加えられた状態において前記利用者が感じる痛みの度合いを判定する痛み判定ステップと、を備える痛み評価方法。
【0028】
(12)
利用者の痛みを評価する痛み評価プログラムであって、
前記利用者の心電波形データを取得する心電波形取得ステップと、
前記利用者の身体に押圧による負荷が加えられていない状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第一の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、前記利用者の身体に一定の前記負荷が加えられた状態において前記心電波形取得ステップにより取得された第二の心電波形データの隣接する2つの心電波形から求まるPP間隔又はRR間隔と、の比較に基づいて、前記負荷が加えられた状態において前記利用者が感じる痛みの度合いを判定する痛み判定ステップと、をコンピュータに実行させるための痛み評価プログラム。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、痛みの度合いを個人毎に評価することのできる痛み評価装置、痛み評価方法、及び痛み評価プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】痛み評価システム100の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す痛み評価システム100の制御部21の機能ブロックを示す図である。
【
図3】第一の心電波形データの一例を示す図である。
【
図4】第二の心電波形データの一例を示す図である。
【
図5】
図1に示す電子機器20の制御部21の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図1に示す電子機器20の制御部21の動作の第一の変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図1に示す電子機器20の制御部21の動作の第二の変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図1に示す電子機器20の制御部21の動作の第三の変形例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施形態の痛み評価システムの概要)
実施形態の痛み評価システムは、利用者の心電波形に基づいて、利用者が感じる痛みの度合いを判定するものである。例えば捻挫等の故障を抱えた利用者に、患部を指で押す等して患部に負荷を加えた状態と、患部に触れずに患部に負荷を加えない状態とを形成させる。痛み評価システムでは、これら2つの状態にて心電計から測定された利用者の心電波形データ(少なくとも2拍分の心電波形を含むデータ)を取得する。痛み評価システムでは、この2つの心電波形データの各々から、隣接する2つの心電波形におけるR波とR波の間隔であるRR間隔(或いは、P波とP波の間隔であるPP間隔)を求め、この2つのRR間隔(又はPP間隔)の比較に基づいて、患部に負荷を加えた状態にて利用者が感じた痛みの度合いを判定するものとしている。
【0032】
発明者は、患部に負荷を加えていない状態と、患部に負荷を加えている状態とでは、RR間隔(又はPP間隔)に差が生じることを見出し、この知見に基づいて、この2つの状態の各々におけるRR間隔(又はPP間隔)の差又は比の大きさから、痛みの度合いをスコア化することに成功した。痛みの感じ方は利用者毎に異なるが、この方法であれば、同じ利用者から取得した2つのRR間隔(又はPP間隔)の差又は比の大きさから、その利用者にとって患部の痛みがどの程度変化した(改善又は悪化した)のかを知ることは可能である。
【0033】
(実施形態の痛み評価システムの具体的構成)
図1は、痛み評価システム100の概略構成を示す模式図である。
図1に示す痛み評価システム100は、心電計10と、電子機器20と、押圧装置30と、を備える。
【0034】
心電計10は、利用者の心電波形を測定するものであり、例えば、特許文献1,2に記載されているようなものが用いられる。
【0035】
電子機器20は、例えば、スマートフォン、タブレット型端末、又はパーソナルコンピュータ等である。具体的には、電子機器20は、制御部21と、表示部22と、心電計10及び押圧装置30と接続するための通信インタフェース(図示省略)と、を備える。心電計10と電子機器20とは有線通信又は無線通信によって通信可能に構成されており、心電計10によって測定された利用者の心電波形データ(1拍分の心電波形の集合体)は、この通信インタフェースを介して、電子機器20に送信される。
【0036】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を含み、プログラムにしたがって電子機器20の統括制御等を行う。制御部21のROMには、痛み評価プログラムを含むプログラムが記憶されている。
【0037】
表示部22は、液晶表示パネル又は有機EL(electro-luminescence)表示パネル等の画像を表示可能なデバイスである。
【0038】
押圧装置30は、利用者の身体の特定部位(例えば痛みのある患部)に対し物理的な負荷(換言すると刺激)を加えるための装置である。具体的には、押圧装置30は、棒状部材と、この棒状部材をその長手方向に移動させる移動機構と、移動機構を操作するための操作部材と、電子機器20と通信するための通信インタフェースと、を備える。
【0039】
利用者は、押圧装置30における棒状部材の突出口を患部に押し当て、操作部材を操作して、移動機構によって棒状部材を突出口から突出させる操作を行う。この操作によって、突出口から突出された棒状部材の先端が、利用者の患部を一定の力にて押圧する状態となり、この患部に対して物理的な負荷が加えられることになる。このようにして棒状部材が駆動された場合には、押圧装置30から電子機器20に対し、利用者に負荷を加えたことを示す情報が送信される。棒状部材が駆動されていない場合には、押圧装置30から電子機器20に対し、利用者に負荷を加えていないことを示す情報が送信される。
【0040】
(制御部21の機能)
図2は、
図1に示す痛み評価システム100の制御部21の機能ブロックを示す図である。制御部21のCPUは、ROMに記憶された上記の痛み評価プログラムを実行することにより、心電波形取得部21A及び痛み判定部21Bとして機能する。
【0041】
心電波形取得部21Aは、心電計10によって測定された利用者の心電波形データを取得する。
【0042】
痛み判定部21Bは、押圧装置30によって利用者の身体に負荷が加えられていない状態において心電波形取得部21Aにより取得された第一の心電波形データと、押圧装置30によって利用者の身体に負荷が加えられている状態において心電波形取得部21Aにより取得された第二の心電波形データとの比較に基づいて、押圧装置30によって負荷が加えられた状態において利用者が感じる痛みの度合いを判定する。痛み判定部21Bは、例えば判定した痛みの度合いをスコア化し、このスコアを、表示部22に表示させたり、図示省略のスピーカから出力させたりすることで、利用者や利用者の治療を行う医療従事者等に報知する。
【0043】
図3は、第一の心電波形データの一例を示す図である。
図3に示す第一の心電波形データD1は、連続する3つの心電波形(心電波形W1、心電波形W2、及び心電波形W3)から構成されている。各心電波形は、P波、Q波、R波、S波、T波、及びU波から成り立っている。痛み判定部21Bは、この第一の心電波形データD1において、隣接する2つの心電波形のR波同士の間隔を少なくとも1つ算出する。
図3では、心電波形W1のR波と心電波形W2のR波との間隔であるRR間隔ΔRR1と、心電波形W2のR波と心電波形W3のR波との間隔であるRR間隔ΔRR2との2つのRR間隔が算出される例を示している。
【0044】
図4は、第二の心電波形データの一例を示す図である。
図4に示す第二の心電波形データD2は、連続する3つの心電波形(心電波形W4、心電波形W5、及び心電波形W6)から構成されている。各心電波形は、P波、Q波、R波、S波、T波、及びU波から成り立っている。痛み判定部21Bは、この第二の心電波形データD2において、隣接する2つの心電波形のR波同士の間隔を少なくとも1つ算出する。
図4では、心電波形W4のR波と心電波形W5のR波との間隔であるRR間隔ΔRR3と、心電波形W5のR波と心電波形W6のR波との間隔であるRR間隔ΔRR4との2つのRR間隔が算出される例を示している。
【0045】
痛み判定部21Bは、このようにして算出した第一の心電波形データD1におけるRR間隔と、第二の心電波形データD2におけるRR間隔とを比較することで、利用者の痛みの度合いを判定する。
【0046】
(痛み判定方法の具体例)
図5は、
図1に示す電子機器20の制御部21の動作を説明するためのフローチャートである。制御部21の心電波形取得部21Aは、押圧装置30から受信している情報の内容に基づいて、押圧装置30が使用中(利用者の身体へ物理的な負荷が加えられている状態)か否かを判定する(ステップS0)。
【0047】
心電波形取得部21Aは、押圧装置30が使用中ではないと判定した場合(ステップS0:NO)に、心電計10から、
図3に例示した第一の心電波形データD1を取得し、RAMに記憶する(ステップS1)。
【0048】
次に、心電波形取得部21Aは、押圧装置30から受信している情報の内容に基づいて、押圧装置30が使用中か否かを判定する(ステップS2)。心電波形取得部21Aは、押圧装置30が使用中と判定された場合(ステップS2:YES)に、心電計10から
図4に例示した第二の心電波形データD2を取得し、RAMに記憶する(ステップS3)。
【0049】
次に、痛み判定部21Bは、ステップS1にて取得された第一の心電波形データD1から1つのRR間隔(ここではRR間隔ΔRR1とする)を算出し(ステップS4)、ステップS3にて取得された第二の心電波形データD2から1つのRR間隔(ここではRR間隔ΔRR3とする)を算出する(ステップS5)。
【0050】
次に、痛み判定部21Bは、ステップS4にて算出したRR間隔ΔRR1と、ステップS5にて算出したRR間隔ΔRR3との差の絶対値を算出し、その絶対値が予め決められた閾値TH1を超えるか否かを判定する(ステップS6)。
【0051】
RR間隔ΔRR1とRR間隔ΔRR3との差は、患部に痛みがほとんどない状態であれば、それぞれの測定誤差や、利用者の持つRR間隔のばらつき分を除けばゼロとなる。閾値TH1は、ゼロに、心電計10によって測定されるRR間隔の測定誤差と、利用者の持つRR間隔のばらつきとに基づいて決められた値を加算した値が設定されている。したがって、上記の絶対値が閾値TH1を超えていれば、痛みによるRR間隔の変化が生じていると判断することができ、上記の絶対値が閾値TH1以下であれば、痛みによるRR間隔の変化が生じていないと判断することができる。
【0052】
痛み判定部21Bは、絶対値が閾値TH1を超えている場合(ステップS6:YES)には、痛みの度合いを示す痛みスコアを例えば“1”(痛み有りを示す数値)と判定する(ステップS7)。一方、痛み判定部21Bは、絶対値が閾値TH1以下である場合(ステップS6:NO)には、痛みの度合いを示す痛みスコアを例えば“0”(痛み無を示す数値)と判定する(ステップS8)。ここでは、痛みスコアが痛み有りか痛み無しかの2段階にて痛みを評価するための値としているが、閾値TH1を複数段階に設定し、上記絶対値が各段階の閾値を超える毎に、痛みスコアが段階的に大きくなるようにしてもよい。
【0053】
痛み判定部21Bは、痛みスコアの判定を行うと、判定した痛みスコアを表示部22に表示させて、利用者等に報知する(ステップS9)。
【0054】
(実施形態の痛み評価システムの効果)
以上のように、痛み評価システム100によれば、物理的な負荷が身体に加わっていない状態における第一の心電波形データから求められたRR間隔と、物理的な負荷が身体に加わっている状態における第二の心電波形データから求められたRR間隔との差に基づいて痛みの度合いが判定される。この差は、痛みが小さければゼロに近づき、痛みが大きければゼロから遠ざかる。そのため、この差をみることで、痛みが改善した、痛みが増した等の情報を判断することができる。この結果、医師による診断や、痛みのある部位の治療等に役立てることができる。
【0055】
なお、
図5において、ステップS4では、RR間隔ΔRR1とRR間隔ΔRR2の平均(或いは、第一の心電波形データから求められた3つ以上のRR間隔の平均)を算出し、ステップS5では、RR間隔ΔRR3とRR間隔ΔRR4の平均(或いは、第二の心電波形データから求められた3つ以上のRR間隔の平均)を算出してもよい。この場合には、ステップS6において閾値TH1と比較する値をこれら2つの平均値の差の絶対値とすればよい。このようにすることで、RR間隔のばらつきによる影響を排除することができ、痛みの判定精度を向上させることができる。
【0056】
また、このように、ステップS4及びステップS5の各々において複数のRR間隔を算出する場合には、第一の心電波形データから求められた全てのRR間隔のバラツキ(分散)と、第二の心電波形データから求められた全てのRR間隔のバラツキ(分散)とを算出し、これら2つの分散のいずれかが閾値以上となっている場合には、痛みの判定が不能と判断して、ステップS6以降の処理を行なわないようにしてもよい。RR間隔のバラツキが大きいと、ステップS6における痛みの度合いの判定精度が低下する可能性がある。そこで、バラツキが大きい場合には判定不能とすることで、痛みの度合いの誤判定を防ぐことができる。
【0057】
(痛み判定方法の具体例の第一の変形例)
図6は、
図1に示す電子機器20の制御部21の動作の第一の変形例を説明するためのフローチャートである。
図6に示すフローチャートは、ステップS6がステップS6aに変更された点を除いては
図5と同じである。
図6において
図5と同じ処理には同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
ステップS5の後、痛み判定部21Bは、ステップS4にて算出したRR間隔ΔRR1と、ステップS5にて算出したRR間隔ΔRR3との比(ΔRR1/ΔRR3)を算出し、その比と、予め決められた基準値との差の絶対値が、予め決められた閾値TH2を超えるか否かを判定する(ステップS6a)。
【0059】
RR間隔ΔRR1とRR間隔ΔRR3との比は、患部に痛みがほとんどない状態であれば、それぞれの測定誤差や、利用者の持つRR間隔のばらつき分を除けば“1”となる。基準値はこの“1”とされ、閾値TH2は、ゼロに、心電計10によって測定されるRR間隔の測定誤差と、利用者の持つRR間隔のばらつきとに基づいて決められた値を加算した値が設定されている。したがって、上記の絶対値が閾値TH2を超えていれば、痛みによるRR間隔の変化が生じていると判断することができ、上記の絶対値が閾値TH2以下であれば、痛みによるRR間隔の変化が生じていないと判断することができる。
【0060】
痛み判定部21Bは、絶対値が閾値TH2を超えている場合(ステップS6a:YES)には、痛みの度合いを示す痛みスコアを例えば“1”(痛み有りを示す数値)と判定する(ステップS7)。一方、痛み判定部21Bは、絶対値が閾値TH2以下である場合(ステップS6a:NO)には、痛みの度合いを示す痛みスコアを例えば“0”(痛み無を示す数値)と判定する(ステップS8)。ここでは、痛みスコアが痛み有りか痛み無しかの2段階にて痛みを評価するための値としているが、閾値TH2を複数段階に設定し、上記絶対値が各段階の閾値を超える毎に、痛みスコアが段階的に大きくなるようにしてもよい。
【0061】
以上のように、
図6に示す動作例によれば、物理的な負荷が身体に加わっていない状態における第一の心電波形データから求められたRR間隔と、物理的な負荷が身体に加わっている状態における第二の心電波形データから求められたRR間隔との比に基づいて痛みの度合いが判定される。この比は、痛みが小さければ1に近づき、痛みが大きければ1から遠ざかる。そのため、この比をみることで、痛みが改善した、痛みが増した等の情報を判断することができる。この結果、医師による診断や、痛みのある部位の治療等に役立てることができる。
【0062】
なお、
図6において、ステップS4では、RR間隔ΔRR1とRR間隔ΔRR2の平均を算出し、ステップS5では、RR間隔ΔRR3とRR間隔ΔRR4の平均を算出してもよい。この場合には、ステップS6aにおいて閾値TH2と比較する値をこれら2つの平均値の比と基準値との差の絶対値とすればよい。このようにすることで、RR間隔のばらつきによる影響を排除することができ、痛みの判定精度を向上させることができる。
【0063】
(痛み判定方法の具体例の第二の変形例)
図7は、
図1に示す電子機器20の制御部21の動作の第二の変形例を説明するためのフローチャートである。
図7に示すフローチャートは、ステップS6がステップS21、ステップS22、及びステップS23に変更された点を除いては
図5と同じである。
図7において
図5と同じ処理には同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
ステップS5の後、痛み判定部21Bは、RR間隔ΔRR1とRR間隔ΔRR3との差の絶対値ΔDを算出する(ステップS21)。その後、痛み判定部21Bは、絶対値ΔDを複数回(例えば2回)算出したか否かを判定する(ステップS22)。痛み判定部21Bは、絶対値ΔDを2回算出していなければ(ステップS22:NO)、ステップS0に処理を移行させる。痛み判定部21Bは、絶対値ΔDを2回算出した場合(ステップS22:YES)には、この2つの絶対値ΔDの平均値を算出し、その平均値が閾値TH1を超えるか否かを判定する(ステップS23)。
【0065】
痛み判定部21Bは、平均値が閾値TH1を超えていれば(ステップS23:YES)、ステップS7の処理を行い、平均値が閾値TH1以下であれば(ステップS23:NO)、ステップS8の処理を行う。
【0066】
以上のように、
図7に示す動作例によれば、複数の差(絶対値ΔD)に基づいて痛みの度合いを判定するため、判定精度を高めることができる。
【0067】
なお、
図7のステップS23では、複数のΔDのうちの最大値と最小値は除外し、残りのΔDの平均値を算出して、この平均値と閾値TH1とを比較してもよい。または、複数のΔDのうちの中央値を
閾値TH1と比較してもよい。これにより、突発的なノイズ等の影響を排除することができる。
【0068】
また、
図7のステップS23では、複数のΔDの各々と閾値TH1とを比較し、この複数のΔDのうち閾値TH1を超えるものが所定個(1個以上の任意の値)に達している場合にはステップS7に処理を移行し、この複数のΔDのうち閾値TH1を超えるものが所定個(1個以上の任意の値)に達していない場合にはステップS8に処理を移行してもよい。
【0069】
(痛み判定方法の具体例の第三の変形例)
図8は、
図1に示す電子機器20の制御部21の動作の第三の変形例を説明するためのフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、ステップS6がステップS31、ステップS32、及びステップS33に変更された点を除いては
図5と同じである。
図8において
図5と同じ処理には同一符号を付して説明を省略する。
【0070】
ステップS5の後、痛み判定部21Bは、RR間隔ΔRR1とRR間隔ΔRR3との比Δr(=ΔRR1/ΔRR3)を算出する(ステップS31)。その後、痛み判定部21Bは、比Δrを複数回(例えば2回)算出したか否かを判定する(ステップS32)。痛み判定部21Bは、比Δrを2回算出していなければ(ステップS32:NO)、ステップS0に処理を移行させる。痛み判定部21Bは、比Δrを2回算出した場合(ステップS32:YES)には、この2つの比Δrの平均値を算出し、その平均値と基準値との差の絶対値が閾値TH2を超えるか否かを判定する(ステップS33)。
【0071】
痛み判定部21Bは、絶対値が閾値TH2を超えていれば(ステップS33:YES)、ステップS7の処理を行い、絶対値が閾値TH2以下であれば(ステップS33:NO)、ステップS8の処理を行う。
【0072】
以上のように、
図7に示す動作例によれば、複数の比Δrに基づいて痛みの度合いを判定するため、判定精度を高めることができる。
【0073】
なお、
図8のステップS33では、複数のΔrのうちの最大値と最小値は除外し、残りのΔrの平均値を算出して、この平均値と基準値との差の絶対値と閾値TH2とを比較してもよい。または、複数のΔrのうちの中央値と基準値との差の絶対値を、閾値TH2と比較してもよい。これにより、突発的なノイズ等の影響を排除することができる。
【0074】
また、
図8のステップS
33では、複数のΔrの各々と基準値との差の絶対値を算出し、このようにして算出した複数の絶対値のうち閾値TH2を超えるものが所定個(1個以上の任意の値)に達している場合にはステップS7に処理を移行し、この複数の絶対値のうち閾値TH2を超えるものが所定個(1個以上の任意の値)に達していない場合にはステップS8に処理を移行してもよい。
【0075】
ここまでの説明では、痛み判定部21Bが、利用者に負荷を加えていない状態におけるRR間隔と、利用者に負荷を加えている状態におけるRR間隔とを比較して、利用者の痛みの度合いを判定するものとしたが、RR間隔の代わりに、隣接する2つの心電波形におけるP波とP波の間隔であるPP間隔を用いても、同様の効果を得ることができる。また、RR間隔やPP間隔の代わりに、心電波形におけるQ波のボトムとR波のピークとの電位差を用いてもよい。
【0076】
また、以上の説明では、利用者に負荷を与えるために専用の押圧装置30を用いるものとしたが、利用者に負荷を与える方法は、例えば指で患部を押下する等の方法を採用してもよい。押圧装置30を用いることで、常に同じレベルの負荷を利用者に加えることができるため、痛みの度合いの変化を正確に判定することができる。
【符号の説明】
【0077】
100 痛み評価システム
10 心電計
20 電子機器
30 押圧装置
21 制御部
21A 心電波形取得部
21B 痛み判定部
22 表示部
D1 第一の心電波形データ
D2 第二の心電波形データ
W1、W2、W3、W4、W5、W6 心電波形