(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】接合体の製造方法及び絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20221012BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20221012BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20221012BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20221012BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01L23/12 D
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H05K7/20 C
H05K1/09 C
H05K1/03 630H
(21)【出願番号】P 2019051575
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】湯本 遼平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼桑 啓
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-135752(JP,A)
【文献】特開2016-072563(JP,A)
【文献】特開2018-157116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/12 -23/15
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 1/03
H05K 1/09
H05K 1/16
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属板と第二金属板とを積層状態とした積層体の少なくとも一方側の表面にスペーサーを接触させた状態で前記積層体を加圧及び加熱して接合する接合体の製造方法であって、前記スペーサーは、前記積層体との接触面側に、前記積層体の表面と加熱時に反応しない材料からなる金属箔が設けられており、前記金属箔のビッカース硬度と厚さ(mm)との積が10以下であることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
前記金属箔のビッカース硬度と厚さ(mm)との積が、0.1以上であることを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記スペーサーは、カーボンシートとグラファイトシートと前記金属箔とがこの順に積層状態に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第一金属板又は前記第二金属板のうち、いずれか一方が銅又は銅合金からなり、他方がアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の接合体の製造方法により、セラミックス基板の一方の面に前記第一金属板が接合され、該第一金属板に前記第二金属板が接合されてなる絶縁回路基板を製造する方法であって、
前記第一金属板がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、前記第二金属板が銅又は銅合金からなり、前記第一金属板は前記セラミックス基板の一方の面に予め接合されており、
前記積層体は、前記セラミックス基板に接合状態の前記第一金属板と前記第二金属板との積層体であり、前記第一金属板と前記第二金属板とを固相拡散接合することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁回路基板は、前記セラミックス基板の両方の面に前記第一金属板が接合されるとともに、両第一金属板に前記第二金属板がそれぞれ接合され、いずれか一方の前記第二金属板に、炭化ケイ素の多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなるAlSiC複合材が接合されてなり、
前記第一金属板は前記セラミックス基板の両方の面に予め接合されており、
前記積層体は、前記セラミックス基板に接合状態の前記第一金属板と、これら第一金属板にそれぞれ積層された前記第二金属板と、いずれか一方の前記第二金属板に積層された前記AlSiC複合材との積層体であり、
前記第一金属板と前記第二金属板、及び前記第二金属板と前記AlSiC複合材を同時に固相拡散接合することを特徴とする請求項5記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路層を二層構造としたパワーモジュール用基板のように、複数の異なる金属板からなる接合体を製造する方法に関し、特に、金属板どうしを固相拡散接合によって接合する場合に好適な製造方法、及びその接合体の製造方法を用いた絶縁回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール用基板は、絶縁層となるセラミックス基板の一方の面に回路層が形成されるとともに、他方の面に放熱のための放熱層が形成された構成のものが一般に用いられる。
このパワーモジュール用基板として、例えば特許文献1におけるパワーモジュール用基板が開示されている。このパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の両面側に、アルミニウム又はアルミニウム合金、もしくは銅又は銅合金からなる金属板がそれぞれろう材を介して接合されることにより、セラミックス基板の一方の面に回路層、他方の面に放熱層が形成されている。また、放熱層に、アルミニウム又はアルミニウム合金、もしくは銅又は銅合金からなる放熱板が接合されている。
このパワーモジュール用基板は、セラミックス基板と金属板との積層体を加圧装置により加圧加熱することにより接合される。このとき、積層体と加圧装置との間には、カーボン層とグラファイト層とを積層してなるスペーサーが介在される。この場合、カーボン層が積層体側に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のパワーモジュール用基板として、回路層をアルミニウムと銅との二層構造とする場合がある。この回路層を二層構造としたパワーモジュール用基板のように、複数の異なる金属板からなる接合体を製造するには、特許文献1記載の方法によりセラミックス基板に形成したアルミニウム層の上に銅板を接合して銅層を形成するが、この銅板の接合は、ろう材を介さずに加圧加熱することにより、アルミニウムと銅とを固相拡散接合することが行われることがある。この場合、ろう材を介した接合以上に均一に加圧することが求められるが、特許文献1記載の加圧装置では、スペーサーの積層体と接する側がカーボン層により形成されているため、加圧時の荷重付与による変位が少なく、積層体の表面に微小な凹凸が生じていたり、平面度が大きい場合などには、均一に加圧されずに、接合不良を生じるおそれがある。
この対策として、加圧力を高めた場合には、カーボン層に割れが生じる可能性がある。
一方、スペーサーにおける積層体に接する表面をグラファイト層とした場合、グラファイト層が接合体に付着するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複数の異なる金属板の積層体を加圧及び加熱状態で接合する際に、積層体を均一に加圧して良好な接合体を製造することにある。また、その製造方法を用いて絶縁回路基板を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の接合体の製造方法は、第一金属板と第二金属板とを積層状態とした積層体の少なくとも一方側の表面にスペーサーを接触させた状態で前記積層体を加圧及び加熱して接合する接合体の製造方法であって、前記スペーサーは、前記積層体との接触面側に、前記積層体の表面と加熱時に反応しない材料からなる金属箔が設けられており、前記金属箔のビッカース硬度と厚さ(mm)との積が10以下である。
【0007】
スペーサーにおいて積層体の少なくとも一方側に積層体の表面と加熱時に反応しない材料からなる金属箔を設けたことにより、この金属箔を介して積層体を加圧及び加熱したときには、金属板の延性により積層体表面の微小な凹凸や平面度に起因するギャップを吸収するように変形し、積層体に均一な荷重を付与して、全面が均等に接合した接合体を製造することができる。
また、スペーサーのビッカース硬度とミリメートルを単位とする厚さとの積を10以下とすることで、金属板どうしを高精度に接合することができる。ビッカース硬度と厚さとの積が10を超えると、積層体表面形状への追従性が損なわれ、接合不良が生じるおそれがある。
しかも、加圧時に金属箔に割れが生じたり、金属箔の一部が剥離して積層体に付着するおそれもなく、スペーサーの破損を抑制しつつ不良品の少ない高品質の接合体を製造することができる。
【0008】
本発明において、前記金属箔のビッカース硬度と厚さ(mm)との積が、0.1以上であることが望ましい。
ビッカース硬度と厚さとの積が0.1未満であると、金属箔が破れる可能性がある。
【0009】
前記スペーサーは、カーボンシートとグラファイトシートと前記金属箔とがこの順に積層状態に形成されているとよい。
硬いカーボンシートに軟らかいグラファイトシートを介して金属箔を設けているので、積層体の表面形状への金属箔の追従性をより高めることができ、さらに接合性を向上させることができる。
【0010】
前記第一金属板又は前記第二金属板のうち、いずれか一方が銅又は銅合金からなり、他方がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるものとすることができる。
アルミニウムと銅とは一般に固相拡散接合されるが、本発明は、このような固相で接合する場合に特に有効である。
【0011】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上記の接合体の製造方法により、セラミックス基板の一方の面に前記第一金属板が接合され、該第一金属板に前記第二金属板が接合されてなる絶縁回路基板を製造する方法であって、前記第一金属板がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、前記第二金属板が銅又は銅合金からなり、前記第一金属板は前記セラミックス基板の一方の面に予め接合されており、前記積層体は、前記セラミックス基板に接合状態の前記第一金属板と前記第二金属板との積層体であり、前記第一金属板と前記第二金属板とを固相拡散接合する。
【0012】
絶縁回路基板の製造方法の一つの実施態様として、前記絶縁回路基板は、前記セラミックス基板の両方の面に前記第一金属板が接合されるとともに、両第一金属板に前記第二金属板がそれぞれ接合され、いずれか一方の前記第二金属板に、炭化ケイ素の多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなるAlSiC複合材が接合されてなり、前記第一金属板は前記セラミックス基板の両方の面に予め接合されており、前記積層体は、前記セラミックス基板に接合状態の前記第一金属板と、これら第一金属板にそれぞれ積層された前記第二金属板と、いずれか一方の前記第二金属板に積層された前記AlSiC複合材との積層体であり、前記第一金属板と前記第二金属板、及び前記第二金属板と前記AlSiC複合材を同時に固相拡散接合する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の接合体の製造方法によれば、複数の異なる金属板の積層体を加熱状態で加圧して接合する際に、積層体に均一な加圧力を付与して良好な接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の接合体の実施形態としてパワーモジュール用基板を示す断面図である。
【
図2】
図1におけるパワーモジュール用基板の製造工程を(a)(b)の順に示す断面図である。
【
図3】
図2の製造方法に用いる加圧装置の正面図である。
【
図4】
図3の加圧装置で用いられるスペーサーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
この実施形態は絶縁回路基板としてのパワーモジュール用基板を接合体とした例である。このパワーモジュール用基板1は、
図1に示すように、セラミックス基板10と、このセラミックス基板10の一方の面に接合された回路層20と、セラミックス基板10の他方の面に接合された放熱層30とを備える。
セラミックス基板10は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックスを用いることができる。また、セラミックス基板10の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下とされる。
【0016】
回路層20及び放熱層30は、それぞれアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一金属層41と、銅又は銅合金からなる第二金属層42との二層構造とされており、セラミックス基板10の両面に第一金属層41が形成され、その第一金属層41の上に第二金属層42が形成されている。
【0017】
第一金属層41は、純度99質量%以上の純アルミニウム(例えば、JIS規格では1000番台の純アルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は、1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)や、A6063系等のアルミニウム合金等を用いることができる。第二金属層42とセラミックス板10との熱伸縮差を緩衝するためには、第一金属層41として純アルミニウムを用いるのが好ましい。
第二金属層42は、例えば純度99.96質量%以上の銅(無酸素銅)や純度99.90質量%以上の銅(タフピッチ銅)が好適である。
【0018】
これら第一金属層41及び第二金属層42の厚さは限定されないが、例えば、第一金属層41が0.1mm以上2.0mm以下、第二金属層42が0.2mm以上5.0mm以下とされる。回路層20と放熱層30とで同じ厚さの第一金属層41と第二金属層42とを用いてもよいし、異なる厚さの組み合わせとしてもよい。図示例では、回路層20と放熱層30とで区別することなく、第一金属層41、第二金属層42として、同一符号を付している。
【0019】
このように構成されるパワーモジュール用基板1の製造方法について説明する。
まず、セラミックス基板10の両面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一金属板41´をろう材50を介して積層し、その積層体を加圧加熱することにより、セラミックス基板10と第一金属板41´とを接合して、セラミックス基板10の両面に第一金属層41を形成する(第一接合工程)。次いで、その第一金属層41の上に銅又は銅合金からなる第二金属板42´を積層し、その積層体を加圧加熱することにより、アルミニウムと銅とを固相拡散接合して、第一金属層41の上に第二金属層42を形成する(第二接合工程)。
【0020】
この製造方法において、第一接合工程における積層体及び第二接合工程における積層体を加圧するために
図3に示す加圧装置が用いられる。以下では、第一接合工程における積層体及び第二接合工程における積層体を区別することなく、積層体Sとして説明する。
この加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備えている。
【0021】
固定板113および押圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されており、ベース板111と押圧板114との間に積層体Sが配設される。
この場合、ベース板111及び押圧板114において、積層体Sと接する側に、加圧を均一にするためのスペーサー60が配設される。
【0022】
スペーサー60は、
図4に示すように、カーボンシート61とグラファイトシート62と金属箔63とをこの順に積層した構造とされている。
カーボンシート61は、耐熱性を有する硬質のカーボン材料により平板状に形成され、3000℃程度の高温で焼成したものである。この上側加圧板を構成するカーボンシート32は、かさ密度が1.6Mg/m
3以上1.9Mg/m
3以下の比較的硬質で平滑な平面に構成される。例えば、旭グラファイト株式会社製G-347(熱伝導率:116W/mK、弾性率:10.8GPa)を用いることができる。
【0023】
一方、グラファイトシート62は、クッション性を有する軟質のグラファイト材料により、鱗片状のグラファイト薄膜が雲母のように複数枚積層されて構成されたものであり、天然黒鉛を酸処理した後にシート状に成形してロール圧延してなるものである。このグラファイトシート62は、かさ密度が0.5Mg/m3以上1.3Mg/m3以下で軟質である。例えば旭グラファイト株式会社製T-5(熱伝導率:75.4W/mK、弾性率:11.4GPa)や、東洋炭素工業株式会社製黒鉛シートPF(圧縮率47%、復元率14%)などを用いることができる。
【0024】
金属箔63は、積層体Sの表面と加熱時に反応しない材料からなる。この実施形態では、第二金属板42が銅又は銅合金からなるため、金属箔63を銅又は銅合金、或いはステンレスとすることが望ましい。
【0025】
このスペーサー60の厚さは特に限定されるものではないが、例えば、カーボンシート61が0.5mm以上2.0mm以下、グラファイトシート62が0.5mm以上5.0mm以下、金属箔63が0.005mm以上0.15mm以下とされる。
この場合、金属箔63は、前述したように積層体Sの表面(この場合は銅)と加熱時に反応しない材料であれば、適宜の金属を選択できるが、ビッカース硬度と厚さ(mm)との積が、0.1以上10以下になるように設定される。
その積が0.1未満では、金属箔63が破れる可能性があり、10を超えると、積層体表面形状への追従性が損なわれ、接合不良が生じるおそれがあるからである。
なお、グラファイトシート62の金属箔63との反対側は、硬質で加熱時に変形しないものであれば、カーボンシート61以外の材料を用いてもよい。
以下、この加圧装置110を用いた第一接合工程、第二接合工程を順に説明する。
【0026】
(第一接合工程)
図2(a)に示すように、セラミックス基板10の両面に、それぞれろう材50を介して、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一金属板41´を積層する。ろう材50としては、Al-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系又はAl-Mn系等の合金が使用される。
そして、その積層体Sを
図3に示す加圧装置110を用いて積層方向に加圧して、加圧装置110ごと真空雰囲気下で加熱することにより、第一金属板41´をセラミックス基板10に接合して、セラミックス基板19の両面に第一金属層41を形成する。
このときの加圧力としては、例えば0.1MPa以上3.4MPa以下、接合温度としては600℃以上655℃以下、加熱時間としては15分以上120分以下とされる。
なお、この第一接合工程はろう材50を介した接合であるので、必ずしもスペーサーの表面を金属箔にする必要はなく、従来のカーボンシートを表面に用いたスペーサーも適用可能である。
【0027】
(第二接合工程)
図2(b)に示すように、セラミックス基板10の両面に形成された第一金属層41の上に、それぞれ銅又は銅合金からなる第二金属板42´を積層する。
そして、その積層体Sを
図3に示す加圧装置110を用いて積層方向に加圧した状態で、加圧装置110ごと真空雰囲気下で加熱して、第一金属層41に対して第二金属板42´をそれぞれ固相拡散接合することにより、第一金属層41の上に第二金属層42を形成する。この場合の加圧力としては、例えば0.3MPa以上3.5MPa以下、加熱温度としては400℃以上548℃未満とされ、この加圧及び加熱状態を5分以上240分以下保持することにより、第一金属層41と第二金属板42´とが固相拡散接合され、第一金属層41の上に第二金属層42が形成される。
【0028】
前述したように、この実施形態の加圧装置110では、第一金属層41の上に第二金属板42´を積層状態とした積層体Sとベース板111及び押圧板114との間にスペーサー60を介在させ、このスペーサー60の積層体Sとの接触面側に金属箔63を配置している。この金属箔63は、延性材料であるため、積層体Sの表面に凹凸が生じていたり、その平面度が低い場合にも、金属箔63がその表面形状に追従するように変形する。しかも、金属箔63のビッカース硬度と厚さ(mm)との積を0.1以上10以下に設定しているので、前述したように変形能に優れている。このため、積層体Sの全面に均一な加圧力を付与して、全面を均等に接合することができる。また、カーボンシートのような脆性材料ではないため、加圧によって破損することはなく、かつ積層体Sの表面に設けられている第二金属板42´とも反応しない材料であるため、第二金属板42´に付着することもない。
以上により、このスペーサー60を設けた加圧装置110を用いることにより、接合不良のない高品質のパワーモジュール用基板(絶縁回路基板)1を製造することができる。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本発明の製造方法は、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層と銅層との二層構造からなる回路層を形成する場合に適用することができ、セラミックス基板の他方の面に実施形態のように二層構造の放熱層を有さなくてもよい。
また、上記実施形態では、積層体の表面が銅又は銅合金からなるものとしたが、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものとしてもよく、その場合、スペーサーの金属箔をアルミニウム又はアルミニウム合金、或いはステンレス又はステンレス合金とすることが望ましい。
【0030】
また、銅又は銅合金からなる金属板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板との接合だけでなく、AlSiC複合材と銅又は銅合金との接合に適用してもよい。AlSiC複合材は、炭化ケイ素(SiC)からなる多孔体にアルミニウム(Al)を主成分とする金属を含浸して形成されたアルミニウムと炭化ケイ素の複合体であり、多孔体の表面にはアルミニウムの被覆層が形成される。このAlSiC複合材を用いる場合、セラミックス基板10の両面に形成された第一金属層41の上に、それぞれ銅又は銅合金からなる第二金属板42´を積層するとともに、その一方の第二金属板42´に板状のAlSiC複合材を積層し、これらの積層体を積層方向に加圧した状態で真空雰囲気下で加熱することにより、第一金属層41に対して第二金属板42´、この第二金属板42´に対してAlSiC複合材をそれぞれ同時に固相拡散接合することができる。
この場合、前述の実施形態で述べた方法によりセラミックス基板に第一金属層、第二金属層からなる回路層及び放熱層をそれぞれ形成し、その放熱層の第二金属層にAlSiC複合材をヒートシンクとして接合した絶縁回路基板とすることができ、セラミックス基板の両面に第一金属層を形成しておき(第一接合工程により)、その第一金属層に第二金属板をそれぞれ積層し、一方の第二金属板にAlSiC複合材を積層して、これらの積層体を加圧加熱して固相拡散接合する(第二接合工程)とよい。
その他、本発明は、パワーモジュール用基板の回路層に限らず、固相で接合できる金属の組み合わせのものに適用することが可能である。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を確認するために評価試験を実施した。この試験では、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一金属板と、銅又は銅合金からなる第二金属板とを積層して接合した。第一金属板としてはアルミニウム合金(A6063)を用い、第二金属板としては純銅(C1020)を用いた。スペーサーに接する側の金属板を被着材とする。
スペーサーは、カーボンシート、グラファイトシート、金属箔の積層構造体とし、その金属箔には、ステンレス鋼としてSUS304、銅としてC1020、アルミニウムとしてA6063、あるいはニッケル(Ni)、チタン(TR270C)のいずれかを用いた。これらのビッカース硬度及び厚さはそれぞれ表1に示す通りである。比較例として、金属箔に代えて、Si3N4のセラミックス板を用いたものも試験した。また、従来例としてカーボンシート、グラファイトシートからなるスペーサーを用いたものも試験した。
【0032】
そして、両金属板の積層体を加圧力1.0MPa、温度500℃、保持時間30分加圧加熱して、接合性(追従性)、スペーサーと被着材との接着の有無、スペーサーの破損の有無について評価した。
接合性は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ社製FINESAT)を用いて、両金属層の界面を観察し、非接合面積を測定し、接合前における接合すべき面積(金属層の面積)から接合率を割り出し、接合率が95%以上を「A」、95%未満を「B」とした。
各評価結果を表1に示す。なお、表1には、スペーサーのうち、被着材に接する側の表面を構成している材料についてのみ掲載している。
【0033】
(接着の有無)
接合後にスペーサーを非接着材からはがした時に、非接着材に金属箔が残留していた場合を「B」とし、残留していなかった場合を「A」とした。
(スペーサーの破損)
接合後にスペーサーを目視にて観察し、クラックが生じていた場合を「B」、クラックが生じていなければ「A」と評価した。
【0034】
【0035】
表1に示されるように、被着材と反応しない金属箔をスペーサーの表面に用いることにより、接合性が良好で、スペーサーの破損や被着材との接着もないことがわかる。
これに対して、比較例1及び2は、スペーサーの硬度×厚さの積が大きすぎるため、接合不良が生じた。比較例3は、被着材が銅に対して、スペーサーの金属箔をアルミニウムとしたため、接合時にこれらが反応して接着が生じた。比較例4は、アルミニウムからなる被着材に銅からなる金属箔を用いたため、これらが接着してしまった。比較例5はスペーサーの表面に金属箔ではなくセラミックス板を用いたため、割れが生じた。従来例1はスペーサーの表面にカーボンシートを用いたものであり、薄肉であったため、被着材表面形状への追従性はよく、接合性は良好であったが、割れが生じた。従来例2もスペーサーの表面にカーボンシートを用いたが、厚肉であったため、割れは生じなかったものの、接合不良が生じた。従来例3はグラファイトを用いたため、被着材に付着した。
【符号の説明】
【0036】
1 パワーモジュール用基板(絶縁回路基板)
10 セラミックス基板
20 回路層
30 放熱層
41 第一金属層
41´ 第一金属板
42 第二金属層
42´ 第二金属板
50 ろう材
60 スペーサー
61 カーボンシート
62 グラファイトシート
63 金属箔
110 加圧装置