(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】測位システム及び測位方法
(51)【国際特許分類】
B63C 11/00 20060101AFI20221012BHJP
G01S 19/48 20100101ALI20221012BHJP
G01S 15/42 20060101ALI20221012BHJP
B63B 21/20 20060101ALI20221012BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20221012BHJP
B63G 8/42 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B63C11/00 B
G01S19/48
G01S15/42
B63C11/00 C
B63B21/20 Z
B63B21/20 B
B63B49/00 B
B63G8/42 A
(21)【出願番号】P 2019060352
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】須藤 拓
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122762(JP,A)
【文献】特開昭63-305096(JP,A)
【文献】特開平10-160822(JP,A)
【文献】特開2010-190726(JP,A)
【文献】特開平8-15427(JP,A)
【文献】特開昭52-38250(JP,A)
【文献】特開2002-162459(JP,A)
【文献】須藤拓ら,“海中調査向け無人水中航走体”,IHI技報,日本,IHI技術開発本部管理部,2009年12月,第49巻,第4号,p.225-233,ISSN 1882-3041
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00,11/48,
G01S 19/48,15/42,15/86,
B63B 21/20,21/66,49/00,
B63G 8/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中航走体の位置を測定する測位システムであって、
測位衛星から測位情報を受信する受信器を有する曳航船と、
前記曳航船によって水中を曳航される曳航体であり、前記水中航走体の位置を測定するための音響測位装置を有する、該曳航体と、
前記曳航船と前記曳航体とを連結する索体と、
前記測位情報から得られる前記曳航船の絶対位置情報と、前記曳航船と前記曳航体との間で延びる前記索体の長さ、前記索体のヨー方向の角度、及び、前記索体のピッチ方向の角度に基づいて算出される前記曳航船を基準とした前記曳航体の相対位置情報と、前記音響測位装置によって測定された前記曳航体を基準とした前記水中航走体の相対位置情報とに基づいて、前記水中航走体の絶対位置情報を算出する演算器と、
を備える、測位システム。
【請求項2】
前記曳航船に設けられ、前記ヨー方向及び前記ピッチ方向に対して前記索体を回動自在に支持するジョイントを更に備える、請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
前記ジョイントの前記ヨー方向及び前記ピッチ方向への回動角度を検出するポテンショメータを更に備える、請求項2に記載の測位システム。
【請求項4】
前記曳航体が、前記水中航走体と通信するための音響通信装置を更に有する、請求項1~3の何れか一項に記載の測位システム。
【請求項5】
前記索体が、中性浮力を有する、請求項1~4の何れか一項に記載の測位システム。
【請求項6】
前記曳航船及び前記曳航体に接続され、前記索体に沿って延在するケーブルを更に備える、請求項1~5の何れか一項に記載の測位システム。
【請求項7】
測位システムを用いて水中航走体の位置を測定する測位方法であって、
前記測位システムは、
曳航船と、
前記曳航船によって水中を曳航される曳航体であり、前記水中航走体の位置を測定するための音響測位装置を有する、該曳航体と、
前記曳航船と前記曳航体とを連結する索体と、
を備え、
前記測位方法は、
測位衛星から測位情報を受信して前記曳航船の絶対位置情報を取得する工程と、
前記曳航船と前記曳航体との間で延びる前記索体の長さ、前記索体のピッチ方向の角度及び前記索体のヨー方向の角度に基づいて、前記曳航船を基準とした前記曳航体の相対位置情報を取得する工程と、
前記音響測位装置を用いて前記曳航体を基準とした前記水中航走体の相対位置情報を計測する工程と、
前記曳航船の絶対位置情報と、前記曳航体の相対位置情報と、前記水中航走体の相対位置情報とに基づいて、前記水中航走体の絶対位置情報を取得する工程と、
を含む、測位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測位システム及び測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音響測位によって水中航走体の位置を測定する技術が知られている(例えば、下記特許文献1及び2)。特許文献1には、音響送受波器及びGPS受信器を有する第一水面曳航体と、音響受波器及びGPS受信器を有する第二水面曳航体と、第一水面曳航体及び第二水面曳航体を曳航する観測船と、深海曳航器とを有するシステムが開示されている。このシステムでは、第一水面曳航体の音響送受波器から音響パルスを発信してから、深海曳航器のトランスポンダからの応答波が第一水面曳航体の音響送受波器及び第二水面曳航体の音響受波器で受信されるまでの時間から、音響送受波器と深海曳航器との間の距離、及び、音響受波器と深海曳航器との間の距離が検出される。そして、第一水面曳航体のGPS受信器を用いて取得された音響送受波器の位置情報、第二水面曳航体のGPS受信器を用いて取得された音響受波器の位置情報、音響送受波器と深海曳航器との間の距離、及び、音響受波器と深海曳航器との間の距離に基づいて、深海曳航器の位置を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-162459号公報
【文献】特開昭63-305096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のシステムでは、水面に配置された第一水面曳航体及び第二水面曳航体に音響測位装置を設け、当該音響測位装置を用いて深海曳航器の位置を検出している。しかしながら、特許文献1に記載のように、音響測位装置を水面付近に配置した場合には、曳航船のエンジン等による音響雑音、水面反射等に起因するノイズ等の影響により、水中航走体を高い精度で測位することが困難となる。
【0005】
そこで、水中航走体の位置を高い精度で測定することができる測位システム及び測位方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、水中航走体の位置を測定する測位システムが提供される。この測位システムは、測位衛星から測位情報を受信する受信器を有する曳航船と、曳航船によって水中を曳航される曳航体であり、水中航走体の位置を測定するための音響測位装置を有する、該曳航体と、曳航船と曳航体とを連結する索体と、測位情報から得られる曳航船の絶対位置情報と、曳航船と曳航体との間で延びる索体の長さ、索体のヨー方向の角度、及び、索体のピッチ方向の角度に基づいて算出される曳航船を基準とした曳航体の相対位置情報と、音響測位装置によって測定された曳航体を基準とした水中航走体の相対位置情報とに基づいて、水中航走体の絶対位置情報を算出する演算器と、を備える。
【0007】
上記態様に係る測位システムでは、曳航船と曳航体との間で延びる索体の長さ、ピッチ方向の角度及びヨー方向の角度に基づいて曳航船を基準とした曳航体の相対位置情報を算出しているので、曳航体の曳航船及び水面からの距離を離すことで、音響雑音、水面反射といったノイズの影響を小さくして、高い精度で曳航体の相対位置情報を取得することができる。また、このシステムでは、音響測位装置が水中で曳航される曳航体に設けられているので、音響雑音、水面反射等に起因するノイズの影響を受けずに、曳航体を基準とした水中航走体の相対位置情報を測定することができる。したがって、水中航走体の測位成功確率及び測位精度を向上させることができる。本態様に係るシステムでは、上述のように取得された水中航走体の相対位置情報と共に、曳航体の相対位置情報及び曳航船の絶対位置情報を用いることにより、水中航走体の絶対位置情報を高い精度で算出することができる。
【0008】
一実施形態では、曳航船に設けられ、ヨー方向及びピッチ方向に対して索体を回動自在に支持するジョイントを更に備えていてもよい。なお、別の一実施形態では、ジョイントのヨー方向及びピッチ方向への回動角度を検出するポテンショメータを更に備えてもよい。この実施形態では、ジョイントの回動角度から、索体のヨー方向の角度、及び、索体のピッチ方向の角度を容易に取得することができる。
【0009】
一実施形態では、曳航体が、水中航走体と通信するための音響通信装置を更に有していてもよい。この実施形態では、曳航体が水中で曳航されており、音響雑音、水面反射といったノイズの影響を抑制することができるので、曳航体と水中航走体との間の通信品質を向上させることができる。
【0010】
一実施形態では、索体が、中性浮力を有していてもよい。索体が水中で撓むと、曳航船と曳航体との間で延びる索体の長さと、曳航船と曳航体との間の実際の距離との間でずれが生じ、曳航体の相対位置情報を高い精度で取得することが困難になる。この実施形態では、索体が中性浮力を有しているので、索体が水中で撓みにくくなる。よって、曳航体の相対位置情報の計測精度を高めることができる。
【0011】
一実施形態では、曳航船及び曳航体に接続され、索体に沿って延在するケーブルを更に備えていてもよい。このケーブルによって、曳航体と曳航船との間で高品質な通信を行うことが可能となる。
【0012】
一態様では、測位システムを用いて水中航走体の位置を測定する測位方法が提供される。この測位システムは、曳航船と、曳航船によって水中を曳航される曳航体であり、水中航走体の位置を測定するための音響測位装置を有する、該曳航体と、曳航船と曳航体とを連結する索体と、を備えている。上記方法は、測位衛星から測位情報を受信して曳航船の絶対位置情報を取得する工程と、曳航船と曳航体との間で延びる索体の長さ、索体のピッチ方向の角度及び索体のヨー方向の角度に基づいて、曳航船を基準とした曳航体の相対位置情報を取得する工程と、音響測位装置を用いて曳航体を基準とした水中航走体の相対位置情報を計測する工程と、曳航船の絶対位置情報と、曳航体の相対位置情報と、水中航走体の相対位置情報とに基づいて、水中航走体の絶対位置情報を取得する工程と、を含む。
【0013】
この方法によれば、水中航走体の絶対位置情報を高い精度で算出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、水中航走体の位置を高い精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態の測位システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】一実施形態の測位システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態の測位方法を示すフローチャートである。
【
図6】(a)は曳航船及び索体を上方から見た図であり、(b)は曳航船及び索体を側方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0017】
図1は、一実施形態の測位システム1の概略的な構成を示している。
図2は、測位システム1の機能構成を示すブロック図である。この測位システム1は、水中の探査や監視を行う水中航走体の絶対位置を測定するものであり、曳航船10、曳航体20、索体30及び一以上の水中航走体40を含んでいる。
【0018】
曳航体20は、曳航船10によって水中で曳航されており、水中航走体40の位置を測定する機能と、音響通信により水中航走体40と情報の送受信を行う機能と、曳航船10と情報の送受信を行う機能とを有している。
【0019】
曳航体20の本体は、負の浮力を有しており、曳航体20が静止しているときには水中に沈むように構成されている。また、曳航体20の本体は、水中で曳航体20が静止しているときに、水平な姿勢を保つように浮心及び重心が設計されている。曳航体20の本体には、尾翼21が形成されている。この尾翼21は、曳航体20が所定の速度で曳航されているときに、所定の深度(例えば、15m以上の深度)を保つように曳航体20の姿勢を制御する。なお、尾翼21は、曳航体20が所定の深度を保つように、アクチュエータによってその傾きが制御できるようになっていてもよい。このように、曳航体20は、その全体が水中に配置された状態で曳航船10に曳航される。例えば、曳航体20は、水面WSから15m以上の深度で曳航船10に曳航される。
【0020】
図2に示すように、曳航体20は、制御装置22、AHRS(Attitude Heading Reference System)23、音響通信装置24、音響測位装置25及び通信機26を備えている。なお、AHRS23は姿勢方位基準装置である。曳航体20は、AHRS23に代えて、情報収集がより高度な慣性航法装置を備えていてもよい。制御装置22は、曳航体20を部分的に又は全体的に制御可能に構成されている。
【0021】
制御装置22は、曳航体20の各種装置(例えば、AHRS23、音響通信装置24、音響測位装置25及び通信機26)を制御する。制御装置22は、例えば、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されており、所定の機能を実現するためのコンピュータプログラムがROMなどに記憶されている。そして、CPUやRAM上に上記のコンピュータプログラムを読み込ませ、CPUの制御の下で動作させることで、各種機能が実現される。なお、一実施形態においては、制御装置22の各機能が集積回路によって実現されてもよい。
【0022】
AHRS23は、ジャイロ及び加速度計等のセンサからの情報に基づいて、曳航体20の方位及びピッチ角度を測定する。
【0023】
図1に示すように、音響通信装置24及び音響測位装置25は、曳航体20の本体下部に設けられている。音響通信装置24は、例えば、水中に音波を送信する送信器と、音波(反射波)を受信する受信器とを含む送受信機(トランシーバ)を含んでおり、音響通信を用いて後述する水中航走体40の音響通信装置43との間で相互に情報を送受信する機能を有している。
【0024】
音響測位装置25は、後述する水中航走体40の応答機44からの応答に基づいて、曳航体20を基準とした水中航走体の相対位置を測定する。音響測位装置25としては、例えば、SSBL(Super Short Base Line)測位システムを利用することができる。SSBL測位システムでは、水中に向けて定期的にパルス音を発信し、当該パルス音に対する応答エコーを少なくとも3つの音響センサで受信して、水中航走体40までの直線距離、水中航走体40までの方位角度、水中航走体40までのピッチ角度を用いて曳航体20を基準とした三次元相対座標系における水中航走体40の位置(水中航走体40の相対位置情報)を計測する。
【0025】
通信機26は、通信ケーブル32を介して後述する曳航船10の通信機14と相互に情報を送受信する機能を有する。なお、曳航体20は、当該曳航体20の深度を計測する深度計を更に備えていてもよい。
【0026】
水中航走体40は、例えば海底探査用のソナーを有する探査ロボットであり、当該ソナーを用いて水底WBを探査する。水中航走体40は、水中を自律航行することが可能である。水中航走体40は、制御装置41、慣性航法装置42、音響通信装置43及び応答機44を有している。
【0027】
制御装置41は、水中航走体40を部分的に又は全体的に制御可能に構成されている。制御装置41は、水中航走体40の各種装置(例えば、慣性航法装置42、音響通信装置43及び応答機44)を制御する。制御装置41は、例えば、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されており、所定の機能を実現するためのコンピュータプログラムがROMなどに記憶されている。そして、CPUやRAM上に上記のコンピュータプログラムを読み込ませ、CPUの制御の下で動作させることで、各種機能が実現される。なお、一実施形態においては、制御装置41の各機能が集積回路によって実現されてもよい。
【0028】
慣性航法装置42は、ジャイロ及び加速度計等のセンサからの情報に基づいて、水中航走体40の起点からの移動距離、移動方向、速度等を測定する。
【0029】
音響通信装置43は、音響通信を用いて曳航体20の音響通信装置24との間で情報の送受信が可能に構成されている。音響通信装置43は、例えば、音響通信装置24と同様の構成を有している。応答機44は、曳航体20の音響測位装置25から送信される音を受信すると、瞬時に応答音を音響測位装置25に送信するように構成されている。
【0030】
なお、水中航走体40は、当該水中航走体40の深度を計測する深度計を更に備えていてもよい。
【0031】
曳航体20と曳航船10とは、索体30によって連結されている。索体30は、例えば曳航体20を曳航するための化繊ロープである。索体30は、水中で撓まないように中性浮力を有する素材から構成されていてもよい。また、索体30は、捩れやすい素材によって構成されてもよいし、流体抵抗を低減されるために、細く形成され、流線形の断面形状を有していてもよい。
【0032】
また、索体30の内部には、曳航船10と曳航体20との間で通信を行うための通信ケーブル32(ケーブル)が設けられていてもよい。索体30の内部には、曳航船10から曳航体20に電力を供給するための電力ケーブルが更に設けられていてもよい。なお、電力ケーブル及び通信ケーブル32は、索体30に沿って延在していればよく、索体30に隣接するように設けられていてもよい。
【0033】
索体30の一端は、例えばシャックルを介して曳航体20に連結されており、索体30の他端は、曳航船10に連結されている。なお、曳航船10には、索体30を巻き取り、又は、繰り出すことができるドラムが設けられており、索体30の他端は当該ドラムに固定されていてもよい。
【0034】
図2に示すように、曳航船10は、ジョイント11、ポテンショメータ12、測位機13、通信機14、演算器15及びAHRS16を備えている。ジョイント11は、曳航船10の船体から後方に張り出した船尾部19に設けられている。
図3に示すように、ジョイント11は、互いに直交する2つの軸AX1,AX2を有する2自由度ジョイントであり、その内部通路SPに索体30が挿通されている。ジョイント11の軸AX1は、鉛直方向に延在しており、軸AX2は、水平方向に延在している。したがって、ジョイント11は、索体30の延在方向に応じて、軸AX1を中心として索体30のヨー方向に回動し、且つ、軸AX2を中心として索体30のピッチ方向に回動する。すなわち、このジョイント11は、索体30のヨー方向及びピッチ方向に対して回動自在に索体30を支持している。なお、ヨー方向の角度とは、基準方向(例えば、真北方向)に対する索体30の水平方向の角度を表しており、索体30のピッチ方向の角度とは、水平面を基準とした索体30の鉛直方向の角度を表している。
【0035】
ポテンショメータ12は、ジョイント11のヨー方向及びピッチ方向の角度を検出する。ポテンショメータ12は、検出したヨー方向及びピッチ方向の角度を示す情報を演算器15に出力する。なお、ジョイント11のヨー方向及びピッチ方向の角度検出は、ポテンショメータに限らず、角度を計測可能な任意のセンサを用いてもよい。
【0036】
ジョイント11には、ガイド18が接続されていてもよい。ガイド18は、筒状又は断面コの字状をなす長尺部材であり、その内部空間に沿って索体30が延在している。したがって、ガイド18は、索体30の延在方向を向くように構成されている。このガイド18の端部は、ジョイント11に接続されており、索体30の延在方向の変化に応じて、ジョイント11のヨー方向及びピッチ方向の角度を変化させる。
【0037】
測位機13は、曳航船10の絶対位置情報を取得する。測位機13は、例えばGNSSアンテナであり、測位衛星から測位情報を受信する受信器として機能する。
図1に示すように、測位機13は、ジョイント11の近傍に設けられている。したがって、測位機13は、測位衛星から測位情報を受信することによって、絶対座標系における曳航船10(より具体的にはジョイント11)の三次元の位置情報(緯度、緯度及び高度)を取得する。測位機13は、取得した曳航船10の絶対位置情報を演算器15に出力する。なお、測位機13は、曳航船10のジョイント11から離れた位置に配置されていてもよい。この場合、ジョイント11の絶対位置は、ジョイント11と測位機13との離間距離と、測位機13の絶対位置情報とを組み合わせることで得ることができる。
【0038】
通信機26は、通信ケーブル32を介して曳航体20の通信機26と相互に情報を送受信する。通信機26は、曳航体20から受信した情報を演算器15に出力する。
【0039】
演算器15は、例えば、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されており、所定の機能を実現するためのコンピュータプログラムがROMなどに記憶されている。そして、CPUやRAM上に上記のコンピュータプログラムを読み込ませ、CPUの制御の下で動作させることで、各種機能が実現される。なお、一実施形態においては、演算器15が集積回路によって実現されてもよい。この演算器15は、曳航船10と曳航体20との間で延びる索体30の長さL、索体30のヨー方向の角度、及び、索体30のピッチ方向の角度に基づいて、曳航船10を基準とした曳航体20の相対位置情報を取得する。また、演算器15は、曳航船10の絶対位置情報と、曳航体20の相対位置情報と、水中航走体40の相対位置情報とに基づいて、水中航走体40の絶対位置情報を取得する。
【0040】
以下、
図4を参照して、一実施形態の測位方法について説明すると共に、演算器15による演算処理の詳細について説明する。
【0041】
図4に示す一実施形態の測位方法MTでは、まず工程ST1が行われる。工程ST1では、曳航船10の絶対位置情報が取得される。この工程ST1では、測位機13によって測位衛星からの測位情報を受信することで、曳航船10の絶対位置情報が取得される。ここでは、測位機13によって取得された絶対座標系における曳航船10の三次元の絶対位置情報を(lat_s,long_s,d_s)と表す。
【0042】
続く工程ST2では、曳航船10を基準とした曳航体20の相対位置情報が取得される。この工程ST2では、演算器15が、索体30の長さL、索体30のピッチ方向の角度θ、及び、索体30のヨー方向の角度ψに基づいて、曳航船10を基準とした曳航体20の相対位置を算出する。
図1に示すように、索体30の長さLは、曳航船10(より詳細には、ジョイント11)と曳航体20との間で延在する索体30の長さを表している。この長さLは、索体30のドラムからの繰り出し量から求められてもよいし、索体30に付与された目盛りを読み取ることによって取得されてもよい。また、索体30のピッチ方向の角度θ、及び、索体30のヨー方向の角度ψは、
図6に示すように、ポテンショメータ12によって検出されたジョイント11の回動角度、及び、曳航船10に装備されたAHRS16で計測した方位角度及びピッチ角度から取得される。なお、
図6(a)は曳航船10及び索体30を上方から見た図であり、
図6(b)は曳航船10及び索体30を側方から見た図である。
図6(a)中のψ_sは、真北方向を基準とした船尾部19の方位を示し、ψ_AX1は、ジョイント11の軸AX1周りの角度を示している。また、
図6(b)中のθ_sは、水平方向を基準とした船尾部19の方位を示し、θ_AX2は、ジョイント11の軸AX2周りの角度を示している。
【0043】
図5は、曳航体20及び索体30を上方から見た図である。
図5のY方向は、ヨー方向の基準となる方向であり、例えば真北方向である。
図5のX方向は、水平面内でY方向と直交する方向であり、例えば真東方向である。
図5では、Y方向と索体30の延在方向とがなす角度を索体30のヨー方向の角度ψとしている。
図5に示すように、曳航船10と曳航体20と間の距離の水平成分は、L・cos(θ)で求められる。
【0044】
ここでは、ジョイント11を基準とした相対座標系における曳航体20の三次元の位置情報を(Δlon1,Δlat1,Δd1)と表すものとする。この場合、ジョイント11に対する曳航体20の相対位置(Δlat1,Δlon1,Δd1)は、以下の式から求められる。
Δlat1=L・cos(θ)・cos(ψ)
Δlon1=L・cos(θ)・sin(ψ)
Δd1=L・sin(θ)
【0045】
なお、曳航体20が深度計を備えている場合には、曳航体20の鉛直方向の位置Δd1が、ジョイント11の水面WSからの高度Dfbに深度計によって計測された曳航体20の深度を加算することによって求められてもよい。
【0046】
続く工程ST3では、曳航体20を基準とした水中航走体40の相対位置が取得される。ここでは、曳航体20を基準とした相対座標系における水中航走体40の三次元の位置情報を(Δlat2,Δlon2,Δd2)と表すものとする。このST3では、音響測位装置25は、水中航走体40に音波を送出して、水中航走体40の応答機44からの応答エコーを示す音波を受信することで、曳航体20を基準とした水中航走体40の相対位置(Δlat2,Δlon2,Δd2)を計測する。計測された水中航走体40の相対位置情報は、通信ケーブル32を介して曳航体20から曳航船10の演算器15に送信される。
【0047】
続く工程ST4では、水中航走体40の絶対位置情報が取得される。この工程ST4では、演算器15が、曳航船10の絶対位置情報と、曳航体20の相対位置情報と、水中航走体40の相対位置情報に基づいて、水中航走体40の絶対位置を算出する。工程ST4では、まず演算器15は、曳航船10の絶対位置情報と、曳航船10を基準とした曳航体20の相対位置情報を組み合わせることで、曳航体20の絶対位置情報を取得する。ここでは、絶対座標系における曳航体20の三次元の位置情報を(lat_t,lon_t,d_t)と表すものとする。このとき、曳航体20の絶対位置(lat_t,lon_t,d_t)は、以下の式から求められる。
lat_t=lat_s+Δlat1
lon_t=lon_s+Δlon1
d_t=d_s+Δd1
【0048】
次いで、演算器15は、算出された曳航体20の絶対位置と、曳航体20を基準とした水中航走体40の相対位置を組み合わせることで、水中航走体40の絶対位置を算出する。ここでは、絶対座標系における水中航走体40の三次元の位置情報を(lat_a,lon_a,d_a)と表すものとする。このとき、水中航走体40の絶対位置(lat_a,lon_a,d_a)は、以下の式から求められる。
lat_a=lat_t+Δlat2
lon_a=lon_t+Δlon2
d_a=d_t+Δd2
【0049】
なお、水中航走体40が深度計を備えている場合には、水中航走体40の鉛直方向の位置d_aが、水中航走体40の深度計によって計測された深度から求められてもよい。
【0050】
上述した一実施形態に係る測位システム1では、曳航船10の絶対位置情報と、曳航体20の相対位置情報と、水中航走体40の相対位置情報とに基づいて、水中航走体40の絶対位置情報が算出される。水中航走体40の絶対位置は、曳航船10から曳航体20に送信され、音響通信によって曳航体20から水中航走体40に送信される。そのため、水中航走体40は、算出された自身の絶対位置に基づいて、より精度よく水中又は水底の調査を行うことが可能となる。
【0051】
また、上記実施形態に係る測位システム1では、水中に配置された音響測位装置25を用いて水中航走体40の相対位置情報を取得しているので、音響雑音、水面反射等に起因するノイズの影響を抑制することができる。したがって、水中航走体40の相対位置情報を高い精度で測定することができる。特に、曳航体20が15m以上の深度で曳航されることにより、音響測位装置25に対するノイズの影響をより小さくすることができる。このように測定された水中航走体40の相対位置情報を用いることによって、高い精度で水中航走体40の絶対位置情報を算出することができる。
【0052】
また、測位システム1では、音響通信装置24が水中に配置されているので、音響雑音、水面反射等に起因するノイズの影響によって音響通信の品質が劣化することを抑制することができる。
【0053】
さらに、上記実施形態では、索体30が、中性浮力を有しているので、索体が水中で撓みにくくなる。これにより、曳航船10と曳航体20との間で延びる索体の長さLと、曳航船10と曳航体20との間の実際の距離との間でずれが生じにくくなるので、曳航体20の相対位置情報の検出精度を高めることができる。
【0054】
以上、種々の実施形態に係る測位システム及び測位方法について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、曳航船10に設けられた演算器15によって水中航走体40の絶対位置情報を算出しているが、演算器15は、曳航船10とは異なる位置に配置されていてもよい。例えば、演算器15による演算処理は、曳航体20の制御装置22又は水中航走体40の制御装置41によって実行されてもよいし、他の船舶に設けられた演算装置によって行われてもよい。
【0056】
また、上記実施形態の曳航船10は、ジョイント11を備えているが、索体30のピッチ方向の角度、及び、索体30のヨー方向の角度を取得することができれば、必ずしもジョイント11を備えていなくてもよい。また、方法MTでは、工程ST1、工程ST2及び工程ST3は任意の順番で行われてもよい。
任意の構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 測位システム
10 曳航船
11 ジョイント
12 ポテンショメータ
13 測位機(受信器)
15 演算器
20 曳航体
24 音響通信装置
25 音響測位装置
30 索体
32 通信ケーブル
40 水中航走体
43 音響通信装置
44 応答機
θ ピッチ方向の角度
ψ ヨー方向の角度