(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】細胞培養器具及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221012BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2019065127
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 誠太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 真輝
(72)【発明者】
【氏名】大口 慎治
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-029092(JP,A)
【文献】特開2007-167002(JP,A)
【文献】特開2006-006136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に筒状に延びる本体筒部と、前記本体筒部の軸方向中間部に設けられ、培養膜を保持する保持部と、を有する保持具と、
前記保持具に対して軸方向一方側に着脱可能に装着され、軸方向に筒状に延び、前記保持具への装着時に前記保持具の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出する第一筒部材と、
前記保持具に対して軸方向他方側に着脱可能に装着され、軸方向に筒状に延び、前記保持具への装着時に前記保持具の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出する第二筒部材と、
を備え
、
前記保持具は、
前記培養膜の軸方向一方側の軸方向端面に当接する第一当接部が前記保持部として設けられた筒状の第一保持筒と、
前記第一保持筒に対して係脱可能に取り付けられ、前記培養膜の軸方向他方側の軸方向端面に当接する第二当接部が前記保持部として設けられた筒状の第二保持筒と、
を有する、細胞培養器具。
【請求項2】
前記保持具は、前記本体筒部における前記保持部の軸方向少なくとも一方側を含む所定部位を径方向に貫通するように設けられた側面開口部を有する、請求項1に記載された細胞培養器具。
【請求項3】
前記側面開口部は、
前記保持部の軸方向一方側に軸方向に延びるように形成された第一側面開口部と、
前記保持部の軸方向他方側に軸方向に延びるように形成された第二側面開口部と、
を有する、請求項2に記載された細胞培養器具。
【請求項4】
前記培養膜は、膜体と、前記膜体に接合され、前記膜体よりも硬質な材料により形成された支持枠と、を有する、請求項1乃至
3の何れか一項に記載された細胞培養器具。
【請求項5】
請求項1乃至
4の何れか一項に記載された細胞培養器具を使用する方法であって、
前記培養膜の一方の軸方向端面に細胞が播種される前に、前記
第一保持筒の軸方向一方側に前記第一筒部材を装着する第一装着工程と、
前記培養膜の一方の軸方向端面への細胞の播種が行われた後に、前記
第一保持筒から前記第一筒部材を取り外す第一取り外し工程と、
前記培養膜の他方の軸方向端面に細胞が播種される前に、前記
第二保持筒の軸方向他方側に前記第二筒部材を装着する第二装着工程と、
を備える、細胞培養器具の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養するために用いられる細胞培養器具及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養膜の両面に細胞を培養するための細胞培養器具が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1記載の細胞培養器具は、培養膜と、外筒と、内筒と、を備えている。外筒は、軸方向に筒状に延びる本体筒部を有している。外筒の本体筒部には、軸方向に延びるスリットが設けられている。外筒は、スリットの存在により径方向に弾性変形可能である。外筒は、本体筒部の軸方向中間部に設けられた、培養膜を保持する保持部を有している。
【0003】
内筒は、二つ設けられており、それぞれ軸方向に筒状に延びている。第一の内筒は、外筒の保持部に対向する対向部を有している。第一の内筒は、外筒の軸方向一方側から外筒内に挿入されて隣接配置される。また、第二の内筒は、外筒の軸方向他方側から外筒内に挿入されて隣接配置される。各内筒が外筒内に挿入されて装着された状態では、外筒が径方向外側へ弾性変形することで各内筒と外筒とが互いに径方向で隙間無く接し、第一の内筒の対向部と外筒の保持部とが軸方向で対向することで培養膜が挟持されて保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の細胞培養器具では、二つの内筒がそれぞれ、外筒に装着された際にその軸方向先端が外筒の軸方向端面よりも軸方向外側に突出しないように形成されている。そして、外筒は、それら二つの内筒を同時に装着できるようにその軸方向全長が比較的長い状態に形成されており、細胞培養器具における外筒の軸方向下端から培養膜までの寸法距離が長い。このため、培養膜に細胞を培養するためには、ウェル(培養容器)の容量を大きくすることが必要であり、多量の培養液を準備することが必要である。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、少量の培養液で培養膜に細胞を培養することが可能な細胞培養器具及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である細胞培養器具は、軸方向に筒状に延びる本体筒部と、前記本体筒部の軸方向中間部に設けられ、培養膜を保持する保持部と、を有する保持具と、前記保持具に対して着脱可能に軸方向一方側に装着され、軸方向に筒状に延び、前記保持具への装着時に前記保持具の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出する第一筒部材と、前記保持具に対して着脱可能に軸方向他方側に装着され、軸方向に筒状に延び、前記保持具への装着時に前記保持具の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出する第二筒部材と、を備える、細胞培養器具である。
【0008】
この構成によれば、培養膜の両面に二種類の細胞を播種するうえで、細胞培養器具を、保持具に第一筒部材及び第二筒部材の双方を同時に装着して用いる必要はなく、第一筒部材及び第二筒部材のうち何れか下側に位置するものを保持具から取り外した状態で用いることができる。また、第一筒部材は、保持具に係合固定された状態で保持具の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出し、第二筒部材は、保持具に係合固定された状態で保持具の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出する。このため、細胞培養器具によれば、細胞培養を行う使用時、軸方向下端から培養膜が保持される保持部までの寸法距離を短縮することができるので、少量の培養液で培養膜に細胞を培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一実施形態に係る細胞培養器具の分解斜視図である。
【
図2】第一実施形態の細胞培養器具の断面図である。
【
図3】第一実施形態の細胞培養器具において保持具により培養膜を保持する構造を説明するための断面図である。
【
図4】第一実施形態の細胞培養器具における培養膜の一方の軸方向端面への細胞播種時の断面図である。
【
図5】第一実施形態の細胞培養器具における培養膜の他方の軸方向端面への細胞播種時の断面図である。
【
図6】第一実施形態の細胞培養器具における両面培養時の使用手順を表した一例のフローチャートである。
【
図7】第二実施形態に係る細胞培養器具の断面図である。
【
図8】第二実施形態の細胞培養器具が備える保持具の分解斜視図である。
【
図9】一変形形態に係る細胞培養器具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る細胞培養器具及びその使用方法の具体的な実施形態について、図面を用いて説明する。
【0011】
[第一実施形態]
第一実施形態の細胞培養器具1は、足場依存性のある細胞を培養する器具である。細胞培養器具1は、二種類の細胞を膜の両面に培養することが可能である。細胞培養器具1は、
図1に示す如く、培養膜10と、保持具20と、第一筒部材30と、第二筒部材40と、を備えている。
【0012】
培養膜10は、細胞が培養されるシート状の膜である。培養膜10は、膜体11と、支持枠12と、を有している。膜体11は、細胞培養時に細胞の足場となる膜本体部である。膜体11は、両面に細孔が設けられた多孔質膜である。膜体11は、例えば、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂により形成されている。膜体11の膜厚は、例えば0.1μm-100μmである。
【0013】
支持枠12は、膜体11を支持して補強する基材である。支持枠12は、中央部に円形の孔12aが開いた環状の枠体である。支持枠12は、膜体11の周縁に接合されて固定されている。尚、支持枠12の形状は、少なくとも環状の枠体部を含むものであればよく、更に、その枠体部の周方向一部から径方向外側に向けて突出する突起部を含んでいてもよい。この突起部は、例えば、人がピンセットなどの治具で培養膜10を把持するときに取り扱い易くするための機能を有している。支持枠12は、膜体11よりも硬質な材料により形成されている。支持枠12の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱可塑性樹脂、或いは、シリコーンゴムなどの熱硬化性エラストマーである。支持枠12の厚みは、例えば、0.05mm-0.5mmである。
【0014】
保持具20は、培養膜10を保持するための部材である。保持具20は、樹脂材料やゴムなどにより形成されている。保持具20は、二つの保持筒からなり、第一保持筒21と、第二保持筒22と、を有している。第一保持筒21と第二保持筒22とは、互いに軸方向Xに隣接して配置される。第一保持筒21及び第二保持筒22は、互いに係合して固定された状態で培養膜10を保持する。保持具20に保持された培養膜10は、第一保持筒21及び第二保持筒22の軸方向開口を通じて軸方向両側に露出する。
【0015】
第一保持筒21及び第二保持筒22は、互いに係脱可能に取り付けられる部材であって、
図2に示す如く、互いに係合して固定される構造23を有している。この係合構造23は、互いの組付け状態で互いに離間する軸方向Xへの相対移動及び径方向への相対移動を規制させる係止構造である。この係合構造23が設けられる部位は、例えば第一保持筒21及び第二保持筒22に周方向二箇所以上(例えば、3箇所~5箇所)に設けられる。また、軸方向Xに延びるスリットが保持筒21,22に設けられる構造では、そのスリットを周方向に挟んだ分断部位それぞれに係合構造23が設けられることが好ましい。
【0016】
上記の如く第一保持筒21と第二保持筒22とが互いに係合して固定された状態では、第一保持筒21及び第二保持筒22それぞれの互いに対向する軸方向端面が軸方向Xに離間する距離は、培養膜10(具体的には、その支持枠12)における組み付け前の軸方向厚みと同等以下となるように設定されている。これにより、培養膜10の支持枠12が第一保持筒21と第二保持筒22とに挟持されて固定される。この際、支持枠12と第一保持筒21との間及び支持枠12と第二保持筒22との間はシールされる。
【0017】
尚、第一保持筒21と第二保持筒22との係合構造23は、例えば、第一保持筒21及び第二保持筒22のうちの一方の外面又は内面に設けられた径方向に凹んだ凹部と、他方の内面又は外面に設けられた径方向に突起する凸部と、からなるL溝係合構造であってよい。凹部は、例えば径方向から見てL字状に形成された溝であってよい。
【0018】
また、第一保持筒21と第二保持筒22との係合構造23は、例えば、第一保持筒21及び第二保持筒22のうちの一方に設けられた径方向に弾性変形可能な弾性変形部と、他方に設けられた径方向に凹んだ溝部と、からなるスナップフィット方式の係合構造であってよい。このスナップフィット方式の係合構造では、第一保持筒21と第二保持筒22とが組付け時に互いに軸方向に接近された際、弾性変形部の軸方向先端部に設けた径方向に突出する爪部が溝部に嵌って引っ掛かることにより、第一保持筒21と第二保持筒22とが互いに係合して固定される。
【0019】
第一保持筒21は、軸方向Xに筒状に延びる中空の第一筒部21aと、培養膜10を保持する第一保持部21bと、第一筒部21aを径方向に貫通するように設けられた第一側面開口部21cと、を有している。第二保持筒22は、軸方向Xに筒状に延びる中空の第二筒部22aと、培養膜10を保持する第二保持部22bと、第二筒部22aを径方向に貫通するように設けられた第二側面開口部22cと、を有している。
【0020】
第一筒部21a及び第二筒部22aはそれぞれ、軸方向Xに所定長さLa1,La2を有している。尚、第一筒部21a及び第二筒部22aの軸方向長さ同士は、略一致していてよい。第一筒部21a及び第二筒部22aは、保持具20における軸方向Xに筒状に延びる本体筒部を構成している。
【0021】
第一筒部21a及び第二筒部22aはそれぞれ、径方向に所定厚さを有している。
図3に示す如く、第一筒部21a及び第二筒部22aの外径同士は、略一致していると共に、それらの内径同士は、略一致している。培養膜10の外径(すなわち、支持枠12の外径)は、第一筒部21a及び第二筒部22aの内径を超えている。尚、培養膜10の外径は、第一筒部21a及び第二筒部22aの外径よりも小さくてよい。第一保持筒21及び第二保持筒22は、第一筒部21a及び第二筒部22aの軸方向Xに向いた軸方向端面同士が対向した状態で互いに係合することにより、培養膜10を挟持して保持する。
【0022】
第一保持部21b及び第二保持部22bは、第一筒部21a及び第二筒部22aそれぞれにおける互いに対向する軸方向端面である。この第一保持部21b及び第二保持部22bとしての軸方向端面は、培養膜10の支持枠12に当接可能な当接部である。第一保持部21bは、培養膜10の軸方向一方側の軸方向端面に当接している。第二保持部22bは、培養膜10の軸方向他方側の軸方向端面に当接している。第一保持部21b及び第二保持部22bはそれぞれ、環状に形成されている。第一保持部21b及び第二保持部22bは、保持具20全体での本体筒部の軸方向中間部に位置して設けられている。
【0023】
第一側面開口部21cは、第一筒部21aの所定部位を径方向に貫通するように設けられた、その第一筒部21aの内部を外部に連通させるスリット孔部である。第一側面開口部21cは、周方向に一箇所設けられている。第一側面開口部21cが設けられる所定部位は、第一筒部21aが第二筒部22aの下方に位置する状態での細胞培養時に少なくとも第一保持部21bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含んでおり、その第一保持部21bから軸方向一方側に延びるように形成されている。第一側面開口部21cは、第一筒部21aの軸方向全体に亘って延びている。第一側面開口部21cは、第一保持部21bに保持された培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出するエア抜き機能を有している。
【0024】
第二側面開口部22cは、第二筒部22aの所定部位を径方向に貫通するように設けられた、その第二筒部22aの内部を外部に連通させるスリット孔部である。第二側面開口部22cは、周方向に一箇所設けられている。第二側面開口部22cが設けられる所定部位は、第二筒部22aが第一筒部21aの下方に位置する状態での細胞培養時に少なくとも第二保持部22bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含んでおり、その第二保持部22bから軸方向他方側に延びるように形成されている。第二側面開口部22cは、第二筒部22aの軸方向全体に亘って延びている。第二側面開口部22cは、第二保持部22bに保持された培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出するエア抜き機能を有している。
【0025】
第一筒部材30及び第二筒部材40はそれぞれ、保持具20に取り付けられる筒状の部材である。第一筒部材30及び第二筒部材40はそれぞれ、樹脂材料やゴムなどにより形成されている。第一筒部材30及び第二筒部材40は、培養膜10への細胞培養時において選択的に保持具20に取り付けられる。すなわち、培養膜10の一方の軸方向端面に一種目の細胞が播種されるときは、第一筒部材30が保持具20に取り付けられ、一方、培養膜10の他方の軸方向端面に二種目の細胞が播種されるときは、第二筒部材40が保持具20に取り付けられる。
【0026】
第一筒部材30は、軸方向Xに筒状に延びる中空の筒部31を有している。第一筒部材30は、保持具20(具体的には、第一保持筒21)に対して軸方向一方側に装着される。第一筒部材30は、保持具20(具体的には、第一保持筒21)に対して着脱可能である。すなわち、第一筒部材30及び第一保持筒21は、互いに係脱可能に取り付けられる。第一筒部材30及び第一保持筒21は、上記した保持具20の第一保持筒21及び第二保持筒22の係合構造23の如き、互いに係合して固定される構造Aを有している。保持具20に保持された培養膜10は、第一筒部材30の軸方向開口を通じて軸方向一方側に露出する。
【0027】
第一筒部材30は、保持具20の第一保持筒21に挿入可能に形成されている。第一筒部材30は、第一保持筒21の第一筒部21a内に挿入された状態に取り付けられる。第一筒部材30は、第一保持筒21の内径に一致する外径を有している。第一筒部材30の筒部31は、第一保持筒21に係合固定された状態で第一保持筒21の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出する第一突出部32を有している。
【0028】
具体的には、第一筒部材30は、第一保持筒21に係合固定された状態で、筒部31における挿入側の軸方向端面が、第一保持筒21と第二保持筒22とに挟持固定される培養膜10の一方の軸方向端面に当接するように、かつ、筒部31におけるその挿入側とは反対側の軸方向端面が、第一保持筒21の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出した位置に配置されるように形成されている。すなわち、第一筒部材30の軸方向Xの長さLb1は、第一保持筒21の第一筒部21aの軸方向Xの長さLa1に比して大きくなるように設定されている。
【0029】
また、第二筒部材40は、軸方向Xに筒状に延びる中空の筒部41を有している。第二筒部材40は、保持具20(具体的には、第二保持筒22)に対して軸方向他方側に装着される。第二筒部材40は、保持具20(具体的には、第二保持筒22)に対して着脱可能である。すなわち、第二筒部材40及び第二保持筒22は、互いに係脱可能に取り付けられる。第二筒部材40及び第二保持筒22は、上記した保持具20の第一保持筒21及び第二保持筒22の係合構造23の如き、互いに係合して固定される構造Bを有している。保持具20に保持された培養膜10は、第二筒部材40の軸方向開口を通じて軸方向他方側に露出する。
【0030】
第二筒部材40は、保持具20の第二保持筒22に挿入可能に形成されている。第二筒部材40は、第二保持筒22の第二筒部22a内に挿入された状態に取り付けられる。第二筒部材40は、第二保持筒22の内径に一致する外径を有している。第二筒部材40の筒部41は、第二保持筒22に係合固定された状態で第二保持筒22の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出する第二突出部42を有している。
【0031】
具体的には、第二筒部材40は、第二保持筒22に係合固定された状態で、筒部41における挿入側の軸方向端面が、第一保持筒21と第二保持筒22とに挟持固定される培養膜10の他方の軸方向端面に当接するように、かつ、筒部41におけるその挿入側とは反対側の軸方向端面が、第二保持筒22の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出した位置に配置されるように形成されている。すなわち、第二筒部材40の軸方向Xの長さLb2は、第二保持筒22の第二筒部22aの軸方向Xの長さLa2に比して大きくなるように設定されている。
【0032】
次に、
図4、
図5、及び
図6を参照して、細胞培養器具1の組み立て方法及びその使用方法について説明する。
【0033】
細胞培養器具1の構成部品である培養膜10、保持具20、第一筒部材30、及び第二筒部材40を用意する。尚、培養膜10及び保持具20は、保持具20の第一保持筒21及び第二保持筒22が互いに係合して固定されることで培養膜10が保持された状態にあるものを用いるものとすればよい。
【0034】
細胞培養器具1の組み立ては、ピンセットなどの治具を用いた人の手作業により行われる。この組み立て手順としては、まず、培養膜10が保持された保持具20への第一筒部材30の組み付けが行われる。この組み付けは、まず、保持具20を、第一筒部材30を挿入する軸方向端部側が上方に位置するようにセットした状態で、治具で第一筒部材30を把持したうえで、その第一筒部材30を保持具20に対して上方から軸方向Xの互いに近づく方向へ移動させて挿入し、その後、保持具20と第一筒部材30とを構造Aで互いに係合固定することにより実現される。
【0035】
かかる組み付けが行われると、第一筒部材30が保持具20に装着されて、その第一突出部32が保持具20の第一保持筒21の軸方向一方端よりも軸方向一方側の外方に突出した状態になる(
図4に示す状態;
図6に示すステップS100)。この状態の細胞培養器具1に対して培養膜10への細胞培養が行われる。この細胞培養は、細胞培養器具1を細胞培養用プレートのウェル内に入れて培養液で満たし、培養膜10(具体的には、膜体11)の一方の軸方向端面(
図4に示す上面)に細胞αを播種させることとすればよい。この細胞αの播種は、まず、培養膜10の一方の軸方向端面が鉛直上方を向くように細胞培養器具1を培養液中に浸漬し、その状態でその一方の軸方向端面側の空間に対して細胞αを供給することにより行われる(ステップS110)。
【0036】
上記の如く細胞αの播種が完了すると、次に、治具を用いて、保持具20から第一筒部材30が取り外され(ステップS120)、その後、保持具20が、培養膜10を保持したまま上下反転される(ステップS130)。
【0037】
保持具20が上下反転されると、次に、その保持具20への第二筒部材40の組み付けが行われる。この組み付けは、まず、保持具20を、第一筒部材30を挿入する軸方向端部側とは反対側である第二筒部材40を挿入する軸方向端部側が上方に位置するようにセットした状態で、治具で第二筒部材40を把持したうえで、その第二筒部材40を保持具20に対して上方から軸方向Xの互いに近づく方向へ移動させて挿入し、その後、保持具20と第二筒部材40とを構造Bで互いに係合固定することにより実現される。
【0038】
かかる組み付けが行われると、第二筒部材40が保持具20に装着されて、その第二突出部42が保持具20の第二保持筒22の軸方向他方端よりも軸方向他方側の外方に突出した状態になる(
図5に示す状態;ステップS140)。この状態の細胞培養器具1に対して培養膜10への細胞培養が行われる。この細胞培養は、細胞培養器具1を細胞培養用プレートのウェル内に入れて培養液で満たし、培養膜10(具体的には、膜体11)の他方の軸方向端面(
図5に示す上面)に細胞βを播種させることとすればよい。この細胞β得の播種は、まず、培養膜10の他方の軸方向端面が鉛直上方を向くように細胞培養器具1を培養液中に浸漬し、その状態でその他方の軸方向端面側の空間に対して細胞βを供給することにより行われる(ステップS150)。
【0039】
上記の如く細胞βの播種が完了すると、次に、治具を用いて、保持具20から第二筒部材40が取り外される(ステップS160)。そして、保持具20から細胞培養が行われた培養膜10が取り外されて、その培養膜10の膜体11の顕微鏡観察などが行われる。
【0040】
このように、細胞培養器具1の構造によれば、培養膜10の両面に二種類の細胞を播種して細胞培養を行うことができる。また、培養膜10の両面に二種類の細胞を播種するうえで、培養膜10の一方の軸方向端面への細胞播種の際及び他方の軸方向端面への細胞播種の際の何れのときにも、培養膜10を保持する保持具20の上側に第一筒部材30及び第二筒部材40のうち何れか一方を装着することは必要であるが、その保持具20の下側に何れか他方を装着することは不要である。すなわち、培養膜10の両面に二種類の細胞を播種するうえで、細胞培養器具1を、保持具20に第一筒部材30及び第二筒部材40の双方を同時に装着して用いる必要はなく、第一筒部材30及び第二筒部材40のうち何れか下側に位置するものを保持具20から取り外した状態で用いることができる。
【0041】
第一筒部材30の軸方向Xの長さLb1は、第一保持筒21の第一筒部21aの軸方向Xの長さLa1に比して大きく、第一筒部材30は、第一保持筒21に係合固定された状態で、第一突出部32にて第一保持筒21の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出する。また、第二筒部材40の軸方向Xの長さLb2は、第二保持筒22の第二筒部22aの軸方向Xの長さLa2に比して大きく、第二筒部材40は、第二保持筒22に係合固定された状態で、第二突出部42にて第二保持筒22の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出する。このため、細胞培養器具1によれば、細胞培養を行う使用時、軸方向下端から培養膜10が保持される保持部21b,22bまでの寸法距離を短縮することができるので、ウェルの小容量化を図ることができ、少量の培養液で培養膜に細胞を培養することが可能となる。
【0042】
また、細胞培養器具1において、保持具20の第一保持筒21は、第一筒部21aを径方向に貫通する第一側面開口部21cを有している。保持具20の第二保持筒22は、第二筒部22aを径方向に貫通する第二側面開口部22cを有している。側面開口部21c,22cはそれぞれ、保持部21b,22bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含む所定部位に設けられている。このため、培養膜10の両面に溜まるエアを側面開口部21c,22cを介して保持具20の外部へ放出することができる。
【0043】
特に、保持具20に保持される培養膜10の一方の軸方向端面への細胞播種後、その保持具20を上下反転させて培養膜10の他方の軸方向端面への細胞播種を行う際に、培養膜10における既に細胞播種がなされている一方の軸方向端面に溜まるエアを側面開口部21cを介して保持具20の外部へ放出することができる。従って、最初に播種される細胞の培養面上にエアが残留するのを防止することができ、そのエア残留に起因する不都合(例えば、最初に播種された細胞が培養液に接触しないことなど)を回避することができる。
【0044】
また、細胞培養器具1において、培養膜10は、細胞が播種される膜体11と、その膜体11に接合され、その膜体11よりも硬質な材料により形成された支持枠12と、を有している。培養膜10は、支持枠12にて保持具20の第一保持筒21と第二保持筒22とに挟持されて固定される。このため、培養膜10を治具で取り扱ううえで比較的硬質な支持枠12を用いればよいので、培養膜10の取り扱いを容易化することができる。また、支持枠12は、膜体11の周縁に接合されて環状に形成されている。このため、培養膜10の膜体11の顕微鏡観察などの評価を、支持枠12を膜体11に接合させたまま行うことができる。
【0045】
更に、保持具20は、第一保持筒21と第二保持筒22とが互いに係合して固定されることによりそれらの第一保持筒21と第二保持筒22とにより培養膜10を挟持して保持する。このため、培養膜10を保持した状態で保持具20を簡単に組み立てることができると共に、組み立て後の保持具20を第一保持筒21と第二保持筒22とに簡単に分離させることができ、培養膜10を保持具20から簡単に取り出すことができる。これにより、細胞培養後の培養膜10に対して単独で顕微鏡観察などの評価を行うことができ、培養膜と保持具とが一体となった構造に比べて、その評価を容易かつ適切に行うことができる。
【0046】
尚、上記の第一実施形態においては、第一保持筒21の第一保持部21b及び第二保持筒22の第二保持部22bがそれぞれ、特許請求の範囲に記載した「保持部」に相当している。
【0047】
また、上記の第一実施形態においては、二種類の細胞を培養膜10の両面に播種することとしている。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、三種類以上の細胞を培養膜10の両面に播種することとしてもよい。例えば、三種類の細胞を用意して、二種類の細胞を培養膜10の一方の面に播種し、その後、培養膜10を裏返して、一種類の細胞を培養膜10の他方の面に播種することとしてもよい。
【0048】
[第二実施形態]
第二実施形態の細胞培養器具100は、第一実施形態の細胞培養器具1と同様に、二種類の細胞を膜の両面に培養することが可能である。細胞培養器具100は、
図7に示す如く、培養膜10と、保持具120と、第一筒部材130と、第二筒部材140と、を備えている。尚、第二実施形態において、上記第一実施形態における細胞培養器具1の構成と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0049】
保持具120は、培養膜10を保持するための部材である。保持具120は、樹脂材料やゴムなどにより形成されている。保持具120は、
図8に示す如く、二つの保持筒からなり、第一保持筒121と、第二保持筒122と、を有している。第一保持筒121と第二保持筒122とは、互いに軸方向Xに隣接して配置される。第一保持筒121及び第二保持筒122は、互いに係合して固定された状態で培養膜10を保持する。保持具120に保持された培養膜10は、第一保持筒121及び第二保持筒122の軸方向開口を通じて軸方向両側に露出する。
【0050】
第一保持筒121及び第二保持筒122は、互いに係脱可能に取り付けられる部材であって、互いに係合して固定される構造を有している。この係合構造は、第一実施形態における保持具20の係合構造23と同様のL溝係合構造やスナップフィット方式の係合構造であってよい。第一保持筒121と第二保持筒122とが互いに係合して固定された状態では、第一保持筒121及び第二保持筒122それぞれの互いに対向する保持部が軸方向Xに離間する距離は、培養膜10(具体的には、その支持枠12)における組み付け前の軸方向厚みよりも小さくなるように設定されている。これにより、培養膜10の支持枠12が第一保持筒121と第二保持筒122とに挟持されて固定される。この際、支持枠12と第一保持筒121との間及び支持枠12と第二保持筒122との間はシールされる。
【0051】
第一保持筒121は、軸方向Xに筒状に延びる中空の第一筒部121aと、培養膜10を保持する第一保持部121bと、第一筒部121aを径方向に貫通するように設けられた第一側面開口部121cと、を有している。第二保持筒122は、軸方向Xに筒状に延びる中空の第二筒部122aと、培養膜10を保持する第二保持部122bと、それぞれ第二筒部122aを径方向に貫通するように設けられた第二側面開口部122c及び第三側面開口部122dと、第二保持部122bを軸方向Xに貫通するように設けられた保持開口部122eと、を有している。
【0052】
第一筒部121aは、軸方向Xに所定長さを有していると共に、径方向に所定厚さを有している。第二筒部122aは、軸方向Xに所定長さを有していると共に、径方向に所定厚さを有している。第一筒部121aの外径と第二筒部122aの内径とは、略一致している。培養膜10の外径(すなわち、支持枠12の外径)は、第一筒部121aの内径を超えかつその外径以下であると共に、第二筒部122aの内径以下である。
【0053】
第一保持部121bは、第一筒部121aにおける第二保持筒122に対向する軸方向端面である。第二保持部122bは、第二筒部122aから径方向内側へ突出するフランジ部である。培養膜10の外径(すなわち、支持枠12の外径)は、第二保持部122bの径方向内端の内径よりも大きい。第二保持部122bは、第二筒部122aの軸方向中間部に位置して設けられている。第一保持筒121は、第一筒部121aが第二保持筒122の第二筒部122aの内側に挿入されると共に第一保持部121bが第二保持部122bに対向した状態で、第二保持筒122に対して係合固定される。これにより、第一保持筒121と第二保持筒122は、培養膜10を挟持して保持する。
【0054】
第一側面開口部121cは、第一筒部121aの所定部位を径方向に貫通するように設けられた、その第一筒部121aの内部を外部に連通させるスリット孔部である。第一側面開口部121cは、周方向に一箇所設けられている。第一側面開口部121cが設けられる所定部位は、第一筒部121aが第二筒部122aの下方に位置する状態での細胞培養時に少なくとも第一保持部121bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含んでおり、その第一保持部121bから軸方向一方側に延びるように形成されている。第一側面開口部121cは、第一筒部121aが第二筒部122aの下方に位置する状態で第一保持部121bに保持された培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出するエア抜き機能を有している。
【0055】
第二側面開口部122c及び第三側面開口部122dはそれぞれ、第二筒部122aの所定部位を径方向に貫通するように設けられた、その第二筒部122aの内部を外部に連通させるスリット孔部である。第二側面開口部122cと第三側面開口部122dとは、第二筒部122aの周方向異なる位置に設けられている。これにより、第二保持筒122の捩じれ剛性を向上させると共にシール性を向上させることができる。
【0056】
第二側面開口部122cが設けられる所定部位は、第二筒部122aが第一筒部121aの下方に位置する状態での細胞培養時に少なくとも第二保持部122bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含んでおり、その第二保持部122bから軸方向他方側に延びるように形成されている。第二側面開口部122cは、第二筒部122aが第一筒部121aの下方に位置する状態で第二保持部122bに保持された培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出するエア抜き機能を有している。
【0057】
第三側面開口部122dが設けられる所定部位は、第一筒部121aが第二筒部122aの下方に位置する状態での細胞培養時に少なくとも第一保持筒121の第一側面開口部121cに径方向で連通すると共に第二保持部122bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含んでおり、その第二保持部122bから軸方向一方側に延びるように形成されている。第三側面開口部122dは、第一筒部121aが第二筒部122aの下方に位置する状態で、第一側面開口部121cに連通して、第二保持部122bに保持された培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出するエア抜き機能を有している。
【0058】
保持開口部122eは、第二保持部122bを軸方向Xに貫通するように設けられており、第二側面開口部122cに径方向で連通する。この保持開口部122eは、第二筒部122aが第一筒部121aの下方に位置する状態で、第二側面開口部122cに連通して、第二保持部122bに保持された培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出するエア抜き機能を有している。
【0059】
第一筒部材130及び第二筒部材140はそれぞれ、保持具120に取り付けられる筒状の部材である。第一筒部材130及び第二筒部材140はそれぞれ、樹脂材料やゴムなどにより形成されている。第一筒部材130及び第二筒部材140は、培養膜10への細胞培養時、保持具20に選択的に取り付けられる。すなわち、培養膜10の一方の軸方向端面に一種目の細胞が播種されるときは、第一筒部材130が保持具120に取り付けられ、一方、培養膜10の他方の軸方向端面に二種目の細胞が播種されるときは、第二筒部材140が保持具120に取り付けられる。
【0060】
第一筒部材130は、軸方向Xに筒状に延びる中空の筒部131を有している。第一筒部材130は、保持具120(具体的には、第一保持筒121)に対して軸方向一方側に装着される。第一筒部材130は、第一保持筒121に対して係脱可能に取り付けられて着脱可能である。第一筒部材130と第一保持筒121とは、互いに係合して固定される構造を有している。保持具120に保持された培養膜10は、第一筒部材130の軸方向開口を通じて軸方向一方側に露出する。
【0061】
第一筒部材130は、保持具120の第一保持筒121に挿入可能に形成されている。第一筒部材130は、第一保持筒121の第一筒部121a内に挿入された状態に取り付けられる。第一筒部材130は、その内径が軸方向X全域に亘って不変であるが、その軸方向他方側の外径が軸方向一方側の外径に比して小さくなるように形成されている。その軸方向他方側の外径は、第一保持筒121の内径に一致している。第一筒部材130の筒部131は、第一保持筒121の軸方向他方側に係合固定された状態で第一保持筒121の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出する第一突出部132を有している。
【0062】
第一筒部材130は、第一保持筒121に係合固定された状態で、筒部131における挿入側の軸方向端面が、第一保持筒121と第二保持筒122とに挟持固定される培養膜10の一方の軸方向端面に当接するように、かつ、筒部131におけるその挿入側とは反対側の軸方向端面が、第一保持筒121の軸方向一方端よりも軸方向一方側に突出した位置に配置されるように形成されている。すなわち、第一筒部材130の軸方向Xの長さは、第一保持筒121の第一筒部121aの軸方向Xの長さに比して大きくなるように設定されている。
【0063】
また、第二筒部材140は、軸方向Xに筒状に延びる中空の筒部141を有している。第二筒部材140は、保持具120(具体的には、第二保持筒122)に対して軸方向他方側に装着される。第二筒部材140は、第二保持筒122に対して互いに係脱可能に取り付けて着脱可能である。第二筒部材140と第二保持筒122とは、互いに係合して固定される構造を有している。保持具120に保持された培養膜10は、第二筒部材140の軸方向開口を通じて軸方向他方側に露出する。
【0064】
第二筒部材140は、保持具120の第二保持筒122に挿入可能に形成されている。第二筒部材140は、第二保持筒122の第二筒部122a内に挿入された状態に取り付けられる。第二筒部材140は、第二保持筒122の第二筒部122aの内径に一致する外径を有している。第二筒部材140の筒部141は、第二保持筒122に係合固定された状態で第二保持筒122の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出する第二突出部142を有している。
【0065】
第二筒部材140は、第二保持筒122に係合固定された状態で、筒部141における挿入側の軸方向端面が、第一保持筒121と第二保持筒122とに挟持固定される培養膜10の他方の軸方向端面に当接しつつフランジ状の第二保持部122bに当接するように、かつ、筒部141におけるその挿入側とは反対側の軸方向端面が、第二保持筒122の軸方向他方端よりも軸方向他方側に突出した位置に配置されるように形成されている。すなわち、第二筒部材140の軸方向Xの長さは、第二保持筒122の第二筒部122aの軸方向Xの長さに比して大きくなるように設定されている。
【0066】
上記構造を有する細胞培養器具100の組み立て手順としては、上記第一実施形態の細胞培養器具1の場合と同様に、まず、培養膜10が保持された保持具120への第一筒部材130の組み付けが行われる。そして、第一突出部132が保持具120の第一保持筒121の軸方向一方端よりも軸方向一方側の外方に突出した状態で、培養膜10の一方の軸方向端面への細胞播種が行われる。その細胞播種が完了すると、保持具120から第一筒部材130が取り外され、その後、保持具120が、培養膜10を保持したまま上下反転される。
【0067】
次に、保持具120への第二筒部材140の組み付けが行われる。そして、第二突出部42が保持具20の第二保持筒22の軸方向他方端よりも軸方向他方側の外方に突出した状態で、培養膜10の他方の軸方向端面への細胞播種が行われる。その細胞播種が完了すると、保持具120から第二筒部材140が取り外され、その後、培養膜10の膜体11の顕微鏡観察などが行われる。
【0068】
このように、細胞培養器具100の構造においても、培養膜10の両面に二種類の細胞を播種して細胞培養を行うことができる。また、培養膜10の両面に二種類の細胞を播種するうえで、細胞培養器具100を、第一筒部材130及び第二筒部材140の双方を同時に装着して用いる必要はなく、第一筒部材130及び第二筒部材140のうち何れか下側に位置するものを取り外した状態で用いることができる。第一筒部材130及び第二筒部材140はそれぞれ、保持具20に係合固定された状態で、突出部32,42にて保持具20の軸方向端よりも軸方向X外側に突出する。このため、細胞培養器具100によれば、細胞培養を行う使用時、軸方向下端から培養膜10が保持される保持部121b,122bまでの寸法距離を短縮することができ、これにより、ウェルの小容量化を図ることができ、少量の培養液で培養膜に細胞を培養することが可能となる。
【0069】
また、細胞培養器具100において、保持具120の第一保持筒121は、第一筒部121aを径方向に貫通する第一側面開口部121cを有している。保持具120の第二保持筒122は、第二筒部122aを径方向に貫通する第二側面開口部122c及び第三側面開口部122dを有すると共に、第二保持部122bを軸方向Xに貫通する保持開口部122eを有している。各側面開口部121c,122c,122dはそれぞれ、培養膜10の両面培養時に保持部121b,122bに保持される培養膜10よりも軸方向Xの下方側の箇所を含む所定部位に設けられている。特に、第三側面開口部122dは、培養膜10の他方の軸方向端面への細胞播種時に、保持部121b,122bに保持される培養膜10の下面を第一側面開口部121cを介して第二保持筒122の外部に露出させるように設けられている。また、保持開口部122eは、培養膜10の一方の軸方向端面への細胞播種時に、保持部121b,122bに保持される培養膜10の下面を第二側面開口部122cを介して第二保持筒122の外部に露出させるように設けられている。このため、培養膜10の両面に溜まるエアを側面開口部121c,122cを介して保持具120の外部へ放出することができる。
【0070】
尚、上記の第二実施形態においては、第一保持筒121の第一保持部121b及び第二保持筒122の第二保持部122bがそれぞれ、特許請求の範囲に記載した「保持部」に相当している。
【0071】
ところで、上記の第一及び第二実施形態においては、保持具20,120の筒内に筒部材30,40,130,140が挿入されて配置される細胞培養器具1,100が用いられている。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、
図9に示す如く、保持具220の筒外に筒部材230,240が挿入されて配置される細胞培養器具200に適用することとしてもよい。
【0072】
また、上記の第一及び第二実施形態においては、保持具20を構成する二つの保持筒21,22の双方又は保持具120を構成する二つの保持筒121,122の双方に、培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出する開口部21c,22c,121c,122c,122d,122eが設けられている。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、保持具20,120の上下反転後、培養膜10の他方の軸方向端面への細胞播種を行う際に培養膜10の一方の軸方向端面に溜まるエアを保持具20の外部へ放出することだけを目的とする場合は、
図9に示す如く、二つの保持筒221,222のうち培養膜10の他方の軸方向端面への細胞播種を行う際に下方に位置する保持筒221に、培養膜10の下面に溜まるエアを外部に放出する開口部221cが設けられていればよい。
【0073】
また、上記の第一及び第二実施形態においては、培養膜10が、膜体11と、その膜体11の周縁に接合される環状の支持枠12と、を有するものとした。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、支持枠12は、膜体11に接合される枠状の構造を有すれば、例えば軸方向Xから見て十字状や網状に形成されていてもよい。
【0074】
また、上記の第一及び第二実施形態においては、培養膜10が、膜体11と、その膜体11の周縁に接合された支持枠12と、を有するものとした。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、
図9に示す如く、培養膜210が、支持枠を有さない膜体のみからなるものとしてもよい。この変形形態において、培養膜210は、保持具220の第一保持筒221及び第二保持筒222のうち何れか一方に接合して固定されていてよい。この変形形態において、培養膜210の外径は、第一保持筒221及び第二保持筒222の内径よりも大きくかつその外径以下であればよい。また、この変形形態においては、細胞培養時に第一保持筒221における培養膜210を保持する付近の内外シール性及び第二保持筒222における培養膜210を保持する付近の内外シール性を確保するため、保持筒221,222と筒部材230,240との間の周面がシールされていることが好ましい。
【0075】
更に、上記の第一及び第二実施形態においては、筒部材30,40,130,140が、保持具20,120への装着時にその挿入側の軸方向端面が培養膜10の支持枠12に当接するように形成される。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、筒部材30,40,130,140が、保持具20,120への装着時にその挿入側の軸方向端面が培養膜10の支持枠12に当接していなくてもよい。
【0076】
尚、本発明は、上述した実施形態や変形形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1,100,200:細胞培養器具、10,210:培養膜、11:膜体、12:支持枠、20,120,220:保持具、21,121,221:第一保持筒、21a,121a:第一筒部、21b,121b:第一保持部、21c,121c,221c:第一側面開口部、22,122,222:第二保持筒、22a,122a:第二筒部、22b,122b:第二保持部、22c,122c:第二側面開口部、30,130,230:第一筒部材、32:第一突出部、40,140,240:第二筒部材、42:第二突出部、122d:第三側面開口部、122e:保持開口部。