(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】エアジェット織機、および、エアジェット織機の制御方法
(51)【国際特許分類】
D03D 47/30 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
D03D47/30
(21)【出願番号】P 2019070444
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】濱口 真崇
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117156(JP,A)
【文献】特表2014-500914(JP,A)
【文献】特開2008-019515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 29/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸を緯入れするための緯入れ用ノズルと、
前記緯入れ用ノズルよりも緯糸搬送方向の下流側に配置された複数のサブノズルと、
前記複数のサブノズルによるエアの噴射を制御する制御部と、
前記緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸の物性値を検出する第1検出センサと、
前記緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸が目標位置に到達する目標位置到達タイミングを検出する第2検出センサと、
前記複数のサブノズルによるエアの噴射量を削減するために予め用意される複数の噴射量削減パターンを記憶する記憶部と、
前記複数の噴射量削減パターンの中からいずれか1つの噴射量削減パターンを選択する選択部とを備え、
前記制御部は、前記選択部によって選択された前記噴射量削減パターンに基づいて前記複数のサブノズルによるエアの噴射を制御して試織を実施するとともに、前記試織の実施によって得られる前記第1検出センサの検出結果と前記第2検出センサの検出結果とを用いて
前記試織によって緯入れされた前記緯糸の物性値と前記目標位置到達タイミングとを
前記試織を実施した後に特定し、前記特定した前記緯糸の物性値が予め設定された所定範囲内であり、かつ、前記特定した前記目標位置到達タイミングが予め設定された許容範囲内である場合に、前記選択された前記噴射量削減パターンを適切であると判断する
エアジェット織機。
【請求項2】
前記制御部は、前記特定した前記緯糸の物性値が前記所定範囲から外れていた場合に、前記緯糸の物性値が前記所定範囲内となるまで前記試織の実施を繰り返す
請求項1に記載のエアジェット織機。
【請求項3】
緯糸を緯入れするための緯入れ用ノズルと、前記緯入れ用ノズルよりも緯糸搬送方向の下流側に配置された複数のサブノズルと、前記緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸の物性値を検出する第1検出センサと、前記緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸が目標位置に到達する目標位置到達タイミングを検出する第2検出センサとを備えるエアジェット織機の制御方法であって、
前記複数のサブノズルによるエアの噴射量を削減するために予め用意された複数の噴射量削減パターンの中からいずれか1つの噴射量削減パターンを選択する工程と、
前記選択した前記噴射量削減パターンに基づいて前記複数のサブノズルによるエアの噴射を制御して試織を実施する工程と、
前記試織の実施によって得られる前記第1検出センサの検出結果と前記第2検出センサの検出結果とを用いて
前記試織によって緯入れされた前記緯糸の物性値と前記目標位置到達タイミングとを
前記試織を実施した後に特定する工程と、
前記特定した前記緯糸の物性値が予め設定された所定範囲内であり、かつ、前記特定した前記目標位置到達タイミングが予め設定された許容範囲内である場合に、前記選択した前記噴射量削減パターンを適切であると判断する工程とを含む
エアジェット織機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアジェット織機、および、エアジェット織機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアジェット織機は、緯入れ用ノズルのほかに、複数のサブノズルを備えている。複数のサブノズルは、緯入れ用ノズルからのエアの噴射によって飛走する緯糸の飛走経路に沿って配列される。複数のサブノズルは、その配列順に複数個ずつのグループに分けられる。そして、同じグループに属する複数個のサブノズルは、それぞれ共通の開閉弁に接続され、この開閉弁が開状態となる期間だけエアを噴射する。
【0003】
エアジェット織機には、ノズルからのエアの噴射によって消費されるエア消費量を削減することが求められている。ただし、単純にエア消費量を削減すると、目標位置に緯糸が到達する目標位置到達タイミングに遅れが生じ、緯入れミスを招くおそれがある。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1には、サブノズルのエア消費量を削減するために、エア噴射量が異なる複数の噴射量削減パターンの中から1つの噴射量削減パターンを選択し、選択した噴射量削減パターンが適切であるか否かを試織によって確認する技術が記載されている。具体的には、選択した噴射量削減パターンに基づいて試織を実施した際に、目標位置到達タイミングが許容範囲であれば、その噴射量削減パターンは適切であると判断し、目標位置到達タイミングが許容範囲よりも遅れた場合、あるいは、緯糸に緩み等が発生した場合は、その噴射量削減パターンは不適切であると判断する。そして、選択した噴射量削減パターンが不適切であると判断した場合は、噴射量削減パターンを選択し直して、再度、試織により噴射量削減パターンの適否を確認する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ノズルからのエアの噴射によって緯糸を緯入れする場合、目標位置到達タイミングは、緯入れ用ノズルやサブノズルによるエア噴射量だけでなく、緯入れに使用する緯糸の物性によっても変化する。また、緯糸の物性は、緯糸の種類(材質、番手など)が同じであっても、緯糸の長さ方向でバラツキを生じることがある。また、緯入れに使用する緯糸は緯糸チーズに巻かれた状態で供給されるが、同じ種類の緯糸が巻かれた緯糸チーズであっても、緯糸チーズ間で緯糸の物性にバラツキを生じることがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、選択した噴射量削減パターンの適否を、主に目標位置到達タイミングのみに基づいて判断している。このため、噴射量削減パターンの適否を正しく判断できないおそれがある。具体的には、試織で緯入れされた緯糸の物性値が平均値から大きく外れている場合に、選択した噴射量削減パターンが不適切であるにもかかわらず適切であると判断したり、これと逆に、選択した噴射量削減パターンが適切であるにもかかわらず不適切であると判断したりおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、サブノズルのエア噴射量を削減するための噴射量削減パターンの適否を、より適切に判断することができるエアジェット織機、および、エアジェット織機の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエアジェット織機は、緯糸を緯入れするための緯入れ用ノズルと、緯入れ用ノズルからのエアの噴射によって飛走する緯糸の飛走経路に沿って配列された複数のサブノズルと、複数のサブノズルによるエアの噴射を制御する制御部と、緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸の物性値を検出する第1検出センサと、緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸が目標位置に到達する目標位置到達タイミングを検出する第2検出センサと、複数のサブノズルによるエアの噴射量を削減するために予め用意される複数の噴射量削減パターンを記憶する記憶部と、複数の噴射量削減パターンの中からいずれか1つの噴射量削減パターンを選択する選択部とを備え、制御部は、選択部によって選択された噴射量削減パターンに基づいて複数のサブノズルによるエアの噴射を制御して試織を実施するとともに、試織の実施によって得られる第1検出センサの検出結果と第2検出センサの検出結果とを用いて試織によって緯入れされた緯糸の物性値と目標位置到達タイミングとを試織を実施した後に特定し、特定した緯糸の物性値が予め設定された所定範囲内であり、かつ、特定した目標位置到達タイミングが予め設定された許容範囲内である場合に、選択された噴射量削減パターンを適切であると判断する。
【0010】
本発明に係るエアジェット織機において、制御部は、特定した緯糸の物性値が所定範囲から外れていた場合に、緯糸の物性値が所定範囲内となるまで試織の実施を繰り返してもよい。
【0011】
本発明に係るエアジェット織機の制御方法は、緯糸を緯入れするための緯入れ用ノズルと、緯入れ用ノズルからのエアの噴射によって飛走する緯糸の飛走経路に沿って配列された複数のサブノズルと、緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸の物性値を検出する第1検出センサと、緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸が目標位置に到達する目標位置到達タイミングを検出する第2検出センサとを備えるエアジェット織機の制御方法であって、複数のサブノズルによるエアの噴射量を削減するために予め用意された複数の噴射量削減パターンの中からいずれか1つの噴射量削減パターンを選択する工程と、選択した噴射量削減パターンに基づいて複数のサブノズルによるエアの噴射を制御して試織を実施する工程と、試織の実施によって得られる第1検出センサの検出結果と第2検出センサの検出結果とを用いて試織によって緯入れされた緯糸の物性値と目標位置到達タイミングとを試織を実施した後に特定する工程と、特定した緯糸の物性値が予め設定された所定範囲内であり、かつ、特定した目標位置到達タイミングが予め設定された許容範囲内である場合に、選択した噴射量削減パターンを適切であると判断する工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サブノズルのエア噴射量を削減するための噴射量削減パターンの適否を、より適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1のエアジェット織機の緯入れ装置が備える制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】複数の噴射量削減パターンを説明する図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置において、噴射量削減パターンを設定するために行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】緯糸の目標位置到達タイミングと緯糸の質量との関係を示す図である。
【
図6】緯糸の目標位置到達タイミングとサブノズル噴射量の削減量との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、緯入れ装置1は、緯糸搬送方向の上流側に緯糸チーズ2を備えている。緯糸チーズ2の下流側には緯糸状態検出センサ3が配置され、緯糸状態検出センサ3の下流側には緯糸貯留装置4が配置されている。
【0015】
緯糸チーズ2は、緯入れに使用する緯糸11を緯糸貯留装置4に供給するものである。緯糸状態検出センサ3は、緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸11の物性値を検出する第1検出センサを構成するものである。緯糸状態検出センサ3の検出結果は制御装置31に通知される。
【0016】
緯糸状態検出センサ3によって検出可能な緯糸11の物性値としては、たとえば、緯糸の単位長さあたりの質量(以下、「緯糸の質量」という。)、緯糸の毛羽立ち、緯糸の直径などを挙げることができる。緯糸の質量は、緯糸状態検出センサ3を静電容量式センサで構成することにより検出可能である。緯糸の毛羽立ちと緯糸の直径は、緯糸状態検出センサ3を光学式センサによって構成することにより検出可能である。なお、緯糸11の物性値(質量、毛羽立ち、直径など)の検出方法は、特表2014-500914号公報(特に、段落番号0002,0003,0041を参照)にも記載されている。
【0017】
緯糸質量、緯糸の毛羽立ち、および、緯糸の直径は、いずれも、目標位置到達タイミングに影響を与える緯糸の物性値である。目標位置到達タイミングは、緯糸11が目標位置に到達するタイミングである。緯入れ用ノズルからのエア噴射が同じ条件では、緯糸の質量が大きい場合は目標位置到達タイミングが遅くなり、緯糸の質量が小さい場合は目標位置到達タイミングが早くなる。また、緯糸の毛羽立ちが少ない場合は目標位置到達タイミングが遅くなり、緯糸の毛羽立ちが多い場合は目標位置到達タイミングが早くなる。また、緯糸の直径が大きい場合は目標位置到達タイミングが遅くなり、緯糸の直径が小さい場合は目標位置到達タイミングが早くなる。本実施形態では、緯糸の物性値の一例として、緯糸状態検出センサ3が緯糸の質量を検出するものとする。
【0018】
緯糸貯留装置4は、緯入れ前の緯糸を貯留するものである。緯糸貯留装置4は、測長ドラム15と、係止ピン17とを有する。緯糸貯留装置4は、緯糸チーズ2から緯糸貯留装置4へと供給される緯糸11を測長ドラム15に巻き付けて貯留する。
【0019】
係止ピン17は、緯入れに使用する緯糸11を係止可能なピンである。係止ピン17は電磁ソレノイド19の駆動に従って動作する。電磁ソレノイド19の駆動は制御装置31によって制御される。係止ピン17の動作状態は、制御装置31が電磁ソレノイド19の駆動を制御することで切り替え可能である。係止ピン17の動作状態には、係止ピン17の先端を測長ドラム15から離すことによって緯糸11の送り出しを許容する第1動作状態と、係止ピン17の先端を測長ドラム15に突き当てることによって緯糸11の送り出しを禁止する第2動作状態とがある。
【0020】
測長ドラム15の近傍にはバルーンセンサ20が配置されている。バルーンセンサ20は、係止ピン17の第1動作状態によって測長ドラム15から送り出される緯糸11のバルーンを検出し、その検出結果を電気信号として制御装置31に出力するセンサである。緯糸張力補正装置5は、緯糸11に過大な張力が加わらないよう、緯糸11に加わる張力を補正する装置である。
【0021】
メインノズル6およびメインノズル7は、緯入れ用ノズルを構成するものである。メインノズル7は、タンデムノズル6よりも緯糸搬送方向の下流側に配置されている。また、タンデムノズル7の下流側には複数のサブノズル8が配置されている。
【0022】
メインノズル7は、メインバルブ12を介してメインタンク16に接続され、タンデムバルブ14は、タンデムバルブ14を介してメインタンク16に接続されている。メインタンク16にはレギュレータ18が接続されている。レギュレータ18は、図示しないエアコンプレッサで生成された圧縮エアの圧力を調整するものである。メインタンク16は、レギュレータ18によって圧力が調整された圧縮エアを貯留するものである。メインタンク16に貯留された圧縮エアは、メインバルブ12を介してメインノズル7に供給されるとともに、タンデムバルブ14を介してタンデムノズル6に供給される。
【0023】
メインノズル7は、メインバルブ12の開閉状態に応じてエアを噴射または停止するものである。タンデムノズル6は、タンデムバルブ14の開閉状態に応じてエアを噴射または停止するものである。具体的には、メインノズル7は、メインバルブ12が開状態のときにエアを噴射し、メインバルブ12が閉状態のときにエアの噴射を停止する。同様に、タンデムノズル6は、タンデムバルブ14が開状態のときにエアを噴射し、タンデムバルブ14が閉状態のときにエアの噴射を停止する。メインバルブ12とタンデムバルブ14は、それぞれ制御装置31に電気的に接続されている。制御装置31は、メインバルブ12の開閉状態とタンデムバルブ14の開閉状態をそれぞれ個別に制御する。
【0024】
なお、タンデムノズル6やメインノズル7からのエア噴射によって緯糸11を緯入れする場合は、メインバルブ12やタンデムバルブ14をそれぞれ所定のタイミングで開状態とすることにより、各々のノズル6,7から圧縮エアが噴射される。
【0025】
複数のサブノズル8は、互いに所定の間隔をあけて配置されている。各々のサブノズル8は、タンデムノズル6およびメインノズル7からのエアの噴射によって筬9の長手方向に飛走する緯糸11に対し、その飛走を補助する方向すなわち下流方向にエアを噴射することにより、緯入れを安定させる役目を果たす。筬9は、緯糸11の飛走経路に沿って配置されている。筬9は、緯糸11が1ピック緯入れされるたびに1回ずつ筬打ち動作する。メインノズル7と筬9との間にはカッター21が配置されている。カッター21は、1本の緯糸11を緯入れするごと、すなわち1ピックごとに、緯糸11を切断する。カッター21の駆動は制御装置31によって制御される。
【0026】
複数のサブノズル8は、緯糸11の飛走経路に沿って配列されている。また、複数のサブノズル8は、その配列順に複数個ずつのグループに分かれている。具体的には、複数のサブノズル8は、筬9の長手方向で隣り合う4個のサブノズル8を1つのグループとして、合計6グループに分かれている。なお、1つのグループに属するサブノズル8の個数や、サブノズル8のグループ数は、それぞれ織幅などに応じて適宜設定または変更が可能である。
【0027】
各グループのサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22を介してサブタンク23に接続されている。サブタンク23にはレギュレータ24が接続されている。レギュレータ24は、図示しないエアコンプレッサで生成された圧縮エアの圧力を調整するものである。サブタンク23は、レギュレータ24によって圧力が調整された圧縮エアを貯留するものである。サブタンク23に貯留された圧縮エアは、各々のサブバルブ22を介して各グループのサブノズル8に分配して供給される。
【0028】
各グループのサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22の開閉状態に応じてエアを噴射または停止する。具体的には、各グループのサブノズル8は、それぞれに対応するサブバルブ22が開状態のときにエアを噴射し、サブバルブ22が閉状態のときにエアの噴射を停止する。
【0029】
緯糸フィーラ10は、緯入れ用ノズルによって緯入れされる緯糸が目標位置に到達する目標位置タイミングを検出する第2検出センサを構成するものである。緯糸フィーラ10は、タンデムノズル6、メインノズル7および複数のサブノズル8からそれぞれエアを噴射して緯糸11を緯入れする際に、その緯糸11が予め設定された目標位置に到達したことを検出する。目標位置は、筬9の長手方向において、メインノズル7から遠い側となる緯入れ終端側に、織布の織幅に合わせて設定される。
【0030】
緯糸フィーラ10は、たとえば光学式センサによって構成される。緯糸フィーラ10は、各々のノズル6,7,8からのエア噴射によって飛走する緯糸11の先端が目標位置に到達したときに検知信号を出力する。したがって、目標位置到達タイミングは、緯糸フィーラ10が検知信号を出力したタイミングとなる。
【0031】
制御装置31は、緯入れ装置1の動作を制御するものである。制御装置31は、たとえば、中央演算処理装置、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等によって構成される。制御装置31は、
図2に示すように、ノズル制御部311と、記憶部312と、選択部313とを有している。ノズル制御部311は、タンデムバルブ14を開閉することにより、タンデムノズル6によるエアの噴射を制御する。また、ノズル制御部311は、メインバルブ12を開閉することにより、メインノズル7によるエアの噴射を制御する。また、ノズル制御部311は、複数のサブバルブ22を開閉することにより、複数のサブノズル8によるエアの噴射を制御する。
【0032】
記憶部312は、複数のサブノズル8によるエアの噴射量を削減するために予め用意される複数の噴射量削減パターンを記憶するものである。記憶部312に記憶される複数の噴射量削減パターンは、たとえば
図3に示すように、噴射量削減パターン0、噴射量削減パターン1、噴射量削減パターン2、噴射量削減パターン3、…、噴射量削減パターンm-1、噴射量削減パターンmを含む。このうち、噴射量削減パターン0は、サブノズル8のエア噴射量を削減する際の初期設定パターンとなり、それ以外の噴射量削減パターン1~mは、サブノズル8のエア噴射量を削減する際に選択候補のパターンとなる。
【0033】
複数のサブノズル8によるエア噴射量は、各グループのサブノズル8に対応する複数のサブバルブ22を開閉する際に、各々のサブバルブ22の開放期間を短縮することで削減可能である。サブバルブ22の開放期間は、サブバルブ22を開状態としてから閉状態とするまでの期間である。サブノズル8によるエア噴射量は、サブバルブ22を開状態とするタイミングおよびサブバルブ22を閉状態とするタイミングのうち、少なくともいずれか一方のタイミングを変えることで削減可能である。サブノズル8によるエア噴射量を削減するためには、必ずしもすべてのサブバルブ22の開放期間を短縮する必要はなく、一部のサブバルブ22の開放期間を短縮するだけでもよい。
【0034】
ここで、
図3に示す複数の噴射量削減パターン0~m同士でエア噴射量の削減量を比較すると、噴射量削減パターン1の削減量は噴射量削減パターン0よりも大きく、噴射量削減パターン2の削減量は噴射量削減パターン1よりも大きい。また、噴射量削減パターンmの削減量は噴射量削減パターンm-1よりも大きい。つまり、噴射量削減パターン0の削減量を最小、噴射量削減パターンmの削減量を最大として、噴射量削減パターン0から噴射量削減パターンmに向かって削減量が段階的に大きくなっている。
【0035】
選択部313は、上述した複数の噴射量削減パターン0~mの中からいずれか1つの噴射量削減パターンを選択する。選択部313による噴射量削減パターンの選択は、オペレータの操作にしたがって行ってもよいし、オペレータの操作を介さずに行ってもよい。オペレータの操作にしたがって噴射量削減パターンを選択する場合は、ファンクションパネル32の表示部に噴射量削減パターン1~mを選択候補として表示し、その選択候補の中からオペレータがキー操作やタッチ操作等により指定した噴射量削減パターンを選択すればよい。また、オペレータの操作を介さずに噴射量削減パターンを選択する場合は、噴射量削減パターン1~mを選択候補とし、エア噴射量の削減量が小さい方から順に噴射量削減パターンを選択すればよい。本実施形態では、選択部313は、オペレータの操作を介さずに噴射量削減パターンを選択するものとする。
【0036】
ファンクションパネル32は、緯入れに必要な各種のデータの入出力装置として制御装置31に接続されている。ファンクションパネル32は、表示部と入力部とを備えている。表示部には、緯糸11の緯入れを行うための設定画面が表示される。ファンクションパネル32を用いて入力されるデータには、緯入れに使用する緯糸11の種類が少なくとも含まれる。緯糸11の種類は、緯糸11の材質および番手によって特定可能である。緯入れに使用する緯糸11の種類は、表示部に設定画面を表示した状態で、オペレータの入力操作により入力される。
【0037】
続いて、本発明の実施形態に係るエアジェット織機の制御方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置において、噴射量削減パターンを設定するために行われる処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、
図2の構成を有する制御装置31によって行われる。
【0038】
まず、ノズル制御部311は、変数iの値を1に設定する(ステップS1)。
次に、選択部313は、記憶部312に記憶されている複数の噴射量削減パターン0~mの中から、変数iに対応する噴射量削減パターンiを選択する(ステップS2)。この段階では変数iが1に設定されているため、選択部313は、噴射量削減パターン1を選択する。
【0039】
次に、ノズル制御部311は、先のステップS2で選択された噴射量削減パターンiに基づいて複数のサブノズル8によるエアの噴射を制御して試織を実施する(ステップS3)。試織を実施する場合、ノズル制御部311は、複数のサブノズル8によるエアの噴射だけではなく、タンデムノズル6によるエアの噴射やメインノズル7によるエアの噴射をそれぞれ制御することにより、緯糸11を緯入れする。また、選択した噴射量削減パターンに基づく試織は、1回の試織につき複数のピック分だけ実施する。試織1回あたりのピック数は、たとえば、数百ピックから数千ピックの範囲で設定される。
【0040】
試織の実施に際して、緯糸状態検出センサ3は、タンデムノズル6およびメインノズル7によって緯入れされる緯糸の物性値として、緯糸の質量を検出し、この検出結果を制御装置31に通知する。また、緯糸フィーラ10は、試織によって緯入れされた緯糸が目標位置に到達する目標位置到達タイミングTwを検出し、この検出結果を制御装置31に通知する。そうすると、ノズル制御部311は、1回の試織で得られる緯糸状態検出センサ3の検出結果を用いて、緯糸の質量を特定する(ステップS4)。具体例を挙げると、ノズル制御部311は、1回の試織で1ピックごとに緯糸状態検出センサ3が検出する緯糸の質量を順に加算し、この加算値を、試織1回あたりのピック数で除算することにより、緯糸の質量を特定する。また、ノズル制御部311は、1回の試織で得られる緯糸フィーラ10の検出結果を用いて、目標位置到達タイミングTwを特定する(ステップS5)。具体例を挙げると、ノズル制御部311は、1回の試織で1ピックごとに緯糸フィーラ10が検出する緯糸の目標位置到達タイミングTwと基準到達タイミングとのずれ量を順に加算し、この加算値を、試織1回あたりのピック数で除算することにより、目標位置到達タイミングTwを特定する。なお、ステップS4の処理とステップS5の処理は、どちらを先に行ってもよい。また、緯糸質量の特定方法や目標位置到達タイミングTwの特定方法は、上記の方法に限らず、他の方法を採用してもよい。
【0041】
次に、ノズル制御部311は、ステップS4で特定した緯糸の質量が予め設定された所定範囲内であるかどうかを確認する(ステップS6)。所定範囲は、緯糸の質量の基準値を中心に所定の数値範囲で規定される。そして、特定した緯糸の質量が所定範囲から外れていた場合は、ステップS6からステップS3に戻って再び試織を実施する。これにより、ステップS4で特定した緯糸の質量が所定範囲内となるまで試織の実施が繰り返される。
【0042】
一方、特定した緯糸の質量が所定範囲内である場合は、ノズル制御部311は、上記ステップS5で特定した目標位置到達タイミングTwが予め設定された許容範囲内にあるかどうかを確認する(ステップS7)。許容範囲は、目標到達タイミングの目標値を中心に所定の時間幅で規定される。そして、検出した目標位置到達タイミングTwが予め設定された許容範囲内である場合は、ステップS7でYesと判断、すなわち上記ステップS2で選択した噴射量削減パターンが適切であると判断する。この場合は、ステップS7からステップS8へと進む。そして、ステップS8では、変数iの値を1だけインクリメントする。これにより、変数iが2に設定される。このため、ステップS8からステップS2へと戻ると、選択部313は噴射量削減パターン2を選択することになる。なお、ステップS2で選択部313が選択する噴射量削減パターンは、ステップS8で変数iの値がインクリメントされるたびに、エア噴射量の削減量がより大きな噴射量削減パターンに変更される。
【0043】
一方、特定した目標位置到達タイミングTwが許容範囲を外れていた場合は、ステップS7でNoと判断、すなわち上記ステップS2で選択した噴射量削減パターンが不適切であると判断する。この場合は、ステップS7からステップS9に移行する。そして、ステップS9では、ノズル制御部311は、その時点の変数iの値に基づいて、最終的なサブノズルの噴射量削減パターンを設定する。たとえば、ステップS7でNoと判断した時点で変数iの値が4であった場合は、i=4となるまでの処理で適切であると判断した噴射量削減パターン1~3の中から、噴射量削減パターン4よりも削減量が小さい噴射量削減パターン3または噴射量削減パターン2を最終的なサブノズルの噴射量削減パターンに設定する。最終的なサブノズルの噴射量削減パターンは、試織を実施した後の実稼働に適用される噴射量削減パターンとなる。
【0044】
以上説明したように、本発明の実施形態においては、サブノズルの噴射量削減パターンを設定する場合に、緯糸フィーラ10によって検出される目標位置到達タイミングだけでなく、緯糸状態検出センサ3によって検出される緯糸の物性値も判断材料に入れて、噴射量削減パターンの適否を判断する。このため、サブノズルのエア噴射量を削減するための噴射量削減パターンの適否を、より適切に判断することができる。
【0045】
また、ノズル制御部311が特定した緯糸の物性値が所定範囲から外れていた場合は、緯糸の物性値が所定範囲内となるまで試織の実施を繰り返すため、緯糸の物性値が所定範囲内にある条件下で噴射量削減パターンの適否を判断することができる。
【0046】
以下に、本発明の実施形態による効果を具体的な事例を挙げて説明する。
図5は、緯糸の目標位置到達タイミングと緯糸の質量との関係を示す図であって、縦軸が目標位置到達タイミングTwを示し、横軸が緯糸の質量を示している。
図5に示すように、緯糸の質量が大きくなると、それにつれて目標位置到達タイミングTwは遅くなり、緯糸の質量が小さくなると、それにつれて目標位置到達タイミングTwが早くなる。ここで、緯糸の質量の基準値がgmであるとすると、緯糸の質量の所定範囲Eは基準値gmを中心に規定される。また、時刻t1で緯糸状態検出センサ3の検出結果を基に特定した緯糸の質量g1は基準値gmと同じ値であり、時刻t1よりも後の時刻t2で緯糸状態検出センサ3の検出結果を基に特定した緯糸の質量g2は所定範囲Eを外れて基準値gmよりも小さい値であるとする。さらに、時刻t2よりも後の時刻t3で緯糸状態検出センサ3の検出結果を基に特定した緯糸の質量g3は、所定範囲Eを外れて基準値gmよりも小さく、且つ、質量g2よりも大きい値であるとする。この場合、緯糸の質量は、時刻t1から時刻t2にかけては徐々に小さくなっており、時刻t2で質量の変化が減少傾向から増加傾向に反転した後、時刻t2から時刻t3にかけては徐々に大きくなっている。
【0047】
図6は、サブノズルの噴射量削減パターンを設定するために実施される試織において、緯糸の質量が時間の経過にかかわらず変化しない場合と、緯糸の質量が時間の経過と共に変化する場合のそれぞれについて、緯糸の目標位置到達タイミングとサブノズル噴射量の削減量との関係を説明する図である。なお、
図6においては、縦軸が目標位置到達タイミングTwを示し、横軸がピック数に応じた時間を示し、時間の経過と共にサブノズル噴射量の削減量が段階的に大きくなる場合を示している。また、
図6においては、緯糸の質量が時間の経過にかかわらず変化しない場合の目標位置到達タイミングTwの変化を曲線Aで示し、緯糸の質量が時間の経過と共に変化する場合の目標位置到達タイミングTwの変化を曲線Bで示している。
【0048】
まず、緯糸の質量が時間の経過にかかわらず変化しない場合は、
図6の曲線Aで示すように、サブノズル噴射量の削減量が時間の経過と共に大きくなっても、時間Tsが経過するまでは目標位置到達タイミングTwがほとんど変化しない。ただし、時間Tsが経過した後は、サブノズル噴射量の削減量が大きくなるにしたがって目標位置到達タイミングTwが遅くなる。この理由は、目標位置到達タイミングTwは、サブノズル8からのエア噴射量が適量以上に確保されている場合はほぼ一定となり、サブノズル8からのエア噴射量が適量を下回ると、エア噴射量の不足によって遅くなるからである。この場合、時間Tsが経過するまでの試織で選択される噴射量削減パターンはすべて適切であると判断される。このため、試織後の実稼働に適用する噴射量削減パターンは、目標位置到達タイミングTwが遅くなり始める前の削減量が得られる噴射量削減パターンに設定される。
【0049】
一方、緯糸の質量が時間の経過と共に
図5のように変化した場合に、目標位置到達タイミングTwが
図6の曲線Bのように変化したと仮定する。この場合、時刻t1から時刻t2に至るまでの間、緯糸の質量は、
図5のように質量g1から質量g2へと小さくなっているにもかかわらず、目標位置到達タイミングTwは、
図6の曲線Bで示すように時刻t1から時刻t2までほとんど変わっていない。このことは、時刻t1から時刻t2に至るまでの間、緯糸の質量の減少によって目標到達タイミングが早まる分と、サブノズル噴射量の削減量の増加によって目標到達タイミングが遅くなる分とが、相殺されていることを意味する。
【0050】
これに対し、
図6の時刻t2においては、目標位置到達タイミングTwが遅くなる方向に急激に変化し、その後、時刻t3に至るまでの間は、目標位置到達タイミングTwが徐々に遅くなっている。これは、
図5の時刻t2において緯糸の質量の変化が減少傾向から増加傾向に反転し、その後、時刻t3に至るまでの間、緯糸の質量が徐々に増加しているからである。この場合、目標位置到達タイミングTwのみに基づいて噴射量削減パターンの適否を判断すると、
図6の時刻t1から時刻t2までの試織で選択される噴射量削減パターンはすべて適切であると判断される。このため、試織後の実稼働に適用される噴射量削減パターンは、時刻t2の削減量、または時刻t2より少し前の時刻の削減量が得られる噴射量削減パターンに設定される。ただし、このように設定された噴射量削減パターンを実稼働に適用してエアジェット織機を動作させると、試織で使用された緯糸の物性値と実稼働で使用される緯糸の物性値との違いにより、エア噴射量の削減量が大きすぎて目標位置到達タイミングに遅れが生じ、緯入れミスを招く可能性が高くなってしまう。
【0051】
そこで、本発明の実施形態においては、目標位置到達タイミングTwのみに基づいて判断せず、試織を実施した際に緯糸状態検出センサ3の検出結果を用いて特定した緯糸の物性値を判断材料に加えて噴射量削減パターンの適否を判断している。このため、緯糸の質量が
図5のように所定範囲Eを超えて変動し、これに起因して目標位置到達タイミングTwが
図6の曲線Bのように変化した場合でも、時刻t1から時刻t2までの試織で選択される噴射量削減パターンを適切であると判断しなくなる。一方で、仮に、
図6において、時刻t1から時刻t2に至るまでの間、緯糸の質量が所定範囲E内であり、かつ、目標位置到達タイミングTwが許容範囲内である場合は、時刻t1から時刻t2までの試織で選択される噴射量削減パターンをすべて適切であると判断する。このように本発明の実施形態によれば、サブノズルのエア噴射量を削減するための噴射量削減パターンの適否を、より適切に判断することができる。したがって、試織後の実稼働に適用される噴射量削減パターンをより適切に設定することができる。
【0052】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0053】
たとえば、上記実施形態においては、緯糸状態検出センサ3が検出する緯糸11の物性値の一例として、緯糸の質量を挙げたが、本発明はこれに限らず、緯糸の質量に代えて、緯糸の毛羽立ち、または、緯糸の直径を、緯糸11の物性値として検出する構成を採用してもよい。また、緯糸の質量、緯糸の毛羽立ち、および、緯糸の直径の他にも、目標位置到達タイミングに影響を与える緯糸の物性値があれば、その物性値を緯糸状態検出センサ3によって検出する構成を採用してもよい。また、噴射量削減パターンの適否判断に用いる緯糸11の物性値は、1つの物性値に限らず、たとえば、緯糸の質量および緯糸の毛羽立ちの2つの物性値、または、緯糸の毛羽立ちおよび緯糸の直径の2つの物性値、あるいは、緯糸の質量、緯糸の毛羽立ちおよび緯糸の直径の3つの物性値など、複数の物性値を緯糸状態検出センサ3によって検出し、各々の物性値がそれぞれ所定範囲内であるか否かを判断する構成を採用してもよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、記憶部312に記憶された複数の噴射量削減パターンの中から1つずつ噴射量削減パターンを選択する場合に、エア噴射量の削減量が小さい方から順に噴射量削減パターンを選択する例を示したが、噴射量削減パターンの適否を判断するにあたって、噴射量削減パターンを選択する順序は任意に変更可能である。また、噴射量削減パターンに基づく試織は、予め用意されたすべての噴射量削減パターンについて実施してもかまわない。また、緯糸の物性値が所定範囲内となるまで試織を繰り返す場合に、繰り返しの回数に上限を設けてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 緯入れ装置、3 緯糸状態検出センサ(第1検出センサ)、6 タンデムノズル(緯入れ用ノズル)、7 メインノズル(緯入れ用ノズル)、8 サブノズル、10 緯糸フィーラ(第2検出センサ)、11 緯糸、311 ノズル制御部(制御部)、312 記憶部、313 選択部。