(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】親水性材料の疎水化方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/281 20060101AFI20221012BHJP
B01J 20/283 20060101ALI20221012BHJP
B01J 20/287 20060101ALI20221012BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20221012BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B01J20/281 X
B01J20/283
B01J20/287
B01J20/10 D
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2019074772
(22)【出願日】2019-04-10
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【氏名又は名称】岡田 正広
(72)【発明者】
【氏名】老川 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】堀池 重吉
(72)【発明者】
【氏名】児山 浩崇
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-172733(JP,A)
【文献】特開2002-167212(JP,A)
【文献】特表2016-534201(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0246339(US,A1)
【文献】QIAO, X. G. et al.,L-Arginine-Catalyzed Synthesis of Nanometric Organosilica Particles through a Waterborne Sol-Gel Process and Their Porous Structure Analysis,Langmuir,2018年,Vol.34, No.23,p.6784-6796
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281 - 20/292
G01N 30/00 - 30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水化すべきSi基板材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記Si基板
材料の表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化されたSi基板の製造方法。
【請求項2】
疎水化すべき中空ファイバー材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記
中空ファイバー材料の表面の親水性基に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化された中空ファイバー材料の製造方法。
【請求項3】
疎水化すべき中空ファイバー材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記
中空ファイバー材料の表面の親水性基に疎水性基含有シリル基を導入して、疎水化された中空ファイバー材料を得て、
前記疎水化された中空ファイバー材料を用いて、AF4/HF5分離モジュールを製造する方法。
【請求項4】
前記疎水性基含有シリル化剤は、式(I)
(X)
n
Si(R)
4-n
(I)
(ここで、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、Rは、同一又は異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは、1、2、又は3を表す。)
で示される有機ケイ素化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記式(I)において、Rが表す炭化水素基は、炭素数1~20の飽和又は不飽和の脂肪族基、又は芳香族基である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記式(I)において、Xが表すハロゲン原子は、塩素原子である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記疎水性基含有シリル化剤は、トリメチルクロロシラン、
ジメチルプロピルクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、
ジメチルブチルクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、
ジメチルヘキシルクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、
ジメチルオクチルクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、
ジメチルデシルクロロシラン、デシルトリクロロシラン、
ジメチルドデシルクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、
ジメチルヘキサデシルクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、
ジメチルオクタデシルクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、
ジメチルフェニルクロロシラン、及びフェニルトリクロロシランからなる群から選ばれる、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン、及びこれらアミノ酸の修飾化合物からなる群から選ばれる、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性材料の疎水化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の親水性材料、例えば、無機親水性材料として、シリカ、酸化チタンなどの金属酸化物材料の表面には、水酸基(-OH基)が存在しており、それにより親水性が発現している。これら親水性材料表面を疎水化することにより、表面の親水性/疎水性を調整して、各種物質の分離材料、半導体材料、あるいは防汚性材料として用いられている。
【0003】
有機親水性材料としては、再生セルロースなどのファイバーの表面には、水酸基(-OH基)が存在しており、それにより親水性が発現している。これら親水性材料表面を疎水化することにより、表面の親水性/疎水性を調整して、各種物質の分離材料として用いられている。
【0004】
例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のカラムに使用される充填剤は、親水性のシリカゲル表面のシラノール基(Si-OH基)に、例えばオクタデシルシリル(ODS)基を導入して分離選択性を高めたものが主流となっている。
【0005】
シリカゲル表面のシラノール基にODS基を導入するには、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、又は1,1,2-トリクロロエタンなどの有機反応溶媒を用いて、シリカゲルに、オクタデシルトリクロロシラン、又はジメチルオクタデシルクロロシランなどのシリル化剤を反応させる。この際、触媒として、ピリジン、モルホリン、又はイミダゾールなどの芳香族アミンが用いられる(非特許文献1)。芳香族アミンでは、アミンN原子の非共有電子対の非局在化により電子供与性が損なわれ、触媒能は弱い。
【0006】
また、ODS化シリカゲル充填剤の不活性化(エンドキャッピング)のために、一次エンドキャッピングの終了したODS化シリカゲル充填剤に、トルエンなどの非水系有機反応溶媒(モレキュラーシーブ4A/3Aを投入したもの)の還流温度下でトリメチルクロロシラン(TMCS)及びヘキサメチルジシラザン(HMDS)を単独または混合液で加え、さらに高温(230℃~250℃)でエンドキャッピングを行う二段階反応が知られている。しかしながら、この方法は高温での長時間処理が必要である。また、反応を促進するためピリジン、ジエチルアミンなどが触媒として使用されているが、触媒能が弱く、また、完全エンドキャッピングが困難であるという問題があった(例えば、特開2003-172733号公報に説明されている)。
【0007】
特開2003-172733号公報には、完全エンドキャッピングのために、反応促進剤として、第二級アミン(ジエチルアミン)及び第三級アミン(トリエチルアミン)の組み合わせを用いてエンドキャッピングを行うODS化シリカゲル充填剤の製造方法が開示されている(請求項1,2,3)。しかしながら、第二級アミン及び第三級アミンでは、アミンN原子近傍の立体障害があり、アミンN原子の電子供与性が損なわれ、触媒能は弱い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】「逆相クロマトグラフィー用シリカ系カラム」,須藤良久,CHROMATOGRAPHY, Vol.32 No.2 (2011)73-79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、これまで、親水性材料の表面の水酸基(-OH基)に疎水性基を導入する反応に際して、触媒として、芳香族アミン、又は、第二級アミン及び第三級アミンの組み合わせが用いられていた。しかしながら、芳香族アミンでは、アミンN原子の非共有電子対の非局在化により電子供与性が損なわれ、触媒能は弱く、第二級アミン及び第三級アミンでは、アミンN原子近傍の立体障害があり、アミンN原子の電子供与性が損なわれ、触媒能は弱く、高温での長時間処理が必要である。さらに、ピリジンは引火性が高く(引火点:21℃)、その特有な臭気があり多量に吸引すると人体に有害である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、親水性材料の表面の水酸基(-OH基)に疎水性基を導入する親水性材料の疎水化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、親水性材料の表面の水酸基(-OH基)に疎水性基を導入する反応において、反応促進剤/触媒としてアミノ酸を用いることにより、親水性材料の疎水化方法が提供されることを見出した。
【0013】
本発明の第1の態様は、親水性材料の疎水化方法であって、
疎水化すべき親水性材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記親水性材料の表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、親水性材料の疎水化方法である。
【0014】
本発明の第2の態様は、疎水化すべきシリカゲル材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記シリカゲルの表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化されたシリカゲルカラム充填剤の製造方法である。
【0015】
また、前記疎水化されたシリカゲルカラム充填剤をカラムに充填することを含む、疎水化されたシリカゲルカラムの製造方法である。
【0016】
本発明の第3の態様は、疎水化すべきSi基板材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記Si基板の表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化されたSi基板の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様は、疎水化すべき中空ファイバー材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記ファイバー材料の表面の親水性基に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化された中空ファイバー材料の製造方法である。
【0018】
また、前記疎水化された中空ファイバー材料を用いて、AF4/HF5分離モジュールを製造する方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、親水性材料の表面の水酸基(-OH基)に疎水性基を導入する反応において、反応促進剤/触媒としてアミノ酸を用いることにより、親水性材料の疎水化方法が提供される。
【0020】
本発明において、反応促進剤/触媒として用いるアミノ酸は、毒性がなく安全である。また、疎水性基が導入された材料は、酸による耐加水分解性にも優れる。
【0021】
本発明によれば、上記反応方法を用いて、疎水化されたシリカゲルカラム、半導体又はマイクロリアクターの流路基板などに用いられる疎水化されたSi基板、疎水化された中空ファイバー材料が用いられたAF4/HF5分離モジュールなどを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1-1において、Si基板表面に水滴を滴下した際の斜方向からの写真である。
【
図2】
図2は、実施例1-1において、Si基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【
図3】
図3は、実施例1-2において、TFA処理後のSi基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【
図4】
図4は、比較例1-1において、Si基板表面に水滴を滴下した際の斜方向からの写真である。
【
図5】
図5は、比較例1-1において、Si基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【
図6】
図6は、比較例1-2において、TFA処理後のSi基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の態様は、親水性材料の疎水化方法であって、
疎水化すべき親水性材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記親水性材料の表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む。
【0024】
疎水化すべき親水性材料としては、種々のものが挙げられる。例えば、無機親水性材料として、シリカ、酸化チタンなどの金属酸化物材料の表面には、水酸基(-OH基)が存在しており、それにより親水性が発現している。これら親水性材料表面を疎水化することにより、表面の親水性/疎水性を調整して、各種物質の分離材料、半導体材料、あるいは防汚性材料として用いられる。
【0025】
このような各種物質の分離材料として、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のカラムに使用される充填剤は、親水性のシリカゲル表面のシラノール基(Si-OH基)に、例えばC18のオクタデシルシリル(ODS)基を導入して分離選択性を高めたものが主流となっている。分離したい物質に応じて、C1~18の炭素数の炭化水素基、あるいは芳香族含有基を導入して、その分離選択性を調整することができる。
【0026】
また、半導体材料として、Si基板表面に疎水性基含有シリル基を導入して疎水化して、その親水性/疎水性を調整することができる。
【0027】
また、親水性材料基板表面に疎水性基含有シリル基を導入して、疎水性基含有シリル基層による防汚表面層を形成して、この防汚表面層が形成された基板を防汚性材料として用いることができる。
【0028】
有機親水性材料としては、再生セルロースなどのファイバーの表面には、水酸基(-OH基)が存在しており、それにより親水性が発現している。これら親水性材料表面を疎水化することにより、表面の親水性/疎水性を調整して、各種物質の分離材料として用いられる。
【0029】
このような各種物質の分離材料として、非対称フロー式フィールド・フロー・フラクショネーション(Asymmetric Flow Field Flow Fractionation)AF4法分離モジュール、中空ファーバー式FFF(Hollow Fiber Flow FFF)HF5法分離モジュールに用いられる中空糸ファイバーが挙げられる。
【0030】
反応試剤としての疎水性基含有シリル化剤は、公知のものから選択することができ、例えば、式(I)で示される有機ケイ素化合物を用いることができる。
【0031】
(X)n Si(R)4-n (I)
ここで、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、Rは、4-nにより、同一又は異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは、1、2、又は3を表す。
【0032】
前記式(I)において、Rが表す炭化水素基は、炭素数1~20の飽和又は不飽和の脂肪族基、又は芳香族基であり得る。
【0033】
炭素数1~20の飽和又は不飽和の脂肪族基には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、エンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、オレイル基、2-エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0034】
芳香族基としては、炭素数6以上の公知のものが挙げられ、例えば、フェニル基が挙げられる。また、芳香族含有基として、ベンジル基が挙げられる。
【0035】
Rが表す炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基などが挙げられる。
【0036】
前記一般式(I)において、Xが表すハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。
【0037】
前記一般式(I)において、Xが表すアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基のような炭素数1~4程度の低級アルコキシ基が挙げられる。
【0038】
前記疎水性基含有シリル化剤として、より具体的には、限定されることなく、トリメチルクロロシラン、
ジメチルプロピルクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、
ジメチルブチルクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、
ジメチルヘキシルクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、
ジメチルオクチルクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、
ジメチルデシルクロロシラン、デシルトリクロロシラン、
ジメチルドデシルクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、
ジメチルヘキサデシルクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、
ジメチルオクタデシルクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、
ジメチルフェニルクロロシラン、及びフェニルトリクロロシランを例示することができる。
【0039】
上記式(I)において、n=1の場合、すなわち、X(ハロゲン原子又はアルコキシ基)が1個の場合には、一官能性でありモノメリック相が形成される。一方、n=3の場合、すなわち、X(ハロゲン原子又はアルコキシ基)が3個の場合には、三官能性であり、無水反応系においてはモノメリック相が形成されやすく、反応系に水が存在するとポリメリック相が形成されやすい。これらのことも考慮して、疎水性基含有シリル化剤を選択するとよい。
【0040】
反応促進剤ないしは触媒としてアミノ酸を用いる。アミノ酸としては、特に限定されないが、電子供与性を考慮すると、塩基性アミノ酸が用いられる。
【0041】
アミノ酸として、天然アミノ酸、又は非天然アミノ酸のいずれであってもよく、D体、又はL体のいずれであってもよい。例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン、及びこれらアミノ酸の修飾化合物から選択してもよい。
【0042】
電子供与性を考慮すると、シリル化反応系において、アミノ酸のアミノ基にプロトネーションが起こっていないことが望ましいと考えられる。その観点から、pKbが例えば4.5~8.5程度のアミノ酸が用いられ得る。より詳しくは、pKbが例えば4.96~8.03程度のアミノ酸が用いられ得る。例えば、アルギニンのpKbは4.96であり好ましく用いられる。
【0043】
反応促進剤ないしは触媒としてのアミノ酸の反応系中における添加量については、例えば、1.3~2.6mg/mL(7.4~15mM程度)としてもよい。
反応試剤としての疎水性基含有シリル化剤に対する量としては、0.2nMのシラノール基に対して10倍量(2nM)程度あればよい。
【0044】
反応溶媒としては、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、又は1,1,2-トリクロロエタンなどの有機反応溶媒を用いることができるが、これらのみに限定されることはない。
【0045】
反応条件は当業者が適宜決定できるが、例えば、60℃~70℃程度の温度で、0.5~1時間程度の時間で行うことができる。
【0046】
反応促進剤/触媒として毒性がなく安全なアミノ酸を用いて、効率よく、親水性材料表面に疎水性基含有シリル基を導入することができる。一般的に、ビシナルシラノール基に比べジェミナルシラノール基の反応性が高く、疎水化された材料は塩基性化合物に対する吸着が強いことが知られている。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下において%で示される物の量は、特に断りがない場合は、その物が固体である場合は重量基準、液体である場合は体積基準で示されている。
【0048】
[実施例1]
試薬は和光純薬(株)又は東京化成工業(株)製の特級グレード試薬を用いた。
【0049】
[実施例1-1:Si基板のODS化]
予め、オクタデシルシリル(ODS)化剤としてジメチルオクタデシルクロロシラン(MW:347.09,mp28-31℃,東京化成工業(株)特級グレード試薬)を60℃の乾熱機オーブン中で30分間加温して一部溶解させておいた。
【0050】
まず、Si基板片(0.5cmx0.5cm,厚さ1.0mm,自然酸化膜のついたもの,株式会社エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製)を1.5mL容量のエッペンドルフチューブに入れ、80℃のヒートブロック上で10分間乾燥した。次に、L(+)-アルギニン(MW:174.2,和光純薬製)を15.3mM(2.67mg)はかりとり、これをSi基板片が入れられたエッペンドルフチューブに加えて80℃で5分間保温した。次に、このエッペンドルフチューブにトルエン1mLを加えて80℃で5分保温した。このエッペンドルフチューブに、予め加温して一部溶解させたジメチルオクタデシルクロロシランを0.2mL(0.49mM)加えて、80℃で1時間反応させた。その後、室温(25℃)で16時間静置してさらに反応を進めた。反応終了時において、Si基板の表面に薄膜形成したことが目視により観察できた。
【0051】
反応終了後、エッペンドルフチューブに1mLのエタノールを加え洗浄し、エタノールを捨てた。このエタノール洗浄操作を2回行った。エタノール洗浄後に、ODS化表面処理されたSi基板を取り出し、取り出したODS化Si基板を2回水洗し、その後、60℃で5分間乾燥させた。このようにして、ODS化Si基板を作製した。
【0052】
(接触角の測定)
接触角計(協和界面科学株式会社製,DMo-601)を用いて、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気中で、得られたODS化Si基板表面の純水の接触角を測定した。接触角は、98.7であった。n=5の平均値。この際の写真を
図1、及び
図2に示す。
【0053】
図1は、Si基板表面に水滴を滴下した際の斜方向からの写真であり、
図2は、Si基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【0054】
[実施例1-2:ODS化Si基板表面の耐加水分解性]
実施例1-1で得られたODS化Si基板表面の0.02(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)による耐加水分解性を確かめた。
【0055】
10mLのアセトニトリル及び90mLの水の混合溶液にTFA(和光純薬製特級グレード試薬)を20μL入れて、0.02(v/v)のTFA溶液を調製した。
【0056】
実施例1-1で得られたODS化Si基板を1.5mL容量エッペンドルフチューブに入れ、これに調製したTFA溶液1.0mLを入れて、その後、室温(25℃)で16時間静置した。エッペンドルフチューブに1mLのエタノールを加え洗浄し、エタノールを捨てた。このエタノール洗浄操作を2回行った。エタノール洗浄後に、Si基板を取り出し、取り出したSi基板を2回水洗し、その後、60℃で5分間乾燥させた。
【0057】
乾燥後に、実施例1-1と同様に接触角を測定した。接触角は、104.7であった。n=5の平均値。接触角の低下は見られず、オクタデシルシリル基の加水分解は起こらなかった。この際の写真を
図3に示す。
【0058】
図3は、TFA処理後のSi基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【0059】
[比較例1]
[比較例1-1]
オクタデシルクロロシランの添加を行わなかった以外は実施例1-1と同様にして、Si基板表面に対する処理を行った。実施例1-1と同様に接触角を測定した。接触角は、59.5であった。n=5の平均値。この際の写真を
図4、及び
図5に示す。
【0060】
図4は、Si基板表面に水滴を滴下した際の斜方向からの写真であり、
図5は、Si基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【0061】
[比較例1-2]
次に、比較例1-1で得られたSi基板に対して、実施例1-2と同様に、0.02(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)による耐加水分解性を確かめた。実施例1-2と同様に接触角を測定した。接触角は、55.7であった。n=5の平均値。オクタデシルシリル基の導入は行われておらず、接触角はTFA処理前と同等レベルであった。この際の写真を
図6に示す。
【0062】
図6は、TFA処理後のSi基板表面に水滴を滴下した際の垂直方向の写真である。
【0063】
以上の結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
(1)
疎水化すべき親水性材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、親水性材料表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、親水性材料の疎水化方法。
【0066】
(2)
前記疎水性基含有シリル化剤は、式(I)
(X)n Si(R)4-n (I)
(ここで、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、Rは、同一又は異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。nは、1、2、又は3を表す。)
で示される有機ケイ素化合物である、上記(1)に記載の方法。
【0067】
(3)
前記式(I)において、Rが表す炭化水素基は、炭素数1~20の飽和又は不飽和の脂肪族基、又は芳香族基である、上記(2)に記載の方法。
【0068】
(4)
前記一般式(I)において、Xが表すハロゲン原子は、塩素原子である、上記(2)又は(3)に記載の方法。
【0069】
(5)
前記疎水基含有シリル化剤は、トリメチルクロロシラン、
ジメチルプロピルクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、
ジメチルブチルクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、
ジメチルヘキシルクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、
ジメチルオクチルクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、
ジメチルデシルクロロシラン、デシルトリクロロシラン、
ジメチルドデシルクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、
ジメチルヘキサデシルクロロシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、
ジメチルオクタデシルクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、
ジメチルフェニルクロロシラン、及びフェニルトリクロロシランからなる群から選ばれる、上記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
【0070】
(6)
前記アミノ酸は、塩基性アミノ酸である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
【0071】
(7)
前記アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン、及びこれらアミノ酸の修飾化合物からなる群から選ばれる、上記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
【0072】
(8)
疎水化すべきシリカゲル材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記シリカゲルの表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化されたシリカゲルカラム充填剤の製造方法。
【0073】
(9)
疎水化すべきシリカゲル材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記シリカゲルの表面に疎水性基含有シリル基を導入して、疎水化されたシリカゲルカラム充填剤を得て、
前記疎水化されたシリカゲルカラム充填剤をカラムに充填することを含む、疎水化されたシリカゲルカラムの製造方法。
【0074】
(10)
疎水化すべきSi基板材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記Si基板の表面に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化されたSi基板の製造方法。
【0075】
(11)
疎水化すべき中空ファイバー材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記ファイバー材料の表面の親水性基に疎水性基含有シリル基を導入することを含む、疎水化された中空ファイバー材料の製造方法。
【0076】
(12)
疎水化すべき中空ファイバー材料を、反応促進剤としてアミノ酸存在下で、疎水性基含有シリル化剤と反応させ、前記ファイバー材料の表面に疎水性基含有シリル基を導入して、疎水化された中空ファイバー材料を得て、
前記疎水化された中空ファイバー材料を用いて、AF4/HF5分離モジュールを製造する方法。