(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】連続式加熱炉の炉内圧力制御装置及び炉内圧力制御方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20221012BHJP
C21D 1/52 20060101ALI20221012BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20221012BHJP
F27B 9/40 20060101ALI20221012BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C21D9/00 101U
C21D1/52 L
C21D11/00
F27B9/40
F27D19/00 D
(21)【出願番号】P 2019178026
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】今仲 大輝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 邦明
(72)【発明者】
【氏名】大杉 啓悟
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-119987(JP,A)
【文献】特開平01-162718(JP,A)
【文献】特開平02-145720(JP,A)
【文献】特開平09-209032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
C21D 1/52
C21D 11/00
F27B 9/40
F27D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内の排ガスを炉外に導く煙道に設けられて炉内圧力を調整するための炉内圧力制御ダンパと、
炉に供給される燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する
、炉内の実績酸素濃度と理論酸素濃度が一致する最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報を記憶した記憶部と、
炉に供給される燃焼ガスの流量を取得する燃焼ガス流量取得部と、
上記燃焼ガス流量取得部が取得した燃焼ガスの流量と上記第1情報とから炉内圧力目標値を求める炉内圧力設定部と、
上記炉内圧力設定部が求めた炉内圧力目標値を炉内圧力設定値とし、炉内圧力が上記炉内圧力設定値となるように上記炉内圧力制御ダンパを制御するダンパ制御部と、
炉に供給される燃焼空気の流量を取得する燃焼空気流量取得部と、
炉内圧力を取得する炉圧取得部と、
上記燃焼ガス流量取得部が取得した燃焼ガスの流量と上記燃焼空気流量取得部が取得した燃焼空気の流量とに基づき理論酸素濃度を算出する理論酸素濃度算出部と、
炉内の酸素濃度を取得する酸素濃度取得部と、
上記理論酸素濃度算出部が算出した理論酸素濃度と上記酸素濃度取得部が取得した酸素濃度とが一致したときの炉内圧力を、上記燃焼ガス流量取得部が取得した燃焼ガスの流量に対する炉内圧力目標値として、燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値とのデータの組を取得する第2炉内圧力目標値取得部と、
上記第2炉内圧力目標値取得部が取得した複数のデータの組から、燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係である第2情報を求める第2情報取得部と、
上記第2情報取得部が求めた第2情報を上記第1情報とする第2情報設定部と、
を備えることを特徴とする連続式加熱炉の炉内圧力制御装置。
【請求項2】
上記ダンパ制御部のダンパ制御によって炉内圧力が炉内圧力設定値となったと判定すると、上記理論酸素濃度算出部が算出した理論酸素濃度と上記酸素濃度取得部が取得した酸素濃度との乖離度合いを取得する第2乖離取得部と、を備え、
上記第2情報設定部は、上記第2乖離取得部が取得した乖離度合いが、予め設定した第2乖離閾値を超えたと判定したとき、
最新の第2情報を第1情報と
して、当該第1情報を更新する、
ことを特徴とする請求項
1に記載した連続式加熱炉の炉内圧力制御装置。
【請求項3】
炉内の排ガスを炉外に導く煙道に設けられて炉内圧力を調整するための炉内圧力制御ダンパと、
炉に供給される燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する
、炉内圧力の低下に伴う炉内温度の低下度合いが変化する直前の炉内温度である最適温度に対応する炉内圧力である最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報を記憶した記憶部と、
炉に供給される燃焼ガスの流量を取得する燃焼ガス流量取得部と、
上記燃焼ガス流量取得部が取得した燃焼ガスの流量と上記第1情報とから炉内圧力目標値を求める炉内圧力設定部と、
上記炉内圧力設定部が求めた炉内圧力目標値を炉内圧力設定値とし、炉内圧力が上記炉内圧力設定値となるように上記炉内圧力制御ダンパを制御するダンパ制御部と、
炉内圧力を取得する炉圧取得部と、
炉内の温度を取得する温度取得部と、
炉内圧力の低下に伴う炉内温度の低下度合いが変化する直前の炉内温度である最適温度に対応する炉内圧力を、上記最適温度での燃焼ガスの流量に対する炉内圧力目標値として、燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値とのデータの組を取得する第3炉内圧力目標値取得部と、
上記第3炉内圧力目標値取得部が取得した複数のデータの組から、燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係である第3情報を求める第3情報取得部と、
上記第3情報取得部が求めた第3情報を上記第1情報とする第3情報設定部と、
を備えることを特徴とする連続式加熱炉の炉内圧力制御装置。
【請求項4】
上記第3情報には、各炉内圧力目標値に対応する最適温度も含まれ、
上記ダンパ制御部のダンパ制御によって炉内圧力が炉内圧力設定値となったと判定すると、その炉内圧力設定値に対応する上記最適温度と、上記温度取得部が取得した炉内温度との乖離度合いを取得する第3乖離取得部と、
上記第3情報設定部は、上記第3乖離取得部が取得した乖離度合いが、予め設定した第
3乖離閾値を超えたと判定したとき、
最新の第3情報を第1情報
として、当該第1情報を更新とする、
ことを特徴とする請求項
3に記載した連続式加熱炉の炉内圧力制御装置。
【請求項5】
予め定めた、燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する
、炉内の実績酸素濃度と理論酸素濃度が一致する最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報に基づき、炉に供給する燃焼ガスの流量に対応する炉内圧力目標値を炉内圧力設定値と設定し、
上記設定した炉内圧力設定値となるように炉内圧力を調整
し、
炉に供給される燃焼ガスの流量と燃焼空気の流量とに基づき算出した理論酸素濃度と、炉内の酸素濃度とが一致したと判定したときの、炉内圧力からなる炉内圧力目標値と炉内に供給される燃焼ガスの流量と、を有するデータの組を蓄積し、
蓄積した上記データの組に基づき、炉内圧力目標値と燃焼ガスの流量との相関関係である第2情報を求め、その第2情報を上記第1情報とする、
ことを特徴とする連続式加熱炉の炉内圧力制御方法。
【請求項6】
炉内圧力が上記設定した炉内圧力設定値となったと判定したときの、理論酸素濃度と炉内の酸素濃度との乖離度合いが、予め設定した第2乖離閾値を超えたと判定した場合に、上記第1情報を
最新の上記第2情報に更新することを特徴とする請求項
5に記載した連続式加熱炉の炉内圧力制御方法。
【請求項7】
予め定めた、燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する
、炉内圧力の低下に伴う炉内温度の低下度合いが変化する直前の炉内温度である最適温度に対応する炉内圧力である最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報に基づき、炉に供給する燃焼ガスの流量に対応する炉内圧力目標値を炉内圧力設定値と設定し、
上記設定した炉内圧力設定値となるように炉内圧力を調整
し、
炉内圧力の低下に伴う炉内温度の低下度合いが変化する直前の炉内温度である最適温度のときの、炉内圧力からなる炉内圧力目標値と燃焼ガスの流量とを有するデータの組を蓄積し、
蓄積した上記データの組に基づき、炉内圧力目標値と燃焼ガスの流量との相関関係である第3情報を求め、その第3情報を上記第1情報とする、
ことを特徴とする連続式加熱炉の炉内圧力制御方法。
【請求項8】
上記蓄積するデータの組は、上記最適温度のデータも含み、
上記第3情報は、炉内圧力目標値と上記最適温度との相関関係の情報も有し、
炉内圧力が設定した炉内圧力設定値となったと判定したときの、上記第3情報に基づく当該炉内圧力設定値に対応する最適温度と、炉内の炉内温度との乖離度合いが、予め設定した第3乖離閾値を超えたと判定した場合に、上記第1情報を
最新の上記第3情報に更新することを特徴とする請求項
7に記載した連続式加熱炉の炉内圧力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式加熱炉の炉内圧力を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続式加熱炉の炉内圧力制御では、最抽出側上部に設置した炉内圧力計にて炉内圧力を取得し、取得した圧力が、予め設定した炉内圧力設定値となるように、炉内圧力制御ダンパを制御する。このとき、抽出扉や装入扉の開動作に伴う外気の侵入を防止するために、炉内圧力が大気圧に対して若干正圧に設定する。しかし、炉内圧力の検出信号を受け取り、炉内圧力制御ダンパを目標位置まで閉めるまでには多少の時間遅れが生じる。このため、従来、抽出扉や装入扉の開動作に伴う、外気の侵入を完全に防止することはできず、外気の侵入に伴う、炉内温度の低下や燃焼効率の悪化を招いていた。
【0003】
これに対して、特許文献1には、扉の開閉前に予め炉内圧力制御ダンパの開度を決定し、炉内圧力制御ダンパの開度をフィードフォワード制御するような方法が開示されている。また、特許文献2には、炉内圧力を低すぎない領域に制御する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-346125号公報
【文献】特開平9-209032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、連続式加熱炉に装入する鋼材(スラブ)は、常温の冷片材から600℃の温度を有する熱片材など、加熱炉入側での温度が様々である。このため、加熱炉における各鋼材の目標加熱温度も多岐に渡ることから、装入されている鋼材によって加熱炉内の燃焼負荷量が増減する。
特に、燃焼負荷量が小さい場合は、加熱に伴い発生する排ガスの流量が少ないため、加熱炉内の圧力を均一に保つことが難しく、加熱炉内の下部領域における炉内圧力が大気圧に対して負圧となるおそれがある。その場合に、特許文献1のような方法で予め設定された炉内圧力に対しての応答性を高めたとしても、抽出扉・装入扉の下部の隙間やエキストラクターの開口部からの、炉内への侵入空気を防ぐことは困難である。
【0006】
また、炉内圧力の制御値に関しては、従来、加熱炉の原単位を参考に炉内圧力設定値を算出しているため、操業状態や炉内の環境によって、最適な炉内圧力値が変化する可能性が非常に高い。
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたもので、炉内圧力をより精度良く最適化可能な炉内圧力制御の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様では、予め設定された炉内圧力に対して制御を行うのではなく、加熱炉内の燃焼ガスの流量により炉内圧力設定値を変化させて、常に扉近辺や炉床などの圧力が外気に比べ負圧にならないような、最適炉内圧力に制御する。
【0008】
すなわち、本発明の態様は、炉内の排ガスを炉外に導く煙道に設けられて炉内圧力を調整するための炉内圧力制御ダンパと、炉に供給される燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報を記憶した記憶部と、炉に供給される燃焼ガスの流量を取得する燃焼ガス流量取得部と、上記燃焼ガス流量取得部が取得した燃焼ガスの流量と上記第1情報とから炉内圧力目標値を求める炉内圧力設定部と、上記炉内圧力設定部が求めた炉内圧力目標値を炉内圧力設定値とし、炉内圧力が上記炉内圧力設定値となるように上記炉内圧力制御ダンパを制御するダンパ制御部と、を備えたことを要旨とする。
【0009】
また、本発明の一態様は、予め定めた、燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報に基づき、炉に供給する燃焼ガスの流量に対応する炉内圧力目標値を炉内圧力設定値と設定し、上記設定した炉内圧力設定値となるように炉内圧力を調整することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、加熱炉内に発生する燃焼負荷によって炉内圧力設定値が最適化するように変化させて炉圧制御を実行するため、燃焼ガスの流量が変化しても、加熱炉の装入扉や抽出扉、炉床が近辺から加熱炉内に空気が侵入しない圧力を維持することが可能となる。この結果、本発明の態様によれば、加熱炉のエネルギーロスを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る連続式加熱炉を説明する概念図である。
【
図4】燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係(第1情報)の例を示す図である。
【
図8】実施例における、燃焼ガスの流量と酸素濃度差との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(構成)
図1は、本実施形態の連続式加熱炉を説明する概念図である。
本実施形態の連続式加熱炉は、
図1に示すように、スラブ1(鋼材)が、装入扉2から連続的に炉内に装入される。炉内に装入された各スラブ1は、それぞれ抽出側に向けて移動する際に、バーナーによって目標温度まで加熱され、抽出扉4から取り出される。
すなわち、炉内には、スラブの移動方向に沿って、複数のバーナー3が配置されている。各バーナー3には、燃料供給管5を通じて燃焼ガスが供給されると共に空気供給管6を通じて燃焼空気が供給される。なお、
図1では、上側の供給管の図示を省略している。また、加熱炉は、炉内の排ガスを排出するための煙道7を有し、その煙道7の開閉を調節することで炉内圧力を調整する炉内圧力制御ダンパ8(煙道ダンパー)が設けられている。符号9はレキュペレータである。
【0014】
また、実施形態の加熱炉は、燃焼ガス流量取得部20、燃焼空気流量取得部21、炉圧取得部22、酸素濃度取得部23、温度取得部24、記憶装置31、及び圧力制御部30を備える。
燃焼ガス流量取得部20は、加熱炉に供給される燃焼ガスの流量、すなわち炉の全バーナー3に供給される燃焼ガスの流量を取得する。燃焼ガス流量取得部20は、例えば燃料供給管5の本管に設けられた流量計からなる。
燃焼空気流量取得部21は、全バーナー3に供給される燃焼空気の流量を取得する。燃焼空気流量取得部21は、例えば空気供給管6の本管に設けられた流量計からなる。
【0015】
炉圧取得部22は、炉内圧力を取得する。炉圧取得部22は、例えば炉内圧力計からなる。炉圧取得部22は、抽出扉側に配置される。
酸素濃度取得部23は、炉内の酸素濃度を取得する。酸素濃度計の設置位置としては、扉の開閉により大きくハンチングしない安定した取得値が得られる部位が望ましい。
温度取得装置は、炉内の温度を取得する。炉内温度計の設置位置としては扉近傍が好ましい。
記憶装置31の第1記憶部31aには、炉に供給される燃焼ガスの流量と、その燃焼ガスの流量に対応する最適な炉内圧力と推定される炉内圧力目標値との相関関係である第1情報が記憶されている。第1情報は、例えば、テーブルや関数式として記憶される。
【0016】
圧力制御部30は、炉内圧力制御ダンパ8を調整することで炉内圧力を炉内圧力設定値に制御する。
本実施形態の圧力制御部30は、炉内圧力設定部30Aとダンパ制御部30Bとを備える。
炉内圧力設定部30Aは、第1記憶部31aに格納されている第1情報を参照して、燃焼ガス流量取得部20が取得した燃焼ガスの流量に対応する炉内圧力目標値を演算する。
ダンパ制御部30Bは、炉内圧力設定部30Aが求めた炉内圧力目標値を炉内圧力設定値とし、炉内圧力が炉内圧力設定値となるように炉内圧力制御ダンパ8を制御する。すなわち、ダンパ制御部30Bは、炉内圧力が炉内圧力設定値とする操作量を演算し、演算した操作量を炉内圧力制御ダンパ8の駆動部に出力する。
【0017】
(燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係について)
第1情報は、炉(全バーナー3)に供給される燃焼ガスの流量と、その供給される燃焼ガスの流量で最適と推定される炉内圧力である炉内圧力目標値との相関関係の情報である。
その第1情報の求め方について説明する。
すなわち、圧力制御部30は、
図3に示すように、相関関係である第1情報に関わる処理部として、理論酸素濃度算出部30C、第2炉内圧力目標値取得部30D、第2情報取得部30E、及び第2情報設定部30Fを備えていてもよい。
【0018】
理論酸素濃度算出部30Cは、燃焼ガス流量取得部20が取得した燃焼ガスの流量と燃焼空気流量取得部21が取得した燃焼空気の流量とに基づき、炉内の排ガス中の理論酸素濃度を算出する。具体的には、理論酸素濃度算出部30Cは、加熱炉内で使用される燃焼ガスの流量と燃焼空気の流量を取得し、燃焼ガスの成分を燃焼させるのに必要となる理論酸素量を燃焼ガスの流量と燃焼ガス成分から計算する。理論酸素量の計算結果から燃焼空気で燃焼ガスを燃焼させた時の排ガス中の理論酸素濃度を算出する。この理論酸素濃度の算出は、公知の演算方法で実施すればよい。
【0019】
第2炉内圧力目標値取得部30Dは、理論酸素濃度算出部30Cが算出する理論酸素濃度と、酸素濃度取得部23が取得した酸素濃度とが一致したとき判定すると、そのときの炉圧取得部22が取得する炉内圧力と、燃焼ガス流量取得部20が取得する燃焼ガスの流量を入力して、入力した炉内圧力を、入力した燃焼ガスの流量での炉内圧力目標値とする。そして、その入力した(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組を記憶装置31に蓄積する。
ここで、取得した酸素濃度が高いようであれば侵入空気を低減させるため、加熱炉内の圧力が上昇するように炉内圧力制御ダンパ8を閉じる方向に動かす。また、加熱炉内の酸素濃度が低いようであれば、加熱炉内の炉内圧力制御ダンパ8を開く方向に動かす。これによって、各燃焼ガスの流量に応じて最適な炉内圧力が算出される。
【0020】
第2情報取得部30Eは、第2炉内圧力目標値取得部30Dが求めた複数の(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組から、燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係である第2情報を求める。燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係の情報は、テーブル形式でも良いし、相関関係の情報を統計処理によって近似した関数式の形であってもよい。
そして、第2情報設定部30Fが、第2情報取得部30Eが求めた第2情報を第1情報として第1記憶部31aに格納する。
【0021】
ここで、第2情報取得部30Eが用いる複数の(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組は、加熱炉の実操業時に実行しても良い。本実施形態では、試験的に加熱炉内の圧力を変動させて、加熱炉内の実績酸素濃度(測定した酸素濃度)が理論酸素濃度と一致するような最適な炉内圧力を求める。なお、一般に、炉内圧力が正圧の場合、扉の隙間から放炎が発生し、熱が大気に逃げることによる燃料原単位悪化及び炉体損傷を招く。一方、炉内圧力が負圧の場合、扉の隙間から空気が侵入し炉内温度低下でのガス使用量増による燃料原単位悪化及び酸素濃度上昇での鋼材の表面酸化促進による表面品質の劣化を招く。そして、炉内圧力や酸素濃度は、扉の開閉やガスの燃焼状態によってばらつく。
また、燃焼ガスの流量についても変化させ、加熱炉内の実績酸素濃度と理論酸素濃度が一致する炉内圧力を算出することで、複数の燃焼ガスの流量に対する炉内圧力目標値を求めることができる。
【0022】
(動作その他)
本実施形態では、炉に供給する燃焼ガスの流量に対する最適な炉内圧力目標値の相関関係である第1情報を、予め求めておくことで、燃焼負荷量に応じた、供給される燃焼ガスの流量に対応する炉内設定圧力値(炉内圧力目標値)が簡易且つ短時間に求められる。そして、本実施形態では、炉内圧力が、その燃焼ガスの流量に対応する炉内設定圧力値となるように、炉内圧力制御ダンパ8を制御する。
すなわち、本実施形態では、加熱炉内に発生する燃焼負荷によって、炉内圧力の設定値を最適値に変化させるため、どのような燃焼ガスの流量(燃焼負荷量相当)においても、加熱炉の装入扉や抽出扉、炉床が近辺から加熱炉内に空気が侵入しない圧力を維持することが可能となる。この結果、本実施形態によれば、加熱炉のエネルギーロスを削減することが可能となる。
【0023】
燃焼ガスの流量に対する炉内圧力目標値の相関関係である第1情報の一例を
図4に示す。この一例では、相対的に、燃焼ガスの流量が少ないほど、炉内圧力目標値が高くなる相関関係としての第1情報が記憶される。このため、燃焼負荷が小さい場合に、従来では炉内圧力が大気圧に対し負圧になるおそれがあったが、本実施形態では、燃焼負荷が小さい場合ほど、炉内圧力が高めに設定される結果、炉内圧力が大気圧に対し負圧となることが従来に比べ、抑制される。すなわち、燃焼負荷が小さい場合は排ガスの流量が少なくなって、そのままでは圧力が低下する一因となるが、本実施形態では、燃焼負荷が低下するにつれて炉内圧力制御ダンパ8が閉じ方向に変化しつつ、圧力が最適値に調整される。
【0024】
また、放炎量の削減に関しても同様に炉内酸素濃度と理論酸素濃度から最適な炉内圧力を設定することで、炉内圧力を下げることにより、加熱炉内の実績酸素濃度は上昇する。酸素濃度が上昇し、理論酸素濃度と等しい値になった炉内圧力を最適値とし、加熱炉の圧力制御テーブルを作成することで、放炎量の少ない状態で加熱炉の操業が可能になる。
ここで、上記の(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組は、現在の炉内圧力の値と、直近の燃焼ガスの流量との組合せになっているが、現在の炉内圧力の値と、現在燃焼されている燃焼ガスの流量に補正しても良い。
【0025】
(変形例1)
ここで、加熱炉の使用に伴い、炉内の環境が変化して、予め設定した第1情報の精度が悪くなる可能性がある。すなわち、加熱炉内の環境は、使用に伴い、スケールの堆積などによって状況が変化する。そのため、最適な第1情報が変化する可能性が考えられる。
これに対応するために、圧力制御部30は、
図5のように、第2乖離取得部30Gを有し、第2情報設定部30Fが、第2乖離取得部30Gが取得した乖離度合いに応じて、第1情報を第2情報に更新する処理を行うようにしても良い。
【0026】
すなわち、第2乖離取得部30Gは、ダンパ制御部30Bのダンパ制御によって炉内圧力が炉内圧力設定値となったと判定すると、理論酸素濃度部が算出する理論酸素濃度と酸素濃度取得部23が取得した酸素濃度とを入力し、入力した理論酸素濃度と取得した酸素濃度との差を、乖離度合いとして求める。第2乖離取得部30Gの作動は、例えば所定サンプリング周期実施する。
そして、第2情報設定部30Fは、第2乖離取得部30Gが取得した乖離度合いが、予め設定した第2乖離閾値を超えたと判定した場合、第2情報で第1情報を更新する処理を行う。更新は、第2情報を第1情報とする処理とする。
【0027】
この例では、第1情報を求めるために、第2情報取得部30Eを作動すると共に、相関関係の情報を求めた後も、適宜第2情報取得部30Eを作動して、相関関係としての第2情報を求めて第1情報を更新するための、(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組を逐次蓄積する。
第2情報設定部30Fは、第2乖離取得部30Gが取得した乖離度合いが、予め設定した第2乖離閾値を超えたと判定したときに、第2炉内圧力目標値取得部30Dを作動して、第1情報を更新するための(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組を取得しても良い。
この変形例1の場合は、炉の環境変化に応じて相関関係の情報が更新される結果、より精度良く炉内圧力を最適化することが可能となる。
【0028】
(変形例2)
上記説明では、理論酸素濃度と取得した酸素濃度とから、相関関係の情報を求めるための(燃焼ガスの流量、炉内圧力)のデータの組を算出する場合を例示したが、これに限定されない。
例えば、最適炉内圧力は、酸素濃度だけでなく、炉内温度からも算出することができる。すなわち、各燃焼ガスの流量に応じて炉内圧力を変化させ、炉内温度計の温度変化から最適な炉内圧力を求める。この炉内温度を使用した際には、炉内圧力を上昇させた状態から、徐々に下げて行き、炉内温度の温度低下が急に下方へ変化する直前の位置(変化点でも構わない)を最適温度Tmの値として算出する(
図6参照)。そして、その最適温度のときの炉内圧力を,対応する燃焼ガスの流量に対応する炉内圧力目標値とする。
ここで、最適な炉内圧力から炉内圧力を低下させると、侵入空気により炉内温度が低下するが、最適な炉内圧力から炉内圧力を上昇させると放炎が発生するため、炉内温度は変化しない。各燃焼ガスの流量における最適炉内圧力を算出することで、酸素濃度の時と同様に、第1情報で圧力制御することが可能になる。
【0029】
この変形例の場合には、圧力制御部30は、
図7に示すように、第3炉内圧力目標値取得部30H、第3情報取得部30I、第3情報設定部30Jを備える。
第3炉内圧力目標値取得部30Hは、炉内圧力の低下に伴う炉内温度の低下度合いが変化する直前の炉内温度である最適温度Tmの検出時の炉内圧力を炉内圧力目標値とし、その炉内圧力目標値と、その際に炉に供給された燃焼ガスの流量とに基づき、(炉内圧力目標値、燃焼ガスの流量)のデータの組を取得する。この第3情報を得るためのデータの組は、(炉内圧力目標値、燃焼ガスの流量、最適温度Tm)のように、最適温度を含むことが好ましい。
第3情報取得部30Iは、第3炉内圧力目標値取得部30Hが取得した複数のデータの組から、上記燃焼ガスの流量と炉内圧力目標値との相関関係である第3情報を求める。
第3情報設定部30Jは、第3情報を第1情報とする。
【0030】
(変形例3)
更に、圧力制御部30は、
図7のように、第3乖離取得部30Kを有し、第3情報設定部30Jが、第3乖離取得部30Kが取得した乖離度合いに応じて、第1情報を第3情報に更新する処理を行うようにしても良い。
第3乖離取得部30Kは、ダンパ制御部30Bのダンパ制御によって炉内圧力が炉内圧力設定値となったと判定すると、第3情報に基づいて炉内圧力設定値に対応する最適温度Tmを求め、その最適温度Tmと温度取得部24が取得した炉内の温度との乖離度合いを取得する。
【0031】
そして、第3情報設定部30Jは、第3乖離取得部30Kが取得した乖離度合いが、予め設定した第3乖離閾値を超えたと判定した場合、第3情報で第1情報を更新する処理を行う。更新は、第3情報を第1情報とする処理とする。
この場合は、炉の環境変化に応じて相関関係の情報が更新される結果、より精度良く炉内圧力を最適化することが可能となる。
【実施例1】
【0032】
本実施例の炉圧制御として、
図4に示すような第1情報を参照し、供給する燃焼ガスの流量(燃焼ガス流量取得部20が取得した流量)に応じた炉内圧力設定値となるようにダンパ制御を実行することで、炉圧を燃焼ガスの流量に応じた目標設定値に制御を行った。
そのときの炉内酸素濃度(実績酸素濃度)と理論酸素濃度との差と、燃焼ガスの流量との相関を求めてみた。
図8に、そのグラフを示す。
【0033】
なお、
図8において、本発明を適用しない実施前は、加熱炉の原単位を参考に設定炉内圧力設定値を算出してダンパ制御を実行した場合の例であり、実行後が、本発明を適用した場合である。
図8において、横軸は、測定したガス流量実績を、縦軸は実績酸素濃度と理論酸素濃度の差を示している。実績酸素濃度は、加熱炉の装入側に設置された酸素濃度計にて取得された実測値を採用した。また各バーナー3での燃焼ガス成分、燃焼ガスの流量及び空気流量実績より算出した理論上の酸素濃度を理論酸素濃度と定義している。
【0034】
図8から分かるように、本発明の実施前は燃焼ガスの流量が少ない、つまり燃焼負荷量が小さい場合には、実績酸素濃度が理論酸素濃度よりも大きい値をとっており、侵入空気により実績酸素濃度が上昇したと考えられる。一方、本発明の実施後は、実績酸素濃度と理論酸素濃度の差がほぼゼロに等しい値となった。すなわち、本発明では、燃焼ガスの流量に応じて最適な炉内圧力を設定することにより、侵入空気を防ぐことができたと考えられる。
【符号の説明】
【0035】
3 バーナー
5 燃料供給管
6 空気供給管
7 煙道
8 炉内圧力制御ダンパ
20 燃焼ガス流量取得部
21 燃焼空気流量取得部
22 炉圧取得部
23 酸素濃度取得部
24 温度取得部
30 圧力制御部
30A 炉内圧力設定部
30B ダンパ制御部
30C 理論酸素濃度算出部
30D 第2炉内圧力目標値取得部
30E 第2情報取得部
30F 第2情報設定部
30G 第2乖離取得部
30H 第3炉内圧力目標値取得部
30I 第3情報取得部
30J 第3情報設定部
30K 第3乖離取得部
31 記憶装置
31a 第1記憶部