(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】誘電体フィルム
(51)【国際特許分類】
H01G 4/32 20060101AFI20221012BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20221012BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20221012BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01G4/32 511H
B32B7/025
H01B3/12 303
H01B3/12 304
H01B3/12 313N
H01B3/12 336
H01B3/30 Q
H01G4/32 521G
(21)【出願番号】P 2019200296
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】小澤 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-142396(JP,A)
【文献】特開2012-232435(JP,A)
【文献】特開2015-201513(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0160623(US,A1)
【文献】特開2014-082523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/10
H01G 4/14-4/22
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
H01B 3/12
H01B 3/30
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた誘電体フィルム。
(1)前記誘電体フィルムは、
高比誘電率材料と、
隣接する前記高比誘電率材料より低い比誘電率を持つ低比誘電率材料と
を含む。
(2)前記誘電体フィルムは、その表面から裏面に向かって、
前記高比誘電率材料からなる合計(n+1)層(n≧1)の高比誘電率層と、
前記低比誘電率材料からなる合計n層の低比誘電率層と
が交互に積層している領域を含む。
(3)前記誘電体フィルムは、
マトリックスと、前記マトリックス中に分散しているフィラー粒子とを備えた複合膜からなり、
前記フィラー粒子は、コアと、前記コアの表面を被覆するシェルとを備え、
前記マトリックスは、高比誘電率材料(A)からなり、
前記シェルは、前記低比誘電率材料からなり、
前記コアは、高比誘電率材料(B)からなる。
【請求項2】
次の式(1)の関係を満たす請求項1に記載の誘電体フィルム。
0.28≦ε
r/ε
rH<1.0 …(1)
但し、
ε
rは、前記誘電体フィルムの比誘電率、
ε
rHは、前記誘電体フィルムの表面又は裏面を構成する前記高比誘電率材
料(A)の比誘電率。
【請求項3】
次の式(4)の関係を満たす請求項1又は2に記載の誘電体フィルム。
0.0001≦ε
rL/ε
rH<1.0 …(4)
但し、
ε
rLは、前記低比誘電率材料の対数混合則による比誘電率、
ε
rHは、前記誘電体フィルムの表面又は裏面を構成する前記高比誘電率材
料(A)の比誘電率。
【請求項4】
総厚さが10μm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の誘電体フィルム。
【請求項5】
前記誘電体フィルムの表面及び裏面における前記高比誘電率材
料(A)の面積率は、それぞれ、50%以上である請求項1から4までのいずれか1項に記載の誘電体フィルム。
【請求項6】
前記フィラー粒子は、アスペクト比が1.8以上200以下である
請求項1から5までのいずれか1項に記載の誘電体フィルム。
【請求項7】
次の式(5)の関係を満たす
請求項1から6までのいずれか1項に記載の誘電体フィルム。
0.01≦d
shell/d
filler<0.5 …(5)
但し、
d
shellは、前記シェルの厚さ、
d
fillerは、前記フィラー粒子の厚さ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体フィルムに関し、さらに詳しくは、(n+1)層の高比誘電率層とn層の低比誘電率層とが交互に積層している領域を含む誘電体フィルムに関する
【背景技術】
【0002】
コンデンサは、2枚の電極の間に誘電体を挿入したものであり、その静電容量は、誘電体の比誘電率に比例する。コンデンサに使用される誘電体としては、例えば、セラミックス、プラスチック、絶縁油、マイカなどが知られている。特に、BaTiO3は、比誘電率が大きいため、小型・大容量のコンデンサの誘電体には、主としてBaTiO3が用いられている。
【0003】
BaTiO3は、常温(25℃)では正方晶であるが、結晶構造が正方晶(強誘電体)から立方晶(常誘電体)に変化するキュリー点(約125℃)を持ち、キュリー点では比誘電率が最も高くなる。そのため、BaTiO3を用いたコンデンサは、キュリー点近傍において静電容量が大きく変化する。しかし、BaTiO3からなる緻密な焼結体を得るためには、1300℃前後の高い焼結温度を必要とする。さらに、BaTiO3は、加工性に乏しいために、任意の形状や複雑な形状に加工するのが難しい。
【0004】
一方、ポリプロピレンなどのポリマーからなるプラスチックフィルムは、フィルムコンデンサの誘電体として用いられている。プラスチックフィルムは、可撓性があるために、容易にロール状に巻き取ることができる。しかしながら、ポリマーは、比誘電率が小さいために、コンデンサ容量を大きくするためには、巻回数を多くする必要がある。そのため、フィルムコンデンサは、積層セラミックチップコンデンサに比べて大型化するという問題がある。
【0005】
これに対し、可撓性のあるポリマーと、高い比誘電率を有する無機フィラーとを複合化させると、可撓性と高比誘電率とを両立させることができる。また、このような複合体を用いてフィルムコンデンサを作製すると、ポリマーのみを用いた場合に比べて、フィルムコンデンサを小型化することができる。しかしながら、ポリマーと無機フィラーとの複合体は、絶縁破壊強度が低いという問題がある。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1、2には、
(a)共押出された1層の第1誘電体層と1層の第2誘電体層からなる2成分系多層高分子誘電体フィルムであって、第1誘電体層が高比誘電率材料からなり、第2誘電体層が低誘電率材料からなるもの、及び、
(b)共押出された合計32層又は256層の第1誘電体層と第2誘電体層の交互積層体からなる多層高分子誘電体フィルムであって、第1誘電体層が高比誘電率材料からなり、第2誘電体層が低誘電率材料からなるもの
が開示されている。
同文献には、32層又は256層の多層高分子誘電体フィルムの絶縁破壊強度は、いずれか一方の材料のみからなる誘電体フィルムのそれより高くなる点が記載されている。
【0007】
特許文献1、2に記載されているように、高比誘電率層と低比誘電率層とを交互に積層すると、低比誘電率層が端子間で短絡していないために、絶縁破壊強度が向上する。しかしながら、絶縁耐圧のより大きいコンデンサを得るためには、絶縁破壊強度をさらに向上させることが望まれる。
また、一般に、比誘電率と絶縁破壊強度とはトレードオフの関係にあり、比誘電率が小さくなるほど絶縁破壊強度は大きくなる。しかしながら、比誘電率が小さくなるほどコンデンサの容量密度が低下するという問題がある。さらに、高い絶縁破壊強度と高い容量密度とを高い次元で両立させた誘電体フィルムが提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2019/0057814号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0172066号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高比誘電率材料と低比誘電率材料との複合体からなり、相対的に高い絶縁破壊強度を持つ誘電体フィルムを提供することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、相対的に高い絶縁破壊強度に加えて、相対的に高い容量密度を持つ誘電体フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る誘電体フィルムは、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記誘電体フィルムは、
高比誘電率材料と、
隣接する前記高比誘電率材料より低い比誘電率を持つ低比誘電率材料と
を含む。
(2)前記誘電体フィルムは、その表面から裏面に向かって、
前記高比誘電率材料からなる合計(n+1)層(n≧1)の高比誘電率層と、
前記低比誘電率材料からなる合計n層の低比誘電率層と
が交互に積層している領域を含む。
【0011】
誘電体フィルムは、次の式(1)の関係を満たすものが好ましい。
0.28≦εr/εrH<1.0 …(1)
但し、
εrは、前記誘電体フィルムの比誘電率、
εrHは、前記誘電体フィルムの表面又は裏面を構成する前記高比誘電率材料の比誘電率。
【発明の効果】
【0012】
高比誘電率層と低比誘電率層との交互積層領域を含む誘電体フィルムにおいて、表面及び裏面の双方が高比誘電率層からなる構造(高比誘電率層終端構造)は、表面及び裏面のいずれか一方又は双方が低比誘電率層からなる構造(低比誘電率層終端構造)に比べて、絶縁破壊強度が向上する。
また、誘電体フィルムの比誘電率εrが所定の関係を満たすように、高比誘電率層の比誘電率、低比誘電率層の比誘電率、及び/又は、低比誘電率材料の体積率を最適化すると、相対的に高い容量密度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)は、フィラー分散構造の模式図である。
図1(B)は、フィラーの拡大図である。
【
図2】
図1に示すフィラー分散構造を備えた誘電体フィルムのε
r/ε
rHと性能比との関係を示す図である。
【
図3】交互積層膜構造又はフィラー分散構造を備えた誘電体フィルムのε
rL/ε
rHと性能比との関係を示す図である。
【0014】
【
図4】交互積層膜構造又はフィラー分散構造を備えた誘電体フィルムのε
r/ε
rHと性能比との関係を示す図である。
【
図5】交互積層膜構造を備えた誘電体フィルムの低比誘電率膜の層数(n)と性能比との関係を示す図である。
【
図6】高比誘電率層終端構造又は低比誘電率終端構造を備えた誘電体フィルムのε
r/ε
rHと性能比との関係を示す図である。
【0015】
【
図7】高比誘電率層終端構造を備えた誘電体フィルム(総積層数=11層)、及び低比誘電率終端構造を備えた誘電体フィルム(総積層数=10層)の性能比の比較である。
【
図8】粒子分散型の誘電体フィルムと交互積層膜型の誘電体フィルムの比誘電率比である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 誘電体フィルム]
本発明に係る誘電体フィルムは、以下の構成を備えている。
(1)前記誘電体フィルムは、
高比誘電率材料と、
隣接する前記高比誘電率材料より低い比誘電率を持つ低比誘電率材料と
を含む。
(2)前記誘電体フィルムは、その表面から裏面に向かって、
前記高比誘電率材料からなる合計(n+1)層(n≧1)の高比誘電率層と、
前記低比誘電率材料からなる合計n層の低比誘電率層と
が交互に積層している領域を含む。
【0017】
[1.1. 高比誘電率材料、及び低比誘電率材料]
本発明に係る誘電体フィルムは、高比誘電率材料と低比誘電率材料とを含む。
ここで、「高比誘電率材料」とは、隣接する材料(低比誘電率材料)に比べて、比誘電率が大きい材料をいう。
「低比誘電率材料」とは、隣接する材料(高比誘電率材料)に比べて、比誘電率が小さい材料をいう。
【0018】
ある材料が高比誘電率材料に該当するか、あるいは低比誘電率材料に該当するかは、相対的なものである。すなわち、隣接する材料の比誘電率に応じて、同一の材料が高比誘電率材料になる場合と、低比誘電率材料になる場合とがある。
高比誘電率材料及び低比誘電率材料は、それぞれ、高比誘電率層と低比誘電率層との交互積層領域を形成可能なものである限りにおいて、有機材料、有機-無機ハイブリッド材料、あるいは、無機材料のいずれであっても良い。
【0019】
また、誘電体フィルムが複数の高比誘電率層を含む場合において、各高比誘電率層は、同一の高比誘電率材料からなるものでも良く、あるいは、後述の条件を満たす限りにおいて、異なる材料で構成されていても良い。
同様に、誘電体フィルムが複数の低比誘電率層を含む場合において、各低比誘電率層は、同一の低比誘電率材料からなるものでも良く、あるいは、後述の条件を満たす限りにおいて、異なる材料で構成されていても良い。
各層を構成する材料の詳細については、後述する。
【0020】
[1.2. 交互積層領域]
本発明に係る誘電体フィルムは、交互積層領域を含む。
ここで、「交互積層領域」とは、誘電体フィルムの表面から裏面に向かって、
前記高比誘電率材料からなる合計(n+1)層(n≧1)の高比誘電率層と、
前記低比誘電率材料からなる合計n層の低比誘電率層と
が交互に積層している領域をいう。
換言すれば、「交互積層領域」とは、高比誘電率層と低比誘電率層とが交互に積層された領域であって、第1層と第(2n+1)層が高比誘電率層からなる構造(以下、このような構造を「高比誘電率層終端構造」ともいう)を備えている領域をいう。
【0021】
交互積層領域を構成する低比誘電率層及び高比誘電率層の面積は、特に限定されない。
例えば、低比誘電率層及び高比誘電率層は、いずれも、誘電体フィルムの面積とほぼ同一の面積を持つ薄膜であっても良い。この場合、誘電体フィルムは、高比誘電率材料からなる高比誘電率膜と、低比誘電率材料からなる低比誘電率膜とが交互に積層された積層膜となる。積層膜の詳細については、後述する。
【0022】
あるいは、低比誘電率層は、誘電体フィルムの面積より小さな面積を持つフィラー粒子であっても良い。この場合、誘電体フィルムは、高比誘電率材料(A)からなるマトリックス中に、低比誘電率材料からなるフィラー粒子が分散している粒子分散型の複合膜となる。
さらに、フィラー粒子は、低比誘電率材料のみからなる粒子でも良く、あるいは、高比誘電率材料(B)からなるコアの表面が低比誘電率材料からなるシェルで被覆されたコア-シェル粒子であっても良い。粒子分散型の複合膜の詳細については、後述する。
【0023】
[1.3. 比誘電率]
[1.3.1. εr/εrH比]
誘電体フィルムは、次の式(1)の関係を満たしているものが好ましい。
0.28≦εr/εrH<1.0 …(1)
但し、
εrは、前記誘電体フィルムの比誘電率、
εrHは、前記誘電体フィルムの表面又は裏面を構成する前記高比誘電率材料の比誘電率。
【0024】
積層膜型の誘電体フィルムにおいては、誘電体フィルムの表面(第1層)を構成する高比誘電率材料の比誘電率が裏面(第(2n+1)層)を構成する高比誘電率材料のそれとは異なる場合がある。このような場合、少なくとも表面又は裏面のいずれか一方の高比誘電率材料が式(1)の関係を満たしていれば良い。高性能な誘電体フィルムを得るためには、双方の高比誘電率材料が式(1)の関係を満たしているのが好ましい。
【0025】
εr/εrH比は、性能比及び容量密度に影響を与える。ここで、「性能比」とは、高比誘電率材料のみからなる誘電体フィルムの最大エネルギー密度に対する、交互積層領域を含む誘電体フィルムの最大エネルギー密度の比をいう。
【0026】
誘電体フィルムの最大エネルギー密度Umaxは、次の式(2)で表される。
Umax=1/2ε0εrEBDS
2 …(2)
但し、
ε0:真空の誘電率、8.854×10-12[F/m]、
εr:誘電体フィルムの平均の比誘電率、
EBDS:誘電体フィルムの絶縁破壊強度(V/μm)
【0027】
誘電体フィルムの容量密度は、次の式(3)で表される。
容量密度[F/m3]=ε0εr/d2 …(3)
但し、
ε0:真空の誘電率、8.854×10-12[F/m]、
εr:誘電体フィルムの平均の比誘電率、
d:誘電体フィルムの厚み[m]
【0028】
一般に、誘電体フィルムのεrとEBDSは、トレードオフの関係があり、εrが小さくなるほどEBDSは大きくなる。また、Umaxは、EBDSの2乗に比例する。そのため、εr/εrH比が小さくなるほど、性能比は大きくなる。高い性能比を得るためには、εr/εrH比は、1.0未満が好ましい。
一方、εr/εrH比が小さくなりすぎると、誘電体フィルムの容量密度が過度に小さくなる。従って、εr/εrH比は、0.28以上が好ましい。εr/εrH比は、好ましくは、0.45以上である。
【0029】
[1.3.2. εrL/εrH比]
誘電体フィルムは、次の式(4)の関係を満たしているものが好ましい。
0.0001≦εrL/εrH<1.0 …(4)
但し、
εrLは、前記低比誘電率材料の対数混合則による比誘電率、
εrHは、前記誘電体フィルムの表面又は裏面を構成する前記高比誘電率材料の比誘電率。
「対数混合則による比誘電率」とは、次の式(4.1)で表される値をいう。
lnεrL=ΣVilnεi …(4.1)
但し、
Viは、材料iの体積割合、
εiは、材料iが100vol%の場合の比誘電率。
【0030】
積層膜型の誘電体フィルムにおいては、誘電体フィルムの表面(第1層)を構成する高比誘電率材料の比誘電率が裏面(第(2n+1)層)を構成する高比誘電率材料のそれとは異なる場合がある。このような場合、少なくとも表面又は裏面のいずれか一方の高比誘電率材料が式(4)の関係を満たしていれば良い。高性能な誘電体フィルムを得るためには、双方の高比誘電率材料が式(4)の関係を満たしているのが好ましい。
【0031】
εrL/εrH比も同様に、性能比及び容量密度に影響を与える。一般に、εrL/εrH比が小さくなるほど、性能比は大きくなる。高い性能比を得るためには、εrL/εrH比は、1.0未満が好ましい。εrL/εrH比は、好ましくは、0.9以下である。
一方、εrL/εrH比が小さくなりすぎると、誘電体フィルムの容量密度が過度に小さくなる。従って、εrL/εrH比は、0.0001以上が好ましい。εrL/εrH比は、好ましくは、0.00067以上、さらに好ましくは、0.1以上である。
【0032】
[1.4. 総厚さ]
誘電体フィルムの総厚さは、式(3)に示すように、容量密度に影響を与える。一般に、誘電体フィルムの総厚さが厚くなりすぎると、容量密度が低下する。高い容量密度を得るためには、誘電体フィルムの総厚さは、10μm以下が好ましい。総厚さは、好ましくは、9.5μm以下、さらに好ましくは、9μm以下である。
【0033】
[1.5. 低比誘電率材料の体積率]
「低比誘電率材料の体積率」とは、誘電体フィルムの総体積に対する低比誘電率材料の体積の割合をいう。
【0034】
低比誘電率材料の体積率は、誘電体フィルムの性能に影響を与える。一般に、低比誘電率材料の体積率が小さくなりすぎると、絶縁破壊強度が上がらない。従って、低比誘電率材料の体積率は、5vol%以上が好ましい。
【0035】
一方、低比誘電率材料の体積率が大きくなりすぎると、εrが小さくなりすぎる。従って、低比誘電率材料の体積率は、70vol%以下が好ましい。
【0036】
[1.6. 表面及び裏面における高比誘電率材料の面積率]
「高比誘電率材料の面積率」とは、誘電体フィルムの表面又は裏面の総面積に対する、表面又は裏面に露出している高比誘電率材料の面積の割合をいう。
【0037】
誘電体フィルムが積層膜である場合において、表面及び裏面を構成する高比誘電率膜の厚さが極めて薄い時には、不可抗力により表面及び/又は裏面にある高比誘電率膜が破れ、下地の低比誘電率膜が露出することがある。
また、誘電体フィルムが粒子分散型の複合膜である場合において、不可抗力によりフィラー粒子が表面及び/又は裏面に露出することがある。
【0038】
表面及び/又は裏面に露出している低比誘電率材料の割合が多くなるほど、誘電体フィルムの性能比が低下するおそれがある。高い性能比を得るためには、最表面における高比誘電率材料の面積率は、50%以上が好ましい。面積率は、好ましくは、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上である。
同様に、高い性能比を得るためには、裏面における高比誘電率材料の面積率は、50%以上が好ましい。面積率は、好ましくは、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上である。
【0039】
[2. 誘電体フィルムの具体例]
[2.1. 具体例1(積層膜)]
誘電体フィルムの第1の具体例は、前記高比誘電率材料からなる第k高比誘電率膜(1≦k≦n+1)と、前記低比誘電率材料からなる第k低比誘電率膜(1≦k≦n)とが交互に積層された積層膜からる。
【0040】
[2.1.1. 材料]
誘電体フィルムが積層膜からなる場合、積層膜を製造可能な限りにおいて、各層の材料は特に限定されない。すなわち、各層の材料には、有機材料、有機-無機ハイブリッド材料、あるいは、無機材料のいずれを用いても良い。
【0041】
高比誘電率材料として使用可能な材料としては、例えば、
(a)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、シアノエチルセルロースなどの有機材料、
(b)ポリシロキサンなどの有機-無機ハイブリッド材料、
(c)誘電体セラミックス、
などがある。
「誘電体セラミックス」とは、比誘電率εrが50以上である非金属無機材料をいう。誘電体セラミックスとしては、例えば、TiO2、BaTiO3などがある。
高比誘電率材料は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0042】
低比誘電率材料として使用可能な材料としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、シアノエチルセルロース、アクリル樹脂、若しくは、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などの有機材料、
(b)ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMA)などの有機-無機ハイブリッド材料、
(c)シリカ、アルミナなどの無機材料、
などがある。
低比誘電率材料は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0043】
[2.1.2. 厚さ]
誘電体フィルムが第k高比誘電率膜と第k低比誘電率膜との積層膜からなる場合、各膜の厚さは、目的に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。
【0044】
一般に、第k高比誘電率膜の厚さが薄くなりすぎると、健全な積層膜を得るのが困難となる。従って、第k高比誘電率膜の厚さは、それぞれ、1nm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、3nm以上、さらに好ましくは、5nm以上である。
一方、第k高比誘電率膜の厚さが厚くなりすぎると、容量密度が低下する。従って、第k高比誘電率膜の厚さは、それぞれ、1000nm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、900nm以下、さらに好ましくは、800nm以下である。
【0045】
同様に、第k低比誘電率膜の厚さが薄くなりすぎると、健全な積層膜を得るのが困難となる。従って、第k低比誘電率膜の厚さは、それぞれ、1nm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、3nm以上、さらに好ましくは、5nm以上である。
一方、第k低比誘電率膜の厚さが厚くなりすぎると、容量密度が低下する。従って、第k低比誘電率膜の厚さは、それぞれ、1000nm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、900nm以下、さらに好ましくは、800nm以下である。
【0046】
[2.1.3. n]
一般に、積層膜型の誘電体フィルムにおいて、低比誘電率膜の層数(n)(又は、薄膜の総積層数(2n+1))が多くなるほど、性能比が向上する。従って、nは、1以上が好ましい。
一方、nが大きくなりすぎると、誘電体フィルムの厚さが過度に厚くなり、容量密度が低下する。従って、nは、1250以下が好ましい。
【0047】
[2.2. 具体例2(粒子分散型の複合膜)]
誘電体フィルムの第2の具体例は、マトリックスと、マトリックス中に分散しているフィラー粒子とを備えた複合膜からなる。この場合、マトリックスは高比誘電率材料からなり、フィラー粒子は低比誘電率材料からなる。
【0048】
[2.2.1. 材料]
誘電体フィルムが粒子分散型の複合膜からなる場合、複合膜を製造可能な限りにおいて、マトリックス及びフィラー粒子の材料は特に限定されない。すなわち、これらの材料には、有機材料、有機-無機ハイブリッド材料、あるいは、無機材料のいずれを用いても良い。
【0049】
マトリックス(高比誘電率材料)として使用可能な材料としては、例えば、
(a)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、シアノエチルセルロースなどの有機材料、
(b)ポリシロキサンなどの有機-無機ハイブリッド材料、
などがある。
マトリックスは、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0050】
フィラー粒子(低比誘電率材料)として使用可能な材料としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、シアノエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などの有機材料、
(b)ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMA)などの有機-無機ハイブリッド材料、
(c)シリカ、アルミナなどの無機材料、
などがある。
フィラー粒子は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0051】
[2.2.2. フィラー粒子のアスペクト比]
フィラー粒子のアスペクト比は、性能比に影響を与える。一般に、フィラー粒子のアスペクト比が大きくなるほど、性能比が向上する。高い性能比を得るためには、アスペクト比は、1.8以上が好ましい。
【0052】
一方、アスペクト比が大きくなりすぎると、フィルムの可撓性が低下し、巻き取りが困難となる。また、フィラー粒子の僅かな傾きによってフィラー粒子同士が接触しやすくなる。従って、アスペクト比は、200以下が好ましい。アスペクト比比は、好ましくは、100以下、さらに好ましくは、20以下である。
【0053】
[2.3. 具体例3(コア-シェル粒子分散型の複合膜)]
誘電体フィルムの第3の具体例は、マトリックスと、マトリックス中に分散しているフィラー粒子とを備えた複合膜からなる。また、フィラー粒子は、コアと、コアの表面を被覆するシェルとを備えたコア-シェル粒子からなる。この場合、マトリックスは高比誘電率材料(A)からなり、シェルは低比誘電率材料からなり、コアは高比誘電率材料(B)からなる。マトリックスとコアは、同一の材料からなるものでも良く、あるいは、異なる材料からなるものでも良い。
【0054】
[2.3.1. 材料]
誘電体フィルムがコア-シェル粒子分散型の複合膜からなる場合、複合膜を製造可能な限りにおいて、マトリックス、コア、及びシェルの材料は特に限定されない。すなわち、これらの材料には、有機材料、有機-無機ハイブリッド材料、あるいは、無機材料のいずれを用いても良い。
【0055】
マトリックス(高比誘電率材料(A))として使用可能な材料としては、例えば、
(a)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、シアノエチルセルロースなどの有機材料、
(b)ポリシロキサンなどの有機-無機ハイブリッド材料、
などがある。
マトリックスは、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0056】
コア(高比誘電率材料(B))として使用可能な材料としては、例えば、誘電体セラミックスがある。
コアは、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0057】
シェル(低比誘電率材料)として使用可能な材料としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、シアノエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などの有機材料、
(b)ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMA)などの有機-無機ハイブリッド材料、、
(c)シリカ、アルミナなどの無機材料、
などがある。
シェルは、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0058】
[2.3.2. フィラー粒子のアスペクト比]
フィラー粒子のアスペクト比の詳細については、具体例2と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
[2.3.3. dshell/dfiller比]
誘電体フィルムがコア-シェル粒子分散型の複合膜である場合、誘電体フィルムは、次の式(5)の関係をさらに満たしているものが好ましい。
0.01≦dshell/dfiller<0.5 …(5)
但し、
dshellは、前記シェルの厚さ、
dfillerは、前記フィラー粒子の厚さ。
【0060】
dshell/dfiller比は、誘電体フィルムの特性に影響を与える。dshell/dfiller比が小さくなりすぎると、低比誘電率材料の体積率が小さくなり、絶縁破壊強度が上がらない。従って、dshell/dfiller比は、0.01以上が好ましい。dshell/dfiller比は、好ましくは、0.1以上である。
一方、dshell/dfiller比が大きくなりすぎると、εrが小さくなりすぎる。従って、dshell/dfiller比は、0.5未満が好ましい。dshell/dfiller比は、好ましくは、0.4以下である。
【0061】
[3. 誘電体フィルムの製造方法]
本発明に係る誘電体フィルムは、種々の方法により製造することができる。
例えば、積層膜からなる誘電体フィルムは、
(a)所定の厚さを有する高比誘電率膜及び低比誘電率膜を準備し、
(b)所定枚数の高比誘電率膜と低比誘電率膜とを交互に積層し、
(c)積層膜を延伸処理する
ことにより製造することができる。
【0062】
あるいは、粒子分散型の複合膜からなる誘電体フィルムは、
(a)所定の組成及びアスペクト比を有するフィラー粒子を作製し、
(b)所定の組成となるようにマトリックスの原料及びフィラー粒子を分散媒中に分散させてスラリーとし、
(c)スラリーを基板表面にキャストし、塗膜を乾燥させる
ことにより製造することができる。
【0063】
[4. 作用]
ハイブリッド自動車や電気自動車に用いられるパワーコントロールユニット(PCU)に用いるフィルムコンデンサには、高性能化が求められている。コンデンサの性能の指標として、最大エネルギー密度Umaxがある。Umaxは、材料の比誘電率εrと絶縁破壊強度EBDSと相関がある。
【0064】
Umaxを向上させる方法の1つとして、高比誘電率のフィラーを低比誘電率のマトリックス中に配合し、複合誘電体とする方法が知られている。しかし、この複合誘電体は、マトリックス単体と比較して比誘電率εrは向上するものの、絶縁破壊電圧EBDSが大きく低下する。そのため、Umaxを向上させるのは困難である。
この種の複合誘電体において絶縁破壊電圧EBDSが低下する理由の1つとして、マトリックスとフィラーの比誘電率差による電圧分担の差が挙げられる。すなわち、電圧が印加された際、高比誘電率のフィラーと比較して、低比誘電率のマトリックスには高い電圧が印加される。そのため、フィラーよりも先にマトリックスが破壊される。
【0065】
これを回避する方法として、特許文献1、2には、高比誘電率層と低比誘電率層を交互に積層させた多層構造の誘電体が提案されている。同文献に記載の誘電体は、低誘電体層が端子間で短絡していないため、高い絶縁破壊電圧を有する。しかし、絶縁耐圧のより大きいコンデンサを得るためには、容量密度を低下させることなく、絶縁破壊強度をさらに向上させることが望まれる。
【0066】
これに対し、高比誘電率層と低比誘電率層との交互積層領域を含む誘電体フィルムにおいて、表面及び裏面の双方が高比誘電率層からなる構造(高比誘電率層終端構造)は、表面及び裏面のいずれか一方又は双方が低比誘電率層からなる構造(低比誘電率層終端構造)に比べて、絶縁破壊強度が向上する。
また、誘電体フィルムの比誘電率εrが所定の関係を満たすように、高比誘電率層の比誘電率、低比誘電率層の比誘電率、及び/又は、低比誘電率材料の体積率を最適化すると、相対的に高い容量密度が得られる。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
[1. 試験方法]
マトリックス中に、コア-シェル型のフィラー粒子が分散している複合膜からなる誘電体フィルムの絶縁破壊強度比、及び性能比を計算により求めた。
図1(A)に、フィラー分散構造の模式図を示す。
図1(B)に、フィラーの拡大図を示す。
ここで、ε
rは誘電体フィルムの比誘電率、ε
rHAはマトリックスを構成する高比誘電率材料(A)の比誘電率、ε
rLはシェルを構成する低比誘電率材料の比誘電率、ε
rHBはコアを構成する高比誘電率材料(B)の比誘電率、d
shellはシェルの厚さ、d
fillerはフィラー粒子の厚さである。
【0068】
「絶縁破壊強度比」とは、マトリックスを構成する高比誘電率材料(A)のみからなる誘電体フィルムの絶縁破壊強度に対する、交互積層領域を備えた誘電体フィルムの絶縁破壊強度の比をいう。
フィラー粒子の体積率(VL)は、27vol%一定とした。また、フィラー粒子には、コアの比誘電率εrHBが異なる2種類の材料を用いた。
【0069】
絶縁破壊の計算は、ガウスの法則と、次の式(7)を連成することにより求めた(参考文献1)。絶縁破壊電界(Ebd)よりも高い電界を持つところは、比誘電率が高くなる。その箇所では、電界強度が低くなる。絶縁破壊電界を超過した箇所では電界は無限大になるのではなく、Ebdを維持すると仮定した。
[参考文献1]K. Soga et al., Netsu Bussei 31(3)131-136(2017)
【0070】
【0071】
[2. 結果]
表1に、結果の一部を示す。また、
図2に、
図1に示すフィラー分散構造を備えた誘電体フィルムのε
r/ε
rHと性能比との関係を示す。なお、
図1中、ε
r/ε
rHが1を超える材料は、ε
rHがε
rLより小さいこと、すなわち、高比誘電率材料と低比誘電率材料の配置が逆転していることを表す。また、表1及び
図2中、「ε
r/ε
rH」は、「ε
r/ε
rHA」と同義である。表1及び
図2より、以下のことが分かる。
(1)ε
r/ε
rHA(ε
r/ε
rH)比が小さくなるほど、性能比が向上する。
(2)特に、ε
r/ε
rHA比が1未満になると、性能比は1を超える。
【0072】
【0073】
(実施例2)
[1. 試験方法]
誘電体フィルムには、
(a)高比誘電率膜と低比誘電率膜とが交互に積層している積層膜、及び、
(b)高比誘電率材料からなるマトリックス中に、低比誘電率材料からなるフィラー粒子(コア-シェル粒子でないもの)が分散している粒子分散型の複合膜
を用いた。
【0074】
これらの誘電体フィルムの絶縁破壊強度比、及び性能比を計算により求めた。計算方法は、実施例1と同一とした。
ここで、εrは誘電体フィルムの比誘電率、εrHは高比誘電率材料(膜)の比誘電率、εrLは低比誘電率材料(膜)の比誘電率である。低比誘電率膜の体積率(VL)は、10~70vol%とした。
【0075】
[2. 結果]
表2に、結果の一部を示す。また、
図3に、交互積層膜構造又はフィラー分散構造を備えた誘電体フィルムのε
rL/ε
rHと性能比との関係を示す。表2及び
図3より、以下のことが分かる。
(1)ε
r/ε
rH比、又は、ε
rL/ε
rH比が小さくなるほど、性能比が向上する。
(2)特に、ε
rL/ε
rH比が1未満になると、性能比は1を超える。
【0076】
【0077】
(実施例3)
[1. 試験方法]
高比誘電率膜と低比誘電率膜とが交互に積層している積層膜からなる誘電体フィルムの性能比を計算により求めた。計算方法は、実施例1と同一とした。
ここで、εrは誘電体フィルムの比誘電率、εrHは高比誘電率膜の比誘電率、εrLは低比誘電率膜の比誘電率である。
本実施例では、各膜の厚さを制御することにより、低比誘電率膜の体積率(VL)を5vol%~70vol%の範囲で、εr/εrHを0.2~1.3の範囲で、それぞれ、変化させた。低比誘電率膜の層数nは、1~10とした。さらに、εrL/εrH=0.9とした。
【0078】
[2. 結果]
[2.1.
図4]
図4に、交互積層膜構造又はフィラー分散構造を備えた誘電体フィルムのε
r/ε
rHと性能比との関係を示す。
図4より、以下のことが分かる。
(1)ε
r/ε
rH比が小さくなるほど、性能比が向上する。
(2)特に、ε
r/ε
rH比が1未満になると、性能比は1を超える。
【0079】
[2.2.
図5及び
図6]
図5に、交互積層膜構造を備えた誘電体フィルムの低比誘電率膜の層数(n)と性能比との関係を示す。
図6に、高比誘電率層終端構造又は低比誘電率終端構造を備えた誘電体フィルムのε
r/ε
rHと性能比との関係を示す。
図5及び
図6より、以下のことが分かる。
【0080】
(1)εrL/εrH=0.9の場合、低比誘電率層終端構造で高比誘電率層終端構造と同等の性能を持たせるためには、低比誘電率層終端構造のnを高比誘電率終端構造のそれより大きくする必要がある。
(2)高比誘電率終端構造において性能比を1超にするためには、nを4以上にする必要がある。一方、低比誘電率終端構造において性能比を1超にするためには、nを10以上にする必要がある。
(3)低比誘電率終端構造において、nが5である高比誘電率終端構造と同等の性能比を得るためには、nを25以上とする必要がある。
【0081】
[2.3.
図7]
図7に、高比誘電率層終端構造を備えた誘電体フィルム(総積層数=11層)、及び低比誘電率終端構造を備えた誘電体フィルム(総積層数=10層)の性能比の比較を示す。
図7より、以下のことが分かる。
(1)積層膜型の誘電体フィルムにおいて、総積層数がほぼ同等である場合、高比誘電率層終端構造は、低比誘電率層終端構造に比べて性能比が高い。
【0082】
[2.4.
図8]
図8に、粒子分散型の誘電体フィルムと交互積層膜型の誘電体フィルムの比誘電率比を示す。ここで、「比誘電率比」とは、低比誘電率層の体積率及び各層の比誘電率が同一である場合における、交互積層膜型の誘電体フィルムの比誘電率に対する粒子分散型の誘電体フィルムの比誘電率の比をいう。
図8より、以下のことが分かる。
(1)低比誘電率層の体積率及び各層の比誘電率が同一である場合、粒子分散型の誘電体フィルムの比誘電率は、交互積層型に比べて10%大きくなる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る誘電体フィルムは、ハイブリッド車やHV車のPCUに用いられるコンデンサの誘電体として使用することができる。