(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】位置検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/12 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
G01D5/12 N
(21)【出願番号】P 2019203573
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川原 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】守屋 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】大山 俊彦
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-2578(JP,A)
【文献】国際公開第2019/071284(WO,A1)
【文献】特開2012-37467(JP,A)
【文献】登録実用新案第3189365(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0050013(US,A1)
【文献】特開2014-199182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0059363(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁界を発生する磁気スケールと、前記外部磁界の一部である対象磁界とそれ以外のノイズ磁界とを検出する磁気センサとを備えた位置検出装置であって、
前記磁気スケールは、第1の基準方向に沿って前記磁気センサに対する相対位置が変化可能であると共に、前記第1の基準方向に沿って配置された複数の磁石を含み、
前記複数の磁石の各々は、前記第1の基準方向の寸法である所定の幅を有し、
前記複数の磁石のうち、前記第1の基準方向に平行な一方向である第1の方向の最も前側に位置する磁石は、その磁石における前記第1の方向の前側に位置する第1の端部を有し、
前記複数の磁石のうち、前記第1の方向とは反対の第2の方向の最も前側に位置する磁石は、その磁石における前記第2の方向の前側に位置する第2の端部を有し、
前記磁気センサは、各々が前記磁気スケールから離れた位置において前記対象磁界と前記ノイズ磁界との合成磁界を検出する複数の検出器を含み、
前記複数の検出器の各々は、nを前記複数の磁石の数とし、Mを前記第1の端部から前記第2の端部までの距離とし、Wを前記複数の磁石の各々の前記幅とすると共に前記Wを0よりも大きくM/n以下とし、AGを前記第1の基準方向に直交する第2の基準方向における前記複数の磁石の各々とその検出器との間隔とし、Nを0.4以上2以下の数としたときに、
AG=N(M-W)/(n-1)
を満足するように配置されていることを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
Nは、0.5以上2以下の数であることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記磁気スケールは、更に、前記複数の磁石を磁気的に接続する磁性材料よりなるヨークを含むことを特徴とする請求項1または2記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記複数の検出器は、前記第1の基準方向に沿って並ぶように配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記複数の検出器の各々は、前記合成磁界の第3の方向の成分を検出する少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、前記合成磁界の前記第3の方向とは異なる第4の方向の成分を検出する少なくとも1つの第2の磁気検出素子の、いずれかまたは両方を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項6】
前記複数の検出器の各々は、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路の、いずれかまたは両方を含み、
前記磁気センサは、更に、プロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記複数の検出器の前記第1の検出回路によって生成される複数の前記第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差と、前記複数の検出器の前記第2の検出回路によって生成される複数の前記第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差の、いずれかまたは両方を求める演算処理によって1つまたは2つの処理後信号を生成
することを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。
【請求項7】
前記複数の検出器の各々は、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子とを含み、且つ、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路とを含み、
前記磁気センサは、更に、プロセッサを含み、
前記プロセッサは、
前記複数の検出器の前記第1の検出回路によって生成される複数の前記第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第1の処理後信号を生成し、
前記複数の検出器の前記第2の検出回路によって生成される複数の前記第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第2の処理後信号を生成し、
前記第1の処理後信号と前記第2の処理後信号を用いて、前記相対位置と対応関係を有する検出値を生成することを特徴とする請求項5記載の位置検出装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1の磁気抵抗効果素子であり、
前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2の磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1のホール素子であり、
前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2のホール素子であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項10】
外部磁界を発生する磁気スケールと、前記外部磁界の一部である対象磁界とそれ以外のノイズ磁界とを検出する磁気センサとを備えた位置検出装置であって、
前記磁気スケールは、第1の基準方向に沿って前記磁気センサに対する相対位置が変化可能であると共に、前記第1の基準方向に直交する第2の基準方向に平行な一方向の磁化を有する磁石を含み、
前記磁石は、前記第1の基準方向において互いに反対側に位置する第1の端部と第2の端部を有し、
前記磁気センサは、各々が前記磁気スケールから離れた位置において前記対象磁界と前記ノイズ磁界との合成磁界を検出する複数の検出器を含み、
前記複数の検出器の各々は、前記第1の端部から前記第2の端部までの距離をMとし、前記第2の基準方向における前記磁石とその検出器との間隔をAGとしたときに、
0.175M≦AG≦2M
を満足するように配置されていることを特徴とする位置検出装置。
【請求項11】
前記複数の検出器は、前記第1の基準方向に沿って並ぶように配置されていることを特徴とする請求項10記載の位置検出装置。
【請求項12】
前記複数の検出器の各々は、前記合成磁界の第3の方向の成分を検出する少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、前記合成磁界の前記第3の方向とは異なる第4の方向の成分を検出する少なくとも1つの第2の磁気検出素子の、いずれかまたは両方を含むことを特徴とする請求項10または11記載の位置検出装置。
【請求項13】
前記複数の検出器の各々は、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路の、いずれかまたは両方を含み、
前記磁気センサは、更に、プロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記複数の検出器の前記第1の検出回路によって生成される複数の前記第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差と、前記複数の検出器の前記第2の検出回路によって生成される複数の前記第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差の、いずれかまたは両方を求める演算処理によって1つまたは2つの処理後信号を生成
することを特徴とする請求項12記載の位置検出装置。
【請求項14】
前記複数の検出器の各々は、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子とを含み、且つ、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路とを含み、
前記磁気センサは、更に、プロセッサを含み、
前記プロセッサは、
前記複数の検出器の前記第1の検出回路によって生成される複数の前記第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第1の処理後信号を生成し、
前記複数の検出器の前記第2の検出回路によって生成される複数の前記第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第2の処理後信号を生成し、
前記第1の処理後信号と前記第2の処理後信号を用いて、前記相対位置と対応関係を有する検出値を生成することを特徴とする請求項12記載の位置検出装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1の磁気抵抗効果素子であり、
前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2の磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項12ないし14のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項16】
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1のホール素子であり、
前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2のホール素子であることを特徴とする請求項12ないし14のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項17】
外部磁界を発生する磁気スケールと、前記外部磁界の一部である対象磁界とそれ以外のノイズ磁界とを検出する磁気センサとを備えた位置検出装置であって、
前記磁気スケールは、第1の基準方向に沿って前記磁気センサに対する相対位置が変化可能であると共に、前記第1の基準方向に平行な一方向の磁化を有する磁石を含み、
前記磁石は、前記第1の基準方向において互いに反対側に位置する第1の端部と第2の端部を有し、
前記磁気センサは、各々が前記磁気スケールから離れた位置において前記対象磁界と前記ノイズ磁界との合成磁界を検出する複数の検出器を含み、
前記複数の検出器の各々は、前記第1の端部から前記第2の端部までの距離をMとし、前記第1の基準方向に直交する第2の基準方向における前記磁石とその検出器との間隔をAGとしたときに、
0.425M≦AG≦2M
を満足するように配置されていることを特徴とする位置検出装置。
【請求項18】
前記複数の検出器は、前記第1の基準方向に沿って並ぶように配置されていることを特徴とする請求項17記載の位置検出装置。
【請求項19】
前記複数の検出器の各々は、前記合成磁界の第3の方向の成分を検出する少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、前記合成磁界の前記第3の方向とは異なる第4の方向の成分を検出する少なくとも1つの第2の磁気検出素子の、いずれかまたは両方を含むことを特徴とする請求項17または18記載の位置検出装置。
【請求項20】
前記複数の検出器の各々は、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路の、いずれかまたは両方を含み、
前記磁気センサは、更に、プロセッサを含み、
前記プロセッサは、前記複数の検出器の前記第1の検出回路によって生成される複数の前記第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差と、前記複数の検出器の前記第2の検出回路によって生成される複数の前記第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差の、いずれかまたは両方を求める演算処理によって1つまたは2つの処理後信号を生成
することを特徴とする請求項19記載の位置検出装置。
【請求項21】
前記複数の検出器の各々は、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子とを含み、且つ、前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み前記合成磁界の前記第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路とを含み、
前記磁気センサは、更に、プロセッサを含み、
前記プロセッサは、
前記複数の検出器の前記第1の検出回路によって生成される複数の前記第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第1の処理後信号を生成し、
前記複数の検出器の前記第2の検出回路によって生成される複数の前記第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第2の処理後信号を生成し、
前記第1の処理後信号と前記第2の処理後信号を用いて、前記相対位置と対応関係を有する検出値を生成することを特徴とする請求項19記載の位置検出装置。
【請求項22】
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1の磁気抵抗効果素子であり、
前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2の磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項19ないし21のいずれかに記載の位置検出装置。
【請求項23】
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1のホール素子であり、
前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2のホール素子であることを特徴とする請求項19ないし21のいずれかに記載の位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気スケールと磁気センサを備えた磁気式の位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気スケールと磁気センサを備えた磁気式の位置検出装置は、例えば、直線的な方向に位置が変化する可動物体の位置を検出するために用いられている。可動物体の位置を検出するために用いられる位置検出装置は、可動物体の位置の変化に対応して、所定の範囲内で、磁気センサに対する磁気スケールの相対位置が変化するように構成されている。
【0003】
磁気スケールは、例えば、直線的な方向に沿って配列された複数の磁石を含んでいる。磁気センサに対する磁気スケールの相対位置が変化すると、磁気スケールによって発生されて磁気センサに印加される対象磁界の方向が回転する。磁気センサは、例えば、対象磁界の互いに異なる2つの方向の成分を検出して、この2つの方向の成分の強度に対応する2つの検出信号を生成する。そして、磁気センサは、2つの検出信号に基づいて、磁気センサに対する磁気スケールの相対位置と対応関係を有する検出値を生成する。
【0004】
磁気式の位置検出装置では、磁気センサに、対象磁界の他に、対象磁界以外のノイズ磁界が印加される場合がある。ノイズ磁界としては、例えば地磁気やモーターからの漏れ磁界がある。このように磁気センサにノイズ磁界が印加される場合には、磁気センサは、対象磁界とノイズ磁界との合成磁界を検出することになる。そのため、対象磁界の方向とノイズ磁界の方向が異なるときには、検出値に誤差が生じる。
【0005】
特許文献1には、検出磁石の回転軸上に並べて配置された2つのホール素子と、2つのホール素子からの検出信号を差動出力する差動出力回路とを備えた磁気検出装置が記載されている。この磁気検出装置では、2つのホール電圧の差動をとることによって、外乱磁界に起因するオフセット電圧をキャンセルして、外乱磁界が印加されていない場合と略等しい出力波形の電圧を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記の磁気スケールを備えた位置検出装置では、ノイズ磁界に起因する検出値の誤差を低減するために、対象磁界を検出する複数の検出器を、磁気スケールの移動方向に沿って配置する構成が考えられる。この構成では、例えば、第1の位置に第1の検出器を配置し、第2の位置に第2の検出器を配置する。第1の検出器は、第1の位置における対象磁界の第1の方向の成分の強度と対応関係を有する第1の検出信号と、第1の位置における対象磁界の第2の方向の成分の強度と対応関係を有する第2の検出信号を生成する。第2の検出器は、第2の位置における対象磁界の第1の方向の成分の強度と対応関係を有する第3の検出信号と、第2の位置における対象磁界の第2の方向の成分の強度と対応関係を有する第4の検出信号とを生成する。
【0008】
上記の構成では、磁気センサは、第1の検出信号と第3の検出信号の差を求める演算処理と、第2の検出信号と第4の検出信号の差を求める演算処理を行って、2つの処理後信号を生成する。そして、磁気センサは、この2つの処理後信号に基づいて、磁気センサに対する磁気スケールの相対位置と対応関係を有する検出値を生成する。
【0009】
特許文献1に記載された磁気検出装置のように、2つの検出信号の差を求めることによって、ノイズ磁界に起因する検出値の誤差が低減され、その結果、検出値が理想値に近づくことが期待される。しかし、実際には、2つの処理後信号を用いて検出値を生成しても、検出値が理想値と大きく異なる値になってしまい、検出値の誤差を十分に低減することができない場合があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、対象磁界を検出する複数の検出器を含む位置検出装置において、ノイズ磁界に起因する誤差を低減しながら、検出値の誤差を十分に低減できるようにした位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点の位置検出装置は、外部磁界を発生する磁気スケールと、外部磁界の一部である対象磁界とそれ以外のノイズ磁界とを検出する磁気センサとを備えたものである。磁気スケールは、第1の基準方向に沿って磁気センサに対する相対位置が変化可能であると共に、第1の基準方向に沿って配置された複数の磁石を含んでいる。複数の磁石の各々は、第1の基準方向の寸法である所定の幅を有している。複数の磁石のうち、第1の基準方向に平行な一方向である第1の方向の最も前側に位置する磁石は、その磁石における第1の方向の前側に位置する第1の端部を有している。複数の磁石のうち、第1の方向とは反対の第2の方向の最も前側に位置する磁石は、その磁石における第2の方向の前側に位置する第2の端部を有している。磁気センサは、各々が磁気スケールから離れた位置において対象磁界とノイズ磁界との合成磁界を検出する複数の検出器を含んでいる。
【0012】
本発明の第1の観点の位置検出装置では、複数の検出器の各々は、nを複数の磁石の数とし、Mを第1の端部から第2の端部までの距離とし、Wを複数の磁石の各々の幅とすると共にWを0よりも大きくM/n以下とし、AGを第1の基準方向に直交する第2の基準方向における複数の磁石の各々とその検出器との間隔とし、Nを0.4以上2以下の数としたときに、
AG=N(M-W)/(n-1)
を満足するように配置されている。
【0013】
本発明の第1の観点の位置検出装置において、Nは、0.5以上2以下の数であってもよい。
【0014】
また、本発明の第1の観点の位置検出装置において、磁気スケールは、更に、複数の磁石を磁気的に接続する磁性材料よりなるヨークを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点の位置検出装置は、外部磁界を発生する磁気スケールと、外部磁界の一部である対象磁界とそれ以外のノイズ磁界とを検出する磁気センサとを備えたものである。磁気スケールは、第1の基準方向に沿って磁気センサに対する相対位置が変化可能であると共に、第1の基準方向に直交する第2の基準方向に平行な一方向の磁化を有する磁石を含んでいる。磁石は、第1の基準方向において互いに反対側に位置する第1の端部と第2の端部を有している。磁気センサは、各々が磁気スケールから離れた位置において対象磁界とノイズ磁界との合成磁界を検出する複数の検出器を含んでいる。
【0016】
本発明の第2の観点の位置検出装置では、複数の検出器の各々は、第1の端部から第2の端部までの距離をMとし、第2の基準方向における磁石とその検出器との間隔をAGとしたときに、
0.175M≦AG≦2M
を満足するように配置されている。
【0017】
本発明の第3の観点の位置検出装置は、外部磁界を発生する磁気スケールと、外部磁界の一部である対象磁界とそれ以外のノイズ磁界とを検出する磁気センサとを備えたものである。磁気スケールは、第1の基準方向に沿って磁気センサに対する相対位置が変化可能であると共に、第1の基準方向に平行な一方向の磁化を有する磁石を含み、磁石は、第1の基準方向において互いに反対側に位置する第1の端部と第2の端部を有している。磁気センサは、各々が磁気スケールから離れた位置において対象磁界とノイズ磁界との合成磁界を検出する複数の検出器を含んでいる。
【0018】
本発明の第3の観点の位置検出装置では、複数の検出器の各々は、第1の端部から第2の端部までの距離をMとし、第1の基準方向に直交する第2の基準方向における磁石とその検出器との間隔をAGとしたときに、
0.425M≦AG≦2M
を満足するように配置されている。
【0019】
本発明の第1ないし第3の観点の位置検出装置において、複数の検出器は、第1の基準方向に沿って並ぶように配置されていてもよい。
【0020】
また、本発明の第1ないし第3の観点の位置検出装置において、複数の検出器の各々は、合成磁界の第3の方向の成分を検出する少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、合成磁界の第3の方向とは異なる第4の方向の成分を検出する少なくとも1つの第2の磁気検出素子の、いずれかまたは両方を含んでいてもよい。また、磁気センサは、更に、プロセッサを含んでいてもよい。
【0021】
複数の検出器の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み合成磁界の第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み合成磁界の第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路の、いずれかまたは両方を含んでいてもよい。プロセッサは、複数の検出器の第1の検出回路によって生成される複数の第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差と、複数の検出器の第2の検出回路によって生成される複数の第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差の、いずれかまたは両方を求める演算処理によって1つまたは2つの処理後信号を生成し、1つまたは2つの処理後信号を用いて、相対位置と対応関係を有する検出値を生成してもよい。
【0022】
あるいは、複数の検出器の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、少なくとも1つの第2の磁気検出素子とを含み、且つ、少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含み合成磁界の第3の方向の成分の強度を表す第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含み合成磁界の第4の方向の成分の強度を表す第2の検出信号を生成する第2の検出回路とを含んでいてもよい。プロセッサは、複数の検出器の第1の検出回路によって生成される複数の第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第1の処理後信号を生成し、複数の検出器の第2の検出回路によって生成される複数の第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差を求めることを含む演算処理によって第2の処理後信号を生成し、第1の処理後信号と第2の処理後信号を用いて、相対位置と対応関係を有する検出値を生成してもよい。
【0023】
また、本発明の第1ないし第3の観点の位置検出装置において、少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1の磁気抵抗効果素子であり、少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2の磁気抵抗効果素子であってもよい。あるいは、少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、少なくとも1つの第1のホール素子であり、少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、少なくとも1つの第2のホール素子であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1ないし第3の観点の位置検出装置は、対象磁界を検出する複数の検出器を含んでいる。本発明では、複数の検出器の各々は、少なくともAGとMによって規定された要件を満足するように配置されている。これにより、本発明によれば、ノイズ磁界に起因する誤差を低減しながら、検出値の誤差を十分に低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成を示す正面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態における磁気センサの構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態における磁気センサの第1の例における第1の検出回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態における磁気センサの第1の例における第2の検出回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図6】
図4および
図5における1つの磁気抵抗効果素子の一部を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態における磁気センサの第2の例における第1の検出器の要部を示す斜視図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態における磁気センサの第2の例における第1の検出回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態における磁気センサの第2の例における第2の検出回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態における第1および第2の検出器が検出する対象磁界を示す説明図である。
【
図11】第1および第2のシミュレーションにおける位置検出装置のモデルを示す説明図である。
【
図12】第1のシミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図13】第2のシミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図15】第3のシミュレーションの比較例のモデルにおける磁束密度を示す特性図である。
【
図16】第3のシミュレーションの比較例のモデルにおける検出値の誤差を示す特性図である。
【
図17】第3のシミュレーションの第1の実施例のモデルにおける磁束密度を示す特性図である。
【
図18】第3のシミュレーションの第1の実施例のモデルにおける差動磁束密度を示す特性図である。
【
図19】第3のシミュレーションの第1の実施例のモデルにおける検出値の誤差を示す特性図である。
【
図20】第3のシミュレーションの第2の実施例のモデルにおける磁束密度を示す特性図である。
【
図21】第3のシミュレーションの第2の実施例のモデルにおける差動磁束密度を示す特性図である。
【
図22】第3のシミュレーションの第2の実施例のモデルにおける検出値の誤差を示す特性図である。
【
図23】本発明の第2の実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成を示す斜視図である。
【
図24】第4および第5のシミュレーションにおける位置検出装置のモデルを示す説明図である。
【
図25】第4のシミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図26】第5のシミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図28】本発明の第3の実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成を示す斜視図である。
【
図29】第6のシミュレーションにおける位置検出装置のモデルを示す説明図である。
【
図30】第6のシミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図32】第7のシミュレーションにおける位置検出装置のモデルを示す説明図である。
【
図33】第7のシミュレーションの結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、
図1および
図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成について説明する。本実施の形態に係る位置検出装置1は、磁気スケール2と、磁気センサ3とを備えている。磁気スケール2は、強度および方向が空間的な分布を有する外部磁界MFを発生する。本実施の形態では、外部磁界MFの一部であって、磁気センサ3が検出すべき磁界を、対象磁界と言う。磁気センサ3は、対象磁界と、対象磁界以外のノイズ磁界Mexとを検出する。
【0027】
磁気スケール2は、第1の基準方向X1に沿った所定の範囲内において、磁気センサ3に対する相対位置が変化可能である。第1の基準方向X1は、直線的な方向である。また、磁気スケール2は、リニアスケールであり、第1の基準方向X1に沿って配置された複数の磁石を含んでいる。本実施の形態では特に、磁気スケール2は、複数の磁石として、同じ形状の3つの磁石4,5,6を含んでいる。外部磁界MFは、3つの磁石4,5,6の各々が発生する磁界が合成されたものである。
【0028】
磁石4,5,6は、一方向にこの順に配置されている。磁石4,5,6は、互いに間隔を開けて配置されている。磁石4と磁石5の間隔と、磁石5と磁石6の間隔は、互いに等しい。また、磁石4,5,6の各々は、第1の基準方向X1の寸法である所定の幅Wを有している。磁石4の幅Wと磁石5の幅Wと磁石6の幅Wは、互いに等しい。
【0029】
磁気スケール2は、更に、NiFe等の磁性材料よりなるヨーク7を含んでいる。ヨーク7は、磁石4,5,6を磁気的に接続すると共に、磁石4,5,6を支持する基板として用いられる。ヨーク7は、一方向に長い板状である。また、ヨーク7は、上面7aと下面7bを有している。磁石4,5,6は、ヨーク7の上面7aの上に配置されている。磁気センサ3は、ヨーク7の上面7aに対向するように配置されている。
【0030】
磁気スケール2は、更に、樹脂等の非磁性材料よりなり、磁石4,5,6とヨーク7の一部を覆う保護部8を含んでいる。なお、
図2では、保護部8を省略している。
【0031】
ここで、
図1および
図2に示したように、X方向、Y方向およびZ方向を定義する。本実施の形態では、第1の基準方向X1に平行な一方向をX方向とする。また、X方向に垂直な2方向であって、互いに直交する2つの方向をY方向とZ方向とする。
図2では、Y方向を
図2における手前から奥に向かう方向として表している。また、X方向とは反対の方向を-X方向とし、Y方向とは反対の方向を-Y方向とし、Z方向とは反対の方向を-Z方向とする。-X方向は、本発明における第1の方向に対応する。X方向は、本発明における第2の方向に対応する。
【0032】
3つの磁石4,5,6は、X方向にこの順に配置されている。磁石4は、磁石4,5,6のうち、-X方向の最も前側に位置する。磁石6は、磁石4,5,6のうち、X方向の最も前側に位置する。
【0033】
磁石4は、ヨーク7の上面7aから最も遠い上面4aを有している。磁石5は、ヨーク7の上面7aから最も遠い上面5aを有している。磁石6は、ヨーク7の上面7aから最も遠い上面6aを有している。
【0034】
磁石4は、更に、磁石4における-X方向の前側に位置する第1の端部4bを有している。第1の端部4bは、第1の基準方向X1において互いに反対側に位置する磁石4の2つの端部のうちの1つであって、磁石6に対してより遠い位置にある端部である。また、磁石6は、更に、磁石6におけるX方向の前側に位置する第2の端部6bを有している。第2の端部6bは、第1の基準方向X1において互いに反対側に位置する磁石6の2つの端部のうちの1つであって、磁石4に対してより遠い位置にある端部である。
【0035】
また、3つの磁石4,5,6の各々は、N極とS極を有している。磁石4,6では、N極とS極は、-Z方向にこの順に配置されている。磁石5では、N極とS極は、Z方向にこの順に配置されている。
【0036】
ヨーク7は、上面7aに垂直で下面7bから上面7aに向かう方向がZ方向に一致するような姿勢で配置されている。ヨーク7は、磁石4のS極側の端面と、磁石5のN極側の端面と、磁石6のS極側の端面を磁気的に接続している。ヨーク7は、磁石5のN極側の端面より発生された磁束が、磁石4のS極側の端面および磁石6のS極側の端面に効率的に流入するように、磁束の流れを制御する機能を有している。
【0037】
前述のように、磁気スケール2は、第1の基準方向X1に沿った所定の範囲内において、磁気センサ3に対する相対位置が変化可能である。以下、磁気センサ3に対する磁気スケール2の相対位置を、単に、相対位置と言う。本実施の形態では、磁気スケール2と磁気センサ3の一方は、図示しない可動物体に連動して、X方向または-X方向に直線的に移動する。これにより、相対位置がX方向または-X方向に変化する。任意の位置における対象磁界の方向は、相対位置の変化に伴って任意の位置を中心として回転する。
【0038】
位置検出装置1は、相対位置を検出するための装置である。磁気センサ3は、相対位置と対応関係を有する検出値を生成する。本実施の形態では特に、磁気センサ3は、検出値として、基準平面内において所定の基準位置における対象磁界の方向が所定の方向に対してなす基準角度と対応関係を有する値θsを生成する。以下、検出値を、検出値θsとも記す。検出値θsは、相対位置と対応関係を有する。
【0039】
本実施の形態では、検出値θsの範囲を、相対位置を一意に特定可能な範囲としてもよい。このような検出値θsの範囲は、複数の相対位置において検出値θsが同じ値になることがない範囲である。これは、例えば、0°~360°よりも狭い範囲である。検出値θsの範囲を0°~360°よりも狭い範囲にするには、相対位置が変化可能な所定の範囲(以下、可動範囲と言う。)を、検出値θsの0°~360°に対応する範囲とするが、実際に磁気センサ3が生成する検出値θsの範囲を0°~360°よりも狭い範囲に制限して、その制限された検出値θsの範囲に対応する相対位置の範囲のみを、検出可能な相対位置の範囲としてもよい。あるいは、可動範囲を、検出値θsが0°~360°となる範囲よりも狭い範囲としてもよい。これらのことにより、検出値θsによって、相対位置を一意に特定することができる。
【0040】
ここで、第1の基準方向X1に直交する方向のうち、Z方向および-Z方向に平行な方向を第2の基準方向Z1とする。磁気センサ3は、各々が磁気スケール2から離れた位置において対象磁界とノイズ磁界Mexとの合成磁界を検出する複数の検出器を含んでいる。本実施の形態では、複数の検出器の各々は、磁気スケール2に対して第2の基準方向Z1に離れた位置に配置されている。また、複数の検出器の各々は、合成磁界の第3の方向D3の成分を検出する少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、合成磁界の第3の方向D3とは異なる第4の方向D4の成分を検出する少なくとも1つの第2の磁気検出素子の、いずれかまたは両方を含んでいる。本実施の形態では、複数の検出器の各々は、両方の磁気検出素子を含んでいる。すなわち、複数の検出器の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、少なくとも1つの第2の磁気検出素子とを含んでいる。第3の方向D3と第4の方向D4は、直交していてもよいし、直交していなくてもよい。本実施の形態では、X方向を第3の方向D3とし、Z方向を第4の方向D4とする。
【0041】
本実施の形態では、磁気センサ3は、複数の検出器として、第1の検出器10および第2の検出器20を含んでいる。第1および第2の検出器10,20は、Y方向から見て、第1の基準方向X1に沿って並ぶように配置されている。第1および第2の検出器10,20の各々のY方向の位置は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。本実施の形態では、第1および第2の検出器10,20は、磁気スケール2と交差し且つXZ平面に平行な同一平面上に位置する。また、第1および第2の検出器10,20は、同一の筐体内に設けられていてもよいし、別々の筐体内に設けられていてもよい。
【0042】
第1の検出器10は、第1の検出位置P1における対象磁界とノイズ磁界Mexとの合成磁界である第1の合成磁界MF1を検出する。第2の検出器20は、第2の検出位置P2における対象磁界とノイズ磁界Mexとの合成磁界である第2の合成磁界MF2を検出する。本実施の形態では、第1の検出器10は、第1の検出位置P1に配置されているものとする。同様に、第2の検出器20は、第2の検出位置P2に配置されているものとする。
【0043】
以下、第1の検出器10が検出する対象磁界、すなわち第1の検出位置P1における対象磁界を第1の部分磁界と言い、符号MFaで表す。また、第2の検出器20が検出する対象磁界、すなわち第2の検出位置P2における対象磁界を第2の部分磁界と言い、符号MFbで表す。第1および第2の部分磁界MFa,MFbは、後で説明する
図10に示されている。第1の合成磁界MF1は、第1の部分磁界MFaとノイズ磁界Mexとの合成磁界である。第2の合成磁界MF2は、第2の部分磁界MFbとノイズ磁界Mexとの合成磁界である。
【0044】
第2の検出位置P2におけるノイズ磁界Mexの方向および強度は、それぞれ第1の検出位置P1におけるノイズ磁界Mexの方向および強度と等しい。ノイズ磁界Mexは、その方向と強度が時間的に一定の磁界であってもよいし、その方向と強度が時間的に周期的に変化する磁界であってもよいし、その方向と強度が時間的にランダムに変化する磁界であってもよい。
【0045】
次に、
図3を参照して、磁気センサ3の構成について詳しく説明する。
図3は、磁気センサ3の構成を示すブロック図である。前述の通り、磁気センサ3は、第1および第2の検出器10,20を含んでいる。第1および第2の検出器10,20の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含む第1の検出回路と、少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含む第2の検出回路とを含んでいる。第1の検出回路は、合成磁界の第3の方向D3(X方向)の成分の強度と対応関係を有する第1の検出信号を生成する。第2の検出回路は、合成磁界の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度と対応関係を有する第2の検出信号を生成する。以下、第1の検出器10の第1の検出回路を符号11で表し、第1の検出器10の第2の検出回路を符号12で表す。また、第2の検出器20の第1の検出回路を符号21で表し、第2の検出器20の第2の検出回路を符号22で表す。
【0046】
第1の検出器10の第1の検出回路11は、第1の合成磁界MF1の第3の方向D3の強度を表す第1の検出信号S11を生成する。第1の検出器10の第2の検出回路12は、第1の合成磁界MF1の第4の方向D4の強度を表す第2の検出信号S12を生成する。第1の合成磁界MF1の主成分は第1の部分磁界MFaである。従って、第1の検出信号S11は、第1の部分磁界MFaの第3の方向D3の成分の強度と対応関係を有し、第2の検出信号S12は、第1の部分磁界MFaの第4の方向D4の成分の強度と対応関係を有している。
【0047】
第2の検出器20の第1の検出回路21は、第2の合成磁界MF2の第3の方向D3の強度を表す第1の検出信号S21を生成する。第2の検出器20の第2の検出回路22は、第2の合成磁界MF2の第4の方向D4の強度を表す第2の検出信号S22を生成する。第2の合成磁界MF2の主成分は第2の部分磁界MFbである。従って、第1の検出信号S21は、第2の部分磁界MFbの第3の方向D3の成分の強度と対応関係を有し、第2の検出信号S22は、第2の部分磁界MFbの第4の方向D4の成分の強度と対応関係を有している。
【0048】
磁気センサ3は、更に、プロセッサ30を含んでいる。プロセッサ30は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。第1および第2の検出器10,20が同じ筐体内に設けられている場合、プロセッサ30は、その全体が、第1および第2の検出器10,20と同じ筐体内に設けられていてもよいし、その少なくとも一部が、第1および第2の検出器10,20を含む筐体とは物理的に離れた位置に設けられていてもよい。第1の検出器10が第1の筐体内に設けられ、第2の検出器20が第1の筐体とは異なる第2の筐体内に設けられている場合、プロセッサ30は、その少なくとも一部が、第1の筐体と第2の筐体のいずれかまたは両方に設けられていてもよいし、その少なくとも一部が、第1および第2の筐体とは物理的に離れた位置に設けられていてもよい。
【0049】
プロセッサ30は、アナログ-デジタル変換器(以下、A/D変換器と記す。)31,32,33,34を含んでいる。A/D変換器31は、第1の検出信号S11をデジタル信号に変換する。A/D変換器32は、第2の検出信号S12をデジタル信号に変換する。A/D変換器33は、第1の検出信号S21をデジタル信号に変換する。A/D変換器34は、第2の検出信号S22をデジタル信号に変換する。
【0050】
磁気センサ3は、更に、第1の処理部35と、第2の処理部36と、第3の処理部37とを含んでいる。第1ないし第3の処理部35~37は、機能ブロックであってもよいし、物理的に別個の回路であってもよい。
【0051】
第1の処理部35は、2つの第1の検出回路11,21によって生成される2つの第1の検出信号S11,S21の差を求めることを含む演算処理によって、第1の処理後信号Saを生成する。本実施の形態では特に、第1の処理部35は、A/D変換器31によってデジタル信号に変換された第1の検出信号S11と、A/D変換器33によってデジタル信号に変換された第1の検出信号S21との差S21-S11の差に対応する第1の処理後信号Saを生成する。第1の処理後信号Saは、差S21-S11そのものであってもよいし、差S21-S11にゲイン調整およびオフセット調整等の所定の補正を加えたものであってもよい。
【0052】
第2の処理部36は、2つの第2の検出回路12,22によって生成される2つの第2の検出信号S12,S22の差を求めることを含む演算処理によって、第2の処理後信号Sbを生成する。本実施の形態では特に、第2の処理部36は、A/D変換器32によってデジタル信号に変換された第2の検出信号S12と、A/D変換器34によってデジタル信号に変換された第2の検出信号S22との差S22-S12に対応する第2の処理後信号Sbを生成する。第2の処理後信号Sbは、差S22-S12そのものであってもよいし、差S22-S12に対してゲイン調整およびオフセット調整等の所定の補正を加えたものであってもよい。
【0053】
第3の処理部37は、第1および第2の処理後信号Sa,Sbを用いて、検出値θsを生成する。具体的には、第3の処理部37は、例えば、SaとSbの比のアークタンジェントを計算することによって、θsを算出する。第3の処理部37は、SaとSbの比のアークタンジェントを計算することによって得られた角度(以下、角度推定値と言う。)そのものを検出値θsとしてもよい。あるいは、第3の処理部37は、角度推定値に対して位相の調整等の所定の補正を加えたものを検出値θsとしてもよい。
【0054】
ここで、第1の合成磁界MF1の方向と強度を表す第1のベクトルV1と、第2の合成磁界MF2の方向と強度を表す第2のベクトルV2を考える。また、大きさが第1のベクトルV1と同じであり方向が第1のベクトルV1とは反対のベクトル-V1と、第2のベクトルV2との合成ベクトルV2-V1を考える。第1の処理後信号Saが、差S21-S11そのものであるとすると、第1の処理後信号Saは、合成ベクトルV2-V1の第3の方向D3(X方向)の成分の大きさと対応関係を有している。また、第2の処理後信号Sbが、差S22-S12そのものであるとすると、第2の処理後信号Sbは、合成ベクトルV2-V1の第4の方向D4(Z方向)の成分の大きさと対応関係を有している。角度推定値は、SaとSbの比のアークタンジェントを計算することによって得られることから、角度推定値は、合成ベクトルV2-V1の方向と対応関係を有している。また、ベクトルV1,V2,V2-V1の方向と、前記の基準角度は、相対位置の変化に伴って変化する。従って、角度推定値は、基準角度と対応関係を有すると共に、相対位置と対応関係を有している。以上のことから、検出値θsは、基準角度と対応関係を有すると共に、相対位置と対応関係を有している。
【0055】
次に、磁気センサ3の第1ないし第3の例について説明する。始めに、磁気センサ3の第1の例について説明する。第1の例では、第1および第2の検出器10,20の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子として少なくとも1つの第1の磁気抵抗効果素子を含み、少なくとも1つの第2の磁気検出素子として少なくとも1つの第2の磁気抵抗効果素子を含んでいる。以下、磁気抵抗効果素子をMR素子と記す。
【0056】
図4は、第1の例における第1の検出器10の第1の検出回路11の具体的な構成の一例を示している。この例では、第1の検出器10の第1の検出回路11は、2つの第1のMR素子R11,R12と、電源ポートV11と、グランドポートG11と、出力ポートE11とを含んでいる。第1のMR素子R11の一端は、電源ポートV11に接続されている。第1のMR素子R11の他端は、第1のMR素子R12の一端と出力ポートE11に接続されている。第1のMR素子R12の他端は、グランドポートG11に接続されている。電源ポートV11には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG11はグランドに接続される。出力ポートE11は、第1のMR素子R11,R12の接続点の電位に対応する信号を出力する。
【0057】
第1の例では、第2の検出器20の第1の検出回路21の構成は、第1の検出器10の第1の検出回路11の構成と同じである。そのため、以下の説明では、第1の検出回路21の構成要素について、第1の検出回路11の構成要素と同じ符号を用いる。
【0058】
図5は、第1の例における第1の検出器10の第2の検出回路12の具体的な構成の一例を示している。この例では、第1の検出器10の第2の検出回路12は、2つの第2のMR素子R21,R22と、電源ポートV12と、グランドポートG12と、出力ポートE12とを含んでいる。第2のMR素子R21の一端は、電源ポートV12に接続されている。第2のMR素子R21の他端は、第2のMR素子R22の一端と出力ポートE12に接続されている。第2のMR素子R22の他端は、グランドポートG12に接続されている。電源ポートV12には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG12はグランドに接続される。出力ポートE12は、第2のMR素子R21,R22の接続点の電位に対応する信号を出力する。
【0059】
第1の例では、第2の検出器20の第2の検出回路22の構成は、第1の検出器10の第2の検出回路12の構成と同じである。そのため、以下の説明では、第2の検出回路22の構成要素について、第2の検出回路12の構成要素と同じ符号を用いる。
【0060】
MR素子は、例えばスピンバルブ型のMR素子である。スピンバルブ型のMR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、対象磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。スピンバルブ型のMR素子は、TMR素子でもよいし、GMR素子でもよい。TMR素子では、非磁性層はトンネルバリア層である。GMR素子では、非磁性層は非磁性導電層である。スピンバルブ型のMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。
図4および
図5においてMR素子R11,R12,R21,R22に描いた矢印は、それぞれ、それらに含まれる磁化固定層の磁化の方向を表している。
【0061】
第1の検出器10の第1の検出回路11では、第1のMR素子R11の磁化固定層の磁化の方向は第3の方向D3(X方向)であり、第1のMR素子R12の磁化固定層の磁化の方向は第3の方向D3とは反対方向である。この場合、第1の合成磁界MF1の第3の方向D3の成分の強度に応じて、第1のMR素子R11,R12の接続点の電位が変化する。従って、第1の検出回路11は、第1の合成磁界MF1の第3の方向D3の成分を検出して、その強度を表す信号を第1の検出信号S11として出力する。
【0062】
第1の検出器10の第2の検出回路12では、第2のMR素子R21の磁化固定層の磁化の方向は第4の方向D4(Z方向)であり、第2のMR素子R22の磁化固定層の磁化の方向は第4の方向D4とは反対の方向である。この場合、第1の合成磁界MF1の第4の方向D4の成分の強度に応じて、第2のMR素子R21,R22の接続点の電位が変化する。従って、第2の検出回路12は、第1の合成磁界MF1の第4の方向D4の成分を検出して、その強度を表す信号を第2の検出信号S12として出力する。
【0063】
第2の検出器20の第1の検出回路21では、第1のMR素子R11の磁化固定層の磁化の方向は第3の方向D3(X方向)であり、第1のMR素子R12の磁化固定層の磁化の方向は第3の方向D3とは反対の方向である。この場合、第2の合成磁界MF2の第3の方向D3の成分の強度に応じて、第1のMR素子R11,R12の接続点の電位が変化する。従って、第1の検出回路21は、第2の合成磁界MF2の第3の方向D3の成分を検出して、その強度を表す信号を第1の検出信号S21として出力する。
【0064】
第2の検出器20の第2の検出回路22では、第2のMR素子R21の磁化固定層の磁化の方向は第4の方向D4(Z方向)であり、第2のMR素子R22の磁化固定層の磁化の方向は第4の方向D4とは反対の方向である。この場合、第2の合成磁界MF2の第4の方向D4の成分の強度に応じて、第2のMR素子R21,R22の接続点の電位が変化する。従って、第2の検出回路22は、第2の合成磁界MF2の第4の方向D4の成分を検出して、その強度を表す信号を第2の検出信号S22として出力する。
【0065】
検出回路11,12,21,22内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
【0066】
なお、上述のように、検出信号S11,S12,S21,S22が対象磁界の一方向の成分の強度を表すようにするためには、MR素子の抵抗値が、第1および第2の合成磁界MF1,MF2の強度の範囲内では飽和しないことと、対象磁界の一方向の成分の強度の変化とMR素子の抵抗値の変化との関係が、線形性の関係を満足することが必要である。上記の要件を満たすために、MR素子R11,R12,R21,R22として、磁界の一方向の成分の強度を検出するタイプのMR素子を用いてもよい。このタイプのMR素子は、例えばMR素子の平面形状をほぼ矩形にすることによって、磁界の一方向の成分の強度の変化に対して、MR素子の自由層の磁化の方向が実質的に一定の速度で変化するように構成されている。
【0067】
ここで、
図6を参照して、MR素子の構成の一例について説明する。
図6は、
図4および
図5に示した第1および第2の検出回路11,12における1つのMR素子の一部を示す斜視図である。この例では、1つのMR素子は、複数の下部電極62と、複数のMR膜50と、複数の上部電極63とを有している。複数の下部電極62は図示しない基板上に配置されている。個々の下部電極62は細長い形状を有している。下部電極62の長手方向に隣接する2つの下部電極62の間には、間隙が形成されている。
図6に示したように、下部電極62の上面上において、長手方向の両端の近傍に、それぞれMR膜50が配置されている。MR膜50は、下部電極62側から順に積層された自由層51、非磁性層52、磁化固定層53および反強磁性層54を含んでいる。自由層51は、下部電極62に電気的に接続されている。反強磁性層54は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層53との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層53の磁化の方向を固定する。複数の上部電極63は、複数のMR膜50の上に配置されている。個々の上部電極63は細長い形状を有し、下部電極62の長手方向に隣接する2つの下部電極62上に配置されて隣接する2つのMR膜50の反強磁性層54同士を電気的に接続する。このような構成により、
図6に示したMR素子は、複数の下部電極62と複数の上部電極63とによって直列に接続された複数のMR膜50を有している。なお、MR膜50における層51~54の配置は、
図6に示した配置とは上下が反対でもよい。
【0068】
次に、磁気センサ3の第2の例について説明する。第2の例では、第1および第2の検出器10,20の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子として少なくとも1つの第1のホール素子を含み、少なくとも1つの第2の磁気検出素子として少なくとも1つの第2のホール素子を含んでいる。第2の例では特に、第1および第2のホール素子は、いずれも、合成磁界のY方向に平行な方向の成分の強度を検出するような姿勢で配置されている。
【0069】
図7は、第2の例における第1の検出器10の要部を示す斜視図である。第2の例では、第1の検出回路11は、2つの第1のホール素子H1,H3を含み、第2の検出回路12は、2つの第2のホール素子H2,H4を含んでいる。第1の検出器10は、更に、非磁性材料よりなり上面41aを有する基板41と、磁性材料よりなるヨーク42とを含んでいる。上面41aは、XZ平面に平行である。
【0070】
ホール素子H1~H4は、上面41aの近傍において、感磁面が上面41aに平行になるような姿勢で基板41に埋め込まれている。第1のホール素子H1,H3は、X方向に並ぶように配置されている。第2のホール素子H2,H4は、Z方向に並ぶように配置されている。
【0071】
ヨーク42は、円板状である。ヨーク42は、ホール素子H1~H4のそれぞれの一部にまたがるように、基板41の上面41aの上に配置されている。第1のホール素子H1は、ヨーク42の-X方向の端の近傍に位置する。第2のホール素子H2は、ヨーク42の-Z方向の端の近傍に位置する。第1のホール素子H3は、ヨーク42のX方向の端の近傍に位置する。第2のホール素子H4は、ヨーク42のZ方向の端の近傍に位置する。
【0072】
図8は、第2の例における第1の検出回路11の具体的な構成の一例を示している。
図9は、第2の例における第2の検出回路12の具体的な構成の一例を示している。
図8に示したように、第1の検出回路11は、更に、電源ポートV21と、グランドポートG21と、2つの出力ポートE21,E22と、差分検出器13とを含んでいる。
図9に示したように、第2の検出回路12は、更に、電源ポートV22と、グランドポートG22と、2つの出力ポートE23,E24と、差分検出器23とを含んでいる。
図8および
図9に示したように、ホール素子H1~H4の各々は、電源端子Haと、グランド端子Hcと、2つの出力端子Hb,Hdとを有している。
【0073】
第1の検出回路11では、第1のホール素子H1,H3の電源端子Haは、電源ポートV21に接続されている。第1のホール素子H1,H3のグランド端子Hcと、第1のホール素子H1,H3の出力端子Hdは、グランドポートG21に接続されている。第1のホール素子H1の出力端子Hbは、出力ポートE21に接続されている。第1のホール素子H3の出力端子Hbは、出力ポートE22に接続されている。電源ポートV21には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG21は、グランドに接続される。
【0074】
第2の検出回路12では、第2のホール素子H2,H4の電源端子Haは、電源ポートV22に接続されている。第2のホール素子H2,H4のグランド端子Hcと、第2のホール素子H2,H4の出力端子Hdは、グランドポートG22に接続されている。第2のホール素子H2の出力端子Hbは、出力ポートE23に接続されている。第2のホール素子H4の出力端子Hbは、出力ポートE24に接続されている。電源ポートV22には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG22は、グランドに接続される。
【0075】
第1の検出器10では、ヨーク42は、第1の合成磁界MF1を受けて、出力磁界を発生する。出力磁界は、Y方向に平行な方向の出力磁界成分であって、第1の合成磁界MF1に応じて変化する出力磁界成分を含んでいる。具体的には、ヨーク42は、第1の合成磁界MF1のX方向の成分を受けた場合には、第1のホール素子H1の近傍において-Y方向の出力磁界成分を発生し、第1のホール素子H3の近傍においてY方向の出力磁界成分を発生する。ヨーク42が第1の合成磁界MF1の-X方向の成分を受けた場合には、出力磁界成分の方向は、ヨーク42が第1の合成磁界MF1のX方向の成分を受けた場合とは逆になる。
【0076】
第1の検出回路11では、第1のホール素子H1,H3は、第1のホール素子H1,H3の近傍において発生したY方向または-Y方向の出力磁界成分を検出することによって、第1の合成磁界MF1のX方向または-X方向の成分を検出する。出力ポートE21,E22の電位差は、第1の合成磁界MF1のX方向すなわち第3の方向D3の成分の強度に応じて変化する。差分検出器13は、出力ポートE21,E22の電位差に対応する信号、すなわち第1の合成磁界MF1の第3の方向D3(X方向)の成分の強度を表す信号を、第1の検出信号S11として出力する。
【0077】
また、第1の検出器10では、ヨーク42は、第1の合成磁界MF1のZ方向の成分を受けた場合には、第2のホール素子H2の近傍において-Y方向の出力磁界成分を発生し、第2のホール素子H4の近傍においてY方向の出力磁界成分を発生する。ヨーク42が第1の合成磁界MF1の-Z方向の成分を受けた場合には、出力磁界成分の方向は、ヨーク42が第1の合成磁界MF1のZ方向の成分を受けた場合とは逆になる。
【0078】
第2の検出回路12では、第2のホール素子H2,H4は、第2のホール素子H2,H4の近傍において発生したY方向または-Y方向の出力磁界成分を検出することによって、第1の合成磁界MF1のZ方向または-Z方向の成分を検出する。出力ポートE23,E24の電位差は、第1の合成磁界MF1のZ方向すなわち第4の方向D4の成分の強度に応じて変化する。差分検出器23は、出力ポートE23,E24の電位差に対応する信号、すなわち第1の合成磁界MF1の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度を表す信号を、第2の検出信号S12として出力する。
【0079】
第2の例における第2の検出器20ならびに第1および第2の検出回路21,22の構成は、
図7ないし
図9に示した第1の検出器10ならびに第1および第2の検出回路11,12の構成と同じである。そのため、以下の説明では、第2の検出器20ならびに第1および第2の検出回路21,22の構成要素について、第1の検出器10ならびに第1および第2の検出回路11,12の構成要素と同じ符号を用いる。
【0080】
第2の検出器20では、ヨーク42は、第2の合成磁界MF2を受けて、出力磁界を発生する。出力磁界は、Y方向に平行な方向の出力磁界成分であって、第2の合成磁界MF2に応じて変化する出力磁界成分を含んでいる。具体的には、ヨーク42は、第2の合成磁界MF2のX方向の成分を受けた場合には、第1のホール素子H1の近傍において-Y方向の出力磁界成分を発生し、第1のホール素子H3の近傍においてY方向の出力磁界成分を発生する。ヨーク42が第2の合成磁界MF2の-X方向の成分を受けた場合には、出力磁界成分の方向は、ヨーク42が第2の合成磁界MF2のX方向の成分を受けた場合とは逆になる。
【0081】
第1の検出回路21では、第1のホール素子H1,H3は、第1のホール素子H1,H3の近傍において発生したY方向または-Y方向の出力磁界成分を検出することによって、第2の合成磁界MF2のX方向または-X方向の成分を検出する。出力ポートE21,E22の電位差は、第2の合成磁界MF2のX方向すなわち第3の方向D3の成分の強度に応じて変化する。差分検出器13は、出力ポートE21,E22の電位差に対応する信号、すなわち第2の合成磁界MF2の第3の方向D3(X方向)の成分の強度を表す信号を、第1の検出信号S21として出力する。
【0082】
また、第2の検出器20では、ヨーク42は、第2の合成磁界MF2のZ方向の成分を受けた場合には、第2のホール素子H2の近傍において-Y方向の出力磁界成分を発生し、第2のホール素子H4の近傍においてY方向の出力磁界成分を発生する。ヨーク42が第2の合成磁界MF2の-Z方向の成分を受けた場合には、出力磁界成分の方向は、ヨーク42が第2の合成磁界MF2のZ方向の成分を受けた場合とは逆になる。
【0083】
第2の検出回路22では、第2のホール素子H2,H4は、第2のホール素子H2,H4の近傍において発生したY方向または-Y方向の出力磁界成分を検出することによって、第2の合成磁界MF2のZ方向または-Z方向の成分を検出する。出力ポートE23,E24の電位差は、第2の合成磁界MF2のZ方向すなわち第4の方向D4の成分の強度に応じて変化する。差分検出器23は、出力ポートE23,E24の電位差に対応する信号、すなわち第2の合成磁界MF2の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度を表す信号を、第2の検出信号S12として出力する。
【0084】
次に、磁気センサ3の第3の例について説明する。第3の例では、第1および第2の検出器10,20の各々は、第2の例と同様に、少なくとも1つの第1の磁気検出素子として少なくとも1つの第1のホール素子を含み、少なくとも1つの第2の磁気検出素子として少なくとも1つの第2のホール素子を含んでいる。
【0085】
第3の例では特に、第1のホール素子は、合成磁界の第3の方向D3(X方向)に平行な方向の成分の強度を検出するような姿勢で配置されている。具体的には、第1のホール素子は、感磁面がYZ平面に平行になるような姿勢で配置されている。また、第2のホール素子は、合成磁界の第4の方向D4(Z方向)に平行な方向の成分の強度を検出するような姿勢で配置されている。具体的には、第2のホール素子は、感磁面がXY平面に平行になるような姿勢で配置されている。なお、第3の例では、第1および第2の検出器10,20には、
図6に示したヨーク42が設けられていない。
【0086】
第3の例では、第1の検出器10の第1の検出回路11と第2の検出器20の第1の検出回路21は、第1のホール素子を含んでいる。第1の検出器10の第2の検出回路12と第2の検出器20の第2の検出回路22は、第2のホール素子を含んでいる。第1の検出回路11,21の具体的な構成は、
図8に示した第2の例における第1の検出回路11の構成と同じであってもよい。また、第2の検出回路12,22の具体的な構成は、
図9に示した第2の例における第2の検出回路12の構成と同じであってもよい。
【0087】
次に、本実施の形態に係る位置検出装置1の作用および効果について説明する。本実施の形態では、プロセッサ30は、第1の合成磁界MF1の第3の方向D3の成分の強度を表す第1の検出信号S11と、第2の合成磁界MF2の第3の方向D3の成分の強度を表す第1の検出信号S21の差を求めることを含む演算処理によって第1の処理後信号Saを生成し、第1の合成磁界MF1の第4の方向D4の成分の強度を表す第2の検出信号S12と、第2の合成磁界MF2の第4の方向D4の成分の強度を表す第2の検出信号S22の差を求めることを含む演算処理によって第2の処理後信号Sbを生成し、第1の処理後信号Saと第2の処理後信号Sbに基づいて、相対位置と対応関係を有する検出値θsを生成する。
【0088】
本実施の形態によれば、第1の検出信号S11,S21の差に対応する第1の処理後信号Saを生成し、第2の検出信号S12,S22の差に対応する第2の処理後信号Sbを生成することによって、ノイズ磁界Mexに起因した誤差を低減することができる。以下、その理由について詳しく説明する。
【0089】
図10は、第1および第2の検出器10,20が検出する対象磁界を示す説明図である。
図10において、記号MFaを付した矢印は、第1の部分磁界MFaを表し、記号MFbを付した矢印は、第2の部分磁界MFbを表している。
【0090】
また、
図10において、記号PLは基準平面を示し、記号P0は基準位置を示し、記号MFrを付した矢印は基準位置P0における対象磁界を表している。基準位置P0は、第1の検出位置P1と第2の検出位置P2の中間の位置とする。基準平面PLは、磁気スケール2と交差するXZ平面に平行な平面である。第1および第2の検出位置P1,P2と基準位置P0は、いずれも、基準平面PL内にある。
【0091】
以下、基準位置P0における対象磁界を、基準磁界MFrと言う。基準磁界MFrの方向は、相対位置の変化に伴って基準位置P0を中心として回転する。また、第1の部分磁界MFaの方向は、相対位置の変化に伴って第1の検出位置P1を中心として回転する。また、第2の部分磁界MFbの方向は、相対位置の変化に伴って第2の検出位置P2を中心として回転する。
【0092】
ここで、基準磁界MFrの方向が第4の方向D4(Z方向)に対してなす角度を記号θで表す。また、第1の部分磁界MFaの方向が基準磁界MFrの方向に対してなす角度を記号α1で表し、第2の部分磁界MFbの方向が基準磁界MFrの方向に対してなす角度を記号α2で表す。また、第1および第2の部分磁界MFa,MFbの強度をBとし、ノイズ磁界Mexの強度をBexとし、第1の検出位置P1におけるノイズ磁界Mexの方向が第4の方向D4に対してなす角度(第2の検出位置P2におけるノイズ磁界Mexの方向が第4の方向D4に対してなす角度と同じ)を記号θexとする。第1の検出器10が検出する第1の合成磁界MF1の第3の方向D3(X方向)の成分の強度Bx1と、第2の検出器20が検出する第2の合成磁界MF2の第3の方向D3の成分の強度Bx2は、それぞれ、下記の式(1)、(2)によって表すことができる。
【0093】
Bx1=B*sin(θ+α1)+Bex*sinθex …(1)
Bx2=B*sin(θ-α2)+Bex*sinθex …(2)
【0094】
式(1)、(2)において、Bex*sinθexは、ノイズ磁界Mexの第3の方向D3の成分の強度を表している。
【0095】
同様に、第1の検出器10が検出する第1の合成磁界MF1の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度Bz1と、第2の検出器20が検出する第2の合成磁界MF2の第4の方向D4の成分の強度Bz2は、それぞれ、下記の式(3)、(4)によって表すことができる。
【0096】
Bz1=B*cos(θ+α1)+Bex*cosθex …(3)
Bz2=B*cos(θ-α2)+Bex*cosθex …(4)
【0097】
式(3)、(4)において、Bex*cosθexは、ノイズ磁界Mexの第4の方向D4の成分の強度を表している。
【0098】
以下、第1の検出信号S11を強度Bx1と任意の定数Cとの積C*Bx1とし、第1の検出信号S21を強度Bx2と任意の定数Cとの積C*Bx2とする。第1の処理後信号Saを、第1の検出信号S11,S21との差S21-S11そのものとすると、第1の処理後信号Saは、下記の式(5)によって表される。
【0099】
Sa=C*Bx2-C*Bx1
=C(B*sin(θ-α2)+Bex*sinθex)
-C(B*sin(θ+α1)+Bex*sinθex)
=C*B(sin(θ-α2)-sin(θ+α1)) …(5)
【0100】
また、第2の検出信号S12を強度Bz1と定数Cとの積C*Bz1とし、第2の検出信号S22を強度Bz2と定数Cとの積C*Bz2とする。第2の処理後信号Sbを、第2の検出信号S12,S22の差S22-S12そのものとすると、第2の処理後信号Sbは、下記の式(6)によって表される。
【0101】
Sb=C*Bz2-C*Bz1
=C(B*cos(θ-α2)+Bex*cosθex)
-C(B*cos(θ+α1)+Bex*cosθex)
=C*B(cos(θ-α2)-cos(θ+α1)) …(6)
【0102】
式(5)に示したように、第1の検出信号S11,S21の差を求めると、Bex*sinθexが相殺されて、ノイズ磁界Mexに依存しない信号が得られる。また、式(6)に示したように、第2の検出信号S12,S22の差を求めると、Bex*cosθexが相殺されて、ノイズ磁界Mexに依存しない信号が得られる。そして、第1および第2の処理後信号Sa,Sbに基づいて検出値θsを生成することにより、検出値θsのノイズ磁界Mexに起因した誤差を低減することができる。
【0103】
ところで、ここまでは、対象磁界の方向が理想的に変化する場合を想定して、本実施の形態に効果について説明してきた。対象磁界の方向が理想的に変化する場合とは、相対位置の変化と、任意の位置における対象磁界の方向が所定の方向に対してなす角度の変化との関係が、線形性を満たす関係にある場合である。以下、対象磁界の方向が理想的に変化する場合を、理想状態と言う。理想状態では、
図10に示したα1とα2は、同じ角度になる。
【0104】
図10に示したθが0°、90°、180°および270°となる相対位置以外の相対位置では、磁気スケール2からの距離が変化すると、任意の位置における対象磁界の方向は、理想状態における方向からずれてしまう。その結果、
図10に示したα1とα2は、互いに異なる角度となる。そのため、第1および第2の処理後信号Sa,Sbの各々の値が、理想状態における値、すなわちα1とα2が同じ角度になるときの値からずれてしまい、検出値θsに、磁気スケール2に起因した誤差が生じ得る。更に、第1および第2の検出器10,20の位置によっては、検出値θsの誤差が大きくなってしまう場合があった。これに対し、本願の発明者は、磁気スケール2の構造と第1および第2の検出器10,20に関連する複数のパラメータに着目することによって、検出値θsの誤差を小さくする条件を見出した。以下、検出値θsの誤差を小さくする条件について調べた第1および第2のシミュレーションの結果について説明する。
【0105】
始めに、第1および第2のシミュレーションで用いた位置検出装置のモデルについて説明する。
図11は、位置検出装置のモデルを示す説明図である。位置検出装置のモデルは、本実施の形態に係る位置検出装置1を基にして作成したモデルである。
図11において、記号Pnは、第1の検出器10または第2の検出器20(
図1および
図2参照)が配置された位置すなわち第1の検出位置P1または第2の検出位置P2を示している。記号AGは、第2の基準方向Z1における磁石4,5,6から第1の検出器10または第2の検出器20までの間隔を表している。本実施の形態では、間隔AGは、第2の基準方向Z1における磁石4,5,6の上面4a,5a,6aから位置Pnまでの間隔とする。
【0106】
また、
図11において、記号Lは、可動範囲の大きさを示している。記号Mは、磁石4の第1の端部4bから磁石6の第2の端部6bまでの距離を示している。なお、第1および第2のシミュレーションでは、ヨーク7の第1の基準方向X1の寸法を、距離Mと同じ値にした。また、第1および第2のシミュレーションでは、ヨーク7の第2の基準方向Z1における寸法を2mmとし、ヨーク7のY方向に平行な方向の寸法を5mmとした。
【0107】
また、第1および第2のシミュレーションでは、磁石4,5,6の各々の幅Wと磁石4,5,6の各々の第2の基準方向Z1における寸法を、可動範囲の大きさLの4分の1とし、磁石4,5,6の各々のY方向に平行な方向の寸法を5mmとした。
【0108】
また、第1および第2のシミュレーションでは、ノイズ磁界Mexの方向を-Z方向とし、ノイズ磁界Mexの強度に対応する磁束密度の大きさを5mTとした。
【0109】
ここで、パラメータPを、下記の式(7)のように定義する。
【0110】
P=(M-W)/(n-1) …(7)
【0111】
式(7)において、nは、磁気スケール2の磁石の数を表している。本実施の形態では、nは3である。パラメータPは、磁石4と磁石5の間隔および磁石5と磁石6の間隔を表している。
【0112】
次に、第1のシミュレーションの結果について説明する。第1のシミュレーションでは、AG,L,M,Wおよび相対位置を変化させて、位置Pnにおける対象磁界の方向と強度の変化を求めた。そして、相対位置毎に、検出値θsと検出値θsの誤差を求めた。ここで、相対位置の変化に対する検出値θsの理想的な変化を表す直線上における検出値θsの値を、検出値の理想値と言う。第1のシミュレーションでは、任意の相対位置における検出値θsから、その相対位置における検出値の理想値を引いて得られた値を360°で割って得られる値を百分率で表したものを、検出値θsの誤差とした。なお、第1のシミュレーションでは、AG/PすなわちAG(n-1)/(M-W)の値が常に1になるように、AG,L,M,Wを変化させた。
【0113】
また、第1のシミュレーションでは、AGは、2~50mmの範囲内で変化させた。Lは、5~40mmの範囲内で変化させた。Mは、5.25~110mmの範囲内で変化させた。Wは、1.25~10mmの範囲内で変化させた。
【0114】
図12は、第1のシミュレーション結果を示す特性図である。第1のシミュレーションの結果から、検出値θsの誤差が、P/Lすなわち(M-W)/{(n-1)L}の変化に対して、概ね一定の傾向を示すことが分かった。
図12において、横軸は(M-W)/{(n-1)L}を示し、縦軸は検出値θsの誤差を示している。
図12に示したように、(M-W)/{(n-1)L}が大きくなるに従って、検出値θsの誤差は概ね小さくなっている。(M-W)/{(n-1)L}は0.50以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましい。その理由については、後で説明する。
【0115】
なお、Mを大きくしすぎると、磁気スケール2が大きくなってしまい、位置検出装置1を適用できる装置が限定されてしまう。また、Lを小さくしすぎると、可動範囲に対して磁気スケール2の大きさが過剰になってしまう。これらを防止する観点から、(M-W)/{(n-1)L}は、1.5以下であることが好ましい。
【0116】
次に、第2のシミュレーションの結果について説明する。第2のシミュレーションでは、第1のシミュレーションと同様に、AG,L,M,Wおよび相対位置を変化させたときの検出値θsの誤差を求めた。なお、第2のシミュレーションでは、P/Lすなわち(M-W)/{(n-1)L}が常に1になるように、AG,L,M,Wを変化させた。
【0117】
また、第2のシミュレーションでは、AGは、1~42.5mmの範囲内で変化させた。Lは、5~40mmの範囲内で変化させた。Mは、11.25~90mmの範囲内で変化させた。Wは、1.25~10mmの範囲内で変化させた。
【0118】
図13は、第2のシミュレーションの結果を示す特性図である。
図14は、
図13の一部を拡大して示す特性図である。第2のシミュレーションの結果から、検出値θsの誤差が、AG/PすなわちAG(n-1)/(M-W)の変化に対して、概ね一定の傾向を示すことが分かった。
図13および
図14において、横軸はAG(n-1)/(M-W)を示し、縦軸は検出値θsの誤差を示している。
図13および
図14に示したように、AG(n-1)/(M-W)が大きくなるに従って、検出値θsの誤差は概ね小さくなる。AG(n-1)/(M-W)は0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。その理由については、後で説明する。
【0119】
なお、AGを大きくしすぎると、第1および第2の検出位置P1,P2における対象磁界の強度が小さくなってしまい、検出値θsのノイズ磁界Mexに起因した誤差を十分に低減することができなくなってしまう。また、Mを小さくしすぎると、Lも小さくなってしまい、位置検出装置1を適用できる装置が限定されてしまう。これらを防止する観点から、AG(n-1)/(M-W)は、2以下であることが好ましい。
【0120】
図12ないし
図14に示した第1および第2のシミュレーションの結果から、検出値θsの誤差は、(M-W)/{(n-1)L}よりも、AG(n-1)/(M-W)の影響が大きいことが分かる。従って、AG(n-1)/(M-W)に着目して、第1および第2の検出器10,20を配置することにより、検出値θsの誤差を十分に低減することができる。
【0121】
本実施の形態では、第1および第2の検出器10,20の各々は、第2のシミュレーションの結果に基づいて、下記の式(8)を満足するように配置されている。
【0122】
AG=N(M-W)/(n-1) …(8)
【0123】
式(8)において、Nは、
図13および
図14の横軸の値に対応する。Nは、0.4以上2以下の数である。
【0124】
本実施の形態によれば、第1および第2の検出器10,20の各々を、式(8)を満足するように配置することにより、ノイズ磁界Mexに起因する誤差を低減しながら、検出値θsの誤差を十分に低減することができる。また、Nは、0.5以上2以下の数であることが好ましい。Nを0.5以上2以下の数とすることにより、Nが0.4以上0.5未満の数である場合に比べて検出値θsの誤差をより低減することができる。
【0125】
また、第1および第2の検出器10,20の各々は、第1のシミュレーションの結果に基づいて、下記の式(9)を満足するように配置されていてもよい。これにより、本実施の形態によれば、検出値θsの誤差をより低減することができる。
【0126】
0.5≦(M-W)/{(n-1)L}≦1.5 …(9)
【0127】
なお、第2の実施の形態で説明するように、式(8)、(9)は、nが3以外の場合にも当てはまる。
【0128】
また、本実施の形態では、磁石4,5,6は、互いに間隔を開けて配置されている。しかし、磁石4,5,6のうち第1の基準方向X1において隣接する2つの磁石の間隔は0でもよい。従って、磁石4,5,6の各々の幅Wは、0よりも大きくM/n以下である。
【0129】
次に、第3のシミュレーションの結果を参照して、本実施の形態の効果について更に説明する。始めに、第3のシミュレーションで用いた比較例のモデルと、第1および第2の実施例のモデルについて説明する。比較例のモデルは、本実施の形態における第1および第2の検出器10,20の代わりに、1つの検出器を含む比較例の位置検出装置のモデルである。比較例の位置検出装置では、検出器は、本実施の形態における第1および第2の検出器10,20と同様に、第1および第2の検出信号を生成する。比較例の位置検出装置では、検出値θsは、第1および第2の検出信号の比のアークタンジェントを計算することによって生成される。比較例のモデルのその他の構成は、第1および第2のシミュレーションで用いた位置検出装置のモデルと同様である。比較例のモデルでは、AGを5mmとし、Lを20mmとし、Pすなわち(M-W)/(n-1)を12.5mmとした。
【0130】
第1および第2の実施例のモデルの構成は、第1および第2のシミュレーションで用いた位置検出装置のモデルと同様である。第1の実施例のモデルでは、比較例のモデルと同様に、AGを5mmとし、Lを20mmとし、Pすなわち(M-W)/(n-1)を12.5mmとした。第1の実施例のモデルでは、AG/PすなわちAG(n-1)/(M-W)は0.4であり、P/Lすなわち(M-W)/{(n-1)L}は0.625である。従って、第1の実施例のモデルは、式(8)で示した要件と式(9)で示した要件を満足している。
【0131】
第2の実施例のモデルでは、AGを5mmとし、Lを20mmとし、Pすなわち(M-W)/(n-1)を10mmとした。第2の実施例のモデルでは、AG/PすなわちAG(n-1)/(M-W)は0.5であり、P/Lすなわち(M-W)/{(n-1)L}は0.5である。従って、第2の実施例のモデルは、式(8)で示した要件と式(9)で示した要件を満足し、且つ、Nが0.5以上の数というNの好ましい条件を満足している。
【0132】
次に、第3のシミュレーションの結果について説明する。第3のシミュレーションでは、相対位置を変化させて、第1および第2の検出器10,20または比較例のモデルの検出器が配置された位置における対象磁界の方向と強度の変化を求めた。そして、相対位置毎に、検出値θsと検出値θsの誤差を求めた。また、第3のシミュレーションでは、ノイズ磁界Mexの方向を-Z方向とし、ノイズ磁界Mexの強度に対応する磁束密度の大きさを5mTとした。
【0133】
なお、比較例のモデルでは、磁石5と検出器が第1の基準方向X1において同じ位置にある状態を原点として相対位置を定義した。すなわち、比較例のモデルでは、磁石5と検出器が第1の基準方向X1において同じ位置にある状態の相対位置を0mmとし、検出器が磁石5の-X方向側に位置する状態の相対位置を負の値で表し、検出器が磁石5のX方向側に位置する状態の相対位置を正の値で表した。
【0134】
また、第1および第2の実施例のモデルでは、磁石5と第1の検出位置P1と第2の検出位置P2の中間地点が第1の基準方向X1において同じ位置にある状態を原点として相対位置を定義した。すなわち、第1および第2の実施例のモデルでは、磁石5と中間地点が第1の基準方向X1において同じ位置にある状態の相対位置を0mmとし、中間地点が磁石5の-X方向側に位置する状態の相対位置を負の値で表し、中間地点が磁石5のX方向側に位置する状態の相対位置を正の値で表した。
【0135】
また、第1および第2の実施例のモデルでは、第1の検出位置P1における対象磁界の第3の方向D3(X方向)の成分の強度に対応する磁束密度と、第2の検出位置P2における対象磁界の第3の方向D3の成分の強度に対応する磁束密度の差を求めた。また、第1および第2の実施例のモデルでは、第1の検出位置P1における対象磁界の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度に対応する磁束密度と、第2の検出位置P2における対象磁界の第4の方向D4の成分の強度に対応する磁束密度の差を求めた。以下、同じ方向の2つの成分の強度に対応する磁束密度の差を、差動磁束密度と言う。
【0136】
図15は、比較例のモデルにおける磁束密度を示す特性図である。
図16は、比較例のモデルにおける検出値θsの誤差を示す特性図である。
図15および
図16において、横軸は相対位置を示している。
図15において、縦軸は磁束密度を示している。
図15において、符号71xを付した曲線は、検出器が配置された位置における対象磁界の第3の方向D3(X方向)の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号71zを付した曲線は、検出器が配置された位置における対象磁界の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度に対応する磁束密度を示している。
図16において、縦軸は検出値θsの誤差を示している。比較例のモデルでは、検出値θsの誤差は、2.71%であった。
【0137】
図17は、第1の実施例のモデルにおける磁束密度を示す特性図である。
図18は、第1の実施例のモデルにおける差動磁束密度を示す特性図である。
図19は、第1の実施例のモデルにおける検出値θsの誤差を示す特性図である。
図17ないし
図19において、横軸は相対位置を示している。
図17および
図18において、縦軸は磁束密度を示している。
図17において、符号72xを付した曲線は、第1の検出位置P1における対象磁界の第3の方向D3(X方向)の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号73xを付した曲線は、第2の検出位置P2における対象磁界の第3の方向D3の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号72zを付した曲線は、第1の検出位置P1における対象磁界の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号73zを付した曲線は、第2の検出位置P2における対象磁界の第4の方向D4の成分の強度に対応する磁束密度を示している。
【0138】
図18において、符号74xを付した曲線は、第3の方向D3(X方向)の成分についての差動磁束密度を示し、符号74zを付した曲線は、第4の方向D4(Z方向)の成分についての差動磁束密度を示している。
図19において、縦軸は検出値θsの誤差を示している。第1の実施例のモデルでは、検出値θsの誤差は、4.38%であった。
【0139】
図20は、第2の実施例のモデルにおける磁束密度を示す特性図である。
図21は、第2の実施例のモデルにおける差動磁束密度を示す特性図である。
図22は、第2の実施例のモデルにおける検出値θsの誤差を示す特性図である。
図20ないし
図22において、横軸は相対位置を示している。
図20および
図21において、縦軸は磁束密度を示している。
図20において、符号75xを付した曲線は、第1の検出位置P1における対象磁界の第3の方向D3(X方向)の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号76xを付した曲線は、第2の検出位置P2における対象磁界の第3の方向D3の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号75zを付した曲線は、第1の検出位置P1における対象磁界の第4の方向D4(Z方向)の成分の強度に対応する磁束密度を示し、符号76zを付した曲線は、第2の検出位置P2における対象磁界の第4の方向D4の成分の強度に対応する磁束密度を示している。
【0140】
図21において、符号77xを付した曲線は、第3の方向D3(X方向)の成分についての差動磁束密度を示し、符号77zを付した曲線は、第4の方向D4(Z方向)の成分についての差動磁束密度を示している。
図22において、縦軸は検出値θsの誤差を示している。第2の実施例のモデルでは、検出値θsの誤差は、1.75%であった。
【0141】
図15ないし
図22に示した第3のシミュレーションの結果から理解されるように、第2の実施例のモデルにおける検出値θsの誤差は、第1の実施例のモデルよりも小さくなる。
図17および
図20に示したように、第2の実施例のモデルでは、第1の実施例のモデルに比べて、対象磁界の一方向の成分の強度に対応する磁束密度の波形の歪みが低減している。これにより、第1の検出信号S11,S21および第2の検出信号S12,S22の波形の歪みが低減し、その結果、第1および第2の処理後信号Sa,Sbの波形の歪みも低減する。
図21に示した差動磁束密度の波形は、第2の実施例のモデルにおける第1および第2の処理後信号Sa,Sbの波形に対応している。これにより、第2の実施例のモデルでは、検出値θsの誤差は、第1の実施例のモデルよりも小さくなる。
【0142】
また、第2の実施例のモデルにおける検出値θsの誤差は、比較例のモデルよりも小さくなる。第3のシミュレーションの結果から、本実施の形態によれば、式(8)の要件を満たすように第1および第2の検出器10,20を配置すると共に、第1の検出信号S11と第1の検出信号S21との差に対応する第1の処理後信号Saを生成し、第2の検出信号S12と第2の検出信号S22との差に対応する第2の処理後信号Sbを生成することによって、ノイズ磁界Mexに起因した誤差を低減しながら、検出値θsの誤差を十分に低減することができる。
【0143】
なお、第2の実施例のモデルにおける検出値θsの誤差は、比較例のモデルよりも小さいが、第1の実施例のモデルにおける検出値θsの誤差は、比較例のモデルよりも大きい。しかし、前述のように、本実施の形態によれば、ノイズ磁界Mexに起因する誤差を低減することができる。位置検出装置は、検出値θsの誤差はある程度小さければよいが、ノイズ磁界Mexに起因する誤差は優先して低減したいという条件の下で用いられる場合がある。このような場合には、第1の実施例のモデルのように、検出値θsの誤差が比較的大きい場合であっても、本実施の形態に係る位置検出装置1を用いることができる。
【0144】
[第2の実施の形態]
次に、
図23を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図23は、本実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成を示す斜視図である。本実施の形態に係る位置検出装置1は、以下の点で第1の実施の形態と異なっている。本実施の形態では、磁気スケール2に磁石5が設けられていない。すなわち、本実施の形態では、磁気スケール2は、複数の磁石として、2つの磁石4,6を含んでいる。また、本実施の形態では、磁石6のN極とS極は、Z方向にこの順に配置されている。本実施の形態に係る位置検出装置1のその他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0145】
次に、検出値θsの誤差を小さくする条件について調べた第4および第5のシミュレーションの結果について説明する。始めに、第4および第5のシミュレーションで用いた位置検出装置のモデルについて説明する。
図24は、位置検出装置のモデルを示す説明図である。位置検出装置のモデルは、本実施の形態に係る位置検出装置1を基にして作成したモデルである。
図24において、記号Pnは、第1の検出器10または第2の検出器20(
図23参照)が配置される位置すなわち第1の検出位置P1または第2の検出位置P2を示している。記号AGは、第2の基準方向Z1における磁石4,6から第1の検出器10または第2の検出器20までの間隔を表している。本実施の形態では、間隔AGは、第2の基準方向Z1における磁石4,6の上面4a,6aから位置Pnまでの間隔とする。
【0146】
また、
図24において、記号Lは、可動範囲の大きさを示している。記号Mは、磁石4の第1の端部4bから磁石6の第2の端部6bまでの距離を示している。第4および第5のシミュレーションでは、磁石4,6の各々の幅Wと磁石4,6の各々の第2の基準方向Z1における寸法を、可動範囲の大きさLの5分の1とし、磁石4,6の各々のY方向に平行な方向の寸法を5mmとした。第4および第5のシミュレーションにおけるヨーク7およびノイズ磁界Mexの条件は、第1の実施の形態で説明した第1および第2のシミュレーションと同じである。
【0147】
次に、第4のシミュレーションの結果について説明する。第4のシミュレーションでは、第1の実施の形態における第1のシミュレーションと同様に、AG,L,M,Wおよび相対位置を変化させたときの検出値θsの誤差を求めた。なお、第4のシミュレーションでは、AG/PすなわちAG(n-1)/(M-W)の値が常に1になるように、AG,L,M,Wを変化させた。
【0148】
また、第4のシミュレーションでは、AGは、4~33mmの範囲内で変化させた。Lは、10~30mmの範囲内で変化させた。Mは、6~39mmの範囲内で変化させた。Wは、2~6mmの範囲内で変化させた。
【0149】
図25は、第4のシミュレーション結果を示す特性図である。第4のシミュレーションの結果から、検出値θsの誤差が、P/Lすなわち(M-W)/{(n-1)L}の変化に対して、概ね一定の傾向を示すことが分かった。
図25において、横軸は(M-W)/{(n-1)L}を示し、縦軸は検出値θsの誤差を示している。
図25に示したように、(M-W)/{(n-1)L}が大きくなるに従って、検出値θsの誤差は概ね小さくなっている。(M-W)/{(n-1)L}は0.50以上であることが好ましく、0.75以上であることが好ましい。その理由については、後で説明する。また、第1の実施の形態で説明したように、(M-W)/{(n-1)L}は、1.5以下であることが好ましい。
【0150】
次に、第5のシミュレーションの結果について説明する。第5のシミュレーションでは、第1の実施の形態における第2のシミュレーションと同様に、AG,L,M,Wおよび相対位置を変化させたときの検出値θsの誤差を求めた。なお、第5のシミュレーションでは、P/Lすなわち(M-W)/{(n-1)L}が常に1になるように、AG,L,M,Wを変化させた。
【0151】
また、第5のシミュレーションでは、AGは、2~60mmの範囲内で変化させた。Lは、10~30mmの範囲内で変化させた。Mは、12~36mmの範囲内で変化させた。Wは、2~6mmの範囲内で変化させた。
【0152】
図26は、第5のシミュレーションの結果を示す特性図である。
図27は、
図26の一部を拡大して示す特性図である。第5のシミュレーションの結果から、検出値θsの誤差が、AG/PすなわちAG(n-1)/(M-W)の変化に対して、概ね一定の傾向を示すことが分かった。
図26および
図27において、横軸はAG(n-1)/(M-W)を示し、縦軸は検出値θsの誤差を示している。
図26および
図27に示したように、AG(n-1)/(M-W)が大きくなるに従って、検出値θsの誤差は概ね小さくなっている。AG(n-1)/(M-W)は0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。その理由については、後で説明する。また、第1の実施の形態で説明したように、AG(n-1)/(M-W)は、2以下であることが好ましい。
【0153】
本実施の形態では、第1および第2の検出器10,20の各々は、第5のシミュレーションの結果に基づいて、第1の実施の形態における式(8)を満足するように配置されている。本実施の形態によれば、第1および第2の検出器10,20の各々を、式(8)を満足するように配置することにより、ノイズ磁界Mexに起因する誤差を低減しながら、検出値θsの誤差を十分に低減することができる。また、Nを0.5以上2以下の数とすることにより、Nが0.4以上0.5未満の数である場合に比べて検出値θsの誤差をより低減することができる。
【0154】
また、第1および第2の検出器10,20の各々は、第4のシミュレーションの結果に基づいて、第1の実施の形態における式(9)を満足するように配置されていてもよい。これにより、本実施の形態によれば、検出値θsの誤差をより低減することができる。
【0155】
上述のように、式(8)、(9)は、nが2の場合にも当てはまる。nが4以上の場合であっても、対象磁界の一方向の成分の強度に対応する磁束密度の波形は、nに合わせてピークの数が異なるだけであり、磁束密度の波形の歪みの態様は、nが3の場合と同様である。従って、式(8)、(9)は、nが4以上の場合にも当てはまる。
【0156】
ここで、(M-W)/{(n-1)L}とAG(n-1)/(M-W)の好ましい値について説明する。始めに、(M-W)/{(n-1)L}の好ましい値について説明する。(M-W)/{(n-1)L}の値は、nの値に関わらず、検出値θsの誤差が0.5%以下となる値であることが好ましく、検出値θsの誤差が0.1%以下となる値であることがより好ましい。第1の実施の形態における
図12に示した第1のシミュレーションの結果と、本実施の形態における
図25に示した第4のシミュレーションの結果から、(M-W)/{(n-1)L}は0.50以上であることが好ましく、0.75以上であることが好ましい。
【0157】
次に、AG(n-1)/(M-W)すなわちNの好ましい値について説明する。AG(n-1)/(M-W)の値は、nの値に関わらず、検出値θsの誤差が明らかに小さくなる値が好ましい。第1の実施の形態における
図13および
図14に示した第2のシミュレーションの結果と、本実施の形態における
図26および
図27に示した第5のシミュレーションの結果から、AG(n-1)/(M-W)が0.4以上の場合、0.4未満の場合に比べて、検出値θsの誤差が明らかに小さくなる。また、AG(n-1)/(M-W)の値は、検出値θsの誤差が2.5%以下となる値がより好ましい。第1の実施の形態における
図13および
図14に示した第2のシミュレーションの結果と、本実施の形態における
図26および
図27に示した第5のシミュレーションの結果から、AG(n-1)/(M-W)は、0.5以上の値であることが好ましい。
【0158】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0159】
[第3の実施の形態]
次に、
図28を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図28は、本実施の形態に係る位置検出装置の概略の構成を示す斜視図である。本実施の形態に係る位置検出装置1は、以下の点で第1の実施の形態と異なっている。本実施の形態では、磁気スケール2に磁石5,6が設けられていない。すなわち、本実施の形態では、磁気スケール2は、1つの磁石4を含んでいる。磁石4は、第2の基準方向Z1に平行な一方向の磁化を有している。第1の実施の形態における
図2に示したように、磁石4は、-Z方向にこの順に配置されたN極とS極を有している。
【0160】
本実施の形態では、磁石4は、上面4aおよび第1の端部4bに加えて、第2の端部4cを有している。第1の端部4bと第2の端部4cは、第1の基準方向X1において互いに反対側に位置する2つの端部である。なお、上面4aならびに第1および第2の端部4b,4cは、後で説明する
図29に示されている。本実施の形態に係る位置検出装置1のその他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0161】
次に、検出値θsの誤差を小さくする条件について調べた第6のシミュレーションの結果について説明する。始めに、第6のシミュレーションで用いた位置検出装置のモデルについて説明する。
図29は、位置検出装置のモデルを示す説明図である。位置検出装置のモデルは、本実施の形態に係る位置検出装置1を基にして作成したモデルである。但し、位置検出装置のモデルには、ヨーク7は設けられていない。
図29において、記号Pnは、第1の検出器10または第2の検出器20(
図28参照)が配置される位置すなわち第1の検出位置P1または第2の検出位置P2を示している。記号AGは、第2の基準方向Z1における磁石4から第1の検出器10または第2の検出器20までの間隔を表している。本実施の形態では、間隔AGは、第2の基準方向Z1における磁石4の上面4aから位置Pnまでの間隔とする。
【0162】
また、
図29において、記号Lは、可動範囲の大きさを示している。第6のシミュレーションでは、可動範囲の大きさLを10mmとした。また、
図29において、記号Mは、磁石4の第1の端部4bから第2の端部4cまでの距離を示している。距離Mは、磁石4の幅Wと等しい。第6のシミュレーションでは、距離Mを10mmとし、磁石4の第2の基準方向Z1における寸法と磁石4のY方向に平行な方向の寸法を5mmとした。第6のシミュレーションにおけるノイズ磁界Mexの条件は、第1の実施の形態で説明した第1および第2のシミュレーションと同じである。
【0163】
次に、第6のシミュレーションの結果について説明する。第6のシミュレーションでは、AGおよび相対位置を変化させたときの検出値θsの誤差を求めた。AGは、1.5~10mmの範囲内で変化させた。
図30は、第6のシミュレーションの結果を示す特性図である。
図31は、
図30の一部を拡大して示す特性図である。第6のシミュレーションの結果から、検出値θsの誤差が、AG/Mの変化に対して、概ね一定の傾向を示すことが分かった。
図30および
図31において、横軸はAG/Mを示し、縦軸は検出値θsの誤差を示している。
図30および
図31に示したように、AG/Mが大きくなるに従って、検出値θsの誤差は概ね小さくなる。AG/Mの値は、検出値θsの誤差が明らかに小さくなる値が好ましく、検出値θsの誤差が0.5%以下となる値がより好ましい。第6のシミュレーションの結果から、AG/Mは0.175以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
【0164】
なお、AGを大きくしすぎたり、Mを小さくしすぎたりすると、第1および第2の検出位置P1,P2における対象磁界の強度が小さくなってしまい、検出値θsのノイズ磁界Mexに起因した誤差を十分に低減することができなくなってしまう。また、Mを小さくしすぎると、Lも小さくなってしまい、位置検出装置1を適用できる装置が限定されてしまう。これらを防止する観点から、AG/Mは、2以下であることが好ましい。
【0165】
本実施の形態では、第1および第2の検出器10,20の各々は、第6のシミュレーションの結果に基づいて、下記の式(10)を満足するように配置されている。
【0166】
0.175M≦AG≦2M …(10)
【0167】
本実施の形態によれば、第1および第2の検出器10,20を、式(10)を満足するように配置することにより、ノイズ磁界Mexに起因する誤差を低減しながら、検出値θsの誤差を十分に低減することができる。
【0168】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0169】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る位置検出装置1は、以下の点で第3の実施の形態と異なっている。磁石4は、第1の基準方向X1に平行な一方向の磁化を有している。本実施の形態では、磁石4は、-X方向にこの順に配置されたN極とS極を有している。なお、本実施の形態における磁石4は、後で説明する
図32に示されている。本実施の形態に係る位置検出装置1のその他の構成は、第3の実施の形態と同様である。
【0170】
次に、検出値θsの誤差を小さくする条件について調べた第7のシミュレーションの結果について説明する。始めに、第7のシミュレーションで用いた位置検出装置のモデルについて説明する。
図32は、位置検出装置のモデルを示す説明図である。位置検出装置のモデルは、本実施の形態に係る位置検出装置1を基にして作成したモデルである。但し、位置検出装置のモデルには、ヨーク7は設けられていない。
図32において、記号Pnは、第1の検出器10または第2の検出器20(第3の実施の形態における
図28参照)が配置される位置すなわち第1の検出位置P1または第2の検出位置P2を示している。記号AGは、第2の基準方向Z1における磁石4から第1の検出器10または第2の検出器20までの間隔を表している。
【0171】
また、
図32において、記号Lは、可動範囲の大きさを示している。記号Mは、磁石4の第1の端部4bから第2の端部4cまでの距離を示している。第7のシミュレーションにおける磁石4のその他の条件とノイズ磁界Mexの条件は、第3の実施の形態で説明した第6のシミュレーションと同じである。
【0172】
次に、第7のシミュレーションの結果について説明する。第7のシミュレーションでは、AGおよび相対位置を変化させたときの検出値θsの誤差を求めた。AGは、4~10mmの範囲内で変化させた。
図33は、第7のシミュレーションの結果を示す特性図である。
図34は、
図33の一部を拡大して示す特性図である。第7のシミュレーションの結果から、第6のシミュレーションの結果と同様に、検出値θsの誤差が、AG/Mの変化に対して、概ね一定の傾向を示すことが分かった。
図33および
図34において、横軸はAG/Mを示し、縦軸は検出値θsの誤差を示している。
図33および
図34に示したように、AG/Mが大きくなるに従って、検出値θsの誤差は概ね小さくなる。AG/Mの値は、検出値θsの誤差が明らかに小さくなる値が好ましく、検出値θsの誤差が0.5%以下となる値がより好ましい。第7のシミュレーションの結果から、AG/Mは0.425以上であることが好ましく、0.45以上であることがより好ましい。また、第3の実施の形態と同様に、AG/Mは、2以下であることが好ましい。
【0173】
本実施の形態では、第1および第2の検出器10,20の各々は、第7のシミュレーションの結果に基づいて、下記の式(11)を満足するように配置されている。
【0174】
0.425M≦AG≦2M …(11)
【0175】
本実施の形態によれば、第1および第2の検出器10,20を、式(11)を満足するように配置することにより、ノイズ磁界Mexに起因する誤差を低減しながら、検出値θsの誤差を十分に低減することができる。
【0176】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第3の実施の形態と同様である。
【0177】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。請求の範囲の要件を満たす限り、磁気スケール2の磁石の数、ならびに磁気センサ3の検出器の数および配置は、各実施の形態に示した例に限られず、任意である。例えば、磁気スケール2は、4つ以上の磁石を含んでいてもよい。この場合、検出値θsの範囲は、0°~360°よりも広い範囲であってもよい。
【0178】
また、磁気センサ3は、複数の検出器として、4つの検出器を含んでいてもよい。この場合、4つの検出器は、第1の基準方向X1に一列に並んでいてもよい。あるいは、2つの検出器が第1の基準方向X1に一列に並び、他の2つの検出器が、この列のZ方向側において、第1の基準方向X1に一列に並んでいてもよい。
【0179】
また、複数の検出器のうちの少なくとも一部は、Y方向に平行な方向において互いに異なる位置に配置されていてもよい。この場合、複数の検出器の各々が検出する対象磁界の強度は、互いに等しいか、ほぼ等しくてもよい。
【0180】
また、複数の検出器の各々は、少なくとも1つの第1の磁気検出素子と、少なくとも1つの第2の磁気検出素子の、いずれかを含んでいてもよい。この場合、複数の検出器の各々は、第1の検出信号を生成する第1の検出回路と、第2の検出信号を生成する第2の検出回路の、いずれかを含む。この場合、プロセッサ30は、第1の処理後信号Saと第2の処理後信号Sbの一方のみを生成してもよい。すなわち、プロセッサ30は、複数の検出器の第1の検出回路によって生成される複数の第1の検出信号のうちの少なくとも2つの差と、複数の検出器の第2の検出回路によって生成される複数の第2の検出信号のうちの少なくとも2つの差の、いずれかを求める演算処理によって1つの処理後信号を生成してもよい。この場合、プロセッサ30は、生成した1つの処理後信号を用いて、検出値θsを生成してもよい。
【符号の説明】
【0181】
1…位置検出装置、2…磁気スケール、3…磁気センサ、4~6…磁石、4b…第1の端部、6b…第2の端部、7…ヨーク、8…保護部、10…第1の検出器、11…第1の検出回路、12…第2の検出回路、20…第2の検出器、21…第1の検出回路、22…第2の検出回路、30…プロセッサ、31~34…A/D変換器、35…第1の処理部、36…第2の処理部、37…第3の処理部、41…基板、42…ヨーク、H1~H4…ホール素子、R11,R12,R21,R22…MR素子。