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特許7156306食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3508 20060101AFI20221012BHJP
   C07C 409/26 20060101ALI20221012BHJP
   C07C 407/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A23L3/3508
C07C409/26
C07C407/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019556131
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038232
(87)【国際公開番号】W WO2019102742
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017227085
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和志
(72)【発明者】
【氏名】印南 享
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲
(72)【発明者】
【氏名】君塚 健一
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第01014361(GB,A)
【文献】特表2012-507501(JP,A)
【文献】特開2001-206875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
C07C
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合する工程を含む、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法であって、
前記過酸化水素水溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、かつ、過酸化水素を30~40質量%含有する、前記製造方法。
【請求項2】
さらに、前記過酸化水素水溶液が、鉄を50μg/kg以下含有し、かつ、PO 3-を50mg/kg以下含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酢酸溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を50μg/kg以下含有し、PO 3-を50mg/kg以下含有し、かつ、酢酸を90~99.99質量%含有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を7mg/kg以下含有し、PO 3-を50mg/kg以下含有し、かつ、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を55~65質量%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において混合する温度が、25~35℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において混合する時間が、60分以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程において混合をした後に、1日以上静置する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、得られた過酢酸組成物を水で希釈する工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
アルミニウムを50μg/kg以上含み、鉄を300μg/kg以下含み、PO 3-を200mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%である、食品添加物として使用される過酢酸組成物。
【請求項10】
アルミニウムを25μg/kg以上含み、鉄を20μg/kg以下含み、PO 3-を15mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%である、食品添加物として使用される過酢酸組成物。
【請求項11】
平衡定数が2以上である、請求項10に記載の過酢酸組成物。
【請求項12】
引火点を有さない、請求項10又は11に記載の過酢酸組成物。
【請求項13】
請求項12のいずれか一項に記載の過酢酸組成物と、食品とを接触させる、食品の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法に関し、更には、食品添加物として使用される過酢酸組成物を製造する製造装置、及び食品添加物として使用される過酢酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸と過酸化水素とを原料として、過酢酸水溶液が合成できることは古くから知られている。例えば、特公昭61-10465号(特許文献1)、特公昭37-7459号公報、或いはFRANK P. GREENSPANの報告(J. Amer. Chem. Soc., 68, 907(1946))には、反応条件や原料仕込比の選択により、過酢酸濃度が1~50重量%の過酢酸水溶液が合成できることが記載されている。
【0003】
また、そのようにして得られた過酢酸水溶液は、例えば、特公昭61-10465号、特公昭61-14122号公報に記載されているように、その酸化力のために優れた殺菌、消毒、漂白等の能力を有することも古くから知られている。一方、過酢酸水溶液は、他の有機過酸と同様、元来不安定な物質であり、加熱したり、不純物による汚染などにより、激しく分解するため、使用に際して、貯蔵安定性が劣ることが大きな欠点となっていた。過酢酸水溶液の貯蔵安定性を直接向上させる安定剤は、これまでに知られていないが、微量存在する金属イオンを封止することにより、間接的に貯蔵安定性を向上させることが知られていた。
【0004】
上記のように、過酢酸水溶液は優れた殺菌、消毒、漂白等の能力を有しているが、使用に際して、貯蔵安定性が劣ることが大きな欠点となっていた。この問題の解決のため、これまでに、種々の過酢酸水溶液の貯蔵安定性を向上する方法が提案されているが、さらなる貯蔵安定性を向上する方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭61-10465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、貯蔵安定性に優れた、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法を提供することを課題とする。更に、本発明は、上記食品添加物として使用される過酢酸組成物を製造する製造装置、及び上記食品添加物として使用される過酢酸組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる問題点を解決するため鋭意検討した結果、アルミニウムを所定量含有する過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を混合することにより、得られる過酢酸組成物の貯蔵安定性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の通りである。
<1> 過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合する工程を含む、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法であって、
前記過酸化水素水溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、かつ、過酸化水素を30~40質量%含有する、前記製造方法である。
<2> さらに、前記過酸化水素水溶液が、鉄を50μg/kg以下含有し、かつ、PO 3-を50mg/kg以下含有する、上記<1>に記載の製造方法である。
<3> 前記酢酸溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を50μg/kg以下含有し、PO 3-を50mg/kg以下含有し、かつ、酢酸を90~99.99質量%含有する、上記<1>又は<2>に記載の製造方法である。
<4> 前記1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を7mg/kg以下含有し、PO 3-を50mg/kg以下含有し、かつ、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を55~65質量%含有する、上記<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法である。
<5> 前記混合工程において混合する温度が、25~35℃である、上記<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法である。
<6> 前記混合工程において混合する時間が、60分以下である、上記<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法である。
<7> 前記混合工程において混合をした後に、1日以上静置する、上記<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法である。
<8> さらに、得られた過酢酸組成物を水で希釈する工程を含む、上記<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法である。
<9> 上記<1>~<8>のいずれかに記載の食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法に用いられる製造装置であって、
過酸化水素溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合し、攪拌して溶解するための混合釜、過酸化水素水溶液投入装置、溶解した氷酢酸投入装置、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸投入装置を有する、食品添加物として使用される過酢酸組成物を製造する製造装置である。
<10> アルミニウムを50μg/kg以上含み、鉄を300μg/kg以下含み、PO 3-を200mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%である、食品添加物として使用される過酢酸組成物である。
<11> アルミニウムを25μg/kg以上含み、鉄を20μg/kg以下含み、PO 3-を15mg/kg以下含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%である、食品添加物として使用される過酢酸組成物である。
<12> 平衡定数が2以上である、上記<11>に記載の過酢酸組成物である。
<13> 引火点を有さない、上記<11>又は<12>に記載の過酢酸組成物である。<14> 上記<10>~<13>のいずれかに記載の過酢酸組成物と、食品とを接触させる、食品の殺菌方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れた、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法を提供することができる。更に、本発明は、上記食品添加物として使用される過酢酸組成物を製造する製造装置、及び上記食品添加物として使用される過酢酸組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。なお、本明細書において、数値範囲を「~」を用いて示した時、その両端の数値を含む。
【0010】
本発明の一実施形態は、過酸化水素水溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合する工程を含む、食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法であって、前記過酸化水素水溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、かつ、過酸化水素を30~40質量%含有する、前記製造方法である。
前記過酸化水素水溶液は、アルミニウムを好ましくは10~1000μg/kg含有し、より好ましくは50~500、特に好ましくは80~400μg/kg含有する。前記過酸化水素水溶液が、アルミニウムを10μg/kg以上含有することにより、前記過酢酸組成物の貯蔵安定性が向上するため好ましい。
また、前記過酸化水素水溶液は、過酸化水素を好ましくは32~38質量%、より好ましくは35~36質量%含有する。前記過酸化水素水溶液が、過酸化水素を30~40質量%含有することにより、安全で、安定で、食品添加物の成分規格に合致した過酸化水素となるため好ましい。
本発明の過酢酸組成物の製造方法において、酢酸溶液と過酸化水素水溶液から過酢酸組成物を得る反応は、次の式に従う平衡反応であることが知られている。
【化1】
本反応の反応速度は、比較的遅く、反応時間短縮のために、プロトン酸触媒を用いることができる。酢酸溶液は、水溶液の形で加えてもよいが、反応時間短縮のためには、より高濃度のものが望ましく、通常、氷酢酸が用いられる。過酸化水素水溶液の濃度は、反応時間短縮のためには、より高濃度のものが望ましいが、取扱時の安全性から考えると、より低濃度のものが望ましく、好ましくは32~38質量%、より好ましくは35~36質量%の水溶液が用いられる。
【0011】
本発明で用いる1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(以下、「HEDP」と呼ぶことがある)は、金属封止作用を有するプロトン酸であり、得られた過酢酸組成物の貯蔵安定性の向上に寄与する。本発明の過酢酸組成物を得るためには、種々の方法が考えられるが、一般には上記の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸の存在下で、過酸化水素水溶液及び酢酸溶液を、好ましくは1:1~5モル、より好ましくは1:2~4モルの割合で反応させる方法で行われる。必要な場合には、その反応粗液を水、過酸化水素水溶液あるいは酢酸溶液のうちの1つ以上で希釈することもできる。
本発明で用いる1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸の使用量は、過酢酸組成物中に好ましくは0.1~1.0質量%であり、より好ましくは0.2~0.9質量%である。1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸の使用量が1.0質量%より多いと、前記過酢酸組成物が食品添加物の成分規格に合致しなくなることがあり、一方、0.1質量%より少ないと、前記過酢酸組成物の貯蔵安定性が低下することがある。
【0012】
前記過酸化水素水溶液は、鉄を50μg/kg以下含有し、かつ、PO 3-を50mg/kg以下含有することが好ましい。前記過酸化水素水溶液は、鉄をより好ましくは30μg/kg以下、特に好ましくは1μg/kg以上30μg/kg以下含有し、PO 3-をより好ましくは40mg/kg以下、特に好ましくは1mg/kg以上40mg/kg以下含有する。
前記過酸化水素水溶液が、鉄を50μg/kg以下含有すると、前記過酢酸組成物の貯蔵安定性が向上するため好ましい。また、前記過酸化水素水溶液が、PO 3-を50mg/kg以下含有すると、食品添加物の成分規格に合致した過酸化水素となるため好ましい。
【0013】
前記酢酸溶液は、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を50μg/kg以下含有し、PO 3-を50mg/kg以下含有し、かつ、酢酸を90~99.99質量%含有することが好ましい。前記酢酸溶液は、アルミニウムをより好ましくは10~1000μg/kg、特に好ましくは50~150μg/kg含有し、鉄をより好ましくは30μg/kg以下、特に好ましくは1μg/kg以上30μg/kg以下含有し、PO をより好ましくは30mg/kg以下、特に好ましくは0~15mg/kg含有し、酢酸をより好ましくは95~99.99質量%、特に好ましくは99~99.99質量%含有する。
【0014】
本発明で使用される1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質は、アルミニウムを10μg/kg以上含有し、鉄を7mg/kg以下含有し、PO 3-を50mg/kg以下含有し、かつ、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を55~65質量%含有することが好ましい。
前記1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質は、アルミニウムをより好ましくは10~1000μg/kg含有し、鉄をより好ましくは5mg/kg以下、特に好ましくは0.1~5mg/kg含有し、PO 3-をより好ましくは30mg/kg以下、特に好ましくは0~15mg/kg含有し、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸をより好ましくは58~62質量%含有する。
【0015】
前記混合工程において混合する温度は、25~35℃が好ましくは、25~30℃がより好ましい。混合する温度が25~35℃であると、反応速度が遅くなり過ぎず、かつ、酢酸の揮発及び過酸化水素、過酢酸の分解が抑えられる点で好ましい。
前記混合工程において混合する時間は、60分以下が好ましく、10~60分がより好ましい。混合する時間が、60分を超えると、混合に要する電力消費量が大きくなり、コストが上がることがある。
前記混合工程において混合をした後に、1日以上静置することが反応が完了する点で好ましく、1~10日静置することがより好ましい。
本発明では、さらに、得られた過酢酸組成物を水で希釈する工程を含むことが、引火しなくなる点で好ましい。
【0016】
本発明の別の一実施形態は、上記食品添加物として使用される過酢酸組成物の製造方法に用いられる製造装置であって、過酸化水素溶液、酢酸溶液、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸を含む物質を混合し、攪拌して溶解するための混合釜、過酸化水素水溶液投入装置、溶解した氷酢酸投入装置、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸投入装置を有する、食品添加物として使用される過酢酸組成物を製造する製造装置である。
【0017】
本発明の製造方法により得られる過酢酸組成物は、過酢酸を好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~15質量%、過酸化水素を好ましくは4~15質量%、より好ましくは4~10質量%、酢酸を好ましくは10~50質量%、より好ましくは30~50質量%含有する。過酢酸の濃度が、5質量%未満では、過酢酸の安定性が低下するため好ましくなく、また20質量%を超えると取扱い時の危険性が大きくなって好ましくない。また、過酸化水素の濃度は、15質量%を超えると、同様であり好ましくなく、酢酸の濃度も50質量%を超えると、人体への刺激性や臭気の面で好ましくない。
【0018】
本発明の製造方法により得られる過酢酸組成物は、以下の二つの実施形態によって表されるものである。
即ち、本発明の一実施形態は、アルミニウムを50μg/kg以上(好ましくは50~300μg/kg)含み、鉄を300μg/kg以下(好ましくは250μg/kg以下)含み、PO 3-を200mg/kg以下(好ましくは0.1~100mg/kg)含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が10~18質量%(好ましくは11~15質量%)である、食品添加物として使用される過酢酸組成物である。
【0019】
更に、本発明の別の一実施形態は、アルミニウムを25μg/kg以上(好ましくは25~200μg/kg)含み、鉄を20μg/kg以下(好ましくは15μg/kg以下)含み、PO 3-を15mg/kg以下(好ましくは0.1~10mg/kg)含み、かつ、過酸化水素換算で全過酸化物濃度が5~12質量%(好ましくは6~11質量%)である、食品添加物として使用される過酢酸組成物である。
上記過酢酸組成物における平衡定数は2以上が好ましく、2~3がより好ましい。平衡定数が2未満であると、前記過酢酸組成物の貯蔵安定性が低下してしまうことがある。
上記過酢酸組成物は、引火点を有さないことが、取扱時の安全性の点で好ましい。
【0020】
本発明における過酸化物(以下、全過酸化物ということがある)とは、本発明の過酢酸組成物における過酢酸と過酸化水素のことをいい、それぞれの濃度(mol/L)の和を過酸化物濃度(以下、全過酸化物濃度ということがある)という。本発明の過酢酸組成物における過酸化物濃度は、好ましくは1~7mol/Lであり、より好ましくは2~5mol/Lである。この範囲を下回った場合には、過酢酸濃度、即ち殺菌力が低下し、この範囲を上回った場合には安定性が低下することがある。
【0021】
本発明の別の一実施形態は、本発明の過酢酸組成物と、食品とを接触させる、食品の殺菌方法である。過酢酸組成物と食品とを接触させる方法としては、例えば、過酢酸組成物中に食品を浸漬させる方法や、食品に過酢酸組成物を噴霧させる方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の過酢酸組成物は、貯蔵安定性に優れているため、食品の殺菌方法に使用した場合にも利点が多い。
【実施例
【0022】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。各物性値の測定は、以下に示す方法で行った。
【0023】
<過酢酸組成物の過酸化水素濃度>
過酢酸組成物の過酸化水素濃度は酸化還元滴定により行った。具体的には試料約0.1gを精密に量り、250mLの三角フラスコに入れ、0.5mol/L硫酸を75mL加えて検液とした。この検液にフェロイン試液を数滴加えて、0.1mol/L硫酸セリウム(IV)溶液で滴定し、過酸化水素濃度を算出した。
【0024】
<過酢酸組成物の酢酸及び過酢酸濃度>
過酢酸組成物の酢酸及び過酢酸濃度は中和滴定により行った。具体的には試料約0.1gを精密に量り、100mLビーカーに入れ、純水約50mLを加えて検液とした。この検液を0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定し、第一変曲点での添加量から酢酸濃度、第一変曲点から第二変曲点までの添加量から過酢酸濃度を算出した。
【0025】
<過酢酸組成物の全過酸化物濃度>
過酢酸組成物の全過酸化物濃度は、ヨウ素還元滴定法により行った。具体的には試料約0.1gを精密に量り、250mLの三角フラスコに入れ、純水100mL、1.8mol/L硫酸10mLを加えた後、10質量%のヨウ化カリウム溶液10mL、1質量%モリブデン酸アンモニウム溶液を数滴加えて検液とした。この検液に0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液を滴下し、指示薬にでんぷんを使用して液の青紫色が消失し無色となったところを終点として、遊離したヨウ素を定量した。そのヨウ素量から、過酸化水素換算で全過酸化物濃度を算出した。
【0026】
<過酢酸組成物の安定度>
過酢酸組成物の安定度は仕込み時の全過酸化物濃度を100とし、測定時の全過酸化物濃度の比率により算出した。
【0027】
<過酢酸組成物の平衡定数>
過酢酸組成物の平衡定数は下記の式よりで算出した。
平衡定数=過酢酸濃度(mol/L)×水の濃度(mol/L)
÷過酸化水素濃度(mol/L)÷酢酸濃度(mol/L)
【0028】
<過酢酸組成物の引火点>
過酢酸組成物の引火点はクリーブランド開放式引火点試験により測定した。JIS-K2265の方法に準じ、クリーブランド開放式引火点試験器を使用した。
【0029】
(実施例1)
純水2.8gと60質量%の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(イタルマッチジャパン株式会社製、製品名:デイクエスト2010)を0.6g、氷酢酸を29.8g(昭和電工株式会社製、製品名:99%純良酢酸)、35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:ダイヤパワーHP、アルミニウム微量含有)を16.8g、SUS304(別名:18Cr-8Ni、18クロムステンレス)のテストピースをポリエチレン容器内に入れ混合した。調合時の全過酸化物濃度は11.9%であった。混合後、25℃で10日間静置することで過酸化水素5.5質量%、酢酸48.7質量%、過酢酸13.4質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。SUS304のテストピースを入れた目的は、SUS容器で過酢酸組成物を製造することを想定したためである。得られた過酢酸組成物については、調合してから21日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0030】
(実施例2)
35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:UELM35)に硫酸カリウムアルミニウム・12水(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を添加し、添加後の35質量%の過酸化水素水溶液中のアルミニウム含有量を10μg/kgとしたこと以外は実施例1と同様に操作し、過酸化水素5.5質量%、酢酸48.9質量%、過酢酸13.1質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから21日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0031】
(実施例3)
35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:UELM35)に硫酸カリウムアルミニウム・12水(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を添加し、添加後の35質量%の過酸化水素水溶液中のアルミニウム含有量を100μg/kgとしたこと以外は実施例1と同様に操作し、過酸化水素5.5質量%、酢酸48.8質量%、過酢酸13.5質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから21日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0032】
(実施例4)
SUS304のテストピースを入れなかったこと、三菱ガス化学株式会社製の35質量%の過酸化水素水溶液(製品名:ダイヤパワーHP、アルミニウム微量含有)の代わりに三菱ガス化学株式会社製の35質量%の過酸化水素水溶液(製品名:35%過酸化水素)を使用したこと以外は実施例1と同様に操作し、過酸化水素5.5質量%、酢酸47.8質量%、過酢酸14.2質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから63日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0033】
(実施例5)
SUS304のテストピースを入れなかったこと、三菱ガス化学株式会社製の35質量%の過酸化水素水溶液(製品名:ダイヤパワーHP、アルミニウム微量含有)の代わりに三菱ガス化学株式会社製の35質量%の過酸化水素水溶液(製品名:35%過酸化水素)を使用したこと、イタルマッチジャパン株式会社製の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(製品名:デイクエスト2010)の代わりにキレスト株式会社製の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(製品名:PH-210)を使用したこと以外は実施例1と同様に操作し、過酸化水素5.5質量%、酢酸48.0質量%、過酢酸14.0質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから63日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0034】
(実施例6)
純水3.4gと60質量%の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(イタルマッチジャパン株式会社製、製品名:デイクエスト2010)を0.6g、氷酢酸を26.6g(昭和電工株式会社製、製品名:99%純良酢酸)、35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:35%過酸化水素)を19.4g、ポリエチレン容器内で混合した。調合時の全過酸化物濃度は13.7%であった。混合後、25℃で10日間静置することで過酸化水素7.4質量%、酢酸42.3質量%、過酢酸13.7質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから35日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0035】
(実施例7)
35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:35%過酸化水素)の代わりに35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:ダイヤパワーHP、アルミニウム微量含有)を使用したこと以外は実施例6と同様に操作し、過酸化水素7.5質量%、酢酸42.1質量%、過酢酸14.1質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから35日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0036】
(実施例8)
35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:35%過酸化水素)に鉄標準液(和光純薬工業株式会社製、Fe1000)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を添加し、添加後の35質量%の過酸化水素水溶液中の鉄含有量を100μg/kg、PO 3-含有量を52.9mg/kgとしたこと以外は実施例6と同様に操作し、過酸化水素7.3質量%、酢酸42.2質量%、過酢酸13.9質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから35日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0037】
(実施例9)
35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:35%過酸化水素)に鉄標準液(和光純薬工業株式会社製、Fe1000)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を添加し、添加後の35質量%の過酸化水素水溶液中の鉄含有量を510μg/kg、PO 3-含有量を52.9mg/kgとしたこと以外は実施例6と同様に操作し、過酸化水素7.3質量%、酢酸42.4質量%、過酢酸13.7質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから35日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0038】
(実施例10)
純水55.0gと60質量%の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(イタルマッチジャパン株式会社製、製品名:デイクエスト2010)を12.8g、氷酢酸を651.0g(昭和電工株式会社製、製品名:99%純良酢酸)、35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:35%過酸化水素)を381.1g、ポリエチレン容器内で混合した後、25℃で10日間静置することで過酸化水素5.8質量%、酢酸47.7質量%、過酢酸14.5質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.7質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。平衡定数は2.4であった。得られた過酢酸組成物を純水で1.2倍希釈し、25℃で10日間静置することで過酸化水素6.0質量%、酢酸42.4質量%、過酢酸9.4質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.6質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、平衡定数を算出し、引火点を測定した。
【0039】
(実施例11)
得られた過酢酸組成物を純水で1.3倍希釈した以外は実施例10と同様に操作し、過酸化水素6.0質量%、酢酸39.9質量%、過酢酸7.9質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.5質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、平衡定数を算出し、引火点を測定した。
【0040】
(実施例12)
得られた過酢酸組成物を純水で1.4倍希釈した以外は実施例10と同様に操作し、過酸化水素5.9質量%、酢酸37.7質量%、過酢酸6.2質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.5質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、平衡定数を算出し、引火点を測定した。
【0041】
(比較例1)
35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:ダイヤパワーHP、アルミニウム微量含有)の代わりに35質量%の過酸化水素水溶液(三菱ガス化学株式会社製、製品名:UELM35)を使用したこと以外は実施例1と同様に操作し、過酸化水素5.5質量%、酢酸48.7質量%、過酢酸13.5質量%、及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸0.8質量%を含有する食品添加物として使用される過酢酸組成物を得た。得られた過酢酸組成物については、調合してから21日後に全過酸化物濃度を測定し、安定度を算出した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】