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特許7156318圧延装置の制御方法、圧延装置の制御装置、および鋼板の製造方法
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  • 特許-圧延装置の制御方法、圧延装置の制御装置、および鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】圧延装置の制御方法、圧延装置の制御装置、および鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/58 20060101AFI20221012BHJP
   B21B 37/68 20060101ALI20221012BHJP
   B21B 1/26 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B21B37/58 B
B21B37/68 Z
B21B1/26 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020001623
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021109186
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日当 洸介
(72)【発明者】
【氏名】堀江 正之
(72)【発明者】
【氏名】木島 秀夫
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130550(JP,A)
【文献】特開2017-225989(JP,A)
【文献】特開2018-094608(JP,A)
【文献】特開2018-153831(JP,A)
【文献】特開2016-163893(JP,A)
【文献】特開2019-072757(JP,A)
【文献】特開2010-221230(JP,A)
【文献】特開平10-235421(JP,A)
【文献】特開平11-179414(JP,A)
【文献】特開昭62-127112(JP,A)
【文献】特開2002-126813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
C21D 8/12
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼工程にて精錬および鋳造され、加熱炉にて加熱された被圧延材を、複数の圧延機からなる圧延装置を用いて圧延する際の圧延装置の制御方法であって、
回帰器の説明変数として、前記被圧延材の製鋼工程に関する操業パラメータ群、加熱工程に関する操業パラメータ群のうちの少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式を用いて、前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測する予測ステップと、
予測された被圧延材のキャンバー量に基づいて、各圧延機の圧下レベリング量を算出する算出ステップと、
算出された圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御する制御ステップと
を含み、
前記圧延装置は、加熱工程の後、幅圧下工程において幅圧下装置を用いて幅圧下した被圧延材を、圧延するものであり、
前記予測ステップは、前記製鋼工程に関する操業パラメータ群、前記加熱工程に関する操業パラメータ群、前記幅圧下工程に関する操業パラメータ群のそれぞれから少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式を用いて、前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測するステップを含む
ことを特徴とする圧延装置の制御方法。
【請求項2】
前記予測ステップにおいて用いられる操業パラメータは、
前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、ケイ素当量、
前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、
前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量を含む
ことを特徴とする請求項に記載の圧延装置の制御方法。
【請求項3】
前記予測ステップにおいて用いられる操業パラメータは、
前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材の炭素当量、被圧延材のケイ素当量、被圧延材が精錬および鋳造された鋳造機番号を含み、
前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、加熱炉抽出温度を含み、
前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量、金型使用量、幅圧下前の被圧延材の板幅、幅圧下前の被圧延材の板厚を含む
ことを特徴とする請求項またはに記載の圧延装置の制御方法。
【請求項4】
前記算出ステップにより算出された圧下レベリング量に応じて前記圧延機のレベリング量を設定する設定ステップをさらに含み、
前記算出ステップは、予測された被圧延材の圧延機入側のキャンバー量と、圧延機における圧下レベリング量の操作に対する圧延機出側でのキャンバー量の変化の関係を表す影響係数と、を用いて、圧延機出側での被圧延材のキャンバー量を目標値に制御可能な圧下レベリング量を算出するステップを含み、
前記制御ステップは、前記設定ステップにより設定された圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御するステップを含む
ことを特徴とする請求項1からのうちのいずれか一項に記載の圧延装置の制御方法。
【請求項5】
製鋼工程にて精錬および鋳造され、加熱炉にて加熱された被圧延材を、複数の圧延機からなる圧延装置を用いて圧延する圧延装置の制御装置であって、
回帰器の説明変数として、前記被圧延材の製鋼工程に関する操業パラメータ群、加熱工程に関する操業パラメータ群のうちの少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された回帰器を有し、前記回帰器を用いて前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測する予測部と、
予測された被圧延材のキャンバー量に基づいて、各圧延機の圧下レベリング量を算出する算出部と、
算出された各圧延機の圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御する制御部と
を備え
前記圧延装置は、加熱工程の後、幅圧下工程において幅圧下装置を用いて幅圧下した被圧延材を、圧延するものであり、
前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータ群、前記加熱工程に関する操業パラメータ群、前記幅圧下工程に関する操業パラメータ群のそれぞれから少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式を用いて、前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測する
ことを特徴とする圧延装置の制御装置。
【請求項6】
前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、ケイ素当量、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量を用いて前記回帰器を構築する
ことを特徴とする請求項に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項7】
前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材の炭素当量、被圧延材のケイ素当量、および被圧延材が精錬および鋳造された鋳造機番号、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、および加熱炉抽出温度、前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量、金型使用量、幅圧下前の被圧延材の板幅、および幅圧下前の被圧延材の板厚を用いて前記回帰器を構築する
ことを特徴とする請求項またはに記載の圧延装置の制御装置。
【請求項8】
前記算出部により算出された圧下レベリング量に応じて前記圧延機のレベリング量を設定する設定部をさらに備え、
前記算出部は、前記予測部により予測された被圧延材のキャンバー量と、各圧延機における圧下レベリング量の操作に対する各圧延機の出側でのキャンバー量の変化の関係を表す影響係数と、を用いて、前記圧延装置の最終圧延パス出側での被圧延材のキャンバー量を目標値に制御可能な圧下レベリング量を算出し、
前記制御部は、前記設定部により設定された圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御する
ことを特徴とする請求項からのうちのいずれか一項に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項9】
請求項1からのうちのいずれか一項に記載の圧延装置の制御方法を用いて鋼板を製造するステップを含むことを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延装置の制御方法、圧延装置の制御装置、および鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱間圧延工程において、加熱炉で加熱された被圧延材は、幅圧下装置で幅圧下されたのち圧延機群によって所定の厚みまで圧延される。幅圧下装置において、被圧延材が有する板幅方向温度偏差および幅圧下時の入側におけるオフセンタ量によって、キャンバーおよびウェッジが発生することが知られている。これらの左右非対称要因である幅圧下後のキャンバー、ウェッジおよび被圧延材が有する板幅方向温度偏差は圧延機において、被圧延材にキャンバーを発生させ、ロールきずやサイドガイド等の設備損傷の要因となるだけでなく、製品の歩留まり、品質低下やラインの稼働率の低下を招く。また、幅圧下工程を含まない熱間圧延工程であっても、圧延工程において圧延機群の出側での被圧延材にキャンバーが発生する要因として、被圧延材の板幅方向温度偏差が挙げられる。この板幅方向温度偏差は、加熱炉で加熱された被圧延材を抽出する際に、抽出扉が開くことで流入する外気によって抽出側から冷却されることにより生じる。そこで圧延工程においては、従来から被圧延材のキャンバーを抑制する技術が種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、圧延機の入出側にて測定されたキャンバー量と、少なくとも、被圧延材の鋳造ストランド情報と、被圧延材を加熱する加熱炉の内部で隣り合う被圧延材同士の炉内材間距離のデータとを蓄積し、鋳造ストランド情報と、炉内材間距離が同じと見做せる被圧延材は同様の幅方向温度偏差を有するとして、圧延機のレベリング値を設定する圧延機のレベリング設定方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、被圧延材の加熱炉の均熱帯における滞在時間と、加熱炉内で隣接する被圧延材との間隔と、被圧延材の幅とに基づいて、圧延機のレベリング値を設定する圧延機のレベリング設定方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、測定した幅圧下装置の入側にて測定された温度偏差、板幅、幅圧下装置における幅圧下量に応じて、圧延機のレベリング値を設定する圧延機のレベリング設定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-225989号公報
【文献】特許第6269536号公報
【文献】特許第6311627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、圧延開始前における被圧延材の幅方向の温度偏差に起因する幅方向の変形抵抗の差を考慮して圧延機のレベリング設定を行っているのみであり、圧延開始前の被圧延材がキャンバーを有している場合には適用できない。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法では、加熱条件を考慮して圧延機のレベリング設定を行っているのみであり、製鋼工程、幅圧下工程の操業条件が変化した際には適用できない。
【0009】
特許文献3に記載の方法では、被圧延材の板幅方向板厚偏差を測定する必要があるが、高温かつ酸化スケールを有する鋼板の板厚偏差を安定的に精度良く測定するのは困難である。さらに、幅圧下後にキャンバーが発生した場合には適用できない。
【0010】
また、上述したように幅圧下工程を含まない熱間圧延工程であっても、加熱工程で被圧延材に生じる板幅方向温度偏差によって、圧延工程において圧延機群の出側での被圧延材にキャンバーが発生することがある。そのため、幅圧下工程を含まない熱間圧延工程にも適用可能であることが望まれる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、被圧延材の製鋼条件、加熱条件に起因してキャンバーが発生する場合であっても、圧延装置の最終圧延パス出側での被圧延材のキャンバーを抑制することができる圧延装置の制御方法、圧延装置の制御装置、および鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、製鋼工程にて精錬および鋳造され、加熱炉にて加熱された被圧延材を、複数の圧延機からなる圧延装置を用いて圧延する際の圧延装置の制御方法であって、回帰器の説明変数として、前記被圧延材の製鋼工程に関する操業パラメータ群、加熱工程に関する操業パラメータ群のうちの少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式を用いて、前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測する予測ステップと、予測された被圧延材のキャンバー量に基づいて、各圧延機の圧下レベリング量を算出する算出ステップと、算出された圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御する制御ステップとを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、上記発明において、前記予測ステップにおいて用いられる操業パラメータは、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、ケイ素当量、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、上記発明において、前記予測ステップにおいて用いられる操業パラメータは、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材の炭素当量、被圧延材のケイ素当量、被圧延材が精錬および鋳造された鋳造機番号を含み、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、加熱炉抽出温度を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、上記発明において、前記圧延装置は、加熱工程の後、幅圧下工程において幅圧下装置を用いて幅圧下した被圧延材を、圧延するものであり、前記予測ステップは、前記製鋼工程に関する操業パラメータ群、前記加熱工程に関する操業パラメータ群、前記幅圧下工程に関する操業パラメータ群のそれぞれから少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式を用いて、前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測するステップを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、上記発明において、前記予測ステップにおいて用いられる操業パラメータは、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、ケイ素当量、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、上記発明において、前記予測ステップにおいて用いられる操業パラメータは、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材の炭素当量、被圧延材のケイ素当量、被圧延材が精錬および鋳造された鋳造機番号を含み、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、加熱炉抽出温度を含み、前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量、金型使用量、幅圧下前の被圧延材の板幅、幅圧下前の被圧延材の板厚を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る圧延装置の制御方法は、上記発明において、前記算出ステップにより算出された圧下レベリング量に応じて前記圧延機のレベリング量を設定する設定ステップをさらに含み、前記算出ステップは、予測された被圧延材の圧延機入側のキャンバー量と、圧延機における圧下レベリング量の操作に対する圧延機出側でのキャンバー量の変化の関係を表す影響係数と、を用いて、圧延機出側での被圧延材のキャンバー量を目標値に制御可能な圧下レベリング量を算出するステップを含み、前記制御ステップは、前記設定ステップにより設定された圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御するステップを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、製鋼工程にて精錬および鋳造され、加熱炉にて加熱された被圧延材を、複数の圧延機からなる圧延装置を用いて圧延する圧延装置の制御装置であって、回帰器の説明変数として、前記被圧延材の製鋼工程に関する操業パラメータ群、加熱工程に関する操業パラメータ群のうちの少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された回帰器を有し、前記回帰器を用いて前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測する予測部と、予測された被圧延材のキャンバー量に基づいて、各圧延機の圧下レベリング量を算出する算出部と、算出された各圧延機の圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、上記発明において、前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、ケイ素当量、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間を用いて前記回帰器を構築することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、上記発明において、前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材の炭素当量、被圧延材のケイ素当量、および被圧延材が精錬および鋳造された鋳造機番号、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、および加熱炉抽出温度を用いて前記回帰器を構築することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、上記発明において、前記圧延装置は、加熱工程の後、幅圧下工程において幅圧下装置を用いて幅圧下した被圧延材を、圧延するものであり、前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータ群、前記加熱工程に関する操業パラメータ群、前記幅圧下工程に関する操業パラメータ群のそれぞれから少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式を用いて、前記圧延装置の入側での前記被圧延材のキャンバー量を予測することを特徴とする。
【0023】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、上記発明において、前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、ケイ素当量、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量を用いて前記回帰器を構築することを特徴とする。
【0024】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、上記発明において、前記予測部は、前記製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材の炭素当量、被圧延材のケイ素当量、および被圧延材が精錬および鋳造された鋳造機番号、前記加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、および加熱炉抽出温度、前記幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量、金型使用量、幅圧下前の被圧延材の板幅、および幅圧下前の被圧延材の板厚を用いて前記回帰器を構築することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る圧延装置の制御装置は、上記発明において、前記算出部により算出された圧下レベリング量に応じて前記圧延機のレベリング量を設定する設定部をさらに備え、前記算出部は、前記予測部により予測された被圧延材のキャンバー量と、各圧延機における圧下レベリング量の操作に対する各圧延機の出側でのキャンバー量の変化の関係を表す影響係数と、を用いて、前記圧延装置の最終圧延パス出側での被圧延材のキャンバー量を目標値に制御可能な圧下レベリング量を算出し、前記制御部は、前記設定部により設定された圧下レベリング量に基づいて、各圧延機を制御することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る鋼板の製造方法は、上記発明に係る圧延装置の制御方法を用いて鋼板を製造するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、製鋼工程にて精錬および鋳造され、加熱炉にて加熱された被圧延材を、圧延装置によって複数パス圧延して、鋼板を製造する圧延工程において、圧延装置の最終圧延パス出側での被圧延材のキャンバーを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施形態における圧延装置の一構成例を示す図である。
図2図2は、圧延機の圧下レベリング量を説明するための図である。
図3図3は、被圧延材のキャンバー量を説明するための図である。
図4図4は、実施形態における圧延装置の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態における圧延装置の制御方法、圧延装置の制御装置、および鋼板の製造方法について説明する。なお、本実施の形態では、本発明を適用する圧延装置の一例として、熱間圧延ラインの粗圧延装置を例示するが、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0030】
[1.熱間圧延ライン]
図1は、実施形態における圧延装置の一構成例を示す図である。制御装置1は、熱間圧延ライン100において複数の被圧延材に対し複数パスの圧延を順次行う粗圧延装置10の各圧延パスの圧下レベリング量を制御するものである。熱間圧延ライン100には、粗圧延装置10よりも上流側の搬送経路に配置された幅圧下装置30や加熱炉40や連続鋳造機50や、粗圧延装置10よりも下流側に配置された仕上圧延装置(図示せず)等の設備が含まれる。連続鋳造機50を用いた連続鋳造は、製鋼工程に含まれる。製鋼工程は、溶銑予備処理、転炉、二次精錬、連続鋳造の順に実施される処理工程のことである。例えば、連続鋳造機50によって精錬および鋳造された被圧延材は、加熱炉40で加熱された後、搬送経路に沿って順次搬送され、幅圧下装置30を通り、その後、粗圧延装置10によって圧延が行われる。熱間圧延工程による複数パス圧延(粗圧延)後の被圧延材は、仕上圧延装置等の熱間圧延ライン100の各種設備を通り、その後、コイラー(図示せず)によってコイル状に巻かれる。その搬送経路は、熱間圧延ライン100において複数の被圧延材を順次搬送するためのものであり、複数の搬送ロール(図示せず)によって構成される。
【0031】
熱間圧延ライン100では、被圧延材20の幅方向の温度偏差や板厚偏差、圧延ロールの幅方向の開度の不均等などの種々の要因によって、被圧延材20の水平方向の曲がり、いわゆるキャンバーが発生する。被圧延材20のキャンバー量が大きい場合、圧延ロールやサイドガイド等の設備が損傷する可能性がある。また、粗圧延で生じたキャンバー量が大きい場合、仕上圧延機(図示せず)において被圧延材20の尾端部が尻抜けする際に、被圧延材20がサイドガイドに衝突してエッジ部が折れ込んだ状態で圧延される、いわゆる「絞り込み」と呼ばれる圧延トラブルが発生することがある。
【0032】
幅圧下装置30において、キャンバーが発生する要因として板幅方向の温度偏差、プレス金型へのオフセンタが主に挙げられる。板幅方向の温度偏差は、加熱炉40にて加熱された被圧延材20が抽出される際、抽出扉が開くことで流入する外気によって抽出側から冷却されることで生じる。また、加熱炉40においては長短の異なる被圧延材20が隣接もしくは被圧延材20の長手方向の装入位置によって、先尾端部における加熱状態が長手中央部と比較して異なることで板幅方向の温度偏差が生じる。加えて、被圧延材20がプレス金型に対してオフセンタした状態で搬送され幅圧下を受けることで、左右不均等な圧下が生じキャンバーおよびウェッジが生じる。
【0033】
一方で、キャンバーを抑制するには被圧延材20の幅方向温度差および被圧延材20の製鋼工程、加熱工程、幅圧下工程、圧延工程における操業パラメータを総合的に勘案して決定する必要がある。しかし、物理モデルとして直接利用可能なパラメータは操業パラメータ群の内、非常に限定的なものとなっている。従来は被圧延材20の板幅方向温度偏差、その圧延機におけるレベリング操作によって変化するキャンバー量などを用いて圧延機出側のキャンバー量を予測していた。しかし、物理モデルを用いてある限られた一部分のみのパラメータ群を用いて予測を行っており、そのキャンバー量の予測精度は不十分であった。
【0034】
そこで、本発明者らは、熱間圧延工程の粗圧延におけるキャンバーの発生状況と圧延時の操業条件との関係を詳細に解析し、キャンバーの防止方法について鋭意検討した結果、被圧延材20の製鋼工程、加熱工程、幅圧下工程に関する操業パラメータ群の少なくとも1つ以上を用いることで、圧延機入側でのキャンバーを高精度に予測することが可能であることを見出した。さらに、回帰器による幅圧延後のキャンバー予測方法を用いて、粗圧延機におけるレベリング制御量を変更することで圧延機出側でのキャンバー量を抑制できることを見出した。つまり、本発明では、被圧延材20の各操業パラメータを包括的に考慮することのできる回帰器を用いて、キャンバー量の予測およびレベリング設定を行うことで、従来にない精度向上を確認した。なお、単に「圧延機入側」と記載した場合には、粗圧延装置10の第1圧延パス入側を意味する。同様に、単に「圧延機出側」と記載した場合には、粗圧延装置10の最終圧延パス出側を意味する。
【0035】
[1-1.制御対象の圧延装置]
粗圧延装置10は、被圧延材20に対して総圧延パス数Nの複数パス圧延(複数の圧延パスの粗圧延)を行い、かつ複数の圧延機によって複数パス圧延を分担して行うように構成されている。図1に示すように、粗圧延装置10は、全4スタンドの圧延機からなる圧延機群であり、被圧延材20の搬送方向に沿って順に配置された、第1圧延機11、第2圧延機12、第3圧延機13、第4圧延機14を備えている。第1~第4圧延機11~14は、いずれも一対の圧延ロールおよび一対のバックアップロールを有する4段型の圧延機である。その一対の圧延ロールは、搬送ロール(図示せず)を挟んで被圧延材20の厚さ方向D1に対向する位置に配置されている。なお、被圧延材20の搬送方向は、被圧延材20の長手方向D2と同じ方向である。
【0036】
また、第1~第4圧延機11~14は、それぞれに第1~第4圧下装置11a~14aを備えている。各圧下装置11a,12a,13a,14aは、それぞれに対応する圧延機11,12,13,14の圧下レベリング量を調整する。図2に示すように、圧下レベリング量Lvは、被圧延材20を圧延する圧延ロール11b,11cのロール軸方向の両端部間での圧下量(圧下レベル)の差として定義される。この圧下レベリング量Lvの定義は、第1~第4圧延機11~14について同様である。例えば第1圧延機11の圧下レベリング量を調整する場合には第1圧下装置11aが制御され、第2圧延機12の圧下レベリング量を調整する場合には第2圧下装置12aが制御される。つまり、制御装置1は、各圧延機11~14の圧下レベリング量が個別に制御可能である。
【0037】
[1-2.制御装置]
制御装置1は、キャンバー量測定部2と、記憶部3と、演算処理部4と、制御部5とを備える。
【0038】
キャンバー量測定部2は、制御対象の複数の圧延装置による圧延パス出側でのキャンバー量を測定するものであり、キャンバーの発生方向および発生量を、撮像装置などによって光学的に検出し、記憶部3および演算処理部4に送信する。キャンバー量は、曲率として定義する。例えば、被圧延材20のキャンバーの曲がり状況について、圧延機の圧延ロールの作業側への曲りを正、駆動側への曲りを負といったように区別することができる。なお、キャンバー量の詳細は、図3を参照して後述する。
【0039】
記憶部3は、各圧延パスの圧下レベリング量の制御に必要な各種情報を記憶するものである。図1に示すように、記憶部3は、影響係数テーブル3aを記憶する。影響係数テーブル3aは、圧下レベリング制御の演算処理に用いられる影響係数Kを含むデータテーブルである。記憶部3は、粗圧延装置10に対する各圧延パスの圧下レベリング制御用として、影響係数テーブル3aを保持、管理し、演算処理部4からの要求に応じて演算処理に必要な影響係数Kを演算処理部4に提供する。
【0040】
影響係数Kは、各圧延パスの圧下レベリング操作が各圧延パス出側でのキャンバー量の変化に影響する度合いを示す係数である。影響係数Kは、i番目圧延パスの圧下レベリング操作の影響を受けたi番目圧延パス出側でのキャンバー量の変化(∂Cam)と、このi番目圧延パスの圧下レベリング操作による圧下レベリング量の変化(∂Lv)との比(∂Cam/∂Lv)、すなわち次式(1)によって表される。
【0041】
【数1】
【0042】
式(1)において、圧下レベリング量Lvは、i番目圧延パスの圧下レベリング操作前の圧下レベリング量である。圧下レベリング操作量dLvは、i番目圧延パスの圧下レベリング操作による圧下レベリング変化量である。キャンバー量Cam(Lv)は、i番目圧延パスの圧下レベリング量がLvである際の被圧延材20のi番目圧延パス出側でのキャンバー量である。キャンバー量Cam(Lv+dLv)は、i番目圧延パスの圧下レベリング量が(Lv+dLv)である際の被圧延材20のi番目圧延パス出側でのキャンバー量である。
【0043】
影響係数Kは、次のように取得することができる。例えば、粗圧延装置10が被圧延材20に対して総圧延パス数Nの複数パス圧延を行っている際、ある一つの圧延機を実際に圧下レベリング操作し、この圧下レベリング操作の前後において、圧延後の被圧延材の圧延パス出側での各キャンバー量を測定する。このようにして得られた圧下レベリング操作前後での各キャンバー量と、そのときの圧下レベリング操作前の圧下レベリング量および圧下レベリング操作量とを式(1)に代入する。これにより、影響係数Kは、式(1)から同定(算出)することができる。
【0044】
このようにして得られる複数の影響係数Kは、粗圧延装置10の圧延機毎、被圧延材20の圧延前の幅方向温度偏差毎、被圧延材20の圧延条件毎に設定される。それら複数の影響係数Kが記憶部3の影響係数テーブル3aに記憶されている。これにより、影響係数テーブル3aには、粗圧延装置10の各圧延機11~14、被圧延材20の圧延前の幅方向温度偏差、および被圧延材20の圧延条件と対応付けた複数の影響係数Kが含まれる。本実施の形態において、影響係数Kと対応付ける被圧延材20の圧延条件は、例えば、被圧延材20に対し設定される圧延後の目標とする板厚および板幅、各圧延機11~14に設定される圧下率、被圧延材20の材料強度等である。
【0045】
演算処理部4は、回帰器を用いて構築された圧延機入側のキャンバー量の予測値と各操業パラメータとの関係式によって、予測されたキャンバー量と、予測されたキャンバー量を圧延機出側の制御目標値に制御可能な粗圧延装置10での各パス圧延による圧下レベリング量を、影響係数Kを用いて算出する。すなわち、演算処理部4によって圧下レベリング量が圧延パス毎に算出(設定)される。
【0046】
制御部5は、被圧延材20に対して複数圧延パスを行う粗圧延装置10の各圧延パスの圧下レベリング制御を実行するものである。制御部5は、演算処理部4によって算出された各圧延機の圧下レベリング量をもとに、各圧延機11,12,13,14の圧下装置11a,12a,13a,14aを制御する。制御部5は、それらの複数の圧下装置11a~14aの制御を通して、粗圧延装置10による複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を制御する。
【0047】
[2.被圧延材のキャンバー量]
ここで、図3を参照して、キャンバー量について説明する。図3は、被圧延材20のキャンバー量Camを説明するための図である。なお、被圧延材20の長手方向D2は、被圧延材20の搬送方向と同一であり、被圧延材20の先端側(順方向)を正とし、尾端側(逆方向)を負とする。被圧延材20の幅方向D3は、搬送ロールのロール軸方向および各圧延機11~14の各圧延ロールのロール軸方向と同一である。さらに、幅方向D3は、長手方向D2の正側に向かって左側(作業側)を正とし、右側(駆動側)を負とする。また、厚さ方向(板厚方向)D1、長手方向D2、および幅方向D3は、互いに垂直な方向である。
【0048】
図3に示すように、被圧延材20のキャンバー量Camは、複数パス圧延の各圧延パス出側における被圧延材20の長手方向D2に対する幅方向D3の正側または負側の曲がり量として定義される。具体的には、キャンバー量Camは、i番目圧延パス出側における被圧延材20の幅方向中心位置S1と被圧延材20の基準位置S2との距離の最大値として定義される。
【0049】
また、キャンバー量Camの正負の符号(キャンバーの発生方向)は、被圧延材20の基準位置S2に対する幅方向中心位置S1の位置ズレの方向と幅方向D3との関係によって決定される。図3に示す被圧延材20では、幅方向中心位置S1は、基準位置S2に対して幅方向D3の正側(作業側)に位置ズレしているため、キャンバー量Camは、正の値になる。すなわち、図示しないが、幅方向中心位置S1が基準位置S2に対して幅方向D3の負側に位置ズレしている場合、キャンバー量Camは、負の値になる。なお、基準位置S2は、被圧延材20の先端部20aにおける幅方向中心位置Waと尾端部20bにおける幅方向中心位置Wbとを通る直線(基準線)によって表される。キャンバー量Camは、被圧延材20の長手方向D2の中心位置における幅方向中心位置S1と基準位置S2との距離になる。
【0050】
[3.圧延装置の制御方法]
次に、図4を参照して、圧延装置の制御方法について説明する。図4は、実施形態における制御方法の一例を示すフローチャートである。図4に示す制御方法は、制御装置1によって実行される。制御装置1は、図4に示すステップS101~S103を順次実行する。
【0051】
図4に示すように、演算処理部4は、粗圧延装置10の入側での被圧延材20のキャンバー量を予測する(ステップS101)。演算処理部4は、予め構築されたモデルを用いて圧延機入側でのキャンバー量を予測する。
【0052】
ステップS101において、粗圧延装置10の入側での被圧延材20のキャンバー量を算出(予測)する際に用いる特徴量として、少なくとも、被圧延材20の圧延機入側のキャンバー量と被圧延材20の加熱炉抽出時に得られる各緒元、製鋼工程、加熱工程、幅圧下工程に関する操業パラメータ群を用いて、被圧延材20の圧延機入側のキャンバー量を求める関係式を作成する。つまり、この関係式は、回帰器の説明変数として、製鋼工程に関する操業パラメータ、加熱工程に関する操業パラメータ、幅圧下工程に関する操業パラメータのそれぞれから少なくとも1つの操業パラメータを用いて機械学習によって構築された式である。なお、関係式の構築にはすべての特徴量を用いてもよいし、主成分分析や寄与度分析等の手法を用いて特徴量を選択してもよい。また、特徴量として、温度や寸法などの量的変数のみだけでなく、抽出炉番号や鋳造ストランド番号や鋼種等の質的変数も用いることができる。
【0053】
例えば、機械学習手法の一つであるXGBoostを用いた機械学習によって、変数の重要度から下記の特徴量が選定される。具体的には、製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材20の炭素当量(C当量)、被圧延材20のケイ素当量(Si当量)、被圧延材20が精錬および鋳造された鋳造機番号と、加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、加熱炉抽出温度と、幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量、金型使用量、幅圧下前の被圧延材20の板幅、幅圧下前の被圧延材20の板厚とが選定される。
【0054】
上述した操業パラメータ群のなかでも、各工程における寄与度の高い特徴量として、製鋼工程に関する操業パラメータとして、被圧延材20のケイ素当量、加熱工程に関する操業パラメータとして、均熱帯在炉時間、幅圧下工程に関する操業パラメータとして、幅圧下量が選定される。
【0055】
次に、上述した特徴量の全てと圧延機入側のキャンバー量とを回帰器に入力して、各特徴量と被圧延材20の圧延機入側のキャンバー量の関係式を作成した。入力データは最大値および最小値にて正規化を行い、操業データ1万コイル分において、7000コイルにて学習し、残りの3000コイルにてモデル予測精度を検証した。1万コイルの圧延機出側キャンバー量は誤差平均15.1mm、標準偏差28.6mmであった。はじめに、回帰器としてニューラルネットを用いて、ここでは、中間層を3層とし、ノード数は100個ずつとした。活性化関数にはシグモイド関数を用いた。モデル予測精度は、誤差平均2.2mm、標準偏差19.1mmであった。
【0056】
また、同様に回帰器として、XGBoostを用いて作成した。ここでは、学習率を0.2、損失還元の最小値を0.1、木の深さの最大値を12、子ノードの最小の重みを1、ブースティング回数を500とした。モデル予測精度は、誤差平均0.2mm、標準偏差15.3mmであった。この結果より、各特徴量を用いた圧延後のキャンバー量予測の回帰器としては、XGBoostを用いた予測がより優位な結果となった。
【0057】
ただし、機械学習を用いた回帰器として特にその手法に限定されることはない。例えば、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰、ガウシアンプロセス、ニューラルネット、XGBoostなどを用いることができる。さらに、その少なくとも2つ以上の回帰器を組み合わせたアンサンブル機械学習を用いることもできる。
【0058】
ステップS101を実行後、制御装置1は、粗圧延装置10による複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を算出する(ステップS102)。
【0059】
粗圧延装置10の圧下レベリング量の設定可能範囲は、第1~第4圧延機11~14の各圧下レベリング量の設定可能範囲(以下「圧下レベリング量の設定可能範囲」と適宜略記する)に相当する。すなわち、圧延機の各圧下レベリング量には、圧延機毎の構造(設備仕様)等に基づいて設定可能な上限値および下限値が存在し、圧延機の各々に設定し得る圧下レベリング量の上限値以下、下限値以上の有限な範囲が、圧下レベリング量の設定可能範囲になる。そのため、演算処理部4は、このような圧下レベリング量の設定可能範囲内において実行可能な圧下レベリング操作量を算出する。
【0060】
ステップS102を実行後、制御装置1は、粗圧延装置10による被圧延材20の複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を制御する(ステップS103)。ステップS103において、制御部5は、上述したステップS102において算出された各圧延パスの圧下レベリング量をもとに、各圧下装置11a,12a,13a,14aを制御して、粗圧延装置10による複数パス圧延時における各圧延パスの圧下レベリング量を制御する。そして、ステップS103を実行後、制御装置1は、本処理を終了する。また、本発明は、例えば熱間圧延工程の被圧延材20に対して、上述した実施形態における圧延装置の制御方法によって圧延を行うことにより、鋼板の製造方法として実施することも可能である。すなわち、実施形態における鋼板の製造方法としては、上述した圧延装置の制御方法を用いて鋼板を製造するステップを含むことになる。
【0061】
なお、熱間圧延ライン100は、幅圧下装置30を備えていなくてもよい。この場合、幅圧下工程に関する操業パラメータを用いずに、上述した算出処理を実施することが可能である。例えば、上述した図1に示す熱間圧延ライン100から幅圧下装置30を削除した熱間圧延ラインである。この幅圧下装置30を備えない熱間圧延ライン100では、幅圧下工程が実施されないので、キャンバーを抑制するために、被圧延材20の幅方向温度差および被圧延材20の製鋼工程、加熱工程、圧延工程における操業パラメータを総合的に勘案して決定すればよい。すなわち、粗圧延装置10の出側での被圧延材20のキャンバー量を算出および各圧延機11~14の圧下レベリング量を設定する際の特徴量から、幅圧下工程に関する操業パラメータ群が省かれる。要するに、被圧延材20の製鋼工程、加熱工程、圧延工程に関する操業パラメータ群を用いて、圧延機出側でのキャンバー量を制御目標値に制御可能な各圧延機における圧下レベリング量を算出するように機械学習された回帰器を構築し、この回帰器を用いて算出された圧下レベリング量に基づいて各圧延機を制御すればよい。
【0062】
この幅圧下装置30を備えない熱間圧延ライン100では、粗圧延装置10において圧延機出側でキャンバーが発生する要因として、板幅方向の温度偏差が挙げられる。板幅方向の温度偏差は、幅圧下装置30を備えない場合でも、加熱炉40にて加熱された被圧延材20が抽出される際、抽出扉が開くことで流入する外気によって抽出側から冷却されることにより生じる。さらに、加熱炉40においては長短の異なる被圧延材20が隣接もしくは被圧延材20の長手方向の装入位置によって、先尾端部における加熱状態が長手中央部と比較して異なることで板幅方向の温度偏差が生じる。
【0063】
ここで、本発明の効果について、熱間圧延工程における前記実施形態を適用した場合を想定した検証例(実施例1~3)を挙げて説明する。
【0064】
(実施例1)
被圧延材20を幅方向に圧下する金型を備えた幅圧下装置30と、作業ロールおよび補強ロールからなる4段圧延機とを有する熱間圧延ライン100にて本発明の検証を行った。圧延対象は実施例1では長さ6000~8000mm、厚み260mm、幅900~1500mmのスラブとし、幅圧下装置30における幅圧下量は50~300mm、粗圧延装置10の最終圧延パス出側での板厚は190~210mmである。
【0065】
また、表1には、従来技術として、圧延開始前に無負荷時のロールギャップ差が駆動側と作業側にて差がないよう設定したレベリング量を初期値として、圧延中はレベリング量を一定に保った方法(従来例:一定)と、オペレータによる目視での情報に基づくレベリング操作を行った方法(従来例:手介)とを例示する。また、機械学習を用いた実施例として、表1には、キャンバーを制御すべき対象材について加熱炉抽出後かつ圧延開始前に、実施形態で示した特徴量の全てを用いて、それぞれニューラルネットを用いて構築したキャンバーの予測モデルとXGBoostを用いて構築したキャンバー量の予測モデルとを用いて、幅圧延後のキャンバー量を算出した方法(実施例:XGBoost:全特徴量)を例示する。さらに、表1には、選択された特徴量のうち各工程にて寄与度の高い特徴量として、製鋼工程におけるケイ素当量、加熱工程における均熱帯在炉時間、幅圧下工程における幅圧下量に限定してXGBoostを用いて構築したキャンバー量の予測量を用いて算出し、算出されたキャンバー量に対して、制御目標キャンバー量となるようなレベリング操作量を事前に設定された影響係数を用いて決定し、圧下レベリングを設定した方法(実施例:XGBoost:全特徴量)が例示されている。
【0066】
【表1】
【0067】
そして、表1に示す例では、制御目標値は0mmとした。表1に示すように、本技術を適用し、計500コイルを圧延したところ、XGBoostによる全特徴量を用いたレベリング設定方法が最も優位であり、キャンバー量は平均0mm、標準偏差18mmであった。以上のように、実施例1によれば、本発明による熱間圧延方法の適用により、キャンバー量が制御目標値通りに制御可能であることを確認した。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様に、被圧延材20を幅方向に圧下する金型を備えた幅圧下装置30と、作業ロールおよび補強ロールからなる4段圧延機とを有する熱間圧延ライン100にて本発明の検証を行った。圧延対象は本実施例2では長さ6000~8000mm、スラブ厚み230mmを、幅900~1500mmのスラブとし、幅圧下装置30における幅圧下量は50~300mm、粗圧延装置10の最終圧延パス出側での板厚は160~180mmである。
【0069】
また、表2には、従来技術として、圧延開始前に無負荷時のロールギャップ差が駆動側と作業側にて差がないよう設定したレベリング量を初期値として、圧延中はレベリング量を一定に保った方法(従来例:一定)と、オペレータによる目視での情報に基づくレベリング操作を行った方法(従来例:手介)とを例示する。さらに、表2には、機械学習を用いた実施例として、XGBoostを用いて、実施形態にて説明した特徴量全てを用いて構築した圧延機入側キャンバーの予測モデルを用いて、圧下レベリングを設定した方法(実施例:XGBoost:全特徴量)を例示する。
【0070】
【表2】
【0071】
そして、表2に示す例では、制御目標値は0mmとした。表2に示すように、本技術を適用し、計500コイルを圧延したところ、XGBoostによる全特徴量を用いたレベリング設定方法が最も優位であり、キャンバー量は平均1mm、標準偏差16mmであった。以上のように、実施例2によれば、本発明による熱間圧延方法の適用により、キャンバー量が制御目標値通りに制御可能であることを確認した。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同様に、被圧延材20を幅方向に圧下する金型を備えた幅圧下装置30と、作業ロールおよび補強ロールからなる4段圧延機とを有する熱間圧延ライン100にて本発明の検証を行った。圧延対象は本実施例3では長さ6000~8000mm、スラブ厚み260mm、幅900~1500mmのスラブとし、本実施例3においては幅圧下装置30における幅圧下量を行わない物を対象とし、粗圧延装置10の最終圧延パス出側での板厚は190~210mmとした。つまり、実施例3は、幅圧下工程が必須ではない製造工程、すなわち幅圧下装置30を備えない熱間圧延ライン100を対象とする実施例である。
【0073】
また、表3には、従来技術として、圧延開始前に無負荷時のロールギャップ差が駆動側と作業側にて差がないよう設定したレベリング量を初期値として、圧延中はレベリング量を一定に保った方法(従来例:一定)と、オペレータによる目視での情報に基づくレベリング操作を行った方法(従来例:手介)とを例示する。さらに、表3には、機械学習を用いた実施例として、XGBoostを用いて、実施形態にて説明した特徴量の全てを用いて構築したキャンバーの予測モデルおよび圧延機のレベリング設定値を用いて、圧下レベリングを設定した方法(実施例:XGBoost:全特徴量)を例示する。
【0074】
【表3】
【0075】
そして、表3に示す例では、制御目標値は0mmとした。表3に示すように、本技術を適用し、計500コイルを圧延したところ、XGBoostによる全特徴量を用いたレベリング設定方法が最も優位であり、キャンバー量は平均0mm、標準偏差16mmであった。以上のように、実施例3によれば、本発明による熱間圧延方法の適用により、圧延条件が異なる場合においてもキャンバー量が制御目標値通りに制御可能であることを確認した。このように、本発明によってキャンバー量は低位に制御が可能であり、その結果として、通板不良による稼働率の低下および設備破損等を低減することが可能である。本発明による熱間圧延方法の適用により、キャンバー量が制御目標値通りに制御可能であることを確認した。
【0076】
以上説明した通り、実施形態によれば、連続鋳造機50にて精錬および鋳造され、加熱炉40にて加熱された被圧延材20を、粗圧延装置10によって複数パス圧延して、鋼板を製造する圧延工程において、粗圧延装置10の最終圧延パス出側での被圧延材20のキャンバーを抑制することが可能となる。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。例えば、制御対象の圧延装置は、仕上圧延装置等、粗圧延装置以外の圧延装置であってもよい。
【0078】
また、制御対象の圧延装置(粗圧延装置10)は、全4スタンドまたは全5スタンドの圧延機を備えている構成に限定されない。制御対象の圧延装置を構成する圧延機の数(スタンド数)は、被圧延材20に対して複数パス圧延が行えるのであれば、1つであってもよいし、複数であってもよい。つまり、本発明において、制御対象の圧延装置を構成する圧延機のスタンド数は特に問われない。加えて、圧延機の各ロール段数は、4段に限定されず、所望の段数であってもよい。すなわち、圧延機のロール段数および複数パス圧延の総圧延パス数も特に問われない。
【0079】
さらに、圧延装置を構成する圧延機は、被圧延材に対し順方向の圧延を行う圧延機(非可逆式の圧延機)であるか、あるいは順方向の圧延と逆方向の圧延とを被圧延材20に行う圧延機(可逆式の圧延機)であるかは特に限定されない。つまり、本発明において、制御対象の圧延装置は、複数の圧延機が全て非可逆式または可逆式によって構成されていてもよく、あるいは1つ以上の非可逆式の圧延機と1つ以上の可逆式の圧延機とを備えるものであってもよい。上述した実施例2のように第1基目の圧延機を可逆式の圧延機とする場合に限らず、第2基目以降の圧延機を可逆式とする場合、その可逆式の圧延機による順方向の圧延および逆方向の圧延は、被圧延材20に対する複数パス圧延の何れの圧延パスで行ってもよい。このように、圧延機が可逆式または非可逆式であるかを問わず、圧延装置における第1の圧延パス入側で被圧延材のキャンバー量を測定すれば、その後の複数パス圧延によるキャンバー量を予測することができる。
【0080】
また、キャンバー量の正負の定義(キャンバーの発生方向の定義)は、上述した実施の形態とは逆に、作業側が負、駆動側が正であってもよい。すなわち、被圧延材20のキャンバーの曲がり状況について、圧延機の圧延ロールの駆動側への曲りを正、作業側への曲りを負といったように区別してもよい。
【0081】
さらに、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 制御装置
2 キャンバー量測定部
3 記憶部
4 演算処理部
5 制御部
10 粗圧延装置
11,12,13,14 第1~第4圧延機
11a,12a,13a,14a 第1~第4圧下装置
11b,11c 圧延ロール
20 被圧延材
30 幅圧下装置
40 加熱炉
50 連続鋳造機
100 熱間圧延ライン
図1
図2
図3
図4