IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-めっき方法 図1
  • 特許-めっき方法 図2
  • 特許-めっき方法 図3
  • 特許-めっき方法 図4
  • 特許-めっき方法 図5
  • 特許-めっき方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/10 20060101AFI20221012BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20221012BHJP
   C25D 17/16 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C25D21/10 301
C25D17/00 H
C25D17/16 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020037322
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021138999
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100158207
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 尚志
(72)【発明者】
【氏名】細川 孝夫
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217216(WO,A1)
【文献】特開平02-291000(JP,A)
【文献】特開2007-191726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/00
C25D 17/00-17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液を貯留するめっき槽と、
前記めっき槽の内部に設けられ、被めっき物に電解めっきを施す、めっき部と、を備え、
前記めっき部は、
少なくとも一部が、前記めっき液は通過させるが、前記被めっき物およびメディアは通過させない隔壁に囲まれ、上方から下方に向かって前記被めっき物および前記メディアを通過させる被めっき物通過領域と、
前記めっき液を下方から上方へと噴射する噴射部と、
前記噴射部より上方、かつ、前記被めっき物通過領域より下方に配設され、前記噴射部によって噴射された前記めっき液と、前記被めっき物通過領域を通過した前記被めっき物および前記メディアを混合する混合部と、
前記被めっき物通過領域の外側に配設されたアノードと、
前記被めっき物通過領域の内側に配設され、前記混合部によって混合された、前記めっき液と、前記被めっき物および前記メディアの混合流体が下方から上方に向かって通過する中空領域を有するカソードと、
前記カソードの前記中空領域を通過した前記混合流体の前記被めっき物および前記メディアを前記被めっき物通過領域に導く誘導部と、を備えためっき装置を準備する工程と、
前記めっき槽に前記めっき液を充填する工程と、
前記メディアとして、前記被めっき物の最大辺寸法の60%以上の直径を有する導電性の通常メディアと、前記被めっき物の最小辺寸法の60%以下の直径を有する極小メディアとを準備する工程と、
前記被めっき物通過領域に、前記被めっき物と前記通常メディアと前記極小メディアとを、上方から下方に向かって通過させながら、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加して、前記被めっき物に電解めっきを施すめっき工程と、を備えた、
めっき方法。
【請求項2】
前記混合部の内面の形状が、円錐台形状または半球台形状である、
請求項1に記載されためっき方法。
【請求項3】
前記極小メディアの直径が、前記被めっき物の最小辺寸法の50%以下である、
請求項1または2に記載されためっき方法。
【請求項4】
前記極小メディアの直径が、前記被めっき物の最小辺寸法の40%以下である、
請求項3に記載されためっき方法。
【請求項5】
前記被めっき物と前記通常メディアとの合計の量を100体積%としたとき、
前記極小メディアの量が、10体積%以下である、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載されためっき方法。
【請求項6】
前記極小メディアが絶縁性である、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載されためっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、チップ型積層コンデンサなどの電子部品においては、はんだ喰われを防止したり、はんだ付けによる実装の信頼性を向上させたりする目的で、電子部品が備える外部電極の表面に、NiめっきやSnめっきを施すことが一般的に行われている。
【0003】
従来、このような電子部品に、NiめっきやSnめっきなどのめっきを施す場合、特許文献1に開示されているような、バレルめっきの方法で行われることが多かった。
【0004】
バレルめっきを行うにあたっては、被めっき物が陰極となるように、バレル内の被めっき物群と接するように陰極端子をバレル内に配置するとともに、バレルの外側に、めっき液に浸かるように陽極端子を配置し、バレルを回転させながら、両極に電流を印加して通電することにより、被めっき物に対してめっきを行う。なお、バレル内には、被めっき物のほかに、導通性を高め、めっき効率を高める目的で、被めっき物と同程度の大きさの導電性のメディアを添加することが一般的である。
【0005】
しかしながら、バレルめっきには、めっき中にバレル内において被めっき物が偏在し、めっきされ易い位置に長時間滞在した被めっき物と、めっきされ難い位置に長時間滞在した被めっき物とで、めっき厚に大きなばらつきが発生するという問題があった。また、バレルめっき装置は、水平方向に回転軸を配置してバレルを回転させる必要があり、またバレルを回転させるためのモータをバレルの横に配置する必要があるため、平面方向の大きさが大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献2に開示されるような、新しいめっき装置が開発されている。このめっき装置によれば、以下に説明するように、一般的に、バレルめっきよりも、めっき厚のばらつきを小さくすることができる。また、このめっき装置は、水平方向に回転軸を配置してバレルを回転させる必要がなく、バレルを回転させるためのモータをバレルの横に配置する必要がないため、一般的に、バレルめっき装置よりも平面方向の大きさを小さくすることができる。
【0007】
特許文献2に開示されためっき装置は、めっき槽と、被めっき物に電解めっきを施すめっき部と、を備える。めっき部は、少なくとも一部が、めっき液は通過させるが被めっき物は通過させない隔壁に囲まれ、上方から下方に向かって被めっき物を通過させる被めっき物通過領域と、めっき液を下方から上方へと噴射する噴射部と、噴射部によって噴射されためっき液と、被めっき物通過領域を通過した被めっき物とが混合する混合部と、被めっき物通過領域の外側に配設されたアノードと、被めっき物通過領域の内側に配設され、めっき液と被めっき物との混合流体が下方から上方に向かって通過する中空領域を有するカソードと、中空領域を通過した混合流体のうちの被めっき物を被めっき物通過領域に導く誘導部と、を備えている。
【0008】
特許文献2に開示されためっき装置を使用した被めっき物へのめっきは、たとえば、次の要領で実施する。
【0009】
まず、被めっき物と、メディアと、めっき液とを準備する。メディアには、通常、被めっき物と同じ程度の大きさのものを用いる。
【0010】
次に、めっき槽にめっき液を充填する。また、被めっき物とメディアとの混合物を、被めっき物通過領域に堆積させる。
【0011】
次に、アノードとカソードとの間に電圧を印加したうえ、噴射部によってめっき液を下方から上方へと噴射する。この結果、めっき槽の中にめっき液の循環が発生し、被めっき物とメディアとが被めっき物通過領域を上方から下方に向かって通過する。そして、被めっき物通過領域を通過する被めっき物に対して、電解めっきが施される。
【0012】
被めっき物通過領域を通過してきた被めっき物とメディアは、混合部において、噴射部から噴射されためっき液と混合されて混合流体になる。そして、混合流体は、カソードの中空領域を下方から上方に向って通過して、誘導部に流入する。
【0013】
誘導部に流入した混合流体のうち、被めっき物とメディアは、再び、沈降して被めっき物通過領域に堆積し、続いて被めっき物通過領域を上方から下方に向かって通過し、被めっき物に対して電解めっきが施される。
【0014】
特許文献2に開示されためっき装置は、カソードとアノードが同心円状に配置されているため、被めっき物通過領域を上方から平面視したとき、被めっき物がカソードの中央を中心とした360度の方向のどの方向を通過したとしても、めっき時の電流密度が均一であるため、めっき厚にばらつきが発生しにくい。更に、特許文献2に開示されためっき装置を使用しためっき方法においては、被めっき物がメディアとともに、数十回~数百回、被めっき物通過領域を上方から下方に向かって通過し、その都度、被めっき物に対して電解めっきが施されるため、各被めっき物に施されるめっきの厚みが均一化し、めっき厚のばらつきが極めて小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平10-212596号公報
【文献】WO2017/217216A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献2に開示されためっき装置を使用しためっき方法において、めっき厚のばらつきを更に小さくするためには、被めっき物がめっき装置を循環する速度を上げ、単位時間あたりに被めっき物が被めっき物通過領域を通過する回数を増やせばよい。
【0017】
すなわち、めっき厚は、電流の大きさ、および、めっき時間の双方に比例するため、アノードとカソードとの間の電流の大きさ、および、トータルのめっき時間が一定であれば、めっき厚は同じになる。したがって、被めっき物がめっき装置を循環する速度を上げ、単位時間あたりに被めっき物が被めっき物通過領域を通過する回数を増やせば、めっき厚は同じであっても、めっき厚のばらつきを更に小さくすることができる。
【0018】
しかしながら、従来のように、メディアとして被めっき物と同じ程度の大きさのものを使用した場合には、被めっき物通過領域と混合部との境界付近において、被めっき物およびメディアの混合物が相互にブロッキングし、被めっき物がめっき装置を循環する速度が抑制されてしまうという問題があった。すなわち、上方から平面視して、被めっき物通過領域の隔壁の直径と、噴射部の噴射口の直径とを比較したとき、前者が後者よりも大きいため、混合部の内面の形状は円錐台形状や半球台形状になっている。つまり、被めっき物通過領域の下方において、被めっき物およびメディアの混合物の通路が狭くなっている。そのため、この部分において、被めっき物同士や、被めっき物とメディアや、メディア同士が相互にぶつかり合い、滞留し、被めっき物がめっき装置を循環する速度が抑制されてしまうという問題があった。
【0019】
そこで本発明は、この問題を解決し、被めっき物がめっき装置を循環する速度を向上させ、めっき厚のばらつきを改善した、めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施態様にかかるめっき方法は、上記従来の課題を解決するため、めっき液を貯留するめっき槽と、めっき槽の内部に設けられ、被めっき物に電解めっきを施す、めっき部と、を備え、めっき部は、少なくとも一部が、めっき液は通過させるが、被めっき物およびメディアは通過させない隔壁に囲まれ、上方から下方に向かって被めっき物およびメディアを通過させる被めっき物通過領域と、めっき液を下方から上方へと噴射する噴射部と、噴射部より上方、かつ、被めっき物通過領域より下方に配設され、噴射部によって噴射されためっき液と、被めっき物通過領域を通過した被めっき物およびメディアを混合する混合部と、被めっき物通過領域の外側に配設されたアノードと、被めっき物通過領域の内側に配設され、混合部によって混合された、めっき液と、被めっき物およびメディアの混合流体が下方から上方に向かって通過する中空領域を有するカソードと、カソードの中空領域を通過した混合流体の被めっき物およびメディアを被めっき物通過領域に導く誘導部と、を備えためっき装置を準備する工程と、めっき槽にめっき液を充填する工程と、メディアとして、被めっき物の最大辺寸法の60%以上の直径を有する導電性の通常メディアと、被めっき物の最小辺寸法の60%以下の直径を有する極小メディアとを準備する工程と、被めっき物通過領域に、被めっき物と通常メディアと極小メディアとを、上方から下方に向かって通過させながら、アノードとカソードとの間に電圧を印加して、被めっき物に電解めっきを施すめっき工程と、を備えたものとする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のめっき方法は、メディアとして極小メディアを加えているため、被めっき物通過領域と混合部との境界付近において、被めっき物および通常メディアの混合物の流動性の低下を抑制する滑剤として働く。そのため、本発明のめっき方法によれば、被めっき物がめっき装置を循環する速度を向上させることができ、単位時間あたりに被めっき物が被めっき物通過領域を通過する回数を増やすことができる。したがって、本発明のめっき方法によれば、めっき厚のばらつきを更に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】めっき装置100を示す断面図である。
図2】めっき装置100を示す断面図であり、図1の一点鎖線矢印A-A部分を示している。
図3】実施例1における、極小メディアの添加量、および、めっき液の噴出量と、被めっき物の通過速度との関係を示すグラフである。
図4】実施例1における、極小メディアの添加量と、めっき厚のばらつきとの関係を示すグラフである。
図5】実施例2における、極小メディアの直径と、被めっき物の通過速度との関係を示すグラフである。
図6】実施例2における、極小メディアの直径と、めっき厚のばらつきとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面とともに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
なお、各実施形態は、本発明の実施の形態を例示的に示したものであり、本発明が実施形態の内容に限定されることはない。また、異なる実施形態に記載された内容を組合せて実施することも可能であり、その場合の実施内容も本発明に含まれる。また、図面は、明細書の理解を助けるためのものであって、模式的に描画されている場合があり、描画された構成要素または構成要素間の寸法の比率が、明細書に記載されたそれらの寸法の比率と一致していない場合がある。また、明細書に記載されている構成要素が、図面において省略されている場合や、個数を省略して描画されている場合などがある。
【0025】
なお、以下においては、代表的なチップ型電子部品である積層セラミックコンデンサを被めっき物とし、その表面に形成された外部電極に電解めっきを施す場合を例にあげて説明する。
【0026】
[めっき装置100の概要]
図1図2に、本実施形態において使用するめっき装置100を示す。ただし、図1はめっき装置100の断面図である。また、図2もめっき装置100の断面図であり、図1の一点鎖線矢印で示したA-A部分を示している。なお、図1においては、後述する、めっき液1、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4を含む混合流体5を、別途、拡大して示している。
【0027】
めっき装置100は、めっき液1を貯留するめっき槽10と、めっき槽10の内部に設けられ、被めっき物2に電解めっきを施すめっき部20とを備えている。
【0028】
めっき部20は、少なくとも一部が、めっき液1は通過させるが被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4は通過させない隔壁22に囲まれ、上方から下方に向かって被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4を通過させる被めっき物通過領域23と、めっき液1を下方から上方へと噴射する噴射部24と、噴射部24より上方、かつ、被めっき物通過領域23より下方に配設され、噴射部24によって噴射されためっき液1と、被めっき物通過領域23を通過した被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4とが混合する混合部25と、被めっき物通過領域23の外側に配設されたアノード21と、被めっき物通過領域23の内側に配設され、混合部25によって混合されためっき液1と、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4との混合流体5が下方から上方に向かって通過する中空領域26aを有するカソード26と、カソード26の中空領域26aを通過した混合流体5の被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4を被めっき物通過領域23に導く誘導部27と、を備えている。
【0029】
アノード21およびカソード26には、電源31から電圧が印加される。本実施形態においては、アノード21を陽極、カソード26を陰極としている。
【0030】
被めっき物通過領域23を構成する隔壁22は、円筒状の形状を有しており、たとえばメッシュにより構成されている。上述したように、めっき液1は、隔壁22を通過することができるが、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4は、隔壁22を通過することができない。被めっき物通過領域23は、隔壁22と、隔壁22よりも内側に配設されている後述するカソード26との間の領域である。
【0031】
噴射部24は、噴射口24aと、循環ライン32と、ポンプ33と、フィルタ34とを備えている。循環ライン32は、めっき槽10内のめっき液1を、めっき槽10の底部に設けられている噴射口24aから噴射させるためのめっき液1の流路である。ポンプ33は、循環ライン32に設けられており、めっき槽10内のめっき液1を、循環ライン32を介して噴射口24aから噴射させる。フィルタ34は、循環ライン32を流れるめっき液1に含まれる異物を除去する。
【0032】
混合部25は、噴射部24よりも上方、かつ、被めっき物通過領域23およびカソード26よりも下方に配設されている。混合部25の内面は、上面の直径が下面の直径よりも大きく、円錐台形状を有している。上面の直径は、隔壁22の下側部分に構成された通液性を有しない部分の内径以上の大きさを有している。下面の直径は、噴射部24の噴射口24aの直径と略同じである。混合部25の上面は開口しており、被めっき物通過領域23およびカソード26の中空領域26aと繋がっている。また、混合部25の下面も開口しており、噴射口24aと繋がっている。なお、混合部25の内面は、円錐台形状に代えて、半球台形状であってもよい。
【0033】
混合部25は、被めっき物通過領域23を沈降しつつ通過してきた、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4と、めっき液1とを含み、沈降濃縮されて被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4の割合が高くなっている流体と、噴射口24aから上方に向かって噴射されるめっき液1とを混合させる領域であって、噴射口24aから噴射されためっき液1の噴出力により、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4を高い割合で含む流体が、後述する中空領域26aに導かれる過程でめっき液1との混合が行われる領域である。
【0034】
カソード26は、金属製のパイプにより構成されており、被めっき物通過領域23の内側に配設されている。カソード26は、その内部が空洞となっており、この空洞部分が、めっき液1と、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4との混合流体5が下方から上方に向かって通過するための中空領域26aとなる。
【0035】
アノード21は、円筒状の形状を有しており、被めっき物通過領域23よりも外側に配設されている。図2に示すように、隔壁22は、カソード26を取り囲むように配置されており、アノード21は、隔壁22を取り囲むように配置されている。また、図2に示すように、カソード26、隔壁22、およびアノード21は、それぞれの中心軸が一致するように、同心円状に配置されている。すなわち、同心円状に囲まれた隔壁22の内周面とカソード26の外周面との間の領域が被めっき物通過領域23として構成されている。これにより、めっき時の電流密度を均一にすることができ、均一なめっき膜を形成することが可能になっている。
【0036】
誘導部27は、円錐台部27aと、垂直壁部27bとを有している。円環形状を有する垂直壁部27bは、円錐台部27aの上部に設けられ、余分になっためっき液1が乗り越えて外側に排出されるようになっている。円錐台部27aは、上面が下面よりも大きい円錐台形状を有している。円錐台部27aの上面および下面は開口面である。円錐台部27aの下面の直径は、隔壁22の内径以下の大きさである。このような構造により、カソード26の中空領域26aの上端から噴出しためっき液1と、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4との混合流体5のうち、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4を自然に、被めっき物通過領域23に誘導することができる。
【0037】
なお、誘導部27の円環形状を有する垂直壁部27bの内側には、カソード26の中空領域26aを下方から上方に向かって通過してきた、めっき液1と、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4との混合流体5の勢いを抑制するために、同じく円環形状を有する抑制板28が設けられている。
【0038】
[実施例1]
実施例1として、被めっき物2の量、通常メディア3の量、電流の大きさ、めっき時間をそれぞれ一定にする一方、極小メディア4の量、および/または、噴射口24aから噴射されるめっき液1の噴流量を変化させて、複数回の試行をおこなった。そして、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度(10cm下降するのに要する時間)と、被めっき物2に施されためっきのめっき厚のばらつきを調べた。
【0039】
まず、被めっき物2として、長さ3.2mm、幅2.5mm、高さ2.5mmの積層セラミックコンデンサを準備した。被めっき物2の最大辺(長さ)の寸法である最大辺寸法は3.2mmであり、被めっき物2の最小辺(幅および高さ)の寸法である最小辺寸法は2.5mmである。被めっき物2の両端には、予め、導電性の下地電極が形成されている。積層セラミックコンデンサの内部構造、材質、質量、下地電極の材質、寸法などは任意である。被めっき物2の量は、いずれの試行においても、1400ccとした。なお、本発明において、被めっき物2の形状は任意であり、直方体に代えて、たとえば立方体などであってもよい。ただし、立方体の場合は、最大辺寸法と最小辺寸法とが等しくなる。
【0040】
通常メディア3として、直径がφ2.5mmの導電性メディアを準備した。通常メディア3の材質、質量などは任意である。通常メディア3の量は、いずれの試行においても、350ccとした。なお、通常メディア3の直径の大きさφ2.5mmは、被めっき物2(長さ3.2mm、幅2.5mm、高さ2.5mm)の最大辺寸法である3.2mmの78.1%に該当する。通常メディア3の直径は、被めっき物の最大辺寸法の60%以上であればよく、その限りにおいて任意である。本実施例のように、被めっき物2の最小辺寸法と同等であってもよい。
【0041】
極小メディア4として、直径がφ0.7mmの導電性メディアを準備した。極小メディア4の材質、質量などは任意である。極小メディア4の量は、試行ごとに変化させた。具体的には、被めっき物2の量(1400cc)と、通常メディア3の量(350cc)との合計である1750ccを100体積%としたとき、極小メディア4の体積を、1体積%、3体積%、5体積%、10体積%、20体積%の5通りとした。また、比較のために、極小メディア4を使用しない試行もおこなった(極小メディア4の量=0体積%;本発明の範囲外)。なお、通常メディア3の直径の大きさφ0.7mmは、被めっき物2の最小辺寸法である2.5mmの28%に該当する。
【0042】
めっき液1として、ワット浴を準備した。ただし、めっき液1の種類は任意であり、ワット浴には限られない。なお。めっき中、めっき液1の温度は、加熱して60℃に維持する。
【0043】
まず、めっき装置100のめっき槽10に、めっき液1を充填する。
【0044】
次に、めっき装置100の被めっき物通過領域23に、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4の混合物を堆積させる。被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4の混合物を誘導部27に投入すれば、自然に沈降して、被めっき物通過領域23に堆積する。なお、極小メディア4は直径が小さいので、被めっき物通過領域23において、被めっき物2および通常メディア3の隙間を下方に向って転がり落ちる場合がある。
【0045】
次に、アノード21とカソード26との間に、30Aの電流を印加したうえ、噴射口24aからめっき液1を下方から上方へと噴射する。めっき液1の噴出量は、試行ごとに、80L/分、85L/分、90L/分のいずれかとする。
【0046】
この結果、めっき槽10の中にめっき液1の循環が発生し、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4が、被めっき物通過領域23を上方から下方に向かって通過する。そして、被めっき物通過領域23を通過する被めっき物2に対して、電解めっきが施される。
【0047】
また、被めっき物通過領域23を通過してきた被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4は、混合部25において、噴射口24aから噴射されためっき液1と混合されて混合流体5になる。そして、混合流体5は、カソード26の中空領域26aを下方から上方に向って通過して、誘導部27に流入する。
【0048】
誘導部27に流入した混合流体5のうち、被めっき物2、通常メディア3、極小メディア4は、再び、沈降して被めっき物通過領域23に堆積し、続いて被めっき物通過領域23を上方から下方に向かって通過し、被めっき物2に対して電解めっきが施される。また、誘導部27に流入した混合流体5のうち、余分になっためっき液1は、誘導部27の垂直壁部27bを乗り越えて外側に排出される。
【0049】
めっき時間は、いずれの試行においても、120分とした。
【0050】
従来、めっき装置100のような装置を使用しためっき方法においては、被めっき物通過領域23と混合部25との境界付近において、被めっき物2および通常メディア3の混合物が相互にブロッキングし、被めっき物2がめっき装置100を循環する速度を抑制してしまうという問題があった。しかしながら、本実施形態においては、極小メディア4が滑剤として働き、被めっき物2および通常メディア3の混合物が相互にブロッキングするのを抑制するため、被めっき物2がめっき装置100を循環する速度が低下しない。
【0051】
すなわち、本実施形態においては、極小メディア4が、被めっき物2および通常メディア3の混合物と、被めっき物通過領域23および混合部25の内壁との間に入り込み、混合物の流動性を高める。また、極小メディア4が、被めっき物2および通常メディア3の混合物の間に入り込み、ブロッキングによる流動性の低下を抑制する。
【0052】
実施例1においては、上述したとおり、試行ごとに、極小メディア4の量を、0体積%、1体積%、3体積%、5体積%、10体積%のいずれかとした。また、上述したとおり、試行ごとに、めっき液1の噴出量を、80L/分、85L/分、90L/分のいずれかとした。
【0053】
図3に、極小メディア4の量、および、めっき液1の噴出量の変化に対する、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度(10cm下降するのに要する時間)の変化を示す。
【0054】
また、図4に、めっき液1の噴出量が85L/分である場合における、極小メディア4の量の変化に対する、めっき厚のばらつきの変化を示す。なお、めっき厚のばらつきは、各試行において、めっき終了後の被めっき物2を、30個、洗浄し、乾燥させ、被めっき物2を、通常メディア3および極小メディア4から分離し、被めっき物2の下地電極上のNiめっきの厚みを、蛍光X線膜厚計で測定した。そして、測定結果から、変動係数CV(%)を計算した。
【0055】
図3から分かるように、極小メディア4の配合量を、0体積%から、1体積%、3体積%、5体積%、10体積%と増やすにつれて、めっき液1の噴出量のいかんにかかわらず、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度は速くなる。すなわち、被めっき物2が10cm下降するのに要する時間が短くなる。したがって、単位時間あたりに被めっき物2が被めっき物通過領域23を通過する回数を増やすことができる。
【0056】
一方、めっき厚のばらつきは、図4から分かるように、0体積%において約14CV(%)であったものが、極小メディア4を1体積%加えることによって、13CV(%)以下にまで改善している。更に、極小メディア4の量を、3体積%、5体積%、10体積%と増やすにしたがって、めっき厚のばらつきが改善し、10体積%において9CV(%)以下になる。しかしながら、それ以上、極小メディア4の量を増やしても、めっき厚のばらつきは大きくは改善せず、20体積%において、8.5CV(%)よりも大きかった。
【0057】
以上より、被めっき物2および通常メディア3に、極小メディア4を加えてめっきをおこなう本実施例においては、被めっき物通過領域23を通過する被めっき物2の速度が速くなり、めっき厚のばらつきが小さくなることが分かった。ただし、極小メディア4の量としては、10体積%を超えても、めっき厚のばらつきは大きくは改善されないので、10体積%以下程度が好ましいといえる。
【0058】
[実施例2]
実施例2として、被めっき物2の量、通常メディア3の量、極小メディア4の量、電流の大きさ、めっき時間をそれぞれ一定にする一方、極小メディア4の直径(φmm)を変化させて、複数回の試行をおこなった。そして、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度(10cm下降するのに要する時間)と、被めっき物2に施されためっきのめっき厚のばらつきを調べた。
【0059】
被めっき物2は、実施例1と同様に、長さ3.2mm、幅2.5mm、高さ2.5mmの積層セラミックコンデンサを準備した。被めっき物2の量は、いずれの試行においても、1400ccとした。
【0060】
通常メディア3も、実施例1と同様に、直径がφ2.5mmの導電性メディアを準備した。通常メディア3の量は、いずれの試行においても、350ccとした。
【0061】
極小メディア4として、直径が、φ0.65mm、φ0.7mm、φ1.0mm、φ1.25mm、φ1.5mmの導電性メディアを準備した。また、比較のために、φ2.5mmの導電性メディアも準備した(通常メディア3と同じもの;本発明の範囲外)。極小メディア4の量は、被めっき物2の量(1400cc)と通常メディア3の量(350cc)との合計(1750cc)を100体積%としたときに、3体積%(52.5cc)となるようにした。
【0062】
なお。φ0.65mmは、被めっき物2の最小辺寸法(2.5mm)の26%の大きさである。φ0.7mmは、被めっき物2の最小辺寸法の28%の大きさである。φ1.0mmは、被めっき物2の最小辺寸法の40%の大きさである。φ1.25mmは、被めっき物2の最小辺寸法の50%の大きさである。φ1.5mmは、被めっき物2の最小辺寸法の60%の大きさである。φ2.5mmは、被めっき物2の最小辺寸法の100%の大きさである。
【0063】
めっき液1として、実施例1と同様に、ワット浴を準備した。めっき液1の温度は、実施例1と同様に、加熱して60℃に維持した。
【0064】
アノード21とカソード26との間には、実施例1と同様に、30Aの電流を印加した。また、噴射口24aからのめっき液1の噴出量は、85L/分とした。また、めっき時間は120分とした。
【0065】
以上の条件において、実施例1と同様の方法で、被めっき物2へのめっき実施した。
【0066】
図5に、極小メディア4の直径の変化に対する、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度の変化を示す。
【0067】
また、図6に、極小メディア4の直径の変化に対する、めっき厚のばらつきの変化を示す。
【0068】
図5から分かるように、極小メディア4の直径を、φ2.5mmから1.5φmmに小さくすることによって、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度は速くなる。すなわち、被めっき物2が10cm下降するのに要する時間が短くなる。したがって、単位時間あたりに被めっき物2が被めっき物通過領域23を通過する回数を増やすことができる。また、極小メディア4の直径を、更に、φ1.25mm、φ1.0mmと小さくするに従って、被めっき物2の速度が速くなり、φ1.0mmより小さくすると被めっき物2の速度は急激に速くなる。
【0069】
また、図6から分かるように、極小メディア4の直径を、φ2.5mmから1.5φmmに小さくすることによって、めっき厚のばらつきは、約14CV(%)から、13.5CV(%)以下にまで改善する。そして、極小メディア4の直径を更に小さくすると、めっき厚のばらつきは、φ1.25mmで約13CV(%)、φ1.0mmで約12.5CV(%)となり更に改善する
【0070】
以上の結果より、極小メディア4の直径(φ%)は、被めっき物2の最小辺寸法(2.5mm)に対して、50%(φ1.25mm)以下であることが好ましく、40%(φ1.0mm)以下であることが更に好ましいことが分かった。
【0071】
[実施例3]
実施例1、実施例2においては、いずれも、極小メディア4に導電性メディアを使用した。実施例3においては、ほぼ同じめっき条件下において、絶縁性の極小メディア4を使用した場合と、導電性の極小メディア4を使用した場合との比較をおこなった。具体的には、実施例3-1においては、直径φ0.65の絶縁性のPSZ(部分安定化ジルコニアボール)製の極小メディア4を使用した。実施例3-2においては、直径φ0.70の導電性(金属)の極小メディア4を使用した。
【0072】
被めっき物2として、実施例1、実施例2と同様に、長さ3.2mm、幅2.5mm、高さ2.5mmの積層セラミックコンデンサを準備した。被めっき物2の量は、実施例3-1、実施例3-2とも、1300ccとした。
【0073】
通常メディア3として、実施例1、実施例2と同様に、直径がφ2.5mmの導電性メディアを準備した。通常メディア3の量は、実施例3-1、実施例3-2とも、350ccとした。
【0074】
極小メディア4の量は、実施例3-1、実施例3-2とも、被めっき物2の量(1300cc)と通常メディア3の量(350cc)との合計(1650cc)を100体積%としたとき、約3体積%(57.5cc)となるようにした。
【0075】
めっき液1として、実施例1、実施例2と同様に、ワット浴を準備した。めっき液1の温度は、実施例1と同様に、加熱して60℃に維持した。
【0076】
アノード21とカソード26との間には、実施例1、実施例2と同様に、30Aの電流を印加した。また、噴射口24aからのめっき液1の噴出量は、85L/分とした。また、めっき時間は120分とした。
【0077】
以上の条件において、実施例1、実施例2と同様の方法で、被めっき物2へのめっきをおこなった。そして、被めっき物通過領域23における被めっき物2の通過速度(10cm下降するのに要する時間)と、めっき厚のばらつき(CV%)とを調べた。結果を表1に示す

【表1】
【0078】
表1から分かるように、絶縁性の極小メディア4を使用した実施例3-1と、導電性の極小メディア4を使用した実施例3-2とにおいて、被めっき物2の通過速度や、めっき厚のばらつき(CV%)に大きな差は発生しなかった。
【0079】
一方、めっき厚は、絶縁性の極小メディア4を使用した実施例3-1が4.7μmであるのに対し、導電性の極小メディア4を使用した実施例3-2が2.91μmとなった。すなわち、導電性の極小メディア4を使用した場合よりも、絶縁性の極小メディア4を使用した場合の方が、施されためっきのめっき厚が格段に大きかった。これは、極小メディア4に導電性のものを使用した場合には、極小メディア4にもめっきが施されてしまい、めっき効率が低下するからであると考えられる。以上より、めっき効率を考慮する場合には、導電性ではなく、絶縁性の極小メディア4を使用することが好ましいことが分かった。
【0080】
以上、実施形態にかかるめっき方法について説明した。しかしながら、本発明が上述した内容に限定されることはなく、発明の趣旨に沿って種々の変更をなすことができる。
【0081】
たとえば、実施形態においては、被めっき物2の例として、代表的なチップ型電子部品である積層セラミックコンデンサを使用し、その表面に形成された外部電極(下地電極)に電解めっきを施したが、被めっき物2の種類は任意であり、積層セラミックコンデンサには限られない。
【0082】
また、実施形態においては、めっき液1の例としてワット浴を使用し、被めっき物2にNiめっきを施したが、めっき液1の種類は任意であり、ワット浴には限られない。また、被めっき物2に施されるめっきも、Niめっきには限られない。
【0083】
本発明の一実施態様にかかるめっき方法は、「課題を解決するための手段」の欄に記載したとおりである。
【0084】
このめっき方法において、めっき装置の混合部の内面の形状が、円錐台形状または半球台形状であってもよい。めっき装置の混合部の内面の形状が円錐台形状や半球台形状であると、被めっき物通過領域と混合部との境界付近において、被めっき物およびメディアの混合物が相互にブロッキングし、被めっき物2の通過速度が低下し易いが、本発明においては、メディアに極小メディアを添加しているため、速度の低下が抑制される。
【0085】
また、極小メディアの直径が、被めっき物の最小辺寸法の50%以下であることも好ましい。この場合には、めっき厚のばらつきをより改善できる。また、極小メディアの直径が、被めっき物の最小辺寸法の40%以下であることも更に好ましい。この場合には、めっき厚のばらつきを更に改善できる。
【0086】
また、被めっき物と通常メディアとの合計の量を100体積%としたとき、極小メディアの量が、10体積%以下であることも好ましい。極小メディアの量を増やすとめっき厚のばらつきが改善するが、極小メディアの量が10体積%を超えても、めっき厚のばらつきは、それ以上、大きくは改善しないからである。そして、極小メディアの量が10体積%を超えると、極小メディアのコストが上昇したり、管理が煩雑になったりするからである。
【0087】
また、極小メディアが絶縁性であることも好ましい。この場合には、めっき効率を向上させることができるからである。すなわち、単位時間あたりにおいて、被めっき物に施されるめっきのめっき厚を大きくすることができるからである。
【符号の説明】
【0088】
1・・・めっき液
2・・・被めっき物
3・・・通常メディア
4・・・極小メディア
5・・・混合流体
10・・・めっき槽
20・・・めっき部
21・・・アノード
22・・・隔壁
23・・・被めっき物通過領域
24・・・噴射部
24a・・・噴射口
25・・・混合部
26・・・カソード
26a・・・中空領域
27・・・誘導部
27a・・・円錐台部
27b・・・垂直壁部
28・・・抑制板
31・・・電源
32・・・循環ライン
33・・・ポンプ
34・・・フィルタ
100・・・めっき装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6