(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】金属板の曲げ加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/01 20060101AFI20221012BHJP
B21D 22/02 20060101ALI20221012BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B21D5/01 Z
B21D22/02 A
B21D22/00
(21)【出願番号】P 2020117488
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚記
(72)【発明者】
【氏名】時田 裕一
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131232(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167791(WO,A1)
【文献】特許第6837247(JP,B2)
【文献】特開2002-113536(JP,A)
【文献】特許第3633012(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/01
B21D 22/02
B21D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工後の曲げ部に相当する曲げ加工前の金属板の部位に曲げR部を有する曲げ工具を当接させて前記金属板を曲げ加工する金属板の曲げ加工方法であって、
逆成形解析により、前記曲げ部のうち少なくとも前記金属板の限界曲げ半径以下である曲げ部に相当する部位を被打撃部として特定する被打撃部特定工程と、
断面形状が孤状に湾曲した先端部を有する打撃工具を用い、該先端部の断面を前記曲げ部の曲げ稜線方向に直交させて前記被打撃部を打撃して前記金属板に打撃痕を形成する打撃工程と、
前記被打撃部を含む前記曲げ部に相当する部位に前記曲げ工具の曲げR部を当接させて前記金属板を曲げ加工して前記曲げ部を形成する曲げ工程と、を含むことを特徴とする金属板の曲げ加工方法。
【請求項2】
前記打撃工具の先端部の曲率半径は、前記曲げ工具の曲げR部の曲率半径との差が±10%以内であることを特徴とする請求項1記載の金属板の曲げ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を曲げ加工した曲げ部の疲労特性を向上する金属板の曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属板の曲げ加工を行う際、該金属板における曲げ内側(曲率中心側)の表面に微小なしわやき裂が生じて当該しわやき裂を起点として曲げ加工品の疲労特性が低下してしまう問題があった。その原因の一つに、曲げ工具の曲げR部が曲げ加工時に金属板に十分に接触しておらず(型馴染みしていないで)、自由表面のまま塑性変形した金属板の曲げ内側で座屈が発生してしわやき裂が生じることが挙げられる。
【0003】
これまでに、曲げ加工において金属板の曲げ内側に発生するしわやき裂を抑制する技術がいくつか提案されている。
特許文献1~特許文献5には、V字曲げにおいて、金型の構造を変更して曲げ加工の初期に曲げパンチと金属板の曲げ内側を接触させることで、該曲げ内側のしわを抑制する方法が開示されている。
また、特許文献6及び特許文献7には、コイニング加工の際に、バーリング部の曲げ内側にしわが発生するのを防ぐため、1工程目に最終形状と異なる曲率半径(曲率半径無限大すなわち直線を含む)の曲げ加工を行い、2工程目に最終形状の曲率半径に曲げ加工を行って曲げの内側面に引張応力が導入されるようにすることで、しわの発生の防止と曲げ内部に導入される引張残留応力の低減を実現する方法が開示されている。
さらに、特許文献8には、鋼材の曲板部に発生した疲労き裂を補修する方法として、鋼材表面の疲労き裂を挟んだ両側のうち少なくとも一側を疲労き裂と平行にピーニングすることで疲労き裂の開口部を閉じ、その後、疲労き裂の直上をさらにピーニングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-034074号公報
【文献】特開平06-154863号公報
【文献】特表2002-504862号公報
【文献】特開平04-178219号公報
【文献】特開平03-094918号公報
【文献】特開2018-051608号公報
【文献】特開2018-051609号公報
【文献】特許第4441641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、機械特性等の機能性に優れた鋼板の要求は高まっており、合金元素を多く含んだ鋼板が開発されている。鋼板は、熱間圧延で材料表面に酸化スケールが発生して圧延中に鋼板表面に押し込まれるため、その後にデスケーリング工程で酸化スケールを除去しても、鋼板の表面に粗さレベルの凹凸が残る。
【0006】
特許文献1~特許文献5の方法で金型を鋼板表面に押し付けて曲げても、合金元素を多く含む鋼板は変形抵抗が大きくて金型の先端では金型と密着できない表面の部位が残り、結果として自由表面となり、しわが生じる問題があった。また、曲げ加工後に鋼板の弾性回復(スプリングバック)によって、曲げ内側では疲労特性に不利な引張残留応力が生じてき裂が発生する問題があった。さらに、特許文献1~特許文献5の方法では金型が複雑になり、コストがかかる問題があった。
【0007】
また、特許文献6及び特許文献7の方法においても、上記と同様、曲げ加工時における変形抵抗が大きいことから、1工程目での型馴染みが充分行われずしわの発生を抑制できない上に、金型を2種類用意する必要がありコストがかかる問題があった。
【0008】
さらに、特許文献8の方法は、曲げ加工して繰返し荷重を受けた後に発生した疲労き裂を補修する技術であって、曲げ加工時におけるき裂の発生を抑制するものではない。また、仮に、曲げ加工により発生したき裂に対して当該技術を適用しようとすると、き裂が発生した箇所の形状が打撃可能であれば効果を期待できるものの、曲げ加工後の狭くて複雑な形状によって当該き裂発生箇所への打撃がほとんど不可能であるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、金属板を曲げ加工した曲げ部の曲げ内側に発生するしわやき裂を抑制することで疲労強度を向上できる金属板の曲げ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、具体的には以下の構成からなるものである。
【0011】
(1)本発明に係る金属板の曲げ加工方法は、曲げ加工後の曲げ部に相当する曲げ加工前の金属板の部位に曲げR部を有する曲げ工具を当接させて前記金属板を曲げ加工するものであって、
逆成形解析により、前記曲げ部のうち少なくとも前記金属板の限界曲げ半径以下である曲げ部に相当する部位を被打撃部として特定する被打撃部特定工程と、
断面形状が孤状に湾曲した先端部を有する打撃工具を用い、該先端部の断面を前記曲げ部の曲げ稜線方向に直交させて前記被打撃部を打撃して前記金属板に打撃痕を形成する打撃工程と、
前記被打撃部を含む前記曲げ部に相当する部位に前記曲げ工具の曲げR部を当接させて前記金属板を曲げ加工して前記曲げ部を形成する曲げ工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0012】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記打撃工具の先端部の曲率半径は、前記曲げ工具の曲げR部の曲率半径との差が±10%以内であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明において、曲げ部に相当する曲げ加工前の金属板の部位のうち、逆成形解析により、前記曲げ部の曲率半径が前記金属板の限界曲げ半径以下である部位を被打撃部として特定し、断面形状が孤状に湾曲した先端部を有する打撃工具を用いて、該先端部の断面を前記曲げ部の曲げ稜線方向に直交させて前記被打撃部を打撃して打撃痕を形成し、前記被打撃部を含む前記曲げ部に相当する部位に前記曲げ工具の曲げR部を当接させて前記金属板を曲げ加工して前記曲げ部を形成することにより、疲労強度の低い曲げ部を精度良く特定し、曲げ部の曲げ内側における微小なしわやき裂の発生を抑制して疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法における被打撃部特定工程を説明する図である((a)天板外側が上を向く斜視図、(b)天板内側が上を向く斜視図((a)を左右に反転)、(c)金属板の平面図)。
【
図3】本発明の実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法における打撃工程を説明する断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法において、打撃工程において金属板に形成された打撃痕を説明する断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法において、打撃工程において金属板における曲げ稜線方向に沿って連続して形成された打撃痕を説明する図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法における曲げ工程を説明する断面図である。
【
図7】実施例における疲労試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述した金属板の曲げ加工における課題について、特許文献1~特許文献5のような金型を押し付けてから曲げる方法において、しわやき裂が発生してしまう原因として金型を金属板に押し付けても金型と密着できない表面が残存することがあげられる。
【0016】
そこで、金属板と金型との密着性(型馴染み)を改善する解決策をさらに検討した結果、最初から金属板に金型を押し付けて曲げ加工するよりも、金属板における曲げ部の曲げ内側に相当する部位に対して間欠的で瞬間的に高い荷重を繰り返し負荷し、その後、曲げ加工を行うことが効果的であることを解明した。
【0017】
すなわち、曲げ加工前の金属板の表面に繰り返し荷重を負荷することで、しわやき裂の起点となる材料表面の粗さを改善させるとともに、金属板表面に対して平行な方向にひずみを導入し結晶粒を延ばすことで、曲げ加工においてしわやき裂の原因となる結晶粒が材料表面に対して垂直方向に伸びることを抑制させることができる。その結果、曲げ部の曲げ内側におけるしわやき裂の発生を抑制し、疲労強度を向上させることが可能であるという知見を得た。
【0018】
また、金属板に繰り返し荷重を負荷するための打撃する部位を特定するには、曲げ加工後の形状が、金属板の限界曲げ半径以下の小さい曲げ半径となる部位を逆成形解析するとよくて、金属板を打撃してしわやき裂のない曲げ加工が可能となり、生産性を向上させることが可能であるという知見を得た。
【0019】
さらに、金属板の曲げ加工により、曲げ内側では圧縮応力が加わって自由表面ではしわが発生するが、曲げ加工後にはスプリングバックにより曲げ内側の角度が増大して引張残留応力となり、しわの底等を起点としてき裂が発生する。そこで、金属板における曲げ部の曲げ内側に相当する部位の表層を打撃により加工硬化させ、該表層の圧縮残留応力を大きくすることにより、曲げ加工後のスプリングバックによる曲げ内部の引張残留応力を低減するのに有効であるという知見を得た。
【0020】
本実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法は、曲げ部に相当する曲げ加工前の金属板の部位に曲げR部を有する曲げ工具を当接させて、前記金属板を曲げ加工するものであって、
図1に示すように、被打撃部特定工程S1と、打撃工程S3と、曲げ工程S5と、を含むものである。
【0021】
以下、
図2に一例として示すように、金属板1を曲げ加工して曲げ部33を有するサスペンションアーム31を作製する場合について、
図2~
図6に基づいて上記の各工程について説明する。なお、
図2(a)はサスペンションアーム31の天板外側が上を向く斜視図、
図2(b)はサスペンションアーム31の天板内側が上を向く斜視図である。そして、
図2(b)における曲げ部33に附された実線及び破線は、曲げ部33の曲げ内側を示すものであり、破線は、サスペンションアーム31の各部位に隠れた曲げ内側を表示したものである。
【0022】
<被打撃部特定工程>
被打撃部特定工程S1は、
図2に示すように、サスペンションアーム31の曲げ部33のうち金属板1(
図2(c))の限界曲げ半径以下の曲げ半径である曲げ部33に相当する金属板1における部位を被打撃部3として逆成形解析により特定する工程である。なお、
図2(c)は曲げ部33全長が限界曲げ半径となった例である。
【0023】
ここで、限界曲げ半径とは、金属板を曲げ加工した曲げ部の曲げ内側にしわやき裂が発生しない最小の曲げ半径のことをいう。そして、限界曲げ半径は、曲げ加工に供する金属板の材料特性等に依存するので、被打撃部特定工程S1において、曲げ半径を変更して金属板の曲げ試験を予め行い、曲げ部の曲げ内側におけるしわやき裂の発生を確認して限界曲げ半径を決定することが好ましい。
【0024】
また、逆成形解析とは、曲げ加工により作製した曲げ部を有する部品の目標形状から、当該曲げ加工に供する金属板の初期の平面形状を求める解析手法である。
そこで、被打撃部特定工程S1においては、例えば、曲げ部33を有するサスペンションアーム31の部品形状をメッシュでモデル化した有限要素モデルを取得し、該有限要素モデルから金属板1の初期平面形状を求める逆成形解析を行う。続いて、逆成形解析により求めた初期平面形状の金属板1において、限界曲げ半径以下の曲げ部33に相当する金属板1における部位を被打撃部3として特定する。
【0025】
なお、被打撃部特定工程S1は、限界曲げ半径以下の曲げ部33のみを被打撃部3として特定するものに限らず、限界曲げ半径以下の曲げ部33を含む他の曲げ部33に相当する金属板1における部位を被打撃部3として特定してもよい。
【0026】
<打撃工程>
打撃工程S3は、
図3に示すように、断面形状が孤状に湾曲した先端部13を有する打撃ピン11を用い、先端部13の断面をサスペンションアーム31の曲げ部33(
図2)の曲げ稜線方向に直交させて、金属板1における被打撃部3を先端部13で打撃し、曲げ稜線方向に沿って打撃痕5を形成する工程である。
図4に、金属板1に形成された打撃痕5を拡大した図(
図3(b)の破線四角で囲んだ領域に相当)を示す。
【0027】
ここで、曲げ部33の曲げ稜線方向とは、
図2(a)の端面Aの拡大図(四角で囲んだ領域)に示す曲げ部33においては紙面に対して垂直方向である。さらに、打撃ピン11として先端部13の断面形状が弧状であるものを用いることにより、打撃痕5は、曲げ稜線方向に直交する方向における断面形状が孤状に湾曲した形状となる。打撃ピン11の先端部13としては、半球状、かまぼこ状、鏨状等がよい。
【0028】
打撃工程S3では、金属板1には打撃ピン11の先端部13の形状が転写されて、打撃痕5の曲率半径r’(
図4)は、先端部13の曲率半径r(
図3(a))とほぼ一致する。
【0029】
また、打撃することで、金属板1の表面粗さの凹凸が平滑となるとともに、打撃痕5に材料表面に平行な方向に塑性ひずみが導入され、圧縮の残留応力が与えられる。なお、
図3及び
図4において、打撃前の金属板1の表面粗さ凹凸は省略した。
【0030】
さらに、打撃ピン11を曲げ稜線方向に走査させることにより、
図5に示すように、曲げ部33の曲げ稜線方向に沿って特定された被打撃部3に打撃痕5を重畳して形成するとよい。なお、曲げ稜線方向に打撃痕5を形成する際、1本の打撃ピン11で金属板1を打撃する必要はなく、複数の打撃ピン11を曲げ稜線方向に並列させて打撃してもよい。
【0031】
なお、打撃工程S3において、金属板1に十分な変形を与えて打撃痕5を形成するには、打撃ピン11による打撃の荷重P(kN)と先端部13の曲率半径r(m)とが、P>Y*πr2/20の関係を満たすように被打撃部3を打撃することが望ましい。ここで、Yは、金属板1の降伏強度(MPa)である。
【0032】
<曲げ工程>
曲げ工程S5は、
図6に示すように、曲げR部23aを有するパンチ23とダイ25とを備えた成形金型21を曲げ工具として用い、打撃痕5にパンチ23の曲げR部23aを当接させて金属板1を曲げ加工し、曲げ部33を形成する工程である。
【0033】
曲げ工程S5においては、打撃痕5の中心が曲げ中心と一致するように金属板1と成形金型21を配置し(
図6参照)、曲率半径Rの曲げR部23aを打撃痕5に当接させて金属板1を所定の曲げ角度まで曲げ加工を行う。
【0034】
打撃痕5の曲率半径r’がパンチ23の曲げR部23aの曲率半径Rに比べ極端に小さいと、曲げ工程S5において、パンチ23の曲げR部23aと金属板1の打撃痕5の表面とを密着できず、曲げ部33の曲げ内側にしわやき裂を発生させてしまう可能性がある。
【0035】
一方、打撃痕5の曲率半径r’が曲げR部23aの曲率半径Rに比べて極端に大きいと、打撃工程S3において、金属板1に打撃痕5を形成するための十分な荷重(圧力)を確保できないおそれがある。また、仮に金属板1に打撃痕5が形成されたとしても、パンチ23の曲げR部23aは、平坦に近い面を曲げることになってしまうため、曲げ工程S5においては、曲げR部23aの先端付近と金属板1との間に隙間が生じてしまう。そのため、曲げR部23aと金属板1とを十分に密着させることができず、曲げ部33の曲げ内側にしわやき裂を発生させてしまう可能性がある。
【0036】
したがって、打撃ピン11の先端部13の曲率半径rは、曲げ工具として用いるパンチ23の曲げR部23aの曲率半径Rと±10%以内の差であることが望ましい。
【0037】
また、打撃痕5の板厚方向における深さは、金属板1の最大粗さ(約30μm)程度の深さとなるように打撃痕5を形成して金属板1の表面粗さの凹凸を平滑にすることで、曲げR部23aと金属板1との型馴染みが良好となる。
【0038】
以上、本実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法によれば、疲労破壊が発生しやすい曲げ部33に相当する曲げ加工前の金属板1の部位を被打撃部3として特定し、打撃ピン11により打撃して被打撃部3の表面粗さを平滑化し、かつ材料表面に対して平行な方向にひずみを導入し結晶粒を延ばすことで、金属板1の表面粗さ凹凸に起因して生じる曲げ内側の微小なしわやき裂を抑制することができ、疲労強度を向上することができる。
【0039】
また、疲労破壊が発生しやすい曲げ部33に相当する部位を被打撃部3として逆成形解析により特定することで、打撃ピン11による打撃を自動化することが可能となり、疲労強度の向上と生産性の向上を両立させることができる。
【0040】
さらに、本実施の形態に係る金属板の曲げ加工方法によれば、金属板1における被打撃部3の曲げ内側表層に相当する部位を打撃して加工硬化させることで、当該曲げ内側表層の圧縮残留応力を大きくし、疲労強度をさらに向上することができる。
【0041】
なお、上記の説明において、打撃工程S3は、打撃工具として打撃ピン11を用いて金属板1に打撃痕5を形成するものであったが、本発明は、打撃工具として先端部が半球状の打撃ピンを用いるものに限らず、曲げ稜線方向に沿って走査させることで打撃痕5を連続的に形成できるものであればよく、例えば、鏨のように、その先端部が、曲げ稜線に直交する方向における断面形状が弧状に湾曲した形状であればよい。
【0042】
また、上記の説明は、
図6に示すように、パンチ23とダイ25とを備えた成形金型21を用いてサスペンションアーム31をプレス成形するに際して、金属板1の下面側をパンチ23により支持した状態で上面側からダイ25をパンチ23側に相対移動させて金属板1を曲げ加工して曲げ部33を形成する場合についてのものであった。
もっとも、本発明は、所定の曲率半径Rの曲げR部を有する曲げ工具を押し当てて曲げ部を形成するものであれば、曲げ加工する工法を特に限定するものではない。例えば、自由V曲げ加工、L曲げ加工やU曲げ加工するものであってもよい。
【実施例】
【0043】
本発明の作用効果について確認するための実験を行ったので、これについて以下に説明する。
本実施例では、
図2に示すサスペンションアーム31を試験対象として疲労試験を行い、疲労強度を評価した。
【0044】
<供試材及び疲労試験片>
板厚2.9mm、降伏強度750MPa級の熱延鋼板を供試材である金属板1とした。そして、本発明の実施の形態で説明した被打撃部特定工程、打撃工程及び曲げ工程の3工程により、内側の曲げ半径3mmの曲げ部33を有するサスペンションアーム31を作製した。
【0045】
<被打撃部特定工程>
被打撃部特定工程では、前述した
図2に示すように、サスペンションアーム31の形状(
図2(b))から、供試材とした金属板1の初期平面形状を求める逆成形解析により、サスペンションアーム31の曲げ部33のうち金属板1の限界曲げ半径以下の曲げ部33に相当する金属板1における部位を被打撃部として特定した(
図2(c))。なお、金属板1の限界曲げ半径は、予め曲げ試験を行い、5mmであることを確認した。
<打撃工程>
打撃工程では、空圧式のニードルピーニング装置を用いて打撃ピン11を金属板1における被打撃部3に沿って走査し、金属板1に打撃痕5を形成した(
図3~
図5参照)。そして、形成した打撃痕5の曲率半径r'(
図4参照)を3次元形状測定機により測定した。
【0046】
本実施例では、打撃ピン11の先端部13の曲率半径rを、2.6mm、2.7mm、3.0mm、3.3mm、3.4mの5種類とした。また、ピーニング時の空圧は0.5MPaとし、打撃ピン11の先端部13の形状が金属板1に転写されるように荷重2kNで打撃した。
【0047】
<曲げ工程>
曲げ工程では、曲率半径R=3mmの曲げR部23aを有するパンチ23とダイ25とを備えた成形金型21を曲げ工具として用いて、打撃痕5が形成された金属板1を曲げ加工し、サスペンションアーム31を作製した。曲げ加工においては、パンチ23の曲げR部23aを金属板1に形成した打撃痕5に当接させたままダイ25をパンチ23側に移動させ、曲げ部33を形成した。
【0048】
<疲労試験>
図7に示すように、サスペンションアーム31における端面Aと端面Bを固定面とし、荷重入力点にブッシュを圧入し、荷重負荷方向に繰り返し荷重を与えて疲労試験を行った。そして、サスペンションアーム31が破断するまでの繰り返し荷重のサイクル数を計測することにより、疲労寿命を評価した。
【0049】
疲労試験においては、
図7に示す荷重負荷方向に-5kNから5kNの間の引張荷重を与えるものとし、応力比(最小応力と最大応力の比)を-1(両振りの繰り返し荷重)とした。なお、繰り返し荷重の入力には、油圧サーボ試験機を用いた。
表1に、疲労試験における試験条件を示す。
【0050】
【0051】
本実施例では、上記の被打撃部特定工程、打撃工程及び曲げ工程の3工程により作製したサスペンションアーム31を発明例とした。さらに、比較対象として、被打撃部特定工程と打撃工程を省略して曲げ工程のみにより作製したサスペンションアーム31を比較例とし、発明例と同様に疲労試験を行った。
【0052】
表2に、疲労試験結果を示す。なお、表2には、打撃工程で用いた打撃ピン11の先端部13の曲率半径rと、金属板1に形成された打撃痕5の曲率半径r’の測定結果もあわせて示す。
【0053】
【0054】
表2に示す発明例1~発明例5により、打撃ピン11の先端部13の曲率半径rと、当該曲率半径rの打撃ピン11を用いて形成された打撃痕5の曲率半径r’とが一致していることがわかる。
【0055】
そして、表2に示すように、金属板1に打撃痕5を形成して作製した発明例1~発明例5においては、比較例に比べて破断までのサイクル数が増加して疲労強度が向上することが実証された。
【0056】
特に、打撃ピン11の先端部13の曲率半径rと曲げ工具であるパンチ23の曲げR部23aの曲率半径Rとの差が±10%以内である発明例2~発明例4の場合、サイクル数が100万回を超えても疲労破壊が発生せず、疲労強度が顕著に向上した。
【符号の説明】
【0057】
1 金属板
3 被打撃部
5 打撃痕
11 打撃ピン
13 先端部
21 成形金型
23 パンチ
23a 曲げR部
25 ダイ
31 サスペンションアーム
33 曲げ部