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特許7156362圧電アクチュエータ、及び、圧電アクチュエータの駆動方法
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  • 特許-圧電アクチュエータ、及び、圧電アクチュエータの駆動方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータ、及び、圧電アクチュエータの駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/297 20130101AFI20221012BHJP
   H01L 41/083 20060101ALI20221012BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221012BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221012BHJP
   H02N 2/04 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01L41/297
H01L41/083
H01L41/187
H01L41/09
H02N2/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020504964
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007771
(87)【国際公開番号】W WO2019172064
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2018041854
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018191879
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山川 慶之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 征士朗
(72)【発明者】
【氏名】川田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 繁利
(72)【発明者】
【氏名】藤田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠佑
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-070136(JP,A)
【文献】特開2010-161286(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031302(WO,A1)
【文献】特開2011-049352(JP,A)
【文献】特開2005-285817(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157293(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158762(WO,A1)
【文献】特開2014-179396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/297
H01L 41/083
H01L 41/187
H01L 41/09
H02N 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の圧電セラミック層と複数の平面電極とを含み、積層方向において相対する一対の主面と、前記積層方向に直交する長さ方向において相対する一対の端面と、前記積層方向及び前記長さ方向の両方に直交する幅方向において相対する一対の側面とを有する積層体と、
前記積層体の一方の端面上に設けられた、第1の電位を印加するための低電位用外部電極と、
前記積層体の他方の端面上に設けられた、前記第1の電位よりも高い第2の電位を印加するための高電位用外部電極と、を備える圧電アクチュエータであって、
前記第1の電位及び前記第2の電位の極性は同一、又は、一方がグランドであり、
前記平面電極は、前記低電位用外部電極に電気的に接続された低電位用平面電極と、前記高電位用外部電極に電気的に接続された高電位用平面電極とを含み、前記低電位用平面電極と前記高電位用平面電極とは前記積層方向において交互に位置し、そのうち、前記積層体の内部に位置する平面電極はNiを主成分とし、
前記圧電セラミック層は、ペロブスカイト構造を有するニオブ酸アルカリ化合物又はチタン酸バリウム化合物を主成分とし、かつ、前記低電位用平面電極と前記高電位用平面電極とが対向する領域において、前記低電位用平面電極側から前記高電位用平面電極側に向かって分極された活性領域を有し、
前記積層体の一方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は前記活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出し、
前記積層体の他方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は前記活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出し、
前記低電位用平面電極と前記高電位用平面電極とが互いに対向する領域において、前記積層体の一方及び他方の主面には、前記低電位用平面電極のみが位置する、圧電アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエータの前記低電位用外部電極に第1の電位を印加し、前記高電位用外部電極に前記第1の電位よりも高い第2の電位を印加する、圧電アクチュエータの駆動方法であって、
前記第1の電位及び前記第2の電位の極性は同一、又は、一方がグランドである、圧電アクチュエータの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ、及び、圧電アクチュエータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小さい電圧でも大きな変位量の取得が可能な圧電アクチュエータ等の圧電セラミック電子部品の需要が増加している。
【0003】
この種の圧電セラミック電子部品では、圧電セラミック層となるセラミックグリーンシートと内部電極となる導電層とを交互に積層し、共焼成して製造するのが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の圧電セラミック材料を使用し、内部電極の材料としてAg-Pdを使用した圧電アクチュエータを製造する方法が開示されている。
【0005】
近年、環境面の配慮等から、PZTをはじめとする鉛系の圧電セラミック材料に代えて、鉛を含有しない非鉛系の圧電セラミック材料の開発が行われている。特に、ペロブスカイト構造(一般式ABO)のAサイトにKやNa等のアルカリ金属元素を主成分として配し、BサイトにNbを主成分として配したニオブ酸アルカリ化合物系の圧電セラミック材料は、比較的大きな圧電定数が得られることから注目されている。ニオブ酸アルカリ化合物系の圧電セラミック材料を使用する場合、内部電極の材料としては、低価格で比較的容易に入手できるNiを使用するのが好ましい。
【0006】
例えば、特許文献2には、特定の組成を有するニオブ酸アルカリ化合物を主成分とするセラミックグリーンシートとNiを主成分とする導電層とが交互に積層された積層体を還元雰囲気下で焼成して圧電セラミック素体を作製し、該圧電セラミック素体の両端部に外部電極を形成した後、分極処理を行うことにより圧電アクチュエータを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-230463号公報
【文献】特許第5561483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているように、PZT系の圧電セラミック材料を使用して圧電アクチュエータを作製する場合、Niと共焼結させることができない。そのため、電極材料を卑金属化することができず、コストダウンが困難となる。
【0009】
一方、特許文献2に記載されている方法により圧電アクチュエータを作製する場合、圧電アクチュエータの初期特性や歩留まりには問題がない。しかし、還元雰囲気下でNiと共焼結させる積層構造を有する電子部品においては、充分な信頼性を担保することが困難であるという問題が知られている。ここでいう信頼性とは、電子部品に電圧を印加してから絶縁破壊による故障に至るまでの時間を意味する。したがって、圧電アクチュエータに特有の「変位特性を高くする」という課題に加えて、還元雰囲気下でNiと共焼結させる積層構造を有する電子部品に特有の「絶縁劣化を抑制する」という課題を解決するためには、未だ改善の余地があると言える。
【0010】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、変位特性が高く、かつ、絶縁劣化が抑制された圧電アクチュエータを提供することを目的とする。本発明はまた、上記圧電アクチュエータの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧電アクチュエータは、積層された複数の圧電セラミック層と複数の平面電極とを含み、積層方向において相対する一対の主面と、上記積層方向に直交する長さ方向において相対する一対の端面と、上記積層方向及び上記長さ方向の両方に直交する幅方向において相対する一対の側面とを有する積層体と、上記積層体の一方の端面上に設けられた、第1の電位を印加するための低電位用外部電極と、上記積層体の他方の端面上に設けられた、上記第1の電位よりも高い第2の電位を印加するための高電位用外部電極と、を備える圧電アクチュエータであって、上記第1の電位及び上記第2の電位の極性は同一、又は、一方がグランドであり、上記平面電極は、上記低電位用外部電極に電気的に接続された低電位用平面電極と、上記高電位用外部電極に電気的に接続された高電位用平面電極とを含み、上記低電位用平面電極と上記高電位用平面電極とは上記積層方向において交互に位置し、そのうち、上記積層体の内部に位置する平面電極はNiを主成分とし、上記圧電セラミック層は、ペロブスカイト構造を有するニオブ酸アルカリ化合物又はチタン酸バリウム化合物を主成分とし、かつ、上記低電位用平面電極と上記高電位用平面電極とが対向する領域において、上記低電位用平面電極側から上記高電位用平面電極側に向かって分極された活性領域を有し、上記積層体の一方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は上記活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出し、上記積層体の他方の主面においては、高電位用平面電極が外部に露出しない。
【0012】
上記積層体の他方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は上記活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出してもよい。
【0013】
上記積層体の他方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は上記活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は上記圧電セラミック層と接してもよい。
【0014】
上記積層体の他方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が高電位用平面電極であり、該高電位用平面電極の内側は上記活性領域の分極の+側と接し、該高電位用平面電極の外側は上記圧電セラミック層と接してもよい。
【0015】
本発明の圧電アクチュエータの駆動方法は、本発明の圧電アクチュエータの上記低電位用外部電極に第1の電位を印加し、上記高電位用外部電極に上記第1の電位よりも高い第2の電位を印加する、圧電アクチュエータの駆動方法であって、上記第1の電位及び上記第2の電位の極性は同一、又は、一方がグランドである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変位特性が高く、かつ、絶縁劣化が抑制された圧電アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図1(c)は、図1(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。
図2図2(a)は、本発明の第2実施形態に係る圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図2(c)は、図2(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。
図3図3(a)は、本発明の第3実施形態に係る圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図3(b)は、図3(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図3(c)は、図3(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。
図4図4(a)は、従来の圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図4(b)は、図4(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図4(c)は、図4(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。
図5図5は、実施例1及び比較例1における故障時間の寿命解析を示すグラフである。
図6図6は、実施例2及び比較例1における故障時間の寿命解析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の圧電アクチュエータについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0019】
本発明の圧電アクチュエータでは、積層体の一方の主面において、圧電セラミック層の活性領域の-側と接する低電位用平面電極が外部に露出し、積層体の他方の主面において、圧電セラミック層の活性領域の+側と接する高電位用平面電極が外部に露出していないことを特徴としている。
【0020】
本発明者らの検討により、圧電セラミック層の活性領域の+側と接する高電位用平面電極が外部に露出した構造では、該高電位用平面電極の外部電極近傍における絶縁劣化がボトルネックとなり、信頼性が決定されることが判明した。その理由については、還元雰囲気下での焼成により生じる酸素欠陥が関係しているのではないかと推測される。本発明の圧電アクチュエータでは、積層体の主面において、高電位用平面電極が外部に露出しない構造とすることにより、絶縁劣化のボトルネックが取り除かれるため、電圧印加駆動における信頼性を向上させることができる。
【0021】
一方、圧電セラミック層の活性領域の-側と接する低電位用平面電極が外部に露出していても、信頼性は担保されることが判明した。また、平面電極が外部に露出せず、電圧を印加しても変位しない圧電セラミック層が積層体の両主面の最表層に存在する構造では、最表層の圧電セラミック層が変位に寄与しないため好ましくない。そこで、本発明の圧電アクチュエータでは、積層体の少なくとも一方の主面において低電位用平面電極を外部に露出する構造とすることにより、変位特性を高くすることができる。また、外部に露出した低電位用平面電極を外部電極として使用することができるため、外部との接続も容易となる。
【0022】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0023】
[第1実施形態]
第1実施形態では、積層体の一方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出する。一方、積層体の他方の主面においても、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出する。また、積層体の一方の主面側の最も外側に位置する高電位用平面電極は、圧電セラミック層同士の層間に位置する。同様に、積層体の他方の主面側の最も外側に位置する高電位用平面電極は、圧電セラミック層同士の層間に位置する。
【0024】
上述のとおり、高電位用平面電極が外部に露出しない構造とすることにより、高電位用平面電極が外気と接する部位で生じる絶縁劣化が抑制されるため、信頼性、すなわち、電圧印加による駆動時間を向上させることができる。
【0025】
さらに、第1実施形態では、全ての圧電セラミック層が分極されて変位に寄与するため、高い変位特性を得ることができる。
【0026】
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図1(c)は、図1(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。なお、図1(a)は、図1(b)の1a-1a断面図である。
【0027】
図1(a)に示す圧電アクチュエータ1は、積層体10Aを備えている。積層体10Aは、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fと平面電極21a、22a、21b、22b、21c、22c及び21dとが交互に積層された構造を有している。
【0028】
圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fは、ペロブスカイト構造を有するニオブ酸アルカリ化合物又はチタン酸バリウム化合物を主成分としている。このように、圧電セラミック層は、ニオブ酸アルカリ化合物系の圧電セラミック材料又はチタン酸バリウム化合物系の圧電セラミック材料で構成される。
【0029】
ニオブ酸アルカリ化合物系の圧電セラミック材料は、例えば、以下の一般式:
(1-x)(K1-a-bNaLi)(Nb1-cTa)O-xM2M4O
を主成分とする。ただし、M2は2価の金属元素、M4は4価の金属元素を表す。x、a、b及びcは0であってもよい。ここで、x>0である場合には、(K,Na,Li)(Nb,Ta)OにM2M4Oが固溶されている。また、a>0である場合にはKの一部がNaと置換され、b>0である場合にはKの一部がLiと置換され、c>0である場合にはNbの一部がTaと置換されている。
【0030】
チタン酸バリウム化合物系の圧電セラミック材料としては、例えば次の組成式で表されるものを使用することができる。
{Ba1-xCaO}TiO+αRe+βMgO+γMnO
[但し、Reは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbの中から選ばれる少なくとも1種以上であり、α、β及びγはモル比を表し、以下の関係式(1)~(4)を満たす。
α:β:γ=2.5:2.2:1 (1)
0.0002≦γ≦(-13.06m+13.54)/100 (2)
0.995≦m≦1.011 (3)
x=0.13 (4)]
【0031】
また、チタン酸バリウム化合物系の圧電セラミック材料を下記のように規定することもできる。
圧電セラミック材料が、Ba、Ca、Ti、Mg、Mn及びRe(ReはY、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びYbの中から選ばれる少なくとも1種以上)を含有する酸化物を含み、上記酸化物は、上記酸化物に含まれるTi1モルに対する、BaとCaの合計含有量をmモル、Reの含有量をαモル、Mgの含有量をβモル、Mnの含有量をγモルとしたとき、以下の関係式(1)~(4)を満たす。
α:β:γ=5:2.2:1 (1)
0.0002≦γ≦(-13.06m+13.54)/100 (2)
0.995≦m≦1.011 (3)
BaとCaのモル比がBa:Ca=0.87:0.13 (4)]
【0032】
本明細書において、「主成分」とは、存在割合(モル%)が最も大きい成分を意味し、望ましくは、存在割合が50モル%を超える成分を意味する。
【0033】
平面電極のうち、積層体10Aの内部に位置する平面電極22a、21b、22b、21c及び22cは、Niを主成分としており、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fと共焼結されている。一方、外部に露出する平面電極21a及び21dは、後述する低電位用外部電極31と同じ導電性材料、例えば、Ni-Cr合金(ニクロム)、Ag等で構成される。
【0034】
積層体10Aは、直方体状又は略直方体状をなしており、積層方向(図1(a)では上下方向)に相対する第1の主面11及び第2の主面12と、積層方向に直交する長さ方向(図1(a)では左右方向)に相対する第1の端面13及び第2の端面14と、積層方向及び長さ方向に直交する幅方向(図1(a)では前後方向)に相対する第1の側面15及び第2の側面16(図1(b)及び図1(c)参照)とを有している。
【0035】
図1(a)に示す圧電アクチュエータ1は、さらに、積層体10Aの第1の端面13に設けられた低電位用外部電極31、及び、積層体10Aの第2の端面14に設けられた高電位用外部電極32を備えている。低電位用外部電極31及び高電位用外部電極32は、Ni-Cr合金(ニクロム)、Ag等の導電性材料で構成される。
【0036】
低電位用外部電極31は、第1の電位を印加するための外部電極であり、高電位用外部電極32は、第1の電位よりも高い第2の電位を印加するための外部電極である。ただし、第1の電位及び第2の電位の極性は同一、又は、一方がグランドである。例えば、低電位用外部電極31にグランド電位が印加され、高電位用外部電極32に正電位が印加される。その他、低電位/高電位の組み合わせとしては、負電位/グランド電位、正電位/正電位、負電位/負電位が挙げられる。
【0037】
平面電極のうち、平面電極21a、21b、21c及び21dは、一端が低電位用外部電極31に電気的に接続された低電位用平面電極であり、平面電極22a、22b及び22cは、一端が高電位用外部電極32に電気的に接続された高電位用平面電極である。低電位用平面電極21a、21b、21c及び21dと高電位用平面電極22a、22b及び22cとは、積層方向において交互に位置しており、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fを介して互いに対向している。
【0038】
圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fは、低電位用平面電極21a、21b、21c及び21dと高電位用平面電極22a、22b及び22cとが対向する領域において、低電位用平面電極側から高電位用平面電極側に向かって分極された活性領域20Xを有している。
【0039】
本明細書において、「活性領域」とは、対向する異なる電位の平面電極に挟まれ、分極された領域を意味する。
【0040】
図1(a)では、活性領域20Xにおける分極の向きを矢印で示しており、矢印の先が分極の+側、矢印の元が分極の-側を表している。
なお、分極の向きは、例えば、d33メーターを用いて確認することができる。具体的には、まず、圧電アクチュエータの各々の外部電極に、d33メーターの正極及び負極のプローブを接続する。そして、圧電アクチュエータに積層方向の応力を加える。この時に測定されるd値が正であれば、d33メーターの正極側プローブに接続された平面電極側が分極の+側であり、負極側プローブに接続された平面電極側が分極の-側である。測定されるd値が負であればその逆となる。
【0041】
図1(a)及び図1(b)に示すように、積層体10Aの第1の主面11においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極21aであり、低電位用平面電極21aの内側は活性領域20Xの分極の-側と接し、低電位用平面電極21aの外側は外部に露出している。
【0042】
図1(a)及び図1(c)に示すように、積層体10Aの第2の主面12においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極21dであり、低電位用平面電極21dの内側は活性領域20Xの分極の-側と接し、低電位用平面電極21dの外側は外部に露出している。
【0043】
本明細書において、「最も外側に位置する」とは、積層方向において最も外側に位置することを意味する。
【0044】
図1(a)に示すように、高電位用平面電極22aは圧電セラミック層20a及び20bの層間に位置し、高電位用平面電極22bは圧電セラミック層20c及び20dの層間に位置し、高電位用平面電極22cは圧電セラミック層20e及び20fの層間に位置する。また、低電位用平面電極21bは圧電セラミック層20b及び20cの層間に位置し、低電位用平面電極21cは圧電セラミック層20d及び20eの層間に位置する。
【0045】
なお、図1(a)、図1(b)及び図1(c)に示すように、積層体10Aの第1の主面11及び第2の主面12のうち、活性領域20Xでない領域にまで高電位用外部電極32が回り込んでいてもよい。この場合、高電位用外部電極32は、第1の主面11における活性領域20Xでない領域に位置し、また、高電位用外部電極32は、第2の主面12における活性領域20Xでない領域に位置する。図1(b)に示すように、第1の主面11における高電位用外部電極32の面積は、第1の主面11における低電位用平面電極21aの面積よりも小さい。また、図1(c)に示すように、第2の主面12における高電位用外部電極32の面積は、第2の主面12における低電位用平面電極21dの面積よりも小さい。
【0046】
本発明の第1実施形態に係る圧電アクチュエータは、好ましくは、以下の方法により製造される。
【0047】
圧電セラミック層を構成する材料としてニオブ酸アルカリ化合物系の圧電セラミック材料を使用する場合には、まず、セラミック原料として、Kを含有するK化合物、Naを含有するNa化合物、及び、Nbを含有するNb化合物を用意する。必要に応じて、Liを含有するLi化合物、M2元素を含有するM2化合物、M4元素を含有するM4化合物等を用意する。化合物の形態は、酸化物、炭酸塩、水酸化物のいずれであってもよい。
【0048】
上記セラミック原料を所定量秤量した後、PSZ(部分安定化ジルコニア)ボール等の粉砕媒体が内有されたボールミルやポットミル等の粉砕機に投入し、エタノール等の溶媒下、充分に湿式粉砕し、混合物を得る。
【0049】
この混合物を乾燥させた後、所定温度(例えば、850℃以上、1000℃以下)で仮焼して合成し、仮焼物を得る。
【0050】
得られた仮焼物を解砕した後、有機バインダ、分散剤を加え、純水等を溶媒としてボールミル中で湿式混合し、セラミックスラリーを得る。その後、ドクターブレード法等を使用して成形加工をすることによって、セラミックグリーンシートを作製する。
【0051】
Niを主成分とする導電性ペーストを使用し、上記セラミックグリーンシート上にスクリーン印刷し、これにより所定形状の導電層を形成する。
【0052】
導電層が形成されたセラミックグリーンシートを積層した後、加圧して圧着する。これにより、導電層とセラミックグリーンシートとが交互に積層されたセラミック積層体を作製する。このセラミック積層体を所定寸法に切断してアルミナ製の匣(さや)に収容し、所定温度(例えば、250℃以上、500℃以下)で脱バインダ処理を行った後、還元雰囲気下、所定温度(例えば、1000℃以上、1160℃以下)で焼成する。これにより、内部に平面電極が埋設された圧電セラミック素体(積層体)を作製する。
【0053】
圧電セラミック素体の両端面に、スパッタリング法により、ニクロム及びAgで構成される低電位用外部電極及び高電位用外部電極を形成する。この際、外部に露出する低電位用平面電極もスパッタリング法により形成する。
【0054】
その後、所定の分極処理を行う。以上により、圧電アクチュエータが得られる。
【0055】
なお、圧電セラミック層を構成する材料としてチタン酸バリウム化合物系の圧電セラミック材料を使用する場合には、当該チタン酸バリウム化合物を構成する元素を含むセラミック原料を使用すればよい。セラミック原料としては、酸化物や炭酸塩などを高温で反応させる固相法により作製した原料粉末や、アルコキシド法あるいは水熱合成法などの湿式合成法により作製した原料粉末を準備する。なお、添加剤などは、酸化物や炭酸塩などの粉末以外に、アルコキシド、有機金属などの溶液を用いることもできる。
【0056】
[第2実施形態]
第2実施形態では、積層体の一方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出する。一方、積層体の他方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は圧電セラミック層と接する。また、積層体の一方の主面側の最も外側に位置する高電位用平面電極は、圧電セラミック層同士の層間に位置する。同様に、積層体の他方の主面側の最も外側に位置する高電位用平面電極は、圧電セラミック層同士の層間に位置する。
【0057】
図2(a)は、本発明の第2実施形態に係る圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図2(c)は、図2(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。なお、図2(a)は、図2(b)の2a-2a断面図である。
【0058】
図2(a)に示す圧電アクチュエータ2は、積層体10Bを備えている。積層体10Bは、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e、20f及び20gと平面電極21a、22a、21b、22b、21c、22c及び21dとが交互に積層された構造を有している。
【0059】
図2(a)に示す圧電アクチュエータ2は、さらに、積層体10Bの第1の端面13に設けられた低電位用外部電極31、及び、積層体10Bの第2の端面14に設けられた高電位用外部電極32を備えている。
【0060】
平面電極のうち、平面電極21a、21b、21c及び21dは、一端が低電位用外部電極31に電気的に接続された低電位用平面電極であり、平面電極22a、22b及び22cは、一端が高電位用外部電極32に電気的に接続された高電位用平面電極である。低電位用平面電極21a、21b、21c及び21dと高電位用平面電極22a、22b及び22cとは、積層方向において交互に位置しており、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fを介して互いに対向している。
【0061】
図2(a)及び図2(b)に示すように、積層体10Bの第1の主面11においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極21aであり、低電位用平面電極21aの内側は活性領域20Xの分極の-側と接し、低電位用平面電極21aの外側は外部に露出している。
【0062】
図2(a)及び図2(c)に示すように、積層体10Bの第2の主面12においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極21dであり、低電位用平面電極21dの内側は活性領域20Xの分極の-側と接し、低電位用平面電極21dの外側は圧電セラミック層20gと接している。
【0063】
図2(a)に示すように、高電位用平面電極22aは圧電セラミック層20a及び20bの層間に位置し、高電位用平面電極22bは圧電セラミック層20c及び20dの層間に位置し、高電位用平面電極22cは圧電セラミック層20e及び20fの層間に位置する。また、低電位用平面電極21bは圧電セラミック層20b及び20cの層間に位置し、低電位用平面電極21cは圧電セラミック層20d及び20eの層間に位置し、低電位用平面電極21dは圧電セラミック層20f及び20gの層間に位置する。
【0064】
本発明の第2実施形態において、平面電極が対向していない最外層の圧電セラミック層は分極されていてもよい。例えば、図2(a)に示す圧電アクチュエータ2において、圧電セラミック層20gは分極されていてもよい。
【0065】
[第3実施形態]
第3実施形態では、積層体の一方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極であり、該低電位用平面電極の内側は活性領域の分極の-側と接し、該低電位用平面電極の外側は外部に露出する。一方、積層体の他方の主面においては、最も外側に位置する平面電極が高電位用平面電極であり、該高電位用平面電極の内側は活性領域の分極の+側と接し、該高電位用平面電極の外側は圧電セラミック層と接する。また、積層体の一方の主面側の最も外側に位置する高電位用平面電極は、圧電セラミック層同士の層間に位置する。同様に、積層体の他方の主面側の最も外側に位置する高電位用平面電極は、圧電セラミック層同士の層間に位置する。
【0066】
図3(a)は、本発明の第3実施形態に係る圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図3(b)は、図3(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図3(c)は、図3(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。なお、図3(a)は、図3(b)の3a-3a断面図である。
【0067】
図3(a)に示す圧電アクチュエータ3は、積層体10Cを備えている。積層体10Cは、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e及び20fと平面電極21a、22a、21b、22b、21c及び22cとが交互に積層された構造を有している。
【0068】
図3(a)に示す圧電アクチュエータ3は、さらに、積層体10Cの第1の端面13に設けられた低電位用外部電極31、及び、積層体10Cの第2の端面14に設けられた高電位用外部電極32を備えている。
【0069】
平面電極のうち、平面電極21a、21b及び21cは、一端が低電位用外部電極31に電気的に接続された低電位用平面電極であり、平面電極22a、22b及び22cは、一端が高電位用外部電極32に電気的に接続された高電位用平面電極である。低電位用平面電極21a、21b及び21cと高電位用平面電極22a、22b及び22cとは、積層方向において交互に位置しており、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d及び20eを介して互いに対向している。
【0070】
図3(a)及び図3(b)に示すように、積層体10Cの第1の主面11においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極21aであり、低電位用平面電極21aの内側は活性領域20Xの分極の-側と接し、低電位用平面電極21aの外側は外部に露出している。
【0071】
図3(a)及び図3(c)に示すように、積層体10Cの第2の主面12においては、最も外側に位置する平面電極が高電位用平面電極22cであり、高電位用平面電極22cの内側は活性領域20Xの分極の+側と接し、高電位用平面電極22cの外側は圧電セラミック層20fと接している。
【0072】
図3(a)に示すように、高電位用平面電極22aは圧電セラミック層20a及び20bの層間に位置し、高電位用平面電極22bは圧電セラミック層20c及び20dの層間に位置し、高電位用平面電極22cは圧電セラミック層20e及び20fの層間に位置する。また、低電位用平面電極21bは圧電セラミック層20b及び20cの層間に位置し、低電位用平面電極21cは圧電セラミック層20d及び20eの層間に位置する。
【0073】
本発明の第3実施形態において、平面電極が対向していない最外層の圧電セラミック層は分極されていてもよい。例えば、図3(a)に示す圧電アクチュエータ3において、圧電セラミック層20fは分極されていてもよい。
【0074】
[その他の実施形態]
本発明の圧電アクチュエータは、上記実施形態に限定されるものではなく、圧電アクチュエータの構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。例えば、圧電セラミック層及び平面電極の積層数は、特に限定されるものではない。
【0075】
本発明の圧電アクチュエータにおいて、低電位用外部電極は、積層体の第1の主面及び第2の主面にまで回り込んでいてもよいが、積層体の第1の端面の少なくとも一部に設けられていればよい。同様に、高電位用外部電極は、積層体の第1の主面及び第2の主面にまで回り込んでいてもよいが、積層体の第2の端面の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0076】
本発明の圧電アクチュエータにおいては、第2実施形態及び第3実施形態でも説明したように、最も外側に位置する平面電極の外側に接する圧電セラミック層は、分極された領域を有していてもよい。
【0077】
本発明の圧電アクチュエータでは、低電位用外部電極に第1の電位が印加され、高電位用外部電極に第1の電位よりも高い第2の電位が印加されると、積層方向に対して垂直な方向へ最も変位する。上述のとおり、第1の電位及び第2の電位の極性は同一、又は、一方がグランドである。このような圧電アクチュエータの駆動方法もまた、本発明の1つである。
【実施例
【0078】
以下、本発明の圧電アクチュエータをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
[圧電アクチュエータの作製]
(実施例1)
セラミック原料として、KCO、NaCO、Li、Nb、BaCO、ZrO、La、MnCOを用意し、以下のセラミック組成:
0.925(K0.43Na0.51Li0.06)NbO-0.075BaZrO+0.025ZrO+0.0025La+0.005MnO
となるように秤量した。ここで、主成分は「0.925(K0.43Na0.51Li0.06)NbO-0.075BaZrO」であり、副成分は「0.025ZrO+0.0025La+0.005MnO」である。
【0080】
秤量後、PSZボールが内有されたポットミルに投入し、エタノールを溶媒にして約90時間ポットミルを回転し、湿式で混合した。得られた混合物を乾燥した後、900℃の温度で仮焼し、仮焼物を得た。
【0081】
得られた仮焼物を解砕した後、バインダ、分散剤、純水及びPSZボールとともに、ポットミルに投入し、該ポットミルを回転させながら充分に湿式で混合した。その後、ドクターブレード法を使用して成形加工を施し、厚みが33μmのセラミックグリーンシートを得た。
【0082】
Niを主成分とする導電性ペーストを使用し、スクリーン印刷法により上記セラミックグリーンシート上に所定パターンの導電層を形成した。導電層が形成されたセラミックグリーンシートを所定枚数積層し、加圧して圧着し、セラミック積層体を作製した。
【0083】
このセラミック積層体を還元雰囲気下で1050℃の温度で2時間焼成し、圧電セラミック素体(積層体)を作製した。
【0084】
図1(a)、図1(b)及び図1(c)に示すように、スパッタリング法により、ニクロム及びAgで構成される低電位用平面電極21a、低電位用平面電極21d、低電位用外部電極31及び高電位用外部電極32を形成した。その後、常温の空気中で3kV/mmの電界を4分間印加し、分極処理を行った。
以上により、実施例1の圧電アクチュエータを作製した。圧電セラミック層の積層数は6層である。また、圧電アクチュエータの寸法は、長さ13mm×幅3mmである。
【0085】
(実施例2)
実施例2では、図2(a)、図2(b)及び図2(c)に示すように、スパッタリング法により、ニクロム及びAgで構成される低電位用平面電極21a、低電位用外部電極31及び高電位用外部電極32を形成したことを除いて、実施例1と同様に圧電アクチュエータを作製した。圧電セラミック層の積層数は7層である。
【0086】
(実施例3)
まず、出発原料としてTiO、BaCO及びCaCOを準備した。混合粉砕した後、1000℃以上の温度で加熱して、チタン酸バリウムカルシウムを合成した。なお、原料の粒子径は走査型電子顕微鏡で観察し、その平均粒径が0.5μmであった。また、副成分としてSiO粉末を準備した。
【0087】
次に、チタン酸バリウムカルシウムの(Ba,Ca)/Tiモル比mを調整するためのBaCOあるいはTiO及び純度99%以上のDy、MgO及びMnOを準備した。これらの原料粉末と副成分である上記SiO粉末を秤量した。なお、SiOの添加量は、主成分[{Ba0.87Ca0.13O}TiO+αDy+βMgO+γMnO]100重量部に対する添加重量部数とし、それを0.4重量部とした。このとき、α~γについてストイキオ比率に対してわずかにβを増やし、ややアクセプタリッチとなるα:β:γ=2.5:2.2:1とした。今回、ReとしてDyを用いたが、Y、Gd、Tb、Ho、Er及びYbの中から選ばれる1種を用いても同等の効果が得られる。
モル比mは1.011とし、γは0.0034とした。
【0088】
そして、この秤量物にポリビニルブチラール系バインダ及びエタノールなどの有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを調製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形してセラミックグリーンシートを得た。
このセラミックグリーンシートを用いて、実施例1と同様に導電層を形成し、積層、加圧して圧着してセラミック積層体を作製した。
【0089】
セラミック積層体を、大気雰囲気中にて300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧10-9MPa以上、10-12MPa以下のH-N-HOガスからなる還元雰囲気中において1200℃以上、1300℃以下の温度で2時間焼成し、圧電セラミック素体(積層体)を作製した。
【0090】
実施例1と同様の構造となるように、図1(a)、図1(b)及び図1(c)に示すような外部電極を形成し、分極処理を行って実施例1と同様に圧電アクチュエータを作製した。
【0091】
(比較例1)
図4(a)は、従来の圧電アクチュエータの一例を模式的に示す断面図であり、図4(b)は、図4(a)に示す圧電アクチュエータを一方の主面から見た平面図であり、図4(c)は、図4(a)に示す圧電アクチュエータを他方の主面から見た平面図である。なお、図4(a)は、図4(b)の4a-4a断面図である。
【0092】
図4(a)に示す圧電アクチュエータ4は、積層体10Dを備えている。積層体10Dは、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e、20f及び20gと平面電極21a、22a、21b、22b、21c、22c、21d及び22dとが交互に積層された構造を有している。
【0093】
図4(a)に示す圧電アクチュエータ4は、さらに、積層体10Dの第1の端面13に設けられた低電位用外部電極31、及び、積層体10Dの第2の端面14に設けられた高電位用外部電極32を備えている。
【0094】
平面電極のうち、平面電極21a、21b、21c及び21dは、一端が低電位用外部電極31に電気的に接続された低電位用平面電極であり、平面電極22a、22b、22c及び22dは、一端が高電位用外部電極32に電気的に接続された高電位用平面電極である。低電位用平面電極21a、21b、21c及び21dと高電位用平面電極22a、22b、22c及び22dとは、積層方向において交互に位置しており、圧電セラミック層20a、20b、20c、20d、20e、20f及び20gを介して互いに対向している。
【0095】
図4(a)及び図4(b)に示すように、積層体10Dの第1の主面11においては、最も外側に位置する平面電極が低電位用平面電極21aであり、低電位用平面電極21aの内側は活性領域20Xの分極の-側と接し、低電位用平面電極21aの外側は外部に露出している。
【0096】
図4(a)及び図4(c)に示すように、積層体10Dの第2の主面12においては、最も外側に位置する平面電極が高電位用平面電極22dであり、高電位用平面電極22dの内側は活性領域20Xの分極の+側と接し、高電位用平面電極22dの外側は外部に露出している。
【0097】
図4(a)に示すように、高電位用平面電極22aは圧電セラミック層20a及び20bの層間に位置し、高電位用平面電極22bは圧電セラミック層20c及び20dの層間に位置し、高電位用平面電極22cは圧電セラミック層20e及び20fの層間に位置する。また、低電位用平面電極21bは圧電セラミック層20b及び20cの層間に位置し、低電位用平面電極21cは圧電セラミック層20d及び20eの層間に位置し、低電位用平面電極21dは圧電セラミック層20f及び20gの層間に位置する。
【0098】
比較例1では、図4(a)、図4(b)及び図4(c)に示すように、スパッタリング法により、ニクロム及びAgで構成される低電位用平面電極21a、低電位用外部電極31、高電位用平面電極22d及び高電位用外部電極32を形成したことを除いて、実施例1と同様に圧電アクチュエータを作製した。圧電セラミック層の積層数は7層である。
【0099】
(比較例2)
実施例3で得た圧電セラミック素体(積層体)に対して、比較例1と同様の構造となるように、図4(a)、図4(b)及び図4(c)に示すような外部電極を形成し、分極処理を行って圧電アクチュエータを作製した。
【0100】
[信頼性の評価]
実施例1、実施例2及び比較例1で作製した試料を8~22個準備し、温度85℃にて80Vの直流電圧(電界強度:4kV/mm)を印加した。
この試験では、各試料の絶縁劣化が進行して短絡に至り、放電するまでの時間を寿命時間とした。ワイブル確率分布を用いて、平均故障寿命を算出した。
【0101】
図5は、実施例1及び比較例1における故障時間の寿命解析を示すグラフである。
図5より、比較例1における平均故障寿命が12.5時間であるのに対し、実施例1における平均故障寿命が23.1時間であり、約2倍に向上することが分かる。また、実施例1では、全ての圧電セラミック層が変位に寄与するため、高い変位特性が得られる。
【0102】
図6は、実施例2及び比較例1における故障時間の寿命解析を示すグラフである。
図6より、比較例1における平均故障寿命が12.5時間であるのに対し、実施例2における平均故障寿命が33.0時間であり、約2.6倍に向上することが分かる。
【0103】
また、実施例3及び比較例2で作製した試料については、それぞれ4個の試料を準備し、温度85℃にて80Vの直流電圧(電界強度:4kV/mm)を印加して、実施例1等と同様に寿命時間を算出した。
実施例3では4つの試料全てが810時間の電圧印加後でも故障していなかった。一方、比較例2ではそれぞれ3.1時間、61.7時間、42.7時間、52.3時間の電圧印加で故障が生じていた。
このことから、実施例3の構造の方が比較例2の構造に比べて大幅に平均故障寿命が長いことが分かる。
【符号の説明】
【0104】
1,2,3,4 圧電アクチュエータ
10A,10B,10C,10D 積層体
11 第1の主面
12 第2の主面
13 第1の端面
14 第2の端面
15 第1の側面
16 第2の側面
20a,20b,20c,20d,20e,20f,20g 圧電セラミック層
20X 活性領域
21a,21b,21c,21d 低電位用平面電極
22a,22b,22c,22d 高電位用平面電極
31 低電位用外部電極
32 高電位用外部電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6