(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20221012BHJP
F16C 35/02 20060101ALI20221012BHJP
F16C 29/02 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B62D3/12 503A
F16C35/02 A
F16C29/02
(21)【出願番号】P 2020531316
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027939
(87)【国際公開番号】W WO2020017503
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2018136382
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 達也
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-006850(JP,A)
【文献】特開2016-097792(JP,A)
【文献】特開2008-265590(JP,A)
【文献】特開2014-227028(JP,A)
【文献】特開2012-254780(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196582(WO,A1)
【文献】特開2017-087972(JP,A)
【文献】特開2004-347105(JP,A)
【文献】特開2012-057717(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0026165(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-0452297(KR,B1)
【文献】特開2014-104961(JP,A)
【文献】特開2018-079724(JP,A)
【文献】特開2008-151289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
F16C 17/02
F16C 25/04
F16C 29/02
F16C 33/20
F16C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向両側が開口した筒状で、内周面に係合凹部を含むラックハウジングと、ピニオンハウジングと、を有するハウジングと、
筒体と、該筒体の外周面よりも径方向外方に突出し、かつ、前記係合凹部の内側に配置される係合凸部と、を有し、前記ラックハウジングに内嵌される、少なくとも1個の滑り軸受と、
ラック歯を有し、前記少なくとも1個の滑り軸受の内周面により軸方向の摺動を可能に支持され、かつ、前記ラックハウジングの内側に配置されるラック軸と、
外周面に、前記ラック歯と噛合するピニオン歯を有し、前記ピニオンハウジングの内側に回転自在に支持されるピニオン軸と、を備え、
前記係合凸部は、前記少なくとも1個の滑り軸受の前記ラックハウジングの開口側に位置する部分に設けられており、
前記係合凹部は、1対の内側面を備え、該1対の内側面のうち、前記ラックハウジングの開口側に位置する内側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの奥側に向かう方向に傾斜した凹部第1傾斜面により構成されており、前記ラックハウジングの奥側に位置する内側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの開口側に向かう方向に傾斜した凹部第2傾斜面により構成されており、
前記係合凸部は、1対の外側面を備え、該1対の外側面のうち、前記凹部第1傾斜面と軸方向に対向する外側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの奥側に向かう方向に傾斜した凸部第1傾斜面により構成されており、前記凹部第2傾斜面と軸方向に対向し、かつ、前記ラックハウジングの奥側を向いた外側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの開口側に向かう方向に傾斜した凸部第2傾斜面により構成されており、
前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第1傾斜面の傾斜角度と、前記滑り軸受の中心軸に対する前記凸部第1傾斜面の傾斜角度とが同じであり、かつ、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第2傾斜面の傾斜角度と、前記滑り軸受の中心軸に対する前記凸部第2傾斜面の傾斜角度とが同じであり、
前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第2傾斜面の傾斜角度は、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第1傾斜面の傾斜角度よりも小さく、
前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記凸部第2傾斜面を前記凹部第2傾斜面に対して軸方向に押し付けており、かつ、前記凸部第2傾斜面を前記凹部第2傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して軸方向に押し付けている、
ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項2】
前記凹部第1傾斜面および前記凸部第1傾斜面の断面形状、並びに、前記凹部第2傾斜面および前記凸部第2傾斜面の断面形状が直線状である、請求項1に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項3】
前記少なくとも1個の滑り軸受は、前記筒体と前記係合凸部の全体とが一体に形成されたラックブッシュにより構成されている、請求項1~
2のうちのいずれか1項に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項4】
前記少なくとも1個の滑り軸受は、前記ラックハウジングのうち、軸方向に関して前記ラック歯と前記ピニオン歯との噛合部から遠い側の開口部の近傍部分に内嵌されている、請求項1~
3のうちのいずれか1項に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項5】
前記少なくとも1個の滑り軸受は、1対の滑り軸受により構成されており、
前記1対の滑り軸受は、前記ラックハウジングのうち、軸方向両側の開口部の近傍部分に内嵌されている、請求項
4に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項6】
前記ラック軸の外周面のうち、前記ラック歯が備えられた部分と径方向反対側に位置する被押圧部を、前記ピニオン軸に向けて押圧する、押圧機構をさらに備え、
前記押圧機構は、前記ラック軸に対する遠近動を可能に支持された枢軸と、該枢軸に周囲に回転自在に支持され、かつ、外周面を前記被押圧部に当接させた押圧ローラと、前記枢軸を前記ピニオン軸に向けて押圧する弾性部材とを有する、請求項
4または
5に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【請求項7】
軸方向両側が開口した筒状で、内周面に係合凹部を含むラックハウジングと、ピニオンハウジングと、を有するハウジングと、
筒体と、該筒体の外周面よりも径方向外方に突出し、かつ、前記係合凹部の内側に配置される係合凸部と、を有し、前記ラックハウジングに内嵌される、少なくとも1個の滑り軸受と、
ラック歯を有し、前記少なくとも1個の滑り軸受の内周面により軸方向の摺動を可能に支持され、かつ、前記ラックハウジングの内側に配置されるラック軸と、
外周面に、前記ラック歯と噛合するピニオン歯を有し、前記ピニオンハウジングの内側に回転自在に支持されるピニオン軸と、を備え、
前記係合凸部は、前記少なくとも1個の滑り軸受の前記ラックハウジングの開口側に位置する部分に設けられており、
前記係合凹部は、1対の内側面を備え、該1対の内側面のうち、前記ラックハウジングの開口側に位置する内側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの奥側に向かう方向に傾斜した、断面形状が凹円形の凹部第1傾斜面により構成されており、前記ラックハウジングの奥側に位置する内側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの開口側に向かう方向に傾斜した、断面形状が凹円弧形の凹部第2傾斜面により構成されており、
前記係合凸部は、1対の外側面を備え、該1対の外側面のうち、前記凹部第1傾斜面と軸方向に対向する外側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの奥側に向かう方向に傾斜した、断面形状が凸円弧形の凸部第1傾斜面により構成されており、前記凹部第2傾斜面と軸方向に対向し、かつ、前記ラックハウジングの奥側を向いた外側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの開口側に向かう方向に傾斜した、断面形状が凸円弧形の凸部第2傾斜面により構成されており、
前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記凸部第2傾斜面を前記凹部第2傾斜面に対して軸方向に押し付けており、かつ、前記凸部第2傾斜面を前記凹部第2傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して軸方向に押し付けており、
前記少なくとも1個の滑り軸受は、前記筒体と前記係合凸部の全体とが一体に形成されたラックブッシュにより構成されている、
ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の操舵輪に舵角を付与するためのステアリング装置を構成する、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置は、小型かつ軽量に構成でき、しかも剛性が高く良好な操舵感を得られるなどの理由から、自動車用のステアリング装置に広く使用されている。ラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置では、運転者が操作するステアリングホイールの回転運動を、ステアリングギヤユニットによって往復直線運動に変換し、タイロッドを介して操舵輪に舵角を付与する。
【0003】
ラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットは、ステアリングホイールの回転運動が伝達されるピニオン軸と、ピニオン軸の回転運動を直線運動に変換するラック軸と、これらピニオン軸およびラック軸を収容するハウジングとを備えており、ピニオン軸に設けられたピニオン歯とラック軸に設けられたラック歯とを噛合させている。これにより、ピニオン軸の回転運動をラック軸の直線運動に変換し、ラック軸の軸方向両側に接続されたタイロッドを押し引きすることで、操舵輪に舵角を付与するようにしている。
【0004】
ステアリングホイールの回転運動を操舵輪に効率良く伝達するためには、ラック軸を、ハウジングに備えられたラックハウジングの内側に、軸方向に関する円滑な変位を可能に支持することが重要になる。このために、ラックハウジングの内側に滑り軸受を配置し、該滑り軸受によりラック軸を摺動可能に支持することが行われている。
図17は、特開2015-189378号公報に記載された、ラック軸を滑り軸受によりラックハウジングの内側に支持する従来構造を示している。
【0005】
特開2015-189378号公報に記載された構造では、滑り軸受として、合成樹脂製のラックブッシュ1を使用している。ラックブッシュ1は、略円筒形状を有する筒体2と、該筒体2の外周面よりも径方向外方に突出した係合凸部3とを有している。ラックブッシュ1は、ラックハウジング4の開口部に内嵌された金属製のエンドケース5を介して、ラックハウジング4の内側に配置されている。
【0006】
具体的には、ラックブッシュ1の筒体2は、エンドケース5の内周面に備えられた小径孔部6に内嵌され、かつ、ラックブッシュ1の係合凸部3は、エンドケース5の内周面に備えられた大径孔部7の内側に配置されている。エンドケース5の大径孔部7には、金属製のストッパ8が内嵌されている。したがって、係合凸部3は、ストッパ8の軸方向側面と、エンドケース5の内周面のうちで小径孔部6と大径孔部7との間部分に存在する段差面9との間で、軸方向に挟持されている。
【0007】
上述の構造によれば、ラックブッシュ1の筒体2の内周面により、ラック軸10の外周面を摺動可能に支持することができる。このため、ラック軸10の軸方向に関する円滑な変位が可能になり、ステアリングホイールの回転運動を操舵輪に効率良く伝達することが可能になる。ラックブッシュ1の係合凸部3は、ストッパ8の軸方向側面とエンドケース5の段差面9との間で軸方向に挟持されているため、ラック軸10の摺動時、ラックブッシュ1がエンドケース5に対して軸方向に移動することを抑制できる。したがって、ラックブッシュ1とエンドケース5またはストッパ8とが衝突することに起因して、異音が発生することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特開2015-189378号公報に記載された構造は、ステアリングホイールを操舵限界まで操舵する、いわゆる端当て時に、ラック軸10の軸方向両側部に取り付けられた図示しないエンド部材がエンドケース5に衝突し、該エンドケース5に大きな軸方向荷重が入力される可能性があり、ラックブッシュ1の姿勢を安定させる面などから改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、ラック軸を摺動可能に支持する滑り軸受を、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジングに対して軸方向のがたつきなく支持することができる、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの構造の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットは、ハウジングと、少なくとも1個の滑り軸受と、ラック軸と、ピニオン軸とを備える。
前記ハウジングは、軸方向両側が開口した筒状で、内周面に係合凹部を有するラックハウジングと、ピニオンハウジングと、を有する。
前記少なくとも1個の滑り軸受は、筒体と、該筒体の外周面よりも径方向外方に突出し、かつ、前記係合凹部の内側に配置される係合凸部とを有し、前記ラックハウジングに内嵌される。
前記ラック軸は、ラック歯を有し、前記少なくとも1個の滑り軸受の内周面により軸方向の摺動を可能に支持され、かつ、前記ラックハウジングの内側に配置される。
前記ピニオン軸は、外周面に、前記ラック歯と噛合するピニオン歯を有し、前記ピニオンハウジングの内側に回転自在に支持される。
【0012】
前記係合凸部は、前記少なくとも1個の滑り軸受の前記ラックハウジングの開口側に位置する部分に設けられている。
前記係合凹部は、1対の内側面を備え、該1対の内側面のうち、前記ラックハウジングの開口側に位置する内側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの奥側に向かう方向に傾斜した凹部第1傾斜面により構成される。
前記係合凸部は、1対の外側面を備え、該1対の外側面のうち、前記凹部第1傾斜面と軸方向に対向する外側面は、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの奥側に向かう方向に傾斜した凸部第1傾斜面により構成される。
本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットでは、前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記少なくとも1個の滑り軸受のうちで前記ラックハウジングの奥側を向いた面を、前記ラックハウジングの内周面のうちの開口側を向いた面に対して、軸方向に押し付ける。
【0013】
本発明では、前記ラックハウジングの内周面のうちの開口側を向いた面を、前記係合凹部の前記1対の内側面のうち、前記ラックハウジングの奥側に位置する内側面により構成し、かつ、前記少なくとも1個の滑り軸受のうちで前記ラックハウジングの奥側を向いた面を、前記係合凸部の前記1対の外側面のうち、前記ラックハウジングの奥側を向いた外側面により構成する。
【0014】
具体的には、本発明では、前記係合凹部の前記1対の内側面のうち、前記ラックハウジングの奥側に位置する内側面を、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの開口側に向かう方向に傾斜した凹部第2傾斜面により構成し、かつ、前記係合凸部の前記1対の外側面のうち、前記凹部第2傾斜面と軸方向に対向し、かつ、前記ラックハウジングの奥側を向いた外側面を、径方向外側に向かうほど前記ラックハウジングの開口側に向かう方向に傾斜した凸部第2傾斜面により構成している。このため、本発明では、前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記凸部第2傾斜面を前記凹部第2傾斜面に対して軸方向に押し付け、かつ、前記凸部第2傾斜面を前記凹部第2傾斜面に対して径方向外側に押し付けることで、前記凸部第1傾斜面を前記凹部第1傾斜面に対して軸方向に押し付ける。
【0015】
本発明の第1態様にかかるラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットではさらに、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第1傾斜面の傾斜角度と、前記滑り軸受の中心軸に対する前記凸部第1傾斜面の傾斜角度とを同じとし、かつ、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第2傾斜面の傾斜角度と、前記滑り軸受の中心軸に対する前記凸部第2傾斜面の傾斜角度とを同じとしている。
本発明の第1態様にかかるラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの技術的範囲からは外れるが、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第1傾斜面の傾斜角度を、前記滑り軸受の中心軸に対する前記凸部第1傾斜面の傾斜角度よりも大きくし、かつ、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第2傾斜面の傾斜角度を、前記滑り軸受の中心軸に対する前記凸部第2傾斜面の傾斜角度よりも大きくすることもできる。
【0016】
本発明の第1態様にかかるラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットではさらに、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第2傾斜面の傾斜角度を、前記ラックハウジングの中心軸に対する前記凹部第1傾斜面の傾斜角度よりも小さくしている。
【0017】
前記凹部第1傾斜面および前記凸部第1傾斜面の断面形状、並びに、前記凹部第2傾斜面および前記凸部第2傾斜面の断面形状を、直線状とすることができる。
【0018】
前記少なくとも1個の滑り軸受は、前記筒体と前記係合凸部の全体とが一体に形成されたラックブッシュにより構成することができる。
【0019】
前記少なくとも1個の滑り軸受を、前記ラックハウジングのうち、軸方向に関して前記ラック歯と前記ピニオン歯との噛合部から遠い側の開口部の近傍部分に配置することができる。
この場合、前記少なくとも1個の滑り軸受を、1対の滑り軸受により構成し、前記1対の滑り軸受を、前記ラックハウジングのうち、軸方向両側の開口部の近傍部分に配置することができる。
【0020】
前記ラック軸の外周面のうち、前記ラック歯が備えられた部分と径方向反対側に位置する被押圧部を、前記ピニオン軸に向けて押圧する、押圧機構をさらに備えることができる。
この場合、前記押圧機構は、前記ラック軸に対する遠近動を可能に支持された枢軸と、該枢軸に周囲に回転自在に支持され、かつ、外周面を前記被押圧部に当接させた押圧ローラと、前記枢軸を前記ピニオン軸に向けて押圧する弾性部材とを有することができる。
あるいは、前記押圧機構は、前記ラック軸に対する遠近動を可能に配置され、先端部を、前記被押圧部に摺接させたラックガイドと、該ラックガイドを前記ピニオン軸に向けて押圧する弾性部材とを有することができる。
いずれにしても、前記押圧機構は、前記ハウジングに備えられたシリンダ部の内側に収容することができる。
【0021】
本発明の第2態様にかかるラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットでは、前記少なくとも1個の滑り軸受を、前記筒体と前記係合凸部の全体とが一体に形成されたラックブッシュにより構成している。また、前記凹部第1傾斜面および前記凹部第2傾斜面の断面形状を凹円弧形状とし、前記凸部第1傾斜面および前記凸部第2傾斜面の断面形状を凸円弧形状としている。
【0022】
本発明の技術的範囲からは外れるが、前記少なくとも1個の滑り軸受は、前記筒体を備えたラックブッシュと、前記係合凸部のうちで少なくとも前記凸部第1傾斜面を有する部分を備えたスナップリング(止め輪)とにより構成することができる。この場合、前記係合凸部の全体を、前記スナップリングにより構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットによれば、ラック軸を摺動可能に支持するための滑り軸受を、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジングに対し軸方向のがたつきなく支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置を示す、斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例にかかるラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットを示す、部分断面図である。
【
図4】
図4は、ラック軸を省略して示す、
図2のB部拡大図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例にかかるラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットからラックブッシュを取り出して示す斜視図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第1例にかかるラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニットからラックブッシュを取り出して示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明に関する参考例の第1例を示す、
図5に相当する図である。
【
図9】
図9は、本発明
の実施の形態の第2例を示す、
図5に相当する図である。
【
図10】
図10は、本発明に関する参考例の第
2例を示す、
図5に相当する図である。
【
図13】
図13(A)は、参考例の第
2例にかかるラックアンドピニオン式のステアリング装置から、ラックブッシュとともに滑り軸受を構成するスナップリングを取り出して示す正面図であり、
図13(B)は、
図13(A)の右側から見た側面図である。
【
図14】
図14は、本発明に関する参考例の第
3例を示す、
図5に相当する図である。
【
図17】
図17は、滑り軸受によるラック軸の支持部の従来構造を示す、
図5に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図7を用いて説明する。
なお、以下の説明において、前後方向は、車両の前後方向を意味し、上下方向は、車両の上下方向を意味し、左右方向は、車両の幅方向を意味する。
【0026】
ステアリング装置11は、
図1に全体構成を示すように、運転者が操作するステアリングホイール12の回転運動を、ピニオン軸13とラック軸14とを有するラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニット15により往復直線運動に変換することで、図示しない左右の操舵輪に対し所望の舵角を付与する。ステアリングホイール12は、ステアリングシャフト16の後端部に固定されている。ステアリングシャフト16の前端部は、1対の自在継手17および中間シャフト18を介して、ピニオン軸13の基端部に接続されている。ピニオン軸13と噛合するラック軸14の軸方向両側の端部には、それぞれが左右の操舵輪に連結された1対のタイロッド19が接続されている。
【0027】
図2および
図3に示すように、ステアリングギヤユニット15は、ハウジング20と、ピニオン軸13と、ラック軸14と、押圧機構21とを備える。
【0028】
ハウジング20は、車体に固定可能であって、ラック軸14の軸方向中間部を収容するラックハウジング22と、ピニオン軸13の先半部を収容するピニオンハウジング23と、押圧機構21を収容するシリンダ部24と、車体に固定するための1対の取付フランジ部25とを備える。ハウジング20は、アルミニウム系合金などの軽合金をダイキャスト成形することにより一体的に造られている。ラックハウジング22の内部空間と、ピニオンハウジング23の内部空間と、シリンダ部24の内部空間とは、互いに連通している。
【0029】
ラックハウジング22は、左右方向に伸長した円筒形状を有しており、左右両側に位置する軸方向両側が開口している。ラックハウジング22は、略水平に、かつ、車両の幅方向に伸長するように配置されている。
【0030】
ピニオンハウジング23は、有底円筒形状を有しており、上端のみが開口している。ピニオンハウジング23は、ラックハウジング22の前側(
図3の左側)で、かつ、ラックハウジング22の軸方向片側(
図2の左側)に偏った位置に配置されている。ピニオンハウジング23は、ラックハウジング22に対しねじれの位置関係に配置されている。すなわち、ピニオンハウジング23の中心軸とラックハウジング22の中心軸とは、ねじれの位置関係にある。また、前後方向から見て、ピニオンハウジング23の中心軸は、ラックハウジング22の中心軸に対して直交する方向には配置されておらず、直交する方向に対し傾斜して配置されている。
【0031】
シリンダ部24は、略円筒形状を有している。シリンダ部24は、ラックハウジング22の後側(
図3の右側)で、かつ、ラックハウジング22の軸方向片側に偏った位置に配置されている。具体的には、シリンダ部24は、ラックハウジング22の軸方向に関して、ピニオンハウジング23と同じ位置に配置されている。シリンダ部24は、ラックハウジング22に対し直交する方向のうち前後方向に伸長している。このため、シリンダ部24の中心軸は、ラックハウジング22の中心軸に対して直交する方向に配置されている。
【0032】
1対の取付フランジ部25は、ラックハウジング22の前側に、ラックハウジング22の軸方向に離隔して配置されている。ハウジング20は、取付フランジ部25のそれぞれを挿通したボルトやスタッドなどの固定部材により、車体に対して固定される。
【0033】
ピニオン軸13は、外周面の先端寄り部分にピニオン歯26を有する。ピニオン軸13は、その先半部をピニオンハウジング23の内側に配置し、かつ、ピニオンハウジング23に対して、1対の軸受27a、27bにより回転のみ可能に支持されている。具体的には、ピニオン軸13の先端部を、ピニオンハウジング23の奥側部に対し、滑り軸受27aにより回転自在に支持し、かつ、ピニオン軸13の中間部を、ピニオンハウジング23の開口部の近傍部分に対し、深溝型、3点接触型、または4点接触型などの単列の転がり軸受(玉軸受)27bにより回転自在に支持している。ピニオンハウジング23の開口端に抑えねじ筒28を螺着して、転がり軸受27bの軸方向位置を規制している。抑えねじ筒28の内周面とピニオン軸13の外周面との間の隙間は、シールリング29により塞がれている。
【0034】
ラック軸14は、炭素鋼やステンレス鋼などの金属製で、前面の軸方向片側に偏った位置にラック歯30を有する。ラック軸14の外周面は、ラック歯30を備える部分を除き、円筒面により構成されている。すなわち、ラック軸14のうち、軸方向に関してラック歯30から外れた部分は、円形の断面形状を有し、かつ、ラック軸14のうち、軸方向に関してラック歯30と重なる部分は、弓形の断面形状を有する。ラック軸14は、ラックハウジング22の内側に、軸方向に関する往復移動を可能に配置されており、ラック歯30をピニオン歯26に噛合させている。ラック軸14の軸方向両側の端部は、ラックハウジング22の開口部から突出しており、球面継手31を介してタイロッド19の基端部に接続している。タイロッド19の先端部は、それぞれ図示しないナックルアームの先端部に枢支されている。なお、ラック軸14は、ピニオン歯26とラック歯30との噛合により、自身の中心軸周りで回転することはない。
【0035】
押圧機構21は、ラック軸14の外周面のうち、ラック歯30が備えられた前面と径方向反対側に位置する背面に備えられた被押圧部76を、ピニオン軸13に向けて押圧する。本例の押圧機構21は、シリンダ部24内に配置されたラックガイド32と、シリンダ部24の開口部に螺着されたカバー33と、ラックガイド32とカバー33との間に配置されたコイルばね34とを備える。ラックガイド32は、シリンダ部24の内側に、シリンダ部24の軸方向である前後方向に関する移動、すなわち、ピニオン軸13に対する遠近動を可能に配置されている。ラックガイド32は、略円柱形状を有しており、ラック軸14の背面(被押圧部76)に対向する前側の端面には、ラック軸14を摺動可能に支持するために、ラック軸14の背面(被押圧部76の)形状に合った部分円筒状凹面の押圧凹部35を有する。なお、押圧凹部35の表面には、摺動性に優れた合成樹脂製のシート36が添設されている。
【0036】
押圧機構21は、ラック軸14をピニオン軸13に向けて弾性的に押圧することで、ピニオン歯26とラック歯30との噛合部のバックラッシュを解消する。さらには、噛合部での動力伝達に伴ってラック軸14に加わるピニオン軸13から離れる方向の力にかかわらず、ピニオン歯26とラック歯30との噛合状態を適正に維持する。
【0037】
本例のステアリングギヤユニット15は、ラック軸14を、ラックハウジング22の内側に軸方向に関する円滑な変位を可能に支持するために、ラックハウジング22の軸方向両側の開口部の近傍部分のそれぞれに内嵌された、1対の滑り軸受37を備える。本例のステアリングギヤユニット15は、1対の滑り軸受37の内周面により、ラック軸14の外周面を摺動可能に支持することで、ラック軸14がラックハウジング22に対して、がたつきなく軸方向に変位できるように構成されている。
【0038】
以下、
図4~
図7を参照しつつ、ラックハウジング22のうち、1対の滑り軸受37を内嵌する部分の構造、および、滑り軸受37の構造について、具体的に説明する。なお、ラックハウジング22の軸方向両側(左右両側)が、ラックハウジング22の開口側に対応し、ラックハウジング22の軸方向中央側が、ラックハウジング22の奥側に対応する。また、1対の滑り軸受37のそれぞれの構造、および、ラックハウジング22のうち、滑り軸受37を内嵌する部分の構造は、軸方向(左右方向)に関して対称であるから、軸方向に関してピニオン歯26とラック歯30との噛合部から遠い側(
図2の右側)の滑り軸受37、および、ラックハウジング22のうち、前記噛合部から遠い側の滑り軸受37を内嵌する部分の構造についてのみ説明する。
【0039】
ラックハウジング22は、軸方向端部の内周面に、ラック軸14を挿通するための段付孔であるラック挿通孔38を有する。ラック挿通孔38は、開口側端部に大径の開口孔部39を備え、かつ、開口孔部39の奥側に隣接する部分に、開口孔部39の内径よりも小さい内径を有する支持孔部40を備える。ラックハウジング22は、内周面のうち、支持孔部40の奥側に隣接する部分に、支持孔部40の内径よりも小さい内径を有する中央孔部41を備える。さらに、ラックハウジング22は、ラック挿通孔38のうち、開口孔部39と支持孔部40との間に、ラックハウジング22の開口側を向いた大径段差面42を備え、かつ、支持孔部40と中央孔部41との間に、ラックハウジング22の開口側を向いた小径段差面43を備える。
【0040】
支持孔部40は、滑り軸受37を内嵌支持する部分であり、内周面のうちの開口寄り部分に、係合凹部44を全周にわたり備える。係合凹部44は、径方向内側の開口部の軸方向幅よりも径方向外側の奥部で軸方向幅が狭い、略台形状の断面形状を有する。支持孔部40の内周面は、係合凹部44が備えられた部分を除いて内径が一定の円筒面により構成されている。
【0041】
係合凹部44は、軸方向に互いに対向する1対の内側面のうち、ラックハウジング22の開口側に位置する内側面に、径方向外側に向かうほどラックハウジング22の奥側に向かう方向に傾斜した、凹部第1傾斜面45を有し、かつ、ラックハウジング22の奥側に位置する内側面に、径方向外側に向かうほどラックハウジング22の開口側に向かう方向に傾斜した、凹部第2傾斜面46を有する。このため、凹部第1傾斜面45と凹部第2傾斜面46との間の軸方向間隔は、径方向外側(係合凹部44の奥側)に向かうほど小さくなっている。凹部第1傾斜面45は、直線状の母線形状を有する部分円すい凹面により構成され、かつ、凹部第2傾斜面46は、直線状の母線形状を有する部分円すい凹面により構成されている。係合凹部44の底面(内周面)は、円筒面により構成されている。
【0042】
ラックハウジング22の中心軸O22に対する凹部第2傾斜面46の傾斜角度θ46は、ラックハウジング22の中心軸O22に対する凹部第1傾斜面45の傾斜角度θ45よりも小さい(θ46<θ45)。具体的には、ラックハウジング22の中心軸O22に対する凹部第2傾斜面46の傾斜角度θ46は、例えば5度~70度であり、図示の例では45度である。これに対し、ラックハウジング22の中心軸O22に対する凹部第1傾斜面45の傾斜角度θ45は、例えば5度~70度であり、図示の例では30度である。これに伴って、図示の例では、凹部第1傾斜面45の軸方向幅のほうが、凹部第2傾斜面46の軸方向幅よりも大きくなっている。
【0043】
滑り軸受37は、ラックブッシュ47のみから構成されている。ラックブッシュ47は、ラックブッシュ本体48と、該ラックブッシュ本体48に外嵌された1対の弾性リング49とを備えている。
【0044】
ラックブッシュ本体48は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂などの弾性を有する合成樹脂により全体を一体に形成されている。具体的には、略円筒形状を有する筒体50と、該筒体50の外周面よりも径方向外方に突出した外向鍔状の係合凸部51の全体とを一体に備える。つまり、ラックブッシュ本体48は、合成樹脂を射出成形することにより得られた一体成形品からなる。
【0045】
筒体50は、軸方向中間部の内周面に、ラック軸14の外周面を摺動可能に支持するための円筒面状の案内面52を有し、かつ、軸方向両側の端部内周面に、案内面52から離れるほど内径が大きくなったテーパ面53a、53bを有する。テーパ面53a、53bは、ラックハウジング22の内部の通気性を確保し、かつ、ラック軸14の挿通性を良好にするために備えられている。筒体50は、外周面のうち、軸方向に離隔した2箇所位置に、弾性リング49を係止するための1対の係止凹溝54を有する。係止凹溝54は、略矩形状の断面形状を有する。
【0046】
係合凸部51は、ラックブッシュ本体48のうちでラックハウジング22の開口側に位置する端部に備えられており、ラックブッシュ47をラックハウジング22の支持孔部40に内嵌した状態で、係合凹部44の内側に配置される。係合凸部51は、略台形状の断面形状を有しており、筒体50の外周面からの径方向突出量は、係合凹部44の溝深さよりも小さい。このため、係合凸部51を係合凹部44の内側に配置した際に、係合凸部51の頂面(外周面)が、係合凹部44の底面に当接することはない。
【0047】
係合凸部51は、外面を構成する1対の外側面のうち、係合凹部44の凹部第1傾斜面45と軸方向に対向する外側面に、径方向外側に向かうほどラックハウジング22の奥側に向かう方向に傾斜した、凸部第1傾斜面55を有し、かつ、係合凹部44の凹部第2傾斜面46と軸方向に対向する外側面に、径方向外側に向かうほどラックハウジング22の開口側に向かう方向に傾斜した、凸部第2傾斜面56を有する。係合凸部51の頂面は、円筒面により構成されている。このため、係合凸部51は、径方向外側に向かうほど軸方向幅が小さくなる先細形状になっている。凸部第1傾斜面55および凸部第2傾斜面56は、直線状の断面形状を有する部分円すい凸面により構成されている。
【0048】
ラックブッシュ47の中心軸O47(=O22)に対する凸部第1傾斜面55の傾斜角度θ55は、凹部第1傾斜面45の傾斜角度θ45と同じである(θ55=θ45)。また、ラックブッシュ47の中心軸O47に対する凸部第2傾斜面56の傾斜角度θ56は、凹部第2傾斜面46の傾斜角度θ46と同じである(θ56=θ46)。
【0049】
ラックブッシュ本体48は、ラックハウジング22の開口側の端部から軸方向中間部にわたり形成され、かつ、円周方向に間隔をあけて配置された複数本の第1軸方向スリット57aと、ラックハウジング22の奥側の端部から軸方向中間部にわたり形成され、かつ、円周方向に間隔をあけて配置された複数本の第2軸方向スリット57bとを備える。図示の例では、ラックブッシュ本体48は、4本の第1軸方向スリット57aと、8本の第2軸方向スリット57bとを備える。これにより、ラックブッシュ本体48は、径方向の拡縮が可能に構成されている。ラックブッシュ本体48を構成する筒体50および係合凸部51は、第1軸方向スリット57aおよび第2軸方向スリット57bが存在する部分で、円周方向に関して不連続になっている。
【0050】
弾性リング49は、天然ゴム、合成ゴム、弾性を有する熱可塑性合成樹脂などの弾性材製で、Oリングの如く、自由状態で円形状の断面形状を有する。弾性リング49は、自由状態で、ラックハウジング22の支持孔部40の内径よりも大きな外径を有し、かつ、ラックブッシュ本体48の係止凹溝54の底面の外径よりも小さい内径を有する。弾性リング49は、自由状態で、係止凹溝54の溝深さよりも大きい線径を有する。弾性リング49は、第1軸方向スリット57aおよび第2軸方向スリット57bを横切るように、ラックブッシュ本体48の係止凹溝54に係止されており、ラックブッシュ本体48の周囲に弾性的に外嵌されている。
【0051】
ラックブッシュ47をラックハウジング22に組み付けるには、先ず、ラックブッシュ本体48の係止凹溝54に弾性リング49を係止することにより、第1軸方向スリット57aおよび第2軸方向スリット57bの円周方向幅を縮め、ラックブッシュ本体48を縮径させる。次いで、所定の治具を利用してラックブッシュ47をさらに縮径させた状態で、ラックハウジング22のラック挿通孔38に挿入する。この際、係合凸部51が、ラックブッシュ47の挿入方向に関して後側に位置するように、ラックブッシュ47の挿入方向を規制する。
【0052】
ラックブッシュ47を、係合凸部51が係合凹部44の内径側に位置するまで挿入したならば、ラックブッシュ47から治具を取り外し、ラックブッシュ47を拡径させる。これにより、係合凸部51を係合凹部44の内側に進入させる。この際、ラックブッシュ本体48の弾性復元力により、係合凸部51の凸部第1傾斜面55を、係合凹部44の凹部第1傾斜面45に対して径方向外側に押し付け、かつ、係合凸部51の凸部第2傾斜面56を、係合凹部44の凹部第2傾斜面46に対して径方向外側に押し付ける。
【0053】
その後、ラック軸14を、ラックブッシュ47(ラックブッシュ本体48)の内側に挿通することで、ラックブッシュ47をさらに拡径する。これにより、凹部第1傾斜面45に対する凸部第1傾斜面55の径方向外側への押し付け力を大きくし、かつ、凹部第2傾斜面46に対する凸部第2傾斜面56の径方向外側への押し付け力を大きくする。また、弾性リング49を、係止凹溝54の底面と支持孔部40の内周面との間で弾性的に圧縮し、かつ、ラックブッシュ本体48の外周面の軸方向中間部を、支持孔部40の内周面に弾性的に接触させる。さらに、ラックブッシュ本体48の内周面に備えられた案内面52を、ラック軸14の外周面に弾性的に押し付け、ラック軸14をがたつきなく保持する。その後、ラック軸14の軸方向両側の端部に、球面継手31を介してタイロッド19を接続する。
【0054】
本例のステアリングギヤユニット15によれば、ラック軸14を摺動可能に支持するための滑り軸受37を構成するラックブッシュ47を、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。
すなわち、係合凸部51の凸部第1傾斜面55を、係合凹部44の凹部第1傾斜面45に対して径方向外側に押し付けた際に、凹部第1傾斜面45が傾斜していることに起因して、ラックブッシュ47には、ラックハウジング22の奥側を向いた反力(分力)F1が作用する。このため、反力F1を利用して、ラックハウジング22の奥側を向いた面である凸部第2傾斜面56を、ラックハウジング22の開口側を向いた面である凹部第2傾斜面46に対して、軸方向に押し付けることができる。また、係合凸部51の凸部第2傾斜面56を、係合凹部44の凹部第2傾斜面46に対して径方向外側に押し付けた際に、凹部第2傾斜面46が傾斜していることに起因して、ラックブッシュ47には、ラックハウジング22の開口側を向いた反力(分力)F2が作用する。このため、反力F2を利用して、ラックハウジング22の開口側を向いた面である凸部第1傾斜面55を、ラックハウジング22の奥側を向いた面である凹部第1傾斜面45に対して、軸方向に押し付けることができる。換言すれば、係合凹部44の凹部第1傾斜面45が傾斜しているため、凸部第1傾斜面55を径方向外側に押し付けた際に、凹部第1傾斜面45に沿って係合凸部51がラックハウジング22の奥側に案内されるため、凸部第2傾斜面56が凹部第2傾斜面46に対して軸方向に押し付けられる。また、係合凹部44の凹部第2傾斜面46が傾斜しているため、凸部第2傾斜面56を径方向外側に押し付けた際に、凹部第2傾斜面46に沿って係合凸部51がラックハウジング22の開口側に案内されるため、凸部第1傾斜面55が凹部第1傾斜面45に対して軸方向に押し付けられる。
【0055】
このため、係合凸部51の凸部第1傾斜面55および凸部第2傾斜面56が、係合凹部44の凹部第1傾斜面45および凹部第2傾斜面46の間で、軸方向に突っ張る。したがって、凸部第1傾斜面55と凹部第1傾斜面45とを隙間なく当接させることができ、かつ、凸部第2傾斜面56と凹部第2傾斜面46とを隙間なく当接させることができるため、係合凸部51を、係合凹部44に対して軸方向のがたつきなく係合させることができる。この結果、滑り軸受37(ラックブッシュ47)を、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。このため、滑り軸受37が軸方向にがたつくことに起因して異音が発生することも有効に防止できる。
【0056】
ラック軸14が軸方向に摺動する際には、滑り軸受37にラック軸14から軸方向の力(摩擦力)が作用する。ただし、ラック軸14から軸方向の力が作用した際に、滑り軸受37を軸方向に変位させるには、ラックブッシュ本体48の弾性復元力に抗して、係合凸部51を凹部第1傾斜面45または凹部第2傾斜面46に沿って内径側に変形させる必要がある。このため、滑り軸受37がラックハウジング22に対して軸方向に相対変位することを有効に防止できる。
【0057】
凸部第1傾斜面55の傾斜角度θ55と凹部第1傾斜面45の傾斜角度θ45とを同じとし、かつ、凸部第2傾斜面56の傾斜角度θ56と凹部第2傾斜面46の傾斜角度θ46とを同じとしている。このため、凸部第1傾斜面55と凹部第1傾斜面45とを面接触させることができ、かつ、凸部第2傾斜面56と凹部第2傾斜面46とを面接触させることができる。したがって、凸部第1傾斜面55と凹部第1傾斜面45との当接状態、および、凸部第2傾斜面56と凹部第2傾斜面46との当接状態を、安定させることができて、係合凹部44に対する係合凸部51の軸方向のがたつきを有効に防止できる。また、係合凹部44の1対の内側面のうち、ラックハウジング22の開口側に位置する内側面に凹部第1傾斜面45を備えるため、滑り軸受37をラックハウジング22から取り外す際に、係合凸部51を、凹部第1傾斜面45を利用して縮径させられる。このため、滑り軸受37を軸方向に引き抜くだけで、滑り軸受37をラックハウジング22から取り外すことができる。
【0058】
本例のステアリング装置11では、ステアリングホイール12を操舵限界まで操舵した際に、ラック軸14の軸方向両側の端部に接続した球面継手31(を構成するソケット)が、ラックハウジング22の大径段差面42に直接または図示しない円環状のストッパ部材を介して衝突する。このため、いわゆる端当て時においても、大きな軸方向荷重力が、滑り軸受37に作用することはない。したがって、滑り軸受37の姿勢を安定させる面からも有利になる。
【0059】
[参考例の第1例]
本発明に関する参考例の第1例について、
図8を用いて説明する。
本参考例は、実施の形態の第1例の変形例である。本参考例では、係合凹部44aの1対の内側面のうち、ラックハウジング22の開口側に位置する内側面に備えられた凹部第1傾斜面45aの傾斜角度θ
45aが、係合凸部51aの1対の外側面のうち、凹部第1傾斜面45aと軸方向に対向する外側面に備えられた凸部第1傾斜面55aの傾斜角度θ
55aよりも大きくなっている(θ
45a>θ
55a)。また、係合凹部44aの1対の内側面のうち、ラックハウジング22の奥側に位置する内側面に備えられた凹部第2傾斜面46aの傾斜角度θ
46aが、係合凸部51aの1対の外側面のうち、凹部第2傾斜面46aと軸方向に対向する外側面に備えられた凸部第2傾斜面56aの傾斜角度θ
56aよりも大きくなっている(θ
46a>θ
56a)。
【0060】
図示の例では、凹部第2傾斜面46aの傾斜角度θ46aは、凹部第1傾斜面45aの傾斜角度θ45aよりも小さくなっており(θ46a<θ45a)、凸部第1傾斜面55aの傾斜角度θ55aは、凸部第2傾斜面56aの傾斜角度θ56aと同じになっている(θ55a=θ56a)。
【0061】
本参考例では、係合凸部51aを係合凹部44aの内側に配置した状態で、係合凸部51aの凸部第1傾斜面55aの縁部が、係合凹部44aの凹部第1傾斜面45aに対して径方向外側に押し付けられ、かつ、係合凸部51aの凸部第2傾斜面56aの縁部が、係合凹部44aの凹部第2傾斜面46aに対して径方向外側に押し付けられる。凸部第1傾斜面55aと凹部第1傾斜面45aとは、線接触し、かつ、凸部第2傾斜面56aと凹部第2傾斜面46aとは線接触する。
【0062】
係合凸部51aの凸部第1傾斜面55aおよび凸部第2傾斜面56aは、係合凹部44aの凹部第1傾斜面45aおよび凹部第2傾斜面46aの間で、軸方向に突っ張る。このため、係合凸部51aを、係合凹部44aに対して軸方向のがたつきなく係合させることができる。したがって、滑り軸受37をラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。
【0063】
特に本参考例では、凹部第1傾斜面45aの傾斜角度θ45aが、凸部第1傾斜面55aの傾斜角度θ55aよりも大きく(θ45a>θ55a)、かつ、凹部第2傾斜面46aの傾斜角度θ46aが、凸部第2傾斜面56aの傾斜角度θ56aよりも大きい(θ46a>θ56a)。このため、係合凸部51aの頂部(径方向外側部)の軸方向幅を、係合凹部44aの開口部(径方向内側部)の軸方向幅に比べて十分に小さくでき、係合凸部51aを係合凹部44aの内側に進入させやすくなる。さらに、筒体50の外周面からの係合凸部51aの径方向突出量を抑えられるため、滑り軸受37をラック挿通孔38に挿入する作業の作業性が向上する。
【0064】
また、本参考例では、ラックハウジング22の奥側に位置し、ラックハウジング22の開口側を向いた凹部第2傾斜面46aの傾斜角度θ46aが、ラックハウジング22の開口側に位置する凹部第1傾斜面45aの傾斜角度θ45aよりも小さいため、この面からも、滑り軸受37をラック挿通孔38に挿入する作業の作業性が向上する。
その他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0065】
[
実施の形態の第2例]
本発明
の実施の形態の第2例について、
図9を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第1例の変形例である。
本例では、係合凹部44bの1対の内側面に備えられた凹部第1傾斜面45bおよび凹部第2傾斜面46bは、それぞれ凹円弧形の断面形状を有する凹曲面により構成されている。係合凹部44bの底面は、凹部第1傾斜面45bおよび凹部第2傾斜面46bよりも曲率半径の小さい凹円弧形の断面形状(母線形状)を有する。また、係合凸部51bの1対の外側面に備えられた凸部第1傾斜面55bおよび凸部第2傾斜面56bは、それぞれ凸円弧形の断面形状を有する凸曲面により構成されている。凸部第1傾斜面55bの曲率半径は、凹部第1傾斜面45bの曲率半径よりも小さく、凸部第2傾斜面56bの曲率半径は、凹部第2傾斜面46bの曲率半径よりも小さい。なお、図示の例では、係合凸部51bの頂部を含む外面全体の断面形状が、単一の曲率半径を有する凸円弧形により構成されている。
【0066】
本例では、係合凸部51bを係合凹部44bの内側に配置した状態で、係合凸部51bの凸部第1傾斜面55bが、係合凹部44bの凹部第1傾斜面45bに対して径方向外側に押し付けられ、かつ、係合凸部51bの凸部第2傾斜面56bが、係合凹部44bの凹部第2傾斜面46bに対して径方向外側に押し付けられている。このため、係合凸部51bの凸部第1傾斜面55bおよび凸部第2傾斜面56bが、係合凹部44bの凹部第1傾斜面45bおよび凹部第2傾斜面46bの間で、軸方向に突っ張る。したがって、係合凸部51bを、係合凹部44bに対して軸方向のがたつきなく係合させることができる。この結果、滑り軸受37をラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。係合凸部51bが角部を有していないため、滑り軸受37をラック挿通孔38に挿入する際の作業性を向上することができる。
その他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例および参考例の第1例と同じである。
【0067】
[参考例の第
2例]
本発明に関する参考例の第
2例について、
図10~
図13を用いて説明する。
本参考例では、ラックハウジング22は、内周面に備えられた係合凹部44cの1対の内側面うち、ラックハウジング22の開口側に位置する内側面に、径方向外側に向かうほどラックハウジング22の奥側に向かう方向に傾斜した凹部第1傾斜面45cを有し、かつ、ラックハウジング22の奥側に位置する内側面に、ラックハウジング22の中心軸O
22に直交する仮想平面上に存在する円輪状の平坦面58を有する。
【0068】
ラック軸14(
図2および
図3参照)を摺動可能に支持するための滑り軸受37aは、ラックブッシュ59とスナップリング(止め輪)60とを備える。
【0069】
ラックブッシュ59は、ブッシュ本体61と、該ブッシュ本体61に外嵌された1対の弾性リング49とを備える。ブッシュ本体61は、合成樹脂製で、略円筒形状を有する筒体62と、該筒体62の外周面よりも径方向外方に突出した、外向鍔状の係合凸片63とを備える。
【0070】
係合凸片63は、ブッシュ本体61のうちでラックハウジング22の開口側に位置する端部に備えられている。本参考例では、係合凸片63とスナップリング60とにより、係合凹部44cの内側に配置される係合凸部64が構成されている。係合凸片63は、係合凹部44cの軸方向幅よりも小さい軸方向幅を有する。係合凸片63は、ラックブッシュ59をラックハウジング22の支持孔部40に内嵌した状態で、係合凹部44cの内側のうち、ラックハウジング22の奥側に配置される。係合凸片63は、略矩形状の断面形状を有しており、筒体62の外周面からの径方向突出量は、係合凹部44cの溝深さよりも小さい。
【0071】
係合凸片63は、外面を構成する1対の外側面のうち、ラックハウジング22の奥側に位置する外側面に、ラックブッシュ59(ブッシュ本体61)の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面68を有する。なお、係合凸片63の外面を構成する1対の外側面のうち、ラックハウジング22の開口側に位置する外側面は、平坦面68と平行に配置された平坦面により構成されている。
【0072】
スナップリング60は、ばね鋼、ステンレスばね鋼などの弾性材製の金属板にプレスによる打ち抜き加工、面押し加工などを施すことにより、円周方向の1箇所に不連続部を有する欠円環状(略C字形状)に造られている。スナップリング60は、円周方向両側の端部に、径方向内側に突出した1対の突起部65を有し、かつ、突起部65のそれぞれに、スナップリング60を弾性的に縮径する際に使用する、スナップリングプライヤなどの工具を係止するための係止孔66を有する。
【0073】
スナップリング60は、係合凹部44cの内側のうち、ラックハウジング22の開口側に配置される。すなわち、スナップリング60は、係合凹部44cの凹部第1傾斜面45cと係合凸片63との間に配置される。スナップリング60は、1対の外側面のうち、凹部第1傾斜面45cと軸方向に対向する外側面に、径方向外側に向かうほどラックハウジング22の奥側に向かう方向に傾斜した、凸部第1傾斜面67を有する。これに対し、スナップリング60の1対の外側面のうち、係合凸片63と軸方向に対向する外側面は、スナップリング60の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成されている。したがって、スナップリング60と係合凸片63とからなる係合凸部64は、ラックハウジング22の開口側に位置する外側面に凸部第1傾斜面67を有し、かつ、ラックハウジング22の奥側に位置する外側面に平坦面68を有する。
【0074】
本参考例では、ラックブッシュ59をラックハウジング22の支持孔部40に内嵌し、係合凸片63を係合凹部44cの内側に配置した後、スナップリング60を係合凹部44cの内側に進入させる。具体的には、スナップリング60を、スナップリングプライヤなどの工具を利用して縮径した状態で、係合凹部44cの内径側に位置するまで挿入し、スナップリング60から工具を取り外し、スナップリング60を拡径させる。これにより、スナップリング60を係合凹部44cの内側に進入させる。この際、スナップリング60の弾性復元力により、凸部第1傾斜面67を係合凹部44cの凹部第1傾斜面45cに対して径方向外側に押し付ける。
【0075】
凸部第1傾斜面67を凹部第1傾斜面45cに対して径方向外側に押し付けると、スナップリング60には、ラックハウジング22の奥側を向いた反力F1が作用する。このため、反力F1を利用して、係合凸片63を軸方向に押圧し、ラックハウジング22の奥側を向いた面である係合凸部64の平坦面68を、ラックハウジング22の内周面のうちの開口側を向いた面である係合凹部44cの平坦面58に対して、軸方向に押し付けることができる。これにより、係合凸部64を、係合凹部44cに対して軸方向のがたつきなく係合させることができる。このため、滑り軸受37aを、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。
その他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0076】
[参考例の第
3例]
本発明に関する参考例の第
3例について、
図14を用いて説明する。
本参考例は、本発明に関する参考例の第
2例の変形例である。本参考例では、ブッシュ本体61aは、略円筒形状を有する筒体62aのみからなる。換言すれば、ブッシュ本体61aは、
参考例の第2例の構造のような係合凸片を有していない。このため、本参考例の滑り軸受37bでは、ラックハウジング22の係合凹部44cの内側に配置される係合凸部64aは、スナップリング60のみから構成されている。
【0077】
本参考例では、ラックブッシュ59aをラックハウジング22の支持孔部40に内嵌した後、スナップリング60を係合凹部44cの内側に進入させる。この際、スナップリング60の弾性復元力により、凸部第1傾斜面67を係合凹部44cの凹部第1傾斜面45cに対して径方向外側に押し付ける。凸部第1傾斜面67を凹部第1傾斜面45cに対して径方向外側に押し付けると、スナップリング60には、ラックハウジング22の奥側を向いた反力F1が作用する。このため、反力F1を利用して、ラックブッシュ59a(ブッシュ本体61a)を軸方向に押圧する。これにより、ラックハウジング22の奥側を向いた面であるブッシュ本体61aの奥側端面69の径方向外側部分を、ラックハウジング22の内周面のうちの開口側を向いた面である小径段差面43に対して、軸方向に押し付ける。このため、滑り軸受37bを、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。
その他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例および参考例の第2例の構造と同じである。
【0078】
[実施の形態の第
3例]
実施の形態の第
3例について、
図15および
図16を用いて説明する。
本例のステアリングギヤユニット15aは、ラック軸14の外周面のうち、ラック歯30が備えられた前面と径方向反対側に位置する背面を、ピニオン軸13に向けて押圧する押圧機構21aの構造が、実施の形態の第1例の押圧機構21と異なる。本例の押圧機構21aは、ラックハウジング22のシリンダ部24の内側に収容されており、枢軸70と、押圧ローラ71と、弾性部材72とを備える。
【0079】
枢軸70は、ラック軸14と平行に、かつ、シリンダ部24の軸方向に関してラック軸14に対する遠近動を可能に配置されている。このために、押圧ブロック73が、シリンダ部24の内側に、シリンダ部24の軸方向である前後方向に関する移動を可能に嵌装され、枢軸70が、押圧ブロック73の前面に開口したスロット74の内側に、ラック軸14の軸方向に関するがたつきなく係合されている。なお、図示の例では、押圧ブロック73の外周面に係止されたOリング77を、シリンダ部24の内周面に弾性的に摺接させている。
【0080】
押圧ローラ71は、枢軸70の周囲に、ラジアルニードル軸受75により回転自在に支持され、かつ、外周面を、ラック軸14の背面に備えられた被押圧部76に当接させている。押圧ローラ71の外周面は、ラック軸14の背面(被押圧部76)の断面形状に沿った母線形状を有する。
【0081】
弾性部材72は、1個ないし複数個の皿ばねやコイルばねにより構成され、枢軸70を、シリンダ部24の軸方向に関してラック軸14に向けて、すなわち、前方側に向けて押圧する。本例では、弾性部材72は、シリンダ部24の開口部に螺着されたカバー33aと、押圧ブロック73との間に配置された皿ばねにより構成されている。
【0082】
押圧機構21aは、弾性部材72の弾力に基づいて、押圧ブロック73を前方側に向けて押圧することで、枢軸70を前方側に向けて押圧し、該枢軸70の周囲に回転自在に支持された押圧ローラ71の外周面により、ラック軸14の被押圧部76を押圧する。これにより、ピニオン歯26とラック歯30との噛合部のバックラッシュを解消し、かつ、噛合部での動力伝達に伴ってラック軸14に加わるピニオン軸13から離れる方向の力にかかわらず、ピニオン歯26とラック歯30との噛合状態を適正に維持する。
【0083】
本例のステアリングギヤユニット15aでは、ラック軸14が軸方向に摺動する際には、押圧ローラ71が回転することにより、ラック軸14の摺動抵抗が低減される。
【0084】
本例において、ラック軸14をラックハウジング22に摺動可能に支持する構造については、実施の形態の第1例の構造と同じである。すなわち、ラック軸14は、ラックハウジング22の軸方向両側の開口部の近傍部分のそれぞれに、1対の滑り軸受37により摺動可能に支持され、かつ、滑り軸受37に備えられた係合凸部51と、ラックハウジング22に備えられた係合凹部44とが係合している。このため、滑り軸受37を、2つの部材同士の間で軸方向に挟持しなくても、ラックハウジング22に対し軸方向のがたつきなく支持することができる。
【0085】
特に、本例のステアリングギヤユニット15aは、押圧ローラ71を有する押圧機構21aにより、ラック軸14の被押圧部76をピニオン軸13に向けて押圧する構造を備える。押圧ローラ71を備える押圧機構21aでは、押圧ローラ71の外周面とラック軸14の背面(被押圧部76)との接触部のなす角度αが、実施の形態の第1例の押圧機構21において、ラックガイド32の押圧凹部35に添設されたシート36と、ラック軸14の背面との接触部がなす角度β(
図3参照)に比べて小さくなりやすい。押圧機構21aの押圧面と、ラック軸14の背面との接触部のなす角度が小さくなると、ラック軸14がピニオン軸13の軸方向にがたつきやすくなる。このため、本例のように、押圧ローラ71を有する押圧機構21aを備えるステアリングギヤユニット15aでは、ラック軸14を滑り軸受37により支持することによる効果が顕著になる。
その構成および作用効果については、実施の形態の第1例および参考例の第
2例の構造と同じである。
【0086】
本発明を実施する場合に、実施の形態の各例及び参考例の各例の構造は、適宜組み合わせて実施することができる。また、本発明を実施する場合に、ブッシュ本体に外嵌する弾性リングは、2本に限らず、1本または3本以上としても良いし、省略することもできる。また、スナップリングの形状についても、参考例の第2例~第3例で示した構造に限定されず、従来から知られた各種の構造を採用することができる。また、ブッシュ本体に形成する軸方向スリット(第1軸方向スリットおよび第2軸方向スリット)の数は、実施の形態の各例及び参考例の各例で示した数に限定されない。ブッシュ本体を拡縮可能であれば、軸方向スリットは省略することもできる。また、実施の形態の各例及び参考例の各例では、軸方向スリットを設けたことにより、係合凸部が不連続になった構造を示したが、係合凸部は、軸方向スリットの存在に関係なく、円周方向に不連続となった形状を採用できる。
【0087】
実施の形態の各例及び参考例の各例では、ラック軸14を、ラックハウジング22の軸方向両側の開口部の近傍部分に、1対の滑り軸受37により摺動可能に支持する場合について説明したが、本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットにおいては、ラック軸を、ラックハウジングのうち、軸方向に関してピニオン歯とラック歯との噛合部から遠い側の開口部の近傍部分のみに、滑り軸受により摺動可能に支持することもできる。ただし、ラック軸のがたつきを抑える面からは、ラック軸を、ラックハウジングの軸方向両側の開口部の近傍部分に、1対の滑り軸受により摺動可能に支持することが好ましい。この場合、1対の滑り軸受を互いに同じ構造を有するものとすることもできるし、異なる構造を有するものとすることもできる。
【符号の説明】
【0088】
1 ラックブッシュ
2 筒体
3 係合凸部
4 ラックハウジング
5 エンドケース
6 小径孔部
7 大径孔部
8 ストッパ
9 段差面
10 ラック軸
11 ステアリング装置
12 ステアリングホイール
13 ピニオン軸
14 ラック軸
15、15a ステアリングギヤユニット
16 ステアリングシャフト
17 自在継手
18 中間シャフト
19 タイロッド
20 ハウジング
21、21a 押圧機構
22 ラックハウジング
23 ピニオンハウジング
24 シリンダ部
25 取付フランジ部
26 ピニオン歯
27a 滑り軸受
27b 転がり軸受
28 抑えねじ筒
29 シールリング
30 ラック歯
31 球面継手
32 ラックガイド
33、33a カバー
34 コイルバネ
35 押圧凹部
36 シート
37、37a、37b 滑り軸受
38 ラック挿通孔
39 開口孔部
40 支持孔部
41 中央孔部
42 大径段差面
43 小径段差面
44、44a、44b、44c 係合凹部
45、45a、45b、45c 凹部第1傾斜面
46、46a、46b 凹部第2傾斜面
47 ラックブッシュ
48 ラックブッシュ本体
49 弾性リング
50 筒体
51、51a 係合凸部
52 案内面
53a、53b テーパ面
54 係止凹溝
55、55a 凸部第1傾斜面
56、56a 凸部第2傾斜面
57a 第1軸方向スリット
57b 第2軸方向スリット
58 平坦面
59、59a ラックブッシュ
60 スナップリング
61、61a ブッシュ本体
62、62a 筒体
63 係合凸片
64、64a 係合凸部
65 突起部
66 係止孔
67 凸部第1傾斜面
68 平坦面
69 奥側端面
70 枢軸
71 押圧ローラ
72 弾性部材
73 押圧ブロック
74 スロット
75 ラジアルニードル軸受
76 被押圧部
77 Oリング