(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】円筒ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20221012BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20221012BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20221012BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20221012BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C33/56
F16C33/58
F16C33/66 Z
F16C19/26
(21)【出願番号】P 2020554827
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037715
(87)【国際公開番号】W WO2020090305
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2018205628
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽我 修二
(72)【発明者】
【氏名】青木 満穂
(72)【発明者】
【氏名】勝野 美昭
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-315841(JP,A)
【文献】米国特許第03628839(US,A)
【文献】実開昭54-180861(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46-33/66
F16C 19/24-19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面が形成される外輪と、
外周面に内輪軌道面が形成され、前記内輪軌道面の軸方向両端部に一対のつば部を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の円筒ころと、
一対の円環部及び該一対の円環部を軸方向に連結する複数の柱部を有し、前記複数の円筒ころを回転自在にそれぞれ保持する複数のポケット部を形成する樹脂製の保持器と、
を備える円筒ころ軸受であって、
前記ポケット部を形成する前記一対の円環部の各内壁面には、前記円筒ころのころ端面の中心点と少なくとも対向し、且つ、前記円環部の内周面から外周面まで開口する単一の凹溝が形成され、
前記凹溝は、前記円環部と前記柱部との間のポケット隅部から円周方向に離間しており、
前記凹溝は、円周方向における幅が、その外周側端面から内周側端面まで等しく形成されるか、又は、その外周側端面における円周方向幅が、内周側端面における円周方向幅よりも大きく形成されており、
前記凹溝の外周側端面の円周方向幅をM、前記円筒ころのころ径をD、前記つば部の高さをH、前記円周方向におけるポケットすきまをΔPとしたとき、
M-ΔP≦D-Hを満た
し、且つ、0.2×D≦M-ΔPを満たす、
円筒ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ころ軸受に関し、特に、工作機械主軸に好適な円筒ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸では、後側軸受として円筒ころ軸受が多く使用されている。円筒ころ軸受は、内輪軌道面又は外輪軌道面と転動体との間で転がり接触しつつ軸方向の摺動を許容する。工作機械主軸では、運転中に、固定側であるハウジングと自由側である回転軸との間で、軸方向の熱膨張差が生じる。このため、円筒ころ軸受は、軸方向に摺動することで、軸方向の熱膨張差によって前側軸受と後側軸受に作用するアキシアル荷重を逃がし、軸受が損傷するのを防止している。
【0003】
また、工作機械主軸に使用される円筒ころ軸受としては、潤滑性を向上させるため、保持器の円環状部の案内面において、径方向外側の部分に凹部を形成することで、その径方向内側に円筒ころのころ端面を案内する案内用凸部を設け、また、凹部の径方向外側部分に、潤滑剤の径方向外方への移動を抑える潤滑剤保持用凸部を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、円筒ころ軸受の潤滑性向上を図ったものとしては、ころ端面と対向する保持器のポケットの面に、油溜め用の凹部を形成したものや(例えば、特許文献2参照)、ポケットの軸方向内壁面に、円筒ころの倒れを小さくするための厚みのある2個の突起部を形成し、また、2個の突起部の間の凹部、及び回りの凹部によって、潤滑剤を保持するようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第4618197号公報
【文献】日本国特許第3723247号公報
【文献】日本国特開平10-153217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、工作機械主軸用の軸受は、主にオイルエア潤滑またはグリース潤滑で使用される。オイルエア潤滑で使用する場合には、低速回転時などの遠心力の作用が小さいことによりオイルが軸受内部に滞留しやすく、余剰のオイルが攪拌されて軸受が異常昇温することが問題となる。また、グリース潤滑で使用する場合も同様に、初期の慣らし運転時に余剰のグリースがスムーズに排出されないことで昇温が発生し、慣らし運転時間が長くなることが問題となる。
【0007】
また、工作機械主軸に使用される円筒ころ軸受は、よりスライド性能を良好に保つために、若干の正のラジアルすきまで組み込まれることが多い。正のラジアルすきまで組み込まれた場合でも、高速運転中は遠心力や熱の影響でスライド性能に影響ない程度の負のラジアルすきまとなることが多いが、組込み条件のばらつきによっては組込時の正のラジアルすきまが大きすぎたり、低速運転で使用する場合には初期のすきまが詰まらず、運転中でも正のラジアルすきまのままとなることがある。さらに、後側軸受は、切削荷重をほとんど受けず、また、立軸姿勢で使用される場合もあり、円筒ころに外部からの荷重が負荷されずに運転する状態が起こる。このような条件が重なることで、円筒ころは運転中に軌道輪に拘束されることなく自由に動ける状態となり、スキュー運動が起こり、ころ端面とつば部が接触して、双方が摩耗損傷する可能性がある。
【0008】
特許文献1及び2に記載の円筒ころ軸受は、内径側から外径側に凹みが貫通していないので、潤滑剤を溜めることはできるが排出性が良くなく、オイルエア潤滑やグリース潤滑で使用した場合に昇温の課題がある。特に、グリース潤滑において、まとまったグリースを保持器に溜めるということは、ある温度条件下で慣らし運転が完了したとしても、慣らし運転時よりも高い雰囲気温度で使用した場合に、グリースが軟化し、突発的に軸受内部に飛び込んで昇温する可能性がある。
【0009】
一方、特許文献3に記載の円筒ころ軸受は、潤滑剤の排油性は良いが、ポケットすきまによっては、ころ端面が回りの凹部に入り込み、円筒ころがスキューする可能性がある。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オイルエア潤滑やグリース潤滑においても良好な潤滑性を有し、且つ、円筒ころのスキューを抑制することができる円筒ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道面が形成される外輪と、
外周面に内輪軌道面が形成され、前記内輪軌道面の軸方向両端部に一対のつば部を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の円筒ころと、
一対の円環部及び該一対の円環部を軸方向に連結する複数の柱部を有し、前記複数の円筒ころを回転自在にそれぞれ保持する複数のポケット部を形成する樹脂製の保持器と、
を備える円筒ころ軸受であって、
前記ポケット部を形成する前記一対の円環部の各内壁面には、前記円筒ころのころ端面の中心点と少なくとも対向し、且つ、前記円環部の内周面から外周面まで開口する単一の凹溝が形成され、
前記凹溝は、前記円環部と前記柱部との間のポケット隅部から円周方向に離間しており、
前記凹溝は、円周方向における幅が、その外周側端面から内周側端面まで等しく形成されるか、又は、その外周側端面における円周方向幅が、内周側端面における円周方向幅よりも大きく形成されており、
前記凹溝の外周側端面の円周方向幅をM、前記円筒ころのころ径をD、前記つば部の高さをH、前記円周方向におけるポケットすきまをΔPとしたとき、
M-ΔP≦D-H
を満たす、円筒ころ軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円筒ころ軸受によれば、オイルエア潤滑やグリース潤滑においても良好な潤滑性を有し、且つ、円筒ころのスキューを抑制することができる。また、M-ΔP≦D-Hの式により、凹溝の大きさの上限を規定することで、円周方向にポケットすきまを有する場合であっても、円環部の内壁面のうちの平坦面によって、円筒ころのころ端面が支持され、円筒ころのスキュー運動を抑制でき、さらに、円環部の肉厚を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る円筒ころ軸受を示す縦断面図である。
【
図2】(a)は、
図1の円筒ころ軸受用保持器を外径側から見た斜視図であり、(b)は、該保持器を内径側から見た斜視図である。
【
図3】
図1の円筒ころ軸受用保持器のポケットを示す平面図である。
【
図5】本実施形態に係る余剰オイルの流れを説明するため、内輪を除いた円筒ころ軸受の斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る保持器側のグリース残存位置を説明するための保持器の斜視図である。
【
図7】(a)は、本実施形態に係るころ側のグリース残存位置を説明するため、内輪の一部を破断した円筒ころ軸受の斜視図であり、(b)は、(a)のVII部拡大図である。
【
図8】(a)~(d)は、円筒ころ軸受用保持器の凹溝の各変形例を示す平面図である。
【
図9】(a)は、内輪案内方式の保持器が適用された場合の円筒ころ軸受の断面図であり、(b)は、内輪案内方式の保持器が適用された場合の円筒ころ軸受の断面図である。
【
図10】本発明の円筒ころ軸受用保持器のポケットの凹溝の他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る円筒ころ軸受を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、円筒ころ軸受10は、内周面に外輪軌道面11aが形成される外輪11と、外周面に内輪軌道面12aが形成される内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に配置された複数の円筒ころ13と、複数の円筒ころ13を回転自在にそれぞれ保持する複数のポケット部21を形成する、ころ案内方式の保持器20と、を備えている。内輪12は、内輪軌道面12aの軸方向両端部に、内輪軌道面12aより外径側に突出する一対のつば部12b、12bを有する。
【0016】
なお、本実施形態の円筒ころ軸受10は、工作機械で主に使用されるオイルエア潤滑方式とグリース潤滑方式のいずれにも適用可能であり、即ち、オイルとグリースのいずれの潤滑剤で潤滑されてもよい。
【0017】
保持器20としては、例えば、基材入りのフェノール樹脂製であってもよく、基材としては積層板では紙、木綿布、アスベスト布、ガラス繊維布、ナイロン織物、成型品では、木粉、木綿、パルプ、アスベスト、雲母、ガラス繊維などを用いてもよい。また、保持器20は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドなどの合成樹脂材料からなり、必要に応じて、該樹脂に、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などの強化材を添加してもよい。或いは、保持器20は、銅合金や銀めっきなどを施した鉄でもよい。
【0018】
図2及び
図3に示すように、保持器20は、一対の円環部22、22及び一対の円環部22、22を軸方向に連結する複数の柱部23を有する。柱部23の軸方向中間部には、軸方向に互いに離間して配置された一対のころ持たせ部24、24を有する。一対のころ持たせ部24、24は、所定の軸方向長さを備え、その間に位置する柱部23の側面よりも円周方向に突出するように形成され、円筒ころ13をその外径側及び内径側で拘束する。また、柱部23の外周面は、一対の円環部22、22の外径よりも内径側に設けられており、一対のころ持たせ部24、24は、柱部23の外周面から外径側に突出して形成されている。このように、軸方向に分割して形成される一対のころ持たせ部24、24は、円筒ころ13の競り合いによって発生する力を受けた際に弾性変形することができ、柱部23が受ける力の一部を逃がすことができる。
【0019】
また、ポケット部21を形成する一対の円環部22、22の各内壁面には、単一の凹溝25が形成されている。凹溝25は、円筒ころ13のころ端面13aの中心点O(
図4参照)と少なくとも対向しており、また、円環部22の内周面から外周面まで開口している。
【0020】
図3に示すように、本実施形態の場合、凹溝25は、円周方向中間部に平坦なストレート面30と、該ストレート面30の円周方向両側に設けられた断面凹曲面状の湾曲面31、31と、を有する。また、凹溝25は、円周方向における幅が、その外周側端面25aから内周側端面25bまで等しくなるように、径方向において同じ断面形状を有して形成される。
【0021】
また、本実施形態では、凹溝25は、円環部22の柱部23との間の曲面状のポケット隅部26から円周方向に離間した位置に形成されており、円環部22の内壁面のうち、凹溝25の円周方向両側には、平坦面22aがそれぞれ設けられている。したがって、ポケット隅部26を除いた円環部22の内壁面の円周方向幅をSとすると、凹溝25の外周側端面25aの円周方向幅Mは、M<Sに設定される。
【0022】
このような凹溝25は、工作機械主軸で主に使用される潤滑方式のオイルエア潤滑とグリース潤滑の両方において、以下のメリットを有する。
即ち、オイルエア潤滑で使用する場合には、
図5に示すように、保持器20に作用する遠心力により、昇温の原因となる余剰オイルが軸受内部から外部へ排出される過程において、この凹溝25から積極的に外輪側へ排出することにより、オイルが軸受内部に戻るのを防ぐことができる。なお、
図5中、X1は、保持器20の公転方向、X2は、円筒ころ13の自転方向、X3は、余剰オイルの流れを示している。
【0023】
また、グリース潤滑で使用する場合には、初期の慣らし運転時において、この凹溝25は、同じく余剰グリースを軸受外部に排出する経路となり、慣らし運転時間を短縮することができる。さらに、慣らし完了後は、
図6に示すように、一部のグリースGはこの凹溝25内に留まり、保持器20のころ端面13aとの接触部へ基油を供給することができるため、潤滑性を良好に保つことができる。更に、保持器側に凹溝25を設けたことにより、ころ端面13aの中心部分は保持器20と接触しないため、回転運動によりグリースが掻き取られることなく、グリースGの一部は運転中もころ端面13aの中心部分に留まり続ける。
【0024】
そして、
図7に示すように、円筒ころ13の回転時の遠心力作用により、この残留グリースからころ端面13aの外径側に向かって基油が供給されるため、ころ端面13aとつば部12bのつば面との滑り接触部の潤滑性を良好に保つことができ、接触部が摩耗損傷するのを抑制することができる。なお、
図6及び
図7(b)中の矢印は、グリースの基油の供給経路を示している。
【0025】
また、本実施形態の円筒ころ軸受10では、円筒ころ13がスキューしようとした際に、円環部22の内壁面のうち、凹溝25が形成されていない平坦面22aによって支持されるため、上記潤滑性能を向上しつつ、スキュー運動を緩和させる効果も得られる。即ち、工作機械主軸の後側軸受として使用される円筒ころ軸受10が、正のラジアルすきまの状態で運転されたり、また、円筒ころ13に外部からの荷重が負荷されずに運転され、円筒ころ13が軌道輪に拘束されることなく自由に回転する場合であっても、スキュー運動が抑えられ、ころ端面13aとつば部12bのつば面とが接触して、摩耗損傷するのを抑制できる。
【0026】
ここで、
図4に示すように、凹溝25の外周側端面25aの円周方向幅をM、円筒ころ13のころ径をD、つば部12bの高さをH、円周方向におけるポケットすきまをΔPとしたとき、M-ΔP≦D-Hを満たすように形成されている。これにより、凹溝25から余剰の潤滑剤を効率よく排出することができる。
また、円周方向にポケットすきまΔPを有する場合であっても、円環部22の内壁面のうちの平坦面22aによって、円筒ころ13のころ端面13aが支持され、円筒ころ13のスキュー運動を抑制できる。さらに、凹溝25の大きさの上限が規定されるので、円環部22の肉厚を十分に確保することができる。ここで、凹溝25の外周側端面25aの円周方向幅Mをより大きくして、凹溝25によって掻き取られずにころ端面13aに残存できるグリースの面積を大きくしても、つば部12bによって掻き取られてしまうため、ころ端面13aに残存するグリースの面積は、つば部12bに掻き取られて残るグリースの面積以上に大きくすることはできない。このため、ころ端面13aに残存できるグリースの面積の最大値が、つば部12bの高さHによって規定されるので、円周方向幅Mも、つば部12bの高さHによって規定される。
なお、凹溝25の大きさは、M-ΔP≦D-2Hとすることがより好ましい。D-2H(=Dgr)は、つば部12bによって掻き取られずにころ端面13aに残存できるグリースの直径を表す。凹溝25内に留められた潤滑剤は、平坦面22aに流れ、ころ端面13aとの潤滑に作用するが、M-ΔP≦D-2Hを満たすことで、ころ端面13aのうち、つば部12bと接触する面が、回転により平坦面22aとも接触することができるため、潤滑剤が供給され、ころ端面13aとつば部12bとの潤滑性を良好に保つことができる。
【0027】
また、凹溝25の下限は、0.2×D≦M-ΔPを満たすように形成されることが好ましい。これにより、凹溝25の外周側端面25aの円周方向幅Mが確保されることで、グリースの排油性が良好となる。また、凹溝25内に潤滑剤を十分に溜めることができ、さらに、ころ端面13aに残存できるグリースを凹溝25が掻き取るのも抑制できる。仮に、M-ΔP<0.2×Dとすると、排油性が悪くなり、ならし運転時間の長期化や、攪拌抵抗による昇温や異常発熱が起こりやすく、また、ころ端面13aにグリースが残存できる面積が小さくなるため、ころ端面13aからつば部12bへのグリース基油の補給量が減ってしまう。また、0.3×D≦M-ΔPを満たすように凹溝25を形成することが、より好ましい。これにより、グリースの慣らし運転時間の短縮や、異常発熱の課題を改善することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の円筒ころ軸受10によれば、ポケット部21を形成する一対の円環部22の各内壁面には、円筒ころ13のころ端面13aの中心点Oと少なくとも対向し、且つ、円環部22の内周面から外周面まで開口する単一の凹溝25が形成され、凹溝25は、円環部22と柱部23との間のポケット隅部26から円周方向に離間している。これにより、オイルエア潤滑やグリース潤滑においても良好な潤滑性を有し、且つ、円筒ころのスキューを抑制することができる。
【0029】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、凹溝25の形状は、上記実施形態のものに限定されず、
図8(a)~
図8(d)に示すものであってもよい。
具体的に、
図8(a)に示すように、凹溝25Aは、ストレート面30の円周方向両側に設けられた傾斜面32、32と、を有して構成され、凹溝25aによる応力集中の緩和と、排油性の向上とをバランス良く与えるようにしてもよい。
また、
図8(b)に示すように、凹溝25Bは、ストレート面30と、該ストレート面30の円周方向両側に垂直に交差して設けられた垂直面33、33と、を有して構成され、排油性を向上するようにしてもよい。
さらに、
図8(c)に示すように、凹溝25Cは、単一の円弧面34によって構成され、凹溝25Cによる応力集中を緩和するようにしてもよい。
また、
図8(d)に示すように、凹溝25Dは、ストレート面30と、該ストレート面30の円周方向両側に、凹溝25Dの円周方向幅が開口部分からストレート面30に向けて幅広となるように傾斜する傾斜面35、35と、を有して構成され、より多くの潤滑剤を保持するようにしてもよい。
なお、上記変形例では、凹溝25~25Dは、径方向において同じ断面形状を有する構成としているが、外輪側に向かって断面形状が大きくなるなど、径方向において異なる断面形状を有してもよい。
【0030】
また、本発明の保持器20は、上述したころ案内方式に限定されず、
図9(a)に示す内輪案内方式や、
図9(b)に示す外輪案内方式であってもよい。
【0031】
さらに、本発明の保持器20は、ころ持たせ部24、24を有する柱部23の形状は、上記実施形態に限定されるものでなく、他の形状を有するものであってもよい。
【0032】
また、本発明は、単列円筒ころ軸受に限定されず、複列円筒ころ軸受に適用されてもよい。
【0033】
加えて、上記実施形態では、凹溝25は、円周方向における幅が、その外周側端面25aから内周側端面25bまで等しく形成されているが、本発明の凹溝は、これに限らず、外周側端面25aにおける円周方向幅Mが、内周側端面25bにおける円周方向幅よりも大きく形成されてもよい。例えば、
図10に示すように、凹溝25は、円周方向における幅が、外周側端面25aから内周側端面25bまで徐々に狭くなるように形成される。
【0034】
また、外周側端面25aにおける円周方向幅Mが、内周側端面25bにおける円周方向幅よりも大きい場合には、凹溝25の円周方向幅の下限の規定は、内周側端面25bの円周方向幅Maにおいて成立するように設計される。
即ち、凹溝の円周方向幅が外周側端面から内周側端面まで等しい上記実施形態、及び、外周側端面25aにおける円周方向幅Mが内周側端面25bにおける円周方向幅Mbよりも大きい変形例のいずれにおいても、凹溝25の内周側端面25bの円周方向幅Maは、0.2×D≦Ma-ΔPを満たすように形成される。
【0035】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に外輪軌道面が形成される外輪と、
外周面に内輪軌道面が形成され、前記内輪軌道面の軸方向両端部に一対のつば部を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の円筒ころと、
一対の円環部及び該一対の円環部を軸方向に連結する複数の柱部を有し、前記複数の円筒ころを回転自在にそれぞれ保持する複数のポケット部を形成する樹脂製の保持器と、
を備える円筒ころ軸受であって、
前記ポケット部を形成する前記一対の円環部の各内壁面には、前記円筒ころのころ端面の中心点と少なくとも対向し、且つ、前記円環部の内周面から外周面まで開口する単一の凹溝が形成され、
前記凹溝は、前記円環部と前記柱部との間のポケット隅部から円周方向に離間しており、
前記凹溝は、円周方向における幅が、その外周側端面から内周側端面まで等しく形成されるか、又は、その外周側端面における円周方向幅が、内周側端面における円周方向幅よりも大きく形成されており、
前記凹溝の外周側端面の円周方向幅をM、前記円筒ころのころ径をD、前記つば部の高さをH、前記円周方向におけるポケットすきまをΔPとしたとき、
M-ΔP≦D-H
を満たす、円筒ころ軸受。
この構成によれば、オイルエア潤滑やグリース潤滑においても良好な潤滑性を有し、且つ、円筒ころのスキューを抑制することができる。
また、M-ΔP≦D-Hの式により、凹溝の大きさの上限を規定することで、円周方向にポケットすきまを有する場合であっても、円環部の内壁面のうちの平坦面によって、円筒ころのころ端面が支持され、円筒ころのスキュー運動を抑制でき、さらに、円環部の肉厚を十分に確保することができる。
【0036】
なお、本出願は、2018年10月31日出願の日本特許出願(特願2018-205628)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0037】
10 円筒ころ軸受
11 外輪
11a 外輪軌道面
12 内輪
12a 内輪軌道面
13 円筒ころ
20 保持器
21 ポケット部
22 円環部
23 柱部
25 凹溝
D ころ径
H つば部の高さ
M 凹溝の外周側端面の円周方向幅
ΔP 円周方向におけるポケットすきま