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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20221012BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221012BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221012BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20221012BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221012BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20221012BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M4/48
H01M10/0567
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020558307
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044338
(87)【国際公開番号】W WO2020110705
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2018225941
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 雄大
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】本多 一輝
(72)【発明者】
【氏名】北田 敬太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大
(72)【発明者】
【氏名】畑ヶ 真次
(72)【発明者】
【氏名】木暮 太一
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-252028(JP,A)
【文献】特開2009-016245(JP,A)
【文献】特開2018-147783(JP,A)
【文献】国際公開第2011/092990(WO,A1)
【文献】特開2017-191921(JP,A)
【文献】特開2015-099660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/48
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/587
H01M 10/0567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されると共に層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、を含む正極と、
黒鉛を含む負極と、
電解液と
を備え、
4.20V以上の閉回路電圧において24時間に渡って定電圧充電された状態を満充電状態として、前記満充電状態において測定される前記負極の開回路電位(リチウム金属基準)は、19mV以上86mV以下であり、
前記満充電状態から前記閉回路電圧が2.00Vに到達するまで定電流放電されたのちに2.00Vの前記閉回路電圧において24時間に渡って定電圧放電された際に得られる放電容量を最大放電容量として、前記最大放電容量の1%に相当する容量分だけ前記満充電状態から放電された際に、下記の式(2)で表される前記負極の電位変動量は、1mV以上である、
二次電池。
Lix Ni1-y y 2-z z ・・・(1)
(Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、タングステン(W)およびホウ素(B)のうちの少なくとも1種である。Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)および硫黄(S)のうちの少なくとも1種である。x、yおよびzは、0.8<x<1.2、0≦y≦0.5および0≦z<0.05を満たす。)
負極の電位変動量(mV)=第2負極電位(mV)-第1負極電位(mV) ・・・(2)
(第1負極電位は、満充電状態において測定される負極の開回路電位(リチウム金属基準)である。第2負極電位は、最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態から放電された状態において測定される負極の開回路電位(リチウム金属基準)である。)
【請求項2】
前記黒鉛は、複数の粒子状であり、
前記複数の粒子状の黒鉛のメジアン径D50は、3.5μm以上30μm以下である、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛の(002)面の面間隔は、0.3355nm以上0.3370nm以下である、
請求項1または請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記電解液は、ハロゲン化炭酸エステルを含み、
前記電解液中における前記ハロゲン化炭酸エステルの含有量は、1重量%以上15重量%以下である、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記負極は、さらに、難黒鉛化性炭素およびケイ素を構成元素として含む材料のうちの少なくとも一方を含む、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記ケイ素を構成元素として含む材料は、下記の式(3)で表される酸化ケイ素を含む、
請求項5記載の二次電池。
SiOv ・・・(3)
(vは、0.5≦v≦1.5を満たす。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極と黒鉛を含む負極とを備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として、二次電池の開発が進められている。この二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えている。
【0003】
電池特性を向上させるために、二次電池の構成に関しては様々な検討がなされている。具体的には、高エネルギー密度化(高容量化)を図るために、充電電圧(金属リチウム基準の正極電位)が約4.4V以上となるように設定されている(例えば、特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/139130号パンフレット
【文献】国際公開第2011/145301号パンフレット
【文献】特開2007-200821号公報
【文献】特開2009-218112号公報
【発明の概要】
【0005】
二次電池が搭載される電子機器は、益々、高性能化および多機能化している。このため、電子機器の使用頻度は増加していると共に、電子機器の使用環境は拡大している。よって、二次電池の電池特性に関しては、未だ改善の余地がある。
【0006】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能な二次電池を提供することにある。
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池は、下記の式(1)で表されると共に層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムニッケル複合酸化物を含む正極と、黒鉛を含む負極と、電解液とを備えたものである。4.20V以上の閉回路電圧において24時間に渡って定電圧充電された状態を満充電状態として、その満充電状態において測定される負極の開回路電位(リチウム金属基準)が19mV以上86mV以下である。満充電状態から閉回路電圧が2.00Vに到達するまで定電流放電されたのちに2.00Vの閉回路電圧において24時間に渡って定電圧放電された際に得られる放電容量を最大放電容量として、その最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態から放電された際に、下記の式(2)で表される負極の電位変動量が1mV以上である。
【0008】
Lix Ni1-y y 2-z z ・・・(1)
(Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、タングステン(W)およびホウ素(B)のうちの少なくとも1種である。Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)および硫黄(S)のうちの少なくとも1種である。x、yおよびzは、0.8<x<1.2、0≦y≦0.5および0≦z<0.05を満たす。)
【0009】
負極の電位変動量(mV)=第2負極電位(mV)-第1負極電位(mV) ・・・(2)
(第1負極電位は、満充電状態において測定される負極の開回路電位(リチウム金属基準)である。第2負極電位は、最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態から放電された状態において測定される負極の開回路電位(リチウム金属基準)である。)
【0010】
本技術の二次電池によれば、正極がリチウムニッケル複合酸化物を含み、負極が黒鉛を含み、満充電状態において測定される負極の開回路電位が19mV以上86mV以下であり、最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態から放電された際における負極の電位変動量が1mV以上である。よって、優れた電池特性を得ることができる。
【0011】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本技術の一実施形態の二次電池の構成を表す斜視図である。
図2図1に示した巻回電極体の構成を模式的に表す平面図である。
図3図1に示した巻回電極体の構成を拡大して表す断面図である。
図4】比較例の二次電池に関する容量電位曲線(充電電圧Ec=4.10V)である。
図5】比較例の二次電池に関する他の容量電位曲線(充電電圧Ec=4.20V)である。
図6】本技術の一実施形態の二次電池に関する容量電位曲線(充電電圧Ec=4.10V)である。
図7】本技術の一実施形態の二次電池に関する他の容量電位曲線(充電電圧Ec=4.20V)である。
図8】変形例1の二次電池の構成を表す断面図である。
図9】変形例2の二次電池の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池
1-1.構成
1-2.充放電原理および構成条件
1-3.動作
1-4.製造方法
1-5.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0014】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0015】
ここで説明する二次電池は、後述するように、リチウムイオンの吸蔵現象およびリチウムイオンの放出現象に基づいて電池容量が得られるリチウムイオン二次電池であり、正極13および負極14を備えている(図3参照)。
【0016】
この二次電池では、充電途中において負極14の表面にリチウム金属が析出することを防止するために、負極14の単位面積当たりの電気化学容量が正極13の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなっている。
【0017】
ただし、後述する2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされるようにするために、正極13に含まれている正極活物質の質量は、負極14に含まれている負極活物質の質量に対して十分に多くなっている。
【0018】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表している。図2は、図1に示した巻回電極体10の平面構成を模式的に表していると共に、図3は、巻回電極体10の断面構成を拡大している。ただし、図1では、巻回電極体10および外装部材20が互いに離間された状態を示していると共に、図3では、巻回電極体10の一部だけを示している。
【0019】
この二次電池では、例えば、図1に示したように、可撓性(または柔軟性)を有するフィルム状の外装部材20の内部に電池素子(巻回電極体10)が収納されており、その巻回電極体10に正極リード11および負極リード12が接続されている。すなわち、ここで説明する二次電池は、いわゆるラミネートフィルム型の二次電池である。
【0020】
[外装部材]
外装部材20は、例えば、図1に示したように、矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、その外装部材20には、例えば、巻回電極体10を収納するための窪み20Uが設けられている。これにより、外装部材20は、巻回電極体10を収納しているため、後述する正極13、負極14および電解液などを収納している。
【0021】
この外装部材20は、例えば、高分子化合物を含むフィルム(高分子フィルム)でもよいし、薄い金属板(金属箔)でもよいし、高分子フィルムと金属箔とが互いに積層された積層体(ラミネートフィルム)でもよい。高分子フィルムは、単層でもよいし、多層でもよい。このように単層でも多層でもよいことは、金属箔に関しても同様である。ラミネートフィルムでは、例えば、高分子フィルムと金属箔とが交互に積層されていてもよい。高分子フィルムおよび金属箔のそれぞれの積層数は、任意に設定可能である。
【0022】
中でも、ラミネートフィルムが好ましい。十分な封止性が得られると共に、十分な耐久性も得られるからである。具体的には、外装部材20は、例えば、内側から外側に向かって融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。二次電池の製造工程では、例えば、融着層同士が巻回電極体10を介して互いに対向するように外装部材20が折り畳まれたのち、その融着層のうちの外周縁部同士が互いに融着されるため、その外装部材20が封止される。融着層は、例えば、ポリプロピレンなどを含む高分子フィルムである。金属層は、例えば、アルミニウムなどを含む金属箔である。表面保護層は、例えば、ナイロンなどを含む高分子フィルムである。
【0023】
ただし、外装部材20は、例えば、2枚のラミネートフィルムでもよい。この場合には、例えば、2枚のラミネートフィルムが接着剤などを介して互いに貼り合わされている。
【0024】
外装部材20と正極リード11との間には、例えば、その外装部材20の内部に外気が侵入することを防止するために、密着フィルム31が挿入されている。この密着フィルム31は、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂を含んでいる。
【0025】
外装部材20と負極リード12との間には、例えば、上記した密着フィルム31と同様の役割を果たす密着フィルム32が挿入されている。密着フィルム32の形成材料は、例えば、密着フィルム31の形成材料と同様である。
【0026】
[巻回電極体]
巻回電極体10は、例えば、図1図3に示したように、正極13、負極14およびセパレータ15などを備えている。この巻回電極体10では、例えば、セパレータ15を介して正極13および負極14が互いに積層されたのち、その正極13、負極14およびセパレータ15が巻回されている。この巻回電極体10には、例えば、液状の電解質である電解液が含浸されているため、その電解液は、例えば、正極13、負極14およびセパレータ15のそれぞれに含浸されている。なお、巻回電極体10の表面は、保護テープ(図示せず)により保護されていてもよい。
【0027】
なお、二次電池の製造工程では、例えば、後述するように、扁平な形状を有する治具を用いて、Y軸方向に延在する巻回軸Jを中心として正極13、負極14およびセパレータ15が巻回されている。これにより、巻回電極体10は、例えば、図1に示したように、上記した治具の形状が反映された扁平な形状となるように成型されている。よって、巻回電極体10は、例えば、図2に示したように、中央に位置する平坦な部分(平坦部10F)と、両端に位置する一対の湾曲した部分(湾曲部10R)とを含んでいる。すなわち、一対の湾曲部10Rは、平坦部10Fを介して互いに対向している。図2では、平坦部10Fと湾曲部10Rとを互いに識別しやすくするために、平坦部10Fと湾曲部10Rとの境界に破線を付していると共に、湾曲部10Rに網掛けを施している。
【0028】
(正極)
正極13は、例えば、図3に示したように、正極集電体13Aと、その正極集電体13Aの上に形成された正極活物質層13Bとを備えている。この正極活物質層13Bは、例えば、正極集電体13Aの片面だけに形成されていてもよいし、正極集電体13Aの両面に形成されていてもよい。図3では、例えば、正極活物質層13Bが正極集電体13Aの両面に形成されている場合を示している。
【0029】
正極集電体13Aは、例えば、アルミニウムなどの導電性材料を含んでいる。正極活物質層13Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵可能であると共にリチウムイオンを放出可能である正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層13Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0030】
正極材料は、リチウム化合物を含んでおり、そのリチウム化合物は、リチウムを構成元素として含む化合物の総称である。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム化合物は、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムニッケル複合酸化物(以下、「層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物」と呼称する。)を含んでいる。高いエネルギー密度が安定に得られるからである。
【0031】
この層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムおよびニッケルを構成元素として含む複合酸化物の総称である。このため、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、さらに、1種類または2種類以上の他元素(リチウムおよびニッケル以外の元素)を含んでいてもよい。他元素の種類は、特に限定されないが、例えば、長周期型周期表のうちの2族~15族に属する元素などである。
【0032】
具体的には、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、下記の式(1)で表される化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。十分なエネルギー密度が安定に得られるからである。ただし、リチウムの組成は、充放電状態に応じて異なる。式(1)に示したxの値は、二次電池から正極13を取り出したのち、電位が3V(リチウム金属基準)に到達するまで正極13が放電された状態の値である。
【0033】
Lix Ni1-y y 2-z z ・・・(1)
(Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、タングステン(W)およびホウ素(B)のうちの少なくとも1種である。Xは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)および硫黄(S)のうちの少なくとも1種である。x、yおよびzは、0.8<x<1.2、0≦y≦0.5および0≦z<0.05を満たす。)
【0034】
この層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、式(1)から明らかなように、ニッケル系のリチウム複合酸化物である。ただし、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、さらに、第1追加元素(M)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよいし、第2追加元素(X)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。第1追加元素(M)および第2追加元素(X)のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
【0035】
言い替えれば、yが取り得る値の範囲から明らかなように、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、第1追加元素(M)を含んでいなくてもよい。同様に、zが取り得る値の範囲から明らかなように、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、第2追加元素(X)を含んでいなくてもよい。
【0036】
層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物の種類は、式(1)で表される化合物であれば、特に限定されない。具体的には、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物は、例えば、LiNiO2 、LiNi0.9 Co0.1 2 、LiNi0.85Co0.1 Al0.052 、LiNi0.90Co0.05Al0.052 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、LiNi0.8 Co0.1 Mn0.1 2 およびLiNi0.9 Co0.05Mn0.052 などである。
【0037】
なお、正極材料は、例えば、上記したリチウム化合物(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)と共に、他のリチウム化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。他のリチウム化合物は、例えば、他のリチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物などである。
【0038】
他のリチウム複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の他元素とを構成元素として含む複合酸化物の総称であり、例えば、層状岩塩型およびスピネル型などの結晶構造を有している。ただし、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物に該当する化合物は、ここで説明する他のリチウム複合酸化物から除かれる。リチウムリン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の他元素とを構成元素として含むリン酸化合物の総称であり、例えば、オリビン型などの結晶構造を有している。他元素に関する詳細は、上記した通りである。
【0039】
層状岩塩型の結晶構造を有する他のリチウム複合酸化物は、例えば、LiCoO2 などである。スピネル型の結晶構造を有する他のリチウム複合酸化物は、例えば、LiMn2 4 などである。オリビン型の結晶構造を有するリチウムリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 、LiMnPO4 およびLiMn0.5 Fe0.5 PO4 などである。
【0040】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴムなどである。高分子化合物は、例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリイミドなどである。
【0041】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および導電性高分子などでもよい。
【0042】
(負極)
負極14は、例えば、図3に示したように、負極集電体14Aと、その負極集電体14Aの上に形成された負極活物質層14Bとを備えている。この負極活物質層14Bは、例えば、負極集電体14Aの片面だけに形成されていてもよいし、負極集電体14Aの両面に形成されていてもよい。図3では、例えば、負極活物質層14Bが負極集電体14Aの両面に形成されている場合を示している。
【0043】
負極集電体14Aは、例えば、銅などの導電性材料を含んでいる。負極集電体14Aの表面は、電解法などを用いて粗面化されていることが好ましい。アンカー効果を利用して、負極集電体14Aに対する負極活物質層14Bの密着性が向上するからである。
【0044】
負極活物質層14Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵可能であると共にリチウムイオンを放出可能である負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0045】
負極材料は、炭素材料を含んでおり、その炭素材料は、主に炭素を構成元素として含む材料の総称である。炭素材料ではリチウムイオンの吸蔵時およびリチウムイオンの放出時において結晶構造がほとんど変化しないため、高いエネルギー密度が安定に得られるからである。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するため、負極活物質層14Bの導電性が向上するからである。
【0046】
具体的には、負極材料は、黒鉛を含んでいる。黒鉛の種類は、特に限定されないため、人造黒鉛でもよいし、天然黒鉛でもよいし、双方でもよい。
【0047】
負極材料が複数の粒子状の黒鉛(複数の黒鉛粒子)を含んでいる場合、その複数の黒鉛粒子の平均粒径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、中でも、3.5μm~30μmであることが好ましく、5μm~20μmであることがより好ましい。リチウム金属の析出が抑制されると共に、副反応の発生も抑制されるからである。詳細には、メジアン径D50が3.5μmよりも小さいと、黒鉛粒子の表面積が増加することに起因して、その黒鉛粒子の表面において副反応が発生しやすくなるため、初回の充放電効率が低下する可能性がある。一方、メジアン径D50が30μmよりも大きいと、電解液の移動経路である黒鉛粒子間の隙間(空孔)の分布が不均一になるため、リチウム金属が析出する可能性がある。
【0048】
ここで、複数の黒鉛粒子のうちの一部または全部は、いわゆる2次粒子を形成していることが好ましい。負極14(負極活物質層14B)の配向が抑制されるため、充放電時において負極活物質層14Bが膨張しにくくなるからである。複数の黒鉛粒子の重量に対して、2次粒子を形成している複数の黒鉛粒子の重量が占める割合は、特に限定されないが、中でも、20重量%~80重量%であることが好ましい。2次粒子を形成している黒鉛粒子の割合が相対的に多くなると、1次粒子の平均粒径が相対的に小さくなることに起因して粒子の総表面積が過剰に増加するため、電解液の分解反応が発生すると共に単位重量当たりの容量が小さくなる可能性があるからである。
【0049】
X線回折法(XRD)を用いて黒鉛を分析した場合、(002)面に由来するピークの位置から求められる黒鉛結晶構造を有するグラフェン層の間隔、すなわち(002)面の面間隔Sは、0.3355nm~0.3370nmであることが好ましく、0.3356nm~0.3363nmであることがより好ましい。電池容量が担保されながら、電解液の分解反応が抑制されるからである。詳細には、面間隔Sが0.3370nmよりも大きいと、黒鉛の黒鉛化が不十分であることに起因して、電池容量が低下する可能性がある。一方、面間隔Sが0.3355nmよりも小さいと、黒鉛の黒鉛化が過剰であることに起因して、電解液に対する黒鉛の反応性が高くなるため、その電解液の分解反応が発生する可能性がある。
【0050】
なお、負極材料は、例えば、上記した炭素材料(黒鉛)と共に、他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。他の材料は、例えば、他の炭素材料および金属系材料などである。エネルギー密度がより増加するからである。
【0051】
他の炭素材料は、例えば、難黒鉛化炭素などである。高いエネルギー密度が安定に得られるからである。難黒鉛化性炭素の物性は、特に限定されないが、中でも、(002)面の面間隔は、0.37nm以上であることが好ましい。十分なエネルギー密度が得られるからである。
【0052】
金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素およびリチウムと合金を形成可能である半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料の総称である。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を含む材料でもよい。
【0053】
ただし、ここで説明する単体は、あくまで一般的な単体を意味しているため、微量の不純物を含んでいてもよい。すなわち、単体の純度は、必ずしも100%に限られない。合金は、2種類以上の金属元素からなる材料だけでなく、1種類または2種類以上の金属元素と1種類または2種類以上の半金属元素とを含む材料でもよい。なお、合金は、1種類または2種類以上の非金属元素を含んでいてもよい。金属系材料の組織は、特に限定されないが、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物およびそれらの2種類以上の共存物などである。
【0054】
具体的には、金属元素および半金属元素は、例えば、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、ビスマス、カドミウム、銀、亜鉛、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、パラジウムおよび白金などである。
【0055】
中でも、ケイ素を構成元素として含む材料(以下、「ケイ素含有材料」と呼称する。)が好ましい。リチウムイオンの吸蔵能力およびリチウムイオンの放出能力が優れているため、著しく高いエネルギー密度が得られるからである。
【0056】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、炭素および酸素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金に関して説明した一連の構成元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0057】
具体的には、ケイ素含有材料は、例えば、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 Oおよび下記の式(3)で表される酸化ケイ素などである。
【0058】
SiOv ・・・(3)
(vは、0.5≦v≦1.5を満たす。)
【0059】
中でも、酸化ケイ素が好ましい。酸化ケイ素は、黒鉛比で比較的大きな単位重量当たり容量および単位体積当たり容量を有するからである。また、酸素を含んでいる酸化ケイ素では、リチオ化された後において酸素-ケイ素結合およびリチウム-酸素結合により構造が安定化されるため、粒子が割れにくくなるからである。酸化ケイ素の種類は、特に限定されないが、例えば、SiOなどである。
【0060】
負極結着剤に関する詳細は、例えば、正極結着剤に関する詳細と同様である。負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極導電剤に関する詳細と同様である。ただし、負極結着剤は、例えば、水系(水溶性)の高分子化合物でもよい。この水溶性の高分子化合物は、例えば、カルボキシメチルセルロースおよびその金属塩などである。
【0061】
(セパレータ)
セパレータ15は、正極13と負極14との間に介在しており、その正極13および負極14を互いに離間させている。このセパレータ15は、例えば、合成樹脂およびセラミックなどの多孔質膜を含んでおり、2種類以上の多孔質膜が互いに積層された積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンなどである。
【0062】
(電解液)
電解液は、例えば、溶媒および電解質塩を含んでいる。ただし、溶媒の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよいと共に、電解質塩の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0063】
溶媒は、例えば、非水溶媒(有機溶剤)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。非水溶媒を含む電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0064】
非水溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステルおよびニトリル(モノニトリル)化合物などである。容量特性、サイクル特性および保存特性などが担保されるからである。
【0065】
環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどである。鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチルおよび炭酸ジエチルなどである。ラクトンは、例えば、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。鎖状カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルおよびプロピオン酸プロピルなどである。ニトリル化合物は、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリルおよび3-メトキシプロピオニトリルなどである。
【0066】
また、非水溶媒は、例えば、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルホン酸エステル、酸無水物、ジシアノ化合物(ジニトリル化合物)、ジイソシアネート化合物およびリン酸エステルなどでもよい。上記した容量特性などのうちのいずれか1種類または2種類以上がより向上するからである。
【0067】
不飽和環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化炭酸エステルは、環状でもよいし、鎖状でもよい。このハロゲン化炭酸エステルは、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび炭酸フルオロメチルメチルなどである。スルホン酸エステルは、例えば、1,3-プロパンスルトンおよび1,3-プロペンスルトンなどである。酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水エタンジスルホン酸、無水プロパンジスルホン酸、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸および無水スルホ酪酸などである。ジニトリル化合物は、例えば、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルおよびフタロニトリルなどである。ジイソシアネート化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。リン酸エステルは、例えば、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。
【0068】
中でも、溶媒は、ハロゲン化炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時においてハロゲン化炭酸エステルに由来する被膜が負極14の表面に形成されるため、その被膜により負極14の表面が保護されるからである。これにより、負極14の表面において電解液の分解反応が発生しにくくなる。また、負極14の表面にリチウム金属が析出しても、そのリチウム金属が電解液と過剰に反応しにくくなる。
【0069】
電解液中におけるハロゲン化炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、中でも、1重量%~15重量%であることが好ましい。電池容量などが担保されながら、電解液の分解反応が発生しにくくなると共に、リチウム金属が電解液と反応しにくくなるからである。
【0070】
ハロゲン化炭酸エステルの種類は、特に限定されないが、中でも、環状のハロゲン化炭酸エステルが好ましく、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンがより好ましい。負極14の表面に良質な被膜が安定に形成されやすくなるからである。
【0071】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解質塩は、さらに、リチウム塩以外の軽金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。リチウム塩の種類は、特に限定されないが、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO2 F)2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、フルオロリン酸リチウム(Li2 PFO3 )、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF2 2 )およびビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiC4 BO8 )などである。容量特性、サイクル特性および保存特性などが担保されるからである。
【0072】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下である。
【0073】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード11は、正極13に接続されていると共に、外装部材20の内部から外部に導出されている。この正極リード11は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料を含んでおり、その正極リード11の形状は、例えば、薄板状および網目状などである。
【0074】
負極リード12は、負極14に接続されていると共に、外装部材20の内部から外部に導出されている。負極リード12の導出方向は、例えば、正極リード11の導出方向と同様である。この負極リード12は、例えば、ニッケルなどの導電性材料を含んでおり、その負極リード12の形状は、例えば、正極リード11の形状と同様である。
【0075】
<1-2.充放電原理および構成条件>
ここで、本実施形態の二次電池の充放電原理および構成条件に関して説明する。図4および図5のそれぞれは、本実施形態の二次電池に対する比較例の二次電池に関する容量電位曲線を表していると共に、図6および図7のそれぞれは、本実施形態の二次電池に関する容量電位曲線を表している。
【0076】
図4図7のそれぞれにおいて、横軸は容量C(mAh)を示していると共に、縦軸は電位E(V)を示している。この電位Eは、リチウム金属を参照極として測定される開回路電位であり、すなわちリチウム金属基準の電位である。また、図4図7のそれぞれでは、正極13の充放電曲線L1および負極14の充放電曲線L2を示している。なお、「充電」と示された破線の位置は、満充電状態を表していると共に、「放電」と示された破線の位置は、完全放電状態を表している。
【0077】
充電電圧Ec(V)および放電電圧Ed(V)は、例えば、以下の通りである。図4では、充電電圧Ec=4.10Vおよび放電電圧Ed=2.00Vである。図5では、充電電圧Ec=4.20Vおよび放電電圧Ed=2.00Vである。図6では、充電電圧Ec=4.10Vおよび放電電圧Ed=2.00Vである。図7では、充電電圧Ec=4.20Vおよび放電電圧Ed=2.00Vである。充放電時において、二次電池は、電池電圧(閉回路電圧)が充電電圧Ecに到達するまで充電されたのち、その電池電圧が放電電圧Edに到達するまで放電される。
【0078】
以下では、本実施形態の二次電池の充放電原理および構成条件を説明するための前提事項に関して説明したのち、その充放電原理に関して説明すると共に、その充放電原理を実現するために必要な構成条件に関して説明する。
【0079】
[前提事項]
二次電池のエネルギー密度を向上させるためには、充電電圧Ec(いわゆる充電終止電圧)を増大させることが考えられる。充電電圧Ecを増大させると、充電末期、ひいては充電終止時において正極13の電位Eが上昇するため、その電位Eの使用範囲、すなわち充電時の正極13において使用される電位域が引き上げられる。
【0080】
一般的に、正極活物質として層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物を用いた場合において充電電圧Ecを増大させると、正極13の電位Eも増大する。このため、正極13の容量電位曲線L1は、図4図7に示したように、電位変化領域P1を有している。この電位変化領域P1は、容量Cが変化すると電位Eも変化する領域である。
【0081】
ただし、充電電圧Ecを増大させすぎると、充電末期において正極13の電位Eが4.30V以上に到達するため、その正極13(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)では、結晶構造中においてリチウムイオンが存在すべきサイトにニッケルイオンが移行する現象、いわゆるカチオンミキシングが発生する。カチオンミキシングが発生すると、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物において結晶構造の変化(転移)が促進されるため、充放電を繰り返すと容量損失が発生しやすくなる。特に、充電電圧Ecが4.20V以上になると、正極13の電位Eが4.30V以上まで到達するため、カチオンミキシングが発生しやすくなる。
【0082】
一方、負極活物質として黒鉛を用いた場合において充電電圧Ecを増大させると、その黒鉛において、層間化合物ステージ1と層間化合物ステージ2との二相共存反応が進行する。これにより、負極14の容量電位曲線L2は、図4図7に示したように、電位一定領域P3を有している。この電位一定領域P3は、二相共存反応に起因して容量Cが変化しても電位Eがほとんど変化しない領域である。電位一定領域P3における負極14の電位Eは、約90mV~100mVである。
【0083】
なお、充電電圧Ecをさらに増大させると、負極14の電位Eが電位一定領域P3を越えるため、その電位Eが急激に変化する。これにより、負極14の容量電位曲線L2は、図4図7に示したように、電位変化領域P4を有している。図4図7において、電位変化領域P4は、容量電位曲線中において電位一定領域P3よりも低電位側に位置する領域であり、容量Cが変化すると電位Eが急激に変化する領域である。電位変化領域P4における負極14の電位Eは、約90mV未満である。
【0084】
[充放電原理]
正極13が正極活物質(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)を含んでいると共に、負極14が負極活物質(黒鉛)を含んでいる本実施形態の二次電池では、上記した前提事項を踏まえた上で、以下で説明するように充放電が行われる。以下では、比較例の二次電池の充放電原理(図4および図5)と比較しながら、本実施形態の二次電池の充放電原理(図6および図7)に関して説明する。
【0085】
比較例の二次電池では、負極14においてリチウム金属が析出することに起因して電池容量が減少することを防止するために、図4に示したように、充電終止時(充電電圧Ec=4.10V)における負極14の電位Eは、電位一定領域P3において充電が完了するように設定されている。
【0086】
しかしながら、比較例の二次電池では、充電電圧Ecを4.20V以上まで増大させると、充電終止時において負極14の電位Eが高くなることに起因して、図5に示したように、正極13の電位Eが4.30V以上まで到達してしまう。
【0087】
よって、比較例の二次電池では、充電電圧Ecを4.20V以上まで増大させると、上記したように、正極13(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)においてカチオンミキシングが発生しやすくなる。これにより、容量損失が発生しやすくなるため、電池特性が低下しやすくなる。このように電池特性が低下しやすくなる傾向は、高温環境中において二次電池が使用および保存された際に比較的強くなる。
【0088】
これに対して、本実施形態の二次電池では、正極13(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)においてカチオンミキシングが発生すること抑制しながら、負極14においてリチウム金属が析出することも抑制するために、負極14の電位Eが設定されている。具体的には、図6に示したように、充電終止時(充電電圧Ec=4.10V)における負極14の電位Eは、電位一定領域P3において充電が完了せずに、電位変化領域P4において充電が完了するように設定されている。また、図7に示したように、充電終止時(充電電圧Ec=4.20V)における負極14の電位Eも同様に、電位一定領域P3において充電が完了せずに、電位変化領域P4において充電が完了するように設定されている。
【0089】
この場合には、充電終止時における負極14の電位Eが低下するため、その充電終止時における正極13の電位Eも低下する。具体的には、本実施形態の二次電池では、充電終止時における負極14の電位Eが低くなることに起因して、充電電圧Ecを4.20V以上まで増大させても、図6および図7に示したように、正極13の電位Eが4.30V以上まで到達しない。
【0090】
また、充電時には、図6および図7から明らかなように、4.20V以上の充電電圧Ecまで二次電池が充電されると、電位変化領域P4において負極14の電位Eが急激に減少するため、充電反応が完了する。これにより、上記したように、充電末期において正極13の電位Eが上昇しすぎないように制御されるため、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物においてカチオンミキシングが発生しにくくなる。しかも、電位変化領域P4において負極14の電位Eが急激に減少すると、充電反応が直ちに終了するため、その負極14においてリチウム金属が析出するまで充電反応が進行しにくくなる。
【0091】
よって、本実施形態の二次電池では、充電電圧Ecを4.20V以上まで増大させても、正極13においてカチオンミキシングが発生しにくくなるため、容量損失が発生しにくくなる。また、充電電圧Ecを4.20V以上まで増大させても、負極14においてリチウム金属が析出しにくくなるため、電池容量も減少しにくくなる。
【0092】
[構成条件]
本実施形態の二次電池では、上記した充放電原理を実現するために、以下で説明する2つの構成条件が満たされている。
【0093】
第1に、4.20V以上の閉回路電圧(OCV)において24時間に渡って二次電池が定電圧充電された状態を満充電状態とする。この満充電状態の二次電池において測定される負極14の電位E(負極電位Ef)は、19mV~86mVである。なお、閉回路電圧が4.20V以上に到達するまで二次電池を充電させる際の電流値は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0094】
すなわち、上記したように、電位一定領域P3において充電が完了せずに、電位変化領域P4において充電が完了するように負極14の電位Eが設定されている。これにより、満充電状態となるまで二次電池を充電させると、負極電位Efは、電位一定領域P3において充電が完了する場合よりも、電位変化領域P4において充電が完了する場合において低くなる。よって、負極電位Efは、上記したように、約90mV未満になり、より具体的には19mV~86mVになる。
【0095】
第2に、満充電状態から閉回路電圧が2.00Vに到達するまで二次電池が定電流放電されたのち、その2.00Vの閉回路電圧において24時間に渡って二次電池が定電圧放電された際に得られる放電容量を最大放電容量(mAh)とする。この場合において、最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態から二次電池が放電された際に、下記の式(2)で表される負極14の電位Eの変動量(負極電位変動量Ev)は、1mV以上である。この負極電位変動量Evは、式(2)から明らかなように、電位E1(第1負極電位)と電位E2(第2負極電位)との差異である。なお、満充電状態から閉回路電圧が2.00Vに到達するまで二次電池を放電させる際の電流値は、24時間に渡って二次電池が定電圧放電されるため、一般的な範囲内であれば特に限定されず、任意に設定可能である。
【0096】
負極電位変動量Ev(mV)=電位E2(mV)-電位E1(mV) ・・・(2)
(電位E1は、満充電状態の二次電池において測定される負極14の開回路電位(リチウム金属基準)である。電位E2は、最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態から二次電池が放電された状態において測定される負極14の開回路電位(リチウム金属基準)である。)
【0097】
すなわち、上記したように、電位変化領域P4において充電が完了するように負極14の電位Eが設定されている場合には、最大放電容量の1%に相当する容量分だけ満充電状態の二次電池を放電させると、図6および図7から明らかなように、その負極14の電位Eが急激に増加する。これにより、放電後における負極14の電位E(E2)は、放電前(満充電状態)における負極14の電位E(E1)よりも十分に増加する。よって、電位E1,E2の差異である負極電位変動量Evは、上記したように、1mV以上になる。
【0098】
<1-3.動作>
この二次電池は、例えば、以下のように動作する。充電時には、正極13からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解液を介して負極14に吸蔵される。また、二次電池では、放電時には、負極14からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解液を介して正極13に吸蔵される。
【0099】
<1-4.製造方法>
この二次電池を製造する場合には、例えば、以下で説明するように、正極13および負極14を作製したのち、その正極13および負極14を用いて二次電池を組み立てる。
【0100】
[正極の作製]
最初に、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合することにより、正極合剤とする。続いて、有機溶剤などの溶媒に正極合剤を分散または溶解させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。最後に、正極集電体13Aの両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層13Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層13Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層13Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0101】
[負極の作製]
上記した正極13の作製手順と同様の手順により、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bを形成する。具体的には、黒鉛を含む負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合することにより、負極合剤としたのち、有機溶剤または水性溶媒などに負極合剤を分散または溶解させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体14Aの両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層14Bを形成する。こののち、負極活物質層14Bを圧縮成型してもよい。
【0102】
なお、正極13および負極14を作製する場合には、正極活物質の質量が十分に多くなるように正極活物質と負極活物質との混合比(正極活物質の質量と負極活物質の質量との関係)を調整することにより、上記した2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされるようにする。
【0103】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などを用いて正極13(正極集電体13A)に正極リード11を接続させると共に、溶接法などを用いて負極14(負極集電体14A)に負極リード12を接続させる。続いて、セパレータ15を介して正極13および負極14を互いに積層させたのち、その正極13、負極14およびセパレータ15を巻回させることにより、巻回体を形成する。この場合には、扁平な形状を有する治具(図示せず)を用いて、巻回軸Jを中心として正極13、負極14およびセパレータ15を巻回させることにより、図1に示したように、巻回体が扁平な形状となるようにする。
【0104】
続いて、巻回電極体10を挟むように外装部材40を折り畳んだのち、熱融着法などを用いて外装部材20のうちの一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部同士を互いに接着させることにより、袋状の外装部材20の内部に巻回体を収納する。最後に、袋状の外装部材20の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材20を密封する。この場合には、外装部材20と正極リード11との間に密着フィルム31を挿入すると共に、外装部材20と負極リード12との間に密着フィルム32を挿入する。これにより、巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体10が形成される。よって、外装部材20の内部に巻回電極体10が収納されるため、二次電池が完成する。
【0105】
<1-5.作用および効果>
この二次電池によれば、正極13が正極活物質(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)を含んでいると共に、負極14が負極活物質(黒鉛)を含んでいる場合において、上記した2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされている。この場合には、上記したように、2つの構成条件が満たされていない場合と比較して、充電電圧Ecを4.20V以上まで増大させても、正極13においてカチオンミキシングが発生しにくくなると共に、負極14においてリチウム金属が析出しにくくなる。よって、容量損失が発生しにくくなると共に、電池容量も減少しにくくなるため、優れた電池特性を得ることができる。
【0106】
特に、複数の黒鉛粒子のメジアン径D50が3.5μm~30μmであれば、リチウム金属の析出が抑制されると共に副反応の発生も抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0107】
また、黒鉛の(002)面の面間隔Sが0.3355nm~0.3370nmであれば、電池容量が担保されながら電解液の分解反応が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0108】
また、電解液がハロゲン化炭酸エステルを含んでおり、その電解液中におけるハロゲン化炭酸エステルの含有量が1重量%~15重量%であれば、負極14の表面において電解液の分解反応が発生しにくくなると共に、その負極14の表面に析出されたリチウム金属が電解液と反応しにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0109】
また、負極14がさらに難黒鉛化性炭素およびケイ素含有材料のうちの一方または双方を含んでいれば、エネルギー密度がより増加するため、より高い効果を得ることができる。この場合には、ケイ素含有材料が酸化ケイ素を含んでいれば、単位質量当たり容量などが担保されながら負極活物質が割れにくくなるため、さらに高い効果を得ることができる。
【0110】
<2.変形例>
上記した二次電池の構成に関しては、以下で説明するように、適宜、変更可能である。なお、以下で説明する一連の変形例は、互いに組み合わされてもよい。
【0111】
[変形例1]
図8は、変形例1の二次電池(巻回電極体10)の断面構成を表しており、図3に対応している。セパレータ15は、例えば、図8に示したように、基材層15Aと、その基材層15Aの上に形成された高分子化合物層15Bとを含んでいてもよい。この高分子化合物層15Bは、基材層15Aの片面だけに形成されていてもよいし、基材層15Aの両面に形成されていてもよい。図8では、例えば、高分子化合物層15Bが基材層15Aの両面に形成されている場合を示している。
【0112】
基材層15Aは、例えば、上記した多孔質膜である。高分子化合物層15Bは、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。なお、高分子化合物層は、例えば、無機粒子などの絶縁性粒子を含んでいてもよい。安全性が向上するからである。無機粒子の種類は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムなどである。
【0113】
セパレータ15を作製する場合には、例えば、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製することにより、基材層15Aの両面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、高分子化合物層15Bを形成する。
【0114】
この場合においても、上記した2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされていることにより、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、正極13に対するセパレータ15の密着性が向上すると共に、負極14に対するセパレータ15の密着性が向上するため、巻回電極体10が歪みにくくなる。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、基材層15Aに含浸された電解液の漏液も抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0115】
[変形例2]
図9は、変形例3の二次電池(巻回電極体10)の断面構成を表しており、図3に対応している。巻回電極体10は、例えば、図9に示したように、液状の電解質である電解液の代わりに、ゲル状の電解質である電解質層16を備えていてもよい。
【0116】
この巻回電極体10では、例えば、図9に示したように、セパレータ15および電解質層16を介して正極13および負極14が互いに積層されたのち、その正極13、負極14、セパレータ15および電解質層16が巻回されている。電解質層16は、例えば、正極13とセパレータ15との間に介在していると共に、負極14とセパレータ15との間に介在している。ただし、正極13とセパレータ15との間および負極14とセパレータ15との間のうちのいずれか一方だけに電解質層16が介在していてもよい。
【0117】
電解質層16は、電解液と共に高分子化合物を含んでいる。ここで説明する電解質層16は、上記したように、ゲル状の電解質であるため、その電解質層16中では、電解液が高分子化合物により保持されている。電解液の構成は、上記した通りである。ただし、ゲル状の電解質である電解質層16において、電解液に含まれる溶媒は、液状の材料だけでなく、電解質塩を解離可能であるイオン伝導性を有する材料も含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物も溶媒に含まれる。高分子化合物は、例えば、単独重合体および共重合体のうちの一方または双方を含んでいる。単独重合体は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどであると共に、共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などである。
【0118】
電解質層16を形成する場合には、例えば、電解液、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製することにより、正極13および負極14のそれぞれに前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させる。
【0119】
この場合においても、上記した2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされていることにより、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、電解液の漏液が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0120】
<3.二次電池の用途>
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源および電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、必要に応じて主電源から切り替えられる電源でもよい。二次電池を補助電源として用いる場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0121】
具体的には、二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む。)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、二次電池の用途は、上記した用途以外の他の用途でもよい。
【実施例
【0122】
本技術の実施例に関して説明する。
【0123】
(実験例1-1~1-10)
以下で説明するように、図1および図2に示したラミネートフィルム型の二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製したのち、その二次電池の電池特性を評価した。
【0124】
[二次電池の作製]
正極13を作製する場合には、最初に、正極活物質(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物であるLiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 )91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体13A(帯状のアルミニウム箔,厚さ=12μm)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層13Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層13Bを圧縮成型した。
【0125】
負極14を作製する場合には、最初に、負極活物質(人造黒鉛,メジアン径D50=10μm,(002)面の面間隔S=0.3360μm)97質量部と、負極結着剤(カルボキシメチルセルロースナトリウム)1.5質量部とを混合することにより、負極合剤前駆体とした。続いて、水性溶媒(脱イオン水)に負極合剤前駆体を投入したのち、その水性溶媒に負極結着剤(スチレンブタジエンゴム分散液)固形分で1.5質量部を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体14A(帯状の銅箔,厚さ=15μm)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層14Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層14Bを圧縮成型した。
【0126】
ここで、正極13および負極14を作製する場合には、正極活物質と負極活物質との混合比(重量比)を調整することにより、負極電位Ef(mV)および負極電位変動量Ev(mV)のそれぞれを変化させた。充電電圧Ecを4.20Vに設定した場合における負極電位Efおよび負極電位変動量Evのそれぞれは、表1に示した通りである。ここでは、最大放電容量を1950mAh~2050mAhとした。
【0127】
電解液を調製する場合には、溶媒(炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ジエチル)に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム)を加えたのち、その溶媒を撹拌した。この場合には、溶媒の混合比(重量比)を炭酸エチレン:炭酸プロピレン:炭酸ジエチル=15:15:70とすると共に、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0128】
二次電池を組み立てる場合には、最初に、正極集電体13Aにアルミニウム製の正極リード11を溶接したと共に、負極集電体14Aに銅製の負極リード12を溶接した。続いて、セパレータ15(微多孔性ポリエチレンフィルム,厚さ=15μm)を介して正極13および負極14を互いに積層させることにより、積層体を得た。続いて、積層体を巻回させたのち、その積層体の表面に保護テープを貼り付けることにより、巻回体を得た。
【0129】
続いて、巻回体を挟むように外装部材20を折り畳んだのち、その外装部材20のうちの2辺の外周縁部同士を互いに熱融着した。外装部材20としては、表面保護層(ナイロンフィルム,厚さ=25μm)と、金属層(アルミニウム箔,厚さ=40μm)と、融着層(ポリプロピレンフィルム,厚さ=30μm)とがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。この場合には、外装部材20と正極リード11との間に密着フィルム31(ポリプロピレンフィルム,厚さ=5μm)を挿入したと共に、外装部材20と負極リード12との間に密着フィルム32(ポリプロピレンフィルム,厚さ=5μm)を挿入した。
【0130】
最後に、外装部材20の内部に電解液を注入したのち、減圧環境中において外装部材20のうちの残りの1辺の外周縁部同士を熱融着した。これにより、巻回体に電解液が含浸されたため、巻回電極体10が形成されると共に、その巻回電極体10が外装部材20の内部に封入された。よって、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0131】
[電池特性の評価]
二次電池の電池特性を評価したところ、表1に示した結果が得られた。ここでは、電池特性として、負荷特性および電気抵抗特性を調べた。
【0132】
負荷特性を調べる場合には、最初に、二次電池の状態を安定化させるために、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させた。充電時には、0.2Cの電流で電池電圧が充電電圧Ec(=4.20V)に到達するまで定電流充電したのち、その充電電圧Ecに相当する電池電圧で電流が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.2Cの電流で電池電圧が放電電圧Ed(=2.00V)に到達するまで定電流放電した。なお、0.2Cおよび0.05Cとは、電池容量(理論容量)をそれぞれ5時間および20時間で放電しきる電流値である。
【0133】
続いて、同環境中において二次電池を1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。充放電条件は、1サイクル目の充放電条件と同様にした。
【0134】
続いて、同環境中において二次電池を充放電させることにより、3サイクル目の放電容量を測定した。充放電条件は、放電時の電流を2Cに変更したことを除いて、1サイクル目の充放電条件と同様にした。なお、2Cとは、電池容量(理論容量)を0.5時間で放電しきる電流値である。
【0135】
最後に、負荷維持率(%)=(3サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。
【0136】
電気抵抗特性を調べる場合には、上記した手順により、二次電池の状態を安定化させたのち、最初に、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させることにより、その二次電池の電気抵抗(2サイクル目の電気抵抗)を測定した。続いて、高温環境中(温度=45℃)において二次電池を200サイクル充放電させることにより、その二次電池の電気抵抗(202サイクル目の電気抵抗)を測定した。最後に、抵抗増加率(%)=[(202サイクル目の厚さ-2サイクル目の厚さ)/2サイクル目の厚さ]×100を算出した。充放電条件は、負荷特性を調べた場合における1サイクル目の充放電条件と同様にした。
【0137】
【表1】
【0138】
[考察]
表1に示したように、正極13が正極活物質(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)を含んでいると共に負極14が複数の負極活物質粒子(黒鉛)を含んでいる場合において、充電電圧Ecを4.20V以上に設定すると、負荷維持率および抵抗増加率のそれぞれが負極電位Efおよび負極電位変動量Evに応じて変動した。
【0139】
具体的には、負極電位Efが19mV~86mVであると共に負極電位変動量Evが1mV以上であるという2つの構成条件が同時に満たされている場合(実験例1-1~1-5)には、その2つの構成条件が同時に満たされていない場合(実験例1-6~1-10)と比較して、ほぼ同等の高い負荷維持率が維持されながら、抵抗増加率が減少した。
【0140】
(実験例2-1~2-10,3-1~3-10,4-1~4-10)
表2~表4に示したように、正極活物質の種類を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を調べた。正極活物質としては、新たに層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物であるLiNi0.8 Co0.1 Mn0.1 2 およびLiNi0.85Co0.1 Al0.052 を用いた。また、比較のために、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物に該当しないリチウム化合物(LiNi0.33Co0.33Mn0.332 )も用いた。
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
表2および表3に示したように、正極活物質(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)の種類を変更しても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、上記した2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされている場合(実験例2-1~2-5,3-1~3-5)には、その2つの構成条件が満たされていない場合(実験例2-6~2-10,3-6~3-10)と比較して、ほぼ同等の高い負荷維持率が維持されながら、抵抗増加率が減少した。
【0145】
これに対して、表4に示したように、層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物に該当しないリチウム化合物を用いた場合には、2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされているか否かにかかわらず、高い負荷維持率が得られなかったと共に、抵抗増加率も十分に減少しなかった。
【0146】
(実験例5-1~5-6)
表5に示したように、負極14の構成(負極活物質(人造黒鉛)のメジアン径D50(μm))を変更したと共に新たに低温サイクル特性を評価したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を調べた。
【0147】
低温サイクル特性を調べる場合には、上記した手順により、二次電池の状態を安定化させたのち、常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、低温環境中(温度=0℃)において二次電池を100サイクル充放電させることにより、102サイクル目の放電容量を測定した。最後に、低温容量維持率(%)=(102サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充放電条件は、充電時の電流を0.5Cに変更したと共に放電時の電流を0.5Cに変更したことを除いて、負荷特性を調べた場合における1サイクル目の充放電条件と同様にした。
【0148】
【表5】
【0149】
メジアン径D50が適正な範囲内(=3.5μm~30μm)である場合(実験例1-4,5-2~5-5)には、メジアン径D50が適正な範囲外である場合(実験例5-1,5-6)と比較して、ほぼ同等の負荷維持率および抵抗増加率が維持されながら、低温容量維持率が増加した。特に、メジアン径D50が5μm~20μmであると(実験例1-4,5-3,5-4)、低温容量維持率がより増加した。
【0150】
(実験例6-1~6-5)
表6に示したように、負極14の構成(負極活物質(人造黒鉛)の(002)面の面間隔S(nm))を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を調べた。
【0151】
【表6】
【0152】
面間隔Sが適正な範囲内(=0.3355nm~0.3370nm)である場合(実験例1-4,6-1~6-4)には、面間隔Sが適正な範囲外である場合(実験例6-5)と比較して、ほぼ同等の負荷変動率および抵抗増加率が維持されながら、低温維持率が増加した。特に、面間隔Sが0.3356nm~0.3363nmであると(実験例1-4,6-2,6-3)、低温容量維持率がより増加した。
【0153】
(実験例7-1~7-4)
表7に示したように、電解液の組成を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を調べた。
【0154】
電解液を調製する場合には、溶媒として新たにハロゲン化炭酸エステル(4-フルオロ-1,3-ジオキサン-2-オン(FEC))を用いた。電解液中におけるFECの含有量(重量%)は、表5に示した通りである。
【0155】
【表7】
【0156】
電解液がハロゲン化炭酸エステルを含んでいる場合(実験例7-1~7-4)には、そのハロゲン化炭酸エステルの含有量が1重量%~15重量%であると(実験例7-2~7-4)、そのハロゲン化炭酸エステルの含有量が1重量%未満である場合(実験例1-4,7-1)と比較して、高い負荷維持率が維持されながら、抵抗増加率が減少した。
【0157】
(実験例8-1~8-7)
表8に示したように、負極活物質の種類を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を調べた。
【0158】
負極14を作製する場合には、負極活物質として人造黒鉛の代わりに天然黒鉛を用いた。また、負極14を作製する場合には、追加の負極活物質として、難燃性黒鉛化炭素(HC)と、ケイ素含有材料(酸化ケイ素(SiO))と、他のケイ素含材料(ケイ素含有材料(Si)と炭素材料(人造黒鉛)との複合材料(Si/C))とを用いた。この場合には、追加の負極活物質の添加量を10重量%とした。
【0159】
【表8】
【0160】
表8に示したように、負極活物質の種類を変更しても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)満たされている場合(実験例8-1)には、その2つの構成条件が同時に満たされていない場合(実験例8-5~8-7)と比較して、ほぼ同等の高い負荷維持率が維持されながら、抵抗増加率が減少した。
【0161】
また、負極14が追加の負極活物質を含んでいる場合(実験例8-2~8-4)には、負極14が追加の負極活物質を含んでいない場合(実験例1-4)と比較して、負荷維持率がより増加したと共に抵抗増加率がより減少した。
【0162】
[まとめ]
表1~表8に示した結果から、正極13が正極活物質(層状岩塩型リチウムニッケル複合酸化物)を含んでいると共に負極14が負極活物質(黒鉛)を含んでいる場合において、上記した2つの構成条件(負極電位Efおよび負極電位変動量Ev)が満たされていると、負荷特性および電気抵抗特性がいずれも改善された。よって、二次電池において優れた電池特性が得られた。
【0163】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の態様は、一実施形態および実施例において説明された態様に限定されないため、種々に変形可能である。
【0164】
具体的には、ラミネートフィルム型の二次電池に関して説明したが、それに限られず、例えば、円筒型の二次電池、角型の二次電池およびコイン型の二次電池などの他の二次電池でもよい。また、二次電池に用いられる電池素子が巻回構造を有する場合に関して説明したが、それに限られず、例えば、電池素子が積層構造などの他の構造を有していてもよい。
【0165】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して他の効果が得られてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9