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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】エレベーター
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
B66B5/02 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021008852
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112853
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】俵積田 貴
(72)【発明者】
【氏名】前川 一男
(72)【発明者】
【氏名】原田 洋行
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-212914(JP,A)
【文献】特開平05-032382(JP,A)
【文献】特開2004-067295(JP,A)
【文献】特開2020-097471(JP,A)
【文献】特開平05-229762(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1058745(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機を操作して昇降路内でのかごの運転を制御するかご制御手段を具えたエレベーターであって、
前記かご制御手段に接続され、前記昇降路への浸水が許容される最大冠水高さまでの位置に配備される浸水検出手段と、
前記かご制御手段に電気的に接続され、前記昇降路の前記最大冠水高さよりも下方に配置される浸水側電気系統と、前記最大冠水高さよりも上方に配置される非浸水側電気系統と
前記かご制御手段に接続され、管理者が切替操作する切替手段と、
前記かご制御手段に接続され、前記浸水検出手段又は前記切替手段により、前記浸水側電気系統を前記かご制御手段から切り離す切離手段と、
を具え、
浸水が予想される際に、前記切替手段の操作により、前記切離手段は、前記浸水側電気系統を前記かご制御手段から切り離すが、前記切替手段が操作されていない場合には、前記浸水検出手段が浸水を検知することで、前記切離手段は、前記浸水側電気系統を前記かご制御手段から切り離す、
エレベーター。
【請求項2】
前記浸水検出手段は、前記最大冠水高さまでの間の異なる高さに複数配備され、
前記切離手段は、冠水高さに応じて、各浸水検出手段よりも下方の浸水側電気系統を切り離す、
請求項1に記載のエレベーター。
【請求項3】
前記かご制御手段に接続され、前記かごの運転のための安全回路を有し、前記浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも下方に配置される1又は複数の浸水側安全装置であって、前記非浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも上方に配置される1又は複数の非浸水側安全装置であり、前記浸水側電気系統と前記非浸水側電気系統を直列接続して通常時安全回路が構成され、
前記切離手段は、前記浸水側安全装置を前記通常時安全回路から切り離す安全回路切離手段であり、
前記安全回路切離手段により、前記浸水側安全装置が切り離された後、前記非浸水側安全装置どうしを前記かご制御手段と直列接続して浸水時安全回路を構成する安全回路接続手段を具える、
請求項1又は請求項2に記載のエレベーター。
【請求項4】
前記浸水側電気系統は、前記かご制御手段に接続され、前記最大冠水高さより下方に配置される1又は複数の浸水側電気機器であって、前記非浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも上方に配置される1又は複数の浸水側電気機器であり、
前記切離手段は、前記浸水検出手段が浸水を検知すると、前記浸水側電気機器を前記かご制御手段から切り離す、
請求項1に記載のエレベーター。
【請求項5】
前記浸水側電気系統は、前記かごの下階側の移動限界を検知するリミットスイッチであって、前記非浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも高い位置にあり、冠水時の下階側の移動限界を検知する浸水時リミットスイッチである、
請求項1又は請求項2に記載のエレベーター。
【請求項6】
前記浸水検出手段及び前記リミットスイッチは、前記最大冠水高さまでの間の異なる高さに複数配備され、
前記切離手段は、冠水高さよりも下方にある浸水検出手段が浸水を検知すると、当該浸水検出手段よりも下方にあるリミットスイッチを前記かご制御手段から切り離す、
請求項5に記載のエレベーター。
【請求項7】
前記巻上機及びかご制御手段は、前記最大冠水高さよりも上方に配置される、
請求項1乃至請求項6の何れかに記載のエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水時でも上階側で運転を継続させることのできるエレベーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターでは、ピットにフロートスイッチなどの冠水検出手段を設け、洪水や台風などによりピットに水が浸入して冠水検出手段が作動すると、かごを冠水しない特定階床以上まで移動させて待避し、エレベーターの運転を停止するようにしている。しかしながら、近年、エレベーターのピットやピットよりも上の最下階等が冠水しても、冠水の影響がない上階側でエレベーターのサービスを継続する浸水時継続運転が求められている。
【0003】
特許文献1では、かごの下階側の移動限界を検知するリミットスイッチ群を、最下階領域に配置される第1リミットスイッチ群と、最下階より1階床上に配置される第2リミットスイッチ群から構成している。そして、非冠水時には、第1リミットスイッチ群により運転を行ない、冠水検出手段が作動すると、第2リミットスイッチ群に切り替えて、かごの下階側の移動限界を最下階より1階床上に変更することで、ピット或いは最下階が冠水した状態でもエレベーターを運行できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-32382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピットへの浸水が進行し、最下階領域まで水没すると、上記した第1リミットスイッチ群だけでなく、エレベーターの運転継続に支障のある各種の電気系統、たとえば乗場登録装置やインジケーターなどの電気機器や、安全回路を構成する乗場戸スイッチなどの電気系統も一部が水没してしまい、エレベーターの運転を中止せざるを得ない状況になる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、浸水時でも継続してかごを安全に運転することのできるエレベーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレベーターは、
巻上機を操作して昇降路内でのかごの運転を制御するかご制御手段を具えたエレベーターであって、
前記かご制御手段に接続され、前記昇降路への浸水が許容される最大冠水高さまでの位置に配備される浸水検出手段と、
前記かご制御手段に電気的に接続され、前記昇降路の前記最大冠水高さよりも下方に配置される浸水側電気系統と、前記最大冠水高さよりも上方に配置される非浸水側電気系統と、を有し、
前記浸水検出手段が浸水を検知すると、前記浸水側電気系統を前記かご制御手段から切り離す切離手段を有する。
【0008】
前記浸水検出手段は、前記最大冠水高さまでの間の異なる高さに複数配備され、
前記切離手段は、冠水高さに応じて、各浸水検出手段よりも下方の浸水側電気系統を切り離すことができる。
【0009】
前記かご制御手段に接続され、前記かごの運転のための安全回路を有し、前記浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも下方に配置される1又は複数の浸水側安全装置であって、前記非浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも上方に配置される1又は複数の非浸水側安全装置であり、前記浸水側電気系統と前記非浸水側電気系統を直列接続して通常時安全回路が構成され、
前記切離手段は、前記浸水側安全装置を前記通常時安全回路から切り離す安全回路切離手段であり、
前記安全回路切離手段により、前記浸水側安全装置が切り離された後、前記非浸水側安全装置どうしを前記かご制御手段と直列接続して浸水時安全回路を構成する安全回路接続手段を具える構成とすることができる。
【0010】
前記浸水側電気系統は、前記かご制御手段に接続され、前記最大冠水高さより下方に配置される1又は複数の浸水側電気機器であって、前記非浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも上方に配置される1又は複数の浸水側電気機器であり、
前記切離手段は、前記浸水検出手段が浸水を検知すると、前記浸水側電気機器を前記かご制御手段から切り離すことができる。
【0011】
前記浸水側電気系統は、前記かごの下階側の移動限界を検知するリミットスイッチであって、前記非浸水側電気系統は、前記最大冠水高さよりも高い位置にあり、冠水時の下階側の移動限界を検知する浸水時リミットスイッチとすることができる。
【0012】
前記浸水検出手段及び前記リミットスイッチは、前記最大冠水高さまでの間の異なる高さに複数配備され、
前記切離手段は、冠水高さよりも下方にある浸水検出手段が浸水を検知すると、当該浸水検出手段よりも下方にあるリミットスイッチを前記かご制御手段から切り離す構成とすることができる。
【0013】
前記巻上機及びかご制御手段は、前記最大冠水高さよりも上方に配置することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエレベーターによれば、浸水時継続運転時は、冠水又は冠水の可能性のある浸水側電気系統を電気的に切断することで、これらのショートや誤作動による影響を排除でき、浸水時でも継続してかごを安全に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明が適用されるエレベーターの構成例を示す説明図であって、(a)は通常運転時のサービス階床、(b)は冠水管制運転又は強制冠水管制運転時のかごの待避状態を示す図である。
図2図2は、本発明の適用されるエレベーターの構成例を示す説明図であって、(a)は浸水時継続運転時、(b)はカウンターウェイト冠水許容運転時のかごのサービス階床を示す図である。
図3図3は、本発明を機械室レスエレベーターに適用した昇降路内の機器配置の概要図であって、冠水領域を合わせて示している。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る制御ブロック図である。
図5図5は、安全回路等の詳細を示す説明図であって、(a)は通常運転時、(b)は浸水時継続運転時の回路図である。
図6図6は、(a)通常運転、(b)強制冠水管制運転、(c)浸水時継続運転、(d)カウンターウェイト浸水時許容運転を切り替える切替手段のキースイッチ状態を示す説明図である。
図7図7は、ブレーカー手段の構成を示す回路図であって、(a)は通常運転時、(b)は浸水時継続運転時の回路状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、エレベーター10の運転において、「通常運転」の状態から、昇降路11が冠水したことを検知してかご12を特定階床以上で待避させる「冠水管制運転」と、洪水や台風などにより昇降路11の冠水が予想される際に予めかご12を特定階床以上で待避させる「強制冠水管制運転」と、強制冠水管制運転中に、冠水していない上階側でかご12の運転を行う「浸水時継続運転」、さらに、浸水時継続運転中に、かご12の着水は許容しないが、カウンターウェイト13の着水や水没する運転を許容することで、浸水時継続運転ではサービスできない最上階近傍の階床もサービス可能とする「カウンターウェイト浸水時許容運転」を切り替えて実行可能とするものである。
【0017】
本実施形態では、「冠水管制運転」は、図3に示す冠水検出手段40が昇降路11の冠水を検知したときに実行する。冠水検出手段40は所謂フロートスイッチを例示できる。また、「強制冠水管制運転、浸水時継続運転、カウンターウェイト浸水時許容運転」の各々の切替えは、昇降路11の冠水状態に応じて、図6に示す切替手段31-34を建物の管理者等が操作することで実行される。以下、図面を参照しながら、本発明のエレベーター10について説明を行なう。
【0018】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態に係るエレベーター10が設置される建物、サービス階床等の概略について説明する。なお、後掲する図3では機械室レスエレベーターを例に挙げて説明しているが、図1及び図2では、簡略化のため昇降路11には、かご121,122とカウンターウェイト131,132のみを示している。
【0019】
建物は、たとえば、地下1階(B1F)から10階(10F)とその上の屋上階(ヘリポート階:PHF)から構成され、建物内には、かご12が昇降する空間となる昇降路11が形成されている。エレベーターは、地下1階から10階までサービス可能な第1エレベーター101(第1EV)と、地下1階から屋上階までサービス可能な第2エレベーター102(第2EV)としている。なお、第1エレベーター101と第2エレベーター102を総称して適宜「エレベーター10」と称する。第1エレベーター101及び第2エレベーター102は、夫々1又は複数の号機からなる形態とすることができ、図示の実施形態では、第1エレベーター101は号機1~3の3機、第2エレベーター102は号機4の1機としている。
【0020】
図1についてさらに詳述すると、図1(a)は通常運転時のかご121,122のサービス階床を示している。なお、かご121,122を総称して適宜「かご12」と称する。上記のとおり、第1エレベーター101は、通常運転では地下1階から10階、第2エレベーター102は同じく地下1階から屋上階をサービス階床とする。また、図1(b)は、冠水管制運転又は強制冠水管制運転時のかご12の待避状態を示している。かご12の待避階床は、図1(b)や次に示す図2のように最大冠水高さL(1階が冠水)よりも高い階床に設定される。図1(b)では、第1エレベーター101のかご121は3階、第2エレベーター102のかご122は2階に待避している。
【0021】
図2(a)は、浸水時に想定される最大冠水高さLを示しており、冠水領域FAをハッチングで示している。本実施形態では、最大冠水高さLは、1階と2階の間に設定しているが、最大冠水高さLは、建物の海抜高さや周囲の状況(海や河川への距離、治水環境等)に応じて適宜設定される。浸水時継続運転の際に、かご121,122及び対応するカウンターウェイト131,132(同じく総称して適宜「カウンターウェイト13」と称する)が、着水することなく運転を行なうことができる範囲は、図2(a)中、ハッチングで示した冠水領域FAと、図中網掛けで示す上階領域UAを除く範囲となる。上階領域UAは、本実施形態では、第1エレベーター101では9階と10階、第2エレベーター102では10階と屋上階となり、これら階床は、カウンターウェイト131,132を着水させない「浸水時継続運転」ではサービス不可能な階床となる。
【0022】
一方で、浸水時継続運転中であっても、上記した上階領域UAにもサービスを必要とする要求がある。たとえば、最上階(PHF)がヘリポートである病院等である。このような要求に応えるため、本発明では、第2エレベーター102は、カウンターウェイト132の着水、浸水を許容するカウンターウェイト浸水時許容運転を行なえるようにしている。「カウンターウェイト浸水時許容運転」では、図2(b)に示すように、第2エレベーター102について上階領域UAが撤廃され、かご122は、10階や屋上階もサービス可能となる。これら階床をサービスする際には、第2エレベーター102のカウンターウェイト132は、冠水領域FAを走行する。
【0023】
このような浸水時継続運転やカウンターウェイト浸水時許容運転を実行するに際し、その前提として、エレベーター10の浸水や冠水が予測される状況において、どのようにエレベーター10の冠水管制運転を行なうかを予め定めておく必要がある。本実施形態では、上記したように、浸水時継続運転の前に、フロートスイッチなどの冠水検出手段40が昇降路11の冠水を検知したときにかご12を特定階床以上に待避させる冠水管制運転、また、洪水や台風などにより冠水が予想される際に管理者のキースイッチ操作(図6参照)により、予めかご12を特定階床以上に待避させる強制冠水管制運転が行なわれる。そして、エレベーター10や建物等の冠水状況を建物の管理者が確認した上で、浸水時継続運転やカウンターウェイト浸水時許容運転を行なう。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態に係るエレベーター10の昇降路11内の機器配置の概要図、図4は制御ブロック図、図5は安全装置52,53を含む安全回路50,51の構成を示している。図3では、エレベーター10は、機械室レスエレベーターとしているが、エレベーター10の構成は、図3及び下記の実施形態に限定されるものではなく、また、エレベーターは、機械室を配置したものであってもよい。また、図4のブロック図では、説明を判り易くするため、各々の機能ブロックをかご制御手段20と直接電気的に接続している。しかしながら、たとえば図5に示すように一部の機能ブロックを構成するスイッチ等は直列接続されてかご制御手段20に電気的に接続することができる。
【0025】
エレベーター10の基本構成は公知であるため、詳細な説明を省略するが、図3に示すように、かご12はカウンターウェイト13と主ロープ15を介して連繋されている。機械室レスエレベーターでは、主ロープ15の端は昇降路11の上端の梁等に接続される。主ロープ15の経路中には、かご車16によって牽引されるかご12と、返し車16a,16aを介して配置される巻上機23、さらに吊り車16bにより吊下げ支持されるカウンターウェイト13を具える。巻上機23は、最大冠水高さLよりも高い位置に配置される。また、昇降路11の床にはかご用バッファ17、カウンターウェイト用バッファ17bが配置される。
【0026】
エレベーター10の全ての制御は、図3及び図4に示すかご制御手段20により行なわれる。かご制御手段20は、昇降路11内、或いは、機械室を有するエレベーターでは機械室等に配置することができ、図3に示すように、最大冠水高さLよりも高い位置に配置される。図3では、電気的な接続を示していないが、図4に示すように、かご制御手段20は、たとえばインバーター21を介して巻上機23を制御する。インバーター21には図4に示すように、速度監視装置22を内蔵したものを採用できる。また、巻上機23は制動機24(図4)を内蔵し、エンコーダー25(図4)により速度検知可能となっている。速度監視装置22やエンコーダー25の出力はかご制御手段20に送信される。
【0027】
かご12には、かご12内の各種制御を行なうかご上制御手段26が配置される。かご上制御手段26は、かご12内のかご呼びや戸開閉、照明、空調等の種々の機能を管理する。また、かご12には、かご戸の開閉を検知するかご戸スイッチ27が配置される。かご上制御手段26及びかご戸スイッチ27は、かご制御手段20と電気ケーブル18を介して電気的に接続される。電気ケーブル18は、かご12とかご制御手段20間に垂れ下がるように配置され、図3に示すように、一部が冠水領域FAに掛かることになるが、冠水する部分は絶縁被覆されており、ショート等の問題はない。
【0028】
また、各階床には、かご12の乗場呼びを行う登録装置やかご位置、かご到着等を示すインジケーターが配置される。これら乗場登録装置やインジケーター等をまとめて単に電気機器54,55、或いは、電気系統と称し、図3及び図4に示す。電気機器54,55もかご制御手段20に電気的に接続される。本発明では、電気機器54,55について、適宜、冠水領域FAに配置されるものを浸水側電気機器54(浸水側電気系統)、最大冠水高さLよりも高い位置に配置されるものを非浸水側電気機器55(非浸水側電気系統)と称する。
【0029】
昇降路11の床面近傍には、図3乃至図5に示すように、フロートスイッチ等から構成される冠水検出手段40が配置される。冠水検出手段40は、昇降路11の床面近傍の冠水を検知する。冠水検出手段40は、冠水管制運転への切替トリガーとなる。また、最大冠水高さLに相当する位置よりもやや上に同じくフロートスイッチ等から構成される限界冠水検出手段41が配置される。限界冠水検出手段41が冠水を検知した場合には、浸水時継続運転を含む全てのエレベーター10の運行を強制終了する。冠水検出手段40及び限界冠水検出手段41は、かご制御手段20に電気的に接続される。
【0030】
また、冠水検出手段40と限界冠水検出手段41の間には、図3乃至図5に示すように浸水検出手段42が配置される。浸水検出手段42は、フロートスイッチ等から構成され、かご制御手段20に電気的に接続される。浸水検出手段42は、図3に示すように1つ又は高さを変えて複数(符号42,42a)を配置することができる。浸水検出手段42は、最大冠水高さL近傍の高さに配置する。浸水検出手段42,42aを複数配置する場合には、浸水検出手段42aは、冠水検出手段40より上方且つ浸水検出手段42より下方に配置する。浸水検出手段42,42aまで浸水が及ぶと、当該高さまで浸水が進行したことがわかる。
【0031】
同じく、昇降路11内には、図3乃至図5に示すように、かご12が最下階、本実施形態では地下1階に至ったことを検知する最下階側のリミットスイッチ43が配置される。リミットスイッチ43よりも下方には、何らかの理由でリミットスイッチ43よりも下方までかご12が移動したときに巻上機23を停止させるトリガーとなる最下階側のファイナルリミットスイッチ45が配置される。これらリミットスイッチ43、ファイナルリミットスイッチ45は、かご制御手段20に電気的に接続される。ファイナルリミットスイッチ45は、後述する本発明の浸水側安全装置52(浸水側電気系統)を構成する。
【0032】
また、昇降路11内には、浸水時継続運転の際に、かご12が最大冠水高さL以上の階床、本実施形態では2階以上で運転できるように当該階床に浸水時リミットスイッチ44、また、浸水時リミットスイッチ44よりも下方且つ最大冠水高さLよりも高い位置(限界冠水検出手段41よりも高い位置)に浸水時ファイナルリミットスイッチ46が配置されている。これら浸水時リミットスイッチ44、浸水時ファイナルリミットスイッチ46も、かご制御手段20に電気的に接続される。浸水時ファイナルリミットスイッチ46は、後述する本発明の非浸水側安全装置53(非浸水側電気系統)を構成する。
【0033】
また、図5に示すように、各階床の乗場戸14には、その開閉を検知する乗場戸スイッチ47,48が配置される。乗場戸スイッチ47,48について、冠水領域FAの階床に配置されるものを浸水側乗場戸スイッチ47、最大冠水高さLよりも高い階床に配置されるものを非浸水側乗場戸スイッチ48と称する。浸水側乗場戸スイッチ47は、浸水側安全装置52(浸水側電気系統)を構成し、非浸水側乗場戸スイッチ48は、本発明の非浸水側安全装置53(非浸水側電気系統)を構成する。
【0034】
一方、かご制御手段20は、上記した「通常運転」、「冠水管制運転、強制冠水管制運転」(適宜、これらをまとめて「フェーズ1」と称する)、浸水時継続運転(適宜「フェーズ2」と称する)、及び、カウンターウェイト浸水時許容運転(適宜「フェーズ3」と称する)を実行可能としている。
【0035】
「通常運転」は、非浸水、非冠水状態での通常の運転であり、かご制御手段20はかご12を定格速度で走行させ、すべての階床をサービスする。本実施形態であれば、図1(a)に示すように、第1エレベーター101は地下1階から10階、第2エレベーター102は地下1階から屋上階までをサービスする。
【0036】
「冠水管制運転」(フェーズ1)は、冠水検出手段40が昇降路11の床の冠水を検知したときに実行される運転であり、かご12等の被水を防ぐため、冠水検出手段40の検知結果に基づき、かご制御手段20は、かご12を最大冠水高さLよりも上の特定階床以上に待避させて停止する冠水管制運転を行なう。たとえば、冠水管制運転では、一旦、冠水検出手段40が冠水を検知すると、特定階床までかご12を移動させた後(図1(b))、以下に示す浸水時継続運転切替手段32,33が操作される以外は、メンテナンス員が冠水管制運転を解除するまでは、エレベーター10を休止状態とする運用とすることができる。これにより、かご12の被水を防止できる。
【0037】
上記冠水管制運転は、昇降路11に実際に水が浸入した際の待避動作であるが、洪水や台風などにより冠水が予想される際に、予め管理者の操作により「強制冠水管制運転状態」(フェーズ1)に切り替えて、先行してかご12を特定階床以上に待避させて被水を防止することもできる(図1(b))。本実施形態では、強制冠水管制運転への切替えは、強制冠水管制運転切替手段31により行なう。強制冠水管制運転切替手段31は、図6に示すように、その他の切替手段32-34と共に、図4の操作盤30に配置している。操作盤30は、たとえば特定階床の乗場に設置される。
【0038】
先に操作盤30について説明すると、図6に示すように、操作盤30は、4つのキースイッチを有する。図中最も左のキースイッチは、上記した強制冠水管制運転切替手段31である。また、中央の2つのキースイッチは、浸水時継続運転を行なう際に操作される浸水時継続運転切替手段32,33である。本実施形態では、左側の浸水時継続運転切替手段32は第1エレベーター101の号機1、2用、右側の浸水時継続運転切替手段33は、第1エレベーター101の号機3と第2エレベーター102の号機4の運転切替用である。さらに、最も右のキースイッチは、第2エレベーター102(号機4)の運転をカウンターウェイト浸水時許容運転に切り替えるカウンターウェイト浸水時許容運転切替手段34である。本実施形態では、何れの切替手段についても、「操作」とは「切」から「入」への切替操作を指す。
【0039】
図6(a)は、何れの切替手段31-34も操作されていない通常運転状態、図6(b)は、強制冠水管制運転切替手段31が操作された強制冠水管制運転状態、図6(c)は、浸水時継続運転切替手段32,33が操作された浸水時継続運転状態、また、図6(d)は、カウンターウェイト浸水時許容運転切替手段34が操作されたカウンターウェイト浸水時許容運転状態の各キースイッチ位置を示している。
【0040】
冠水管制運転状態から強制冠水管制運転切替手段31が操作、或いは、冠水検出手段40が冠水を検知する前に、強制冠水管制運転切替手段31が操作された状態において(図6(b):フェーズ1)、建物の管理者は、昇降路11内への異物の流入の有無、増水等危険な状態の有無、電源供給の有無等を確認し、上階側であれば安全にエレベーター10を運行可能であるか否か判断する。そして、安全運行可能と判断すると、操作盤30の浸水時継続運転切替手段32,33を操作する(フェーズ2)。
【0041】
浸水時継続運転(フェーズ2)では、かご制御手段20は、図2(a)に示すように、かご12を冠水領域FA(最大冠水高さLよりも上)と上階領域UA以外の領域でサービスさせる。上階領域UAのサービスを行わないのは、カウンターウェイト13の着水、浸水を防ぐためである。
【0042】
このとき、図3に示すように、電気ケーブル18や、釣合いロープ(図示せず)は一部が浸水することがある。また、昇降路11に水が付着していることもある。このため、かご12を通常運転と同様に定格速度で移動させると、これらに付着した水が昇降路11内で飛散し、昇降路11やその他機器が被水してしまう虞がある。付着した水は電気系統のショートや機器の錆発生等に繋がる。
【0043】
そこで、かご制御手段20は、図6(c)に示すように、浸水時継続運転切替手段32,33が操作されて、浸水時継続運転となった場合には、インバーター21及び巻上機23を制御して、かご12の走行速度を定格速度よりも低速とする。たとえば、かご12の走行速度は、定格速度の1/3~1/2以下とすることが望ましい。かご12の走行速度は、インバーター21の速度監視装置22や、巻上機23のエンコーダー25により検知することができる。
【0044】
上記のように浸水時継続運転時のかご12の走行速度を低速にすることで、電気ケーブル18等に付着した水が飛散し、昇降路11や電気系統の被水を防止できる。
【0045】
なお、浸水時継続運転は、図3乃至図5に示す限界冠水検出手段41が冠水を検知した場合には、最大冠水高さLを超える浸水状況となるため、かご制御手段20は、エレベーター10の全ての運行を強制終了し、特定階床以上でかご12を停止させて、運転を休止させる。
【0046】
浸水時継続運転中、図2(b)に示す上階領域UA(10階と屋上階)についてもサービスを行なう必要がある場合には、図6に示すキースイッチのうち、一番右側に位置するカウンターウェイト浸水時許容運転切替手段34を操作する(図6(d))。これにより、エレベーター10の運行はフェーズ3に移行する。本実施形態では、かご制御手段20は、第2エレベーター102について、かご122の上階領域UAを撤廃して、屋上階までサービスさせることを許容する。なお、第1エレベーター101は屋上階がサービス不可能であると共に上階領域UAの9階及び10階については、第2エレベーター102がサービス可能であるから、本実施形態では第2エレベーター102のみカウンターウェイト浸水時許容運転を実行可能としている。
【0047】
カウンターウェイト浸水時許容運転中、かご122が10階或いは屋上階に移動すると、図2(b)に示すように、当然カウンターウェイト132は冠水領域FA中に下降する。カウンターウェイト132が着水すると、その衝撃が主ロープ15で接続されたかご122や昇降路11内に伝達する。また、カウンターウェイト132の着水により周囲に水が飛散する。このような衝撃や被水の発生は、エレベーター10の運転上好ましくない。
【0048】
上記のとおり、浸水時継続運転中は、かご122の速度を定格速度より低速としているが、本発明では、かご制御手段20は、カウンターウェイト浸水運転中、或いは、かご122が上昇して、カウンターウェイト132が冠水領域FAに侵入する手前で、かご122の走行速度を浸水時継続運転中よりもさらに低速にする。たとえば、かご122の速度は、浸水時継続運転速度の1/3~1/2以下とする。これにより、カウンターウェイト132の着水による衝撃や水の飛散を低減でき、安全にカウンターウェイト浸水時許容運転を行なうことができる。
【0049】
さらに望ましくは、かご制御手段20は、カウンターウェイト132が冠水領域FAに侵入する手前で、一旦かご122を停止させ、停止した状態から上記した低速或いはさらに低速でかご122を走行させる。これにより、さらに確実にカウンターウェイト132の着水による衝撃や水の飛散を防止でき、さらに安全にカウンターウェイト浸水時許容運転を行なうことができる。
【0050】
上記のように、浸水時継続運転(フェーズ2)、カウンターウェイト浸水時許容運転(フェーズ3)において、かご122の速度を制御し、或いは、カウンターウェイト132が着水する直前にかご122を停止させることで、好適にかご122への衝撃を低減し、また、水の飛散を低減できる。
【0051】
なお、「浸水時継続運転」(フェーズ2)への移行に際し、単にかご12のサービス階床を最大冠水高さL以上の階床に限定し、さらいには速度制御等をするだけでは、種々の安全装置や電気機器、スイッチ類等の電気系統のうち、冠水領域FAにある浸水側電気系統が被水、浸水し、ショート等してしまう虞がある。
【0052】
そこで、本発明では、浸水時継続運転への切替時に、冠水領域FAにある浸水側電気系統を電気的に切断する。また、これに対応して、最大冠水高さL以上にある非浸水側電気系統や、冠水領域FAにある機器の代替として作動させる機器を接続する。当該切替えは、浸水時継続運転切替手段32、33の操作、或いは、浸水検出手段42が浸水を検知したことをトリガーとして実行することができる。具体例を以下に示す。
【0053】
まず、エレベーター10の運行に必要な安全装置について説明する。再掲すると、安全装置は、浸水側電気系統である浸水側安全装置52、非浸水側電気系統である非浸水側安全装置53を含んでいる。図4に示すように、浸水側安全装置52は、ファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47、また、非浸水側安全装置53は、浸水時ファイナルリミットスイッチ46、非浸水側乗場戸スイッチ48である。
【0054】
これら安全装置52,53のうち、通常運転時は、図5(a)に示すように、ファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47、非浸水側乗場戸スイッチ48が直列接続された通常時安全回路50を構成する。これらは図4中太枠で示している。通常時安全回路50の終端は、かご制御手段20に接続される。すなわち、通常運転の際には、通常時安全回路50が安全回路として機能し、スイッチ45,47,48のすべてが閉じた状態で巻上機23の動作が可能となる。何れかのスイッチ45,47,48が開放した状態では、巻上機23の動作は阻止される。
【0055】
フェーズ2の浸水時継続運転(フェーズ3のカウンターウェイト浸水時許容運転を含む)の際には、非浸水側安全装置53(浸水時ファイナルリミットスイッチ46と非浸水側乗場戸スイッチ48)は冠水の虞はないが、浸水側安全装置52(ファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47)は、冠水領域FAに配置されているから冠水又は冠水の虞がある。これら冠水領域FAに配置されたスイッチ45,47が、かご12の運転を許容する浸水時継続運転時に安全回路内に残ると、安全回路は機能不全となり、エレベーター10の運行を行なうことはできない。
【0056】
そこで、本発明では、浸水時継続運転切替手段32、33の操作、或いは、浸水検出手段42が浸水を検知したことをトリガーとして、図5(b)に示すように、浸水時継続運転の際に冠水領域FAに配置されたファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47を安全回路から切り離す。また、冠水の影響を受けない非浸水側乗場戸スイッチ48と、ファイナルリミットスイッチ45の代替として浸水時継続運転に必要な浸水時ファイナルリミットスイッチ46を直列接続した浸水時安全回路51を構成する。これらは図4中、一点鎖線枠で示している。
【0057】
具体的には、通常時安全回路50中に、図4図5に示すように、ファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47を非浸水側乗場戸スイッチ48と直列接続する安全回路切離手段61(リレーやスイッチから構成)を配置し、図5(b)に示すように浸水時には、安全回路切離手段61を切り離して、ファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47を非浸水側乗場戸スイッチ48から切り離す。
【0058】
その後、浸水時ファイナルリミットスイッチ46と非浸水側乗場戸スイッチ48を直列接続して浸水時安全回路51を構成する。具体的には、図5(a)に示すように、通常時安全回路50中に、通常時には切離した状態にある安全回路接続手段62(リレーやスイッチから構成)を設け、安全回路切離手段61が切り離された後、図5(b)に示すように、安全回路接続手段62を接続し、浸水時ファイナルリミットスイッチ46と非浸水側乗場戸スイッチ48を直列接続する。これにより、浸水時であっても浸水の影響のない非浸水側乗場戸スイッチ48と、冠水領域FAよりも上でかご12を走行させるために必要な浸水時ファイナルリミットスイッチ46を非浸水側安全装置53として、非浸水時安全回路51を構成できる。
【0059】
上記した安全回路切離手段61と安全回路接続手段62は、図4に示す安全回路切替手段60により切り離し、接続動作を可能な構成とすることができる。安全回路切替手段60は、最大冠水高さLよりも高い位置、たとえばかご12が待避する特定階床に設けることができ、建物の管理者が操作可能なキースイッチとすることができる。安全回路切替手段60は、単独で操作盤30に配置することもできるが、たとえば、図6に示した浸水時継続運転切替手段32,33と連動、或いは、浸水検出手段42が浸水を検知したことをトリガーとして操作されることが望ましい。すなわち、図6(b)から浸水時継続運転切替手段32,33を操作して図6(c)とする、或いは、図3乃至図5の浸水検出手段42が浸水を検知することで、安全回路は、図5(a)の通常時安全回路50から図5(b)に示す浸水時安全回路51に切り替えられる。
【0060】
上記では、安全回路50,51の各種スイッチについて説明を行なったが、図3及び図4に示す電気機器54,55のうち、冠水領域FAに配置され、浸水側電気系統を構成する浸水側電気機器54の切り離しを行なう。安全回路50,51の切替えを行なっても、浸水側電気機器54が冠水状態で電気系統に残ると、ショートや誤作動し、結果的にエレベーター10の運行を継続することはできない。そこで、本発明では、かご制御手段20と浸水側電気機器54との間に、図4に示すように安全回路切離手段61と連動する電気機器切離手段63(スイッチやリレーから構成)を設ける。そして、電気機器切離手段63は、図6(c)の浸水時継続運転切替手段32,33や安全回路切替手段60と連動、或いは、浸水検出手段42が浸水を検知したことをトリガーとし、また、他のキースイッチ等の操作により操作される。これにより、電気機器切離手段63は、浸水側電気機器54をかご制御手段20から切り離すことができるから、浸水側電気機器54の浸水によるショート等の影響を受けることなく、エレベーター10の運転を行なうことができる。
【0061】
また、浸水側電気機器54以外の浸水側電気系統についても、必要に応じて切離しや代替機器との切替えを行なう。たとえば図3及び図4に示すように、リミットスイッチ43(浸水側電気系統)は、浸水時リミットスイッチ44(非浸水側電気系統)に切り替える。すなわち、かご制御手段20とリミットスイッチ43との間にリミットスイッチ切離手段64(スイッチやリレーから構成)、かご制御手段20と浸水時リミットスイッチ44との間に浸水時リミットスイッチ接続手段65を配置する。そして、通常時には、リミットスイッチ切離手段64を接続、浸水時リミットスイッチ接続手段65を切り離した状態にして、リミットスイッチ43のみを作動させておく。浸水時には、図3に示すように、リミットスイッチ切離手段64を切り離し、浸水時リミットスイッチ接続手段65を接続することで、かご12は、最大冠水高さLよりも高い位置にある浸水時リミットスイッチ44により最下階が判定される。リミットスイッチ切離手段64は、安全回路切離手段61と連動する構成、また、浸水時リミットスイッチ接続手段65は、安全回路接続手段62と連動する構成とすることができる。また、これらは、浸水検出手段42が浸水を検知したことをトリガーとして作動するようにしてもよい。
【0062】
なお、安全回路切離手段61によりファイナルリミットスイッチ45と浸水側乗場戸スイッチ47を切り離す前に昇降路11への浸水が進行している場合には、浸水側安全装置52(浸水側電気系統)の水没によって非浸水側安全装置53(非浸水側電気系統)やその先の種々の安全回路、かご制御手段20等がショートしてしまい、浸水時安全回路51へ切替えを行なっても、浸水時安全回路51が機能しないことがある。そこで、安全回路50,51中に、図5に符号70で示すように、ブレーカー手段を設ける。
【0063】
図7は、ブレーカー手段70の構成を示す回路図であって、(a)は通常運転時、(b)は浸水時継続運転時の回路状態を示している。より詳細には、ブレーカー手段70は、通常用ブレーカー71と非常用ブレーカー72を夫々通常用リレー66と非常用リレー67を介して並列に接続している。通常運転時には、図7(a)に示すように、通常用リレー66を接続して通常用ブレーカー71を機能させ、非常用リレー67を切り離した状態としている。一方、浸水運転時には、図7(b)に示すように、通常用リレー66を切り離し、非常用リレー67を接続して非常用ブレーカー72を機能させる構成としている。
【0064】
昇降路11への浸水が進行すると、ファイナルリミットスイッチ45や浸水側乗場戸スイッチ47などがショートし、通常用ブレーカー71がトリップすることがある。この場合、上記した安全回路切替手段60を操作し、安全回路切離手段61を作動させたときに、又は、浸水検出手段42が浸水を検知したことをトリガーとして、図7(b)に示すように、通常用リレー66を切り離し、トリップした可能性のある通常用ブレーカー71を切断する。通常用リレー66は、安全回路切離手段61により、或いは、安全回路切離手段61等と連動して切り離し操作することができる。
【0065】
そして、安全回路接続手段62が操作されて、浸水していない浸水時ファイナルリミットスイッチ46と非浸水側乗場戸スイッチ48が直列接続される際に、非常用ブレーカー72を接続する(図7(b))。非常用リレー67は、安全回路接続手段62により、或いは、安全回路接続手段62等と連動して接続操作することができる。これにより、浸水時安全回路51は、通常用ブレーカー71がトリップしていた場合であっても、通常用ブレーカー71を手動復旧することなく、トリップしていない非常用ブレーカー72によりかご制御手段20と直列接続できる。
【0066】
図示省略するが、浸水側電気機器54(浸水側電気系統)と非浸水側電気機器55(非浸水側電気系統)が並列接続されている場合には、上記と同様のブレーカー手段70をかご制御手段20と電気機器54,55との間に配置し、電気機器切離手段63により浸水側電気機器54が切り離された後に、非浸水側電気機器55を非常用ブレーカーでかご制御手段20と接続するようにしてもよい。
【0067】
同様に、図示省略するが、かご制御手段20と、リミットスイッチ切離手段64及び浸水時リミットスイッチ接続手段65との間にも、上記と同様のブレーカー手段70を配置し、リミットスイッチ切離手段64によりリミットスイッチ43が切り離された後に、浸水時リミットスイッチ接続手段65を接続すると共に、非常用ブレーカー72で浸水時リミットスイッチ44とかご制御手段20を接続する構成とすることもできる。
【0068】
上記のように、浸水運転時に種々の安全装置や電気機器、スイッチ類について、冠水領域FAにある浸水側の機器は切断し、最大冠水高さL以上にある非浸水側の機器と、冠水領域FAにある機器の代替の機器により、浸水時であってもエレベーター10の運転を継続することができる。
【0069】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0070】
たとえば、エレベーター10の構成は一例であり、また、上記した各機能ブロック、回路構成等も種々変形が可能である。
【0071】
また、上記した実施形態のすべてではなく、一部のみを機能或いは実行することで浸水時継続運転等を行なうことができることは勿論である。
【0072】
さらに、冠水検出手段40,41、浸水検出手段42,42a、リミットスイッチ43,44、ファイナルリミットスイッチ45,46、乗場戸スイッチ47,48、安全回路50,51、安全装置52,53、電気機器54,55等を多段階に設けて、適用可能な冠水高さを多段階とすることもできる。
【0073】
この場合、たとえば、浸水時リミットスイッチ44は、高さを変えて複数配備し、浸水検出手段42よりも下方の浸水検出手段42aが浸水を検知すると、当該浸水検出手段42aよりも下方にある浸水時リミットスイッチ44を順に上方の浸水時リミットスイッチ44に切り替える構成とすることができる。
【符号の説明】
【0074】
10 エレベーター
12 かご
13 カウンターウェイト
20 かご制御手段
30 操作盤
31 強制冠水管制運転切替手段
32,33 浸水時継続運転切替手段
34 カウンターウェイト浸水時許容運転切替手段
42 浸水検出手段
45 ファイナルリミットスイッチ(浸水側電気系統)
46 浸水時ファイナルリミットスイッチ(非浸水側電気系統)
50 通常時安全回路
51 浸水時安全回路
52 浸水側安全装置(浸水側電気系統)
53 非浸水側安全装置(非浸水側電気系統)
54 浸水側電気機器(浸水側電気系統)
55 非浸水側電気機器(非浸水側電気系統)
60 安全回路切替手段
70 ブレーカー手段
L 最大冠水高さ
FA 冠水領域
UA 上階領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7