(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221012BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2021096315
(22)【出願日】2021-06-09
(62)【分割の表示】P 2017116386の分割
【原出願日】2017-06-14
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2016124927
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池谷 克彦
(72)【発明者】
【氏名】合田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 理規
(72)【発明者】
【氏名】笹川 巨樹
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 真仁
(72)【発明者】
【氏名】青山 悟
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-146471(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008626(WO,A1)
【文献】特開2015-022956(JP,A)
【文献】特開2015-106489(JP,A)
【文献】特開2015-118908(JP,A)
【文献】特開2012-234703(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105131875(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(b1)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b2)を含むモノマー群のラジカル共重合物であり、かつ、25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度が10,000~70,000mPa・sである、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、
水とを含み、前記B型粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm
粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm
という条件で測定され
、メジアン径(D50)が0.1~2μmであるシリコン粒子(a1)を20質量%以上含む負極活物質(A)とともに使用される、リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液。
【請求項2】
前記モノマー群における前記(b2)成分の含有量が、0.01~1モル%である、請求項1に記載のリチウムイオン電池負極用バインダー水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池負極用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用負極、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型で軽量、かつエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン電池の更なる高性能化を目的として、電極等の電池部材の改良が検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極及び負極はいずれも、活物質とバインダー樹脂とを溶媒に分散させてスラリーとしたものを集電体(例えば金属箔)上に両面塗布し、溶媒を乾燥除去して電極層を形成した後、これをロールプレス機等で圧縮成形して作製されている。
【0004】
ところで近年、リチウムイオン電池用負極について、電池容量を高める観点から、負極活物質としてシリコン系負極活物質が提案されている。しかし、シリコン系負極活物質を含む負極活物質は、充放電に伴って膨張及び収縮し易い。その場合、リチウムイオン電池用負極は、充放電の繰り返し初期より体積変化を生じる。その結果としてリチウムイオン電池のサイクル特性等の電気的特性が低下し易い。
【0005】
そこで斯界では、上記課題をバインダー樹脂で解決を図る検討がなされており、例えばポリイミド(特許文献1)及びポリアクリル酸(特許文献2)が公知である。また、特許文献3には、ポリアクリルアミドと所定平均粒子径の活物質とを含む負極スラリーが開示されており、該活物質としてはシリコン、シリコンオキサイド等のケイ素材料が好ましいとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-089437号公報
【文献】特開2005-216502号公報
【文献】特開2015-106488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のポリイミドは、前駆体であるポリアミド酸をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を含む溶媒中に溶解させてバインダー樹脂スラリーとしたものであるところ、NMP等の有機溶媒の使用は、今後の需要増加に伴う大量生産にあたって、水系溶媒を使用した場合と比較して、塗布・乾燥時の環境負荷が極めて大きい。
【0008】
また、特許文献2に記載のポリアクリル酸は、充電の際、活物質に吸蔵されたリチウムイオンをそのカルボキシル基に取り込むため、初期放電容量が低下する課題があった。
【0009】
また、特許文献3に記載のスラリーは、負極活物質であるシリコンの平均粒子径が相対的に大きいため、充放電時の体積変化が特に大きくなるとともに、活物質間の導電パスの形成が困難になる。この点、平均粒子径が小さいシリコン粒子を使用する場合にはスラリーの分散性が悪くなり、サイクル特性が低下する課題があった。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、柔軟性良好な負極、並びに電気的特性及びスプリングバック耐性良好なリチウムイオン電池を製造でき、かつ分散性良好なリチウムイオン電池用負極用スラリーを提供することとする。
【0011】
また本発明が解決しようとする更なる課題は、リチウムイオン電池負極用スラリーの製造方法、リチウムイオン電池用負極、及びリチウムイオン電池を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、平均粒子径が相対的に小さいシリコン粒子を負極活物質として用い、かつ、その分散剤として所定の不飽和モノマーを構成成分とし、かつ、所定物性を備えるポリ(メタ)アクリルアミドを用いることによって、前記課題を解決できるスラリーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
メジアン径(D50)が0.1~2μmであるシリコン粒子(a1)を20質量%以上含む負極活物質(A)と、
(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(b1)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b2)を含むモノマー群のラジカル共重合物であり、かつ、25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度が10,000~70,000mPa・sである、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、
水とを含む、リチウムイオン電池負極用スラリー。
(項目2)
前記モノマー群における前記(b2)成分の含有量が、0.01~1モル%である、上記項目に記載のリチウムイオン電池負極用スラリー。
(項目3)
前記負極活物質(A)と、前記ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、水とを混合する工程を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池負極用スラリーの製造方法。
(項目4)
前記ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)をスプレードライすることにより、粉体ポリ(メタ)アクリルアミド(B2)を得る工程、及び
前記負極活物質(A)と、前記ポリ(メタ)アクリルアミド(B2)と、水とを混合する工程を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池負極用スラリーの製造方法。
(項目5)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池負極用スラリー、又は上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池負極用スラリーの製造方法により得られるリチウムイオン電池負極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることにより得られる、リチウムイオン電池用負極。
(項目6)
上記項目に記載のリチウムイオン電池用負極を含む、リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスラリーを用いることにより、リチウムイオン電池の出力特性及びサイクル特性(容量維持率)が良好な電池を製造できる。また容量維持率が向上するにつれ、シリコン系負極活物質の体積膨張が抑制されることが知られている。上述したように本発明のスラリーを用いて得られるリチウムイオン電池は、サイクル特性(容量維持率)が良好であるため、上記電池は電池容量を高めた場合であっても充放電に伴う体積膨張が抑制されているものである。また本発明に係るリチウムイオン電池負極用スラリーは、分散性が良好であるため、上記スラリーを用いて製造される電極の屈曲性は良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1.リチウムイオン電池負極用スラリー)
本発明のスラリーは、所定の負極活物質(A)(以下、(A)成分ともいう)及びポリ(メタ)アクリルアミド(B1)(以下、(B1)成分ともいう)、並びに水を含む組成物である。本開示において「スラリー」とは、液体と固体粒子の懸濁液を意味する。
【0016】
1つの局面において、本開示は、メジアン径(D50)が0.1~2μmであるシリコン粒子(a1)を20質量%以上含む負極活物質(A)と、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(b1)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b2)を含むモノマー群のラジカル共重合物であり、かつ、25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度が10,000~70,000mPa・sである、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、水とを含む、リチウムイオン電池負極用スラリーを提供する。
【0017】
(負極活物質(A)((A)成分)
(A)成分は、所定のメジアン径(D50)を有するシリコン粒子(a1)を所定量含むものである。
【0018】
(シリコン粒子(a1)((a1)成分ともいう)
(a1)成分のメジアン径(D50)の上限の例としては、2、1.9、1.6、1.5、1.4、1.0、0.9、0.6、0.5、0.4、0.2等が挙げられ、下限の例としては、1.9、1.6、1.5、1.4、1.0、0.9、0.6、0.5、0.4、0.2、0.1等が挙げられる。(a1)成分のメジアン径(D50)の上限及び下限は、上記値に限定されない。(a1)成分のメジアン径(D50)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(a1)成分のメジアン径(D50)の範囲は0.1~2μmである。そのことにより本発明に係るリチウムイオン電池の高容量化が可能となる。D50を0.1~2μmの範囲にしたことで、サイクル特性等の電池特性も向上させることができる。一方、(a1)成分に代えて、D50が0.1μm未満のシリコン粒子を同量使用すると、得られるスラリー組成物の分散性が悪くなり、均一な活物質層を備える負極が作製し難くなる。また、D50が2μmを超えるシリコン粒子を同量で代用すると、それらに対するリチウムイオンの挿入脱離が困難となり、リチウムイオン電池の出力特性が低下する傾向がある。かかる観点より、(a1)成分のD50は、より好ましくは0.1~1.0μm程度である。
【0019】
(a1)成分のD50は、各種公知の手段で測定できる。例えば、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、小さい粒子から粒子を累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径をD50とすればよい。このような粒度分布測定装置の例としては、コールターLS230、LS100、LS13 320(以上、Beckman Coulter.Inc製)や、FPAR-1000(大塚電子株式会社製)等が挙げられる。
【0020】
(A)成分中の(a1)成分の含有量の上限の例としては、負極活物質(A)の100、90、80、70、60、50、40、30、25質量%等が挙げられ、下限の例としては、90、80、70、60、50、40、30、25、20質量%等が挙げられる。(A)成分中の(a1)成分の上限及び下限は上記値に限定されない。(A)成分中の(a1)成分の含有量の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(A)成分中に(a1)成分は20質量%以上であることが好ましく、20~80質量%がより好ましく、40~80質量%がさらに好ましい。
【0021】
(a1)成分の製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法を利用することが可能である。(a1)成分の製造方法の例としては、乾式ビーズミル、湿式ビーズミル、アトラスター等によるシリコン粒子の粉砕、熱プラズマ法等によるシリコン粒子の製造が挙げられる。また、特開2013-203626号公報に記載の方法等が挙げられる。
【0022】
((a1)成分以外の負極活物質((a2)成分))
(A)成分には、(a1)成分以外の負極活物質(以下、(a2)成分ともいう。)として、リチウムを吸蔵及び放出し得る他の負極活物質を含めてもよい。(a2)成分の例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、フッ化黒鉛等の黒鉛(グラファイト)やアモルファスカーボン、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等を含む炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やこれらの合金;該金属又は該合金の酸化物や硫酸塩;金属リチウム、Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物等が挙げられる。
【0023】
(A)成分における(a2)成分の含有量の上限の例としては、80、70、60、50、40、30、25質量%等が挙げられ、下限の例としては、75、70、60、50、40、30、25、20質量%等が挙げられる。(a2)成分の含有量の上限及び下限は上記値に限定されない。(a2)成分の含有量の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(A)成分における(a2)成分の含有量は好ましくは20~80質量%、より好ましくは20~60質量%程度である。
【0024】
(a1)成分、及び(a2)成分(上記炭素質材料を除く)は、機械的改質法により、それらの表面に導電剤を付着させた態様で使用できる。上記導電剤としては前記炭素質材料が好ましく、特に黒鉛(グラファイト)が好ましい。
【0025】
本発明のスラリー100質量%に対する(A)成分の含有量は特に制限されない。本発明のスラリー100質量%に対する(A)成分の含有量の上限の例としては、60、55、50、45、40、35質量%等が挙げられ、下限の例としては、55、50、45、40、35、30質量%等が挙げられる。本発明のスラリー100質量%に対する(A)成分の含有量の上限及び下限は、上記値に限定されない。本発明のスラリー100質量%に対する(A)成分の含有量の範囲は、適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、本発明のスラリー100質量%に対する(A)成分の含有量は30~60質量%が好ましい。
【0026】
(ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)((B1)成分))
(B1)成分は、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(b1)(以下、(b1)成分ともいう)及びスルホン酸基含有不飽和モノマー(b2)(以下、(b2)成分ともいう)を含むモノマー群のラジカル共重合物である。本開示において「(メタ)アクリル」とは「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「ラジカル共重合物」とはラジカル重合により得られる共重合物を意味する。
【0027】
((メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(b1)((b1)成分))
本開示において「(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー」とは、(メタ)アクリルアミド骨格
【化1】
(式中、R
1は水素又はメチル基である。)
を有する化合物を意味する。1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは下記構造式
【化2】
(式中、R
1は水素又はメチル基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、又はアセチル基であるか、或いはR
2及びR
3が一緒になって環構造を形成する基であり、R
4及びR
5はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基(-NR
aR
b(R
a及びR
bはそれぞれ独立して水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)(以下同様))、アセチル基、スルホン酸基である。置換アルキル基の置換基の例としてはヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基等が挙げられる。また、R
2及びR
3が一緒になって環構造を形成する基の例としては、モルホリル基等が挙げられる。)
により表される。
【0028】
(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーの例としては、N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N,N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは二種以上を併用できる。
N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド等が挙げられる。
N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーの例としては、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸等が挙げられる。
N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーの例としては、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
これらの中でも(メタ)アクリルアミドが、特にアクリルアミドを用いると、(B1)成分の耐還元性が高くなる。
【0029】
(B1)成分を与えるモノマー群100モル%における(b1)成分の上限の例としては、99.99、99、98、95、90、80、70、60、50、40、35モル%等が挙げられ、下限の例としては、98、95、90、80、70、60、50、40、35、30モル%等が挙げられる。(b1)成分の上限及び下限は上記値に限定されない。(b1)成分の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー由来の構成単位を含む(B1)成分は活物質との相互作用が高く、スラリーの分散性や、電極内部における活物質同士の結着性を高める。1つの実施形態において、上記観点より、(b1)成分の使用量は、(B1)成分を与えるモノマー群のうち好ましくは30~99モル%程度、より好ましくは50~90モル%程度である。
【0030】
(B1)成分を与えるモノマー群100質量%における(b1)成分の上限の例としては、99.99、99、98、95、90、80、70、60、50、40、35質量%等が挙げられ、下限の例としては、98、95、90、80、70、60、50、40、35、30質量%等が挙げられる。(b1)成分の使用量の上限及び下限は上記値に限定されない。(b1)成分の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(b1)成分の使用量は、(B1)成分を与えるモノマー群のうち通好ましくは30~99質量%程度、より好ましくは50~90質量%程度である。
【0031】
(スルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b2)((b2)成分))
本開示において「スルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー」とは、不飽和炭化水素基の水素がスルホン酸基に置換された化合物又はその塩を意味する。1つの実施形態において、スルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマーは下記構造式
R-SO3H
(式中、Rは不飽和炭化水素基である。不飽和炭化水素基の例としては、ビニル基、アリル基、2-メチルプロペニル基等のアルケニル基、エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等が挙げられる。)
により表される化合物又はその塩(例えば有機アミン塩等の有機塩、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩を含む金属塩、アンモニウム塩等を含む無機塩)である。
【0032】
(b2)成分は、不飽和炭化水素基の水素がスルホン酸基に置換された化合物又はその塩であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。(b2)成分の例としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸及びメタリルスルホン酸並びにそれらの塩が挙げられ、二種以上を併用できる。塩の例としては、有機アミン塩等の有機塩;カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩を含む金属塩、アンモニウム塩等を含む無機塩等が挙げられる。これらの中でも、(B1)成分の分子量と水溶性を制御するための連鎖移動剤として作用するメタリルスルホン酸塩、特にメタリルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0033】
(b2)成分の使用量は特に限定されないが、(B1)成分を与える単量体群100モル%における(b2)成分の上限の例としては、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05モル%等が挙げられ、下限の例としては、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05、0.01モル%等が挙げられる。(b2)成分の上限及び下限は、上記値に限定されない。(b2)成分の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(b2)成分は(B1)成分を与える単量体群100モル%のうち好ましくは0.01~1モル%程度、より好ましくは0.05~1モル%程度とするのがよい。そうすることで、(B1)成分の耐酸化性を損なうことなく、分子量と水溶性を制御することができる。
【0034】
1つの実施形態において、(B1)成分を与える単量体群100質量%における(b2)成分の上限の例としては、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05質量%等が挙げられ、下限の例としては、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05、0.01質量%等が挙げられる。(b2)成分の上限及び下限は、上記値に限定されない。(b)成分の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(b2)成分は(B1)成分を与える単量体群100質量%のうち好ましくは0.01~1質量%程度、より好ましくは0.05~1質量%程度とするのがよい。そうすることで、(B1)成分の耐酸化性を損なうことなく、分子量と水溶性を制御することができる。
【0035】
((b1)成分及び(b2)成分以外の共重合成分((b3)成分))
前記モノマー群には、(b1)成分及び(b2)成分と共重合可能な他の共重合成分(以下、(b3)成分ともいう)を含めてもよい。(b3)成分の例としては、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。これらは二種以上を併用できる。(b3)成分の使用量は特に限定されないが、1つの実施形態において、(B1)成分を与えるモノマー群100モル%のうち(b3)成分の使用量が50モル%未満(例えば40、30、20、20、9、5、4、1、0.1モル%未満、0モル%)であることが好ましい。また別の実施形態において、(B1)成分を与えるモノマー群100質量%のうち(b3)成分の使用量が50質量%未満(例えば40、30、20、20、9、5、4、1、0.1質量%未満、0質量%)であることが好ましい。
【0036】
不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらは二種以上を併用できる。上記不飽和カルボン酸の使用量は特に限定されない。1つの実施形態において本発明の負極の柔軟性及び本発明のリチウムイオン電池のサイクル特性等を考慮すると、(B1)成分を与えるモノマー群100モル%のうち10モル%未満(例えば9、5、1、0.1モル%未満、0モル%)とするのが好ましく、また前記モノマー群100質量%のうち10質量%未満(例えば9、5、1、0.1質量%未満、0質量%)であることが好ましい。
【0037】
不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル等の直鎖(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の分岐(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の脂環(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等の置換(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは二種以上を併用できる。不飽和カルボン酸エステルの使用量は特に限定されないが、本発明の負極の柔軟性及び本発明のリチウムイオン電池のサイクル特性等を考慮すると、(B1)成分を与えるモノマー群100モル%のうち10モル%未満(例えば9、5、1、0.1モル%未満、0モル%)とするのが好ましく、前記モノマー群100質量%のうち10質量%未満(例えば9、5、1、0.1質量%未満、0質量%)であることが好ましい。
【0038】
α,β-不飽和ニトリル化合物は、本発明の負極に柔軟性を与える目的で好適に使用できる。α,β-不飽和ニトリル化合物の例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられ、二種以上を併用できる。これらのうち、アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルが好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。α,β-不飽和ニトリル化合物の使用量は特に限定されないが、(B1)成分を与えるモノマー群100モル%のうち50モル%未満(例えば40、39、30、20、10、5、1、0.1モル%未満、0モル%)であるのが好ましく、前記モノマー群100質量%のうち50質量%未満(例えば40、39、30、20、10、5、1、0.1質量%未満、0質量%)であることが好ましい。上記値とすることで、(B1)成分の水への溶解性を保ちつつ、前記各塗膜が均一となり、前記柔軟性を発揮させやすくなる。
【0039】
共役ジエン化合物の例としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられる。共役ジエン化合物の使用量は特に限定されないが、本発明に係るリチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、(B1)成分を与えるモノマー群100モル%のうち10モル%未満(例えば39、30、20、10、5、1、0.1モル%未満)が好ましく、0モル%がより好ましい。また前記モノマー群100質量%のうち10質量%未満(例えば39、30、20、10、5、1、0.1質量%未満、0質量%)であることが好ましい。
【0040】
芳香族ビニル化合物の例としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは二種以上を併用できる。芳香族ビニル化合物の使用量は特に限定されないが、本発明に係るリチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、(B1)成分を与えるモノマー群100モル%のうち10モル%未満(例えば9、5、1、0.1モル%未満)が好ましく、0モル%がより好ましい。また前記モノマー群100質量%のうち10質量%未満(例えば9、5、1、0.1質量%未満)が好ましく、0質量%がより好ましい。
【0041】
((B1)成分の製造方法)
(B1)成分は、各種公知のラジカル重合法で合成できる。好ましくは水溶液ラジカル重合法である。具体的には、前記(b1)成分及び(b2)成分並びに必要に応じて(b3)成分を含むモノマー混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて他の重合試薬を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃程度で重合反応を行えばよい。反応時間は特に限定されず、好ましくは1~10時間程度である。
【0042】
ラジカル重合開始剤としては、各種公知のものを特に制限なく使用できる。ラジカル重合開始剤の例としては、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;該過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤;アゾ系開始剤等が挙げられる。ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、(B1)成分を与えるモノマー群の総質量に対し0.05~2質量%程度、好ましくは0.1~1.5質量%程度である。この場合、重合反応が十分に進行し、(B1)成分を高分子量化できる。
【0043】
ラジカル重合反応前又は、得られた(B1)成分を水溶化する際に、製造安定性を向上させる目的で、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤でpH調整を行ってもよい。その場合、pHは5~11程度の範囲に調整することが好ましい。また、同様の目的で、金属イオン封止剤であるEDTA又はその塩等を使用することも可能である。
【0044】
(物性)
(B1)成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)の上限の例としては、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万等が挙げられ、下限の例としては、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万等が挙げられる。重量平均分子量(Mw)の上限及び下限は上記値に限定されない。上記重量平均分子量(Mw)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(B1)成分の重量平均分子量(Mw)は、電極スラリーの分散安定性の観点から、30万~600万が好ましい。
【0045】
(B1)成分の数平均分子量(Mn)の上限の例としては、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万等が挙げられ、下限の例としては、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、20万、10万、5万、1万等が挙げられる。数平均分子量(Mn)の上限及び下限は上記値に限定されない。上記数平均分子量(Mn)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(B1)成分の数平均分子量(Mn)は、電極スラリーの分散安定性の観点から、1万以上が好ましい。
【0046】
上記重量平均分子量及び数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル溶液(90/10、PH8.0)下で測定したポリアクリル酸換算値として算出され得る。
【0047】
(B1)成分の分子量分布(Mw/Mn)の上限の例としては、7、6、5、4、3、2等が挙げられ、下限の例としては、6、5、4、3、2、1等が挙げられる。分子量分布(Mw/Mn)の上限及び下限は上記値に限定されない。上記分子量分布(Mw/Mn)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(B1)成分の分子量分布(Mw/Mn)は、電極スラリーの分散安定性の観点から、1~7が好ましい。
【0048】
(B1)成分の25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度の上限の例としては、70,000、65,000、60,000、55,000、50,000、45,000、40,000、35,000、30,000、25,000、20,000、15,000、11,000mPa・s等が挙げられ、下限の例としては、69,000、65,000、60,000、55,000、50,000、45,000、40,000、35,000、30,000、25,000、20,000、15,000、11,000、10,000mPa・s等が挙げられる。上記B型粘度の上限及び下限は上記値に限定されない。(B1)成分の25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。B型粘度は水溶液の溶媒量により調整され得る。1つの実施形態において、(B1)成分は、25℃で固形分15質量%の水溶液でのB型粘度が10,000~70,000mPa・sの範囲のものである必要がある。粘度が10,000mPa・s未満の場合には、本発明のスラリー中の(B1)成分の量が相対的に多くなるため、該スラリーを用いて得られるリチウムイオン電池の電池容量低下を招く。また、該スラリーからなる塗膜と集電体である金属箔との密着性も低下する傾向にある。一方、粘度が70,000mPa・sを超える場合には、本発明のスラリー中にゲル状物質が生じやすく、電極に欠点やボイドが増える傾向にある。また、後述のように、(B1)成分の水溶液をスプレードライによって粉体化するに際し、粉体化せずに繊維状となる傾向にある。
【0049】
(リチウムイオン電池負極用スラリーの製造方法)
本発明のスラリーの製造法は、(B1)成分を水溶液として用いた場合の態様(以下、第一態様ともいう)と、これを粉体化したもの(以下、粉体ポリ(メタ)アクリルアミド(B2)、(B2)成分ともいう。)として用いた場合の態様(以下、第二態様ともいう。)等が挙げられる。
【0050】
第一態様の製造法は、負極活物質(A)と、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、水とを混合する工程を含む方法であり、最も簡便である。この場合、水は必要に応じて加えてもよい。
【0051】
第二態様の製造法は、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)をスプレードライすることにより、粉体ポリ(メタ)アクリルアミド(B2)を得る工程、及び負極活物質(A)と、ポリ(メタ)アクリルアミド(B2)と、水とを混合する工程を含む方法である。
【0052】
第一及び第二の態様における混合手段の例としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が挙げられる。
【0053】
(粉体ポリ(メタ)アクリルアミド(B2))
(B2)成分は、(B1)成分を各種公知の方法で粉体化したものであり、例えば公知のスプレードライ法(噴霧乾燥造粒法)又は捏和造粒法を使用できる。特にスプレードライ法は、(B2)成分の粒子径がそろうため水への再溶解性が良好になることから好ましく、例えば、特開2016-091904号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0054】
本発明のスラリーにおける(B1)成分及び/又は(B2)成分の含有量は特に限定されない。本発明のスラリーにおける(B1)成分及び/又は(B2)成分の含有量(固形分質量)の上限の例としては、(A)成分100質量部に対して15、14、10、9、5、4質量部等が挙げられ、下限の例としては、14、10、9、5、4、2、1質量部等が挙げられる。上記含有量(固形分質量)の上限及び下限は上記値に限定されない。本発明のスラリーにおける(B1)成分及び/又は(B2)成分の含有量(固形分質量)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(A)成分100質量部に対して1~15質量部程度となる範囲が好ましい。
【0055】
(導電助剤)
本発明のスラリーには、目的に応じて、導電助剤を含めてもよい。導電助剤の例としては、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素、黒鉛粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック;平均粒径10μm以下のCu、Ni、Al、Si又はこれらの合金からなる微粉末等が挙げられる。導電助剤の使用量は特に限定されないが、(A)成分に対して好ましくは0~20質量%程度、より好ましくは0.5~15質量%程度である。
【0056】
(非水系媒体)
本発明のスラリーには、塗布作業性を改善する目的で、80~350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含めてもよい。非水系媒体の例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素;2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン化合物;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン等が挙げられる。これらの中でも、塗布作業性の点より、N-メチルピロリドンが好ましい。該非水系媒体の使用量は特に限定されないが、好ましくは、本発明のスラリーに対し0~10質量部程度である。
【0057】
(添加剤)
本発明のスラリーには、(A)成分、(B1)成分、(B2)成分、(b1)成分、(b2)成分、水、導電助剤、非水系媒体以外の剤を添加剤として含めることができる。添加剤の例としては、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤等が挙げられる。添加剤の使用量は特に限定されないが、例えば、(B1)成分100質量%(固形分換算)又は(B2)成分100質量%に対して0~10質量%程度、5質量%未満、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が挙げられ、またスラリー100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が挙げられる。
【0058】
分散剤は、用いる電極活物質や導電剤に応じて選択でき、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物を例示できる。
【0059】
レベリング剤の例としては、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤を用いることにより、塗工時に発生するはじきを防止し、電極の平滑性を向上させることができる。
【0060】
酸化防止剤の例としては、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、重量平均分子量が好ましくは200以上、より好ましくは600以上、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下のポリマー型フェノール化合物が好ましく用いられる。
【0061】
増粘剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物等が挙げられる。
【0062】
(2.リチウムイオン電池用負極)
本発明のリチウムイオン電池用負極(以下、負極)は、本発明に係るスラリーを、集電体に塗布、乾燥して得られる硬化物、すなわち本発明に係るスラリーの硬化物である。
【0063】
集電体としては、各種公知のものを特に制限なく使用できる。その材質は特に限定されず、例えば、銅、鉄、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。集電体の形態も特に限定されず、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属箔が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。
【0064】
塗布手段は特に限定されず、例えば、コンマコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、バーコーター等従来公知のコーティング装置が挙げられる。
【0065】
乾燥手段も特に限定されず、温度は好ましくは60℃~200℃程度、より好ましくは100℃~195℃程度であり、雰囲気は乾燥空気又は不活性雰囲気であればよい。
【0066】
電極(硬化塗膜)の厚さは特に限定されないが、好ましくは5μm~300μm程度、好ましくは10μm~250μm程度である。かかる範囲とすることにより、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られやすくなる。
【0067】
本発明の負極における(B1)成分(固形分)又は(B2)成分の含有量は特に限定されない。本発明の負極における(B1)成分(固形分)又は(B2)成分の含有量の上限の例としては、15、14、11、10、9、6、5、4、2、1、0.5質量%等が挙げられ、下限の例としては、14、11、10、9、6、5、4、2、1、0.5。0.1質量%等が挙げられる。上記含有量の上限及び下限は上記値に限定されない。本発明の負極における(B1)成分(固形分)又は(B2)成分の含有量の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、本発明の負極における(B1)成分(固形分)又は(B2)成分の含有量の範囲は好ましくは0.1~15質量%程度、より好ましくは1~10質量%程度である。上記範囲であると、高出力時の容量やエネルギー密度を好適に向上させることができる。
【0068】
(3.リチウムイオン電池)
本発明のリチウムイオン電池は、本発明の負極を含む物品である。上記電池における他の部材、即ち、電解質溶液、セパレータ、正極、及び包装材料は特に限定されない。
【0069】
(電解質溶液)
電解質溶液の例としては、非水系溶媒に支持電解質を溶解した非水系電解液等が挙げられる。また、上記非水系電解液には、被膜形成剤を含めてもよい。
【0070】
非水系溶媒としては、各種公知のものを特に制限なく使用できる。非水系溶媒の例としては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート;1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジオキソラン等の環状エーテル;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル;アセトニトリル等が挙げられる。これらの非水系溶媒は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を混合して用いてもよいが、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組み合わせが好ましい。
【0071】
支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、各種公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLi等が挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0072】
被膜形成剤としては、各種公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等のカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイド等のアルケンサルファイド;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物等の酸無水物等が挙げられる。電解質溶液における被膜形成剤の使用量は特に限定されないが、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、2質量%以下の順で好ましい。上記範囲とすることで、被膜形成剤の利点である、初期不可逆容量の抑制や、低温特性及びレート特性の向上等が得られやすくなる。
【0073】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に介在する物品であって、電極間の短絡を防止するために使用する。具体的には、多孔膜や不織布等の多孔性のセパレータを好ましく使用でき、それらには上記非水系電解液を含浸させて用いる。セパレータの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルスルホン等が用いられ、好ましくはポリオレフィンである。
【0074】
(正極)
正極としては、各種公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、正極活物質、バインダー、上述した導電助剤を有機溶媒と混合することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを正極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって得られる。
【0075】
正極活物質は、無機化合物を含む活物質と有機化合物を含む活物質とに大別される。正極活物質に含まれる無機化合物の例としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等が挙げられる。上記遷移金属の例としては、Fe、Co、Ni、Mn、Al等が挙げられる。正極活物質に使用される無機化合物の例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiNi1/2Mn3/2O4、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]O4、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、MoO3、V2O5、V6O13等の遷移金属酸化物等が挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。正極活物質に含まれる有機化合物の例としては、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性重合体等が挙げられる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。これらの中でも実用性、電気特性、長寿命の点で、好ましくは、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiNi1/2Mn3/2O4、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]O4が正極活物質として使用される。
【0076】
正極用バインダーの例としては、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0077】
正極集電体の例としては、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。
【0078】
本発明のリチウムイオン電池の形態は特に制限されない。リチウムイオン電池の形態の例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0079】
本発明のリチウムイオン電池を組み立てる手順も特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよい。例を挙げると特開2013-089437に記載する方法等が挙げられる。外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板によって固定して電池にすることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明方法を更に詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、実施例中、特に説明がない限り「%」は「質量%」を示し、「部」は「質量部」を示す。
【0081】
(1)B型粘度
各バインダー水溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、以下の条件で測定した。
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm
粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm
【0082】
1.(B1)成分の製造
製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水2300g、アクリルアミド400g(5.63mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム9.0g(0.057mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2‘-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)4.0g、イオン交換水30gを投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行った。次いで、NC-32 4.0g、イオン交換水30gを投入し80℃にて1.5時間反応し、固形分15.0%、粘度(25℃)が35,000mPa・sのポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液を得た。
【0083】
製造例2~4及び1’~4’
上記製造例1において、モノマー組成と開始剤の量を表1で示すもの及び数値に変更した他は実施例1と同様にして、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液を調製した。
【0084】
【表1】
・AM:アクリルアミド
・NMAM:N-メチロールアクリルアミド
・ATBS:アクリルアミドt-ブチルスルホン酸
・SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
・MAS:メタリルスルホン酸
・AA:アクリル酸
・EA:アクリル酸エチル
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
・AN:アクリロニトリル
・MPA:3-メルカプトプロピオン酸
【0085】
2.(B2)成分の製造
製造例5
製造例1のポリ(メタ)アクリルアミド(B1)の水溶液をスプレードライヤー機(ヤマト科学株式会社製PulvisGB22)を用いて微粉化した。乾燥条件は、乾燥空気流量:0.45m3/分、入口温度:180℃、出口温度:80℃、噴霧圧:1.0kgf/cm2、溶液供給量:500mL/時間であった。得られた粉末を、イオン交換水を入れた円柱型ガラス容器に、平バネで攪拌しながら、15質量%となるよう加え、溶解させた。
【0086】
3.負極用スラリーの製造及び評価
実施例1-1
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、該ミキサー専用の容器に、製造例1のポリ(メタ)アクリルアミド(B1)の水溶液を固形分換算で10部と、D50が1.94μmのシリコン粒子を75部と、アセチレンブラック(商品名デンカブラック、デンカ(株)製)を15部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、負極用スラリーを得た。
【0087】
実施例1-2
製造例2のポリ(メタ)アクリルアミド(B1)の水溶液を固形分換算で10部と、D50が0.13μmのシリコン粒子を75部と、前記アセチレンブラック15部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、前記自転公転ミキサーを用いて2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、負極用スラリーを得た。
【0088】
実施例1-3
製造例3のポリ(メタ)アクリルアミド(B1)の水溶液を固形分換算で10部と、D50が0.85μmのシリコン粒子を50部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を25部と、前記アセチレンブラック15部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、前記自転公転ミキサーを用いて2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、負極用スラリーを得た。
【0089】
実施例1-4
製造例4のポリ(メタ)アクリルアミド(B1)のを固形分換算で10部と、D50が1.46μmのシリコン粒子を25部と、Z-5Fを50部と、前記アセチレンブラック15部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、前記自転公転ミキサーを用いて2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、負極用スラリーを得た。
【0090】
実施例1-5、比較例1-1~1-6
実施例1-1において、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)の水溶液及びシリコン粒子のD50を表2に記載の通り変更した他は同様にして、負極用スラリーを得た。
【0091】
<スラリー分散性評価>
スラリー調製直後の分散性を以下の基準で目視評価した。
◎:全体が均質なペースト状であり、液状分離がなく、かつ、凝集物も認められない。
○:全体は略均質なペースト状であり、僅かな液状分離が認められるが、凝集物は認められない。
△:容器底部に少量の凝集物と、やや多くの液状分離とが認められる。
×:容器底部に粘土状の凝集物が多数認められ、液状分離も多く認められる。
【0092】
4.リチウムイオン電池負極の製造及び評価
実施例2-1
銅箔からなる集電体の表面に、実施例1-1で調製した負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が15μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で30分乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理して電極を得た。その後、膜(活物質層)の密度が1.5g/cm3になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、負極を得た。
【0093】
<柔軟性>
実施例2-1に係る電極を幅10mm×長さ70mmに切り、直径6mmφのテフロン(登録商標)棒に活物質層を外側にして捲き付け、活物質層の表面の様子を観察し、以下の基準で評価した。
◎:集電体上に結着している活物質層にひび割れ及び剥がれが全く生じていない。
○:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られるが、剥がれは認められない。
△:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られ、剥がれも一部認められる。
×:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られ、△よりも多く剥がれが生じた。
【0094】
実施例2-2~2-5、比較例2-1~2-6
上記実施例2-1において、リチウムイオン電池負極用スラリーを表2に記載の通り変更した他は実施例2-1と同様にして、リチウムイオン電池負極を得た。電極の柔軟性を評価し、その結果を表2に併せて示した。
【0095】
5.リチウムイオン電池ハーフセルの組み立て及び評価
実施例3-1 リチウムイオン電池ハーフセルの作製
(1)リチウムイオン電池ハーフセルの組み立て
アルゴン置換されたグローブボックス内で、実施例6で製造した負極を直径16mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、市販の金属リチウム箔を16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セルを組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0096】
(2)初回充放電クーロン効率及び容量維持率の測定
上記で製造したリチウムイオン電池ハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が1.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。1サイクル目の充電容量に対する1サイクル目の放電容量の割合を百分率で表し、これを初回充放電クーロン効率とした。また、1サイクル目の放電容量に対する30サイクル目の放電容量の割合を百分率で表し、これを容量維持率とした。その結果を表2に併せて示した。
【0097】
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0098】
実施例3-2~3-5、比較例3-1~3-5 リチウムイオン電池ハーフセルの作製
上記実施例3-1において、リチウムイオン電池負極を表2に記載の通り変更した他は実施例3-1と同様にして、リチウムイオン電池セルを得た。初回充放電クーロン効率及び残存容量率の測定を測定し、その結果を表2に併せて示した。
【0099】
【0100】
表2から明らかなように、実施例1-1~1-5の負極用スラリーはいずれも、スラリー分散性の評価が良好であった。これらの負極用スラリーを用いた、実施例2-1~2-5の負極はいずれも、電極柔軟性の評価が良好であった。これらの負極を用いた、実施例3-1~3-5のリチウムイオン電池用ハーフセルはいずれも、初回充放電クーロン効率及び容量維持率が良好なものであった。
【0101】
これに対し、25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度が低いポリ(メタ)アクリルアミドを用いて作製したリチウムイオン電池負極用スラリー(比較例1-1、1-3)、25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度が高いポリ(メタ)アクリルアミドを用いて作製したリチウムイオン電池負極用スラリー(比較例1-2)、(b2)成分を用いずに製造したポリ(メタ)アクリルアミドを用いて作製したリチウムイオン電池負極用スラリー(比較例1-4)、シリコン粒子の平均粒子径が大きい負極用スラリー(比較例1-5)の場合には、負極用スラリーの分散性、これらを用いて作製した負極の電極柔軟性評価、リチウムイオン電池ハーフセルの初回充放電クーロン効率及び容量維持率は劣っていた。
【0102】
6.ラミネート型リチウムイオン電池の作製
実施例1のスラリーからラミネート型リチウムイオン電池を次のようにして作製した。
(1)負極の作製
銅箔からなる集電体に実施例6記載のリチウムイオン電池負極スラリーをのせて、ドクターブレードを用いて膜状に塗布した。集電体にリチウムイオン電池負極スラリーを塗布したものを80℃で20分間乾燥して水を揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、負極活物質層の密度は1.5g/cm2となるようにした。接合物を120℃で2時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、負極活物質層の厚さが15μmの負極とした。
【0103】
(2)正極の作成
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2と導電助剤としてアセチレンブラックと、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部を混合し、この混合物を適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて、リチウムイオン電池正極用スラリーを作製した。次いで、正極の集電体としてアルミニウム箔を用意し、アルミニウム箔にリチウムイオン電池正極用スラリーをのせ、ドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。リチウムイオン電池正極用スラリーを塗布後のアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、正極活物質層の密度は3.2g/cm2となるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極活物質層の厚さが45μm程度の正極とした。
【0104】
(3)ラミネート型リチウムイオン電池の作製
上記の正極及び負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極及び負極の間に、ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)の矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で作製したラミネート型リチウムイオン電池を通電したところ、動作上の問題は生じなかった。